ナショナルバイオリソースプロジェクト(NBRP)は、ライフサイエンス研究の基礎・基盤となるバイオリソース(動物・植物等)について収集・保存・提供を行うとともに、バイオリソースとしての質の向上、戦略的な整備を行う目的で文部科学省委託事業として2002年度より開始された。2015年度からは日本医療研究開発機構(AMED)補助金事業として実施されている。
NBRP「ニホンザル」は、人類の福祉向上に貢献する医学・生命科学研究に必要な研究用ニホンザルの飼育・繁殖・提供を行う事業として、2017年現在30ある「中核拠点整備プログラム」の1つに採択されている。開始当初より自然科学研究機構(実施部局は生理学研究所)を代表機関、京都大学(実施部局は霊長類研究所)を分担機関として、両機関の協力の下推進してきた。しかし、安定した提供体制がほぼ確立した第4期(2017~2021年度)より役割を交代し、京都大学が代表機関となり、自然科学研究機構は分担機関となった。
代表機関一覧(NBRP情報センター)
http://www.nbrp.jp/center/center.jsp
事業の目的と概要
霊長類研究所は、官林キャンパス(第1キャンパス)の東に位置する約76haの土地(第2キャンパス)に建設した環境共存型の大型放飼場(コロニー)を「リサーチリソースステーション(RRS)」と命名、NBRP「ニホンザル」の拠点として平成19年度に開所した。ここで繁殖・育成された研究用ニホンザルが、全国の研究機関に提供されている。
現在RRSには3つの放飼場に加え、5つのグループケージ棟がある。放飼場は2場を1式とし、植生を保全するために1年おきに片方を休ませ、交替で使用している。ニホンザル本来の社会・生態・行動を維持するため、1区画約5000平米の放飼場に最大50頭程度の群れで飼育している。
ニホンザルの適切な飼養や実験使用を普及させることも本事業の目的の一つである。そのため、提供を希望する研究者には、ニホンザルの動物としての特性を理解し、感染症を含めた取り扱い時の注意点や関連法規を学ぶ講習会を実施し、事前に必ずライセンスを取得してもらっている。また、事業運営の基本方針を決定する「NBRPニホンザル運営委員会」が3R*の精神を盛り込み定めた「ニホンザルの飼養保管及び使用に関する指針」の遵守を求めている。さらに、各研究機関での動物実験の審査・管理体制や飼養環境などを確認・審査する「NBRPニホンザル提供検討委員会(実施機関のメンバーを含まない)」を設け、NBRPニホンザル運営委員会で承認された計画にのみ提供を行っている。提供時にはMTA**を交わし、提供された後も定期的に飼養状況や研究成果などの追跡調査を実施している。
提供するニホンザルは、事前にさまざまな検査を実施した人獣共通感染症リスクの少ない個体である。感染症・ウイルス学・実験動物学の専門家からなる「NBRPニホンザル疾病検討委員会」を設置し、感染症に関する最新の知見を事業に適切に反映させることができる体制を整えている。各種委員は、文部科学省管轄の機関だけでなく、厚生労働省や経済産業省管轄の機関や地方自治体の機関などに所属しているメンバーから構成されており、省庁を越えた連携に努めている。
さらに、国内外の研究動向やニホンザルの基盤情報を収集し、バイオリソースとしての価値を高める活動も行っている。また、公開シンポジウム開催、HP開設、ニュースレターや学会展示などを通じた情報公開、広報活動にも取り組んでいる。
公式サイト
https://nihonzaru.jp/
代表機関(霊長類研究所 NBRPニホンザル)
https://www.nbr-macaque.pri.kyoto-u.ac.jp/
分担機関(生理学研究所 NBR事業推進室)
http://www.nips.ac.jp/research/group/nbr/
*:動物実験の基準についての理念であり、Replacement:代替法の活用、Reduction:動物使用数の削減、Refinement:苦痛の軽減の3つのRを表す。動物実験を行う者は,この3つに配慮した実験計画を立てるよう,実験ガイドラインや動物愛護管理法において求められている。実験医学 バイオキーワード集
**:Material Transfer Agreementの略。微生物株、マウス、遺伝子サンプル、細胞などの自己増殖するものや入手困難な素材の提供を行う際に結ぶ契約のことを指す。
貴重なサンプルが流出することを防ぐために締結される。主に、譲渡・販売の禁止、素材を利用して生み出した知的財産の扱いなどを契約条項に盛り込む。産学連携キーワード辞典