AS-HOPEの説明
事業名:人間の本性の進化的起源に関する先端研究
事業概要
「組織的な若手研究者等海外派遣プログラム」は、我が国の大学等学術研究機関、国公立試験研究機関等が、我が国の若手研究者等(学部学生、大学院生、ポスドク、助手、助教、講師及びこれらに相当する職の者)を対象に、海外の研究機関や研究対象地域において研究を行う機会を組織的に提供する事業に対して助成することにより、我が国の将来を担う国際的視野に富む有能な研究者を養成することを目指して、平成21年度の補正予算により交付される補助金として措置されることとなった基金で、霊長類研究所がこのたび採択されました。
AS-HOPEとは、本事業名の一部Advanced Studiesの頭文字をHOPEにつけた略称です。
本事業は、人間の本性の進化的起源を解明する、生物科学を基盤とした文理融合の基礎研究を総合的に推進することを目指しています。
(1)「共同野外調査プログラム」:大学院生やポスドクなどの若手研究者を焦点に、ボルネオやアフリカの研究調査基地を利用して、野外調査をおこなう
(2)「研究機関交流教育プログラム」:海外の連携機関に送り込んで実験研究の教育を受ける。
(3)「国際ワークショップ」:国際連携を強化するために開催する。
(4)「通年調査プログラム」:アフリカと東南アジアの野外研究基地を対象に現地のオーバーラップ期間を含めて1名最低数ヶ月単位の海外調査派遣をおこなう。
(5)「学部学生短期野外調査プログラム」:「霊長類学のすすめ」「野生動物研究のすすめ」その他の少人数ゼミナールの受講生等を対象に、海外の野外調査基地を体験できる現地実習形式の教育プログラムを創設する。
事業の目的
霊長類学を基礎とする多様な野生動物の研究は、日本の歴史的な貢献が基盤にあるとともに、今後の発展が期待される学術分野である。現代社会の直面する多様な課題の解決には、そもそも「人間とは何か」「人間はどこから来たのか」という本質的な問いに対する答えの探究が必要不可欠である。人間の本性の進化的起源をさぐる研究が今まさに要請されている。
野生ニホンザルの研究は1948年に始まって60余年の歴史を誇り、チンパンジー研究でも日本は世界をリードしてきた。また野生ボノボ研究は日本が開始したものである。こうした野外での長期継続研究を基盤として、人間を含めた動物群である霊長類の研究は日本が世界をリードする特色ある研究だといえる。京都大学霊長類研究所は、1967年に創設されて以来、米国のヤーキス霊長類研究所と並んで国際的な研究拠点である。しかし、1997年にドイツにマックスプランク進化人類学研究所が創設され、2002年に英国ケンブリッジ大学に人間進化科学研究センターが開設され、霊長類学は日米独英の4か国の大競争時代に突入した。
霊長類研究所は、生息地国であるアフリカ・アジア諸国の研究機関と多数の交流協定を取り結ぶとともに、欧米先進諸国の研究機関とも連携協定を結んできた。とくに、ドイツのマックスプランク進化人類学研究所とは、「人間の本性の進化的起源の解明」という同じ目的をもった研究機関として深い連携を築いてきた。すなわち、日独の科学協力協定を基礎に、マックスプランク協会と日本学術振興会が覚書を交換し、日本学術振興会の独立行政法人化して最初の事業である「先端研究拠点」事業の採択第1号として、京大霊長類研究所とマックスプランク進化人類学研究所との連携ができた。その後、ハーバード大学人類学部や英国ケンブリッジ大学人間進化科学研究センター、イタリア認知科学工学研究所、仏国エコル・ノルマル・シュペリエールも加わって、日独米英伊仏の先進6か国の連携体制ができている。
今回の事業では、「新しい霊長類学」の発展と、「霊長類以外の野生動物を対象にした研究」の推進をめざすものである。つまり、人間のこころ、からだ、暮らし、ゲノムの進化的起源を明確にし、人間を含めた自然の全体をとらえるような、日本から世界に向けて発信する日本の固有な科学的貢献を念頭に置いている。こうした、自然のまるごと全体を視野に入れた研究をめざして、京都大学は、探検大学といわれる野外研究の蓄積を基に、2008年に野外研究の推進の核となる野生動物研究センターを設立し、野生動物研究を広く展開する体制になった。また2009年には、霊長類研究所に国際共同先端研究センターという附属研究施設を新設し、英語で教育する英語コースも2011年に開設準備している。なお、2010年には、生物多様性条約のCOP10締約国会議が日本で開催される。また、第23回国際霊長類学会も20年ぶりに日本で開催される。さらに2011年には国際意識科学大会も初めて日本で開催される。こうした節目の時期に、人間を含めた霊長類の研究の深化と拡大は、日本のユニークな国際貢献を果たすという意味で重要である。とくに申請機関である京都大学としては、大学の特色としての野外研究を推進する研究戦略上、きわめて時宜を得ているといえるだろう。
事業の将来構想
京都大学霊長類研究所が取り組んでいる研究は、人間を含めた霊長類の総合的な研究である。人間のこころ、からだ、暮らし、ゲノム、健康といった多様な研究分野で、人間の本性の進化的起源に関する研究を推進している。教員約40名、大学院生約40名という構成からもわかるように、1対1のきめこまかな研究指導によって次世代の霊長類学を担う人材を育成している。連携する京都大学野生動物研究センターが取り組んでいる研究は、地球社会の調和ある共存のための野生動物研究である。人間と自然とを二分法で峻別しない、人間を自然の一部と捉える観点をたいせつにしている。人間以外の動物の研究を主として野外研究の手法でおこなうとともに、最新のゲノム科学や認知科学の手法も取り入れている。一方、霊長類研究所とは補完的な関係にある野生動物研究センターでは、オオカミ、ゾウといった陸上の大型動物や、イルカ、シャチ、といった海中の大型動物の研究が現在進んでいる。
こうした海外の大型動物を研究対象とした施設が日本に皆無である。したがって、野生動物研究センターは、京都大学の野外研究の伝統を継承する施設であると同時に、他に類例が無いので大学院の入学希望者がきわめて多い。初年度は4.4倍という高倍率だった。志の高い有為の若者が、野生動物研究をめざして京都大学に集っている。また、学部生を対象とした少人数ゼミナールを開講しているが、今回のプログラムで学部生の野外教育実習を組み込めれば、1年生から大学院生までを視野に入れた、長期的展望で、若手研究者を育成することができる。
霊長類はそもそもそのすべてがCITES(ワシントン条約)において、絶滅の危惧がある、あるいはその怖れがある種として位置づけられている。つまり稀少な種である。したがって、形態であれ、生理であれ、ゲノムであれ、何であれ、いかなる研究もその自然の生息地での社会生態研究を背景にもっている。現在でも、所属の大学院生には、幸島実習や屋久島フィールドワーク講座というかたちで、野外実習をそのカリキュラムで義務付けている。したがって、野外研究のできる研究者、野外研究への理解のある研究者を育成することをめざしている。自然の生息地での研究には、必ず自然保護あるいは野生生物保全といった視点が欠かせない。また、実験室での研究には、対象が絶滅危惧種なので、動物福祉の立場に立った環境エンリッチメントの努力が必須である。研究対象が何であれ、霊長類やその他の野生動物を研究対象にしているという基本的な自覚をもち、保全や福祉に配慮のできる次世代の研究者を育成することが必須である。
霊長類研究所も創設以来43年を経て、学問の細分化という問題に直面している。専門が深くなればなるほど、ある種の細分化が避けられない。その一方で、人間以外の霊長類や野生動物の研究には、その暮らしのまるごと全体にも配慮した広い視野と理解が不可欠である。そこで、生息地で、実習をすることによって、自らの体験を通じてこうした全体像の必要性を考えられる研究者を育成したい。それが、本事業で推進する若手研究者および学部学生の野外実習プログラムである。まずは野生ニホンザルを対象にした入門編を経た上で、他の研究対象が海外にしかいないので、そうした海外実習プログラムで野外研究者を育成する。こうして育成された研究者だけが、長期の海外調査をすることが可能になる。つまり教育が研究を下支えし、研究の進展は教育という「未来への投資」に依存している。
申請組織の将来構想としては卒業生の多様な進路のなかに、単なる学術研究だけでないキャリアを思い描いている。具体的には、現在進んでいる大学と動物園や水族館との連携が一例だろう。動物園等で野生動物とかかわる者、自然の生息地で保護の実践や行政に携わる者も、こうした教育の中から育てていきたい。また博士後期課程の有職者入学も認めているので、逆に現場の社会人として働いている獣医師や飼育員や自然保護活動の従事者の、再教育の基地になることも視野に入れている。どのような進学経路をたどっても、必ず京都大学の大学院で野外調査の基礎を学び、国内外の調査基地で、野生動物の暮らしそのものを実体験する。そうした実感を基礎としたうえで、霊長類や他の野生動物を対象とした、多様な基礎科学研究を総合的に推進することを将来構想としている。
事業の研究成果の若手研究者育成への反映
京都大学は、文部科学省の推進する「グローバル30」事業に申請して、平成21年度にその12大学のひとつとして採択された。その結果、「K.U.PROFILE」という名称の国際交流事業を国際交流機構のもと、強力に推進している。具体的には、学部・大学院の教育における英語コースの設置と、それにもとづく外国人留学生の受け入れを進めている。
霊長類研究所は、附置研究所の中で唯一、この英語コースの設置計画の一翼を担った。霊長類学は国際的にみて日本が最先端にあり、霊長類研究所は欧米やアジアの各国から広く大学院生やポスドクを受け入れている。現在、外国人比率が約20%である。すでに、カリキュラムは和英併記のものを使用しており、外国人学生の受講する課目は英語で授業をおこなっており、学位は英語で申請するシステムが整っている。なお、この英語コースすなわち「国際霊長類学・野生動物コース」の新設により、平成21年度に発足した国際共同先端研究センターを推進の核として、外国人教員を増やし、英語で学習して学位を習得する教育を充実させる体制をとっている。こうした先端的研究と優れた大学院教育は相補的な関係にある。優れた研究があって、優秀な大学院生が集まり、そうした若手研究者の育成がさらに優れた研究を産みだす。こうした教育と研究のポジティブ・フィードループの形成は、欧米ならびにアジア・アフリカの次世代の研究者の人材育成にとってきわめて魅力的な事業になるだろう。
京都大学霊長類研究所が母体となって、2008年に京都大学に新たな研究教育組織として「野生動物研究センター」ができた。その理念として、「新しい霊長類学」を創造するためには、霊長類だけに限定せずに、その他の動物や生態環境を研究することが重要だ。また逆に、霊長類学のこれまでの蓄積を活かすことで、野生動物研究を飛躍的に発展させることができる。両部局が協力して、理学研究科生物科学専攻の「霊長類学・野生動物系」として一体となって、大学院教育をおこなっている。また、両部局とも、生物科学専攻の一翼を他の3系(動物学、植物学、生物科学)と共に担っている。とくに生物科学専攻を基盤としたグローバルCOE(生物多様性)の中で、修士課程の大学院教育の充実に努めてきた。インターラボ、屋久島フィールドワーク講座、ゲノム学実習などはいずれも高い評価を得ている。また両部局は、宮崎県の幸島で、野生ニホンザルの観察実習もおこなっている。
本事業では、こうした経験を積んだ大学院生やポスドクなどの若手研究者を焦点に、ボルネオやアフリカの研究調査基地を利用して、野外調査をおこなう①「共同野外調査プログラム」を実施する。また、海外の連携機関に送り込んで実験研究の教育を受ける②「研究機関交流教育プログラム」を実施する。今回は、日本学術振興会の特別研究員も派遣対象になるので、派遣できる学生の対象は広がった。そして③「国際ワークショップ」を開催して国際連携を強化する。さらに新機軸として、④「通年調査プログラム」実施がある。霊長類およびその他の野生動物の研究には、通年にわたる継続観察が必須である。しかし、従来の単年度の、しかも小さな研究費では、そうした研究体制が整備できなかったし人材育成も困難だった。欧米では、だいたい通算2年間を野外で過ごして博士学位をめざすのが世界標準になっている。そこで、本事業では、アフリカと東南アジアの野外研究基地を対象にその通年調査体制を整備する。そのために、現地のオーバーラップ期間を含めて1名最低数ヶ月単位の海外調査派遣をおこなう。これによって、他国との競争に負けない野外研究ができるとともにそうした人材が育成される。最後に、⑤「学部学生短期野外調査プログラム」の実施である。「霊長類学のすすめ」「野生動物研究のすすめ」その他の少人数ゼミナールの受講生等を対象に、海外の野外調査基地を体験できる現地実習形式の教育プログラムを創設する。こうした人材育成が、今後の研究の基礎を与えると期待する。
本事業の実施を通して、若手研究者育成が飛躍的に促進され、「新しい霊長類学」と呼べる研究成果が生まれるだろう。従来の霊長類学は、その発祥の過程をひきずって「サル学」と呼ばれてきた。サルと揶揄するような響きがある。しかし、霊長類はサルのことではない。霊長類は人間を含む分類群である。「人間を含めた広義のサルの仲間」のことを霊長類と呼ぶ。したがって、霊長類学はまぎれもなく人間学である。「人間とは何か」「人間はどこから来たのか」「人間はどこへ行こうとしているのか」そうした問いに答えるのが本来の学問の使命であり、そうした学問は「新しい霊長類学」と呼べる。霊長類学は人間学にほかならない。すなわち生物学的な基盤をもった文理連携による「総合人間学」の確立だといえる。新しい霊長類学は人間学そのものであり、旧来の人文科学・社会科学が陥っていた「人間と動物」という旧弊な二分法から訣別する必要がある。人間だけを特別視しない立脚点が必要である。それは進化ということでもある。人間の本性は進化の産物である。人間のからだが進化の産物であるように、こころ、暮らし、ゲノムも進化の産物である。こうした人間とそれ以外の動物の連続性を強く意識するためには、どうしても霊長類以外の動物の研究が不可欠である。さらにいえば、「人間と自然」という対置もおかしい。人間はまちがいなく自然の一部である。そうした妥当な自然観をもつ必要がある。そのためには生物多様性の理解が必須になる。こうして「人間と動物という二分法からの訣別」「人間と自然という二分法からの訣別」こそが、総合的な研究の到達点であり、それに対する各論としてのさまざまな新しい科学的知見が得られるだろう。
こうした「総合人間学」の創成と「野生動物研究」の発展のためには、研究の最前線に立つ若手研究者の育成が必要不可欠である。研究対象がニホンザル以外はすべて海外にあるという特殊事情があるので、霊長類学ならびに野生動物研究は、若手研究者の海外派遣無しには成立しえない。海外派遣とくに長期のそれが研究の質を高めることになると同時に、それがまた若手研究者の育成と質の向上にもつながる。なお、学部生を対象としたフィールド実習は、大学の正規の単位として認定されるので、1年生からの一貫教育による人材育成が可能になった。
協力機関との役割分担
協力機関の京都大学野生動物研究センターは、霊長類研究所が母体となって2008年に創立された新しい研究施設であり、両者は姉妹関係にあり機能は相互補完的である。また大学院教育は、霊長類研究所は理学研究科生物科学専攻の一員として大学院教育を担っている。生物科学専攻全体で「生物の多様性と進化研究のための拠点形成」のグローバルCOEになっている。同じ専攻に所属する野生動物研究センターや他の系(動物、植物、生物物理)に所属する教員や大学院生と協力して本事業を推進する。また霊長類研究所は学部をもたないので、霊長類研究所は文理連携の研究をして幅広く人材を養成している。したがって本事業の推進に必要と判断された若手研究者の派遣については、グローバルCOEに所属する理学研究科生物科学専攻所属のものも派遣対象にする。同様に、本学の他部局の所属の学部学生であっても、「霊長類学のすすめ」「野生動物研究のすすめ」「霊長類学の現在」等の全学共通課目の履修生や公開講座等の受講者を主な対象として、教育的観点からの「海外野外実習プログラム」を本事業で実施し、若手研究者の育成に努める。
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