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京都大学霊長類研究所 > 年報のページ > vol. 48 京都大学霊長類研究所 年報vol. 48 2017年度の活動進化形態分野 <研究概要> マカクの系統地理学研究 濱田穣、川本芳(人類進化モデル研究センター)、平﨑鋭矢、田中洋之(人類進化モデル研究センター) インド東北地方において、アッサムモンキー、ベニガオザル、およびアカゲザルの分布と変異性を調査した。ブータン西部でアッサムモンキーの分布と形態変異性を調査した。当地域は急峻でベンガル湾からのモンスーンを受けて発達した常緑広葉樹林に覆われている。この樹林域にはニシアッサムモンキー(M. assamensis pelops)様の、そしてモンスーンの及ばない山陰・高地にはアルナーチャルマカク(M. munzala)様の形態をもつ集団が見られた。ブータン東部の高地に分布するアルナーチャルマカク様マカクが確認された。中国・インドシナ・ヒマラヤ山麓帯におけるアッサッモンキーと近縁分類群の進化過程の解明を進めた。ミャンマー南部(タニンサリー管区)、西部(チン州)、および北部でマカク類の分布とサンプリング調査を行った。タイ東北地方でアカゲザルとキタブタオザルの調査を行った。これらの地域におけるアカゲザルのmtDNA分析を行った。インドシナ半島とその周辺地域におけるアカゲザルの系統地理学が明らかにされつつある。例えば、ミャンマーの中部は熱帯サバンナ気候区分にあり、霊長類分布はごく限られているが、北緯24度以上では温暖湿潤気候区分にあり、多様な霊長類が分布する。この地域からのアカゲザルは、ミャンマー中部・南西部・バングラデシュ・インド東部の集団とクラスターするが、北部からの集団はもうひとつのインドクラスター(ネパールなどを含む)に近いことが解った。中国雲南省南部においてマカクとラングールの分布と形態変異性を調査した。三江並流地域におけるアカゲザルの系統地理学が明らかにされつつある。
マカクの頭顔部と尾臀部の形態変異とコミュニケーション行動 濱田穣、若森参 マカクにおいて尾長の変異性が高い。その要因に関して、系統発生、生息地の気候、個体間相互作用(コミュニケーション)、および位置的行動(バランス)の面から検討している。短い尾をもち、地理的分布域が重なり、異なる種群に属すキタブタオザル(M. leonina)、ヒガシアッサムモンキー(M. a. assamensis)とアカゲザル(M. mulatta)の間で、生息地利用と位置的行動と尾長・尾椎形態との関連性を検討した。キタブタオザルはオーソドックスな躯幹水平位での樹上四足歩行を行い、近縁の地上性の強いミナミブタオザルの尾形態に近い尾をもつが、尾椎長さ(最長尾椎付近)が大きく、バランサーとしての機能が推測される。アッサムモンキーは急峻な、崖などを含む山地林に棲み、樹上性が高く、躯幹が垂直にちかいような、すなわち懸垂・攀じ登りスタイルの位置的行動をもち、尾はバランサーとして機能する。アカゲザルは、この2種とは生息地要求の面で異なり、乾燥した二次林・落葉樹林、特に疎林に生息し、半地上性である。樹上では小径の木の間で跳躍を良く行い、その短めではあるがふさふさとした毛でおおわれた尾が姿勢制御に機能している。これまでに計測している尾椎計量形態データと合わせ、3種間での尾の屈伸運動性、および慣性モーメント(バランサーとしての)は、中短尾ではあるが、このような位置的行動を補助している。
外来マカクザルとニホンザルの交雑個体の形態学的・遺伝学的研究 濱田穣、伊藤毅、若森参、川本芳(人類進化モデル研究センター)、他 遺伝マーカーを用いて交雑の進行過程を推定する手法を検討した。また、交雑の進行過程に伴った形態の変化について、とくに尾と頭蓋に着目して検討した。
マカクの成長・加齢変化研究 濱田穣 「思春期」(Adolescence)は人類の進化において、あらたに生活史においてコドモ期(Juvenile)と成体期(Adult)の間に挿入されたと考えられている。思春期は性成熟(Puberty)のころ、そして2次性徴の発現と発達のころに身体サイズの成長にスパート(短期間の加速)が見られることが根拠となっている。「思春期」はほんとうにヒト以外の霊長類にはないのか。マカクとチンパンジーおよび身体長サイズの成長を、生体計測に基づき、横断的・縦断的に検討した。ニホンザルの体重はもとより体長(頭臀長)の成長にも2-6歳で明瞭な季節性があり、初夏から晩秋にかけて成長が進む。秋は生殖期であるため、生殖成熟のある♀で3.5才、♂で4.5才のころの成長亢進が「思春期成長加速」であるのか、季節性によるものか、判別し難かった。縦断的データの詳細な分析(個体差、偶発的な成長の遅速などを考慮して)によって、季節性による成長亢進とは別のスパートをもつことが明らかにされた。
足内筋の配置からみた足の機能軸に関する解剖学的研究 平崎鋭矢、大石元治(麻布大学) 真猿類の骨間筋の配置から足の機能軸の位置を推定する試みを継続中である。今年度はチンパンジー1頭について調査を行った。
ニホンザルのロコモーションに関する実験的研究 平崎鋭矢、濱田穣、鈴木樹理(人類進化モデル研究センター)、荻原直道(慶応義塾大) ニホンザル歩行の運動学的分析を継続中である。今年度には10歳と8歳の2個体について、段差歩行中の床反力データおよび運動学データを収集した。また、昨年度から、歩行時の神経活動分析を目指し、NIRS信号の計測を試みている。
Structure from Motion法を用いた運動解析法の開発 平崎鋭矢、William Sellers(マンチェスター大) 複数の高精細ビデオ映像から、被験体の体表面形状をポイントクラウドとして再構築する手法を開発した。今年度は、放飼場の霊長類を用いた体表面形状の再構築を継続するとともに、実験室条件においてニホンザルの歩行および対象物操作時の手指の動きについて分析を行った。
位相振動子を用いたニホンザル四足歩行モデルの作成 平崎鋭矢、長谷和徳(首都大学東京) 位相振動子をニホンザルの神経・筋骨格モデルに適用し、霊長類特有の四肢の運び順を自律的に生成できる四足歩行運動シミュレーションを作成中である。実測データとの比較を行いつつ、シミュレーションモデルを改良中である。
東南アジアにおけるマカク自然交雑帯の形成過程と形態進化に関する研究 伊藤毅、濱田穣、Schinda Malaivijitnond(チュラロンコーン大学)、Srichan Bunlungsup(チュラロンコーン大学)、Sreetharan Kanthaswamy(アリゾナ州立大学)、Robert Oldt(アリゾナ州立大学) タイ・チュラロンコーン大学と米国・アリゾナ州立大学と共同で、アカゲザルとカニクイザルの自然交雑帯に由来するサンプルを対象にゲノムワイドSNP解析を行い、交雑帯の形成過程と生殖隔離について調査した。
非侵襲サンプルを用いたゲノムワイドSNP探索手法の検討 伊藤毅、早川卓志(ワイルドライフサイエンス名古屋鉄道寄附研究部門) DNAメチル化に基づくエンリッチメント法により、マカクザルの糞サンプルからホストに由来する数百以上のSNPを得ることに成功した。
東南アジアにおけるコロブス亜科霊長類の生物地理学的研究 伊藤毅、小薮大輔(東京大学) 博物館標本を用いた形態学的研究により、クラ地峡がダスキーリーフモンキーの集団分化と形態多様性に与えた影響について調査した。
ニホンザルにおける頭骨の表現型可塑性と進化可能性に関する研究 若森参、田中美希子、伊藤毅、Siti Norsyuhada Kamaluddin(マレーシア国民大学) ニホンザルの骨格標本を対象にした形態学的研究により、頭骨の形態が環境要因によってどの程度・どのように影響を受けるのか、どのようなモジュール性を示すのかについて調査した。
<研究業績> 原著論文 Bunlungsup S, Kanthaswamy S, Oldt RF, Smith DG, Houghton P, Hamada Y, Malaivijitnond S. (2017) Genetic analysis of samples from wild populations opens new perspectives on hybridization between long-tailed (Macaca fascicularis) and rhesus macaques (Macaca mulatta). American Journal of Primatology, 79 (12): e22726, Doi: doi.org/10.1002/ajp.22726. Ito T, Lee YJ, Nishimura TD, Tanaka M, Woo JY, Takai M. (2018) Phylogenetic relationship of a fossil macaque (Macaca cf. robusta) from the Korean Peninsula to extant species of macaques based on zygomaxillary morphology. Journal of Human Evolution 119: 1-13, Doi: 10.1016/j.jhevol.2018.02.002. Katsube M, Yamada S, Miyazaki R, Yamaguchi Y, Makishima H, Takakuwa T, Yamamoto A, Fujii Y, Morimoto N, Ito T, Imai H, Suzuki S. (2017) Quantitation of nasal development in the early prenatal period using geometric morphometrics and MRI: A new insight into the critical period of Binder phenotype. Prenatal Diagnosis 37 (9): 907-915, Doi: 10.1002/pd.5106. 川本芳, 川本咲江, 濱田穣, 山川央, 直井洋司, 萩原光, 白鳥大祐, 白井啓, 杉浦義文, 郷康広, 辰本将司, 栫裕永, 羽山伸一, 丸橋珠樹 (2017) 千葉県房総半島の高宕山自然動物園でのアカゲザル交雑と天然記念物指定地域への交雑拡大の懸念. 霊長類研究 33 (2): 69-77. Matsudaira K, Hamada Y, Bunlungsup S, Ishida T, San AM, Malaivijitnond S. (2018) Whole Mitochondrial Genomic and Y-Chromosomal Phylogenies of Burmese Long-Tailed Macaque (Macaca fascicularis aurea) Suggest Ancient Hybridization between fascicularis and sinica Species Groups. Journal of Heredity 109 (4) : 360-371. Doi: 10.1093/jhered/esx108. #Sellers WI, Hirasaki E. (2018) Quadrupedal locomotor simulation: producing more realistic gaits using dual-objective optimization. Royal Society Open Science 5(3): 171836 (March 2018). Doi: 10.1098/rsos.1718366. 若森参, 伊藤毅 (2017) 金華山のサルの骨格標本に見られる歯の欠損, 宮城県のニホンザル 30: 1-6.
学会発表 #伯田哲矢, 吉田真, 長谷和徳, 平﨑鋭矢 (2017) ニホンザルの歩容のシミュレーションによる解析.第38回バイオメカニズム学術講演会 (2017/11, 大分). 濱田穣 (2017) オトナになること:身体成長・発達・成熟から. 日本人類学会進化人類学分科会第39回シンポジウム (2017/6, 京都). 濱田穣 (2017) アジアとアフリカにおけるヒヒ族の多様性に関与する要因. 第71回日本人類学会大会(2017/11, 東京). #Hamada Y, Chalise MK, Norbu T, Matsudaira K (2018) Evolution of sinica-species group macaques: Dispersal and taxon formation in East Asia, South Asia and transition areas. Satellite International Symposium on Asian Primates, Nepal – 2018, (2018/02, Kathmandu). 平崎鋭矢 (2017) 足の動きと形態から見た霊長類のニ足歩行と四足歩行. 第71回日本人類学会大会(2017/11, 東京). 平崎鋭矢 (2017) 霊長類研究所ロコモーション研究室の現在. 第71回日本人類学会大会キネシオロジー分科会 (F. K. Jouffroy博士追悼の集い) (2017/11, 東京). 川本芳, 川本咲江, 濱田穣, 山川央, 直井洋司, 荻原光, 白鳥大祐, 白井啓, 杉浦義文, 郷康広, 辰本将司, 栫裕永, 羽山伸一, 丸橋珠樹 (2017) 千葉県高宕山自然動物園の外来種交雑. 第33回日本霊長類学会大会 (2017/7, 福島). Kawamoto Y, Kawamoto S, Hamada Y, Go Y, Tatsumoto S, Kakoi H, Naoi Y, Hagihara K, Shiratori D, Shirai K, Sugiura Y (2018) To what extent can we identify hybridization of macaques by means of morphology and genetics? – Lessons from the study of a rhesus and Japanese macaque hybrid population in the Bousou Peninsula, Japan. Satellite International Symposium on Asian Primates, Nepal – 2018, (2018/02, Kathmandu). 小川秀司, Chalise M, Malaivijitnond S, Koirala S, 濱田穣 (2017) アッサム及びチベットモンキーのブリッジングと他の親和的行動. 第33回日本霊長類学会大会 (2017/7, 福島). #San AM, Tanaka H, Hamada Y (2017) Anthropogenic activities on non-human primates in Mon State, Myanmar. 7th Asian Vertebrate International Symposium (2017/12, Yangon). #Tanaka H, Luong H, San AM, Hamada Y (2017) Development of a mitochondrial Marker for conservation genetics of slow loris. 第33回日本霊長類学会大会 (2017/7, 福島). Toyoda A, Maruhashi T, Furuichi T, Kawamoto Y, Hamada Y, Malaivijitnond S (2018) Reproductive ecology of semi-wild stump-tailed macaques (Macaca arctoides) in Thailand. Satellite International Symposium on Asian Primates, Nepal – 2018, (2018/02, Kathmandu). 若森参, 濱田穣 (2017) 中間的な尾長のマカク3種の尾の動きとその機能の比較. 第33回日本霊長類学会大会 (2017/7, 福島). 若森 参, 濱田 穣 (2018) どのような「しっぽ」をお求めですか?-生物の身体は物理的最適解の形態をしているのか?-.超異分野学会2018 (2018/3, 東京). 若森 参, 伊藤 毅 (2018) 擦り減らしながら生きていく:金華山のニホンザルにおける歯の摩耗の年代変化. 第65回日本生態学会大会 (2018/3, 北海道).
講演 Wakamori H (2017) Caudal Vertebral Morphology Study on Macaques, Focusing on Tail Length Variation. Joint Seminar between Primate Res. Institute and Kyoto Univ. Museum (2017/9, Aichi). 若森 参 (2017) 霊長類の尾椎形態と動きの関係.第4回ヒトを含めた霊長類比較解剖学-体幹の基本構造と特殊化を探る-(2017/12, 愛知).
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