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English report

AS-HOPE 事業報告

事業番号:AS-24-033

野生ニシチンパンジーの化学感覚関連行動の遺伝的背景の解明

報告者:早川 卓志

期間:2012/12/17 - 2013/1/27

 報告者はチンパンジー(Pan troglodytes)を対象に、苦味受容体遺伝子の種内多様性及びその進化背景に関する研究を行なっている。実際に、飼育チンパンジーに由来する遺伝試料の分析から、西アフリカと東アフリカのチンパンジーの間で、おそらく食物の違いなどを淘汰圧とした自然選択の働きによって、苦味受容体遺伝子が分化していることを明らかにした(Hayakawa etal. 2012 PLOS ONE)。しかしながら、そのような遺伝的多様性が実際の野生群にも存在しているかどうか、そしてどのような自然選択圧が生態環境として機能しているかについて解明することを、課題として残している。そのため、2010年のITP-HOPEの派遣による、タンザニア連合共和国のマハレ山塊国立公園の東アフリカのチンパンジー(P. t. schweinfurthii)の調査に引き続き、今回、ギニア共和国のボッソウ村に生息する西アフリカのチンパンジー(P. t. verus)を調査し、遺伝的多様性及び採食植物に関する生態環境の東西アフリカ間の比較をすることを今回の派遣の目的とした。

 渡航期間のうち移動を差し引いた34日間、ボッソウ村に滞在し、うち22日間の日中において、人づけされ、全頭個体識別がされている野生チンパンジーの1群(12頭から構成)を、フォーカルもしくはアドリブサンプリングにより行動を観察した。その折、排泄物を確認した際には、遺伝子試料として収集・液浸保存した。最終的に、乳幼児を除く11頭において、2回以上の遺伝子試料収集に成功した。これらの遺伝子試料は日本に輸出し、苦味受容体遺伝子をはじめとする遺伝的多様性の分析に用いる。また、主にヒトの味覚で苦味を呈する植物に注目し、ボッソウの植生についての把握及び乾燥もしくは液浸による植物試料の収集を行った。これらの植物についても日本に輸出し、遺伝子分析及び化学分析を行い、東アフリカ(主にマハレ)の植物との比較を行う。今後、東西アフリカに由来する日本の飼育チンパンジー、マハレのヒガシチンパンジー、そして今回の派遣によって調査したボッソウのニシチンパンジーとの間で、遺伝的多様性、採食植物のレパートリー及びその化学組成を比較することで、チンパンジーの味覚関連行動及びその進化背景についての分子基盤を解明することを展望としたい。


ボッソウのチンパンジー


イチジクの実を食べるコドモのチンパンジー


チンパンジーの食痕のあるParkia bicolorの果実

AS-HOPE Project<>