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京都大学 霊長類研究所 年報 vol. 48
京都大学霊長類研究所年報のページvol. 48

京都大学霊長類研究所 年報

vol. 48 2017年度の活動


生態保全分野

<研究概要>

ニホンザルの生態学・行動学

半谷吾郎、栗原洋介、本田剛章、中村泉、He Tianmeng

人為的影響の少ない環境にすむ野生のニホンザルが自然環境から受ける影響に着目しながら、個体群生態学、採食生態学、行動生態学などの観点から研究を進めている。屋久島の瀬切川上流域では、森林伐採と果実の豊凶の年変動がニホンザル個体群に与える影響を明らかにする目的で、「ヤクザル調査隊」という学生などのボランティアからなる調査グループを組織し、1998年以来調査を継続している。今年も夏季に一斉調査を行って、人口学的資料を集めた。屋久島海岸部では、サイズの異なる群れの採食行動の比較、ニホンザルの果実選択、食物の固さと咀嚼について研究した。屋久島の山頂部で、分布限界に住むニホンザルとニホンジカについての分布と植生に関する調査を行った。


霊長類とほかの生物との関係

湯本貴和、半谷吾郎、Lee Wanyi

屋久島でニホンザルと同所的に生息する生物との関係について研究を行った。とくに糞から得られるDNAの解析を加えて、これまで観察が困難だったニホンザルのキノコ食や昆虫食についてデータを蓄積中である。屋久島など各地のニホンザル、マレーシアのオランウータン、ウガンダのクロシロコロブスや、ガボン、タイ、中国に生息する複数の野生霊長類を対象に、食性の季節変化と腸内細菌相の関連についての分子生態学的研究を行った。


野生チンパンジーとボノボの研究

橋本千絵、竹元博幸、毛利恵子

ウガンダ共和国カリンズ森林保護区、コンゴ民主共和国ルオー学術保護区でそれぞれチンパンジー、ボノボの社会学的・生態学的研究を行った。遊動や行動と果実量との関係や、非侵襲的試料による生殖ホルモン動態の研究、非侵襲的試料による病歴や遺伝的間研究の研究、隣接する2集団の関係に関する研究などを行った。


アフリカ熱帯林の霊長類の生態学的研究

湯本貴和、橋本千絵、本郷峻、寺田佐恵子、徳重江美、峠明杜

野生霊長類が同所的に棲息するウガンダ共和国カリンズ森林保護区で、ブルーモンキー、レッドテイルモンキー、ロエストモンキーの採食生態と寄生虫の感染状況などに関する生態学的研究を行った。コンゴ民主共和国ルオー学術保護区では、植生のモザイクと果実生産性がいかにボノボの遊動に影響を与えるかについて、植生調査と衛星画像の解析を組み合わせた方法で研究を行なった。また、ガボン共和国ムカラバ・ドゥドゥ国立公園では、野生マンドリルの生態学的研究を行った。


新世界ザルの採食生態に関する研究

湯本貴和、西川真理、武真祈子

ブラジル、マナウスの熱帯雨林で、サキ、リスザル、タマリンについて、植物との関係を中心にした採食生態に関する研究を進めた。コスタリカ共和国・サンタロサ国立公園に生息する野生のノドジロオマキザルを対象として、色覚型と採食行動に関する研究を行った。


霊長類の衛生行動と嫌悪の進化的背景についての研究

Cecile Sarabian

ニホンザル、カニクイザル、マンドリル、チンパンジー、ボノボを対象に、強い嫌悪を引き起こす臭い刺激と寄生虫感染のリスク回避についての研究を、行動観察、野外実験、寄生虫の顕微鏡観察を組み合わせて行った。


<研究業績>

原著論文

Burgundera J, Pafčoa B. Petrželková KJ, Modrý D, Hashimoto C, MacIntosh AJJ (2017) Complexity in behavioural organization and strongylid infection among wild chimpanzees. Animal Behaviour 129: 257-268.

Hanya G, Naito S, Namioka E, Ueda Y, Sato Y, Pastrana JA, He T, Yan X, Saito M, Costa RFP, Allanic M, Honda T, Kurihara Y, Yumoto T, Hayakawa T (2017) Morphometric and genetic determination of age class and sex for fecal pellets of sika deer (Cervus nippon). Mammal Study 42: 239-246.

Hanya G, Otani Y, Hongo S, Honda T, Okamura H, Higo Y. (2018) Activity of wild Japanese macaques in Yakushima revealed by camera trapping: patterns with respect to season, daily period and rainfall. PLoS ONE 13: e0190631.

Hongo S, Nakashima Y, Akomo-Okoue EF, Mindonga-Nguelet FL. (2018) Seasonal change in diet and habitat use in wild mandrills (Mandrillus sphinx). International Journal of Primatology 39: 27-48.

Kurihara Y, Hanya G (2017) Comparison of energy balance between two different-sized groups of Japanese macaques (Macaca fuscata yakui). Primates 58: 413-422.

Matsuda I, Clauss M, Tuuga A, Hanya G, Yumoto T, Bernard H, Hummel J (2017) Factors affecting leaf selection by foregut-fermenting proboscis monkeys: New insight from in vitro digestibility and toughness of leaves. Scientific Reports 7: 42774.

Mapua M, Pafčo B, Burgunder J, Profousová-Pšenková I, Todd A, Hashimoto C, Qablan M.A., Modrý D and Petrželková K.J. (2017) No impact of strongylid infections on the detection of Plasmodium spp. in faeces of western lowland gorillas and eastern chimpanzees. Malaria Journal 16: 175

宮田晃江、好廣眞一、高畑由起夫、萬田正治、古市剛史、栗原洋介、早石周平、半谷吾郎 (2017). 屋久島のニホンザル生息状況の過去20年間の変化. 霊長類研究 33: 35-42.

Sha JCM, Kaneko A, Suda-Hashimoto N, He T, Take M, Zhang P, Hanya G (2017) Estimating activity of Japanese macaques (Macaca fuscata) using accelerometers. American Journal of Primatology e22694.

#Thompson CL, Powell BL, Williams SH, Hanya G, Glander KE, Vinyard CJ (2017) Thyroid hormone fluctuations indicate a thermoregulatory function in both a tropical (Alouatta palliata) and seasonally cold-habitat (Macaca fuscata) primate. American Journal of Primatology e22714.


書籍

本郷 峻. (2017) ドリル. 京都大学霊長類研究所編. 世界で一番美しいサルの図鑑. p. 192, エクスナレッジ. 東京.

本郷 峻. (2017) マンドリル. 京都大学霊長類研究所編. 世界で一番美しいサルの図鑑. pp. 190-191, エクスナレッジ. 東京.

西川真理(2017) 群れの維持メカニズム. 辻大和、中川尚史編. 日本のサル, pp 183–202, 東京大学出版会. 東京.

山極 寿一, 本郷 峻. (2017) 人類の社会性の進化(下):共感社会と家族の過去、現在、未来. 詩想舎. 東京.

山極 寿一, 本郷 峻. (2017) 人類の社会性の進化(上):「社会」の学としての霊長類学. 詩想舎. 東京.


学会発表

半谷吾郎、大谷洋介、本郷峻、本田剛章、岡村弘樹、肥後悠馬. カメラトラップで明らかになった野生ニホンザルの活動時間. 第33回日本霊長類学会大会. 2017年7月. コラッセふくしま(福島).

Hashimoto C. Post-parturition resumption of ovarian cycles and reproduction by female bonobos. The 2nd African Primatological Consortium Conference, August 2017 (Kinshasa).

Hashimoto C. Introduction of research sites: Wamba, DRC for wild bonobos and the Kalinzu Forest, Uganda for wild chimpanzees. International Symposium on Utilization of Field Sites in Research and Education (FREE2017), December 2017 (Kyoto).

Honda T, Hanya G. Different seasonal migration patterns between Japanese macaques and sika deer in the summit area in Yakushima Island. The 12th International Mammalogical Congress, July 2017 (Perth).

橋本千絵、Heungjin R, 毛利恵子、坂巻哲也、清水慶子、古市剛史. 野生ボノボにおける出産後のメスの性サイクルの再開について. 日本アフリカ学会第54回学術大会. 2017年5月. 信州大学(長野).

本郷峻, 中島啓裕, Akomo-Okoue EF, Mindonga-Nguelet FL. 野生マンドリルの食性と土地利用の季節変化. 日本哺乳類学会2017年大会.2017年 9月. 富山大学(富山).

本郷峻. (2017) カメラを用いてマンドリルの未知の社会生態に挑む. (自由集会「自動撮影カメラを用いた『面白い』基礎研究」企画者 中島啓裕)日本哺乳類学会2017年大会.2017年 9月. 富山大学(富山).

本郷峻, 中島啓裕, Akomo-Okoue EF, Mindonga-Nguelet FL. マンドリルとシロエリマンガベイの混群形成と交雑. 日本霊長類学会第33回大会. 2017年7月. コラッセふくしま(福島).

本郷峻. カメラトラップと霊長類学. (自由集会「霊長類学における行動・生態研究手法の現在(責任者:本郷峻・蔦谷匠)」)日本霊長類学会第33回大会. 2017年7月.コラッセふくしま(福島).

栗原洋介、大谷洋介、西川真理. 見逃されてきたサルと枯死木の関わり: 枯死木を破壊して昆虫を食べるニホンザル. 第 65 回日本生態学会大会. 2018年3 月. 札幌コンベンションセンター(札幌).

Lee W, Hayakawa T, Yamabata N, Kiyono M, Hanya G. Gut Microbiome Shift of Japanese Macaques as a Result of Human Encroachment. 第62回プリマーテス研究会. 2018年1月. 日本モンキーセンター(犬山).

Nishikawa M, Home range shifts and changes in group size in wild Japanese macaques of Yakushima Island, Japan. Behaviour 2017, July 2017 (Estril, Portugal).

Sprague DS, 西川真理. 屋久島におけるニホンザル個体の日ごとの活動を可視化する地図表現手法. 日本霊長類学会第33回大会. 2017年7月. コラッセふくしま(福島).

Sprague D. S., 西川真理. 進化と生活史の地理空間的表現: 人類学におけるマップ化手法, 第71回日本人類学会大会. 2017年11月. 東京大学(東京).

寺田佐恵子、湯本貴和. コンゴ盆地の成熟林における樹木・つる・草本の種構成: 大型類人猿ボノボの餌資源分布への示唆. 第 65 回日本生態学会大会. 2018年3 月. 札幌コンベンションセンター(札幌).

Toge A, Hayakawa T, Okamoto M, Hashimoto C, Yumoto T. DNA metabarcoding reveals diet overlap among sympatric three species of forest guenons (Cercopithecus) in Uganda. The 12th International Mammalogical Congress, July 2017 (Perth).

Toge A. Who contributed to the evolution of multiple fruits in Asian dogwoods (Cornus)? The 12th International Mammalogical Congress, July 2017 (Perth).

峠明杜, 早川卓志, 岡本宗裕, 橋本千絵, 湯本貴和. 行動観察と糞中DNA 分析から探る森林棲オナガザル(Cercopithecus属)3種の昆虫食. 2018年1月. 第62回プリマーテス研究会 (犬山).

峠明杜, 早川卓志, 岡本宗裕, 橋本千絵, 湯本貴和. アフリカのオナガザル3種はおなじ昆虫を食べているか: 糞DNAから探る採食戦略. 2018年3月, 第65回日本生態学会大会 (札幌).

矢野航、清水大輔、早川卓志、橋本千絵. ウガンダ・カリンズ森林保護区で同所的に生息する霊長類5種の口腔細菌叢の比較. 日本霊長類学会第33回大会. 2017年7月. コラッセふくしま(福島)


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