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所長のあいさつ霊長類研究所所長 小嶋祥三京都大学霊長類研究所は霊長類の総合的な研究を行う全国共同利用研究所として昭和42(1967)年に愛知県犬山市に設置された。霊長類研究所の目指すところは、霊長類の研究によってホミニゼーション(ヒト化)の道筋を明らかにし、「ヒトとは何か」という問いに生物学的に答えることである。無論、この問いは人類が存在するかぎり発せられる種類の問いであり、最終的な答えがあるか疑問なしとしないが、この共通の目標を掲げて遺伝子から個体レベル、さらには社会構造にいたる、幅広い研究が推進されている。 現在の霊長類研究の一つの流れは、すなわち上記の問いに対する答えは、ヒトと大型類人猿の強い類縁性を強調するという形をとっているように思われる。ヒトと他の霊長類を分けるものとして、言葉や道具が話題になる。しかし、実験室において大型類人猿が手話や図形語を理解したり使用することが、フィールドではチンパンジーが様々な道具を使用することが報告され、さらにはヒトとチンパンジーが遺伝子のレベルでも98%を越える一致を示すことが明らかにされた。これらの新しい事実は、ヒトと大型類人猿の間に、これまで考えられてきたような根本的な違いが果たしてあるのか、という疑問を浮き彫りにした。ヒトと類人猿の境界、区別が不明瞭になってきたのである。 これらの新しい事実をどれほど強調するかは、個々の研究者の学問、研究についての姿勢によるだろう。しかしこれらの事実が持つ意味は大きい。いろいろな点でヒトと動物の関係を見直す必要がでてきている。それはまたヒトと自然の関係に拡大せざるを得ないだろう。実験材料や愛玩用の動物の福祉の諸問題、動物の展示施設としての動物園の役割、生息地における各種動物の保護など、動物福祉や自然保護の諸問題に関する議論がこれまで以上に盛んになるだろう。
霊長類研究の現在の流れからすると類人猿の研究に焦点が当たり勝ちである。しかし、大型類人猿は小型類人猿との共通祖先から分岐してきたと考えられるし、小型の類人猿は他の旧世界ザルとの共通祖先から枝分かれしたのだろう。それらの様々な霊長類の研究も重要であることは云うまでもない。ただ、霊長類の研究への興味がヒトへの類縁性によっている以上、ヒトにもっとも近縁の大型類人猿に興味が集中するのは当然の成り行きかも知れない。最近ドイツに大型類人猿の研究センター(マックスプランク進化人類学研究所)ができた。日本にも同じような施設を作りたいと思う研究者もいるだろう。ただ個人的には、かれらの長い一生を塀や電柵の中で過ごさせるよりは、生息地と研究・実験施設が融合するような方向を夢見る。当然の帰結として、研究施設は日本国内よりも生息地近くに設置する方がいいように思う。すでにあるオランウータンのリハビリセンターに研究面を強化した施設のようなものだろうか。 2000年6月 霊長類研究所 所長 小嶋祥三
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