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京都大学霊長類研究所 > 年報のページ > vol. 48 京都大学霊長類研究所 年報vol. 48 2017年度の活動Ⅳ.大型プロジェクト
1. 研究拠点形成事業:アジア・アフリカ学術基盤形成型「類人猿地域個体群の遺伝学・感染症学的絶滅リスクの評価に関する研究」 日本からの派遣者5名を含む42名が参加して、African Primatological Consortium(アフリカ霊長類研究コンソーシアム)の第2回年次総会と第2回ワークショップを、コンゴ民主共和国キンシャサ市とウガンダ共和国マケレレ大学で8月23日~26日の4日間開催した。総会では、本事業の7つの拠点期間のほか、アフリカ6カ国、アフリカ以外2カ国の研究者が各自の研究成果を発表した。また、今後APCの活動を発展させていくための方針が話し合われ、本コンソーシアムの性格をより明確にするため、名称をAfrican Primatological Consortium for Conservation(アフリカ霊長類研究・保護コンソーシアム)と改めることになった。また、2018年にケニアのナイロビで開催される国際霊長類学会で、APCC主催のラウンドテーブルとシンポジウムを組織することになり、その内容について話し合いがもたれた。また、ワークショップでは、GPSとスマートフォンを用いたサイバートラッカーというフィールドデータの記録デバイスの使い方とその応用方法についてのトレーニングを行い、これを用いた共同研究の枠組みについて話し合われた。 (文責:古市剛史)
2. 日本医療研究開発機構:エイズ対策実用化研究事業「HIV感染症の根治療法創出のための基礎・応用研究」 今日、HIV-1感染症は適切な抗HIV療法(ART)により、AIDSに至ることなく日常生活を送ることが可能な慢性疾患となった。しかし、HIV感染者は治療の長期化に伴う様々な非感染性合併症の発症リスクが高いことに加え、精神的・社会的リスクも非常に大きい。現状では、最新のARTでもHIVを体内から除去することは不可能であり、ART中断によりHIVリバウンドが生じるため終生のART治療が必要となり、保健医療における経済的負担も非常に大きい。そこで本研究では、新規霊長類モデルである長期潜伏HIV感染カニクイザルの活用という独自の切り口により、HIV感染症の根治治療法創出に向けた基盤を確立すべく前臨床POC試験を中心とした基礎・応用研究を展開する。具体的には、①複合Latency-reversing agent及びART投与によるshock and kill療法、②HIV抵抗性遺伝子を導入したiPS細胞由来造血幹細胞等の移植療法、③リンパ節等を中心にHIVリザーバーサイズの動態およびHIV制御の免疫学的基盤、について検討を行っている。 (文責:明里宏文)
3. 特別経費事業「人間の進化」 本事業は、人間の進化を明らかにする目的で、世界初となるヒト科3種(人間・チンパンジー・ボノボ)の心の比較を焦点とした霊長類研究を総合的に推進し、人間の「心の健康」を支えている進化的基盤を解明するものである。ヒト科3種の比較認知実験としては、全米動物園連盟の協力のもと、北米から平成25年度にボノボ4個体を輸入したのに引き続き、平成28年度にも2個体を新たに導入して合計6個体になり、これらを使ってチンパンジーとの比較硏究を続けている。この事業に伴って、霊長類研究所のチンパンジー研究施設と熊本サンクチュアリのチンパンジー・ボノボ研究施設を整備して、認知科学研究を実施した。これと平行して野外の個体群を対象にして、チンパンジー(ギニア共和国、ウガンダ共和国)とボノボ(コンゴ民主共和国)の長期研究を継続している。ヒト科3種を補完するものとして、アジアの霊長類研究を継続実施して、オランウータンやテナガザルなどの霊長類希少種の研究と保全の国際連携体制を構築した。こうした事業に、教員(2名)、外国人研究員(2名)、外国に常駐する研究員(2名)、外国語に堪能な職員(2名)を配置して、英語による研究教育を充実させた。こうした研究の基盤を支える硏究資源として、霊長類研究所が保有する12種約1200個体の飼育下サル類の健康管理に万全を期する飼育・管理体制を確立している。霊長類研究所で累代飼育しているチンパンジー親子トリオ(父:アキラ,母:アイ,息子:アユム)で、全ゲノム配列を高精度に決定し,両親から子供にゲノムDNAが継承される(遺伝する)際に起きる変化を詳細に解析した。その結果、父親由来の突然変異が母親由来より約3倍高い頻度で起きていることを明らかにした。また、2個体で連続的に協力しなければ解決できない認知課題を考案し、チンパンジー2個体が解決できるか観察することで、チンパンジーが役割交代をしながら連続的な協力行動をとることを、世界で初めて実証した。 (文責:湯本貴和)
4. 特別経費事業「新興ウイルス」 特別経費(プロジェクト分)事業名「新興ウイルス感染症の起源と機序を探る国際共同先端研究拠点」、は京都大学ウイルス・再生医科学研究所との連携事業として組織したものである。事業実施期間:平成25年4月1日から平成30年3月31日まで(5年間)。本事業は両研究所の教員が参加する「協働型ウイルス感染症ユニット」で新興ウイルス感染症に関する複数の研究プロジェクトを行っている。平成29年度の研究概要は以下の通りである。
これまでの本事業での研究において、ヒトの成人T細胞白血病の原因ウイルスであるHTLV-1に近縁のSTLV-1が感染したニホンザルが、HTLV-1慢性感染機構やその病態解明に有用な動物モデルであることを報告した。また、HTLVのがん化に関わるHBZ蛋白に対するワクチンやHTLV-1治療薬であるモガリスマブについて、サルモデルによりその有効性の実証に成功した。今年度は以下のような研究成果が得られた。1)HTLV-1/STLV-は一度感染すると生涯生体から排除されないことからウイルス潜伏感染の場が存在することが示唆されていたが、その実態は未解明であった。本研究において、造血幹細胞がHTLV-1/STLV-1潜伏感染の場であることが初めて明らかとなった。驚いたことに、単球や顆粒球といったCD4Tリンパ球以外の血球細胞にもHTLV-1/STLV-1プロウイルスゲノムが存在し、造血幹細胞に感染したHTLV-1/STLV-1が様々な血球細胞にも移行することが示された。これらは、これまでの常識を覆す重要な知見と考えられた。2)ニホンザルにおける顕著に高いSTLV-1感染率の原因を探るべく、その感染様式について検討を行った。予想に反して母子ルートによる感染頻度は20%程度とHTLV-1での場合と同程度であり、性成熟に伴い陽性率が急上昇し5~6歳以上の個体では90%以上の陽性率を示す事が明らかとなった。以上より、STLV-1高感染率はニホンザルの社会生態に基づく個体間水平感染が原因であることが強く示唆された。
SRVの抗体検査に関しては、市販のキットによるELISAを行ってきたが、ELISAキットのロット間でのバラツキが大きく、非特異的反応により判定が困難な場合もしばしば認められた。また、リコンビナント蛋白を用いたウェスタンブロットも同様で、安定した検査法ではなかった。そこで、合成ペプチドを用いて抗原エピトープを特定し、より高感度で特異性の高い抗体検査法の開発を行った。その結果、数種の合成ペプチドを用いることにより、比較的高感度で安定したELISAの系を構築することができた。一方で、これまで全く感染例のなかった第二キャンパスのニホンザルにおいても、ごく少数の陽性例が確認された。これらの原因については、内在性レトロウイルスの発現が関与しているのではないかと考えており、現在解析中である。 感染実験を行ったサルの全身の組織について、病理学的検討を行ったが、発症個体においても骨髄以外では特に病変は認められなかった。血小板減少という共通した病態がみられる以上、霊長研での発症個体(SRV-4に起因)と自然科学研究機構での発症個体(SRV-5に起因)には共通した病理変化が認められると考えられた。しかし、両者間はおろかSRV-4による発症個体の間でも骨髄の病理変化は様々で、血小板減少症と直接結びつく病理変化は確定できなかった。ウイルスの局在については、骨髄に加え、胃粘膜上皮、腸管上皮で多くのウイルス抗原が確認された。SRV-5の局在に関しては、現在滋賀医科大学の中村准教授の協力のもと、解析中である。
フォーミーウイルス(FV)は、レトロウイルス科のスプマレトロウイルス亜科に属し、ヒト以外の霊長類、ウシ、ウマ、ネコ等の動物にて独自の型を保持している。霊長類で見られる型はSFVとよばれ、野生において高確率で陽性であり、宿主と共進化していると考えられている。そこで、霊長類研究所で飼育されている産地の異なるニホンザルについて、SFVを網羅的に調査した。その結果、霊長研内のニホンザルにおいても数タイプのSFVが保持されていること、同一個体に複数のタイプのSFVが感染していること、ヤクザルに感染しているSFVは本州のサルのSFVより早く分岐していること等が明らかとなった。
これまでに、エイズの原因ウイルスであるヒト免疫不全ウイルス1型(HIV-1)の感染モデルとしてサル免疫不全ウイルス(SIV)や、それらの組換えウイルスであるサル/ヒト免疫不全ウイルス(SHIV)のアカゲザルへの感染動態と免疫応答について長年研究を行ってきた。一方、SIV遺伝子を発現するBCGベクターとワクシニアウイルスベクターを組み合わせて免疫することにより、SIVの感染防御効果が得られることを示唆する予備的結果を得ている。平成29年度は、本事業にて霊長研より供与を受けたアカゲザルについて、ワクチン群3頭および対照群3頭のアガケザルについて免疫誘導状況について調べたところ、ワクチン群では対照群に比較してSIV特異抗原に対する免疫が誘導されていることが確認された。そこで、SIVmac251株による低用量頻回経直腸攻撃接種実験を行ったところ、期待に反してワクチン群と対照群でウイルス感受性に違いが認められなかった。また、新規に開発した攻撃接種用SHIVとして、臨床分離株と同等レベルの中和抵抗性を有するCCR5親和性SHIV-MK38C株について3頭のアカゲザル経直腸感染実験を行ったところ、3頭中2頭で持続的に高いウイルス血症が観察された。ワクチン候補のさらなる改善および攻撃接種用SHIVの攻撃接種ウイルスとしての適正評価のために引き続き感染実験を継続する必要がある。 以上のように、サル類を用いたモデル動物研究は、難治性ウイルス感染症の病態や治療法開発に資する幾多の優れた知見を提供している。来年度は更に上述の成果を発展させるべく、両研究所の連携研究を推進していきたい。 (文責:明里宏文)
5. 霊長類学・ワイルドライフサイエンス・リーディング大学院 (PWS) プログラム・コーディネーター:松沢哲郎(高等研究院・特別教授) 平成25年10月1日に採択され発足した当プログラムは、日本の他の大学に類例のない、フィールドワークを基礎とするプログラムである。学内の研究者に加えて、環境省職員、外交官、地域行政、法曹、国際NGO、博物館関係者などからなるプログラム分担者をそろえ、3つのキャリアパスを明確に意識した体制を構築した。 採択当初からL3編入制度を導入していることにより、平成29年度は5学年35名の履修生がそろい、6名の仮修了生および1名の修了生を輩出した。欧米などからの外国人履修生は14名(41%)にのぼり、前年度に引き続き、申請当初の目標を達成した。
2) 連携体制の維持・強化: 履修生を広く深く支援する教育研究体制を構築した。プログラムの意思決定は、学内分担者の全員からなる月例の協議員会で、その中枢としてヘッドクオーター(HQ)制度をとった。コーディネーターを含む8名のHQがいて、諸事の運営を審議する。特定教員7名をはじめ、語学に堪能な事務職員を各拠点に配置し、協力して履修生をサポートした。プログラムの方針・運営状況・カリキュラム・成果・履修生の動向などについて、対内外の情報・広報は、すべて一元的にHP(http://www.wildlife-science.org/)に集約して共有した。年2回開催(平成28年度は9月12-15日と3月2-4日)のThe International Symposium on Primatology and Wildlife Scienceで、履修生や外国人協力者(IC)も含めた100名超のプログラム関係者が一堂に会することで、プログラムの方向性や進捗状況を確認し、連携強化を図った。なお、9月実施シンポジウムは平成29年度秋入学履修生の、3月実施シンポジウムは平成30年度春入学の履修生の入試をそれぞれ兼ねており、平成27・28年度を上回る数の応募者があった。加えて、日本学術会議・基礎生物学委員会・統合生物学委員会合同ワイルドライフサイエンス分科会にてプログラム・コーディネーターが委員長を務めることで、長期的かつ学際的な評価・支援基盤を固めた。さらにプログラムの「実践の場」として、16の動物園・水族館・博物館と連携協定を結んでいるが、特に公益財団法人日本モンキーセンター(以下JMC)や京都市動物園では、履修生によるアウトリーチ活動も活発化している。特に、JMC発行の季刊誌「モンキー」の刊行については、本プログラムが全面的に協力し、プログラムの活動PRの媒体となっている。国内ワイルドライフサイエンスとの連携も継続しており、特に屋久島は毎年2回実習で訪れるなかで「屋久島学ソサエティ(http://yakushimagakusociety.hateblo.jp/)」を中核とした地域住民との協働が緊密である。
(文責:湯本貴和)
6. 日本学術振興会研究拠点形成事業A. 先端拠点形成事業「心の起源を探る比較認知科学研究の国際連携拠点形成(略称CCSN)」 事業名「心の起源を探る比較認知科学研究の国際連携拠点形成」。略称「CCSN」。日本側の拠点機関は京都大学霊長類研究所、日本側コーディネーターは高等研究院(霊長類研究所兼任)の松沢哲郎で、ドイツ(マックスプランク進化人類学研究所)・イギリス(セントアンドリュース大学)・アメリカ(カリフォルニア工科大学)の3国が相手国となっている。本研究交流計画は、①人間にとって最も近縁なパン属2種(チンパンジーとボノボ)を主な研究対象に、②野外研究と実験研究を組み合わせ、③日独米英の先進4か国による国際連携拠点を構築することで、人間の認知機能の特徴を明らかにすることを目的としている。事業期間は平成26年度から平成30年度の5年間である。国際的な共同研究、セミナー開催、研究者交流をおこなうことで、各国のもつ研究資源を活かして比較認知科学研究の国際連携拠点を形成する。4年度目となる平成29年度には、国際連携研究の体制強化とともに、飼育下の大型類人猿等を対象とした比較認知科学研究、およびアフリカにおける野生チンパンジーの行動研究をはじめとした野生の大型類人猿等を対象とした比較認知科学研究を、国際共同研究として推進した。セミナーは、平成29年4月にイギリス、平成30年1月に日本で開催した。とくに愛知県犬山市にある日本モンキーセンターでおこなった2回目のセミナーでは、国際共同研究の成果を一般の人を含む参加者に向けて発表するよい機会となった。また、平成28年度から開始した、ギニア・ボッソウの野外実験場における野生チンパンジーの長期行動記録映像をデジタルアーカイブ化する作業について、イギリスのオックスフォード大学と連携して推進した。ビデオのデジタル化はほぼ終了し、国際共同研究で活用可能な資料として提供するための準備を進めている。平成29年度には本経費で、のべ14名が373日の国際交流と、のべ23名が37日間の国内交流をおこなった。 (文責:林美里、松沢哲郎)
7. 科学技術試験研究委託事業:革新的技術による脳機能ネットワークの全容解明プロジェクト(Brain/MINDS) 霊長類研究所は情報学研究科と協力して、「マーモセットの高次脳機能マップの作成とその基盤となる神経回路の解明及び参画研究者に対する支援」という課題名で、中核拠点の参画機関として研究を推進した(参画機関業務主任:中村克樹、分担研究者:高田昌彦、石井信、大羽成征)。本事業は、平成26年度より文部科学省が始めたもので、霊長類(マーモセット)の高次脳機能を担う神経回路の全容をニューロンレベルで解明することにより、ヒトの精神・神経疾患の克服や情報処理技術の高度化に貢献することを目的としたものである。平成26年度に採択され、12月より研究活動をスタートした。平成27年度より日本医療研究開発機構(AMED)の管轄となった。霊長類研究所では平成29年度も引き続き、多シナプス性神経回路の解析・疾患モデルマーモセットの作出・認知課題等の開発などを推進した。また、福島県立医科大学・北海道大学・東京医科歯科大学・東京大学・理化学研究所・名古屋大学などとの共同研究も推進した。広くマーモセットの飼育・管理の情報や技術提供も行った。 (文責:中村克樹)
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