京都大学霊長類研究所 > 2016年度 シンポジウム・研究会 > 共同利用研究会「霊長類の食性の進化」・要旨 最終更新日:2017年1月11日

霊長類の食性の進化

発表予稿

半谷吾郎(霊長研)

霊長類の食性の進化: 種内変異と種固有の食性の特徴

霊長類の食性は、一言で言えば「いろいろなものを食べる」ことに尽きる。ある一地域の、ある特定の季節だけを取り出しても、さまざまな食物を食べるし、異なる季節には異なるものを食べ、異なる個体群は食性も異なる。その意味で、「この種は果実食者である」のような分類は、生態学的にはほとんど意味がない。一方で、採食に関連する形態や生理的特徴には、たしかに種固有の食性の特徴に対応するように見える形質が存在する。霊長類の食性に関する特徴が、どのようなメカニズムで進化したのかについて論じ、本研究会の議論のたたき台としたい。

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小薮大輔(東京大)

コロブス亜科における三次元頭蓋形態の系統パターンと食性パターン

In the present study, we compared the skulls of colobine monkeys stored in different museum worldwide, representing 44 species from African andAsian continents. Combining geometric morphometrics and biomechanicalanalyses, we aimed at better understanding the evolutionary processesthat led to the diversification of African and Asian colobines. Inparticular, we discuss here: 1) how patterns of morphological variationreflect phylogenetic differences previously described in the literature,2) the influence of size and allometric effect in inter-generadifferentiation and 3) the role played by diet and, more particularly,seed consumption in shaping the cranium and the biomechanical propertiesof the mandible. Using one of the most extensive sampling published yet,we also discuss how resource partitioning allows the coexistence ofdifferent genera/species in the same geographic areas.

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清水大輔(京都大)

化石から見たコロブスの採食適応

コロブスはサル目の中で最も葉食適応を果たした分類群である。確認されている最古の化石種はケニアの上部中新統から発見されているが、後期中新世の終わりには分布域をヨーロッパからアジアにまで広げる。最初期のマイクロコロブスを含め化石コロブスは大臼歯の中で食物の剪断を担う咬頭の高さとシェアリングクレスティッドの長さが現生コロブスの変異の範囲に入っており、既に葉食適応していたと考えられる。

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中川尚史(京都大)

パタスモンキーの食性と長肢化

サバンナに住む地上性霊長類であるパタスモンキーは、比較的大きな体のわりに昆虫食傾向が強い。同所的に生息するより小型のサバンナモンキーに比べても昆虫への依存が高く、植物性食物だけをみてもより高質の食物に依存しており、ジャーマン・ベル原理に合わない例に見える。彼らの相対的に長い肢のおかげで、高速で、かつ効率よく移動できることが、体のわりに高質の高い食物への依存を可能にしたと考えられた。

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島田卓哉(森林総合研究所)

植物二次代謝物質に対する哺乳類の適応: 野ネズミとタンニンを例に

多くの植物は,被食防御のために植物二次代謝物質を蓄積している.なかでもタンニンは木本植物の約80%に含まれており,その「毒性」への対抗手段を持つことは,植食者にとって不可欠である.今回の講演では,森林性野ネズミを例としてタンニンに対する行動的・生理的な防御機構について紹介するとともに,これまでに他の動物で得られている知見についてもあわせて紹介し,哺乳類の植物二次代謝物質に対する適応の普遍性について考えてみたい.

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松田一希(中部大)

コロブス類の消化機構:テングザルの反芻行動などを例に

霊長類の中のコロブス類は、ウシなどの反芻類のように3−4 つにくびれた胃に共生する微生物を利用し(前胃発酵)、葉や草のセルロースを分解してエネルギーを得ている。本発表では、特殊化した胃を進化させたコロブス類の消化機構について、近年、演者がかかわり明らかになってきた事例を挙げながら解説していく。特に、1)シンガポール動物園で、4種のコロブス類で実施したマーカーテストの結果から得られた、異なる粒度の食物が特殊化した胃内でどのように消化されるのか、2)飼育下、野生下のコロブス類の休息姿勢と消化機構の関係、3)霊長類で初めて報告された、テングザル特有の反すう行動とその適応的意義、の 3点について話を展開したい。

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澤田晶子(霊長研)

ニホンザルの食性と腸内細菌叢における季節変動

野生ニホンザルの食性は季節に応じて大きく変動する。屋久島のニホンザルの腸内細菌叢を網羅的に解析し、食性との関連性について検証した。ニホンザルの腸内細菌叢には年間を通じて安定性がみられた一方、葉食期には特異なパターンを示した。本発表では、食物の消化吸収に密接に関連する腸内細菌という指標に基づき、ニホンザルの採食生態について考察する。

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牛田一成(京都府立大学)

野生動物の生存を助ける腸内細菌: 分離培養と全ゲノム解析から見える世界

野生動物の食物には、多くの場合、摂食を妨げる毒物や反栄養物質が含まれている。動物側では、唾液の成分を変化させて化合物を吸着したり、味覚受容体を変えることによって当該の化合物を感じないようにするなどの適応が見られる一方で、消化管に共生する細菌によって化合物自体を分解する手段も発達させている。次世代シーケンス技術の発達によって、細菌集団の16Sメタ解析が進歩し、以前よりも高い精度で、菌叢構成の比較ができるようになったが、それはあくまでも比較する集団の構成が「違う」ことを明らかにするだけであり、実際にどの細菌が特定の機能に貢献しているのかを知るためには、細菌自体を取り出して検討するほかはない。この発表では、野生動物の生存を助ける機能を持った腸内細菌の分離と全ゲノム解析と機能解析,飼育下個体への利用の事例を紹介する。

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辻大和(霊長研)

アジアにおける、同所的に生息する霊長類の食性

同所的に生息する霊長類は、森林内で異なるニッチを占めていると考えられるが、他種共存の機構に関して情報が整理されたことはこれまでほとんどない。アジア地域では1980年代から霊長類の野外調査が本格化し、いくつかの地域で複数種の基礎生態資料が蓄積されているので、この課題に取り組むのに都合がよい。今回の講演では、まず同所的に生息する霊長類の事例を紹介し、次にニッチ分割の特徴、系統間の違いを検討したい。

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河村正二(東京大)

新世界ザル色覚・嗅覚・味覚遺伝子のターゲットキャプチャーと採食果実の物性分析

2003年以来、コスタリカの新世界ザル野生群に対して色覚オプシンの多様性解析を行ってきた。派生して、サル側の果実採食行動データと果実側の色度や匂いなどの諸物性データが蓄積した。その結果、3色型色覚の意義の見直しや嗅覚・味覚などを含めた感覚の総合的な理解の必要に迫られた。嗅覚受容体は遺伝子数が膨大なことが障壁であったが、ゲノム解析技術の革新とターゲットキャプチャー技術によって、ブレークスルーが起こった。最近の成果を含めて標題について紹介する。

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鈴木南美(霊長研)

旧世界ザルの苦味受容体の遺伝的多様性と食性との関係

霊長類は20-30種類の苦味受容体をもち、これらを用いて食物中の広範な毒性物質を検出している。果実食者や葉食者を含む旧世界ザルにおける苦味感覚の進化機構を詳細に探るために、オナガザル亜科およびコロブス亜科の全苦味受容体遺伝子の多様性解析を行った。両者の苦味受容体遺伝子の進化傾向を比較したところ、一部の苦味受容体遺伝子の保存性に違いが見られた。旧世界ザルの食性の違いに着目して苦味受容体進化機構の考察を行う。

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早川卓志(霊長研)

霊長類の苦味受容体遺伝子レパートリーの進化と生態適応

哺乳類が持つ苦味受容体遺伝子TAS2Rは、ゲノム中に20-30種類あり、それぞれが異なる苦味を受容することで多様な毒物環境への適応を可能にしている。様々な霊長類種で比較ゲノム解析をおこなったところ、真猿類は独自のTAS2R遺伝子レパートリーを持ち、これが真猿類の植物食行動に寄与していることがわかった。こうした真猿類に特異なTAS2Rレパートリーの進化と機能について紹介する。

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