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京都大学霊長類研究所 > 年報のページ > vol. 48 京都大学霊長類研究所 年報vol. 48 2017年度の活動Ⅰ.巻頭言 昨年の平成29年6月1日、多数のご来賓のみなさまにご参集いただき、無事、記念式典および祝賀会を終えることができました。50年目の年報をお届けいたします。 日本の霊長類学は1948年(昭和23年)12月3日、今西錦司先生、伊谷純一郎先生らが、宮崎県都井岬に岬馬という野生化したウマの調査に訪れた際に、幸島の野生ニホンザルを観察されて、「これこそが戦後の日本で築き上げていくべき新しい学問である」と着想したのが始まりとされています。まず、お隣の日本モンキーセンターが60年前の昭和31年10月17日に名古屋鉄道と京都大学・東京大学の霊長類研究グループの三者によって設立されたのち、約10年後の昭和42年6月1日に京都大学霊長類研究所が設立されました。 それに先立って、日本学術会議は全国共同利用の附置研究所として霊長類研究所の必要性を内閣総理大臣に勧告しました。その勧告にともなう設立の趣意には「広範なる人類学の各分野において、その基盤をなす霊長類の心理学的・生態学的・社会学的、および医学・薬学等における実験動物としてのサルの生理学的・生化学的・遺伝学的研究を推進することの重要性に鑑み、それらの研究を有機的・総合的に推進できる研究所設立の措置を早急に講じる必要がある」とあります。このような同じ霊長類を対象としながら、方法論や目的の異なる2つのミッションをもって霊長類研究所は出発し、いまに至っている次第であります。 現在、霊長類研究所は「ヒトとは何か」あるいは「ヒトはどこから来て、どこに向かうのか」という、わたしたち人類にとって不滅の課題を総合的に研究する国内唯一の霊長類の研究所として、「くらし・からだ・こころ・ゲノム」のさまざまな専門領域からアプローチする独自の体制で、研究教育活動を展開しています。平成22年度には共同利用・共同研究拠点「霊長類総合研究拠点」として認められ、国内外の先端的な共同研究を推進してまいりました。
当研究所の所員は、日本をはじめとしたアジア・アフリカ・南米の野生霊長類の生態・行動の調査、現生霊長類および化石霊長類の形態や各器官の機能の高度な解析、飼育下あるいは野生霊長類の比較認知科学的な実験、遺伝子導入や脳機能イメージンクなどの先端技術を駆使した神経細胞や神経回路の解析、細胞・ゲノムレベルでの霊長類の感覚系・脳神経系などの進化や多様性の解析など、さまざまな分野でフィールドや実験室、さらにその両者を組み合わせた共同研究とそれに関連した教育活動、あるいは研究教育の事務的・技術的な支援をおこなっています。とくに所内に13種約1200個体のヒト以外の霊長類を飼育して、獣医学的・集団遺伝学的・ウィルス学的な研究をおこないつつ、共同利用・共同研究拠点における重要な研究リソースとして、大学院生を含む国内外の研究者が利用できるように努めています。 これまでの50年、霊長類研究所の目標は「くらし・からだ・こころ・ゲノム」と申し上げましたとおり、霊長類をさまざまな学問分野から多面的に研究する総合霊長類学でした。しかしながら、これからの50年はポストゲノム時代とグローバル化に対応した新たな展開を図っていかなくてはなりません。たとえば、共通祖先からおよそ500万年前に分岐したチンパンジーとわたしたちヒトは非常に多くのゲノム情報を共有していますが、現在のくらしや状況は全く異なっているとしかいいようがありません。このチンパンジーとヒト、あるいはボノボやゴリラ、オランウータンを含めたヒト科の霊長類において、どのような遺伝子の違いが身体や認知の違いをもたらし、さらには今日にみられるような社会システムの違いをもたらすに至ったかを、断片的な「お話」ではなく、ゲノムや細胞から形態発生、脳神経科学、認知科学、さらに行動学、生態学までの一連の研究を有機的につなげてエビデンス・ベースで解き明かすことが期待されています。 同時に、霊長類種のおよそ60%が絶滅の恐れがあるとされている現在、多くの霊長類の生息地であるアジア、アフリカ、南米の国々が独自に霊長類の研究をおこない、それぞれの国の実情にあわせて保全にむすびつける活動を積極的に支援していく必要があると考えています。50年の節目にあたり、この研究面と社会的貢献面の両面において、当研究所が今後も世界をリードできるかが大きく問われています。このような問題意識を先鋭化させながら、霊長類学発祥の地である日本を代表する研究機関として国際ネットワークを築きつつ、研究教育活動を充実させていく所存であります。 所長 湯本 貴和 |