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京都大学霊長類研究所 年報

Vol.42 2011年度の活動

Ⅴ. 大型プロジェクト

1. 若手研究者インターナショナル・トレーニング・プログラム(ITP-HOPE)

日本学術振興会の「若手研究者インターナショナル・トレーニング・プログラム」による助成事業である。正式な事業名は、和文「人類進化の霊長類的起源の解明に向けた若手研究者育成国際プログラムHOPE」、英文「International Training Program for Young Researchers: Primate Origins of Human Evolution (HOPE)」。略称を、ITP-HOPEとしている。

霊長類研究所が主催する霊長類学の国際連携をめざした交流事業をHOPEと総称してきた。HOPEは、「人間の進化の霊長類的起源」を意味する英文名称「Primate Origins of Human Evolution」の頭文字のアナグラム(並べ替えたもの)である。若手研究者に学問の発展の将来を託したい。そういう未来への「希望」をこめた命名である。

HOPE事業は、平成16年3月に、日本学術振興会の「先端研究拠点事業」の採択第1号として発足した。この先端研究拠点事業HOPEは、平成16-20年度の5年間継続した。当初は日独の連携すなわち京都大学霊長類研究所とマックスプランク進化人類学研究所との2国間連携として始まった。その後、米英伊仏と順次加わって、5年間をかけて先進6か国の連携体制が構築された。

先端研究拠点事業HOPEの後継が、ITP-HOPE事業である。平成21-25年度の5年間採択されている。平成20年度に、霊長類研究所が母体となって、京都大学に野生動物研究センターWRCという新たな部局が誕生した。そこでITP-HOPEでは2つの姉妹部局が連携して、若手研究者のインターナショナル・トレーニング・プログラムの確立を目指した。前身の先端研究拠点事業HOPEとの違いは、主に3点に要約できる。①霊長類だけでなくそれ以外の動物の研究も対象にした。②外国のパートナー機関が先進諸国だけでなく、アフリカ・中南米・東南アジアなどの発展途上国に広がった。③ITP事業のそもそもの制約として、2か月間以上の外国滞在を必要とする。

平成23年度は、ITP-HOPE事業の3年目だった。以下に3つのプログラムの概要を詳述する。

1) 研究機関交流教育プログラム(Inter-Laboratory Training Program)

以下の研究機関等に若手研究者4名を派遣し、実験室および野外調査地での共同研究を行った。ドイツ、ライプチッヒ、マックスプランク進化人類学研究所(澤栗)。これはインド高原でのドールの研究を開始するために必要なステップである。また、アメリカ、カリフォルニア大学サンディエゴ校(ハン・ソジュン、吉田)。サンディエゴ動物園と連携して、ボノボ、イルカ、水棲哺乳類の研究を開始するための必要なステップである。またオレゴン霊長類センターで動物福祉学の交流プログラムとして、若手研究者を派遣した(小倉)。なお、研究機関交流プログラムの円滑な実施のために教職員をパートナー機関に派遣した。サセックス大学とカリフォルニア大学サンディエゴ校に、昨年度にひきつづき教員2名(フレッド・ベルコビッチとデイビッド・ヒル)を派遣した。マレーシア科学大学(松沢)、タンザニア野生動物研究所(宿輪)、梨花女子大学(八木,丹羽)、広西師範大学(高井)、またタイのチュラロンコン大学主催の霊長類シンポジウムに、教職員を派遣した(濱田,岡本,上垣)。

2) 共同野外調査プログラム(Collaborative On-site Research Program)

以下の野外調査地に若手研究者9名を派遣し、パートナー機関の研究者と連携した研究を行った。括弧内は、連携研究を行ったパートナー機関である。

ギニア・ボッソウ(ボッソウ環境研究所)、藤澤

コンゴ・ワンバ(生態森林研究センター)、山本

コンゴ・ワンバ(生態森林研究センター)、リュー・フンジン

コンゴ・ルオー川学術保護区(生態森林研究センター)、坂巻

タンザニア・カタビ国立公園(タンザニア野生動物研究所)、齋藤

タイ(チュラロンコン大学)、安井

マレーシア・タビン野生生物保護区(マレーシア・サバ大学)、中林

インドネシア・パガンダラン国立公園(アンダラス大学)、辻

チリ・プエルト・モン沿岸・マゼラン海峡沿岸(カリフォルニア大学サンディエゴ校)、水口 

3) 国際ワークショップ(Annual International Workshop)

平成23年度も2つの国際ワークショップをおこなった。ひとつは、マレーシア領ボルネオのマリオベイズン・フィールドセンターとインバクキャニオン・フィールドセンターの活用をさぐる国際ワークショップである。6月に、マレーシア科学大学とマレーシア・サバ大学との共催でおこなった。別途経費での措置を含めて、これに教員・大学院生等21名を派遣した。もうひとつは7月に、これも別途経費で、京都大学ブータン友好プログラムを実施し、7月の第5訪問団が、ブータンで「健康・文化・生態系」をテーマにした国際ワークショップを開催した。いずれもパートナー機関との共同開催プログラムとして海外で実施するものである。また、国内開催の国際ワークショップとしては、第15回国際意識科学会を京都で開催した。こうした国際ワークショップを通じて、欧米ならびに発展途上国の研究者と活発な意見交換をおこなった。

平成23年度の合計は以上の、若手研究者13件及び教職員13件の計26件である。派遣日数は、若手研究者1,404日及び教職員124日の計1,528日になった。派遣実績を以下に示す。


平成23年度の合計は以上の、若手研究者13件及び教職員13件の計26件である。派遣日数は、若手研究者1,404日及び教職員124日の計1,528日になった。経費総額は、16,400,000円だった。

(文責:松沢哲郎・上垣泰浩)

 

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2. 組織的な若手研究者等海外派遣プログラム(AS-HOPE)

日本学術振興会の「組織的な若手研究者海外派遣プログラム」による助成事業である。正式な事業名は、和文「人間の本性の進化的起源に関する先端研究」、英文「The advanced studies on the evolutionary origins of human nature」。略称を、AS-HOPEとしている。事業実施期間は、平成22年(2010年)3月1日から、平成25年(2013年)2月28日までの3年間である。事業実施経費総額(助成決定額)は、77,819,000円である。

霊長類学の国際連携をめざした事業をHOPEと総称している。11か月先行して始まったITP-HOPE事業(平成21-25年度の5年間採択)と相互補完的な事業と位置付けられる。京都大学野生動物研究センターWRCと連携して、学部学生も含めた若手研究者等の海外派遣をおこなう。ITP-HOPE事業との大きな違いは、主に4点に要約できる。①若手研究者の対象を広げて学部学生も渡航が可能とした。京都大学であれば所属学部を問わない。②大学院生は霊長類研究所ないし野生動物研究センターの所属を原則とするが、生物科学専攻のグローバルCOE事業(阿形清和代表)と連携していることに鑑みて、理学研究科の生物科学専攻の大学院生・学部生であれば参加を認める。③ITP事業のような派遣期間のしばりがなく、2か月以上が推奨されるが、それよりも短期の海外派遣も可能である。④若手研究者が主対象であることに変わりはないが、事業を円滑に進めるための研究連絡や、学部学生の海外実習の引率のために、同行する教授や准教授の渡航も認める。

平成21年度末に始まり平成22年度に継続され、平成23年度は本格的に稼働する多産な1年だった。当初計画通り、5つの基本プログラムを継続した。①「共同野外調査プログラム」、②「研究機関交流教育プログラム」、③「国際ワークショップ」、④「通年調査プログラム」、⑤「学部学生短期野外調査プログラム」である。このうち、①は毎年度変わる多様な研究である。平成23年度は、南米のブラジルとチリの2か国、アフリカのウガンダ・ケニア・タンザニア・ギニアの4か国、アジアのマレーシア・ベトナム・ブータン・タイの4か国に若手研究者を派遣して共同野外調査をおこなった。②についてはドイツのマックスプランク進化人類学研究所を中核連携機関として毎年実施するものである。平成23年度も、若手研究者がマックスプランク進化人類学研究所でとくに感覚受容体のゲノム解析についての交流をおこなった。スバンテ・ペーボ教授と共同で、引き続いて味覚・嗅覚の受容遺伝子の研究をおこなった。マイケル・トマセロ教授とは、人間以外の霊長類を対象とした社会的知性とくに意図性の理解や互恵性の研究をおこなっていて今年度の派遣はなかったが、別途費用で招聘があり、相互交流が進んだ。また、その他の国々でも同様の研究機関交流をおこなった。とくに欧米の先進6か国、米国・ドイツ・イギリス・フランス・スイス・オーストリアの研究機関との交流をおこなった。③については海外パートナー研究機関と相談して実施するものである。他のプログラムと併用して、マレーシアで野生保全に関する国際ワークショップをおこなった。またブータンでの共同研究を開始し健康・文化に焦点をあてた国際ワークショップをおこなった。④については、タンザニアのマハレ・ウガラ、ウガンダのカリンズ、コンゴのワンバ、ギニアのボッソウ、マレーシア・ボルネオのダナム・バレイという5か国の調査基地を対象に3年間継続しておこなう長期継続調査プログラムである。霊長類およびその他の野生動物の野外研究を実施した。通年の継続研究体制と若手研究者の海外派遣によって飛躍的な研究成果の向上が得られると期待している。特記すべきは、マレーシアでの共同研究の著しい着実な進展である。マレー半島で野生保全と野生復帰のプログラムがマッチングファンドの精神で始動し、ボルネオのダナムバレイでは平成22年に調査小屋が開設されて長期継続研究の道が開けた。これを起点にマレーシア・サバ財団の支援で研究交流が格段にすすんだ。先方の受け入れ機関が滞在費を負担するマッチング方式が確立し、わずかな渡航費用だけで多数の若手研究者を送り込めるようになった。平成23年度は、具体的にはボルネオのマリアウ・ベイズンの研究が進んだ。⑤の学部学生短期野外調査プログラムについては学部1年生から参加できる教育プログラムである。国外の研究基地を基盤に展開した。具体的には、ボルネオのダナムバレイの調査基地を利用した比較行動学の実習に学部生を参加させた。また、ゲノム科学関連の学部学生交流としてドイツのドレスデン大学でゲノム科学実習を実施し、学部学生に早期に学問と海外経験を積ませることができた。最後に、「京都大学ブータン友好プログラム」が本学に発足したことを受けて、ブータンでの学部生の活動を支援し、新しい野外研究フィールドの確立に寄与した。

平成23年度の海外派遣数の合計は74件である。派遣日数の合計は1,880日になった。経費総額は、25,860,424円だった。なお、平成22年度の合計は78件、派遣日数は1,620日、経費総額は、22,604,187円だったので、ほぼ同規模の派遣ができたといえる。派遣者リストは、以下のとおりである。

 

 
平成23年度の合計は以上の74件である。派遣日数は1,880日になった。経費総額は、25,860,424円だった。
(文責:松沢哲郎・上垣泰浩)

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3. 最先端研究基盤事業:心の先端研究のための連携拠点(WISH)構築

文部科学省の最先端研究基盤事業の認定を京都大学が受けた。事業名は、「心の先端研究のための連携拠点(WISH)構築)」である。略称を「心の先端研究WISH事業」とする。事業実施機関は京都大学(心理学・認知科学等を実施する大学や研究機関との連携、事業代表者:松沢哲郎)。事業概要は、ヒト、チンパンジー等の比較認知実験等をおこなうネットワーク研究拠点を整備し、心理学、認知科学、脳科学や社会科学の分野を超えた学際研究を行い、他者との相互作用による心のはたらきを解明するための先端研究を推進する。実施期間3年間、平成22-24年度。補助金額は、平成22年度5億円、平成23年度5億円、平成24年度4億円、合計14億円。

文部科学省では、最先端研究開発戦略的強化事業運用基本方針(平成22年4月27日 総合科学技術会議決定)に基づき、平成22年度に創設された最先端研究開発戦略的強化費補助金(400億円)の一部を活用した「最先端研究基盤事業」について、平成22年度の補助対象事業として14件の事業を選定した。心の先端研究WISH事業はそのひとつである。

平成22年度の経費は、交付決定が遅れたため、ほぼすべて平成23年度に繰越した。平成23年度は、実質的に事業が進展した年である。本事業により、①比較認知科学実験設備(大型ケージ)、②fMRI、の2つの設備を京大に整備した。具体的には、比較認知科学実験のための大型ケージを犬山の霊長類研究所に1台、熊本サンクチュアリに1台整備した。これによって、自由に離合集散する群れ全体を研究対象としつつ、顔認証システムの導入で、1人ひとりを個体識別した上での社会交渉実験が可能になった。厳密な心理物理学的実験を可能にしつつ、2個体場面、さらには複数個体同時の社会交渉の実験的解析を可能にした。さらに遠隔地からの操作で実験ができるように準備をすすめた。「ヒト・チンパンジー・ボノボのヒト科3種の比較認知科学実験」を実現する第一歩を踏み出せたといえる。なお人間を研究対象にしたfMRI設備については、平成23年度末に京大本部構内病院西地区に、シーメンス社(3テスラ)を導入し、こころの未来研究センターの所掌とした。なお、心の先端研究WISH事業を実施する中核組織として、京都大学に「心の先端研究ユニット」が平成22年12月12日に正式に発足した。心理学・認知科学を標榜する京大の10部局64名の教員の参加するユニットである。詳細は、以下のHPを参照されたい。http://www.kokoro-kyoto.org なお初代のユニット事務取り扱い部局が霊長類研究所となり、平成22-23年度の初代ユニット長を松沢哲郎がつとめた。
(文責:松沢哲郎)

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4. アジア・アフリカ学術基盤形成事業:ヒト科類人猿の環境適応機構の比較研究

事業の目的

チンパンジー(Pan)属のチンパンジーとボノボは、系統的にもっともヒトに近い類人猿であり、我々ヒトとともにヒト科を構成する。彼らはアフリカの赤道を中心に、熱帯多雨林からサバンナウッドランドにいたる多様な環境に生息しており、それぞれの地域で様々な社会構造や道具使用を発達させて食物環境とその年変動・季節変動に対応している。これらの種の環境適応戦略の進化を地域間の比較を通じて解明することは、類人猿の進化の解明にとどまらず、Pan属との共通祖先から派生してより乾燥した地域で生き残り、そこから世界のあらゆる環境に進出したヒトの進化の出発点を探る上でも、きわめて重要である。
京都大学を中心として発展してきた霊長類学は、類人猿の進化の研究を通してヒトのルーツを探ることをひとつの大きな目標としてきた。そのため、様々な類人猿種を長期にわたって調査する調査地をアフリカとアジアに多数もち、これが日本の霊長類学の世界に誇れる特色となっている。とくに京都大学霊長類研究所は、その教員が代表を務めるPan属の長期調査地をギニア共和国のボッソウ、コンゴ民主共和国のワンバ、ウガンダ共和国のカリンズと3カ所ももつ。これらは赤道沿いに西アフリカ、中央アフリカ、東アフリカの異なる環境をカバーしており、相手国の拠点機関との長年にわたる研究協力を通して様々な研究成果をあげてきている。
この研究交流の目標は、霊長類研究所の教員と相手国拠点機関との研究協力をより強固なものにするだけでなく、3国の拠点機関同士の研究交流も発展させ、Pan属の生態学的・進化学的な研究の世界的な核を形成することにある。

事業計画の概要

本計画は、主として以下の2つの事業からなる。

① 共同研究・研究者交流
霊長類研究所と相手国拠点機関の間では、コンゴ民主共和国で1973年から、ギニア共和国で1975年から、ウガンダ共和国で1996年から共同研究を行ってきている。それぞれの国の研究者と共同研究を行うことで、政治情勢の不安定なときでも長期にわたる継続調査が可能で、これまでに大きな研究成果を上げてきた。それぞれの研究は、科研費等個別の研究費によって支えられているが、本計画では、霊長類研究所と相手国拠点機関との研究者の相互訪問を実現することによって共同研究を円滑に進め、かつ機関間の関係を強化することを目指す。具体的には、日本側研究者が各拠点機関を訪問して研究方法やデータの処理法の指導を行うとともに、拠点機関の若手研究者を霊長類研究所に招聘し、研究方法等についてのトレーニングを行う。またこれらの交流に基づいて、日本を含めた4国の研究者で共同研究・比較研究を立案し、科学研究費補助金などを用いて実施する。

② セミナー等の学術会合
平成21年度には、相手国3ヶ国で、Pan属の研究に関するこれまでの成果の発表と今後の課題に関する議論を行うセミナーを開催する。日本側からは若手研究者を派遣し、相手国機関の若手研究者との交流を深める。
平成22年度には、京都大学が主催者となって、日本で国際霊長類学会の大会が開催される。この学会で、アフリカの東部・中部・西部のPan属の環境適応戦略の比較をテーマとしたシンポジウムを開催する。それぞれの調査地での研究実績を日本側参加研究者と相手機関の研究者が発表することにより、霊長類研究所とアフリカの拠点機関の研究ネットワークのもつ可能性を世界にむけてアピールする。
平成23年度には、各調査地における3年間の共同研究と、調査地間の比較研究の成果を発表するシンポジウムを、コンゴ民主共和国で開催する。アフリカの研究者が国の枠を超えて集まる機会は、きわめて限られている。このような場を持つことにより、各機関の間の関係を強め、比較研究の発展の礎を築く。

平成23年度の研究交流成果

研究協力体制の構築状況

本年度は、プロジェクトの締めくくりとして、コンゴ民主共和国の拠点機関である生態森林研究所に、アフリカ3国と日本の研究者が集まってセミナーを開催した。他費による参加も含め、当初予定していた規模を大きく上回る26名の参加研究者が集まることになり、国際シンポジウムとしての開催となった。このシンポジウムでは、本プロジェクトで進めてきた研究やそれぞれの拠点機関で進めてきた関連研究の研究発表を行った。日本から多数の研究者が参加したことも歓迎されたが、アフリカの研究者が他の研究所に集まってワークショップを開くということがこれまでにはあまりなく、大きな盛り上がりを見せた。
 シンポジウムの締めくくりの討議では、アフリカ側参加者から、霊長類研究の分野で日本との連携を今後さらに強化すること、アフリカ霊長類学会の設立に向けてさらに協力体制を強化することが提言された。このような提言がなされたことからも、日本とアフリカ3国を結ぶネットワーク型の研究協力体制の構築という初期の目的が十分に達成されたことがわかる。

学術面の成果

学術面では、3年間の研究で行なってきた類人猿の環境適応機構についての比較研究の成果のほか、本事業に参加する研究者の行っているさまざまな研究の成果が上記のワークショップで発表され、熱心な討論が交わされた。とくに、アフリカ側研究者の何人かから、独自に発案した研究の発表がなされたことは、本事業の大きな成果だったといえる。とくに、本事業で2010年度に京都大学博士号を取得したMulavwa博士は、生態森林研究所の研究者の独立した研究者としての育成に力を入れており、本事業の成功に大きく貢献している。
業績面でも、査読のある学術雑誌および書籍に6本の論文を発表することができた。これにより、類人猿の環境適応機構に関する理解を大きく進めることができた。

若手研究者養成

上記のシンポジウムに参加した参加研究者のうち、約半数が若手の研究者であった。また、150人にものぼる一般参加者にも多数の若手研究者が含まれており、日本およびアフリカの若手研究者の要請には大きく貢献した。また、本年度も引き続き行ったコンゴ民主共和国、ギニア共和国、ウガンダ共和国での協同研究にも多くの若手研究者が参加し、研究面での技術や発想力を養った。

社会貢献

アフリカ大陸は、霊長類の生息の中心地であり、ヒトの誕生の場でもある。しかしそのアフリカでは、霊長類学が十分に発達しているとはいえず、2006年にウガンダで開催された国際霊長類学会の学術大会がアフリカ大陸で開催されたはじめての大会であった。米国、欧州の多くの国、および日本にあるような国ごとの霊長類学会はアフリカにはなく、アフリカ人の霊長類研究者は、多くの場合欧米および日本の研究者の共同研究者として手伝いをするという立場に甘んじてきた。
そういったアフリカから、アフリカ霊長類学会を設立したいという機運が高まってきたのは、本事業の大きな成果であり、アフリカの社会の学術面での成熟に大きく貢献するものである。また、日本のイニシアティブでアフリカ霊長類学会が設立されることになれば、世界における日本の学術的地位の向上にも大きく貢献する。
なお、シンポジウムの最後に、アフリカ霊長類学会の設立に道筋をつけることを目標としてアジア・アフリカ学術基盤形成事業に再度応募してほしいという希望がアフリカ側拠点機関から自主的に出された。そこでシンポジウムに引き続いて次期計画の具体案について相談して申請したところ、採択していただくことができた。次期の3年間では、本事業の成果を確実に成熟させ、大目標にむけた大きな成果を上げたいと考えている。
(文責:古市剛史)

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5. 環境省 環境研究総合推進費:高人口密度地域における孤立した霊長類個体群の持続的保護管理に関する研究

本研究は、20年後の世界に多くの霊長類種が将来にわたって存続可能な状態で残っていることを究極の目的とし、孤立個体群の存続のリスク要因に関する学術的な研究と保護政策への提言を、これまで日本人研究者が深く関わってきたアフリカ、アジア、日本のフィールドで実施する。本研究を構成する3つのサブ-間の今年度の成果は以下の通りである。

1) 最小存続可能集団の定義にむけた孤立個体群の生態学的・集団遺伝学的研究

糞試料の遺伝子分析法の改良

 2段階マルチプレックスPCR法の有効性を検討した結果、第1段階のPCRにおけるプライマー競合によるPCRの効率低下は最終判定に大きく影響しないこと、第2段階のPCRではプライマー競合を考慮し相性のよいプライマーをセットにすれば、マルチプレックスPCRで同時に複数の座位に関する多型情報が得られること、が明らかになった。この結果、前年度に調査できた標識座位と比べると検査できる遺伝標識は、常染色体STR標識では6座位から17座位、Y染色体STR標識では6座位から12座位、と飛躍的に増加した。従って、この改良により、DNA収量が低い糞試料でも、判定結果の再現性確認のために試料を消耗するリスクが緩和され、試料を節約的に利用できることで以前には分析したくても対象にできなかった標識座位が調べられるようになり、多くのマーカーで個体群の多様性をさらに客観的に評価できるようになった。

類人猿を対象とした地域個体群の構造の研究と糞試料による遺伝子構造の分析

ボノボについては、Wamba/Iyondji地区、Lomako地区、Salonga地区、TL2地区、Lac Tumba地区、Malebo地区からのサンプル収集に成功した。また、これらのサンプルを上記の方法で分析することにより、ボノボの生息域のほぼ全域にわたるハプロタイプの分布構造を明らかにすることができた。また、TL2では、他地域と分化したハプロタイプで構成されるユニークなクラスターが同定された。これらの結果は、ボノボの保全プログラムの作成にあたってのプライオリティー集団の選定等に大きく貢献する。
ニホンザルについては、生息状況や個体群動態の異なる3つの個体群から得たDNA試料を分析し、MHC-STR6座位と non MHC-STR 20座位にみられる多様性を定量した。とくに今回考案したMHC遺伝子の隣接領域の多様性に関する分析では、従来のMHCのタイピングとは異なって生存価に関係する遺伝子の多様性を評価することができ、野生個体群の絶滅リスクを遺伝学的に明らかにすることに役立つ可能性がある。
高人口密度地域に生息するアジアのマカク類については、スリランカのトクモンキー3亜種とバングラデシュのアカゲザルについて、多くの集団から糞試料を収集してDNAを抽出し、遺伝子多型とその分布に関する予備的分析を行った。

2) 孤立個体群における人獣共通感染症のリスクアセスメントとサーベイランス

アフリカ類人猿の人獣共通感染症サーベイランス:

 今年度はアフリカからの野生チンパンジー/ボノボの糞便サンプルからの病原微生物特異抗体によるスクリーニングを行なうため、野生チンパンジー/ボノボ糞便の抽出液から再現性良くEBV IgA抗体を検出することに成功した。これらの結果から、アフリカで収拾し乾燥保存された糞便サンプルからの抗ウイルス特異抗体の抽出・検出方法が確立できたものと考えられた。そこで、これらの抗ウイルス特異抗体の検出系を用いて、野生ボノボ65頭におけるEBVに対する特異抗体の保有率を調べた。その結果、65頭中15頭においてEBVに対する特異抗体を保有していることが明らかになった。霊長類研究所で飼育されている14頭のチンパンジーから得た血液由来試料を用いて各種病原体に対する特異的IgG抗体の有無を検討した。その結果、15種のヒト病原微生物に対する抗体が検出された。これらの多くはヒト由来だと考えられ、ヒトからチンパンジーへの人獣共通感染症の感染が予想以上に広がっていることがわかった。
 次に、特にIgG抗体価が高かった抗EBV抗体について、糞便試料の抽出液内のIgA抗体の有無について検討を行なった。その結果、ウイルス感染刺激により宿主免疫応答としてIgG型とIgA型が同時に誘導されうること、誘導されたIgAが糞試料から検出可能であることが示された。このことから、糞試料からのIgA抗体の検出が、野生類人猿の人獣共通感染症の感染状況のサーベイランスに有効であることが確かめられた。

外来マカクザル由来病原体によるニホンザルの感染症リスク研究:

昨年度に引き続き、京都大学霊長類研究所で発生した、血小板の急激な減少でニホンザルが死亡する病気の原因解明にあたった。その結果、この病気の原因が自然宿主であるカニクイザルからのSRV-4の感染であることがほぼ確認された。さらに、SRV-4の疫学調査から、SRV-4は濃厚接触により感染が成立していることが、飼育施設ごとの疫学調査によりか明らかになった。以上のことから、外来マカクザルに自然感染している病原微生物がニホンザルに「種の壁」を越えて伝播することによる危険性について充分注意すべきこと、今後は未だ未解明部分であるニホンザルにおける血小板減少症の発症メカニズムの解析が必要であると考えられた。

3) 孤立個体群の現状分析と生息地の維持・回復のための生態学的・社会学的研究

データベースの拡充

 対象とした大半の個体群において、データベースを構築できた。今後、画像の使用許諾などの手続きが完了すれば、ホームページ上で公開する予定である。存続可能性分析に必要なパラメータは、長期研究が行われているチンパンジーの孤立個体群(カリンズ・ボッソウ・マハレ)とボノボの孤立個体群について収集・整理できた。これらの個体群では、存続に影響を及ぼす人間活動についての詳細なデータも収集できている。これらのデータを活用することで、考えられる保全対策による効果や人間社会にかかるコストを予測したうえで、具体的な保全対策を計画し、実証的な研究を開始することができる。

存続可能性分析による予測の妥当性の検討

金華山島個体群の個体数増加率とそれに影響を及ぼす3つの動態パラメータは、さまざまな要因の複合的な影響によって大きく変動することが示唆された。出産率は前年の出産率と秋の食物条件、出産直前の冬の気象条件の影響を受けていた。
これらのデータにもとづいた存続可能性分析では、2通りのシナリオについて個体数変動をシミュレーションし、予測の妥当性を検討した。その結果、動態パラメータの年次変動の大きい個体群を対象とする場合には、パラメータの長期間平均や分散などの代表値だけでは、妥当な予測を得られない可能性が高く、動態パラメータの代表値だけでなく変動特性を十分に検討したうえで、存続可能性分析を行う必要があることが示唆された。
最後に、金華山島個体群の100年後までの個体数変動をシミュレーションした結果、個体数はさらに減少していく可能性が高いことが示された。個体群の安定した維持のためには、生息環境の変化と個体群増加率の低下または死亡率の増加との因果関係を分析し、対策を講じる必要がある。

人為的な個体数激減が島嶼の孤立個体群の遺伝的多様性に及ぼす影響の検討

島嶼(金華山島)と本土(宮城県本土)の個体群に関する集団遺伝学的分析を行った。その結果、島嶼・本土にかかわらず、人為的な個体数激減は、ボトルネック効果と不十分な有効集団サイズによる強い遺伝的浮動を引き起こし、遺伝的多様性の低下を加速させることが示唆された。とくに島嶼個体群では、環境収容力によって有効集団サイズの回復が著しく抑制されたことで、遺伝的浮動がより強力に働いた可能性がある。これらの個体群では、有効集団サイズの速やかな回復が見られなければ、遺伝的多様性が次第に失われていくおそれがある。行き過ぎた有害駆除や個体数管理も、将来の遺伝的多様性に同様の影響を及ぼすことが想像できる。過去に大規模な縮小を経験した個体群、および環境収容力の小さな島嶼個体群の保全管理には、より慎重な姿勢が求められることが示された。
(文責:古市剛史)

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6. 頭脳循環プログラム

「人間らしさの霊長類的起源をさぐる戦略的国際共同研究」

最先端研究開発戦略的強化費補助金による、若手研究者の人材育成と国際共同研究の有機的連携による事業の推進として実施される、頭脳循環を活性化する若手研究者海外派遣プログラムである。平成22年度10月から実施された新たな10ヶ月以上の長期派遣事業で、平成25年3月31日までの3年度継続するものである。平成23年度は14,330,000円措置された。

本プログラムは、既に展開している国際共同研究ネットワークにオランダを加え、事業の拡充、強化、深化させ頭脳循環プログラムを円滑に推進することを目的とする。「人間らしさ」を究明する端緒として下記の3件の研究項目を掲げた。(1)意識のメカニズム:ヒトとサル類の麻酔作用機序を科学的に比較解析し、意識の消失機序の視点から高次の精神活動のメカニズムを究明する端緒とする。(派遣機関:英国・リンカーン大学生物科学講座、オランダ・フローニンゲン大学医療センター)(2)ヒトの音声言語の起源:霊長類のコミュニケーションの進化とヒトの音声言語の起源に関する研究を比較認知科学の観点から推察し、ヒトの音声言語機構の解明を前提として、霊長類のコミュニケーションの多様性とその進化機構を明らかにする。(派遣機関:英国セントアンドリューズ大学心理学部・エジンバラ動物園)(3)母系・父系社会の発生機序:霊長類の原点ともいえる原猿類の社会を、野外観察によるデモグラフィ資料と分子集団遺伝学的資料を統合して解析し、ヒトやその他の霊長類との比較を通して、ワオキツネザルの母系社会の発生機序を明らかにする。その対象社会としてチンパンジーおよびボノボの父系社会も解析する。(派遣機関:ドイツ霊長類センター、派遣フィールド:マダガスカル)これらの研究項目は脳-言語-社会という必然的に相互に関係を有するものであり、今後の学際的研究の発展を視野にいれている。ここに掲げた研究機関に加えて、従来から精力的に継続しているフィールド研究拠点も含めて総合的に運用する。

平成23年度は(1)「意識のメカニズム」プログラムは英国・リンカーン大学に宮部貴子助教を派遣し、今後意識の解析に重要になるニホンザルにおける顔の表情評価(特に痛みについて)のコンピュータ解析を実施した。(2)「ヒトの音声言語の起源」プログラムは英国・セントアンドリューズ大学およびエディンバラ動物園に、香田啓貴助教を派遣し、フサオマキザルとリスザルの異種間音声コミュニケーションの解析をおこなう計画を実施した。(1)(2)の両プログラムは解析の緒に着いたばかりで、まだ成果は上がっていないが、主担当研究者平井が両研究機関を視察し、対応教員と話し合いをおこなったところ、非常に協力的で、施設環境も計画を達成するために十分なものであった。成果の達成を十分に期待できると確信した。(3)「母系・父系社会の発生機序」プログラムはドイツ霊長類センターならびにマダガスカルへ市野進一郎教務補佐員を派遣し、これまで収集してきたワオキツネザル(母系社会モデル)の血液サンプルを使って分子集団遺伝学的解析をおこなった。マダガスカルでは従来の観察データに新しく生じた集団の変化データを追加した。また、担当研究者の橋本はウガンダに出張し、これまで蓄積してきたチンパンジーおよびボノボ(父系社会モデル)の社会行動データを再検討するとともに、新たな観察データを追加した。(3)のプログラムはいずれもこれまで長年解析してきたデータに基づいた計画なので、母系・父系のデータを比較解析することで、さらなる十全な成果が望める。
(文責:平井啓久)

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7. 人間の進化

京都大学ブータン友好プログラム

 ブータン国を舞台に、京都大学固有の野外研究の伝統を踏まえた全学的な国際交流事業をおこなう事業である。ブータンは、人口70万人のヒマラヤの小国である。最初の縁は、1957年晩秋の桑原武夫教授らによる第3代王妃の歓待にあった。並存する各部局独自の取り組みを束ね、日本で最もブータンと縁の深い大学として、ブータン王立大学ならびに保健省等と協力して、ブータンの国是である国民総幸福量(GNH)をはじめ、健康、文化、安全、生態系、相互貢献の5つの側面から総合的な交流をおこなう。そのために必須な現地調査、交流データベース整備、映像・文書アーカイブ作製、HPからの発信、次世代を担う若手研究者の交流プログラム等を推進する。HP参照http://www.jp.kubhutan.org/
 英文の正式名称を、「Kyoto University Bhutan Friendship Program」と称する。平成22年10月に第1訪問団(隊長:松沢哲郎ほか6名)を派遣し、GNHの提唱者である第4代国王のジグミ・シンギ・ワンチュク(Jigme Singye Wangchuk)殿下にお会いした。以後、平成22年度内に4訪問団25名、平成23年度も4訪問団25名を派遣した。教員だけでなく、事務職員、研究員、大学院生、1年生を含む学部学生である。
本事業は、平成22年3月に開催された京都大学附置研究所・研究センターの年次シンポジウムにおいて全学的プログラムとして構想され、京大の研究所群22部局からの共同提案として発足した。幸い、松本紘総長や、吉川潔研究担当理事らの理解と支援があり、平成22年度の世話役部局である再生医科学研究所、平成23年度の生存圏研究所から全学経費を申請し採択された。霊長類研究所は、そもそものプログラムの提案部局として、京都大学ブータン友好プログラムの実行と事務作業を担当した。
 平成23年度の4訪問団25名の渡航において、霊長類研究所は、その大半の経費を負担した。特別経費プログラム「人間の進化」、ITP-HOPE事業、AS-HOPE事業、が原資である。平成23年度は、西澤和子研究員(前厚生労働省国際専門官、小児科医)を雇用し、5月から通年にわたって、王立ティンプー病院に派遣常駐させた。なお、平成24年度以降は、引き続き霊長類研究所を主務部局とする部局間連携事業として継続する。京大教育研究財団の助成が決まっている。
(文責:松沢哲郎)

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