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京都大学霊長類研究所 > 年報のページ > vol. 48 京都大学霊長類研究所 年報vol. 48 2017年度の活動細胞生理分野 <研究概要> 夜行性への適応をもたらしたゲノムの変化 古賀章彦 真猿類(ヒト科、旧世界ザル、新世界ザルからなる分類群)は、例外が1つあるのみで、すべて昼行性である。ヨザル(漢字では夜猿)がその例外であり、真猿類の中での系統関係を考慮するとヨザルは、昼行性から夜行性に移行したことになる。夜行性への適応の1つとして、視細胞の核に、ヘテロクロマチンからなるレンズ様構造物をもつ。これまでに、このヘテロクロマチンの DNA 成分は OwlRep とよばれる反復配列であること、また OwlRep はヨザルが新たに獲得したものであることを、示していた。この OwlRep が何に由来するかを追求し、明確な結果を得た。ヒトのゲノムに、HSAT6 とよばれる小規模な反復配列がある。ヒトで見つかったものではあるが、霊長類全体に、同様な小規模反復配列として、広く存在する。何らかの機能をもつと思えるような特性は、いまのところない。この HSAT6 と OwlRep は、塩基配列のみならず、内部にみられるヘアピン構造の分布も似ており、HSAT6 から OwlRep が生じたと考えて無理はない。他の新世界ザルの系統から分岐した後にヨザルの系統で、HSAT6 が縦列に増幅し、さらに多数の染色体に拡散し、遂にはメガサテライトDNAの規模に至ったとのシナリオを、提唱した。
機能の変化を伴う反復配列の転用 古賀章彦 ヨザルには、OwlRep に加えて、OwlAlp1 および OwlAlp2 と名付けたメガサテライト DNA がある。このうち OwlAlp2 は、塩基配列が、他の新世界ザルのセントロメア反復配列とほぼ同じである。したがって、ヨザルでもセントロメア反復配列として機能していると推測するのは、自然である。しかし、ヨザルでは OwlAlp1 がセントロメア反復配列の役を担っており、OwlAlp2 はレンズ様構造物の副次的な成分となっていることが、染色体上の場所の解析から、判明した。OwlAlp1 は OwlAlp2 の一部が欠けたもので、OwlAlp1 に相当する配列は、他の新世界ザルにはない。以上から、OwlAlp2 での本来の機能の喪失、その代償としての OwlAlp1 の形成と増幅、また OwlAlp2 の新たな機能の獲得が、ヨザルの系統で同時に、あるいは相次いで、進行したことになる。遺伝子の転用の例は多いが、反復配列の転用の例は、ほとんどない。明瞭な例の提示となった。
無鉤条虫・アジア条虫感染家畜の迅速検査法の開発と宿主特異性規定因子の探索 岡本宗裕 本研究の第一の目的は、ウシとブタにおける無鉤条虫・アジア条虫感染を高感度で検出可能な迅速検査法の開発である。開発途上国を中心に地球規模で蔓延する人獣共通感染症であるテニア症・嚢虫症を根絶するためには、患畜を簡便に検出できる信頼性の高い検査法が必須である。本研究の第二の目的は、近年その存在が明らかになった無鉤条虫とアジア条虫の交雑体について、感染様式を解明することである。平成29年度は、ラオスの流行地において2度の疫学調査を実施し、ウシからテニア属条虫の幼虫を採取した。ウシからの嚢虫採取は昨年度に引き続いての事例であり、同地域ではウシを中間宿主とした生活環が成立していることが確かめられた。現在採取された虫体について、次世代シークエンサーを用いた遺伝子解析を実施している。
有鉤条虫の撲滅を目指した流行調査と土壌伝播蠕虫の網羅的検出法の開発 岡本宗裕 本研究の目的は、発展途上国を中心に蔓延する風土病であり、致死率の高い有鉤嚢虫症の撲滅を目指した対策方法を確立することである。我々の十数年にわたる流行調査により、世界に先駆けて『中間宿主である有鉤嚢虫症患者・患畜と終宿主である有鉤条虫症患者が共住している希有な地域』が発見され、撲滅に向けた対策研究を実施できる段階となっている。平成29年度もインドネシアバリ島での疫学調査を実施した。しかし、調査時期が同島アグン山の噴火活動が活発になった時期と重なったため、アグン山北東部のテニア症流行地域での疫学調査が実施できなかった。そのため、アグン山東部の村で調査を行ったが、テニアに感染した家畜は発見できなかった。
血小板減少症に関する研究 岡本宗裕 詳細は、「特別経費事業(新興ウイルス)」を参照のこと。
サルフォーミーウイルスに関する研究 岡本宗裕 詳細は、「特別経費事業(新興ウイルス)」を参照のこと。
<研究業績> 原著論文 Koga A, Tanabe H, Hirai Y, Imai H, Imamura M, Oishi T, Stanyon R, Hirai H. 2017. Co-opted megasatellite DNA drives evolution of secondary night vision in Azara's owl monkey. Genome Biol. Evol. 9: 1963-1970. doi: 10.1093/gbe/evx142 Inoue Y, Saga T, Aikawa T, Kumagai M, Shimada A, Kawaguchi K, Naruse K, Morishita S, Koga A, Takeda H. 2017. Complete fusion of a transposon and herpesvirus created the Teratorn mobile element in medaka fish. Nat. Commun. 8: 551. doi: 10.1038/s41467-017-00527-2 Ishiyama S Yamazaki K, Kurihara F, Yamashita D, Sao K, Hattori A, *Koga A. 2017. DNA-based transposable elements with nucleotide sequence similar to Tol2 from medaka fish are prevalent in cyprinid fishes. Gene Rep. 9: 37-45. doi: https://doi.org/10.1016/j.genrep.2017.08.004 Hirai H, Hirai Y, Morimoto M, Kaneko A, Kamanaka Y, Koga A. 2016. Night monkey hybrids exhibit de novo genomic and karyotypic alterations: the first such case in primates. Genome Biol. Evol. 9:: 945-955. doi: 10.1093/gbe/evx058 Marcello Otake Sato, Megumi Sato, Tetsuya Yanagida, Jitra Waikagul, Tiengkham Pongvongsa, Yasuhito Sako, Surapol Sanguankiat, Tipparayat Yoonuan, Sengchanh Kounnavang, Satoru Kawai, Akira Ito, Munehiro Okamoto, Kazuhiko Moji. 2018. Taenia solium, Taenia saginata, Taenia asiatica, their hybrids and other helminthic infections occurring in a neglected tropical diseases' highly endemic area in Lao PDR. PLoS Negl Trop Dis 12(2): doi: https://doi.org/10.1371/journal.pntd.0006260 Liesbeth Frias, Danica J. Stark, Milena Salgado Lynn, Senthilvel KSS. Nathan, Benoit Goossensb, Munehiro Okamoto, Andrew J.J. MacIntosh. 2018. Lurking in the dark: Cryptic Strongyloides in a Bornean slow loris. Int. J. Parasitorl. Parasite and Wildlife, in press.
学会発表 石山涼太郎、山﨑健太朗、栗原史弥、山下大介、佐尾賢太郎、服部明正、古賀章彦(一般公演). 2017. Tol2トランスポゾンの分布と構造から推測されるホスト間の移動. 日本遺伝学会第89回大会(岡山市) 古賀章彦(招待講演). 2017. 夜猿が昼行性から夜行性に戻ったことの分子レベルでの証拠. 日本進化学会第19回大会(京都市) #浅川満彦, 羽山伸一, 岡本宗裕(一般公演). 2017. ニホンザル(Macaca fuscata)における寄生蠕虫相の概要-特に、最近の東日本における調査から判明した地理的分布域に関して. 第72回日本生物地理学会年次大会(東京) #浅川満彦, 羽山伸一, 岡本宗裕. 東日本におけるニホンザル(Macaca fuscata)の寄生蠕虫相(概要)第33回日本霊長類学会大会(福島市) Toge A, Hayakawa T, Okamoto M, Hashimoto C, Yumoto T.DNA metabarcodingreveals diet overlapamong sympatric three species offorest guenons (Cercopithecus spp.). 2017. 12th International Mammalogical Congress(Perth, Australia) #栁川洋二郎、菅野智裕、南晶子、兼子明久、印藤頼子、佐藤容、木下こづえ、岡本宗裕、片桐成二、永野昌志(一般公演). 2017. ニホンザルにおける排卵誘起処理を伴う単回人工授精プログラムの検討第160回日本獣医学会学術集会(鹿児島市) #栁川洋二郎、菅野智裕、兼子明久、印藤頼子、佐藤容、木下こづえ、今井啓雄、平井啓久、片桐成二、永野昌志、岡本宗裕(一般公演). 2017. ペレット法により凍結したニホンザル精液に対する融解法の違いが精子性状に与える影響. Cryopreservation conference 2017(つくば市) 新美幸、早川卓志、岸田拓士、阿形清和、岡本宗裕、屋久島フィールド・ゲノム実習プロジェクト(一般公演). 2017. 次世代シークエンサーを用いたヤクザル捕食昆虫の解析と屋久島の昆虫DNAデータベース作成. 第5回屋久島学ソサイエティー(屋久島町) 岡本宗裕、新美幸、澤田晶子、野中成晃、早川卓志、屋久島フィールド・ゲノム実習プロジェクト(一般公演). 2017. ヤクシカの寄生虫相 -他地域のニホンジカの寄生虫相との比較-(予報). 第5回屋久島学ソサイエティー(屋久島町) #外丸祐介、信清麻子、岡本宗裕(一般公演). 2017. サル類の体外培養系受精卵の作製について. 第35回動物生殖工学研究会(川崎市) #外丸祐介、信清麻子、岡本宗裕(一般公演). 2017. サル類における基盤的発生工学技術と凍結保存技術について. 第7回日本マーモセット研究会大会(京都市) 峠明杜、早川卓志、岡本宗裕、橋本千絵、湯本貴和(一般公演). 2018. 行動観察と糞虫DNA分析から探る森林棲オナガザル属3種の昆虫食. プリマーテス研究会(犬山市) 峠明杜、早川卓志、岡本宗裕、橋本千絵、湯本貴和(一般公演). 2018. アフリカのオナガザル3種はおなじ昆虫を食べているか. 第64回日本生態学会(東京)
講演 岡本宗裕. 2017. コモンマーモセットの感染症の総論と京大霊長研での事例. 第64回日本実験動物学会(郡山市)
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