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京都大学霊長類研究所 > 年報のページ > 2012年度・目次 > ナショナルバイオリソースプロジェクト

京都大学霊長類研究所 年報

Vol.42 2011年度の活動

Ⅶ. ナショナルバイオリソースプロジェクト

1. ナショナルバイオリソースプロジェクト(ニホンザル)の活動

平成19年度より、5年計画で第2期ナショナルバイオリソースプロジェクト(NBRP)が開始された。NBRPは実験研究のモデルとなるマウスやラットやショウジョウバエならびにイネやシロイナズナ等の動植物、ならびにES細胞などの細胞株を含めたバイオリソースのうち、国が戦略的に整備をすすめる22件が中核的拠点整備プログラムとして推進されている。そのなかの一つに「ライフサイエンス研究用ニホンザルの飼育・繁殖・供給」がある。自然科学研究機構生理学研究所が中核機関、霊長類研究所が分担機関として、いわゆる「ニホンザル・バイオリソース(NBR)」を推進している。NBRは病原微生物学的に安全で、健康な研究用ニホンザルを年間200頭程度供給する体制の確立を目標としている。

霊長類研究所では官林キャンパス(第1キャンパス)から直線距離で約1キロ東に位置する善師野地区に第2キャンパス(約76ha)として、大型プロジェクト「リサーチリソースステーション(RRS)」を平成19年度に開設した。本事業は環境共存型大型放飼場を設置し、ニホンザルの社会行動等の観察研究に資するとともに、新たな研究用ニホンザルを創出・繁殖・育成し、全国の研究機関に供給することを目的とする。環境との共存を重視する本キャンパスでは、敷地内の植生の保全と、排水の処理に万全を期している。とくに汚水はBODで5ppm以下に処理後、放飼場へ還元散布し、敷地外には出さないシステムを構築している。大型放飼場はニホンザルの野生での生息環境を再現するもので、今後の多様な霊長類研究の推進の核となるものと期待される。

RRSの整備にともなってNBRの分担機関として「大型飼育施設でのニホンザルの繁殖・育成事業」の課題を推進し、全国へのニホンザル供給を実現するための、繁殖育成を遂行している。平成21年度に最後の大型グループケージを設置し、予定した施設整備は完了した。これで1式2条の放飼場が3式、育成舍1棟、さらに3棟のグループケージが完成し、母群総数350頭のニホンザルの飼育が可能となった。平成21年度からNBRの経費が補助金化され安定供給に向けた業務が本格的に実施されている。これまでNBR事業は特別経費プロジェクト(RRS)と相互扶助事業としておこなわれてきたが、RRSプログラムは22年度で終了した。21年度と22年度の経費で研究基盤の推進とNBRの規模拡大の位置づけとして、官林地区にそれぞれ1棟のグループケージを設置した。

2010年度と同様、「血小板減少症」に関連して処分された動物が相当数いたため、母群総数は228頭まで減少した。一方で、若齢だった母群の成熟が進んだため繁殖は順調に進んでおり、2011年度の出生・育成個体は48頭となっている。2010年度は、血小板減少症の影響で霊長類研究所からの供給を停止したが、2011年度の供給数は41頭に達し、はじめて自然科学研究機構からの供給分を含めたNBRニホンザル総供給数の半数を占めるに至った。年度末の育成群総数は122頭となっており、現在合計350頭のNBRプロジェクト用ニホンザルを飼養している。

2010年度に実施した人類進化モデル研究センターを中心とした研究で、霊長類研究所における「血小板減少症」はサルレトロウイルス4型が、自然科学研究機構における「血小板減少症」はサルレトロウイルス5型が原因であることが明らかとなった。2011年8月よりNBRプロジェクトとして特定助教を雇用し、人類進化モデル研究センター、京都大学ウイルス研究所と連携して「血小板減少症」の発症機序についての研究を進めるとともに、検査法・診断法の改良を行っている。

(文責:岡本宗裕)

 

2. ナショナルバイオリソースプロジェクト(GAIN)の活動

GAIN:大型類人猿情報ネットワークの展開

本事業は、平成14年度に文部科学省の主導で発足したナショナルバイオリソースプロジェクトの一環である。研究開発施設共用等促進費補助金(ナショナルバイオリソースプロジェクト)事業によるもので、補助事業の正式名称は、「情報発信体制の整備とプロジェクトの総合的推進」(大型類人猿情報ネットワークの展開)である。英文名称をGreat Ape Information Network、英文略称をGAINとする。

GAINは、平成14年度のフィージビリティー研究に始まって、国内の大型類人猿の情報を整備してきた。これまでに日本国内の類人猿3種(チンパンジー・ゴリラ・オランウータン)の全個体の登録をした。毎日随時、出生・死亡・移籍等の情報について、最新版に更新している。これは、国立遺伝学研究所のバイオリソースに関する情報のウェブサイトで一般に公開されている。HP参照(http://www.shigen.nig.ac.jp/gain/index.jsp)

GAIN事業は、平成23年度も、従来どおり、京都大学霊長類研究所と野生動物研究センターの両部局の共同運営事業と位置づけた。平成23年度に措置された交付金額は年額960万円で前年度と同額である。落合知美、打越万喜子の2名の研究員を雇用して実務にあたっていただいた。また、親事業である「情報」を統括する国立遺伝学研究所(小原雄治所長)ならびに、その責任者である系統情報研究室の山崎由紀子先生からは、つねに厚いご支援をいただいた。記して感謝したい。GAIN事業の内容は以下のとおりである。事業代表者(課題管理者)は松沢哲郎、経理担当者は上垣泰浩、事業参加者は野生動物研究センターの伊谷原一や幸島司郎ほか約20名、事業協力者は北里大学の吉川泰弘や東京大学の長谷川寿一ほか約15名である。

1) 情報の提供
飼育施設の個体群モニタリングにより、大型類人猿の死亡や出生に応じて適宜データベースを更新した。平成23年度末の平成24年2月20日現在で、チンパンジー330個体(53施設)、ゴリラ23個体(10施設)、オランウータン53個体(22施設)が国内で飼養されている。
平成23年度はチンパンジーの死亡4件、オランウータンの死亡2件、チンパンジーの出産4件、ゴリラの出産1件、チンパンジーの移動1件があった。また新たに小型類人猿テナガザルについても情報収集をして、データベースへの登録作業をすすめている。

2) 各個体のゲノム・行動情報・形態情報の収集
個体ごとの生年月日や家系情報に加えて、DNA情報・行動情報についても整備をすすめている。グローバルCOEプログラム(生物の多様性と進化研究のための拠点形成―ゲノムから生態系まで:京都大学・阿形清和リーダー)と協力して、「霊長類ゲノムデータベース」を作成・公開している。 (http://www.gcoe.biol.sci.kyoto-u.ac.jp/pgdb/) また3次元骨格標本(CT画像)をGAIN由来の類人猿12個体分について「デジタル形態博物館(霊長類研究所資料委員会)」で公開している。(http://www.pri.kyoto-u.ac.jp/dmm/WebGallery/)

3) 飼育施設訪問による情報収集
飼育施設を訪問して、直接の目視と担当者との面談で、情報収集をおこなった。平成23年度は、恩賜上野動物園、鹿児島県平川動物公園、京都市動物園、釧路市動物園、熊本市動植物園、 札幌市円山動物園、天王寺動物園、東武動物公園、名古屋市東山動植物園、野毛山動物園、横浜市立金沢動物園を訪問した。後述する熊本サンクチュアリが平成23年度に発足した。今後は、チンパンジー飼育の国内拠点である同施設をGAIN事業の基軸にして、国内外の動物園等との連携をさらに推進する。

4) 死体由来・生体由来(非侵襲)資料の配布
平成23年度は、大型類人猿9個体から非侵襲的な方法での試・資料の収集をおこない、研究利用をサポートした。当該飼育施設から死亡や出産情報の提供を受け、それを霊長類研究所資料委員会ならびに共同利用実行委員会に情報提供するシステムが確立した。したがって情報提供はGAIN事業であり、実際のサンプル収集と配付は、平成22年度発足の「共同利用・共同研究拠点制度」としての霊長類研究所で運用することとした。死亡個体の利用を共同利用・共同研究制度と連携して促進する体制が確立しつつある。事業参加者である、西村剛、郷康広、今井啓雄の3名の教員らが中心となって、非侵襲資料の共同利用研究を推進した。

5) 広報活動と成果公開
第27回霊長類学会大会、第34回日本分子生物学会年会、第14回SAGAシンポジウムで、研究者や動物園関係者にGAIN事業の広報をした。平成22年度からはGAINのウェブサイトに英語版を追加した。平成23年度も引き続き、世界に向けて日本の大型類人猿の情報を発信した。なお、米国オレゴンで開催された国際環境エンリッチメント会議に落合研究員が参加して、海外の動物園関係者と意見交換をおこなった。また、わが国のナショナルバイオリソースのあり方そのものを大所高所から議論する場として「生物遺伝資源委員会」があり、年度末の平成24年3月27日に第14回の会議が東京で開催された。代理委員として、平成24年度の霊長類研究所長をつとめることになった平井啓久が出席した。

6) 熊本サンクチュアリの発足
 国内でチンパンジーを最も多く飼育している熊本の「三和化学研究所チンパンジー・サンクチュアリ・宇土(CSU)」は、平成23年8月1日をもって「京都大学野生動物センター熊本サンクチュアリ(KS)」に移行し改名された。民間の医学研究施設だったものが、京大が運営するサンクチュアリ施設となっている。なお三和化学研究所の厚意で平成19年8月1日に発足した寄附講座「福祉長寿研究部門」が平成23年度も継続しており、向こうさらに21年間の継続が約束されて財政的基盤の一部となっている。平成23年度末のKSのチンパンジー保有個体数は50個体である。なお、平成24年5月15日に民間医学研究施設から3個体がKSに導入された。これをもって、日本の医学感染実験チンパンジーはゼロになった。1998年の時点で民間3施設に合計136個体の医学感染実験チンパンジーがいた。14年間かかって、日本のチンパンジーに対する医学感染実験は廃絶された。その過程において、GAINは、個体情報を整備し、死後利用を促進することで生体利用を抑制し、医学感染実験をはじめとするすべての侵襲実験の廃絶に向けた主要な原動力として機能したといえる。

7) 第3期の予定
ナショナルバイオリソース事業の第1期(平成14-18年度)と第2期(平成19-23年度)を通じて完成した飼育施設と研究者を結ぶネットワークや個体情報データベースを確保しながら、さらなる充実をめざす。また、情報を基にした個体群管理の提言、国際的な情報発信をおこなうことを目標とする。まず、これまでの努力を継続して、日本が保有してきた類人猿1000個体(生存個体と死亡個体をあわせた総数)を越える固有の生物資源情報データベースの充実を図る。具体的には、「最新情報の追加・更新」「個体情報の充実」「個体群の管理の提言」「国際化の推進」の4つの作業をおこなう。大型類人猿の個体情報の整備では日本が世界的に見ても一歩進んだ状況にある。欧米との協調を図り、韓国やマレーシアなど近隣諸国とのあいだで大型類人猿情報を交換し、アフリカを初めとする生息地国との協調を図る。情報という面で整備の進んだ、日本独自で世界的にも類例のないユニークな生物資源情報の提供を第3期のGAIN事業として目指す。

 平成23年度の主要な出版物は次の通り。
Morimura N, Idani G, Matsuzawa T (2011) The First chimpanzee sanctuary in Japan: An attempt to care for the ''Surplus'' of biomedical research, American Journal of Primatology, 73: 226-232.

(文責:松沢哲郎)

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