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京都大学霊長類研究所 > 年報のページ > 2009年度 > 共同利用研究・研究成果-随時募集研究

京都大学霊長類研究所 年報

Vol.40 2009年度の活動

共同利用研究

研究成果 

(3) 随時募集研究

1 キンシコウの同一one male unit内におけるメス-アカンボの社会的関係
和田一雄
対応者:渡邊邦夫
秦嶺山系玉皇廟村で西梁群を2001-2005年間,調査期間中のみ餌付けをして個体識別による観察を行った.3月下旬から5月下旬に出産が集中した.出産直後に母親は餌場に出てくる際には,アカンボを腹側に抱えて採食中でも決して離さない.餌場を離れて周囲の林で休息しているときには,出産後1-2日で同一one male unit内のメスがアカンボに興味を示して抱こうとすると,手を離してアカンボを持ち去ることを認める.だがすぐ,数分から15分後アカンボを取り返しにゆく.アカンボを手にした個体は興奮した様子を見せ,同一one male unitがいる木の中で1-5m離れて座り,アカンボに注目している.すでにアカンボを持つメス,オスはアカンボに興味を示さない.
  母親以外のメスがアカンボを手にして,興奮すると,時には自分のone male unitの範囲を離れて,別のone male unitの中に入り込むことが,2002,2003,2004の3年間で計20回観察された.そのようなとき,入り込まれたunit側はほとんど全部受け入れた.反発して,別のone male unitから来たアカンボ持ちのメス達を追い出すことはなかった.この間自分のone male unitに戻るまで,平均43.2分,変異幅2-155分であった.
10月から翌年1月までの観察では林内では同様の行動が見られたし,母親以外のメスがアカンボを腹側につけて餌場に出てくることがしばしば観察され,アカンボが同一 one male unit内の個体間で共有されている行動が多発した.

2 サルの血液形態に関する研究
松本清司,西尾綾子(信州大)
対応者:宮部貴子
サルの血液細胞の形態に関する研究の目的で,平成20,21年度においてアカゲザルの血液(7頭)及び骨髄(胸骨,肋骨を各2頭)のサンプルを共同利用した.
血液(スピナー標本)及び骨髄(サイトスピン標本)をメイ・ギムザ染色して,これらの標本について次の各血球系(カッコ内は抽出した血球数)の形態的特徴を検討した.血液は,リンパ球(60),好中球(60),好酸球(39),好塩基球(20),単球(51)及びその他(5)について,骨髄は,前赤芽球(15),好塩基性赤芽球(25),多染性赤芽球(18),骨髄芽球(9),前骨髄球(19),骨髄球(43),好中球系(84),好酸球(26),好塩基球(4),マクロファージ(12),形質細胞(14),骨芽細胞(2),巨核球(5)などを抽出して画像解析を行った.この研究で得られたさまざまな情報についてヒトや他の実験動物と比較したところ,次の結果が得られた.アカゲザルとカニクイザルの間には形態的にほとんど差は認められなかった.いずれのサルもヒトに比べて血球サイズは約20%小さいものの,赤芽球系細胞の形態はよく一致していた.また,顆粒球系の一次顆粒,二次(特殊)顆粒,核の分節過程並びに単球・マクロファージ系の微細なアズール顆粒の色調,大きさ等は共にヒトと類似していた.なお,マーモセットは特に顆粒球系細胞においてマカク属とかなり異なる形態を示した.
以上,本共同研究で得られた情報を基にサル類の血球形態の特徴をまとめ,既報のマウス,ラット,イヌなどの血球形態と比較するとともに,採血,骨髄採取,標本作製ならびに鏡検法についても解説して,公表する予定である.(平成22年度中)

3 注意欠陥/多動性障害(ADHD)の動物モデル
船橋新太郎(京都大・こころの未来研究センター)
対応者:正高信男
本実験では,幼年期のサルの前頭連合野にドパミン(DA)阻害剤である6-OHDAを投与し,前頭連合野内のDA線維の破壊とDA線維の再進入を阻害した.6-OHDAにより前頭連合野背側部のDA線維を破壊した注入群と,同年齢の非注入群で行動パターンを比較し,ADHD児に見られる不注意行動や衝動性が観察されるかどうかを検討した.行動課題として,連続して呈示される写真の中からサルの写真を選択させる視覚弁別課題を行わせ,85%の正答率が連続して3日間観察されることを基準に注入群と非注入群の行動を比較した.また,4種類の視覚刺激を用いた見本合わせ課題を行わせ,その正答率を両群で比較した.非注入群では弁別課題,見本合わせ課題のいずれも難なく基準をクリアしたが,注入群では基準をクリアできなかったり,基準に達するまでに多くの試行を必要とすることが明らかになった.注入群で見られた成績の悪さは,課題遂行時の落ち着きのなさや,衝動的な反応が要因の一部になっていると考えられる.

4 ニホンザルにおけるイメージ操作の検討
川合伸幸(名古屋大・院・情報科学)
対応者:正高信男
ヒトの場合,見本合わせ(MTS)課題において,見本刺激と比較刺激が同一であるかどうかの判断は,180度を頂点に比較刺激が回転して提示されるほど遅く不正確になる.この現象は,心的回転現象と呼ばれ,ヒトは対象を心的にイメージし,その表彰を回転させた上で照合するため,回転角度が大きいほど反応するまでの時間を要すると考えられてきた.しかし,ハト,サル,チンパンジーらは,回転角度にかかわらずほぼ同じ速度で反応する.すなわち,動物を対象とした場合,心的回転現象が見られないとされてきた.
このことは,動物はイメージを内的表象とし,操作(回転)することをせずに,個々の回転角度の選択刺激と見本刺激の関係を,象徴MTSとして学習しているのではないかと考えられる.
そこで本研究では,ニホンザルを対象にMTS課題を用いて,心的回点現象を検討した.象徴MTSをしているなら,角度が大きいほど正答率が低下すると予想した.2つのアルファベットを見本刺激とし,さまざまな角度で鏡映刺激との選択を行わせた.学習基準に到達しない個体や,出血症による実験の中断等があったが,最終的に,反応時間,正答ともに角度との関連はなく,心的回点現象の証拠は得られなかった.この結果は,0度の以外は象徴MTSであるとの予想を支持しなかった.

5 野生チンパンジーの肉食における狭食性の研究
保坂和彦(鎌倉女子大・児童)
対応者:Michael A. Huffman
昨年度に引き続き,2009年8~9月に約1ヶ月のマハレ山塊(タンザニア)のチンパンジーの肉食行動に関する野外調査を実施した.今回,アカコロブスの捕食が3例,ヒヒの捕食が1例観察されたが,同所的に高密度に生息するアカオザルの捕食は観察されなかった.コロブスを捕食した事例のうち2回は,アルファ雄が最終的に肉をコントロールしたが,昨年同様,チャージングディスプレイする間,同盟者に肉を預けたり放置したりと,ヒト以外の霊長類には珍しい「近接の原理」に反する現象が見られた.また,コロブスのチンパンジーに対するmobbingは相変わらず頻繁に見られているが,複数のチンパンジーが獲物の抵抗を克服して狩猟に成功する事例を1回観察した.捕獲したのは非アルファ雄であるが,アルファ雄や元アルファ雄とともに小さなコロブス乳児の肉を分け合って食べた.このように捕食者―獲物関係が微妙に推移する中,実際にコロブスの狩猟頻度が1990年代前半に比べ,増えているのか減っているのかは,目下分析中である.ヒヒを捕獲した際の狩猟については,コロブス狩猟と異なる点が認められた.第一に,コロブス狩猟に典型的な興奮に包まれた集団狩猟ではなかった.第二に,アルファ雄を含むオトナ雄にヒヒの肉に対する執着がなく,未成熟個体を中心に肉が移動していた.

6 ニホンザルにおけるリンパ性白血病の1例
柳井徳磨(岐阜大)
対応者:鈴木樹理
霊研で維持されているニホンザルの実験および繁殖群における背景病変の検索でリンパ性白血病の1例が認められたので症例報告する.
症例は雌の成獣で,左側頬部の腫脹,ふらつき歩行を示したため捕獲し診察.左側前臼歯周囲の歯肉に化膿巣がみられたため,敗血症の治療をするも貧血が進行.2日後に輸血を行うも改善が認められず,5日後に安楽死された.剖検では,脾腫およびリンパ節の腫大が認められた.組織学的には,脾臓では白脾髄を中心にリンパ球様腫瘍細胞が高度な浸潤増殖を示し,脾濾胞ではしばしば硝子化が認められた.腫瘍細胞はリンパ球様で円形の核と乏しい細胞質を有し,しばしば分裂像が認められた.リンパ節では,傍皮質域を中心にリンパ球様細胞の浸潤増殖し,皮質のリンパ濾胞は圧迫され,中心部では広範囲な壊死が認められた.肝臓では,グリソン氏鞘や血管周囲に腫瘍細胞の巣状浸潤が認められた.その他,腎臓の間質,肺胞壁および腸管の粘膜固有層において腫瘍細胞の浸潤が認められた.免疫組織学的に,腫瘍細胞はT細胞マーカーであるCD3に陽性,B細胞マーカーであるCD20およびCD79aに陰性を示したことから,T細胞由来と考えられた.

8 類人猿の性格評定および関連遺伝子の探索
村山美穂(京都大・野生動物研究センター)
対応者:友永雅己
これまでにチンパンジーの性格評定を行い,遺伝子型との関連を解析してきた.本年度は,環境の変化による影響を測定するために,京都市動物園のチンパンジーの飼育施設間の移動に起因するストレスについて,アンケートによる評定を行った.またストレスの生理的指標を客観的に測定するために,移動の前後で定期的にフンを採取し,コルチゾルおよび腸内細菌組成の変化を測定した.遺伝子型との関連性を,現在解析中である.
  またゴリラでも性格評定を行い,チンパンジーとの種間比較の予備的解析を行った結果,「誠実性」などの性格特性に有意差がみられた.不安の感じやすさや好奇心などの性格に関与するモノアミンオキシダーゼやドーパミントランスポーターの遺伝子型が,ゴリラとチンパンジーで大きく異なっており,性格特性との関連性を解析中である.
また,アンドロゲン受容体など他の候補遺伝子に関しても,マーモセット,キツネザルなどの多数個体の型判定を行い,種ごとの遺伝子頻度を解析した.

9 イルカとチンパンジーにおける遅延自己映像認知
陳香純(関西学院大・院・文)
対応者:友永雅己
イルカおよびチンパンジーに,実況および2秒遅延ビデオ映像を個体別に提示し,その際の行動を観察記録し分析を行うことを目的とした.2009年度は,名古屋港水族館のご協力の下,バンドウイルカ(Tursiops truncatus)を対象に実験を行ったため,中間報告となる.雄4頭,雌3頭のバンドウイルカ計7頭に映像を提示し観察を行った.スクリーン前で停留する,口を開けるといった行動が観察された.続いて,映像に対してより注意を向けていた雄1頭,雌1頭を対象に「マークテスト」を実施した.マーク場所は左目上後方と噴気孔より後部の2ヵ所であった.その結果,雌のイルカが実況ビデオ映像時にはマークをスクリーンに映しだすかのような行動が観察されたが,2秒遅延ビデオ映像時にはマークを映し出すかのような行動は観察されず,実況ビデオ映像時に比べて身体を激しく動かすような行動が観察された.この実験結果のみでは自己認知を示唆することができなかったが,2種類の映像に対して異なった行動が示された.イルカは映し出される映像の違いを理解していたのではないかと考えられる.今後,チンパンジーに対しても映像提示を実施し,イルカとの行動を比較していく予定である.

10 解剖学的筋骨格モデルと無拘束カメラ画像を用いたチンパンジーの運動計測
荻原直道(慶應義塾大・理工・機械工学)
対応者:友永雅己
ヒトと最も近縁なチンパンジーの自然な運動を,自然環境下で計測し定量化することは,ヒトの直立二足歩行や情動表出の進化を明らかにする上で極めて重要である.そのためカメラを用いた運動計測が行われているが,カメラによる運動計測では,運動空間座標とカメラ座標の写像関係が既知である必要があるため,カメラ位置を固定しなければならないという大きな制約が存在した.しかし,計測対象であるチンパンジー筋骨格系の精密な数理モデルを構築し,その解剖学的制約に基づいて運動の画像にモデルをマッチングしてやれば,無拘束カメラで撮影した自然環境下における運動画像からでもその3次元的身体運動を再構築できると予想される.そこで本研究では,チンパンジーの解剖学的筋骨格モデルを用いて,無拘束カメラ画像からその3次元身体運動を計測する手法を開発することを目的とした.
まず,チンパンジー成体個体のCTスキャン画像からその3次元骨格モデルの構築を行った.具体的には,チンパンジーの全身骨格を,体幹部4節,前肢5節(肩甲骨,上腕骨,尺骨,橈骨,手部),後肢3節(大腿骨,脛骨,足部)の計20節から成る直鎖リンク系として表現し,骨格系の構造制約をその形状情報に基づいて正確に記述した.また,京都大学霊長類研究所にてチンパンジー2個体の飼育環境下での運動を,固定カメラ4台を用いて撮影し,その3次元身体運動を従来手法に基づいて定量化した.その際,無拘束カメラでの運動撮影も行った.これらを基礎データとして,無拘束カメラ画像に骨格モデルをマッチングし,3次元運動を再構築するアルゴリズムの定式化を行い,そのプログラム開発を進めた.今後,ナックルウォーキングや情動行動などの動態を3次元的に定量化することを目指す.

11 チンパンジートリオのゲノム解析研究
藤山秋佐夫(国立遺伝学研究所・国立情報学研究所),豊田敦(国立遺伝学研究所),黒木陽子(理化学研究所)
対応者:平井啓久
霊長類研究所で飼育しているチンパンジー父(アキラ)・母(アイ)・子(アユム)トリオから採血した全血の提供を受けた.各検体は,研究計画にしたがい,EBウイルスによるセルラインを確立し,経時的に凍結細胞を保存した.さらに各検体から白血球画分を調製後,ゲノムDNAを抽出精製し,SOLiD3型次世代シーケンサを用いた全ゲノム解読を進めた.これまでに,アユムDNAについては予定通りのゲノム被覆度に到達し,アキラ,アイのゲノム解読を進めているところである.当初予定していたBACライブラリ作成,染色体解析については全ゲノムデータの解析と合わせ,必要に応じて進める予定である.今後は,トリオ全体のデータが揃ったところでデータ解析を進めると共に,メチル化解析に取りかかる予定である.

12 各種霊長類の形態と機能およびその発達
三上章允(中部学院大・人間福祉)
対応者:宮地重弘
各種霊長類の形態と機能およびその発達を研究する一連の研究の過程で今年度はチンパンジーの脳形態のMRIによる計測と長波長・中波長ハイブリッド遺伝子を持つカニクイザルの行動実験を計画した.チンパンジーMRI計測は霊長類研究所保有のGE製Profile 0.2Tを用い3D gradient echo法で計測した.2000年に誕生した3個体(アユム,クレオ,パル)を各2回計測したほか,アダルト(レイコ,パン,ポポ)も計測した.髄鞘形成を反映すると考えられるT1強調画像で見た高信号領域は,2000年誕生の3個体(9歳,および9歳半)ではまだアダルトのレベルに達していなかった.この結果はチンパンジーの髄鞘形成がヒトと同じようにゆっくりと進行することを示唆している.一方,ハイブリッド遺伝子を持つ個体の行動実験は装置の不具合で,装置の手直しと予備実験を行うにとどまり,今年度は十分なデータを取得するまでには至らなかった.

13 Activity-Sleep Quantitation in New World Monkeys by actigraphy
Sri Kantha Sachithanantham(岐阜薬科大)
対応者:鈴木樹理
本年度は,野生下では同所に棲息しているボリビア由来の夜行性のヨザルと昼行性のリスザル間で,活動と睡眠に関わる変数が異なるという仮説を検証した.
  全て兄弟姉妹である7頭の成獣ヨザルおよび4頭の成獣リスザルにおけるTotal sleep time (TST)と sleep episode length (SEL)を7日間Actigraphyによって計測した.最高値のTST/24hと最長のSEL/12hを比較すると,野生下ではこの2種は同所に棲息しているにもかかわらず顕著な差が認められた.
睡眠構造におけるこの明確な種間差は,野生棲息地における睡眠の生態的特性,天敵への脅威認識や自然要因(特に降雨)による妨害に起因していると考えられる.

14 類人猿の頭蓋底を貫通する神経血管孔に関する比較解剖学的研究
澤野啓一(神奈川歯科大)
対応者:濱田穣
類人猿のPongo pygmaeus (Orang-utang),Gorilla gorilla (Gorilla),Pan (Chimpanzee),の以上3種(属)について,白骨標本を用いて頭蓋底のCan?les と For?mina を検索し,その結果をヒト(Homo sapiens)と比較した.3種(属)中で,ヒトと同様の明瞭なForamen lacerumを持つのはPongoだけであった.F. ovale,F.rotundum,Can?lis caroticus,F. jugulare,C. hypoglossiの5孔については,形状や角度に種間差は有るものの,3種(属)共にヒトと基本的に共通であった.この点に関しては,著者の提唱する「左右のFor?men ovale と 左右の F. jugulare とから成るQuadrangulus ovalo-jugularisモデル」の有効性が確認された.Quadrangulus ovalo-jugularisの 僅かにrostralis に隣接するFor?men vesaliiと ,逆に caudalis 側に隣接するCan?lis condylaris とに関しては,先述の場合と異なり,ヒトではかなり発達していたが,類人猿の3種(属)では未発達であった.この両者は脳頭蓋内血流の導出静脈が通過する所であることから,人類では脳の飛躍的な大型化に伴って発達したものであると推定できる.

15 ニホンザルにおけるSTLV-1感染状況に関する分子疫学的研究
山本太郎,江口克之(長崎大・熱帯医学研究所),大沢一貴(長崎大・先導生命科学支援センター)
対応者:鈴木樹理
霊長類研究所において行動観察用に飼育する目的で捕獲されたニホンザルを対象に,STLV-1の陽性検査を行なった.放飼場への導入前の検疫期間に採取された全血は,長崎大学熱帯医学研究所にて抗体検査に供された.同じ群由来のメス58個体の陽性率は発育段階において大きく異なった.アカンボウ期(0歳)では陽性率は60%(6/10個体)であったが,コドモ期(1~4歳)では23.1%(3/13)であった.アカンボウ期の高い陽性率は母親からの移行抗体が検出されたためだと思われる.一方,幼児期以降,陽性率は急激に上昇し,ワカモノ期(5~6歳),オトナ期(7歳以降)では陽性率が100%となった(35/35).ニホンザルの典型的な群では,多くのメスはワカモノ期に初産を迎える.HTLV-1の主要な感染ルートは母乳を介した母から子への垂直感染と考えられているが,我々の結果はニホンザルのSTLV-1の主要な感染経路が性的接触を介した水平感染であることを強く示唆している.感染経路の違いにより同じ病原体が異なる病状を呈することは,様々な感染症で知られている.今のところ箕面群においてSTLV-1との関連が疑われるような症例,死亡例はないが,今後,継続して観察を続けることで,なぞに包まれているHTLV-1/STLV-1の自然ホストでの病原性の解明につながる可能性がある.

17 The genetic basis of blue eyes in primates
Molly Przeworski , Wynn Meyer, Joseph Pickrell (University of Chicago)
対応者:今井啓雄
Only three primate species have blue eyes: a subset of humans and Japanese macaques (Macaca fuscata) and one subspecies of black lemurs (Eulemur macaco flavifrons). The genetic basis for blue/non-blue eyes is now well understood in humans. Our goal is to examine if this phenotypic variation is due to the same alleles in non-human primates, and if not, to identify genetic variants associated with this difference in eye color.
This was the first year of the project. We selected target animals with blue and non-blue eyes by directly watching or by comparing pictures of Japanese macaques at PRI. Then we extracted DNA from the blood of target animals. Now we are going through all the legal formalities to ship the DNA from Japan to USA. All the genetic analyses will be performed at the University of Chicago. In the second year, we will amplify the regions homologous to those regions known to be responsible for eye color polymorphism in humans, and resequence these regions in all the samples.

17 哺乳類及び鳥類における脳の容量と最大幅の関係
河部壮一郎(愛媛大・院・理工)
対応者:西村剛
霊長類を含む哺乳類の頭骨のCT撮影を行った.さらに,得られた断層画像から三次元脳エンドキャストを作製し,容量及び脳の最大幅,最大長,最大高を計測した.それらの関係を調べた結果,鳥類(Kawabe et al., 2009)と同様に哺乳類においても脳容量に対して最も影響を及ぼし,かつ相関が最も良い要素は脳幅であることがわかった.つまり脳の最大幅に対する脳容量の回帰式を用いることで,現生鳥類だけでなく現生哺乳類の脳を推定できることがわかった.さらに,単孔類の脳は同じ容量を持つ獣類の脳と比較すると幅が広い形態をしているということがわかった.
次に,絶滅種においても本手法によって脳容量を推定することが可能か調べた結果,獣類及び単孔類とも絶滅種の脳容量を推定することが可能であった.
以上の結果から,この脳容量推定方法は新鳥類(Kawabe et al., 2009)だけでなく絶滅種を含む哺乳類(獣類及び単孔類)に用いることができるとわかった.また脳容量と幅の関係を調べることで,古生物における脳形態の進化を定量的に表現できる可能性がある.

18 チンパンジーに対する経口避妊薬投与の効果と評価方法
村田浩一,井上桃子(日本大・生物資源科)
対応者:松林清明
野生チンパンジー(Pan troglodytes)の生息数が減少している一方で,飼育下繁殖個体数は増加傾向にあり,飼育スペースなどの問題から適切な繁殖抑制法を用いた個体数管理が急務となっている.その方法の一つとして,ヒト用経口避妊薬が普及し始めているが,チンパンジーに対する効果や有効薬用量,さらには副作用問題などの詳細については明らかでない.そこで本研究では,チンパンジーの尿中プレグナンジオール(P2)濃度の測定と投薬中の性皮腫脹変化の観察により,本種に対するヒト用経口避妊薬の有効性を評価した.対象個体は,京都大学霊長類研究所で飼育されているメス4個体であった.経口避妊薬(ノアルテン:0.1mg/kg)の投与前後に個体別に採尿し,希釈原尿のP2濃度をEIA法で測定した.測定値は,クレアチニン補正して解析した.性皮腫脹は,同一の担当者が連日観察した.経口避妊薬投与後における4頭の尿中P2濃度は低値(30-2000 ng/ml cre)を示し,ホルモン動態に周期性も認められなかった.このことから,ヒト用経口避妊薬が本種の避妊にも有効であることが示唆された.しかし,性皮腫脹は投与後にも認められ,避妊効果の有無を判断する指標にはならないと考えられた.今後は,経口避妊薬の連日長期投与による薬剤耐性の獲得や効力低下の有無を評価するため,数年にわたる尿中ホルモン測定と解析が必要である.また,長期投与後に繁殖再開した場合の問題の有無や長期投与による腫瘍発生等の副作用についても検討を加える必要があると考えた.

20 チンパンジーの口腔内状態の調査:う蝕・歯の摩耗・歯周炎・噛み合わせの評価を中心に
桃井保子,花田信弘,野村義明,今井奨,小川匠,井川知子,齋藤渉(鶴見大)
対応者:宮部貴子
われわれ7名の歯科医師は,京都大学霊長類研究所が飼育しているチンパンジーの口腔内診査を行っている.診査項目は,歯数,う蝕の有無,歯の欠損状態,歯の動揺,歯の摩耗,歯周ポケットの深さ,歯石・歯垢の付着状態,歯列の状態である.また,歯面に付着した歯垢と歯周ポケット内の滲出液を採取し,う蝕原性細菌と歯周病関連細菌をPCRで解析している.さらに,歯型をとり精密な歯列模型を作製し,これとCT写真の分析を合わせ,歯列と顎関節の形態また噛み合わせの機能的解析を行っている.平成21年度については,平成21年7月28日より平成22年3月16日まで毎月診査を実施した.現在14個体のうち7個体まで終了している.このうちの1個体については,破折した前歯の根尖部相当歯肉付近に膿瘍を認めたため,感染根管治療・根充・CRによる充填を行った.

 

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