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R2
論文 46 報 学会発表 49 件
R2-A1
代:岩槻 健
協:有永 理峰
協:坂口 恒介
協:小松 さゆり
オルガノイド培養系を用いた霊長類消化器官の機能解析

論文
Akihiko Inaba, Shunsuke Kumaki, Ayane Arinaga, Keisuke Tanaka, Eitaro Aihara, Takumi Yamane, Yuichi Oishi, Hiroo Imai, Ken Iwatsuki(2020) Generation of intestinal chemosensory cells from nonhuman primate organoids Biochemical and Biophysical Research Communications (BBRC) Accepted. 謝辞あり

学会発表
稲葉明彦、有永理峰、早津徳人、岡崎康司、遠藤高帆、今井啓雄、山根拓実、大石祐一、岩槻健 サル消化管オルガノイドを用いた霊長類特異的Tuft細胞機能の探索(2019.12.14) 2020年度日本農芸化学会大会(中止だが、ポスター発表選出)(福岡).

有永理峰、稲葉明彦、坂下陽彦、田中啓介、今井啓雄、山根拓実、大石祐一、岩槻健 消化管オルガノイドを用いたTuft細胞の機能解析(優秀発表賞受賞)(2020.10.23) 日本味と匂学会第54回大会(オンライン).

小松さゆり、中安亜希、大島永心、新藤壮剛、今井啓雄、伯川美穂、杉山宗太郎、綾部時芳、中村公則、山根拓実、大石祐一、岩槻健 霊長類T1R1およびT1R2抗体の作製(2021.318-21) 日本農芸化学会2021年度大会(仙台).

坂口 恒介、中嶋 ちえみ、稲葉 明彦、石井 栞 、熊谷 孝太郎 、佐藤 晃司、今井 啓雄、山根 拓実、大石 祐一、岩槻 健 サル膵管オルガノイド作製とTuft細胞への分化誘導系の確立(:2021.318-21) 日本農芸化学会2021年度大会(仙台).

有永理峰、岡村真子、山本咲也香、THUPTIANRAT  NAPATSORN、稲葉明彦、今井啓雄、山根拓実、大石祐一、岩槻健 Afamin-Wnt3a CMは霊長類消化管オルガノイドの細胞分化をサポートする(2021.3.18-21) 日本農芸化学会2021年度大会(仙台).
オルガノイド培養系を用いた霊長類消化器官の機能解析

岩槻 健 , 有永 理峰, 坂口 恒介, 小松 さゆり

 前年度に続いて、サルの消化管上皮細胞の三次元培養系(オルガノイド培養系)を使い、研究計画で課題として掲げた、1)消化管上皮細胞の至適分化条件の探索および、2)機能評価系の構築を行った。
まず、消化管オルガノイドの培養を安定化させるために近年報告されたIGF-1とFGF-2を培地に添加し、代わりにp38阻害剤であるSB202190を除いて培養した。その結果、オルガノイドを形成率が向上したばかりでなく、分化細胞数も増えたため、以後IGF-1とFGF-2を添加した培地を用いることにした。次に、この新しい培地組成を分化誘導培地に替え、II型免疫系を惹起するIL-4を加えることでTuft細胞への分化誘導を試みた。その結果、Tuft細胞選択的に発現する遺伝子であるPOU2F3、DCLK1、TRPM5などの発現上昇が観察された。また、免疫染色によりDCLK1タンパク質の発現も増加することが確認された。特筆すべきことは、このIGF-1およびFGF-2を用いることで、これまでの不安定な培養系が改善されたことである。
 現在、霊長類のTuft細胞のナチュラルリガンドが何かについてはかはまだ明らかではない。マウスの研究により寄生虫感染がトリガーとなり、Tuft細胞が活性化し一連のII型免疫反応が引き起こされるが、今回IL-4によるTuft細胞の分化誘導もその一部を再現したものである。今後は、本系を用いてII型免疫反応を増強する食品因子や化学物質の探索を目指したい。れを見ているときのチンパンジーの視線と瞳孔径を測定した。現在データの分析を進めている。



R2-A2
代:吉村 崇
協:中根 右介
協:中山 友哉
協:Ying-Jey Guh
協:Junfeng Chen
協:沖村 光祐
霊長類の生理機能季節変化の分子基盤の解明
霊長類の生理機能季節変化の分子基盤の解明

吉村 崇 , 中根 右介, 中山 友哉, Ying-Jey Guh, Junfeng Chen, 沖村 光祐

環境の季節変化に応じて、代謝、免疫機能、気分など、ヒトの様々な生理機能は季節変化を示す。また、心疾患、肺がん、精神疾患などの発症率にも季節の変化が存在するが、それらの季節変化をもたらしている分子基盤は明らかになっていない。次世代シーケンサーの進歩により、様々な組織の時系列試料において全転写産物の振る舞いをゲノムワイドに明らかにできる環境が整った。サルは進化的にヒトに近く、これまでヒトの生理機能や病態の理解に必須の役割を果たしてきた。特に、ヒトの様々な生理機能や病態の季節変化の分子基盤を明らかにするためには、繁殖などにおいて、明瞭な季節応答を示すアカゲザルを用いる以外に研究手段がない。そこで本研究では、屋外の自然条件下で飼育されているアカゲザルにおいて、全身の様々な組織における全転写産物の季節性時空間動態をRNA-seq解析によって明らかにすることを目的として実験を行ったところ、季節変動する遺伝子を抽出することに成功した(図)。また、血液におけるメタボローム解析を行うことで、季節変動する代謝物を見出すことに成功した。


R2-A3
代:関 和彦
協:大屋 知徹
協:梅田 達也
協:工藤 もゑこ
協:窪田 慎治
協:種田 久美子
霊長類の生理機能季節変化の分子基盤の解明
霊長類の生理機能季節変化の分子基盤の解明

関 和彦 , 大屋 知徹, 梅田 達也, 工藤 もゑこ, 窪田 慎治, 種田 久美子

現在までに、最も効率的に脊髄運動ニューロンに遺伝子を導入する方法を確立しつつある。つまり、マカクサルの第一背側骨間筋の神経終板帯を電気生理学的に同定し、当該部位にウイルスベクター(AAV9) によって、脊髄運動ニューロンへのGFPの導入を試みた。結果として、定性的評価では100個以上の運動ニューロンがラベルされた。ヒトでは当該筋を支配するα運動ニューロンの数は120程度と言われるので、効率は高いといってよい。G遺伝子の欠損により感染伝播能を欠失させた高発現狂犬病ウイルスベクターの開発も進捗しており、次年度は最低2回の実験を計画している。


R2-A4
代:筒井 健一郎
協:中村 晋也
協:大原 慎也
協:吉野 倫太郎
サル内側前頭葉を起点とする領域間回路の解析とうつ病モデルの創出

学会発表
吉野 倫太郎 マカクザル内側前頭皮質の側坐核及び扁桃体への投射様式の違いによる領域区分(2020年7月31日) 第43回日本神経科学大会(神戸).
サル内側前頭葉を起点とする領域間回路の解析とうつ病モデルの創出

筒井 健一郎 , 中村 晋也, 大原 慎也, 吉野 倫太郎

 我々は、内側前頭葉、特に前部帯状皮質と扁桃体や側坐核を結ぶ繊維連絡の構成を明らかにするために、ウイルストレーサーを用いた解剖学的解析を行っている。本年度は、これまでに行った逆行性ウイルスベクターを用いた実験結果の解析を進めた。さらに、マカクザルの前部帯状皮質の複数領域(背側部、膝前部、膝下部)にそれぞれ異なる蛍光タンパク質を発現する順行性ウイルスベクターを注入する実験を行った。その結果、いずれの注入部位についても扁桃体や側坐核において標識された軸索が認められたが、その分布パターンには違いが認められた。今後は、さらに解析と実験を進め、これらの解剖学的結果について論文投稿の準備を行うとともに、化学遺伝学的手法による機能阻害実験によりこれらの神経経路の機能を調べていく。本研究の一部について、第43回日本神経科学大会(ポスター)および第61回日本神経学会学術大会(招待講演)において発表を行った。


R2-A5
代:Zhijin Liu
協:Fang Dong
Phylogenetic genomics and adaptive evolution of the genus Trachypithecus
Phylogenetic genomics and adaptive evolution of the genus Trachypithecus

Zhijin Liu , Fang Dong

The divergence between limestone and forest langurs was estimated to have occurred at ~2.90 Mya (95% HPD 2.23–3.56). Phenotypically, the limestone langurs exhibit generally black fur coloration, while the forest langurs are predominantly gray pelage coloration. As melanocortin 1 receptor (MC1R) is a critical regulator of melanin pigment formation during pelage development, we first examined the MC1R gene in both limestone and forest langurs. We found one amino acid substitution (E94D) of the MC1R in all limestone langurs, but not in any forest langurs.
To further explore the effects of the substitution E94D of MC1R on melanin synthesis in limestone langurs, we evaluated MC1R activity by in vitro cyclic adenosine monophosphate (cAMP) assays of MC1R-94E and MC1R-94D. We measured the production of intracellular cAMP in response to different concentrations of α-MSH with MC1Rs from four primate species (Homo sapiens, Macaca mulatta, T. francoisi and T. phayrei), respectively (Fig 4). All MC1Rs showed a dose response to increasing concentrations of a-MSH. With increasing concentrations of α-MSH, the cells showed an increasing production of cAMP. MC1R of limestone langurs (T. francoisi) exhibited significant higher level of basal cAMP production compared to forest langurs (T. phayrei) and other primates (H. sapiens and M. mulatta) (P value < 0.01).



R2-A6
代:南本 敬史
協:永井 裕司
協:小山 佳
協:堀 由紀子
協:三村 喬生
脳活動制御とイメージングの融合技術開発

論文
Nagai Y, Miyakawa N, Takuwa H, Hori Y, Oyama K, Ji B, Takahashi M, Huang XP, Slocum ST, DiBerto JF, Xiong Y, Urushihata T, Hirabayashi T, Fujimoto A, Mimura K, English JG, Liu J, Inoue K, Kumata K, Seki C, Ono M, Shimojo M, Zhang MR, Tomita Y, J Nakahara, Suhara T, Takada M, Higuchi M, Jin J, Roth BL, Minamimoto T(2020) Deschloroclozapine, a potent and selective chemogenetic actuator enables rapid neuronal and behavioral modulations in mice and monkeys. Nature Neuroscience 23:1157–1167. 謝辞あり
脳活動制御とイメージングの融合技術開発

南本 敬史 , 永井 裕司, 小山 佳, 堀 由紀子, 三村 喬生

本研究課題において,独自の技術であるDREADD受容体の生体PETイメージング法と所内対応者である高田らが有する霊長類のウイルスベクター開発技術を組み合わせることで,マカクサルの特定神経回路をターゲットとした化学遺伝学的操作の実現可能性を飛躍的に高めること目指した.R2年度は脳移行性が高くかつDREADDに親和性の高い化合物として独自に見出したDCZの有効性についてさらなる検証を進め,抑制性DREADD(hM4Di)を両側DLPFCに発現させたサルに微量のDCZを投与することで,空間作業記憶の障害を引き起こすことを示すなど,サルDREADD操作性の高精度化・安全性・利便性を高めることに成功し,論文として報告した(NagaiらNat Neurosci,2020).さらにDCZを放射性ラベルした[11C]DCZはDREADDの脳内発現を画像化するPETリガンドとしても有用で,高感度にhM4Di/hM3Dqの発現を定量するとともに,陽性神経細胞の軸索終末に発現したDREADDsも鋭敏に捉えることに成功.サル尾状核に発現させたhM4DiをDCZで賦活化することにより、一過性に抑制することでこの部位が遅延報酬割引価値に基づいた意欲行動を制御することに必須であることを示した(HoriらbioRxiv2020).加えて,PETで可視化したDREADD陽性細胞の軸索終末部にDCZを局所注入することで経路選択的な抑制制御ができることを明らかする(OyamaらbioRxiv2021)など,複数の論文としてまとめ投稿中である.これらの成果はマカクサルの特定神経回路をターゲットとしたDREADDによる神経活動操作がいよいよ実用段階になったことを示す.成果論文をpreprintで共有するとともに,研究会を定期的に開催し(例えば霊長類脳の遺伝子導入による脳回路操作とイメージング研究会2021.2.27 online),DREADDによるサル脳回路操作の技術普及を図る.


R2-A7
代:小林 和人
協:菅原 正晃
協:加藤 成樹
協:渡辺 雅彦
協:山崎 美和子
協:内ヶ島 基政
協:今野 幸太郎
ウイルスベクターを利用した経路選択的操作技術による霊長類皮質ー基底核―視床連関回路の機能解明
ウイルスベクターを利用した経路選択的操作技術による霊長類皮質ー基底核―視床連関回路の機能解明

小林 和人 , 菅原 正晃, 加藤 成樹, 渡辺 雅彦, 山崎 美和子, 内ヶ島 基政, 今野 幸太郎

マーモセット束傍核―尾状核経路の認知機能における役割を評価するために、視覚弁別学習課題を用いて、行動学的な解析を行った。イムノトキシン細胞標的法のための遺伝子として、インターロイキン-2 受容体αサブユニット(IL-2RαとGFP変異体mVenusの融合遺伝子をコードし、融合糖タンパク質E型 (FuG-E) を用いてシュードタイプ化したNeuRetベクターを作成し、これをマーモセットの線条体内に注入した。その後、束傍核にイムノトキシンあるいはコントロールとしてPBSを注入することにより、視床線条体路の除去を誘導した。視床線条体路を欠損する動物の行動学的評価として、中村教授・高田教授の開発した、視覚弁別課題を用いて認知機能の解析を行った。視覚弁別課題では、第一に、1つの単純な画像の提示を用いて画像に触れること、およびそれにより報酬を得られることを学習させた。次に、報酬が得られる正画像と得られない誤画像の2種類の弁別用画像を同時に提示して、正画像を選択した正答率や一定の正答率に達する所要期間を評価した。一定の正答率に達した後、画像の正誤を逆転させて同様に正答率と一定の正答率に達する所要期間等を評価した。コントロール群に比較して除去群は視覚弁別学習の獲得に変化はなかったが、逆転学習の実行が低下する傾向を示した(t検定、P = 0.063)。本実験は、コントロール群m実験群のそれぞれを2頭の動物を用いて行ったため、動物数を追加して確認する必要がある。行動テストの後、視床線条体路を構成する細胞数の減少を抗GFP抗体を用いて免疫組織学的に検出した。コントロール群に比較して、実験群の束傍核細胞数は40%程度に減少することから経路の除去を確認した。


R2-A8
代:石田 裕昭
協:西村 幸男
マカクザル前頭極の多シナプス性ネットワークの解明
マカクザル前頭極の多シナプス性ネットワークの解明

石田 裕昭 , 西村 幸男

前頭極は、霊長類に特有の前頭前野領域であり、ヒト・マカクザルでは「認識していることを認識する」メタ認知に関与すると言われている。前頭極に関して統合失調症患者の脳形態学的研究では、前頭極の体積減少が示され、これが患者の病識欠如や社会生活を送る上での困難さ(目的指向的な行動制御の困難さ)に関わる可能性が示唆されている。
ヒト脳fMRIを用いて前頭極の機能的ネットワークが調べられてきた一方で、細胞レベルでの神経ネットワークは未解明の部分が多い。そこで、本研究課題では、前頭極を有するマカクザルをモデルに、狂犬病ウイルスを用いた逆行性越シナプストレーシング法を用いて、前頭極の多シナプス性神経ネットワークの解析を行った。
これまでに、一次シナプスまでの神経ネットワーク(N=2)、二次までの多シナプス性ネットワーク(N=2)について解析を完了した。これらのデータに基づき、マカクザル前頭極の皮質間ネットワークについてまとめ、論文の執筆を進めている。
2020年度は、三次までの多シナプス性ネットワークを明らかにするために、サル2頭を用いて注入実験を実施した。その結果、2頭のうち1頭については期待した線条体への感染が認めらなかったことから、三次までの越シナプス感染に至らなかったと解釈した。ウイルスベクターの生存時間の再検討が必要と考えられる。来年度は、三次シナプスまでの感染させた個体を追加し、前頭極−大脳基底核ネットワークの実態を明らかにする。



R2-A9
代:橋本 均
協:笠井 淳司
協:勢力 薫
霊長類脳の全細胞イメージングと神経回路の全脳解析

論文
Masato Tanuma. Atsushi Kasai, Kazuki Bando, Naoyuki Kotoku, Kazuo Harada, Masafumi Minoshima, Kosuke Higashino, Atsushi Kimishima, Masayoshi Arai, Yukio Ago, Kaoru Seiriki, Kazuya Kikuchi, Satoshi Kawata, Katsumasa Fujita, Hitoshi Hashimoto(2020) Direct visualization of an antidepressant analog using surface-enhanced Raman scattering in the brain. JCI Insight 5(6):e133348. 謝辞あり
霊長類脳の全細胞イメージングと神経回路の全脳解析

橋本 均 , 笠井 淳司, 勢力 薫

学会発表
丹生光咲、笠井淳司、勢力薫、橋本均.(2021年3月8日)「全脳レベルの活動・回路マッピングから解き明かすストレス脳」第64回日本薬理学会(札幌コンベンションセンター)

笠井淳司、勢力薫、橋本均.(2021年3月9日)「全脳活動地図と経時的活動が示す不安様行動の制御機構」第64回日本薬理学会(札幌コンベンションセンター)

本年度は高田研で作成された全脳感染性蛍光標識アデノ随伴ウイルスベクターを用いて脳全体の神経細胞を蛍光標識した霊長類脳を得た。また、高田研で作成された刺激依存的な蛍光標識アデノ随伴ウイルスベクターを用いて、微小脳領域内の刺激依存的な全脳投射パターンをFASTを用いてシングル細胞レベルで観察した。


R2-A10
代:小松 英彦
協:齊藤 治美
視覚の充填知覚を司る情報処理機構の探索
視覚の充填知覚を司る情報処理機構の探索

小松 英彦 , 齊藤 治美

2頭のサルに注視課題を訓練し、第一次視覚野(V1)の視野地図で盲点に対応する視野を表現している領域(盲点領域)からニューロン活動の記録を行った。片目を遮蔽して単眼視の条件で、盲点を覆う一様な刺激を提示し、盲点で充填知覚が起きる条件で、V1の各層にどのような活動が生じるかを多チャンネル電極を用いて調べた。その結果、V1盲点領域の深層と浅層の両方で視覚応答が見られた。次に、充填知覚に伴い盲点領域およびその周辺領域で同期活動が生じるかを調べるために、2本の多チャンネル電極を同時に刺入して記録を行った。この結果については現在解析中である。V1と外側膝状体を結ぶ双方向の回路の働きにより、充填知覚時の活動が生じるかをオプトジェネティクスの方法により調べる計画であったが、実験が予定より遅れたために共同利用で予定していたオプトジェネティクスの研究については行うことができなかった。


R2-A11
代:南部 篤
協:畑中 伸彦
協:知見 聡美
協:佐野 裕美
協:長谷川 拓
協:纐纈 大輔
協:Woranan Wongmassang
αシヌクレイン過剰発現モデルサルを用いたパーキンソン病の病態生理の解析
αシヌクレイン過剰発現モデルサルを用いたパーキンソン病の病態生理の解析

南部 篤 , 畑中 伸彦, 知見 聡美, 佐野 裕美, 長谷川 拓, 纐纈 大輔, Woranan Wongmassang

パーキンソン病 (PD) の病態を調べるため、ドーパミン選択的神経毒MPTPを投与したニホンザルPDモデルを作製し、大脳基底核の中継核である淡蒼球外節(GPe)の神経活動を記録した。大脳皮質運動野の電気刺激に対する応答を調べてみると、正常サルでは早い興奮-抑制-遅い興奮という3相性の応答が観察できるが、PDサルでは遅い興奮が著しく増大していた。GPeにおける皮質由来の遅い興奮は、大脳皮質-線条体-GPe-視床下核-GPe路を介して伝達されることから、PDでは線条体からGPeへの情報伝達が増強されていることが示唆された。同様の応答様式がドーパミンD2受容体のノックアウトマウスでも観察されることから、線条体-GPeにおける情報伝達の増強は、主にD2受容体を介する情報伝達の消失によると考えられる。
 また、aシヌクレイン過剰発現PDサルを作製するため、aシヌクレイン遺伝子を搭載した逆行性感染型アデノ随伴ウイルスベクター(AAV2-retro)をニホンザルの線条体に注入投与した。約2か月で黒質緻密部のドーパミン神経の細胞死が起こる考えられたが、行動や大脳基底核の神経活動の明らかな変化は観察されなかった。黒質緻密部を組織学的に調べたところ、逆行性に感染した細胞は多くなく、細胞の脱落も観察できなかった。現在、新たに開発した逆行性感染型AAVベクターを用い、遺伝子の発現効率を調べる実験を進めている。



R2-A12
代:Heui-Soo Kim
協:Woo Ryung Kim
Analysis of microRNA derived from long interspersed nuclear element (LINE) in primates

学会発表
Woo Ryung Kim, Hiroo Imai, Heui-Soo Kim Expression Analysis of MicroRNA-21-5p and 221-3p in Chimpanzee(2020.08.06) he 62th Annual Meeting and International Symposium of Korean Society of Life Science(Gyeong-ju,Republic of Korea).

Woo Ryung Kim, Hiroo Imai, Heui-Soo Kim Molecular Characterization of MicroRNA-887-3p Derived from Long Interspersed Element in Chimpanzee(2020.10.15) The 29th international KOGO Annual eConference Frontiers in integrative Genomics and Translational Medicine(Online).

Woo Ryung Kim, Hiroo Imai, Heui-Soo Kim Expression and Target Gene Analyses of miR-21-5p and miR-221-3p in Chimpanzee(2020.10.15) The 29th international KOGO Annual eConference Frontiers in integrative Genomics and Translational Medicine(Online).

Woo Ryung Kim, Hiroo Imai, Heui-Soo Kim Expression and Bioinformatic Analyses of MicroRNA-887-3p in Chimpanzee(2020.10.22) The 75th Annual Meeting of the Korean Association of Biological Sciences(Online).

Woo Ryung Kim, Hiroo Imai, Heui-Soo Kim Expression and Bioinformatic Analysis of MicroRNA-21-5p and 221-3p in FOXP2(2020.10.22) The 75th Annual Meeting of the Korean Association of Biological Sciences(Online).

Woo Ryung Kim, Hiroo Imai, Heui-Soo Kim Expression and Bioinformatic Analysis of microRNA-887-3p Derived from Long Interspersed Element in Pan troglodytes(2020.11.26) International Conference of the Genetics Society of Korea 2020 & 7th Asia-Pacific Chromosome Colloquium(Pusan,Republic of Korea).

Woo Ryung Kim, Hee-Eun Lee, Hiroo Imai, Heui-Soo Kim Expression and Bioinformatic Analysis of miR-21-5p, miR-221-3p in FOXP2(2020.11.26) International Conference of the Genetics Society of Korea 2020 & 7th Asia-Pacific Chromosome Colloquium(Pusan,Republic of Korea).

Woo Ryung Kim, Hiroo Imai, Heui-Soo Kim Expression and Bioinformatic Analyses of miR-887-3p in Pan troglodytes(2020.12.02) The Korean Society for intergrative biology (Online).

Woo Ryung Kim, Hiroo Imai, Heui-Soo Kim Molecular characterization of MicroRNA-21-5p and MicroRNA-221-3p in FOXP2(2020.12.02) The Korean Society for intergrative biology (Online).
Analysis of microRNA derived from long interspersed nuclear element (LINE) in primates

Heui-Soo Kim , Woo Ryung Kim

Transposable element (TE), which jumps around another region of genome, can be alternative enhancer, promoter and generate some microRNAs (miRNAs). MicroRNA is short single strand RNA (ssRNA) that is about 22 nucleotides in length. The miRNA binds to 3’ untranslated and regulates the expression of target messenger RNA (mRNA). The miRNA also plays a crucial role in several biological processes at the post transcriptional level. MicroRNA-588, miR-887-3p, miR-582-5p and miR-1825 are derived from long interspersed element (LINE), which is group of non-long terminal repeat retrotransposons and account for approximately 21% of human genome. The expression patterns of miRNAs were analyzed in various tissue samples of chimpanzee (Pan troglodytes) that has considerable genetic similarities with human. MicroRNA-887-3p and miR-582-5p were highly expressed in spleen and the highest expression of miR-588 was identified in kidney of chimpanzee. Especially, miR-1825 which regulates progression of several cancers and other diseases is highly expressed in colon. Bioinformatic analyses about miR-1825 were also conducted by using several bioinformatic tools. Common target genes of miR-1825 were chosen by four databases of target gene prediction, including TargetScan, miRDB, miRWalk, miRPathDB. For the additional study, target gene of miR-1825 will be selected and its expression patterns in chimpanzee will be analyzed.


R2-A13
代:北山 遼
協:早川 卓志
グエノン類の混群研究メカニズム解明のための遺伝マーカーの検討

論文

学会発表
北山遼, 峠明杜, 橋本千絵, 五百部裕, 今井啓雄, 古市剛史, 早川卓志 ゲノムから探るグエノン類の混群形成メカニズム(2021年3月6日) 第65回プリマーテス研究会(日本モンキーセンター(愛知県犬山市)・オンライン).

グエノン類の混群研究メカニズム解明のための遺伝マーカーの検討

北山 遼 , 早川 卓志

ウガンダ共和国のカリンズ森林に生息するアカオザルとブルーモンキーは混群を形成する。混群の成立要因はいまだよくわかっていない。そこで本研究は、従来の仮説に分子の視点を取り入れ、品質の良い飼育グエノン類の遺伝試料を用いて、カリンズのグエノン類の混群研究に有用な遺伝子マーカーの選抜をおこなうことを目的とした。2020年10月に霊長類研究所を訪問し、グエノン類11種の遺伝試料を譲り受けた(霊長類研究所訪問はコロナウイルスの感染拡大防止に最大限配慮しておこなった)。そのうち、アカオザルとブルーモンキーに近縁な4種について、全ゲノムショットガン法による全ゲノムの塩基配列決定をおこなった。組織からのDNA抽出までを代表者が実施し、シークエンス解析は解析業者に外注した。現在は得られた全ゲノムデータの解析中である。今後はこの全ゲノムデータを活用し、有用な遺伝子マーカーの選抜をおこなう。遺伝子マーカーの選抜にあたり、今年度に全ゲノム解析を行わなかった種や個体も解析、比較に用いることで、より正確に各マーカーの有効性を評価したい。最終的にこれらのマーカーを用いて、カリンズのグエノン類の集団解析を実施する。


R2-A14
代:田中 真樹
協:竹谷 隆司
協:亀田 将史
協:澤頭 亮
行動制御における皮質下領域の機能解析

論文
Itoh, T.D., Takeya, R. & Tanaka, M.(2020) Spatial and temporal adaptation of predictive saccades based on motion inference. Sci Rep 10:5280 . 謝辞なし

Tanaka, M., Kunimatsu, J., Suzuki, T.W.,Kameda, M., Ohmae, S., Uematsu, A. & Takeya, R. Roles of the cerebellum in motor preparation and prediction of timing. Neuroscience AOP(https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/32360700). 謝辞なし
行動制御における皮質下領域の機能解析

田中 真樹 , 竹谷 隆司, 亀田 将史, 澤頭 亮

感覚性視床は皮質下の情報を大脳の一次感覚野に中継するが、これは大脳皮質深層から視床へのフィードバック経路によって調節を受けることが知られている。運動性視床についても脳幹、小脳、大脳基底核の情報を運動性皮質にただ中継するだけではなく、視床のレベルで何らかの情報修飾が行われていると考えられる。これを明らかにするため、ニホンザルの大脳視床路を光遺伝学的に抑制し、視床のニューロン活動に及ぼす影響を調べた。京大から抑制性オプシンであるハロロドプシンを発現するウイルスベクターを提供していただき、北大で補足眼野に遺伝子導入を行った。眼球運動課題を行っているサルの視床ニューロンの記録中に、同部の光刺激によって皮質視床路を終末で抑制した。多くのニューロンが課題特異的な活動変化を示したが、課題非特異的なベースライン活動の変化も約半数で認められた。この課題非特異的な変化はオプシンを発現していない個体でも観察され、その潜時と活動変化の方向から局所の熱産生による影響が疑われた。京大で免疫組織学的検討を行っていただいたところ、大脳・視床とも良好に遺伝子発現がみられた。以上の結果はeNeuro誌(8 (2) ENEURO.0511-20.2021)に発表した。引き続き、分子ツールを用いた本共同研究課題「行動制御における皮質下領域の機能解析」をさらに発展させるための準備を進めている。


R2-A15
代:松本 正幸
協:山田 洋
協:國松 淳
マカクザル外側手綱核の神経連絡
マカクザル外側手綱核の神経連絡

松本 正幸 , 山田 洋, 國松 淳

外側手綱核から投射を受け、抑制的な活動制御を受ける中脳ドーパミンニューロンが形成する神経回路の解剖学的な探索を目的として、特に、これまで不明であったドーパミンニューロン―小脳間の神経連絡に着目した。先行研究により、ドーパミン神経系の異常との関係が指摘されている発達障害者において、小脳の異常が報告されており、ドーパミンニューロン―小脳間の相互作用が推測される。令和2年度はコロナ禍のために霊長研で実験を実施することができなかったが、共同研究者でもある所内対応者と議論を深め、どの脳領域にどのような種類のトレーサーを注入すればドーパミンニューロン―小脳間の神経連絡を同定できるのか(たとえば黒質緻密部のドーパミンニューロンが小脳のどの部位に投射を送っているのか等)、実験計画を洗練することができた。令和3年度にこの実験を実施予定である。


R2-A16
代:藤山 文乃
協:苅部 冬紀
協:平井 康治
協:緒方 久実子
協:東山 哲也
霊長類の皮質ー基底核ー視床ループの形態学的解析
霊長類の皮質ー基底核ー視床ループの形態学的解析

藤山 文乃 , 苅部 冬紀, 平井 康治, 緒方 久実子, 東山 哲也

本研究では、齧歯類の脳の尾側線条体に、ドーパミン 受容体およびドーパミンのマーカーであるtyrosine hydroxylase (TH)の発現が非常に少ない領域があることを報告した。その後、本共同利用研究によって所内対応者の高田昌彦教授、井上謙一助教の協力で得たマーモセット脳で確認したところ、同様の領域が確認され、これは種を超えた所見であることが判明し、本教室の大学院生が本年度学位論文として報告した。次年度は、この領域の機能に迫るために、D1R / D2R poor zoneの投射ニューロンが他の線条体領域の投射ニューロンと異なる性質を持つかどうかという(1)投射ニューロンの特性、D1R / D2R poor zoneにどのタイプのニューロンが存在するのかという (2) 細胞構築と、どこの領域から入力を受けてどこに出力するのかという (3) 入出力構造をその他の線条体領域と比較することで、機能が異なるかどうかを解明し、さらにこの領域が(4)霊長類にも存在するかどうかの検証を行う。


R2-A17
代:高須 正規
代謝プロファイルテストを用いた野外飼育ニホンザルの飼養管理評価
代謝プロファイルテストを用いた野外飼育ニホンザルの飼養管理評価

高須 正規

令和2年度,新型コロナウイルスの影響により,霊長類研究所への訪問が叶わず,実験を速やかに進めることが困難であった。感染拡大を防止しつつも,研究を進めるために,オンラインでのミーティングを持ち,コロナ禍における申請研究の方向を明確にした。
 まず,投稿中の論文採択のための議論を持った。さらに,投稿論文におけるレビューアからのコメントを基に,今後,進めるべき内容を議論した。加えて,行動自粛下で採取できるデータに関して議論した。
 令和3年には,投稿論文の採択を得ることに加え,ここで議論した内容を進める。これにより,臨床獣医学で用いられている代謝プロファイルテストの野外飼育ニホンザルへの応用を実現し,そのQOLの向上へ寄与したいと考えている。



R2-A18
代:二宮 太平
協:則武 厚
協:磯田 昌岐
神経路選択的トレーシング法による社会脳ネットワークの解析

論文
Noritake, Atsushi. Ninomiya, Taihei. Isoda, Masaki.(2021) Subcortical encoding of agent-relevant associative signals for adaptive social behavior in the macaque Neuroscience & Biobehavioral Reviews 125:78-87.
神経路選択的トレーシング法による社会脳ネットワークの解析

二宮 太平 , 則武 厚, 磯田 昌岐

本共同研究は、社会的認知機能に重要とされる、いわゆる社会脳ネットワークの詳細を解剖学的アプローチにより明らかにすることを目的とする。具体的には、マカクザルの内側前頭皮質(MFC)と腹側運動前野(PMv)を対象とした、越シナプス能をもたないG遺伝子欠損型狂犬病ウイルスベクターおよびテトラサイクリン遺伝子発現調節システム(Tet-onシステム)を利用した、神経路特異的トレーシング実験をおこなう。本年度はマーカー遺伝子としてGFP遺伝子を挿入したG遺伝子欠損型RVベクターの回収に成功し、当該ベクターの大量調製法と濃縮・精製法を確立した。また、げっ歯類への注入実験により、高い逆行性感染能と外来遺伝子発現能を有していることも確認した。注入実験の対象となるMFCおよびPMvの同定に必要な、細胞外電位記録法および皮質内微小電気刺激法についても実験をおこなえることを確認している。今後は、霊長類におけるベクターの有効性を確認し、必要があれば更なるベクターの調整をおこなった後、当初計画していたMFCとPMvへの注入実験および神経ラベルの解析を進めていく予定である。


R2-A19
代:小山 文隆
協:田畑 絵理
霊長類におけるほ乳類キチナーゼの遺伝子発現とその酵素機能の解析
霊長類におけるほ乳類キチナーゼの遺伝子発現とその酵素機能の解析

小山 文隆 , 田畑 絵理

キチンは N-アセチル-D-グルコサミンが β-1,4 結合した多糖で,エビ,カニ, 昆虫など多くの生物に存在している。ほ乳類はキチンを合成していないが,その分解酵素であるキチナーゼを発現している。北米での先行研究で,ほ乳類の祖先は昆虫を主食にしており,酸性キチナーゼ (Acidic Chitinase, Chia) 遺伝子がほ乳類の進化と密接に関わっていることが示された。霊長類の CHIA には二つのパラログが存在している(ここではそれぞれ CHIA1, CHIA2 とよぶ)。しかし,それぞれのパラログの遺伝子発現,機能については大部分が未解明である。我々は,ヒトで,CHIA1 は高いレベルで発現しているが,non-coding RNA であることを見出している (Tabata et al., 未発表データ)。2020 年度の研究で,Great Apes のチンパンジーで,CHIA1 が,肺で高い発現をしていることを見出した。ヒトの CHIA1 との類似性から推定すると,この遺伝子の転写物は stop codon が出る long noncoding RNA になっていると思われた。他方,ゴリラ,オランウータンでは CHIA1 の発現は認められなかった。Lessor Apes のテナガザルでは,CHIA2 が,胃で高いレベルで発現していてた。CHIA2 は,マウスやブタなどのほ乳類の胃で高い発現をする分子であり,旧世界ザルのカニクイザル,新世界ザルのマーモセットでは偽遺伝子化していた (Tabata et al., Sci Rep. 9, 159, 2019)。以上のことから,進化の過程で, CHIA1 の偽遺伝子化,CHIA2 の発現調節の変化があったものと推定された。


R2-A20
代:西村 幸男
協:鈴木 迪諒
意欲が運動を制御する神経基盤の解明

論文

関連サイト
研究室ホームページ http://www.igakuken.or.jp/neuroprosth/
意欲が運動を制御する神経基盤の解明

西村 幸男 , 鈴木 迪諒

意欲を司る腹側中脳領域(腹側被蓋野、黒質緻密部、赤核後部)が皮質脊髄路ニューロンの活動を促通する神経回路の存在を明らかにする目的で、逆行性越シナプス神経トレーサーである狂犬病ウイルスを、2頭のサルの頸膨大へ注入し、一定期間の生存期間を経て、灌流固定を行い組織実験を行なった。2頭のサル共に腹側中脳領域に脊髄へ越シナプスで投射するニューロンの存在を確認できた。さらに標識されたニューロンの一部はドパミンニューロンであった。一方で、腹側中脳で標識されたニューロンが脊髄へ直接投射するニューロンである可能性を排除するために逆行性のコンベンショナルトレーサーを1頭のサルの頸膨大へ注入し、組織実験を追加した。その結果、腹側被蓋野・黒質緻密部・赤核後部の領域から脊髄へ直接投射するニューロンの存在しないことを確認した。上記のすべての結果により、腹側中脳から脊髄へ2シナプス性に投射する神経路が存在することを明らかにした。現在これらの成果を含めて論文化を進めており、投稿予定である。


R2-A21
代:宇賀 貴紀
協:三枝 岳志
協:熊野 弘紀
協:須田 悠紀
判断を可能にする神経ネットワークの解明
判断を可能にする神経ネットワークの解明

宇賀 貴紀 , 三枝 岳志, 熊野 弘紀, 須田 悠紀

運動方向を判断する際、大脳皮質中側頭(MT)野が動きの知覚に必要な感覚情報を提供していることは明らかであるが、MT野の情報がどこに伝達され、判断が作られているのかは未解明である。本研究では、化学遺伝学的手法を用い、MT野からのどの出力経路が判断に必須であるかを調べることにより、判断を可能にする神経ネットワークを明らかにすることを目指す。昨年度に引き続き、サル1頭のMT野にhM4Di遺伝子を搭載したウイルスベクターを打ち、マルチユニットと局所電場電位(LFP)の反応変化を解析した。


R2-A22
代:佐藤 侑太郎
協:狩野 文浩
アイ・トラッキングによるチンパンジーの社会認知研究
アイ・トラッキングによるチンパンジーの社会認知研究

佐藤 侑太郎 , 狩野 文浩

当該年度は、前年度に実施した以下の実験にかかる、データ分析や論文執筆に取り組んだ。チンパンジーが他個体の音声(警戒声・採餌声)を聞いたときに、関連のある事物(果物・ヘビ)の画像と結びつけることができるかを、視線計測装置を使った実験によって調べた。実験の結果、チンパンジーが警戒声を聞いたときにヘビの画像をより長く見ることが示唆され、警戒声とヘビとを結びつけることができる可能性が示唆された。この成果は、チンパンジーの音声コミュニケーションに関わる認知メカニズムを理解するうえで重要である。
 また、類人猿が他者の身体の構造をどの程度理解しているかを、視線計測装置を使った実験によって調べた。実験の結果、類人猿も身体運動が関節によって制限されていることをある程度は理解している可能性が示唆されたものの、全体的な結果は曖昧であり、明確な結論を導くことはできなかった。瞳孔径を活用した情動反応評価についても、信頼できる結果は得られなかった。しかしながら、これらの成果は、今後の研究に方法論的観点から示唆を与えることが期待される。現在、これらの成果をまとめた論文を、国際学術誌に投稿中である。



R2-A23
代:上園 志織
霊長類島皮質の神経ネットワークに関する解剖学的研究
霊長類島皮質の神経ネットワークに関する解剖学的研究

上園 志織

 当該研究は、小型霊長類であるマーモセットを実験動物とし、神経トレーサー(狂犬病、レンチ、アデノ随伴ウイルスベクターなど)の注入により霊長類の島皮質の入力および出力系の連絡を明らかにすることで、島皮質の詳細な機能マップを作成し、島皮質が果たす機能の全容解明の基盤となる神経ネットワークを細胞レベルで包括的に示すことを目的としている。
当該研究の対象である島皮質は他の大脳皮質に比べ深部にあり、細胞構築の違いから大きく3つの亜領野(無顆粒性島皮質、不全顆粒性島皮質、顆粒性島皮質)に分類される。これまでの注入実験により、島皮質の亜領野への限局的な注入を成功させるためには、注入実験の方法をより高い精度でおこなう必要があることが分かった。そこで、2020年度はMRIの脳画像とトレーサー注入部位の同期をより精密にするために、研究協力者とMRIの際に使用する脳定位装置およびマーカーパーツの改良をおこなった。新規のマーカーパーツを実際に使用し、MRIでのテスト撮像を進めた。2021年度は見直しをおこなったシステムでのトレーサー注入実験を行う予定である。



R2-A24
代:伊村 知子
協:鈴木 千春
ヒトとチンパンジーにおける質感知覚に関する比較認知研究
ヒトとチンパンジーにおける質感知覚に関する比較認知研究

伊村 知子 , 鈴木 千春

チンパンジー7個体(オス3個体、メス4個体)を対象に、メスの性皮の腫脹に関連する色や光沢の手がかりが性皮画像に対する選好注視に及ぼす影響について検討した。昨年度までの成果から、①最大腫脹時の性皮画像を最小腫脹時の性皮画像よりも長く注視すること、②性皮の大きさや形を揃えて光沢の強度のみを操作すると、より強い光沢を持つ性皮画像を長く注視することが示された。本年度は、光沢への選好注視が性皮に特有のものかを確認するため、①色相を反転させた青色の性皮画像と、②光沢に関する輝度分布の情報は保持しつつ性皮の形が知覚できないようピクセル毎に並び替えたシャッフル画像を作成し、より強い光沢、あるいはより強い光沢と同じ輝度分布を持つ画像への選好注視が生じるかについて調べた。実験では、光沢情報の異なる2枚の画像を左右に並べて画面に4秒間提示し、注視時間をアイトラッカーにて測定した。1日につき12試行を1セッションとし、色相反転画像、シャッフル画像について2セッションずつ実施した。その結果、青色の性皮や性皮の形が知覚されない画像では、強い光沢、あるいはそれと同じ輝度分布を持つ画像への注視時間の増加は見られなかった。したがって、チンパンジーは少なくとも性皮の腫脹という文脈において、光沢への選好注視を示すことが示唆された。


R2-A25
代:荒川 那海
協:颯田 葉子
協:寺井 洋平
霊長類におけるヒトの皮膚の表現型の特性について
霊長類におけるヒトの皮膚の表現型の特性について

荒川 那海 , 颯田 葉子, 寺井 洋平

ヒトの皮膚は他の霊長類に比べ多くの形態的特徴があるが、それらがどのように進化してきたのか、その遺伝的基盤はあまり明らかになっていない。本研究ではこれまでに、発現量解析で検出された皮膚でのヒト特異的遺伝子発現を生み出すヒト系統での塩基置換を推定した。今年度の研究では、それらの置換が実際にヒト特異的遺伝子発現を生み出しているのかを、皮膚培養細胞を用いたプロモーターアッセイとゲノム編集により解明することを目的とした。始めにプロモーターアッセイに必要な各種ベクターの作成を行った。これらのベクターを皮膚培養細胞に導入する際にはエンドトキシンなどの細胞毒性を示す物質を取り除いておく必要がある。そこでベクターのクローニング後はエンドトキシンを取り除く工程を取り入れたプラスミドDNA精製を行った。また、予備実験としてゲノム編集を行った細胞株を作成中であり、プロモーターアッセイで絞り込んだ候補置換について培養細胞での発現比較を行う準備を進めた。今後、作成したベクター等を皮膚培養細胞に導入し、推定した置換サイトをヒト型と類人猿型の塩基にしたプロモーターアッセイとゲノム編集を行うことで、着目する遺伝子のヒト特異的発現を生み出す塩基置換を特定していく。


R2-A26
代:寺井 洋平
スラウェシマカクにおける自然選択圧の検出

論文

関連サイト
種分化と適応の機構の研究の紹介 http://adaptive-speciation.com/
スラウェシマカクにおける自然選択圧の検出

寺井 洋平

インドネシア、スラウェシ島には7種のマカクが異なる地域に分布しており、分布の境界で交雑帯を形成している。しかし交雑帯が広がることはなく、地域への適応など何らかの要因がそれぞれの種を分けていると予想されている。これまでの研究で体毛色に関連した遺伝子(MC1R)が種間で配列が異なり、自然選択を受けて進化してきたと予想していた。自然選択は、MC1Rとその周辺ゲノム領域間での多型/種特異的変異の比率の比較により検出できる。しかし本研究ではこれまでエキソーム解析を行ってきたため、MC1Rの周辺領域の配列情報はなかった。今年度は、MC1Rとその周辺領域を含むニホンザルのBACクローンを選択し、それらBACクローンのDNA抽出、断片化、ビオチン化によりプローブを作成した。このプローブを用いて、スラウェシマカクのBAC領域をキャプチャし次世代シークエンスにより配列を決定した。その結果、BACクローンの領域の配列はキャプチャされていたが、キャプチャが不完全でカバー率が低く、配列の信頼性の高い領域が少なかった。これはBAC DNAのビオチンラベルの効率が低かったためだと考えられ、現在、再度BAC DNA抽出とビオチンラベルを進めている。


R2-A27
代:河村 正二
協:早川 卓志
協:"MELIN, Amanda"
協:"MARQUES,Tomas"
霊長類保存ゲノム試料の全ゲノム解析活用
霊長類保存ゲノム試料の全ゲノム解析活用

河村 正二 , 早川 卓志, "MELIN, Amanda", "MARQUES,Tomas"

スペイン・Pompeu Fabra Universityのトーマス・マルケス博士とのゲノム解析の共同研究として、2019-2021年の3年間に600以上の霊長類ゲノムの決定を目指す同研究機関での"Primate Genome Sequencing in Search for Insights on Classifying Disease Variants"プロジェクトに参加している。2020年度は、全ゲノムシーケンス用のライブラリー作製の条件検討の試行として8種(ボルネオオランウータン、スマトラオランウータン、ゴールデンマンガベイ、アジルマンガベイ、アボリビアリスザル、シロガオマーモセット、アザラヨザル、ボリビアハイイロティティ)について、ライブラリーを作成し、そのうち6種についてマルケス研究室に送付した。シーケンス結果を待ち、本格実施を進めていく。一方、感覚系遺伝子にフォーカスした適応進化解析に向け、1)別プロジェクトで決定したノドジロオマキザルの全ゲノムシーケンスデータから色覚オプシン、嗅覚受容体(OR)、鋤鼻受容体(VR)、味覚受容体(TASR)遺伝子の配列解析を行って論文発表し(PNAS 118(7): e2010632118)、2)target captureと次世代シーケンスによるオナガザル科と広鼻猿類のORとTASR遺伝子の解析について学会・研究会で発表した。


R2-A28
代:狩野 文浩
協:山本 晋也
協:James Brooks
アイ・トラッキングを用いたチンパンジーの社会認知の比較研究

論文
Brooks, James, Kano, Fumihiro, Sato, Yutaro, Yeow, Hanling, Morimura, Naruki, Nagasawa, Miho, Kikusui, Takefumi, Yamamoto, Shinya(2021) Divergent effects of oxytocin on eye contact in bonobos and chimpanzees Psychoneuroendocrinology 125:105119. 謝辞We thank the staff and apes at Kumamoto Sanctuary for their assistance in conducting the experiments and Nozomi Hirayama for her help in analyzing the urinary oxytocin samples. We also thank S.H. Brosnan for providing constructive comments on our manuscript. Financial support came from Japan Society for Promotion of Science [KAKENHI 20H05000, 18H05072, 19H01772 to FK, 18H02489 to MN, 19H00972 to TK, 19H00629 to SY] and Kyoto University Leading Graduate Program in Primatology and Wildlife Science.
アイ・トラッキングを用いたチンパンジーの社会認知の比較研究

狩野 文浩 , 山本 晋也, James Brooks

オキシトシン(とプラシーボの生食)を噴霧投与することで、アイ・トラッキングで画像の見方を記録したとき、オキシトシンが及ぼす効果を検討した。熊本サンクチュアリのボノボとチンパンジーを対象にした実験では、オキシトシンがボノボに対しては、顔画像の目に対する注視を促進し、チンパンジーでは逆に抑制することを見出した。オキシトシンが近縁種の行動の違いの進化に影響する可能性を示した。
霊長類研究所においては、既知個体と未知個体を対提示し、その選好注視においてオキシトシンが及ぼす影響を検討した。全体としてオキシトシンの影響は確認できなかったが、一部のオス個体においてはオキシトシン条件において未知個体をより強く選好注視するなど、部分的には効果が認められた。今後、条件を限定するなどして、さらに調査を進める。
添付の画像は、霊長研のチンパンジーにネブライザーでオキシトシン溶液を噴霧しているところ。チンパンジーはその間ジュースを飲んでいる。霧を嫌がることはなかった。

Brooks, J., Kano, F., Sato, Y., Yeow, H., Morimura, N., Nagasawa, M., . . . Yamamoto, S. (2021). Divergent effects of oxytocin on eye contact in bonobos and chimpanzees. Psychoneuroendocrinology, 125, 105119.



R2-A29
代:鯉江 洋
協:揚山 直英
協:中山 駿矢
協:白 仲玉
霊長類の循環器系加齢誘引疾患に関する研究

学会発表
白 仲玉、揚山直英、中山駿矢、棟居佳子、金山喜一、澤田悠斗、宮部貴子、兼子明久、鯉江 洋 ニホンザルにみられた心筋症2症例(2020年9月14-30日) 第163回日本獣医学会学術集会(オンライン).
霊長類の循環器系加齢誘引疾患に関する研究

鯉江 洋 , 揚山 直英, 中山 駿矢, 白 仲玉

申請者はこれまでにカニクイザルとニホンザルなどサル類の循環器疾患を研究した。人と解剖学的構造及び生理学的機能が近いため、人医学への貢献が考えられる。今年度は従来の研究を継続し、「各種霊長類の発達と加齢に関する総合的研究」分野に申請を行った。また今回の研究も昨年と同様に、獣医臨床学的手法を用い心臓の評価を行い、人医学で心筋損傷評価に用いたマーカーの有用性を検証をはじめた。本研究結果は人とサル類を含めた霊長類全般に有意義な結果をもたらすと考える。
新型コロナウイルスの影響により、今年度申請者らは過去に得られたデータをさらに解析し、第163回日本獣医学会で発表した(オンライン)。その予演会などの打ち合わせをZOOM会議で行った。内容については、臨床で貴重な心筋症疾患個体であり、その病態を中心に発表した。本研究で得られた基礎及び臨床データは、獣医循環器分野や霊長類研究のみならず、人医学においても、大変貴重だと思われる。次年度は引き続き、これらの症例の継続研究を行いたいと考えている。



R2-A30
代:正木 英樹
協:水谷 英二
チンパンジー多能性幹細胞の性状解析および異種間キメラ動物の作製
チンパンジー多能性幹細胞の性状解析および異種間キメラ動物の作製

正木 英樹 , 水谷 英二

本年度は以前に提供頂いたチンパンジー細胞から樹立した細胞株を用いて、マウス胚との異種間キメラ作製実験を実施した。以前の研究課題(2019-B-87)で樹立されたナイーブ型株をマウス着床前胚に移植し子宮内で発生させたところ、将来的にマウス個体を形成する領域であるエピブラストへの寄与が認めらていたが、実験条件の改善によって、現在ではより多くの細胞をエピブラストに寄与させられるようになった。また、当該胚は最長でE8.5までキメラ状態を維持できることを確認している。今後はより高度なキメラ形成を目指して、チンパンジー細胞との異種間キメラ形成により適した動物種との間でキメラ形成実験を実施する予定である。
今年度はコロナ禍の影響を考慮し、学会発表は行わなかった。
これまでの成果をまとめた論文を近日中に投稿予定である。



R2-A31
代:城戸 瑞穂
協:吉本 怜子
協:西山 めぐみ
口腔粘膜におけるメカノセンサー発現の解明

学会発表
林美紗、城戸瑞穂、伯川美穂、今井啓雄 霊長類の下部消化管上皮細胞における味覚関連分子と機械イオンチャネルの発現(2021.1.26-27) 第10会マーモセット研究会大会(オンライン).
口腔粘膜におけるメカノセンサー発現の解明

城戸 瑞穂 , 吉本 怜子, 西山 めぐみ

口腔粘膜は鋭敏な器官である。その繊細かつ鋭敏な感覚の機構については、未だ不明なことが多い。適切な口腔感覚は哺乳・摂食・情報交換など多様な行動の基盤であり、その異常は摂食行動の阻害や発話などを阻み、生活の質の低下、引いては生命維持の繋がる。近年、メカノセンサー分子の実体が特定され、機能解明も発展している。そこで、力学的に多様な環境として口腔に着目し、受容との関係にも着目されている。口腔は力学的に咀嚼など多様な刺激に常に曝されるユニークな器官であるが、その力学的な受容の機構についての理解はまだ限られたものである。そこで、私たちは、口腔内の力学センサーがどのような部位に存在をするのかを明らかにすることを目的として、固定された組織において、メカノセンサーイオンチャネルが口腔の上皮および結合組織に発現していることを明らかにした。特に、咀嚼により大きな力が加わる歯肉では、部分的に強い発現を示し、細胞内の骨格を担う分子と関連を示すことを見いだした。今後、異なる構造を示す消化管等と比較しながら細胞生物学的な詳細な解析を進める予定である。


R2-A32
代:生江 信孝
協:桃井 保子
協:齋藤 渉
協:木村 加奈子
協:大栗 靖代
協:正藤 陽久
協:飯田 伸弥
協:斎藤 高
動物園のチンパンジーにおける口腔内状態の調査
動物園のチンパンジーにおける口腔内状態の調査

生江 信孝 , 桃井 保子, 齋藤 渉, 木村 加奈子, 大栗 靖代, 正藤 陽久, 飯田 伸弥, 斎藤 高

かみね動物園で飼育しているチンパンジーの雌(愛称ヨウ、推定50歳)個体において上顎に内歯瘻がみられた。2020年4月に麻酔下で検診したところ破折していたため、抜歯処置をほどこした。また、チンパンジーの雄(愛称ゴヒチ、推定43歳)個体において、2020年5月に闘争によって左下の犬歯が折れてしまったため切断し縫合処置をほどこした。
この2例の処置で得られた歯を鶴見大学にサンプルとして送付した。
昨年度歯科治療をほどこしたチンパンジーの雌(愛称マツコ、推定43歳)の治療経過を直接確認してもらいたかったが新型コロナウィルス感染拡大により叶わなかった。メールのやり取りにて報告を行った。


R2-A33
代:齋藤 渉
協:桃井 保子
協:花田 信弘
協:今井 奨
協:岡本 公彰
協:宮之原 真由
チンパンジーの口腔内状態の調査と歯科治療法の検討
チンパンジーの口腔内状態の調査と歯科治療法の検討

齋藤 渉 , 桃井 保子, 花田 信弘, 今井 奨, 岡本 公彰, 宮之原 真由

新型コロナウイルスの影響により霊長類研究所内への入場がかなわず、研究を進めることができませんでした。


R2-A34
代:田中 由浩
触覚情報を用いたチンパンジーの個体識別および課題反応との関係分析
触覚情報を用いたチンパンジーの個体識別および課題反応との関係分析

田中 由浩

個体識別や感情推定について、顔画像、音声、歩容など、生体情報を活用する方法が様々提案されているが、カメラやマイクを用いた視聴覚情報を用いた研究開発が多く、運動に伴う触覚情報(力や振動)について検討が十分進んでいない。触覚情報は外から見えにくい性質も持ち、個体識別や感情推定に活用できれば、工学的応用だけでなく基礎科学にも活用でき、人を含む動物研究にも新しい分析を提供できる。本研究では、チンパンジーのタップ動作を対象に、個体識別や提示課題における各種反応との関係を分析することを目的としている。本年度は、新たに実験データを追加するのではなく、これまでに5個体に対して行われたタッチパネルを用いた顔に見える画像選択課題の実験データについて分析を深めた。実験は6ヶ月間で、データは1個体あたり約90日、約3000タップある.0.04sのタップ振動の強度および反応時間による2次元分布を作成し、特に簡単と難しい課題の総数は約半々であるが、この割合を分けて分布図を作成し、難易度の割合に応じた応答を模擬した。その結果、個体差はあるものの、簡単な課題が多い場合に、反応時間が短く、振動強度が大きいタップの割合が増える傾向が見られた。個々の試行に対する応答からの難易度の推定は困難であるが、複数試行における結果から難易度の推定の可能性が考えられる。今後は難易度の割合を分けた実験を実際に行い、検証を行いたい。


R2-A35
代:竹下 秀子
協:山田 信宏
協:高塩 純一
協:櫻庭 陽子
脳性麻痺チンパンジーへの発達支援と養育環境整備
脳性麻痺チンパンジーへの発達支援と養育環境整備

竹下 秀子 , 山田 信宏, 高塩 純一, 櫻庭 陽子

本研究は,2013年7月14日に出生,母親の難産,育児困難により人工保育となったが,脳性まひによる右半身の強いまひが残ったミルキー(女性、高知県立のいち動物公園)の参加を得て、飼育個体に障害のある場合への発達支援と動物福祉環境改善の指針を得るために実施した。3歳6カ月から7歳5カ月までの月1回の療育活動前1~2時間のビデオ記録から,10秒ごとのタイムサンプリング法により,行動と障害部位の状態の指標として,座位における右足首の背屈(正常な状態)割合を算出した。計67.2時間(41日)分のデータから,観察年月日を独立変数として回帰分析した結果,右足首の背屈割合は,全体では有効な正の回帰線が得られたが,療育活動の一部縮小及び屋外リハビリ運動場の工事期間中には負の回帰線が得られた。工事が終わり新しい屋外リハビリ運動場の使用が始まると,右足首の背屈割合は高い水準になった。他方,2020年10月から顕著に活動量が落ち,常同行動が出現し,療育者・観察者に対する反応も変化してきた。これまでの取り組みにより,行動発達や生活環境の充実に一定の成果が得られたが,思春期を迎えるにあたり,今後は「人による感覚刺激中心の療育」から,他個体との同居を含む「チンパンジーによる社会的リハビリテーション」への転換を急ぎ図っていく必要がある。


R2-A36
代:Daniel Schofield
The Bossou Archive Project
The Bossou Archive Project

Daniel Schofield

The Bossou Archive Project aims to digitise and catalogue video footage of wild chimpanzees from Bossou, Guinea, from over 30 years of fieldwork, and implement a framework for researchers to access and analyse this data. Recently, a key result of the Bossou Archive project was the development of the artificial intelligence (AI) to automatically track and identify chimpanzees using deep neural networks (CNNs) (Schofield et al. 2019 https://advances.sciencemag.org/content/5/9/eaaw0736). Using the output of this system, a new publication is in prep for analysing the Bossou chimpanzees social networks over 17 years of the archive (Schofield et al, in prep). In addition to this work, collaboration with Oxford University engineering (VGG) we have developed full body and behaviour recognition (Bain et al., in review, Science Advances). The cooperative research project has supported Amazon Web Services storage costs for the archive - additional funding is being sought for development a web-framework to allow for easier access for researchers, enable remote collaboration and annotation of the Bossou archive, and promote the next phase of development for new automated methods.


R2-B1
代:岩永 譲
協:嵯峨 堅
協:R. Shane Tbbbs
霊長類における黄色靭帯と棘間靭帯の解剖学的研究
霊長類における黄色靭帯と棘間靭帯の解剖学的研究

岩永 譲 , 嵯峨 堅, R. Shane Tbbbs

本年度の共同利用・共同研究では過去にわれわれが報告したヒト黄色靭帯の微細構造の研究をアカゲザルに応用し解明しようとしたものである。本来であれば、現地に赴きアカゲザル屍体の解剖により肉眼観察・組織学的観察を行う予定であったが、コロナ禍のため訪問が不可能であった。そのため、勤務地(米国Tulane University)でのヒト黄色靭帯の追加研究を行うことで、来年度の継続研究につなげることとした。過去のわれわれの報告ではヒト黄色靭帯と棘間靭帯、そして関節包の立体構造を明らかにするため、肉眼観察および靭帯の水平断の組織学的観察を行ったが、今回は同様に靭帯組織を採取し、矢状断・冠状断を行うことで、様々な角度からの観察を行うこととした。現在、標本を採取し組織切片を作成する前段階まで進んでおり、今後は染色、観察を行い、来年度の共同利用・共同研究でアカゲザルの標本との比較を行いたいと考えている。


R2-B2
代:荻原 直道
協:大石 元治
ニホンザル二足・四足歩行運動の運動学的・生体力学的解析

論文
Blickhan R. Andrada E. Hirasaki E Ogihara N.(2021) Trunk and leg kinematics of grounded and aerial running in bipedal macaques Journal of Experimental Biology 224:jeb225532.

ニホンザル二足・四足歩行運動の運動学的・生体力学的解析

荻原 直道 , 大石 元治

本研究では、ニホンザル四足歩行の運動学的・生体力学的解析を行い、二足歩行と対比することを通して、ニホンザルが二足歩行を獲得する上での促進要因・制約要因を明らかにすることを目的とした。具体的には、ニホンザルの二足・四足歩行の運動学的・生体力学計測、歩行に関係する主要な筋の速筋線維・遅筋線維比計測、下肢関節の受動弾性特性計測を統合して、ニホンザルの四足歩行と二足歩行の運動学と力学の共通点と差違を分析することを通して、ニホンザルが二足歩行を獲得する上での促進要因・制約要因を抽出することを試みている。本年はコロナ禍で霊長研を訪問できなかったため、新たな実験は行えなかったが、昨年までのデータについてメール等で相談しつつ解析を進めた。具体的には、ニホンザル二足歩行中の後肢および体幹の3次元角度が歩行速度の増大によりどのように変化するのかを解析し、論文にまとめた。


R2-B3
代:神田 暁史
協:外丸 祐介
保存・輸送精子を用いた人工授精によるマーモセット系統繁殖技術の確立
保存・輸送精子を用いた人工授精によるマーモセット系統繁殖技術の確立

神田 暁史 , 外丸 祐介

霊長類の実験動物であるマーモセットは国内での遺伝的交流が少なく、奇形出現や繁殖性低下などのリスクを生じるような近交化が進んでいる。健全な個体を維持するためには、他研究機関のマーモセットと意図的な遺伝子交流を行うことが必要とされるため、本課題は精子の保存・輸送法と性周期の解析による人工授精法の確立を目指す。京都大学霊長類研究所との共同研究により、今までに以下のような成果が得られた。
①低侵襲な採血と血漿中のプロゲステロン濃度の測定による性周期の把握
②長時間にわたる精子活性の維持の方法

①に関しては、低侵襲な採血法として無麻酔下のメスの尾から血液を採取し、血漿を抽出してELISA法でプロゲステロン濃度を測定することで、ある程度の性周期を把握することができた。現在は排卵のタイミングを探るべく、血漿中のエストラジオール濃度を低侵襲および安価に測定可能な簡易キットを検討しており、当施設で飼育するオスの精子を用いて、人工授精による妊娠が可能か検討している。
②に関しては、15℃の温度で精子の活性を長時間にわたり維持できることがわかった。実際に霊長類研究所のオスから採取した精子を同温度で低温保存し、新幹線を利用して約4時間かけて広島大学に輸送した結果、予備実験と同程度の割合で精子が活性を維持していることを確認できた。しかし、2020年度はコロナの影響で実験を進めることができなかった。

以上の研究手技を基に、本年度は霊長類研究所で採取した精子を低温保存によって新幹線で広島大学まで輸送し、人工授精を実施することで産子獲得を達成したいと考えている。



R2-B4
代:菊池 泰弘
協:荻原 直道
中期中新世・化石類人猿ナチョラピテクスの上位胸椎の復元
中期中新世・化石類人猿ナチョラピテクスの上位胸椎の復元

菊池 泰弘 , 荻原 直道

中期中新世類人猿・ナチョラピテクスの脊椎骨は頸椎、下位胸椎、腰椎、仙骨については報告があるものの、上位胸椎については未報告である。そこで、本年度はナチョラピテクスの上位胸椎標本KNM-BG 48094を復元(昨年度、予備分析済)するための現生比較標本の詳細な調査を行った。ゴリラ、オランウータン、チンパンジー、シアマン、アヌビスヒヒ、パタスモンキー、ハヌマンラングール、テングザル、ホエザル、クモザル(オスメス1頭ずつ、ゴリラとオランウータンはオスのみ、テングザルはメスのみ)における第3-6胸椎を調査した。これら67個の胸椎標本(チンパンジー・オスの第6胸椎は棘突起欠損のため除外)をCT撮像後、Analize9.0およびGeomagic XOS64の3Dソフトを用いて三次元再構築し、相同点104点を決定した。その後Procrustes解析によるサイズの正規化および位置合わせ後、座標(シェープ)を主成分分析で解析した。その結果、第1主成分と第2主成分の散布図において、ぶらさがりのオランウータンおよびブラキエーションのシアマン、ナックルウォーキングのゴリラおよびチンパンジー、地上性四足歩行種、樹上性四足歩行種、セミブラキエーションのクモザルおよびアームスイングのテングザル、それぞれにおけるプロットがクラスターを作り、上位胸椎は移動運動様式に適応した形態を有している可能性が示唆された。来年度は、本研究で得られた結果から本格的にKNM-BG 48094の復元・特徴抽出を進める予定である。


R2-B5
代:東 超
霊長類の各種の組織の加齢変化
霊長類の各種の組織の加齢変化

東 超

加齢に伴う循環器系の内臓のカルシウム、リン、マグネシウム、硫黄、鉄、亜鉛など元素蓄積の特徴を明らかにするため、サルの心臓の元素含量の加齢変化を調べた。用いたサルは19頭、年齢は新生児から29歳までである。サルより心臓を乾燥重量100mg程度採取し、水洗後乾燥して、硝酸と過塩素酸を加えて、加熱して灰化し、元素含量を高周波プラズマ発光分析装置(ICPS-7510、島津製)で測定し、次のような結果が得られた。
① すべてのサルの心臓のカルシウム含量は1.5mg/g以下であり、平均含量は0.54mg/gであった。サルの心臓は石灰化しにくい内臓であることが分かった。
② 年齢とリン含量の相関係数は-0.773(p = 0.0001)であり、加齢とともにサルの心臓のリン含量が有意に減少することを明らかにした。
③ 年齢と硫黄含量の相関係数は-0.564(p = 0.012)であり、サルの心臓の硫黄含量が加齢とともに有意に減少することを明らかにした。
④ 年齢と亜鉛含量の相関係数は-0.462(p = 0.047)であり、サルの心臓の抗酸化作用をもつ亜鉛含量が加齢とともに有意に減少することを明らかにした。



R2-B6
代:近藤 玄
協:信清 麻子
協:柳川 洋二郎
協:渡邊 仁美
新規GPIアンカー型タンパク質を介した精子選別機構の解明
新規GPIアンカー型タンパク質を介した精子選別機構の解明

近藤 玄 , 信清 麻子, 栁川 洋二郎, 渡邊 仁美

精子には、数多くのGPIアンカー型タンパク質(GPI-AP)が発現しており、そのいくつかは精子の受精能発揮に深く関与している。申請者は、予備実験において、マウス精子で発現量の多いGPI-AP(SpGPI-APと仮称)を同定し、同遺伝子の欠損マウスを作製したところ、精子の卵管への遊走が損なわれ、妊娠異常が認められた。また、このタンパク質に対するモノクローナル抗体を作製し、精子のFACS解析を行なったところ、精子は二つの集団に大別された。さらにこれらをソーティングし、運動性、体外受精能、人工授精能等をしらべたところ、直進運動性や体外受精能において差異がみとめられ、これまで想像されていたが分子的根拠がなかった精子集団の不均一性とより受精しやすい集団が存在すること、またそれがポジティブに選択されうることが示唆された。本申請では、当該タンパク質によって二別される精子集団の比較解析をヒトにより近いマカク属サル精子を用いて調べることとした。今年度は、マカクサルSpGPI-APと反応するモノクローナル抗体を用いて、精巣および活性化条件でインキュベートした精子におけるタンパク質発現をウエスタンブロッティングにて調べた。その結果、精巣でのSpGPI-AP発現は認めたものの、インキュベート精子では全く認めず、約30%のインキュベート精子でSpGPI-APが検出できるマウスとは異なる結果を得た。今後は、様々な条件で処理したサル精子におけるSpGPI-APタンパク質発現を調べ、マウスとサルでのこのタンパク質の動態を比較解析する予定である。


R2-B7
代:佐藤 たまき
協:豊田 直人
ニホンザルMacaca fuscataの飼育個体に見られる下顎骨形状オス化の発現タイミング
ニホンザルMacaca fuscataの飼育個体に見られる下顎骨形状オス化の発現タイミング

佐藤 たまき , 豊田 直人

霊長類の顔面頭蓋における個体発生に関する研究では、頭蓋骨を対象とした先行研究は数多くあるものの、下顎骨に関する研究は比較的乏しい。本研究では、幅広い発達段階を含む乾燥下顎骨の表面にランドマークをとり、幾何学的形態計測法によって個体発生パターンを定量的に明らかにすることを目的とした。
令和二年度はニホンザル(n=53)とカニクイザル(n=45)の下顎骨のデータを得ることができた。個体発生にともなう形状変異のうち、第一主成分で代表される多くの成分が重心サイズと強い線形関係を示した。多変量回帰の結果、飼育環境の影響による表現型可塑性の有意差は得られなかった。2種の個体発生パターンを比較した結果、カニクイザル種群の進化史を反映していると思われる結果が得られた。さらに、2種で共通する個体発生パターンはヒトのパターンと異なることが示唆された。今後、標本の大きさを増やすことでデータの信頼性を高め、研究の対象とする分類群を広げることで議論の妥当性を高めたい。
現在、これらの結果を論文にまとめ、投稿する準備を進めている。


R2-B8
代:田村 大也
金華山の野生ニホンザルにおけるオニグルミ採食技術獲得過程の学習行動
金華山の野生ニホンザルにおけるオニグルミ採食技術獲得過程の学習行動

田村 大也

宮城県金華山島にて2020年11月29日~12月13日に、金華山島B1群を対象に野外調査を実施した。調査期間中は毎日10時間以上の追跡が行えた。それにもかかわらず、調査期間中にオニグルミ採食行動が観察されたのは2日間のみであった。昨年は島全域で食物環境が劣悪であったため、調査期間より前の例年より早い時期に、オニグルミがほぼ食べ尽くされていたことが原因の一つだと考えられる。しかし、クルミの採食行動が観察された数日間でいくつかの発見もあった。ひとつは、2016年の調査で、ある方法(片半分型)でオニグルミを割っていた1頭のオトナメスが、4年後の今回の調査でも同じ割り方を使っていることを確認した。片半分型はこのメスを含め数個体でしか観察されておらず、オトナメスの大多数は「半分型」という割り方を用いる。そのため、「片半分型」を用いている個体でも、時間の経過と共に「半分型」に移行する可能性も予想していたが、今回の観察により否定された。この観察は一度獲得した採食技術が個体内で長期にわたり固定されている可能性を示唆している。ふたつ目は、群れ全体でオニグルミ採食行動がほとんど観察されな中で、2個体のコドモがオニグルミ採食を試行している場面を観察した。興味深いことに、この2頭のコドモの母親は他の個体と比べてオニグルミをよく採食する個体であった。これまでの調査から、オニグルミ採食技術の獲得には母親のオニグルミの採食頻度が影響している可能性を考えていたが、この観察はその予想を支持するかもしれない。


R2-B9
代:栗原 洋介
ニホンザルの昆虫食が枯死木分解にあたえる影響

学会発表
栗原洋介 サルは森の壊し屋?:見逃されてきたサルと枯死木の関わり(2020/12/13) 屋久島学ソサエティ(オンライン).
ニホンザルの昆虫食が枯死木分解にあたえる影響

栗原 洋介

本研究の目的は、ニホンザルが枯死木分解にあたえるインパクトを定量することである。本年度は、主に枯死木分解実験の継続と森林内の枯死木現存量調査を行った。
1. サル排除実験の継続:2019 年に屋久島・西部林道沿いに設置した枯死木調査プロット 10 箇所において、サル排除実験を継続している。対象の材を複数個に分割し、一方はそのまま放置、他方はサルが破壊できないようにネットで覆った。定期的に材の写真撮影を行い 3D モデルを作成することで、材の表面積・体積のデータを蓄積している。また、自動撮影カメラを用いて動物の訪問および枯死木とのコンタクトを調べている。サルはすべての材を訪問し、すべてのプロットでそのまま放置した材がサルによって大きく破壊された。想定よりも早く実験が進んだため、よりロバストな結論を得ることを目指し、新たに調査プロット 10 箇所を新設した。
2. 森林内の枯死木現存量調査:50 m 四方の調査プロットを 8 つ(合計 2 ha)設定し、枯死木のサイズ、腐朽タイプ、腐朽度、種名などを記録した。現在も分析中であるが、屋久島海岸林の枯死木現存量は他サイトよりも少ない傾向にあることがわかった。
来年度以降も、同様の調査を継続して実施する予定である。



R2-B10
代:藤田 一郎
協:稲垣 未来男
マカカ属サルにおける扁桃体への皮質下視覚経路の神経解剖学的同定
マカカ属サルにおける扁桃体への皮質下視覚経路の神経解剖学的同定

藤田 一郎 , 稲垣 未来男

霊長類において、潜在的な危険情報の視覚的な検出に皮質下視覚経路が関わると考えられている。しかしながら解剖学的な証拠は乏しい。本研究では、危険情報の処理を担う扁桃体へ越シナプス性逆行性神経トレーサーを注入して入力経路を順番に辿ることで、皮質下視覚経路の解剖学的な実態の解明を目指している。トレーサーが最大でも2シナプスしか越えないように実験条件を設定して実験を行った。これまでの解析により視床枕および上丘において扁桃体を始点として逆行性に標識された細胞が存在することを確認した。視床枕では多くの細胞が、上丘では少数の細胞が標識されていた。視覚情報が上丘と視床枕を経由して少ないシナプス接続で扁桃体へと伝わることを示唆する結果を得た。今年度は上丘とは別の皮質下視覚関連領域である外側膝状体に標識細胞が存在するかどうかを解析した。その結果、外側膝状体には標識細胞が存在しないことが分かった。外側膝状体経由の少ないシナプス接続による扁桃体への視覚経路は存在しない可能性が高いと考えられる。


R2-B11
代:風張 喜子
野生ニホンザルにおける分派の意図性の判別基準と要因の検討
野生ニホンザルにおける分派の意図性の判別基準と要因の検討

風張 喜子

ニホンザルは、メンバーがひとまとまりで暮らす凝集性の高い群れを作る。これまでの研究で、各個体が周囲の個体の動向を把握し自分の行動を調節することで互いの近接が保たれていることが示唆されている。一方で、群れが一時的に2つ以上の集団に分かれる分派行動も時に見られる。通常は互いに離れないようにふるまうニホンザルがなぜ分派するのか、明らかになっていることは少ない。また、意図的および非意図的とされる分派の報告例はあるものの、その判別基準はあまり整理されていない。そこで、宮城県金華山島の野生ニホンザルを対象として、分派の直接観察を通じて意図の有無を判別できる行動上の特徴を整理したうえで、要因を検討することを目的とした。本研究は十分な観察例数を蓄積するのに数年にわたる継続調査が必須であり、本年度は長期的な計画の3年目である。これまでに、分派集団のでき方から意図的・非意図的分派を判別できること、非意図的な分派では分派中に突然の移動停止や方向転換が見られる場合が多いことなどが明らかになりつつある。また、前年度に観察された群れの第一位オスとメスとの親和的な関係を基礎とした頻繁な分派行動について、共同研究者と学会で発表し国際誌への投稿の準備を進めている。


R2-B12
代:吉田 富
協:古谷 昭博
齧歯類と霊長類の神経回路基盤解明のためのシングルセル遺伝子解析
齧歯類と霊長類の神経回路基盤解明のためのシングルセル遺伝子解析

吉田 富 , 古谷 昭博

我々は、2020年度においては、主に条件検討を中心に研究を行った。マウス及び霊長類(マカク猿)の脊髄(C6〜T1)に,蛍光体を含む逆行性トレーサー(AAV retro-tdTomato, CTB-Alexaなど)を注入し,皮質脊髄ニューロンを特定的に標識した。数日〜数週間後,トレーサーを注入した動物の脳を取り出し,運動皮質を切り出して,分離酵素でシングルセル懸濁液に分解した.その中から蛍光体で標識された皮質脊髄ニューロンをFACS (Fluorescence-Assisted Cell Sorter) により分取した.また,同様に皮質細胞から核を抽出し,FACSにより精製も行なった。いくつかの異なる条件で実験を行い、最適な条件を見出した。2021年度は、その条件を用いて、実際にsingle cell (or nucleus) RNA-sequencewを行う予定である。


R2-B14
代:小野 龍太郎
ニホンザル歯牙の成長線における比較解剖学

学会発表
小野 龍太郎*,小池 宣也,井之川 仁,土谷 佳樹,梅村 康浩,山本 俊郎,金村 成智,八木田 和弘 A New Insight of Tooth Growth ~ 8-hour Ultradian Increments in Mouse Molar Dentin ~(2020年9月11日) 第62回歯科基礎医学会 アップデートシンポジウム 若手研究者による口腔生理学最前線(web開催).
ニホンザル歯牙の成長線における比較解剖学

小野 龍太郎

歯の成長線には、形成期間中に個体内で起きたライフサイクルが反映される。それゆえ、直接観察が困難な稀少動物種における生活史の解明、食性の把握、年齢査定などに役立つツールとなる可能性がある。さらには化石種に応用することで、古生物学への貢献も期待できる。
昨年度までに、ニホンザル雄性個体(6歳)の第一大臼歯を用いて成長線の観察に成功している。象牙質(歯冠の構造的主体)とセメント質(歯根部)では、成長線の間隔幅や本数が異なっており、硬組織の種類によって発育パターンが異なる可能性が示唆される。今年度は、歯種による違いを比較する目的で、ニホンザル前歯を用いた同様の検討を行ったところ、横断切片にて象牙質の表層付近を同心円状の線状構造が約8−9μm間隔で配列する様子が確認できた。これは、臼歯象牙質で得られた結果(約12μm間隔)よりも若干小さく、また、マウス前歯での解剖学的パターンと酷似したものであった。このように、歯牙の発育形成に関わる生物種を超えた統合的理解のためには、ニホンザルにおける基礎的データの集積が不可欠であると考える。さらに、同じマカク属のアカゲザルやカニクイザル、マーモセットについても予備的分析を行い、成長線の霊長類研究における有用性に関しても引き続き検討する予定である。



R2-B15
代:緑川 沙織
協:時田 幸之輔
肉眼解剖学に基づく霊長類背側肩帯筋の機能とその系統発達
肉眼解剖学に基づく霊長類背側肩帯筋の機能とその系統発達

緑川 沙織 , 時田 幸之輔

カニクイザルの背側肩帯筋(腹鋸筋SV・肩甲挙筋LS・菱形筋Rh)と斜角筋の筋形態および支配神経について調査した。SVは、第1〜9肋骨より起始していた。LSは全頸椎の横突起から起始していた。Rhは、後頭骨・頸椎の項靭帯・第1〜7胸椎棘突起から起始していた。これらの筋は、肩甲骨の内側縁に付着していた。これらの背側肩帯筋は第3〜8頸神経前枝(C3〜C8)から分岐した神経によって支配されていた。
 斜角筋では、腕神経叢の腹側の腹側斜角筋ScVと背側の背側斜角筋ScDを区別した。ScDは最浅層で停止が第4肋骨におよぶ長斜角筋ScLとし、ScL深層で第1肋骨に停止する筋束をScDとした。
 C3,4から分岐した神経は、ScLの浅層を走行しLS・Rhに分布していた。C5の神経は、ScDの深層を走行しLS・Rhに分布していた。C6の神経は2本観察され、1本はScDを貫いてLSおよびSVの頭側部に分布していた。もう1本は、C7,8の神経と合流しScLとScDの間を走行、SVへ分布していた。
 LS・Rh支配神経の一部がScD深層を走行する特徴はタマリン・リスザルと共通していた。SV支配神経が頭側から尾側の分節にかけてScDの浅層へ移行する特徴はヒトと共通していた。



R2-B16
代:土田 さやか
協:牛田 一成
コモンマーモセットの口腔疾患治療薬選抜に関する研究
コモンマーモセットの口腔疾患治療薬選抜に関する研究

土田 さやか , 牛田 一成

本研究では、コモンマーモセットの歯垢から細菌を分離し、口腔疾患の元となる歯垢にどのような細菌が存在しているのかを検索し、その薬剤耐性を調査することを目的とした。霊長類研究所で飼育されている5個体の歯垢、歯石サンプルを嫌気希釈液および非選択培地に採取し、嫌気培養を行った。分離された口腔細菌の細菌16S rRNA遺伝子を用いて菌種同定を行ったところ、口腔疾患の原因菌と考えられるFusobacterium、Streptococcus、Actinomyces、Aggregatibacter、Campylobacter属細菌が多数検出され、Fusobacterium nucleatum subsp. polymorphumは、検査した全てのに最も高い割合で存在していることが確認された。また、これらの口腔疾患原因菌は、口腔の状態が悪い(歯周病罹患個体もしくは疑いのある個体)の方が多く検出されることが明らかとなった。加えて、歯石と歯垢で検出菌種を比較したところ、歯石と歯垢の構成細菌は大きく異なることが明らかとなった。本研究により、マーモセットの口腔疾患治療時には歯垢内細菌のみではなく歯石内細菌にも効果のある薬剤を選択する必要があることが示唆された。


R2-B17
代:松田 一希
協:豊田 有
集団内の全個体同時追跡技術を利用した霊長類社会の研究

論文
Matsuda I, Stark DJ, Saldivar DAR, Tuuga A, Nathan SKSS, Goossens B, van Schaik CP, Koda H( 2020) Large male proboscis monkeys have larger noses but smaller canines Communications Biology 3( doi: 10.1038/s42003-020-01245-0). 謝辞あり

学会発表
香田啓貴・荒井迅・松田一希 霊長類の動物の隊列観察をどれぐらいすると社会の階層性を推定できるか?数値実験を通じた考察(2020/12/4 - 12/6) 第36回日本霊長類学会学術大会(中部大学(オンライン開催)).
集団内の全個体同時追跡技術を利用した霊長類社会の研究

松田 一希 , 豊田 有

霊長類の社会構造の理解は、長い歴史のある霊長類学において中心的議題の一つである。個体間関係の記述(親和的か敵対的か)や順位の記述(優劣関係)、血縁関係の記述を通じて、群内の個体関係の構造を把握し、母系社会や階層社会などといった、社会類型を記載してきた。その一方で、それらの記載は主に研究者が直接観察し分類したり、ビデオを通じて事後に解析するなどといったデータに基づくものであり、連続的な記録として、且つ大規模データとしての蓄積や解析はなかった。本研究は、小型の位置記録装置を飼育ニホンザル集団の全個体に装着し、1秒間隔で完全な連続記録を実施することで、高精度で大規模な連続的位置データ情報を収集し、個体間関係の記述を、社会ネットワーク分析を通じて評価することを目的とした。昨年度までに収集した1群(5頭)の位置情報データをもとに、個体の空間配置と空間移動軌跡の常時計測系を確立し、深層学習を用いた、ノンパラメトリックな個体間インタラクションの解析手法を論文として出版した(Morita et al. 2021 Methods Ecol. Evol.)。新たに実施した実験では、ビーコンを装着した5頭のニホンザルの群れを、短期的に1:4頭に分離することで、個体間インタラクションの程度をコントロールし、社会的なインタラクションの変遷過程に着目した行動データを収集した。特に、群れでいる正常な社会状態と、個体を隔離した際の各個体の動き方にどのような個性的特徴が反映されるかを分析・検討した。深層学習を用いた分析から、個体が群れで生活する状態と、隔離された状態では動き方に明らかな違いがあり、高精度でそれを識別することに成功した。また、個体を群れから隔離した状態では、各個体の動きに個性的特徴がでやすいことを発見した。一方、群れで生活をすることで各個体は、他の個体と採食、社会的な交渉をする際に活動の同期が生じるため、各個体が持つ個性的な動きの特徴が軽減することがわかった。以上の結果はアーカイブスにアップし、学術雑誌に投稿中である(Morita et al. 2021 bioRxiv)。


R2-B18
代:今村 拓也
種特異的ノンコーディングRNAによるほ乳類脳神経機能分化

論文
Kana Ikegami, Teppei Goto, Sho Nakamura, Youki Watanabe, Arisa Sugimoto, Sutisa Majarune, Kei Horihata, Mayuko Nagae, Junko Tomikawa, Takuya Imamura, Makoto Sanbo, Masumi Hirabayashi, Naoko Inoue, Kei-ichiro Maeda, Hiroko Tsukamura, Yoshihisa Uenoyama(2020) Conditional kisspeptin neuron-specific Kiss1 knockout with newly generated Kiss1-floxed and Kiss1-Cre mice replicates a hypogonadal phenotype of global Kiss1 knockout mice Journal of Reproduction and Development 66:359.

Shiori Minabe, Sho Nakamura, Eri Fukushima, Marimo Sato, Kana Ikegami, Teppei Goto, Makoto Sanbo, Masumi Hirabayashi, Junko Tomikawa, Takuya Imamura, Naoko Inoue, Yoshihisa Uenoyama, Hiroko Tsukamura, Kei-Ichiro Maeda, Fuko Matsuda(2020) Inducible Kiss1 knockdown in the hypothalamic arcuate nucleus suppressed pulsatile secretion of luteinizing hormone in male mice Journal of Reproduction and Development 66:369.

学会発表
今村拓也、藤本雄一、亀田朋典、吉良潤一、中島欽一 母体由来炎症シグナルを胎仔脳由来ノンコーディングRNA制御により緩和する(2020年7月29日-8月1日) 第43回日本神経科学大会(Web開催(シンポジウム・オーガナイザー)).

関連サイト
研究室ウェブサイト https://sites.google.com/view/imamuralabhiroshima/home
種特異的ノンコーディングRNAによるほ乳類脳神経機能分化

今村 拓也

本課題は、ほ乳類脳のエピゲノム形成に関わるnon-coding RNA (ncRNA)制御メカニズムとその種間多様性を明らかにすることを目的としている。本年度は、霊長類iPS細胞から脳オルガノイドを作製し、霊長類特異的ncRNAによりエピジェネティックに活性化される遺伝子の発現をマウス型に改変するプロトコールの確立に取り組んだ。またこれを基礎として、次世代シーケンサー解析からスクリーニングした霊長類特異的プロモーターncRNA-mRNAペアの操作を順次行なった。複数の代表的な霊長類特異的プロモーターncRNAあるいはその制御下にあるmRNAについて解析したところ、それらのノックダウン効果は、脳オルガノイド中の神経幹細胞の増殖を早期に止め、ニューロンに分化させるまでに及ぶことが明らかとなった。したがって、霊長類脳のサイズ拡大を支えるメカニズムに、種特異的ncRNAの進化的獲得が関与することが考えられた。


R2-B19
代:信清 麻子
一卵性多子ニホンザルの作製試験
一卵性多子ニホンザルの作製試験

信清 麻子

本課題は、動物実験に有用な一卵性多子ニホンザルの作製を目指すものであり、これまでに生殖工学基盤技術の検討に取り組むことで、「卵巣刺激→体外受精→受精卵移植」により産子を得るための再現性の高い技術を確立し、多子ではないものの受精卵分離胚移植による産子獲得、また別種であるカニクイザルへの受精卵移植により、正常なニホンザル産子を得ることにも成功しレシピエントしての有用性を確認し、一卵性多子ニホンザルの獲得に向けた基盤が十分に築かれた状況にある。しかし、前年度行ったホルモン測定の結果から、屋内飼育のニホンザルの繁殖期は、野生のニホンザルとは異なることを確認し、移植試験を野生のニホンザルの繁殖期よりも絞って実施する必要があることがわかった。
 そこで、2020年度は、屋内飼育ニホンザルの限られた繁殖期に、効率よく移植実験を行うことを目指し、性周期を同調させる方法を検討した。産業動物で用いられている黄体退行作用を持つ生理活性物質(プロスタグランジン)を黄体期後半に一度、2.5μg/Kg 筋肉注射を実施する方法で性周期の同期化を試みたが、この方法では繁殖期にない個体では内在の性ホルモンを制御できるまでの効果を確認することはできなかった。また、今までに精子採取を行なっていた雄個体が死亡し、別の採精候補個体を探す必要がでてきたため、精子の活性を調べる目的で4個体から採精を行った。
 なお、採卵〜移植実験を2月25日〜3月3日にかけて実施するべく、実験個体を選択するためのメンスの情報を確認するなどの準備を進めていたが、コロナに関係する移動制限により来所が叶わず、一度も採卵〜移植実験は行うことができなかった。



R2-B20
代:大石 元治
協:荻原 直道
大型類人猿の足部における骨格と軟部組織の関係について

論文
Nozaki, S., Amano, H., Oishi, M, Ogihara N(2021) Morphological differences in the calcaneus among extant great apes investigated by three-dimensional geometric morphometrics Scientific Reports 11:20889. 謝辞あり

Negishi T, Ito K, Hosoda K, Nagura T, Ota T, Imanishi N, Jinzaki M, Oishi M, Ogihara N (2021) Comparative radiographic analysis of three-dimensional innate mobility of the foot bones under axial loading of humans and African great apes Royal Society Open Science 8:211344. 謝辞あり
大型類人猿の足部における骨格と軟部組織の関係について

大石 元治 , 荻原 直道

関節の可動域はその形状に加え、筋や靭帯などの軟部組織によって決定される。大型類人猿の足部の形態学的研究は骨格や筋についてのものがほとんどであり、腱や靭帯についての報告は1から2個体の報告にとどまっている。そこで、本研究は大型類人猿における足部の腱や靭帯の種間/種内バリエーションを明らかにして、足部の運動に関係する形態学的特徴を理解することを目指している。本年度は、チンパンジー2個体、オランウータン1個体の標本を利用する機会を得た。まず、無傷の状態での足部骨格の特徴を明らかにするために、足のCT撮影を行った。これらの3個体の足部については、今後、解剖を行い、筋や靭帯の種間/種内バリエーションの有無を評価する。


R2-B21
代:Wirdateti
Reexamination of species classification and phylogeography in tarsiers (Tarsius spp.) from Sulawesi by mtDNA markers
Reexamination of species classification and phylogeography in tarsiers (Tarsius spp.) from Sulawesi by mtDNA markers

Wirdateti

In the fiscal year of 2021, I could not visit the Primate Research Institute due to the pandemic of Covid-19, so I could not carry out the planned experiment for Tarsius. Therefore, we had a meeting by email with Dr. Tanaka, the corresponding researcher, about the strategy of experiment of phylogenetic analysis of Tarsius, and the application for Cooperative Research Program in 2021.


R2-B22
代:江成 広斗
協:江成 はるか
多雪がニホンザル個体群に及ぼす影響:冬期採食痕を個体数密度指数として
多雪がニホンザル個体群に及ぼす影響:冬期採食痕を個体数密度指数として

江成 広斗 , 江成 はるか

気候変動の進行に伴い、暖冬化が各地でみられる一方で、日本海側北部では低気圧の異常発達に伴う突発的な多雪がしばしばみられるようになった。一方で、政府方針「抜本的な鳥獣捕獲強化対策」に基づき、農業被害をもたらす中・大型獣類の捕獲数は近年大幅に増加している。こうした現況は孤立分断化が進んでいる北東北のニホンザルの保護管理を考えるうえでも重大な懸念となっている。そこで、申請者らは適切な個体群モニタリングに資する個体数指数(相対個体数)として、冬季の樹皮や冬芽に対する採食痕数に着目し、その年次変動を評価することとした。2020年(寡雪年)の残雪期調査では、40m×15キロの固定調査サイトにおいて食痕数のカウントを実施し、あわせて上記サイトの異なる植生タイプにおいて10m×10mの方形区を設置し、毎木調査を実施した。その結果、ニホンザルにより樹皮または冬芽が採食された1519本の木本植物が記録された。この数は多雪年の2-3倍に相当する本数である。今後は、同様の調査を継続させると同時に、本調査により実施した毎木調査により餌資源量(利用可能量)を加味することで、食痕数を個体数指数として利用可能か否かを具体的に検討していく。


R2-B23
代:三宅 弘一
協:松本 多絵
新生児遺伝子治療の有効性と安全性の検討
新生児遺伝子治療の有効性と安全性の検討

三宅 弘一 , 松本 多絵

我々は各種遺伝病の遺伝子治療の研究を進めてきており、脳全体の広範な神経変性を伴う、異染性白質ジストロフィー(MLD)や全身の骨形成不全を伴って生後早期に死亡する周産期型低フォスファターゼ症に対して新生児期に欠損酵素を発現するアデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターを投与する事により各疾患モデルマウスを使用して良好な治療結果を得ている(Mol Ther Methods Clin Dev. 2016, Hum Gene Ther.2015, Gene Ther.2014, Hum Gene Ther.2012, Hum Gene Ther. 2011)。今後これらを臨床応用するに当たり大型動物での有用性および安全性の検証は不可欠であり、特に新生児おける投与にあったってはより詳細な安全性の検討が必要である。本研究では各疾患の欠損酵素を新生仔霊長類に静脈投与もしくは筋肉投与にてその有効性(治療に有効な酵素活性が得られるかどうか?長期間の発現が可能か?など)と安全性(腫瘍形成の有無、免疫反応の有無など)を経過を追って検討し、新生児遺伝子治療の有効性と安全性を明らかにする事を目的としている。今年度は新生仔霊長類は使用できなかったため小児期霊長類を用いてAAVベクターの投与を行った。今後経過を追って有用性と安全性について検討していく予定である。


R2-B24
代:川本 芳
房総半島のニホンザル交雑状況に関する保全遺伝学的研究

論文
Yoshi Kawamoto(2021) Genetic Assessment on the Origin of Alien Macaques in the Boso Peninsula in Japan Mammal Study 46(2):173-186. 謝辞あり

学会発表
川本芳, 直井洋司, 萩原光, 白鳥大佑, 池田文隆, 相澤敬吾, 白井啓, 岡野美佐夫, 近藤竜明, 田中洋之 ニホンザルのミトコンドリアDNA非コード領域内の反復配列多型:房総半島の外来種交雑モニタリングおよびニホンザルの地域個体群調査への応用(2020年12月6日) 第36回日本霊長類学会大会(オンライン大会)(中部大学).
房総半島のニホンザル交雑状況に関する保全遺伝学的研究

川本 芳

当初計画以外で新知見を得た。交雑地域調査で, mtDNA 非コード領域末端にこれまで見逃していた2塩基(CA)の反復配列多型が存在することを発見した。他地域と比較した結果, 房総にはこの反復が4〜6回あると確認でき, 置換変異と組み合わせると全域に6種類ものニホンザルmtDNAタイプが区別できるようになった。これらで母系が異なる個体群の分布地域も調査できた。一方, 南房総で交雑するアカゲザル群にはこの反復多型はなく, この特徴でもニホンザルと区別できることが明らかになった。当初計画に沿った検討では, Y染色体ハプロタイプにつきサンプリング時期による地域比較ができた。これらのまとめをもとに, 交雑に関与した外来種の起源を検討した結果を英文で公表した。この中では南房総に定着し交雑したアカゲザルの出自も検討し, 中国東部地域から人為導入されたことを結論した。さらに, Y染色体ハプロタイプの分類とそれらの分布状況から, 南房総の中国東部由来のアカゲザル以外に第2の外来種がニホンザルの交雑に関与する可能性を考察した。なお, 今年度発見した多型については第36回日本霊長類学会大会で口頭発表した。


R2-B25
代:齋藤 慈子
協:新宅 勇太
吸啜窩の発達的変化の種間比較
吸啜窩の発達的変化の種間比較

齋藤 慈子 , 新宅 勇太

母乳育児が推奨される中、現代の母親にとって断乳・離乳の時期は大きな問題となっている。ヒトという霊長類がいつまで授乳をする生物なのかに関して、多くの客観的な情報が提供されることで、離乳や断乳の時期について示唆が得られると考えられる。ヒト乳児の口蓋には、線維質で構成された副歯槽堤により形作られる、吸啜窩というくぼみが存在する。乳児はこの吸啜窩に乳首を引き込み固定することで、安定した吸啜を行うことができる。この吸啜窩は発達とともに消失するとされるが、吸啜窩の消失という形態発達が離乳という機能発達に関与している可能性がある。この仮説が正しいとすれば、吸啜窩の消失の時期から、離乳時期についての情報が得られる。本研究では、この仮説を検証するために、吸啜窩の消失と離乳との関連を、ヒト以外の霊長類で確認することを目的とした。
昨年度までに、霊長類研究所所蔵のニホンザルの上顎骨標本を組み立て、口蓋を3Dスキャナーで撮像・解析し、ヒトで定義される吸啜窩と同様のくぼみは、ニホンザル乳児個体では確認されないこと、また、継時的にMRI撮像データのあるニホンザルの上顎の形状を分析し、2歳ごろまで小臼歯後ろにくぼみが存在することを示した。このように、上顎の形状から、ニホンザルでは、特別なくぼみを発達させることなく、乳首を固定し、安定した吸啜を行うことができる可能性が示唆された。この結果から、ヒトにおける上顎形態の変化が、吸啜窩を進化させたという仮説が新たに提起された。
本年度は、霊長類研究所および日本モンキーセンター所蔵の骨標本を追加で分析する予定であったが、COVID-19の影響で出張がかなわず、今後の予定についてメールで所内対応者及び協力者と打ち合わせを行った。



R2-B26
代:川田 美風
協:森本 直記
霊長類における出生前後の肩幅の成長様式

論文

学会発表
川田 美風 霊長類における出生前後の肩幅の成長様式(2019/10) 第73回日本人類学会(佐賀).

関連サイト
日本人類学会若手会員大会発表賞 http://anthropology.jp/st_prize.html
霊長類における出生前後の肩幅の成長様式

川田 美風 , 森本 直記

ヒトにおいて直立二足歩行に適応した骨盤形態は産道を狭隘化し、脳の大型化と伴って、顕 著な難産をもたらした。この運動効率と分娩のトレードオフは分娩のジレンマとして知られ、多くの研究が行われてきた。しかし難産の要因となるのは頭部の大きさだけではない。頭部が産道から出たにも関わらず、肩が産道内に留まる肩甲難産はヒトでは珍しくなく、頭部と同様に肩も重要な難産要因である。難産を緩和するために、ヒトでは胎児期に頭部の成長抑制が起こることが知られているが、肩幅についての産科的研究は皆無である。
 そこで本研究では、霊長類における肩甲難産リスクが胎児期の肩成長に及ぼす影響の解明を目的とした。その結果、出生前の肩成長は肩甲難産リスクのあるヒトのみで胎児期の肩の成長抑制が見られ、肩幅は広いが肩甲難産リスクのないチンパンジー、肩幅が小さく肩甲難産リスクもないマカクでは胎児期の成長抑制は見られないことが示された。これはヒトで肩甲難産への適応として胎児期の肩成長の抑制が進化していることを支持し、人類進化において頭部よりも先に肩で分娩のジレンマが生じたことを示唆する。本研究成果について第73回日本人類学会大会で口頭発表し、現在論文を執筆中である。



R2-B27
代:佐藤 真伍
飼育下のニホンザルおよびアカゲザルにおけるBartonella quintanaの分布状況とその遺伝子系統
飼育下のニホンザルおよびアカゲザルにおけるBartonella quintanaの分布状況とその遺伝子系統

佐藤 真伍

Bartonella quintanaは,発熱や下肢の痛み,回帰性の菌血症を主訴とする塹壕熱の原因菌である。第一次・第二次世界大戦時に塹壕熱は欧州の兵士内に大流行して以降,一旦その流行はみられなくなったものの,近年では都市部に生活するホームレスなどで散発的な発生している。さらに2000年代になると,Macaca属のサルもB. quintanaを保菌していることが明らかとなり,日本の野生ニホンザルからも本菌が分離されている。これまでの我々の研究によって,京都大学 霊長類研究所内で飼育されている研究用ニホンザルの3頭(ID #:TB1,MN51およびMN57)からB. quintanaが分離され,その遺伝子型は野生のニホンザル由来MF1-1株と同一のタイプ(ST22)であることも明らかとなっている。そこで本年度には,研究用ニホンザル1頭(ID #:MN51)から分離した株(MN51-1株)のドラフトゲノム配列を決定し,CDS 492個のゲノム配列に基づいて型別するcore genome MLST(cgMLST)法によって,MN51-1株と野生ニホンザル由来MF1-1株および中国のアカゲザル由来RM-11株を比較した。その結果,MN51-1株はMF1-1株と359個のCDSを共有していた一方で,RM-11株とは8個のCDSのみが同一であった。これらの成績から,MN51-1株はアカゲザル由来株よりも野生のニホンザル由来B. quintanaにより近縁であることが再確認されたとともに,cgMLST法は同一のSTタイプの株(MN51-1株とMF1-1株)を詳細に遺伝子タイピングできることが明らかとなった。今後,その他の研究用ニホンザルから分離したB. quintanaについても同様に検討し,ニホンザルに分布する本菌の遺伝的多様性とcgMLST法の解析能力をさらに検討していく必要があると考えられた。


R2-B28
代:松本 晶子
協:Alexandre Suire
協:菅野 啓太
マカクザルの深部体温測定技術の開発
マカクザルの深部体温測定技術の開発

松本 晶子 , 菅野 啓太

本研究の目的は、サルの深部体温を簡単に24時間計測する技術を確立することであった。
 深部体温やそのリズムは、健康状態を把握するための重要な指標の1つと考えられているが、動物の深部体温を計測する方法はいまだ確立されていない。体表温度計(一般的な体温計やスマートウォッチなどのウェアラブル機器による体温計測)は体幹から離れている場所で計測するものであり、皮膚表面の温度は外気温等の要因によって簡単に変動することもあり、誤差が生じやすい。ヒトではパッチ型のセンサーも開発され始めているが、体毛が長く、手の器用なサルへの応用は難しい。サル等では体内に外科的な方法で計測機を埋め込む方法も行われているものの、侵襲的な実験は避けるのが望ましい。飲み込み型ピルセンサー(飲む体温計)は錠剤サイズで、1~4日で体外から排出されるため、サル調査での利用可能性が期待できる。本研究では、ピルセンサーの利用にむけて、サルにセンサーを飲ませる方法とレコーダー装着の方法を検討した。
 実験ではニホンザルのオトナオス1頭を対象に、HQI製 Pill Sensors 262Kを麻酔下で胃に挿入した。ヒトでは通常48時間(最長96時間)以内に排出されることが確認されていたが、今回の実験では正常に排出されなかった。このことから、ニホンザルを対象とするセンサーは、サイズが22.6mmx10.7mm以下である必要があることがわかった。また、レコーダーは2-3mの距離でデータを記録するが、ケージで飼育されている個体の場合にはそれが干渉して記録できないことが判明した。今後の課題として、対サイズに応じたピルセンサーの小型化とレコーダーの設置場所を検討する必要がある。



R2-B29
代:國松 豊
アフロ・アジア地域における新第三紀霊長類化石の研究
アフロ・アジア地域における新第三紀霊長類化石の研究

國松 豊

2020年度は当初、8月~9月にかけてケニヤ共和国北部のナカリ地域において中新世後期の地層を対象に化石採集のための野外調査をおこない、その後、再度ケニヤに渡航してケニヤ国立博物館に収蔵されている化石を整理・分析する予定であったが、コロナ禍のために、ケニヤへの渡航が不可能となった。そのため、国内において、これまでケニヤで収集したデータの整理・分析作業を進めた。
 アジアに関しても、2020年度はタイへ渡航できない状況が続き、予定していたタイ東北部ナコンラチャシマでの野外調査と東北タイ珪化木博物館での標本調査は実施できなかったが、こちらも、従来の調査で収集したデータの整理・分析作業に重点を移した。昨年度のナコンラチャシマの調査で新たに見つかった中新世後期のコロブス亜科化石の分析のため、中新世後期にユーラシア西部を中心に生息していたコロブス亜科であるメソピテクスの化石模型をギリシアの研究者から借り受けるなどし、タイ標本との比較を進めた。


R2-B30
代:一柳 健司
協:一柳 朋子
協:新田 洋久
霊長類におけるエピゲノム進化の解明
霊長類におけるエピゲノム進化の解明

一柳 健司 , 一柳 朋子, 新田 洋久

本年度はヒトとチンパンジーのiPS細胞を用いて、胚様体を形成させ、さらに骨格筋細胞へと分化させるプロトコールの検討を行った。形態には胚様体やさらに分化した接着細胞へと変化が確認できたが、各種分化マーカー遺伝子の発現量を定量PCRで確認したところ、うまく分化していないことが分かった。現在、さらに条件を検討しているところである。


R2-B31
代:神奈木 真理
協:長谷川 温彦
協:永野 佳子
協:Ganbaatar Undrakh
STLV自然感染ニホンザルの抗ウイルスT細胞免疫

学会発表
Hasegawa, A., Murata, M., Fujikawa, T., Nagano, Y., Akari, H., Kannagi, M. Restoration of impaired STLV-1-specific CTL response in STLV-1-infected Japanese macaques by a CTL-based vaccine. (2020年10月1-3日 ) 第79回日本癌学会学術総会(広島(WEB開催)).

神奈木真理 成人T細胞白血病の免疫原性に基づく新規細胞治療法の開発(2021.02.13 ) HTLV-1関連疾患研究領域研究班合同発表会(東京(WEB開催)).
STLV自然感染ニホンザルの抗ウイルスT細胞免疫

神奈木 真理 , 長谷川 温彦

本研究では、ヒトT細胞白血病ウイルス1型(HTLV-1)の近縁ウイルスであるサルTリンパ球向性ウイルス(STLV)に自然感染したニホンザルにおけるSTLV特異的細胞障害性T細胞(CTL)応答の解析ならびに活性化を目的としている。これまでの解析で、多くのニホンザルでSTLV-1特異的CTL応答を検出したが、一部の個体ではプロウイルスDNA量が高いにも関わらずSTLV-1特異的CTL応答が著しく低いことが分かった。HTLV-1感染においても、成人T細胞白血病(ATL)患者ではHTLV-1特異的CTLが低く、CTLを活性化するワクチン療法による抗腫瘍効果が期待されている。我々は、このようなワクチン療法のモデル実験の一つとして、ニホンザル個体末梢血中のSTLV−1感染細胞を不活化したものを抗原として同一個体に免疫接種実験を実施した。2020年度は新型コロナウイルス流行により実験計画がやや遅れたが免疫接種個体のフォローアップを行った。その結果、免疫後にSTLV−1特異的CTL応答が顕著に活性化し、これに伴い感染細胞のHTLV-1発現量の減少が認められた。この現象は、免疫前にCTL応答の低かった個体だけでなく、ある程度CTL応答の検出されていた個体においても認められた。また、免疫接種個体から誘導されたSTLV-1特異的CTLの性状を解析した結果、CTLの標的抗原がSTLV-1 Taxであることが判明し、さらにCTLが認識するdominant epitopeの一つを同定した。


R2-B32
代:佐々木 基樹
類人猿における拇指(趾)可動性の非破壊的解析

学会発表
山田晴日,佐々木基樹,山田一孝, 都築 直,遠藤秀紀, 福井大祐,坂東 元,柚原和敏,藤本 智, 北村延夫 大型陸生哺乳類3種における手骨格可動性の比較形態学的研究(9月14日~30日) 第163回日本獣医学会学術集会(山口大学).
類人猿における拇指(趾)可動性の非破壊的解析

佐々木 基樹

2020年度の共同利用・研究期間中に、過去に撮像したオランウータン2頭のCT画像解析を試みた。オランウータンの後肢の趾を屈曲させたときに第一足根骨(内側楔状骨)の頭側に認められる滑車様の関節面を、第一中手骨は回外しながら内側方向にスライドしていた。また、第一中手骨は中手指関節の関節面に趾骨との広い関節面を有しており、第一趾の趾骨が大きく屈曲することで第一趾趾骨の腹側面は他の趾骨と対向するようになった。今後、実物の骨との比較でオランウータン第一趾の可動性と拇指対向に関してさらに検索していければと考えている。


R2-B33
代:佐々木 哲也
協:鮑培毅
細胞種特異的遺伝子発現・エピジェネティクスと精神疾患モデルにおけるその異常

論文
Tetsuya Sasaki, Yusuke Komatsu, Tetsuo Yamamori( 2020) Expression patterns of SLIT/ROBO mRNAs reveal a characteristic feature in the entorhinal-hippocampal area of macaque monkeys. BMC Res Notes. 13( 1): 1-6.. 謝辞 あり

Tetsuya Sasaki, Yosuke Takei(2020) Localization Mechanism of Myosin Id, an ASD Risk Gene Product in Dendritic Spines Japanese Journal of Biological Psychiatry 31(2):93-97.

Sasaki T, Tome S, Takei Y.( 2020) Intraventricular IL-17A Administration Activates Microglia and Alters Their Localization in the Mouse Embryo Cerebral Cortex. Mol Brain. 13(93):1-6. 謝辞なし

学会発表
Tetsuya Sasaki Cortical area specificity of dendritic spine morphology in primates(2020-09-11) 2020 Technical Training Meeting for Young Investigator Grant-in-Aid for Scientific Research on Innovative Areas ― Platforms for Advanced Technologies and Research Resources/(on line).

Tetsuya Sasaki; Peiryi Bao; Yosuke Takei Effects of interleukin 17A on cortical architecture and the involvement in ASD pathology.(2020.09.10-12) The 63rd Annual Meeting of the Japanese Society for Neurochemistry(Hachioji (held on line)).

Peiyi Bao, Tetsuya Sasaki, Yosuke Takei. Localization of Myosin Id, an ASD Risk Gene Product in Dendritic Spines.(2020.07.31-08.01. ) The 43rd Annual Meeting of the Japan Neuroscience Society. (Kobe (Held on line).).

関連サイト
解剖学・神経科学研究室 https://www.neurosci.tsukuba.ac.jp/~takeilab/
細胞種特異的遺伝子発現・エピジェネティクスと精神疾患モデルにおけるその異常

佐々木 哲也 , 鮑培毅

霊長類の大脳皮質は機能分化が進んでおり、複数の「領野」に区分される。その神経回路は、生後発達期に大規模な再編成がなされて機能的領野が形成される。霊長類の神経回路発達過程にニューロン、グリア細胞が果たす役割を詳細に検討するために、細胞種特異的な遺伝子発現解析、エピジェネティクス解析を計画した。本年度は、コロナ禍のため、霊長類研究所との往来が制限された。2018年度の共同利用研究によりアカゲザル2頭の脳組織を採材したものを用いて、凍結組織からの効率の良い細胞分離法を模索している。また軸索誘導因子SLITとその受容体ROBOがマカクザル嗅内皮質_海馬周辺領域に特徴的な層分布をもって発現していることを見出し査読付き論文として発行した(Sasaki et al., 2020)。


R2-B34
代:伊藤 浩介
協:酒多 穂波
サル類における聴覚事象関連電位の記録
サル類における聴覚事象関連電位の記録

伊藤 浩介 , 酒多 穂波

これまで継続して来た共同利用・共同研究により、マカクザルの頭皮上脳波記録の方法論が完成し、質の安定した聴覚事象関連電位の記録が可能となった。一方、マーモセットの脳波記録では、①頭部面積が小さく電極の設置が難しいことや、②頭皮の皮脂の多さによる電極インピーダンスの増大などの問題が明らかになった。これらの要因により、電極設置に時間がかかり、電極数を増やせず、脳波記録が安定しないなどの問題が生じていた。
 そのため、これらの問題の解決を目的とした技術開発を行ってきたが、一昨年度(2018年度)に、電極の設置について、これまでにないまったく新しい発想の方法を考案し、これにより電極設置の迅速化(従来より75%の時間短縮)、電極の高密度化(7 ㎜の電極間距離で設置可能)、脳波記録の質の安定化が達成された。昨年度(2019年度)は、この新しい電極設置方法を利用して、マーモセットの聴覚誘発電位記録を行い、世界初の報告として原書論文にまとめて投稿したが、すぐには受理されなかった。
 そこで本年度は、この論文を改訂して再投稿し、最終的にはHearing Research誌(IF 3.69)に受理された(Itoh et al., in press)。さらに、これまでに収集した複数種類の実験におけるヒト・アカゲザル・マーモセットの聴覚誘発電位データに、他から提供された、既報のチンパンージの脳波データの再解析を加えることで、霊長類4種の比較を行い、論文にまとめている。



R2-B35
代:小倉 淳郎
協:越後貫 成美
マーモセット幼若精細管のマウスへの移植後の精細胞発生の観察
マーモセット幼若精細管のマウスへの移植後の精細胞発生の観察

小倉 淳郎 , 越後貫 成美

我々は、顕微授精技術を用いることにより、マーモセット体内で自然発生した生後 11 ヶ月齢の未成熟精子(伸長精子細胞)から産仔を獲得した。そこで本研究では、さらに早期に顕微授精を行う可能性を検討するために、性成熟の早いマウスへ新生仔マーモセット未成熟精細管を移植し、精原細胞から精子・精子細胞発生が加速するかどうかを確認した。2017年度までに生後4 ~7ヶ月齢雄マーモセットの片側精巣を採取し、去勢NSGマウスの腎皮膜下に移植行った。生後4ヶ月齢マーモセット精巣移植から約 3 ヵ月後に組織を回収して組織学的観察を行った結果、初期円形精子細胞までの発生を確認した。生体下での円形精子細胞の出現は 10-11 ヶ月なので、異種移植を行うことにより 3-4 ヶ月ほど精子発生が加速した結果が得られた。2018年度より、より世代短縮が可能か明らかにするため、生後0~1日齢の個体由来の精巣を実験対象とした。前年度には、移植後3ヶ月では精原細胞まで、1年では精母細胞までの発生が確認された。今年度は移植後6か月のサンプルで精母細胞までの発生を認めた。サンプル間での精子発生速度のばらつきがあるが、出生直後の精巣でも精子発生の加速化が可能であることが明らかになった。


R2-B36
代:荒川 高光
協:江村 健児
協:櫻屋 透真
前後肢遠位部運動器の系統発生を形態学的に解析する

論文
Emura K, Hirasaki E, Arakawa T(2020) Muscle–tendon arrangement and innervation pattern of the m. flexor digitorum superficialis in the common marmoset (Callithrix jacchus), squirrel monkey (Saimiri sciureus) and spider monkey (Ateles sp.). J Anat . 謝辞あり

学会発表
>櫻屋透真 、関谷伸一、江村健児、平崎鋭矢、荒川高光 霊長類間の神経支配パターン比較に基づくヒトのヒラメ筋羽状筋部と足底筋における新たな系統発生学的仮説( 2020年12月5日-6日) 第36回日本霊長類学会(WEB開催).

江村健児、平崎鋭矢、荒川高光 ニシローランドゴリラの浅指屈筋の筋束構成と支配神経パターンについて(2020年12月5日-6日) 第36回日本霊長類学会(web開催).
前後肢遠位部運動器の系統発生を形態学的に解析する

荒川 高光 , 江村 健児, 櫻屋 透真

共同利用研究で貸与を受けたリスザルとクモザルの液浸標本を用いて、前腕屈筋群、特に浅指屈筋の起始・停止、支配神経パターンを解析した。その成果はJournal of Anatomyに掲載となった(Emura et al., 2020, 謝辞あり)。また、下腿屈筋群の支配神経パターンを解析した。ヒラメ筋と足底筋の間の支配神経パターンの近縁性を見いだし、それをもとに、ヒラメ筋と足底筋の系統発生を考察し、ヒトにおいてみられる足底筋の退縮は、実は退縮ではなく、ヒトにおけるヒラメ筋の発達に伴い、ヒラメ筋の羽状筋部に近い足底筋が多くの例で現存するに至っている可能性について提唱したい。本成果は第36回日本霊長類学会大会で発表し、最優秀口頭発表賞を受賞した。現在論文準備中である。次年度は対象部を上腕と大腿部へとつなげ、鎖骨下筋と肩甲帯の関係、大腿二頭筋短頭についても同様に解析を行っていきたい。


R2-B37
代:三浦 智行
協:阪脇 廣美
複合ワクチネーションによるSIVの感染防御効果の解析

論文
Pisil, Y., Yazici, Z., Shida, H., Matsushita, S., and Miura, T. (2020) Specific substitutions in region V2 of gp120 env confer SHIV neutralisation resistance. Pathogens 9:181.

Nakamura-Hoshi, M., Takahara, Y., Ishii, H., Seki, S., Matsuoka, S., Nomura, T., Yamamoto, H., Sakawaki, H., Miura, T., Tokusumi, T., Shu, T. and Matano, T.(2020) Therapeutic vaccine-mediated Gag-specific CD8+ T-cell induction under anti-retroviral therapy augments anti-virus efficacy of CD8+ cells in simian immunodeficiency virus-infected macaques. Sci. Rep. 10(1):11394.
複合ワクチネーションによるSIVの感染防御効果の解析

三浦 智行 , 阪脇 廣美

我々は、エイズの原因ウイルスであるヒト免疫不全ウイルス1型(HIV-1)の感染モデルとしてサル免疫不全ウイルス(SIV)や、それらの組換えウイルスであるサル/ヒト免疫不全ウイルス(SHIV)のアカゲザルへの感染動態と免疫応答について長年研究している。一方、SIV遺伝子を発現するBCGベクターとワクシニアウイルスベクターを組み合わせて免疫することにより、SIVの感染防御効果が得られることを示唆する予備的結果を得たことから、これまでのワクチンを更に改良して細胞性免疫誘導効果が高くなるように工夫したワクチンを作製すると共に、ワクチン評価実験に適した遺伝的背景をもつアカゲザル3頭を選定し、ワクチン接種した後に攻撃接種実験を行った。感染防御効果を調べたところ、部分的な増殖抑制効果が認められた。免疫応答と感染防御効果との相関を調べたところ、in vitroでのCD8細胞によるウイルス増殖抑制活性が相関した。また、新規に開発した攻撃接種用SHIVとして、臨床分離株と同等レベルの中和抵抗性を有するCCR5親和性SHIV-MK38C株の感染実験を継続的に解析し、血中ウイルス量の推移と中和抗体産生について解析し、ワクチン評価モデルとして必要な基礎情報を更に蓄積した。その結果、SHIV-MK38C株は、Tier1BとTier2の中間の中和抵抗性を有することが明らかとなり、Tier1Cと新たにカテゴライズすることとした。


R2-B38
代:澤野 啓一
協:田上 秀一
CTを用いたニホンザルの頭蓋底と眼窩を通過する血流、及び頭部静脈血還流路に関する研究
CTを用いたニホンザルの頭蓋底と眼窩を通過する血流、及び頭部静脈血還流路に関する研究

澤野 啓一 , 田上 秀一

今年度はCovid-19感染症大流行の為、霊長類研究所での新規の血管造影CT撮影は実施出来なかった。しかし前年度までに得られたDATAに基づいて、所内対応者と連絡を取りつつ新たな解析を行うことで研究を推進することが出来た。その研究成果の第一段階は、令和3年3月に開催されたthe 126th Annual Meeting of The Japanese Association of Anatomistsにおいて報告した。Venae cerebri internae (VCI, internal cerebral veins)に関しては、我々が調べたMacaca fuscata fuscata (Mff,)では8例全例で、その末梢側はVena magna cerebri Galeni (VMCG, Great cerebral vein of Galen or Galen's vein)に向かっていた。humansに比べて、Mffの場合は、VCIがつながるVMCGは、Sinus rectusとの角度が比較的緩やかで、かつ、VCIより下部は、Vena basalis Rosenthali (Rosenthal's basal vein)との間の空間に血管が少ないので、結果的に見やすく成っている。MffのありふれたRosenthal's basal veinの末梢側の流出先は、humansとは異なり、Sinus sigmoideusに向かうが、流入路・流出路の両方を詳細に調べると変異が多い。Foramen jugularis (FJ)通過前後のSinus sigmoideus (SSG) からVena jugularis interna (VJI)への血管の屈曲が、Mffとhumansとで非常に異なる点に関しては、直接的な原因は両種のFJのcranial base における三次元的な形状の違いに由来すると考えられるが、humansに於ける極端な屈曲の増加がもたらす機能的意義に関しては、更に検討を進める必要性を感じた。


R2-B39
代:柳川 洋二郎
協:對馬 隆介
協:鳥居 佳子
協:阪井 紀乃
協:篠原 明
ニホンザルにおける凍結精液を用いた人工授精プログラム開発

学会発表
栁川 洋二郎、對馬隆介、兼子明久、澤田悠斗、宮部貴子、今井啓雄、片桐成二、岡本宗裕 ニホンザルにおける精液採取の方法が新鮮および凍結融解後の精液性状に与える影響(2020.11.26-27) Cryopreservation conference 2020(Online).
ニホンザルにおける凍結精液を用いた人工授精プログラム開発

柳川 洋二郎 , 對馬 隆介, 鳥居 佳子, 阪井 紀乃, 篠原 明

新型コロナウイルス感染症に伴い実験が実施できない状況が続いていたが、10月頃から実験可能ということで12月8日に実験を実施予定で準備を進めていた。しかし、札幌市における感染者数の増加に伴う訪問の自粛要請や同時期における政府の「札幌発GoToの差し控え」要請もあり、実験を中止した。その後も状況が改善せず繁殖期が終わってしまったため本年度は実験を実施できなかった。


R2-B40
代:那波 宏之
霊長類における神経栄養因子の精神機能発達に与える影響
霊長類における神経栄養因子の精神機能発達に与える影響

那波 宏之

本年度は、疾患モデルマーモセットとその同腹仔であるコントロールの健常マーモセットのペア3組に対して①行動量定量化、②脳MRI撮像および③脳波計測を実施した。①行動量の定量化では、マーモセットの飼育ケージ内での行動を深度センサーを利用した3次元トレースシステムを使い、一週間連続で一日2回一定時間内に計測した。現時点で、3組のペア内で行動量や運動軌跡パターンに顕著な差を認めなかったが、今後も定期的にデータ収集を進め、比較解析していく。②脳MRI撮像は、以前から継続している年1回の構造MRIおよび拡散テンソル像を実施した。ある程度の頭数の脳MRIデータが収集できた時点で解析を行う予定である。③脳波計測では、聴覚刺激に対する脳波応答を非侵襲に計測した。統合失調症患者で特徴的な聴性定常反応の低下が疾患モデル個体で観察できるか否かに注目し、3ペアから脳波データを計測した。


R2-B41
代:松岡 史朗
協:中山 裕理
下北半島脇野沢の野生ニホンザル群の個体群動態

論文
松岡史郎(編)(2020) 令和元年度天然記念物生息調査むつ市に生息するにニホンザルの生息実態調査調査報告書 下北半島のサル 令和2年:1-23.
下北半島脇野沢の野生ニホンザル群の個体群動態

松岡 史朗 , 中山 裕理

1987年から継続調査している下北半島南西部の87群は、5頭から始まり、現在も指数的に増加している。87Aの2020年度の個体数は、83頭で、2013年の分裂した頭数を越えたが今年度は観察期間中に泊まり場を異にするようなサブグーピングは観察されなかった。遊動面積は、ほぼ昨年度と同じで、分裂以降、群れの個体数は増加しているが、遊動面積はほとんど変化がない。出産は、87A群で40%、死亡率は赤ん坊で20%、1歳で9%であった。87B群に関しては、観察日数が少なく、正確な出産率、死亡率が得られなかった。1987年からの観察データから、群れ個多数が増加すると、初産年齢が上がる傾向が見られた。出産年齢である5歳にまで達したメスの死亡年齢は19歳、産子数は8頭(n=9)であった。例数は少ないが、メスは、22歳前後で出産しなくなり、死亡最高年齢は30歳であった。


R2-B42
代:笹岡 俊邦
協:福田七穂
協:小田 佳奈子
協:崎村 建司
協:中務 胞
協:夏目 里恵
異種間移植によるマーモセット受精卵の効率的作成方法の開発研究
異種間移植によるマーモセット受精卵の効率的作成方法の開発研究

笹岡 俊邦 , 福田七穂, 小田 佳奈子, 崎村 建司, 中務 胞, 夏目 里恵

<目的>遺伝子改変マーモセットの作出には多くの受精卵の獲得が必須である。また、遺伝子改変動物精子の取得方法の確立も望まれている。そこで私たちは、霊長研の中村克樹研究室より提供を受けた卵巣及び精巣上体尾部を含む精巣組織を用いて、異種間移植法を中心とした技術を活用して、マーモセット受精卵生産方法の確立を目指してきた。今年度は、他の施設由来の組織を含めて、移植組織の保存条件と異種間移植の生着率及び成熟卵子取得の関連、精巣組織移植に関する検討をおこなった。
<方法>
供与された卵巣組織は冷蔵して送付されるが、移送の条件や、私たちの移植準備状況などにより、移植までの時間は一定で無い。そこで、冷蔵保存の時間と移植片の生着率、取得卵胞数の関連を、ラット及びマーモセット卵巣を用いて調べた。卵巣は細切し、卵巣除去したヌードマウス腎臓被膜下に移植した。膣開口を組織生着の目安にし、ホルモン投与により卵胞成熟を促した。また、精巣組織は、細切後に、雄ヌードマウスの皮下、腎臓被膜下、マウス精巣組織内にそれぞれ移植し、その生着率と精子形成について調べた。
<結果>ラット卵巣は細切後冷蔵し、経時的にヌードマウスに移植した。その結果、採材2日後までは高効率に生着し、成熟卵胞が取得できた。また、マーモセット卵巣は、保存期間が長くなると異常卵胞が増加する事がわかった。したがって、採材後2日以内に移植することが望ましい。また、精巣の移植部位に関しては、皮下及び腎被膜下では、時間と共に組織が吸収され、精子は得られなかった。一方、精巣組織内に移植したものは、精巣組織が保たれていた。今後、高品質受精卵取得法を本共同研究を進める中で確立したい。



R2-B43
代:保坂 善真
協:田村 純一
協:割田 克彦
霊長類の消化器等でのコンドロイチン硫酸の組成とコンドロイチン硫酸基転移酵素の発現解析
霊長類の消化器等でのコンドロイチン硫酸の組成とコンドロイチン硫酸基転移酵素の発現解析

保坂 善真 , 田村 純一, 割田 克彦

令和2年度は、新型コロナウイルスの影響により、霊長類研究所への訪問ができず、採材および実験等を進めることができなかったが、霊長類研究所の対応者である岡本宗裕教授と、今後のメールでの研究の方針について打ち合わせを行った。


R2-B44
代:佐藤 暢哉
協:林 朋広
コモンマーモセットにおける空間認知

論文

関連サイト
関西学院大学文学部 総合心理科学科 佐藤暢哉研究室 https://sites.google.com/site/nsatolab/
コモンマーモセットにおける空間認知

佐藤 暢哉 , 林 朋広

本研究では,コモンマーモセットの空間認知能力について検討することを目的として,齧歯類を対象とした実験で広く用いられている空間学習課題・空間記憶課題を,マーモセットを対象として実施できるような実験パラダイムの開発を目指した.これまでの共同研究において作製した飼育ケージ内に設置可能なマーモセット用の放射状迷路を使用した実験を実施予定であったが,新型コロナウイルス感染症の流行のため,実際の実験実施が叶わなかった.そのため,今後の研究内容などについて研究所内対応者とメールを中心に打ち合わせを行なった.次年度には,作製した装置を用いていくつかの空間認知課題を実施したいと考えている.


R2-B45
代:松本 惇平
協:柴田 智広
協:三村 喬生
サル用マーカーレスモーションキャプチャーソフトウェアの開発

論文
Rollyn Labuguen, Jumpei Matsumoto, Salvador Negrete, Hiroshi Nishimaru, Hisao Nishijo, Masahiko Takada, Yasuhiro Go, Ken-ichi Inoue, Tomohiro Shibata(2021) MacaquePose: A novel ‘in the wild’ macaque monkey pose dataset for markerless motion capture. Frontiers in Behavioral Neuroscience. 14:581154. 謝辞あり

学会発表
S. Blanco Negrete, R. Labuguen, J. Matsumoto, Y. Go, K. Inoue, T. Shibata Multiple Monkey Pose Estimation Using OpenPose.(2021.1.11) 25th International Conference on Pattern Recognition (ICPR 2020).(オンライン開催; 当初予定:Milan, Italy).
サル用マーカーレスモーションキャプチャーソフトウェアの開発

松本 惇平 , 柴田 智広, 三村 喬生

本研究では、最新の機械学習アルゴリズム(深層学習など)を用いて、任意の画像および映像内のサルの姿勢を推定するソフトウェアを開発を目指す。これまで(2018-2019年)霊長類研究所や複数の動物園でマカクサルの画像を合計計約2万頭分を収集し、画像上の特徴点(手足の位置など)をラベル付けした大規模教師データを作成した。このデータをもとに機械学習で訓練された姿勢推定ソフトを用いて、所内対応者の井上助教が所持するパーキンソン病モデルマカクサルの実験映像を解析し、運動機能等の評価を行った。3年目の2020年度では、まず、大規模教師データで訓練したソフトの詳しい性能評価を行い、結果をデータセットと共に論文として発表した(図A; Labuguen et al., 2021)。また、データセットおよび訓練済みネットワークモデルを霊長類研究所HP上で公開した(www.pri.kyoto-u.ac.jp/datasets/macaquepose)。次に、複数個体の姿勢推定が可能なOpenposeアルゴリズムを上記のデータセットで訓練し、複数のマカクサルの姿勢を同時推定することを試みた(図B; Blanco et al., 2021, ICPR 2020)。この結果、良好な結果が得られたものの、これまで行ってきた単一個体の推定結果比べるとまだノイズが多く、さらなる改良が必要と考えられた。最後に、同期した複数のカメラでサルを撮影することで、3次元的な姿勢の復元や複数個体姿勢推定の性能改善に役立つ、マルチカメラシステムの構築を行うとともに、得られた複数視点の画像から単一個体の3次元姿勢の復元するソフトを開発した(図C)。今後はマルチカメラシステムでデータ収集を行い、このデータをもとに複数個体の社会行動などを解析が可能な3次元マーカーレスモーションキャプチャーソフトの開発を目指す。本研究で開発中のソフトウェアは、姿勢や動作の解析から、運動機能や情動、行動意図、社会行動を客観的・定量的に評価することを可能にし、種々の脳機能の研究や野外生態調査、サルの健康管理など多くの分野への貢献が期待される。


R2-B46
代:清水 貴美子
協:深田 吉孝
霊長類における概日時計と脳高次機能との連関
霊長類における概日時計と脳高次機能との連関

清水 貴美子 , 深田 吉孝

我々はこれまで、齧歯類を用いて海馬依存性の長期記憶形成効率に概日変動があることを見出し、SCOPという分子が概日時計と記憶を結びつける鍵因子であることを示してきた (Shimizu et al. Nat Commun 2016)。本研究では、ヒトにより近い脳構造・回路を持つサルを用いて、SCOPを介した概日時計と記憶との関係を明らかにすることを目的とする。これまでの研究において、苦味と水ボトル飲み口の色との組み合わせ学習について、ニホンザル6頭を用いて朝昼夕の1日3時刻での記憶テストを複数回行った結果、昼に有意に記憶効率が高いという結果が得られている。さらに、この昼の記憶効率の高さにSCOPが関わっているかどうかを確かめるために、SCOP shRNA発現レンチウイルスまたはコントロールレンチウイルスの海馬への投与を一頭ずつおこない、昼の時刻の記憶効率を測定した。コントロールレンチウイルスではほとんど影響が見られなかったが、SCOP shRNA発現レンチウイルスを投与したサルは、chance level よりも著しく記憶能力が低下していた。
 これまでの結果を踏まえ、論文化するために必要な実験等について議論を行った。論文化するためには、shRNA発現レンチウイルスの投与実験をもう一頭ずつ (Scop shRNA とcontrol )おこなう必要があるが、その前に、すでに投与した一頭ずつのshRNA発現や投与位置を示す必要があること、保存サンプルを使って海馬のSCOP量やその時刻変化などの分子的データを取ることが可能であること、記憶テスト方法の見直しの必要性などを議論した。



R2-B47
代:Kanthi Arum Widayati
協:Yohey Terai
Genetic characterization of bitter taste receptors in Sulawesi macaques

学会発表
Widayati KA, Xiaochan Y, Suzuki-Hashido N, Itoigawa A, Fahri F, Terai Y, Suryobroto B , Imai H Characteristics of Bitter Taste Receptor TAS2R38 in Macaca maur(25-27 November 2020) International Conference of the Genetics Society of Korea 2020 & Asia-Pacific Chromosome Colloquium 7( Bexco, Busan, Korea).
Genetic characterization of bitter taste receptors in Sulawesi macaques

Kanthi Arum Widayati , Yohey Terai

This research aims to characterize genetic information of TAS2R38 taste receptors in seven allopatric species Sulawesi macaques. In previous studies, we characterized the function of TAS2R38 in four allopatric species of Sulawesi macaques in Sulawesi Island from Central to Northern Sulawesi. We found variation of response of TAS2R38 to synthetic phenylthiocarbamide (PTC) with functional divergence among species. We detected a shared haplotype in all four Sulawesi macaques, which may be Sulawesi macaques' ancestral haplotype. In addition to shared haplotypes among Sulawesi macaques, other TAS2R38 haplotypes were species-specific. In the present study, we will expand our samples to the Southern part of Sulawesi to determine whether this variation exists in the South Sulawesi macaque species. We predict that some of the TAS2R38 South Sulawesi macaques will have some different genetic backgrounds compared to the North Sulawesi macaques due to geographical separation and different types of soil and may reflect in the vegetation. We found one type of mutation responsible to PTC non-sensitive in M. maura. The mutation is shared between M. maura and M. tonkeana. The previous study showed that each species has a specific PTC-non-sensitive genotype that we predict exists after speciation. We expect so does M. maura. Since last year, we could not finish the genetic analysis due to Covid-19 pandemic situation. Therefore this year, we will continue to analyze the rest of the sample to determine the genetic background underlying the differences in their phenotypes variations.


R2-B48
代:原田 優
サルの発声学習に関連する身体運動の役割についての分析的研究
サルの発声学習に関連する身体運動の役割についての分析的研究

原田 優

霊長類を含む哺乳類の音声は、発声器官が関与する様々な筋肉群の身体運動の協調によって生成される音であり、発声運動と身体運動は独立しているのではなく、依存した運動制御の関係と言える。そのため、発声運動の原理を理解する際には、身体全体の動きと相まって検討される必要がある。
これまでの先行研究では、ヒトやヒト以外の動物における発声運動と身体運動の相関が明らかにされてきた。マーモセットでは発声と移動様式との関連性は、年齢成熟によって変化することが明らかになっている。このように、先行研究の実験に基づく証拠からは身体運動全体を考慮して発声運動を解釈するという考えの重要性が強調されている。
本研究ではシロテテナガザルの観察を行い、シロテテナガザルにおける自発的な発声と身体運動の関係性について調べた。その結果、発声と運動には関係性が見られず、姿勢では一貫した結果を得ることができなかった。
これは先行研究であるマーモセットの事例と矛盾せず、類似した報告となった。一方で、マーモセットの単一の発声とは発声行動が異なる長い時系列を持ったシロテテナガザルの歌(発声)と姿勢については解釈が難しく、今回の測定・分析指標では評価・測定しきれていない可能性があるため、さらに詳細な測定・分析が必要だろう。



R2-B49
代:Bambang Suryobroto
Genomic Evolution of Sulawesi Macaques

学会発表
Bambang Suryobroto Evolutionary Deployment of Sulawesi Macaques(November 25-27, 2020) Genetics Society of Korea(BEXCO Busan, Korea).
Genomic Evolution of Sulawesi Macaques

Bambang Suryobroto

Monkeys live in Sulawesi Island (Central Indonesia) are classed into seven species of genus Macaca. They are M. nigra, M. nigrescens, M. hecki, M. tonkeana, M. maurus, M. ochreata, and M. brunnescens. As the seawater gap between Sunda Shelf and Sulawesi Island had never been closed so that their ancestor should cross the Wallace Line to come to the Island, Sulawesi macaques become a good model for evolutionary speciation and differentiation.

The question of which species has the same most recent common ancestor as Sulawesi macaques is approached by comparing the single-nucleotide variants (SNV) in 0.5 million sites in exomes of Sulawesi macaques and M. nemestrina, M. sinica, M. fascicularis, and M. mulatta. We found that, firstly, the Sulawesi macaques are monophyletic, and we confirmed that it is with M. nemestrina that they share a common ancestor.

We follow the model of speciation with gene flow and trace the demographic history of M. tonkeana and M. hecki which had been reported to hybridize. We found that recreated history consists of the bottleneck, split, and introgression events. Female M. maurus were recorded to have their first infant at 6-6.5 years of age (Okamoto et al 2000). If we take 7 years as the generation time, the bottleneck period of the ancestral population can be said to occur around 417-372 thousand years ago (kya), the speciation started 350 kya, and M. tonkeana introgressed into M. hecki at 30 kya.



R2-B50
代:斎藤 通紀
協:中村 友紀
協:横林 しほり
協:沖田 圭介
協:Guillaume Bourque
霊長類iPS細胞及びそれに由来する生殖細胞のゲノム制御機構の解明
霊長類iPS細胞及びそれに由来する生殖細胞のゲノム制御機構の解明

斎藤 通紀 , 中村 友紀, 横林 しほり, 沖田 圭介, Guillaume Bourque

本研究は、ヒト・類人猿・マカクザルにおいて生殖細胞の遺伝子発現制御機構を比較し、種特有の性質が世代を超えて維持されるメカニズムの一端を解明することを目的とする。
2020年度は、チンパンジーiPS細胞と2019年度に樹立したオランウータンiPS細胞が、核型異常を起こさず未分化状態で長期維持できること、teratoma assayを用いて三胚葉分化能を有することを確認した。また、ゴリラ線維芽細胞から新たにiPS細胞を樹立し、こちらも未分化状態で長期培養可能であることを確認した。さらに、始原生殖細胞様細胞(Primodial Germ Cell-like cell, PGCLC)のマーカーであるTFAP2C座にEGFP遺伝子を導入したチンパンジー・オランウータンiPS細胞株を樹立し、TFAP2C-EPFP陽性の細胞群が出現する誘導条件を同定した。
2021年度は誘導したPGCLCのさらなる性状解析を行い、生殖系譜の発生における種差を明らかにするなど予定している。



R2-B51
代:中務 真人
協:富澤 佑真
霊長類の脊柱構造に関する進化形態学的研究

論文
Tomo Takano, Masato Nakatsukasa, Marta Pina, Yutaka Kunimatsu, Yoshihiko Nakano, Naoki Morimoto, Naomichi Ogihara, Hidemi Ishida(2020) New forelimb long bone specimens of Nacholapithecus kerioi from the Middle Miocene of northern Kenya Anthropological Science 128(1):27-40. 謝辞なし
霊長類の脊柱構造に関する進化形態学的研究

中務 真人 , 富澤 佑真

近年、人類とチンパンジー系統分岐前の祖先が、短縮した腰部か祖先的な長い腰部をもっていたかを巡る議論が活発に行われている。これに関する議論の中で、腰椎横突起の位置が固有背筋のサイズと関係する(類人猿のように背側に位置すればサイズが小さい)とした仮定が一般に受け入れられているが、これを検証した研究は存在しない。ヒト、チンパンジー、オランウータン、テナガザル、オナガザル亜科の液浸標本をCT撮影し、この検討を行った。第1腰椎から最終腰椎まで頭側面レベルでの固有背筋横断面積を計測し、体重で標準化し比較を行った。オナガザルに対し、オランウータン(n=2)はどのレベルでも低い値を示す一方、チンパンジー、テナガザル(共にn=3)は上部腰椎ではオナガザルに匹敵する大きな断面積を、下部腰椎では小さな断面積を示した。ヒトは背側にある横突起にかかわらず、最も大きな断面積を示した。類人猿において、横突起の位置と固有背筋サイズの関係に変異が存在する事は、横突起の位置自体は脊柱陥入の程度によって定まり、必ずしも背筋の発達を反映しない可能性を示唆する。また、ヒヒとマカクの間に顕著な違いが見られるなど、固有背筋の横断面積と運動との関係は単純でないことが示唆された。


R2-B52
代:William Sellers
The comparative biomechanics of the primate hand

学会発表
Hirasaki E, Sellers WI. Impotance of the pollex during locomotion in Japanese macaques: an analysis of hand pressure distribution.(2020.12) Primate Society of Japan(Online).
The comparative biomechanics of the primate hand

William Sellers

The restrictions on travel imposed by the COVID-19 pandemic meant that we had to change our plans for our 2020 research program since it was not possible to travel to PRI to collect experimental data as originally intended. Instead, we focussed on a virtual primatology project using data that we had obtained from PRI in previous years. Our planned project was to quantify the finger movements in primate hands during locomotor and manipulation tasks, so instead we turned our attention to how such actions could be controlled. The ultimate aim of producing such a control system is that it can be used as a way of quantifying the manipulative and locomotor abilities of fossil primates. We used our previously published chimpanzee computer simulation (Sellers & Hirasaki 2018) and created a novel, heuristic based targeting system. This targeting system allows us to calculate the desired muscle lengths required to move a location on the hand to any specified reachable point in the local environment. With this information we can use standard length control algorithms to activate the limb musculature to produce the movements of the arm required to achieve the desired action. This overcomes the problems associated with having very many more muscles than degrees of freedom at the joints, and the many possible ways of achieving a desired reach action. We tested our ideas in our chimpanzee simulation and were able to demonstrate high quality positional control in reach tasks at the ESHE 2020 virtual conference. In addition, we were able to combine our limb position control system with a general quadrupedal locomotion controller to produce a drivable chimpanzee walking model capable of starting, stopping and turning corners. Whilst currently not very efficient, or indeed stable, this fully controlled simulation demonstrates the possibility of taking any primate skeletal morphology and generating control patterns for a range of locomotor performances. For the very first time we have moved beyond steady state, fixed speed locomotion, and there is a reasonable chance that this approach can be used to generate a much larger range of primate locomotor and manipulation activities including climbing and foraging tasks. We intend to pursue this approach by replacing our chimpanzee model with a much more challenging to control Japanese macaque model and collecting further experimental data at PRI to confirm the accuracy of our simulations. Being forced to work under the difficult conditions imposed by lockdown measures has potentially led to a significant breakthrough for primate musculoskeletal studies and palaeobiological reconstruction.


R2-B53
代:高島 康弘
チンパンジー多能性幹細胞を維持する機構の解析
チンパンジー多能性幹細胞を維持する機構の解析

高島 康弘

ヒト胚性幹細胞(ES細胞)はFGFとACTIVINシグナルを利用し、維持される(プライム型と呼ぶ)。一方、マウスES細胞はLIFシグナルを利用し、維持されている(ナイーブ型と呼ぶ)。人工多能性幹細胞(iPS細胞)も同様であり、ヒトはFGFとACTIVINであり、マウスはLIFシグナルであり、維持されるシグナルが異なっている。
ヒトiPS細胞をマウスと類似した培養方法へと変更したヒトiPS細胞を樹立することに成功した。
一方、非ヒト霊長類ES/iPS細胞は、ヒト同様にFGFとACTIVINのシグナルによって維持されており、ヒトと同様のプライム型である。申請者は、ヒトと同様の方法を用いて、カニクイザル、アカゲザル、コモンマーモセットをナイーブ化する試みを行ってきたが、ヒト同様の方法では、誘導することが難しいことが分かった。
よりヒトに近縁であるチンパンジーiPS細胞の多能性に関連するシグナルを解析し、チンパンジー、ヒトを含む霊長類における相違と相似を明らかにすることを試みた。またチンパンジーiPS細胞(プライム型)をより受精卵に近いナイーブ型チンパンジーiPS細胞へとリプログラミングを行った。形態的には、プライム型からナイーブ型への移行を認めた。遺伝子発現の確認やより効果的なナイーブ型への移行方法を継続して、解析しているところである。



R2-B54
代:鈴木 俊介
協:川崎 恵一朗
協:竹内 亮
協:牧 廉斗
協:松下 紋子
ヒト特異的転移因子による脳関連遺伝子の発現調節機構の進化

学会発表
竹内 亮, 鈴木俊介 ヒト特異的タンデムリピートから転写される脳発現RNA遺伝子HSTR1の同定(2020年12月4日) 第43回日本分子生物学会年会(オンライン).
ヒト特異的転移因子による脳関連遺伝子の発現調節機構の進化

鈴木 俊介 , 川崎 恵一朗, 竹内 亮, 牧 廉斗, 松下 紋子

研究計画のとおり,CDK5RAP2, MCT1/SLC16A1, TBC1D5 遺伝子座中のヒト特異的レトロトランスポゾンSVA F1を,CRISPR/CAS9システムによるゲノム編集より欠失させたヒトiPS細胞株の作出に取り組んだ。iPS細胞以外の培養細胞では狙いどおりの欠失を引き起こすことができるガイドRNAを設計することができたが,iPS細胞を用いて同様の実験を行うと欠失が確認できないという状況である。遺伝子導入時に多数のiPS細胞が死滅していることが原因である可能性が考えられるため,この点について対策を行う必要がある。SVA F1欠失ヒトiPS細胞が得られ次第,チンパンジーやニホンザルiPS細胞を用いた比較実験に進む予定である。


R2-B55
代:伊沢 紘生
協:宇野 壮春
協:関 健太郎
協:高岡 裕大
協:関澤 麻伊沙
協:涌井 麻友子
金華山島のサルの個体数変動に関する研究

論文
伊沢紘生(2020) 金華山のサルのクルミ実生食い その1.-過去の記録から- 宮城県のニホンザル(33):3-5.

関澤麻伊沙(2020) 金華山のサルのクルミ実生食い その3.-A群での観察記録- 宮城県のニホンザル(33):11-13.

伊沢紘生(2020) クルミの発芽実験から見えてきたサルの実生食いの課題 宮城県のニホンザル(33):14-24.

伊沢紘生(2020) 金華山のサル・隣接するD群から見たB₁群の異常な事態 宮城県のニホンザル(34):26-35.

伊沢紘生(2020) 金華山のサル・B₁群の2019年交尾期後半以降の動向 宮城県のニホンザル(34):36-38.

伊沢紘生(2020) 金華山のサル・かつてのB₂群崩壊について B₁群の事例からわかったこと 宮城県のニホンザル(34):39-46.

伊沢紘生(2020) ニホンザル・第一位オスの群れ離脱に伴って起きること 宮城県のニホンザル(34):47-52.

関澤麻伊沙(2020) 金華山のサル・群れの分派要因について 宮城県のニホンザル(34):53-58.

伊沢紘生(2020) ニホンザル・群れの分派と離合集散 宮城県のニホンザル(34):59-61.

伊沢紘生(2020) ニホンザル・群れの内という概念の重要性 宮城県のニホンザル(34):74-82.
金華山島のサルの個体数変動に関する研究

伊沢 紘生 , 宇野 壮春, 関 健太郎, 高岡 裕大, 関澤 麻伊沙, 涌井 麻友子

 野生ニホンザルの良好な研究フィールドとしての維持・管理は別として、申請時の本研究の具体的な目的は5つで、その結果は以下の通りである。①個体数に関する一斉調査はコロナ禍の中、最大限の感染防止対策を講じつつ申請通り2回、秋と冬に実施した。結果は秋が244頭、冬が232頭だった。その詳細は伊沢の責任でとりまとめ、金華山のサルにこれまで関わりをもってきたすべての研究者とデータを共有している。②群れごとのアカンボウの出生数と死亡(消失)数は、春の調査が十分にできなかったので不明だが、秋の調査では12頭だったのが冬の調査では8頭に減っていた。③家系図と④食物リスト作成は群れごとの担当者が随時実施した。⑤遊動域の変更(拡大)は個体数の増加したB₁群で昨年に続き本年もかなり顕著に見られた。また、6群間の比較生態・社会学的調査は分派行動や群れの離合集散に関する調査を重点的に実施。その成果は、「宮城県ニホンザル」第34号に“特集:金華山のサル・群れと個と”として発行した(103項、発行日は令和2年8月)。


B1群の分派集団にいたサンショウの新芽を採食中の3歳オス


B1群の分派集団にいた第二位オス「イツモ」と3歳オス


磯の陽だまりで休息中のD群のサル達


磯に下りてワカメを採食中のD群のオトナオス


クマノミズキの冬芽を採食中のD群のオトナメス


R2-B56
代:加藤 彰子
協:内藤 宗孝
マカク属サルの形態的・環境的因子から、歯周病発症を解明する

学会発表
Akiko Kato, Munetaka Naitoh, Koji Inagaki, Eishi Hirasaki, Shintaro Kondo, Masaki Honda. Analysis of alveolar bone loss and molar occlusal angle in Japanese macaques(2021年3月28日) 第126回 日本解剖学会総会・全国学術集会(名古屋).
マカク属サルの形態的・環境的因子から、歯周病発症を解明する

加藤 彰子 , 内藤 宗孝

2020年度はニホンザルの乾燥頭蓋骨の観察を通して上顎大臼歯部に独特の裂開状または開窓状の歯槽骨吸収像が存在することに注目し、これら歯周病の所見の一つである歯槽骨吸収像と咬合機能との関係を調査した。具体的には、試料を歯科用コーンビームCT(CBCT)で撮像し,CBCT画像を用いてニホンザル18個体の上下顎第1(M1),第2(M2),第3(M3)大臼歯における近遠心方向及び頬舌側方向の歯槽骨吸収程度を評価した結果,上顎M1では89%の個体,上顎M2では61%の個体で,近心頬側歯槽骨のみ限局的に根尖全体が露出していた。また,咬合機能の指標として「咬合面傾斜角度」(咬合面と頬側咬頭の舌側斜面との角度)の評価を行った。咬合面傾斜角度は,上顎M1で最も大きく(29.6度),次いでM2(25.9度),M3(21.9度)であった。これまでに、大きな咬頭傾斜は歯の側方移動を引き起こすという報告があることから、本研究で調査したニホンザルにみられた大臼歯の頬側の歯槽骨吸収は、咬合時に歯が側方へ移動し頬側の歯周組織に障害が引き起こされた状態、つまり咬合性外傷が生じている状態であるのではないかと推測された。


R2-B57
代:Surdensteeve Peter
協:Noor Haliza Hasan
"Intestinal protozoa infecting primates in the Lower Kinabatangan Wildlife Sanctuary, Malaysia"
"Intestinal protozoa infecting primates in the Lower Kinabatangan Wildlife Sanctuary, Malaysia"

Surdensteeve Peter , Noor Haliza Hasan

This project was cancelled because of COVID-19.


R2-B58
代:添野 雄一
協:中村 千晶
協:佐藤 かおり
協:川本 沙也華
協:田谷 雄二
協:工藤 朝雄
オランウータン口腔粘膜の病理学的解析
オランウータン口腔粘膜の病理学的解析

添野 雄一 , 中村 千晶, 佐藤 かおり, 川本 沙也華, 田谷 雄二, 工藤 朝雄

本研究は、国内の動物園でオランウータンの死亡例があった際、粘膜組織および主要臓器の部分試料を得て行うもので、死亡例が無い期間では、各地の動物園における飼育個体の健康状態について情報収集を続けている。しかし、令和2年度では、新型コロナウイルス感染症の感染拡大防止対策のため、代表研究者らは所属大学の行動指針に従って他県への移動ができず、また動物園も外部からの立ち入りを制限していたために訪問作業を実施することができなかった。その旨は対応者の先生にメールにて報告している。一方、本研究課題で計画している病理組織所見のデータベース化と比較解析の基盤構築については、これまでに得ている標本データを利用してデータ格納様式の方向性を決めることができた。


R2-B59
代:落合 知美
協:川出 比香里
飼育下霊長類における採食エンリッチメントの分析と検討
飼育下霊長類における採食エンリッチメントの分析と検討

落合 知美 , 川出 比香里

学会発表
落合知美 チンパンジー放飼場への植樹とその広がり(2020.12.4-6) 第36回日本霊長類学会(オンライン開催).

 2014年から2016年にかけて宇部市ときわ動物園で実施したサル類の給餌内容の変更を論文としてまとめるため、飼育現場で得られた情報を整理し、科学的・定量的な評価を試みてきた。今年度は、トクモンキーの採食エンリッチメントについて、観察記録や体重変動についてのデータから得られた結果を図や表としてまとめ、論文化する作業をおこなった。メールでのやり取りやZOOM会議により、目的部分の文章はほぼ完成した。しかし、感染症の拡大により動物園の運営体制が変わり対応に追われたこと、予定していた実際に顔を合わせての打ち合わせができなくなったことから、結果や考察についてまとめる作業ができなかった。学会発表もオンラインとなり、貴重な意見をいただくことができた。しかし、それらの内容を論文へ反映させるまでには至らなかった。



R2-B60
代:村田 幸久
協:中村 達朗
協:小林 幸司
協:永田 奈々恵
コモンマーモセットにおける消耗性症候群の診断と管理法の開発
コモンマーモセットにおける消耗性症候群の診断と管理法の開発

村田 幸久 , 中村 達朗

昨年度までに正常便のマーモセットおよびMarmoset Wasting Syndrome (MWS)が疑われたマーモセットの尿について排泄された脂質濃度の網羅的解析(リピドーム解析)を行った。この結果について論文にまとめ、出版した (Yamazaki et al 2020, PLOS ONE, https://doi.org/10.1371/journal.pone.0234634)。
本年度は新型コロナウイルス感染症の影響で実験できなかったため、研究費は全額返還した。



R2-B61
代:井上 治久
協:沖田 圭介
協:今村 恵子
協:近藤 孝之
協:月田 香代子
協:Suong Dang
協:大貫 茉里
霊長類神経系の解析とヒト疾患解析への応用

論文
松島早希,今村恵子,井上治久(2021) 脳オルガノイドによるマイ・メディシン 医学のあゆみ 272(6(印刷中)).
霊長類神経系の解析とヒト疾患解析への応用

井上 治久 , 沖田 圭介, 今村 恵子, 近藤 孝之, 月田 香代子, Suong Dang, 大貫 茉里

 本研究課題では、ヒト特有の高次機能をもたらす分子機構とその破綻こそがアルツハイマー病等の神経変性疾患の原因であるという仮説のもとに、チンパンジーとヒトの脳神経系細胞の違いを同定するため、チンパンジーおよびヒトのiPS細胞から作製した脳神経系細胞の比較解析を目的としている。
 これまで、ヒトiPS細胞およびチンパンジーiPS細胞から二次元培養により神経細胞を分化誘導し、免疫染色による神経細胞マーカーの解析を行った。また、三次元培養による脳オルガノイドの作製を行った。平面微小電極アレイ計測システム(MED64-Basic、Alpha Med Scientific)を用いた神経活動の評価を行なった。
 これらの神経系細胞を用いたモデルの比較解析により霊長類神経系の機能解明とヒト疾患解析への応用が有用である可能性が考えられた。



R2-B62
代:長谷 和徳
協:吉田 真
協:羽賀 雄海
自律的に歩容遷移を行うマカク四足歩行モデルの開発
R2-B63
代:鈴木 郁夫
大脳皮質進化と関連するヒト固有遺伝的プログラムの探索

論文
Elisa De Franco, Maria Lytrivi, Hazem Ibrahim, Hossam Montaser, Matthew N Wakeling, Federica Fantuzzi, Kashyap Patel, Céline Demarez, Ying Cai, Mariana Igoillo-Esteve, Cristina Cosentino, Väinö Lithovius, Helena Vihinen, Eija Jokitalo, Thomas W Laver, Matthew B Johnson, Toshiaki Sawatani, Hadis Shakeri, Nathalie Pachera, Belma Haliloglu, Mehmet Nuri Ozbek, Edip Unal, Ruken Yıldırım, Tushar Godbole, Melek Yildiz, Banu Aydin, Angeline Bilheu, Ikuo K. Suzuki, Sarah E Flanagan, Pierre Vanderhaeghen, Valérie Senée, Cécile Julier, Piero Marchetti, Decio L Eizirik, Sian Ellard, Jonna Saarimäki-Vire, Timo Otonkoski, Miriam Cnop, Andrew T Hattersley(2020) YIPF5 mutations cause neonatal diabetes and microcephaly through endoplasmic reticulum stress Journal of Clinical Investigation 130(2):6338-6353.

学会発表
Ikuo K. Suzuki 脳発達から人間性の起原を探る(2020.09.01) 第22回日本進化学会(オンラインミーティング(沖縄)).

鈴木郁夫 早期ライフステージにおけるヒト固有大脳皮質発生プログラムの解明(2020.12.11) 革新的先端研究開発支援事業 早期ライフ領域キックオフ会議(オンラインミーティング(東京)).

鈴木郁夫 ヒト固有NOTCH2NL遺伝子による脳発達の揺らぎと脳進化方向性の研究(2020.12.15) 第八回新学術領域研究「進化の制約と方向性」領域会議 (オンラインミーティング(東京)).
大脳皮質進化と関連するヒト固有遺伝的プログラムの探索

鈴木 郁夫

本研究はヒト大脳皮質発生における種固有の特徴を明らかにすることを目的としている。その目的のために、ヒトES細胞とチンパンジーiPS細胞をそれぞれ培養条件下において大脳皮質へと分化誘導し、ヒト固有の大脳皮質発生ダイナミクスを明らかにすることを計画している。2020年1月に共同研究提案が採択され、同月霊長類研究所にて樹立されたチンパンジーiPS細胞2株を供与していただいた。その後、申請者の実験環境においても順調に維持培養を行うことが可能であることを確認し、拡大培養の後に凍結ストックを作成した。加えて、大脳皮質への分化誘導実験を3回行い、いずれも分化誘導開始後25日の段階で良好な神経幹細胞を得ることができた。現在、これらのチンパンジーiPS細胞由来大脳皮質細胞の凍結ストックを作成し、今後の実験解析に備えているところである。


R2-B64
代:平田 暁大
協:酒井 洋樹
飼育下サル類の疾患に関する病理学的研究
飼育下サル類の疾患に関する病理学的研究

平田 暁大 , 酒井 洋樹

飼育下でサル類に発生する疾患およびその病態を把握するため、霊長類研究所で死亡あるいは安楽殺したサル類(ニホンザル、コモンマーモセット他)を病理組織学的に解析した。
 平成29年度からの継続研究であるが、今年度、特筆すべき症例としてニホンザルのリンパ腫の症例があげられる。ヒトあるいはイヌやネコといった愛玩動物と違い、サル類では生前に疾患がみつけられることは少なく、生存時の臨床データを収集することや、治療を行うことは難しく、診断法や治療法の確立を困難にしている。今回、呼吸器症状を示して治療対象となったニホンザルの頚部において腫瘤を発見し、外科的に摘出した腫瘤を組織学的および免疫組織学的に解析し、「T細胞性リンパ腫」と確定診断した(添付画像ファイル参照)。この症例は、詳細な臨床データ(血液検査、レントゲン検査、CT検査、MRI検査等)を採取した後、治療を行なったものの、状態が悪化し、人道的観点から安楽殺され、剖検を行った。現在、解析を進めており、同研究所の獣医師(教員、技術職員)と臨床病理検討会(CPC、Clinico-pathological conference)を行った後、学会発表、論文発表を行う予定である。



R2-B65
代:郷 康広
ヒトの高次認知機能の分子基盤解明を目指した比較オミックス研究

論文
Autio JA, Glasser MF, Ose T, Donahue CJ, Bastiani M, Ohno M, Kawabata Y, Urushibata Y, Murata K, Nishigori K, Yamaguchi M, Hori Y, Yoshida A, Go Y, Coalson TS, Jbabdi S, Sotiropoulos SN, Kennedy H, Smith S, Van Essen DC, Hayashi T. (2020) Towards HCP-Style macaque connectomes: 24-Channel 3T multi-array coil, MRI sequences and preprocessing. Neuroimage 215:116800.

Hori K, Yamashiro K, Nagai T, Shan W, Egusa SF, Shimaoka K, Kuniishi H, Sekiguchi M, Go Y, Tatsumoto S, Yamada M, Shiraishi R, Kanno K, Miyashita S, Sakamoto A, Abe M, Sakimura K, Sone M, Sohya K, Kunugi H, Wada K, Yamada M, Yamada K, Hoshino M.(2020) AUTS2 regulation of synapses for proper synaptic inputs and social communication. iScience 23: 101183.

Ishishita S, Tatsumoto S, Kinoshita K, Nunome M, Suzuki T, Go Y, Matsuda Y. (2020) Transcriptome analysis revealed misregulated gene expression in blastoderms of interspecific chicken and Japanese quail F1 hybrids. PLoS One. 15: e0240183.

Hiraga K, Inoue YU, Asami J, Hotta M, Morimoto Y, Tatsumoto S, Hoshino M, Go Y, Inoue T.(2020) Redundant type II cadherins define neuroepithelial cell states for cytoarchitectonic robustness. Commun Biol. 3: 574.

Kishida T, Toda M, Go Y, Tatsumoto S, Sasai T, Hikida T. (2021) Population history and genomic admixture of sea snakes of the genus Laticauda in the West Pacific. Mol Phylogenet Evol. in press.

Labuguen R, Matsumoto J, Negrete S, Nishimaru H, Nishijo H, Takada M, Go Y, Inoue K, Shibata T.(2021) MacaquePose: A novel ‘in the wild’ macaque monkey pose dataset for markerless motion capture Frontiers in Behavioral Neuroscience in press.
ヒトの高次認知機能の分子基盤解明を目指した比較オミックス研究

郷 康広

ヒト精神・神経疾患の霊長類モデル動物の開発のために,マカクザルとマーモセットを対象とした実験的認知ゲノミクス研究を行った.令和2年度は霊長類研究所において実施される健康診断時に行われる採血の機会を利用し,マカクザル257個体(ニホンザル184個体,アカゲザル73個体)の血液試料のサンプリングを行った.サンプリングした血液からDNAを抽出し,次世代シーケンス解析用のライブラリ作成を全サンプルに対して行った.ヒト精神・神経疾患関連遺伝子(503遺伝子)を解析対象とし,257個体における遺伝子機能喪失(Loss-of-Function:以下LoF)変異保有個体の同定を行った.その結果,精神・神経疾患との関連が強く示唆されている10遺伝子(APBB2, APOL4, APP, ATXN2, CC2D1A, CHAT, COQ2, DRD4, GIGYF2, HFE),36個体において稀な(集団アリル頻度5%以下)LoF変異を持つ可能性のある個体を同定した.


R2-B66
代:小嶋 匠
狭鼻猿類における蝸牛形態変異と頭サイズの関連
狭鼻猿類における蝸牛形態変異と頭サイズの関連

小嶋 匠

霊長類において、聴覚器官である蝸牛のサイズは体サイズに対し負のアロメトリーの関係をもつ。一方で現生・化石人類では、ヒト以外の狭鼻猿類が示す蝸牛と体サイズのアロメトリー傾向から逸脱し、蝸牛長と卵円窓面積が想定されるよりも大きいことが報告されている。この説明として、ヒト系統における脳の大型化が原因であるという仮説があるが、脳サイズと蝸牛形態の関係に関する定量的研究はない。また、蝸牛が収められている頭蓋骨における、脳サイズ以外の特徴が蝸牛形態に与える影響も不明である。そこで本研究では、ヒトでは相対に大きな値を示す蝸牛長と卵円窓面積が、頭蓋骨のサイズ変数である頭蓋腔容量、頭部重心サイズ、両耳間距離のいずれにより最もよく説明されるのかを現生ヒト上科霊長類において検証した。蝸牛及び頭蓋骨のサイズ変数の計測には、X線コンピューター断層データから得られた三次元モデルを用いた。その結果、頭蓋腔容量が相対蝸牛外周長(蝸牛の1巻きあたりの平均外周長)と最も強い相関を示し、体サイズよりも脳サイズのほうが、相対蝸牛外周長についてのより良い予測因子であることが明らかになった。このことから、ヒトが体サイズと比較して大きな相対蝸牛外周長をもつことは脳の大型化によるものである可能性が示唆された。


R2-B67
代:小林 俊寛
協:平林 真澄
協:正木 英樹
チンパンジー iPS 細胞からの始原生殖細胞分化誘導とその機能評価
チンパンジー iPS 細胞からの始原生殖細胞分化誘導とその機能評価

小林 俊寛 , 平林 真澄, 正木 英樹

胚発生初期に生じる始原生殖細胞 (Primordial germ cells: PGC) はすべての生殖系列の源である。生殖細胞が生じると考えられる妊娠初期のヒト胚は倫理的・実際的に直接解析することが困難であるため、これまで多くの研究がマウスの胚を用いて進められてきた。しかしながら、近年、PGC の発生機構にはマウスとヒトで差異があることが判ってきており、よりヒトに近いモデルを用いてそのメカニズムを明らかにすることが、その理解に重要であると考えられる。そこで本研究では、ヒトに最近縁の霊長類であるチンパンジー由来の iPS 細胞を用いて、PGC が生じる過程を in vitro で再構築し、その成熟化、あるいは配偶子形成能を評価することのできる系の確立を目指してきた。前年までの共同研究において、所内対応者の今村公紀先生から分与いただいたチンパンジー iPS 細胞から PGC を分化誘導することに成功し、そのトランスクリプトームは先行研究にあるヒトの PGC と極めて近いことが明らかになった。本年度は、汎用な実験動物をレシピエントとして、移植によりその動物の体内で配偶子 (精子・卵子) を作れるかを検証するための実験系の構築を行った。まずドナーとなるチンパンジー iPS 細胞は、移植後の動態を追跡するため、全身で mClover2 を発現するようなプラスミドを導入した。またレシピエントには、生殖細胞を完全に欠損する Prdm14 KO ラットの新生児を用い、その精細管への細胞移植系を確立した。特に同種であるラットの PGC をドナーとした場合、ドナー由来の精子形成を観察することができたことから、チンパンジー iPS 細胞由来の PGC を評価する実験系として利用できることが期待される。


R2-B68
代:栗田 博之
ニホンザルにおける母親の栄養状態と乳児の成長との関連性について
ニホンザルにおける母親の栄養状態と乳児の成長との関連性について

栗田 博之

当初計画では、霊長類研究所にて、乳児と母親の生体計測を麻酔下で実施する予定であったが、新型コロナウイルス感染拡大防止のため、動物実験を中止し、大分市高崎山自然動物園にて餌付けされているニホンザル群における乳児の体重測定と母親の体重及び体長の測定に、研究費を充てさせていただいた。
 具体的には、高崎山ニホンザルB群及びC群を対象として、2020年6月から8月までの間に出生した11個体(オス:4個体;メス:7個体)の体重を、捕獲せずに上皿自動秤に載せる方法によって縦断的に測定した。それによって得られた体重値に基づき、Kurita et al. (2012, Anthropol. Sci., 120(1), 33-38)の方法によって「離乳時体重」と定義する180日齢時体重を算出した。また、母親の栄養状態を評価するために、2020年9月に写真計測法(Kurita et al., 2012, Primates, 53, 7-11)によって母親の頭臀長を測定(厳密にはこの時には撮影のみ)し、同年10月に上皿自動秤を用いて母親の体重を測定した。
 上記の方法によって得られた180日齢時体重は、11個体の平均値が 1,327 g であり、範囲は 1,050~1,600 g であった。母親の10月時体重は、平均値が 8,394 g であり、範囲は 7,570~9,400 g であった。なお、母親の頭臀長については、今後、撮影したデジタル写真データをパソコンに取り込み、Image Jを用いて算出する予定である。また、母親の栄養状態については、将来的に、体重と頭臀長から算出される体格指数を考案し、それによる評価を行う予定である。



R2-B69
代:金子 新
協:塩田 達雄
協:中山 英美
協:三浦 智行
協:入口 翔一
協:岩本 芳浩
遺伝子改変iPS細胞由来造血系細胞の移植による免疫機能細胞再構築に関する研究

論文
Yoshihiro Iwamoto, Yohei Seki, Kahoru Taya, Masahiro Tanaka, Shoichi Iriguchi, Yasuyuki Miyake, Emi E. Nakayama, Tomoyuki Miura, Tatsuo Shioda, Hirofumi Akari, Akifumi Takaori-Kondo, and Shin Kaneko(投稿中) Generation of macrophages with altered viral sensitivity from genome-edited rhesus macaque iPSCs to model human disease. 謝辞あり

学会発表
岩本芳浩、 関洋平、 鷲崎彩夏、田中正宏、 入口翔一、 田谷かほる、 三宅康行、 中山英美、 三浦智行、 塩田達雄、 明里宏文、 高折晃史、金子新 遺伝子改変iPSC由来血液細胞の評価のためのアカゲザルモデルの作成(2020年9月12日) 第12回 日本血液疾患免疫療法学会学術集会(大阪).
遺伝子改変iPS細胞由来造血系細胞の移植による免疫機能細胞再構築に関する研究

金子 新 , 塩田 達雄, 中山 英美, 三浦 智行, 入口 翔一, 岩本 芳浩

前年度までに報告していたアカゲザル由来iPS細胞に対して、CRISPR/Cas9システムを用いたゲノム編集の系を確立した。アカゲザルiPS細胞のゲノム編集は非常に効率が悪いが、条件検討を繰り返しゲノム編集の効率が改善した。最適化したCRISPR/Cas9システムを用いてSHIVに対する感染防御能を付与する目的にSHIVの感染受容体であるCCR5をターゲットとしてアカゲザル由来iPS細胞のゲノム編集を行ったところ、CCR5 homo ノックアウト株を30%と効率よく作成できた。CCR5ノックアウトiPS細胞株(ΔCCR5 iPS細胞)は元株とほぼ同様の造血前駆細胞・CD4CD8共陽性T細胞・マクロファージへの分化誘導能を有していた。
さらに、ΔCCR5 iPS細胞から分化誘導したマクロファージ(ΔCCR5 iMac)にSHIV感染抵抗性が生じるか否かをin vitroで評価したところ、元株と比較してΔCCR5 iMac に対するSHIVの感染効率の低下を認めた。
一頭のSHIV感染アカゲザルに対してΔCCR5 iPS細胞由来造血前駆細胞の自家移植を行い、iPS細胞由来造血前駆細胞の生着と免疫再構築の評価に加え、SHIV感染の推移をモニタリングしており、次年度も評価を続ける予定である。



R2-B70
代:森光 由樹
ニホンザル絶滅危惧個体群を広域管理するために必要な遺伝情報の検討
ニホンザル絶滅危惧個体群を広域管理するために必要な遺伝情報の検討

森光 由樹

兵庫県内のニホンザルの地域個体群は,美方(1群),城崎(1群),大河内・生野(4群),船越山(1群),篠山(5群)の5つに分けられている。それぞれの地域個体群は孤立している。特に絶滅が危惧されている地域個体群は,美方と城崎の群れで,2020年のカウント調査では,美方B群は15頭(成獣メス4頭),城崎A群30頭(成獣メス9頭)と個体数が少ない状況にある。上記5つの地域個体群のミトコンドリアDNA(以下,mtDNA)コントロール領域(412bp)の分析では,それぞれ地域個体群間で異なるハプロタイプが6タイプ検出されている(森光&鈴木2013)。地域個体群内の群れでmtDNAに違いがあるのか,より詳細を調べるためmtDNAコントロール領域全域(1008bp)の分析を行った。兵庫県に生息している12群の成獣メスをそれぞれ1頭,学術捕獲し血液を採取し分析を行った(n=12)。その結果,計8タイプが検出された。篠山で1つ,大河内・生野で1つ異なったハプロタイプが新たに検出された。今後は,今回の結果から作成した,兵庫県mtDNAハプロタイプの地理的分布図を用いて,オスの群れ間の移動について分析を進める予定でいる。


R2-B71
代:柏木 健司
協:堀 真子
奈良県天川村洞川地区の鍾乳洞産二ホンザル化石の形質解析と年代
奈良県天川村洞川地区の鍾乳洞産二ホンザル化石の形質解析と年代

柏木 健司 , 堀 真子

申請者は現在、洞窟産のニホンザル化石を含む哺乳類化石について、古生物学的研究を進めている。2019年度にその事前の予察調査として、奈良県天川村洞川地区で調査を実施し、既存の竪穴の確認に加え、今後の調査を進める計画立案を進めた。2020年度前半は、奈良県天川村洞川地区を含む紀伊半島中央部エリアについて、既存文献による洞窟データの整理を行い、現地調査の準備を進めたものの、新型コロナの流行に関連して、現地調査の実施には至らなかった。


R2-B72
代:佐々木 えりか
協:篠原 晴香
協:黒滝 陽子
霊長類における絶滅危惧種の保全技術の確立
霊長類における絶滅危惧種の保全技術の確立

佐々木 えりか , 篠原 晴香, 黒滝 陽子

絶滅危惧種に指定されているワタボウシタマリン(タマリン)の種の保全のため、我々がコモンマーモセットで用いている生殖工学技術を転用し基盤技術開発を行ってきた。しかし、使用しているタマリンの高齢化、個体の他施設への分与の決定により今までのように実験を続けることが困難となった。そこで京都大学霊長類研究所に保存されている、凍結細胞を用いて個体復元技術を開発するためにiPS細胞を樹立する。その後、卵子へ分化誘導、凍結精子との受精を経て個体作出を目指したい。この技術が確立されれば、国内のワタボウシタマリンの保全につながり更に、他の絶滅危惧種の霊長類の保全へも貢献できる。
 本研究ではまずはじめに、以前の共同利用により分与いただいた、タマリン皮膚由来線維芽細胞を用いて、予備検討を実施した。マーモセットiPS細胞樹立条件(Watanabe et al.,2019)と同じ条件にてタマリンiPS細胞の樹立を試みた。7日間連続の初期化因子トランスフェクション後、フィーダー細胞上に細胞を播種した。通常であれば数日間でコロニーが出現するが、この実験ではコロニーを確認することができなかった(図1a)。このことから、マーモセットの条件よりもさらに初期化を促す因子が必要である可能性が示唆された。また、タマリンが高齢であることも樹立できなかった要因の一つであると考えられる。
 次に、今回の共同利用で分与いただいた細胞のうち、皮膚・耳・筋肉由来線維芽細胞3種類についてiPS細胞樹立実験の前に、細胞の正常性を確認するため、核型解析を実施した。
タマリンの正常2倍体染色体数は、46本でマーモセットやヒトと同じである。皮膚・耳由来線維芽細胞では、46,XYの正常核型を示した(図2a)。一方筋肉由来線維芽細胞では、46,X,+13となり、Y染色体が無く13番染色体がトリソミーを示した(図2b)。皮膚と耳の細胞では正常核型を示していることから、So152Mの個体特有の染色体異常ではなく、培養により生じた異常であると考えられる。



R2-B73
代:筒井 健夫
協:鳥居 大祐
協:深田 哲也
協:那須 優則
協:小林 朋子
再生医療応用のためマカク乳歯歯髄幹細胞の細胞特性解析
再生医療応用のためマカク乳歯歯髄幹細胞の細胞特性解析

筒井 健夫 , 鳥居 大祐, 深田 哲也, 那須 優則, 小林 朋子

令和2年度は、コラーゲンゲル上で三次元培養した乳歯歯髄細胞を移植した歯牙について解析を行った。移植細胞は乳切歯より採取し、初代培養後に三次元構築体を作製しニホンザル3例に対して、採取された細胞と同一個体へ移植を行った。約10ヶ月間後に移植された歯牙を抜歯し、軟エックス線およびマイクロCT解析を行った。軟エックス線撮影像からは、歯髄内にエックス線不透過像が観察され、細胞移植後にエックス線不透過物が産生されたことが示唆された。移植時に三次元構築体を付着した根管口部位において不透過像が強く観察された。また、内部吸収像は観察されず、細胞移植による病的組織像は観察されなかった。マイクロCT解析では、歯髄内に硬度の異なる硬組織形成が確認された。軟エックス線撮影像においてエックス線不透過像が確認された根管口部位では、顕著に高密度の硬組織形成物が根管口を覆うように確認された。令和3年度は細胞採取、継時的な細胞移植および移植組織の組織学的検査を計画しており、移植組織の歯髄組織の再生状態および硬組織形成について解析を行う。


R2-B74
代:設樂 哲弥
協:中野 良彦
ヒト上科を対象とする後肢筋の筋線維型の分布の比較
ヒト上科を対象とする後肢筋の筋線維型の分布の比較

設樂 哲弥 , 中野 良彦

ヒトの二足歩行への身体適応の一つとして、骨盤形態の変化に伴う殿筋と大腿部後面の筋の機能変化及び機能分化に古くから関心が寄せられてきた。しかし、実際の筋の走行と関節中心との関係に基づいて、歩行時における筋の機能を論じた研究は少ない。本年度の本研究では、歩行時における股関節周囲筋の機能を明らかにするために、ニホンザルとシロテテナガザルの液浸標本各三個体を用いて、筋骨格系モデルを作成し、筋のモーメントアーム長を計測することを目的とした。モデルの作成に先立って、各筋の支配神経、筋の形態、走行、構築を観察した。 三次元形態計測装置Micro Scribe Mを用いて、筋の起始点・停止点および骨のランドマークの空間における三次元座標を取得し、筋骨格系モデルを作成した。本年度作成したニホンザルとシロテテナガザルの股関節周囲筋の筋配置モデルを用いて、来年度は実験的に二足歩行及び四足歩行のキネマティクスを計測し、実際の歩行を筋配置モデルで再現した際の各筋のモーメントアームの経時的変化を明らかにすることを目標とする。


R2-B75
代:後藤 遼佑
協:設樂 哲弥
ニシゴリラが行うぶら下がり行動の観察
ニシゴリラが行うぶら下がり行動の観察

後藤 遼佑 , 設樂 哲弥

ニシゴリラのオトナオス (20歳)とコドモオス (9歳) が行うぶら下がり行動を観察した。特に180 kg (オトナオス) と50 kg (コドモオス) の身体サイズバリエーションがアームスイング頻度等に与える影響に注目した。【結果1】 身体サイズがアームスイングの連続性と生起頻度に影響した。オトナオスにおいて1ステップのみのアームスイングは観察されたものの、連続的なぶら下がりロコモーションは観察されなかった。一方、コドモオスでは頻繁な連続的アームスイングが観察された。個体差と発達的影響は排除できないが、アームスイングの連続性と生起頻度には身体サイズが影響すると考えられた。【結果2】 懸垂中の採食姿勢にも身体サイズが影響した。採食を伴うオトナオスの懸垂行動では、ぶら下がりに使う片側前肢に加え、左右どちらかの後肢で周囲にある支持物を把持し、最低2点で身体を支えた。コドモオスは片側前肢だけでぶら下がりながら採食した。【結果3】 コドモオスのアームスイングは、単肢支持期における前進と二重支持期における後退を伴う周期運動であった (図1)。スイング期にある前肢が (図1写真1) 頭上の支持基体に到達して二重支持期となると (図1写真2)、恐らく重力の影響により、振り子様に身体が後方に振れ始めた。二重支持期の終期に、完全に伸展されたトレイリング前肢 (前方の腕) によって後方への振子運動が制動され (図1写真3)、身体の運動が前方への振子運動に切り替わった。それとほぼ同時にリーディング前肢 (後方の腕) が支持基体からリリースされて単肢支持期となり、身体全体が前進した (図1写真4)。テナガザルやクモザルのブラキエーションではゴリラほど顕著な後方への振子運動は観察されない。これらの結果から、真ブラキエーターが行う連続的かつ円滑なぶら下がり型ロコモーションの進化には、身体の後退を伴わずに継続的に前進するメカニズムが要求されると考えられた。


R2-B76
代:Mukesh Chalise
Study on phylogeography of highland macaques and langurs in Nepal
Study on phylogeography of highland macaques and langurs in Nepal

Mukesh Chalise

Due to the pandemic of Covid-19, I could not visit the Primate Research Institute, Kyoto University, so I could not carry out the planned experiment for phylogeography of Nepal Assamese macaques. Therefore, we had a meeting by email with Dr. Tanaka, the corresponding researcher, about the further sampling and experiment for phylogeography of Assamese macaques, and the application for Cooperative Research Program in 2021.


R2-B77
代:河野 礼子
類人猿の上腕骨サイズと歯牙サイズの対応関係の検討
類人猿の上腕骨サイズと歯牙サイズの対応関係の検討

河野 礼子

ミャンマー調査で発見された大型類人猿の上腕骨遠位部化石の分析の一環で、現生類人猿の上腕骨サイズと歯牙サイズの対応関係の検討を進める予定であったが、コロナウィルス感染症の影響により霊長類研究所を訪問することが難しい時期が多く、想定通りの作業は行うことができなかった。そこで所内対応者および共同研究者らとはメール連絡などをしつつ、上腕骨化石の分析に関連して実施可能な作業をいくつか進めていった。具体的には9月に霊長類研究所を短時間訪問して研究方法等に関する相談を実施し、取得済みのデータについての確認をおこなった。2月には兵庫の放射光施設SPring8にて上腕骨化石の高精度X線CT撮影を試行した。また3月には上腕骨形状の比較分析手法として相同モデルの利用について検討を進めた。


R2-B78
代:伊藤 孝司
協:北川 裕之
協:月本 準
協:桐山 慧
協:篠田 知果
協:佐々井 優弥
ムコ多糖症自然発症霊長類モデルに関する総合的研究
ムコ多糖症自然発症霊長類モデルに関する総合的研究

伊藤 孝司 , 北川 裕之, 月本 準, 桐山 慧, 篠田 知果, 佐々井 優弥

霊長類研究所(大石、宮部、金子ら)との共同で、徳島大(伊藤ら)は、ニホンザル若桜集団の中に、リソソーム酵素α-L-イズロニダー(IDUA)遺伝子における1塩基置換(ミスセンス潜性変異)が原因で、IDUA活性欠損と特徴的な顔貌、心弁膜症等を伴うムコ多糖症I型(MPS1)(ライソゾーム蓄積症)を自然発症した3個体を見い出してきた。2020年度は、徳島大(伊藤、篠田、佐々井ら)が、糖鎖転移活性をもつエンドグリコシダーゼEndo-MやEndo-CC改変体を利用し、ヒトIDUAを絹糸腺で高発現する組換えカイコの繭から精製したIDUAの付加糖鎖を、組織細胞内への取り込みに必要な末端マンノース6-リン酸(M6P)含有合成糖鎖または鶏卵黄由来末端シアル酸含有二分岐型糖鎖(SG)と挿げ換えたネオグライコIDUAを作製した。これらの糖鎖改変IDUAは、MPS1ニホンザル個体(♀20160521生)皮膚由来線維芽細胞内に取り込まれ、リソソームまで輸送されることを明らかにした。またコロナ禍のため遅延した本個体へのネオグライコIDUAの静脈内定期継続投与実験に先立ち、個別飼育室に移し、関節可動域、心エコー等の検査を実施した。また糖鎖非修飾型IDUAを約50mg精製するとともに、野生型マウスへの皮下投与(0.58 mg/kg体重、毎週1回、計4回)を行い、体重減少や行動異常が無いことを確認した。


R2-B79
代:浅川 満彦
東北および四国地方に生息するニホンザル(Macaca fuscata)の寄生虫症および感染症に関する疫学調査

論文
石島栄香, 清野紘典, 藏元武藏, 海老原 寛, 岡本宗裕, 浅川満彦(2021) 徳島県および福井県で捕獲されたニホンザルMacaca fuscataの寄生蠕虫類の保有状況 酪農大紀, 自然 45:印刷中. 謝辞あり

浅川満彦(2020) 酪農学園大学野生動物医学センターWAMCが関わった近畿・中国・四国地方における研究活動概要 青森自誌研(25):77-82. 謝辞あり

Kakiuchi, K., Asakawa, M.(共同筆頭), Ishiniwa, H., Tamaoki, M. and Onuma, M.(2021) Temporal change in the parasite fauna of the large Japanese field mouse Apodemus speciosus in the radioactive contaminated zone of Fukushima. Jpn. J. Zoo Wildl Med. 26(1):1-5. 謝辞あり

学会発表
浅川満彦 飼育哺乳類で新たに検出された寄生虫2種のエキゾチック動物医療における意義-2019年刊公表結果の概要紹介(2020年3月20日開催の予定であったが、コロナ禍のため同年10月25日に延期、直前中止) 日本獣医エキゾチック動物学会症例検討会2020(東京).
東北および四国地方に生息するニホンザル(Macaca fuscata)の寄生虫症および感染症に関する疫学調査

浅川 満彦

①ときわ動物園:2020年9月、四国地方と瀬戸内海を挟んで対面の山口県に所在するときわ動物園内のサル類飼育施を視察し、同園の宮下 実園長(今回添付した画像参照)および専任獣医師・飼育担当の方々と打ち合わせをした。その結果、目的であったニホンザルのほか、国内では当該園でのみ飼育されるハヌマンラングール(今回添付した画像参照)等の飼育個体の糞便材料をお送り頂くことになった。当該園としては健康管理面で有益であるとのことであった。やはり、息の長い研究は双方にとってプラスであることが再確認された。不幸にして落命した個体の剖検で寄生虫が得られる場合、その寄生虫の同定依頼もお約束頂いた。
②徳島県および福井県:四国地方・徳島県個体については、(株)野生動物保護管理事務所(以下、WMO)で有害捕獲されたサンプルを頂いた。比較材料として福井県の個体が次の報告が印刷中である;石島栄香, 清野紘典, 藏元武藏, 海老原 寛, 岡本宗裕, 浅川満彦. 2021. 徳島県および福井県で捕獲されたニホンザルMacaca fuscataの寄生蠕虫類の保有状況. 酪農大紀, 自然, 45: 印刷中。また、この刊行に先駆け、次の総説で一部データを紹介した;浅川満彦. 2020. 酪農学園大学野生動物医学センターWAMCが関わった近畿・中国・四国地方における研究活動概要. 青森自誌研, (25): 77-82.なお、以上、2編の論文では、その謝辞に本研究助成について明記している。
③滋賀県:四国および北陸の報告の継続として、現在、近畿地方について調査を進行中である。WMOから滋賀県の有害捕獲個体(申請数計30個体)が送付されることになった。そのため、2021年度の申請にはこれも追加した。
④COVID-19による学会研究発表の中止:2019年(B-8)ので公表した飼育サル類の高病原性円虫類による症例について、次の学会で報告を予定した;浅川満彦. 飼育哺乳類で新たに検出された寄生虫2種のエキゾチック動物医療における意義-2019年刊公表結果の概要紹介. 日本獣医エキゾチック動物学会症例検討会2020, 東京。これは今年3月20日予定であったが、10月25日に延期されたが、結局中止。



R2-C1
代:木村 賛
ナチョラピテクス化石研究の比較資料としての霊長類下腿骨調査

学会発表
木村賛、菊池泰弘、清水大輔、高野智、辻川寛、荻原直道、中野良彦、石田英實 ケニア産中新世ホミノイドNacholapithecus kerioi下腿骨の特徴予報(2020年12月6日) 第36回日本霊長類学会大会(中部大学(オンライン)).
ナチョラピテクス化石研究の比較資料としての霊長類下腿骨調査

木村 賛

北部ケニア・ナチョラで発見された中新世化石ホミノイドであるナチョラピテクスの下腿骨については2つの報告がある。しかし、大きな化石集団であるナチョラピテクスにはほかにも未報告の下腿骨が見つかっている。これらの化石の特徴を検討するための比較資料として、現生霊長類下腿骨の形態を調べた。本年度はホミノイドを中心として研究所所蔵の約18種55体の霊長類下腿骨を観察・計測した。これまでに霊長類研究所ならびに国内外の研究施設で調べたものと合わせ、骨格77種256個体の霊長類(ヒトを含む)の計測値を化石との比較検討に用いた。現生霊長類種をその主なロコモーション様式により分類して分類群ごとの形態特徴を抽出した。ナチョラピテクス下腿骨は弯曲が少なく、筋付着痕が弱く、筋活動が弱かったことを思わせる。足関節の形態は、類人猿や樹上移動運動に特化したサルとは異なり、内かえし・外かえしの少ない関節運動に適応していると見られる。これらの予報的検討は、2020年12月に開かれた第38回日本霊長類学会オンライン大会にて共著者とともに発表した。


R2-C2
代:川合 伸幸
サルの脅威刺激検出に関する研究

学会発表
邱カチン・川合伸幸 自然風景の中のヘビは素早く正確に検出されるのか?-フリッカー変化検出課題を用いたヘビ検出の検討 (2018年9月1日) 2018年度日本認知科学会第35回大会(立命館大学(茨木市)).
サルの脅威刺激検出に関する研究

川合 伸幸

これまでの共同利用研究を通じて、サルはヘビを他の動物よりも早く見つけることを示して来た(Shibasaki & Kawai, 2009; Kawai & Koda, 2016, Kawai, 2019)。ヘビを見たことのないサルがヘビをすばやく検出するということは、サルは生得的にヘビを検出する視覚システムを有していることが示唆される。しかし、これまでは視覚探索課題を用いて脅威対象の検出を評価してきた。視覚探索課題はターゲットへの注意を反映しているのか、背景刺激が注意を惹きつけるのかが不明であるとの批判がある。そこで、霊長類で初めてフリッカー課題を用いて、脅威の対象を早く検出できるかの予備的検討を行った。フリッカー課題とは、画像の一部(ターゲット)だけが異なる相似の画像をブランクを挟んで繰り返し提示し、異なる箇所をどれだけ早く正確に検出できるかを調べる手法である。
 R2年度はコロナウィルスのため実験が中断し、また諸般の事情で研究が9月末までしか実施できなかったために、初期訓練を遂行するにとどまった。2頭のサルが、フリッカー課題で、背景と異なるターゲットを検出することを習得した。ただし、まだターゲットは非常に大きく、実際に自然画像や脅威対象の動物を提示するには、さらにターゲットを小さくし、また背景画像として自然画像を用いるなど、さらなる訓練が必要である。



R2-C3
代:坂巻 哲也
野生ボノボの人口動態と集団サイズの研究
野生ボノボの人口動態と集団サイズの研究

坂巻 哲也

申請者は現在、ボノボのエコツーリズム開発プロジェクトのため、コンゴ民主共和国を本拠地とし、当国のロマコ森林の調査に従事している。2020年中に日本へ一時帰国した際に、霊長類研究所に数週間ほど滞在し、古市剛史教授の元で管理されているワンバの長期データの整理と分析を行なう計画であった。しかし、本年はCOVID-19のコロナ禍のため、日本への帰国時期は大幅に遅れ、2020年10月に一時帰国したもの、本計画を遂行するスケジュールを組むことができなかった。


R2-C4
代:Emma Kozitzky
The dental phenotype of anthropoid primate hybrids: Evidence from Macaca fuscata x M. cyclopis

論文
Emma Ayres Kozitzky( 2021) The Impact of Hybridization on Upper First Molar Shape in Ro-bust Capuchins (Sapajus nigritus x S. libidinosus) Dental Anthropology Journal 34( 1).

学会発表
Emma Ayres Kozitzky Does Molar Shape Distinguish Robust Capuchin Hybrids (Sapajus nigritus x libidinosus) From Non-Hybrids? A 2D Geometric Morphometric Approach( 2020) American Association of Physical Anthropologists( JW Marriott Los Angeles).

Emma Ayres Kozitzky December 4, 2020( Postcanine tooth shape and morphological integration in hybridizing baboons) New York Consortium in Evolutionary Primatology(City University of New York Graduate Center).
The dental phenotype of anthropoid primate hybrids: Evidence from Macaca fuscata x M. cyclopis

Emma Kozitzky

Because of the COVID-19 pandemic, I was unable to visit Kyoto University to complete any part of the project outlined in my application to work with the Cooperative Research Program. However, I did re-apply to the program and received funding for the project 2021-B-19 "The dental phenotype of anthropoid primate hybrids: Evidence from Macaca fuscata and M. cyclopis" with the help of host researcher Eishi Hirasaki. I will collect photographs, linear measurements, and 3D surface scans of the dentitions of these taxa and their hybrids from November to December of 2021. The data derived from this project will be part of my PhD dissertation, which I aim to complete in the winter of 2022.


R2-C5
代:佐藤 佳
協:伊東 潤平
協:三沢 尚子
協:今野 順介
協:小柳 義夫
ウイルス感染制御遺伝子の進化に関する研究
ウイルス感染制御遺伝子の進化に関する研究

佐藤 佳 , 伊東 潤平, 三沢 尚子, 今野 順介, 小柳 義夫

本年度は、コロナ禍のため、検体授受のための訪問、および、計画した研究の遂行がきわめて難しい状況であった。そのため、公共データベースを用い、ヒトと霊長類の生殖細胞の分化・成熟におけるとランスポゾンとSTFsのバイオインフォマティクス解析を実施した。


R2-C6
代:藤原 摩耶子
協:村山 美穂
種の保存を目的とした野生動物の配偶子保存研究

学会発表
Fujihara M, Inoue-Murayama M. Ovarian tissue cryopreservation for female fertility preservation in wild animals. (October 25, 2020) 13th International Virtual Conference of Asian Society of Conservation Medicine(Online).
種の保存を目的とした野生動物の配偶子保存研究

藤原 摩耶子 , 村山 美穂

2021年1月13日に福岡市動物園で死亡したメスチンパンジー「コナツ」(推定44歳)の卵巣を当研究室に郵送していただき、死後2日目の1月15日に受取り、種の保存のための配偶子保存の研究に供試した。卵巣は一部を組織解析用に固定した後、未成熟卵子のある皮質部を切り出し、凍結保存を実施した。その際、十分な数の卵巣皮質片を回収できたことから、凍結保護剤の異なる2種類のガラス化凍結法と、緩慢凍結法を実施した。一方、成熟した卵子は回収できず、卵子単独での凍結保存の実施は行わなかった。
凍結保存前の卵巣組織の一部は組織固定し、パラフィン包埋をした後、H&E染色を実施して組織観察を行った。その結果、凍結保存を実施した卵巣には複数の未成熟卵子(原始卵胞、一次卵胞、二次卵胞)が含まれることを確認し(添付写真)、この年齢(推定44歳)でも卵巣に未成熟卵子を有していることを確認できた。しかし、排卵前の成熟卵子(胞状卵胞)は観察されなかったことから、凍結保存を試みた際に回収できなかったように、本個体の卵巣は成熟卵子を持たず、本来は配偶子保存は不可能とされる状態であったと考える。未成熟卵子をターゲットとしている本研究ならば、この年齢のチンパンジーの卵巣からも多数の未成熟卵子の活用が期待できる。一方で、形態的に損傷した卵子(卵胞)も見られたことから、死後2日目には卵子の退行が始まっており、より早く、より良い状態で卵巣の回収と卵子の保存を実施することが望まれる。
回収時に残った卵巣組織の一部はDNA、RNA、タンパク質として保存したため、今後凍結前後の変化について、組織観察と合わせて、分子生物学的解析を実施する予定である。



R2-C7
代:西川 完途
協:原 壮太朗
協:福山 伊吹
協:尾崎 洸太朗
協:沈 彦鵬
小型爬虫両生類の系統分類学
小型爬虫両生類の系統分類学

西川 完途 , 原 壮太朗, 福山 伊吹, 尾崎 洸太朗, 沈 彦鵬

申請者は骨形態を用いることで、爬虫両生類の種や属の見直しをすることを目的としている。分類に使用する爬虫両生類は種や属の証拠となるため、骨格の観察には既存の標本をマイクロCTを用いて非破壊検査をする必要があった。これまでのマイクロCT装置では解像度が足りず、頭骨要素の観察ができなかったが、貴研究所にのマイクロCT装置(写真1)を用いることで頭骨要素の観察が可能になった。今年度はサンショウウオ属、イモリ科、チョボグチガエル属の断層撮影を行った。これらの両生類は、これまで詳細な骨格形態の種間比較の研究が乏しく、現在は属レベルの定義が難しい外部形態の計量形質に頼っている。今回の結果からいくつかの種に特徴のある頭骨要素が確認できた。この形質は種の特徴だけでなく属として定義できる可能性もあるが、観察した個体数が少ないため、種内変異を考慮しながらマイクロCTを続けていく予定である。また、両生類は軟骨も多く保持している脊椎動物である。今回、diceCTの方法(写真2)をご教授いただいたため、これから硬骨だけでなく軟骨の比較も行なっていく予定である。


R2-C8
代:Cantas Alev
Comparative molecular analysis of primate embryonic development using iPSCs
Comparative molecular analysis of primate embryonic development using iPSCs

Cantas Alev

During the last fiscal year (FY2020) collaborative work between the Alev-lab at ASHBi and Imai-lab at the PRI was initiated. Non human primate (NHP) fibroblasts (of different great ape-species) have been provided by Dr. Imai as part of this collaborative interaction to tha Alev-lab. They will be used to generate NHP induced pluripotent stem cells (iPSCs).These NHP iPSCs will be used to establish and analyze in vitro models of primate embryonic development. Despite the ongoing virus pandemic online/virtual meetings between Dr. Imai and Dr. Alev have been continuing. During these meetings active discussions were made in preparation of joint scientific research as well as joint grant applications, includng an application for a Transformative Research Type A grant, which is lead by Dr. Alev. We are confident that the initiated collaborative interactions between both labs will continue to grow in future and contribute to an overall better understanding of human and non-human primate biology.


R2-C9
代:小藪 大輔
原猿類における下顎骨形態の進化生物学的研究
原猿類における下顎骨形態の進化生物学的研究

小藪 大輔

いわゆる原猿類と括られる霊長類はツパイTupaiidae,メガネザルTarsiidae,ロリスLorisidae,キツネザルLemuridae,インドリIndriidae,アイアイDaubentoniidaeの6科を含む、単系統ではない多系統群である。他の霊長類に比して原猿類にみられる下顎形態の特徴は下顎骨の腹尾側に位置するAngular process角突起の突出である。他の哺乳類を見渡すと、この部位はげっ歯類、兎形類、無盲腸類(モグラ類、トガリネズミ類、ハリネズミ類)、翼手類、皮翼類で同様に鋭角に突出することが知られる。他方、真猿類の多くではこの部位は鋭角な突出を見せず、下顎骨の腹尾側に弧を描く。霊長類を含む哺乳類では一般的に、外側方向では咬筋深層、内側方向には内側翼突筋の付着部位となっている。本研究では原猿類を真猿類と比較しながら角突起の喪失的進化の背景の解明を目指している。貴所に導入設置されているブルカー製スカイスキャン・マイクロCT装置を用いて網羅的に撮影を行った。撮像されたデータは三次元再構築ソフトAmira 5.3 を用いてボリュームレンダリング、およびマニュアル・オートを併用したセグメンテーション作業を行った。セグメンテーションの完了したデータはSTLフォーマットで出力し、Geomagicにてモデルの最適化を行った。完成した三次元モデルは統計環境RのPMCMR, ade4, Morpho, ffmanova, ape等の各種オープンリソースの解析パッケージを用いて解析を進めた。角突起の形態的多様性、そしてその発生過程を三次元座標を用いて評価し、生態学的形質との連関を検証するとともに、下顎における他の突出部位である、筋突起、関節突起との定量的な連動性 modularity について検討を進めている。


R2-C10
代:村松 明穂
協:山本 真也
チンパンジーにおける位取り記数法の学習と作業記憶における加齢効果
チンパンジーにおける位取り記数法の学習と作業記憶における加齢効果

村松 明穂 , 山本 真也

本研究の目的は,①ヒトにおける数の概念の進化的基盤を探ること,②発達・加齢がチンパンジーの作業記憶に与える影響を明らかにすることである。飼育チンパンジーを対象に,タッチモニタを用いたコンピュータ課題による実験的研究を行っている。
 数の概念に関する研究では,既にチンパンジーが学習しているアラビア数字の系列1から9について,前方・後方に系列を延長し,数系列0から19の学習と定着を試みた。参加7個体すべてにおいて,数系列0から19を学習できたことが確認された。今後は,20以上のアラビア数字についてのテスト課題を実施し,チンパンジーがどのように十進法の表記ルールを学習したのか確認する予定である。
 作業記憶に関する研究では,過去10年のあいだ定期的に実施してきた作業記憶の課題について,現時点での各個体のパフォーマンスを確認した。また,過去10年間の作業記憶に関する課題のデータを各記憶媒体などから回収し,整理をおこなった。さらに,作業記憶に関する新規課題を開始した。今後は,作業記憶課題のパフォーマンスをそれぞれ年齢ごとに個体内・個体間で比較し,チンパンジーの作業記憶が10年でどのように変化したのか確認する予定である。



R2-C11
代:岸 雄介
協:山中 総一郎
サルの発達・老化におけるクロマチン構造変化の解析

論文

関連サイト
東京大学薬学部分子生物学教室 http://www.f.u-tokyo.ac.jp/~molbio/
サルの発達・老化におけるクロマチン構造変化の解析

岸 雄介 , 山中 総一郎

 個体の発達は様々な組織の機能獲得を伴うが、逆に老化は様々な組織の機能低下を誘導し、老齢個体の生活に大きな障害をもたらす。これまでの多くの発達・老化研究はマウスを用いてその成果を挙げてきたが、マウスとヒトには大きなギャップが存在するため、ヒトの発達・老化を理解するためにはヒトの近縁種である霊長類を用いた老化研究が必須である。
 クロマチン構造は発達および老化の過程で大きく変化することが知られており、またHGPSなどの早老症患者ではクロマチン因子の変異が原因であることもわかっている。そのため、少なくとも老化による機能低下の原因の一つはクロマチン構造の破綻であると考えられる。
 本年度は、生後数日、4-5年齢、11-15年齢のアカゲザルの脳から、一次視覚野、一次運動野、背側前頭前皮質、内側前頭前皮質、海馬の凍結サンプルを、また精巣・卵巣のサンプルを採取し、送付していただいた。そして、一次視覚野からニューロン核を採取し、RNA-seq解析を実施した。現在その結果を解析中であり、今後は他の脳領域も含めてニューロン核を用いたクロマチン解析を実施する。また生殖組織の免疫染色も実施することで、脳と生殖組織の老化メカニズムの解明を目指す。



R2-C12
代:Samuel Refetoff
協:Takashi Yoshimura
協:Junfeng Chen
Analysis polymorphism of short tandem repeat in Gorilla
Analysis polymorphism of short tandem repeat in Gorilla

Samuel Refetoff , Takashi Yoshimura, Junfeng Chen

研究代表者はこれまで一貫して甲状腺に関する研究を行ってきた。また、研究協力者は鳥類や哺乳類の甲状腺刺激ホルモン(TSH)に関する研究を行ってきた。研究代表者は最近、血液中の甲状腺刺激ホルモンが高値を示す「高TSH血症」の患者の遺伝解析を行ったところ、ゲノム中に存在する縦列型反復配列(short tandem repeat: STR)の多型が血液中のTSH濃度と関連することが示唆された。同じ霊長類のニシゴリラにおいても同様な縦列型反復配列が存在することが明らかになったため、研究協力者とともに、本共同利用研究で提供していただいたニシゴリラのDNAをもとにゴリラの縦列型反復配列の多型を明らかにした。今後はさらに個体数を増やすために、他の個体についても検討することで縦列型反復配列の多型と血中TSH濃度の関係が明らかになることが期待される。


R2-C13
代:小湊 慶彦
協:佐野 利恵
サルの赤血球上の血液型抗原発現が転写調節領域の分子進化により規定されることの証明
サルの赤血球上の血液型抗原発現が転写調節領域の分子進化により規定されることの証明

小湊 慶彦 , 佐野 利恵

令和2年度にチンパンジー、ニホンザル、アジルテナガザルの血液および唾液の採材を進める予定であったが、新型コロナウイルスの影響により採材が行われなかった。霊長類研究所対応担当の大石先生とメールにて打ち合わせを行い、引き続き令和3年度も研究を継続することとした。


R2-C14
代:田中 郁子
μCT撮影のための筋組織染色法の改良 -鳥類と霊長類-
μCT撮影のための筋組織染色法の改良 -鳥類と霊長類-

田中 郁子

CT画像で筋を識別するために筋の染色は不可欠であるが,動物の筋を染色すると,一般的に筋は縮んで小さくなり,部位によっては変形が大きくなることもある.元の状態と比べどの程度縮んだのかについては,まだ研究例が少ないため,重量に対しての染色時間の決定方法には検討の余地がある.
本研究では染色時間に着目し,筋縮小への影響が最小となる条件を明らかにすることを目的とした.染色時間の長短と筋重量との関係から縮小量を見積もり,縮小量の最小である最適な時間を調べるために,対照実験を実施した.染色時間は経験則での時間を参考にし,それが正しいかどうかも同時に検証した.
対象としたのは,ウズラの足部である.個体差を考慮し,各2体ずつ用いた.左右大腿筋から切り出し,ルゴール溶液で染色し,μCT撮影を実施した.それをAvizoを使用して,筋骨格モデルを作成した.
染色時間が最も短い条件では,CT画像からの筋識別が不可能であるが,冷凍庫で24時間保存した後に再度CT撮影をしたところ,軟組織が充分に識別できた.
本研究ルゴール溶液のみの染色法は,1.5倍ほど染色時間はかかるが,縮小をほぼ与えないので,デジタル解剖において効果的な手法である.



R2-C15
代:岡野 栄之
協:今泉 研人
霊長類iPS細胞を用いた脳オルガノイドのサイズと内部構造の制御解析
霊長類iPS細胞を用いた脳オルガノイドのサイズと内部構造の制御解析

岡野 栄之 , 今泉 研人

非ヒト霊長類iPS細胞として、チンパンジー皮膚線維芽細胞からepisomal vectorで樹立されたiPS細胞を4ライン、ニホンザル皮膚線維芽細胞からSendai virus vectorで樹立されたiPS細胞を2ライン、今村研究室から供与され、培養を行った。さらに、ヒトiPS細胞培養において確立された脳オルガノイド培養手法を用いて、これらのiPS細胞から脳オルガノイド作成を目指したが、正しい形態を保ったオルガノイドの作成には成功しなかった。この原因の1つとして、iPS細胞の培養条件が考えられる。供与された非ヒト霊長類iPS細胞はfeeder-free条件あるいはそれに類似した培養条件であり、従来の脳オルガノイド培養手法において用いられるfeeder細胞を用いたiPS細胞培養とは異なる。ヒトiPS細胞からの脳オルガノイド作成においても、同様のfeeder-free条件は誘導効率を著しく低下させるデータを得ており、今後は、脳オルガノイド作成に最適なiPS細胞培養条件の検討を行っていく。


R2-C16
代:早川 卓志
協:五藤 花
協:郷 康広
テナガザルの発声行動に関連する脳発現遺伝子の解析
テナガザルの発声行動に関連する脳発現遺伝子の解析

早川 卓志 , 五藤 花, 郷 康広

2020年度は凍結標本からの遺伝試料採取およびその解析に取り組んだ。研究の対象として扱ったのは、霊長類研究所に凍結保存されていたシロテテナガザルHylobates larの遺伝標本である。まず、所内対応者である大石の指導のもと、音声行動に関係すると推定される領域を含む複数の脳領域を選定した。それに従って、協力者である五藤が、脳から合計17か所から凍結状態を維持しながら採材を行った。また、比較対象として脳以外の6つの組織からも同様に採材を行った。次に、採材した組織サンプルからRNAを抽出し、RNA-Seqを行って網羅的に発現遺伝子の塩基配列を決定した。得られたデータを、協力者の郷が作成したリファレンスゲノムアセンブリや、データベースに公開されているリファレンスゲノム配列にマッピングし遺伝子発現を調べた。さらに一つの遺伝子に注目した解析や、主成分分析などの一次解析に取り組んだ。研究結果については、一部を五藤の卒業研究として発表したほか、第15回PWSシンポジウムのポスターセッションや第65回プリマーテス研究会のライトニングトークにて発表した。


R2-C17
代:狩野 文浩
タッチパネルを用いた視線検出課題
タッチパネルを用いた視線検出課題

狩野 文浩

ヒトとチンパンジーの視線の検出しやすさを検討するため、タッチパネルを用いて、ヒトとチンパンジーを対象に、視線の方向を検出する課題を行った。結果、ヒトとチンパンジー被験者ともに、チンパンジーの視線の方向よりも、ヒトの視線の方向のほうが検出しやすいということが明らかになった。刺激画像のチンパンジーとヒトの目の色をそれぞれ反転させた場合(チンパンジー画像が白い強膜を持ち、ヒト画像が黒い強膜を持つようになる)、チンパンジーの目はより検出しやすくなり、ヒトの目はより検出しにくくなった。すなわち、刺激画像の強膜の白い色がチンパンジーとヒト両種の被験者にとって視線の検出に直結していることが明らかになった。さらに詳細を分析し、投稿準備をする予定である。


R2-C18
代:森山 隆太郎
COVID-19の性感染症可能性の組織学的検討
COVID-19の性感染症可能性の組織学的検討

森山 隆太郎

 マカク雄生殖腺および副生殖腺組織におけるACE2受容体免疫陽性細胞を観察した結果、精巣のライディッヒ細胞、セルトリ細胞がACE2受容体免疫陽性であった。同様にTMPRSS2免疫陽性細胞を観察した結果、精巣のライディッヒ細胞、セルトリ細胞、精原細胞、精巣上体頭部・体部・尾部にある精巣上体管周囲の上皮細胞、精嚢、前立腺および尿道球腺の腺腔を囲む上皮細胞がTMPRSS2免疫陽性であった。
 Western blotting法によりACE2受容体およびTMPRSS2発現組織を同定した結果、抗ACE2受容体抗体でバンドが観察された組織は精巣のみであり、抗TMPRSS2抗体でバンドが観察された組織は精巣、精巣上体頭部・体部・尾部、精嚢腺、前立腺、尿道球腺であった。また、RT-PCR法によりmRNA発現組織を同定した結果、ACE2受容体mRNA発現組織は精巣のみであり、TMPRSS2 mRNA発現組織は精巣、精巣上体頭部・体部・尾部、精嚢腺、前立腺、尿道球腺、陰茎であった。
 以上より、繁殖期のマカク生殖腺・副生殖腺においてACE2受容体とTMPRSS2が共発現している細胞は精巣のライディッヒ細胞とセルトリ細胞であることが明らかとなった。この結果は、SARS-CoV2が精巣のこれら細胞に感染し、造精機能障害や男性ホルモン分泌障害を引き起こす恐れのあること、さらには精子と混ざる前の精槳にはSARS-CoV2が存在しないことを示唆するものである。



R2-C19
代:新井 誠
協:石田 裕昭
霊長類モデルを用いた血中ペントシジン値の正常発達軌跡の同定
霊長類モデルを用いた血中ペントシジン値の正常発達軌跡の同定

新井 誠 , 石田 裕昭

本研究の目的は、マカクザルの血漿ペントシジンおよびビタミンB6に対して、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)を用いて測定し、乳幼児期、性成熟期、成体・中年期、高齢期におけるこれらの血液バイオマーカーの正常発達軌跡を明らかにすることである。
本研究では、マカクザルの年齢に基づき、発達区分を乳幼児期(1歳から2歳)、性成熟期(4歳から5歳)、成体・中年期(8歳から15歳)、高齢期(18歳から25歳)と設定し、各区分において雌雄それぞれ4-6頭ずつ末梢血を採取した。
血漿ペントシジン値について、ヒトと動物モデルの相同性を明らかにするため、ヒト健常者(20代から60代男女合計10名)、マカクザル(性成熟期から高齢期雌雄合計10個体)の血漿ペントシジンをHPLCを用いて計測した。霊長類との比較のために、性成熟期(12週齢)のマウス、モルモットの血漿ペントシジン値を計測した。
その結果、 マカクザルは正常ヒトに相同する血漿ペントシジン値(正常範囲)を示した。一方でマウス、モルモットの血漿に含まれるペントシジンは極めて微量で、HPLCでは検出限界値を示すことが多かった。この結果から、糖化ストレスのバイオマーカーとしての血漿ペントシジンは、マカクザルにおいてヒトと相同に計測されることが明らかになった。このことは、マカクザルがペントシジン病態を理解するためのモデル動物としての有用である可能性を示唆する。
今後、発達区分間、性別間において血漿ペントシジン値およびビタミンB6について計測し、ヒトに近似するものとして、マカクザルから正常発達軌跡を得る。



R2-C20
代:寺村 岳士
協:村川 康裕
協:中西 真人
Naive型チンパンジーiPS細胞の誘導と異種間キメラ動物の作製
Naive型チンパンジーiPS細胞の誘導と異種間キメラ動物の作製

寺村 岳士 , 村川 康裕, 中西 真人

京都大学霊長類研究所において樹立されたチンパンジーiPS細胞を用い、低分子化合物での処理によりNaïve誘導を行った。14日間Naïve誘導を行ったチンパンジーiPS細胞はマウスES細胞に類似した形状を示し、転写因子の発現の変化、細胞表面マーカーの発現変化を認めた。さらに、マウス胚との異種間キメラ動物作製実験において、胚体への取り込みと胎児組織への寄与を示唆する観察像が得られた。本成果は、チンパンジーiPS細胞がNaive化誘導後に安定した形質を示し、典型的な基底状態を示しうる優れたヒト細胞モデルとなりうることを示している。
次年度には同細胞を用い、キメラ動物作製実験を中心にさらに検討を進める予定である。