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English report

AS-HOPE 事業報告

事業番号:AS-22-032

類人猿の体幹・前肢帯プロポーションの進化的起源と運動適応に関する研究

報告者:加賀谷 美幸

期間:2010/12/12 - 2011/03/11

類人猿やヒトにみられる扁平胸郭やぶら下がり適応の身体形態特徴の起源を明らかにすることを目的に、胸郭骨格の三次元形態の多様性を記述し、運動・姿勢との関連性を検証している。類人猿の独特の形質の獲得には、運動や姿勢だけでなく体の大型化も関与しているとみられるが、その関係は明確にされていない。これを解決するため、性的二型の大きい類人猿や大型の旧世界ザル等のデータを拡充すること、中~大型の他の分類群との比較を行うことが必要であった。このため、骨格標本コレクションの充実した海外の自然史博物館を訪問し、標本の計測を行う計画をたてた。

ハーバード大学比較動物学博物館では、テングザル、シロテテナガザル等の骨格標本の計測を行った。現在は国立公園となっているタイ国の北部、Doi Inthanonで1930年代に収集された多数のシロテテナガザルや、ボルネオのオランウータンやテングザルなど、生時の体重や体格の計測値が付随するものも多く、貴重な標本群が所蔵されている。また、X線動画による動物のロコモーション研究で知られる同博物館のF.ジェンキンス教授にお会いし、胸郭や前肢帯の形態の解釈について意見をうかがった。滞在中、同博物館でげっ歯類におけるバイペダリズムの進化をテーマとした博士論文公聴会が行われ、発表者と意見交換することができた。
アメリカ自然史博物館の古生物部門では、E. デルソン教授に案内していただき、マダガスカルの絶滅大型原猿類の標本を観察し、予備的な計測を行った。大型類人猿に匹敵するサイズの肋骨が、断片的ながら同一サイトから複数個体分収集されていた。同定は難しいものの、大型で前肢が類人猿のように長い、コアラ型原猿メガラダピスあるいはナマケモノ型原猿パラエオプロピテクスの肋骨が含まれている可能性が高い。観察した肋骨は、湾曲が弱い点で類人猿とも現生の原猿類とも異なり、背腹に細長い胸郭形状であったことが推定される。原猿類と類人猿では、前肢の延長を伴う大型化の過程で、体幹のプロポーションが異なる形態進化を遂げ、前肢の運動性も異なる方向に適応が進んだようである。
このほか、アメリカ自然史博物館、スミソニアン国立自然史博物館、フィールド博物館の哺乳類部門に滞在し、大型類人猿、ヒヒ、食肉類、有袋類等の、およそ70個体のデータを収集した。今後、画像データにもとづいて、種それぞれの胸郭の平均形状を算出し、特徴量のスケーリング分析等を行う予定である。


チンパンジーの骨格標本



アメリカ自然史博物館の原猿類化石キャビネット



ハーバード大学比較動物学博物館の哺乳類標本室


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