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京都大学霊長類研究所 > 年報のページ > 2012年度・目次 > 共同利用研究

京都大学霊長類研究所 年報

Vol.42 2011年度の活動

Ⅷ. 共同利用研究

3. 平成23年度で終了した計画利用研究

旧世界ザルの変異性と進化に関する多面的アプローチ

実施予定期間:平成21~23年度

課題推進者:高井正成,西村剛,江木直子,マイク・ハフマン,毛利俊雄

本計画研究は、旧世界ザル類(オナガザル科)の変異性と進化に関して、様々な分野からの多面的なアプローチによる研究を目指して行った。オナガザル科のサルはオナガザル亜科とコロブス亜科の二つのグループからなるが、その形態・食性・行動パターンなどに大きな変異が存在する。こういった旧世界ザルの多様性とその進化に関して、様々な研究分野の手法を用いて研究を推進した。研究対象は現生種と化石種の両方にまたがり、頭骨・下顎骨・歯・椎骨・足根骨・大腿骨など、様々な部位の形態についての研究が行われた。伝統的なノギスを使った計測、最近の流行である接触型の3次元計測器を用いた幾何学的形態計測、X線CTを用いた骨内部の構造解析、洞窟内のサルの骨格化石と糞の分析など、多岐にわたる手法が用いられた。これらの研究結果の一部は、平成23年3月7~8日に開催された共同利用研究会「CTを用いた霊長類研究の新展開」で発表された。

研究実施者

<平成21年度>

小藪大輔 (東京大・院・理学系)「現生および化石コロブス類における進化形態学的研究」

東 華岳 (岐阜大・医学研究科)「霊長類椎骨における三次元画像の電脳解析」

近藤信太郎(愛知学院大・歯・解剖)「旧世界ザル下顎骨外側面にみられる隆起の種間変異」

二神千春 (愛知学院大・院・歯)「ニホンザルにおける上顎乳臼歯、小臼歯、大臼歯の歯冠サイズの関係」

姉崎智子 (群馬県博)「考古遺跡出土ニホンザルの骨形態の地理的変異に関する研究」

<平成22年度>

東 華岳 (岐阜大・医学研究科)「霊長類大腿骨頸部における三次元画像の電脳解析」

姉崎智子 (群馬県博)「現生および考古遺跡出土ニホンザルの骨形態変異に関する研究」

小藪大輔 (京都大・総合博)「現生および化石コロブス類における進化形態学的研究」

城ヶ原ゆう(岡山理大・院・総合情報)「霊長類の踵骨及び距骨における個体発生」

張 穎奇 (中国科学院・古脊椎動物/古人類研)「中国広西から産出した前期更新世マカクの全身骨格化石の比較解剖学と機能解剖学的研究」

矢野 航 (京都大・理)「オナガザル族の聴覚器官の機能形態学的進化に関する研究」

近藤信太郎(愛知学院大・歯・解剖)「オナガザル亜科の下顎骨外側面にみられる隆起の加齢変異」

<平成23年度>

小藪大輔 (京都大・総合博)「現生および化石オナガザル類における進化形態学的研究」

鍔本武久 (林原生物化学研・古生物センター)「現生旧世界ザルにおける距骨の変異と化石への応用」

姉崎智子 (群馬県博)「現生および考古遺跡出土ニホンザルの骨形態変異に関する研究」

東 華岳 (岐阜大・医学研究科)「霊長類椎骨の外部形状と内部構造の統合解析」

柏木健司・阿部勇治・瀬之口祥孝(富山大・理工学部)「異なる気候下におけるニホンザル化石の骨体形質比較」

(文責:高井正成)



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4. 共同利用研究会



第12回ニホンザル研究セミナー

日時:2011年6月11日・12日 

場所:京都大学霊長類研究所大会議室

研究会世話人:半谷吾郎,辻大和(京大・霊長類研究所)

ニホンザル研究セミナーは、これまで過去9年に渡って、共同利用研究会や自主的な集会として実施してきた。この研究会では、ニホンザルを対象としたフィールドの研究者が、交流し討論できる場を作ることを目的としている。第12回目となる今回も若手研究者の方に修士課程や博士課程での研究成果を中心に発表をお願いし、中堅・ベテラン研究者が、それに対してコメントするというスタイルで行われた。また、ポスター発表を公募し、修士・博士論文の途中経過などについて発表してもらう機会を設けた。48名の方に参加いただき、活発な議論をすることができた。

<プログラム>

6月11日(土)

12:58~13:00 挨拶 半谷吾郎(京都大学 霊長類研究所)

13:00~14:00 斎藤昌幸 (横浜国立大学大学院 環境情報学府)都市から森林に至る景観傾度と野生哺乳類

14:00~15:00 中村大輔 (岐阜大学大学院 連合農学研究科)都市近郊地域におけるニホンザルによる被害意識の実態

15:00~15:15 休憩

15:15~16:15 坂牧はるか(岩手大学大学院 連合農学研究科)冷温帯林におけるニホンザル野生群の冬期森林利用に関する空間的評価

16:15~17:15 Andrew MacIntosh(京都大学 霊長類研究所)Epidemiology of nematode parasite infection among wild Japanese macaques: heterogeneity in the external and internal environments 

17:15~18:00 ポスター発表

18:00~20:15 懇親会

6月12日(日)

9:00~10:00 大谷洋介 (京都大学 霊長類研究所)ニホンザル雄の集団からの一時離脱行動:採食、繁殖戦略の観点から コメンテータ:中川尚史(京都大学大学院 理学研究科)

10:00~11:00 鈴木南美 (京都大学 霊長類研究所)遺伝子・細胞・個体レベルからみたニホンザルの苦味感覚 コメンテータ:河村正二(東京大学大学院 新領域創成科学研究科)

11:00~11:10 休憩

11:10~12:10 上野将敬 (大阪大学大学院 人間科学研究科)勝山ニホンザル集団における毛づくろいの駆け引きと互恵性 コメンテータ:小川秀司(中京大学)

ポスター発表

P-1 望月翔太(新潟大学大学院・自然科学研究科)景観構造の違いがニホンザルの農地侵入に与える影響 

P-2 金谷翔太(新潟大学大学院・自然科学研究科)ニホンザルの管理を目的とした堅果類のマッピング 

P-3 増間拓也(長岡技術科学大学・生物機能工学専攻)動物専用周波数帯を利用したニホンザルのリアルタイムモニタリングシステム 

P-4 勝野吏子(大阪大学大学院・人間科学研究科)ワカモノ期ニホンザルにおける母娘関係と成体との毛づくろい関係の形成 

P-5 海老原寛・高槻成紀(麻布大学大学院)農地を利用するようになったニホンザル群の群落利用

(文責:半谷吾郎)

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「社会行動と脳 ―イメージングと分子―」

日時:2012年2月2日(木)・3日(金)

場所:京都大学霊長類研究所大会議室

研究会世話人:中村克樹,高田昌彦,宮地重弘,大石高生

ヒトを頂点とした複雑な社会行動は霊長類の行動特性である。こうした社会行動の基になる神経機序が、徐々に科学的に明らかにされてきている。大きく二つの研究分野がある。その一つはfMRIを中心としたヒトの脳機能イメージング研究である。もう一つは、オキシトシンを中心としたホルモンの行動への影響を調べる研究である。今後の霊長類研究の大きなテーマとなるであろう社会行動と脳機能の関係を、世界のトップレベルで研究している研究者に参加いただき、今後特にサル類で行っていくべき研究の方針を検討する目的で開催した。げっ歯類からヒトへの橋渡しとしての役割、ヒトにみられる行動の神経機序を調べる対象としての役割、創薬研究における役割等、サル類の役割が明らかにできた。おおよそ40名の方に参加いただき、活発な意見交換や議論ができた。

<プログラム>

2月2日

13:00~13:05 挨拶 中村克樹(京都大学 霊長類研究所)

1部 オキシトシン 座長:中村克樹(京都大学 霊長類研究所)

13:05~13:50 松井秀樹(岡山大学大学院 医歯薬学総合研究科)「脳内ホルモン・オキシトシンによる不安情動・うつ症状の制御」

13:50~14:35 富澤一仁(熊本大学大学院 生命科学研究部)「オキシトシンによる代謝制御」

14:35~15:20 西森克彦(東北大学大学院 農学研究科)「遺伝子変換マウスモデルを用いた中枢性オキシトシン受容体の機能解析」

15:35~16:05 中村克樹(京都大学 霊長類研究所)「マーモセットの親行動におけるオキシトシンの影響」

16:05~16:50 東田陽博(金沢大学大学院 医学系研究科)「CD38によるオキシトシン分泌制御、社会性行動と自閉症」

2月3日

2部 イメージング 座長:宮地重弘(京都大学 霊長類研究所)

9:30~10:15 尾上浩隆(独立法人 理化学研究所 分子イメージング科学研究センター)「サル認知・社会行動における脳機能のPETイメージング解析」

10:15~11:00 泰羅雅登(東京医科歯科大学)「脳活動から心を読み取る」

11:00~11:45 飯高哲也(名古屋大学大学院 医学系研究科)「社会脳における扁桃体の役割」

11:45~12:30 松元健二(玉川大学 脳科学研究所)「ヒトの動機づけの脳機能イメージング」

(文責:中村克樹)

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「行動特性を支配するゲノム基盤と脳機能の解明」

日時:2012年3月2日(金)13:30~3月3日(土)15:00

場所:京都大学霊長類研究所大会議室

研究会世話人:高田昌彦

 行動特性の面からヒトとサルを比較すると、ヒトで疾患型の行動がサルでは一般的な行動と捉えられ、逆にヒトで一般的な行動がサルでは異常な行動と捉えられる、という興味深い事象がある。類似の事象はゲノムレベルにおいても確認されている。行動とゲノムをキーワードにしてこのようなヒトとサルの相互関係を解析することは、ヒトの行動特性、精神・神経疾患のメカニズム、さらに、人類の進化の中で「ヒトとは何か」を解明するための重要な糸口となる可能性を秘めている。平成23年度から開始された共同利用・共同研究プロジェクトの計画研究「行動特性を支配するゲノム基盤と脳機能の解明」では、(1)主にマカク類を用いたゲノムの網羅的解析を実施し、多様な行動特性を示す自然発生的遺伝子変異モデルをゲノムレベルと脳機能レベルで解析する、(2)精神科領域と連携して、脳病態ゲノム多型と中間表現型に関するデータベースを活用し、精神疾患に関連するリスク遺伝子をマカク類において網羅的に検索する、(3)ゲノム情報に基づいて人為的遺伝子改変モデルを作出し、その行動特性と脳活動を解析する、といった研究を展開している。本共同利用研究会は、このような計画研究の研究グループを中心にして、行動特性を決定するゲノム、ゲノムが制御する脳機能、脳機能が規定する行動特性という生物学的トライアングルの実体を明らかにすることを目的として開催された。研究所内外から約50名の参加者を得て、活発な情報交換、意見交換、および個々の研究計画や研究成果に関する議論を行った。

<プログラム>

3月2日(金)

13:30~13:45 高田昌彦 (京都大学 霊長類研究所)挨拶

13:45~14:15 平井啓久 (京都大学 霊長類研究所)早老症モデルニホンザルの細胞分裂(繊維芽細胞)

14:15~14:45 アレクシチ・ブランコ(名古屋大学大学院医学系研究科)Copy number variation in schizophrenia in the Japanese population

14:45~15:15 郷 康広 (京都大学 霊長類研究所)サル行動ゲノム多型の検索と解析?全ゲノム・エキソーム・トランスクリプトーム解析による多型情報整備?

15:15~15:45 河村正二 (東京大学大学院 新領域創成科学研究科)霊長類自然集団に対する感覚関連遺伝子の多様性と適応進化の検証

15:45~16:00 - ブレイク -

16:00~16:30 大石高生 (京都大学 霊長類研究所)マカクの脳機能への挑戦:遺伝子発現の加齢変化と行動テスト

16:30~17:00 中村克樹 (京都大学 霊長類研究所)マーモセットの社会行動

17:00~17:30 岡本宗裕 (京都大学 霊長類研究所)霊長研のマカク類に見られる変異・行動異常とモデル系統の作製

17:30~18:00 今井啓雄 (京都大学 霊長類研究所)霊長類苦味受容体の分子生物学的解析

3月3日(土)

9:30~10:00 尾崎紀夫 (名古屋大学大学院 医学系研究科)精神科臨床のニーズに応える研究成果:霊長類を用いた基礎研究と精神科臨床研究の連携によるThe Valley of Deathの克服を目指して

10:00~10:30 橋本亮太 (大阪大学大学院 連合小児発達学研究科)分子・脳機能・精神疾患を結ぶ新しいアプローチ-ヒト脳表現型コンソーシアム

10:30~11:00 岩田仲生 (藤田保健衛生大学 医学部)精神疾患研究におけるゲノム医科学の可能性

11:00~11:15 - ブレイク -

11:15~11:45 泰羅雅登 (東京医科歯科大学大学院 医歯学総合研究科)高齢者用認知機能検査と脳活動の関係

11:45~12:15 佐藤宏道 (大阪大学大学院 医学系研究科)ネコ初期視覚系における受容野周囲抑制と方位選択性

12:15~12:45 南部 篤 (生理学研究所)神経活動を記録することにより、大脳基底核疾患の病態に迫る

12:45~13:30 - 昼食 -

13:30~14:00 星 英司 (東京都医学総合研究所)感覚情報に基づく行動制御における前頭連合野の役割

14:00~14:30 清水貴美子(東京大学大学院 理学系研究科)長期記憶形成と概日リズムの機能連関におけるSCOP

 の役割

14:30~15:00 小林和人 (福島県立医科大学 医学部)脳内遺伝子導入技術を利用した行動と脳機能の研究

(文責:高田昌彦)

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アジアの霊長類の保全と社会生態研究に関する近年の新たな展開

日時:2012年3月10日(土)・11日(日)

場所:愛知県犬山市官林 京都大学霊長類研究所大会議室(参加人数:約50人)

世話人:古市剛史,MA Huffman,半谷吾郎,橋本千絵,辻大和

現在、ニホンザルを含む日本の野生獣類の個体数管理は大きな曲がり角を迎えている。各地で被害問題が拡大し、これまでの政策が見直しを迫られているからである。ニホンザル以外のアジアの霊長類各種も、生息地の破壊や人との軋轢など、さまざまな問題を抱えている。本研究会では、ニホンザルを含むアジアの霊長類について、ここ10年程度の生態学的研究の新たな展開を総括し、研究面、保全面での次への展望を模索した。

<プログラム>

3月10日

13:00~13:05 趣旨説明:古市剛史

<アジアの霊長類(1)> 座長:渡邊邦夫

13:05~13:40 川本 芳 (京都大学 霊長類研究所)南アジアの霊長類の系統地理研究

13:40~14:15 濱田 穣 (京都大学 霊長類研究所)東南アジアの霊長類、特にマカクの多様性研究 

14:15~14:50 親川千紗子(東北大学大学院 農学研究科)東南アジアにおける野生テナガザルの音声コミュニケーション研究 

<アジアの霊長類(2)> 座長:川本芳

15:00~15:35 半谷吾郎 (京都大学 霊長類研究所)マレーシア・ダナムバレーのレッドリーフモンキーの食性とフォールバック食物

15:35~16:10 三谷雅純 (兵庫県立大学 自然・環境科学研究所)二次植生と繊維食性霊長類の食性:海洋に面する孤立したハビタートの持つ意味 

16:20~16:55 松村秀一 (岐阜大学 応用生物科学部)進化生物学からみたスラウェシマカク 

16:55~17:30 丸橋珠樹 (武蔵大学 人文学部)タイ・カオクラプックのベニガオザルの社会と生態 

3月11日

<ニホンザル(1)> 座長:辻大和

9:30~10:05 江成広斗 (宇都宮大学 農学部)人口減少社会におけるニホンザル個体群管理の現状と課題

10:05~10:40 宇野壮春 (宮城 野生動物保護管理センター)東北地方におけるニホンザルの長期的な保護管理を目指して

10:50~11:25 松岡史朗 (下北半島のサル調査会)下北半島のサル -過去・現在・未来- 

11:25~12:00 赤座久明 (富山県立八尾高等学校)ニホンザルの遺伝的多様性保全と保護管理計画 

<ニホンザル(2)> 座長:半谷吾郎

13:00~13:35 室山泰之 (兵庫県立大学 自然・環境科学研究所)ニホンザルの保全と管理-兵庫県における取り組みについて

13:35~14:10 大井 徹 (森林総合研究所 生物多様性研究グループ)どう評価するニホンザル個体群の絶滅危険度-レッドデータの現状と今後 

14:10~14:55 総合討論 

14:55~15:00 閉会挨拶

(文責:古市剛史)

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第40回ホミニゼーション研究会「ドーパミンの役割:運動機能から高次機能へ」

日時:2012年3月15日(木)・16日(金)

場所:愛知県犬山市官林 京都大学霊長類研究所大会議室(参加人数:約30人)

世話人:松本正幸,高田昌彦,中村克樹

<プログラム>

3月15日(木)

・橘 吉寿 (生理学研究所)「The ventral pallidum encodes expected reward value of future action」

・伊藤 真 (沖縄科学技術大学院大学)「報酬に基づく意思決定のアルゴリズムと線状体の情報表現」

・井上謙一 (京都大学 霊長類研究所)「霊長類における黒質ドーパミンニューロン選択的な遺伝子導入」

・疋田貴俊 (京都大学 医学研究科)「報酬・忌避行動における大脳基底核神経回路機構」

・木村幸太郎(大阪大学 理学研究科)「線虫の匂い忌避学習を制御するドーパミンの作用メカニズム」

3月16日(金)

・松本正幸 (京都大学 霊長類研究所)「部位特異的な中脳ドーパミン細胞の活動とその機能的役割」

・榎本一紀 (玉川大学・脳科学研究所)「サル中脳ドーパミン細胞による、異なった時間スケールでの将来報酬の価値と誤差表現」

・松田和郎 (滋賀医科大学・医学部)「中脳ドーパミン細胞の形態と考察:パーキンソン病の発症に関与する神経基盤」

・南本敬史 (放射線医学総合研究所)「ドーパミンとモチベーション:動機付け制御とその障害から見えてきたこと」

その欠乏が様々な精神・神経疾患の原因となることからもわかるように、ドーパミンはヒトの高次脳機能を実現するために重要な神経伝達物質である。一方、昆虫や魚類などの神経系にもドーパミンは存在し、摂食や逃避行動など、生命維持にとって必須な機能への関わりが報告されており、その機能を画一的に捉えることは難しい。特に、ドーパミン産生細胞の神経連絡は、ヒトで最も発達した前頭連合野と進化的に保存された大脳基底核において強いことから、その役割の進化的変遷を知ることは、認知や情動など、我々の高次脳機能が進化の過程でどのように発達してきたかを理解する上で重要である。今回のホミニゼーション研究会では、げっ歯類や霊長類だけではなく、線虫を用いて実験をおこなっている研究者も参加し、学習や動機付け、認知機能等へのドーパミンの役割についてお互いの知見を持ちより、その機能の多様性や進化的変遷について討論をおこなった。

(文責:松本正幸)

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「サルが二足で歩くとき」

開催日:2012年3月17日(土)・18日(日)

場所:京都大学霊長類研究所 大会議室(参加人数:約40人)

世話人:平崎鋭矢,濱田穣,古市剛史,宮地重弘,毛利俊雄,森大志(山口大)

「直立二足歩行の起源と進化」を考える時、問題は大きく3つに分かれる。二足歩行を可能にした身体構造や脳機能はどのようなものか、二足性は何をきっかけにどういった状況で獲得されたのか、二足性獲得後の歩行はどのように洗練されていったのか。さらに、これらのイベントがいつ起こったのかという問いが4つ目として加わる。こうした疑問に対して、それぞれ、機能形態学と神経科学、霊長類社会学・生態学、進化ロボティクス、古人類学からのアプローチがなされ、多くの成果をあげてきた。しかし、全体を見渡す論議、互いの成果を参照・補強しあう考察は必ずしも十分になされているとは言えない。二足歩行という共通テーマの下に異なる立場で研究を行っている多様な分野の研究者が集まり、最新の成果に基づいて意見を交換することがこの研究会の目的であった。

初日はまず、霊長類研究所で40年前に始まった霊長類ロコモーション研究の流れを汲む講演3題から始まり、続いて近年目覚しい成果をあげている神経科学的アプローチによる最新の成果の紹介がなされた。懇親会では、質疑応答や討論の時間枠には収まりきれなかった質問や議論が活発になされた。二日目には、フィールド観察による大型類人猿3種のポジショナル行動についての貴重な知見や、工学的手法による歩行・姿勢制御のシミュレーション研究が紹介され、さらに化石研究を通して全体を見渡す視点が提供された。昼食後に行われた総合討論においても、尽きることなく約40名の参加者による活発な議論が行われた。ふだん互いの研究に接することの少ない異分野の研究者が共通のテーマで討論する貴重な機会となった。こうした機会を一度きりで終わらせることなく、今後も意見の交換を継続し、新たなパラダイムを構築していきたい。

<プログラム>

3月17日(土)

13:00~13:10 趣旨説明 平崎鋭矢

二足歩行の基盤~機能形態学の立場から(座長:毛利俊雄)

13:10~13:40 熊倉博雄(大阪大)体幹運動の捕捉方法とその機能的意義

13:40~14:20 木村 賛(東京大)サルからヒトの二足歩行を考える

14:20~14:50 平崎鋭矢(京都大)足圧と足形態からみたサルの二足歩行

二足歩行の基盤~神経科学の立場から(座長:宮地重弘)

15:00~15:40 高草木薫(旭川医大)歩行の神経生理学

15:40~16:20 中陦克己(近畿大)トレッドミル歩行に関連したサル一次運動野の神経細胞活動

16:20~17:00 森 大志(山口大)ニホンザルの二足歩行学習

討論(座長:平崎鋭矢)

17:15~ コメンテーター:石田英實(聖泉大)、日暮泰男(大阪大)

懇親会(霊長類研究所多目的ホール)

18:00~20:00

3月18日(日)

何故立ち上がるのか、どのように歩くのか~生態学の立場から(座長:平崎鋭矢)

9:00~ 9:40 古市剛史(京都大)チンパンジーとボノボのロコモーション:樹上移動と地上移動の種間比較

9:40~10:20 久世濃子(京都大)オランウータンのロコモーションの多様性と、多様性を生み出す要因

二足歩行の仮想進化~進化ロボティクスの立場から(座長:森大志)

10:30~11:00 野村泰伸(大阪大)柔軟かつロバストな直立姿勢の神経制御戦略

11:00~11:40 荻原直道(慶応大)ニホンザル二足歩行運動の順動力学・逆動力学シミュレーション

化石人類学の立場から(座長:古市剛史)

11:40~12:20 中務真人(京都大)初期人類の二足歩行

総合討論(座長:濱田穣)

13:20~  コメンテーター:岡田守彦(帝京平成大)、加賀谷美幸(京都大)

(文責:平崎鋭矢)

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「第7回犬山比較社会認知シンポジウム」

日時:2012年3月24日(土)・25日(日)

場所:京都大学霊長類研究所大会議室(参加人数:約50人)

研究会世話人:友永雅己,林美里,伊村知子,足立幾磨,板倉昭二(文学研究科),明和政子(教育学研究科)

<プログラム>

3月24日(土)

13:00~18:10

セッション1

森 裕紀 (大阪大学・工)「触覚が導く初期胎児行動発達構成論」

脇坂崇平 (理研・BSI・適応知性)「代替現実システムとその認知心理実験装置としての応用」

小川健二 (ATR認知機構研)「行為認識に関わるミラーシステムの神経表象」

妹尾武治 (九州大・工・学振PD)「X with Vection」

セッション2

渡辺創太 (京都大・文)「ハトの相対優位性&ニホンザルの絶対優位性」

牛谷智一 (千葉大・文)「オブジェクトベースの注意の比較認知科学」

後藤和宏 (京都大・生命科学系キャリアパス形成ユニット)「ゲシュタルト比較心理学:創発性への挑戦」

友永雅己 (京都大・霊長研)「イルカから見た世界」

懇親会

3月25日(日)   

9:00~12:40

セッション3

豊川 航 (北海道大・文)「口コミの伝達は集合知を生み出すか?」

松元健二 (玉川大・脳研)「脳内の価値表現とその変容」

セッション4

平井真洋 (愛知県心身障害者コロニー)「バイオロジカルモーション知覚機構の機能的解剖:階層的処理仮説の検証と発達による変化」

石島このみ(早稲田大・人間科学)「乳児と母親のくすぐり遊びにおける相互作用:「意図」の理解と文脈の共有」

松田佳尚 (JST-ERATO・岡ノ谷情動情報プロジェクト)「乳幼児期における人見知りのメカニズム」

明和政子 (京都大・教育)「周産期からの心の発達とその生物学的基盤」

 「犬山比較社会認知シンポジウム」も今回で第7回を迎えた。第3回までは特定のテーマを設定して開催してきたが、第4回以降は、トピックを限定することなく、認知科学に関する多様な研究領域での最先端の研究の現状について、多くの研究者が分け隔てなく議論し合う場を構成することを目指してきた。互いに関連するとはいえ、実験から観察に到る多種多様な方法論から生み出される成果をそれぞれの立場から論じ合う場として、学界においてもある一程度の認知を獲得してきたと自負している。今回は、諸般の事情で、従来の12月開催から3月の開催となったため、参加者の減少が危ぶまれたが、予想以上の参加者にご参集いただけた。今回もロボットからイルカまで多様な対象に対するそれぞれに興味深い成果が報告された。また、今回は、京都大学霊長類研究所思考言語分野との共同利用研究の成果についても、渡辺、牛谷、後藤の3名から報告があった。今後とも共同利用研究の成果をこの場で報告する機会を増やしていきたい。今回は、準備の都合で例年行ってきたポスター発表を行わなかった。今後はまた再開したい。

(文責:友永雅己)

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