所長のあいさつ
霊長類研究所所長 松沢哲郎
このたび、霊長類研究所長として再任されましたので、あらためて年度当初のご挨拶を申し上げます。
京都大学霊長類研究所は、平成22年度から、新たな制度としての「共同利用・共同研究拠点」になりました。従来の「全国共同利用の附置研究所」とは異なる名称ですが、霊長類学に関わる全国の研究者に開かれた施設です。
「霊長類研究の重要性に鑑み、その基礎的な研究をおこなう総合的な研究所(霊長類研究所、仮称)を速やかに設立されたい」、という日本学術会議の勧告で設立された研究所です。人間を含めた霊長類の研究を、今後も幅広く推進していきます。霊長類学はけっして「サル学」ではありません。霊長類学は優れて「人間学」です。人間の本性の霊長類的起源を探る研究をこれからも推進していきます。
霊長類研究所は、平成19年度6月に創立40周年を祝いました。同年に、現キャンパスの東1kmに、リサーチリソースステーション(RRS)を開設しました。里山の景観を活かして、サル類を豊かな自然の中で育てる試みです。平成20年度当初には、霊長類研究所が母体となって、「野生動物研究センター(WRC)」という別の部局が京大に誕生しました。霊長類研究の蓄積に立脚して、絶滅の危機に瀕した大型の動物、つまりゾウやオオカミやイルカなどを研究するセンターです。
平成21年度には霊長類研究所の2つめの附属研究施設として「国際共同先端研究センター(CICASP)」を立ち上げました。平成22年度に外国人教員を2名雇用し、さらなる国際化を図ります。寄附講座も3つ立ち上がりました。平成18年にベネッセ・コーポレーションの「比較認知発達研究」、平成19年に三和化学の「福祉長寿研究」(のちにWRC発足と同時に移管)、そして平成22年度は林原グループの「ボノボ研究」という研究部門が発足しました。こうした民間からの支援も得ながら、霊長類の基礎研究を続けてまいります。
大学院教育という面では、京都大学理学研究科生物科学専攻のメンバーです。WRCの発足と同時に、「霊長類学・野生動物系」という系を名のっています。平成23年度の入学からは、国際霊長類学・野生動物コースとして、定員5名だけ別枠で、すべて英語でおこなう入試をすることになりました。英語による教育と学位取得をめざします。
大型研究としては、21COEプログラムの後継のグローバルCOEで「生物多様性」の一翼を担っています。また、日本学術振興会の支援で「HOPE」(人間の進化の霊長類的起源)と呼ぶ事業を平成15年度末から推進しています。HOPEは日独米英伊仏の先進6か国の連携で、霊長類学および進化人類学の国際的な共同研究を推進するものです。こうした研究と教育の詳細については、ぜひホームページをご覧ください。
また、一般の方々への公開講座(犬山と東京で開催)や、学生向けのオープンキャンパス、さらには犬山市民を対象にした施設の一般公開日を設けています。こうした催しにもぜひふるってご参加ください。
霊長類研究所の全教員が執筆して、40周年記念誌として、『霊長類進化の科学』(京大学術出版会)を平成19年に出版しました。さらに一般向けの姉妹書として、平成21年秋に、『新しい霊長類学』(講談社)を上梓しました。「人間とは何か」、「われわれはどこから来たのか」、「われわれはどこへ行くのか」そうした人間の本性に対するひとつの答えがそこにあると思います。
霊長類研究所は、これからも人間を含めた霊長類の基礎的な研究を総合的に推進していきます。皆様のご支援をお願いするとともに、ご意見やご助言を賜れば幸いです。よろしくお願いします。
2010年4月
京都大学霊長類研究所・所長、松沢哲郎
官林キャンパス
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小野洞のリサーチリソースステーション
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京都大学霊長類研究所は、全国共同利用の附置研究所です。
現在、全国の10大学に合計20の全国共同利用の附置研究所があります。「全国共同利用」とは、個々の大学という枠を超えて、ほかの機関に所属する全国の研究者が利用できる、共同研究の施設です。その一方で、「附置」とは、その研究の推進拠点となるべき大学を国が指定してその研究所を設置するということです。
つまり、1)拠点となる大学の固有な持ち味を生かしつつ、2)全国的なレベルで共同研究をおこない、3)さらには国際的交流の拠点となる。全国共同利用の附置研究所は、わが国の科学技術の発展、とくにユニークな研究領域の確立と推進に大きく貢献してきました。
1964年5月、当時の日本学術会議会長である朝永振一郎(のちに日本人2人目のノーベル賞を受賞した物理学者)から、ときの内閣総理大臣・池田勇人に対して、「霊長類研究所(仮称)の設立について」という「勧告」がおこなわれました。主文はわずか1行半です。
「霊長類研究の重要性に鑑み、その基礎的な研究をおこなう総合的な研究所(霊長類研究所、仮称)を速やかに設立されたい」。
人類の起源の解明には霊長類研究が必須だ、というのがその理由です。この日本学術会議の「勧告」からちょうど3年後の1967年6月1日に、京都大学霊長類研究所が全国共同利用の附置研究所として発足しました。研究所は、来年で創立40周年を迎えます。
霊長類研究所は、大学院教育という面では京都大学理学研究科生物科学専攻のメンバーで、その21COEプログラム「生物多様性」の一端を担っています。また、日本学術振興会先端研究拠点事業「HOPE」(人間の進化の霊長類的起源)を推進し、霊長類学および進化人類学の国際的な研究拠点になっています。さらに、「リサーチ・リソース・ステーション」事業を推進して、霊長類の多様な研究の基盤を整備しています。こうした研究と教育の詳細については、ぜひホームページをご覧ください。
また、オープンキャンパスや、一般の皆様方のための公開講座(犬山と東京で開催)や、施設の一般公開日を設けています。こうした催しにもぜひふるってご参加ください。
「人間とは何か」、「われわれはどこから来たのか」、そうした問いに対する答えが霊長類研究の中に見出せるのではないでしょうか。今後とも、霊長類の基礎的な研究をおこなう総合的な研究所としての使命を果たしていく所存です。皆様のご支援をお願いするとともに、ご意見やご助言を賜れば幸いです。よろしくお願いします。
2006年4月
京都大学霊長類研究所・所長、松沢哲郎
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