日本学術振興会
最先端研究開発戦略的強化費補助金
(頭脳循環を活性化する若手研究者海外派遣プログラム)
頭脳循環プログラム
「人間の多能性の霊長類的起源を探る戦略的国際共同先端研究事業」
平成27年度成果報告: 西村剛
平成27年度成果報告: 坂巻哲也
平成27年度成果報告: 足立幾磨
平成27年度成果報告: 松田一希
平成25年度成果報告: 西村剛
平成25年度成果報告: 坂巻哲也
平成25年度成果報告: 足立幾磨
平成25年度成果報告: 松田一希
事業の目的・概要
生物のくらし・からだ・こころ・ゲノムのテトラ連鎖システムは、人間の多能性を構築する基盤となっており、ライフ・イノベーションを支える基礎研究としても非常に重要である。長期派遣プログラムによって、従前の短期派遣では得られなかった、より強固な絆と科学的研究の連携を構築することができる。将来性ある若手研究者の積極的な登用によって、より国際的に開かれた組織として、人間を含めた霊長類のくらし・からだ・こころ・ゲノムの広い視点からの基礎研究を、国際的な総合研究として推進したい。今回のプログラム「人間の多能性」は第1回の「人間らしさ」に引き続き第2回目の実施となる。平成25年10月から平成28年3月までの2年半推進する。
これまでに展開している国際共同研究ネットワークにオーストリア、スイス、ドイツ、マレーシア、シンガポール、米国、コンゴ民主共和国、ウガンダ共和国を加え、事業の拡充、強化、深化させる目的を持っている。今回は「人間の多能性」を究明する端緒として以下の4研究項目を掲げた。
(1)発生機能の研究:マーモセットをモデルとして、ヒト以外の霊長類(サル類)の音声の発生機構におけるヒトとの共通性と相違を、ヘリウム音声実験と声帯風洞実験を組み合わせて明らかにし、ヒトの音声言語の進化の礎となった発生機構の進化を解明する糸口を見つける(オーストリア・ウイーン大学)。
(2)消化機能の研究:生物の生存に最も重要な消化のメカニズムに焦点をあて、コロブス類の葉食機構の進化をもたらした胃の構造・機能進化と種の繁栄の関連を解析する(スイス、ドイツ、マレーシア、シンガポール、ウガンダ共和国)。
(3)社会機能の研究:人間の行動の多様性の発生機構を解明する糸口として、ヒトに最も近いボノボの社会集団間の比較行動学的解析を通して、文化の発祥・伝承を集団追跡調査から明らかにする(コンゴ共和国)。
(4)認知機能の研究:ヒトの言語の進化的な起源を探るために、アカゲザルを対象として、言語形成に重要な「象徴性」と「代償性」の生成・理解のための視聴覚感覚間一致について、比較認知科学的な分析をおこなう(米国)。
国際共同研究課題の計画概要
本事業がカバーする学術分野は霊長類学であり、ライフ・イノベーションと連係する「人間とは何か」の進化論的解明ならびに生物多様性の研究である。
ヒトを理解するには、霊長類学の研究から、人間の特性を正確に把握する必要がある。人間が「万物のかしら」として位置づけられている所以は、多様な事項に対処できる総合的に優れた能力を獲得したからである。たしかに、総合的にはとても優れて現在の地球環境に適応している。それゆえ各機能の原点はヒト以外の霊長類に残っているに違いない。くらし、からだ、こころ、ゲノムにあらゆる項目の多能性を有し、優れて現在の地球環境に適応することで「万物の霊長」としての能力を発揮させることができている。その総合力が他の霊長類よりも優れているように見える。その人間の「多様な能力」いわゆる「人間の多能性」の進化は謎に包まれている。人間の本性「人間らしさ」の進化的起源をさぐるには、その多能性を明らかにする必要がある。そこで多能性の起源を紐解くための一端として、今回は発声機能、消化機能、社会機能、認知機能に焦点をあてて、国際共同研究を推進する。
「人間の多能性」のメカニズムはヒトが創出されたとき直ちに形成されたものではなく、長い進化的時間をかけてできあがったものである。霊長類を広い視野をもって研究することが、「人間とは何か」を究明する最も的確で早道である。「人間の多能性」を醸成する機構としては多くのことがあげられるが、言語、食、社会、認知は多能性の代表的なものといえる。今回の事業では、これらの研究項目をより深く究明することにより、より深化した「新しい霊長類学」の発展の推進をめざす。