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H31
論文 46 報 学会発表 112 件
H31-A1
代:佐藤 侑太郎
協:狩野 文浩
アイ・トラッキングによるチンパンジーの社会認知研究

論文

関連サイト
京都大学野生動物研究センター http://www.wrc.kyoto-u.ac.jp/members/satoY.html
アイ・トラッキングによるチンパンジーの社会認知研究

佐藤 侑太郎 , 狩野 文浩

今年度は、霊長類研究所のチンパンジー7~10個体を対象に一連の視線計測実験によるデータ収集をおこなった。第一に、感覚間選好注視実験(cross-modal preferential looking)によってチンパンジー音声の参照的機能を調べた。モニターに果物とヘビの動画を横に並べて提示し、チンパンジー警戒声、採餌声、悲鳴などの音声を再生した。実験の結果、警戒声を聞かせた時にチンパンジーがヘビの動画をより長く見ることがわかった。この結果は、チンパンジーが警戒声とヘビの視覚情報とを関連付けることができることを示唆する。第二に、視線追従(gaze-following)における集団間バイアスを調べた。実験では、1個体のチンパンジーが左右いずれかを向く動画が提示された。動画中のチンパンジーが同施設で飼育される個体か別施設(熊本サンクチュアリ)で飼育される個体かで、視線追従の生じやすさに違いがあるかを調べた。第三に、他者身体運動の理解に関する実験をおこなった。この実験はヒト乳幼児を対象におこなわれた過去の実験がもとになっている。CGアニメーションを用いて、生理学的に不可能な動作(上腕の肘関節が逆に曲がる)をみせるキャラクターの動画を提示した。これを見ているときのチンパンジーの視線と瞳孔径を測定した。現在データの分析を進めている。


H31-A2
代:石田 裕昭
協:西村 幸男
マカクザル前頭極の多シナプス性ネットワークの解明
マカクザル前頭極の多シナプス性ネットワークの解明

石田 裕昭 , 西村 幸男

申請者らは、マカクザルをモデルに狂犬病ウイルスを用いた逆行性越シナプストレーシング法を用いて、前頭極における多シナプス性神経ネットワークの解析を進めてきた。前頭極における大脳間ネットワークについて、これまでに1次および2次シナプスまでのネットワークについて解析を終えており、論文の執筆を進めている。

本年度は、前頭極―大脳基底核ネットワークを調べる目的で、2次シナプスまでのネットワークの解析を終えた。さらに1頭のサルを用いて、3次シナプスまでの神経ネットワークを調べる実験を実施した。今後、前頭極―大脳基底核ネットワークについて3次シナプスまでの神経ネットワークを観察するため、もう1頭のサルを用いた実験を追加し、データの解析を進める。


H31-A3
代:藤山 文乃
協:苅部 冬紀
協:平井 康治
協:緒方 久実子
協:東山 哲也
協:角野 風子
霊長類の皮質ー基底核ー視床ループの形態学的解析
霊長類の皮質ー基底核ー視床ループの形態学的解析

藤山 文乃 , 苅部 冬紀, 平井 康治, 緒方 久実子, 東山 哲也, 角野 風子

最近霊長類で線条体のtailと呼ばれる部位が報酬系などで特殊な役割を果たしていることが報告されている。私たちは、げっ歯類においても同様の機能分担がある領域があるのかを調べるために、齧歯類とマーモセットの尾側線条体の比較解剖学を行なっている。一部の領域において、D1Rおよびtyrosine hydroxylaseの染色性が弱く、D2Rの染色性が強い領域 (D1R-poor zone) を発見し、現在論文執筆中である。この研究は所内対応者の高田昌彦教授にご提供いただいたマーモセットを用いた実験を進めている。


H31-A4
代:小松 英彦
協:齊藤 治美
視覚の充填知覚を司る情報処理機構の探索
視覚の充填知覚を司る情報処理機構の探索

小松 英彦 , 齊藤 治美

盲点の視野上での位置を2頭のニホンザルで計測した。まず、サルが注視点を見ている時に視野のさまざまな位置に小光点を呈示し、それに向かってサッケードを行うように視覚サッケード課題を訓練した。一部の試行では、小光点を呈示せず、その場合には注視点に対する注視を続けたら報酬を与えた。このような訓練を行ったのち、サルの片目をマスクで遮蔽し、タスクを行わせた。盲点内部に小光点が呈示された場合、サルは注視を続けるので、これにより盲点の位置を同定することができた。盲点は耳側視野の水平子午線上で網膜中心から15度くらいの偏心度のところに同定された。次に注視課題を行っているサルの第一次視覚野(V1)に金属微小電極を刺入し、受容野のマッピングを行い、盲点に対応する視野位置を表現している場所を探索した。鳥距溝後壁皮質にそのような領域が同定された。盲点において生じる充填知覚にV1がどのように関わっているかを調べるため、V1の各層から同時にニューロン活動を記録して、層毎の活動の違いを調べる予定である。そのための準備として、V1に多チャンネルリニアアレイ電極を刺入し、ニューロン活動を記録するための予備実験を行った。


H31-A5
代:田中 真樹
協:竹谷 隆司
協:鈴木 智貴
協:亀田 将史
行動制御における皮質下領域の機能解析

論文
Kameda, M., Ohmae,S. & Tanaka, M.(2019) Entrained neuronal activity to periodic visual stimuli in the primate striatum compared with the cerebellum. eLife 8:e48702. 謝辞なし

Suzuki, T.W.& Tanaka, M.(2019) Neural oscillations in the primate caudate nucleus correlate with different preparatory states for temporal production. Commun Biol 2:102. 謝辞なし

Miterko, L.N., …, Tanaka, M. (27名中21番目), …, Sillitoe, R.V. (2019) Consensus paper: Experimental neurostimulation of the cerebellum. Cerebellum 18:1064-1097. 謝辞なし
行動制御における皮質下領域の機能解析

田中 真樹 , 竹谷 隆司, 鈴木 智貴, 亀田 将史

これまで、視床や小脳をターゲットにして分子ツールを用いた複数の研究を進めてきた。令和元年度は運動性視床で行った実験について対照動物からのデータ収集を終え、夏ごろから定量解析を行い、論文作成に着手した。本実験では、補足眼野にAAVベクターを接種し、運動性視床から単一ニューロンを記録しながら終末に発現させたハロロドプシンを光刺激して大脳視床経路の役割を探った。ベクターを接種した個体では光刺激によって課題関連活動の変化とともに、非特異的な活動の変化も認めた。課題関連活動の変化は興奮性、抑制性の両方があり、運動方向やイベントに特異的に光刺激の効果を認めた。一方、ベクターを接種しない対照個体でも同様の実験を行ったところ、非特異的な活動変化のみを認め、これらの多くは興奮性の効果を示した。これらのことから、運動性視床の課題関連活動の少なくとも一部は、大脳からの直接入力によって調整されていることが明らかとなった。光刺激の効果にはオプシンを介したものと、局所の温度変化によるものの2種類があると考えられる。これらの研究成果は現在、投稿に向けて準備中である。


H31-A6
代:西村 幸男
協:鈴木 迪諒
意欲が運動を制御する神経基盤の解明

論文

学会発表
M Suzuki, K-I Inoue, H Nakagawa, M Takada, T Isa and Y Nishimura. Macaque ventral midbrain facilitates the output to forelimb muscles via the primary motor cortex. (2019年4月) Annual Meeting of Society for the Neural Control of Movement(Toyama).

鈴木迪諒 意欲を司る中脳辺縁系が運動と機能回復を制御する神経基盤(2019年8月24日) 第27回日本運動生理学会大会(広島).

関連サイト
研究室ホームページ http://www.igakuken.or.jp/neuroprosth/
意欲が運動を制御する神経基盤の解明

西村 幸男 , 鈴木 迪諒

越シナプス神経トレーサー(狂犬病ウイルス)により、意欲の中枢である腹側中脳から2シナプス性の脊髄への投射の存在を見出した、また本成果に関して論文執筆を開始した。これらの成果の一部を下記に示す学会にて発表した。

1. Suzuki M, Inoue K-I, Nakagawa H, Takada M, Isa T and Nishimura Y. Macaque ventral midbrain facilitates the output to forelimb muscles via the primary motor cortex. The 2019 Annual Meeting of the Society for the Neural Control of Movement (NCM) (2019.4.26-27 Toyama, Japan)

2. 鈴木迪諒:意欲を司る中脳辺縁系が運動と機能回復を制御する神経基盤、第27回日本運動生理学会大会シンポジウムIV「運動技能向上・再獲得を担う脳内神経基盤の包括的理解」(2019.8.24 広島)


H31-A7
代:福田 真嗣
協:村上 慎之介
協:谷川 直紀
協:楊 佳約
脳機能におよぼす腸内細菌叢の影響
脳機能におよぼす腸内細菌叢の影響

福田 真嗣 , 村上 慎之介, 谷川 直紀, 楊 佳約

本研究では小型霊長類であるコモンマーモセットに着目し、高次脳機能、特に情動反応や記憶力と腸内細菌叢との関係について解析を行った。高次脳機能評価を行うため、図形弁別課題およびその逆転学習課題を訓練した。さらに、記憶機能を検討するため空間位置記憶課題も訓練した。これらのマーモセットの便を採取し、次世代シーケンサーを用いて腸内細菌叢解析を行った。得られた腸内細菌叢情報と認知機能情報について、相関解析や多変量解析手法を用いてアプローチし、認知機能に関連する腸内細菌叢の探索を行っている。これまでに、学習成績の比較的良いマーモセットと悪いマーモセットの腸内細菌叢に一部差があることを見出すことができた。今後はより詳細な解析を実施する。



H31-A8
代:狩野 文浩
チンパンジーを対象としたアイ・トラッキングによる記憶・心の理論・視線認知についての比較認知研究

論文
Kano, F., Krupenye, C., Hirata, S., Tomonaga, M., & Call, J. (2019) Great apes use self-experience to anticipate an agent’s action in a false-belief test Proceedings of the National Academy of Sciences 116(42):20904-20909. . 謝辞We thank Naruki Morimura, Yutaro Sato, YuriKawaguchi, Daniel Hanus, Hanna Petschauer, and the staff at KumamotoSanctuary, Primate Research Institute, and Wolfgang Koehler PrimateResearch Center for their assistance in conducting the experiments. Financialsupport came from the Japan Society for the Promotion of Science KAKENHIGrants 18H05072, 19H01772, 16H06301 (to F.K.), 18H05524 (to S.H.), 16H06283,LDG-U04, GAIN (to M.T.); European Commission Marie Skłodowska-CurieFellowship MENTALIZINGORIGINS (to C.K.); and European Research CouncilSynergy Grant 609819 SOMICS (to J.C.).
チンパンジーを対象としたアイ・トラッキングによる記憶・心の理論・視線認知についての比較認知研究

狩野 文浩

類人猿の意図理解に関して、成果を上げた。これまでの研究から、類人猿が、予期的な注視を指標にした課題において、動画の中で、他者(動画の中の役者)が現実とは異なる誤った知識を抱いている(誤信念をもつ)状況においても、他者の行動の向かう先を予測的に注視することが示されている。本研究では、その心的メカニズムに関してさらに調査を進めた。先行研究では、類人猿が他者の意図理解にもとづいて課題を解決したのか(心の理論)、他者が最後に見た場所を再訪する、というような、特定の「行動ルール」にもとづいて課題を解決したのか、明らかではなかった。この「行動ルール」仮説を検証するために、本研究では、類人猿が、他者が同一の行動をしている状況においても、自己の経験に照らし合わせて、他者の行動の予測のやり方を変化させるか調べた。課題では、まず類人猿は近くで見ると透けて見えるトリック衝立と、近くで見ても透けて見えない普通の衝立のどちらかを経験した。2つの衝立は遠目から見ると同じに見える。その後、類人猿は動画を見た。動画では、類人猿が経験した衝立と同じ見た目の衝立の後ろに役者が隠れる様子が映され、その目の前では、隠されたオブジェクトが移動した。動画を見た類人猿は、トリック衝立を経験した場合は、役者がそのイベントを見たかのように役者の行動を予測し、普通の衝立を経験した場合は、役者がそのイベントをみなかったかのように役者の行動を予測した。したがって、予期的な注視を指標にした課題において「行動ルール」仮説は成立しないことが示された。Kano F, Krupenye C, Hirata S, Tomonaga M, & Call J (2019) Great apes use self-experience to anticipate an agent’s action in a false-belief test. Proc. Nat. Acad. Sci. 116(42):20904-20909.


H31-A9
代:宇賀 貴紀
協:三枝 岳志
協:熊野 弘紀
協:須田 悠紀
判断を可能にする神経ネットワークの解明
判断を可能にする神経ネットワークの解明

宇賀 貴紀 , 三枝 岳志, 熊野 弘紀, 須田 悠紀

運動方向を判断する際、大脳皮質中側頭(MT)野が動きの知覚に必要な感覚情報を提供していることは明らかであるが、MT野の情報がどこに伝達され、判断が作られているのかは未解明である。本研究では、化学遺伝学的手法を用い、MT野からのどの出力経路が判断に必須であるかを調べることにより、判断を可能にする神経ネットワークを明らかにすることを目指す。今年度はサル1頭のMT野にhM4Di遺伝子を搭載したウイルスベクターを打ち、マルチユニットと局所電場電位(LFP)の反応変化を解析した。


H31-A10
代:Kurnia Ilham
The effects of the physical characteristics of seeds on gastrointestinal passage time in captive long-tailed macaques (Macaca fascicularis)
H31-A11
代:南部 篤
協:畑中 伸彦
協:知見 聡美
協:佐野 裕美
協:長谷川 拓
協:纐纈 大輔
協:Woranan Wongmassang
協:Zlata Polyakova
遺伝子導入法による大脳基底核疾患の病態に関する研究
遺伝子導入法による大脳基底核疾患の病態に関する研究

南部 篤 , 畑中 伸彦, 知見 聡美, 佐野 裕美, 長谷川 拓, 纐纈 大輔, Woranan Wongmassang, Zlata Polyakova

パーキンソン病 (PD) の病態を明らかにするため、ドーパミン選択的神経毒MPTP (1-methy-4-phenyl-1,2,3,6-tetrahydropyridine) をニホンザルに投与し、PDモデルを作製した。大脳基底核出力部である淡蒼球内節の神経活動を覚醒下で記録したところ、発火頻度に変化はなく、オシレーションもみられなかった。大脳皮質運動野の電気刺激に対する応答様式について調べてみると、正常サルでは早い興奮-抑制-遅い興奮からなる3相性の応答が観察できるが、PDサルでは3相性応答のうちの抑制が消失していた。記録を行いながらドーパミン補充療法を施し、症状が改善された時に記録を行ってみると、抑制が回復して3相性の応答様式に戻っていた。これらの結果は、大脳皮質-大脳基底核経路を介した淡蒼球内節における一過性の伝達様式の異常が、PD症状の発現に寄与していることを示唆する。淡蒼球内節はGABA作動性の抑制性ニューロンで構成され、常時連続発火することによって投射先である視床と大脳皮質を抑制している。正常状態では、直接路を介した入力によって淡蒼球内節が一時的に抑制されると、脱抑制によって視床と大脳皮質の活動が増大し運動を起こすが、PDでは大脳皮質からの入力によって淡蒼球内節が十分に抑制されず、視床と大脳皮質に対する抑制を解除出来ないため、無動や寡動を来すと考えられる。


H31-A12
代:橋本 均
協:中澤 敬信
協:笠井 淳司
協:勢力 薫
霊長類脳の全細胞イメージングと神経回路の全脳解析

論文
Kaoru Seiriki, Atsushi Kasai, Takanobu Nakazawa, Misaki Niu, Yuichiro Naka, Masato Tanuma, Hisato Igarashi, Kosei Yamaura, Atsuko Hayata-Takano, Yukio Ago, Hitoshi Hashimoto(2019) Whole-brain block-face serial microscopy tomography at subcellular resolution using FAST NATURE PROTOCOLS 14(5):1509-1529. 謝辞あり

学会発表
橋本均 高速・高拡張性全脳イメージングシステムFAST:アンバイアス、仮説フリーでの薬物の有効性と安全性の評価へ(2019/6/26) 第46回日本毒性学会学術年会(アスティとくしま).

橋本均 高速・高精細全脳イメージングによる脳機能解析(2019/7/4) 第44回レーザ顕微鏡研究会&シンポジウム(大阪大学銀杏会館).

勢力薫、橋本均 蛍光全脳イメージングのための連続断層イメージング法FAST(2019/9/24) 第57回日本生物物理学会年会(宮崎シーガイア・コンベンションセンター).
霊長類脳の全細胞イメージングと神経回路の全脳解析

橋本 均 , 中澤 敬信, 笠井 淳司, 勢力 薫

学会発表
勢力薫、笠井淳司、中澤敬信、橋本均.(2019年7月25日)「脳内のシンギュラリティ検出のための全脳高解像度イメージング」Neuro2019(朱鷺メッセ)

勢力薫、笠井淳司、丹生光咲、田沼将人、五十嵐久人、中澤敬信、山口瞬、井上謙一、高田昌彦、橋本均 高精細全脳イメージング技術FASTの開発と精神疾患モデルマウスの病態解析―脳全体を対象とした仮説フリーな病態・薬物治療機序の組織学的解析―(2018年10月13日)第68回日本薬学会近畿支部会 (姫路獨協大学)

本年度は高田研で作成された複数の蛍光標識アデノ随伴ウイルスベクターを隣接する微小脳領域に感染させた脳を得た。高速高精細な全脳イメージングシステムFASTを用いて、単一細胞レベルで観察し、霊長類脳の詳細な全脳神経回路の情報を得るための画像データ処理法の開発等を実施している。


H31-A13
代:二宮 太平
協:磯田 昌岐
神経路選択的トレーシング法による社会脳ネットワークの解析
神経路選択的トレーシング法による社会脳ネットワークの解析

二宮 太平 , 磯田 昌岐 , 則武 厚

本共同研究は、社会的認知機能に重要とされる、いわゆる社会脳ネットワークの詳細を解剖学的アプローチにより明らかにすることを目的とする。具体的には、内側前頭皮質(MFC)と腹側運動前野(PMv)を対象とした、越シナプス能をもたないG遺伝子欠損型狂犬病ウイルスベクターおよびテトラサイクリン遺伝子発現調節システム(Tet-onシステム)を利用した、神経路特異的トレーシングをおこなう。そのため、まず昨年度は実験目的に適したウイルスベクターの詳細な検討および作製をおこなった。現在、同様のベクターを用いた検証実験が計画されており、その際ベクターの有効性を確認する予定である。また、注入実験の際に電気生理学的手法を用いた対象領野の同定が必要であるため、細胞外電位記録実験および電気刺激実験に向けたセットアップをおこなった。今後は、ベクターの有効性を確認し、必要があれば更なるベクターの調整をおこなった後、当初計画していた、MFCとPMvへの注入実験および神経ラベルの解析を進めていく予定である。


H31-A14
代:関 和彦
協:大屋 知徹
協:梅田 達也
協:工藤 もゑこ
協:窪田 慎治
複数骨格筋への単シナプス性発散投射構造の解剖学的同定
複数骨格筋への単シナプス性発散投射構造の解剖学的同定

関 和彦 , 大屋 知徹, 梅田 達也, 工藤 もゑこ, 窪田 慎治

脊髄運動ニューロンに投射するPremotor neuronは大脳皮質、脳幹、脊髄にそれぞれ偏在し、最近の申請者らの電気生理学的実験によってPremotor neuronの複数筋への機能的結合様式が筋活動の機能的モデュール(筋シナジー)を構成することが明らかになってきた。この神経解剖学的実体については全く明らかにされておらず、ヒトの運動制御の理解の発展と、運動失調に関わる筋、神経疾患の病態理解や新しい治療法の開発のためには喫緊の研究課題である。そこで本研究では上肢筋の脊髄運動ニューロンへ投射する細胞(Premotor neuron)の起始核である脊髄、赤核、大脳皮質からの発散性支配様式を解剖学的に明らかにすることによって、霊長類における巧緻性に関わる皮質脊髄路の脊髄運動ニューロンへの直接投射の機能的意義を解剖学的観点から検討する。

本年度は新たなウィルスベクターの開発を継続して行なった。また、国立精神・神経医療研究センターにおいて、霊長類研究所から供給を受けたAAVベクターの機能評価をマーモセットを対象に行う研究を終了し、原著論文を発表した。


H31-A15
代:Aye Mi San
Conservation genetics of Myanmar’s macaques: a phylogeographical approach

学会発表
San AM, Tanaka H, Hamada Y Phylogeography and conservation of rhesus macaque (Macaca mulatta) in Myanmar(February 8-10, 2020) The 7th Asian Primate Symposium 2020. The 1st International Conference on Human-Primate Interface(Gauhati University, India).
Conservation genetics of Myanmar’s macaques: a phylogeographical approach

Aye Mi San

In Myanmar, rhesus macaque (Macaca mulatta) distributed through Central to Northern Myanmar (>15°N). For the phylogeographic study, the target region of D-loop (1.2 kbp) was amplified and sequenced. The results showed that at least two clusters of rhesus macaque (M. mulatta) were observed in Myanmar. The Northern cluster has large genetic distance (0.072 to 0.085) from Central and North-western cluster. These two clusters may have different histories, i.e., they have been isolated by ancient geographic or ecological barriers such as Chindwin River, Ayeyarwady River, mountain ranges, valleys (22°N-24°N) and different climate. To characterize their phylogeographic positions within rhesus macaques, D-loop were sequenced of eight rhesus macaques from Primate Research Institute whose provenances were either India or China, and aligned with Myanmar rhesus. These results suggested that Myanmar Northern clade clustered in the Indian 1 haplogroup and Central and North-western clade clustered in Indian 2 haplogroup. Based on our findings we suggested that Myanmar origin rhesus macaques might be genetically suited for biomedical research similar as Indian origin rhesus macaque. As for the Conservation of Myanmar rhesus macaques, such information are necessary as population sizes and the way of distribution (whether local population ranges are fragmented from each other?), or the genetic variability within local populations; and information on the condition of habitat environment in Central-Northern Myanmar, such as industrial, agricultural or logging activities or great migration of people.
These results were presented at the 7th Asian Primate Symposium and the 1st International Conference Human-Primate Interface (8th-10th February, 2020, Gauhati University, India).


H31-A16
代:南本 敬史
協:永井 裕司
協:小山 佳
協:堀 由紀子
脳活動制御とイメージングの融合技術開発
脳活動制御とイメージングの融合技術開発

南本 敬史 , 永井 裕司, 小山 佳, 堀 由紀子

本研究課題において,独自の技術であるDREADD受容体の生体PETイメージング法と所内対応者である高田らが有する霊長類のウイルスベクター開発技術を組み合わせることで,マカクサルの特定神経回路をターゲットとした化学遺伝学的操作の実現可能性を飛躍的に高めること目指した.R1年度は脳移行性が高くかつDREADDに親和性の高い化合物として独自に見出したDCZの有効性についてさらなる検証を進め,抑制性DREADD(hM4Di)を両側DLPFCに発現させたサルに微量のDCZを投与することで,空間作業記憶の障害を引き起こすことを示すなど,サルDREADD操作性の高精度化・安全性・利便性を高めることに成功し,論文として報告した(NagaiらNat Neurosci, in press).さらにDCZを放射性ラベルした[11C]DCZはDREADDの脳内発現を画像化するPETリガンドとしても有用で,高感度にhM4Di/hM3Dqの発現を定量するとともに,陽性神経細胞の軸索終末に発現したDREADDsも鋭敏に捉えることに成功.この終末部にDCZを投与することで経路選択的な抑制制御ができることを明らかにした.この成果は複数の論文に発表するとともに,化合物DCZの情報とともに共有するにより,DREADDによるサル脳回路操作を広く展開する.




H31-A17
代:松本 正幸
協:山田 洋
協:國松 淳
マカクザル外側手綱核の神経連絡
マカクザル外側手綱核の神経連絡

松本 正幸 , 山田 洋, 國松 淳

嫌悪的な事象(報酬の消失や罰刺激の出現)を避けることは、動物の生存にとって必須である。研究代表者と所内対応者、協力研究者らの研究グループは、マカクザルを用いた電気生理実験により、外側手綱核と呼ばれる神経核がこのような回避行動の制御に関わる神経シグナルを伝達していることを明らかにしてきた(Kawai et al., Neuron, 2015; Kawai et al., Cerebral Cortex, 2019)。このような外側手綱核の回避行動に対する役割をさらに神経回路レベルで理解するためには、外側手綱核が他の脳領域とどのような神経連絡を持ち、そのシグナルがどの領域に伝達されているのか、またどの領域を起源とするのか知る必要がある。しかし、外側手綱核の神経連絡を調べた解剖学的な研究の多くはげっ歯類を対象にしたものであり、霊長類を対象とした研究はほとんどおこなわれていない。
これまでに、フサオマキザルの外側手綱核に神経トレーサーを注入し、霊長類の外側手綱核が他の脳領域とどのような神経連絡を持つのかを明らかにしようと試みた。ただ、外側手綱核は非常に小さな神経核(2mmほど)であり、組織学的な解析をおこなった結果、神経トレーサーが外側手綱核から外れた位置に注入されていたことが明らかになった。2020年度以降、より高い精度で神経トレーサーを注入できる方法を工夫し(電気生理マッピングを事前におこなうなど)、また、外側手綱核と関連が深くトレーサーが注入しやすい他の領域(中脳ドーパミン領域など)をターゲットにして手綱核周辺の神経回路を明らかにするなど、複数のアプローチを組み合わせて実験を進める予定である。


H31-A18
代:Muhammad Azhari Akbar
Inter-specific comparison of seed dispersal parameters between long-tailed macaque Macaca fascicularis and silvery lutung Trachypithecus cristatus in West Sumatran coastal area
H31-A19
代:Wirdateti
Analysis of mitochondrial sequences for species identification and evolutionary study of slow loris (genus Nycticebus)
Analysis of mitochondrial sequences for species identification and evolutionary study of slow loris (genus Nycticebus)

Wirdateti

The Cooperative Research Program 2019, following the 2018 program activity, focused on genetic variation of the mtDNA markers in each species or between populations of slow loris. This study aims to understand the degree of genetic variation between species and among populations within the species to aid future conservation efforts. Last year, we analyzed using the 16S r-RNA of mtDNA. This year we analyzed the COI gene of mtDNA as a marker. These results will be valuable as supportive data in the release and reintroduction of these species to the wild without disturbing the gene pool of existing populations. This study can also be used for further studies of slow loris evolution in Asia. The analysis was conducted using a whole length of COI, which is about 1600 bp from 43 samples consisting of N. coucang (n= 20), N. javanicus (n= 19), and N. menagensis (n=4). Most of the samples came from confiscated, and some were collected from the wild.
The data analysis was conducted using the DNA pars and the MEGA 6.0 program. The results of DNA polymorphism from all samples of this study showed that variable (polymorphic) (S) was found in 310 sites with parsimony-informative 171 sites, and Nucleotide diversity; Pi: 0.03800; the haplotypes as many as 36 with Haplotype Diversity (Hd): 0.986 ± 0.011. DNA polymorphism between species was estimated by genetic distance (d) and nucleotide diversity (π); these indices between N. menagensis and N. Javanicus Java were higher (d = 0.065 ± 0.006; π = 0.019 ± 0.006) than those of N. menagensis with N. coucang (d = 0.046 ± 0.005; π = 0.013 ± 0.002). While between N.javanicus and N.coucang is d = 0.055 ± 0.005; π = 0.020 ± 0.002. Contrary, on the morphological character, the head fork (strip pattern on the head) and the back strip (lines on the back) are almost similar between N. coucang with N. menagensis, but have a clear difference with N. javanicus. This results of morphological observation suggested that molecular identification of the confiscated slow lories is necessary.
Each species has a different haplotype; N. javanicus h = 16; N. coucang h = 16, and N. menagensis h = 4. The haplotype diversity (Hd) of the N. coucang population (Hd = 0.996) was higher than Javan slow loris (Hd = 0.942) and Kalimantan slow loris (Hd = 0.966). This result indicated that the population of Javan slow loris has a low genetic diversity. Based on the phylogenetic analysis using ancestor trees between N. menagensis and N. coucang, it was showed that N. menagensis is ancestral or the oldest, then the analysis between three species in this study are showed that N. javanicus is the ancestral species of the slow loris Indonesia.
From this study, we conclude that the COI gene of mtDNA could be used as a genetic marker for the identification of species in the genus Nycticebus, especially for the three species of Indonesia. These results support the results of the previous studies using 16S RNA.


H31-A20
代:Tshewang Norbu
Ecological and phylogeographical study on Assamese macaques in Bhutan
Ecological and phylogeographical study on Assamese macaques in Bhutan

Tshewang Norbu

In the 2000s, new macaque species were found in Arunachal Pradesh and eastern Tibet. Therefore, it is recognized that the evolutionary study of Assamese macaques (Macaca assamensis) in Bhutan is important for clarifying the phylogenetic relationships of Asian macaques. In 2019, I focused on the Assamese macaques living in Sakteing Wildlife Sanctuary, which is located southernmost part of Bhutan and borders Arunachal Pradesh. First, I conducted interview-survey to assess the distribution of macaques, and then, visited the macaques inhabiting sites to observe macaque populations, collect DNA samples (fecal samples or other materials), and take photographs for morphology study. I carried out such a field-survey in several different places, considering altitudinal gradient that would enable us to better understand the behavioral patterns of the macaque at varying altitudes and different forest types. The coordinates of the sampling sites were also noted using GPS for future mapping and references. One of the purposes in this project was to compare the genetic and morphological features of the eastern populations of Assamese macaques with that of western populations.
I collected a total of 25 fecal samples from different sites in eastern Bhutan. Under the Materials Transfer Agreement between our institute and PRI, I brought these samples to PRI for molecular phylogenetic analysis. After DNA extraction, I did the long-PCR which amplify approximately 9 kb in mitochondrial DNA (mtDNA), including full length of 16S r-RNA, D-loop and cytochrome b gene. This was to avoid mis-amplifying NUMT (mtDNA-like sequence in nuclear genome). Next, the D-loop region was amplified with the primers of LqqF (5'- TCCTAGGGCAATCAGAAAGAAAG-3’) and SARU5 (5’- GCCAGGACCAAGCCTATTT-3’), using the long-PCR product as template DNA. I sequenced the PCR product using DNA sequencing service of the company as well as by ourselves at the laboratory of Dr. Tanaka. DNA sequencing was successful for 25 samples. I continue the phylogenetic analysis of the DNA sequence data obtained in 2019 along with that of Assamese macaque from western part of Bhutan.


H31-A21
代:小林 和人
協:菅原 正晃
協:加藤 成樹
協:渡辺 雅彦
協:山崎 美和子
協:内ヶ島 基政
協:今野 幸太郎
ウイルスベクターを利用した経路選択的操作技術による霊長類皮質ー基底核―視床連関回路の機能解明
ウイルスベクターを利用した経路選択的操作技術による霊長類皮質ー基底核―視床連関回路の機能解明

小林 和人 , 菅原 正晃, 加藤 成樹, 渡辺 雅彦, 山崎 美和子, 内ヶ島 基政, 今野 幸太郎

マーモセット束傍核―尾状核経路の認知機能における役割を評価するために、視覚弁別学習課題を用いて、行動学的な解析を行った。イムノトキシン細胞標的法のための遺伝子として、インターロイキン-2 受容体αサブユニット(IL-2RαとGFP変異体mVenusの融合遺伝子をコードし、融合糖タンパク質E型 (FuG-E) を用いてシュードタイプ化したNeuRetベクターを作成し、これをマーモセットの線条体内に注入した。その後、束傍核にイムノトキシンあるいはコントロールとしてPBSを注入することにより、視床線条体路の除去を誘導した。視床線条体路を欠損する動物の行動学的評価として、中村教授・高田教授の開発した、視覚弁別課題を用いて認知機能の解析を行った。視覚弁別課題では、第一に、1つの単純な画像の提示を用いて画像に触れること、およびそれにより報酬を得られることを学習させた。次に、報酬が得られる正画像と得られない誤画像の2種類の弁別用画像を同時に提示して、正画像を選択した正答率や一定の正答率に達する所要期間を評価した。一定の正答率に達した後、画像の正誤を逆転させて同様に正答率と一定の正答率に達する所要期間等を評価した。コントロール群に比較して除去群は視覚弁別学習の獲得に変化はなかったが、逆転学習の実行が低下する傾向を示した(t検定、P = 0.063)。本実験は、コントロール群m実験群のそれぞれを2頭の動物を用いて行ったため、動物数を追加して確認する必要がある。行動テストの後、視床線条体路を構成する細胞数の減少を抗GFP抗体を用いて免疫組織学的に検出した。コントロール群に比較して、実験群の束傍核細胞数は40%程度に減少することから経路の除去を確認した。


H31-A22
代:生江 信孝
協:桃井 保子
協:齋藤 渉
協:木村 加奈子
協:大栗 靖代
協:正藤 陽久
協:飯田 伸弥
協:斎藤 高
動物園のチンパンジーにおける口腔内状態の調査

学会発表
大栗靖代・正藤陽久・飯田伸弥・木村加奈子・秋葉悠希・宮部貴子・兼子明久・斎藤高・斎藤香里・秋葉悠希・斎藤渉・桃井保子 内歯瘻および外歯瘻を繰り返したチンパンジーの歯科治療:1症例報告(2019年11月16-17日) 第22回SAGAシンポジウム(愛知県犬山市).
動物園のチンパンジーにおける口腔内状態の調査

生江 信孝 , 桃井 保子, 齋藤 渉, 木村 加奈子, 大栗 靖代, 正藤 陽久, 飯田 伸弥, 斎藤 高

かみね動物園で飼育しているチンパンジーの雌1個体(愛称マツコ、推定41歳)において、 腫脹、排膿、薬剤投与を繰り返す内歯瘻および外歯瘻がみられた。食欲に大きな変化はみられなかったが、外歯瘻があらわれると同時に左半身の脱毛が始まり大きなストレスになっていると推測された。ハズバンダリートレーニングにて日々歯のブラッシング、口腔内の確認をし、給餌内容を糖分の多い果物、根菜類を減らし葉物などの野菜類、枝葉の量を増やすなど見直しを行ったが症状が治まることはなかった。
2019年8月に、日立市かみね動物園において、全身麻酔下で歯科治療をおこなった。口腔内X線検査をおこない、優先度の高い3歯を抜歯した。約3時間に及ぶ全身麻酔下での治療は初めてだったが、覚醒後からすぐに餌を欲しがるなど大きなダメージはみられなかった。治療後には5日間、消炎鎮痛薬を経口投与した。経過は良好で、日々口腔内を確認したが患部の腫脹はみられず、抜歯窩は約3週間で回復した。その後現在に至るまで内歯瘻および外歯瘻はみられていない。この治療経過は2019年11月16日にSAGA22、2019年12月17日に第67回動物園技術者研究会にて「内歯瘻および外歯瘻を繰り返したチンパンジーの歯科治療:1症例報告」として発表した。


H31-A23
代:齋藤 渉
協:桃井 保子
協:花田 信弘
協:今井 奨
協:岡本 公彰
協:宮之原 真由
チンパンジーの口腔内状態の調査と歯科治療法の検討
チンパンジーの口腔内状態の調査と歯科治療法の検討

齋藤 渉 , 桃井 保子, 花田 信弘, 今井 奨, 岡本 公彰, 宮之原 真由

チンパンジー1個体の重篤な歯科疾患の治療
霊長類研究所チンパンジー歯科研究チームは、茨城県日立市立かみね動物園より、当該動物園で飼育中のチンパンジー1個体(メス、推定41歳、愛称マツコ)に対する歯科治療の要請を受け、平成30年度共同利用・共同研究活動として現地に赴いた。重篤な歯科疾患を有するチンパンジー1個体の歯科的対応に際しては、現地の歯科医師、獣医師、飼育員、また企業よりボランティアとして派遣された放射線技師らと協働した。当該個体は2008年入園時にすでに多数のう蝕歯を有しており、それがおおよそ10年を経て口腔内は憂慮すべき不健全状態にあった。2019年8月に、全身麻酔下で歯と歯周組織の視診・触診検査および全歯のX線検査 (図1) を行い、その結果に基づきただちに診断後治療方針を決定した。優先すべき処置として、左上中切歯、右上犬歯、右下第3大臼歯を抜歯し (図2)、処置後5日間消炎鎮痛薬を経口投与した。その後、患部の腫脹や食欲低下はみられず、抜歯窩は約3週間で回復した。この一連の診療経過は、 「内歯瘻および外歯瘻を繰り返したチンパンジーの歯科治療:1症例報告」 として、2019年11月16日にSAGA22で発表した。

チンパンジーの歯の象牙質の微細構造観察 (図3)
上述の抜去した左上中切歯を、ホルマリン固定し、実体顕微鏡観察後に写真撮影、次いで、X線マイクロCT (Shimadzu inspeXio SMX-225CT, Kyoto,Japan) で115 kv、70μA、スライス厚さ0.218 mm 条件下で撮像した。その後、抜去歯から切片を作製し、象牙質面を走査型電子顕微鏡で観察した。その結果、象牙細管の大きさや、象牙細管と管間象牙質が占める面積の割合すなわち象牙細管の密度、また成長線の間隔などはヒトの象牙質構造と近似していることがわかった。しかし、ヒトよりセメント質が厚く、管周象牙質形成がみられないことが特徴的であった。


H31-A24
代:田中 由浩
協:秋田 駿
触覚情報を用いたチンパンジーの個体識別および課題反応との関係分析
触覚情報を用いたチンパンジーの個体識別および課題反応との関係分析

田中 由浩 , 秋田 駿

個体識別や感情推定について,カメラやマイクを用いた視聴覚情報を用いた研究開発が多く,触覚情報(力や振動)について検討が十分進んでいない.触覚情報は外から見えにくい性質も持ち,新たな情報源として基礎と応用の両側面で活用が期待される.そこで本研究では,チンパンジーのタップ動作を対象に,深層学習を用いた個体識別,提示課題における各種反応との関係を分析した.5個体に対し顔に見える画像の選択課題をタッチパネルで与え,タップによる振動データと反応時間,課題難易度,正解の有無を記録した.実験は6ヶ月間行われ,1個体に対し約90日,約3000タップのデータが集められた.個体識別ではタップによる振動を短く切り出し(0.04s),2つの振動センサ情報を用いることで,1タップで85%程度の識別率が得られた.また,課題難易度,1枚提示の単純課題,課題の正誤に対して,振動強度と反応時間による2次元分布を求めて比較した.その結果,個体差はあるが,単純課題では反応時間が短く,データ数を増やした検証が必要ではあるが,正解時と不正解時で分布全体の傾向がやや異なるように見られた.難易度による差は見られなかった.分布結果は,1タップで反応推定が可能というより,複数課題を通したデータ群による反応割合の推定可能性を示唆する.今後,課題の改良,ヒトに対する実験を通して,解析と考察を深めたい.


H31-A25
代:筒井 健一郎
協:中村 晋也
協:大原 慎也
協:吉野 倫太郎
協:森谷 叡生
サル内側前頭葉を起点とする領域間回路の解析とうつ病モデルの創出
サル内側前頭葉を起点とする領域間回路の解析とうつ病モデルの創出

筒井 健一郎 , 中村 晋也, 大原 慎也, 吉野 倫太郎, 森谷 叡生

内側前頭葉、特に前部帯状皮質と扁桃体および側坐核との線維連絡の構成を明らかにするために、マカクザル(2頭)の扁桃体と側坐核にそれぞれ異なる蛍光タンパク質を発現する逆行性ウイルスベクターを注入し、内側前頭葉において標識される神経細胞の数・分布を調べる実験を行った。その結果、扁桃体や側坐核に投射する神経細胞が前部帯状皮質の膝周囲部や眼窩前頭皮質に多く認められた一方で、その分布パターンには違いがあることが明らかとなった。また、これらの結果を受けて、化学遺伝学的手法による神経経路選択的機能阻害実験を行うための準備を行っている。今後は、結果のさらなる解析を進めるとともに、機能阻害実験に着手したい。


H31-A26
代:森 裕紀
協:内海 力郎
協:佐藤 琢
動物の画像からの個体識別のためのパターン認識手法の開発
動物の画像からの個体識別のためのパターン認識手法の開発

森 裕紀 , 内海 力郎, 佐藤 琢

チンパンジーの個体認識と個体追跡について、画像処理・画像認識技術を用いた技術の検討を行った。
昨年度の研究では、Single Shot Multibox Detector (SSD)を用いたチンパンジー検出モデルを検討したが、本年度はYOLOv3を用いた検出モデルを検討した。
YOROはDeep Learningを用いた物体検出モデルとそのプロジェクトで、現在活発に研究開発が進められている。現在の最新バージョンは3でYOLOv3となっている。YOLOは認識性能だけでなく計算速度も性能が高くCOCO datasetを用いた学習でSSDと認識性能は同程度以上を保ったままで3倍程度速く、動作させることができる。
今回は、前年度と同じデータセットを用いて検証を行い、良好な結果を得た。


H31-A27
代:Daniel Schofield
The Bossou Archive Project
The Bossou Archive Project

Daniel Schofield

The Bossou Archive Project aims to digitise and catalogue video footage of wild chimpanzees from Bossou, Guinea, from over 30 years of fieldwork, and implement a framework for researchers to access and analyse this data. A key part of the Bossou Archive project is to develop a system to identify individuals and analyse their behavior longitudinally over 30 years. The Cooperative Research Program for 2019 focused on developing software using Artificial Intelligence to automatically identify Bossou chimpanzees from raw video footage. We developed a deep convolutional neural network (CNN) framework, for the detection, tracking and recognition of chimpanzees from archival footage. We used 50 hours of footage spanning 14 years, to obtain 10 million face images from 23 individuals to train our CNN models, which obtained an overall accuracy of 92.5% for identity recognition and 96.2% for sex recognition. This system provides the tools for efficiently annotating video footage and automatically generating processing of large volumes of video data, which can be used to analyse behaviour, such as chimpanzee social networks (Figure 1). The output of this work was published in Science Advances (Schofield, Nagrani, Zisserman, Hayashi, Matsuzawa, Biro, Carvalho, 2019: https://advances.sciencemag.org/content/5/9/eaaw0736). Currently, a web-framework is being developed to enable remote collaboration and annotation of the Bossou archive, and promote the next phase of development for new automated methods such as full body tracking and action recognition.



H31-A28
代:伊村 知子
ヒトとチンパンジーにおける質感知覚に関する比較認知研究

学会発表
Tomoko Imura, Shigeki Nakauchi, Nobu Shirai, Masaki Tomonaga Visual search for chromatic composition of art paintings by chimpanzees.(Belgium, Aug 25-29, 2019) 42nd European Conference on Visual Perception(Leuven, Belgium).
ヒトとチンパンジーにおける質感知覚に関する比較認知研究

伊村 知子

本年度は、チンパンジーの配偶者選択において重要な役割を果たす性皮の質感知覚として、チンパンジー7個体(オス3個体、メス4個体)を対象に、色情報やツヤやハリに対応する輝度情報の変化が性皮に対する選好に及ぼす影響について検討した。実験では、チンパンジーの性皮の最大腫脹時と最小腫脹時の画像を左右に並べて画面に4秒間提示し、チンパンジーのそれぞれの画像に対する注視時間をアイトラッカーを用いて測定した。性皮の画像は、林原類人猿研究センター生まれのチンパンジー2個体(撮影当時、歳11-12歳と8歳)を対象に毎日撮影されたものから、最小腫脹時と最大腫脹時のものを6枚ずつ選び、黒色背景上に配置した。カラー画像とモノクロ画像を作成した。1日につき12試行(2個体×6種類)を4セッション実施した。その結果、カラー画像、モノクロ画像にかかわらず、最小腫脹時よりも最大腫脹時の画像を有意に長く注視すること、モノクロ画像よりカラーの画像の方を有意に長く注視することが示された。このことから、チンパンジーは少なくとも性皮の腫脹に対する選好注視を示すこと、色だけでなく輝度の情報も手がかりとなる可能性が示唆された。


H31-A29
代:鯉江 洋
協:揚山 直英
協:中山 駿矢
協:白 仲玉
霊長類の加齢誘引疾患に関する研究
霊長類の循環器系加齢誘引疾患に関する研究

鯉江 洋 , 揚山 直英, 中山 駿矢, 白 仲玉

申請者はこれまでにカニクイザルならびにニホンザルの循環器疾患を中心に研究を行ってきた。サル類は生理解剖学的に人に近く、サル類を用いた循環器研究の結果が人医学に応用が可能である。また加齢に伴い発症する疾病も人と近い。今回も前年度からの研究を継続して「各種霊長類の発達と加齢に関する総合的研究」分野に申請を行った。今回の研究も昨年と同様に、獣医臨床学的手法を用い心臓の評価を行った。本研究結果は人とサル類を含めた霊長類全般に有意義な結果をもたらすものと思われる。
申請者らは、これまでの研究で、臨床上貴重な老齢性心臓疾患個体を発見し、継続的に経過観察を行っている。これらの基礎ならびに臨床データは、今後の獣医循環器分野ならびに霊長類の研究において、大変重要な指標となる。次年度も引き続き、これらの貴重な個体の継続研究を行いたいと考えている


H31-A30
代:上園 志織
霊長類島皮質の神経ネットワークに関する解剖学的研究
霊長類島皮質の神経ネットワークに関する解剖学的研究

上園 志織

大脳基底核から島皮質への多シナプス的入力を解析するために、越シナプス的逆行性トレーサーである狂犬病ウイルスベクターをマーモセットの島皮質に注入した。MRIを用いて脳画像を取得、脳アトラスを参考にして島皮質の亜領野(無顆粒性島皮質、不全顆粒性島皮質、顆粒性島皮質)を同定、それぞれ異なる蛍光タンパク(青、緑、赤)を発現する狂犬病ウイルスベクターを注入した。三次的ニューロンラベルを得るために3日間の生存期間を設けたのち、灌流固定を行い、脳を摘出した。蛍光実体顕微鏡で脳を観察し、3種類の蛍光ラベル(青、緑、赤)を確認した。脳の薄切を行い、組織標本を作製し、主に大脳基底核(線条体、視床下核、淡蒼球外節)の三次的ニューロンラベル着目してニューロンラベルを観察した。大脳基底核におけるニューロンラベルには類似性が見られたため、大脳基底核からの入力様式については島皮質全体で類似している可能性がある。当該研究の対象である島皮質は他の大脳皮質に比べ深部にあり、島皮質の亜領野への限局的な注入を成功させるためには、注入実験の方法をこれまで以上の精度でおこなう必要があることが分かったため、研究協力者とMRI画像の撮像プロトコル、注入実験の条件、麻酔方法の検討を進めた。2020年度は見直しをおこなったシステムでのトレーサー注入実験を行う予定である。


H31-A31
代:原田 悦子
協:須藤 智
チンパンジーにおける健康な加齢にともなう認知的機能やモノとの相互作用の変化
チンパンジーにおける健康な加齢にともなう認知的機能やモノとの相互作用の変化

原田 悦子 , 須藤 智

今年度,チンパンジーの超高齢個体および高齢期個体における実験時の状況を観察しながら,ヒトの健康な加齢に伴う新奇なICT基盤人工物利用時に見られる特異的行動との共通性と相違性について,データの再分析などから明らかにしていく予定であったが,申請者の健康上の理由などから,具体的な研究を進めることは困難であった.ただし,議論のなかで,1) 知覚的,運動的な反応遅延,および2) 特にその影響が大きく出る「課題困難度」(課題事態に伴う負荷条件)によって課題への主体的な取り組みを放棄するなどの反応,については,おそらく共通に観察されるものと思われ,また3) 時間圧,社会的圧などの何らかの外的な認知的負荷が加算された場合にそれらの加齢の影響が大きく生じることも共通要素として存在することが強く期待されている.そうした影響とメタ認知の問題について,またその際に(活動を媒介する)「道具利用」の有無がどのような影響を与えるのか,それに関連して,方略変更が何を契機にどのように発生するかなどの問題を明らかにすべきであることが確認された.


H31-A32
代:竹下 秀子
協:山田 信宏
協:高塩 純一
協:櫻庭 陽子
脳性麻痺チンパンジーへの発達支援と養育環境整備

論文
櫻庭陽子(2020) 身体障害をもつチンパンジーとその仲間たち モンキー 4(4):印刷中. 謝辞あり

学会発表
Sakuraba,Y., Yamada, N., Takahashi, I., Kawakami, F., Takashio, J., Takeshita, H., Hayashi, M., Tomonaga, M. Care and rehabilitation activities for a chimpanzee with cerebral palsy: a case study.(August 5-9, 2019.) 53rd Congress of the International Society for Applied Ethology(Bergen, Norway).

Sakuraba,Y., Yamada, N., Takahashi, I., Kawakami, F., Takashio, J., Takeshita, H., Hayashi, M., Tomonaga, M. Evaluating of physical state on a female chimpanzee with cerebral palsy: a case study. (June 22-26, 2019) International Conference on Environmental Enrichment(Kyoto, Japan).

Yamada, N., Takeshita, H., Takashio, J., Sakuraba, Y., Takahashi, I., Kawakami, F., Hayashi, M., Tomonaga, M. Developmental support of chimpanzee with cerebral palsy. Evaluating of physical state on a female chimpanzee with cerebral palsy: a case study. (June 22-26, 2019) International Conference on Environmental Enrichment(Kyoto, Japan).
脳性麻痺チンパンジーへの発達支援と養育環境整備

竹下 秀子 , 山田 信宏, 高塩 純一, 櫻庭 陽子

2019年度は引き続き左側機能の増強、右側機能の改善を得るとともに、全体として粗大運動から運動技巧へと運動発達の課題が拡大した。屋内飼育室の左右に張られた数本のロープをブラキエーションや「左右足底ロープ接着・左右手掌ロープ把握の二足立位移動」を駆使して移動し、高所壁際に配置された食物に到達するなど、3次元空間における全身粗大運動が、不安定な基盤からアフォードされつつ展開された。右下肢が支持機能に加えて推進機能を担う場面も見られるようになった。移動時における右半身の身体知覚の向上と、「両足底接地・やや右側に体幹を傾斜・後方への反り返りを含む座位で、左手把握のペットボトルの角度を左前腕回内などの調整によって効率的に果汁を飲む」、「塩ビ管のフィーダーを転がす試行錯誤を経て穴からペレットをとりだす」など、物とのかかわりにおける運動技巧の精緻性が向上した。姿勢運動の安定を基盤に手指の直接操作の経験が物とのかかわりにおいて蓄積され、物体の属性にそくした操作が随時発現した。次年度に向けては、引き続き3次元空間を多様な素材を利用してエンリッチメントしていくことを基本に、他者とのかかわりを絶やすことなく、身体運動的にも社会的にもプレイフルな時間を日常生活に確保する方途を探っていく。


H31-A33
代:齋藤 亜矢
芸術表現の霊長類的基盤に関する研究
芸術表現の霊長類的基盤に関する研究

齋藤 亜矢

チンパンジーを対象とした対面場面における描画課題の実施が困難な状況となったため、パネルの開口部を通して描画用の画材を受け渡すという新たな課題場面の構築をおこなった。その際、より正確に描線を記録するためにデジタルペンを導入する予定であり、共同研究者の幕内氏らとの連携により、その準備をおこなっている。


H31-B1
代:一柳 健司
協:平田 真由
協:一柳 朋子
霊長類におけるエピゲノム進化の解明

学会発表
平田真由, 一柳朋子, 橋本拓磨, 今村公紀, 一柳健司 ヒトおよびチンパンジーiPS細胞を用いたヒストン修飾の比較解析(2019年12月) 第42回日本分子生物学会年会(福岡).

一柳健司 霊長類のエピゲノム進化におけるシス制御配列やトランスポゾン配列の役割(2019年9月) 中部幹細胞クラブシンポジウム「幹細胞人類学」(名古屋).
霊長類におけるエピゲノム進化の解明

一柳 健司 , 平田 真由, 一柳 朋子

これまでに今村助教が樹立されたキク、マリ、ケニー由来のiPS細胞と理化学研究所から入手したヒトiPS細胞を本研究室にて同条件で培養し、mRNA-seqを行ったところ、両種のトランスクリプトームはほぼ変わらないことを明らかにしてきた。また、small-RNA-seqの解析を行い、チンパンジー特異的なレトロトランスポゾンであるPERVを除けば、種間でのpiRNA発現量差は確認できず、piRNAも種間差が小さいことも明らかにしてきた。

昨年度の研究結果でヒトとチンパンジーのiPS細胞が質的に非常に近いことを示し、リプログラミングの度合いが似ていて、比較可能であると考えられたため、これらのiPS細胞でChIP-seq解析を行い、H3K4me3、H3K27me3、及びH3K27acのゲノム分布を調べた。ヒストン修飾状態は大部分のゲノム領域で種間差がなく、トランスクリプトームの類似度と矛盾しなかった。しかし、ヒトiPS細胞特異的H3K27me3のピークが神経系の発生過程で重要な遺伝子の近傍に多いことが分かり、iPS細胞では両種共に遺伝子発現はなかったが、神経系細胞への分化時に差が生まれ、脳の機能や大きさの種間差に寄与している可能性が示唆された。転写活性化マーカーであるH3K4me3と抑制マーカーであるH3K27me3の両方が検出できるbivalent(両極性)ドメインについて、ヒトiPS細胞特異的なドメインは、頭蓋刻形成に関わる遺伝子のエンハンサーなどが含まれていた。
さらに、ヒト特異的レトロトランスポゾンであるLTR5HSは、その転移によって、蘇運輸箇所周辺にヒト特異的になH3K4me3領域を作り出し、近傍遺伝子を活性化することを発見した。
これらの成果は現在、投稿準備中である。


H31-B2
代:鈴木 俊介
協:土井 達矢
協:竹内 亮
ヒト特異的転移因子による脳関連遺伝子の発現調節機構の進化
ヒト特異的転移因子による脳関連遺伝子の発現調節機構の進化

鈴木 俊介 , 土井 達矢, 竹内 亮

ヒト特異的転移因子を両アリルで欠失させたヒトiPS細胞を神経系細胞に分化誘導した際の,ホスト遺伝子の発現動態を野生型と比較するため,当該年度においては,CRISPR/CAS9によるゲノム編集実験に用いるガイドRNAの切断効率の検証および,これまでに用いていたプラスミドベクターを細胞にトランスフェクションする系ではなく,ガイドRNAとCAS9タンパク質を直接トランスフェクションする方法の条件検討やゲノム編集効率の検証を行い,より効率よくゲノム編集を行うことのできる実験系を構築した。


H31-B3
代:William Sellers
The comparative biomechanics of the primate hand

学会発表
Sellers WI, Hirasaki E Functional Classification of Dynamic Hand Shape in Primates.(2019.7) International Conference on Vertebrate Morphology 2019.(Prague).

Hirasaki E, Sellers WI Analysis of the palmar pressure distribution during locomotion in Japanese macaques. ( 2019.10) The 72nd Annual Meeting of the Anthropological Society of Nippon(Saga).
The comparative biomechanics of the primate hand

William Sellers

This project forms part of our ongoing research into the biomechanics of primates. We are currently working on the finger movements and grip pressures associated with vertical climbing in Japanese macaques. This last year we had two research goals. Firstly, we needed to improve our data collection methodology to properly capture vertical climbing. The challenge here is that very often the position of the body of the macaque obscures the view of the digits from the cameras and this reduces the amount of usable data we are able to collect in any experimental situation. This is exacerbated by the need for the hand to be placed in the centre of the pressure pad to ensure accurate data recording for the entire hand. We therefore obtained a large number of extra repeats of the basic experimental protocol to ensure reasonable coverage of our two subject animals. Secondly, for the first time, we attempted to collect a comprehensive dataset on the feet and the movements of the toes. This experiment uses exactly the same 8-camera markerless motion capture approach filming the subject animals climbing on the instrumented scaffolding pole as the hand experiments but with the positions of the cameras and pressure pad altered to allow us to record the foot. This experiment has the added difficulty that, due to the length of the digits, the degree of wrapping around the pole is very much larger than seen during the hand experiments and this makes getting a complete view of the digits extremely challenging. There was also the additional potential difficulty that the change in experimental setup required for foot observations might cause problems in terms of training the animals to perform the required actions, although in fact this caused very little delay. The hand experiments have worked well and we now have a good level of coverage there. The foot experiments should benefit from trying different camera positions (and indeed extra cameras) to cover the full movement of the pedal digits and this will be the focus of our 2020 experiments so that we have good coverage for both extremities for vertical climbing. We have presented our initial findings at both the International Congress of Vertebrate Morphology and at the Anthropological Society of Nippon and are continuing to work on data analysis in readiness for publication.


H31-B4
代:Lia Betti
協:Todd Rae
"Positional, dimorphic and obstetric influences on pelvic shape in primates"
"Positional, dimorphic and obstetric influences on pelvic shape in primates"

Lia Betti , Todd Rae

Our project will test the relative importance of locomotion, habitual posture, and obstetric-related selective pressures in shaping the pelvis and birth canal in humans and other primate species, using an improved and innovative methodology. We plan to use 3D landmarks and semilandmarks derived from virtual 3D reconstructions based on CT scans of articulated pelves to achieve a high-definition representation of the shape of the pelvis and birth canal in a variety of primate species.
The data collection began with a visit to the Kyoto University Primate Research Institute (PRI) in Inuyama (23 June to 06 July 2019). During this trip, Dr Lia Betti and Dr Todd C. Rae from the University of Roehampton met with their collaborator Dr Eishi Hirasaki at the PRI, to CT-scan a series of cadavers of primates. The aim of this part of the data collection is to inform of the differential contribution of hard and soft tissue in forming the pelvic girdle and pelvic canal in primates of both sexes. We were able to scan 34 cadavers from 14 species. We aimed for at least one male and one female per species. Although the analyses of the scans will only start at the beginning of summer 2020, preliminary observations revealed unexpected differences in the contribution of soft tissue to the pelvic canal in different species and between the sexes, demonstrating that taking into consideration the soft tissue is extremely important in order to gauge the size and shape of the birth canal in primates based on skeletal remains. Some species, such as Galago senegalensis, show a dramatic level of sexual dimorphism: the male pelvis is fused at the pubic symphysis and soft tissue does not contribute to the pelvic canal, whereas the female pelvis is widely open at the front with a large contribution of soft tissue to enlarging the canal for the passage of the neonate. Other species, such as Pan troglodytes, show no sexual dimorphism in the contribution of soft tissue, with both sexes having a fused or tightly close pubic symphysis.
Data collection for the second part of the project started in London in July. The aim of this part of the project is to acquire a wider knowledge of pelvic canal variation and sexual dimorphism across primates using skeletal remains. Skeletal remains are available in larger numbers than cadavers, and we will correct for the contribution of the soft tissue in different primate groups based on the cadaveric data. Suitable specimens were selected from the Powell-Cotton and the Natural History Museum. CT-scanning started on the 2nd of November 2019 at the Royal National Orthopaedic Hospital in London (medical CT scanner), and at the University of Roehampton (PQCT machine). A total of 54 skeletal specimens have been scanned so far, belonging to 18 primate species. All scanning has now been put on hold due to the Covid-19 pandemic, but we are hoping to continue the data collection in 2021.


H31-B5
代:江成 広斗
ボイストラップ法によるニホンザル探知技術の高度化

論文
Enari H(2021) Human–macaque conflicts in shrinking communities: recent achievements and challenges in problem solving in modern Japan Mammal Study 受理. 謝辞あり
ボイストラップ法によるニホンザル探知技術の高度化

江成 広斗

2013年度に政府が示したニホンザル加害群の半減計画を受けて、各地で本種の捕獲圧が高まっており、保護と管理のバランスを保つための個体群評価の重要性は高まっている。そこで筆者はニホンザルが発する鳴声を指標とする新たな個体群モニタリング技術「ボイストラップ法」の開発に取り組んでいる。ボイストラップ法のメリットはその検知可能範囲の広さと、検知の自動化にある。そこで、検知の完全自動化を目指し、機械学習をもちいた判別モデルを構築するために、本研究では白神山地北東部(青森県西目屋村)において7台、朝日山地北西部(山形県鶴岡市、新潟県村上市)において8台の固定型録音機(song meter SM2+もしくはSM3)を2019年5月、7月、10月に設置し、それぞれ1か月間連続録音をして各種鳴声データを回収した。回収したデータは音声スペクトログラムに変換し、主要な鳴き声に分別して、蓄積した。現在、これらのデータを学習データとして、新たな鳴声判別モデルを構築に取り組んでいる。同種の鳴声であっても、地域性や季節性が大きなものがあることが明らかとなり、そうした変化の多い鳴声については今後も継続して鳴声を収集し、モデルの判別精度を高めていく予定である。


H31-B6
代:風張 喜子
野生ニホンザルにおける分派の意図性の判別基準と要因の検討

学会発表
山口飛翔・風張喜子 金華山の野生ニホンザルにおける第一位オスの群れへの出入りとそれに伴う群れのまとまりの変動(2020/12/4~6) 第36回日本霊長類学会大会(オンライン開催).
野生ニホンザルにおける分派の意図性の判別基準と要因の検討

風張 喜子

ニホンザルは、メンバーがひとまとまりで暮らす凝集性の高い群れを作る。これまでの研究で、各個体が周囲の個体の動向を把握し自分の行動を調節することで互いの近接が保たれていることが示唆されている。一方で、群れが一時的に2つ以上の集団に分かれて行動する分派も時に見られる。通常は互いに離れないようにふるまうニホンザルがなぜ分派するのか、明らかになっていることは少ない。本研究では分派の直接観察を通じてその要因を検討することを目的とした。宮城県金華山島の野生ニホンザルにおける過去6年間の事例を分析すると、分派集団は群れ全体の動向が把握できる状況で群れの広がりのあちらこちらから個体が集まってできる場合と、群れ全体の動向が把握できない状況で群れの周縁部が分断されてできる場合とに分けられた。前者は群れ全体の動向を各個体が独自に把握しどちらかの集団を選択しているのに対して、後者は群れ全体の動向を把握できず近接個体の動向に頼ったために起きた非意図的分派と考えられた。今後も観察例を蓄積するとともに、事例ごとの意図性の判別・要因の検討を行う。また、秋には先行研究の報告とは異なるパターンの分派が繰り返し観察され、共同研究者とその要因の分析を進めている。


H31-B7
代:Heui-Soo Kim
協:Hee-Eun Lee
協:Jennifer Im
協:Woo Ryung
Transposable element derived Mirco RNA analysis in various primate tissues

学会発表
Hee-Eun Lee, Hiroo Imai, Heui-Soo Kim Analysis of Long Interspersed Element Derived Micro RNA 625(2019.08.13) 2019 Joint International Symposium of Korean Society of Life Science and Interdisciplinary Society of Genetic & Genomic Medicine(Busan,Republic of Korea).

Woo Ryung Kim, Hee-Eun Lee, Hiroo Imai, Heui-Soo Kim Expression Analysis of miR-17-5p, miR-21-5p and miR-221-3p in Pan troglodytes(2019.08.13) 2019 Joint International Symposium of Korean Society of Life Science and Interdisciplinary Society of Genetic & Genomic Medicine(Busan,Republic of Korea).

Hee-Eun Lee, Woo Ryung Kim, Hiroo Imai, Heui-Soo Kim Analysis of Long Interspersed Element derived microRNA 625 in Human and Western Chimpanzees(2019.10.02) 2019 International Conference : Korean Society for Molecular and Cellular Biology(Seoul,Republic of Korea).

Woo Ryung Kim, Hee-Eun Lee, Hiroo Imai, Heui-Soo Kim Expression profile and Bioinformatics Analysis of miR-17-5p, miR-21-5p, miR-221-3p in Pan troglodytes (2019.10.02) 2019 International Conference : Korean Society for Molecular and Cellular Biology(Seoul,Republic of Korea).

Woo Ryung Kim, Hee-Eun Lee, Hiroo Imai, Heui-Soo Kim Expression Analysis of miR-21-5p, miR-221-3p in Pan troglodytes(2019.11.22) International Conference on the Genetics Society of Korea 2019(Seongnam,Republic of Korea).

Hee-Eun Lee, Woo Ryung Kim, Jae-Won Huh, Hiroo Imai, Heui-Soo Kim The Enhancer Activity of microRNA-625 derived from Long Interspersed Nuclear Element Induced by NF- κB(2019.11.22) International Conference on the Genetics Society of Korea 2019(Seongnam,Republic of Korea).

Hee-Eun Lee, Woo Ryung Kim, Jae-Won Huh, Hiroo Imai, Heui-Soo Kim Various Number Tandem Repeats in 3’UTR of SHISA7 Promotes Enhancer Activity of microRNA-3681(2019.11.22) International Conference on the Genetics Society of Korea 2019(Seongnam,Republic of Korea).

Woo Ryung Kim, Hee-Eun Lee, Hiroo Imai, Heui-Soo Kim Expression and Bioinformatic Analysis of miR-21-5p, miR-221-3p in Pan troglodytes(2019.12.19) The Korean Society for Integrative Biology(Gangwon-do,Republic of Korea).

Woo Ryung Kim, Hee-Eun Lee, Hiroo Imai, Heui-Soo Kim Expression and Bioinformatic Analysis of miR-21-5p, miR-221-3p in Chimpanzee(2020.02.07) The Korean Society for Microbiology and biotechnology(Gyeong-ju, Republic of Korea).

Hee-Eun Lee, Sang-Je Park, Jae-Won Huh, Hiroo Imai, Heui-Soo Kim Long terminal repeats derived microRNA-3681 represses the activity of variable number tandem repeats in the 3′ UTR of SHISA7(2020.02.07) The Korean Society for Microbiology and biotechnology(Gyeong-ju, Republic of Korea).

Hee-Eun Lee, Sang-Je Park, Jae-Won Huh, Hiroo Imai, Heui-Soo Kim The enhancer activity of long interspersed nuclear element derived microRNA 625 induced by NF-κB(2020.02.07) The Korean Society for Microbiology and biotechnology(Gyeong-ju, Republic of Korea).
Transposable element derived Mirco RNA analysis in various primate tissues

Heui-Soo Kim , Hee-Eun Lee, Jennifer Im, Woo Ryung

Transposable element (TE) is a DNA sequence that jumps around the genome to insert or delete the part of the genome is also known as transposon or jumping genes. Previous studies revealed that TEs generates new factors by cut- or copy- and -paste into the genome. MicroRNA (miRNA) is one of factor that TE generates and considerable number of miRNAs are derived from TE. MiRNA is identified as class of small non-coding RNA molecules which plays an important role as a regulator of gene expression. Numerous miRNAs are related in human cancer and hsa-miRNA-625 is well-known for oncomiR, miRNAs associated with cancer. Bioinformatics tools were used to select the best target gene with highest binding site of hsa-miRNA-625-5p in the 3’ untranslated region (UTR). The relative expression of hsa-miRNA-625-5p and target gene was confirmed to examine the comparison between different number of canonical binding sites and location of miRNA binding sites designed in 3’ UTR of target gene, GATAD2B. The expression of primers designed in front of 3’ UTR in target gene shows higher expression than primers designed in back of 3’UTR. The luciferase assay revealed the enhancer function of hsa-miRNA-625 and 3’UTR of GATAD2B, as well as more activity increased by NF-κB. In this study, the bioinformatics and experimental analysis provides the data of quantity of canonical binding sites and location of miRNA binding sites affects the target gene expression and NF-κB increases the enhancer activity of hsa-miRNA-625-5p by sharing the binding sites in 3’UTR of GATAD2B.


H31-B8
代:浅川 満彦
東北および四国地方に生息するニホンザル(Macaca fuscata)の寄生虫症および感染症に関する疫学調査

論文
Hasegawa, H., Matsuura, K., Asakawa, M.(2019) Nematodes belonging to the genus Ternidens (Strongyloidea: Chabertiidae) found in a talapoin Miopithecus talapoin, imported for sale as a pet. Jpn. J. Vet. Parasitol. 18:65-71. 謝辞あり

浅川満彦(2019) 酪農学園大学野生動物医学センターWAMCが関わった関東および中部地方におけ研究活動概要 青森自誌研(23):35-42.

鈴木夏海・浅川満彦(2019) 書籍紹介『Parasites of Apes: An Atlas of Coproscopic Diagnostics』 野生動物医学会ニュースレターZoo and Willife News(49):32-33.

学会発表
Hasegawa, H., Matsuura, K., Asakawa, M. Nematodes belonging to the genus Ternidens (Strongyloidea: Chabertiidae) found in a talapoin Miopithecus talapoin, imported for sale as a pet. Jpn.(2019年10月28日) 12th International Meeting of Asian Society of Conservation Medicine (ASCM) (カンボジア(プノンペン)).

石島栄香, 清野紘典, 岡本宗裕, 平田晴之, 浅川満彦 徳島産ニホンザル(Macaca fuscata)の寄生蠕虫保有状況-国内Macaca属から検出された報告と比較して(2019年8月31日) 第25回日本野生動物医学会大会(山口大学).

石島栄香, 浅川満彦 国内Macaca属サル類に寄生する線虫類の地理的分布-特に、最近実施した東北・四国地方での野生種と輸入サル類の調査研究から(2019年9月13日) 日本線虫学会第27回大会(つくば).

関連サイト
酪農学園大学リポジトリ上の浅川(2019)。謝辞に貴所助成言及 https://rakuno.repo.nii.ac.jp/?action=pages_view_main&active_action=repository_view_main_item_detail&item_id=5622&item_no=1&page_id=13&block_id=37
東北および四国地方に生息するニホンザル(Macaca fuscata)の寄生虫症および感染症に関する疫学調査

浅川 満彦

関東・東北地方との境界に所在する茨城県つくば市・東筑波ユートピア内のニホンザル飼育施設でにニホンザルの飼育状況の視察と糞便などの採集可否についてついて踏査した。その結果、当該施設の現状では研究協力が難しい印象を受けた。四国地方の個体については、(株)野生動物保護管理事務所で有害捕獲されたサンプルを用い次のような2つの学会報告が予報された;石島栄香, 清野紘典, 岡本宗裕, 平田晴之, 浅川満彦. 徳島産ニホンザル(Macaca fuscata)の寄生蠕虫保有状況-国内Macaca属から検出された報告と比較して.第25回日本野生動物医学会大会.山口大学, 8月30日から9月2日.石島栄香, 浅川満彦.国内Macaca属サル類に寄生する線虫類の地理的分布-特に、最近実施した東北・四国地方での野生種と輸入サル類の調査研究から. 2019 年度日本線虫学会第27回大会,つくば,9月11日から13日。また、関東地方におけるニホンザルの寄生虫調査概要は次の総説で刊行され、今後の研究基盤情報とした;浅川満彦, 2019.酪農学園大学野生動物医学センターWAMCが関わった関東および中部地方におけ研究活動概要.青森自誌研, (23): 35-42.公衆衛生学的な知見としては愛玩用のタラポアンにおける腸結節虫類の分類学的な検討をして次の論文で刊行された;Hasegawa, H., Matsuura, K., Asakawa, M.2019: Nematodes belonging to the genus Ternidens (Strongyloidea: Chabertiidae) found in a talapoin Miopithecus talapoin, imported for sale as a pet. Jpn. J. Vet. Parasitol.,18:65-71。なお、この報告はカンボジアで開催されたアジア野生動物学会(12th International Meeting of Asian Society of Conservation Medicine (ASCM) in Phnom Penh, Cambodia, Oct., from 25 to 27)で予報された。この腸結節虫症は書籍『Parasites of Apes: An Atlas of Coproscopic Diagnostics』で記載されたが、この内容を分析し、鈴木夏海・浅川満彦.2019.野生動物医学会ニュースレターZoo and Willife News(49)で書籍紹介した。                        


H31-B9
代:吉村 崇
協:沖村 光祐
霊長類の視覚の季節変化の分子基盤の解明
霊長類の視覚の季節変化の分子基盤の解明

吉村 崇 , 沖村 光祐

代謝、免疫機能、気分など、ヒトの様々な生理機能は季節の変化を示す。また、心疾患、肺がん、精神疾患などの発症率にも季節の変化が存在するが、それらの季節変化をもたらしている分子基盤は明らかにされていない。次世代シーケンサーの進歩により、様々な組織の時系列試料において全転写産物の振る舞いをゲノムワイドに明らかにできる環境が整った。我々はこれまでに季節応答の明瞭なメダカを屋外の自然条件下で飼育し、1か月に1度、2年間にわたって採材した視床下部、下垂体において、年周変動する遺伝子を約3000個同定することに成功している(図)。サルは進化的な距離がヒトに近く、これまでヒトの生理機能や病態の理解に必須の役割を果たしてきた。特に、ヒトの様々な生理機能や病態の季節変化の分子基盤の全容を明らかにするためには、明瞭な季節応答を示すマカクザルを用いる以外に研究手段がない。そこで本研究では、屋外の自然条件下で飼育されているマカクザルにおいて、全身の様々な組織における全転写産物の年周変動をRNA-seq解析によって網羅的に明らかにすることを目的とした。2019年度は10月、12月、2月に採材を計画通りに実施した。2020年度についても8月まで採材を継続し、RNA-seq解析を実施する。


H31-B10
代:岩永 譲
協:渡部 功一
協:喜久田 翔伍
協:R. Shane Tubbs
協:山木 宏一
霊長類における口唇周囲の表情筋に関する新たな知見の解明

論文
Iwanaga J, Watanabe K, Kikuta S, Hirasaki E, Yamaki K, Bohm RP, Dumont AS, Tubbs RS.(2020) Anatomical study of the incisivus labii superioris and inferioris muscles in non-human primates The Anatomical Record doi: 10.1002/ar.24406.. 謝辞あり
霊長類における口唇周囲の表情筋に関する新たな知見の解明

岩永 譲 , 渡部 功一, 喜久田 翔伍, R. Shane Tubbs, 山木 宏一

上唇切歯筋(incisivus labii superioris:ILS)および下唇切歯筋(incisivus labii inferioris:ILI)の走行や口輪筋との関係は人においてもほとんど記載がなく、近年筆者らがヒト屍体を用いて解剖学的研究として発表した。しかし、ヒト以外の霊長類における同筋の形態、走向、起始・停止や口輪筋との関係は過去に報告がなく、その解明により、霊長類における発声・咀嚼などの行動の解明の一助になると考えられた。そのため、本研究の目的は霊長類における同筋の形態学的特徴を明らかにすることであった。カニクイザル5体、ニホンザル1体、ヤクザル1体、チンパンジー1体の屍体頭部(中・下顔面表層のみ)の解剖を行ったところ、全ての種において、同筋は確認された。チンパンジー以外の種においてはヒトのそれと形態学的に類似していたが、チンパンジーにおいては、他の霊長類よりも発達した筋が観察された。本研究結果は論文として投稿し、Anatomical Recordに採択されている。



H31-B11
代:山口 飛翔
ニホンザルの交尾期におけるオスの攻撃とメスの凝集性の関連の検討
ニホンザルの交尾期におけるオスの攻撃とメスの凝集性の関連の検討

山口 飛翔

霊長類では、繁殖をめぐる性的対立によってオスからメスへの攻撃が頻繁に見られる。こうした攻撃はメスにとってコストになるため、メスは対抗戦略を進化させてきたと考えられている。本研究では、宮城県の金華山島に生息するニホンザルを対象として、メスが交尾期に休息時の凝集性を高めることでオスの攻撃に対抗しているという仮説を検証することを目的として行った。本研究の結果、まずオスから攻撃されるリスクが高い日ほど、メスの休息時の凝集性が高くなることが示された。また、休息時に凝集性が高まる際にメスが第一位オスの周囲に集まる傾向があったこと、そして第一位オスと近接しているときにメスが他のオスから攻撃を受けにくくなったことから、メスが交尾期に第一位オスを「用心棒」として頼って近接した結果として、休息時の凝集性が高まっていたことが示唆された。一方で、凝集する個体数が多いほど攻撃される頻度が低下するという結果は得らなかったが、攻撃の激しさを考慮すれば、凝集すること自体がオスの攻撃への対抗になっている可能性も示された。しかし、データ数が少なく定量的な解析を行うことができなかったため、結論を得るためには今後さらにデータを蓄積する必要がある。


H31-B12
代:松本 惇平
協:柴田 智広
協:Rollyn Labuguen
協:Salvador Blanco
協:Dean Bardeloza
マカクザルマーカーレスモーションキャプチャーソフトウェアの開発

学会発表
Labuguen R, Bardeloza DK, Blanco NS, Matsumoto J, Inoue K, Shibata T Primate Markerless Pose Estimation and Movement Analysis Using DeepLabCut( 2019/5/30 - 2019/6/2) 2019 Joint 8th International Conference on Informatics, Electronics & Vision (ICIEV) and 2019 3rd International Conference on Imaging, Vision & Pattern Recognition (icIVPR)(Spokane, WA, USA).

Jumpei Matsumoto, Koki Mimura, Tomohiro Shibata, Kenichi Inoue, Yasuhiro Go, Hisao Nishijo Development and application of 3D markerless motion capture system for analyzing social and emotional behavior in animals.( 2019/12/16-17) Toyama Forum for Academic Summit on“Dynamic Brain”( 富山).

Jumpei Matsumoto, Hisao Nishijo, Koki Mimura, Kenichi Inoue, Yasuhiro Go, Tomohiro Shibata Development and applications of 3D markerless motion capture systems for analyzing monkey behavior( 2020/1/8-10) 脳と心のメカニズム 第20回冬のワークショップ( 北海道蛇田郡).

Jumpei Matsumoto, Hisao Nishijo, Koki Mimura, Kenichi Inoue, Yasuhiro Go, Tomohiro Shibata Utilization of animal markerless motion capture in neuroscience( 2020/3/17-19) 第97回日本生理学会大会( 大分).
マカクザルマーカーレスモーションキャプチャーソフトウェアの開発

松本 惇平 , 柴田 智広, Rollyn Labuguen, Salvador Blanco, Dean Bardeloza

本研究では、最新の機械学習アルゴリズム(深層学習など)を用いて、任意の画像および映像内のマカクザルの姿勢をマーカーレスで推定するソフトウェアを開発を目指す。初年度である2018年度では、霊長類研究所の放飼場等で飼育されているサルの日常の様子を撮影し、得られた画像データをもとに教師データを作成した。さらに、その教師データをもとに機械学習アルゴリズムを訓練し、単一個体が写った画像においては、良好な姿勢推定精度が得られた。二年目の2019年度は引き続き放飼場等での撮影を行うとともに、霊長類研究所の大学院生などの協力を得て、教師データ(関節位置などのラベリング)の改善を行った。これまでに、延べ約17000頭分の高品質な教師データが得られている(図A; 査読付き国際学会で発表(Labuguen et al., 2019)し、現在論文誌への投稿を準備中)。また、開発したソフトウェアを所内対応者の井上助教の所有するパーキンソン病モデルサルの動作解析へ応用し、筋固縮などのパーキンソン病の特有症状に対応する行動変化を客観的・定量的に評価することに成功した(図B)。さらに、社会行動などにおける複数の個体の動作を同時に解析することを可能とするために、作製したデータセットと深層学習を用いて複数個体の写った画像から各個体の検出を行う予備検討を行った。その結果、高い精度で個体検出が可能であることが明らかになった(図C)。今後は個体検出と各個体姿勢推定を組み合わせ、複数個体の社会行動なども解析が可能なソフトウェアの構築を目指す。
 本研究で開発中のソフトウェアは、姿勢や動作の解析から、運動機能や情動、行動意図、社会行動を客観的・定量的に評価することを可能にし、種々の脳機能の研究や野外生態調査、サルの健康管理など多くの分野への貢献が期待される。


H31-B13
代:栗原 洋介
ニホンザルの昆虫食が枯死木分解にあたえる影響

学会発表
栗原洋介 ニホンザルはどこで枯死木を壊す?:主要採食樹と地形の影響(2019/6/8) ニホンザルの「暮らし」を俯瞰する―遺伝子・行動・生態・人との関わり―(京都大学霊長類研究所(愛知)).
ニホンザルの昆虫食が枯死木分解にあたえる影響

栗原 洋介

本研究の目的は、ニホンザルが枯死木分解にあたえるインパクトを定量することである。本年度は、主に枯死木バイオマス評価方法の確立および屋久島海岸域における枯死木調査プロットの作成を行った。凹凸が多く不規則な形状をしている枯死木の体積を客観的に評価するために、フォトグラメトリにより 3D モデルを作成した。この手法が野外における枯死木の体積・表面積推定にも有効であることがわかった。また、屋久島・西部林道沿いに枯死木調査プロットを 10 箇所作成した。対象の材を複数個に分割し、一方はそのまま放置、他方はサルが破壊できないようにネットで覆った。自動撮影カメラを設置し動物の訪問を調べるとともに、定期的に材の体積を計測することで、動物の訪問と枯死木の体積減少速度の関連を調べている。前年 2018 年にも同様の調査プロットを予備的に 10 箇所設置していたが、サルはすべての材を訪問し、そのうち 5 箇所において、そのまま放置した材がサルによって大きく破壊されていた。来年度以降は、サルの行動観察を本格的に実施するとともに、枯死木のモニタリングを継続する。


H31-B14
代:半沢 真帆
群間エンカウンターを通して構築されるニホンザルの群間および群内関係
群間エンカウンターを通して構築されるニホンザルの群間および群内関係

半沢 真帆

ニホンザルは、群れが隣接している地域ではエンカウンターが起こる。他群との直接的交渉によるケガなどのリスクを下げるため、敵対的交渉時における群内個体間の協力は必要不可欠であるが、まだ未解明な部分が多い。また、他群への敵対性や親和性は個体により異なる。そこで本研究は、ヤクシマザル(Macaca fuscata yakui)において、個体ごとのエンカウンター時における他群個体との敵対的交渉および親和的交渉を詳細に記録した。結果、敵対的交渉時では、オトナオスやワカモノオスが多く参加し、突進が多く見られた。また、高順位オスと低順位オス間で連合攻撃や援助の要請が見られた。高順位オスは他のオスが参加しているところに要請を受けて攻撃に参加し、自群の参加頭数が多いほど突進する傾向にあった。一方、低順位オスは自群の高順位オスが参加する時ほど突進する傾向にあった。また、援助要請では、自群の参加頭数が少ないほど、他群の相手がオトナオスであると起こる傾向があった。他方、親和的交渉時ではワカモノオスとコドモの参加率が高く、同年齢の他群個体と社会的遊び、マウント、毛づくろいが見られた。敵対的交渉時において高順位オスと低順位オスの間で連合攻撃や援助の要請が見られたことは、平常時の群れ内の個体間関係とは異なった群内個体間のネットワークが構築されている可能性を示唆していた。また、他群への攻撃では、高順位オスは要請に応じて援助するという受動的な性質が、逆に低順位オスでは高順位オスの前で他群への敵対性を見せるという能動的な性質が認められた。しかし、攻撃の大半は肉体的接触に至らない突進であり、その生起率は自群と他群の前線の状況が影響していることから、怪我のようなリスクを回避しながらエンカウンターへの積極性をアピールしていると考えられた。他方、親和的交渉時にコドモやワカモノオスを中心とした参加が見られたことは、他群個体との交渉を通じて、その個体の社会性を高めている可能性や、将来移籍する可能性のある周辺の群れの情報収集をしていることを示唆していた。


H31-B15
代:藤田 一郎
協:稲垣 未来男
マカカ属サルにおける扁桃体への皮質下視覚経路の神経解剖学的同定
マカカ属サルにおける扁桃体への皮質下視覚経路の神経解剖学的同定

藤田 一郎 , 稲垣 未来男

霊長類において、潜在的な危険情報の視覚的な検出に大脳皮質視覚経路だけでなく皮質下視覚経路も関わると考えられているが、解剖学的な証拠は乏しい。本研究では、危険情報の処理を担う扁桃体へ越シナプス性逆行性神経トレーサーを注入し、入力経路を順番に辿ることで皮質下視覚経路の解明を目指している。昨年度のアカゲザル1頭目の実験に引き続き、今年度は2頭目の個体について実験を行って再現性を検証した。トレーサー注入後の生存期間は2日として、トレーサーが最大でも2シナプスしか越えないように実験条件を設定した。1頭目のデータと同様に、視床枕および上丘において扁桃体を始点として逆行性に標識された神経細胞が存在することを確認した。視床枕では多くの神経細胞が、上丘では少数の神経細胞が標識されていた。また、上丘における標識細胞の分布を調べた結果、網膜の神経節細胞から入力を受ける上丘浅層に標識細胞が存在することが分かった。網膜からの視覚情報が上丘と視床枕を経由して少ないシナプス連絡で扁桃体へと伝わることを強く示唆する結果を得た。


H31-B17
代:岩槻 健
協:稲葉 明彦
協:中安 亜希
霊長類由来ex vivo培養系を用いた消化管細胞機能の解析

学会発表
山田政明, 中安亜希, 稲葉明彦, 山根拓実, 大石祐一, 岩槻健 マウス有郭乳頭の腎皮膜下移植の試み  (2019.9.17-19) 日本味と匂学会第53回大会(高知市).

稲葉明彦、篠澤章久、有永理峰、熊木竣佑、伯川美穂、林美紗、今井啓雄、山根拓実、大石祐一、岩槻健 霊長類消化管オルガノイドにおける培養条件最適化の検討(2019.9.17-19) 日本味と匂学会第53回大会(高知市).
霊長類由来ex vivo培養系を用いた消化管細胞機能の解析

岩槻 健 , 稲葉 明彦, 中安 亜希

これまで、霊長類の消化管および味蕾オルガノイドの作製には成功していたが、性質が一定の安定した細胞を得ることは困難であった。それは、継代を重ねることにより増殖活性が低下することに原因があったためであった。最近になり、ヒトの消化管オルガノイド培養において新しい増殖因子の組み合わせ(IGF-1とFGF-2)が報告されたため、我々も同様の方法で消化管および味蕾オルガノイドを培養したところ、これまで不安定だった培養系が安定化した。この改良された培養条件では、霊長類の十二指腸、空腸、盲腸、味蕾など調べた組織全てで従来の培養条件よりも細胞の増殖能が高かった。培養が安定化したため、消化管についてはIL-4刺激による細胞分化誘導が生体内と同様に起きるのかを調べ、その際の遺伝子変化をRNA-Seqにより調べた。また、味蕾オルガノイドについては、種々の呈味物質への反応を安定して測定できるかを検討した。
 上記の結果、新しい培養条件で育てた消化管オルガノイドでは、IL-4の誘導によりbrush細胞が選択的に増殖することが免疫組織科学染色、RNA-SeqおよびRT-PCRにて確認された。また、味蕾オルガノイドは人工甘味料や苦味物質に対して安定的に反応することが、カルシウムアッセイによって明らかとなった。本結果は霊長類オルガノイドがex vivo解析系として、様々な機能アッセイに利用できることを示唆している。今後は、消化管および味蕾オルガノイドを用いて、げっ歯類にはなく霊長類に特異的な消化管反応や味反応について解析する予定である。



H31-B18
代:山下 俊英
サル脊髄損傷モデルを用いた軸索再生阻害因子とその抗体による神経回路修復に関する研究
サル脊髄損傷モデルを用いた軸索再生阻害因子とその抗体による神経回路修復に関する研究

山下 俊英

統合脳システム分野との共同により、サル脊髄損傷モデルを用いて軸索再生阻害因子であるRGMaの抗体とTMS(経頭蓋磁気刺激)を併用した治療効果に関する一連の研究を実施し、現在、当該研究成果に関する原著論文を作成中である。


H31-B19
代:小野 龍太郎
協:八木田 和弘
協:金村 成智
協:山本 俊郎
ニホンザル歯牙の象牙質成長線に関する比較解剖

学会発表
小野 龍太郎*,小池 宣也,井之川 仁,土谷 佳樹,梅村 康浩,山本 俊郎,金村 成智,八木田 和弘 歯と体内時計のバイオロジー 〜成長線の形成周期は24時間?〜(2019/10/12) 第61回歯科基礎医学会 アップデートシンポジウム 若手研究者による口腔生理学最前線 (東京).

Ryutaro Ono*, Nobuya Koike, Hitoshi Inokawa, Yoshiki Tsuchiya, Yasuhiro Umemura, Toshiro Yamamoto, Narisato Kanemura, Kazuhiro Yagita A New Insight of Tooth Growth(2019/8/28) XVI European Biological Rhythms Society Congress(Lyon(France)).
ニホンザル歯牙の象牙質成長線に関する比較解剖

小野 龍太郎 , 八木田 和弘, 金村 成智, 山本 俊郎

歯の成長線は、形成期間中に個体内で起きたライフサイクルが反映された層状構造である。そのため、直接観察が困難な稀少動物種における生活史の解明、食性や生活環境の把握などに役立つツールとなる可能性がある。さらには化石種に応用することで、古生物学への貢献も期待できる。
 これまでに、生年月日・死亡年月日が判明しているニホンザル下顎骨の骨格標本における歯の萌出状況を網羅的に記録することで、ヒトでの乳歯列期・混合歯列期・永久歯列期に該当する発育ステージを特定した。無作為に抽出した雄性6ヶ月・2歳個体の第一乳臼歯,4歳・6歳個体の第一大臼歯より脱灰標本を作製し、これまでに2検体(永久歯)で成長線の観察に成功している。歯の構造的主体である"象牙質"では成長線が約15μm間隔で同心円状に配列し、歯根部を覆う"セメント質"では表層に沿って約10μm間隔で平行する様子が確認できた。これらの所見は、同一の歯牙であっても硬組織の種類や部位によって発育パターンが異なる可能性を示唆するものである。今後は異なる歯種間での比較、動物種による違いなどについて比較解剖学的な検討を行う予定である。


H31-B20
代:喜久田 翔伍
協:岩永 譲
協:楠川 仁悟
協:渡部 功一
霊長類における前頭神経末梢枝の解剖学的研究
霊長類における前頭神経末梢枝の解剖学的研究

喜久田 翔伍 , 岩永 譲, 楠川 仁悟, 渡部 功一

我々はこれまでに、ヒト新鮮凍結死体を用いて、前頭神経の眼窩内走行およびその終枝の眼窩上縁における経過を明らかにしてきた (Kikuta et al., 2019)。サルは、ヒトとの咀嚼力の違いから顔面骨に生じた応力の一部が眼窩上部の眉弓に集中することで、同部の突出が生じる。このような顔面骨形態の違いから、前頭神経末梢枝の走行に違いがでる可能性があるが、比較解剖学的資料に欠けている。本研究の目的は、霊長類眼神経末梢枝の分布および周囲構造物との関係を、眼窩内・外からの解剖により明らかにし、ヒトとの比較検討を行うことにある。本研究において、カニクイザル5個体の頭部固定標本を詳細に解剖した。全個体で前頭神経を認めた。眼窩内で前頭神経を同定し、総腱輪まで追求したが、眼窩内に分枝を持たず、眼窩上縁の眼窩上切痕から独立して出現していた。カニクイザルは、ヒトで分類される滑車上神経、眼窩上神経は持ち得なかった。前頭神経は顔面表面に出現後、数本に分枝し、皺眉筋および眼輪筋を貫通し、前額部の皮膚を神経支配していた。現在、ヒトとカニクイザルの解剖学的構造の違いを焦点に、本研究結果を論文執筆中である。


H31-B21
代:佐々木 基樹
霊長類後肢骨格の可動性
霊長類後肢骨格の可動性

佐々木 基樹

2019年度の共同利用・研究期間中に、ニシローランドゴリラ1頭のCT画像解析を新たにおこなうことが出来た。これまでにニシローランドゴリラ3個体、オランウータン2個体、チンパンジー4個体の後肢のCT画像解析をおこなってきた。趾の可動域の解析では、第一趾を最大限伸展させた状態でCT画像撮影をおこない、得られたCT断層画像データを三次元立体構築した後、第一趾の可動状況を観察した。ニシローランドゴリラやチンパンジーの第一趾の第一中足骨は、上下方向に可動性を持つオランウータンとは違って足の背腹平面で可動しており、その可動域は、肉眼的にはオランウータン、ニシローランドゴリラ、そしてチンパンジーの順で大きいといった結果が得られている。また、第一中足骨と第二中足骨がなす平面上におけるそれら中足骨のなす角度をソフト上で解析した角度平均は、オランウータンで104度、ニシローランドゴリラで73度、そしてチンパンジーで52度であった。今回解析したニシローランドゴリラの第一趾の可動状況は、これまで解析したニシローランドゴリラと同様に背腹平面で可動していたが、第一中足骨と第二中足骨がなす平面上の角度は94.4度と、これまで計測したニシローランドゴリラの中では一番大きな値であった。その結果、ニシローランドゴリラの平均は79度となった。          



H31-B22
代:Kanthi Arum Widayati
協:Yohey Terai
Genetic characterization of bitter taste receptors in Sulawesi macaques

論文
Widayati KA, Yan X, Suzuki-Hashido N, Itoigawa A,Purba LHPH, Fahri F, Terai Y, Suryobroto B,Imai H(2019) Functional divergence of the bitter receptor TAS2R38 in Sulawesi macaques Ecology and Evolution 9(18):10387-10403. 謝辞The authors would like to thank Drs. T. Ueda, T. Misaka, and H. Matsunami for providing cells and vectors. The authors would like to thank BKSDA Sulawesi Utara, BKSDA Sulawesi Tengah, M. Hakukawa, M. Umemura, and A. Alfiyan for their techni- cal support during the experiment. This work was supported by KAKENHI grants from the Japan Society for the Promotion of Science (JSPS; #15H05242 and #18H04005 to H.I., #16K18630 to Y.T.), the JSPS Japan–Indonesia Bilateral Research program (to H.I. and B.S.), research grants from the Kobayashi International Scholarship Foundation and Terumo Foundation (to H.I.), Dana DIPA grant from the Ministry of Research, Technology and Higher Education of the Republic of Indonesia (KLN No. 083/SP2H/PL/ Dit.Litabmas/II/2015 to B.S., WCR No. 1531/IT3.L1/PN/2019 to B.S.), and the Cooperative Research Programme of Kyoto University (Kyodo Riyo Theme nos. 2017-B-37 and 2018-B-66 to K.A.W.).
Genetic characterization of bitter taste receptors in Sulawesi macaques

Kanthi Arum Widayati , Yohey Terai

Bitter perception is mediated by G protein-coupled receptors TAS2Rs and plays an important role in avoiding the ingestion of toxins by inducing innate avoidance behavior in mammals. One of the best-studied TAS2Rs is TAS2R38, which mediates the perception of the bitterness of synthetic phenylthiocarbamide (PTC). Previous studies of TAS2R38 have suggested that geographical separation enabled the independent divergence of bitter taste perception. The functional divergence of TAS2R38 in allopatric species has not been evaluated. We characterized the func- tion of TAS2R38 in four allopatric species of Sulawesi macaques on Sulawesi Island that lived in central and north Sulawesi. We found variation in PTC taste perception both within and across species. In most cases, TAS2R38 was sensitive to PTC, with functional divergence among species. We observed different truncated TAS2R38s that were not responsive to PTC in each species of Macaca nigra and M. nigrescens due to premature stop codons. Some variants of intact TAS2R38 with an amino acid substitution showed low sensitivity to PTC in M. tonkeana. Similarly, this intact TAS2R38 with PTC-low sensitivity has also been found in humans. We detected a shared haplotype in all four Sulawesi macaques, which may be the ancestral haplotype of Sulawesi macaques. In addition to shared haplotypes among Sulawesi macaques, other TAS2R38 haplotypes were spe- cies-specific. These results implied that the variation in TAS2R38 might be shaped by geographical patterns and local adaptation.For further study,we will expand our research to Southern Sulawesi. We did experimental behavior several individual of southern species and found some indivivual PTC-non taster in M. maura. We predict that some of the TAS2R38 South Sulawesi macaques will have some different genetic background compare to the North Sulawesi macaques due to geographical separation and different origin of continental plates at the time of island formation.
We published the results of Sulawesi macaques species lived in central and north Sulawesi in journal Ecology and Evolution.


H31-B23
代:Bambang Suryobroto
Genomic Evolution of Sulawesi Macaques
Genomic Evolution of Sulawesi Macaques

Bambang Suryobroto

Seven species of Sulawesi macaques (Macaca nigra, M. nigrescens, M. hecki, M. tonkeana, M. maurus, M. ochreata and M. brunnescens) continue attracting interest as a model of evolutionary speciation and differentiation. As macaque is a characteristic animal of Oriental zoogeographical realm, their ancestor should cross the Wallace Line between the Island and Sunda Land. We found that genetic tree based on exome sequences reflects their geographic distributions in the Island. Single nucleotide polymorphisms (SNPs) extracted from the exomes show fixed differences among M. tonkeana and M. hecki; these two species had been reported to have hybrid populations in their borderland. The fixed differences were located in 129 genes including that of responsible for olfaction, detoxification, hair formation, and reproduction in female. Especially, an A to G mutation in the start codon of a detoxification gene in M. hecki truncates six amino acids from the full length of the protein in M. tonkeana. However, both short and full type of detoxification proteins possess the same enzymatic activity, though we inferred (from the function of N-terminal amino acids) the localization in the cell membrane may be different. Furthermore we found that M. nigra and M. nigrescens have the same short type as M. hecki while M. maurus, M. ochreata and M. brunnescens the same full type as M. tonkeana. Again, this reflects the geographical distribution because the first three species bearing the short detoxification gene distribute in northern part of the Island, and the later four species with full type in the southern part.


H31-B24
代:伊藤 浩介
サル類における聴覚事象関連電位の記録

論文
Itoh K, Nejime M, Konoike N, Nakamura K, Nakada T.(2019) Evolutionary Elongation of the Time Window of Integration in Auditory Cortex: Macaque vs. Human Comparison of the Effects of Sound Duration on Auditory Evoked Potentials. Front. Neurosci. 13:630.

学会発表
伊藤浩介, 岩沖晴彦 , 鴻池菜保 , 五十嵐博中, 中村克樹 コモンマーモセットにおける頭皮上聴覚誘発電位の無麻酔・無侵襲記録( 2019/7/25) 第42回日本神経科学会大会 NEURO2019(新潟市).

鴻池 菜保, 三輪 美樹, 伊藤 浩介, 中村 克樹 コモンマーモセットにおける聴覚情報処理に関わる神経応答(2019/7/26) 第42回日本神経科学会大会 NEURO2019(新潟市).

Kosuke Itoh Primate non-invasive EEG: a window into human brain evolution(2020年2月22日) The 10th BRI International Symposium: Advanced Brain Imaging for the Future(Niigata).
サル類における聴覚事象関連電位の記録

伊藤 浩介

これまで継続して来た共同利用・共同研究により、マカクザルの頭皮上脳波記録の方法論が完成し、質の安定した聴覚事象関連電位の記録が可能となった。マーモセットの脳波記録では、主として、頭部面積が小さく電極の設置が難しいことにより、電極設置に時間がかかる、電極数を増やせない、インピーダンスが浮動し脳波記録が安定しないなどの問題が生じていた。そこで、昨年度は、電極の設置について、これまでにないまったく新しい発想の方法を考案し、これにより電極設置の迅速化(従来より75%の時間短縮)、電極の高密度化(7 ㎜の電極間距離で設置可能)、脳波記録の質の安定化が達成された。本年度は、この新しい方法を利用することで、4頭のマーモセットから、世界で初めて、頭皮上から無侵襲で聴覚誘発電位の中潜時成分(middle latency response)と皮質成分(cortical auditory cortical potential)を記録することに成功し、英文原著論文にまとめて、投稿をした。


H31-B25
代:寺山 佳奈
高知県室戸市におけるニホンザルが利用する食物資源の解析
高知県室戸市におけるニホンザルが利用する食物資源の解析

寺山 佳奈

高知県室戸市佐喜浜町で捕獲されたメスの成獣1頭に発信機を装着し、農地を利用するニホンザル個体群の行動圏の変化と利用食物を明らかにすることを目的とした。発信機を利用した追跡調査の期間は、2018年9月から2019年8月の12か月間とし、各月1日以上、日の出から日の入りまで1時間間隔でニホンザルの位置情報を求めた。位置情報をもとに最外郭法を用いて対象群の行動圏を推定した。加えて、調査地内に生息するニホンザルの採食物を調べるために、追跡調査中に確認された採食物を記録するとともに、調査地で捕殺された11個体の胃内容物を調べた。調査期間中12か月間の行動圏は10.2 km2であった。各月の行動圏については、秋期と春期に大きくなり、冬期と夏期には小さくなる傾向がみられた。行動圏が最も大きくなったのは9月の3.3 km2であり、最も小さくなったのは12月の0.5 km2であった。追跡調査中に観察されたニホンザルの採食物は、秋期や春期はハゼノキやヤマモモなどの森林内に分布するものであり、冬期や夏期は柑橘やイネなどの農作物であった。胃内容物から出現した品目は、春期にはヤマモモなどの果実が多く、夏期には農作物であるイネが多く出現した。これらのことから、本調査地に生息するニホンザルは餌資源の分布に影響を受けて行動圏を変化させている可能性が高い。


H31-B26
代:那波 宏之
霊長類における神経栄養因子の精神機能発達に与える影響
霊長類における神経栄養因子の精神機能発達に与える影響

那波 宏之

統合失調症をはじめとする精神疾患の多くは高次脳機能の障害に由来する難治性脳疾患とされるが、多くの疑問が山積していて根治治療法も確立していない。そのげっ歯類モデルは現在、100を超えるが、いずれもヒトの高次脳機能とはギャップが大きく、いずれのモデルもその妥当性を評価することが難しい。それゆえ、ヒトにより生物学的、進化的に近い霊長類モデルの樹立が待ち望まれている。本研究者らは、統合失調症の最有力な仮説である「サイトカイン炎症性仮説」に基づき、霊長類研究所との共同利用研究課題として、げっ歯類でのモデルで実績のある上皮成長因子EGFを用い、霊長類(マーモセットおよびアカゲザル)の新生児に皮下投与を行い、精神疾患のモデル化を試みてきた。これまでにマーモセット新生児6頭およびアカゲザル新生児3頭へのEGF投与を実施した。近年、本研究者らは統合失調症患者のバイオマーカーと期待される神経生理学的な測定法(ミスマッチネガッテイビテイー、注意関連事象関連電位P3a,聴性定常反応)がげっ歯類モデルでも、ヒトと同様の異常性を呈することを報告し、これらの生理指標がヒトから動物へ逆トランスレーション可能であることが判明した。このことから、本年度は、ヒトと同様に非侵襲的に健常マーモセットおよびアカゲザルから脳波を計測する方法を確立した。また、マーモセットおよびアカゲザルの疾患グループ・健常グループで20-120Hzの聴覚刺激に対する聴性定常反応を計測した。その結果、疾患グループの一部の個体では、位相の同期が低下することが明らかになった。今後、対象個体を増やして実験を継続していく。


H31-B27
代:松田 一希
協:豊田 有
集団内の全個体同時追跡技術を利用した霊長類社会の研究

論文
Morita T, Toyoda A, Aisu S, Kaneko A, Suda-Hashimoto N, Matsuda I, Koda H(2020) Animals exhibit consistent individual differences in their movement: A case study on location trajectories of Japanese macaques Ecological Informatics 56:101057. 謝辞有り

Morita T, Toyoda A, Aisu S, Kaneko A, Suda-Hashimoto N, Matsuda I, Koda H(2020) Non-parametric analysis of inter-individual relations using an attention-based neural network bioRxiv:doi: https://doi.org/10.1101/2020.03.25.994764. 謝辞有り

Koda H, Arai Z, Matsuda I( 2020) Agent-based simulation for reconstructing social structure by observing collective movements with special reference to single-file movement Plos One 15( e0243173): doi: 10.1371/journal.pone.0243173. 謝辞あり

学会発表
Matsuda I Evolution of Primate Multilevel Social System: Proboscis Monkey Society As Complex System(29 Sep - 2 Oct, 2019) The 7th International Congress on Cognitive Neurodynamics(Alghero, Italy).
集団内の全個体同時追跡技術を利用した霊長類社会の研究

松田 一希 , 豊田 有

霊長類の社会構造の理解は,霊長類学における重要な中心的議題の一つである.個体関係の記述(親和性/敵対性)や順位の記述(優劣関係),血縁関係の記述を通じて,群内の個体関係の構造を把握し,母系/父系社会などといった,社会類型を記載してきた.その一方で,それらの記載は主に研究者が直接観察し分類したり,ビデオを通じて事後に解析するなどといったデータに基づくものであり,連続的な記録としての大規模データの蓄積や解析は今までなかった.本研究は,小型の位置記録装置(ビーコン)を飼育ニホンザル集団の全個体に装着することで,高精度で大規模な連続的な位置データ情報を収集し,個体間関係の記述を,社会ネットワーク分析を通じて評価することを目的とした.2018年度から断続的に,5個体からなるニホンザル集団を研究対象として,その位置計測を,時空間精度として高精度(10cm誤差以内,5点記録/1秒)に,かつ連続的に収集している(図).収集した膨大な個体間インタラクションデータから,本年度は、個体の空間配置と空間移動軌跡の常時計測系の確立に成功し,深層学習を含む統計手法による個体識別および個体間インタラクション解析を定量化するための手法を予備的に開発した(Morita et al. 2019).また,深層学習を用いた,ノンパラメトリックな個体間インタラクション解析手法も新たに開発し,それを高精度の位置測位システムにより得られたニホンザル各個体の位置情報に応用することで,個体間インタラクションの分析を実施した(Morita et al. 2020).加えて,ビーコンを装着した5頭のニホンザルの群れを,短期的に1:4頭に分離することで,個体間インタラクションの程度をコントロールし,社会的なインタラクションの変遷過程に着目したデータの分析にも着手した.
<発表論文>
Morita T, Toyoda A, Aisu S, Kaneko A, Suda-Hashimoto N, Matsuda I, Koda H (2020) Animals exhibit consistent individual differences in their movement: A case study on location trajectories of Japanese macaques. Ecological Informatics 56:101057. doi: 10.1016/j.ecoinf.2020.101057(査読有)

Morita T, Toyoda A, Aisu S, Kaneko A, Suda-Hashimoto N, Matsuda I, Koda H (2020) Non-parametric analysis of inter-individual relations using an attention-based neural network. bioRxiv. doi: https://doi.org/10.1101/2020.03.25.994764(査読なし)
<国際会議での発表>
Matsuda I「Evolution of Primate Multilevel Social System: Proboscis Monkey Society As Complex System」The 7th International Congress on Cognitive Neurodynamics, Alghero, Italy, 29 Sep - 2 Oct, 2019


H31-B28
代:加藤 彰子
協:内藤 宗孝
協:近藤 信太郎
マカク属サルの形態的・環境的因子から、歯周病発症を解明する
マカク属サルの形態的・環境的因子から、歯周病発症を解明する

加藤 彰子 , 内藤 宗孝, 近藤 信太郎

歯周病は歯周組織に起こる慢性の炎症性疾患であり日本の成人の約80%が歯周病に罹患している。現在、歯周病は生活習慣病の一つと考えられており、病態・病因の解明は解決すべき重要な課題である。
 2018年度に引き続き2019年度は、京都大学霊長類研究所に所蔵の骨格標本のうち、年齢、性別が分かっているアカゲザル、ニホンザルの上顎歯および下顎歯が付いた頭蓋20数個体ずつ、合計46個体のCT撮像を行い、形態観察および比較を行った。その結果、臼歯の咬合面の咬耗のパターンや、臼歯歯槽骨の吸収度が異なるという所見を得た。一方で、飼育個体は食餌や飼育環境による成長や病態への影響も考えられることから、野生個体についての調査も行う必要性があると考えた。そこで、2019年度後半は、ニホンザル野生個体群を対象に骨格標本CTデータを収集した。また、京都大学霊長類研究所(KUPRI)The Digital Morphology Museum (DMM)データベースのニホンザル野生個体群のCTデータを活用し、これらのCT画像から、ヒトの歯周病診断に用いられる基準を適応するため上顎第一大臼歯の矢状方向および前頭方向断面画像をImageJ(1.44, NIH, USA)を用いて作成した。2020年度は、これらの画像をもとに歯周病組織破壊の程度を評価し、野生ニホンザルの歯周病進行度の地域差を検討する。


H31-B29
代:倉岡 康治
協:稲瀬 正彦
視覚刺激の好みに対するホルモンの影響
視覚刺激の好みに対するホルモンの影響

倉岡 康治 , 稲瀬 正彦

 本研究は。社会性ホルモンであるオキシトシンがニホンザルの社会的視覚刺激の好みにどう影響するかを行動実験で調べることを目的としている。
 飼育ケージにタブレット型コンピューターを取り付け、複数の他個体画像を提示した際にサルが興味を示して触れれば、その画像をより長く提示するようにプログラムする。オキシトシンを投与した後、その興味がどのように変化するかを調べる。
 昨年度は、麻酔下の被験体に対してオキシトシンを経鼻投与することにより、他個体視覚刺激に対する好みの変化がみられるか検討したが、オキシトシンの効果よりも、麻酔の効果が強く出たと思われる結果となった。そこで本年度は、麻酔をしない状態で、ネブライザーを用いて被験体の鼻周辺にオキシトシンを噴霧し、行動変化を観察した。オキシトシン噴霧後に他個体画像に触れる回数、またはタブレット型コンピューター付属のカメラにより、他個体画像を見る回数を計測した。その結果、オキシトシン噴霧の前後で他個体画像へのアプローチの回数に明確な差を見つけることはできなかった。画像の提示回数やオキシトシン濃度について検討する必要がある。


H31-B31
代:Kevin William McCairn
協:Kendall Lee
Multi-Dimensional Analysis of the Limbic Vocal Tic Network and its Modulation via Voltammetry Controlled High-Frequency Deep Brain Stimulation of the Nucleus Accumbens
H31-B32
代:今村 拓也
種特異的ノンコーディングRNAによるほ乳類脳神経機能分化

論文
Taito Matsuda, Takashi Irie, Shutaro Katsurabayashi, Yoshinori Hayashi, Tatsuya Nagai, Nobuhiko Hamazaki, Aliya Mari D. Adefuin, Fumihito Miura, Takashi Ito, Hiroshi Kimura, Katsuhiko Shirahige, Tadayuki Takeda, Katsunori Iwasaki, Takuya Imamura, Kinichi Nakashima(2019) Pioneer factor NeuroD1 rearranges transcriptional and epigenetic profiles to execute microglia-neuron conversion Neuron 101:472.

Ryunosuke Kitajima, Risako Nakai, Takuya Imamura, Tomonori Kameda, Daiki Kozuka, Hirohisa Hirai, Haruka Ito, Hiroo Imai, Masanori Imamura(2020) Modeling of early neural development in vitro by direct neurosphere formation culture of chimpanzee induced pluripotent stem cells Stem Cell Research 44: 101749. 謝辞あり

学会発表
亀田朋典、今村拓也、滝沢琢己、三浦史仁、伊藤隆司、中島欽一 ニューロンは神経活性化により新規DNAメチル化を介してエンハンサー活性を調節し、興奮性シナプス形成に影響する(2019年12月3- 6日) 第42回日本分子生物学会年会(福岡市、福岡国際会議場).

藤本雄一、亀田朋典、吉良潤一、中島欽一、今村拓也 母体由来の炎症シグナルは胎仔脳が発現するサイトカインIL17Dにより緩和できる(2019年12月3- 6日) 第42回日本分子生物学会年会(福岡市、福岡国際会議場).

藤本雄一、亀田朋典、吉良潤一、中島欽一、今村拓也 母体由来の炎症シグナルは胎仔脳が発現するサイトカインIL17Dにより緩和できる、第162回日本獣医学会学術集会、茨城県、つくば国際会議場(2019年9月10-12日) 第162回日本獣医学会学術集会(茨城県、つくば国際会議場).

藤本雄一、亀田朋典、吉良潤一、中島欽一、今村拓也 :母体由来の炎症シグナルは胎仔脳が発現するサイトカインIL17Dにより緩和できる(2019年9月2-5日) 第112回日本繁殖生物学会大会(北海道、北海道大学高等教育推進機構).

今村拓也、中嶋秀行、中島欽一 Mecp2ノックアウトマウス新生仔海馬のシングルセルRNA-seq解析(2019年5月28-29日) 第13回エピジェネティクス研究会年会(神奈川県、神奈川県民ホール).
種特異的ノンコーディングRNAによるほ乳類脳神経機能分化

今村 拓也

本課題は、ほ乳類脳のエピゲノム形成に関わるnon-coding RNA (ncRNA)制御メカニズムとその種間多様性を明らかにすることを目的としている。本年度は、チンパンジーiPS細胞からのin vitro神経幹細胞・分化細胞誘導実験系の利用(ニューロスフィア法および脳オルガノイド培養法)による神経幹細胞動態解析をさらに進めた。ニューロスフィア法については、霊長研・今村公紀助教と共同で解析を進め、iPS細胞から神経幹細胞が樹立する1週間におけRNA発現動態を詳細化することで、分化に重要な分子カスケードを絞り込むこと成功した。本成果は所内対応者である今村公紀・霊長類研究所・助教との共同研究の成果としてStem Cell Research誌に報告し、霊長類研究所よりプレスリリースされた。また、脳オルガノイド培養法については、培養後の次世代シーケンサー解析用サンプル調整プロトコール確立し、シングルセルRNA-seqからのncRNA情報を深化して得つつある。これにより、複雑な細胞構成に由来するノイズを減らし、精度をより向上させた実験を進行するための準備が整った。


H31-B33
代:荻原 直道
協:大石 元治
協:PINA Marta
ニホンザル二足・四足歩行運動の運動学的・生体力学的解析

論文
荻原直道(2019) ヒトの足部筋骨格構造の形態的特徴とその進化 バイオメカニズム学会誌 43:83-88.

学会発表
荻原直道、平崎鋭矢 重心位置の前方シフトがニホンザル四足歩行時の接地パターンに与える影響(Oct 12, 2019) 第73回日本人類学会大会(佐賀県佐賀市).

Andrada, E., Blickhan, R., Ogihara, N., Rode, C. The role of global leg mechanics in the transition from grounded to aerial runnning(Sep 10, 2019) 112th Annual Meeting of the German Zoological Society(Jena, Germany).

Andrada, E., Blickhan, R., Ogihara, N., Rode, C. The role of global mechanics at the transition from grounded to aerial runnnig(Jul 7, 2019) Europian Society of Biomechanics 2019(Vienna, Austria).

荻原直道 ヒトの足部構造に内在する歩行機能の解明に向けて(Sep 11, 2019) 2019 Japan Altairテクノロジーカンファレンス(東京都港区).

荻原直道 ヒトの二足歩行の個体発生と系統発生(Aug 6, 2019) 生理学研究所研究会「幼・小児の成長期における脳機能と運動の発達に関する多領域共同研究」(愛知県岡崎市).

ニホンザル二足・四足歩行運動の運動学的・生体力学的解析

荻原 直道 , 大石 元治, PINA Marta

本年は、昨年に引き続き、ニホンザルに鉛が入ったチョッキを着用させることで身体重心位置を頭側にシフトさせたときの、四足歩行の接地パターンを、トレッドミルを用いて比較・分析した。その結果、すべての個体・速度条件において観察されるわけではないが、鉛チョッキの着用により、diagonal sequence (DS)からlateral sequence (LS)に接地パターンを変化させる傾向が高まることが観察された。霊長類の四足歩行は、通常DSを採用するのに対して、多くの他のほ乳類はLSを採用する。この違いを説明する仮説として、重心位置の違いが提案されているが、身体重心位置が接地パターンに関係することが示唆された。
 また、ニホンザルの屍体標本から、歩行に関係する主要な筋の速筋線維と遅筋線維の割合を組織学的手法によって求める研究を推進した。具体的には、ニホンザル(成獣)2頭を、バルビタール系麻酔薬の過剰投与により安楽殺させ、前肢帯、上腕、前腕、後肢帯、大腿、下腿の筋を骨から分離し、幅約5mm、長さ約10mmの筋組織を採材した。今後筋組織の免疫組織化学的染色(ABC法)を行うことで、遅筋の断面と全筋線維型の断面の面積を求め、筋組織全体に占める遅筋の面積の割合を算出する。
 さらに、ニホンザルの下肢関節の受動弾性特性の計測を試みた。具体的には、ニホンザルの新鮮冷凍保存屍体標本1体を用いて、下肢各関節をモーターで他動的に伸展・屈曲させ、関節角度とそのとき関節まわりに受動的に作用するトルクの関係を求めた。ニホンザル下肢関節の受動弾性特性を定量化するための下地を構築した。


H31-B34
代:齋藤 慈子
協:新宅 勇太
協:吉田 早佑梨
吸啜窩の発達的変化の種間比較

学会発表
齋藤慈子、小平理恵子、吉田早佑梨、西村剛 ニホンザルにおける吸啜窩の存在の検討(2019年7月13日) 第35回日本霊長類学会大会(熊本市国際交流会館).
吸啜窩の発達的変化の種間比較

齋藤 慈子 , 新宅 勇太, 吉田 早佑梨

母乳育児が推奨される中、現代の母親にとって断乳・離乳の時期は大きな問題となっている。ヒトという霊長類がいつまで授乳をする生物なのかに関して、多くの客観的な情報が提供されることで、離乳や断乳の時期について示唆が得られると考えられる。ヒト乳児の口蓋には、線維質で構成された副歯槽堤により形作られる、吸啜窩というくぼみが存在する。乳児はこの吸啜窩に乳首を引き込み固定することで、安定した吸啜を行うことができる。この吸啜窩は発達とともに消失するとされるが、吸啜窩の消失という形態発達が離乳という機能発達に関与している可能性がある。この仮説が正しいとすれば、吸啜窩の消失の時期から、離乳時期についての情報が得られる。本研究では、この仮説を検証するために、吸啜窩の消失と離乳との関連を、ヒト以外の霊長類で確認することを目的とした。
昨年度、霊長類研究所所蔵のニホンザルの上顎骨標本38個体分を組み立て、口蓋を3Dスキャナーで撮像、解析した。その結果、ヒトで定義される吸啜窩と同様のくぼみは、ニホンザル乳児個体では確認されなかった。また、今年度は、継時的にMRI撮像データのある6個体のニホンザルの、犬歯後ろと小臼歯後ろの環状断画像で、上顎頂点と左右両歯槽堤が作る角度を測定した。結果、犬歯後ろの計測では、角度は発達に伴って一貫した変化が見られなかったが、小臼歯後ろの計測では、2歳頃にかけて角度が小さくなる(くぼみの高さが低くなる)傾向が見られた。このくぼみの高さが、授乳時の乳首の固定に関係している可能性がある。このように、上顎の形状から、ニホンザルでは、特別なくぼみを発達させることなく、乳首を固定、安定した吸啜を行うことができる可能性が示唆された。この結果から、ヒトにおける上顎形態の変化が、吸啜窩を進化させたという仮説が新たに提起された。


H31-B36
代:近藤 玄
協:信清 麻子
協:柳川 洋二郎
新規GPIアンカー型タンパク質を介した精子選別機構の解明
新規GPIアンカー型タンパク質を介した精子選別機構の解明

近藤 玄 , 信清 麻子, 柳川 洋二郎 

精子には、数多くのGPIアンカー型タンパク質(GPI-AP)が発現しており、そのいくつかは精子の受精能発揮に深く関与している。申請者は、予備実験において、マウス精子で発現量の多いGPI-AP(SpGPI-APと仮称)を同定し、同遺伝子の欠損マウスを作製したところ、精子の卵管への遊走が損なわれ、妊娠異常が認められた。また、このタンパク質に対するモノクローナル抗体を作製し、精子のFACS解析を行なったところ、精子は二つの集団に大別された。さらにこれらをソーティングし、運動性、体外受精能、人工授精能等をしらべたところ、直進運動性や体外受精能において差異がみとめられ、これまで想像されていたが分子的根拠がなかった精子集団の不均一性とより受精しやすい集団が存在すること、またそれがポジティブに選択されうることが示唆された。本申請では、当該タンパク質によって二別される精子集団の比較解析をヒトにより近いマカク属サル精子を用いて調べることとした。今年度は、カニクイザル精巣からマカクサルSpGPI-AP遺伝子をクローニングし、これを培養細胞に発現させた。これとすでに作製している抗ヒトSpGPI-APモノクローナル抗体とを反応させると、そのいくつかで有意な反応が認められた。一方、ここで反応した抗体とサル精子を反応させたが、いまのところ有意な反応を示すものはなかった。今後は、より多くのモノクローナル抗体をサル精子にてスクリーニングし、以後の実験に使用可能なクローンを同定する予定である。


H31-B37
代:大西 春香
ニホンザルにおける先天性四肢奇形の群れ内の行動とそれに対する他者の行動変化について
ニホンザルにおける先天性四肢奇形の群れ内の行動とそれに対する他者の行動変化について

大西 春香

ヒト以外の霊長類の障害に関する事例研究はあるが、それらは全て障害の度合いから検討し、考察している。そこで、本研究では個々の障害個体に着目し、その個体にとっての「障壁」はどのようなものか検討した。淡路島のニホンザル群で障害の度合いを評価した指標では同じ度合いの奇形で重度とされる2頭の成体メスと1頭の健常成体メスの行動のうち、採食、攻撃、毛づくろいに着目し、2019年5月から8月にかけて観察を行い、それぞれの個体にある「障壁」の個体差を確認した。さらに、それぞれが同じ「障壁」がある場合に、どのような行動の柔軟性を示すのか、これについても個体差を検証した。これら2頭の奇形個体は、比較対象とした1頭の健常個体に比べて採食や攻撃交渉、毛づくろいの手法に様々な個体差が見られた。一方で、そうしたコストの補う行動の柔軟性にも個体差が見られた。ヒト以外の霊長類の障害がある個体の行動をできることとできないことに切り分けて個々に見て行くことは個体の行動を理解する上で非常に重要な視点であると言えるであろうと言うことが本研究において示唆された。


H31-B38
代:平田 暁大
協:酒井 洋樹
飼育下サル類の疾患に関する病理学的研究

論文
Hirata A*, Kaneko A, Sakai H, Nakamura S, Yanai T, Miyabe-Nishiwaki T, Suzuki J.(2019) Laryngeal B cell lymphoma in a juvenile Japanese Macaques (Macaca fuscata) J. Comp. Pathol. 169:1-4. 謝辞あり

学会発表
兼子 明久, 平田 暁大, 宮部 貴子, 石上 暁代, 宮本陽子, 酒井洋樹, 鈴木 樹理 脳内出血を発症したニホンザルの2症例(2019年7月5日) 第28回サル疾病ワークショップ(つくば市).
飼育下サル類の疾患に関する病理学的研究

平田 暁大 , 酒井 洋樹

飼育下でサル類に発生する疾患およびその病態を把握するため、霊長類研究所で死亡あるいは安楽殺したサル類(ニホンザル、タイワンザル、アカゲザル、コモンマーモセット、マントヒヒ、チンパンジー)を病理学的に解析した。さらに、同研究所の獣医師(教員、技術職員)と臨床病理検討会(CPC、Clinico-pathological conference)を開催し、病理学的解析結果と治療データ、臨床検査データ(血液検査、レントゲン検査、CT検査、MRI検査等)と照合し、症例の総合的な解析を行った。また、稀少な症例については、国際誌に論文発表するとともに、研究会において報告した。いずれも代表研究者と霊長類研究所の教員・技術職員との共同発表である。

【論文発表】
T-cell/Histiocyte-rich Large B-cell Lymphoma of the Larynx in a Juvenile Japanese Macaque (Macaca fuscata).
Hirata A, Kaneko A, Sakai H, Nakamura S, Yanai T, Miyabe-Nishiwaki T, Suzuki J.
J. Comp. Pathol. 169, 1-4, 2019

【研究会での発表】
脳内出血を発症したニホンザルの2症例
兼子明久、平田暁大、宮部貴子、石上暁代、宮本 陽子、酒井 洋樹、鈴木 樹理
第28回サル疾病ワークショップ(2019年7月開催)




H31-B39
代:佐々木 哲也
細胞種特異的遺伝子発現・エピジェネティクスと精神疾患モデルにおけるその異常

論文
Sasaki T, Komatsu Y, Yamamori T( 2019) Prefrontal-Enriched SLIT1 Expression in Primate Cortex and its Alteration during Cortical Development. Jap J Biological Psych 30( 2): 81-85.

Tome S, Sasaki T, Takahashi S, Takei Y.(2019) Elevated maternal retinoic acid-related orphan receptor-γt enhances the effect of polyinosinic-polycytidylic acid in inducing fetal loss. Exp Animals 68(4):491-497.

Takei Y, Tome S, Sasaki T. (2019) KIF17-mediated transport of NMDA receptors and schizophrenia. Jap J Biological Psych 30(3):101-104.

学会発表
Saki Tome, Rei Nagata, Tetsuya Sasaki, Yosuke Takei. Analysis of the effect of IL17A increase on neurodevelopment in RORgt-overexpression transgenic mice.(2019.07.25-28.) Neuro2019. ( Niigata.).

Jinmin Li, Tetsuya Sasaki, Fumihiro Shutoh, Yosuke Takei The developmental defect of Serotonergic neuron induced by maternal immune activation. (2019.07.25-28.) Neuro2019.(Niigata.).

Tetsuya Sasaki, Yusuke Komatsu, Yosuke Takei, Tetsuo Yamaori. SLIT2 is preferentially expressed in the the higher-order association areas in primates. (2019.07.25-28.) Neuro2019. (Niigata.).

Tetsuya Sasaki, Yusuke Komatsu, Yosuke Takei, Tetsuo Yamamori. Analysis of genes that characterize the higher association area of the cerebral cortex. (2020.03.25-27.) The 125th Annual Meeting of The Japanese Association of Anatomists.(Ube).
細胞種特異的遺伝子発現・エピジェネティクスと精神疾患モデルにおけるその異常

佐々木 哲也

霊長類の大脳皮質は機能分化が進んでおり、複数の「領野」に区分される。その神経回路は、生後発達期に大規模な再編成がなされて機能的領野が形成される。霊長類の神経回路発達過程にニューロン、グリア細胞が果たす役割を詳細に検討するために、細胞種特異的な遺伝子発現解析、エピジェネティクス解析を計画した。昨年度の共同利用研究によりアカゲザル2頭の脳組織を採材したものを用いて、凍結組織からの効率の良い細胞分離法を模索している。シナプス再編成期の大脳皮質ミクログリアの分子生物学的特徴が解明されることを期待している。


H31-B40
代:筒井 健夫
協:鳥居 大祐
協:深田 哲也
協:那須 優則
協:小林 朋子
マカク乳歯歯髄幹細胞における幹細胞特性解析と再生医療への応用
マカク乳歯歯髄幹細胞における幹細胞特性解析と再生医療への応用

筒井 健夫 , 鳥居 大祐, 深田 哲也, 那須 優則, 小林 朋子

令和元年度はニホンザル3例について、上顎乳切歯より乳歯歯髄細胞の採取を行い初代培養を行なった。採取された乳歯歯髄細胞は、コラーゲンゲルを用いて三次元構築体を培養し、同一個体に生活歯髄切断法を応用した処置後に移植を行なった。移植された乳歯は永久歯の萌出時期を考慮し抜歯による採取を計画している。また、今回移植を行なった乳歯歯髄細胞は、初代培養後に継代培養を行い、細胞形態の観察および細胞増殖数の計測、また硬組織分化能の解析を進めている。平成30年度で移植を行なった、ニホンザル3例については移植時に歯髄貼付薬として生体親和性の高いMineral Trioxide Aggregate (ProRoot®MTA)を使用し軟エックス線撮影およびマイクロCT解析を行なった。軟エックス線撮影像からは、歯髄内にエックス線不透過像が観察され、細胞移植後にエックス線不透過物が産生されたことが示唆された。また、マイクロCT解析より、歯髄内に硬度の異なる硬組織形成が確認された。令和2年度は組織学的検査を計画しており、細胞移植を行なったサンプルの歯髄内における歯髄組織および硬組織形成について解析を進める。


H31-B41
代:持田 浩治
協:川津 一隆
観察学習による警告色の進化プロセスに関する実験的研究
観察学習による警告色の進化プロセスに関する実験的研究

持田 浩治 , 川津 一隆

本研究は、個体の直接的な個体学習だけでなく、他者の行動をモデルとした観察学習が、不味さや危険さと関連した目立つ体色を創出する、という警告色の「社会学習モデル」による進化仮説の妥当性を検証した。特に、個体学習のみで警告色の進化プロセスを説明する従来の「個体学習モデル」の問題点、類似しない警告色の存在を解消するために、学習後に獲得された行動を促す刺激の般化特性を個体/観察学習で比較した。まず、ニホンザルを対象に、ヘビ様模型の危険さと色刺激を関連付ける観察学習実験を行った。その結果、赤色ヘビ様模型の回避行動は学習できるが、より刺激の弱い茶色ヘビ様模型では学習できないことが明らかになった。次に、赤色ヘビ様模型の回避行動を観察学習した個体に、茶色ヘビ様模型を提示した。その結果、回避行動を促す刺激が、茶色まで般化していることが明らかになった。警告色の個体学習では、回避行動の般化は、刺激が強い方向(例えば茶から赤色へ)でのみ知られている。本研究で明らかにした観察学習後の弱刺激への般化の存在は、個体学習との般化特性の違いと言え、上述の類似しない警告色の存在を説明することを可能にする。


H31-B42
代:佐藤 暢哉
協:林 朋広
コモンマーモセットにおける空間認知

論文

関連サイト
関西学院大学文学部総合心理科学科 佐藤暢哉研究室 https://sites.google.com/site/nsatolab/
コモンマーモセットにおける空間認知

佐藤 暢哉 , 林 朋広

本研究は,コモンマーモセットの空間認知能力について検討することを目的として,齧歯類を対象とした実験で広く用いられている空間学習課題・空間記憶課題を,マーモセットを対象として実施できるような実験パラダイムの開発を目指した.昨年度作製したマーモセット用の飼育ケージ内に設置可能な放射状迷路装置の不具合を修正し、装置の改良を試みた。所内対応者の中村と実際にマーモセットを対象に実施する空間認知課題を設計した.特にエピソード様記憶の有無を調べる課題について検討した。


H31-B43
代:荒川 那海
協:颯田 葉子
協:寺井 洋平
霊長類におけるヒトの皮膚の表現型の特性について

学会発表
荒川那海 皮膚でのヒト特異的遺伝子発現を生み出す塩基置換の特定 (2019年8月7日) 日本進化学会第21回大会(北海道大学).

Nami Arakawa Expression Changes of Structural Protein Genes That May Be Related to Adaptive Human Skin Characteristics (Poster)(2019年7月23日) The annual meeting of the Society for Molecular Biology and Evolution(Manchester, United Kingdom).
霊長類におけるヒトの皮膚の表現型の特性について

荒川 那海 , 颯田 葉子, 寺井 洋平

ヒトの皮膚は他の霊長類に比べ多くの形態的特徴があるが、それらがどのように進化してきたのか、その遺伝的基盤はあまり明らかになっていない。本研究ではこれまでに、発現量解析で検出された皮膚でのヒト特異的遺伝子発現を生み出すヒト系統での塩基置換を推定した。今年度からの研究では、それらの置換が実際にヒト特異的遺伝子発現を生み出しているのかを、皮膚培養細胞を用いたプロモーターアッセイとゲノム編集により解明することを目的としている。始めにプロモーターアッセイやゲノム編集に必要な各種ベクターの作成を行った。またプロモーターアッセイについては、ベクター導入効率の高い皮膚培養細胞株を選出し、その細胞株に最適なトランスフェクション試薬を選ぶことができた。ゲノム編集では書き換えるサイトの近隣の配列に二重鎖切断を導入するが、この反応の予備実験を行った。二重鎖の切断に必要なsingle guide RNAの合成を行い、それとCas9酵素を用いてin vitro下で標的部位に二重鎖切断を入れることに成功した。今後これらの作成したベクター等を皮膚培養細胞に導入し、推定した置換サイトをヒト型と類人猿型の塩基にしたプロモーターアッセイとゲノム編集を行うことで、着目する遺伝子のヒト特異的発現を生み出す塩基置換を特定していく。


H31-B44
代:信清 麻子
協:外丸 祐介
協:畠山 照彦
一卵性多子ニホンザルの作製試験
一卵性多子ニホンザルの作製試験

信清 麻子 , 外丸 祐介, 畠山 照彦

本課題は、動物実験に有用な一卵性多子ニホンザルの作製を目指すもので、これまでに生殖工学基盤技術の検討を進めることで「卵巣刺激→体外受精→受精卵移植」により産子を得るための再現性の高い技術を確立してきた。
 別種であるカニクイザルへの受精卵移植により正常なニホンザル産子を得ることにも成功し、レシピエントしての有用性が確認され、一卵性多子ニホンザルの獲得に向けた基盤が十分に築かれた状況にある。
 今年度は、受精卵分離技術を用いて操作した胚を移植することで、一卵性多子の獲得を試みたところ、移植した2頭のうち1頭が妊娠に至った。惜しくも該当個体が子宮筋腫を持っていたため、流産し産子を得ることはできなかったが、「卵巣刺激→体外受精→受精卵移植」の技術の再現性の高さを確認できた。
 また、移植試験をニホンザルの繁殖期(11月〜2月)にあわせて設定したが、ホルモン動態を調べた結果、11頭全ての個体において、12月には排卵が確認できるような動態ではなかった。このことから、屋内飼育のニホンザルの繁殖期は、野生のニホンザルとは異なることが確認でき、移植試験の実施日の期間を絞る必要があることがわかった。加えて、効率よい移植試験の実施にむけ、他グループと連携して、プロゲステロン製剤の経口投与による性周期を同調させた個体での移植を検討した。
 昨年度から行なっている、受精卵のステージをレシピエント雌の性周期を同調させる技術の一つである冷蔵保存については、昨年同様良好な結果が得られ、数日程度の時間調整には有効な技術であることが確認された。


H31-B45
代:柳川 洋二郎
協:永野 昌志
協:鳥居 佳子
協:對馬 隆介
マカク属における精液凍結保存方法の改善と人工授精技術開発

学会発表
黒澤拓斗、兼子明久、夏目尊好、森本真弓、愛洲星太郎、Vanessa Gris、Rafaela Sayuri Takeshita、宮部貴子、岡本宗裕、永野昌志、片桐成二、栁川洋二郎 ニホンザルにおけるプロジェステロン作動薬による月経周期同期化(2019/8/31-9/1) 第25回日本野生動物医学会大会(山口).

栁川洋二郎、菅野智裕、兼子明久、今井啓雄、片桐成二、永野昌志、岡本宗裕 人工授精への使用を目指したニホンザル精子の凍結保存法の検討(2019/11/18-19) Cryopreservation Conference 2019(つくば市).
マカク属における精液凍結保存方法の改善と人工授精技術開発

柳川 洋二郎 , 永野 昌志, 鳥居 佳子, 對馬 隆介

ニホンザルにおいては人工授精(AI)による妊娠率は低く、特に凍結精液を用いたAIによる産子獲得例がない。そのため、精液の凍結保存法改善とともに、メスの卵胞動態を把握したうえでAIプログラムの開発が必要である。
 ニホンザルの精液は射出直後に凝固するが、これまでは既報に従い37℃で培養し液状化後、培地で希釈し凍結作業を行っていた。しかし、精液採取の際に、精液保存液に直接採取し凝固物の形成を可能な限り防止した。その後精子浮遊液を4℃まで約2時間かけて温度を下げた後グリセリン加保存液を添加してから凍結した。凍結には0.25もしくは0.5mlのストローに封入し液体窒素の蒸気で凍結するか、ドライアイス上に200 µlの精液を滴下しペレットを作製した。どの凍結方法においても凍結直前において高活力精子が多いものは、凍結方法の違いによらず融解後の性状が良好で、最大で高活力精子が30%と高い凍結精液を作製することができた。今後は凍結直前までに活力を低下させない方法を検討する必要である。
 また、昨年の成果に基づき、10頭の雌に21日間Altrenogestを0.44mg/kg/日の容量で経口投与し月経を同期化させ、月経開始から11、12および13日目にそれぞれ3、4および3頭に対しAIを実施したが、受胎には至らなかった。


H31-B46
代:高須 正規
代謝プロファイルテストを用いた野外飼育ニホンザルの飼養管理評価
代謝プロファイルテストを用いた野外飼育ニホンザルの飼養管理評価

高須 正規

野外で飼育されているニホンザルにおいて,気温などの環境変化がどのような影響を与えているのかわかっておらず,適切に飼養管理ができているか否かは判断できていない。これまでに,申請者らは,集団に対して外部要因が与える影響を評価する代謝プロファイルテストを用いて,霊長類研究所の旧タイプの野外ケージAと新タイプの野外ケージBで飼育されているyoung adult期ニホンザルの生理学的状況を評価した。ここで,退避スペースのない旧タイプの野外ケージAで飼育されている集団は,冬季の飲水量が低く,脱水傾向にあることが明らかになった。
 2019年度,野外ケージAで飼育されていた二ホンザルが新しいタイプの野外ケージBに移動された。そこで,今回,代謝プロファイルテストを用いて,集団の環境変化に伴う生理学的変化を明らかにした。
モニタリングの結果,Bケージに移動したニホンザルはこれまでのとおり冬季に体重減少を示すことに加え,Aケージにいた時よりも個体間の電解質の値にばらつきが少なかった。これは,Bケージが飲水しやすい構造になっていることに起因していると考えられ,Bケージへの移動がサルたちのQOLを向上させた可能性が示唆された。


H31-B47
代:伊沢 紘生
協:宇野 壮春
協:関 健太郎
協:高岡 裕大
協:関澤 麻伊沙
協:涌井 麻友子
金華山島のサルの個体数変動に関する研究

論文
関沢麻伊沙、清家多慧(2019) 離脱オスが一年半後に群れと接触した際の社会交渉 宮城県のニホンザル(32):18-22.

伊沢鉱生(2019) 金華山D群の分裂騒動顚末記―補遺― 宮城県のニホンザル(32):23-27.
金華山島のサルの個体数変動に関する研究

伊沢 紘生 , 宇野 壮春, 関 健太郎, 高岡 裕大, 関澤 麻伊沙, 涌井 麻友子

申請時の本研究の目的は5つで、その結果は以下の通りである。①個体数に関する一斉調査は申請通り2回、秋と冬に実施した。結果は秋が267頭、冬が269頭だった。②群れごとのアカンボウの出生数と死亡(消失)数は、春の調査を上記2回の一斉調査に加えて実施。出生数は6群で計44頭と今年度は多く、死亡(消失)数も12頭と多く、理由は不明だが1年以内の死亡率は27%だった。③家系図と④食物リスト作成は群れごとの担当者が随時実施した。⑤遊動域の変更(拡大)は個体数が増加したB₁群でかなり顕著に見られた。また6群間の比較生態・社会学的調査は分派行動とオスの一生に関する調査を重点的に実施。その成果は「宮城県ニホンザル」第32号に“特集:金華山のサル・個と群れと”として発行した(発行は令和元年9月)。
 以上のほかに研究目的に記載していないが、島に自生するオニグルミ(Juglans mandshurica)について、その実生をサルはどのように見つけどの部分を食べるかを「宮城県のニホンザル」第33号に“特集:金華山のサル・オニグルミの実生食い”として公表した(発行は令和2年2月)。


H31-B48
代:森本 直記
協:森田 航
ニホンザルにおける内耳・大臼歯形態と個体群史の関係
ニホンザルにおける内耳・大臼歯形態と個体群史の関係

森本 直記 , 森田 航

ニホンザル(Macaca fuscata)は日本に固有の霊長類であり、生息域が北から南まで幅広い緯度分布を示す点が特徴的である。また、いくつかの個体群は本島とは隔離された環境(島)に生息している。これまで、ニホンザルの日本列島における個体群史は主に、分子的・遺伝学的データによって検証されてきた。一方、ニホンザルにおける形態変異は、主に寒冷(あるいは暖)地適応の観点から解釈されてきた。中立的なマーカーによる分子的・遺伝学的データとは異なり、形態学的データでは適応とは無関係な中立的プロセスの検証が難しいと考えられてきた。近年、ヒトの内耳形態の集団間変異が詳しく調べられ、内耳形態を中立的なマーカーとして用いることができるという報告がなされている。今年度は、マイクロCTを用いて、青森、長野、滋賀、島根の各地域から2個体ないし3個体のデータを取得した。個体変異と集団間変異を切り分けるためにも、今後データを拡充することを予定している。


H31-B49
代:布施 裕子
協:時田 幸之輔
霊長類固有背筋・脊髄神経後枝の比較解剖学

学会発表
布施裕子 ニホンザル脊髄神経後枝の観察ー分節の高さによる後枝走行形態の違いに関する考察ー(2019年7月13日) 第35回日本霊長類学会大会(熊本市国際交流会館(熊本県)).

布施裕子 胸腰部横突棘筋群層構造の再考(2019年9月7日) コ・メディカル形態機能学会第18回学術集会・総会(金沢大学鶴間キャンパス(石川県)).

布施裕子 胸腰神経後枝内側枝の比較解剖学ーヒト・ニホンザル・シロネズミを用いてー(2019年10月12日) 第73回日本人類学会大会(佐賀大学本庄キャンパス(佐賀県)).

布施裕子 胸腰神経後枝内側枝および固有背筋内側縦束の比較解剖学(2020年3月25日) 第125回日本解剖学会総会・全国学術集会.
霊長類固有背筋・脊髄神経後枝の比較解剖学

布施 裕子 , 時田 幸之輔

脊髄神経後枝は、最長筋・腸肋筋を支配する外側枝と、棘筋・横突棘筋を支配する内側枝という筋枝を持つ。またそれぞれ皮下へ出現する外側皮枝・内側皮枝を持つ。内側枝の筋枝の走行や皮枝の有無は分節によって異なるだけでなく種によっても異なる。今回、横突棘筋と脊髄神経後枝内側枝の構造をニホンザルやヒト、他の哺乳類であるブタ胎仔やラットで比較した。ニホンザルの横突棘筋は第1胸椎棘突起に12本停止し、第7、8胸椎棘突起に移行するにつれ筋束数が減少した。第9胸椎棘突起より尾側にて増大した。内側枝の走行は、Th2では上下の横突起間より出た2~4本目の筋束に対し浅層から、5~11本目の筋に深層から筋枝を進入させ、最終的に皮枝となった。Th8は第8胸椎棘突起に付着する4本中1~2本目に浅層から、3本目に深層から筋枝を分岐し、皮枝は消失した。Th12では、第13胸椎棘突起に付着する筋の1本目より深層を走行し、全ての筋束に対し深層より筋枝が分岐した。ヒトの横突棘筋や内側枝の形態はニホンザルと類似していた。ブタ胎仔やラットでは、ニホンザルと異なり横突棘筋の筋束はどの分節でも2本程度だった。ラットはどの分節でも内側皮枝が確認されなかった。このような特徴がありながら、内側枝の筋枝の走行は下位胸神経より横突棘筋の1本目の筋よりも深層を走行するように変化した。


H31-B50
代:清水 貴美子
協:深田 吉孝
霊長類における概日時計と脳高次機能との連関
霊長類における概日時計と脳高次機能との連関

清水 貴美子 , 深田 吉孝

我々はこれまで、齧歯類を用いて海馬依存性の長期記憶形成効率に概日変動があることを見出し、SCOPという分子が概日時計と記憶を結びつける鍵因子であることを示してきた (Shimizu et al. Nat Commun 2016)。本研究では、ヒトにより近い脳構造・回路を持つサルを用いて、SCOPを介した概日時計と記憶との関係を明らかにすることを目的とする。
 ニホンザル6頭を用いて、苦い水と普通の水をそれぞれ飲み口の色が異なる2つのボトルにいれ、水の味と飲み口の色との連合学習による記憶効率の時刻依存性について実験をおこなった。各個体あたり、朝/昼/夕の何れかに試験をおこない、学習から24時間後にテストを行う。ボトルをセットしてから最初の一口目が正解(普通の水)だった場合にポイントを加算する方式で、6頭の記憶テスト結果を評価したところ、昼に有意に記憶効率が高いという結果が得られた。さらに、昼の記憶効率の高さにSCOPが関わっているかどうかを確かめるために、SCOP shRNA発現レンチウイルスまたはコントロールレンチウイルスの海馬への投与を一頭ずつおこない、昼の時刻の記憶効率を測定した。コントロールレンチウイルスではほとんど影響が見られなかったが、SCOP shRNA発現レンチウイルスを投与したサルは、chance level よりも著しく記憶能力が低下していた。この結果をさらに詳細に解析を行ったところ、記憶能力の低下というよりむしろ、考える気力の低下(無気力)の症状を示しているように考えられた。次年度は、この結果を論文化すべく、論文投稿準備と補強データのための実験を行う予定である。


H31-B51
代:長谷 和徳
協:吉田 真
協:羽賀 雄海
自律的に歩容遷移を行うマカク四足歩行モデルの開発

論文
長谷和徳, 王森彤(2019) 膝関節有限要素モデルと歩行運動生成モデルによる予測的関節負荷評価システム 臨床バイオメカニクス 40:53-59.

学会発表
羽賀雄海, 長谷和徳, 吉田真, 平崎鋭矢 ニホンザル型四足歩行ロボットによる歩行シーケンスと体重心との関係の力学解析(2019年11月30日) 第40回バイオメカニズム学術講演会(愛知県春日井市(中部大学春日井キャンパス)).

小野智貴,長谷和徳,松永陸央,吉田真,林祐一郎 実測との適合性を考慮した歩行シミュレーション(2019年12月1日) 第40回バイオメカニズム学術講演会(愛知県春日井市(中部大学春日井キャンパス)).

林祐一郎,長谷和徳,泉清美,川原剛正 ヒトの姿勢改善を目指したポール歩行の生体力学解析(2019年11月30日) 第40回バイオメカニズム学術講演会(愛知県春日井市(中部大学春日井キャンパス)).
自律的に歩容遷移を行うマカク四足歩行モデルの開発

長谷 和徳 , 吉田 真, 羽賀 雄海

本研究では,従来より開発を進めていた関節動態や神経系の運動制御機構などを考慮したマカク類の四足歩行のコンピュータ・シミュレーションモデルに加えて,組み立て式小型ロボットを用いてマカク類の身体力学系を模擬した実機モデルを新たに作成し,実環境におけるロボット四足歩行を実現することで,コンピュータ上のシミュレーション結果を検証し,それらを通して霊長類進化過程における身体運動と力学環境の影響の理解を目指した.
 本年度においては,歩行速度や歩幅など統制し,歩容の変化の比較検討をしやすい歩容条件に設定して実機ロボットによる評価実験を行った.また,体幹支持のためのバネ張力に対する力学的な影響について検討し,その影響が除外できることを確認した.さらに移動仕事率のような歩行のエネルギー効率と体幹部の動きとの関連を調べるため,実機ロボットの胸部・骨盤節の動きの動画解析を行った(図1,2).これらより,歩幅と歩行速度に関係なく,前方交叉型歩行時では,重心位置が後方タイプの方がエネルギー効率が良く,一方,後方交叉型歩行時では重心位置が前方タイプの方がエネルギー効率が良いという結果が得られた.また,今後のさらなる実機ロボットの発展を目指し,新しいサーボモータの導入や,シミュレーションモデルの関節自由度の変更などにも取り組んだ.


H31-B52
代:川本 芳
房総半島のニホンザル交雑状況に関する保全遺伝学的研究

学会発表
川本芳, 直井洋司, 萩原光, 白鳥大佑, 池田文隆, 相澤敬吾, 白井啓, 田中洋之 性特異的遺伝標識による房総半島の外来種に関する見直し(2019年7月14日) 第35回日本霊長類学会大会(熊本市国際交流会館).
房総半島のニホンザル交雑状況に関する保全遺伝学的研究

川本 芳

今年度は外来種の起源を中心テーマとした。放し飼い施設が外房に存在したことの再発見で問題視したカニクイザルについて, Y染色体TSPY遺伝子を標識に塩基配列を解読し父系起源を検討した。この結果,スンダ地域のカニクイザルの関与は認められず,インドシナ地域のカニクイザルの可能性が残った。一方,房総半島に現存する外来種の母系起源を見直すため,mtDNA Dループを解読して再検討した結果では, 南房総には中国江蘇省付近のアカゲザル由来の1タイプ,半島丘陵部のニホンザルには少なくとも3タイプあることが明らかになった。また,南房総のアカゲザル交雑群の新試料でY染色体を検査したところ,外房の交雑ニホンザルに認めている外来種由来のY染色体ハプロタイプ(Xタイプと呼ぶ)は検出されず,外房のニホンザルでは南房総で野生化した中国からのアカゲザルとは由来の異なる外来マカクの影響が裏付けられた。しかし, インドシナ半島ではカニクイザルとアカゲザルが自然交雑した可能性があり,Xタイプの起源がカニクイザルかは結論できていない。以上の結果は第35回日本霊長類学会と2020年2月の霊長類研究所共同利用研究会で発表した。


H31-B53
代:村田 幸久
協:中村 達朗
協:山崎 愛理沙
コモンマーモセットにおける消耗性症候群の診断と管理法の開発
コモンマーモセットにおける消耗性症候群の診断と管理法の開発

村田 幸久 , 中村 達朗, 山崎 愛理沙

正常便のマーモセットとMarmoset Wasting Syndrome(MWS)が疑われたマーモセットから尿を採取し、排泄された脂質濃度の網羅的な測定(リピドーム解析)を行った。昨年度までに採取したものとあわせ、正常個体7個体、MWS疑いの個体7個体のデータを解析した。

141種類の脂質代謝物の濃度を測定した結果、48種類の脂質の濃度がMWSが疑われた個体で2倍以上に濃度が上昇しることが分かった。ヒトやマウスモデルにおいて、体内の炎症反応を反映すると報告されている脂質も複数見つかっている。引き続き検討をすすめることで、MWSの病態解明を進めるとともに、対象脂質のMWSマーカーとして応用可能性についても検討していきたい。

現在これらの結果について論文にまとめ、現在投稿中である。



H31-B54
代:神田 暁史
協:外丸 祐介
保存・輸送精子を用いた人工授精によるマーモセット系統繁殖技術の確立
保存・輸送精子を用いた人工授精によるマーモセット系統繁殖技術の確立

神田 暁史 , 外丸 祐介

霊長類の実験動物であるマーモセットは国内での遺伝的交流が少なく、奇形出現や繁殖性低下などのリスクを生じるような近交化が進んでいる。健全な個体を維持するためには、他研究機関のマーモセットと意図的な遺伝子交流を行うことが必要とされるため、本課題は精子の保存・輸送法と性周期の解析による人工授精法の確立を目指す。京都大学霊長類研究所との共同研究により、昨年度は以下のような成果が得られた。
①低侵襲な採血と血漿中のプロゲステロン濃度の測定による性周期の把握
②長時間にわたる精子活性の維持の方法

①に関しては、低侵襲な採血法として無麻酔下のメスの尾から血液を採取し、血漿を抽出してELISA法でプロゲステロン濃度を測定することで、ある程度の性周期を把握することができた (図1)。現在は排卵のタイミングを探るべく、ELISA法で血漿中のエストラジオール濃度を測定しており、当施設で飼育するオスの精子を用いて、人工授精による妊娠が可能か検討している。
②に関しては予備実験として、当施設のオスから精子を採取し、京都大学霊長類研究所から広島大学までの輸送を想定した保存方法を検討した結果、15℃の温度で精子の活性を長時間にわたり維持できることがわかった (図2)。実際に霊長類研究所のオスから採取した精子を同温度で低温保存し、新幹線を利用して約4時間かけて広島大学に輸送した結果、予備実験と同程度の割合で精子が活性を維持していることを確認できた。
以上の研究手技を基に、本年度は霊長類研究所と広島大学のマーモセットを用いて人工授精を行い、遺伝的交流を達成したいと考えている。


H31-B55
代:Laurentia Henrieta Permita Sari Purba
協:Bambang Suryobroto
協:Kanthi Arum Widayati
協:Nami Suzuki-Hashido
Functional characterization of bitter taste receptors in Leaf-eating Monkeys
Functional characterization of bitter taste receptors in Leaf-eating Monkeys

Laurentia Henrieta Permita Sari Purba , Bambang Suryobroto, Kanthi Arum Widayati, Nami Suzuki-Hashido

Bitter taste perception enables the detection of potentially toxic molecules and thus evokes avoidance behavior in vertebrates. It is mediated by bitter taste receptors, TAS2Rs. One of the best-studied TAS2R is TAS2R38. Phenylthiocarbamide (PTC) perception and TAS2R38 receptors vary across primate species, and this variation may be related to variation in dietary preferences. In particular, we previously found that the low sensitivity of TAS2R38s in Asian colobines likely evolved as an adaptation to their leaf-eating behavior. However, it remains unclear whether this low PTC sensitivity is a general characteris- tic of the subfamily Colobinae, a primate group that feeds predominantly on leaves. We performed genetic analyses, functional assays with mutant proteins, and behavioral analyses to evaluate the general characteristics of TAS2R38 in colobines. We found that PTC sensitivity is lower in TAS2R38s of African colobines than in TAS2R38s of omnivorous macaques. Further- more, two amino acids shared between Asian and African colobines were responsible for low sensitivity to PTC, suggesting that the last common ancestor of extant colobines had this phenotype. We also detected amino acid differences between TAS2R38s in Asian and African colobines, indicating that they evolved independently after the separation of these groups.
We published the results above in journal Primates:Purba, L.H.P.S., Widayati, K.A., Suzuki-Hashido, N., Itoigawa, A., Hayakawa, T., Nila, S., Juliandi, B., Suryobroto, B. and Imai, H., 2020. Evolution of the bitter taste receptor TAS2R38 in colobines. Primates, pp.1-10.


H31-B56
代:柏木 健司
黒部峡谷山岳地域のニホンザル化石の形態学的解析

論文
柏木健司(2019) 自動撮影カメラに記録された富山県黒部峡谷出平地域の哺乳類 南紀生物 61(1):32-37. 謝辞あり

学会発表
柏木健司 黒部峡谷のニホンカモシカの洞窟利用 (2019年9月18日) 日本哺乳類学会2019年大会(東京).

柏木健司 黒部峡谷出平における近年の哺乳類相 (2019年12月1日 ) 令和元年度 富山県生物学会研究発表会(富山).
黒部峡谷山岳地域のニホンザル化石の形態学的解析

柏木 健司

富山県は、豪雪地域におけるニホンザルの代表的な生息域の一つに挙げられ、黒部峡谷を含む県下の広い範囲で、群れの分布の広がりや消長について、これまでに情報が蓄積されている。一方、富山県産のニホンザル骨格標本は京大霊長研での収蔵は無く、富山県下の公共機関においても、収蔵情報を含め標本にたどり着くことは、申請者の経験に基づくと困難な現況にある。今回、複数の関係諸機関に問い合わせたところ、一機関で冷凍状態にある数個体の轢死体の収蔵を確認し、現在、標本の受け入れを進めている。さらに今回、北陸豪雪地域におけるニホンザルの形質に関する基礎資料を得ることを目的に、白山自然保護センター所蔵の白山産の約120試料の大臼歯を計測した。下顎M1の歯冠面積は、Aahara and Nishioka (2017)の白山の数値に比較して、雄雌ともに僅かに大きい値となった。また、京大霊長研収蔵試料のうち、福井県高浜と青森県下北、島根県羽須美、他数産地の標本も比較のために計測した。島根県産試料は、下顎M1歯冠面積と大臼歯歯冠面積ともに、今回の計測標本全体の中で小さな値を示す。また、富山県の鍾乳洞産化石標本は、現生白山試料の大臼歯歯冠面積の平均的な大きさである。


H31-B57
代:井上 治久
協:沖田 圭介
協:今村 恵子
協:近藤 孝之
協:月田 香代子
協:Suong Dang
協:大貫 茉里
霊長類神経系の解析とヒト疾患解析への応用
霊長類神経系の解析とヒト疾患解析への応用

井上 治久 , 沖田 圭介, 今村 恵子, 近藤 孝之, 月田 香代子, Suong Dang, 大貫 茉里

ヒト特有の高次機能をもたらす分子機構とその破綻こそがアルツハイマー病等の神経変性疾患の原因であるという仮説のもとに、チンパンジーとヒトの神経細胞の違いを同定するため、チンパンジーおよびヒトのiPS細胞から作製した神経細胞の比較解析を目的としている。ヒトiPS細胞およびチンパンジーiPS細胞から二次元培養により神経細胞を分化誘導し、免疫染色による神経細胞マーカーの解析を行った。また、三次元培養による脳オルガノイドの作製を行った。さらに、平面微小電極アレイ計測システム(MED64-Basic、Alpha Med Scientific)を用いた神経活動の評価を行った。ヒトiPS細胞由来神経細胞およびチンパンジーiPS細胞由来神経細胞の両者において、機能的な神経ネットワークが形成され、薬剤で神経伝達の制御が可能であることが示された。これらの神経細胞を用いたモデルの比較解析により霊長類神経系の機能解明とヒト疾患解析への応用が有用である可能性が考えられた。


H31-B58
代:國松 豊
アフロ・アジア地域における新第三紀霊長類化石の研究

論文
Tanabe,Y., Onodera, M., Nakatsukasa, M., Kunimatsu, Y., Nakaya, H.(2020) A new cane rat (Rodentia, Thryonomyidae) from the Upper Miocene Nakali Formation, northern Kenya. The Journal of the Geological Society of Japan 126(4):167-181.

Takano, T., Nakatsukasa, M., Pina, M., Kunimatsu, Y., Nakano, Y., Morimoto, N., Ogihara, N., Ishida, H.(2020) New forelimb long bone specimens of Nacholapithecus kerioi from the Middle Miocene of northern Kenya Anthropological Science 128(1): 27-40.
アフロ・アジア地域における新第三紀霊長類化石の研究

國松 豊

2019年度は8月〜9月にかけてケニヤ共和国北部のナカリ地域において中新世後期の地層を対象に化石採集のための野外調査をおこない、追加の脊椎動物化石を収集した。2020年3月に再びケニヤへ渡航し、ケニヤ国立博物館において、ナカリ地域の化石の整理をおこない、これまでに収集した霊長類化石の分析を進めた。ナカリ地域からは、中新世小型「類人猿」の一種であるニャンザピテクス類の現在知られている最後の生き残りとして、すでに上顎小臼歯標本を記載・報告しているが(Kunimatsu et al., 2017)、未記載標本の中にニャンザピテクス類の大臼歯がさらにいくつか含まれているようである。
 アジアに関しては、2020年2月にタイ東北部ナコンラチャシマにおいて現地調査をおこない、ナコンラチャシマ郊外から出土し、東北タイ珪化木博物館に収蔵されている中新世の脊椎動物化石の整理・分析を進めた。この過程で新たにコロブス類の下顎標本を得た。同地域から出土した他の哺乳類化石に基づくと、中新世後期のものと思われ、今後、この標本の分析と共産する他の哺乳類化石の分析を進めていく予定である。


H31-B59
代:設樂 哲弥
協:後藤 遼佑
ヒト上科を対象とする後肢筋の筋線維型の分布の比較

学会発表
設樂哲弥 ニホンザルにおける股関節伸展筋の機能:形態分析と運動分析から(2019年3月27日) 第124回日本解剖学会総会全国学術集会(新潟市).

Shitara, T. Rotator actions of hip extensors in Japanese mcaques during arboreal quadrupedal walking: implications for functional differentiation between gluteus medius and hamstrings(26th June, 2019) Asia Pacific Conference on Human Evolution(Brisbane, Australia).
ヒト上科を対象とする後肢筋の筋線維型の分布の比較

設樂 哲弥 , 後藤 遼佑

筋線維型の分布は各動物種が行う主要なロコモーション様式と関連していることが知られている。特に霊長類では後肢がロコモーションにおいて主働していることから、後肢筋の筋線維型の分布は霊長類各種のロコモーション様式への適応を反映していると考えられる。本研究では、ロコモーション様式を異にする三種の霊長類、テナガザル、チンパンジー、ニホンザルを対象として、後肢筋の筋線維型分布を比較することを目的とした。
 本年度は染色方法の確立を目標とし、ニホンザルの薄筋をサンプル試料に用いて遅筋線維と速筋線維の染め分けを試みた。染色方法には免疫組織化学的手法を用いた。10%ホルマリン液浸保存されたニホンザル三標本左側それぞれから薄筋を摘出し、抗fast-myosin抗体(Sigma, M4276, cloneMY-32)と抗slow-myosin抗体(Sigma, M8421, clone NOQ7.5.4D)を用いて、所定の工程で遅筋線維と速筋線維を染色した。
 その結果、ニホンザル三標本中、一標本において比較的鮮明なコントラストが見られた。また、抗fast-myosin抗体を用いた染色のほうが、抗slow-myosin抗体を用いた染色よりも鮮明なコントラストが得られることも分かった。今後はニホンザルの殿筋群とハムストリングスを優先的に染色し、解析手法の確立を目指す。



H31-B60
代:中務 真人
協:小林 諭史
協:小嶋 匠
協:富澤 佑真
霊長類の脊柱構造に関する進化形態学的研究

論文
Nakatsukasa, M., Morimoto, N., Nishimura, T.(2019) (2019). Sesamoids of the pollical metacarpophalangeal joint and the evolution of hominoid hands. Anthropological Science 127(2):159-164. 謝辞あり

Nakatsukasa, M. (2019) Miocene ape spinal morphology: The evolution of orthogrady . In E. Been, A. Gómez-Olivencia, A. A. Kramer (Eds.), Spinal Evolution: Morphology, Function, and Pathology of the Spine in Hominoid Evolution. Cham, Springer Nature Switzerland N/A(N/A):73-96. 謝辞なし
霊長類の脊柱構造に関する進化形態学的研究

中務 真人 , 小林 諭史, 小嶋 匠, 富澤 佑真

計画開始以来、霊長類研究所において、類人猿(チンパンジー、ゴリラ、オランウータン、テナガザル)15個体、旧世界ザル(カニクイザル、ニホンザル、マントヒヒ)12個体の液浸標本をCT撮影し、腰椎の2レベル(第1腰頭側面レベルと下部腰椎頭側面レベル)において、再構築像から仮想的に断面を作成して、断面における固有背筋の断面積を計測した。その値を体重(大腿骨頭径からの推定値)で正規化し種間比較した。その結果、第1腰椎のレベルでは、チンパンジーとマカク属の間に有意差は認められなかった。また、ヒト上科において、横突起が必ずしも固有背筋の腹側境界を示す適切な指標とはならない事が示された。一方、下位の腰椎レベルではチンパンジーの値が小さい可能性が示された。これは、従来から唱えられている類人猿における固有背筋の縮小を支持する結果であった。この傾向を厳密に検証する上で、旧世界ザルの計測値追加が必要であると判断した。霊長類、特に類人猿の脊柱構造に関する総説をまとめ、脊柱の進化を扱った書籍の一章として公刊した。


H31-B61
代:栗田 博之
ニホンザルにおける母親の栄養状態と乳児の成長との関連性について
ニホンザルにおける母親の栄養状態と乳児の成長との関連性について

栗田 博之

 本研究は、母親の栄養状態と乳児成長の関連性を定量的に評価する目的で2019年度に開始したものである。季節性繁殖動物であるニホンザルを対象として、2つの時期(出産直後で、体脂肪が少ない時期である夏季(1回目)、および、それから約3か月経過後であるが未だ離乳前で、体脂肪が多い時期である秋季(2回目))のそれぞれにおいて、2019年度は一組の母親・乳児の栄養状態指標(頭臀長、前胴長、体重、皮下脂肪厚、太もも回り、胸囲)を計測した。
 その結果として、母親(9歳)の頭臀長、前胴長、体重、皮下脂肪厚(背部、腹部、腸骨稜上部)、太もも回り、胸囲の1回目から2回目にかけての増分は、それぞれ-15mm、1mm、-50g、-0.6mm、-1.1mm、0mm、-6mm、4mmであり、乳児(1回目:71日齢;2回目:162日齢)の上記項目の増分は、それぞれ36mm、28mm、545g、0.2mm、0.2mm、0.3mm、29mm、36mmであった。
 今後、標本数を増やして分析を行う計画である。


H31-B62
代:松岡 史朗
協:中山 裕理
下北半島脇野沢の野生ニホンザル群の個体群動態

論文
松岡史郎(編)(2019) 平成30年度天然記念物生息調査むつ市に生息するニホンザルの生息実態調査調査報告書  下北半島のサル 平成31年:1-25,37-58.
下北半島脇野沢の野生ニホンザル群の個体群動態

松岡 史朗 , 中山 裕理

1987年5頭の群れとして確認された下北半島南西部の87群は、指数的に増加し、2013年4月に43頭(87A群)と22頭(87B群)の2群に分裂した。分裂7年目の2019年度の出産率は、87A群で44%赤ん坊の死亡率は8%であった。87B群に関しては、観察日数が少なく、正確な出産率、死亡率が得られなかった。個体数は87A群では昨年度70頭が今年度は75頭と増加した。87B群はフルカウントができなかった。現在87A群は、2013年の分裂した頭数とほぼ等しいが今年度は観察期間中に泊まり場を異にするようなサブグーピングは観察されなかった。遊動面積は、ほぼ昨年度と同じであった。1987年からの観察データをまとめると、33年間で赤ん坊の死亡率は8.5%(n=188)であった。高い死亡率を示した分裂の年度2013年を除くと6.7%(n=179)となった。初産年齢は6.3歳(n=32)、出産間隔は、1.7年(n=155)となった。連続出産の例56のうち赤ん坊が発情期までに死亡し翌年出産したのは15例であった。現在メスの死亡年齢、生涯産子数のデータも集まりつつあり、遊動面積や遊動距離、採食などの行動に費やす時間、採食に関するデータなどと共に解析すること、金華山など他地域と比較することにより下北地域の個体群増加の要因解明に迫りたいと考えている。


H31-B63
代:城戸 瑞穂
協:吉本 怜子
協:西山 めぐみ
口腔におけるメカノセンサー発現の解明
口腔におけるメカノセンサー発現の解明

城戸 瑞穂 , 吉本 怜子, 西山 めぐみ

口腔は鋭敏な器官である。適切な口腔感覚は哺乳・摂食・情報交換など多様な行動の基盤となっている。近年、メカノセンサーの機能解明が発展し、力学的な環境と受容との関係にも着目されている。口腔は力学的に咀嚼など多様な刺激に常に曝されるユニークな器官であるが、その力学的な受容の機構についての理解はまだ限られたものである。そこで、私たちは、口腔内の力学センサーがどのような部位に存在をするのか、組織形態や解剖学的な部位によるどのような分布の差が認められるのかを明らかにすることを目的として、固定された組織において、メカノセンサーイオンチャネルが口腔の上皮および結合組織に発現していることを明らかにした。マウス組織において、咀嚼により大きな力が加わる咀嚼粘膜、伸展が大きい被覆粘膜、味覚等に関わる特殊粘膜で、発現様式が異なっていた。また、細胞内部の局在も異なっていることから、細胞生物学的な詳細な解析が必要と考えている。


H31-B64
代:荒川 高光
協:江村 健児
前後肢遠位部運動器の系統発生を形態学的に解析する

学会発表
江村健児,荒川高光 リスザルとクモザルにおける浅指屈筋の形態と支配神経パターンについて(2019年7月13日) 第35回日本霊長類学会大会(熊本県熊本市).

櫻屋透真,荒川高光 ワオキツネザルとヒトの下腿屈筋群における神経束解析を用いた支配神経分岐パターン比較-ヒラメ筋と足底筋に着目して(2019年7月13日) 第35回日本霊長類学会大会(熊本県熊本市).

Sakuraya T, Arakawa T )Comparison for the ramification pattern of the muscular branches to the soleus and plantaris muscles between the Ring-tailed Lemur (Lemur catta) and Human.(July 27-29,2020) APSBMS 2019 Annual Meeting.

櫻屋透真 、江村健児、荒川高光 霊長類におけるヒラメ筋と足底筋の神経束分岐パターン比較( 2020年3月25日-27日) 第125回日本解剖学会総会・全国学術集会(山口県宇部市).
前後肢遠位部運動器の系統発生を形態学的に解析する

荒川 高光 , 江村 健児

共同利用研究で貸与を受けたリスザルとクモザルの液浸標本を用いて、前腕屈筋群、特に浅指屈筋の起始・停止、支配神経パターンを解析した。また、下腿屈筋群の支配神経パターンを解析した。前腕屈筋群に関し、浅指屈筋の起始・停止には種による相違が認められたが、支配神経のパターンは、筋内分布まで調べたところ、一定の共通性が認められた。本成果は第35回日本霊長類学会大会で発表し、現在論文投稿を行い、revise中である。下腿屈筋群に関しては、ヒラメ筋と足底筋の間の支配神経パターンの近縁性を見いだし、それをもとに、ヒラメ筋と足底筋の系統発生を考察し、ヒトにおいてみられるヒラメ筋の発達は、足底筋の原基を利用している可能性について提唱したい。本成果は第35回日本霊長類学会大会で発表し、最優秀ポスター発表賞を受賞した。次年度はは対象部を上腕と大腿部へとつなげ、鎖骨下筋と肩甲帯の関係、尺骨神経の分岐パターン、大腿二頭筋短頭についても同様に解析を行っていきたい。


H31-B65
代:中村 裕一
協:近藤 一晃
協:Haefliger Adan
機械学習を適用した飼育サル集団からの個体検出・識別と社会交渉場面の自動検出
機械学習を適用した飼育サル集団からの個体検出・識別と社会交渉場面の自動検出

中村 裕一 , 近藤 一晃, Haefliger Adan

近年のセンサ技術の高精度化および機械学習の進歩に伴って、これまで多大なコストと時間のかかっていた、フィールド中の動物の個体検出および個体識別を自動化する機運が高まっている。本研究では、その一つのアプローチとして、飼育サルを対象とし、動画・静止画データからサルの個体検出、個体識別を行うための機械学習的手法の適用とそれによる自動追跡を試みる計画を企画した。しかし,一方で主体的に実施できる環境が構築できず,多くの点については具体的に実施できなかった.活動としては,それ以前に実施された内容を,学会で公表するにとどまったが,これを契機としてより発展させる展開を模索したい.
<国内会議での発表>
濵地瞬, 近藤一晃, 中村裕一, 豊田有, 香田啓貴, 佐藤真一. ニホンザルの性別
・年齢推定における深層学習の推定根拠の可視化. 第47回可視化情報シンポ
ジウム. 2019年7月25-27日, 京都


H31-B66
代:高島 康弘
チンパンジー多能性幹細胞を維持する機構の解析
チンパンジー多能性幹細胞を維持する機構の解析

高島 康弘

ヒト胚性幹細胞(ES細胞)はFGFとACTIVINシグナルを利用し、維持される(プライム型と呼ぶ)。一方、マウスES細胞はLIFシグナルを利用し、維持されている(ナイーブ型と呼ぶ)。人工多能性幹細胞(iPS細胞)も同様であり、ヒトはFGFとACTIVINであり、マウスはLIFシグナルであり、維持されるシグナルが異なっている。
 申請者は、ヒトiPS細胞をマウスと類似した培養方法へと変更したヒトiPS細胞を樹立することに成功した。
一方、非ヒト霊長類ES/iPS細胞は、ヒト同様にFGFとACTIVINのシグナルによって維持されており、ヒトと同様のプライム型である。申請者は、ヒトと同様の方法を用いて、カニクイザル、アカゲザル、コモンマーモセットをナイーブ化する試みを行ってきたが、ヒト同様の方法では、誘導することが難しいことが分かった。
本年度はよりヒトに近縁であるチンパンジーiPS細胞の多能性に関連するシグナルを解析し、チンパンジー、ヒトを含む霊長類における相違と相似を明らかにすることを試みた。またチンパンジーiPS細胞(プライム型)をより受精卵に近いナイーブ型チンパンジーiPS細胞へとリプログラミングを行った。形態的には、プライム型からナイーブ型への移行を認めた。今後遺伝子発現の確認やより効果的なナイーブ型への移行方法を考える。


H31-B67
代:小林 俊寛
協:平林 真澄
協:正木 英樹
チンパンジー iPS 細胞からの始原生殖細胞分化誘導とその機能評価

学会発表
小林俊寛 哺乳類の生殖細胞成立機構における保存性と多様性(2019年 9月20日) 中部幹細胞クラブ・シンポジウム(愛知県 名古屋).

小林俊寛 Conservation and diversity of germline development in mammals ( 2020年 2月 17-18日) 1st CU- KU Symposium and 4th CU-NIPS Symposium“Advances in Neuroscience Research”( タイ バンコク).
チンパンジー iPS 細胞からの始原生殖細胞分化誘導とその機能評価

小林 俊寛 , 平林 真澄, 正木 英樹

胚発生初期に生じる始原生殖細胞 (Primordial germ cells: PGC) はすべての生殖系列の源である。生殖細胞が生じると考えられる妊娠初期のヒト胚は倫理的・実際的に直接解析することが困難であるため、これまで多くの研究がマウスの胚を用いて進められてきた。しかしながら、近年、PGC の発生機構にはマウスとヒトで差異があることが判ってきており、よりヒトに近いモデルを用いてそのメカニズムを明らかにすることが、その理解に重要であると考えられる。そこで本研究では、ヒトに最近縁の霊長類であるチンパンジー由来の iPS 細胞を用いて、PGC が生じる過程を in vitro で再構築し、その成熟化、あるいは配偶子形成能を評価することのできる系の確立を目指してきた。前年度において、所内対応者の今村公紀先生から分与いただいたチンパンジー iPS 細胞から PGC を分化誘導することに成功していた。本年度はその更なる解析として、まず RNA-seq によるトランスクリプトーム解析を行った。その結果、チンパンジー iPS 細胞から分化誘導された PGC は、すでに報告がなされているヒト ES/iPS 細胞由来の PGC と極めて近い遺伝子発現パターンを示すことが明らかになった。また PGC の更なる成熟化を促すため、雌マウス胎児生殖腺から回収した支持細胞と共にチンパンジー iPS 細胞由来の始原生殖細胞 PGC と共培養を行った。その結果、 PGC の二ヵ月ほどの長期にわたる生存と、その一部における増殖が確認できた。今後の詳細な解析が望まれるが、成熟化が進んでいれば、発生中の胚で起こるインプリントの消去をはじめとしたエピゲノム変化も解析することが可能になる有用な実験系になると期待される。


H31-B68
代:澤野 啓一
協:田上 秀一
CTを用いたニホンザルの頭蓋底と眼窩を通過する血流、及び頭部静脈血還流路に関する研究

学会発表
澤野啓一1)、田上秀一2)、田中健3)†)、新宅勇太4)、濱田穣5)、安陪等思2)、中務真人6)、川原信隆7)†)、加藤正二郎3)、山田良広1) Quadrangulus-ovalo-jugularis(頭蓋底卵円孔頚静脈孔四辺形)の形状が意味するもの。ヒトと類人猿の比較の中から(2020年1月25日(土)) 第64回プリマーテス研究会(犬山市、愛知県).

Sawano K1,7), Tanoue S2), Tanaka T3), Hamada Y4), Abe T2), Nakatsukasa M5), Yokoyama T8), Hagiwara H9), Kato S3), (Already registered) A comparison of human and monkey cerebrovascular systems (Already registered)(March 28-30, 2021 (Already registered)) The 126th Annual Meeting of The Japanese Association of Anatomists(Nagoya, Japan).
CTを用いたニホンザルの頭蓋底と眼窩を通過する血流、及び頭部静脈血還流路に関する研究

澤野 啓一 , 田上 秀一

ニホンザル(Mff)の脳血管系は幾つかの点でヒト(現生人類,Hss)とは異なっている。A. cerebri anterior (ACA)は左右が合体して一本と成り、上行、斜め上前方に走行の後、上方から後方に強く屈曲して後方に向かう。このようなACAの走行は、Hssでは極めて稀である。静脈系では多くの相違点が見いだされつつある。Hssでは、V. cerebri anterior (VCA)、V. cerebri media profunda (VCMP)等からの静脈血は、外側に張り出す弧を描いてV. basalis (VBR, Rosenthal's vein) と成ってV. cerebri magna(VCM, Galen's vein) → Sinus rectus (SR)と流れることが多い。しかしMffでは、VBR (Rosenthal's vein)は上行してVCM → Sinus rectus (SR)と流れるのではなく、幾分蛇行しつつも斜め後外側方向に流れ、Sinus transversus (STR)に合流している。これは経路図を描くと、大きな相違点である。Foramen jugulare (FJ)の形状に反映されたSinus sigmoideus (SSG) からVena jugularis interna (VJI)への流れに関しては、HssではSquama occipitalisの下壁が下方に膨隆していることと、「他のAnthropoideaではFJの前端に相当する部分」がHssではFJの上端と成っていることの為に、SSG からVJIへの還流静脈路は、一旦上行し、次いで急角度で屈曲した後に下方に向うという特殊な経路と成っている。ところがMffでは、SSG からVJIへの還流静脈路は斜めになだらかに傾斜して流れる形状である。Mffの脳血管系がHssとは異なる他の部位に関しても、今後に明らかにし報告する予定である。


H31-B69
代:後藤 遼佑
協:Neysa Grider-Potter
三次元運動解析を見据えたニホンザルの全身骨格データの収集
三次元運動解析を見据えたニホンザルの全身骨格データの収集

後藤 遼佑 , Neysa Grider-Potter

本申請の問題意識は、運動計測において身体深部に位置する関節 (例えば股関節など) の位置データを計測することが難しく、精密な三次元運動学的解析や動力学的解析を困難にしていることにあった。この問題は、体表面ランドマークと身体深部関節の位置関係を数的に記述することで改善させられる可能性があった。本申請では、ニホンザル標本を撮像し、体表面と深部関節のランドマーク間の位置関係を明らかにすることを目的とした。

 京都大学霊長類研究所の医用CTを使用し、ニホンザルの全身を撮像した。関節 (第12胸椎と第1腰椎の椎体間関節、第5腰椎と仙椎の椎体間関節、肩関節、肘関節、股関節、膝関節、足関節) の三次元座標値を特定した。今後、運動解析に常用する体表面ランドマークを同定し、体表面と深部関節の位置関係を数的に記述する予定である。さらに、申請者の所属機関で収集したニホンザルの四足歩行、二足歩行、垂直木登りにおける体表面ランドマークの位置データから、身体深部関節の位置を外挿し、精密な三次元運動解析を進める。


H31-B71
代:落合 知美
協:川出 比香里
飼育下霊長類における採食エンリッチメントの分析と検討

学会発表
Tomomi OCHIAI THE HISTORY AND CURRENT STATUS OF CAPTIVE CHIMPANZEES (PAN TROGLODYTES) IN JAPAN(2019.6.22-26) International Conference of Environmental Enrichment( Kyoto).

落合知美 国内の飼育霊長類における給餌内容と採食エンリッチメントについて(2019.7.12-14) 第35回日本霊長類学会(熊本).

落合知美, 川出比香里 飼育下霊長類における植樹と枝葉給餌(2019.11.16-17) 第22回SAGAシンポジウム(犬山).
飼育下霊長類における採食エンリッチメントの分析と検討

落合 知美 , 川出 比香里

学会発表
Tomomi OCHIAI The History and Current Status of Captive Chimpanzees (PAN TROGLODYTES) in Japan (2019.6.22-26) International Conference of Environmental Enrichment (Kyoto).
落合知美 国内の飼育霊長類における給餌内容と採食エンリッチメントについて(2019.7.12-14) 第35回日本霊長類学会(熊本).
落合知美, 川出比香里 飼育下霊長類における植樹と枝葉給餌(2019.11.16-17) 第22回SAGAシンポジウム(犬山).

 2014年から2016年にかけて宇部市ときわ動物園で実施したサル類の給餌内容の変更を論文としてまとめるため、飼育現場で得られた情報を整理し、科学的・定量的な評価を試みている。昨年度は、観察記録や体重変動のデータなどから、採食エンリッチメントの効果が評価できる手がかりを得た。今年度は、研究の目的や方法、条件について、情報収集をおこない、文章としてまとめる作業に着手した。具体的には、霊長類の飼育や、霊長類で実施されている枝葉給餌などの採食エンリッチメントについてまとめ、学会で発表することで情報収集をおこなった。また、実際に研究者と協力者が集まり、データから得られた結果をより正しく表や図に表す作業をおこなった。京都大学霊長類研究所を訪問し、先行研究や野生での関係論文を検索し、収集した。今後は、まずトクモンキーの採食エンリッチメントについて、論文の体制を整えていきたい。


H31-B72
代:松尾 光一
協:山海 直
協:Suchinda Malaivijitnond
マカクにおける繁殖季節性に起因する骨量増減と骨リモデリングのメカニズム
マカクにおける繁殖季節性に起因する骨量増減と骨リモデリングのメカニズム

松尾 光一 , 山海 直, Suchinda Malaivijitnond

グループケージで飼育されているニホンザル(Macaca fuscata)の8個体について、2019年5月10日(非繁殖期)と10月15日(繁殖期)に、採血とマイクロCTによる骨密度測定を行った。血清を用いて、テストステロンと25-水酸化ビタミンDを測定した。また、マイクロCT装置(Helical CT)を用いて、生体ニホンザルの橈骨遠位の成長板(骨幹端)について、骨塩量の標準物質(ファントム)を用いて、定量的なCT撮影を行った。マイクロCTデータは、DICOM医用画像をTIF画像に変換し、画像解析ソフトウエア3DBON(ラトックシステム)で解析した。25-水酸化ビタミンDの濃度と骨量の相関が明らかになった。
生体CTデータの解像度は、さらし骨撮影時より低いので、骨梁構造の詳細な解析は、さらし骨の大腿骨や橈骨のマイクロCTの画像データで行った。死亡時の日付から、繁殖期・非繁殖期を判定した。さらし骨では生体のデータと同じ部位、すなわち橈骨遠位端について、骨梁構造の詳細な解析を行い、季節性変動が認められた。


H31-B73
代:森光 由樹
ニホンザル絶滅危惧個体群を広域管理するために必要な遺伝情報の検討

学会発表
森光由樹 絶滅が危惧されている地域個体群の現状と課題~近畿・中国地方の現状~(2019年7月12日-14日) 日本霊長類学会(熊本市国際交流会館).
ニホンザル絶滅危惧個体群を広域管理するために必要な遺伝情報の検討

森光 由樹

兵庫県内のニホンザルの地域個体群は、美方、城崎、大河内・生野、船越山、篠山の5つに分けられている。絶滅が危惧されている地域個体群は、美方と城崎で、2019年のカウント調査では、美方B群は17頭(成獣メス4頭)、城崎A群36頭(成獣メス10頭)の生息が認められた。2つの地域個体群の捕獲個体から血液を採取し、常染色体マイクロサテライト計16座位(Kawamoto, et al.2008)についてフラグメント分析を行い、遺伝的多様性について解析を行った。その結果、美方B群(n=10)は、He0.725、城崎A群(n=12)は、He0.702であった。2つの地域個体群は近年、捕獲や交通事故で頭数が減少している。今後、群れの遺伝的多様性が減少する可能性もある。引き続き遺伝情報をモニタリングする必要がある。近畿地方北部から中国地方北部(兵庫県北部から、鳥取県、島根県東部まで)は、ニホンザルの分布情報はなく、今後は保全すべき地域個体群として管理する必要性が求められる。


H31-B74
代:小倉 淳郎
協:越後貫 成美
マーモセット幼若精細管のマウスへの移植後の精細胞発生の観察
マーモセット幼若精細管のマウスへの移植後の精細胞発生の観察

小倉 淳郎 , 越後貫 成美

我々は、顕微授精技術を用いることにより、マーモセット体内で自然発生した生後 11 ヶ月齢の未成熟精子(伸長精子細胞)から産仔を獲得した。そこで本研究では、さらに早期に顕微授精を行う可能性を検討するために、性成熟の早いマウスへ新生仔マーモセット未成熟精細管を移植し、精原細胞から精子・精子細胞発生が加速するかどうかを確認した。前年度までに生後4 ~7ヶ月齢雄マーモセットの片側精巣を採取し、去勢NSGマウスの腎皮膜下に移植行った。前年度(2018-B-92)、生後4ヶ月齢マーモセット精巣移植から約 3 ヵ月後に組織を回収して組織学的観察を行った結果、初期円形精子細胞までの発生を確認した。生体下での円形精子細胞の出現は 10-11 ヶ月なので、異種移植を行うことにより 3-4 ヶ月ほど精子発生が加速した結果が得られた。今年度は、より世代短縮が可能か明らかにするため、生後1日齢の個体より精巣を採取して移植したサンプルの解析を行った。移植後3ヶ月では精原細胞まで、1年では精母細胞までの発生が確認された。


H31-B75
代:保坂 善真
協:田村 純一
協:割田 克彦
霊長類の消化器等でのコンドロイチン硫酸の組成とコンドロイチン硫酸基転移酵素の発現解析
霊長類の消化器等でのコンドロイチン硫酸の組成とコンドロイチン硫酸基転移酵素の発現解析

保坂 善真 , 田村 純一, 割田 克彦

実験初年度は、2頭のニホンザルおよび2頭のアカゲザルより、消化管、泌尿器(腎臓)および呼吸器(気管)を採取し、パラフィン切片を作成の後、コンドロイチン硫酸基転移酵素であるChst12、3および15の免疫染色を行った。
 消化器は、いずれも粘膜上皮細胞および平滑筋で、検索した酵素の陽性反応を示した。とりわけ興味深かったのは、胃底腺で、固有層中に存在する円形の細胞全体に陽性を示した。その形から、壁細胞であると考えられた。壁細胞は固有層全体にわたって分布するが、深部よりも浅部で強い反応を示した。一方、主細胞には陽性反応を認めなかった。
 一方、腎臓では、皮質では、いずれのChstも遠位尿細管が強い陽性を示したが、近位尿細管の反応は、弱いものであった。髄質では、遠位尿細管や集合管と思われる管は陽性であったが、薄壁尿細管は陰性であった。糸球体は、血管間の基質が弱陽性であった。
 呼吸器(気管)は、気管軟骨細胞および、上皮に陽性がみられた。上皮は杯細胞が陽性を示した。
 今度は、細胞の詳細な同定と行うとともに、各酵素が合成するコンドロイチン硫酸の量を計測する予定である.


H31-B76
代:河野 礼子
ミャンマー中部の後期更新世の地層から出土したオナガザル亜科遊離歯化石の3次元形態分析
ミャンマー中部の後期更新世の地層から出土したオナガザル亜科遊離歯化石の3次元形態分析

河野 礼子

ミャンマー中央部サベ地域でみつかった大型オナガザル亜科の遊離歯化石について、現生種との比較を行った。まず、サベの大臼歯化石6点について、霊長類研究所のマイクロCT装置によって連続撮影した。次に比較用の現生マンドリルおよびマントヒヒの大臼歯についても同様にCT撮影した。現生資料は顎から大臼歯を外す必要のために点数が限られ、上顎についてはマンドリル2点、マントヒヒ3点、下顎についてはマンドリル3点、マントヒヒ4点についてCT撮影が可能であった。これらの現生資料とサベの大臼歯化石について比較することでサベ化石について部位を確定し、それぞれ対応する現生標本とCTデータを比較した。その結果、マントヒヒは全体にエナメル質がやや厚めであるのに対し、マンドリルではそれに比べてエナメル質が薄く、また咬頭頂が近遠心により接近しているなどの特徴がみられ、サベ標本は後者により類似する可能性が示された。比較資料数も少ないため、今回は幾何学的形態測定法の実施などには至らず、結果も予備的なものと考える必要がある。今後は比較資料を増やすことでさらに分析を進める必要がある。また、ゲラダヒヒも比較に含める予定であったが、大臼歯を顎から外すことができずに今回は分析できなかった。今後は歯槽骨から外さずにそのままCT撮影することなども視野に入れて、比較対象を属レベルでも増やして分析していく必要があると考えられる。


H31-B77
代:郷 康広
ヒトの高次認知機能の分子基盤解明を目指した比較オミックス研究

論文
Ishishita S, Takahashi M, Yamaguchi K, Kinoshita K, Nakano M, Nunome M, Kitahara S, Tatsumoto S, Go Y, Shigenobu S, Matsuda Y. (2018)(2018) Nonsense mutation in PMEL is associated with yellowish plumage colour phenotype in Japanese quail. Sci Rep. 8(1):16732.

Hirai H, Go Y, Hirai Y, Rakotoarisoa G, Pamungkas J, Baicharoen S, Jahan I, Sajuthi D, Tosi AJ.( 2019) Considerable synteny and sequence similarity of primate chromosomal region VIIq31. Cytogenet Genome Res. 158:88-97.

Kishida T, Go Y, Tatsumoto S, Tatsumi K, Kuraku S, Toda M. (2019) Loss of olfaction in sea snakes provides new perspectives on the aquatic adaptation of amniotes. Proc Biol Sci. 286: 20191828.

学会発表
郷康広 マーモセットにおける遺伝的多様性解析および精神・神経疾患関連遺伝子解析.(2019年6月26日) 日本医療研究開発機構(AMED)セミナー(東京都千代田区).

郷康広,辰本将司,石川裕恵,平井啓久 テナガザル3属の新規ゲノム配列決定とテナガザル科の大規模構造変化・核型進化解析.(2019年8月7日) 日本進化学会第21回大会(北海道札幌市).
ヒトの高次認知機能の分子基盤解明を目指した比較オミックス研究

郷 康広

ヒト精神・神経疾患の霊長類モデル動物の開発のために,マカクザルとマーモセットを対象とした実験的認知ゲノミクス研究を行った.ヒト精神・神経疾患関連遺伝子(約500遺伝子)を解析対象とし,マカクザル831個体,マーモセット1,328個体を対象とした遺伝子機能喪失(Loss-of-Function:以下LoF)変異保有個体の同定を行った.その結果,マカクザルでは53遺伝子,マーモセットでは142遺伝子おいて,精神・神経疾患との関連性が非常に高い遺伝子において稀な(集団アリル頻度5%以下)LoF変異を持つ可能性のある個体を同定した.
 ゲノム解析として,ヒト以外で未だゲノム配列未決定の霊長類種の新規ゲノム解読によるゲノム情報の整備を行った.具体的には,チンパンジーの亜種であるヒガシチンパンジー,テナガザル3種,ニホンザル,スローロリスの新規ゲノム解読,遺伝子情報の整備を行うとともに,それら大規模情報を公共データーベースに登録・公開した.それらの成果の一部として,ヒトの染色体進化に関する論文を発表した(Hirai et al. 2019 Cytogenetic and Genome Research).
 トランスクリプトーム解析としては,ヒトと非ヒト霊長類の死後脳を用いた複数脳領域における比較遺伝子発現解析を行った.具体的には,一分子長鎖シーケンサーを用いたアイソフォームレベルの完全長転写産物の種間(ヒト,チンパンジー,ゴリラ)比較を行い,論文投稿準備中である.また,細胞の個性を単一細胞ごとに定量化するための技術開発を行った.数万の単一細胞の遺伝子発現情報を網羅的に取得できる技術開発を推進した.対象とする細胞種として,免疫系,神経系などを中心として,単一細胞レベルでの遺伝子発現情報を取得する実験および解析系を構築することに成功した.


H31-B78
代:笹岡 俊邦
協:藤澤 信義
協:福田 七穂
協:小田 佳奈子
協:崎村 建司
協:中務 胞
協:夏目 里恵
異種間移植によるマーモセット受精卵の効率的作成方法の開発研究
異種間移植によるマーモセット受精卵の効率的作成方法の開発研究

笹岡 俊邦 , 藤澤 信義, 福田 七穂, 小田 佳奈子, 崎村 建司, 中務 胞, 夏目 里恵

<目的>近年ゲノム編集技術の発展により比較的容易に遺伝子改変が様々な動物で行えるようになってきた。しかし、実際に遺伝子改変モデルマーモセットを作出するためには多くの受精卵の獲得が必須である。また、体外受精のため、精子の保存法の確立も望まれている。そこで私たちは、霊長研の中村克樹教授から分与して頂いた、安楽死されたマーモセット精巣上体尾部精子の凍結保存を行った。今年度は安楽殺された、生後12日齢の卵巣の異種間移植にも着手した。
<方法>
卵黄糖液による精子の凍結保存(1)輸送後の精巣上体尾部を卵黄糖液内にて細切した。(2)精子懸濁液を作製し、室温から4℃まで2時間かけて冷却した。(3)精子懸濁液と同量の耐凍剤入り保存液を添加した。(4)プラスチックストローに封入後、液体窒素液面上に静置し凍結した。
マーモセット卵巣の異種間移植(1)冷蔵輸送後の新生児(生後12日齢で安楽殺されたマーモセット)の生殖器より卵巣を採取した(図1)。(2)事前に左右卵巣を除去した免疫不全マウスの、左右の腎被膜下に卵巣片を移植した。(3)移植したマーモセット卵巣の機能開始を調べるため、週2回、免疫不全マウスの膣開口の確認を行った(図2)。
<結果>冷蔵輸送後の精巣上体尾部より運動性を有する精子を回収することができ、それら精子の凍結保存を行った。新生児卵巣を移植した免疫不全マウスはまだ膣開口が認められていないが、引き続き、性周期開始を確認し、確認ができた個体には性ホルモン投与を行い、卵子採取を行う。通常、マーモセットは1.2-1.5歳で性成熟を迎える。マウスに移植したマーモセット新生児卵巣の機能開始時期は確認されておらず、今後、この共同研究を進める中で、明らかにしたい。


H31-B79
代:佐藤 宏樹
協:Tojotanjona Razanaparany
チャイロキツネザルの採食戦略における周日行性の意義
チャイロキツネザルの採食戦略における周日行性の意義

佐藤 宏樹 , Tojotanjona Razanaparany

Most animals, especially those living in unpredictable and harsh environment, must develop strategies to access food for vital element and energy supply. Although Eulemur has less-specialized gut to digest fibre, they consumed fibrous diet during food-shortage periods. It would explain the extension of their feeding time over 24-h, so called cathemeral feeding, to increase food and energy intakes. Here, we studied how Eulemur fulvus organized cathemeral feeding to insure their nutrient and energy intakes. We followed two groups of Eulemur fulvus in a seasonal dry forest of northwestern Madagascar during nine months distributed evenly in the dry and wet seasons. We collected data on their feeding behaviour during all-day and all-night using direct observation. To evaluate fruit availability, phenology of 817 trees belonging to 26 species in two line transects were monitored twice a month. We analysed nutrient contents of food items consumed by E. fulvus in the lab of PRI and determined nutritional intake. The data were treated on daily basis, and nocturnal and diurnal feeding were analysed separately. We examined the effect of season on feeding time and nutrient intakes with liner mixed models (LMMs). Then, we tested the effects of nutritional intake and environmental factors on feeding time with LMMs. Feeding time and feeding time on most consumed items were successively added as dependent variables, and nutritional intake, climate, the availabilities of food and water were set as the independent variables. During daytime, Eulemur fulvus were frugivorous during the wet season but they predominantly spent time feeding mature leaves besides fruits during the dry season. Their feeding time increased with the water intake (from food, hereafter) and ripe fruit availability. They spent more time eating ripe fruits during cool days and such prolonged frugivory increased carbohydrate intake. Their feeding time on mature leaves increased during dry and cool days and it increased their water intake. At night, especially during the dry season, they were mainly frugivorous. Nocturnal feeding was positively predicted by carbohydrate intake and negatively associated with the humidity. The carbohydrate intake and ripe fruit availability predicted positively the time spent feeding on ripe fruits. These results suggest that Eulemur fulvus consumed succulent mature leaves to increase water intake during daytime probably to cope the dry condition of the dry season. Hence, the nocturnal feeding offset the energy supply at night during the dry season by shifting their diet from succulent leaves to fruit. During the wet season, as both fruits and water were available, they probably satisfied their energy requirement using daytime which would explain the marginalization of the nocturnal feeding activities. These different functions between diurnal and nocturnal feeding will explain the significance of cathemeral activities in Eulemur.


H31-B80
代:神奈木 真理
協:長谷川 温彦
協:永野 佳子
協:Ganbaatar Undrakh
協:冨士川 朋夏
STLV自然感染ニホンザルの抗ウイルスT細胞免疫

論文
Kannagi M, Hasegawa A, Nagano Y, Iino T, Okamura J, Suehiro Y.(2019) Maintenance of long remission in adult T-cell leukemia by Tax-targeted vaccine: A hope for disease-preventive therapy. Cancer Science 110(3):849–857.

Kannagi M, Hasegawa A, Nagano Y, Kimpara S, Suehiro Y.(2019) Impact of host immunity on HTLV-1 pathogenesis: potential of Tax-targeted immunotherapy against ATL. Retrovirology 16(1):23.

学会発表
神奈木真理 成人T細胞白血病の免疫原性に基づく新規細胞治療法の開発.(2020.02.15) HTLV-1関連疾患研究領域研究班合同発表会(東京).
STLV自然感染ニホンザルの抗ウイルスT細胞免疫

神奈木 真理 , 長谷川 温彦, 永野 佳子, Ganbaatar Undrakh, 冨士川 朋夏

本研究では、ヒトT細胞白血病ウイルス1型(HTLV-1)の近縁ウイルスであるサルTリンパ球向性ウイルス(STLV)に自然感染したニホンザルにおけるSTLV特異的細胞障害性T細胞(CTL)応答の解析ならびに活性化を目的とした。野生のニホンザルでは個体毎にMHCが異なるため、個体別にSTLV感染細胞株を樹立しこれを抗原とする特異的T細胞応答の解析系を作製し解析したところ、多くの感染個体ではSTLV特異的CTL応答が保たれていた。しかし、一部の個体ではプロウイルスDNA量が高いにも関わらずSTLV特異的CTL応答が著しく低かった。これはHTLV-1感染で生じるATL患者やATL発症リスクを持つHTLV-1キャリアの特徴に酷似している。ATL患者ではHTLV-1特異的CTLの活性化により抗腫瘍効果が期待されていることから、STLV特異的CTLの低応答性を示すニホンザル個体に対する免疫活性化を目的として、同一個体由来の不活化STLV感染細胞を用いて免疫接種実験を実施した。その結果、顕著なSTLV特異的CTL応答の活性化が誘導された。これは非常に有望な結果であり、本プロジェクトは令和元年度のAMEDの研究開発事業に採択された。今後個体数を増やしフォローアップを行う予定である。


H31-B81
代:伊藤 孝司
協:北川 裕之
協:月本 準
協:桐山 慧
ムコ多糖症自然発症霊長類モデルに関する総合的研究

論文
伊藤孝司*,西岡宗一郎,日高朋,月本準,桐山慧,篠田知果,竹内美絵,辻大輔(2019) 遺伝子組換えカイコによるヒトバイオ医薬品開発の現状と課題 蚕糸・昆虫バイオテック 88(3):167-174. 謝辞 あり

学会発表
伊藤孝司*、西岡宗一郎、篠田知果、竹内美絵、福士友理、月本準、辻大輔、小林功、炭谷めぐみ、飯塚哲也、木下嵩司、三谷藍、堂崎雅仁、須田稔、松崎祐二、飯野健太、瀬筒秀樹 組換えカイコ絹糸腺で高発現するヒトリソソーム酵素のN型糖鎖改変と医薬応用(2019年 8月 ) 第38回 日本糖質学会年会(愛知県名古屋市(名古屋大学)).
ムコ多糖症自然発症霊長類モデルに関する総合的研究

伊藤 孝司 , 北川 裕之, 月本 準, 桐山 慧

霊長類研究所(大石、宮部、金子ら)との共同で、徳島大(伊藤ら)は、ニホンザル若桜集団の中に、リソソーム酵素α-L-イズロニダー(IDUA)遺伝子における1塩基置換(ミスセンス潜性変異)が原因で、IDUA活性欠損と特徴的な顔貌、四肢や体幹の形態異常を伴うムコ多糖症I型(MPS1)(ライソゾーム蓄積症の一種)を自然発症した個体(呼称ヨーダ)を世界初で発見し、今年度は、同変異のホモ個体(呼称ムシューダ♀20160521生、オジーダ♀20190527生)を同定した。神戸薬大(北川、灘中)は、ムシューダ及びオジーダの尿中に、IDUAの生体内基質であるヘパラン硫酸、デルマタン硫酸が排泄されていること、また血漿中の、α-イズロン酸を含むヘパリンが増大していることを明らかにした。徳島大(伊藤、月本、桐山、篠田ら)は、ヒトIDUA遺伝子を絹糸腺で高発現する組換えカイコの繭からIDUAを精製し、組織細胞内への取り込みに必要な末端マンノース6-リン酸(M6P)含有合成糖鎖を、エンドグリコシダーゼM(EndoM)またはEndo-CC改変体の糖鎖転移活性を利用し、人工的にIDUAの付加糖鎖と挿げ替えたネオグライコIDUAを創製した。さらに同研究所の今村がヨーダ耳介組織から樹立した皮膚線維芽細胞株の培養液に、ネオグライコIDUAを投与したところ、細胞表面のM6Pレセプターを介して取り込まれ、リソソームまで輸送され、欠損IDUA活性を治療域まで回復させることを明らかした。今後、本ネオグライコIDUAをムシューダの静脈内に定期継続的に投与することにより、補充治療効果が期待される。


H31-B82
代:大石 元治
協:荻原 直道
大型類人猿の足部における骨格と軟部組織の関係について

論文
Nozaki, S., Amano, H., Oishi, M, Ogihara N(2021) Morphological differences in the calcaneus among extant great apes investigated by three-dimensional geometric morphometrics Scientific Reports 11:20889. 謝辞あり

Negishi T, Ito K, Hosoda K, Nagura T, Ota T, Imanishi N, Jinzaki M, Oishi M, Ogihara N (2021) Comparative radiographic analysis of three-dimensional innate mobility of the foot bones under axial loading of humans and African great apes Royal Society Open Science 8:211344. 謝辞あり
大型類人猿の足部における骨格と軟部組織の関係について

大石 元治 , 荻原 直道

関節の可動域はその形状に加え、筋や靭帯などの軟部組織によって決定される。大型類人猿の足部の形態学的研究は骨格や筋についてのものがほとんどであり、腱や靭帯についての報告は1から2個体の報告にとどまっている。そこで、本研究は大型類人猿における足部の腱や靭帯の種間/種内バリエーションを明らかにして、足部の運動に関係する形態学的特徴を理解することを目指している。本年度は、チンパンジー、ゴリラをそれぞれ1個体ずつ観察する機会を得た。チンパンジーにおいては、既報の通り、底側面に長腓骨筋腱、後脛骨筋腱、底側踵立方靭帯、底側踵舟靭帯、底側立方舟靭帯、底側楔舟靭帯などが観察された(図)。しかし、後脛骨筋腱にはHepburn (1892)が報告している中間楔状骨への停止腱は認められず、Gomberg (1981)の報告に類似していた。また、底側立方舟靭帯は後脛骨筋腱の深層を横走しており、Gomberg (1985)の報告と比較して未発達であった。ゴリラについては、現在、観察を継続中である。今後は標本数を増やし、腱・靭帯の分岐や付着から分類を試みる。


H31-B83
代:田伏 良幸
ヤクシマザルにおける抱擁行動の至近要因と季節変化
ヤクシマザルにおける抱擁行動の至近要因と季節変化

田伏 良幸

今年度の共同利用研究では、昨年度の共同利用研究で得られた結果も合わせてまとめた。鹿児島県屋久島町の西部海岸域で、ヤクシマザル(Macaca fuscata yakui)のUmi-A群を対象に、文化行動である抱擁行動の至近要因と生起頻度の季節変化を調べた。データ取得方法は、追跡個体の半径10ⅿ以内で生起した抱擁行動を全生起サンプリングにより行った。その結果、交尾期よりも非交尾期(特にアカンボウがまだ小さい夏)において、抱擁行動の生起頻度が高かった。また、非交尾期の中でみてみると、ワカモノメスやオトナメスが特に非血縁のアカンボウを子守りしているときに、アカンボウの母親と敵対的交渉が生じ、その後抱擁行動が生じることが多かった。このことから、抱擁行動はこれまで報告されているような仲直り行動として機能していることが確認された。一方で、子守り行動という文脈での生起は、今回の調査で初めて明らかになった。ヤクシマザルは他地域に比べて、子守り行動の割合が高いことが報告されている。抱擁行動が子守り行動時に仲直りするのに機能することで、多くの子守り行動ができる機会が生まれ、高い割合での子守り行動が実現できているのかもしれない。


H31-B84
代:緑川 沙織
協:時田 幸之輔
肉眼解剖学に基づく霊長類腹鋸筋の機能とその系統発達

学会発表
緑川 沙織,時田 幸之輔,小島 龍平,平崎 鋭矢 数種霊長類における腹鋸筋・肩甲挙筋・菱形筋の比較解剖学(2019年7月12日~14日) 第35回日本霊長類学会大会(熊本市国際交流会館).

緑川 沙織,時田 幸之輔,小島 龍平,影山 幾男,相澤 幸夫,熊木 克治,平崎 鋭矢 霊長類における背側肩帯筋の支配神経と背側斜角筋との関係(2019年10月12日~14日) 第73回日本人類学会(佐賀大学本庄キャンパス).
肉眼解剖学に基づく霊長類腹鋸筋の機能とその系統発達

緑川 沙織 , 時田 幸之輔

アカテタマリンの背側肩帯筋(腹鋸筋SV・肩甲挙筋LS・菱形筋Rh)の筋形態および支配神経について調査した。アカテタマリンのSVは、第1~8肋骨より起始し、支配神経はC6,7であった。LSは、C1~5横突起より起始し、支配神経はC4,5であった。Rhは、C4~Th4棘突起および後頭骨より起始し、支配神経はC4,5であった。これらの筋形態と支配神経の分節構成は、昨年の共同利用研究(2018-B-84)にて報告したリスザルのものと類似している。背側肩帯筋支配神経は、背側斜角筋(ScD)との位置関係にヒトと異なる特徴がみられた。ヒトでは、LS・Rh支配神経は中斜角筋の浅層を、SV支配神経は中斜角筋を貫く走行をとる。一方で、リスザルとアカテタマリンではScDは2層観察され、LS・Rh支配神経はScDの深層を、SV支配神経はScD2層間を貫く走行をとっていた。ScDの形態は霊長類間でも差異があり、ヒト中斜角筋との対応関係については検討の余地がある。またKoizumi(2019)は、背側肩帯筋支配神経は脊髄神経前枝からの分岐が中斜角筋支配神経に近いことから、体幹筋に属するとしている。以上より、背側肩帯筋の形成についてはScDと合わせて検討する必要があり、今後の課題としていきたい。


H31-B85
代:佐藤 真伍
協:田中 雅子
飼育下のニホンザルおよびアカゲザルにおけるBartonella quintanaの分布状況とその遺伝子系統

学会発表
Shingo Sato, Hidenori Kabeya, Yuka Fukudome, Kenta Takeuchi, Chiharu Suina, Munehiro Okamoto, Tadashi Sankai, Jun-ichiro Takano, and Soichi Maruyama Prevalence of Bartonella quintana in experimental macaques in primate research centers in Japan and a unique genetic property of Japanese macaque strain MF1-1.(2019年9月18日~20日) 9th International Congres on Bartonella as Emerging Pathogen (ICBEP)(フランス共和国,パリ市).

佐藤真伍 Macaca属のサルとBartonella quintana ~その疫学から分離株の比較ゲノム解析まで~(2019年11月8日) 第15回 霊長類医科学フォーラム(茨城県つくば市).
飼育下のニホンザルおよびアカゲザルにおけるBartonella quintanaの分布状況とその遺伝子系統

佐藤 真伍 , 田中 雅子

 Bartonella quintanaは人に発熱や回帰性の菌血症を引き起こす原因菌で,重症化すると心内膜炎や細菌性血管腫を引き起こす。近年では,中国の霊長類研究施設内で飼育されているアカゲザルやカニクイザルも本菌を保有していることが明らかとなった。さらに,日本の野生ニホンザルも本菌を保有していることが我々の研究によって明らかとなっている。
 以上ような背景から,京都大学 霊長類研究所内で飼育されているMacaca属のサルを対象に,本菌の分布状況を継続的に検討することとした。本共同利用研究を通じて,これまでに和歌山県由来のニホンザル1頭(個体ID#:TB1),大阪府由来のニホンザル2頭(個体ID#:MN51,MN57)からB. quintanaを分離している。9つのハウスキーピング遺伝子(塩基長 約4,270bp)を用いたMLST法によって分離株を解析したところ,いずれの株も野生ニホンザル由来株と同一のST22に型別されることが明らかとなっている。本年度には,B. quintanaの遺伝子系統を詳細に解析するための新たな方法として,全ゲノム情報に基づくcore genomeMLST法を検討した。ヒト由来Toulouse株,アカゲザル由来RM-11株およびニホンザル由来MF1-1株間において,Sequence identity=90.0%,Overlap=95.0%以上の相同なLocusは1,056個であった。これら相同なLocusから,2株間あるいは3株間の比較においてSequence identity=100%を示したLocusを除外した。その結果,計493個のLocusがcore genomeMLST法に用いる候補遺伝子として抽出された。今後,研究用ニホンザルであるTB1,MN51およびMN57由来の分離株について全ゲノム配列を決定するとともに,これら候補遺伝子の保有状況と遺伝子型別法を検討していく必要がある。


H31-B86
代:金子 新
協:塩田 達雄
協:中山 英美
協:三浦 智行
協:入口 翔一
遺伝子改変iPS細胞由来造血系細胞の移植による免疫機能細胞再構築に関する研究

論文
Iriguchi S, Kaneko S.(2019) In Vitro Differentiation of T Cells: From Nonhuman Primate-Induced Pluripotent Stem Cells. Methods Mol Biol. 2048:93-106.
遺伝子改変iPS細胞由来造血系細胞の移植による免疫機能細胞再構築に関する研究

金子 新 , 塩田 達雄, 中山 英美, 三浦 智行, 入口 翔一

前年度までに報告していたアカゲザル由来iPS細胞に対して、CRISPR/Cas9システムを用いたゲノム編集の系を確立した。アカゲザルiPS細胞のゲノム編集は非常に効率が悪いが、条件検討を繰り返しゲノム編集の効率が改善した。最適化したCRISPR/Cas9システムを用いてSHIVに対する感染防御能を付与する目的にSHIVの感染受容体であるCCR5をターゲットとしてアカゲザル由来iPS細胞のゲノム編集を行ったところ、CCR5 homo ノックアウト株を30%と効率よく作成できた。CCR5ノックアウトiPS細胞株(ΔCCR5 iPS細胞)は元株とほぼ同様の造血前駆細胞・CD4CD8共陽性T細胞・マクロファージへの分化誘導能を有していた。(図1にアカゲザルiPS細胞から誘導したマクロファージがバイオパーティクルを貪食する様子を示す。)
さらに、ΔCCR5 iPS細胞から分化誘導したマクロファージ(ΔCCR5 iMac)にSHIV感染抵抗性が生じるか否かをin vitroで評価したところ、元株と比較してΔCCR5 iMac に対するSHIVの感染効率の低下を認めた。
今後はSHIV感染アカゲザルに対してΔCCR5 iPS細胞由来造血前駆細胞の自家移植を行うことにより、iPS細胞由来造血前駆細胞の生着と免疫再構築の有無に加え、SHIV感染の治療モデルとなり得るかを評価する予定である。



H31-B87
代:中内 啓光
協:正木 英樹
異種生体環境を用いたチンパンジーiPS細胞からの臓器作製

学会発表
Hideki Masaki THE PROGENIES OF HUMAN OR CHIMP PLURIPOTENT STEM CELLS DISTURB INTERSPECIES CHIMERA DEVELOPMENT(June 28th, 2019) International Society for Stem Cell Research annual meeting(Los Angeles, USA).

正木英樹 How to make human->animal chimeras?(2019年12月4日) 日本分子生物学会年会(福岡市).
異種生体環境を用いたチンパンジーiPS細胞からの臓器作製

中内 啓光 , 正木 英樹

本年度はチンパンジー胎仔繊維芽細胞をご提供頂き、プライム型およびナイーブ型iPS細胞の作製に取り組んだ。また、以前ご提供頂いたチンパンジー末梢血血球細胞から作製したプライム型iPS細胞のナイーブ型への変換に取り組んだ。
その結果、繊維芽細胞・血球細胞由来を問わず、プライム型iPS細胞からナイーブ型多能性幹細胞への変換および長期間の維持に成功した。これは昨年度までの研究をベースとした新規の培養条件により達成された。RNAseqにより遺伝子発現プロファイルを比較したところ、プライム型株とナイーブ型株は大きく異なる遺伝子発現プロファイルを示すとともに、チンパンジーナイーブ型株の遺伝子発現プロファイルはヒトナイーブ型多能性幹細胞株と類似していることがわかった。
また、樹立されたナイーブ型株をマウス着床前胚に移植し子宮内で発生させたところ、将来的にマウス個体を形成する領域であるエピブラストへの寄与が認められた。これはプライム型株、あるいは細胞死阻害処理を施したプライム型株では見られなかった現象である。

以上の成果を以下の学術集会にて研究協力者の正木が発表した。現在論文発表の準備中である。
“THE PROGENIES OF HUMAN OR CHIMP PLURIPOTENT STEM CELLS DISTURB INTERSPECIES CHIMERA DEVELOPMENT”
International Society for Stem Cell Research annual meeting, June 28th, 2019, Los Angeles, USA
“How to make human->animal chimeras?”
日本分子生物学会年会、2019年12月4日、福岡市


H31-B88
代:三浦 智行
協:阪脇 廣美
複合ワクチネーションによるSIVの感染防御効果の解析

論文
Koide, R., Yoshikawa, R., Okamoto, M., Sakaguchi, S., Suzuki, J., Isa, T., Nakagawa, S., Sakawaki, H., Miura, T., and Miyazawa, T.(2019) Experimental infection of Japanese macaques with simian retrovirus 5. J. Gen. Virol. 100:266-277.

Himeno, A., Ishida, Y., Mori, H., Matsuura, K., Kikukawa, M., Sakawaki, H., and Miura, T.(2019) Induction of neutralizing antibodies against tier 2 human immunodeficiency virus 1 in rhesus macaques infected with tier 1B simian / human immunodeficiency virus. Arch. Virol. 164:1297-1308.

学会発表
YALCIN PISIL, Zafer Yazici, Hisatoshi Shida, Shuzo Matsushita, Tomoyuki Miura Particular substitutions in V2 and V4 of gp120 env confer SHIV neutralization resistance(2019年10月29ー31日) 第67回日本ウイルス学会学術集会(東京).

横山温香、関根将、三浦智行、伊吹謙太郎 SIV感染サル化マウスのAIDS様病態の免疫学的解析(2019年10月29ー31日) 第67回日本ウイルス学会学術集会(東京).

Yalcin, Pisil, Yazici, Zafer,志田壽利,松下修三,三浦智行 Neutralization sensitive SHIV gain neutralization resistance with only 2 mutation in gp120 V2 area.(2019年11月27ー29日) 第33回日本エイズ学会学術集会(熊本).
複合ワクチネーションによるSIVの感染防御効果の解析

三浦 智行 , 阪脇 廣美

我々は、エイズの原因ウイルスであるヒト免疫不全ウイルス1型(HIV-1)の感染モデルとしてサル免疫不全ウイルス(SIV)や、それらの組換えウイルスであるサル/ヒト免疫不全ウイルス(SHIV)のアカゲザルへの感染動態と免疫応答について長年研究している。一方、SIV遺伝子を発現するBCGベクターとワクシニアウイルスベクターを組み合わせて免疫することにより、SIVの感染防御効果が得られることを示唆する予備的結果を得たことから、これまでのワクチンを更に改良して細胞性免疫誘導効果が高くなるように工夫したワクチンを作製すると共に、ワクチン評価実験に適した遺伝的背景をもつアカゲザル3頭を選定し、ワクチン接種した後に攻撃接種実験を行った。感染防御効果を調べたところ、部分的な増殖抑制効果が認められた。また、新規に開発した攻撃接種用SHIVとして、臨床分離株と同等レベルの中和抵抗性を有するCCR5親和性SHIV-MK38C株の感染実験を継続的に解析し、血中ウイルス量の推移と中和抗体産生について解析し、ワクチン評価モデルとして必要な基礎情報を蓄積した。


H31-C1
代:Ilaria Brunetti
協:Naoki Morimoto
Pelvic sexual dimorphism in Macaca fuscata: effects of clinal variation and obstetric constraints
Pelvic sexual dimorphism in Macaca fuscata: effects of clinal variation and obstetric constraints

Ilaria Brunetti , Naoki Morimoto

We have CT scanned 113 skeletal adult wild-shot specimens of Macaca fuscat. Adult pelvic shape variation in five population of Japanese macaques (Macaca fuscata) is investigated as a function of sex, climate and population affiliation. Furthermore, interactions between these factors are explored. These questions are addressed by employing methods of biomedical imaging, geometric morphometrics and multivariate statistics.
The results show that population affiliation has profound effects on size and shape of both the pelvis and the birth canal, thus reflecting latitudinal variation and population history. There is no significant sexual dimorphism in pelvic size. However, moderate sexual dimorphism is present both in pelvic shape and in the shape of the birth canal. Additionally, the pelvic morphology of M. fuscata exhibits clinal variation associated with differing mean annual temperatures. Pelvic sexual dimorphism does not vary among populations or along climatic clines.
Overall, the results of this thesis imply that the pelvic morphology in M. fuscata is shaped by a multitude of biological and environmental factors. Most notably, the results provide clear evidence for climatic adaptation but only moderate pelvic sexual dimorphism of the pelvic morphology.


H31-C2
代:川合 伸幸
サルの脅威刺激検出に関する研究

論文
Kawai, N., Nakagami, A., Yasue, M., Koda, H., & Ichinohe, N.( 2019) Common marmosets (Callithrix jacchus) evaluate third-party social interactions of human actors but Japanese monkeys (Macaca fuscata) do not. Journal of Comparative Psychology 133(4):488-495. 謝辞あり

学会発表
川合伸幸 ヒトの心の本性とは 〜比較認知科学で解明する「助け合い」や「いじめ」〜(2020年3月14日) 愛知県保険医協会「春の講演会」(名古屋市 愛知県保険医協会伏見会議室).

邱カチン・川合伸幸 自然風景の中のヘビは素早く正確に検出されるのか?-フリッカー変化検出課題を用いたヘビ検出の検討 (2018年9月1日) 2018年度日本認知科学会第35回大会(立命館大学(茨木市)).
サルの脅威刺激検出に関する研究

川合 伸幸

これまでの共同利用研究を通じて、サルはヘビを他の動物よりも早く見つけることを示して来た(Shibasaki & Kawai, 2009; Kawai & Koda, 2016, Kawai, 2019)。ヘビを見たことのないサルがヘビをすばやく検出するということは、サルは生得的にヘビを検出する視覚システムを有していることが示唆される。しかし、ヘビのどのような視覚特性がヘビ検出にかかわっているかは、まだ明確ではない。報告者は、ヘビの色や形特定の空間周波数のパワーではなく、ヘビのウロコが重要な手がかりであることを突き止めている(Kawai & He, 2016; Kawai, 2019)。しかし、霊長類の視覚システムがヘビにだけ特徴的なウロコを手がかりにヘビを検出すべく進化したなら、逆にヘビのウロコがあればヘビ以外の動物でも早く検出されると予想される。
 そこでこれまでと同様に、視覚探索課題を用いて、1)8枚のヘビ写真から1枚のイモリ写真を検出速度と、その逆のパターンを比較すると、ヘビ1枚を検出するほうが早く、これまでと同様の結果を得た。しかし、2)同じイモリの写真にヘビのウロコを重畳して、イモリターゲットとヘビターゲットの検出速度を比較したところ、差は見られなかった。すなわち、ヘビのウロコをまとうということがヘビ検出の重要な視覚手がかりであることがあきらかになった。


H31-C3
代:橋戸 南美
協:松田 一希
同所的に生息する旧世界ザルにおける苦味受容体機能の解明
同所的に生息する旧世界ザルにおける苦味受容体機能の解明

橋戸 南美 , 松田 一希

昨年度は、アフリカのキバレ国立公園に同所的に生息するアカコロブス、アビシニアコロブス、ベルベットモンキーの3種について約30種類の全苦味受容体遺伝子TAS2Rの配列を決定し、また苦味受容体TAS2R16の機能解析を行った。本年度は、これらの種と比較を行うために、国内動物園で飼育されているアビシニアコロブス、ドゥクラングール、テングザル、キンシコウの糞便よりDNAを抽出し、苦味受容体遺伝子TAS2R16の配列を決定した。また、キバレ国立公園同様に、同所的に複数の霊長類種が生息するマレーシアボルネオ島サバ州も調査地としており、野生霊長類6種の糞便を収集した。今後これらのサンプルを使用し、これらの種についての受容体機能解析も行う予定である。本年度は、報告者が妊娠し年度途中に産休・育休に入ったため、十分な実験を行うことができなかった。今年度に計画していた受容体機能解析実験は、産休からの復帰後に行う予定である。


H31-C4
代:鯉田 孝和
協:野村 健人
協:三宅 修平
色盲サルの皮質応答計測
色盲サルの皮質応答計測

鯉田 孝和 , 野村 健人, 三宅 修平

霊長類研究所で維持飼育されている2色覚サルを利用し、皮質ニューロン活動を計測することで色覚異常個体に特化した色情報表現を探索する実験を計画した。計測は手術室にて麻酔下で行うことを予定しているため、電気的ノイズの問題が生じないか確かめた。手術室内に良好な接地は無く、電気ノイズは深刻でありバッテリー駆動型の計測システム構築する必要があった。また手術室は共有施設であるため計測システムはなるべく小さく、設置と撤去、運搬が容易である必要がある。そこで今年度はこれらの要求にこたえるべく、交流電源を必要としないシステムを完成させた。ノートパソコンとバッテリー駆動型アンプシステム(INTAN)を組み合わせて、視覚画像刺激、制御、神経活動の記録が可能となった。装置は鞄も含めて10kgと軽く、運搬は容易である。計測性能は、接地なし、アルミホイルを用いた簡易ファラデーケージ条件でスパイク活動の帯域(500-3kHz)においてノイズが20 µV程度となり、ニーズを十分に満たしていることを確認した。また豊橋技科大内でサルを対象としたシングルユニット計測にも成功した。


H31-C5
代:澤田 晶子
協:牛田 一成
協:土田 さやか
ニホンザルの植物由来の物質に対する分解能の検証
ニホンザルの植物由来の物質に対する分解能の検証

澤田 晶子 , 牛田 一成, 土田 さやか

霊長類がどのようにして植物に含まれる反栄養物質を分解しているのか、その生理学的メカニズムを解明する手がかりとして、ニホンザル糞便を用いた腸内細菌の培養実験を予定していた。しかし、本研究計画において重要な位置付けとなる放飼場個体群からの採材許可が下りなかったため、実験の実施を見送った。


H31-C6
代:斎藤 通紀
協:中村 友紀
協:横林 しほり
協:沖田 圭介
霊長類iPS細胞及びそれに由来する生殖細胞のゲノム制御機構の解明

学会発表
藤原浩平、中村友紀、沖田圭介、今村公紀、斎藤通紀 iPS細胞を用いたヒト上科生物の進化原理の解明(2019年11月1日) 第6回六甲医学研究会(淡路市).
霊長類iPS細胞及びそれに由来する生殖細胞のゲノム制御機構の解明

斎藤 通紀 , 中村 友紀, 横林 しほり, 沖田 圭介

申請者は本研究開始後、協力者の沖田圭介博士からチンパンジー、オランウータンのiPS細胞株、所内対応者である今村公紀博士からチンパンジーのiPS細胞株を譲り受け、それぞれに対して既報のある霊長類多能性幹細胞の培養条件から至適条件を見出した(画像1)。また、オランウータン線維芽細胞も今村博士よりご分与頂き、そこから新たにiPS細胞株を複数樹立した。iPS細胞誘導時に強制発現させた遺伝子がこれらiPS細胞株のゲノムに組み込まれていないことをqPCRで確認した。


H31-C7
代:菊池 泰弘
協:荻原 直道
中期中新世・化石類人猿ナチョラピテクスの上位胸椎の復元
中期中新世・化石類人猿ナチョラピテクスの上位胸椎の復元

菊池 泰弘 , 荻原 直道

1500万年前のアフリカ産化石類人猿・ナチョラピテクスの脊椎は、現生大型類人猿と四足歩行サルのモザイク的な形態が示唆されているが、具体的にどのような移動運動様式のレパートリーを持っていたのか不明であり、ポストクラニアルのさらなる分析の必要性がある。そこで本研究ではナチョラピテクスの新規・上位胸椎標本について復元分析を行った。対象標本(KNM-BG 48094)は化石化の過程で変形しており、原型が不明のため現生種との比較が困難である。このため、以下の変形除去分析を行った。メスのナチョラピテクスの体サイズを考慮し、テングザル(メス1頭)、アヌビスヒヒ(メス1頭)、ハヌマンラングール(オス1頭)、ホエザル(オス1頭)、パタスモンキー(オス1頭)を変形除去のモデル資料とした。これら5個体の第3-6胸椎をCT撮像後、三次元画像上で相同点79点を決定し、サイズ補正した後、KNM-BG 48094標本の塑性変形成分を選択的に除去し立体復元を施した。復元したナチョラピテクス胸椎は、大・小型類人猿、地上性および樹上性オナガザル、そして新世界ザルと比較分析した結果、どちらかというと類人猿ではなくオナガザルに似た特徴を示した。来年度、引き続き分析を継続する予定である。


H31-C8
代:日比野 久美子
協:竹中 晃子
ヒト動脈硬化症のアカゲザルモデル作出のための基礎研究
ヒト動脈硬化症のアカゲザルモデル作出のための基礎研究

日比野 久美子 , 竹中 晃子

ヒトの心筋梗塞や脳梗塞の原因となる動脈硬化症は血中コレステロール(CH)値が高いことによって引き起こされる。高CH血症のサルとして家系を維持してきたインド産アカゲザルはLDLR遺伝子にCys82Tyr変異を有する。LDL受容体活性をヒトのLDLを用いて測定したところ、ヘテロ個体4頭中3頭(1頭は溶血のため測定不可)の平均は71.5%(53~88%)、1頭のホモ個体は42%であった。ヒトの難病レベルの20%以下という低い値にはならなかった。次に、サルの通常食にはCHが含まれていないので、0.1%(ヒトの食事に卵2個/日追加に相当)および、0.3%のCHを投与したところ、2個体で難病レベルの著しい血中CHの上昇を得た。この上昇に関連する原因遺伝子を特定するため、この2個体と血縁のある1個体について全ゲノム検索により、ヒトで報告されている高CH血症の原因遺伝子ならびにLDLRを合成する際に必要な遺伝子における遺伝子変異の検索を行った。46遺伝子234部位のエクソン、スプライス部位に塩基置換 (SNP) が認められた。それらのうち、非同義置換や挿入、スプライス部位のSNPは21遺伝子で60部位見出された。高CH血症を示した2頭にのみ共通する遺伝子変異は、60部位中16部位に見出された。全ゲノム検索をしていない個体も含めてこの2頭のみの遺伝子変異がみつかれば、高CHの原因遺伝子である可能性が考えられる。このことから、LDLR Cys82Tyr変異を持つ8頭と、正常個体4頭についてこの16個のSNP領域をPCR法で増幅し、塩基配列決定を行った。その結果、MPTPS2遺伝子にVal241Ile変異(G→A)を引き起こす変異がこの2頭のみに見出された。MBTPS2はX染色体に存在するので伴性遺伝する。メスでG/Aのヘテロ変異はあった。MBTPS2遺伝子は細胞内CH濃度が充分高くなるまでLDLR遺伝子の転写活性を上昇させる。従って、この変異により活性が低下した場合にはLDLRのmRNA量が低下しLDL受容体の数が少なくなり、血中CH値が高くなることが考えられる。ヒトではこのMBTPS2変異による高CH血症は報告されていない。


H31-C9
代:佐藤 佳
協:伊東 潤平
協:三沢 尚子
協:今野 順介
協:木村 出海
協:長岡 峻平
ウイルス感染制御遺伝子の進化に関する研究
ウイルス感染制御遺伝子の進化に関する研究

佐藤 佳 , 伊東 潤平, 三沢 尚子, 今野 順介, 木村 出海, 長岡 峻平

本研究では、比較ゲノム・系統学的解析手法およびヒト・チンパンジーの細胞を用いた実験手法を駆使することにより、ヒトおよびチンパンジーそれぞれの系統において起こったトランスポゾンと宿主遺伝子との間での進化的軍拡競争を高解像度に描出し、両系統間において比較解析することを目的とした。具体的には、比較ゲノムおよび分子系統学的解析により、ヒト・チンパンジー分岐後に活発に増殖したトランスポゾンをゲノムから同定・抽出した。
また、バイオインフォマティクス解析から得られた知見を実験的に検証することを目的として、フサオマキザル、マントヒヒ、チンパンジー、アカゲザルの末梢血の分与を受け、末梢血単核球を分離・取得した。


H31-C10
代:西川 真理
協:持田 浩治
協:木下 こづえ
ニホンザルにおける夜間の性行動および配偶者選択
ニホンザルにおける夜間の性行動および配偶者選択

西川 真理 , 持田 浩治, 木下 こづえ

本研究は、夜間を含む終日のニホンザルの交尾相手や交尾頻度を調べることで、交尾相手の選択とメスの生殖周期の関連を明らかにすることを目的としておこなった。京都大学霊長類研究所でグループ飼育されているニホンザル(オス2頭、メス3頭)を観察の対象とし、2019年9月~2020年1月の期間に、自動撮影システムを用いて性行動データを記録した(N=135日)。メスの排卵と性周期の確認は、糞中の生殖関連ホルモン(E1G、PdG)を測定する方法を用いた。メスの糞は可能な限り毎日収集した(N=478)。これらの糞サンプルを凍結乾燥させた後、生殖関連ホルモン(E1G、PdG)を抽出して保存した。今年度は、一部の抽出サンプルでのみホルモン測定をおこない(N=38)、メス1個体の34日間の生殖関連ホルモン動態から排卵日の推定を試みた。未測定の抽出サンプルは来年度に分析する予定である。今後は、抽出したすべてのサンプルについてホルモン測定をおこなうことで、各メスの排卵日を推定し、メスの交尾相手および性行動と生殖関連ホルモンの動態の関連を分析し、昼間と夜間における交尾相手の選択性の違いを比較する。


H31-C11
代:村山 美穂
協:中野 勝光
チンパンジーにおけるDNAメチル化解析による年齢推定
チンパンジーにおけるDNAメチル化解析による年齢推定

村山 美穂 , 中野 勝光

本研究では、DNAメチル化率を検出することによる年齢推定の可能性を検討する。野生下個体への応用を目指し、血液に加えて糞試料を解析し、年齢推定の可能性を検討した。またDNAのメチル化率は組織により異なることが報告されているため、組織間のメチル化率の違いも考察した。
 GAIN等を通じて霊長研に保存されているチンパンジーの組織を分与いただき、計7個体のDNAを抽出して、ヒトでの先行研究をもとにチンパンジーの相同領域(ELOVL2等)を候補としてメチル化率を解析した。その結果、肝臓(6試料)、皮膚(7試料)、舌(5試料)、筋肉(2試料)、腸(6試料)、生殖器官(6試料)でELOVL2遺伝子のメチル化率を定量できた。皮膚では年齢とメチル化の有意な正の相関がみられた(r = 0.980)。肝臓、舌では有意ではないものの正の相関傾向がみられた。筋肉、腸、生殖器官では相関傾向はみられなかった。したがってメチル化率の加齢変化には、ヒトやマウスと同様に組織差があることが示された。一方で血液では3.4才、糞では4.8才の誤差で推定できることが示され、実用化に向けて進展した。
 メスチンパンジー1個体の卵巣の片側を配偶子保存の研究に供試した。卵巣の一部を組織解析用に固定した後、未成熟卵子のある皮質部を切り出し、凍結保護剤の異なる2種類のガラス化凍結法と、緩慢凍結法を実施した。凍結保存を実施した卵巣には多数の未成熟卵子(原始卵胞と原始卵胞から一次卵胞の移行期卵胞)が含まれることを確認した(画像)。



H31-C12
代:Jacobus (Jaap) Saers
Ecogeographic variation in Japanese Macaque trabecular bone structure as a model for interpreting human and hominin variation
Ecogeographic variation in Japanese Macaque trabecular bone structure as a model for interpreting human and hominin variation

Jacobus (Jaap) Saers

We CT scanned skeletal specimens of Macaca fuscata (n=61), Macaca yakui (n=21), Calcaneus, talus and 7th cervical vertebra for each individual. The goal was to see the effect of climate on trabecular bone structure by comparing groups of Japanese macaques from the south to the north of Japan. The results are still being worked on.

We also scanned 42 calcaneus and talus bones of juvenile specimens aged between birth and adulthood.
We investigated how trabecular bone structure adapts in response to dynamically changing loads associated with the maturation of locomotion in Japanese macaques. By studying how trabecular bone changes during growth and development we can understand how adult trabecular structure is established and what the role of mechanical loading is in shaping trabecular bone structure. For example, we have found that trabecular bone material stiffness is greatest perpendicular to the growth plate at birth. However, when macaques start walking independently, and their calcaneus is being loaded from multiple directions, we see the trabecular bone adapting by changing the primary direction of stiffness in the direction of loading (see attached picture).
This project seeks to answer fundamental questions regarding constraints and plasticity of trabecular bone throughout development. Ultimately, understanding the pathways through which mammalian trabecular structure forms can produce profound insight into questions on the behaviour and life-history of fossil organisms, the factors affecting skeletal growth, and countering important contemporary health issues such as age-related bone loss.

These results have been used to support a funding application to study the ontogeny of trabecular bone at the Natural History Museum in Leiden, the Netherlands.



H31-C13
代:WANG Zheng
協:池川 志郎
協:XUE Jingyi
Validation of structural variations at the IHH locus in siamang (Symphalangus syndactylus) and investigation of their relation to the syndactyl phenotype
Validation of structural variations at the IHH locus in siamang (Symphalangus syndactylus) and investigation of their relation to the syndactyl phenotype

WANG Zheng , 池川 志郎, XUE Jingyi

 これまで、フクロテナガザル(2個体)のゲノムシークエンスをhg38にマッピングして、ヒトの合指症の発症と関連するIHHの上流の領域にフクロテナガザル特異的なdeletionを発見した(仮称: SV-Siamang)。他のテナガザル(4種類、6個体)のシークエンスと比べて、SV-Siamangは種特異的な変異であることが示唆された。
  今回、SV-Siamangの種特異性をさらに確認するために、SV-Siamangの周りのヒトとフクロテナガザルの相同配列部分に霊長類共通プライマーセット二つをデザインして、京都大学霊長類研究所から提供されたフクロテナガザル2個体で直接増幅した。結果、2個体とも予定通りのPCR産物を同定した。ブレイクポイントを決定するために、PCR産物をSangerシークエンスした。結果、ブレイクポイントはin silico mappingの方法でNGSデータから同定した部位と同一であり、deletionの領域が確認された。



H31-C14
代:広常 真治
協:金 明月
高等哺乳類特異的な微小管結合タンパク質の同定と機能解析
高等哺乳類特異的な微小管結合タンパク質の同定と機能解析

広常 真治 , 金 明月

霊長研でアカゲザル(Mm1450)から脳組織を採取し大阪市立大学にて実験に使用した。
深麻酔下にあることを疼痛反射の消失によって確認した上で、放血後、バッファーを心臓または頸動脈から灌流し、脳を摘出した。採材は所内対応者の中村が実施した。大阪市立大学に輸送し、サル脳組織からチューブリンを精製し電気泳動で確認した。マウスを比較すると、微小管結合タンパク質が多いことが確認できた。今後はプロテオーム解析を行い、霊長類特異的な微小管結合タンパク質の同定を進めていく。


H31-C15
代:川田 美風
協:森本 直記
霊長類における出生前後の肩幅の成長様式

論文

学会発表
川田 美風 霊長類における出生前後の肩幅の成長様式(2019/10) 第73回日本人類学会(佐賀).

関連サイト
日本人類学会若手会員大会発表賞 http://anthropology.jp/st_prize.html
霊長類における出生前後の肩幅の成長様式

川田 美風 , 森本 直記

高い児頭骨盤比が原因で子の産道通過が困難となるヒトでは、分娩に適応した頭部の成長抑制とみられる特徴が知られる。しかし、産道通過の際に骨盤とのサイズ比が問題となるのは、頭部並びに肩幅である。実際にヒトでは、頭部が出たにも関わらず、肩が産道内に留まる肩甲難産は珍しくない。しかし、ヒトがいかなる肩幅の成長様式を有するかに関する定量的なデータは乏しい。本研究では、肩幅成長と分娩がどのようなトレードオフの関係にあるかを明らかにすることを目的とし調査を行った。具体的には、広い肩幅が原因で胎児の産道通過が困難となるヒト、肩幅は広いが胎児の産道通過は困難でないとされる大型類人猿(チンパンジー)、そして肩幅の狭い小型のサル(マカク)を対象に、一般的な体長の指標としての脊柱長に対する出生前後の肩幅の成長様式を比較した。
 出生前の肩幅成長はチンパンジー、マカクで等成長、ヒトで劣成長であった。出生後の肩幅成長はヒトで優成長、チンパンジーで等成長、マカクで劣成長であった。ヒトでは産道通過のための適応として、出生前の肩幅成長が抑制され、生後促進されることで成体のプロポーションが実現されると考えられる。マカクの肩幅の成長様式を祖先的なものと仮定すると、樹上性が強かったと考えられるチンパンジーとの共通祖先段階までに幅の広い肩幅が進化し、出生前の成長様式が出生後も持続するようになったと考えられる。その後、直立二足歩行の獲得によって生じた肩甲難産への対応のため、出生前の肩幅成長が抑制されるようになったと考えられる。
 第73回人類学会大会において、本研究について発表し、若手会員大会発表賞を受賞した。


H31-C16
代:Rafaela Takeshita
Validation of Enzyme Immunoassays for determination of steroid metabolites in Japanese macaque
Validation of Enzyme Immunoassays for determination of steroid metabolites in Japanese macaque

Rafaela Takeshita

The samples have been successfully transferred to my lab at Kent State University. The lab went through renovations until February 2020. Initial activities included purchase of equipment and materials for the project, assay development and optimization. The study had to be paused since March 10th due to the COVID-19 pandemic.


H31-C17
代:鈴木 郁夫
大脳皮質進化と関連するヒト固有遺伝的プログラムの探索

論文
Ikuo K. Suzuki (2020) Molecular drivers of human cerebral cortical evolution Neuroscience Research 151:1-14.

Jun Sone, Satomi Mitsuhashi, Atsushi Fujita, Takeshi Mizuguchi, Kohei Hamanaka, Keiko Mori, Haruki Koike, Akihiro Hashiguchi, Hiroshi Takashima, Hiroshi Sugiyama, Yutaka Kohno, Yoshihisa Takiyama, Kengo Maeda, Hiroshi Doi, Shigeru Koyano, Hideyuki Takeuchi, Michi Kawamoto, Nobuo Kohara, Tetsuo Ando, Toshiaki Ieda, Yasushi Kita, Norito Kokubun, Yoshio Tsuboi, Kazutaka Katoh, Yoshihiro Kino, Masahisa Katsuno, Yasushi Iwasaki, Mari Yoshida, Fumiaki Tanaka, Ikuo K. Suzuki, Martin C Frith, Naomichi Matsumoto, Gen Sobue(2019) Long-read sequencing identifies GGC repeat expansions in NOTCH2NLC associated with neuronal intranuclear inclusion disease Nature Genetics 5:1215-1221.

学会発表
鈴木 郁夫 Evolving brains with new genes; Human-specific gene NOTCH2NL expands neuronal number in the cerebral cortex (2019.6.25) The 13th International Workshop on Advanced Genomics (13AGW) (東京).

鈴木郁夫 ヒト固有遺伝子により駆動された脳進化メカニズム(2019.12.18) 「次世代脳」プロジェクト 冬のシンポジウム(東京).

鈴木郁夫 早期ライフステージにおけるヒト固有大脳皮質発生プログラムの解明(2019.12.24) 革新的先端研究開発支援事業 早期ライフ領域キックオフ会議(東京).

鈴木郁夫 ヒト特異的遺伝子による神経回路形成・諸過程の制御(2019.12.03) 第42回 日本分子生物学会(福岡).

Ikuo K. Suzuki Evolving brains with new genes; Human-specific gene NOTCH2NL expands neuronal number in the cerebral cortex(2019.12.02) 九州大学医学部シンポジウム(福岡).

Ikuo K. Suzuki Molecular function of human-specific gene NOTCH2NLin the cortical progenitors(2019.7.28) 第42回日本神経科学大会(新潟).

鈴木郁夫 ヒト固有遺伝子NOTCH2NLによる大脳皮質の拡大進化(2019.9.20) 中部幹細胞クラブ シンポジウム2019 「幹細胞人類学」(名古屋).

Ikuo K. Suzuki Human-Specific NOTCH2NL Genes Expand Cortical Neurogenesis through Delta/Notch Regulation(2019.5.17) 第52回 日本発生生物学会大会(大阪).
大脳皮質進化と関連するヒト固有遺伝的プログラムの探索

鈴木 郁夫

本研究はヒト大脳皮質発生における種固有の特徴を明らかにすることを目的としている。その目的のために、ヒトES細胞とチンパンジーiPS細胞をそれぞれ培養条件下において大脳皮質へと分化誘導し、ヒト固有の大脳皮質発生ダイナミクスを明らかにすることを計画している。2020年1月に共同研究提案が採択され、同月霊長類研究所にて樹立されたチンパンジーiPS細胞2株を供与していただいた。その後、申請者の実験環境においても順調に維持培養を行うことが可能であることを確認し、拡大培養の後に凍結ストックを作成した。加えて、大脳皮質への分化誘導実験を3回行い、いずれも分化誘導開始後25日の段階で良好な神経幹細胞を得ることができた。現在、これらのチンパンジーiPS細胞由来大脳皮質細胞の凍結ストックを作成し、今後の実験解析に備えているところである。


H31-C19
代:原田 優
サルの発声学習に関連する身体運動の役割についての分析的研究
サルの発声学習に関連する身体運動の役割についての分析的研究

原田 優

ヒトは随意的に多様な音声を生み出せる一方で、ヒト以外の霊長類は随意的な発声が困難であることが知られている。この能力の有無がヒトの発話能力の獲得に影響を与えたと考えられている。そこで、ヒトと近縁な種の発声行動を探ることでヒトの言語の発生と進化を探ることを目的とし、発声訓練に成功したニホンザル3頭における実験中のビデオデータ(チェアに座った状態のもの)から発声運動と、呼吸運動や体動など発声には直接関係のない運動との関連を調査した。
データが膨大な量であるため、音声の切り出しは終えたが、運動(例えば体動や呼吸など)との関連性の分析、また、音声の分析には至っていない状態である。
 今後は切り出しを終えたデータを元に音響解析と発声と発声運動に直接関係のない運動との関連性を分析する。また、このデータは実験中のチェアに座った状態のものであるため、自然状態での行動観察を行い、同様に評価し比較したいと考えている。


H31-C20
代:Ian Towle
"An evolutionary perspective on dental properties, disease and wear"
"An evolutionary perspective on dental properties, disease and wear"

Ian Towle

The project has progressed well with both dental pathology/wear data and micro-CT scans collected at the PRI as planned in January and February this year (2020).
Around 15 primate species were studied with several interesting observations. Several wild groups show enamel defects and tooth wear that have rarely been described in non-hominin wild samples. At least two of these examples appear to be on a population wide level. These may therefore allow further insight into similar patterns in our fossil ancestors through direct comparisons. For example, the Koshima Japanese Macaques show unique tooth wear that is uniform amongst individuals, and surprisingly, has many features in common with supposed cultural tooth wear in fossil hominins. These include large striations on anterior teeth, heavy tooth attrition, and root lesions resembling ‘tooth pick’ grooves in certain Homo species (e.g., Neanderthals). I look forward to collaborating with Ito and other PRI researchers to explore the cause of these similarities. Over the next few months this study, and other similar ones, will be investigated using the data collected, and publications will be expected for submission over the next 12 months.
The other side of the project, the micro-CT scans, proceeded well, with over 100 individual teeth scanned. Over the proceeding months, density data will be gathered from these scans to provide insight into the evolution of enamel properties in a variety of primate species. Ultimately the aim is to use this information to provide insight into the evolution of the human dentition. Individual teeth were selected from the PRI collections based on specific criteria. In particular, they had to be loose (not in a jaw), show little occlusal wear, and preferably be a specific tooth type. I have begun the process of collecting density data from the scans which will be converted (using density standards/phantoms), to see how enamel hardness varies across tooth crowns. Given differences in wear and fractures in different species, as well as recent research on human teeth, we expect certain species to have evolved ‘reinforced’ parts of the tooth crown. Although the process of gathering this data from the scans has only just began, it is clear the scans will allow fine detail differences between surfaces and species to be collected.
Teeth belonging to two captive individuals (one baboon and one Japanese macaque) are currently in the process of being prepared to be sent to the University of Otago for more in depth analysis, including SEM and nanoindentation, to see how the enamel structure influences micro-CT scan results, allowing more robust conclusions.


H31-C21
代:Madeleine Geiger
Evolutionary rate of skull shape change in macaque populations
Evolutionary rate of skull shape change in macaque populations

Madeleine Geiger

The aim of the research project is to estimate the pace with which different skull dimensions are changing throughout generations in different populations of macaque (Macaca). In examining such rates of morphological change in macaque populations that have been living in the wild and populations that have been living in captivity, we will be able to discern potential adaptations or instances of phenotypic plasticity – as well as the rate of their evolution – which may come about on the basis of the population’s differential proximity to a human dominated environment. We have already gathered data on evolutionary rates in domesticated (Domestic dog Canis familiaris vs. wolf Canis lupus; domestic pig Sus domesticus vs. wild boar Sus scrofa) and commensal populations (house mouse Mus musculus domesticus), which also comprise examples along the wild-captive-domestic continuum and the macaque data is e a valuable addition to that.
During my 5 days stay at PRI, I could measure 21 cranial dimensions and 2 postcranial dimensions in Macaca fuscata with a digital calliper:
- 23 females from the captive Arashiyama population, born in the years 1995 - 2001
- 27 females from the captive Takahama population, born in the years 1986 - 2003
- 6 females from Koshima island, born in the years 1966 – 2000
- 4 females from Kinkazan island, collected in the years 1984 – 2016
This longitudinal series within single populations is more extensive than any I could gather so far. These data will be analysed to determine potential changes of skull shape through time in these populations.



H31-C22
代:久保 大輔
現生類人猿における中硬膜動脈の起始に関する研究
現生類人猿における中硬膜動脈の起始に関する研究

久保 大輔

冠状縫合より後部に分布する硬膜動脈枝の起始と経路は、ヒト科において種間差が報告されている。この形質の変遷を人類化石から復元するには、比較参照すべき現生種の骨形態に関する情報が不足している。そこで本研究では、眼動脈系硬膜枝と顎動脈系中硬膜動脈の経路や吻合に関連する骨学的知見の拡充を目的として、現生類人猿の頭骨標本の観察を行った。
今年度は、頭蓋冠が分離されたチンパンジー5個体の頭骨を肉眼で観察し、そのうち2個体において、上眼窩裂の外側に位置する小孔(cranio-orbital foramen)から頭蓋腔に現れる血管溝が、顎動脈系の動脈枝の溝と合流しつつも中頭蓋窩底に向かうことなく直接ブレグマ枝へと続いていた。この特徴は研究代表者が調査中のジャワ原人化石1例のそれと類似しており、眼動脈系から冠状縫合後部への供血可能性を示唆する。一方、現代人頭骨では頻繁に見られるブレグマ枝と上眼窩裂の間を繋ぐ太い血管溝(sphenoparietal sulcus)は、観察した少数例であるが、チンパンジーやジャワ原人には見られなかった。また、チンパンジーの頭骨1点を借用して東京大学総合研究博物館にてマイクロCTでの撮像を実施し、眼窩壁を貫通する血管のルートや骨表面の血管溝の観察に高精細CTが有効であることを確認した。今後は観察例を増やし、類似の形態が観察される頻度や変異の詳細を明らかにする予定である。