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京都大学霊長類研究所 > 年報のページ > vol. 48 京都大学霊長類研究所 年報vol. 48 2017年度の活動B. 一般個人研究 2017-B-1 奥多摩湖周辺の野生ニホンザル「山ふる群」の調査と環境教育 島田将喜、古瀬浩史(帝科大・生命環境)、坂田大輔(山のふるさと村) 所内対応者:辻大和 2013年度から継続されてきた山ふる群を対象とするフィールド調査を実施した。昨年度まで80数頭程度で安定していた集団サイズについて、今年度山ふる群の推定最大頭数は66頭であり、昨年度までからは大きく減少した。サルの直接観察が十分ではなかったものの、今年度採食回数が多かった食物は、草本類、オニグルミの種子、つる性植物であった。前年度に引き続き、山ふる群のサルが民家付近の農作物や果樹などを採食する行動は、一度も観察されなかった。遊動域は山のふるさと村を中心とする狭い範囲に集中しており、昨年度までと異なりダムサイトへの出現が認められなかった。解放水域を除く推定遊動面積は13.0km2であった。他地域の野生ニホンザルの遊動域面積に比べて広いと考えられるが、2015年度の推定遊動面積33.0km2をピークに2年連続で前年度より少なく見積もられた。現在の山ふる群の遊動域は、民家の多い湖北に向かって大きくなった事実はなく、自然林に近い南~南東に向かって広がっていると考えられる。集団サイズと遊動面積の減少は、山ふる群の分裂の可能性を示唆するものである。調査中にそうした兆候に観察者が気づいたことはなかったが、今後も調査を継続することによって、分裂が現実に生じたのか、これまでも頻繁に観察されてきた分派が常態化しているだけなのかについて、手掛かりを得る必要がある。
2017-B-2 Epigenomics and Evolutionary Analysis of HERV-K LTR elements in various primates Heui-Soo Kim , Hee-Eun Lee (Pusan National University) 所内対応者:今井啓雄 Human endogenous retroviruses (HERVs) and related sequences account for ~8% of the human genome. It is thought that HERVs are derived from exogenous retrovirus infections early in the evolution of primates. HERV-K is the most biologically active family because it retains the ability to encode functional retroviral proteins and produce retrovirus-like particles. To better understand the regulatory mechanism of HERV-K expression, we characterize the structure of HERV-K50F family LTRs (sequences, transcription factors binding). The sequence of human HERV-K50F was analyzed to check the difference of the structures with various primates. The structures of each HERV-K50F in primates including human was different. Orangutan had shorter LTRs compared with others. Additionally, for the epigenetics studies, the HERV-K50F sequence was analyzed to check the CpG islands. There were some CpG sites and we were able to get the methylation primer including 10 CpG sites. For the further studies, we will continue the methylation studies in primates, and a new project about the miRNAs.
2017-B-3 霊長類の網膜の形成と維持を制御する分子機能の解析 古川貴久、大森義裕、茶屋太郎(大阪大・蛋白研) 所内対応者:大石高生 私達は、アカゲザルまたは、ニホンザルなどの霊長類の網膜の遺伝子発現解析を行うことで、黄斑に特異的に発現する遺伝子群の同定を試みた。現在、平行して黄斑を持つ脊椎動物である、鳥類モデルの黄斑の研究を進めている。これら二つの生物種から得られた情報を統合することで、黄斑の形成・維持の普遍的なメカニズムを解明する。 本年度は、新生仔のアカゲザル2頭、生後2年のニホンザル2頭の眼球を採取した。まず、眼球を摘出し、ハサミ等で解剖し網膜組織を単離した。網膜を黄斑を含む中央部分と、周辺部分(上下内側外側)の領域に分けサンプルとして凍結保存した。これらの組織からTrizol試薬を用いてRNAを精製した。得られたtotal RNAを用いて逆転写酵素によりcDNAを合成した。内在性遺伝子のコントロールとしてはGAPDHを用いた。黄斑部で少ない桿体視細胞に発現する遺伝子であるRhodopsinのプライマーを用いてQPCR解析を行ったところ、Rhodopsinの発現は黄斑部分では遺伝子発現が有意に低下していることを確認した。現在、中心窩部分での発現が変動する遺伝子の候補に対するプライマーを用いて遺伝子発現の変化の観察を行っている。これらの研究を進めることでヒトを含む霊長類において黄斑部位の形成や維持に重要な遺伝子を見出すことが期待される。
2017-B-5 霊長類ゲノム解析を通したウイルス感染制御遺伝子の進化に関する研究 佐藤佳、小柳義夫、三沢尚子、中野雄介(京都大学ウイルス・再生医科学研究所)、中川草(東海大学医学部)、上田真保子(東海大学マイクロ・ナノ研究開発センター) 所内対応者:今井啓雄 申請者を含めたこれまでの先行研究から、インターフェロンを含めた自然免疫関連遺伝子や、APOBEC3やtetherinと呼ばれる内因性免疫遺伝子が、レンチウイルスの複製制御に寄与していることが、ウイルス学的実験から明らかとなっている。そして、興味深いことに、これらの遺伝子は進化的に正の選択を受けており、種によって配列が多様である。本申請研究では、レンチウイルスの複製制御に寄与している霊長類の遺伝子配列情報を同定し、その進化的意義を分子進化学的手法により明らかにすることを目的とする。本年度は、検体分与の可能性も含め、共同研究の方向性について、霊長類研究所において、今井准教授らと共同研究打ち合わせを実施した。
2017-B-6 口腔における感覚受容機構の解明 城戸瑞穂、合島怜央奈(佐賀大・医)、吉本怜子(九州大・歯) 所内対応者:今井啓雄 適切な口腔感覚は、哺乳・摂食・情報交換など行動の基盤として重要な役割を果たしている。ところが、温度感覚や唐辛子や胡椒などのスパイスなどのへ感覚、あるいは、触圧感覚などについてはほとんど理解されていない。これまでマウスを対象として研究を進めてきた結果、口腔の上皮にセンサーであるtransient receptor potential channel(TRPチャネル)の発現があること、粘膜に分布する神経線維にも発現が認められること、また炎症等により粘膜に分布する神経線維の分布が増加すること等がわかってきた。そこで、霊長類における口腔感覚機構解明を狙い、センサーの発現を明らかにするため、条件検討を進めた。本年度は、対照組織としてニホンザルの新たな採材の機会があり、口腔組織および三叉神経節を得た。そこで、実験条件の検討を進めることができた。さらに、新たな抗体も精製が進んだことから、霊長類での発現解析の条件検討を工夫しているところである。齧歯類では安定している一方で霊長類組織では、タンパク発現については検討に時間を要しており、感度の高い方法等での検討をさらに進める予定である。
2017-B-7 サル脊髄損傷モデルを用いた軸索再生阻害因子とその抗体による神経回路修復に関する研究 山下俊英、貴島晴彦(大阪大学) 所内対応者:高田昌彦 脊髄損傷後に軸索再生阻害因子のひとつであるRGMの発現が損傷周囲部に増加していることをサルモデルを用いて明らかにするとともに、このRGMの機能を阻害することによって運動機能が回復することを検証した。すなわち、脊髄損傷後のRGM作用を抑制することにより、神経可塑的変化が促進され、運動機能回復につながることが示唆された。本研究成果は、原著論文としてCerebral Cortex誌に受理された。 Nakagawa H, Ninomiya T, Yamashita T, Takada M (2018) Treatment with the neutralizing antibody against repulsive guidance molecule-a promotes recovery from impaired manual dexterity in a primate model of spinal cord injury. Cereb Cortex, in press.
2017-B-8 東北および四国地方に生息するニホンザル(Macaca fuscata)の寄生虫症および感染症に関する疫学調査 浅川満彦、萩原克郎(酪農学園大学) 所内対応者:岡本宗裕 ニホンザルの寄生虫症を含む寄生虫病病原体の疫学調査についての2017年の刊行は次の2本であった。1)浅川ら(共著者、岡本): 輸入サル類の潜在的な寄生虫病-特に、医学用実験動物として利用されるカニクイザル Macaca fascicularis の検疫中に斃死した事例を参考に、エキゾ研会誌、(19)、17-20 (2017) 2)三觜ら(連絡著者、浅川):福島市に生息するニホンザル (Macaca fuscata)の寄生蠕虫保有状況-特に下北半島個体群との比較に注目して. 青森自然史研究, (22),39-41。前者はニホンザルおよび外来性マカク類の蠕虫検査を行う上で貴重な資料となった。後者は下北個体群と比較し当方地方における蠕虫類の分布特性を論じた。2017年における学会報告としては1)浅川ら(共同演者、岡本): ニホンザル(Macaca fuscata)における寄生蠕虫相の概要-特に、最近の東日本における調査から判明した地理的分布域に関して. 第72回日本生物地理学会年次大会,東京大学,4月9日;浅川ら(共同演者、岡本):東日本におけるニホンザル(Macaca fuscata)の寄生蠕虫相(概要).第33回日本霊長類学会大会、福島、7月15日から17日」の2本を実施した。これらの報告では、前述したように寄生蠕虫の地理的分布特性を示した。野生ニホンザル寄生虫に関しては、過去に当研究所の後藤らが下北の集団を調べているが、その際には発見されていなかったOgmocotyle属の吸虫が最近の申請者らの研究で大量に発見され、福島産個体群の結果が、上記のように公表出来た。また、外来種との関連性を検討するため、カニクイザルの情報も比較対象として、それらの成果も公表出来た。分布特性は口頭発表とまりではあるが、生物地理で中間報告が出来た。
2017-B-9 サル類における聴覚事象関連電位の記録 伊藤浩介(新潟大学脳研究所) 所内対応者:中村克樹 これまで継続して来た共同利用・共同研究により、マカクザルの頭皮上脳波記録の方法論はほぼ完成し、質の安定した聴覚事象関連電位の記録が可能となってきた。一方、マーモセットの脳波記録では、①頭部面積が小さく電極の設置が難しいことや、②頭皮の皮脂の多さによる電極インピーダンスの増大などの問題が明らかになった。これらの要因により、電極設置に時間がかかり、電極数を増やせず、脳波記録が安定しないなどの問題が生じていた。そこで、今年度はこれらの問題の解決を目的とした技術開発を行った。①の対処としては、電極のデザインを、電極部の大きさと形状のみでなく被覆の材質も含めて刷新し、頭部への接着法も見直した。②の対処としては、皮膚の前処理でアセトンによる脱脂を十分に行うこととした。これにより、電極設置の迅速化と脳波記録の質の安定化が達成されるとともに、今後電極数を増やしていく可能性が開けた。ここで開発した電極や電極設置法はマカクザルにも適用可能なものであるため、マカクザル脳波記録法の、さらなる改善にも貢献する成果である。
2017-B-10 大型類人猿における手首・大腿部の可動性の検証 中務真人、森本直記、小林諭史、芳賀恒太(京都大学・院・理) 所内対応者:西村 剛 ヒトと現生アフリカ類人猿の共通祖先が、①上肢優位な現生類人猿的特徴をもっていたのか、あるいは、②現生子孫種に比べ特殊化の程度が低い類人猿であったのかが、大きな議論となっている。これを検討する目的で、大型類人猿の手、大腿の関節の運動機能について研究を行っている。著しい大型化をしたゴリラを除き、現生大型類人猿の手の相対母指長は短いが、母指退化、内側列の伸長のいずれが強く寄与しているのか議論が続いている。そこで、母指退化に関連すると考えられる母指列中手指節関節の種子骨の出現頻度に注目した。ヒトを含み類人猿以外の霊長類では、ほぼ例外なく撓側と尺側に一対の種子骨が存在するが、大型類人猿については、先行研究で一致した結果が得られていない。われわれは大型類人猿標本18体をX線CTによって観察し資料数を倍増させ、以下の結果を得た(資料数は先行研究との合算)。チンパンジー(n=24)では、約2割の個体で一つあるいは一対の種子骨が存在するが、オランウータン(n=6)、ゴリラ(n=7)では認められない。この結果は、各属が独立に種子骨を喪失(母指の機能退化が発生)したことを示唆し、②に整合的である。
2017-B-11 ニホンザル二足・四足歩行運動の運動学的・生体力学的解析 荻原直道(慶應義塾大学・理工学部)、大石元治(麻布大学・獣医学部) 所内対応者:平崎鋭矢 本研究では、ヒト的な直立二足歩行の獲得を妨げる四足性霊長類の運動学的・生体力学的制約要因がどこにあるのかを明らかにするために、ニホンザル四足歩行の運動学的・生体力学的解析を行い、二足歩行と対比することを通して、ニホンザルが二足歩行を獲得する上での促進要因・制約要因を明らかにすることを目的としている。 本年は、傾斜トレッドミル上を四足歩行するニホンザルの接地パターンを比較・分析した。その結果、トレッドミルの傾斜により前肢に作用する床反力が増大しても、lateral sequence歩行への遷移は基本的に観察されなかった。霊長類の四足歩行は、他の多くのほ乳類と異なるdiagonal sequence歩行を採用しており、これを説明する有力な仮説の一つに「重心位置仮説」があるが、重心位置が接地パターンの直接的決定要因ではないことが示唆された。 また、ニホンザルの屍体標本から、歩行に関係する主要な筋の速筋線維と遅筋線維の割合を組織学的手法によって求めることを試みた。具体的には、各筋から組織片を採取し、クリオスタットで切片を作成し、組織化学的染色(ATpase染色)によって筋線維型の比率を求める研究を推進した。
2017-B-12 The comparative biomechanics of the primate hand. William Irvin Sellers (University of Manchester) 所内対応者:平﨑鋭矢 This project forms part of our ongoing research into the biomechanics of primates. In this last year we achieved three major goals. Firstly, we succeeded in publishing a paper in Royal Society Open Sciences based on our experimental work at PRI in previous years where we used our markerless motion capture system to record 3D locomotor kinematics of chimpanzees walking. This paper used the experimental data to ground truth a computer simulation in order to better understand the evolutionary processes that lead to gait choice and optimality. Secondly, based on the pilot data on primate hands and hand use that we have been collecting at PRI, we were successful in a collaborative grant bid to the UK Natural Environment Research council to study the co-evolution of tool using behaviour and hands in the hominin fossil record. This research grant includes travel funding so that future visits will continue to be possible. Thirdly, we were successful in the experimental work carried out at PRI in 2017. Our aim this past year was to compare the way that Japanese macaques use their hands when performing locomotor activities to the way they use their hands whilst manipulating objects. The challenge here is that in order to record the movements of the fingers in 3D we need film a relatively small volume, and this means that we need to train the subjects to put move such that they grasp the substrate in the location the cameras are recording from. We attempted this for a new experimental set up in the laboratory where we used a vertical pole that the animal was able to climb, using two different pole diameters. In both cases the experiments were successful although there were many trials where the animals did not place their hands in the volumes we were measuring from and this meant that the amount of data collected was rather lower than in previous years. Climbing is particularly difficult compared to the horizontal walking we have measured before because the animal has an extra degree of freedom since it can choose the vertical rotation of its body around the cylindrical pole, and this means that it can obscure our view of its hands very easily. However, climbing is an activity that we are particularly interested in since the hands are required to grip with significant amounts of force in this situation, whereas horizontal walking requires relatively little grip force on the part of the animal since they balance very precisely. And of course climbing is one of the important specialisations of the primate order, and is thus a major focus of biomechanics research.
2017-B-13 霊長類由来ex vivo培養系を用いた消化管細胞機能の解析 岩槻健、熊木竣佑、中嶋ちえみ(農大・応生・食安研) 所内対応者:今井啓雄 昨年度から引き続きアカゲザルおよびニホンザルからの腸管オルガノイド作製を行なった。培養条件の検討により、Wnt3aの活性が同オルガノイドの増殖に最も重要であることがわかった。29年度は、さらに作製した腸管オルガノイドが効率よく分化する方法を模索すると同時に、生体内の腸管上皮細胞と同様のタンパク質を発現しているかを調べた。まず、作製した腸管オルガノイドの培地よりWnt3aおよびWntのアゴニストを抜いた培地で3日間培養することで細胞分化を誘導した。その結果、内分泌細胞のマーカーである5-HTやタフト細胞のマーカーであるDCLK1の発現量が上昇し、Wnt活性がなくなることにより細胞分化が亢進したことが確認された。同条件にて細胞分化を誘導した上で、様々な分子の発現をRT-PCRにより調べたところ、幹細胞マーカーであるLgr5の発現は抑制され、代わりに内分泌細胞、吸収上皮、杯細胞などが発現する分子の転写が亢進していることがわかった。このように、今回我々はサルオルガノイドを効率よく分化する条件を確立した。今後、分化させた腸管オルガノイドを使い、げっ歯類では測定できない霊長類独特の栄養素受容機能について解析していく予定である。
2017-B-14 外側膝状体から頭頂葉視覚連合野への直接視覚入力回路の形態学的解明 中村浩幸(岐阜大・院・医) 所内対応者:脇田真清 霊長類外側膝状体(LGN)極小細胞層(koniocellular layers: K 層)から、1次および2次視覚皮質を経由せず、頭頂視覚連合皮質V3/V3A野へ直接投射する神経回路を神経軸索トレーサーを用いて詳細に解明する事が研究の目的である。本年度は、1頭のアカゲザルの両側V3A野(ならびに古典的V3A野の背側部LOP野)に蛍光色素(ディアミディノイエローDYとファーストブルーFB)を微量注入して、同側視床LGNにおける逆行性標識細胞の分布を調べた。V3A野にほぼ限局して蛍光色素を微量注入(1例)すると、LGN尾側6分の1から3分の1にかけて、LGNと視索との間に存在するK細胞層(S層)の内側部ならびにK1-4層内側端に逆行性標識細胞が観察された。V3A野とLOP野にまたがる注入(2例)では、LGN尾側3分の1のS層内側部に逆行性標識細胞が観察された。LOP野とその背側の7野のみに注入(1例)しても、LGNには逆行性標識細胞は見られなかった。これらの結果は、LGNのS層ならびにK1-4層内側部のK細胞がV3A野に投射し、粗大な視覚情報を短潜時で頭頂連合野皮質へ入力している事を示唆する。
2017-B-15 マカク属における精液凍結保存方法の改善と人工授精技術開発 栁川洋二郎、永野昌志、菅野智裕、坂口謙一郎、鳥居佳子(北大・獣医)、髙江洲昇(札幌市) 所内対応者: 岡本宗裕 ニホンザルにおいては人工授精(AI)による妊娠率は低く、特に凍結精液を用いたAIによる産子獲得例がない。そのため、精液の凍結保存法改善とともに、メスの卵胞動態を把握したうえでAIプログラムの開発が必要である。 精液凍結についてはこれまでにドライアイス上で精液を200 μl滴下してペレット状に凍結する方法では融解後に活力を有する精子が確認されたがその生存率は低かった。そこでペレットの融解法による精子への影響を検討した。ガラスチューブを37℃に加温し、ペレットをチューブに投入して融解するのが、ガラスチューブが空の場合とペレットと等量の凍結保存液が入っている場合とでは、保存液が入っている方が融解後の運動性が高かった。さらにドライアイス上に0.25および0.5 mlストローに封入した精液を静置して凍結した後、37℃温湯で融解した場合と前述の200 μlペレットとの融解後の運動性を比較したところ、0.5 mlストローを融解した場合に運動性が高かった。⁻80℃温度域において一定の保存が可能となったが、保存期間の延長が精子に与える影響について更なる検討が必要である。今年度はさらに3月に月経開始から10日目、12日目、14日目の3個体に対し、新鮮精液を授精したが、全頭受胎には至らなかった。
2017-B-16 異種間移植によるマーモセット受精卵の効率的作成方法の開発研究 笹岡俊邦、藤澤信義、小田佳奈子、宮本純(新潟大・脳研・動物資源)、崎村建司、中務胞、夏目里恵(新潟大・脳研・細胞神経生物) 所内対応者:中村克樹 <目的>マーモセットは、薬の代謝や体の構造がヒトに近く、発達した脳を持ち、高い認知機能を持つ。さらに、遺伝子改変マーモセットの作製が可能となり、ヒトの疾患モデル動物として注目されている。マーモセットは繁殖力が高く、小型で取り扱いやすいといった利点がある。しかし、マーモセットの飼育環境が整った研究施設は限られており、遺伝子改変動物の作製には卵子を採取する必要があるが、数多くの卵子を得ることが困難で、採卵には手術が必要であること、採卵までにかかる飼育コストを考慮すると、容易ではない。 そこで私たちは、霊長研の中村克樹教授、高田昌彦教授から分与して頂いた、安楽死されたマーモセットの卵巣を免疫不全マウスに移植することによって、効率的にマーモセット卵子および受精卵を効率的に作出することに取り組んでいる。 <方法>マーモセット卵巣を新潟大学に冷蔵輸送し、到着当日にマウスに移植した。 (1)マーモセット卵巣を細切した。移植しない場合は液体窒素にて凍結保存した。(2)免疫不全マウスの卵巣を切除後、左右の腎被膜下に卵巣片を移植した。凍結保存した卵巣は融解後に使用した。(3)移植から7日後にPGF2alpha、9日後から卵胞刺激ホルモン(FSH)を9日間毎日または2日毎に投与した。(4)FSHの投与開始から9日後に左右腎臓を採材した。(5)卵巣から採卵できた卵子を4時間培養した。(6)培養後MⅡ期となった卵子を顕微授精した。 <結果>これまでに、冷蔵輸送後および凍結融解後のマーモセット卵巣は腎被膜下に生着し、GV期の卵子を得ることが出来た。GV期の卵子は成熟培養後、MⅡ期に進み、顕微授精後、前核期受精卵まで発生させることが出来た。
2017-B-17 遺伝情報によるニホンザル地域個体群の抽出と保全単位の検討 森光由樹(兵庫県立大・自然・環境研/森林動物研究センター) 所内対応者:川本芳 兵庫県に生息するニホンザルの地域個体群は、美方、城崎、大河内・生野、船越山、篠山の5つに分けられている。報告者は、これまで5つの地域個体群について、常染色体遺伝子、Y染色体遺伝子を用いて遺伝的分断の有無を検証してきた。常染色体遺伝子は、5つの地域個体群、平均He=0.735、 Ho= 0.718で、地域個体群間で有意差は認められなかった。 またY染色体遺伝子では、11のハプロタイプが検出され地域個体群間でオスの遺伝的交流が認められた(森光ら2017)。そこで本年度は、ニホンザル地域個体群の抽出と孤立度についてGIS プログラム MAPⅡ(ver.1.5 Think Space)とArcView(10.1)を用いて解析を行った。55頭のオスのミトコンドリアDNAハプロタイプの情報を用いて出生群を判定し、その個体の移動距離を算出した。71.8%が地域個体群間で移動しており移動距離は平均37km±5.7であった。GIS解析では、37kmで接続するセル、クランプを同一の地域個体群とした。その結果、 美方と城崎、大河内・生野と船越山、そして篠山は、京都府の地域個体群(丹波・丹後)に結合され3つに分けられた。今後、絶滅地域個体群の保全単位を考える上で、オスの移動頻度や移動距離をさらにモニタリングしながら保全単位を再考する予定である。
2017-B-18 コモンマーモセットにおける空間認知 佐藤暢哉(関西学院大・文・総合心理)、林朋広(関西学院大・院・文) 所内対応者:中村克樹 本研究は、コモンマーモセットの空間認知能力について検討することを目的として、齧歯類を対象とした研究で用いられてきた迷路と同様の実験事態を使用した空間学習課題や空間記憶課題を開発することを目的としていた。マーモセットを飼育ケージから実験箱に移動して課題を課すことは困難であると判断し、飼育ケージ内で実施できる実験課題を開発する方針を決定した。そのために、マーモセットの実際の飼育環境の詳細を観察し、飼育ケージのサイズなどの観点から空間学習課題事態の候補をを絞りこみ、必要となる装置を考案した。 具体的には、齧歯類でよく使用される放射状迷路を基本として、マーモセットの運動能力を考慮し、縦方向への移動を含めた三次元的構造を考えた。迷路中央に位置するプラットフォームから周囲に放射状に伸びるアームを有し、さらにその途中部分から下方向へ伸びる構造を持ったマーモセット用の放射状迷路を設計した。マーモセットには、中央位置から周囲に配置しているアーム先端部まで行くことを求める。穴の最底部まで到達することを、その選択を行ったとみなし、正答の場合はそこに報酬を呈示できるようにする予定である。今後は、詳細部分を修正の上、迷路を作成し、実際にマーモセットを対象にいくつかの空間学習課題を実施したいと考えている。
2017-B-19 観察学習による警告色の進化プロセスに関する実験的研究 持田浩治(慶応義塾大学) 所内対応者:香田啓貴 本研究は、個体の直接的な学習経験だけでなく、他者の行動をモデルとした観察学習が、まずさや危険さと関連した目立つ体色(警告色)を創出・維持する、という仮説の妥当性を、理論と実証の両面から検証することを目的としたものである。本年度は、ニホンザル6個体を対象に、ヘビのような危険生物の警告色に対する観察学習の成立の可否を検討した。具体的には、ニホンザルがヘビ模型を警戒する学習用ビデオとウィスコンシン型汎用テスト装置を用いて学習実験を行った。学習過程に個体差が強く影響したため、現段階で強く断定できないが、観察学習“前”条件で赤黒縞模様に塗装した様々な刺激物(ヘビ模型だけでなく四角ボードなどの非生物的形状)を回避した被験個体は、観察学習“後”条件において、ヘビ模型だけを選択的に回避した。一方、観察学習前に赤黒縞模様オブジェクトを回避しない個体は、観察学習後条件において、いかなる刺激物に対しても回避行動を示さなかった。以上の結果は、直接的な経験なしに他者を観察することで警告的学習が成立すること、ただし観察学習が成立するためには、学習前に何らかのキューが必要であることを示唆した。
2017-B-20 マーモセット疾患モデルを用いた神経回路障害ならびに分子病態の解析および治療法の開発 岡澤均、陳西貴、藤田慶大、田川一彦(東京医科歯科大・難研・神経病理学)、泰羅雅登、勝山成美(東京医科歯科大・大学院医歯学総合研究科・認知神経生物学分野) 所内対応者:中村克樹 これまでに正常マーモセット脳へ神経変性誘発因子X(4歳齢、1頭 )あるいは溶媒(PBS)(6歳齢、1頭)を頭頂葉に継続注入(2週間に一回、合計4回)し、Xによる分子変化が誘導される神経変性関連因子Yの神経変性特異的な修飾の増加を免疫染色で確認した。平成29年度は、4頭のマーモセットからXを投与する前の空間位置記憶課題のデータを取得した。今後、投与前のデータ取得が終了した個体から順次Xを投与し、課題成績に対する投与の影響を継時的に評価していく計画である。
2017-B-22 ヒト上科の成長に伴う骨格のプロポーション変化 小林諭史(京都大学) 所内対応者:西村剛 現生ヒト上科系統が分岐して以降のヒト上科の化石記録はヒトの系統以外では極めて少なく、ヒト上科の進化史の考察のためには現生種の徹底的な直接比較が欠かせない。しかし、現状では、ヒト上科の成長に伴ったプロポーション変化を直接比較した研究は乏しい。そこで、ヒト上科における胎児からオトナに至るまでの成長に伴った骨格のプロポーション変化を解明し、種間、特に現生の大型類人猿間に見られる類似性の起源を明らかにすることを目的とした。平成29年度はX線CTを用いて、主に出生後のヒト、チンパンジー、ゴリラ、オランウータン、テナガザルの四肢骨長の計測を行い、前肢長(上腕骨長と橈骨長の和)と後肢長(大腿骨長と脛骨長の和)、上腕骨長と橈骨長、大腿骨長と脛骨長の相対成長について種間比較を行った。その結果、ヒト上科において四肢骨長の相対成長は変わりやすい形質とは言えなかった。特に、大型類人猿間ではどの組み合わせにも有意差は見られなかった。また、ヒトの長い後肢など、オトナ時の特殊なプロポーションの達成に寄与する相対成長は観察されたものの、相対成長は必ずしも成長に伴って変化する機能的な要請に最適化されていないことが示唆された。
2017-B-23 福島市に生息する野生ニホンザルの放射能被曝影響調査 羽山伸一(日獣大・獣医)、中西せつ子(NPOどうぶつたちの病院)、名切幸枝、石井奈穂美(日獣大・獣医) 所内対応者:川本芳 本研究グループでは、2007年から福島県ニホンザル特定鳥獣保護管理計画にもとづき福島市で個体数調整のために捕獲された野生個体を分析し、妊娠率の推定や遺伝子解析などを行ってきた。福島市にはおよそ20群、2000頭の野生群が生息しているが、2011年の福島第1原子力発電所の爆発により放射能で被曝した。2012年度に放射性セシウムの蓄積状況と血液性状の関係を調査し、血球数やヘモグロビン濃度などの低下を明らかにした。今年度は、その後の筋肉中放射性セシウムの蓄積状況と血液性状を調査するとともに、胎仔の相対成長について被ばく前後で比較を行った。 その結果、新たに被ばく後の胎仔で、頂臀長に対する体重および頭蓋サイズの相対成長が低成長であることが明らかとなった。 また、将来における中長期的な影響評価を可能にするため、採取した臓器及び遺伝子等の標本保存を行った。
2017-B-24 サル類およびチンパンジーにおけるヘリコバクター感染に関する研究 橋香奈(東京大学医学部微生物学教室) 所内対応者:宮部貴子 ヒト胃内に生息することが知られているピロリ菌の一部は、発がんタンパク質であるCagAを産生し、胃上皮細胞内に注入することが知られている。また、CagAの発がん活性は宿主の居住する地域により差が生じることが示唆されている。 本年度は、昨年度から引き続き、霊長類研究所で飼育されているニホンザルから単離されたCagA陽性ピロリ菌(サル由来ピロリ菌)の病原性の検討を目的とした実験を行なった。まず、サル由来ピロリ菌を全ゲノム解析した結果、東南アジアで感染が報告されているピロリ菌株の変異株である可能性が示唆された。また、AGS細胞やマウスES細胞由来胃オルガノイドを用いたインフェクション実験の結果、サル由来ピロリ菌及びそれらのCagAは一般的なヒト由来ピロリ菌株に比べて病原性が低いことが示唆された。 本研究の成果は現在、国際学術誌に投稿中である。
2017-B-25 全ゲノムシークエンスデータ解析に基づく解析困難領域の同定と遺伝的多様性の解析 藤本明洋(京都大学大学院医学研究科創薬医学講座) 所内対応者:古賀章彦 申請者は、日本人の全ゲノムシークエンスデータを用いて、(1)第2世代シークエンサーでは解析が困難な領域の特徴を明らかにする。また、(2)それらの領域のゲノム配列を読み取り長の長い第3世代シークエンサーを用いて決定することにより、解析困難領域の遺伝的多様性を解明する。現在は(2)の解析を行っている。 申請者らは、既に日本人108人の全ゲノムシークエンスデータより、解析困難な領域を抽出した(解析困難な領域は、ヒト標準ゲノム配列に存在しない配列と多様性が極めて高い領域より選出した)。それらの配列を濃縮するためのアレイ(解析困難領域アレイ)を作成した。また、日本人108人の解析困難領域を濃縮しPacBio RSを用いてシークエンスを行った。現在は、PacBio RSのデータ解析を行っている。第2世代のシークエンサーのデータをPacBioシークエンサーのリード配列に対してマッピングを行い、エラーを補正する手法の開発を行った。SRiMP2ソフトウエアを採用し、様々なマッピングパタメーターを試し、マッピングの偽陽性率と偽陰性率が低いマッピングパタメーターを見出した。ミトコンドリア配列を用いた解析では、シークエンスエラーの多くを除去することが可能であったが、核ゲノム配列においてはリピート配列が多いため、解析が難航している。マッピングのパターン等を考慮した解析を行うことで精度向上を試みている。
2017-B-26 霊長類における神経栄養因子の精神機能発達に与える影響 那波宏之、難波寿明(新潟大・脳研) 所内対応者:中村克樹 精神疾患の治療法を探るためヒト精神疾患をげっ歯類でモデル化しようとされてきたが、ヒトとマウスの高次脳機能のギャップから行きづまっている。ゆえにヒト認知機能をより正確に模倣するためには よりヒトに遺伝子や脳構造が類似する霊長類を用いた方がよいのではないかといわれている。共同研究者らは、統合失調症の最有力な仮説である「サイトカイン炎症性仮説」に基づき、これまでサイトカインをげっ歯類新生児に投与することで、当該モデルを樹立、解析してきた。本モデル動物は様々に精神疾患に適合する中間表現型を呈するものの、ヒト精神疾患のモデルとしての妥当性においてはやはり決め手に欠いていた。そこで本共同利用研究課題では、霊長類(マーモセットおよびアカゲザル)を用い、その認知行動変化をモニターすることで、仮説やモデルの妥当性を検証する。マーモセット新生児4頭へのEGF投与を実施した。内マーモセット2頭が、活動量の上昇・アイコンタクトの頻度低下・逆転学習課題等の成績低下を示した。今年度はビデオによる行動観察を継続するとともに、MRIを用いたT1強調画像・T2強調画像およびDTIのデータ取得を行った。また、プレパルス抑制の測定をするための装置を開発した。次年度には、プレパルス抑制の計測およびPETを用いた伝達物質系の活動計測の計画を進める予定である。またEGFに皮下投与したアカゲザル2頭も行動異常が現れた。2頭に関しては、学習課題成績の悪化を確認した。人や同種他個体に対する行動異常を定量化する方法を検討している。
2017-B-27 アフリカ中新世霊長類化石の形態学的研究 國松豊(龍谷大・経営) 所内対応者:平崎鋭矢 長年、京大を中心とした日本調査隊がケニヤ共和国において実施してきた野外発掘調査によって、ケニヤ北部のナチョラ、サンブルヒルズ、ナカリから中新世の霊長類化石が多数発見されてきた。採集された化石は、ケニヤの法律によって国外持ち出しが原則禁止されており、ケニヤの首都ナイロビにあるケニヤ国立博物館にすべて収蔵されている。本研究ではこれらの霊長類化石の分析を順次行っている。2017年度には、2017年8月から9月にケニヤ共和国ナカリにおいて野外発掘調査を実施した。2018年3月に再びケニヤに渡航し、ナイロビのケニヤ国立博物館において、同館に収蔵されているナカリ、ナチョラ出土の霊長類化石の分析および他の産地から収集された化石との比較を行った。霊長類研究所では、比較のために現生霊長類の骨格標本や霊長類化石レプリカコレクションの観察、計測をおこなった。ナカリから最近出土した大型類人猿の上顎大臼歯や小型「類人猿」の下顎大臼歯標本の分析を中心に研究を進めた。大型類人猿の新たな上顎大臼歯標本は、ナカリから見つかっているNakalipithecus nakayamaiよりも小型で、形態的にもかなり異なっており、Kunimatsu et al. (2016)で示唆した、中新世後期前半のナカリには大型の類人猿が2種類いたという仮説を支持するものである。
2017-B -28 飼育下のニホンザルおよびアカゲザルにおけるBartonella quintanaの分布状況とその遺伝子系統 佐藤真伍、渡邊明音,西岡絵夢,福留祐香(日本大学 獣医公衆衛生学研究室) 所内対応者:岡本宗裕 Bartonella quintanaは人に発熱や回帰性の菌血症を引き起こす塹壕熱の原因菌で,重症化すると心内膜炎や細菌性の血管腫などの原因となる。塹壕熱は,第一次・二次世界大戦時に兵士の間で流行した感染症であり,現在では都市部に生活するホームレスなどの集団内において感染が確認されている。近年では,中国や米国で実験用に飼育されていたアカゲザルやカニクイザルやわが国の野生ニホンザルにもB. quintanaが分布していることが明らかとなっている。平成28年度の本共同利用・共同研究(課題# 2016-D-21)では,和歌山県由来の椿群のニホンザル1頭(個体#:TB1)からB. quintanaが分離されたことから,わが国の霊長類の研究機関においても本菌が分布していることが初めて明らかとなった。 平成29年度には,同研究所内で飼育されているニホンザル154頭から新たに血液を採取し,B. quintanaの保菌状況を引き続き検討した。その結果,大阪府由来の箕面群のニホンザル2頭からB. quintana様の細菌が分離された。現在,遺伝子性状に基づいて分離株の菌種同定を試みているとともに,複数の遺伝子領域を用いて型別するMulti-locus sequence typing(MLST)の実施も検討中である。
2017-B-29 霊長類後肢骨格の可動性 佐々木基樹、近藤大輔(帯畜大・畜産・獣医) 所内対応者:平崎鋭矢 これまでにニシローランドゴリラ3個体、オランウータン2個体、チンパンジー4個体の後肢のCT画像解析をおこなってきた。趾の可動域の解析では、第一趾を最大限伸展させた状態でCT画像撮影をおこない、得られたCT断層画像データを三次元立体構築した後、第一趾の可動状況を観察した。ニシローランドゴリラやチンパンジーの第一趾の第一中足骨は、上下方向に可動性を持つオランウータンとは違って足の背腹平面で可動しており、その可動域は、肉眼的にはオランウータン、ニシローランドゴリラ、そしてチンパンジーの順で大きかった。今回、コンピュータソフトを用いて趾の可動状況を定量化することを試みた。第一中足骨と第二中足骨がなす平面上におけるそれら中足骨のなす角度をソフト上で解析した。計測した角度の平均は、オランウータンで104度、ニシローランドゴリラで73度、そしてチンパンジーで52度であった。これらの結果によって、肉眼的観察結果を定量的に裏付けることができた。今後、検体数を増やし、精度の高い解析を行っていければと考えている。
2017-B-30 マーモセット幼若精細管のマウスへの移植後の精細胞発生の観察 小倉淳郎、越後貫成美(理研BRC遺伝工学基盤技術室) 所内対応者:中村克樹 最近我々は、顕微授精技術を用いることにより、マーモセット体内で自然発生した生後1年前後の精子・精子細胞(未成熟精子)から受精卵が得られることを明らかにした。そこで本研究では、さらに早期に顕微授精を行う可能性を検討するために、性成熟の早いマウスへ新生仔マーモセット未成熟精細管を移植し、精粗細胞から精子・精子細胞発生が加速するかどうかを確認する。昨年度(2016-D-16)より、免疫不全マウスNOD/SCID系統に生じる免疫拒絶反応を回避するために、さらに重度の免疫不全マウスであるNSG系統をホストに利用している。昨年度中にやや矮小の7ヶ月齢の雄マーモセット1匹より手術にて片側精巣を摘出しNSG雄陰嚢腔に移植し、今年度、移植組織を回収して組織学的観察を行ったが、精子発生は確認されなかった。そこで、さらなる改良法として、ホストマウスの去勢を行なうことにより、GnRH分泌を促進し、移植精巣組織の発達を早める試みを開始した。4ヶ月齢雄マーモセットの片側精巣を去勢NSGマウスの腎皮膜下に移植し、現在移植後2.5ヶ月が経過したところである。約3ヶ月で移植組織を回収し、組織学的観察を行なう予定である。
2017-B31 類人猿における骨盤の耳状面前溝の性差および種差 久世濃子(科博・人類)、五十嵐由里子(日大・松戸歯) 所内対応者:西村剛 ヒトでは、骨盤の仙腸関節耳状面前下部に溝状の圧痕が見られることがあり、特に妊娠・出産した女性では、深く不規則な圧痕(妊娠出産痕)ができる。直立二足歩行に適応して骨盤の形態が変化し、産道が狭くなった為にヒトは難産になった、と言われている。妊娠出産痕もこうしたヒトの難産を反映した、ヒト経産女性特有の形態的特徴であると考えられてきた。一方我々は、平成28年度までに、京都大学霊長類研究所および国内の博物館、動物園収蔵の大型類人猿3属51個体の耳状面前下部を観察することによって、大型類人猿でも圧痕が見られることを確認した。本研究では圧痕の形成要因を調べる為に、類人猿の遺体を解剖し、耳状面に付着する筋肉や靭帯の状況を調べる予定であった。本年は所内で少なくとも、ゴリラとオランウータン各1個体を解剖する計画だったが、代表者が年度半ばで、スイスに長期出張(3ヶ月間)することが決まった為、予定どおり所内での解剖を行うことができなかった。そのかわり、共同利用の研究費で購入したノギスを用いて、スイス(チューリッヒ大学、バーセル自然史博物館)等で、大型類人猿の骨格標本を対象に調査を行った。その結果、今まで推定されていた耳状面前部の圧痕発生頻度の種間差-ゴリラで高く、オランウータンで低い(圧痕があった個体/観察個体;ゴリラ:28/28、チンパンジー:18/24、オランウータン:7/16)を確認できた。今後はさらに解剖の観察例を増やし、圧痕の形成要因を明らかにしたいと考えている。
2017-B-32 Behavioral ecology of parasite infection in wild rhesus macaques in Southern China Yun Yang (Sun Yat-sen University) 所内対応者:Andrew MacIntosh We finished the research project under the supervision of Dr. Andrew MacIntosh on both social networks and parasitological analyses in CICASP and the laboratory of the Section of Social Systems Evolution. We employed current parasitological protocols used in Dr. MacIntosh's lab (formalin-etheyl acetate sedimentation and sheather's sugar flotation) to extract parasite eggs and larvae from 260 fecal samples of wild rhesus macaques (Macaca mulatta) in Neilingding island, China. As a result, we identified three nematodes (Oesophagostomum spp.,Trichuris spp., Strongyloides spp.) and other parasites and pseudo-parasites (Balantidium coli cysts, Balantidium coli trophozoites) and insect eggs (see images). We used a McMaster chamber to estimate the number of parasite eggs/ larvae (Oesophagostomum, Trichuris, Strongyloides and Balantidium) per gram of fecal sediment (i.e. EPG) as a proxy for infection and parasite spreading across individuals. We developed two social networks from the frequencies of allogrooming for each period and calculated seven network parameters (outdegree, indegree, outstrength, instrength, betweenness, closeness, eigenvector). We used R software to build generalized linear mixed models to explore the effects of social behavior factors and demographic factors (sex and age) on the prevalence, infection intensity and diversity of three directly transmitted gastrointestinal nematodes (Oesophagostomum spp., Trichuris spp. and Strongyloides spp.) in wild rhesus macaques. We found that juveniles have a higher prevalence and infection intensity of Oesophagostomum spp. and Strongyloides spp. than adults, as well as nematodes diversity. We didn't find sex-biased infection of these three nematodes in our study group. Individuals with higher outstrength in the grooming network are more likely to be infected with Strongyloides spp.. Individuals with higher outdegree in the grooming network have less diverse nemotodes. Individuals with higher indegree in the grooming network have lower Trichuris spp. prevalence. This study complemented our existing knowledge of intestinal parasites in Chinese wild rhesus macaques, described the factors affecting the gastrointestinal parasite infection of wild rhesus macaques in detail, and also provided a theoretical basis for the protection of wild rhesus macaques in the Neilingding island nature reserve. We greatly appreciate the opportunity and support the Primate Research Institute Kyoto University provided me for my research. Many thanks to Dr. MacIntosh and his colleagues at PRI for their advice and help throughout my study.
2017-B-34 一卵性多子ニホンザルの作製試験 外丸祐介、信清麻子(広島大・自然センター)、畠山照彦(広島大・技術センター) 所内対応者:岡本宗裕 本課題は、動物実験に有用な一卵性多子ニホンザルの作製を目指すものであり、これまでに体外培養系卵子・受精卵の操作・作製に関する手法の確認を進めながら、分離受精卵からの個体作製試験に取り組んできた。平成29年度では、前年度実施した移植試験により、2分離した体外受精卵から単子ではあるが健常産仔の獲得に成功した。また、2回の実験実施により計4頭の雌ニホンザルについて採卵処置を行い、得られた卵子を用いて体外受精卵を作製した後、一部の受精卵を用いて2分離および4分離受精卵を作製した。これらの分離受精卵について体外培養により桑実胚・胚盤胞まで発生させた後、霊長類研究所の雌ニホンザル2頭をレシピエントとして移植試験を実施し、現在は経過を観察中である。今後は、一卵性双仔の獲得に向けて分離受精卵の移植試験を継続するとともに、ニホンザル受精卵の移植レシピエントとしてのカニクイザルの有用性確認を進める予定である。
2017-B-35 マカク歯髄細胞三次元培養構築体移植による歯髄再生 筒井健夫、小林朋子、鳥居大祐、松井美紀子(日本歯科大学 生命歯学部 薬理学講座) 所内対応者:鈴木樹理 平成28年度は、ニホンザル3例に対して歯髄の採取、歯髄細胞の培養および移植を行った。歯髄は、右側乳側切歯と右側乳犬歯、また脱落が近日中に予期される上下顎乳中切歯について個体別に採取可能な部位より抜歯、もしくは生活歯髄切断法を応用し採取した。歯髄細胞は採取後、初代培養および継代培養を行い、歯髄細胞三次元構築体を作製した。3例のニホンザルに対して歯髄細胞三次元構築体の自家移植を上顎右側乳犬歯、または下顎左側乳犬歯へ行った。移植に際しては、歯質を切削し露髄を確認後、歯冠側1/3から1/4程度の歯髄除去処置を行った。処置前と移植後にはエックス線撮影を行い、処置の確認を行った。歯髄細胞を採取した歯についても、エックス線撮影より処置後の状態を確認後対応し、その際、後続永久歯の確認も行った。2017年1月に移植を行った3例のニホンザルから採取した下顎右側乳犬歯は脱灰後、薄切片を作製し組織学的検査を行っている。また、以前採取したアカゲザルの乳歯歯髄細胞において、自発性に不死化した細胞について細胞特性解析を行った。不死化後の細胞の核型をG-band法にて解析し、不死化後の核型はほぼ4倍体で、個々の細胞で染色体数のばらつきが顕著であった。また、テロメア長はテロメアhybridization protection assay法で解析し、不死化後の細胞は不死化前の細胞と比較してテロメア長が短かった。これらの結果は第59回歯科基礎医学会学術大会にて発表した。
2017-B-36 霊長類神経系の解析とヒト疾患解析への応用 井上治久(京都大・iPS細胞研究所)、沖田圭介、今村恵子、近藤孝之、江浪貴子、舟山美里、大貫茉里(京都大・CiRA) 所内対応者:今村公紀 チンパンジーのiPS細胞から神経細胞を分化誘導し、神経活動の評価を行った。具体的には、MAP2、NeuN、synapsin Iが陽性の成熟神経細胞を作製し、平面微小電極アレイ計測システム(MED64-Basic、Alpha Med Scientific)を用いて神経細胞の自発電気活動を記録した。培養期間に比例して神経細胞の自発発火に基づくspike頻度は増加し、シナプス伝搬による同期バースト発火が検出された。同期バースト発火は、シナプス形成の成熟化の指標のひとつであり、チンパンジーiPS細胞由来神経細胞で、機能的な神経ネットワークが形成されていることが示された。さらにこの神経細胞の電気活動において薬剤応答性が検出できるかを調べた。作製した神経細胞は、グルタミン酸受容体等に対する薬剤応答性を示し、神経ネットワークの機能的な成熟化が示唆された。これらの結果から、チンパンジーiPS細胞から作製した神経細胞は機能的なシナプスと神経ネットワークを形成し、霊長類神経系の機能解析に有用と考えられた。
2017-B -37 Genetic characterization of bitter taste receptors in Sulawesi macaques Kanthi Arum Widayati (Bogor Agricultural University), Yohey Terai (The Graduate University of Advanced Studies) 所内対応者:今井啓雄 Bitter perception plays an important role in avoiding ingestion of toxins by inducing innate avoidance behavior. Bitter taste is mediated by the G protein-coupled receptor TAS2R, which is located in cell membranes. Since TAS2R genes are directly involved in the interaction between mammals and their dietary sources, it is likely that these genes evolve to reflect species-specific diets during mammalian evolution. One of the best-studied bitter taste receptors is TAS2R38, which recognizes bitter molecule phenylthiocarbamide (PTC). We did experimental behavior and genetic characterization of TAS2R38 of two species of Sulawesi Macaques. Sulawesi macaques are unique due to their extensive evolutionary divergence into seven species in an island, which covers only 2.5% of the genus area. We used PTC to test avoidance behaviors of 25 individuals of Macaca hecki (N: 13) and Macaca tonkeana (N: 12) in Palu city, Central Sulawesi. All M. hecki rejected 2mM PTC-containing food and thus appeared to be PTC taster. On the other hand, four individuals of M. tonkeana indicated to be PTC non-taster, which rarely discriminated the bitterness of PTC. All of the critical amino acid positions for human TAS2R38 functionality are not altered in both M. hecki and M. tonkeana receptors. The non-taster individuals showed specific nucleotides on sites 349, 390, 401 which may lead to amino acid change on position 117, 130 and 134 respectively. By calcium imaging, we confirmed that the receptor with those specific amino acids change showed lower sensitivity to PTC compared to the wild types.
2017-B-38 The relationship between gut size and torso anatomy Jeanelle Uy (University of Wisconsin-Madison) 所内対応者:宮部貴子 The gut (gastrointestinal tract) is a unique example of a visceral structure that is thought to have driven changes to postcranial dimensions. A longstanding assumption within paleoanthropology is that the torso skeleton, particularly the ribcage and pelvis, reflects organ size; however, no data exists in the literature that directly links soft tissue (guts) to hard tissue (bones). The purpose of this project is to determine if gut size is related to torso morphology. We will test if the bony anatomy of the ribcage and pelvis is related to gut size in anthropoids. Thoracic measurements were obtained from Homo, Hylobates, Pan, Pongo, Gorilla, Macaca, and Cebus skeletons. Existing whole abdomen scans from humans (n=200) were obtained from my institution (UW-Madison) and existing scans of Pan (n=4) and Cebus (n=8) were obtained from KUPRI. We will test the null hypothesis that gut volume is not related to the pelvis or the thorax and a second null hypothesis that gut volume relative to body size does not differ across these anthropoid species. The comparison of thorax dimensions across species shows that the monkeys and Hylobates had more similar ribcage volumes in their upper and lower thorax and also have the smallest gut sizes, according to published data. On the other hand, the hominids had less similar upper-to-lower thorax volume ratios and have relatively larger gut sizes. Additionally, we have found that, in general, male humans tend to have gut volumes that are correlated with variables related to body size, while females have a more complicated relationship between the skeleton and the gut. Across species analysis will be performed once all the human data and Cebus scans have been analyzed. The data analysis will continue to progress throughout this fiscal year.
2017-B -39 Phylogeography of rhesus macaque: mainly focused in Indochinese group Srichan Bunlungsup (National Primate Research Center of Thailand, Chulalongkorn University), Suchinda Malaivijitnond (Chulalongkorn University) 所内対応者:今井啓雄 Rhesus macaque (Macaca mulatta) is one of the most well-known non-human primate species. They were previously classified into 6 subspecies, however, due to an inadequate information, the recognition of subspecies level distinctions became obsolete and this species was subsequently divided into three main groups that are Eastern (China and vicinity), Western (India and vicinity) and Southern (Indochinese) groups. Most of the previous studies focus only on the first two groups which cause their evolutionary history still be obscured. Here, we collected wild samples of southern rhesus populations from Thailand and Myanmar. Hypervariable region I (HVSI) on mtDNA were sequenced and analyzed together with other downloaded sequences of rhesus macaque from throughout their distribution range. Phylogenetic trees were constructed using NJ, ML, and Bayesian analysis. All methods showed similar topology in which Western rhesus macaque (blue) was first separated from other regions in approx. 1.77 Mya, followed by the separation between Southern (green) and Eastern group (yellow) in approx.1.48 Mya. All tested populations showed negative Tajima’D value with no significant difference. Since Indian rhesus showed lowest nucleotide diversity within the group and highest genetic differentiation from others, we supposed that rhesus macaque was first originated in Indochinese regions then, migrated westward and eastward to Indian and China, respectively. However, Indian rhesus had experienced genetic drift and severe bottleneck and thus, showed genetic distinctive from other regions. Since this preliminary result includes only a part of mitochondria DNA, we are now analyzing other regions of mtDNA and hope this should help us to gain clearer scenario about rhesus evolutionary history.
2017-B-40 霊長類における概日時計と脳高次機能との連関 清水貴美子、深田吉孝(東京大学大学院理学系研究科) 所内対応者:今井啓雄 我々はこれまで、齧歯類を用いて海馬依存性の長期記憶形成効率に概日変動があることを見出し、SCOPという分子が概日時計と記憶を結びつける鍵因子であることを示してきた (Shimizu et al. Nat Commun 2016)。本研究では、ヒトにより近い脳構造・回路を持つサルを用いて、SCOPを介した概日時計と記憶との関係を明らかにすることを目的とする。 ニホンザル6頭を用いて、苦い水と普通の水をそれぞれ飲み口の色が異なる2つのボトルにいれ、水の味と飲み口の色との連合学習による記憶効率の時刻依存性について実験をおこなっている。各個体あたり、朝/昼/夕の何れかに試験をおこない、学習から24時間後にテストを行う。ボトルをセットしてから最初の一口目が正解(普通の水)だった場合にポイントを加算する方式で、6頭の記憶テスト結果を評価したところ、昼に有意に記憶効率が高いという結果が得られた。しかし、各時刻におけるサルの飲水欲求の強さが記憶テストの結果に影響する可能性があるため、1日の飲水行動パターンを測定したところ、食餌時の飲水量には時刻による差は見られず、食餌時以外の時刻にはほとんど飲水行動は見られなかった。本記憶テストでは、テストと同時に食餌を与えているため、各時刻の飲水欲求は同程度であると考えられ、記憶テストの結果にも影響を与えていないと考えられた。また、昼の記憶効率の高さにSCOPが関わっているかどうかを確かめるために、6頭のうちの2頭の海馬にSCOP shRNA発現レンチウイルスまたはコントロールレンチウイルスを投与し、昼の時刻の記憶効率を測定した。コントロールレンチウイルスを投与したサルは、何も投与していないサルの昼の時刻と同程度の記憶効率を示したが、SCOP shRNA発現レンチウイルスを投与したサルは、著しく記憶効率が低下していた。しかし、正確な記憶効率を評価するためには、さらに記憶テストの試行回数を増やす必要がある。
2017-B -41 Genomic Evolution of Sulawesi Macaques Bambang Suryobroto (Bogor Agricultural University) 所内対応者:今井啓雄 Macaca is a characteristic monkey of Asia/Oriental zoogeographical realm, however seven species of them distribute allopatrically and endemically in Sulawesi Island that is the center of Wallacea region. In 2017 we studied M. tonkeana and M. hecki because there were reports that the two species hybridize in their borderland area. We therefore follow an evolutionary model called “speciation with gene flow” to analyze the exome sequences of both species. In collaboration with Dr. Yohei Terai of Sokendai, we had succeeded in getting exome genomes of 11 individuals of M. tonkeana and 11 M. hecki. In these two species, the total number of codons is 2,874,866 and number of segregating sites are 34,519. With the expertise of Dr. Shohei Takuno, also from Sokendai, we analyzed these data. The exome sequences provide matrices of allele frequency spectrum (AFS) to infer demographic model of population subdivision. Given a homologue genetic region from the two species, the resulting AFS is a 2-dimensional matrix that recorded the number of diallelic genetic polymorphisms; each of our AFS was 23-by-23 matrix (indexed from 0). From these AFSs, we calculated the statistics commonly used for population genetic inference, such as Wright’s FST (population differentiation) and Tajima’s D (departure from neutrality). We calculated FST as 0.289 and for M. tonkeana the D is -1.18 and M. hecki -0.937. The negative Ds indicated the excess of rare variants which may be interpreted as the two populations had been through a bottleneck event and now expanding. Furthermore, we iteratively assigned an individual (probabilistically) on the basis of their genotypes to each population which is characterized by a set of allele at each locus. In doing so we found a recent admixture which evidently came from M. tonkeana to M. hecki.
2017-B-42 下北半島脇野沢の野生ニホンザル群の分裂が個体群動態に与える影響 松岡史朗、中山裕理(下北半島サル調査会) 所内対応者:古市剛史 下北半島南西部のA87群は2012年に83頭に増加し、2013年4月に43頭(87A群)と22頭(87B群)の2群に分裂した。分裂5年目の2017年度の出産率は、87A群40%、87B群は86%、赤ん坊の死亡率は87A群、87B群ともに0%と分裂前の高い出産率、低い死亡率の状態に戻った。分裂前(1984~2011年)分裂後(2013年以降)の群の増加率、出産率、0~3歳の死亡率、遊動距離を比較してみたが、今年度もどれも変化は見られなかった。87A群の15歳のオトナメスが1頭が死亡した。GPS発信機の装着による首輪の擦れによる傷の化膿が原因と考えられる。分裂前、年々増加傾向にあった群れの遊動面積は、分裂後も縮小は見られず、今年度は昨年度に利用していなかった地域の利用が確認された。しかし以前は利用していたが今年度は、ほとんど利用しなくなった地域もあり遊動面積が拡大したとは言い難い。87A群は今年度66頭となり、現在と同様の高い出産率、低い死亡率が続いた場合、2,3年で再び分裂した頭数に達する。今年度も、1日程度のサブグルーピングが観察された。グルーミングの頻度と個体数との関係は現在解析中である。グルーミングの相手は、親子、姉妹の頻度が高かった。
2017-B43 コモンマーモセットにおける食物アレルギーの診断と管理法の開発 村田幸久、中村達朗(東京大学大学院農学生命科学研究科) 所内対応者:宮部貴子 正常便のマーモセット3個体、泥状便のマーモセット3個体(うち1個体は正常便の個体と同一個体で別の日)から尿を採取し、排泄された脂質濃度の網羅的な測定(リピドーム解析)をおこなった。その結果、泥状便を繰り返し、Marmoset Wasting Syndromeが疑われた1個体について、正常便の際も、泥状便の際にも、炎症性脂質メデイエーターと呼ばれる脂質濃度が大きく上昇しており、強い炎症が示唆された。 また、泥状便を繰り返すが、抗炎症剤を投与された1個体は、これらの上昇は確認されなかった。今後は食物アレルギーが疑われる個体に加え、Marmoset Wasting Syndromeが疑われる個体についても対象とし、さらに検討を加える予定である。
2017-B-44 複合ワクチネーションによるSIVの感染防御効果の解析 三浦智行、水田量太、阪脇廣美(京都大学 ウイルス・再生医科学研究所) 所内対応者:明里宏文 我々は、エイズの原因ウイルスであるヒト免疫不全ウイルス1型(HIV-1)の感染モデルとしてサル免疫不全ウイルス(SIV)や、それらの組換えウイルスであるサル/ヒト免疫不全ウイルス(SHIV)のアカゲザルへの感染動態と免疫応答について長年研究してきた。一方、SIV遺伝子を発現するBCGベクターとワクシニアウイルスベクターを組み合わせて免疫することにより、SIVの感染防御効果が得られることを示唆する予備的結果を得た。平成29年度は、ワクチン群3頭および対照群3頭のアガケザルについて免疫誘導状況について調べたところ、ワクチン群では対照群に比較してSIV特異抗原に対する免疫が誘導されていることが確認された。そこで、SIVmac239株による攻撃接種実験を行ったところ、期待に反してワクチン群と対照群でウイルス増殖に違いが認められなかった。また、新規に開発した攻撃接種用SHIVとして、臨床分離株と同等レベルの中和抵抗性を有するCCR5親和性SHIV-MK38C株の感染実験を開始した。ワクチン候補のさらなる改善および攻撃接種用SHIVの攻撃接種ウイルスとしての適正評価のために平成30年度も感染実験を継続する。
2017-B-46 内在性ボルナウイルスによるウイルス感染抑制メカニズムの解明 朝長啓造、小嶋将平(京都大学ウイルス・再生医科学研究所) 所内対応者:今井啓雄 内在性ボルナウイルス様エレメント(EBLs)は、霊長目を含む多くの動物のゲノムに存在するボルナウイルス様配列である。ヒトゲノムに存在するEBLsは、臓器および培養細胞において発現し抗ウイルス作用を示すことがすでに当研究室において明らかとなっている。しかし、ヒト以外の真猿亜目に属するサルにおいてその配列、発現、および機能はまだ明らかとなっていない。そこで本共同研究では、霊長類に内在しているEBLsの機能を明らかにすることを目的に、新世界ザル、および類人猿由来の培養細胞を用い、EBLsの探索、配列決定、発現解析、および機能の解析を目的として行った。分与されたのチンパンジー、ゴリラならびにマーモセット由来の繊維芽細胞よりゲノムDNAを抽出し、ヒトゲノムに存在する特定のEBLに対するオルソログ配列をPCR法により同定した。またRNAを抽出し、RT-PCR法によりオルソログ領域からの転写を確認した。また、オルソログとその周辺配列のシークエンス解析とEBL発現に関与するプロモーターの保存性を明らかにし、進化過程におけるEBLの選択圧についても検討を行った。その結果、分与された細胞において、特定のヒトEBL(hsEBLN-3)のオルソログ配列が存在することが明らかとなった。また、hsEBLN-3は、真猿亜目の細胞においてmRNAを発現していることも示された。現在、ヒト細胞におけるhsEBLN-3の機能解明を行っており、本共同研究の成果は、hsEBLN-3の機能解明に関する論文に重要な結果として掲載をする予定である。
2017-B-47 サル造血免疫機能の解析とサル免疫不全ウイルス感染モデルマウスの樹立 岡田誠治、刈谷龍昇(熊本大・エイズ研)、俣野哲朗(国立感染症研究所・エイズ研究センター) 所内対応者:中村克樹 本研究の目的は、ニホンザルの造血・免疫系を解析し、その特徴を明らかにすること、その結果を元にニホンザルの造血免疫系を構築したマウスモデルとエイズモデルを構築することである。 本年度は、ニホンザル2匹から脾細胞・末梢血を採取し、2種類の高度免疫不全マウス(NOD/Scid/Jak3欠損マウス及びBALB/c Rag-2/Jak3二重欠損マウス)腹腔内に移植した。2×10E7個以上移植されたマウスは、2週間以内に死亡した。1×10E7個移植されたマウスでは、フローサイトメトリーによりニホンザル細胞の生着が確認されたが、その割合は低かった。 来年度は、マウスに適量の放射線照射をするなどの処置により、効率の良い移植系の確立を目指す。
2017-B-48 飼育下サル類の疾患に関する病理学的研究 平田暁大(岐阜大・生命セ・動物実験)、柳井徳磨、酒井洋樹(岐阜大・応生・共同獣医・獣医病理) 所内対応者:宮部貴子 飼育下でサル類に発生する疾患およびその病態を把握するため、霊長類研究所で死亡あるいは安楽殺したサル類を病理学的に解析していた。平成29年度中に25頭(コモンマーモセット15頭、ニホンザル8頭、チンパンジー1頭、オマキザル1頭)の病理学的解析を行った。さらに、同研究所の獣医師と臨床病理検討会(CPC、Clinico-pathological conference)を開催し、病理学的解析結果を治療データ、臨床検査データ(血液検査、レントゲン検査、CT検査、MRI検査等)と照合し、症例の総合的な解析を行った。 研究期間中に、マーモセットで進行性の削痩を主症状とする消耗性症候群(Wasting syndrome)の症例が多数認められたが、病理組織学的解析により、罹患個体には高度な腸炎(慢性小腸炎および慢性大腸炎)が認められることを明らかになった。本症候群の病態は一定ではないことから、いくつかの疾患が包含されている可能性が指摘されている。今回の解析から、同症候群の中には腸炎を特徴とする疾患が含まれていることが示唆され、未だ解明されていない本症候群の病因の解明にも繋がると考えられる。 脳内転移の見られた肝臓癌のニホンザルの症例について論文を発表した。CT検査、MRI検査等の詳細な臨床検査データと病理解析結果を提示した貴重な報告であり、サル類の臨床診断技術および精度の向上に資すると考えられる。
2017-B-49 ヒトの高次認知機能の分子基盤解明を目指した比較オミックス研究 郷康広(自然科学研究機構・生命創成探究センター) 所内対応者:大石高生 1. ヒト精神疾患・高次認知機能解明のための霊長類モデル動物の開発 ヒトの高次認知機能やその破綻として現われる精神・神経疾患の本質的な理解のために、マカクザルおよびマーモセットを対象としたマルチオミックス解析を実施することで霊長類モデル動物の開発を行った。具体的には、それぞれ1000頭近くの個体に対して精神・神経疾患関連候補遺伝子ターゲット配列解析を行うことにより、遺伝子機能異常変異を自然発症的に持つ個体の同定を行った。また、神経変性疾患である多系統萎縮症や先天的代謝異常症であるライソゾーム症様の表現型を呈するマカクザルを対象とした集団ゲノム解析を行い、原因遺伝子を明らかにした。さらに、精神・神経疾患の脳内分子動態を明らかにするための脳内遺伝子発現マップ作製のために、マカクザル発達脳発現解析、および、マーモセットを用いたマクロレベルとミクロレベルの全脳遺伝子発現動態解析を行った。マーモセットのマクロレベルでの研究の一部を理化学研究所脳科学総合研究センターとの共同研究として論文発表した。さらに、国立精神神経センターとの共同研究として薬理学的自閉症モデルマーモセットの脳における遺伝子発現動態変化解析を行い、自閉症の分子動態解明に向けたトランスレータブル研究を推進した。 2. 比較オミックス解析による「ヒト化」分子基盤の解明 ヒト化の最大の特徴のひとつである脳の形態進化・機能進化の分子基盤の解明のために、ヒトと非ヒト霊長類であるチンパンジー・ゴリラ・テナガザルの死後脳を用いた網羅的発現解析を行った。その結果、ヒト特異的な発現変化を示す遺伝子はチンパンジーのそれに比べて顕著に増加しており、その半数以上は、ヒト海馬のニューロンやアストロサイトにおいて生じていることを明らかにした。また、チンパンジー親子トリオ高深度全ゲノム解析による直接突然変異率の推定および一世代間におけるゲノム構造変異に関する研究を、国立遺伝学研究所、京都大学霊長類研究所との共同研究として行い、結果を論文として公表した。
2017-B-50 STLV自然感染ニホンザルの抗ウイルスT細胞免疫 神奈木真理、長谷川温彦、永野佳子(東京医科歯科大・院・免疫治療学) 所内対応者:明里宏文 サルTリンパ球向性ウイルス(STLV)はヒトT細胞白血病ウイルス1型(HTLV-1)の近縁ウイルスであり、ニホンザルに高率に自然感染している。HTLV-1感染では一部の感染者が成人T細胞白血病(ATL)を発症する。HTLV-1特異的T細胞応答に個体差があり、ATL患者では低応答(免疫寛容)であることから、T細胞応答を強化することには治療的意義があると我々は考えている。本研究で、我々はウイルス特異的T細胞応答を活性化する治療方法の開発を目的として、STLV感染ニホンザルにおけるSTLV特異的T細胞応答の評価系を作成し、個体レベルで免疫活性化実験を行う。T細胞応答はMHCに拘束されるため、野生のニホンザルでは個体ごとに抗原認識部位が異なる。そこで我々は、感染個体から個別にSTLV感染細胞株を樹立し、これを標的としてT細胞応答を解析する方法を選択した。平成29年度は、PCRで定量可能なレベルのプロウイルス量を持つSTLV自然感染ニホンザル 6頭の末梢血白血球から細胞株の樹立を試み、3頭から一過性に増殖するSTLV感染細胞株を得た。これらの感染細胞を用いて、in vitroで宿主のSTLV特異的T細胞応答を調べたところ、2頭からはSTLV特異的なT細胞応答が認められたが1頭からは検出できなかった。これらのことから、STLV自然感染ニホンザルのT細胞応答には、ヒトHTLV-1感染者と同様に個体差があり、免疫寛容を示す個体があることが示唆された。
2017-B -51 Variation of Gene Encoding Receptor of PTC bitter taste compound in Leaf-Eating Monkeys Laurentia Henrieta Permita Sari Purba (Bogor Agricultural University) 所内対応者:今井啓雄 TAS2R38 is one of TAS2R multigene families that encode receptor to recognize bitter from several N-C=S compounds including PTC. TAS2R38 had been identified in many primates. TAS2R38 in human, chimpanzee, Japanese macaques exhibit intra-species polymorphism that lead to different behavioural response of individual. Taster individual show aversion to PTC, in contrast to tolerant in non-taster individuals. Leaf-eating monkeys (Subfamily Colobines) are unique among primates because their diet mostly consisted of leaves that perceptually tasted bitter to human. We confirmed that Trachypithecus, Presbytis and Nasalis were all less sensitive to PTC compared with macaque both in behavioral detection and cell assay. In addition we found four colobine specific amino acid mutations (V44I, Q93E, I148F, and R330K) that revealed in comparison with human, chimpanzee and macaque TAS2R38 receptors. We did site-directed mutagenesis of macaque TAS2R38 to mimicking colobine in the specific position. By calcium imaging, we measured the responses of cell expressing mutant TAS2R38 of macaque mimicking colobine. The single-site mutations of four amino acids of TAS2R38 of macaque to mimic colobine confirmed that those mutations in colobines are responsible to the decreased sensitivities to PTC. In addition, double-, triple- and quadruple- site mutations are less sensitive to PTC compare to the wild type. We found mutants containing amino acid change at position 93 were remarkably reduced the sensitivities as shown by the EC50 values. We proposed that Q93 are important to keep the function of TAS2R38 receptor in PTC-taste species such as macaque.
2017-B-52 ニホンザル野生群におけるinfant handlingの意義 関澤麻伊沙(総研大・先導研) 所内対応者:辻大和 群れを形成する霊長類では、母親以外の個体(ハンドラー)が新生児へ接触するinfant handling(IH)という行動が日常的にみられる。IHは,ハンドラーがアカンボウに興味を持ち、ハンドラーと母親との交渉が行われ、母親がハンドラーを許容する、という3段階があると考えられる。しかし、これまでの研究では、これらを総合的に解釈したものはなかった。そこで本研究では、ニホンザル野生群を対象に、上記の3段階を踏まえて、IHの意義を総合的に理解することを目的とした。申請者はこれまで3年間に渡り、宮城県金華山島に生息する野生ニホンザルを対象にIHに関わる行動データを収集してきた。今年度は、アカンボウ3頭とその母親について前年度までと同様に個体追跡による行動観察を行い、補足的なデータを収集した。これまでに集めたデータを分析した結果、ハンドラーは、母親の子育てスタイルや母子間距離、自身と母親の社会関係などを見極めて、接触しやすいアカンボウを選択的にハンドリングしている可能性が示唆された。
2017-B-53 二ホンザルとアカゲザルにおける新規ストレスマーカーの探索とストレス反応性の比較研究 横田伸一(東京大・医科研) 所内対応者:鈴木樹理 本研究の目的は、ニホンザルとアカゲザルにおいて簡便に測定できるストレスバイオマーカーを見出し、それぞれのサル種におけるストレス反応性の特徴をバイオマーカーの観点から明らかにすることである。平成29年度は、ストレス負荷(サルをホームケージから他室の個別ケージに一時的に移動させるストレス)の2日前と当日の同時刻に採取した血液および唾液中のコルチゾール、メラトニン、アミラーゼ、免疫グロブリンA(IgA)の濃度測定に成功し、血漿よりも唾液中のコルチゾール濃度の方が鋭敏にストレス反応を捉え得ることを明らかとした。また、コルチゾール濃度の上昇に並行して、アミラーゼとIgAの濃度が減少することも明らかにした。コルチゾール、アミラーゼ、IgAの変動は、半数例にあたるN=6の時点ではアカゲザルにおいてのみ有意差が検出されており、バイオマーカーの観点からもニホンザルとアカゲザルのストレス反応性の違いが見出される可能性がでてきている。今後は、ストレスの種類をより現実的なものに変更し、唾液や血液以上に採取が容易な糞便中でのバイオマーカーの検出系の創出にもチャレンジしてみる予定である。
2017-B-54 Absorption and bioavailability of gum’s compounds used by marmoset in field and laboratory conditions. Leonardo César Oliveira Melo, Maria Adélia Borstelmann de Oliveira, Anisio Francisco Soares (Universidade Federal Rural de Pernambuco) 所内対応者:今井啓雄 From three family groups of marmosets monitored since 1998, in two Brazilian biomes: Caatinga Biome in the county of Arcoverde - 8º 24’ S e 37º 03’ W - and Atlantic Forest Biome in two others counties: Recife and São Lourenço da Mata - Tapacurá Ecological Fieldstation 08o 07' S, 34o 55’ W) in the state of Pernambuco, we collected samples of feces from marmosets and gums used by their diet. In the cases of feces were collected from the identified individual, the sex and weight of the individuals were recorded. Other samples were collected on the feeding platforms, in which case no individual data was available. All samples were stored in ependorf without preservatives and stored in freezer -20 oC within 4 h of collection. " Samples of four species of gum trees of the Atlantic Forest and Caatinga - in number of 2 for each site - were collected with the aid of a metal spatula. These were packed in sterilized pots and preserved under refrigeration. In the laboratory, they were lyophilized and later preserved in deep freeze at -20 degrees.
2017-B-55 プロポフォールとフェンタニルによるコモンマーモセットの全静脈麻酔法の確立 牟田佳那子(東京大学獣医外科学研究室)、増井健一(防衛医科大学校病院麻酔科)、矢島功(防衛医科大学校病院薬剤部) 所内対応者:宮部貴子 我々は、実験動物として数を増やしているコモンマーモセットの全身麻酔の質の向上を目的として、静脈麻酔薬と鎮痛薬の投与のみで全身麻酔状態を維持する全静脈麻酔法の確立を行っている。本年度はプロポフォールの血中濃度と麻酔深度の関係を調査した。当初ヒトの麻酔深度モニターとして使用されているBISモニターの電極部をマーモセット用に改良し、脳波のスペクトラム解析から麻酔深度を評価する予定であったが、電極が非常に小型で、わずかな動揺も脳波に影響してしまい、長時間安定してデータを記録することが困難であった。このためプロポフォール投与時の外的刺激の許容性評価に変更し、麻酔深度の判定を行った。健康なマーモセット6頭にセボフルラン鎮静下で尾静脈に留置針を設置し、完全に覚醒させた後に8 ㎎/kgのプロポフォールを4 mg/kg/minの速度で投与した。その後宮部らが作成した、音、視覚そして触覚刺激に対する反応、姿勢、瞬きの5項目に関して4段階で鎮静度を評価する、霊長類の鎮静度スコアをマーモセット版に改良したものを用いて、2分毎に鎮静度および心拍数、呼吸数をモニターした。その結果ボーラス投与のみで全頭約10分間の完全な不動化を得られた。現在はこの不動化に必要な血中濃度を予測血中濃度と比較し、薬力モデルを作成中である。
2017-B-60 霊長類におけるヒトの皮膚の表現型の特性について 荒川那海、颯田葉子、寺井洋平(総研大・先導研) 所内対応者:今井啓雄 他の霊長類と比較してヒトの皮膚では表皮が厚く、表皮と真皮の結合面積を増大させるように基底膜の形状が波型であり、また弾性線維が豊富であることが定性的に報告されている。これらの特徴はヒトで減少した体毛の代わりに皮膚の強度を増し、外部の物理的な刺激から体内部を保護するために進化してきたと考えられている。本研究では、ヒト特異的皮膚形質が進化の過程でどのような遺伝的基盤によって獲得されてきたのかを、遺伝子発現量に焦点を当てたヒトと類人猿の種間比較から明らかにすることを目的としている。 ヒト5個体、チンパンジー、ゴリラ、オランウータン各種3個体ずつの皮膚total RNAを用いたRNA発現量解析(RNA-seq)を行った結果、基底膜や弾性線維の形成に関わる複数の遺伝子の発現量がヒト特異的に高く発現していることが明らかになった。さらにこれらの遺伝子の発現調節領域を分子進化学的手法とヒストン修飾の情報により推定した。それらの領域中のヒト特異的置換がヒト特異的な遺伝子発現を生み出すと推定し、各遺伝子2~10個の候補置換を抽出した。今後これらの候補置換が実際にヒト特異的遺伝子発現を生み出しているのか、プロモーターアッセイにより検証していく。
2017-B-61 大型類人猿の前腕における回内-回外運動機構の機能形態学的解析 大石元治(麻布大・獣医)、荻原直道(慶應大・理工) 所内対応者:江木直子 回内-回外運動は手首の回転運動に関与し、三次元的に位置する支持基体を用いる樹上性ロコモーションや、手の器用さと関連が深い。大型類人猿は樹上環境で懸垂型ロコモーションを高頻度に行うが、典型的なロコモーションの種類や出現頻度に大きな違いが種間に存在することから、回内-回外の運動性も異なる可能性がある。本研究では未固定の前肢の標本を用いて、前腕骨格の回内-回外運動を再現しながらCT撮影することにより、回内時と回外時の橈骨と尺骨の相対的な位置関係を観察している。本年度は、チンパンジー2個体の前腕のCT撮影を行うことができた。最大回内時、最大回外時のデータから三次元再構築を行うことで、尺骨を軸とした橈骨の運動を再現した(図)。また、CT撮影後は前肢筋の起始部、停止部、走行の特徴を観察した。筋は骨から分離して筋束長、湿筋重量を測定した。さらに、これらの計測値から筋力と相関のある筋生理学的断面積を算出した。今後は標本数を増やすとともに、他の大型類人猿との定量的な比較を予定している。
2017-B-62 野生ニホンザルの個体数抑制技術の開発 前多敬一郎(東京大・院・農生命)、束村博子、大蔵聡、上野山賀久(名古屋大・院・生命農)、松田二子、迫野貴大(東京大・院・農生命) 所内対応者:鈴木樹理 雄ニホンザルにニューロキニンBの受容体(NK3R)の拮抗剤を投与し、血中薬物濃度の変化を検討するとともに、血中テストステロン濃度および精巣の組織学的変化を指標としてその繁殖抑制効果を検証した。具体的には、NK3R拮抗剤SB223412のDMSO飽和溶液を充填したシリコンチューブを繁殖期の雄ニホンザル3個体に皮下移植した。2個体はインプラントを1週間維持しその後摘出した。移植前に1回、移植後からの1週間1日に1回、計8回の採血(1 ml/回)を行った。残りの1個体は45日間インプラントを維持しその後摘出した。移植前に1回、移植後からの1週間1日に1回、チューブ摘出時1回、計9回の採血(1 ml/回)を行った。この個体はチューブ摘出時に安楽殺し、視床下部、精巣、精嚢腺を採取した。血液から血漿を分離し、NK3R拮抗剤濃度量をHPLCおよびLC/MSにて解析した。その結果、血漿中NK3R拮抗剤量はチューブ移植後に増加していた。また、精巣および精嚢腺の組織切片を作製しHE染色を行った。その結果、精巣において精母細胞やセルトリ細胞の異常な脱落が認められた。精嚢腺は全体および腺腔の大きさが縮小していた。 現在、エンザイムイムノアッセイにより血漿中テストステロン濃度を測定している。また、視床下部からはRNA抽出を行い、NK3Rのクローニングを行う予定である。
2017-B-63 自律的に歩容遷移を行うマカク四足歩行モデルの開発 長谷和徳、吉田真(首都大学東京) 所内対応者:平崎鋭矢 一般的な四足動物は後方交叉型と呼ばれる四肢の運動パターンによってロコモーションを行うが、ニホンザルなどのマカクは前方交叉型と呼ばれるロコモーション・パターンを持つ。本研究では、関節動態や神経系の運動制御機構などを考慮し自律的に歩容遷移可能なマカク類の四足歩行のシミュレーションモデルを作成し、身体力学系を含む力学的環境変化と歩行遷移との関係を計算論的に明らかにすることを試みた。霊長類研で撮影したニホンザルのロコモーションデータや、歩容の特徴の知見を参照し、四足歩行の運動制御モデルの構築を行った。制御系モデルとして、従来の脚位相制御機構に体重心に応じた位相調整が可能な仕組みを導入した。シミュレーションではサル本来の前方交叉歩行の他、後方交叉歩行も実現できるようにした。さらに、体形条件についても体重心が後方に位置するサル本来のサル型体形のほか、体重心を前方に位置するように体形条件を仮想的に調整したイヌ型モデルを構築した。シミュレーションではこれらの組み合わせた、前方交叉・サル型モデル、後方交叉・サル型モデル、前方交叉・イヌ型モデル、後方交叉・イヌ型モデルの4種類の歩行モデルで歩行運動を生成し、歩容を評価した。シミュレーションからはサル本来の前方交叉・サル型歩行モデルにおいて移動のエネルギ効率が最も良いとの結果が得られた。この特徴は脚位相と体重心などとの力学的な位置関係より説明ができると考えられた。ただし、モデルの妥当性については更なる検証が必要である。
2017-B-64 野生ニホンザルの種子散布者としての役割と糞虫との相互関係 豊川春香(山形大学大学院農学研究科)、島田将喜(帝京科学大学生命環境学部) 所内対応者:辻大和 霊長類をはじめとした大型果実食者の絶滅が生態系機能の消失に直結することが熱帯において知られているものの、日本の森林においてその影響はほとんど注目されてこなかった。本研究では、特に研究例の少ない多雪地生態系を対象に、ニホンザルと食肉目各種が起点となる種子の一次・二次散布特性を比較することで、ニホンザルが持つ森林の多種共存を支える固有の機能の特定を試みる。 一次散布では、ニホンザルが中型哺乳類の中では最も散布できる種子の種数が多様で、唯一の散布者となった種子が27種みられた。ニホンザルは食肉目よりも小さい種子を散布する傾向にあり、食肉目によって散布された種子の半数が発芽の阻害要因となる可能性がある果皮や果肉が付着したままの状態であったが、ニホンザルはほとんどが種子のみであった。また、糞虫による二次散布からは、中型哺乳類の糞すべてに糞虫が誘引されたことから、中型哺乳類によって散布された種子は二次散布されることが予想されるが、食肉目を利用する糞虫は二ホンザルと比べ、個体数・種数ともに少なかった。 以上から、同じ種子であればニホンザルによる散布の方が発芽可能な種子は多く、種子の腐敗防止や種子捕食者からも忌避されやすい可能性が示唆された。
2017-B-65 視覚刺激の好みに対するホルモンの影響 倉岡康治(関西医科大学医学部生理学第二講座)、稲瀬正彦(近畿大学医学部生理学講座) 所内対応者:中村克樹 霊長類は他個体に関する視覚情報に興味を示す。また、動物の社会行動においてはテストステロンやオキシトシンが重要な役割を果たすことが知られているため、上記のホルモンがニホンザルの社会的視覚刺激の好みにどう影響するかを行動実験で調べることを目的としている。 本実験では、飼育ケージ内でのサルの自発的な行動によりデータを得る実験環境を構築することにした。霊長類研究所飼育室において、飼育ケージにタブレット型コンピューターを取り付け、複数の他個体画像を提示する。サルがある画像に興味を示して触れれば、その画像をより長く提示し、別の画像に興味を示さず触れることが無ければ、その画像は少しの時間の後に消えるようにプログラムする。この課題で各視覚刺激に対するサルの興味を調べ、テストステロンやオキシトシンを投与した後、その興味がどのように変化するかを調べる。 本年度は、おもに飼育ケージ内でのホルモン投与前データの記録を試みた。実験を始めた当初、タブレット画面に視覚刺激が提示されるとサルは興味を示すが、なかなか画面に触ろうとする行動が見られなかった。そこで、画面への接触頻度をあげるため、画面にケーキシロップをつけた。サルがシロップを舐めるために画面を触ると、それに伴って他個体画像が提示されるようにした。最初はケーキシロップのためだけに画面を触っていたと思うが、時間が経ちケーキシロップがなくなってからも、画面への接触がみられることがあった。画像に対する興味が出てきた可能性がある。
2017-B-66 SRVのマカク属異種感染における病理組織学的研究 中村紳一朗(滋賀医科大学動物生命科学研究センター)、宮沢孝幸(京都大学ウイルス・再生医科学研究所・ウイルス共進化分野) 所内対応者:岡本宗裕 サルレトロウイルス5型(SRV5)感染のウイルスの組織学的分布は不明な点が多い。またSRV5のマカク属サル種間での病態の違いも不明である。当初、新規抗体による局在解明を目的としたが進捗がかなわず、本年度はエプスタイン・バー・ウイルス(EBV)のSRV5による病態発症への関与を検討した。PCR法、ELISA法でSRV5陽性だった同一導入元のカニクイザル死亡例3頭(各リンパ腫、慢性肺炎、慢性腎炎で死亡)はニホンザルのSRV5感染と異なる症状だった。これら3頭と、SRV5陰性のカニクイザル3頭の主要臓器と血清を用い、臓器のパラフィン切片でHE染色およびEBVに対するIn situ hybridization(ISH)法、血清でEBVの間接蛍光抗体法(IF)を行った。 SRV5陽性個体のISHで、リンパ腫例(Fig. 1)は腫瘍細胞に散在性の陽性像(Fig. 2)、慢性肺炎例は肺炎病巣内のリンパ球、リンパ系臓器のリンパ球に散在性の陽性像を認めた。慢性腎炎例はホルマリン浸漬が長く、有効な陽性像を認めなかった。SRV5陰性個体のISHでは、リンパ系臓器で非常に少数のリンパ球に弱い陽性反応を認めた。一方、IFは6例すべてが陽性だった。 いずれのカニクイザルもEBVの抗体陽性で、ウイルスが潜伏性に感染していると思われるが、SRV5陽性個体ではISHでの陽性細胞が多かった。SRV5による免疫機能の低下がEBVの活性化を招き、これがSRV5陽性個体の不測の死亡の原因に関わっていることが推測された。 学会発表: 中村紳一朗 再生医療実現のためのサル類モデルに関わる微生物学統御(H29年7月1日) 第26回サル疾病ワークショップ(麻布大学・神奈川県相模原市)
2017-B-67 ヤクシマザルの頬袋散布種子および糞中種子の二次散布者調査 松原幹(中京大学) 所内対応者:辻大和 前年度に設置したヤクシマザルに糞散布されたヤマモモ種子と頬袋散布された種子の発芽調査を行った。糞散布されたヤマモモと頬袋散布されたリュウキュウマメガキの発芽は見られず、頬袋散布されたシロダモ・イヌガシで発芽を数多く確認した。シロダモとイヌガシの種子は動物による被食率が低いことが発芽率が高い一因と考えられる。しかし、複数のシロダモ実験区でシカと小動物避けカゴ内の種子や、カゴで覆わなかった種子が大雨で実験区外に流出し、実験区の下方の窪みで発芽するアクシデントがあった。 今年度はヤマモモの頬袋散布種子を採集して、糞散布された種子と比較を行う予定であったが、果実の結実量が不十分であったことから計画を延期した。また、夏の台風等の影響と果実結実率が高かった前年度の影響で、2017年10~12月の果実結実率が低く、頬袋散布調査に必要な数の種子を収集できなかった。現在、ヤクシマザルが散布した種子を訪問する動物種について、カメラトラップで撮影した動画を使って解析を行っている。
2017-B-68 成人を対象とした単語認知に関する研究 澤田玲子(特定非営利活動法人神経発達症研究推進機構) 所内対応者:正高信男 ヒトは顔や氏名、あるいは自分が作成した文字など、さまざまな対象において自己を認識する。このような自己関連情報処理には、対象ごとに異なる自己表象があるとする「領域特異的」であるとの報告があるが、先行研究では異なる視覚刺激 (たとえば、顔と名前) が用いられたため、領域特異的な自己関連情報処理によるのか、刺激特異的な情報処理であるのかが明らかではない。そこで、本研究は氏名と筆記者という2つの領域の自己関連情報をもつ手書きされた氏名を刺激として用いることで、自己関連情報処理が領域特異的であるのか検討した。具体的には、23名の日本人成人を対象に、自分あるいは他者によって手書きされた、自分あるいは他者の漢字とひらがなで表記された氏名を観察中に事象関連電位を計測した。その結果、刺激呈示後230~300ミリ秒に後頭領域に励起する事象関連電位P250の振幅、とくに右半球の電極で、筆記者における自己・他者の違いが記録された。また、刺激呈示後約300~500ミリ秒後に正中部に励起する事象関連電位LPCの振幅に、名前における自己・他者の違いが記録された。このように、氏名と筆記者にかんする自己関連情報の処理の違いは、異なる事象関連電位成分に反映した。この結果は、領域特異的な自己表象の存在を支持するものであると考えられる。
2017-B-69 霊長類における絶滅危惧種の保全技術の確立 佐々木えりか、井上 貴史、石淵 智子、高橋 司、黒滝 陽子(公益財団法人 実験動物中央研究所) 所内対応者:中村克樹 非ヒト霊長類の多くは絶滅の危機にさらされており、絶滅危惧種に指定されている動物においては、動物園で飼育されている動物を交換し、近交化を防ぎつつ繁殖をおこない、野生に戻す取り組みが行われている現状である。我々は新世界ザルのコモンマーモセット(マーモセット)の胚を低侵襲的な経膣子宮灌流法で採取して凍結保存し、凍結胚を復元、胚移植によって個体作製を行う技術を有しているため、マーモセットと近縁で絶滅寸前としてレッドリストに登録されているワタボウシタマリン(タマリン)にその技術を転用して、種の保全のための基盤技術開発を行った。本研究は以上の目的のもと、マーモセットに近縁であるワタボウシタマリン3ペア(京都大学霊長類研究所)を用いて受精卵採卵を中心に進めた。まず初めに、タマリンの血漿を週に1回採取し、血漿プロゲステロン値を測定して性周期を調べた。また、その性周期やプロゲステロンの値から排卵日を決定し、排卵日から3~9日後に受精卵採卵を行なった。採卵法として、麻酔下の動物の膣内にガラス棒を挿入し、テフロン製ガイドカテーテル(外筒)を子宮口から子宮内に挿入、ガイドカテーテル内に採卵用カテーテル(内筒)を挿入して灌流液にて子宮内を還流し、戻ってきた還流液を回収、検鏡し受精卵を確認した。3頭のメスはいずれも性周期が動いており、のべ6回の排卵が確認されたため採卵を行い(表 1)、2個の受精卵(桑実胚と4細胞期胚、図1)、2個の未受精卵、1個の死胚を採取、また同時に灌流液に混入する子宮内膜も採取した。細胞の輸送においては、37度で輸送可能な細胞輸送機や液体窒素で凍結させた後に輸送するためのドライシッパーなどを用いて実験動物中央研究所に移送した。受精卵の移送後、桑実胚においては発生が認められ、胚盤胞に発生した(図 2)。種の保全を行うために、胚性幹細胞作製を試みたが、樹立には至らなかった(図 3)。また、ペアの雄が死亡したため、精巣細胞及び、精子の保存もおこなった(図4)。これらの結果から、タマリンはマーモセットの発生工学技術を転用することで配偶子を獲得、保存することが可能であることが示唆された。さらに、昨年度はワタボウシタマリン4ペアを用いて8回手術し、1個の胚盤胞を得るのみであったのに対し、今年は6回の受精卵採卵で2個の受精卵、2個の未受精卵、1個の死胚を得ることができたことから、排卵日予測と採卵手技の精度が上がったと考えられる。
2017-B-71 ニホンザルを対象とした顔認識システムの開発 大谷洋介(大阪大学 COデザインセンター)、小川均(立命館大学 情報理工学部) 所内対応者:半谷吾郎 本研究ではニホンザルを対象とした広範かつ簡便な個体識別・登録手法の実現により調査・保護管理・獣害対策等の効率的な実施に資することを目的として、画像取得による顔認識システムの開発を実施した。 平成29年度共同利用研究において取得した霊長類研究所飼育の高浜群(57個体)、若桜群(45個体)、嵐山群(62個体)、椿群(47個体)の個体を撮影した動画を元に顔認識システムの開発を進めた。 昨年度開発したシステムを、精度・識別可能個体数の向上を目的として改修を行い、新たにDeepLearning技術を導入した。具体的には、HOG特徴量を用いた強化学習(Real AdaBoost)により画像中からニホンザルの顔領域を自動的に抽出し、CNN(Convolutional Neural Network)による識別器の作成を行った。得られた識別器を用いて個体登録・識別を行い、同集団内の15個体の識別を可能とした。 野生下での運用試験によるプログラム改修を目的として鹿児島県熊毛郡屋久島町西部林道にて野生集団の撮影を実施し、約50個体から581本の動画を取得した。直近の作業目標として、本サンプルを利用して各集団のメス個体合計15-30頭程度の識別を行い、林道に出現する集団の識別が可能なシステムの実現を目指す。この作業を通じて試作システムの検証・改善を行うとともに、DeepLearningによる個体識別システム実装のプロトコル策定を行う。
2017-B-72 アカゲザルiPS細胞の免疫細胞への分化 金子新(京都大学iPS細胞研究所)、塩田達雄・中山英美(大阪大学微生物研究所)、三浦智行(京都大学ウイルス研究所)、入口翔一(京都大学iPS細胞研究所) 所内対応者:明里宏文 アカゲザル3個体に由来する iPSCからマウスフィーダー細胞との共培養下に造血前駆細胞(CD34(+)細胞)、胸腺T細胞(CD4(+)8(+))の誘導を行った。いずれのクローンでもCD34(+)細胞とDP細胞への誘導が可能であった。そこでヒトiPS細胞からのT細胞誘導で有効性が報告され、臨床応用に用いられる無フィーダー培養を検討した。まず、アカゲザルiPS細胞培養そのものの無フィーダー化を試みたところ、細胞外マトリックスコート培養皿でのiPS細胞維持が可能であることが明らかになった。次に造血前駆細胞誘導を無フィーダー化したところ、CD34(+)細胞は誘導されるもののその後の誘導効率に支障をきたすことが明らかになったため、以後の実験ではマウスフィーダー細胞との共培養法を用いることとした。また、ヒトiPS細胞からのT細胞誘導法として報告されている三次元培養法を試みたところ、T細胞分化を認めなかった。これらの結果より、ヒトiPS細胞からのT細胞分化において有用性が示される条件であっても、必ずしもアカゲザルiPS細胞の分化誘導には適さないことが示唆された。 マーキング後に生体へと移植する実験のために、アカゲザルから採取したCD34(+)細胞、あるいは上述の方法でアカゲザルiPS細胞から分化誘導したCD34(+)細胞や再分化T細胞に、ウイルスベクターを用いて遺伝子マーキングを行う実験を行った。アカゲザル骨髄由来のCD34(+)細胞あるいはiPS細胞由来のCD34(+)細胞へのマーキングが可能であることを確認した。
2017-B-73 サル雌性生殖器由来幹細胞の分離とその機能解析の試み 保坂善真、割田克彦(鳥取大学・農・獣医解剖学) 所内対応者:岡本宗裕 実験2年度目の平成29年度は、前年度(平成28年度)に採取、増殖後に、冷凍保存しておいた月経血由来細胞(幹細胞と思われる)を解凍後、細胞性状の解析や組織細胞への分化を試みる計画であった。しかし、凍結保存しておいた細胞を再度播種したが、その生存率がきわめて低く、保存細胞を実験に供するすることは困難であることが明らかとなった。また、胎盤由来の組織からの幹細胞を採取も企図していたが、使用計画の都合により同組織を入手できなかった。月経血からの細胞の採取、分離を29年度も引き続き試みた。しかし、目的とする細胞の分離に至ることはできなかった。
2017-B-74 異種生体環境を用いたチンパンジーiPS細胞からの臓器作製 中内啓光、正木英樹(東京大学医科研究所)、長嶋比呂志(明治大学農学部)、平林真澄(生理学研究所)、海野あゆみ、佐藤秀征(東京大学医科研究所) 所内対応者:今井啓雄 本年度は提供を受けたチンパンジー末梢血細胞からiPS細胞を作製し、以下の研究を行った。 a) チンパンジーナイーブ型iPS細胞の開発 現時点で最も有望なナイーブ型への変換方法であるchemical resettingをチンパンジーiPS細胞に適用した。しかし、ナイーブ型iPS細胞株は樹立できなかった。チンパンジーとヒトは近縁種ではあるが、チンパンジー用に培養条件を至適化する必要があると考えている。 b) チンパンジープライム型iPS細胞からの異種間キメラ動物作製 チンパンジープライム型iPS細胞をマウス胚やブタ胚に移植し発生させたところ、2-3日のうちに移植細胞は死滅し、キメラ個体は得られなかった。そこで、iPS細胞に抗アポトーシス因子であるBCL2の誘導型発現システムを導入したものを同様に移植した。その結果、マウス胚において最長で9.5dpcまでの移植細胞の寄与が認められた。ブタ胚においてもほぼ相同な発生段階である19dpcの段階で移植細胞の生存を確認している。ただし、どちらの種においても移植細胞の寄与率が低いこと、出生時においてキメラである個体が得られていないことが今後の検討課題である。 b)の結果については現在論文をまとめており、2018年中の発表を予定している。
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