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京都大学霊長類研究所 > 年報のページ > 2009年度 > 大型プロジェクト

京都大学霊長類研究所 年報

Vol.40 2009年度の活動

アジア・アフリカ学術基盤形成事業

ヒト科類人猿の環境適応機構の比較研究

事業の目的

 チンパンジー(Pan)属のチンパンジーとボノボは,系統的にもっともヒトに近い類人猿であり,我々ヒトとともにヒト科を構成する.彼らはアフリカの赤道を中心に,熱帯多雨林からサバンナウッドランドにいたる多様な環境に生息しており,それぞれの地域で様々な社会構造や道具使用を発達させて食物環境とその年変動・季節変動に対応している.これらの種の環境適応戦略の進化を地域間の比較を通じて解明することは,類人猿の進化の解明にとどまらず,Pan属との共通祖先から派生してより乾燥した地域で生き残り,そこから世界のあらゆる環境に進出したヒトの進化の出発点を探る上でも,きわめて重要である.
京都大学を中心として発展してきた霊長類学は,類人猿の進化の研究を通してヒトのルーツを探ることをひとつの大きな目標としてきた.そのため,様々な類人猿種を長期にわたって調査する調査地をアフリカとアジアに多数もち,これが日本の霊長類学の世界に誇れる特色となっている.とくに京都大学霊長類研究所は,その教員が代表を務めるPan属の長期調査地をギニア共和国のボッソウ,コンゴ民主共和国のワンバ,ウガンダ共和国のカリンズと3カ所ももつ.これらは赤道沿いに西アフリカ,中央アフリカ,東アフリカの異なる環境をカバーしており,相手国の拠点機関との長年にわたる研究協力を通して様々な研究成果をあげてきている.

 この研究交流の目標は,霊長類研究所の教員と相手国拠点機関との研究協力をより強固なものにするだけでなく,3国の拠点機関同士の研究交流も発展させ,Pan属の生態学的・進化学的な研究の世界的な核を形成することにある.このために,霊長類研究所で相手国の若手研究者のトレーニングを行い,各相手国拠点機関でセミナーなどをもって研究交流を深めるほか,2010年には日本で,2011年にはコンゴ民主共和国でPan属に関する国際シンポジウムを開き,その存在感を世界にアピールしていきたい.

事業計画の概要

本計画は,主として以下の2つの事業からなる.

①共同研究・研究者交流
霊長類研究所と相手国拠点機関の間では,コンゴ民主共和国で1973年から,ギニア共和国で1975年から,ウガンダ共和国で1996年から共同研究を行ってきている.それぞれの国の研究者と共同研究を行うことで,政治情勢の不安定なときでも長期にわたる継続調査が可能で,これまでに大きな研究成果を上げてきた.それぞれの研究は,科研費等個別の研究費によって支えられているが,本計画では,霊長類研究所と相手国拠点機関との研究者の相互訪問を実現することによって共同研究を円滑に進め,かつ機関間の関係を強化することを目指す.具体的には,日本側研究者が各拠点機関を訪問して研究方法やデータの処理法の指導を行うとともに,拠点機関の若手研究者を霊長類研究所に招へいし,研究方法等についてのトレーニングを行う.またこれらの交流に基づいて,日本を含めた4国の研究者で共同研究・比較研究を立案し,科学研究費補助金などを用いて実施する.

②セミナー等の学術会合
平成21年度には,相手国3ヶ国で,Pan属の研究に関するこれまでの成果の発表と今後の課題に関する議論を行うセミナーを開催する.日本側からは若手研究者を派遣し,相手国機関の若手研究者との交流を深める.
平成22年度には,京都大学が主催者となって,日本で国際霊長類学会の大会が開催される.この学会で,アフリカの東部・中部・西部のPan属の環境適応戦略の比較をテーマとしたシンポジウムを開催する.それぞれの調査地での研究実績を日本側参加研究者と相手機関の研究者が発表することにより,霊長類研究所とアフリカの拠点機関の研究ネットワークのもつ可能性を世界にむけてアピールする.
平成23年度には,各調査地における3年間の共同研究と,調査地間の比較研究の成果を発表するシンポジウムを,コンゴ民主共和国で開催する.アフリカの研究者が国の枠を超えて集まる機会は,きわめて限られている.このような場を持つことにより,各機関の間の関係を強め,比較研究の発展の礎を築く.

平成21年度の実施事業

平成21年度については,5件の派遣を実施した.事業の詳細については,アジア・アフリカ学術基盤形成事業のインターネット・サイト上で,和文・英文の双方で報告しているので参照されたい.
http://www.pri.kyoto-u.ac.jp/aaspp/index.html

2009年度派遣者
事業番号1
大橋 岳(霊長類研・研究員)
ボッソウとニンバ山におけるチンパンジー研究に
関するセミナー参加
ギニア
2009年6月9日~7月10日

事業番号2
辻 大和(霊長類研・助教)
カリンズ森林におけるチンパンジーと植生の関係
に関するセミナー参加
ウガンダ
2009年6月14日~7月14日

事業番号3
橋本千絵(霊長類研・助教)
カリンズ森林におけるチンパンジーと植生の関係
に関するセミナー参加
マケレレ大学訪問
ウガンダ
2009年6月14日~8月26日

事業番号4
古市剛史(霊長類研・教授)
マケレレ大学訪問
ルオー学術保護区における実地トレーニング
類人猿の生態学的調査法に関するセミナー参加
ウガンダ,コンゴ
2009年8月7日~10月13日

事業番号5
林 美里(霊長類研・助教)
ボッソウ・ニンバ地域における野生チンパンジーの
生態調査
ギニア
2009年11月14日~12月21日

コンゴ民主共和国ルオー学術保護区については,古市剛史が調査地を訪れて,現地調査補助員らとともに新しく始める比較研究の方法についての検討とデータ収集を行った.また,この調査方法をマニュアル化して,後述のセミナーで相手国拠点機関の共同研究者たちに伝えた.
ギニア共和国・ボッソウについては,林美里が調査地および拠点機関を訪れ,環境アセスメントや行動データの収集などについて,現地の研究者や学生を対象に実地トレーニングをおこなった.また,今後の研究期間で利用可能な資料の蓄積を開始した.
ウガンダ共和国カリンズ森林については,橋本千絵が調査地を訪れて,拠点機関研究者とも協力して植生データや果実のフェノロジーデータ,チンパンジーの行動データなどの収集を開始した.

②セミナー等の学術会合

本年度は,予定通り相手国3拠点機関において,3つのセミナーを開催した.

コンゴ民主共和国については,共同研究で調査地のルオー保護区に出張した古市剛史が,帰路赤道州ビコロ市にある拠点機関を訪問し,これまでのボノボの研究の成果と保護区周辺における森林とボノボの保護の現状・問題点・将来像に関するセミナーを開催した.拠点機関に属するほぼすべての研究者が参加し,活発な研究発表と議論が行われた.

ギニア共和国については,共同研究で拠点機関がある調査地ボッソウを訪問した大橋岳がセミナーを開催し,チンパンジーについてのこれまでの研究成果を概説するとともに,今後の地域間比較研究について討議した.また,鉱山開発や焼畑問題など,チンパンジーを取り巻く現状について,情報交換と討論を行った.さらに,データの収集方法など,本交流事業の共同研究への参与の具体的な方法を検討した.

ウガンダ共和国については,カンパラ市で調査地のカリンズ森林で,チンパンジーの重要な食物となっているイチジク属のフェノロジーに関する研究セミナーを開催した.また,調査地のカリンズ森林で,フェノロジー調査に関する実習を行った.このセミナーには,共同研究のために出張した橋本千絵と辻大和が参加した.

総括

 今年度に実施した事業により,3つの海外拠点機関と京都大学霊長類研究所との協力体制は,以前にも増して強固なものになった.とくに,本事業によるセミナーや共同研究の目的が,従来科学研究費補助金などで行ってきた学術研究とは異なり,日本とアフリカを結ぶネットワーク型の研究基盤を作ることにあるという点が歓迎され,当該国の研究者の積極的関与につながった.

 Pan属の環境適応機構を明らかにするという学術面での成果を上げるには,この先2年間のデータの蓄積を待たなくてはならず,出版物という形での業績にはつながっていない.しかし,本事業に先立つ様々な研究の成果をセミナーで発表して共有したことは,今後の学術面の成果につながるものである.また,平成22年度に日本で開催するセミナーで中間的な成果を報告するという目的を設定し,それにむけて活発な調査活動が続いている.

 これまでのような,日本人の研究を相手国の研究期間の研究者が手伝うという形ではなく,双方が対等な立場に立つ研究協力を目指すという本事業の目的は,相手国の監督省庁にもおおいに歓迎されている.まだまだ動きとしては小さいが,日本と相手国との文化交流に,重要な貢献をなしうるものと期待できる.

(文責:古市剛史)

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