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京都大学 霊長類研究所 年報 vol. 48
京都大学霊長類研究所年報のページvol. 48

京都大学霊長類研究所 年報

vol. 48 2017年度の活動


A. 計画研究

2017-A-1 Conservation genetics of Myanmar’s macaques: a phylogeographical approach

Aye Mi San (University of Yangon) 所内対応者:田中洋之

As Myanmar is located in transition zone of habitat environment for many mammals, phylogeographical study of Myanmar non-human primates (NHP) will contribute the understanding of evolution of Asian NHP. In Myanmar, most of the NHP are threatened due to illegal hunting and habitat degradation by anthropogenic activities. The rhesus macaque (M. mulatta) is not an endangered species. However, conflict between the monkeys and humans is a serious problem. The local extinction is worried because of the over-hunting in the non-protected areas. To avoid the local extinction, adequate population regulation is needed for this species. Information from the phylogeography of this species, especially genetic relationship among local populations, is quite helpful for determining the conservation priority. In this study, I analyzed genetic variations in mtDNA sequence in the rhesus macaques as well as other macaques.

DNA was extracted from a total of 33 fecal samples comprising four populations from Central Myanmar (Pokokku group, n=6; NGM group, n=4; YTG group, n=7; Powin group, n=16). I determined approximate 1200 bp of the D-loop region for these samples. Next, five rhesus, three stump-tailed and one Assamese macaques from Kachin State, northern Myanmar were analyzed for two mitochondrial regions: D-loop and the 1.8 kb region including the full length of cytochrome b gene and the HVS1 region of D-loop. In order to depict the phylogeography of each species of macaques in Myanmar, I need to analyze more samples to increase data points in Myanmar. Part of the results obtained in this study was presented in the following conferences:

1. Aye Mi San (2017) Temple monkeys and their situation in Myanmar. (Workshop on Myanmar Biodiversity and Wildlife Conservationː Supported by Norwagian Environment Agency 9 Nov 2017)

2. Aye Mi San, Hiroyuki Tanaka & Yuzuru Hamada (2017) Anthropogenic activities on non-human primates in Mon State, Myanmar. (7th Asian Vertebrate International Symposium, 5-9 Dec 2017, Supported by Kyoto University)


2017-A-2 イメージングと脳活動制御の融合技術開発

南本敬史、平林敏行、永井裕司、堀由紀子、藤本淳(量子科学技術研究開発機構) 所内対応者:高田昌彦

本研究課題において、独自の技術であるDREADD受容体の生体PETイメージング法と所内対応者である高田らが有する霊長類のウイルスベクター開発技術を組み合わせることで、マカクサルの特定神経回路をターゲットとした化学遺伝学的操作の実現可能性を飛躍的に高めること目指した。H29年度は副作用が懸念されるCNOに替わるDREADDアゴニストとして、clozapine類似化合物の中から脳移行性が高くかつDREADDに親和性の高い「化合物X」(特許出願準備中)を見出した。Xは極少量で脳内局所に発現させた興奮性DREADD(hM3Dq)を活性化させるとともに、Xを放射性ラベルした[11C]XはDREADDの脳内発現を画像化するPETリガンドとしても有用で、高感度にhM4Di/hM3Dqの発現を定量するとともに、陽性神経細胞の軸索終末に発現したDREADDsも鋭敏に捉えることに成功した(NagaiらSFN2017)。DREADDと化合物Xにより、サル脳回路操作がより高い信頼性・実用性をもって実施可能となることが期待できる。


2017-A -3 マカクザル外側手綱核の神経連絡

松本正幸、山田洋(筑波大・医学) 所内対応者:高田昌彦

嫌悪的な事象(報酬の消失や罰刺激の出現)を避けることは、動物の生存にとって必須である。研究代表者と所内対応者らの研究グループは、マカクザルを用いた電気生理実験により、外側手綱核と呼ばれる神経核がこのような回避行動の制御に関わる神経シグナルを伝達していることを明らかにしてきた(Kawai et al., Neuron, 2015; Baker et al., J Neurosci, 2016)。ただ、どのような神経回路基盤に基づいて外側手綱核がこのような機能を獲得したのかについてはほとんど明らかになっていない。本研究では、外側手綱核が他の脳領域とどのような神経連絡を持ち、そのシグナルがどの領域に伝達されているのか、またどの領域を起源とするのかを解析することを目的とする。平成29年度は、所内対応者とのディスカッションを通じて、外側手綱核に注入する神経トレーサーの種類や解析対象脳領域、使用するサルなど、実験デザインの詳細を決定した。平成30年度に実験を実施予定であるため、本年度の画像ファイルの提供は見送りたい。


2017-A-4 複数骨格筋への単シナプス性発散投射構造の解剖学的同定

関和彦、大屋知徹、梅田達也、工藤もゑこ、窪田慎治、戸松彩花、Amit Yaron(国立精神神経医療研究センター) 所内対応者:高田昌彦

脊髄運動ニューロンに投射するPremotor neuronは大脳皮質、脳幹、脊髄にそれぞれ偏在し、最近の申請者らの電気生理学的実験によってPremotor neuronの複数筋への機能的結合様式が筋活動の機能的モデュール(筋シナジー)を構成することが明らかになってきた。この神経解剖学的実体については全く明らかにされておらず、ヒトの運動制御の理解の発展と、運動失調に関わる筋、神経疾患の病態理解や新しい治療法の開発のためには喫緊の研究課題である。そこで本研究では上肢筋の脊髄運動ニューロンへ投射する細胞(Premotor neuron)の起始核である脊髄、赤核、大脳皮質からの発散性支配様式を解剖学的に明らかにすることによって、霊長類における巧緻性に関わる皮質脊髄路の脊髄運動ニューロンへの直接投射の機能的意義を解剖学的観点から検討する。

本年度は新たなウィルスベクターの開発を継続して行なった。また、国立精神・神経医療研究センターにおいて、霊長類研究所から供給を受けたAAVベクターの機能評価をマーモセットを対象に行なった。


2017-A-5 霊長類における音声コミュニケーションの進化および発達過程の研究

平松千尋(九州大学・芸術工学研究院)、山下友子(芝浦工業大学・工学部共通学群)、中島祥好、上田和夫(九州大学・芸術工学研究院) 所内対応者:友永雅己

公益財団法人日本モンキーセンターとの連携研究として、同センターで飼育されている霊長類のうち、チンパンジー、ヤクニホンザル、リスザル、タマリン、ワオキツネザルを主な対象とし、様々な発達段階にある複数個体から音声を録音した。録音は指向性マイクロフォンと高音質なポータブルレコーダーを用いて、個体から約2-6mの位置で行った。現在、これまで当グループが開発してきた方法により、霊長類音声の共通性および相違、発達段階での変化を明らかにする分析を進めている。これまでの共同利用研究と、ヒトの発達段階の音声を合わせて分析した結果では、系統や発達段階を反映すると考えられる音響的特徴の違いが示されつつある。特に、チンパンジーの音声は、ヒト幼児の音声と音響的特徴が近い可能性を示す分析結果を得ており、今年度の録音データを追加することで、明確な成果として示すことを目指している。


2017-A-6 The effects of Physical characteristics of seeds on gastrointestinal passage time in captive long-tailed macaque

Kurnia Ilham (Andalas University) 所内対応者:辻大和

I conducted feeding experiment to the captive female long-tailed macaque (N=5 individuals) at PRI Kyoto University to investigate the effect of seeds physical characteristic on their passage time. I used 5 different types of seeds (Melon, Kangkung, Small plastic seed, Medium plastic seed, and Egg plant) with varied dimensions. The different seed size might influence seed movement in the gastrointestinal system. Thus, gut passage time would be influence seed dispersal distance. I tested effect of seed types on the percentage of seed recovery and three variables related to passage time (MRT,TLA and TT). During the study i found the median seed recovery was about 3-32%. Among the three passage time variable, the mean retention (MRT: 24-109h), mean last seed appereance (TLA:13-136h) and the transit time (TT: 22-79h) were signifficantly differ among seed types. The mean rentention time for each seed types were also found significantly differ between individuals. Result of my study implies that havier seeds which have long retention time in the gut would be disperse far from the parent tree. On the contrary, lighter seeds are dispersed near the parent.


2017-A-7 チンパンジーの口腔内状態の調査と歯科治療法の検討

桃井保子(鶴見大・歯・保存修復学)、花田信弘、今井奨、岡本公彰(鶴見大・歯・探索歯学)、齋藤渉(鶴見大・歯・保存修復学)、宮之原真由(鶴見大・歯・探索歯学) 所内対応者:宮部貴子

同研究所が飼育するチンパンジー14個体のうち、これまで12個体の口腔内診査 (視診、歯周ポケット検査、動揺度検査) を行い、歯科治療を要すると思われる個体をスクリーニングした。そのうち1個体 (処置時:26歳、雌) の上顎左側中切歯に、外傷による歯髄腔露出を伴う歯冠破折および唇側歯肉に瘻孔を認めた。デンタルX線撮影を行ったところ、根尖部歯根膜腔の拡大と根尖部の外部吸収を認め、慢性根尖性歯周炎と診断し、ヒト治療の通法通り根管治療を行った。処置直後のX線検査でガッタパーチャポイントによる緊密な根管充填を確認し、根面をコンポジットレジンで充填した。

術後8ヶ月と6年での経過観察において瘻孔の消失が確認でき、X線検査で根尖部の外部吸収の進行は認められず、周囲骨組織の不透過性の亢進が確認された。術後6年では残存歯質は黒褐色に着色していたが、歯質表層の軟化は認められなかった。レジン修復は辺縁の一部にわずかな破折を認める程度で脱落や大きな破折は認められず、連続したステップや辺縁着色も認めなかった。

以上から、チンパンジーの歯の破折と根尖性歯周炎に対して、ヒト歯と同じ処置が有効であることを確認した。本症例は喧嘩や転落等の外傷による破折に起因する根尖性歯周炎と思われる。ヒトに比べ極めて強い咬合力を有するチンパンジーに対して、接着性コンポジットレジン充填を根面のみに限局させ、咬合力がかかりにくいに形態に整復したことが、再破折と再感染を回避できた要因と考えている。

2017-A-9 オランウータン臼歯表面の皺を数量化する

河野礼子(慶應義塾大学) 所内対応者:高井正成

オランウータンの大臼歯エナメル表面に特徴的な「皺(シワ)」について、その特徴や差異を検討するために、3次元デジタルデータをもちいてシワを数量的に評価することを試みた。歯冠全体をマイクロCT撮影したデータから得た表面形状データを利用した。今回は、オランウータン大臼歯7点と、比較のためにギガントピテクス大臼歯4点について、シワの程度を表す2つの変数を指標として比較した。「溝面積」は、溝を咬合面窩の表面形状データから平均曲率が0.4以上となる点として抽出して、咬合面窩全体の投影面積に占める割合として求めた。一方、「起伏度」は、咬合面窩の形状データを強度平滑化(9×9の移動平均を5回)し、前後の表面積の差を投影面積に対する比として評価した。起伏度は隆線の太いギガントピテクスの方が大きいという結果になり、オランウータン特有の細かいシワの評価には必ずしも適していない可能性が示唆されたが、溝面積はオランウータンのシワの多寡によく対応していた。今回抽出した溝の領域から「線」成分を抽出できれば、より細かいシワパターンの特徴を数量的に評価することができると期待される。


2017-A -10 化石頭蓋形態の推定モデルの作成と検証

森本直記(京都大学理学研究科) 所内対応者:西村剛

遺伝的な情報が得られない化石種においては、類縁関係を推定するうえで形態情報が最も重要である。一方で、形態学的な解析にも限界がある。特に、定量分析に必要な解剖学的特徴が欠損している化石種を対象とする場合、現在広く用いられている幾何学的形態計測の手法が適用できない。本研究では、サイズ変異に伴う形態変異(アロメトリー)に着目し、現生種におけるアロメトリーのパターンを「外挿」することで、現生種にみられる形状変異をもとに化石種の形状を推定復元する手法を開発することを目的に研究を行った。

今年度は、これまでに行ったアロメトリー解析の結果を補強するために、すでに取得済みのデータに加え、補完的にマカク・ヒヒのデータを取得し、定量解析の精度向上に努めた。その結果、前年度までに明らかにしていた、マカクとヒヒに共通なアロメトリーのパターンと、アロメトリーとは無関係な形態変異を確認した(添付画像、第1主成分1と第2主成分に対応)。現在、成果発表へ向けて準備を行っている。


2017-A -11 判断を可能にする神経ネットワークの解明

宇賀貴紀、三枝岳志(山梨大学・医学部・統合生理学)、須田悠紀(玉川大学・脳科学研究所) 所内対応者:高田昌彦

判断形成の神経メカニズムの理解には知覚判断、特にランダムドットの動きの方向を答える運動方向弁別課題を用いた研究が大きな役割を果たしてきた。運動方向を判断する際、大脳皮質中側頭(MT)野が動きの知覚に必要な感覚情報を提供していることは明らかであるが、MT野の情報がどこに伝達され、判断が作られているのかは未解明である。眼球運動を最終出力とする判断を司る脳領域として、大脳皮質外側頭頂間(LIP)野、前頭眼野(FEF)、上丘(SC)などが想定されており、これらの領野で判断関連活動が計測されている。しかし、LIP野を不活性化しても判断に影響はでず、判断関連活動と判断との因果関係が未解決な重要問題として捉えられている。本研究では、化学遺伝学的手法を用い、MT野からのどの出力経路が判断に必須であるかを調べることにより、判断を可能にする神経ネットワークを明らかにすることを目指す。今年度は本研究に必要な種々の準備を行った。具体的には、実験室・手術室の立ち上げ、DREADD実験に関連する各種申請を行い、サル1頭に運動方向弁別課題を訓練した。


2017-A -12 霊長類の皮質-基底核-視床ループの形態学的解析

藤山文乃、苅部冬紀、高橋晋、中野泰岳、緒方久実子、東山哲也(同志社大学) 所内対応者:高田昌彦

本研究では、最終的には霊長類での解明を目指しているが、パーキンソン病の原因物質であるドーパミンニューロンに、大脳基底核の淡蒼球外節細胞がどのように投射するのかを調べるために、所内対応者の高田昌彦教授にパルブアルブミン(PV)発現細胞特異的にCreを発現するPV-CreRatを提供していただいた。このラットを使用して、淡蒼球外節パルブアルブミンニューロンの終末が黒質緻密部の特定の領域に優位に分布することを明らかにした。さらに、淡蒼球外節のパルブアルブミン細胞の活性化によって黒質緻密部のドーパミン細胞が強く抑制されることを電気生理学的に証明した(Oh, Karube et al., Brain Structure and Function, 2017)。

現在は所内対応者の高田昌彦教授にご提供いただいたマーモセットを用いた実験を進めている。この研究によって、動物種を超えたドーパミンニューロンへの調節制御が明らかになると考えている。


2017-A-13 FUS抑制マーモセットモデルにおける高次脳機能解析

石垣診祐、遠藤邦幸(名古屋大・院医) 所内対応者:中村克樹

ヒトのFTLD患者で確率逆転学習において特異的な所見が存在したことから、これに類する高次脳機能行動バッテリーの開発を霊長類研究所で行い、実際のモデルを用いた研究を名古屋大学医学研究科で実施するために、マーモセットの飼育を開始し、高次脳機能解析のセットアップを行った。 マーモセットの飼育室内で5回/週を上限として1頭あたり1回に1時間程度の行動実験訓練を合計で8頭に対し開始した。具体的にはマーモセットの飼育ケージの前面扉に認知実験装置を装着し、マーモセットに画面をタッチさせることで実験を行った。 マーモセットに1対の視覚刺激を提示して、その1つをタッチすると報酬が与えられる。他方にタッチすると誤反応となる。 この図形弁別課題を学習させた後、逆転学習課題を実施する予定である。ヒトの患者で用いている確率逆転学習課題に類似した課題の開発にも着手した。


2017-A-14 芸術表現の霊長類的基盤に関する研究

齋藤亜矢(京都造形芸大・文明哲学研究所) 所内対応者:林美里

チンパンジーとアーティストが共同で絵画を制作する試みから、それぞれの描画表現の特徴を明らかにする研究の1年目として実施した。チンパンジーが描いた絵にアーティストが加筆する、アーティストが描いた絵にチンパンジーが加筆する、という2つの条件で、それぞれの絵の特徴や制作のプロセスを比較するものである。今年度は、相互に制作プロセスが見える条件で実施する本実験に先だって、制作プロセスを見せず、描いた絵のみで加筆のやりとりをする予備実験をおこなった。まずアーティストに自由に絵を描いてもらい、その様子を映像で記録した。次に、チンパンジーのアイに、その絵に加筆してもらった。アイはすでに絵が描かれた部分を避けてふちどるようになぐりがきをした。2018年度にも研究を継続し、相互に制作プロセスが見える条件での実験にすすむ予定である。また当該年度は、霊長類研究所のチンパンジーの過去の絵画作品の電子データ化も進めた。そのほか、チンパンジーの絵画作品を沖縄科学技術大学院大学で実施された人工知能美学芸術展への出品、日本モンキーセンターで開催中の霊長類アート展への出品と展示協力をおこなった。


2017-A-15 行動制御における皮質下領域の機能解析

田中真樹、鈴木智貴、竹谷隆司、亀田将史(北海道大・院・医) 所内対応者:高田昌彦

大脳皮質の機能は視床を介した小脳や大脳基底核からの皮質下信号によって調節されている。分子ツールをニホンザルに適用した複数の実験を進め、小脳外側部と大脳視床経路の機能を探ることを目的に研究を進めてきた。実験1では小脳に化学遺伝学的手法を適用することを予定していたが、CNOの副作用の問題もあり、H29年度は遺伝子導入は行わず、予備実験として小脳核ニューロンの記録実験を行った。実験2では、視床-大脳間の情報処理を明らかにするため、大脳視床路を光遺伝学的に抑制することを試みた。前年度に京大からウイルスベクターを提供していただき、H29年前半まで北大で遺伝子導入個体を用いて光刺激実験を行った。遺伝子導入後半年ほどで反応性が悪くなり、H29年7月に組織採取して京大で免疫組織学的検討を行ったところ、ベクター接種部位の多くの細胞が脱落していることが分かった。導入遺伝子の発現量が多いため、長期的に細胞死を引き起こすものと考え、接種後早期の発現を京大で再確認していただいた。結果、同株のベクターでは接種後約1か月の時点では細胞死はみられず、導入遺伝子の強発現が見られることが確認できたため、年明けから再度ベクターを作成していただいた。その間、北大にて新たな個体を用意して課題の訓練と補足眼野のマッピングを行い、H30年度4月初旬に2頭目への遺伝子導入を行った。今後、遺伝子発現を待って、光刺激実験を再開する。


2017-A-16 脳機能におよぼす腸内細菌叢の影響

福田真嗣、村上慎之介、石井千晴、福田紀子、伊藤優太郎(慶應義塾大・先端生命研) 所内対応者:中村克樹

ヒトを含む動物の腸内には、数百種類以上でおよそ100兆個にも及ぶとされる腸内細菌が生息しており、その集団を腸内細菌叢と呼ぶ。腸内細菌叢は宿主腸管と密接に相互作用することで、複雑な腸内生態系を構築しており、宿主の生体応答に様々な影響を及ぼしていることが報告されている。近年、無菌マウスを用いた研究や抗生物質を投与したマウスを用いた研究において、腸内細菌叢が脳の海馬や扁桃体における脳由来神経栄養因子(BDNF)の産生量に影響を与え、その結果マウスの行動に変化が現れることが報告されている(Heijtz, et al., PNAS, 108:3047, 2011)。これは迷走神経を介した脳腸相関に起因するものであることが示唆されているため、腸内細菌叢が宿主の脳機能、特に情動反応や記憶力に影響を及ぼす可能性が感がえられる。しかし、マウスを用いて情動反応や記憶力と腸内細菌叢との関係を調べるには、げっ歯類では限界があると考えられることから、本研究では小型霊長類であるコモンマーモセットに着目し、高次脳機能、特に情動反応や記憶力と腸内細菌叢との関係について解析を行った。本年度は高次脳機能評価を行うための課題訓練と、図形弁別課題およびその逆転学習課題を訓練した。さらに、記憶機能を検討するため空間位置記憶課題も訓練した。これらのマーモセットの便を採取し、次世代シーケンサーを用いて腸内細菌叢解析を行った。得られた腸内細菌叢情報と認知機能情報について、相関解析や多変量解析手法を用いてアプローチし、認知機能に関連する腸内細菌叢の探索を行った。


2017-A-17 Ecological and phylogeographical study on Assamese macaques in Bhutan

Tshewang Norbu (Forest Science and Technology Centre) 所内対応者:川本芳、田中洋之

I investigated mitochondrial DNA (mtDNA) variations of the macaques inhabiting along two major river systems (Amochhu and Wangchhu) in the west of Bhutan. In this study, I aimed to focus on whether the distribution of rhesus and Assamese macaques were sympatric or allopatric in the study area. In addition, the analysis of samples taken from Sakten area in the east of Bhutan was also preliminarily done for comparative study. Following previous methodology, samples extracted from fecal materials were subjected to sequencing of mtDNA non-coding region and to alignment with previous data for the phylogeographical assessment. The result suggested that the habitat of rhesus macaques is restricted to the bordering area with India in less than 300 m asl (above sea level). Distribution of Assamese macaques is dominated in other study sites of west Bhutan in this study. Thus, the zoogeographical distribution of the two macaques is likely to be allopatric or parapatric at least in west Bhutan. Meanwhile, river system specific haplogroup, known in the central mountainous area of Honshu island in Japan, was unclear in west Bhutan. Though sex identification was incomplete for obtained samples, this result was supported only by female samples for which sexing by PCR succeeded. Therefore, it may not be reasonable to explain the evolutionary change of Assamese macaques in the study area only by unidirectional population expansion along the river systems. In the preliminary examination for the samples from Sakten area in east Bhutan, I detected several mtDNA haplotypes that had not been found in previous study. It is necessary to increase the numbers of study sites and samples in future to evaluate phylogeographical status of monkeys living in the area.


2017-A-18 霊長類脳の全細胞イメージングと神経回路の全脳解析

橋本均、中澤敬信、笠井淳司(大阪大・薬) 所内対応者:高田昌彦

本年度は、我々が最近開発した、サブミクロンの空間解像度の全脳イメージングを世界最速で行うことが可能な光学顕微鏡システムFASTを用いて、成体マーモセット脳を単一細胞レベルで観察した。それらの画像データから、脳形態や細胞密度の違いを検出することに成功した。ヒト脳とげっ歯類の脳構造。機能には異なる点が多く、ヒト脳機能や治療法確立のためには、その間を橋渡しする霊長類の脳解析として極めて重要である。また、昨年度の回路構造の結果と合わせ、本成果を論文化した (Seiriki et al. Neuron, 94:1085-1100 (2017))。


2017-A-19 遺伝子導入法による大脳基底核疾患の病態に関する研究

南部篤、畑中伸彦、知見聡美、佐野裕美、長谷川拓、纐纈大輔、若林正浩、Woranan Wongmassang、Zlata Polyakova(自然科学研究機構・生理学研究所・生体システム) 所内対応者:高田昌彦

パーキンソン病の病態を明らかにするため、ドーパミン作動性神経細胞に選択的に働く神経毒であるMPTP (1-methy-4-phenyl-1,2,3,6-tetrahydropyridine) の投与により作製したパーキンソン病モデルサルの神経活動を覚醒下で記録した。大脳基底核の出力部である淡蒼球内節では、自発発火頻度に変化はなく、大脳皮質運動野の電気刺激に対する応答様式が変化していた。この結果は、出力部の平均発火頻度の変化ではなく、大脳皮質-大脳基底核経路を介した淡蒼球内節における一過性のphasicな伝達様式の異常が、パーキンソン病症状の発現に寄与していることを示唆している。即ち、以下のような病態メカニズムにより、無動や寡動が起こると考えられる。淡蒼球内節はGABA作動性の抑制性ニューロンで構成され、常時連続発火することによって、その投射先である視床と大脳皮質を抑制している。正常な状態では、直接路を介した入力によって淡蒼球内節が一時的に抑制されると、脱抑制によって視床と大脳皮質の活動が増大し運動を起こす。一方、パーキンソン病では大脳皮質からの入力によって淡蒼球内節が十分に抑制されず、視床と大脳皮質に対する抑制を解除出来ないと考えられる。


2017-A-21 サル内側前頭葉を起点とする領域間回路の解析とうつ病モデルの創出

筒井健一郎、大原慎也、中村晋也、細川貴之(東北大・生命科学) 所内対応者:高田昌彦

京都大学霊長類研究所の高田昌彦教授の研究室を訪れ、設備について見学をし確認をするとともに、高田教授および井上謙一助教と研究計画について話し合った。具体的には、まず、過去の知見を参考にしながら、神経トレーシング実験におけるウイルスベクターの注入部位を、各標的脳領域(前部帯状皮質、扁桃体、側坐核)毎に検討した。さらに、実際に用いるウイルスベクターやその組み合わせについて検討した。今後は、これらの検討に基づき神経トレーシング実験を行い、その結果を受けて経路選択阻害実験に着手する予定である。


2017-A-22 マカクザル前頭極の多シナプス性ネットワークの解明

石田裕昭、西村幸男(都医学研・脳機能再建) 所内対応者:高田昌彦

前頭極 (Brodmann area 10; BA10)は霊長類の前頭前野に固有の最前端領域で、ヒト脳において最も大きく発達している。本研究はサル脳を用いて、BA10の大脳基底核のループ回路の構造を明らかにするために、順行性、逆行性コンベンショナル・トレーシング法と狂犬病ウイルスを用いた逆行性越シナプス・トレーシング法を組み合わせ、マカクザルBA10の2次シナプスまでの神経ネットワークを解析した。BDA(biotinylated dextran amines)を用いBA10から大脳基底核への順行性投射を調べた結果、前部(head)および後部(body, tail)尾状核、視床下核腹内側部に神経終末が認められた。次にFB(fast blue)と狂犬病ウイルスを用い、大脳基底核からBA10への1次、2次シナプス投射をそれぞれ調べた。その結果、FBによる逆行性1次ラベルは、視床MDmcと内側視床枕に認められた。狂犬病ウイルスによる2次シナプスのラベルは、主に黒質網様部 (SNr)の背外側部および腹内側部の両方に認められた。前部淡蒼球内節(GPi)の背側部と腹側部にラベルが認められた。データの詳細は現在解析中である。今後はBA10と大脳基底核のループ回路の構造を3次シナプスまで解明し、BA10と大脳基底核の機能連関を明らかにする。


2017-A -23 ヒトとチンパンジーにおける「平均」の知覚に関する比較認知研究

伊村知子(日本女子大・人間社会・心理) 所内対応者:友永雅己

昨年度(2016年度)の共同利用研究に続いて、場面全体の特徴の「平均」を瞬時に知覚する能力の1つであるアンサンブル知覚についてチンパンジーとヒトを対象に検討した。その結果、複数の対象の大きさの「平均」だけでなく、複数の対象の鮮度のような質感の「平均」も知覚できる可能性が示唆された。これまでの成果を論文等にまとめて発表した(Imura, Kawakami, Shirai, & Tomonaga, 2017, Proceedings of Royal Society B; 伊村知子・友永雅己, 2017, 科学)。

一方、年度の後半には、鮮度以外の質感知覚の感度を詳細に検討するため、チンパンジー2個体を対象に、CGを用いて作成した人工物の光沢の強さの識別課題を実施した。画面に呈示された4枚の物体の画像の中から、1枚だけ光沢の強さが異なるものを選択させた。その結果、チンパンジーは、光沢の強さの違いを識別するのが困難であった。食物の鮮度にまつわる光沢の違いを識別したのに対し、人工物の光沢の強さを識別しなかった理由については、今後さらに検討する必要がある。


2017-A-24 Hot-spring bathing behavior of Long-tailed macaque and Japanese macaque: A comparative Study

Islamul Hadi (University of Mataram) 所内対応者:辻大和

I conducted observation in Jigokudani Monkey Park, Nagano in 2 to 6 of December 2017. During this observation, I counted 160 individuals of provisioned Japanese macaque live in the park. During four days observation, I found some individuals of Japanese macaque took bathe in the man-made hotspring pool in the park. I recorded 292 minutes of duration of hotspring bathing exhibitted by monkeys. The behavior also exhibitted in 23 session during 4-days observation. The behavior is mostly occured in the morning and aftenoon. The duration of behavior each session vary within 1 to 63 minutes with the mean 12.7 minutes per session. Number of individuals those took bathe in the hot-spring pool were 1 to 20 individuals per session. The adult females and juveniles were most frequent to be observed took bathe.Compared to long-tailed macaque in Mt. Rinjani, Lombok-Indonesia in August 2008, where the hot-spring bathing behavior also reported, the Japanese macaque spent longer duration to take bathe than those in long-tailed macaque (10.7 minutes) and 3 session within 3-days observation. Four to six individuals ( adult males, adult females, sub-adult males) were exhibitted the behavior. The hot-spring bathing in long-tailed macaque observed only occured during morning, while Japanese macaques did both inthe morning and afternoon.


2017-A-25 Phylogeograpical study of the slow loris for conservation and reintroduction

Hao Luong Van (The Center for Rescue and Conservative Organisms) 所内対応者:田中洋之

The slow loris is listed as ‘Vulnerable’ in the IUCN Red List because they are being overhunted for the illegal pet trade, used for meat and as ingredients of traditional medicine. In Vietnam, two species (Nycticebus bengalensis and N. pygmaeus) are found. The Center for Rescue and Conservation of Organisms (CRCO) of Hoang Lien National Park protects diverse organisms, including the slow loris, and tries to reintroduce them to the wild. However, it is hard to get information about the original habitat of confiscated animals. The purpose of the study is to accumulate mtDNA sequence data from slow loris of known origin, in order to establish a tracking system that infers the origin of these protected animals using DNA information.

In 2017, I analyzed nine slow lorises (N. bengalensis: n=5, N. pygmaeus: n=4) that had been protected at CRCO. DNA extraction was carried out using hair samples. Two-step PCR was performed in order to avoid amplifying NUMT as follows: firstly, we amplified the 9 kb region of mtDNA by Long-PCR using total DNA, and next the target 1.8 kb region spanning a full length of cyt b gene and HVS1 of D-loop was amplified by using a long-PCR product as template DNA. DNA sequencing was performed with 3130 Genetic Analyzer. The sequence data obtained here was aligned with dataset that included the samples of two species from northern Vietnam collected in 2014 and 2015 and samples of N. bengalensis from Myanmar (n=2) and Laos (n=1). Loris tardrigradus (GenBank Accession No. AB371094) was used as an outgroup and three species of slow loris (N. bengalensis: NC_021958, N. coucang: NC_002765, and N. pygmaeus: KX397281) were analyzed for comparison.

The result of phylogenetic analysis showed the suggestive data. All the individuals of N. pygmaeus had the identical sequence for the target mtDNA region even though the target sequence is the most variable region in mtDNA. Two individuals of N. bengalensis protected in Soc Son Rescue Center, Hanoi were closely related to the GenBank sequence of N. coucang. The GenBank sequence of N. bengalensis connected to the above cluster of N. coucang + two individuals from Hanoi, hence this sequence data is questionable about the identification of species. The genetic marker used in this study is can be applicable to the phylogeogaraphy study of N. bengalensis because it showed intra-specific variations.


2017-A-26 人類出現期に関わる歯と頭蓋骨の形態進化的研究

諏訪元、佐々木智彦、小籔大輔(東京大・総合博)、清水大輔(中部学院大・看護リハビリ) 所内対応者:高井正成

前年度中に新たに発見されたチョローラ層出土の類人猿化石の同定と初期評価を進めると共に、ラミダスとアウストラロピテクス各種、さらには中新世類人猿のウラノピテクス、ヒスパノピテクス、プロコンスル等について、ベーズ法による犬歯の性差の数量解析を行った。それぞれの種において、雌雄ごとの歯冠最大径の平均値と雌雄共通の分散対数値を推定し、サンプルと性内の変異(それぞれ変動係数)と雌雄平均値比の確立密度分布をMCMC法で導出し、現生の類人猿とヒトの性差と比較した。結果、中新世の類人猿は、ウラノピテクスが最小であったが、それでも現生大型類人猿程度、ヒスパノピテクスとプロコンスルはゴリラ程度かそれ以上の大きな性差を示した。初期人類では、かつてはサンプル変動係数が大きいため、性差がボノボ程度に大きいと報告されていたアファレンシス始め、アウストラロピテクスの各種はそれぞれ現代人に近い小さな性差を持つことが示された(雌雄の平均比が1.12から最大1.16程度)。ラミダスの犬歯の歯冠径の性差についても同程度の推定結果が得られ、Suwa et al.(2009)による簡易推定の結果を検証すると共に、雄の犬歯サイズの縮小が人類の系統の初期に起きたとする仮説を改めて支持する結果が得られた。


2017-A-27 高等霊長類成体脳神経新生の動態と機能のin vivo解析技術の創出

植木孝俊(名古屋市立大学)、尾内康臣(浜松医科大学) 所内対応者:高田昌彦

カニクイザルのgenomicライブラリーよりサルの神経幹細胞で特異的に遺伝子発現を誘導するためのnestin遺伝子プロモーターと同エンハンサーをクローニングし、その活性をマーモセットの神経幹細胞初代培養系で確認した後、名古屋市立大学にてEGFP発現レンチウイルスおよびHSV1-sr39tk発現レンチウイルスを脳海馬歯状回に顕微注入し、その神経幹細胞特異的な発現を免疫組織化学的に確認した。次年度には、これらサルに適用可能な遺伝子発現系の構築を踏まえ、成体脳神経新生動態のPETイメージングおよび神経新生障害病態モデルの作出・症状解析を開始することができる見込みである。


2017-A-28 ウイルスベクターを利用した神経回路操作技術による霊長類脳機能の解明

小林 和人、管原正晃、加藤成樹(福島県立医科大学)、渡辺雅彦、内ケ島基政、今野幸太郎(北海道大学) 所内対応者:高田昌彦

霊長類の高次脳機能の基盤となる脳内メカニズムの解明のためには、複雑な脳を構成する神経回路の構造とそこでの情報処理・調節の機構の理解が重要である。我々は、これまでに、高田教授の研究グループと共同し、マカクザル脳内のニューロンに高頻度な逆行性遺伝子導入を示すウイルスベクター (HiRet/NeuRetベクター)を開発するとともに、これらのベクターを用いて特定の神経路を切除する遺伝子操作技術を開発した。また、高田教授・中村教授との共同研究により、コモンマーモセットを用いた脳構造と機能のマップ作製の研究を推進するために、HiRet/NeuRetベクター技術はマーモセット脳内においても高効率な遺伝子導入を示すことを明らかにした。本年度は、視床線条体路の選択的除去を誘導するための予備実験として、融合糖タンパク質E型 (FuG-E) を用いてシュードタイプ化したNeuRetベクターを作成し、これをマーモセットの尾状核と被殻のそれぞれに注入し、ベクターの導入パターンを解析した。尾状核への注入は束傍核を標識し、被殻への注入は内側中心核を標識し、両者の経路が選択的な投射パターンを持つことを明らかにした。視床線条体路を欠損する動物を用いて、運動機能と認知機能を評価するための予備実験として、野生型マーモセットの視覚弁別課題のテストを行った。認知機能の評価には、中村教授によって開発されたマーモセットの認知機能のテストバッテリーを利用した。

逆行性導入に関わる新規の融合糖タンパク質機能を評価するために、FuG-E型糖タンパク質の変異体を用いて作成したウイルスベクターをマーモセット脳内に注入し、従来のFuG-E型ベクターの効率と比較検討した。FuG-E変異体については、N末端より440番目のアミノ酸をグルタミン酸に変異させたタンパク質(FuG-E/P440E)がマウス脳内への遺伝子導入が最も高い効率を示すことから、このベクターをマーモセット線条体に注入した結果、大脳皮質、視床、黒質の多数の神経細胞への遺伝子導入を確認した。


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