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平成25(2013)年度頭脳循環プログラム報告派遣研究者:坂巻哲也 研究プロジェクトの概要: 2013年は、霊長類学講座をはじめたキンシャサ大学理学部の要請を受け、1か月余りをコンゴ民主共和国の首都キンシャサに滞在し、「社会行動と社会構造」をテーマに、2014年1月に30時間の集中講義を行った。理学部の学生や講師等が聴講し、おもに日本で発展してきた霊長類の社会の多様性などに関して講義を行った。 2014年2月には、キンシャサ大学理学部の大学院生とコンゴ生態森林研究センターの研究員を同行して、ボノボ生息地であるコンゴ盆地に入り、ワンバ地区とイヨンジ地区の二つの調査地で現地調査を開始した。現地で調査方法とデータ収集等の実習を行い、共同調査によるデータ収集を開始した。 これまでの調査から、ワンバ地区とイヨンジ地区のボノボが異なる肉食習慣を持つことが示唆されている。長期調査を継続しているワンバ地区では、これまで通り個体識別された調査対象集団の行動観察を継続している。イヨンジ地区では、調査対象集団の人づけと個体識別を進め行動観察を継続するとともに、糞分析による採食品目、内部寄生虫、ベッド・グループ・サイズの調査、DNA分析用の糞サンプル採取、果実の実りの季節変化に関する調査などを開始した。両調査地で中型・大型哺乳類の生息密度を比較するため、動物との遭遇頻度の調査とトラッピング・カメラを用いた調査の二通りの方法で、密度推定の調査を開始した。行動観察と糞分析からボノボの狩猟行動や肉食の品目と頻度の違いを明らかにし、それらが生息地の環境の差異、とくに哺乳類相の密度と関係するかについて、今後明らかにしていく。行動の変異の理解の背景となる遺伝的変異との関係についても研究を進めるため、サンプル採取を開始した。
研究の背景: 人間の行動はきわめて多様性に富み、様々な状況に応じて柔軟に機能を調整する多能性に富んでいる。こういった能力は、自分のおかれた状況を判断して行動を変化させる認知・学習能力と、そうして獲得した行動パターンを集団の中で伝えていく文化によって支えられている。このような認知・学習能力と文化的行動については、ヒト以外の霊長類にもその萌芽が認められることが日本の霊長類研究によって明らかにされ、とくにチンパンジーについて、飼育下・野生下でさまざまな研究が行われてきた。しかし、同等にヒトと近縁なボノボについては、研究が立ち遅れている。これは、飼育下に置かれているボノボの数が少ないこと、ボノボが生息する唯一の国であるコンゴ民主共和国が長らく政治的に不安定な状況にあり、詳しい行動観察ができる長期調査地が少ないことによる。 近年、コンゴ民主共和国のキンシャサ大学で霊長類の研究に対する関心が高まっており、同大学理学部に霊長類研究センターが設立され、フィールドワークを主体とするあらたな研究プロジェクトが立ち上げられた。一方、コンゴ科学研究省の生態森林研究センターとは、1973年以来、ワンバ地区の野外研究を共同で継続している。ワンバの対岸にあるイヨンジ地区は、コンゴ民主共和国、ケニア、日本の共同研究プロジェクトの成果が実り、2012年にあらたな保護区となった。これにより、きわめてよく似た環境にありながら、間に流れる川のためにボノボ個体の行き来がないワンバとイヨンジの二つの調査地を対象に、行動の差異について研究する下地が形成された。チンパンジーで培われた研究成果を基盤に、コンゴ民主共和国のワンバとイヨンジのボノボ集団を比較観察し、行動の差異が環境によるものか、文化によるものか、あるいは遺伝的差異が反映しているかについて検証を行う。
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