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H29
論文 26 報 学会発表 73 件
H29-A1
代:Aye Mi San
Conservation genetics of Myanmar’s macaques: a phylogeographical approach

学会発表
Aye Mi San Temple monkeys and their present situation in Myanmar( November 9, 2017) Workshop on Myanmar Biodiversity and Wildlife Conservation funded by Norwegian Environment Agency( Department of Zoology , University of Yangon, Myanmar).

Aye Mi San, Hiroyuki Tanaka & Yuzuru Hamada Anthropogenic activities on non-human primates in Mon State, Myanmar(December 5-9, 2017) 7th Asian Vertebrate International Symposium(University of Yangon, Myanmar).
Conservation genetics of Myanmar’s macaques: a phylogeographical approach

Aye Mi San

 As Myanmar is located in transition zone of habitat environment for many mammals, phylogeographical study of Myanmar non-human primates (NHP) will contribute the understanding of evolution of Asian NHP. In Myanmar, most of the NHP are threatened due to illegal hunting and habitat degradation by anthropogenic activities. The rhesus macaque (M. mulatta) is not an endangered species. However, conflict between the monkeys and humans is a serious problem. The local extinction is worried because of the over-hunting in the non-protected areas. To avoid the local extinction, adequate population regulation is needed for this species. Information from the phylogeography of this species, especially genetic relationship among local populations, is quite helpful for determining the conservation priority. In this study, I analyzed genetic variations in mtDNA sequence in the rhesus macaques as well as other macaques.
 DNA was extracted from a total of 33 fecal samples comprising four populations from Central Myanmar (Pokokku group, n=6; NGM group, n=4; YTG group, n=7; Powin group, n=16). I determined approximate 1200 bp of the D-loop region for these samples. Next, five rhesus, three stump-tailed and one Assamese macaques from Kachin State, northern Myanmar were analyzed for two mitochondrial regions: D-loop and the 1.8 kb region including the full length of cytochrome b gene and the HVS1 region of D-loop. In order to depict the phylogeography of each species of macaques in Myanmar, I need to analyze more samples to increase data points in Myanmar. Part of the results obtained in this study was presented in the following conferences:
1. Aye Mi San (2017) Temple monkeys and their situation in Myanmar. (Workshop on Myanmar Biodiversity and Wildlife Conservationː Supported by Norwagian Environment Agency 9 Nov 2017)
2. Aye Mi San, Hiroyuki Tanaka & Yuzuru Hamada (2017) Anthropogenic activities on non-human primates in Mon State, Myanmar. (7th Asian Vertebrate International Symposium, 5-9 Dec 2017, Supported by Kyoto University)



H29-A2
代:南本 敬史
協:平林 敏行
協:永井 裕司
協:堀 由紀子
協:藤本 淳
脳活動制御とイメージングの融合技術開発

学会発表
Atsushi Fujimoto, Yukiko Hori, Yuji Nagai, Kevin W McCairn, Toshiyuki Hirabayashi, Masahiko Takada, Tetsuya Suhara, Takafumi Minamimoto Predicted reward value in the rostromedial caudate and the ventral pallidum for goal-directed action in monkeys. (2017.7.22) 日本神経科学学会(幕張).

Y. NAGAI1, B. JI1, Y. XIONG2, J. G. ENGLISH3, J. LIU2, Y. HORI1, K.-I. INOUE4, T. HIRABAYASHI1, A. FUJIMOTO1, C. SEKI1, K. KUMATA1, M.-R. ZHANG1, T. SUHARA1, M. TAKADA4, M. HIGUCHI1, B. L. ROTH3, J. JIN2, T. MINAMIMOTO1 A novel PET ligand for visualizing DREADD expression in the monkey brain(2017.10.5) 日本核医学学会(横浜).

Y. NAGAI1, B. JI1, Y. XIONG2, J. G. ENGLISH3, J. LIU2, Y. HORI1, K.-I. INOUE4, T. HIRABAYASHI1, A. FUJIMOTO1, C. SEKI1, K. KUMATA1, M.-R. ZHANG1, T. SUHARA1, M. TAKADA4, M. HIGUCHI1, B. L. ROTH3, J. JIN2, T. MINAMIMOTO1 A novel PET ligand for visualising cellular and axonal DREADD expression in monkeys(2017.11.12) Society for Neuroscience(Washington DC).

南本 敬史1、三村 喬生1、永井 裕司1、井上 謙一2、須原 哲也1、高田 昌彦2 化学遺伝学とPETイメージングの融合による黒質線条体ドーパミン神経活動制御(2018.1.18) 日本マーモセット研究会.

Takafumi Minamimoto PET imaging-guided chemogenetic manipulation of reward-related circuits in monkeys.(2018.2.12) Advances in Brain Neuromodulation(Roma).
脳活動制御とイメージングの融合技術開発

南本 敬史 , 平林 敏行, 永井 裕司, 堀 由紀子, 藤本 淳

 本研究課題において,独自の技術であるDREADD受容体の生体PETイメージング法と所内対応者である高田らが有する霊長類のウイルスベクター開発技術を組み合わせることで,マカクサルの特定神経回路をターゲットとした化学遺伝学的操作の実現可能性を飛躍的に高めること目指した.H29年度は副作用が懸念されるCNOに替わるDREADDアゴニストとして,clozapine類似化合物の中から脳移行性が高くかつDREADDに親和性の高い「化合物X」(特許出願準備中)を見出した.Xは極少量で脳内局所に発現させた興奮性DREADD(hM3Dq)を活性化させるとともに,Xを放射性ラベルした[11C]XはDREADDの脳内発現を画像化するPETリガンドとしても有用で,高感度にhM4Di/hM3Dqの発現を定量するとともに,陽性神経細胞の軸索終末に発現したDREADDsも鋭敏に捉えることに成功した(NagaiらSFN2017).DREADDと化合物Xにより,サル脳回路操作がより高い信頼性・実用性をもって実施可能となることが期待できる.


H29-A3
代:松本 正幸
協:山田洋
マカクザル外側手綱核の神経連絡
マカクザル外側手綱核の神経連絡

松本 正幸 , 山田洋

 嫌悪的な事象(報酬の消失や罰刺激の出現)を避けることは、動物の生存にとって必須である。研究代表者と所内対応者らの研究グループは、マカクザルを用いた電気生理実験により、外側手綱核と呼ばれる神経核がこのような回避行動の制御に関わる神経シグナルを伝達していることを明らかにしてきた(Kawai et al., Neuron, 2015; Baker et al., J Neurosci, 2016)。ただ、どのような神経回路基盤に基づいて外側手綱核がこのような機能を獲得したのかについてはほとんど明らかになっていない。本研究では、外側手綱核が他の脳領域とどのような神経連絡を持ち、そのシグナルがどの領域に伝達されているのか、またどの領域を起源とするのかを解析することを目的とする。平成29年度は、所内対応者とのディスカッションを通じて、外側手綱核に注入する神経トレーサーの種類や解析対象脳領域、使用するサルなど、実験デザインの詳細を決定した。平成30年度に実験を実施予定であるため、本年度の画像ファイルの提供は見送りたい。


H29-A4
代:関 和彦
協:大屋 知徹
協:梅田 達也
協:工藤 もゑこ
協:窪田 慎治
協:戸松 彩花
複数骨格筋への単シナプス性発散投射構造の解剖学的同定
複数骨格筋への単シナプス性発散投射構造の解剖学的同定

関 和彦 , 大屋 知徹, 梅田 達也, 工藤 もゑこ, 窪田 慎治, 戸松 彩花

 脊髄運動ニューロンに投射するPremotor neuronは大脳皮質、脳幹、脊髄にそれぞれ偏在し、最近の申請者らの電気生理学的実験によってPremotor neuronの複数筋への機能的結合様式が筋活動の機能的モデュール(筋シナジー)を構成することが明らかになってきた。この神経解剖学的実体については全く明らかにされておらず、ヒトの運動制御の理解の発展と、運動失調に関わる筋、神経疾患の病態理解や新しい治療法の開発のためには喫緊の研究課題である。そこで本研究では上肢筋の脊髄運動ニューロンへ投射する細胞(Premotor neuron)の起始核である脊髄、赤核、大脳皮質からの発散性支配様式を解剖学的に明らかにすることによって、霊長類における巧緻性に関わる皮質脊髄路の脊髄運動ニューロンへの直接投射の機能的意義を解剖学的観点から検討する。
 本年度は新たなウィルスベクターの開発を継続して行なった。また、国立精神・神経医療研究センターにおいて、霊長類研究所から供給を受けたAAVベクターの機能評価をマーモセットを対象に行なった。 



H29-A5
代:平松 千尋
協:山下 友子
協:中島 祥好
協:上田 和夫
霊長類における音声コミュニケーションの進化および発達過程の研究

論文

関連サイト
九州大学 芸術工学研究院 感性多様性研究室 http://www.design.kyushu-u.ac.jp/~divsense/
霊長類における音声コミュニケーションの進化および発達過程の研究

平松 千尋 , 山下 友子, 中島 祥好, 上田 和夫

 公益財団法人日本モンキーセンターとの連携研究として、同センターで飼育されている霊長類のうち、チンパンジー、ヤクニホンザル、リスザル、タマリン、ワオキツネザルを主な対象とし、様々な発達段階にある複数個体から音声を録音した。録音は指向性マイクロフォンと高音質なポータブルレコーダーを用いて、個体から約2-6mの位置で行った。現在、これまで当グループが開発してきた方法により、霊長類音声の共通性および相違、発達段階での変化を明らかにする分析を進めている。これまでの共同利用研究と、ヒトの発達段階の音声を合わせて分析した結果では、系統や発達段階を反映すると考えられる音響的特徴の違いが示されつつある。特に、チンパンジーの音声は、ヒト幼児の音声と音響的特徴が近い可能性を示す分析結果を得ており、今年度の録音データを追加することで、明確な成果として示すことを目指している。


H29-A6
代:Kurnia Ilham
The effects of the physical characteristics of seeds on gastrointestinal passage time in captive long-tailed macaques
The effects of the physical characteristics of seeds on gastrointestinal passage time in captive long-tailed macaques

Kurnia Ilham

 I conducted feeding experiment to the captive female long-tailed macaque (N=5 individuals) at PRI Kyoto University to investigate the effect of seeds physical characteristic on their passage time. I used 5 different types of seeds (Melon, Kangkung, Small plastic seed, Medium plastic seed, and Egg plant) with varied dimensions. The different seed size might influence seed movement in the gastrointestinal system. Thus, gut passage time would be influence seed dispersal distance. I tested effect of seed types on the percentage of seed recovery and three variables related to passage time (MRT,TLA and TT). During the study i found the median seed recovery was about 3-32%. Among the three passage time variable, the mean retention (MRT: 24-109h), mean last seed appereance (TLA:13-136h) and the transit time (TT: 22-79h) were signifficantly differ among seed types. The mean rentention time for each seed types were also found significantly differ between individuals. Result of my study implies that havier seeds which have long retention time in the gut would be disperse far from the parent tree. On the contrary, lighter seeds are dispersed near the parent.


H29-A7
代:桃井 保子
協:花田 信弘
協:今井 奨
協:岡本 公彰
協:齋藤 渉
協:宮之原 真由
チンパンジーの口腔内状態の調査と歯科治療法の検討

論文

学会発表
齋藤渉,兼子明久,宮部貴子,友永雅己,桃井保子 京都大学霊長類研究所のチンパンジー1個体に生じた外傷歯に対する歯科処置と術後6年の経過(2017.6.8-9) 日本歯科保存学会2017年度学術大会(第146回)(リンクステーションホール青森).

関連サイト
鶴見大学歯学部 保存修復学講座 講座案内 http://dent.tsurumi-u.ac.jp/guide/course/clinic/270

鶴見大学歯学部 探索歯学講座 講座案内 http://dent.tsurumi-u.ac.jp/guide/course/basic/343
チンパンジーの口腔内状態の調査と歯科治療法の検討

桃井 保子 , 花田 信弘, 今井 奨 , 岡本 公彰 , 齋藤 渉, 宮之原 真由

 同研究所が飼育するチンパンジー14個体のうち,これまで12個体の口腔内診査 (視診,歯周ポケット検査,動揺度検査) を行い,歯科治療を要すると思われる個体をスクリーニングした.そのうち1個体 (処置時:26歳,雌) の上顎左側中切歯に,外傷による歯髄腔露出を伴う歯冠破折および唇側歯肉に瘻孔を認めた.デンタルX線撮影を行ったところ,根尖部歯根膜腔の拡大と根尖部の外部吸収を認め,慢性根尖性歯周炎と診断し,ヒト治療の通法通り根管治療を行った.処置直後のX線検査でガッタパーチャポイントによる緊密な根管充填を確認し,根面をコンポジットレジンで充填した.
 術後8ヶ月と6年での経過観察において瘻孔の消失が確認でき,X線検査で根尖部の外部吸収の進行は認められず,周囲骨組織の不透過性の亢進が確認された.術後6年では残存歯質は黒褐色に着色していたが,歯質表層の軟化は認められなかった.レジン修復は辺縁の一部にわずかな破折を認める程度で脱落や大きな破折は認められず,連続したステップや辺縁着色も認めなかった.
 以上から,チンパンジーの歯の破折と根尖性歯周炎に対して,ヒト歯と同じ処置が有効であることを確認した.本症例は喧嘩や転落等の外傷による破折に起因する根尖性歯周炎と思われる.ヒトに比べ極めて強い咬合力を有するチンパンジーに対して,接着性コンポジットレジン充填を根面のみに限局させ,咬合力がかかりにくいに形態に整復したことが,再破折と再感染を回避できた要因と考えている.



H29-A9
代:河野 礼子
オランウータン臼歯表面の皺を数量化する
オランウータン臼歯表面の皺を数量化する

河野 礼子

 オランウータンの大臼歯エナメル表面に特徴的な「皺(シワ)」について、その特徴や差異を検討するために、3次元デジタルデータをもちいてシワを数量的に評価することを試みた。歯冠全体をマイクロCT撮影したデータから得た表面形状データを利用した。今回は、オランウータン大臼歯7点と、比較のためにギガントピテクス大臼歯4点について、シワの程度を表す2つの変数を指標として比較した。「溝面積」は、溝を咬合面窩の表面形状データから平均曲率が0.4以上となる点として抽出して、咬合面窩全体の投影面積に占める割合として求めた。一方、「起伏度」は、咬合面窩の形状データを強度平滑化(9×9の移動平均を5回)し、前後の表面積の差を投影面積に対する比として評価した。起伏度は隆線の太いギガントピテクスの方が大きいという結果になり、オランウータン特有の細かいシワの評価には必ずしも適していない可能性が示唆されたが、溝面積はオランウータンのシワの多寡によく対応していた。今回抽出した溝の領域から「線」成分を抽出できれば、より細かいシワパターンの特徴を数量的に評価することができると期待される。


H29-A10
代:森本 直記
化石頭蓋形態の推定モデルの作成と検証
化石頭蓋形態の推定モデルの作成と検証

森本 直記

 遺伝的な情報が得られない化石種においては、類縁関係を推定するうえで形態情報が最も重要である。一方で、形態学的な解析にも限界がある。特に、定量分析に必要な解剖学的特徴が欠損している化石種を対象とする場合、現在広く用いられている幾何学的形態計測の手法が適用できない。本研究では、サイズ変異に伴う形態変異(アロメトリー)に着目し、現生種におけるアロメトリーのパターンを「外挿」することで、現生種にみられる形状変異をもとに化石種の形状を推定復元する手法を開発することを目的に研究を行った。
 今年度は、これまでに行ったアロメトリー解析の結果を補強するために、すでに取得済みのデータに加え、補完的にマカク・ヒヒのデータを取得し、定量解析の精度向上に努めた。その結果、前年度までに明らかにしていた、マカクとヒヒに共通なアロメトリーのパターンと、アロメトリーとは無関係な形態変異を確認した(添付画像、第1主成分1と第2主成分に対応)。現在、成果発表へ向けて準備を行っている。



H29-A11
代:宇賀 貴紀
代:三枝 岳志
協:須田 悠紀
判断を可能にする神経ネットワークの解明
判断を可能にする神経ネットワークの解明

三枝 岳志 , 須田 悠紀

 判断形成の神経メカニズムの理解には知覚判断、特にランダムドットの動きの方向を答える運動方向弁別課題を用いた研究が大きな役割を果たしてきた。運動方向を判断する際、大脳皮質中側頭(MT)野が動きの知覚に必要な感覚情報を提供していることは明らかであるが、MT野の情報がどこに伝達され、判断が作られているのかは未解明である。眼球運動を最終出力とする判断を司る脳領域として、大脳皮質外側頭頂間(LIP)野、前頭眼野(FEF)、上丘(SC)などが想定されており、これらの領野で判断関連活動が計測されている。しかし、LIP野を不活性化しても判断に影響はでず、判断関連活動と判断との因果関係が未解決な重要問題として捉えられている。本研究では、化学遺伝学的手法を用い、MT野からのどの出力経路が判断に必須であるかを調べることにより、判断を可能にする神経ネットワークを明らかにすることを目指す。今年度は本研究に必要な種々の準備を行った。具体的には、実験室・手術室の立ち上げ、DREADD実験に関連する各種申請を行い、サル1頭に運動方向弁別課題を訓練した。


H29-A11
代:三枝 岳志
判断を可能にする神経ネットワークの解明
判断を可能にする神経ネットワークの解明

三枝 岳志 , 須田 悠紀

 判断形成の神経メカニズムの理解には知覚判断、特にランダムドットの動きの方向を答える運動方向弁別課題を用いた研究が大きな役割を果たしてきた。運動方向を判断する際、大脳皮質中側頭(MT)野が動きの知覚に必要な感覚情報を提供していることは明らかであるが、MT野の情報がどこに伝達され、判断が作られているのかは未解明である。眼球運動を最終出力とする判断を司る脳領域として、大脳皮質外側頭頂間(LIP)野、前頭眼野(FEF)、上丘(SC)などが想定されており、これらの領野で判断関連活動が計測されている。しかし、LIP野を不活性化しても判断に影響はでず、判断関連活動と判断との因果関係が未解決な重要問題として捉えられている。本研究では、化学遺伝学的手法を用い、MT野からのどの出力経路が判断に必須であるかを調べることにより、判断を可能にする神経ネットワークを明らかにすることを目指す。今年度は本研究に必要な種々の準備を行った。具体的には、実験室・手術室の立ち上げ、DREADD実験に関連する各種申請を行い、サル1頭に運動方向弁別課題を訓練した。


H29-A12
代:藤山 文乃
協:苅部 冬紀
協:中野 泰岳
協:緒方 久実子
協:東山 哲也
霊長類の皮質ー基底核ー視床ループの形態学的解析

論文
Yoon-Mi OhFuyuki KarubeSusumu TakahashiKenta KobayashiMasahiko TakadaMotokazu UchigashimaMasahiko WatanabeKayo NishizawaKazuto KobayashiFumino Fujiyama(2017) Using a novel PV-Cre rat model to characterize pallidonigral cells and their terminations Brain Structure and Function 222:2359-2378.

霊長類の皮質ー基底核ー視床ループの形態学的解析

藤山 文乃 , 苅部 冬紀, 中野 泰岳, 緒方 久実子, 東山 哲也

 本研究では、最終的には霊長類での解明を目指しているが、パーキンソン病の原因物質であるドーパミンニューロンに、大脳基底核の淡蒼球外節細胞がどのように投射するのかを調べるために、所内対応者の高田昌彦教授にパルブアルブミン(PV)発現細胞特異的にCreを発現するPV-CreRatを提供していただいた。このラットを使用して、淡蒼球外節パルブアルブミンニューロンの終末が黒質緻密部の特定の領域に優位に分布することを明らかにした。さらに、淡蒼球外節のパルブアルブミン細胞の活性化によって黒質緻密部のドーパミン細胞が強く抑制されることを電気生理学的に証明した(Oh, Karube et al., Brain Structure and Function, 2017)。
 現在は所内対応者の高田昌彦教授にご提供いただいたマーモセットを用いた実験を進めている。この研究によって、動物種を超えたドーパミンニューロンへの調節制御が明らかになると考えている。



H29-A13
代:石垣 診祐
協:遠藤 邦幸
FUS抑制マーモセットモデルにおける高次脳機能解析
FUS抑制マーモセットモデルにおける高次脳機能解析

石垣 診祐 , 遠藤 邦幸

 ヒトのFTLD患者で確率逆転学習において特異的な所見が存在したことから、これに類する高次脳機能行動バッテリーの開発を霊長類研究所で行い、実際のモデルを用いた研究を名古屋大学医学研究科で実施するために、マーモセットの飼育を開始し、高次脳機能解析のセットアップを行った。 マーモセットの飼育室内で5回/週を上限として1頭あたり1回に1時間程度の行動実験訓練を合計で8頭に対し開始した。具体的にはマーモセットの飼育ケージの前面扉に認知実験装置を装着し、マーモセットに画面をタッチさせることで実験を行った。 マーモセットに1対の視覚刺激を提示して、その1つをタッチすると報酬が与えられる。他方にタッチすると誤反応となる。 この図形弁別課題を学習させた後、逆転学習課題を実施する予定である。ヒトの患者で用いている確率逆転学習課題に類似した課題の開発にも着手した。


H29-A14
代:齋藤 亜矢
芸術表現の霊長類的基盤に関する研究
芸術表現の霊長類的基盤に関する研究

齋藤 亜矢

 チンパンジーとアーティストが共同で絵画を制作する試みから、それぞれの描画表現の特徴を明らかにする研究の1年目として実施した。チンパンジーが描いた絵にアーティストが加筆する、アーティストが描いた絵にチンパンジーが加筆する、という2つの条件で、それぞれの絵の特徴や制作のプロセスを比較するものである。今年度は、相互に制作プロセスが見える条件で実施する本実験に先だって、制作プロセスを見せず、描いた絵のみで加筆のやりとりをする予備実験をおこなった。まずアーティストに自由に絵を描いてもらい、その様子を映像で記録した。次に、チンパンジーのアイに、その絵に加筆してもらった。アイはすでに絵が描かれた部分を避けてふちどるようになぐりがきをした。2018年度にも研究を継続し、相互に制作プロセスが見える条件での実験にすすむ予定である。また当該年度は、霊長類研究所のチンパンジーの過去の絵画作品の電子データ化も進めた。そのほか、チンパンジーの絵画作品を沖縄科学技術大学院大学で実施された人工知能美学芸術展への出品、日本モンキーセンターで開催中の霊長類アート展への出品と展示協力をおこなった。


H29-A15
代:田中 真樹
協:竹谷 隆司
協:鈴木 智貴
協:亀田 将史
行動制御における皮質下領域の機能解析

論文
Suzuki, T.W. & Tanaka, M.(2017) Causal role of noradrenaline in the timing of internally-generated saccades in monkeys. Neuroscience 366:15-22. 謝辞なし

Takeya, R., Kameda, M., Patel, A.D. & Tanaka, M.(2017) Predictive and tempo-flexible synchronization to a visual metronome in monkeys. Sci Rep 7:6127. 謝辞なし

Ohmae, S., Kunimatsu, J. & Tanaka, M.(2017) Cerebellar roles in self-timing for sub- and supra-second intervals. J Neurosci 37:3511-3522. 謝辞なし

Uematsu, A., Ohmae, S. & Tanaka, M.(2017) Facilitation of temporal prediction by electrical stimulation to the primate cerebellar nuclei. Neuroscience 346:190-196. 謝辞なし
行動制御における皮質下領域の機能解析

田中 真樹 , 竹谷 隆司, 鈴木 智貴, 亀田 将史

 大脳皮質の機能は視床を介した小脳や大脳基底核からの皮質下信号によって調節されている。分子ツールをニホンザルに適用した複数の実験を進め、小脳外側部と大脳視床経路の機能を探ることを目的に研究を進めてきた。実験1では小脳に化学遺伝学的手法を適用することを予定していたが、CNOの副作用の問題もあり、H29年度は遺伝子導入は行わず、予備実験として小脳核ニューロンの記録実験を行った。実験2では、視床-大脳間の情報処理を明らかにするため、大脳視床路を光遺伝学的に抑制することを試みた。前年度に京大からウイルスベクターを提供していただき、H29年前半まで北大で遺伝子導入個体を用いて光刺激実験を行った。遺伝子導入後半年ほどで反応性が悪くなり、H29年7月に組織採取して京大で免疫組織学的検討を行ったところ、ベクター接種部位の多くの細胞が脱落していることが分かった。導入遺伝子の発現量が多いため、長期的に細胞死を引き起こすものと考え、接種後早期の発現を京大で再確認していただいた。結果、同株のベクターでは接種後約1か月の時点では細胞死はみられず、導入遺伝子の強発現が見られることが確認できたため、年明けから再度ベクターを作成していただいた。その間、北大にて新たな個体を用意して課題の訓練と補足眼野のマッピングを行い、H30年度4月初旬に2頭目への遺伝子導入を行った。今後、遺伝子発現を待って、光刺激実験を再開する。


H29-A16
代:福田 真嗣
協:福田 紀子
協:村上 慎之介
協:伊藤 優太郎
協:石井 千晴
脳機能におよぼす腸内細菌叢の影響
脳機能におよぼす腸内細菌叢の影響

福田 真嗣 , 福田 紀子, 村上 慎之介, 伊藤 優太郎, 石井 千晴

 ヒトを含む動物の腸内には、数百種類以上でおよそ100兆個にも及ぶとされる腸内細菌が生息しており、その集団を腸内細菌叢と呼ぶ。腸内細菌叢は宿主腸管と密接に相互作用することで、複雑な腸内生態系を構築しており、宿主の生体応答に様々な影響を及ぼしていることが報告されている。近年、無菌マウスを用いた研究や抗生物質を投与したマウスを用いた研究において、腸内細菌叢が脳の海馬や扁桃体における脳由来神経栄養因子(BDNF)の産生量に影響を与え、その結果マウスの行動に変化が現れることが報告されている(Heijtz, et al., PNAS, 108:3047, 2011)。これは迷走神経を介した脳腸相関に起因するものであることが示唆されているため、腸内細菌叢が宿主の脳機能、特に情動反応や記憶力に影響を及ぼす可能性が感がえられる。しかし、マウスを用いて情動反応や記憶力と腸内細菌叢との関係を調べるには、げっ歯類では限界があると考えられることから、本研究では小型霊長類であるコモンマーモセットに着目し、高次脳機能、特に情動反応や記憶力と腸内細菌叢との関係について解析を行った。本年度は高次脳機能評価を行うための課題訓練と、図形弁別課題およびその逆転学習課題を訓練した。さらに、記憶機能を検討するため空間位置記憶課題も訓練した。これらのマーモセットの便を採取し、次世代シーケンサーを用いて腸内細菌叢解析を行った。得られた腸内細菌叢情報と認知機能情報について、相関解析や多変量解析手法を用いてアプローチし、認知機能に関連する腸内細菌叢の探索を行った。


H29-A17
代:Tshewang Norbu
Ecological and phylogeographical study on Assamese macaques in Bhutan
Ecological and phylogeographical study on Assamese macaques in Bhutan

Tshewang Norbu

 I investigated mitochondrial DNA (mtDNA) variations of the macaques inhabiting along two major river systems (Amochhu and Wangchhu) in the west of Bhutan. In this study, I aimed to focus on whether the distribution of rhesus and Assamese macaques were sympatric or allopatric in the study area. In addition, the analysis of samples taken from Sakten area in the east of Bhutan was also preliminarily done for comparative study. Following previous methodology, samples extracted from fecal materials were subjected to sequencing of mtDNA non-coding region and to alignment with previous data for the phylogeographical assessment. The result suggested that the habitat of rhesus macaques is restricted to the bordering area with India in less than 300 m asl (above sea level). Distribution of Assamese macaques is dominated in other study sites of west Bhutan in this study. Thus, the zoogeographical distribution of the two macaques is likely to be allopatric or parapatric at least in west Bhutan. Meanwhile, river system specific haplogroup, known in the central mountainous area of Honshu island in Japan, was unclear in west Bhutan. Though sex identification was incomplete for obtained samples, this result was supported only by female samples for which sexing by PCR succeeded. Therefore, it may not be reasonable to explain the evolutionary change of Assamese macaques in the study area only by unidirectional population expansion along the river systems. In the preliminary examination for the samples from Sakten area in east Bhutan, I detected several mtDNA haplotypes that had not been found in previous study. It is necessary to increase the numbers of study sites and samples in future to evaluate phylogeographical status of monkeys living in the area.


A map showing the major river systems in Bhutan. I investingated macaque populations along Amochhu and Wangchhu rivers in west Bhutan in this study.


H29-A18
代:橋本 均
協:中澤 敬信
協:笠井 淳司
長類脳の全細胞イメージングと神経回路の全脳解析

論文
Kaoru Seiriki, Atsushi Kasai, Takeshi Hashimoto, Wiebke Schulze, Misaki Niu, Shun Yamaguchi, Takanobu Nakazawa, Ken-ichi Inoue, Shiori Uezono, Masahiko Takada, Yuichiro Naka, Hisato Igarashi, Masato Tanuma, James A. Waschek, Yukio Ago, Kenji F. Tanaka, Atsuko Hayata-Takano, Kazuki Nagayasu, Norihito Shintani, Ryota Hashimoto, Yasuto Kunii, Mizuki Hino, Junya Matsumoto, Hirooki Yabe, Takeharu Nagai, Katsumasa Fujita, Toshio Matsuda, Kazuhiro Takuma, Akemichi Baba, Hitoshi Hashimoto(2017) High-Speed and Scalable Whole-Brain Imaging in Rodents and Primates Neuron 94(6):1085-1100.

学会発表
Atsushi KASAI, Kaoru SEIRIKI, Takeshi HASHIMOTO, Misaki NIU, Shun YAMAGUCHI, Yuichiro NAKA, Hisato IGARASHI, Masato TANUMA, Takanobu NAKAZAWA, Ken-ichi INOUE, Masahiko TAKADA, Katsumasa FUJITA, Hitoshi HASHIMOTO FAST, High-speed serial-sectioning imaging for whole brain analysis with high scalability(2017年11月13日) Neuroscience2017(ワシントンDC(米国)).

Atsushi Kasai FAST, high-speed serial-sectioning imaging for whole-brain analysis with high-scalability(2018年3月10日) 日本薬理学会関東部会(次世代薬理学セミナー)(東京).
長類脳の全細胞イメージングと神経回路の全脳解析

橋本 均 , 中澤 敬信, 笠井 淳司

 本年度は、我々が最近開発した、サブミクロンの空間解像度の全脳イメージングを世界最速で行うことが可能な光学顕微鏡システムFASTを用いて、成体マーモセット脳を単一細胞レベルで観察した。それらの画像データから、脳形態や細胞密度の違いを検出することに成功した。ヒト脳とげっ歯類の脳構造。機能には異なる点が多く、ヒト脳機能や治療法確立のためには、その間を橋渡しする霊長類の脳解析として極めて重要である。また、昨年度の回路構造の結果と合わせ、本成果を論文化した(Seiriki et al. Neuron, 94:1085-1100 (2017))。


H29-A19
代:南部 篤
協:畑中 伸彦
協:知見 聡美
協:佐野 裕美
協:長谷川 拓
協:纐纈 大輔
協:若林 正浩
協:Woranan Wongmassang
協:Zlata Polyakova
遺伝子導入法による大脳基底核疾患の病態に関する研究
遺伝子導入法による大脳基底核疾患の病態に関する研究

南部 篤 , 畑中 伸彦, 知見 聡美, 佐野 裕美, 長谷川 拓, 纐纈 大輔, 若林 正浩, Woranan Wongmassang, Zlata Polyakova

 パーキンソン病の病態を明らかにするため、ドーパミン作動性神経細胞に選択的に働く神経毒であるMPTP (1-methy-4-phenyl-1,2,3,6-tetrahydropyridine) の投与により作製したパーキンソン病モデルサルの神経活動を覚醒下で記録した。大脳基底核の出力部である淡蒼球内節では、自発発火頻度に変化はなく、大脳皮質運動野の電気刺激に対する応答様式が変化していた。この結果は、出力部の平均発火頻度の変化ではなく、大脳皮質-大脳基底核経路を介した淡蒼球内節における一過性のphasicな伝達様式の異常が、パーキンソン病症状の発現に寄与していることを示唆している。即ち、以下のような病態メカニズムにより、無動や寡動が起こると考えられる。淡蒼球内節はGABA作動性の抑制性ニューロンで構成され、常時連続発火することによって、その投射先である視床と大脳皮質を抑制している。正常な状態では、直接路を介した入力によって淡蒼球内節が一時的に抑制されると、脱抑制によって視床と大脳皮質の活動が増大し運動を起こす。一方、パーキンソン病では大脳皮質からの入力によって淡蒼球内節が十分に抑制されず、視床と大脳皮質に対する抑制を解除出来ないと考えられる。


H29-A21
代:筒井 健一郎
協:大原 慎也
協:中村 晋也
協:細川 貴之
サル内側前頭葉を起点とする領域間回路の解析とうつ病モデルの創出
サル内側前頭葉を起点とする領域間回路の解析とうつ病モデルの創出

筒井 健一郎 , 大原 慎也, 中村 晋也, 細川 貴之

 京都大学霊長類研究所の高田昌彦教授の研究室を訪れ、設備について見学をし確認をするとともに、高田教授および井上謙一助教と研究計画について話し合った。具体的には、まず、過去の知見を参考にしながら、神経トレーシング実験におけるウイルスベクターの注入部位を、各標的脳領域(前部帯状皮質、扁桃体、側坐核)毎に検討した。さらに、実際に用いるウイルスベクターやその組み合わせについて検討した。今後は、これらの検討に基づき神経トレーシング実験を行い、その結果を受けて経路選択阻害実験に着手する予定である。


H29-A22
代:石田 裕昭
協:西村 幸男
マカクザル前頭極の多シナプス性ネットワークの解明
マカクザル前頭極の多シナプス性ネットワークの解明

石田 裕昭 , 西村 幸男

 前頭極 (Brodmann area 10; BA10)は霊長類の前頭前野に固有の最前端領域で、ヒト脳において最も大きく発達している。本研究はサル脳を用いて、BA10の大脳基底核のループ回路の構造を明らかにするために、順行性、逆行性コンベンショナル・トレーシング法と狂犬病ウイルスを用いた逆行性越シナプス・トレーシング法を組み合わせ、マカクザルBA10の2次シナプスまでの神経ネットワークを解析した。BDA(biotinylated dextran amines)を用いBA10から大脳基底核への順行性投射を調べた結果、前部(head)および後部(body, tail)尾状核、視床下核腹内側部に神経終末が認められた。次にFB(fast blue)と狂犬病ウイルスを用い、大脳基底核からBA10への1次、2次シナプス投射をそれぞれ調べた。その結果、FBによる逆行性1次ラベルは、視床MDmcと内側視床枕に認められた。狂犬病ウイルスによる2次シナプスのラベルは、主に黒質網様部 (SNr)の背外側部および腹内側部の両方に認められた。前部淡蒼球内節(GPi)の背側部と腹側部にラベルが認められた。データの詳細は現在解析中である。今後はBA10と大脳基底核のループ回路の構造を3次シナプスまで解明し、BA10と大脳基底核の機能連関を明らかにする。


H29-A23
代:伊村 知子
ヒトとチンパンジーにおける「平均」の知覚に関する比較認知研究
ヒトとチンパンジーにおける「平均」の知覚に関する比較認知研究

伊村 知子

 昨年度(2016年度)の共同利用研究に続いて、場面全体の特徴の「平均」を瞬時に知覚する能力の1つであるアンサンブル知覚についてチンパンジーとヒトを対象に検討した。その結果、複数の対象の大きさの「平均」だけでなく、複数の対象の鮮度のような質感の「平均」も知覚できる可能性が示唆された。これまでの成果を論文等にまとめて発表した(Imura, Kawakami, Shirai, & Tomonaga, 2017, Proceedings of Royal Society B; 伊村知子・友永雅己, 2017, 科学)。
 一方、年度の後半には、鮮度以外の質感知覚の感度を詳細に検討するため、チンパンジー2個体を対象に、CGを用いて作成した人工物の光沢の強さの識別課題を実施した。画面に呈示された4枚の物体の画像の中から、1枚だけ光沢の強さが異なるものを選択させた。その結果、チンパンジーは、光沢の強さの違いを識別するのが困難であった。食物の鮮度にまつわる光沢の違いを識別したのに対し、人工物の光沢の強さを識別しなかった理由については、今後さらに検討する必要がある。



H29-A24
代:Islamul Hadi
Hot-spring bathing Behavior of Long-Tailed Macaques and Japanese Macaques: A Comparative Study
Hot-spring bathing Behavior of Long-Tailed Macaques and Japanese Macaques: A Comparative Study

Islamul Hadi

 I conducted observation in Jigokudani Monkey Park, Nagano in 2 to 6 of December 2017. During this observation, I counted 160 individuals of provisioned Japanese macaque live in the park. During four days observation, I found some individuals of Japanese macaque took bathe in the man-made hotspring pool in the park. I recorded 292 minutes of duration of hotspring bathing exhibitted by monkeys. The behavior also exhibitted in 23 session during 4-days observation. The behavior is mostly occured in the morning and aftenoon. The duration of behavior each session vary within 1 to 63 minutes with the mean 12.7 minutes per session. Number of individuals those took bathe in the hot-spring pool were 1 to 20 individuals per session. The adult females and juveniles were most frequent to be observed took bathe.Compared to long-tailed macaque in Mt. Rinjani, Lombok-Indonesia in August 2008, where the hot-spring bathing behavior also reported, the Japanese macaque spent longer duration to take bathe than those in long-tailed macaque (10.7 minutes) and 3 session within 3-days observation. Four to six individuals ( adult males, adult females, sub-adult males) were exhibitted the behavior. The hot-spring bathing in long-tailed macaque observed only occured during morning, while Japanese macaques did both inthe morning and afternoon.


Two adults long-tailed macaques took hotspring bathing in Pengkereman of Mount Rinjani Lombok Indonesia


Sub-adult males and juvenile of Long-tailed macaques took hotspring bathing in Pengkereman of Mount Rinjani Lombok Indonesia


Two adult females and juvenile of Japanese macaque took hotspring bathing in Jigokudani Monkey park


H29-A25
代:Hao Luong Van
Phylogeograpical study of the slow loris for conservation and reintroduction

学会発表
Tanaka H, Luong HV, San AM, Hamada Y Development of a mitochondrial marker for conservation genetics of slow loris(2017.7.15-17) 日本霊長類学会大会(福島市).
Phylogeograpical study of the slow loris for conservation and reintroduction

Hao Luong Van

 The slow loris is listed as ‘Vulnerable’ in the IUCN Red List because they are being overhunted for the illegal pet trade, used for meat and as ingredients of traditional medicine. In Vietnam, two species (Nycticebus bengalensis and N. pygmaeus) are found. The Center for Rescue and Conservation of Organisms (CRCO) of Hoang Lien National Park protects diverse organisms, including the slow loris, and tries to reintroduce them to the wild. However, it is hard to get information about the original habitat of confiscated animals. The purpose of the study is to accumulate mtDNA sequence data from slow loris of known origin, in order to establish a tracking system that infers the origin of these protected animals using DNA information.
 In 2017, I analyzed nine slow lorises (N. bengalensis: n=5, N. pygmaeus: n=4) that had been protected at CRCO. DNA extraction was carried out using hair samples. Two-step PCR was performed in order to avoid amplifying NUMT as follows: firstly, we amplified the 9 kb region of mtDNA by Long-PCR using total DNA, and next the target 1.8 kb region spanning a full length of cyt b gene and HVS1 of D-loop was amplified by using a long-PCR product as template DNA. DNA sequencing was performed with 3130 Genetic Analyzer. The sequence data obtained here was aligned with dataset that included the samples of two species from northern Vietnam collected in 2014 and 2015 and samples of N. bengalensis from Myanmar (n=2) and Laos (n=1). Loris tardrigradus (GenBank Accession No. AB371094) was used as an outgroup and three species of slow loris (N. bengalensis: NC_021958, N. coucang: NC_002765, and N. pygmaeus: KX397281) were analyzed for comparison.
 The result of phylogenetic analysis showed the suggestive data. All the individuals of N. pygmaeus had the identical sequence for the target mtDNA region even though the target sequence is the most variable region in mtDNA. Two individuals of N. bengalensis protected in Soc Son Rescue Center, Hanoi were closely related to the GenBank sequence of N. coucang. The GenBank sequence of N. bengalensis connected to the above cluster of N. coucang + two individuals from Hanoi, hence this sequence data is questionable about the identification of species. The genetic marker used in this study is can be applicable to the phylogeogaraphy study of N. bengalensis because it showed intra-specific variations.



H29-A26
代:諏訪 元
協:佐々木 智彦
協:小籔 大輔
協:清水 大輔
人類出現期に関わる歯と頭蓋骨の形態進化的研究
人類出現期に関わる歯と頭蓋骨の形態進化的研究

諏訪 元 , 佐々木 智彦, 小籔 大輔, 清水 大輔

 前年度中に新たに発見されたチョローラ層出土の類人猿化石の同定と初期評価を進めると共に、ラミダスとアウストラロピテクス各種、さらには中新世類人猿のウラノピテクス、ヒスパノピテクス、プロコンスル等について、ベーズ法による犬歯の性差の数量解析を行った。それぞれの種において、雌雄ごとの歯冠最大径の平均値と雌雄共通の分散対数値を推定し、サンプルと性内の変異(それぞれ変動係数)と雌雄平均値比の確立密度分布をMCMC法で導出し、現生の類人猿とヒトの性差と比較した。結果、中新世の類人猿は、ウラノピテクスが最小であったが、それでも現生大型類人猿程度、ヒスパノピテクスとプロコンスルはゴリラ程度かそれ以上の大きな性差を示した。初期人類では、かつてはサンプル変動係数が大きいため、性差がボノボ程度に大きいと報告されていたアファレンシス始め、アウストラロピテクスの各種はそれぞれ現代人に近い小さな性差を持つことが示された(雌雄の平均比が1.12から最大1.16程度)。ラミダスの犬歯の歯冠径の性差についても同程度の推定結果が得られ、Suwa et al.(2009)による簡易推定の結果を検証すると共に、雄の犬歯サイズの縮小が人類の系統の初期に起きたとする仮説を改めて支持する結果が得られた。


H29-A27
代:植木 孝俊
協:尾内 康臣
高等霊長類成体脳神経新生の動態と機能のin vivo解析技術の創出
高等霊長類成体脳神経新生の動態と機能のin vivo解析技術の創出

植木 孝俊 , 尾内 康臣

 カニクイザルのgenomicライブラリーよりサルの神経幹細胞で特異的に遺伝子発現を誘導するためのnestin遺伝子プロモーターと同エンハンサーをクローニングし、その活性をマーモセットの神経幹細胞初代培養系で確認した後、名古屋市立大学にてEGFP発現レンチウイルスおよびHSV1-sr39tk発現レンチウイルスを脳海馬歯状回に顕微注入し、その神経幹細胞特異的な発現を免疫組織化学的に確認した。次年度には、これらサルに適用可能な遺伝子発現系の構築を踏まえ、成体脳神経新生動態のPETイメージングおよび神経新生障害病態モデルの作出・症状解析を開始することができる見込みである。


H29-A28
代:小林 和人
協:菅原 正晃
協:加藤 成樹
協:渡辺 雅彦
協:内ヶ島 基政
協:今野 幸太郎
ウイルスベクターを利用した神経回路操作技術による霊長類脳機能の解明
ウイルスベクターを利用した神経回路操作技術による霊長類脳機能の解明

小林 和人 , 菅原 正晃, 加藤 成樹, 渡辺 雅彦, 内ヶ島 基政, 今野 幸太郎

 霊長類の高次脳機能の基盤となる脳内メカニズムの解明のためには、複雑な脳を構成する神経回路の構造とそこでの情報処理・調節の機構の理解が重要である。我々は、これまでに、高田教授の研究グループと共同し、マカクザル脳内のニューロンに高頻度な逆行性遺伝子導入を示すウイルスベクター (HiRet/NeuRetベクター)を開発するとともに、これらのベクターを用いて特定の神経路を切除する遺伝子操作技術を開発した。また、高田教授・中村教授との共同研究により、コモンマーモセットを用いた脳構造と機能のマップ作製の研究を推進するために、HiRet/NeuRetベクター技術はマーモセット脳内においても高効率な遺伝子導入を示すことを明らかにした。本年度は、視床線条体路の選択的除去を誘導するための予備実験として、融合糖タンパク質E型 (FuG-E) を用いてシュードタイプ化したNeuRetベクターを作成し、これをマーモセットの尾状核と被殻のそれぞれに注入し、ベクターの導入パターンを解析した。尾状核への注入は束傍核を標識し、被殻への注入は内側中心核を標識し、両者の経路が選択的な投射パターンを持つことを明らかにした。視床線条体路を欠損する動物を用いて、運動機能と認知機能を評価するための予備実験として、野生型マーモセットの視覚弁別課題のテストを行った。認知機能の評価には、中村教授によって開発されたマーモセットの認知機能のテストバッテリーを利用した。
 逆行性導入に関わる新規の融合糖タンパク質機能を評価するために、FuG-E型糖タンパク質の変異体を用いて作成したウイルスベクターをマーモセット脳内に注入し、従来のFuG-E型ベクターの効率と比較検討した。FuG-E変異体については、N末端より440番目のアミノ酸をグルタミン酸に変異させたタンパク質(FuG-E/P440E)がマウス脳内への遺伝子導入が最も高い効率を示すことから、このベクターをマーモセット線条体に注入した結果、大脳皮質、視床、黒質の多数の神経細胞への遺伝子導入を確認した。



H29-B1
代:島田 将喜
協:古瀬 浩史
協:坂田 大輔
奥多摩湖周辺の野生ニホンザル「山ふる群」の調査と環境教育
奥多摩湖周辺の野生ニホンザル「山ふる群」の調査と環境教育

島田 将喜 , 古瀬 浩史, 坂田 大輔

 2013年度から継続されてきた山ふる群を対象とするフィールド調査を実施した。昨年度まで80数頭程度で安定していた集団サイズについて、今年度山ふる群の推定最大頭数は66頭であり、昨年度までからは大きく減少した。サルの直接観察が十分ではなかったものの、今年度採食回数が多かった食物は、草本類、オニグルミの種子、つる性植物であった。前年度に引き続き、山ふる群のサルが民家付近の農作物や果樹などを採食する行動は、一度も観察されなかった。遊動域は山のふるさと村を中心とする狭い範囲に集中しており、昨年度までと異なりダムサイトへの出現が認められなかった。解放水域を除く推定遊動面積は13.0km2であった。他地域の野生ニホンザルの遊動域面積に比べて広いと考えられるが、2015年度の推定遊動面積33.0km2をピークに2年連続で前年度より少なく見積もられた。現在の山ふる群の遊動域は、民家の多い湖北に向かって大きくなった事実はなく、自然林に近い南~南東に向かって広がっていると考えられる。集団サイズと遊動面積の減少は、山ふる群の分裂の可能性を示唆するものである。調査中にそうした兆候に観察者が気づいたことはなかったが、今後も調査を継続することによって、分裂が現実に生じたのか、これまでも頻繁に観察されてきた分派が常態化しているだけなのかについて、手掛かりを得る必要がある。


H29-B2
代:Heui-Soo Kim
協:Hee-Eun Lee
Epigenomics and Evolutionary Analysis of HERV-K LTR elements in various primates

論文
Yi-Deun Jung, Hee-Eun Lee, Ara Jo, Imai Hiroo, Hee-Jae Cha, Heui-Soo Kim( 2017) Activity analysis of LTR12C as an effective regulatory element of the RAE1gene Gene 634: 22-28.

学会発表
Hee-Eun Lee, Hee-Jae Cha, Imai Hiroo, Heui-Soo Kim Comparison of Human Endogenous Retrovirus K Expression in Various Tissues of Primates and Humans( 2017.02.08-2017.02.10) The 13th KOGO winter Symposium 2017( HongCheon, Republic of Korea).

Hee-Eun Lee, Hee-Jae Cha, Takashi Hayakawa, Imai Hiroo, Heui-Soo Kim Correlation of Human Endogenous Regrovirus K (HERV-K) Expression in Various Tissues of Primates and Human( 2017.08.03-2017.08.04) The 58th Annual Meeting and International Symposium of Korean Society of Life Science( Gyeongju, Republic of Korea).

Hee-Eun Lee, Hee-Jae Cha, Takashi Hayakawa, Imai Hiroo, Heui-Soo Kim Analysis of Human Endogenous Retrovirus K (HERV-K) Expression in Primates and Human( 2017.08.09-2017.08-10) The 72th Annual Meeting of The Korean Association of Biological Sciences(Yongin, Republic of Korea).

Hee-Eun Lee, Hee-Jae Cha, Takashi Hayakawa, Imai Hiroo, Heui-Soo Kim Human Endogenous Retrovirus K (HERV-K) Expression in Primates including Human( 2017.10.26-2017.10.27) International Conference of the Genetics Society of Korea 2017( Seoul, Republic of Korea).

Hee-Eun Lee, Yi-Deun Jung, Yuri Choi, Hee-Jae Cha, Heui-Soo Kim Activity Analysis of an LTR12C as a productive regulatory element in RAE1 Gene( 2017.10.26-2017.10.27) International Conference of the Genetics Society of Korea 2017( Seoul, Republic of Korea).
Epigenomics and Evolutionary Analysis of HERV-K LTR elements in various primates

Heui-Soo Kim , Hee-Eun Lee

 Human endogenous retroviruses (HERVs) and related sequences account for ~8% of the human genome. It is thought that HERVs are derived from exogenous retrovirus infections early in the evolution of primates. HERV-K is the most biologically active family because it retains the ability to encode functional retroviral proteins and produce retrovirus-like particles. To better understand the regulatory mechanism of HERV-K expression, we characterize the structure of HERV-K50F family LTRs (sequences, transcription factors binding). The sequence of human HERV-K50F was analyzed to check the difference of the structures with various primates. The structures of each HERV-K50F in primates including human was different. Orangutan had shorter LTRs compared with others. Additionally, for the epigenetics studies, the HERV-K50F sequence was analyzed to check the CpG islands. There were some CpG sites and we were able to get the methylation primer including 10 CpG sites. For the further studies, we will continue the methylation studies in primates, and a new project about the miRNAs.


H29-B3
代:古川 貴久
協:大森 義裕
協:茶屋 太郎
霊長類の網膜の形成と維持を制御する分子機能の解析
霊長類の網膜の形成と維持を制御する分子機能の解析

古川 貴久 , 大森 義裕, 茶屋 太郎

 私達は、アカゲザルまたは、ニホンザルなどの霊長類の網膜の遺伝子発現解析を行うことで、黄斑に特異的に発現する遺伝子群の同定を試みた。現在、平行して黄斑を持つ脊椎動物である、鳥類モデルの黄斑の研究を進めている。これら二つの生物種から得られた情報を統合することで、黄斑の形成・維持の普遍的なメカニズムを解明する。
 本年度は、新生仔のアカゲザル2頭、生後2年のニホンザル2頭の眼球を採取した。まず、眼球を摘出し、ハサミ等で解剖し網膜組織を単離した。網膜を黄斑を含む中央部分と、周辺部分(上下内側外側)の領域に分けサンプルとして凍結保存した。これらの組織からTrizol試薬を用いてRNAを精製した。得られたtotal RNAを用いて逆転写酵素によりcDNAを合成した。内在性遺伝子のコントロールとしてはGAPDHを用いた。黄斑部で少ない桿体視細胞に発現する遺伝子であるRhodopsinのプライマーを用いてQPCR解析を行ったところ、Rhodopsinの発現は黄斑部分では遺伝子発現が有意に低下していることを確認した。現在、中心窩部分での発現が変動する遺伝子の候補に対するプライマーを用いて遺伝子発現の変化の観察を行っている。これらの研究を進めることでヒトを含む霊長類において黄斑部位の形成や維持に重要な遺伝子を見出すことが期待される。



H29-B5
代:佐藤 佳
協:小柳 義夫
協:三沢 尚子
協:中野 雄介
協:中川 草
協:上田 真保子
霊長類ゲノム解析を通したウイルス感染制御遺伝子の進化に関する研究
霊長類ゲノム解析を通したウイルス感染制御遺伝子の進化に関する研究

佐藤 佳 , 小柳 義夫, 三沢 尚子, 中野 雄介, 中川 草, 上田 真保子

 申請者を含めたこれまでの先行研究から、インターフェロンを含めた自然免疫関連遺伝子や、APOBEC3やtetherinと呼ばれる内因性免疫遺伝子が、レンチウイルスの複製制御に寄与していることが、ウイルス学的実験から明らかとなっている。そして、興味深いことに、これらの遺伝子は進化的に正の選択を受けており、種によって配列が多様である。本申請研究では、レンチウイルスの複製制御に寄与している霊長類の遺伝子配列情報を同定し、その進化的意義を分子進化学的手法により明らかにすることを目的とする。本年度は、検体分与の可能性も含め、共同研究の方向性について、霊長類研究所において、今井准教授らと共同研究打ち合わせを実施した。


H29-B6
代:城戸 瑞穂
協:合島 怜央奈
協:吉本 怜子
口腔における感覚受容機構の解明
口腔における感覚受容機構の解明

城戸 瑞穂 , 合島 怜央奈, 吉本 怜子

 適切な口腔感覚は、哺乳・摂食・情報交換など行動の基盤として重要な役割を果たしている。ところが、温度感覚や唐辛子や胡椒などのスパイスなどのへ感覚、あるいは、触圧感覚などについてはほとんど理解されていない。これまでマウスを対象として研究を進めてきた結果、口腔の上皮にセンサーであるtransient receptor potential channel(TRPチャネル)の発現があること、粘膜に分布する神経線維にも発現が認められること、また炎症等により粘膜に分布する神経線維の分布が増加すること等がわかってきた。そこで、霊長類における口腔感覚機構解明を狙い、センサーの発現を明らかにするため、条件検討を進めた。本年度は、対照組織としてニホンザルの新たな採材の機会があり、口腔組織および三叉神経節を得た。そこで、実験条件の検討を進めることができた。さらに、新たな抗体も精製が進んだことから、霊長類での発現解析の条件検討を工夫しているところである。齧歯類では安定している一方で霊長類組織では、タンパク発現については検討に時間を要しており、感度の高い方法等での検討をさらに進める予定である。


H29-B7
代:山下 俊英
協:貴島 晴彦
サル脊髄損傷モデルを用いた軸索再生阻害因子とその抗体による神経回路修復に関する研究
サル脊髄損傷モデルを用いた軸索再生阻害因子とその抗体による神経回路修復に関する研究

山下 俊英 , 貴島 晴彦

 脊髄損傷後に軸索再生阻害因子のひとつであるRGMの発現が損傷周囲部に増加していることをサルモデルを用いて明らかにするとともに、このRGMの機能を阻害することによって運動機能が回復することを検証した。すなわち、脊髄損傷後のRGM作用を抑制することにより、神経可塑的変化が促進され、運動機能回復につながることが示唆された。本研究成果は、原著論文としてCerebral Cortex誌に受理された。
Nakagawa H, Ninomiya T, Yamashita T, Takada M (2018) Treatment with the neutralizing antibody against repulsive guidance molecule-a promotes recovery from impaired manual dexterity in a primate model of spinal cord injury. Cereb Cortex, in press.



H29-B8
代:浅川 満彦
協:萩原 克郎
東北および四国地方に生息するニホンザル(Macaca fuscata)の寄生虫症および感染症に関する疫学調査

論文
浅川満彦・外平友佳理・岡本宗裕(2017) 輸入サル類の潜在的な寄生虫病-特に、医学用実験動物として利用されるカニクイザル Macaca fascicularis の検疫中に斃死した事例を参考に エキゾチックペット研究会誌 19:17-20. 謝辞有り

学会発表
浅川満彦, 羽山伸一, 岡本宗裕 ニホンザル(Macaca fuscata)における寄生蠕虫相の概要-特に、最近の東日本における調査から判明した地理的分布域に関して(2017年4月9日) 第72回日本生物地理学会年次大会(東京大学弥生キャンパス).

浅川満彦, 羽山伸一, 岡本宗裕 東日本におけるニホンザル(Macaca fuscata)の寄生蠕虫相(概要)(2017年7月15-17日) 第33回日本霊長類学会大会(福島).

関連サイト
酪農学園大学野生動物医学センター公式フェースブック https://www.facebook.com/mitsuhiko.asakawa
東北および四国地方に生息するニホンザル(Macaca fuscata)の寄生虫症および感染症に関する疫学調査

浅川 満彦 , 萩原 克郎

 ニホンザルの寄生虫症を含む寄生虫病病原体の疫学調査についての2017年の刊行は次の2本であった。1)浅川ら(共著者、岡本): 輸入サル類の潜在的な寄生虫病-特に、医学用実験動物として利用されるカニクイザル Macaca fascicularis の検疫中に斃死した事例を参考に、エキゾ研会誌、(19)、17-20 (2017) 2)三觜ら(連絡著者、浅川):福島市に生息するニホンザル (Macaca fuscata)の寄生蠕虫保有状況-特に下北半島個体群との比較に注目して. 青森自然史研究, (22),39-41。前者はニホンザルおよび外来性マカク類の蠕虫検査を行う上で貴重な資料となった。後者は下北個体群と比較し当方地方における蠕虫類の分布特性を論じた。2017年における学会報告としては1)浅川ら(共同演者、岡本): ニホンザル(Macaca fuscata)における寄生蠕虫相の概要-特に、最近の東日本における調査から判明した地理的分布域に関して. 第72回日本生物地理学会年次大会,東京大学,4月9日;浅川ら(共同演者、岡本):東日本におけるニホンザル(Macaca fuscata)の寄生蠕虫相(概要).第33回日本霊長類学会大会、福島、7月15日から17日」の2本を実施した。これらの報告では、前述したように寄生蠕虫の地理的分布特性を示した。野生ニホンザル寄生虫に関しては、過去に当研究所の後藤らが下北の集団を調べているが、その際には発見されていなかったOgmocotyle属の吸虫が最近の申請者らの研究で大量に発見され、福島産個体群の結果が、上記のよに公表出来た。また、外来種との関連性を検討するため、カニクイザルの情報も比較対象として、それらの成果も公表出来た。分布特性は口頭発表とまりではあるが、生物地理で中間報告が出来た。


H29-B9
代:伊藤 浩介
サル類における聴覚事象関連電位の記録

学会発表
伊藤浩介、禰占雅史、鴻池菜保、中村克樹、中田力 聴覚機能の進化:ヒトとアカゲザルにおける無侵襲頭皮上聴覚誘発電位記録による検討(2017.12.3) 日本基礎心理学会第36回大会(茨木市).

伊藤浩介 皮上脳波記録で探る聴覚皮質機能の進化(2017年12月19日) 第47回ホミニゼーション研究会(犬山市).

Itoh K, Nejime M, Konoike N, Nakamura K, Nakada T. Musical chord change detection in the macaque monkey is hindered by insertion of silent gaps between chords: a scalp ERP study.( 2017年11月14日) Neuroscience 2017 (Society for Neuroscience 47th Annual Meeting)( Washington DC).

Kosuke Itoh Evolutionary elongation of the time window of auditory cortical processing(2018年1月11日) Post-Symposium of the 33rd Annual Meeting of the International Society for Psychophysics: Perception and the Brain(福岡市).

伊藤浩介 霊長類聴覚機能の種差:ヒトとマカクにおける頭皮上脳波記録による検討(2018年3月6日) 第 7 回 新潟脳研-霊長研-生理研合同シンポジウム(愛知県岡崎市).
サル類における聴覚事象関連電位の記録

伊藤 浩介

 これまで継続して来た共同利用・共同研究により、マカクザルの頭皮上脳波記録の方法論はほぼ完成し、質の安定した聴覚事象関連電位の記録が可能となってきた。一方、マーモセットの脳波記録では、①頭部面積が小さく電極の設置が難しいことや、②頭皮の皮脂の多さによる電極インピーダンスの増大などの問題が明らかになった。これらの要因により、電極設置に時間がかかり、電極数を増やせず、脳波記録が安定しないなどの問題が生じていた。そこで、今年度はこれらの問題の解決を目的とした技術開発を行った。①の対処としては、電極のデザインを、電極部の大きさと形状のみでなく被覆の材質も含めて刷新し、頭部への接着法も見直した。②の対処としては、皮膚の前処理でアセトンによる脱脂を十分に行うこととした。これにより、電極設置の迅速化と脳波記録の質の安定化が達成されるとともに、今後電極数を増やしていく可能性が開けた。ここで開発した電極や電極設置法はマカクザルにも適用可能なものであるため、マカクザル脳波記録法の、さらなる改善にも貢献する成果である。


H29-B10
代:中務 真人
協:森本 直記
協:野村 嘉孝
協:小林 諭史
協:芳賀 恒太
大型類人猿における手首・大腿部の可動性の検証
大型類人猿における手首・大腿部の可動性の検証

中務 真人 , 森本 直記, 野村 嘉孝, 小林 諭史, 芳賀 恒太

 ヒトと現生アフリカ類人猿の共通祖先が、①上肢優位な現生類人猿的特徴をもっていたのか、あるいは、②現生子孫種に比べ特殊化の程度が低い類人猿であったのかが、大きな議論となっている。これを検討する目的で、大型類人猿の手、大腿の関節の運動機能について研究を行っている。著しい大型化をしたゴリラを除き、現生大型類人猿の手の相対母指長は短いが、母指退化、内側列の伸長のいずれが強く寄与しているのか議論が続いている。そこで、母指退化に関連すると考えられる母指列中手指節関節の種子骨の出現頻度に注目した。ヒトを含み類人猿以外の霊長類では、ほぼ例外なく撓側と尺側に一対の種子骨が存在するが、大型類人猿については、先行研究で一致した結果が得られていない。われわれは大型類人猿標本18体をX線CTによって観察し資料数を倍増させ、以下の結果を得た(資料数は先行研究との合算)。チンパンジー(n=24)では、約2割の個体で一つあるいは一対の種子骨が存在するが、オランウータン(n=6)、ゴリラ(n=7)では認められない。この結果は、各属が独立に種子骨を喪失(母指の機能退化が発生)したことを示唆し、②に整合的である。


H29-B11
代:荻原 直道
協:大石 元治
ニホンザル二足・四足歩行運動の運動学的・生体力学的解析

論文
荻原直道(2017) 解剖学的筋骨格モデルによるヒト二足歩行運動の計算機シミュレーション バイオマテリアル-生体材料- 35(3):173-179.

学会発表
荻原直道 踵骨形態と直立二足歩行の進化(2017年11月5日) 第71回日本人類学会大会(東京都文京区).

荻原直道 ニホンザル二足歩行の力学から探るヒトの進化(2018年3月5日) 日本学術会議第3回理論応用力学シンポジウム~力学と知能の融合:古典力学の新潮流~(東京都港区).

関連サイト
慶應義塾大学理工学部機械工学科 荻原研究室 www.ogihara.mech.keio.ac.jp/
ニホンザル二足・四足歩行運動の運動学的・生体力学的解析

荻原 直道 , 大石 元治

 本研究では、ヒト的な直立二足歩行の獲得を妨げる四足性霊長類の運動学的・生体力学的制約要因がどこにあるのかを明らかにするために、ニホンザル四足歩行の運動学的・生体力学的解析を行い、二足歩行と対比することを通して、ニホンザルが二足歩行を獲得する上での促進要因・制約要因を明らかにすることを目的としている。
 本年は、傾斜トレッドミル上を四足歩行するニホンザルの接地パターンを比較・分析した。その結果、トレッドミルの傾斜により前肢に作用する床反力が増大しても、lateral sequence歩行への遷移は基本的に観察されなかった。霊長類の四足歩行は、他の多くのほ乳類と異なるdiagonal sequence歩行を採用しており、これを説明する有力な仮説の一つに「重心位置仮説」があるが、重心位置が接地パターンの直接的決定要因ではないことが示唆された。
 また、ニホンザルの屍体標本から、歩行に関係する主要な筋の速筋線維と遅筋線維の割合を組織学的手法によって求めることを試みた。具体的には、各筋から組織片を採取し、クリオスタットで切片を作成し、組織化学的染色(ATpase染色)によって筋線維型の比率を求める研究を推進した。



H29-B12
代:William Sellers
The comparative biomechanics of the primate hand
The comparative biomechanics of the primate hand

William Sellers

 This project forms part of our ongoing research into the biomechanics of primates. In this last year we achieved three major goals. Firstly, we succeeded in publishing a paper in Royal Society Open Sciences based on our experimental work at PRI in previous years where we used our markerless motion capture system to record 3D locomotor kinematics of chimpanzees walking. This paper used the experimental data to ground truth a computer simulation in order to better understand the evolutionary processes that lead to gait choice and optimality. Secondly, based on the pilot data on primate hands and hand use that we have been collecting at PRI, we were successful in a collaborative grant bid to the UK Natural Environment Research council to study the co-evolution of tool using behaviour and hands in the hominin fossil record. This research grant includes travel funding so that future visits will continue to be possible. Thirdly, we were successful in the experimental work carried out at PRI in 2017. Our aim this past year was to compare the way that Japanese macaques use their hands when performing locomotor activities to the way they use their hands whilst manipulating objects. The challenge here is that in order to record the movements of the fingers in 3D we need film a relatively small volume, and this means that we need to train the subjects to put move such that they grasp the substrate in the location the cameras are recording from. We attempted this for a new experimental set up in the laboratory where we used a vertical pole that the animal was able to climb, using two different pole diameters. In both cases the experiments were successful although there were many trials where the animals did not place their hands in the volumes we were measuring from and this meant that the amount of data collected was rather lower than in previous years. Climbing is particularly difficult compared to the horizontal walking we have measured before because the animal has an extra degree of freedom since it can choose the vertical rotation of its body around the cylindrical pole, and this means that it can obscure our view of its hands very easily. However, climbing is an activity that we are particularly interested in since the hands are required to grip with significant amounts of force in this situation, whereas horizontal walking requires relatively little grip force on the part of the animal since they balance very precisely. And of course climbing is one of the important specialisations of the primate order, and is thus a major focus of biomechanics research.


H29-B13
代:岩槻 健
協:熊木 竣佑
協:中嶋 ちえみ
霊長類由来ex vivo培養系を用いた消化管細胞機能の解析

学会発表
中嶋ちえみ、難波みつき、熊木 竣佑、大木 淳子、今井 啓雄、山根 拓実、大石 祐一、岩槻 健 霊長類味蕾オルガノイド培養系の確立(2017/9/26) 日本味と匂学会第51回大会(神戸国際会議場).

熊木竣佑、今井啓雄、粟飯原永太郎、山根拓実、大石祐一、岩槻健 サル消化管オルガノイドを用いた味細胞様細胞の解析(2017/9/26) 日本味と匂学会第51回大会(神戸国際会議場).

岩槻健 マウスとサルの味蕾オルガノイド培養系(2017/9/26) 日本味と匂学会第51回大会(神戸国際会議場).

岩槻健 オルガノイド培養系を用いた味蕾および消化管の機能解析(2017/6/29) 実験病理組織技術研究会第24回総会・学術集会(タワーホール船堀).

熊木竣佑、大木淳子、山田夏美、今井啓雄、粟飯原永太郎、山根拓実、大石祐一、岩槻健 サル消化管オルガノイド作製と味細胞様細胞への分化誘導(2017/5/20) 第71回日本栄養・食糧学会大会(沖縄コンベンションセンター).
霊長類由来ex vivo培養系を用いた消化管細胞機能の解析

岩槻 健 , 熊木 竣佑, 中嶋 ちえみ

 昨年度から引き続きアカゲザルおよびニホンザルからの腸管オルガノイド作製を行なった。培養条件の検討により、Wnt3aの活性が同オルガノイドの増殖に最も重要であることがわかった。29年度は、さらに作製した腸管オルガノイドが効率よく分化する方法を模索すると同時に、生体内の腸管上皮細胞と同様のタンパク質を発現しているかを調べた。まず、作製した腸管オルガノイドの培地よりWnt3aおよびWntのアゴニストを抜いた培地で3日間培養することで細胞分化を誘導した。その結果、内分泌細胞のマーカーである5-HTやタフト細胞のマーカーであるDCLK1の発現量が上昇し、Wnt活性がなくなることにより細胞分化が亢進したことが確認された。同条件にて細胞分化を誘導した上で、様々な分子の発現をRT-PCRにより調べたところ、幹細胞マーカーであるLgr5の発現は抑制され、代わりに内分泌細胞、吸収上皮、杯細胞などが発現する分子の転写が亢進していることがわかった。このように、今回我々はサルオルガノイドを効率よく分化する条件を確立した。今後、分化させた腸管オルガノイドを使い、げっ歯類では測定できない霊長類独特の栄養素受容機能について解析していく予定である。


H29-B14
代:中村 浩幸
外側膝状体から頭頂葉視覚連合野への直接視覚入力回路の形態学的解明
外側膝状体から頭頂葉視覚連合野への直接視覚入力回路の形態学的解明

中村 浩幸

 霊長類外側膝状体(LGN)極小細胞層(koniocellular layers: K 層)から、1次および2次視覚皮質を経由せず、頭頂視覚連合皮質V3/V3A野へ直接投射する神経回路を神経軸索トレーサーを用いて詳細に解明する事が研究の目的である。本年度は、1頭のアカゲザルの両側V3A野(ならびに古典的V3A野の背側部LOP野)に蛍光色素(ディアミディノイエローDYとファーストブルーFB)を微量注入して、同側視床LGNにおける逆行性標識細胞の分布を調べた。V3A野にほぼ限局して蛍光色素を微量注入(1例)すると、LGN尾側6分の1から3分の1にかけて、LGNと視索との間に存在するK細胞層(S層)の内側部ならびにK1-4層内側端に逆行性標識細胞が観察された。V3A野とLOP野にまたがる注入(2例)では、LGN尾側3分の1のS層内側部に逆行性標識細胞が観察された。LOP野とその背側の7野のみに注入(1例)しても、LGNには逆行性標識細胞は見られなかった。これらの結果は、LGNのS層ならびにK1-4層内側部のK細胞がV3A野に投射し、粗大な視覚情報を短潜時で頭頂連合野皮質へ入力している事を示唆する。


H29-B15
代:柳川 洋二郎
協:永野 昌志
協:髙江洲 昇
協:菅野 智裕
協:坂口 謙一郎
マカク属における精液凍結保存方法の改善と人工授精技術開発

論文
Fukuda K, Inoguchi Y, Ichiyanagi K, Ichiyanagi T, Go Y, Nagano M, Yanagawa Y, Takaesu N, Ohkawa Y, Imai H, Sasaki H(2017) Evolution of the sperm methylome of primates is associated with retrotransposon insertions and genome instability Human Molecular Genetics 26(18):3508-3519. 謝辞あり

学会発表
栁川洋二郎、菅野智裕、南晶子、兼子明久、印藤頼子、佐藤容、木下こづえ、岡本宗裕、片桐成二、永野昌志 ニホンザルにおける排卵誘起処理を伴う単回人工授精プログラムの検討(2017.9.13-15) 第160回日本獣医学会学術集会(鹿児島市).

栁川洋二郎、菅野智裕、兼子明久、印藤頼子、佐藤容、木下こづえ、今井啓雄、平井啓久、片桐成二、永野昌志、岡本宗裕 ペレット法により凍結したニホンザル精液に対する融解法の違いが精子性状に与える影響(2017.11.1-2) Cryopreservation conference 2017(つくば市).
マカク属における精液凍結保存方法の改善と人工授精技術開発

栁川 洋二郎 , 永野 昌志, 髙江洲 昇, 菅野 智裕, 坂口 謙一郎

 ニホンザルにおいては人工授精(AI)による妊娠率は低く、特に凍結精液を用いたAIによる産子獲得例がない。そのため、精液の凍結保存法改善とともに、メスの卵胞動態を把握したうえでAIプログラムの開発が必要である。
精液凍結についてはこれまでにドライアイス上で精液を200 μl滴下してペレット状に凍結する方法では融解後に活力を有する精子が確認されたがその生存率は低かった。そこでペレットの融解法による精子への影響を検討した。ガラスチューブを37℃に加温し、ペレットをチューブに投入して融解するのが、ガラスチューブが空の場合とペレットと等量の凍結保存液が入っている場合とでは、保存液が入っている方が融解後の運動性が高かった。さらにドライアイス上に0.25および0.5 mlストローに封入した精液を静置して凍結した後、37℃温湯で融解した場合と前述の200 μlペレットとの融解後の運動性を比較したところ、0.5 mlストローを融解した場合に運動性が高かった。⁻80℃温度域において一定の保存が可能となったが、保存期間の延長が精子に与える影響について更なる検討が必要である。今年度はさらに3月に月経開始から10日目、12日目、14日目の3個体に対し、新鮮精液を授精したが、全頭受胎には至らなかった。



H29-B16
代:笹岡 俊邦
協:藤澤 信義
協:前田 宜俊
協:小田 佳奈子
協:中尾 聡宏
協:崎村 建司
協:中務 胞
協:夏目 里恵
異種間移植によるマーモセット受精卵の効率的作成方法の開発研究

論文

学会発表
前田宜俊, 中務 胞, 三輪美樹, 宮本 純, 小田佳奈子, 藤澤信義, 夏目里恵, 中尾聡宏, 神保幸弘, 田中 稔, 山本美丘, 坪井広樹, 阿部光寿, 﨑村建司, 中村克樹, 笹岡俊邦 マーモセット卵巣のマウスへの移植と 卵胞刺激ホルモン投与による移植卵巣の成熟(2017年7月28日) 新潟大学脳研究所 第47回(2017)新潟神経学夏期セミナー(新潟市 ).

宮本 純 異種間移植マーモセット卵巣由来卵子を用いた受精卵の効率的作成法の検討(2017年10月年10月5日) 第24回みかんの会(新潟市 新潟大学医療人育成センター).

宮本 純 異種間移植マーモセット卵巣を用いた受精卵の効率的作成法の検討(2018年3月6-7日) 第7回 生理研?霊長研?脳研合同シンポジウム(愛知県岡崎市 生理学研究所).

異種間移植によるマーモセット受精卵の効率的作成方法の開発研究

笹岡 俊邦 , 藤澤 信義, 前田 宜俊, 小田 佳奈子, 中尾 聡宏, 崎村 建司, 中務 胞, 夏目 里恵

 <目的>マーモセットは、薬の代謝や体の構造がヒトに近く、発達した脳を持ち、高い認知機能を持つ。さらに、遺伝子改変マーモセットの作製が可能となり、ヒトの疾患モデル動物として注目されている。マーモセットは繁殖力が高く、小型で取り扱いやすいといった利点がある。しかし、マーモセットの飼育環境が整った研究施設は限られており、遺伝子改変動物の作製には卵子を採取する必要があるが、数多くの卵子を得ることが困難で、採卵には手術が必要であること、採卵までにかかる飼育コストを考慮すると、容易ではない。
 そこで私たちは、霊長研の中村克樹教授、高田昌彦教授から分与して頂いた、安楽死されたマーモセットの卵巣を免疫不全マウスに移植することによって、効率的にマーモセット卵子および受精卵を効率的に作出することに取り組んでいる。
 <方法>マーモセット卵巣を新潟大学に冷蔵輸送し、到着当日にマウスに移植した。
(1)マーモセット卵巣を細切した。移植しない場合は液体窒素にて凍結保存した。(2)免疫不全マウスの卵巣を切除後、左右の腎被膜下に卵巣片を移植した。凍結保存した卵巣は融解後に使用した。(3)移植から7日後にPGF2alpha、9日後から卵胞刺激ホルモン(FSH)を9日間毎日または2日毎に投与した。(4)FSHの投与開始から9日後に左右腎臓を採材した。(5)卵巣から採卵できた卵子を4時間培養した。(6)培養後MⅡ期となった卵子を顕微授精し た。
 <結果>これまでに、冷蔵輸送後および凍結融解後のマーモセット卵巣は腎被膜下に生着し、GV期の卵子を得ることが出来た。GV期の卵子は成熟培養後、MⅡ期に進み、顕微授精後、前核期受精卵まで発生させることが出来た。



H29-B17
代:森光 由樹
遺伝情報によるニホンザル地域個体群の抽出と保全単位の検討
遺伝情報によるニホンザル地域個体群の抽出と保全単位の検討

森光 由樹

 兵庫県に生息するニホンザルの地域個体群は、美方、城崎、大河内・生野、船越山、篠山の5つに分けられている。報告者は、これまで5つの地域個体群について、常染色体遺伝子、Y染色体遺伝子を用いて遺伝的分断の有無を検証してきた。常染色体遺伝子は、5つの地域個体群、平均He=0.735、 Ho= 0.718で、地域個体群間で有意差は認められなかった。 またY染色体遺伝子では、11のハプロタイプが検出され地域個体群間でオスの遺伝的交流が認められた(森光ら2017)。そこで本年度は、ニホンザル地域個体群の抽出と孤立度についてGIS プログラム MAPⅡ (ver.1.5 Think Space)とArcView(10.1)を用いて解析を行った。55頭のオスのミトコンドリアDNAハプロタイプの情報を用いて出生群を判定し、その個体の移動距離を算出した。71.8%が地域個体群間で移動しており移動距離は平均37km±5.7であった。GIS解析では、37kmで接続するセル、クランプを同一の地域個体群とした。その結果、 美方と城崎、大河内・生野と船越山、そして篠山は、京都府の地域個体群(丹波・丹後)に結合され3つに分けられた。今後、絶滅地域個体群の保全単位を考える上で、オスの移動頻度や移動距離をさらにモニタリングしながら保全単位を再考する予定である。


H29-B18
代:佐藤 暢哉
協:林 朋広
コモンマーモセットにおける空間認知

論文

関連サイト
関西学院大学文学部総合心理科学科 佐藤暢哉研究室 https://sites.google.com/site/nsatolab/
コモンマーモセットにおける空間認知

佐藤 暢哉 , 林 朋広

 本研究は,コモンマーモセットの空間認知能力について検討することを目的として,齧歯類を対象とした研究で用いられてきた迷路と同様の実験事態を使用した空間学習課題や空間記憶課題を開発することを目的としていた.マーモセットを飼育ケージから実験箱に移動して課題を課すことは困難であると判断し,飼育ケージ内で実施できる実験課題を開発する方針を決定した.そのために,マーモセットの実際の飼育環境の詳細を観察し,飼育ケージのサイズなどの観点から空間学習課題事態の候補をを絞りこみ,必要となる装置を考案した.
 具体的には,齧歯類でよく使用される放射状迷路を基本として,マーモセットの運動能力を考慮し,縦方向への移動を含めた三次元的構造を考えた.迷路中央に位置するプラットフォームから周囲に放射状に伸びるアームを有し,さらにその途中部分から下方向へ伸びる構造を持ったマーモセット用の放射状迷路を設計した.マーモセットには,中央位置から周囲に配置しているアーム先端部まで行くことを求める.穴の最底部まで到達することを,その選択を行ったとみなし,正答の場合はそこに報酬を呈示できるようにする予定である.今後は,詳細部分を修正の上,迷路を作成し,実際にマーモセットを対象にいくつかの空間学習課題を実施したいと考えている.



H29-B19
代:持田 浩治
観察学習による警告色の進化プロセスに関する実験的研究

論文
持田浩治,香田啓貴, 北條賢, 高橋宏司, 須山巨基, 伊澤 栄一, 井原泰雄(2020) (総説)社会学習による行動伝播の生態学における役割 日本生態学会誌 70:177-195. 謝辞あり

学会発表
持田浩治 警告的現象を社会学習で説明する(2019年3月) 日本生態学会第66 回大会(神戸国際会議場).

持田浩治(企画者) 社会学習による行動伝播の生態学における役割(シンポジウム)(2019年3月) 日本生態学会第66回大会(神戸国際会議場).
観察学習による警告色の進化プロセスに関する実験的研究

持田 浩治

 本研究は,個体の直接的な学習経験だけでなく,他者の行動をモデルとした観察学習が,まずさや危険さと関連した目立つ体色(警告色)を創出・維持する,という仮説の妥当性を,理論と実証の両面から検証することを目的としたものである.本年度は,ニホンザル6個体を対象に,ヘビのような危険生物の警告色に対する観察学習の成立の可否を検討した.具体的には,ニホンザルがヘビ模型を警戒する学習用ビデオとウィスコンシン型汎用テスト装置を用いて学習実験を行った.学習過程に個体差が強く影響したため,現段階で強く断定できないが,観察学習“前”条件で赤黒縞模様に塗装した様々な刺激物(ヘビ模型だけでなく四角ボードなどの非生物的形状)を回避した被験個体は,観察学習“後”条件において,ヘビ模型だけを選択的に回避した.一方,観察学習前に赤黒縞模様オブジェクトを回避しない個体は,観察学習後条件において,いかなる刺激物に対しても回避行動を示さなかった.以上の結果は,直接的な経験なしに他者を観察することで警告的学習が成立すること,ただし観察学習が成立するためには,学習前に何らかのキューが必要であることを示唆した.


H29-B20
代:岡澤 均
協:陳 西貴
協:藤田 慶大
協:田川 一彦
協:泰羅 雅登
協:勝山 成美
マーモセット疾患モデルを用いた神経回路障害ならびに分子病態の解析および治療法の開発
マーモセット疾患モデルを用いた神経回路障害ならびに分子病態の解析および治療法の開発

岡澤 均 , 陳 西貴, 藤田 慶大, 田川 一彦, 泰羅 雅登, 勝山 成美

 これまでに正常マーモセット脳へ神経変性誘発因子X(4歳齢、1頭 )あるいは溶媒(PBS)(6歳齢,1頭)を頭頂葉に継続注入(2週間に一回、合計4回)し、Xによる分子変化が誘導される神経変性関連因子Yの神経変性特異的な修飾の増加を免疫染色で確認した。平成29年度は、4頭のマーモセットからXを投与する前の空間位置記憶課題のデータを取得した。今後、投与前のデータ取得が終了した個体から順次Xを投与し、課題成績に対する投与の影響を継時的に評価していく計画である。


H29-B22
代:小林 諭史
ヒト上科の成長に伴う骨格のプロポーション変化

学会発表
小林諭史, 森本直記, 西村剛, 山田重人, 中務真人 ヒトおよび現生大型類人猿の四肢の相対成長(2017年7月16日) 第33回日本霊長類学会大会(福島).

小林諭史, 森本直記, 西村剛, 山田重人, 中務真人 ヒト科における生後の四肢相対成長(2017年11月3日) 第71回日本人類学会大会(東京).
ヒト上科の成長に伴う骨格のプロポーション変化

小林 諭史

 現生ヒト上科系統が分岐して以降のヒト上科の化石記録はヒトの系統以外では極めて少なく、ヒト上科の進化史の考察のためには現生種の徹底的な直接比較が欠かせない。しかし、現状では、ヒト上科の成長に伴ったプロポーション変化を直接比較した研究は乏しい。そこで、ヒト上科における胎児からオトナに至るまでの成長に伴った骨格のプロポーション変化を解明し、種間、特に現生の大型類人猿間に見られる類似性の起源を明らかにすることを目的とした。平成29年度はX線CTを用いて、主に出生後のヒト、チンパンジー、ゴリラ、オランウータン、テナガザルの四肢骨長の計測を行い、前肢長(上腕骨長と橈骨長の和)と後肢長(大腿骨長と脛骨長の和)、上腕骨長と橈骨長、大腿骨長と脛骨長の相対成長について種間比較を行った。その結果、ヒト上科において四肢骨長の相対成長は変わりやすい形質とは言えなかった。特に、大型類人猿間ではどの組み合わせにも有意差は見られなかった。また、ヒトの長い後肢など、オトナ時の特殊なプロポーションの達成に寄与する相対成長は観察されたものの、相対成長は必ずしも成長に伴って変化する機能的な要請に最適化されていないことが示唆された。


H29-B23
代:羽山 伸一
協:中西 せつ子
協:名切 幸枝
協:石井 奈穂美
福島市に生息する野生ニホンザルの放射能被曝影響調査

論文
Hayama S. Nakiri S, Nakanishi S, et al.(2017) Small head size and delayed body weight growth in wild Japanese monkey fetuses after the Fukushima Daiichi nuclear disaster. Scientific Reports(7):3528. 謝辞あり
福島市に生息する野生ニホンザルの放射能被曝影響調査

羽山 伸一 , 中西 せつ子, 名切 幸枝, 石井 奈穂美

 本研究グループでは、2007年から福島県ニホンザル特定鳥獣保護管理計画にもとづき福島市で個体数調整のために捕獲された野生個体を分析し、妊娠率の推定や遺伝子解析などを行ってきた。福島市にはおよそ20群、2000頭の野生群が生息しているが、2011年の福島第1原子力発電所の爆発により放射能で被曝した。2012年度に放射性セシウムの蓄積状況と血液性状の関係を調査し、血球数やヘモグロビン濃度などの低下を明らかにした。今年度は、その後の筋肉中放射性セシウムの蓄積状況と血液性状を調査するとともに、胎仔の相対成長について被ばく前後で比較を行った。
 その結果、新たに被ばく後の胎仔で、頂臀長に対する体重および頭蓋サイズの相対成長が低成長であることが明らかとなった。
 また、将来における中長期的な影響評価を可能にするため、採取した臓器及び遺伝子等の標本保存を行った。



H29-B24
代:橋 香奈
サル類およびチンパンジーにおけるヘリコバクター感染に関する研究
サル類およびチンパンジーにおけるヘリコバクター感染に関する研究

橋 香奈

 ヒト胃内に生息することが知られているピロリ菌の一部は、発がんタンパク質であるCagAを産生し、胃上皮細胞内に注入することが知られている。また、CagAの発がん活性は宿主の居住する地域により差が生じることが示唆されている。
本年度は、昨年度から引き続き、霊長類研究所で飼育されているニホンザルから単離されたCagA陽性ピロリ菌(サル由来ピロリ菌)の病原性の検討を目的とした実験を行なった。まず、サル由来ピロリ菌を全ゲノム解析した結果、東南アジアで感染が報告されているピロリ菌株の変異株である可能性が示唆された。また、AGS細胞やマウスES細胞由来胃オルガノイドを用いたインフェクション実験の結果、サル由来ピロリ菌及びそれらのCagAは一般的なヒト由来ピロリ菌株に比べて病原性が低いことが示唆された。
 本研究の成果は現在、国際学術誌に投稿中である。



H29-B25
代:藤本 明洋
全ゲノムシークエンスデータ解析に基づく解析困難領域の同定と遺伝的多様性の解析
全ゲノムシークエンスデータ解析に基づく解析困難領域の同定と遺伝的多様性の解析

藤本 明洋

 申請者は、日本人の全ゲノムシークエンスデータを用いて、(1)第2世代シークエンサーでは解析が困難な領域の特徴を明らかにする。また、(2)それらの領域のゲノム配列を読み取り長の長い第3世代シークエンサーを用いて決定することにより、解析困難領域の遺伝的多様性を解明する。現在は(2)の解析を行っている。
 申請者らは、既に日本人108人の全ゲノムシークエンスデータより、解析困難な領域を抽出した(解析困難な領域は、ヒト標準ゲノム配列に存在しない配列と多様性が極めて高い領域より選出した)。それらの配列を濃縮するためのアレイ(解析困難領域アレイ)を作成した。また、日本人108人の解析困難領域を濃縮しPacBio RSを用いてシークエンスを行った。現在は、PacBio RSのデータ解析を行っている。第2世代のシークエンサーのデータをPacBioシークエンサーのリード配列に対してマッピングを行い、エラーを補正する手法の開発を行った。SRiMP2ソフトウエアを採用し、様々なマッピングパタメーターを試し、マッピングの偽陽性率と偽陰性率が低いマッピングパタメーターを見出した。ミトコンドリア配列を用いた解析では、シークエンスエラーの多くを除去することが可能であったが、核ゲノム配列においてはリピート配列が多いため、解析が難航している。マッピングのパターン等を考慮した解析を行うことで精度向上を試みている。



H29-B26
代:那波 宏之
協:難波 寿明
霊長類における神経栄養因子の精神機能発達に与える影響
霊長類における神経栄養因子の精神機能発達に与える影響

那波 宏之 , 難波 寿明

 精神疾患の治療法を探るためヒト精神疾患をげっ歯類でモデル化しようとされてきたが、ヒトとマウスの高次脳機能のギャップから行きづまっている。ゆえにヒト認知機能をより正確に模倣するためには よりヒトに遺伝子や脳構造が類似する霊長類を用いた方がよいのではないかといわれている。共同研究者らは、統合失調症の最有力な仮説である「サイトカイン炎症性仮説」に基づき、これまでサイトカインをげっ歯類新生児に投与することで、当該モデルを樹立、解析してきた。本モデル動物は様々に精神疾患に適合する中間表現型を呈するものの、ヒト精神疾患のモデルとしての妥当性においてはやはり決め手に欠いていた。そこで本共同利用研究課題では、霊長類(マーモセットおよびアカゲザル)を用い、その認知行動変化をモニターすることで、仮説やモデルの妥当性を検証する。マーモセット新生児4頭へのEGF投与を実施した。内マーモセット2頭が、活動量の上昇・アイコンタクトの頻度低下・逆転学習課題等の成績低下を示した。今年度はビデオによる行動観察を継続するとともに、MRIを用いたT1強調画像・T2強調画像およびDTIのデータ取得を行った。また、プレパルス抑制の測定をするための装置を開発した。次年度には、プレパルス抑制の計測およびPETを用いた伝達物質系の活動計測の計画を進める予定である。またEGFに皮下投与したアカゲザル2頭も行動異常が現れた。2頭に関しては、学習課題成績の悪化を確認した。人や同種他個体に対する行動異常を定量化する方法を検討している。


H29-B27
代:國松 豊
アフリカ中新世霊長類化石の形態学的研究

論文
Kunimatsu, Y., Sawada, Y., Sakai, T., Saneyoshi, M., Nakaya, H., Yamamoto, A., and Nakatsukasa, M.(2017) The latest occurrence of the nyanzapithecines from the early Late Miocene Nakali Formation in Kenya, East Africa Anthropological Science 125(2):45-51. 謝辞あり

Kunimatsu, Y., Tsujikawa, H., Nakatsukasa, M., Shimizu, D., Ogihara, N., Kikuchi, Y., Nakano, Y., Takano, T., Morimoto, N., and Ishida, H.(2017) A new species of Mioeuoticus (Lorisiformes, Primates) from the early Middle Miocene of Kenya. Anthropological Science 125(2):59-65. 謝辞あり

Kikuchi, Y., Nakatsukasa, M., Tsujikawa, H., Nakano, Y., Kunimatsu, Y., Ogihara, N., Shimizu, D.,Takano, T., Nakaya,H., Sawada, Y., Ishida, H.(2018) Sexual dimorphism of body size in an African fossil ape, Nacholapithecus kerioi Journal of Human Evolution 123:129-140.

学会発表
國松 豊 アフリカ後期中新世化石産地ナカリから新たに発見された大型類人猿化石(2017年11月5日) 第71回日本人類学会大会(東京).
アフリカ中新世霊長類化石の形態学的研究

國松 豊

 長年、京大を中心とした日本調査隊がケニヤ共和国において実施してきた野外発掘調査によって、ケニヤ北部のナチョラ、サンブルヒルズ、ナカリから中新世の霊長類化石が多数発見されてきた。採集された化石は、ケニヤの法律によって国外持ち出しが原則禁止されており、ケニヤの首都ナイロビにあるケニヤ国立博物館にすべて収蔵されている。本研究ではこれらの霊長類化石の分析を順次行っている。2017年度には、2017年8月から9月にケニヤ共和国ナカリにおいて野外発掘調査を実施した。2018年3月に再びケニヤに渡航し、ナイロビのケニヤ国立博物館において、同館に収蔵されているナカリ、ナチョラ出土の霊長類化石の分析および他の産地から収集された化石との比較を行った。霊長類研究所では、比較のために現生霊長類の骨格標本や霊長類化石レプリカコレクションの観察、計測をおこなった。ナカリから最近出土した大型類人猿の上顎大臼歯や小型「類人猿」の下顎大臼歯標本の分析を中心に研究を進めた。大型類人猿の新たな上顎大臼歯標本は、ナカリから見つかっているNakalipithecus nakayamaiよりも小型で、形態的にもかなり異なっており、Kunimatsu et al. (2016)で示唆した、中新世後期前半のナカリには大型の類人猿が2種類いたという仮説を支持するものである。


H29-B28
代:佐藤 真伍
飼育下のニホンザルおよびアカゲザルにおけるBartonella quintanaの分布状況とその遺伝子系統
飼育下のニホンザルおよびアカゲザルにおけるBartonella quintanaの分布状況とその遺伝子系統

佐藤 真伍

 Bartonella quintanaは人に発熱や回帰性の菌血症を引き起こす塹壕熱の原因菌で,重症化すると心内膜炎や細菌性の血管腫などの原因となる。塹壕熱は,第一次・二次世界大戦時に兵士の間で流行した感染症であり,現在では都市部に生活するホームレスなどの集団内において感染が確認されている。近年では,中国や米国で実験用に飼育されていたアカゲザルやカニクイザルやわが国の野生ニホンザルにもB. quintanaが分布していることが明らかとなっている。平成28年度の本共同利用・共同研究(課題# 2016-D-21)では,和歌山県由来の椿群のニホンザル1頭(個体#:TB1)からB. quintanaが分離されたことから,わが国の霊長類の研究機関においても本菌が分布していることが初めて明らかとなった。
 平成29年度には,同研究所内で飼育されているニホンザル154頭から新たに血液を採取し,B. quintanaの保菌状況を引き続き検討した。その結果,大阪府由来の箕面群のニホンザル2頭からB. quintana様の細菌が分離された。現在,遺伝子性状に基づいて分離株の菌種同定を試みているとともに,複数の遺伝子領域を用いて型別するMulti-locus sequence typing(MLST)の実施も検討中である。



H29-B29
代:佐々木 基樹
協:近藤 大輔
霊長類後肢骨格の可動性
霊長類後肢骨格の可動性

佐々木 基樹 , 近藤 大輔

 これまでにニシローランドゴリラ3個体、オランウータン2個体、チンパンジー4個体の後肢のCT画像解析をおこなってきた。趾の可動域の解析では、第一趾を最大限伸展させた状態でCT画像撮影をおこない、得られたCT断層画像データを三次元立体構築した後、第一趾の可動状況を観察した。ニシローランドゴリラやチンパンジーの第一趾の第一中足骨は、上下方向に可動性を持つオランウータンとは違って足の背腹平面で可動しており、その可動域は、肉眼的にはオランウータン、ニシローランドゴリラ、そしてチンパンジーの順で大きかった。今回、コンピュータソフトを用いて趾の可動状況を定量化することを試みた。第一中足骨と第二中足骨がなす平面上におけるそれら中足骨のなす角度をソフト上で解析した。計測した角度の平均は、オランウータンで104度、ニシローランドゴリラで73度、そしてチンパンジーで52度であった。これらの結果によって、肉眼的観察結果を定量的に裏付けることができた。今後、検体数を増やし、精度の高い解析を行っていければと考えている。


H29-B30
代:小倉 淳郎
協:越後貫 成美
マーモセット幼若精細管のマウスへの移植後の精細胞発生の観察

学会発表
越後貫成美、葛西 秀俊、井上 弘貴、饗場 篤、小倉 淳郎 発生工学的手法を用いたマーモセット世代短縮技術の開発(2017/5/26) 日本実験動物学会(郡山市(福島県)).

越後貫成美、葛西秀俊、井上弘貴、饗場 篤、小倉淳郎 Shortning the marmoset intergeneration time using immature spermatozoa(2017/9/27) Fourth World Congress of Reproductive Biology(宜野湾(日本)).
マーモセット幼若精細管のマウスへの移植後の精細胞発生の観察

小倉 淳郎 , 越後貫 成美

 最近我々は、顕微授精技術を用いることにより、マーモセット体内で自然発生した生後1年前後の精子・精子細胞(未成熟精子)から受精卵が得られることを明らかにした。そこで本研究では、さらに早期に顕微授精を行う可能性を検討するために、性成熟の早いマウスへ新生仔マーモセット未成熟精細管を移植し、精粗細胞から精子・精子細胞発生が加速するかどうかを確認する。昨年度(2016-D-16)より、免疫不全マウスNOD/SCID系統に生じる免疫拒絶反応を回避するために、さらに重度の免疫不全マウスであるNSG系統をホストに利用している。昨年度中にやや矮小の7ヶ月齢の雄マーモセット1匹より手術にて片側精巣を摘出しNSG雄陰嚢腔に移植し、今年度、移植組織を回収して組織学的観察を行ったが、精子発生は確認されなかった。そこで、さらなる改良法として、ホストマウスの去勢を行なうことにより、GnRH分泌を促進し、移植精巣組織の発達を早める試みを開始した。4ヶ月齢雄マーモセットの片側精巣を去勢NSGマウスの腎皮膜下に移植し、現在移植後2.5ヶ月が経過したところである。約3ヶ月で移植組織を回収し、組織学的観察を行なう予定である。


H29-B31
代:久世 濃子
協:五十嵐 由里子
類人猿における骨盤の耳状面前溝の性差および種差

学会発表
久世濃子 類人猿にも妊娠出産痕があるのか?-類人猿における骨盤の耳状面前溝-(2017年9月10日) 日本哺乳類学会2017年度大会(富山県富山市).
類人猿における骨盤の耳状面前溝の性差および種差

久世 濃子 , 五十嵐 由里子

 ヒトでは、骨盤の仙腸関節耳状面前下部に溝状の圧痕が見られることがあり、特に妊娠・出産した女性では、深く不規則な圧痕(妊娠出産痕)ができる。直立二足歩行に適応して骨盤の形態が変化し、産道が狭くなった為にヒトは難産になった、と言われている。妊娠出産痕もこうしたヒトの難産を反映した、ヒト経産女性特有の形態的特徴であると考えられてきた。一方我々は、平成28年度までに、京都大学霊長類研究所および国内の博物館、動物園収蔵の大型類人猿3属51個体の耳状面前下部を観察することによって、大型類人猿でも圧痕が見られることを確認した。本研究では圧痕の形成要因を調べる為に、類人猿の遺体を解剖し、耳状面に付着する筋肉や靭帯の状況を調べる予定であった。本年は所内で少なくとも、ゴリラとオランウータン各1個体を解剖する計画だったが、代表者が年度半ばで、スイスに長期出張(3ヶ月間)することが決まった為、予定どおり所内での解剖を行うことができなかった。そのかわり、共同利用の研究費で購入したノギスを用いて、スイス(チューリッヒ大学、バーセル自然史博物館)等で、大型類人猿の骨格標本を対象に調査を行った。その結果、今まで推定されていた耳状面前部の圧痕発生頻度の種間差-ゴリラで高く、オランウータンで低い(圧痕があった個体/観察個体;ゴリラ:28/28、チンパンジー:18/24、オランウータン:7/16)を確認できた。今後はさらに解剖の観察例を増やし、圧痕の形成要因を明らかにしたいと考えている。


チューリッヒ大学標本庫での調査風景


H29-B32
代:Yun Yang
Behavioral ecology of parasite infection in wild rhesus macaques in Southern China
Behavioral ecology of parasite infection in wild rhesus macaques in Southern China

Yun Yang

 We finished the research project under the supervision of Dr. Andrew MacIntosh on both social networks and parasitological analyses in CICASP and the laboratory of the Section of Social Systems Evolution. We employed current parasitological protocols used in Dr. MacIntosh's lab (formalin-etheyl acetate sedimentation and sheather's sugar flotation) to extract parasite eggs and larvae from 260 fecal samples of wild rhesus macaques (Macaca mulatta) in Neilingding island, China. As a result, we identified three nematodes (Oesophagostomum spp.,Trichuris spp., Strongyloides spp.) and other parasites and pseudo-parasites (Balantidium coli cysts, Balantidium coli trophozoites) and insect eggs (see images). We used a McMaster chamber to estimate the number of parasite eggs/ larvae (Oesophagostomum, Trichuris, Strongyloides and Balantidium) per gram of fecal sediment (i.e. EPG) as a proxy for infection and parasite spreading across individuals. We developed two social networks from the frequencies of allogrooming for each period and calculated seven network parameters (outdegree, indegree, outstrength, instrength, betweenness, closeness, eigenvector). We used R software to build generalized linear mixed models to explore the effects of social behavior factors and demographic factors (sex and age) on the prevalence, infection intensity and diversity of three directly transmitted gastrointestinal nematodes (Oesophagostomum spp., Trichuris spp. and Strongyloides spp.) in wild rhesus macaques. We found that juveniles have a higher prevalence and infection intensity of Oesophagostomum spp. and Strongyloides spp. than adults, as well as nematodes diversity. We didn't find sex-biased infection of these three nematodes in our study group. Individuals with higher outstrength in the grooming network are more likely to be infected with Strongyloides spp.. Individuals with higher outdegree in the grooming network have less diverse nemotodes. Individuals with higher indegree in the grooming network have lower Trichuris spp. prevalence. This study complemented our existing knowledge of intestinal parasites in Chinese wild rhesus macaques, described the factors affecting the gastrointestinal parasite infection of wild rhesus macaques in detail, and also provided a theoretical basis for the protection of wild rhesus macaques in the Neilingding island nature reserve. We greatly appreciate the opportunity and support the Primate Research Institute Kyoto University provided me for my research. Many thanks to Dr. MacIntosh and his colleagues at PRI for their advice and help throughout my study.


H29-B33
代:Mohammed Znari
"Nutritional Ecology of crop-raiding Barbary macaques, Macaca sylvanus in the High Ourika valley, western High Atlas, Morocco"
H29-B34
代:外丸 祐介
協:信清 麻子
協:畠山 照彦
一卵性多子ニホンザルの作製試験

学会発表
外丸祐介、信清麻子 サル類における体外培養系受精卵の作製について(2017年10月13日) 第51回日本実験動物技術者協会総会(山形).

外丸祐介、信清麻子、岡本宗裕 サル類の体外培養系受精卵の作製について(2017年12月2日) 第35回動物生殖工学研究会(川崎).

外丸祐介、信清麻子、岡本宗裕 サル類における基盤的発生工学技術と凍結保存技術について(2018年1月16日) 第7回日本マーモセット研究会大会(京都).
一卵性多子ニホンザルの作製試験

外丸 祐介 , 信清 麻子, 畠山 照彦

 本課題は、動物実験に有用な一卵性多子ニホンザルの作製を目指すものであり、これまでに体外培養系卵子・受精卵の操作・作製に関する手法の確認を進めながら、分離受精卵からの個体作製試験に取り組んできた。平成29年度では、前年度実施した移植試験により、2分離した体外受精卵から単子ではあるが健常産仔の獲得に成功した。また、2回の実験実施により計4頭の雌ニホンザルについて採卵処置を行い、得られた卵子を用いて体外受精卵を作製した後、一部の受精卵を用いて2分離および4分離受精卵を作製した。これらの分離受精卵について体外培養により桑実胚・胚盤胞まで発生させた後、霊長類研究所の雌ニホンザル2頭をレシピエントとして移植試験を実施し、現在は経過を観察中である。今後は、一卵性双仔の獲得に向けて分離受精卵の移植試験を継続するとともに、ニホンザル受精卵の移植レシピエントとしてのカニクイザルの有用性確認を進める予定である。


H29-B35
代:筒井 健夫
協:小林 朋子
協:鳥居 大祐
協:松井 美紀子
マカク歯髄細胞三次元培養構築体移植による歯髄再生
マカク歯髄細胞三次元培養構築体移植による歯髄再生

筒井 健夫 , 小林 朋子, 鳥居 大祐, 松井 美紀子

 平成28年度は、ニホンザル3例に対して歯髄の採取、歯髄細胞の培養および移植を行った。歯髄は、右側乳側切歯と右側乳犬歯、また脱落が近日中に予期される上下顎乳中切歯について個体別に採取可能な部位より抜歯、もしくは生活歯髄切断法を応用し採取した。歯髄細胞は採取後、初代培養および継代培養を行い、歯髄細胞三次元構築体を作製した。3例のニホンザルに対して歯髄細胞三次元構築体の自家移植を上顎右側乳犬歯、または下顎左側乳犬歯へ行った。移植に際しては、歯質を切削し露髄を確認後、歯冠側1/3から1/4程度の歯髄除去処置を行った。処置前と移植後にはエックス線撮影を行い、処置の確認を行った。歯髄細胞を採取した歯についても、エックス線撮影より処置後の状態を確認後対応し、その際、後続永久歯の確認も行った。2017年1月に移植を行った3例のニホンザルから採取した下顎右側乳犬歯は脱灰後、薄切片を作製し組織学的検査を行っている。また、以前採取したアカゲザルの乳歯歯髄細胞において、自発性に不死化した細胞について細胞特性解析を行った。不死化後の細胞の核型をG-band法にて解析し、不死化後の核型はほぼ4倍体で、個々の細胞で染色体数のばらつきが顕著であった。また、テロメア長はテロメアhybridization protection assay法で解析し、不死化後の細胞は不死化前の細胞と比較してテロメア長が短かった。これらの結果は第59回歯科基礎医学会学術大会にて発表した。


H29-B36
代:井上 治久
協:沖田 圭介
協:今村 恵子
協:近藤 孝之
協:江浪 貴子
協:舟山 美里
協:大貫 茉里
霊長類神経系の解析とヒト疾患解析への応用
霊長類神経系の解析とヒト疾患解析への応用

井上 治久 , 沖田 圭介, 今村 恵子, 近藤 孝之, 江浪 貴子, 舟山 美里, 大貫 茉里

 チンパンジーのiPS細胞から神経細胞を分化誘導し、神経活動の評価を行った。具体的には、MAP2、NeuN、synapsin Iが陽性の成熟神経細胞を作製し、平面微小電極アレイ計測システム(MED64-Basic、Alpha Med Scientific)を用いて神経細胞の自発電気活動を記録した。培養期間に比例して神経細胞の自発発火に基づくspike頻度は増加し、シナプス伝搬による同期バースト発火が検出された。同期バースト発火は、シナプス形成の成熟化の指標のひとつであり、チンパンジーiPS細胞由来神経細胞で、機能的な神経ネットワークが形成されていることが示された。さらにこの神経細胞の電気活動において薬剤応答性が検出できるかを調べた。作製した神経細胞は、グルタミン酸受容体等に対する薬剤応答性を示し、神経ネットワークの機能的な成熟化が示唆された。これらの結果から、チンパンジーiPS細胞から作製した神経細胞は機能的なシナプスと神経ネットワークを形成し、霊長類神経系の機能解析に有用と考えられた。


H29-B37
代:Kanthi Arum Widayati
協:Yohey Terai
Genetic characterization of bitter taste receptors in Sulawesi macaques

学会発表
Widayati KA, Xiaochan Y, Suzuki-Hashido N, Purba LHPH, Bajeber F, Suryobroto B, Terai Y, Imai H Characterization of the TAS2R38 bitter taste receptor for phenylthiocarbamide (PTC) of Macaca tonkeana and M. hecki( 27 and 28 January 2018) 62nd Primates Conference( Japan Monkey Centre).

Widayati KA, Xiaochan Y, Suzuki-Hashido N, Purba LHPH, Bajeber F, Suryobroto B, Terai Y, Imai H BEHAVIORAL AND ALLELIC VARIATIONS OF THE TAS2R38 BITTER TASTE RECEPTOR FOR PHENYLTHIOCARBAMIDE (PTC) OF TWO SPECIES OF SULAWESI MACAQUES(8 and 9 August 2017) The 2nd International Conference on Biosciences( IPB International Convention Centre, Indonesia).
Genetic characterization of bitter taste receptors in Sulawesi macaques

Kanthi Arum Widayati , Yohey Terai

 Bitter perception plays an important role in avoiding ingestion of toxins by inducing innate avoidance behavior. Bitter taste is mediated by the G protein-coupled receptor TAS2R, which is located in cell membranes. Since TAS2R genes are directly involved in the interaction between mammals and their dietary sources, it is likely that these genes evolve to reflect species-specific diets during mammalian evolution. One of the best-studied bitter taste receptors is TAS2R38, which recognizes bitter molecule phenylthiocarbamide (PTC). We did experimental behavior and genetic characterization of TAS2R38 of two species of Sulawesi Macaques. Sulawesi macaques are unique due to their extensive evolutionary divergence into seven species in an island, which covers only 2.5% of the genus area. We used PTC to test avoidance behaviors of 25 individuals of Macaca hecki (N: 13) and Macaca tonkeana (N: 12) in Palu city, Central Sulawesi. All M. hecki rejected 2mM PTC-containing food and thus appeared to be PTC taster. On the other hand, four individuals of M. tonkeana indicated to be PTC non-taster, which rarely discriminated the bitterness of PTC. All of the critical amino acid positions for human TAS2R38 functionality are not altered in both M. hecki and M. tonkeana receptors. The non-taster individuals showed specific nucleotides on sites 349, 390, 401 which may lead to amino acid change on position 117, 130 and 134 respectively. By calcium imaging, we confirmed that the receptor with those specific amino acids change showed lower sensitivity to PTC compared to the wild types.


H29-B38
代:Jeanelle Uy
The relationship between gut size and torso anatomy
The relationship between gut size and torso anatomy

Jeanelle Uy

 The gut (gastrointestinal tract) is a unique example of a visceral structure that is thought to have driven changes to postcranial dimensions. A longstanding assumption within paleoanthropology is that the torso skeleton, particularly the ribcage and pelvis, reflects organ size; however, no data exists in the literature that directly links soft tissue (guts) to hard tissue (bones). The purpose of this project is to determine if gut size is related to torso morphology. We will test if the bony anatomy of the ribcage and pelvis is related to gut size in anthropoids. Thoracic measurements were obtained from Homo, Hylobates, Pan, Pongo, Gorilla, Macaca, and Cebus skeletons. Existing whole abdomen scans from humans (n=200) were obtained from my institution (UW-Madison) and existing scans of Pan (n=4) and Cebus (n=8) were obtained from KUPRI. We will test the null hypothesis that gut volume is not related to the pelvis or the thorax and a second null hypothesis that gut volume relative to body size does not differ across these anthropoid species. The comparison of thorax dimensions across species shows that the monkeys and Hylobates had more similar ribcage volumes in their upper and lower thorax and also have the smallest gut sizes, according to published data. On the other hand, the hominids had less similar upper-to-lower thorax volume ratios and have relatively larger gut sizes. Additionally, we have found that, in general, male humans tend to have gut volumes that are correlated with variables related to body size, while females have a more complicated relationship between the skeleton and the gut. Across species analysis will be performed once all the human data and Cebus scans have been analyzed. The data analysis will continue to progress throughout this fiscal year.


H29-B39
代:Srichan Bunlungsup
協:Suchinda Malaivijitnond
Genetic assessment of the hybridization between two subspecies of long-tailed macaque (Macaca fascicularis fascicularis and M. f. aurea)
Genetic assessment of the hybridization between two subspecies of long-tailed macaque (Macaca fascicularis fascicularis and M. f. aurea)

Srichan Bunlungsup , Suchinda Malaivijitnond

 Rhesus macaque (Macaca mulatta) is one of the most well-known non-human primate species. They were previously classified into 6 subspecies, however, due to an inadequate information, the recognition of subspecies level distinctions became obsolete and this species was subsequently divided into three main groups that are Eastern (China and vicinity), Western (India and vicinity) and Southern (Indochinese) groups. Most of the previous studies focus only on the first two groups which cause their evolutionary history still be obscured. Here, we collected wild samples of southern rhesus populations from Thailand and Myanmar. Hypervariable region I (HVSI) on mtDNA were sequenced and analyzed together with other downloaded sequences of rhesus macaque from throughout their distribution range. Phylogenetic trees were constructed using NJ, ML, and Bayesian analysis. All methods showed similar topology in which Western rhesus macaque (blue) was first separated from other regions in approx. 1.77 Mya, followed by the separation between Southern (green) and Eastern group (yellow) in approx.1.48 Mya. All tested populations showed negative Tajima’D value with no significant difference. Since Indian rhesus showed lowest nucleotide diversity within the group and highest genetic differentiation from others, we supposed that rhesus macaque was first originated in Indochinese regions then, migrated westward and eastward to Indian and China, respectively. However, Indian rhesus had experienced genetic drift and severe bottleneck and thus, showed genetic distinctive from other regions. Since this preliminary result includes only a part of mitochondria DNA, we are now analyzing other regions of mtDNA and hope this should help us to gain clearer scenario about rhesus evolutionary history.


H29-B40
代:清水 貴美子
協:深田 吉孝
霊長類における概日時計と脳高次機能との連関
霊長類における概日時計と脳高次機能との連関

清水 貴美子 , 深田 吉孝

 我々はこれまで、齧歯類を用いて海馬依存性の長期記憶形成効率に概日変動があることを見出し、SCOPという分子が概日時計と記憶を結びつける鍵因子であることを示してきた (Shimizu et al. Nat Commun 2016)。本研究では、ヒトにより近い脳構造・回路を持つサルを用いて、SCOPを介した概日時計と記憶との関係を明らかにすることを目的とする。
 ニホンザル6頭を用いて、苦い水と普通の水をそれぞれ飲み口の色が異なる2つのボトルにいれ、水の味と飲み口の色との連合学習による記憶効率の時刻依存性について実験をおこなっている。各個体あたり、朝/昼/夕の何れかに試験をおこない、学習から24時間後にテストを行う。ボトルをセットしてから最初の一口目が正解(普通の水)だった場合にポイントを加算する方式で、6頭の記憶テスト結果を評価したところ、昼に有意に記憶効率が高いという結果が得られた。しかし、各時刻におけるサルの飲水欲求の強さが記憶テストの結果に影響する可能性があるため、1日の飲水行動パターンを測定したところ、食餌時の飲水量には時刻による差は見られず、食餌時以外の時刻にはほとんど飲水行動は見られなかった。本記憶テストでは、テストと同時に食餌を与えているため、各時刻の飲水欲求は同程度であると考えられ、記憶テストの結果にも影響を与えていないと考えられた。また、昼の記憶効率の高さにSCOPが関わっているかどうかを確かめるために、6頭のうちの2頭の海馬にSCOP shRNA発現レンチウイルスまたはコントロールレンチウイルスを投与し、昼の時刻の記憶効率を測定した。コントロールレンチウイルスを投与したサルは、何も投与していないサルの昼の時刻と同程度の記憶効率を示したが、SCOP shRNA発現レンチウイルスを投与したサルは、著しく記憶効率が低下していた。しかし、正確な記憶効率を評価するためには、さらに記憶テストの試行回数を増やす必要がある。



H29-B41
代:Bambang Suryobroto
Genomic Evolution of Sulawesi Macaques
Genomic Evolution of Sulawesi Macaques

Bambang Suryobroto

 Macaca is a characteristic monkey of Asia/Oriental zoogeographical realm, however seven species of them distribute allopatrically and endemically in Sulawesi Island that is the center of Wallacea region. In 2017 we studied M. tonkeana and M. hecki because there were reports that the two species hybridize in their borderland area. We therefore follow an evolutionary model called “speciation with gene flow” to analyze the exome sequences of both species. In collaboration with Dr. Yohei Terai of Sokendai, we had succeeded in getting exome genomes of 11 individuals of M. tonkeana and 11 M. hecki. In these two species, the total number of codons is 2,874,866 and number of segregating sites are 34,519. With the expertise of Dr. Shohei Takuno, also from Sokendai, we analyzed these data. The exome sequences provide matrices of allele frequency spectrum (AFS) to infer demographic model of population subdivision. Given a homologue genetic region from the two species, the resulting AFS is a 2-dimensional matrix that recorded the number of diallelic genetic polymorphisms; each of our AFS was 23-by-23 matrix (indexed from 0). From these AFSs, we calculated the statistics commonly used for population genetic inference, such as Wright’s FST (population differentiation) and Tajima’s D (departure from neutrality). We calculated FST as 0.289 and for M. tonkeana the D is -1.18 and M. hecki -0.937. The negative Ds indicated the excess of rare variants which may be interpreted as the two populations had been through a bottleneck event and now expanding. Furthermore, we iteratively assigned an individual (probabilistically) on the basis of their genotypes to each population which is characterized by a set of allele at each locus. In doing so we found a recent admixture which evidently came from M. tonkeana to M. hecki.


H29-B42
代:松岡 史朗
協:中山 裕理
下北半島脇野沢の野生ニホンザル群の分裂が個体群動態に与える影響

論文
松岡史郎(編)(2017 ) 平成28年度天然記念物生息調査むつ市に 生息するニホンザルの生息実態調査調査報告書 下北半島のニホンザル  平成29年度:1-43.
下北半島脇野沢の野生ニホンザル群の分裂が個体群動態に与える影響

松岡 史朗 , 中山 裕理

 下北半島南西部のA87群は2012年に83頭に増加し、2013年4月に43頭(87A群)と22頭(87B群)の2群に分裂した。分裂5年目の2017年度の出産率は、87A群40%、87B群は86%、赤ん坊の死亡率は87A群、87B群ともに0%と分裂前の高い出産率、低い死亡率の状態に戻った。分裂前(1984~2011年)分裂後(2013年以降)の群の増加率、出産率、0~3歳の死亡率、遊動距離を比較してみたが、今年度もどれも変化は見られなかった。87A群の15歳のオトナメスが1頭が死亡した。GPS発信機の装着による首輪の擦れによる傷の化膿が原因と考えられる。分裂前、年々増加傾向にあった群れの遊動面積は、分裂後も縮小は見られず、今年度は昨年度に利用していなかった地域の利用が確認された。しかし以前は利用していたが今年度は、ほとんど利用しなくなった地域もあり遊動面積が拡大したとは言い難い。87A群は今年度66頭となり、現在と同様の高い出産率、低い死亡率が続いた場合、2,3年で再び分裂した頭数に達する。今年度も、1日程度のサブグルーピングが観察された。グルーミングの頻度と個体数との関係は現在解析中である。グルーミングの相手は、親子、姉妹の頻度が高かった。


H29-B43
代:村田 幸久
協:中村 達朗
コモンマーモセットにおける食物アレルギーの診断と管理法の開発

論文

関連サイト
東京大学大学院農学生命科学研究科 放射線動物科学研究室 http://www.vm.a.u-tokyo.ac.jp/houshasen/
コモンマーモセットにおける食物アレルギーの診断と管理法の開発

村田 幸久 , 中村 達朗

 正常便のマーモセット3個体、泥状便のマーモセット3個体(うち1個体は正常便の個体と同一個体で別の日)から尿を採取し、排泄された脂質濃度の網羅的な測定(リピドーム解析)をおこなった。その結果、泥状便を繰り返し、Marmoset Wasting Syndromeが疑われた1個体について、正常便の際も、泥状便の際にも、炎症性脂質メデイエーターと呼ばれる脂質濃度が大きく上昇しており、強い炎症が示唆された。
 また、泥状便を繰り返すが、抗炎症剤を投与された1個体は、これらの上昇は確認されなかった。今後は食物アレルギーが疑われる個体に加え、Marmoset Wasting Syndromeが疑われる個体についても対象とし、さらに検討を加える予定である。



H29-B44
代:三浦 智行
協:阪脇 廣美
協:水田 量太
複合ワクチネーションによるSIVの感染防御効果の解析

論文
Beauchemin, C. A., Miura, T., and Iwami, S.(2017) Duration of SHIV production by infected cells is not exponentially distributed: Implications for estimates of infection parameters and antiviral efficacy. Sci. Rep. 7:42765.

Iwanami, S., Kakizoe, Y., Morita, S., Miura, T., Nakaoka, S., and Iwami, S.(2017) A highly pathogenic simian/human immunodeficiency virus effectively produces infectious virions compared with a less pathogenic virus in cell culture. Theor. Biol. Med. Model. 14:9.

学会発表
三浦智行 霊長類モデルを用いたHIV感染症の予防・治療法開発(2017年7月1日) 第26回サル疾病ワークショップ(相模原).

姫野愛、石田裕樹、森ひろみ、松浦嘉奈子、菊川美奈子、三浦智行 CCR5指向性サル/ヒト免疫不全ウイルス感染アカゲザル血漿における中和能の進化(2017年10月24-26日) 第65回日本ウイルス学会学術集会(大阪).
複合ワクチネーションによるSIVの感染防御効果の解析

三浦 智行 , 阪脇 廣美, 水田 量太

 我々は、エイズの原因ウイルスであるヒト免疫不全ウイルス1型(HIV-1)の感染モデルとしてサル免疫不全ウイルス(SIV)や、それらの組換えウイルスであるサル/ヒト免疫不全ウイルス(SHIV)のアカゲザルへの感染動態と免疫応答について長年研究してきた。一方、SIV遺伝子を発現するBCGベクターとワクシニアウイルスベクターを組み合わせて免疫することにより、SIVの感染防御効果が得られることを示唆する予備的結果を得た。平成29年度は、ワクチン群3頭および対照群3頭のアガケザルについて免疫誘導状況について調べたところ、ワクチン群では対照群に比較してSIV特異抗原に対する免疫が誘導されていることが確認された。そこで、SIVmac239株による攻撃接種実験を行ったところ、期待に反してワクチン群と対照群でウイルス増殖に違いが認められなかった。また、新規に開発した攻撃接種用SHIVとして、臨床分離株と同等レベルの中和抵抗性を有するCCR5親和性SHIV-MK38C株の感染実験を開始した。ワクチン候補のさらなる改善および攻撃接種用SHIVの攻撃接種ウイルスとしての適正評価のために平成30年度も感染実験を継続する。


H29-B46
代:朝長 啓造
協:小嶋 将平
内在性ボルナウイルスによるウイルス感染抑制メカニズムの解明
内在性ボルナウイルスによるウイルス感染抑制メカニズムの解明

朝長 啓造 , 小嶋 将平

 内在性ボルナウイルス様エレメント(EBLs)は、霊長目を含む多くの動物のゲノムに存在するボルナウイルス様配列である。ヒトゲノムに存在するEBLsは、臓器および培養細胞において発現し抗ウイルス作用を示すことがすでに当研究室において明らかとなっている。しかし、ヒト以外の真猿亜目に属するサルにおいてその配列、発現、および機能はまだ明らかとなっていない。そこで本共同研究では、霊長類に内在しているEBLsの機能を明らかにすることを目的に、新世界ザル、および類人猿由来の培養細胞を用い、EBLsの探索、配列決定、発現解析、および機能の解析を目的として行った。分与されたのチンパンジー、ゴリラならびにマーモセット由来の繊維芽細胞よりゲノムDNAを抽出し、ヒトゲノムに存在する特定のEBLに対するオルソログ配列をPCR法により同定した。またRNAを抽出し、RT-PCR法によりオルソログ領域からの転写を確認した。また、オルソログとその周辺配列のシークエンス解析とEBL発現に関与するプロモーターの保存性を明らかにし、進化過程におけるEBLの選択圧についても検討を行った。その結果、分与された細胞において、特定のヒトEBL(hsEBLN-3)のオルソログ配列が存在することが明らかとなった。また、hsEBLN-3は、真猿亜目の細胞においてmRNAを発現していることも示された。現在、ヒト細胞におけるhsEBLN-3の機能解明を行っており、本共同研究の成果は、hsEBLN-3の機能解明に関する論文に重要な結果として掲載をする予定である。


H29-B47
代:岡田 誠治
協:俣野 哲朗
協:刈谷 龍昇
サル造血免疫機能の解析とサル免疫不全ウイルス感染モデルマウスの樹立
サル造血免疫機能の解析とサル免疫不全ウイルス感染モデルマウスの樹立

岡田 誠治 , 俣野 哲朗, 刈谷 龍昇

 本研究の目的は、ニホンザルの造血・免疫系を解析し、その特徴を明らかにすること、その結果を元にニホンザルの造血免疫系を構築したマウスモデルとエイズモデルを構築することである。
 本年度は、ニホンザル2匹から脾細胞・末梢血を採取し、2種類の高度免疫不全マウス(NOD/Scid/Jak3欠損マウス及びBALB/c Rag-2/Jak3二重欠損マウス)腹腔内に移植した。2×10E7個以上移植されたマウスは、2週間以内に死亡した。1×10E7個移植されたマウスでは、フローサイトメトリーによりニホンザル細胞の生着が確認されたが、その割合は低かった。
 来年度は、マウスに適量の放射線照射をするなどの処置により、効率の良い移植系の確立を目指す。



H29-B48
代:平田 暁大
協:柳井 徳磨
協:酒井 洋樹
飼育下サル類の疾患に関する病理学的研究

論文
Miyabe-Nishiwaki T, Hirata A, Kaneko A, Ishigami A, Miyamoto Y, Yamanaka A, Owaki K, Sakai H, Yanai T, Suzuki J.(2017 ) Hepatocellular carcinoma with intracranial metastasis in a Japanese Macaques (Macaca fuscata). J. Med. Primatol. 46(3):93-100.
飼育下サル類の疾患に関する病理学的研究

平田 暁大 , 柳井 徳磨, 酒井 洋樹

 飼育下でサル類に発生する疾患およびその病態を把握するため、霊長類研究所で死亡あるいは安楽殺したサル類を病理学的に解析していた。平成29年度中に25頭(コモンマーモセット15頭、ニホンザル8頭、チンパンジー1頭、オマキザル1頭)の病理学的解析を行った。さらに、同研究所の獣医師と臨床病理検討会(CPC、Clinico-pathological conference)を開催し、病理学的解析結果を治療データ、臨床検査データ(血液検査、レントゲン検査、CT検査、MRI検査等)と照合し、症例の総合的な解析を行った。
 研究期間中に、マーモセットで進行性の削痩を主症状とする消耗性症候群(Wasting syndrome)の症例が多数認められたが、病理組織学的解析により、罹患個体には高度な腸炎(慢性小腸炎および慢性大腸炎)が認められることを明らかになった。本症候群の病態は一定ではないことから、いくつかの疾患が包含されている可能性が指摘されている。今回の解析から、同症候群の中には腸炎を特徴とする疾患が含まれていることが示唆され、未だ解明されていない本症候群の病因の解明にも繋がると考えられる。
 脳内転移の見られた肝臓癌のニホンザルの症例について論文を発表した。CT検査、MRI検査等の詳細な臨床検査データと病理解析結果を提示した貴重な報告であり、サル類の臨床診断技術および精度の向上に資すると考えられる。



H29-B49
代:郷 康広
ヒトの高次認知機能の分子基盤解明を目指した比較オミックス研究

論文
Tatsumoto S, Go Y, Fukuta K, Noguchi H, Hayakawa T, Tomonaga M, Hirai H, Matsuzawa T, Agata K, Fujiyama A.(2017) Direct estimation of de novo mutation rates in a chimpanzee parent-offspring trio by ultra-deep whole genome sequencing. Sci Rep. 7(1):13561. 謝辞あり

Shimogori T, Abe A, Go Y, Hashikawa T, Kishi N, Kikuchi SS, Kita Y, Niimi K, Nishibe H, Okuno M, Saga K, Sakurai M, Sato M, Serizawa T, Suzuki S, Takahashi E, Tanaka M, Tatsumoto S, Toki M, U M, Wang Y, Windak KJ, Yamagishi H, Yamashita K, Yoda T, Yoshida AC, Yoshida C, Yoshimoto T, Okano H.(2018) Digital gene atlas of neonate common marmoset brain. Neurosci Res. 128:1-13.

Fukuda K, Inoguchi Y, Ichiyanagi K, Ichiyanagi T, Go Y, Nagano M, Yanagawa Y, Takaesu N, Ohkawa Y, Imai H, Sasaki H.(2017) Evolution of the sperm methylome of primates is associated with retrotransposon insertions and genome instability. Hum Mol Genet. 26(18):3508-3519. 謝辞あり

川本芳, 川本咲江, 濱田穣, 山川央, 直井洋司, 萩原光, 白鳥大祐, 白井啓, 杉浦義文, 郷康広, 辰本将司, 栫裕永, 羽山伸一, 丸橋珠樹(2017) 千葉県房総半島の高宕山自然動物園でのアカゲザル交雑と天然記念物指定地域への交雑拡大の懸念 霊長類研究 33(2):69-77.

学会発表
郷康広 霊長類における精神・神経疾患関連遺伝子解析と認知ゲノミクスの展望(2018年2月24日) 平成29年度京都大学霊長類研究所共同利用研究会「霊長類における認知ゲノム研究」(犬山).

郷康広 「ゲノムを通して我が身を知る〜ヒト集団にみられる「個性」創発の起源に関する論考〜」(2017年10月29日) 日本社会心理学会第58回大会(広島市).

郷康広 Spatiotemporal brain transcriptome architecture and application for disease model in marmosets(2017年9月21日) 第27回日本神経回路学会全国大会(北九州市).

Yasuhiro Go Spatiotemporal brain transcriptome architecture and application for disease model in marmosets(2017年9月8日) 第60回日本神経化学学会大会(仙台市).

郷康広 ゲノムを通して我が身を知る〜人とヒトとサルの間にあるもの〜(2017年4月15日) 愛知高等学校特別講演会(名古屋市).

郷康広、佐々木哲也、中垣慶子、小賀智文、辰本将司、石川裕恵、臼井千夏、一戸紀孝 自閉症モデルマーモセット脳における時空間遺伝子発現解析(2018年1月17日) 第7回日本マーモセット研究会(京都(京都大学)).
ヒトの高次認知機能の分子基盤解明を目指した比較オミックス研究

郷 康広

1. ヒト精神疾患・高次認知機能解明のための霊長類モデル動物の開発
 ヒトの高次認知機能やその破綻として現われる精神・神経疾患の本質的な理解のために、マカクザルおよびマーモセットを対象としたマルチオミックス解析を実施することで霊長類モデル動物の開発を行った。具体的には、それぞれ1000頭近くの個体に対して精神・神経疾患関連候補遺伝子ターゲット配列解析を行うことにより、遺伝子機能異常変異を自然発症的に持つ個体の同定を行った。また、神経変性疾患である多系統萎縮症や先天的代謝異常症であるライソゾーム症様の表現型を呈するマカクザルを対象とした集団ゲノム解析を行い、原因遺伝子を明らかにした。さらに、精神・神経疾患の脳内分子動態を明らかにするための脳内遺伝子発現マップ作製のために、マカクザル発達脳発現解析、および、マーモセットを用いたマクロレベルとミクロレベルの全脳遺伝子発現動態解析を行った。マーモセットのマクロレベルでの研究の一部を理化学研究所脳科学総合研究センターとの共同研究として論文発表した。さらに、国立精神神経センターとの共同研究として薬理学的自閉症モデルマーモセットの脳における遺伝子発現動態変化解析を行い、自閉症の分子動態解明に向けたトランスレータブル研究を推進した。
2. 比較オミックス解析による「ヒト化」分子基盤の解明
 ヒト化の最大の特徴のひとつである脳の形態進化・機能進化の分子基盤の解明のために、ヒトと非ヒト霊長類であるチンパンジー・ゴリラ・テナガザルの死後脳を用いた網羅的発現解析を行った。その結果、ヒト特異的な発現変化を示す遺伝子はチンパンジーのそれに比べて顕著に増加しており、その半数以上は、ヒト海馬のニューロンやアストロサイトにおいて生じていることを明らかにした。また、チンパンジー親子トリオ高深度全ゲノム解析による直接突然変異率の推定および一世代間におけるゲノム構造変異に関する研究を、国立遺伝学研究所、京都大学霊長類研究所との共同研究として行い、結果を論文として公表した。



H29-B50
代:神奈木 真理
協:長谷川 温彦
協:永野 佳子
STLV自然感染ニホンザルの抗ウイルスT細胞免疫
STLV自然感染ニホンザルの抗ウイルスT細胞免疫

神奈木 真理 , 長谷川 温彦, 永野 佳子

 サルTリンパ球向性ウイルス(STLV)はヒトT細胞白血病ウイルス1型(HTLV-1)の近縁ウイルスであり、ニホンザルに高率に自然感染している。HTLV-1感染では一部の感染者が成人T細胞白血病(ATL)を発症する。HTLV-1特異的T細胞応答に個体差があり、ATL患者では低応答(免疫寛容)であることから、T細胞応答を強化することには治療的意義があると我々は考えている。本研究で、我々はウイルス特異的T細胞応答を活性化する治療方法の開発を目的として、STLV感染ニホンザルにおけるSTLV特異的T細胞応答の評価系を作成し、個体レベルで免疫活性化実験を行う。T細胞応答はMHCに拘束されるため、野生のニホンザルでは個体ごとに抗原認識部位が異なる。そこで我々は、感染個体から個別にSTLV感染細胞株を樹立し、これを標的としてT細胞応答を解析する方法を選択した。平成29年度は、PCRで定量可能なレベルのプロウイルス量を持つSTLV自然感染ニホンザル 6頭の末梢血白血球から細胞株の樹立を試み、3頭から一過性に増殖するSTLV感染細胞株を得た。これらの感染細胞を用いて、in vitroで宿主のSTLV特異的T細胞応答を調べたところ、2頭からはSTLV特異的なT細胞応答が認められたが1頭からは検出できなかった。これらのことから、STLV自然感染ニホンザルのT細胞応答には、ヒトHTLV-1感染者と同様に個体差があり、免疫寛容を示す個体があることが示唆された。


H29-B51
代:Laurentia Henrieta Permita Sari Purba
Functional characterization of bitter taste receptors in Asian Leaf-eating Monkeys

学会発表
Laurentia Henrieta Permita Sari Purba, Kanthi Arum Widayati, Sarah Nila, Kei Tsutsui, Nami Suzuki-Hashido, Takashi Hayakawa, Bambang Suryobroto, Hiroo Imai Characterization of bitter taste receptor TAS2R38 to PTC in Colobine Monkeys(25-27 September 2017) 51st Annual Meeting of The Japanese Association for the Study of Taste and Smell ( Japan).
Functional characterization of bitter taste receptors in Asian Leaf-eating Monkeys

Laurentia Henrieta Permita Sari Purba

 TAS2R38 is one of TAS2R multigene families that encode receptor to recognize bitter from several N-C=S compounds including PTC. TAS2R38 had been identified in many primates. TAS2R38 in human, chimpanzee, Japanese macaques exhibit intra-species polymorphism that lead to different behavioural response of individual. Taster individual show aversion to PTC, in contrast to tolerant in non-taster individuals.
 Leaf-eating monkeys (Subfamily Colobines) are unique among primates because their diet mostly consisted of leaves that perceptually tasted bitter to human. We confirmed that Trachypithecus, Presbytis and Nasalis were all less sensitive to PTC compared with macaque both in behavioral detection and cell assay. In addition we found four colobine specific amino acid mutations (V44I, Q93E, I148F, and R330K) that revealed in comparison with human, chimpanzee and macaque TAS2R38 receptors.
We did site-directed mutagenesis of macaque TAS2R38 to mimicking colobine in the specific position. By calcium imaging, we measured the responses of cell expressing mutant TAS2R38 of macaque mimicking colobine. The single-site mutations of four amino acids of TAS2R38 of macaque to mimic colobine confirmed that those mutations in colobines are responsible to the decreased sensitivities to PTC. In addition, double-, triple- and quadruple- site mutations are less sensitive to PTC compare to the wild type. We found mutants containing amino acid change at position 93 were remarkably reduced the sensitivities as shown by the EC50 values. We proposed that Q93 are important to keep the function of TAS2R38 receptor in PTC-taste species such as macaque.



H29-B52
代:関澤 麻伊沙
ニホンザル野生群におけるinfant handlingの意義
ニホンザル野生群におけるinfant handlingの意義

関澤 麻伊沙

 群れを形成する霊長類では、母親以外の個体(ハンドラー)が新生児へ接触するinfant handling(IH)という行動が日常的にみられる。IHは,ハンドラーがアカンボウに興味を持ち、ハンドラーと母親との交渉が行われ、母親がハンドラーを許容する、という3段階があると考えられる。しかし、これまでの研究では、これらを総合的に解釈したものはなかった。そこで本研究では、ニホンザル野生群を対象に、上記の3段階を踏まえて、IHの意義を総合的に理解することを目的とした。申請者はこれまで3年間に渡り、宮城県金華山島に生息する野生ニホンザルを対象にIHに関わる行動データを収集してきた。今年度は、アカンボウ3頭とその母親について前年度までと同様に個体追跡による行動観察を行い、補足的なデータを収集した。これまでに集めたデータを分析した結果、ハンドラーは、母親の子育てスタイルや母子間距離、自身と母親の社会関係などを見極めて、接触しやすいアカンボウを選択的にハンドリングしている可能性が示唆された。


H29-B53
代:横田 伸一
二ホンザルとアカゲザルにおける新規ストレスマーカーの探索とストレス反応性の比較研究
二ホンザルとアカゲザルにおける新規ストレスマーカーの探索とストレス反応性の比較研究

横田 伸一

 本研究の目的は、ニホンザルとアカゲザルにおいて簡便に測定できるストレスバイオマーカーを見出し、それぞれのサル種におけるストレス反応性の特徴をバイオマーカーの観点から明らかにすることである。平成29年度は、ストレス負荷(サルをホームケージから他室の個別ケージに一時的に移動させるストレス)の2日前と当日の同時刻に採取した血液および唾液中のコルチゾール、メラトニン、アミラーゼ、免疫グロブリンA(IgA)の濃度測定に成功し、血漿よりも唾液中のコルチゾール濃度の方が鋭敏にストレス反応を捉え得ることを明らかとした。また、コルチゾール濃度の上昇に並行して、アミラーゼとIgAの濃度が減少することも明らかにした。コルチゾール、アミラーゼ、IgAの変動は、半数例にあたるN=6の時点ではアカゲザルにおいてのみ有意差が検出されており、バイオマーカーの観点からもニホンザルとアカゲザルのストレス反応性の違いが見出される可能性がでてきている。今後は、ストレスの種類をより現実的なものに変更し、唾液や血液以上に採取が容易な糞便中でのバイオマーカーの検出系の創出にもチャレンジしてみる予定である。


H29-B54
代:Leonardo C?sar Oliveira Melo
協:Maria Ad?lia Borstelmann de Oliveira
協:Anisio Francisco Soares
Absortion and bioavaiability of gum’s compounds used by marmoset in field and laboratory conditions
Absortion and bioavaiability of gum’s compounds used by marmoset in field and laboratory conditions

Leonardo C?sar Oliveira Melo , Maria Ad?lia Borstelmann de Oliveira, Anisio Francisco Soares

 From three family groups of marmosets monitored since 1998, in two Brazilian biomes: Caatinga Biome in the county of Arcoverde - 8º 24’ S e 37º 03’ W - and Atlantic Forest Biome in two others counties: Recife and São Lourenço da Mata - Tapacurá Ecological Fieldstation 08o 07' S, 34o 55’ W) in the state of Pernambuco, we collected samples of feces from marmosets and gums used by their diet.
In the cases of feces were collected from the identified individual, the sex and weight of the individuals were recorded. Other samples were collected on the feeding platforms, in which case no individual data was available. All samples were stored in ependorf without preservatives and stored in freezer -20 oC within 4 h of collection. "
 Samples of four species of gum trees of the Atlantic Forest and Caatinga - in number of 2 for each site - were collected with the aid of a metal spatula. These were packed in sterilized pots and preserved under refrigeration. In the laboratory, they were lyophilized and later preserved in deep freeze at -20 degrees.



H29-B55
代:牟田 佳那子
協:増井 健一
協:矢島 功
プロポフォールとフェンタニルによるコモンマーモセットの全静脈麻酔法の確立
プロポフォールとフェンタニルによるコモンマーモセットの全静脈麻酔法の確立

牟田 佳那子 , 増井 健一, 矢島 功

 我々は、実験動物として数を増やしているコモンマーモセットの全身麻酔の質の向上を目的として、静脈麻酔薬と鎮痛薬の投与のみで全身麻酔状態を維持する全静脈麻酔法の確立を行っている。本年度はプロポフォールの血中濃度と麻酔深度の関係を調査した。当初ヒトの麻酔深度モニターとして使用されているBISモニターの電極部をマーモセット用に改良し、脳波のスペクトラム解析から麻酔深度を評価する予定であったが、電極が非常に小型で、わずかな動揺も脳波に影響してしまい、長時間安定してデータを記録することが困難であった。このためプロポフォール投与時の外的刺激の許容性評価に変更し、麻酔深度の判定を行った。健康なマーモセット6頭にセボフルラン鎮静下で尾静脈に留置針を設置し、完全に覚醒させた後に8 ㎎/kgのプロポフォールを4 mg/kg/minの速度で投与した。その後宮部らが作成した、音、視覚そして触覚刺激に対する反応、姿勢、瞬きの5項目に関して4段階で鎮静度を評価する、霊長類の鎮静度スコアをマーモセット版に改良したものを用いて、2分毎に鎮静度および心拍数、呼吸数をモニターした。その結果ボーラス投与のみで全頭約10分間の完全な不動化を得られた。現在はこの不動化に必要な血中濃度を予測血中濃度と比較し、薬力モデルを作成中である。


H29-B59
代:秀平 万純
野生ニホンザルにおける老齢メスの性行動
H29-B60
代:荒川 那海
協:颯田 葉子
協:寺井 洋平
霊長類におけるヒトの皮膚の表現型の特性について

学会発表
荒川那海 ヒトと類人猿の皮膚における遺伝子発現比較(2017年7月15日) 第33回日本霊長類学会大会(コラッセふくしま).

荒川那海 ヒト-類人猿間の皮膚での遺伝子発現比較とヒト特異的形質について(2017年8月24日) 日本進化学会第19回大会(京都大学吉田キャンパス).
霊長類におけるヒトの皮膚の表現型の特性について

荒川 那海 , 颯田 葉子, 寺井 洋平

 他の霊長類と比較してヒトの皮膚では表皮が厚く、表皮と真皮の結合面積を増大させるように基底膜の形状が波型であり、また弾性線維が豊富であることが定性的に報告されている。これらの特徴はヒトで減少した体毛の代わりに皮膚の強度を増し、外部の物理的な刺激から体内部を保護するために進化してきたと考えられている。本研究では、ヒト特異的皮膚形質が進化の過程でどのような遺伝的基盤によって獲得されてきたのかを、遺伝子発現量に焦点を当てたヒトと類人猿の種間比較から明らかにすることを目的としている。
 ヒト5個体、チンパンジー、ゴリラ、オランウータン各種3個体ずつの皮膚total RNAを用いたRNA発現量解析(RNA-seq)を行った結果、基底膜や弾性線維の形成に関わる複数の遺伝子の発現量がヒト特異的に高く発現していることが明らかになった。さらにこれらの遺伝子の発現調節領域を分子進化学的手法とヒストン修飾の情報により推定した。それらの領域中のヒト特異的置換がヒト特異的な遺伝子発現を生み出すと推定し、各遺伝子2〜10個の候補置換を抽出した。今後これらの候補置換が実際にヒト特異的遺伝子発現を生み出しているのか、プロモーターアッセイにより検証していく。



H29-B61
代:大石 元治
協:荻原 直道
大型類人猿の前腕における回内-回外運動機構の機能形態学的解析

学会発表
大石元治、荻原直道、宇根有美、添田聡、尼崎肇、市原伸恒 大型類人猿における肘関節の伸筋•屈筋の筋生理学的断面積について(2018年3月) 第123回日本解剖学会総会全国学術集会(東京都).
大型類人猿の前腕における回内-回外運動機構の機能形態学的解析

大石 元治 , 荻原 直道

 回内-回外運動は手首の回転運動に関与し、三次元的に位置する支持基体を用いる樹上性ロコモーションや、手の器用さと関連が深い。大型類人猿は樹上環境で懸垂型ロコモーションを高頻度に行うが、典型的なロコモーションの種類や出現頻度に大きな違いが種間に存在することから、回内-回外の運動性も異なる可能性がある。本研究では未固定の前肢の標本を用いて、前腕骨格の回内-回外運動を再現しながらCT撮影することにより、回内時と回外時の橈骨と尺骨の相対的な位置関係を観察している。本年度は、チンパンジー2個体の前腕のCT撮影を行うことができた。最大回内時、最大回外時のデータから三次元再構築を行うことで、尺骨を軸とした橈骨の運動を再現した(図)。また、CT撮影後は前肢筋の起始部、停止部、走行の特徴を観察した。筋は骨から分離して筋束長、湿筋重量を測定した。さらに、これらの計測値から筋力と相関のある筋生理学的断面積を算出した。今後は標本数を増やすとともに、他の大型類人猿との定量的な比較を予定している。


H29-B62
代:前多 敬一郎
協:束村 博子
協:大蔵 聡
協:上野山 賀久
野生ニホンザルの個体数抑制技術の開発
野生ニホンザルの個体数抑制技術の開発

前多 敬一郎 , 束村 博子, 大蔵 聡, 上野山 賀久

 雄ニホンザルにニューロキニンBの受容体(NK3R)の拮抗剤を投与し、血中薬物濃度の変化を検討するとともに、血中テストステロン濃度および精巣の組織学的変化を指標としてその繁殖抑制効果を検証した。具体的には、NK3R拮抗剤SB223412のDMSO飽和溶液を充填したシリコンチューブを繁殖期の雄ニホンザル3個体に皮下移植した。2個体はインプラントを1週間維持しその後摘出した。移植前に1回、移植後からの1週間1日に1回、計8回の採血(1 ml/回)を行った。残りの1個体は45日間インプラントを維持しその後摘出した。移植前に1回、移植後からの1週間1日に1回、チューブ摘出時1回、計9回の採血(1 ml/回)を行った。この個体はチューブ摘出時に安楽殺し、視床下部、精巣、精嚢腺を採取した。血液から血漿を分離し、NK3R拮抗剤濃度量をHPLCおよびLC/MSにて解析した。その結果、血漿中NK3R拮抗剤量はチューブ移植後に増加していた。また、精巣および精嚢腺の組織切片を作製しHE染色を行った。その結果、精巣において精母細胞やセルトリ細胞の異常な脱落が認められた。精嚢腺は全体および腺腔の大きさが縮小していた。
 現在、エンザイムイムノアッセイにより血漿中テストステロン濃度を測定している。また、視床下部からはRNA抽出を行い、NK3Rのクローニングを行う予定である。



H29-B63
代:長谷 和徳
自律的に歩容遷移を行うマカク四足歩行モデルの開発

学会発表
伯田 哲矢,吉田真,長谷和徳,平崎鋭矢 ニホンザルの歩容のシミュレーションによる解析(2017年11月5日) 第38回バイオメカニズム学術講演会(大分県別府市).

長谷和徳,林祐一郎,矢野龍彦 筋骨格モデルによるナンバ歩きの生体力学分析(2017年11月4日) 第38回バイオメカニズム学術講演会(大分県別府市).

Togo Matoba, Kazunori Hase, Sung Hyek Kim and Akira Yoshikawa: Three-Dimensional Neuro-Musculo-Skeletal Model with Mechanical Characteristics of stretch reflex(2017年7月25日) XXVI Congress of the International Society of Biomechanics(Brisbane, Australia).

Makoto Yoshida, Kazunori Hase: A Simulation Study on the Scale Effects on the Gait of Imaginary Bipeds(2017年7月25日) XXVI Congress of the International Society of Biomechanics(Brisbane, Australia).
自律的に歩容遷移を行うマカク四足歩行モデルの開発

長谷 和徳

 一般的な四足動物は後方交叉型と呼ばれる四肢の運動パターンによってロコモーションを行うが,ニホンザルなどのマカクは前方交叉型と呼ばれるロコモーション・パターンを持つ.本研究では,関節動態や神経系の運動制御機構などを考慮し自律的に歩容遷移可能なマカク類の四足歩行のシミュレーションモデルを作成し,身体力学系を含む力学的環境変化と歩行遷移との関係を計算論的に明らかにすることを試みた.霊長類研で撮影したニホンザルのロコモーションデータや,歩容の特徴の知見を参照し,四足歩行の運動制御モデルの構築を行った.制御系モデルとして,従来の脚位相制御機構に体重心に応じた位相調整が可能な仕組みを導入した.シミュレーションではサル本来の前方交叉歩行の他,後方交叉歩行も実現できるようにした.さらに,体形条件についても体重心が後方に位置するサル本来のサル型体形のほか,体重心を前方に位置するように体形条件を仮想的に調整したイヌ型モデルを構築した.シミュレーションではこれらの組み合わせた,前方交叉・サル型モデル,後方交叉・サル型モデル,前方交叉・イヌ型モデル,後方交叉・イヌ型モデルの4種類の歩行モデルで歩行運動を生成し,歩容を評価した.シミュレーションからはサル本来の前方交叉・サル型歩行モデルにおいて移動のエネルギ効率が最も良いとの結果が得られた.この特徴は脚位相と体重心などとの力学的な位置関係より説明ができると考えられた.ただし,モデルの妥当性については更なる検証が必要である.


H29-B64
代:豊川 春香
協:島田 将喜
野生ニホンザルの種子散布者としての役割と糞虫との相互関係
野生ニホンザルの種子散布者としての役割と糞虫との相互関係

豊川 春香 , 島田 将喜

 霊長類をはじめとした大型果実食者の絶滅が生態系機能の消失に直結することが熱帯において知られているものの、日本の森林においてその影響はほとんど注目されてこなかった。本研究では、特に研究例の少ない多雪地生態系を対象に、ニホンザルと食肉目各種が起点となる種子の一次・二次散布特性を比較することで、ニホンザルが持つ森林の多種共存を支える固有の機能の特定を試みる。
 一次散布では、ニホンザルが中型哺乳類の中では最も散布できる種子の種数が多様で、唯一の散布者となった種子が27種みられた。ニホンザルは食肉目よりも小さい種子を散布する傾向にあり、食肉目によって散布された種子の半数が発芽の阻害要因となる可能性がある果皮や果肉が付着したままの状態であったが、ニホンザルはほとんどが種子のみであった。また、糞虫による二次散布からは、中型哺乳類の糞すべてに糞虫が誘引されたことから、中型哺乳類によって散布された種子は二次散布されることが予想されるが、食肉目を利用する糞虫は二ホンザルと比べ、個体数・種数ともに少なかった。
 以上から、同じ種子であればニホンザルによる散布の方が発芽可能な種子は多く、種子の腐敗防止や種子捕食者からも忌避されやすい可能性が示唆された。



H29-B65
代:倉岡 康治
協:稲瀬 正彦
視覚刺激の好みに対するホルモンの影響
視覚刺激の好みに対するホルモンの影響

倉岡 康治 , 稲瀬 正彦

 霊長類は他個体に関する視覚情報に興味を示す。また、動物の社会行動においてはテストステロンやオキシトシンが重要な役割を果たすことが知られているため、上記のホルモンがニホンザルの社会的視覚刺激の好みにどう影響するかを行動実験で調べることを目的としている。
 本実験では、飼育ケージ内でのサルの自発的な行動によりデータを得る実験環境を構築することにした。霊長類研究所飼育室において、飼育ケージにタブレット型コンピューターを取り付け、複数の他個体画像を提示する。サルがある画像に興味を示して触れれば、その画像をより長く提示し、別の画像に興味を示さず触れることが無ければ、その画像は少しの時間の後に消えるようにプログラムする。この課題で各視覚刺激に対するサルの興味を調べ、テストステロンやオキシトシンを投与した後、その興味がどのように変化するかを調べる。
 本年度は、おもに飼育ケージ内でのホルモン投与前データの記録を試みた。実験を始めた当初、タブレット画面に視覚刺激が提示されるとサルは興味を示すが、なかなか画面に触ろうとする行動が見られなかった。そこで、画面への接触頻度をあげるため、画面にケーキシロップをつけた。サルがシロップを舐めるために画面を触ると、それに伴って他個体画像が提示されるようにした。最初はケーキシロップのためだけに画面を触っていたと思うが、時間が経ちケーキシロップがなくなってからも、画面への接触がみられることがあった。画像に対する興味が出てきた可能性がある。



H29-B66
代:中村 紳一朗
協:宮沢 孝幸
SRVのマカク属異種感染における病理組織学的研究
SRVのマカク属異種感染における病理組織学的研究

中村 紳一朗 , 宮沢 孝幸

 サルレトロウイルス5型(SRV5)感染のウイルスの組織学的分布は不明な点が多い。またSRV5のマカク属サル種間での病態の違いも不明である。当初、新規抗体による局在解明を目的としたが進捗がかなわず、本年度はエプスタイン・バー・ウイルス(EBV)のSRV5による病態発症への関与を検討した。PCR法、ELISA法でSRV5陽性だった同一導入元のカニクイザル死亡例3頭(各リンパ腫、慢性肺炎、慢性腎炎で死亡)はニホンザルのSRV5感染と異なる症状だった。これら3頭と、SRV5陰性のカニクイザル3頭の主要臓器と血清を用い、臓器のパラフィン切片でHE染色およびEBVに対するIn situ hybridization(ISH)法、血清でEBVの間接蛍光抗体法(IF)を行った。
 SRV5陽性個体のISHで、リンパ腫例(Fig. 1)は腫瘍細胞に散在性の陽性像(Fig. 2)、慢性肺炎例は肺炎病巣内のリンパ球、リンパ系臓器のリンパ球に散在性の陽性像を認めた。慢性腎炎例はホルマリン浸漬が長く、有効な陽性像を認めなかった。SRV5陰性個体のISHでは、リンパ系臓器で非常に少数のリンパ球に弱い陽性反応を認めた。一方、IFは6例すべてが陽性だった。
 いずれのカニクイザルもEBVの抗体陽性で、ウイルスが潜伏性に感染していると思われるが、SRV5陽性個体ではISHでの陽性細胞が多かった。SRV5による免疫機能の低下がEBVの活性化を招き、これがSRV5陽性個体の不測の死亡の原因に関わっていることが推測された。
学会発表
中村紳一朗 再生医療実現のためのサル類モデルに関わる微生物学統御(H29年7月1日) 第26回サル疾病ワークショップ(麻布大学・神奈川県相模原市).



H29-B67
代:松原 幹
ヤクシマザルの頬袋散布種子および糞中種子の二次散布者調査

学会発表
松原 幹 屋久島のニホンザル種子散布におよぼすシカのサル糞食の影響(2017年9月8~11日) 日本哺乳類学会2017年度大会(富山大学).

松原 幹 屋久島のニホンザル種子散布とシカのサル糞食(2017年12月8~10日) 屋久島学ソサエティ第5回大会(屋久島離島開発総合センター(屋久島町宮之浦)).
ヤクシマザルの頬袋散布種子および糞中種子の二次散布者調査

松原 幹

 前年度に設置したヤクシマザルに糞散布されたヤマモモ種子と頬袋散布された種子の発芽調査を行った。糞散布されたヤマモモと頬袋散布されたリュウキュウマメガキの発芽は見られず、頬袋散布されたシロダモ・イヌガシで発芽を数多く確認した。シロダモとイヌガシの種子は動物による被食率が低いことが発芽率が高い一因と考えられる。しかし、複数のシロダモ実験区でシカと小動物避けカゴ内の種子や、カゴで覆わなかった種子が大雨で実験区外に流出し、実験区の下方の窪みで発芽するアクシデントがあった。     今年度はヤマモモの頬袋散布種子を採集して、糞散布された種子と比較を行う予定であったが、果実の結実量が不十分であったことから計画を延期した。また、夏の台風等の影響と果実結実率が高かった前年度の影響で、2017年10~12月の果実結実率が低く、頬袋散布調査に必要な数の種子を収集できなかった。現在、ヤクシマザルが散布した種子を訪問する動物種について、カメラトラップで撮影した動画を使って解析を行っている。


イヌガシ発芽


頬袋散布


H29-B68
代:澤田 玲子
成人を対象とした自己情報処理に関する脳波研究

論文
Reiko Sawada, Motomi Toichi, Nobuo Masataka(2019) Electrophysiological correlates of the processing of different self-aspects of handwritten names Scientific Reports 9:Article number: 9432 (2019) . 謝辞あり

学会発表
澤田玲子、十一元三、正高信男 自己氏名に対する素早い反応: 氏名刺激と筆記者における自己関連情報処理の解明に向けて (2017年9月21日) 日本心理学会第81回大会(久留米市).

澤田 玲子、十一 元三、正高 信男 手書き氏名における自己関連情報処理の検討(2018年8月30日) 日本認知科学会第35回大会(立命館大学、茨木市).
成人を対象とした自己情報処理に関する脳波研究

澤田 玲子

 ヒトは顔や氏名、あるいは自分が作成した文字など、さまざまな対象において自己を認識する。このような自己関連情報処理には、対象ごとに異なる自己表象があるとする「領域特異的」であるとの報告があるが、先行研究では異なる視覚刺激 (たとえば、顔と名前) が用いられたため、領域特異的な自己関連情報処理によるのか、刺激特異的な情報処理であるのかが明らかではない。そこで、本研究は氏名と筆記者という2つの領域の自己関連情報をもつ手書きされた氏名を刺激として用いることで、自己関連情報処理が領域特異的であるのか検討した。具体的には、23名の日本人成人を対象に、自分あるいは他者によって手書きされた、自分あるいは他者の漢字とひらがなで表記された氏名を観察中に事象関連電位を計測した。その結果、刺激呈示後230~300ミリ秒に後頭領域に励起する事象関連電位P250の振幅、とくに右半球の電極で、筆記者における自己・他者の違いが記録された。また、刺激呈示後約300~500ミリ秒後に正中部に励起する事象関連電位LPCの振幅に、名前における自己・他者の違いが記録された。このように、氏名と筆記者にかんする自己関連情報の処理の違いは、異なる事象関連電位成分に反映した。この結果は、領域特異的な自己表象の存在を支持するものであると考えられる。


H29-B69
代:佐々木 えりか
協:井上 貴史
協:石淵 智子
協:高橋 司
協:黒滝 陽子
霊長類における絶滅危惧種の保全技術の確立

論文

学会発表
石淵智子、黒滝陽子、三輪美樹、井上貴史、中村克樹、佐々木えりか 霊長類における絶滅危惧種の保全技術の確立 ~ワタボウシタマリン~(2018年1月17日) 第7回日本マーモセット研究会大会(京都).

関連サイト
公益財団法人実験動物中央研究所 http://www.ciea.or.jp/
霊長類における絶滅危惧種の保全技術の確立

佐々木 えりか , 井上 貴史, 石淵 智子, 高橋 司, 黒滝 陽子

 非ヒト霊長類の多くは絶滅の危機にさらされており、絶滅危惧種に指定されている動物においては、動物園で飼育されている動物を交換し、近交化を防ぎつつ繁殖をおこない、野生に戻す取り組みが行われている現状である。我々は新世界ザルのコモンマーモセット(マーモセット)の胚を低侵襲的な経膣子宮灌流法で採取して凍結保存し、凍結胚を復元、胚移植によって個体作製を行う技術を有しているため、マーモセットと近縁で絶滅寸前としてレッドリストに登録されているワタボウシタマリン(タマリン)にその技術を転用して、種の保全のための基盤技術開発を行った。本研究は以上の目的のもと、マーモセットに近縁であるワタボウシタマリン3ペア(京都大学霊長類研究所)を用いて受精卵採卵を中心に進めた。まず初めに、タマリンの血漿を週に1回採取し、血漿プロゲステロン値を測定して性周期を調べた。また、その性周期やプロゲステロンの値から排卵日を決定し、排卵日から3~9日後に受精卵採卵を行なった。採卵法として、麻酔下の動物の膣内にガラス棒を挿入し、テフロン製ガイドカテーテル(外筒)を子宮口から子宮内に挿入、ガイドカテーテル内に採卵用カテーテル(内筒)を挿入して灌流液にて子宮内を還流し、戻ってきた還流液を回収、検鏡し受精卵を確認した。3頭のメスはいずれも性周期が動いており、のべ6回の排卵が確認されたため採卵を行い(表 1)、2個の受精卵(桑実胚と4細胞期胚、図1)、2個の未受精卵、1個の死胚を採取、また同時に灌流液に混入する子宮内膜も採取した。細胞の輸送においては、37度で輸送可能な細胞輸送機や液体窒素で凍結させた後に輸送するためのドライシッパーなどを用いて実験動物中央研究所に移送した。受精卵の移送後、桑実胚においては発生が認められ、胚盤胞に発生した(図 2)。種の保全を行うために、胚性幹細胞作製を試みたが、樹立には至らなかった(図 3)。また、ペアの雄が死亡したため、精巣細胞及び、精子の保存もおこなった(図4)。これらの結果から、タマリンはマーモセットの発生工学技術を転用することで配偶子を獲得、保存することが可能であることが示唆された。さらに、昨年度はワタボウシタマリン4ペアを用いて8回手術し、1個の胚盤胞を得るのみであったのに対し、今年は6回の受精卵採卵で2個の受精卵、2個の未受精卵、1個の死胚を得ることができたことから、排卵日予測と採卵手技の精度が上がったと考えられる。


H29-B71
代:大谷 洋介
協:小川 均
ニホンザルを対象とした顔認識システムの開発
ニホンザルを対象とした顔認識システムの開発

大谷 洋介 , 小川 均

 本研究ではニホンザルを対象とした広範かつ簡便な個体識別・登録手法の実現により調査・保護管理・獣害対策等の効率的な実施に資することを目的として、画像取得による顔認識システムの開発を実施した。
 平成29年度共同利用研究において取得した霊長類研究所飼育の高浜群(57個体)、若桜群(45個体)、嵐山群(62個体)、椿群(47個体)の個体を撮影した動画を元に顔認識システムの開発を進めた。
 昨年度開発したシステムを、精度・識別可能個体数の向上を目的として改修を行い、新たにDeepLearning技術を導入した。具体的には、HOG特徴量を用いた強化学習(Real AdaBoost)により画像中からニホンザルの顔領域を自動的に抽出し、CNN(Convolutional Neural Network)による識別器の作成を行った。得られた識別器を用いて個体登録・識別を行い、同集団内の15個体の識別を可能とした。
 野生下での運用試験によるプログラム改修を目的として鹿児島県熊毛郡屋久島町西部林道にて野生集団の撮影を実施し、約50個体から581本の動画を取得した。直近の作業目標として、本サンプルを利用して各集団のメス個体合計15-30頭程度の識別を行い、林道に出現する集団の識別が可能なシステムの実現を目指す。この作業を通じて試作システムの検証・改善を行うとともに、DeepLearningによる個体識別システム実装のプロトコル策定を行う。



H29-B72
代:金子 新
協:塩田 達雄
協:中山 英美
協:三浦 智行
協:入口 翔一
アカゲザルiPS細胞の免疫細胞への分化
アカゲザルiPS細胞の免疫細胞への分化

金子 新 , 塩田 達雄, 中山 英美, 三浦 智行, 入口 翔一

 アカゲザル3個体に由来する iPSCからマウスフィーダー細胞との共培養下に造血前駆細胞(CD34(+)細胞)、胸腺T細胞(CD4(+)8(+))の誘導を行った。いずれのクローンでもCD34(+)細胞とDP細胞への誘導が可能であった。そこでヒトiPS細胞からのT細胞誘導で有効性が報告され、臨床応用に用いられる無フィーダー培養を検討した。まず、アカゲザルiPS細胞培養そのものの無フィーダー化を試みたところ、細胞外マトリックスコート培養皿でのiPS細胞維持が可能であることが明らかになった。次に造血前駆細胞誘導を無フィーダー化したところ、CD34(+)細胞は誘導されるもののその後の誘導効率に支障をきたすことが明らかになったため、以後の実験ではマウスフィーダー細胞との共培養法を用いることとした。また、ヒトiPS細胞からのT細胞誘導法として報告されている三次元培養法を試みたところ、T細胞分化を認めなかった。これらの結果より、ヒトiPS細胞からのT細胞分化において有用性が示される条件であっても、必ずしもアカゲザルiPS細胞の分化誘導には適さないことが示唆された。
 マーキング後に生体へと移植する実験のために、アカゲザルから採取したCD34(+)細胞、あるいは上述の方法でアカゲザルiPS細胞から分化誘導したCD34(+)細胞や再分化T細胞に、ウイルスベクターを用いて遺伝子マーキングを行う実験を行った。アカゲザル骨髄由来のCD34(+)細胞あるいはiPS細胞由来のCD34(+)細胞へのマーキングが可能であることを確認した。



iPS細胞から誘導した造血前駆細胞


H29-B73
代:保坂 善真
協:割田 克彦
サル雌性生殖器由来幹細胞の分離とその機能解析の試み
サル雌性生殖器由来幹細胞の分離とその機能解析の試み

保坂 善真 , 割田 克彦

 実験2年度目の平成29年度は、前年度(平成28年度)に採取、増殖後に、冷凍保存しておいた月経血由来細胞(幹細胞と思われる)を解凍後、細胞性状の解析や組織細胞への分化を試みる計画であった。しかし、凍結保存しておいた細胞を再度播種したが、その生存率がきわめて低く、保存細胞を実験に供するすることは困難であることが明らかとなった。また、胎盤由来の組織からの幹細胞を採取も企図していたが、使用計画の都合により同組織を入手できなかった。月経血からの細胞の採取、分離を29年度も引き続き試みた。しかし、目的とする細胞の分離に至ることはできなかった。


H29-B74
代:中内 啓光
協:長嶋 比呂志
協:平林 真澄
協:正木 英樹
協:海野 あゆみ
協:佐藤 秀征
異種生体環境を用いたチンパンジーiPS細胞からの臓器作製
異種生体環境を用いたチンパンジーiPS細胞からの臓器作製

中内 啓光 , 長嶋 比呂志, 平林 真澄, 正木 英樹, 海野 あゆみ, 佐藤 秀征

 本年度は提供を受けたチンパンジー末梢血細胞からiPS細胞を作製し、以下の研究を行った。
a) チンパンジーナイーブ型iPS細胞の開発
 現時点で最も有望なナイーブ型への変換方法であるchemical resettingをチンパンジーiPS細胞に適用した。しかし、ナイーブ型iPS細胞株は樹立できなかった。チンパンジーとヒトは近縁種ではあるが、チンパンジー用に培養条件を至適化する必要があると考えている。
b) チンパンジープライム型iPS細胞からの異種間キメラ動物作製
 チンパンジープライム型iPS細胞をマウス胚やブタ胚に移植し発生させたところ、2-3日のうちに移植細胞は死滅し、キメラ個体は得られなかった。そこで、iPS細胞に抗アポトーシス因子であるBCL2の誘導型発現システムを導入したものを同様に移植した。その結果、マウス胚において最長で9.5dpcまでの移植細胞の寄与が認められた。ブタ胚においてもほぼ相同な発生段階である19dpcの段階で移植細胞の生存を確認している。ただし、どちらの種においても移植細胞の寄与率が低いこと、出生時においてキメラである個体が得られていないことが今後の検討課題である。
b)の結果については現在論文をまとめており、2018年中の発表を予定している。



H29-C1
代:川合 伸幸
協:邱 ??
サルの脅威刺激検出に関する研究
サルの脅威刺激検出に関する研究

川合 伸幸 , 邱 华琛

 ヒトがヘビやクモに対して恐怖を感じるのは生得的なものか経験によるのか長年議論が続けられてきた。我々は、ヘビ恐怖の生得性は認識されていることを示すために視覚探索課題を用いて、ヒト幼児や(ヘビを見たことのない)サルがヘビの写真をほかの動物の写真よりもすばやく検出することをあきらかにし、ヒトやサルが生得的にヘビに敏感であることを示した。しかし、発見したヘビの場所を長く記憶することは生存価があるが、ヘビの位置を長く記憶しているかは不明である。そこで、ニホンザルがヘビの位置を長く記憶しているかを、遅延見本合わせ課題で確認した。具体的には見本合わせ課題において、提示された見本刺激をサルが触った後に、1秒〜3秒の遅延期間を置いてから、2つの選択刺激を提示した。もしサルがヘビを長期間覚えているなら、ヘビの正答率が良くなると考えられた。しかし、遅延時間がのびるほど成績が低下したものの、ヘビの成績がよいとの結果は得られなかった。この結果は、サルはヘビを長期間覚えるわけではない可能性を示唆するが、選択刺激が2つしかなく、かつ遅延時間が比較的長いために、予期した結果が得られなかった可能性も考えられる。そこで次年度は、より多くの選択肢で、かつさらに短い保持時間で、ヘビの位置記憶が優れるかを検証する。


H29-C2
代:杉田 昌彦
協:森田 大輔
脂質を標的としたサル免疫システムの解明
脂質を標的としたサル免疫システムの解明

杉田 昌彦 , 森田 大輔

 アカゲザル末梢血より樹立したリポペプチド特異的細胞傷害性T細胞株(2N5.1, SN45)(J. Immunol. 2011; J. Virol. 2013)の増殖維持には、2〜3週間毎に適切なドナー由来のアカゲザル単核球の存在下で抗原刺激を行うことが必須である。本年度、霊長類研究所共同利用・共同研究課題を通して、T細胞活性化能を有するアカゲザルドナーを選定し、末梢血単核球を得てT細胞株を効果的に増殖維持することができた。さらに、このT細胞株を用いた研究から、以下の2つの顕著な成果をあげることができた。
1) 世界に先駆けて発見したアカゲザルリポペプチド提示分子Mamu-B*098(Nature Commun. 2016)が細胞内で結合する内因性リガンドとして細胞由来のリン脂質群を同定した。さらにMamu-B*098:リン脂質複合体の結晶構造を解明するとともに、その過程で新たなリガンド分子を見出し、その分子同定に成功した。(近日中に投稿予定)
2) 第2のアカゲザルリポペプチド提示分子としてLP2を同定し、LP2:ウイルスリポペプチド複合体の結晶化に成功した。さらにこれを用いてX線結晶構造解析を行い、LP2とリポペプチドの結合様式を解明した。(投稿中)



H29-C3
代:黒田 公美
協:齋藤 慈子
協:篠塚 一貴
協:矢野 沙織
マーモセット人工哺育個体の音声発達
マーモセット人工哺育個体の音声発達

黒田 公美 , 齋藤 慈子, 篠塚 一貴, 矢野 沙織

 家族で群れを形成し、協同繁殖をおこなうコモンマーモセットは、親子間関係の発達を知るうえで重要な知見をもたらしてくれる動物である。また、多様な音声コミュニケーションを行うことが知られている種でもあり、音声の発達的変化についても注目がなされている。愛着行動の発達を調べる方法として、古くから母子分離という方法がとられているが、実験目的の完全な分離は倫理的な問題があり、近年では行われなくなった。マーモセットは、通常双子を出産するが、飼育下では三つ子以上の出産がみられ、その場合、親が育てられるのは2頭までであるため、人工哺育が行われ、養育者から完全に分離された状態になるが、母子分離、音声発達の観点から人工哺育個体の音声の詳細について分析を行った研究はない。本年度は、昨年録音した個体のうち、録音状況が不十分であった2頭(うち1頭人工哺育)、さらに3頭の人工哺育個体とその対象個体3頭、昨年コントロールが取れていなかった個体の対象個体、合計9頭を対象に、それぞれ20分間の録音をおこなった。途中ヒトがエサを提示し、それらの刺激に対する反応も分析した。記録した音声・動画から、発声頻度の測定、音声の分類を行った。その結果、全個体ではないが、昨年同様、人工哺育個体は、通常養育個体に比べ、ヒトがエサを提示した場面で、ネガティブな発声(警戒音、不安時の音声)を発することが多い傾向がみられた。また、1歳弱の人工哺育個体では、乳児が特徴的に発する音声(Vhee)の発声が頻繁にみられた。(画像ファイルは昨年度までに録音した個体の分析結果を示したものであり、本年度の録音についての詳細は分析中である。)


H29-C4
代:土屋 萌
福島原発災害による野生ニホンザル胎仔の放射線被ばく影響
福島原発災害による野生ニホンザル胎仔の放射線被ばく影響

土屋 萌

 2011年3月11日に起きた東京電力福島第一原子力発電所の爆発により,放射線被ばくを受けた野生ニホンザルの次世代への影響を調べるため,震災前後における胎仔の脳容積の成長および,生後1年以内の幼獣の体重成長曲線を比較した。また、脳容積の推定のため,CT撮影により頭蓋内体積を計測した。震災後胎仔は震災前胎仔よりもCRLに対する頭蓋内体積が小さい傾向が見られ,胎仔に脳の発育遅滞が起こっていると考えられた。さらに、0歳の幼獣について捕獲日ごとに体重と体長との散布図を作成し,震災前個体と震災後個体の成長曲線を比較した。その結果、体長が250㎜に達するまでは震災前個体よりも震災後個体の方が体長に対する体重が軽い傾向が見られた。一方、成長が停滞する250~350㎜に達すると震災前個体も震災後個体も体重はほぼ変わらず,再び成長が見られる350㎜以上では大きな差は見られなくなった。以上より,震災後個体は生後も数か月間は成長が遅滞していることが示唆された。
 また、福島の被ばくしたサルと対照となる下北のサル、各数例について予備的な観察を実施したところ、被ばくの有無によって星状膠細胞の形態的な差異が認められた。



H29-C5
代:石野 史敏
協:金児?石野知子
協:李 知英
協:志浦 寛相
レトロエレメント由来の獲得遺伝子の霊長類における分布解析

学会発表
石野史敏、入江将仁、古賀章彦、金児−石野知子 哺乳類のレトロトランスポゾンに由来する遺伝子の機能(2017年8月25日) 日本進化学会(京都大学(京都)).
レトロエレメント由来の獲得遺伝子の霊長類における分布解析

石野 史敏 , 金児-石野知子, 李 知英, 志浦 寛相

 ヒトゲノムにはレトロエレメント由来の獲得遺伝子群である11個のSIRH遺伝子が含まれる。これらの多くは真獣類特異的遺伝子であり、近年の研究から、ヒトやマウスを含む真獣類の個体発生機構の様々な特徴(胎生や高度の脳機能など)に深く関係する機能を持つことが明らかになってきた。そのため、真獣類の進化を促した遺伝子群である可能性が高いと考えている。昨年に引き続き、脳で発現し行動に関係するSIRH11/ZCCHC16の解析を、南米に生息する新世界ザルに置いて行った。昨年度、南米の新世界ザルではN末領域の大きな欠失があることを明らかにしたが、新世界ザルの進化を考える上で重要な位置にあるクモザルの解析を行った。その結果、このN末領域の大きな欠失が共通して存在することが明らかになり、これらの共通祖先において変異が生じた可能性の高いことが明らかとなった。


H29-C6
代:Kelly Finn
Complexity in the Behavioral Organization of Japanese Macaques
Complexity in the Behavioral Organization of Japanese Macaques

Kelly Finn

 New bio-logging technologies are becoming increasingly popular for long-term data collection of animal movement, revolutionizing the data quantity one is able to attain from animals in their natural environments; however, extracting biological meaning from these data has been extremely challenging. While organization of movement is driven by many internal factors and external constraints, movement patterns are often our only window into the numerous underlying processes of an animal’s behavioral ecology. Sequences of behavior can have very different structure even with the same amount of behavior, but time series analyses can detect subtle changes in behavioral structure that are missed when using traditional measures, such as average durations or frequencies. However, we do not understand how much variability exists between individuals in the temporal structure of their activity patterns, and how much this varies within an individual by behavioral state, landscape, and social environment. There are also countless methods to analyze time series, and it has not been thoroughly explored which measures might show meaningful variation that correspond to individual or environmental attributes. The full utility of this approach has not been actualized, and the measurement of behavioral complexity is an untapped, potentially fundamental, source of knowledge about an animal’s behavior and health.
 The present study will determine which pattern characteristics of macaque movement show meaningful variability in scaling, randomness, memory, and intrinsic computation, and which of these attributes vary within an individual across behaviors or environmental contexts. Alongside previously used fractal analyses, we are applying additional complexity measures from the leading edge of information theory to create thorough complexity profiles of an individual’s movement. We recorded sequences of activity and location of macaques in durations of 12 continuous hours, every other day for 2 weeks. We used a combination of GPS and accelerometry bio-loggers, which were attached on collars to a subset of 5 adults. We video recorded hour-long focal follow observations of animals alongside bio-logging in order to determine the behavioral states of the macaques (e.g. foraging, travel). We also recorded group-level video to assess group-level activity and events (feeding, major fights, etc).
 Thus far we have begun descriptive analysis of the data we have collected. Preliminary analyses reveal individual differences in scaling patterns of movement, and consistent variation based on the time of day. Further analysis will continue quantifying these sequences, as well as GPS spatial data, with our suite of methods. We have also coded 50+ hours of focal follows recorded as video as time-stamped strings of behavioral changes. These data are currently being converted to time series for analysis, and will be used to convert accelerometer to discrete units of movement. The anticipated completion of this analysis is Winter 2018. With this data we will assess the variability in individual captive macaque behavioral structure, use this data to validate monkey behavior for accelerometer data in other studies, and make accessible a toolbox of tested complexity measures for future studies.




H29-C7
代:日比野 久美子
協:竹中 晃子
ヒト動脈硬化症のアカゲザルモデル作出のための基礎研究
ヒト動脈硬化症のアカゲザルモデル作出のための基礎研究

日比野 久美子 , 竹中 晃子

 コレステロール(Ch)を組織に運搬する低密度リポたんぱく質の受容体遺伝子(LDLR)のエクソン3領域にCys61Tyr変異を有する個体がインド由来アカゲザルに見出され、17年間家系維持に努め、現在6頭のヘテロ接合型と1頭のホモ接合型個体を有している。平成25年度より、0.1%あるいは0.3%Chを含む飼料を投与し、このうち2頭のヘテロ接合個体が明らかに動脈硬化を起こす指標となるT-Ch/HDL>5.0 、LDL/HDL>3.5を著しく超えた。しかし3歳のホモ接合個体は正常の成体の血中Chとほぼ同じ値を示した。以前の研究から6~7歳までは血中総Ch値が約2割低下し続けることが明らかになっているため、今年度は4歳の正常、ヘテロ、ホモ接合個体に0.3%Chを10週間投与した。ホモ接合個体 #2041は正常個体よりも50-100mg/dlは高かったが4歳で動脈硬化指数を超えることはなかった。7歳までは正常個体において血中CHレベルは低下し続けるので8歳以降高くなる可能性もある。さらにこの個体はメスで、動脈硬化指数を超えた2頭は雄であるため、今後の家系維持には欠かせない個体である。また、ヘテロ接合個体#2051は生後黄疸があり、今回の投与でも3週目からLDL値が急低下し、体調が十分ではないように思われた。これまでの投与実験で、動脈硬化指数を著しく超えた#1784と#1834はLDLR遺伝子のCys61Tyr変異に加えて他の遺伝子変異を持っている可能性が考えられたので、#1784の母親(LDLRヘテロ接合体)をコントロールとして、次世代シークエンス法による3頭の全ゲノム変異解析を行っている。現在結果を解析中である。


H29-C8
代:保坂 和彦
野生チンパンジーの老齢個体の行動及び社会的地位の研究
野生チンパンジーの老齢個体の行動及び社会的地位の研究

保坂 和彦

 2017年8月~9月、マハレM集団のチンパンジーを対象に野外調査を実施した。社会行動、遊動行動、狩猟行動に関する過去資料と比較可能な項目について、主として全オトナ雄9頭を個体追跡して連続行動記録による資料収集をおこなった(個体追跡184時間、アドリブ約55時間)。調査期間中、10回のアカコロブス狩猟(7回成功)を観察し、少なくとも10個体の獲物が消費された。観察された肉分配のエピソード7回のうちα雄PRが肉を保持した事例は3回であった。残り4回のうち1回は同年齢のβ雄OR、3回は年長雄DW、BB、CTが肉を保持した。最高齢の元α雄FNは肉を保持することはなかったが、肉食クラスターに積極的にアクセスし、拒絶されることはなかった。これは、肉食クラスター内の個体による老齢個体への寛容性を示す事例として本課題の作業仮説を支持する証拠となる。また、老齢でなくともα雄にとって年長の劣位雄は、肉分配の場においてα雄と対等な関係を保っていた。さらに、初老に近い低順位雄BBとCTは、7~9歳の孤児に追随される姿が頻繁に見られており、これらの特別な個体間関係が、孤児の今後の社会関係や生存にどのような影響があるのか注視していきたい。


三世代家族。XT(左)はXP(中央前)の母親。XPは2児(前の2頭)の母親。


孤児3頭(左からIR,FG,TO)と彼らが追随する初老雄2頭(左からBB,CT)。


H29-C9
代:小林 純也
霊長類細胞におけるDNA損傷応答・細胞老化の解析
霊長類細胞におけるDNA損傷応答・細胞老化の解析

小林 純也

 放射線をはじめ様々な環境ストレスでゲノムDNAは損傷を受けるが、正常な遺伝情報を保つ(ゲノム安定性)ために生物は損傷したDNAを修復する能力を持つ。しかし、このような修復能力は加齢により減退し、その結果、DNA損傷が蓄積し細胞老化が起こると考えられる。一方で、遺伝子は常に正確に修復・複製されると進化に必要な遺伝子の多様性がうまれないことから、修復・複製の正確度にはある程度の幅があって、ゲノム安定性と遺伝的多様性の間でバランスがとられている可能性がある。このようなDNA損傷応答能・修復能と細胞老化、ゲノム安定性・遺伝的多様性の関係を探るために、本研究ではヒトを含む霊長類繊維芽細胞でDNA損傷応答能の差異を検討することを計画し、平成28年度から共同利用・共同研究を開始した。
 平成29年度研究では、平成28年度に提供を受けたチンパンジー、アカゲザル、コモンマーモセット、リスザル、オオガラゴの中で、アカゲザル由来繊維芽細胞について、ヒト正常繊維芽細胞とDNA損傷応答を免疫蛍光染色法を用いて比較することとした。DNA二本鎖切断損傷のマーカーであるリン酸化ヒストンH2AXはγ線照射30分後からヒト細胞同様にアカゲザル細胞でも核内フォーカス形成が観察され、照射4時間後にはヒトと同様に低下した。また、NHEJ修復経路に機能する因子53BP1のフォーカスの出現・消失も同様に見られ、放射線誘発DNA損傷の主な経路であるNHEJには両細胞間で大きな差はない可能性が示唆された。DNA損傷発生時にはDNA修復経路とともに、ATM/ATRキナーゼ依存的な細胞周期チェックポイント機構が活性化するが、これらキナーゼ特異的阻害剤を用いて、ATM/ATRの活性化の差をウエスタンブロット法で検討すると、ヒトと旧世界ザル由来SV40トランスフォーム細胞で活性化に差異が示唆された。そのため、30年度には正常繊維芽細胞においてもこのような差異が見られるかを検討する予定である。



H29-C10
代:松尾 光一
協:山海 直
協:Suchinda Malaivijitnond
協:森川 誠
マカクにおける繁殖季節性や加齢が骨格に与える影響の解析
マカクにおける繁殖季節性や加齢が骨格に与える影響の解析

松尾 光一 , 山海 直, Suchinda Malaivijitnond, 森川 誠

 性ホルモンが骨代謝に大きな影響を及ぼすことは、よく知られている。ニホンザルが季節繁殖性を示し、繁殖期と非繁殖期に性ホルモンの増減を毎年繰り返していることも知られている。しかし、毎年繰り返されるホルモンの増減によって、ニホンザルの骨密度がどのように変化しているのかということは知られていない。これまでに我々は、耳小骨や大腿骨を用いて、季節に伴い骨密度がどのように変動するかを解析してきた。その結果、若い世代のオスのニホンザルにおいて、大腿骨の骨量の季節性変動を見出した。
 今回、橈骨を用いて骨密度を定量し、死亡時の日付や年齢から季節変化による骨量と骨密度の変動を解析したところ、大腿骨と同じく比較的若い世代の橈骨の骨量において、季節性変動を示した。大腿骨における骨量の季節性変動が、橈骨においても再現性が見られたことで、さらし骨は、死亡時の骨量や骨密度を保存していると仮定すれば、季節性変動があるという仮説に確証が得られた。
 さらに、京都大学霊長類研究所内で飼育されているオスのニホンザル8頭を用いて、ヘリカルCTによる骨密度解析と血中ホルモン濃度の測定を、季節による変化を観察するために、9月と12月にそれぞれ同様の実験を行った。これにより、ヘリカルCTによる生体橈骨の骨密度や血中ホルモン濃度を解析する一連の手法を確立した。



H29-C11
代:徳山 奈帆子
Pan属2種における遊動時の意思決定行動の違い
Pan属2種における遊動時の意思決定行動の違い

徳山 奈帆子

 本研究では、ヒトと進化的に最も近いPan属の2種において、移動開始または移動中の意思決定パターンを分析することで、集団内でどのような「リーダーシップ」を持つのかを解明する。両種の社会構造の違いがリーダーシップに及ぼす影響を解明することを最終的な目的とする。2017年5-7月にウガンダ・カリンズ森林保護区にて野生チンパンジーの観察を行い、移動を最初に開始する個体(イニシエーター)と、追随する個体(フォロワー)を記録した。また、それらの結果を、2012年から2015年にコンゴ民主共和国・ルオー学術保護区のボノボにおいて同じように記録した結果との比較を行った。ボノボにおいては、移動開始の意思決定において偏った形のリーダーシップが見られること、老齢のメスに他個体が追従することでパーティの凝集性が保たれることが分かった。対してチンパンジーにおいては、詳しいデータ分析は終了していないが、パーティの凝集性は高順位のオスの移動に低順位オスたちが追従することで保たれている様子だった。チンパンジーにおいては、採食・休憩場所からオスたちが動き出しても、メス達がそのオスたちに付いていくことは少なかった。結果には、ボノボのメス中心社会、チンパンジーのオス中心社会という両種の社会性の違いがよく表れていた。


H29-C12
代:加納 純子
大型類人猿細胞における染色体末端領域の機能解析
大型類人猿細胞における染色体末端領域の機能解析

加納 純子

 大型類人猿のチンパンジー、ボノボ、ゴリラの染色体末端領域に存在するStSat繰り返し配列の細胞内機能を探り、ヒトとの違いを探ることを目的としている。29年度は、まずStSat配列に特異的に結合する蛋白質の同定と試みた。StSat配列のコンセンサス配列2リピート分の64塩基からなるDNAをDIGラベルし、チンパンジー細胞抽出液と混合した後、抗DIG抗体とマグネティックビーズを用いてStSat結合蛋白質を精製した (pull-down assay)。そのサンプルを質量分析によって同定したところ、RNA代謝に関わる因子が多く含まれていた。今後は、vivoでStSatに結合する蛋白質を同定するため、enChIP法による精製を試す予定である。
 また、ヒトと大型類人猿のサブテロメア遺伝子の発現の違いを解析した。その結果、そもそもチンパンジーではサブテロメア遺伝子のコピー数がヒトより少なく、遺伝子発現量もヒトより少ないことがわかった。さらに、チンパンジーではサブテロメアに存在し、ヒトでは染色体内部に存在する共通の遺伝子の発現量は、チンパンジーでヒトより高かった。今後、このような発現量の違いがStSatの影響によるものなのかなどについて解析を進める。



H29-C13
代:蔦谷 匠
協:Matthew Collins
プロテオミクス解析によるニホンザル授乳状況の推定
プロテオミクス解析によるニホンザル授乳状況の推定

蔦谷 匠 , Matthew Collins

 所内対応者の協力を得て採取したニホンザルの糞をコペンハーゲン大学(デンマーク)に輸送し,プロテオミクス解析を実施した.糞に大量に含まれるバクテリアを除去するために,ヒトの糞のプロテオミクス研究で用いられているタンパク質抽出方法を改良し,適用した.分析の結果,カゼインなど乳に特異的なタンパク質が授乳中のアカンボウからのみ検出された.糞に含まれるタンパク質を網羅的に解析し同定することで,個体の授乳・離乳状況が推定できる可能性が示唆された.今後,この成果をすぐにでも論文化する予定である.


H29-C14
代:山崎 美和子
協:今野 幸太郎
経路選択的な機能操作技術を応用したマーモセット大脳皮質―基底核ネットワークの構造マッピング
経路選択的な機能操作技術を応用したマーモセット大脳皮質―基底核ネットワークの構造マッピング

山崎 美和子 , 今野 幸太郎

 平成29年度は、霊長研から提供を受けた灌流固定脳を用いてin situ hybridizationと免疫染色を行い、光学顕微鏡および電子顕微鏡レベルでの局在解析を行った。マーモセット脳で適用可能なAMPA型受容体(GluA1, GluA2, GluA3, GluA4)に対するリポブローブを開発し、in situ hybridization法により成体マーモセット脳におけるmRNA発現細胞分布の確認を行った。その結果、マーモセット線条体におけるAMPA型受容体は主にGluA1, GluA2, GluA3から構成されていることが明らかになった。また、全てのサブユニットを個別に認識する抗体に加え、全てを同時に認識する抗体を開発した。これらを用いて染色を行い、mRNAの発現パターンと一致する結果を得た。また、全てのサブユニットを同時に認識する抗体を用いて免疫電顕解析を行った結果、視床―線条体シナプスと、皮質―線条体シナプスにおけるAMPA受容体の密度はほぼ同等レベルになるように制御されていることが明らかとなった。


H29-C15
代:今村 拓也
種特異的ノンコーディングRNAによるほ乳類脳神経機能分化

論文
Masahiro Uesaka, Kiyokazu Agata, Takao Oishi, Kinichi Nakashima, Takuya Imamura(2017) Evolutionary acquisition of promoter-associated non-coding RNA (pancRNA) repertoires diversifies species-dependent gene activation mechanisms in mammals BMC Genomics 18:285. 謝辞あり
種特異的ノンコーディングRNAによるほ乳類脳神経機能分化

今村 拓也

 本課題は、ほ乳類脳のエピゲノム形成に関わるnon-coding RNA (ncRNA)制御メカニズムとその種間多様性を明らかにすることを目的としている。本年度は、過年度の共同利用において既得の霊長類・げっ歯類ncRNA情報(DDBJアクセション番号DRA000861,
DRA003227,DRA003228など)をもとにncRNAの霊長類進化における機能を解析し、獲得ncRNAが遺伝子発現スイッチオンに確かに寄与していることを明らかにした成果をもとに、ncRNAが関与しうるトポロジカルドメイン変化について解析した。その結果、チンパンジー神経幹細胞において特定の遺伝子座間で時期特異的な相互座用を示す可能性が浮上した。今回見つかった特異的相互作用のなかには、マウス神経幹細胞には認められないものもあり、現在、これらが、霊長類の脳の特性を明らかにするための分子基盤となりうることを考えている。



H29-C16
代:一柳 健司
協:平田 真由
協:一柳 朋子
霊長類におけるエピゲノム進化の解明

論文
Fukuda K., Inoguchi Y., Ichiyanagi K., Ichiyanagi T., Go Y., Nagano M., Yanagawa Y., Takaesu N., Ohkawa Y., Imai H., and Sasaki H.(2017年) Evolution of the sperm methylome of primates is associated with retrotransposon insertions and genome instability. Hum Mol Genet 26(18):3508-3519. 謝辞あり

学会発表
一柳健司 霊長類のエピゲノム進化における シス制御配列やトランスポゾン配列の役割(2017年7月) 日本霊長類学会(東京).

Kenji Ichiyanagi Evolution of the sperm methylome of primates is associated with retrotransposon insertions and genome instability.(2017年7月) The 2nd Japan-Korea International Symposium for Transposable Elements(Tokyo).
霊長類におけるエピゲノム進化の解明

一柳 健司 , 平田 真由, 一柳 朋子

 霊長類研究所より3系統のiPS細胞(キク、マリー、ケニー)を分与いただき、RNAを回収して、mRNA-seqを行った。これらのサンプルはほとんど同じ遺伝子発現プロファイルを示した。それらのデータを公開されているヒトiPS細胞のmRNA-seqと比較し、数百の発現量が異なる遺伝子を同定した。これらの中にはクロマチンリモデリングにか変わる遺伝子群がエンリッチしており、種間でクロマチン状態が異なっている可能性が示唆された。現在、ChIP-seqによるクロマチン解析を進めている。一方、レトロトランスポゾンの発現量を比較したところ、リプログラミングに関わると言われているLTR7因子の発現量がチンパンジーで低く、連動してLTR7によって転写される遺伝子群の発現量もチンパンジーで低かった。これらの結果はリプログラミング経路に違いがある可能性を示唆するのかもしれない。比較に用いたヒトiPS細胞はリプログラミングの方法や培養条件が異なるので、今後は同じ条件でリプログラミング、培養したヒトiPS細胞を用いてmRNA-seqを行う予定である。


H29-C18
代:竹下 浩平
G.g.gorilla由来電位依存性プロトンチャネルのcDNAクローニング

学会発表
山本 旭麻, 谷林 俊, 渋村 里美, 藤原 祐一郎, 岡村 康司, 中川 敦史, 竹下 浩平 ユニークなCoiled-coil構造を有するVSOPの電気生理学的および構造学的研究(2017/09/21(木)) 日本生物物理学会年会(熊本).
G.g.gorilla由来電位依存性プロトンチャネルのcDNAクローニング

竹下 浩平

 電位依存性プロトンチャネル(Hv1)はH+透過性の膜電位センサーが細胞質内コイルドコイルによって2量体化したユニークな構造をもつ。生体内機能としては免疫系細胞における活性酸素産生、精子成熟調節、乳がんや白血病などの悪性化などに関与することが報告されている。これまでに研究代表者は世界に先駆けてHv1の結晶構造を決定し、H+透過機構の一端を報告した。このHv1のアミノ酸配列の保存性は高いことが知られているが、Gorilla Gorilla Gorilla(G.g.gorilla)由来のHv1の細胞質コイルドコイル領域については特徴的な配列がデータベースに登録されている。しかし、このGorilla由来の配列はゲノム解析配列から予測されたmRNA配列として複数報告されており、G.g.gorillaのHv1配列が本当に特徴的であるか不明である。よって本研究課題ではGorilla由来のHv1のcDNA配列の解析を行った。霊長類研究所の今井啓雄教授より提供頂いたニシローランドゴリラ(福岡市立動物園)のウイリー (♂)由来のSpleenよりmRNAの抽出、cDNA合成を行いDNAシークエンス解析を行った。その結果、G.g.gorillaのHv1の細胞質コイルドコイルの配列はヒト由来のHv1の細胞質コイルドコイル配列と100%の相同性であった。さらに解析したcDNA配列をBLAST検索したところ、GeneBank XM_091038652.1に登録されているPREDICTED: Gorilla gorilla gorilla hydrogen voltage gated channel 1 (HVCN1), transcript variant X6, mRNAが100%の相同性としてヒットした。今回の結果からG.g.gorillaのHv1配列はヒト由来のHv1と高い相同性があり、G.g.gorillaのHv1に特徴的な配列ではないことが判明した。一方で、G.g.gorillaのHv1のcDNA配列解析は新規であり、この配列情報をデータベースへ登録することを今後検討したい。


H29-C19
代:饗場 篤
協:川本 健太
精神・神経疾患モデルマーモセットの行動解析法の開発
精神・神経疾患モデルマーモセットの行動解析法の開発

饗場 篤 , 川本 健太

 本研究では統合失調症、神経変性疾患といった精神・神経疾患の理解や克服を実現し、ヒトの精神活動を理解するための行動標識法の開発を目的とした。そこで、霊長類研究所神経科学部門高次脳機能分野において行われているコモンマーモセットの認知機能評価および行動評価法をベースとした精神・神経疾患特異的な行動を適切に評価する方法の開発を目指した。
 霊長類研究所内で飼育されているコモンマーモセットの飼育環境を詳細に観察し、飼育ケージにおいて小型の認知実験装置を用いた認知課題の訓練を実施した。具体的には、精神・神経疾患モデルでない4頭のマーモセットに対して、図形弁別課題とその逆転学習課題への馴化と試行を実施した。実験装置のタブレット端末上に提示される二種類の図形から正解を選択することと報酬を得ることとの連合学習の成立を観察した。また、実験個体の体調管理や補食の給餌の条件検討を行った。
 今後は、霊長類研究所内の飼育・管理法を参考に当研究室で飼育・管理されているマーモセットへの飼育環境と体調の改善を行い、精神・神経疾患モデルの認知実験系のセットアップを行う予定である。



H29-C20
代:菅原 正晃
協:小林 和人
協:川本 健太
遺伝子改変マーモセットの行動解析法の開発
遺伝子改変マーモセットの行動解析法の開発

菅原 正晃 , 小林 和人, 川本 健太

 コモンマーモセットを対象として、遺伝子改変・編集技術を用いることにより各種精神・疾患モデルを作出し、機序の解明および治療法の開発を目指している。作出したモデル動物の認知機能がどのように健常個体と異なるのかを行動で評価するために、霊長類研究所で用いているタッチパネルを用いた認知実験を習得した。認知実験を実施するに先立ち、コモンマーモセットの飼育管理方法を日常観察の注意点等も教えてもらい習得した。また、学習課題の報酬の作製法も習得した。認知機能評価法に関しては、ナイーブな動物のタッチパネルへのタッチ訓練、図形弁別学習課題の訓練、逆転学習課題の訓練を実施した。さらに、新しい課題を開発するに際して必要となるコンピュータプログラムに関する知識等も習得することができた。今後は、所属機関(福島県立医科大学・東京大学)に戻り、同様のシステムを立ち上げ、認知機能の評価が霊長類研究所だけではなく所属機関でもできるようにする。


H29-C21
代:Colin A. Chapman
協:松田 一希
アジア・アフリカ霊長類の比較採食生態:とくに腸内細菌叢に着目して
アジア・アフリカ霊長類の比較採食生態:とくに腸内細菌叢に着目して

Colin A. Chapman , 松田 一希

 アジアとアフリカの霊長類の採食生態に関して、これまで代表研究者や協力者、所内対応者らが蓄積したデータに基づいて、比較研究をおこなった。とくにコロブス類の葉食について、消化に関する知見を論文にまとめた。    Matsuda, I., P.C.Y. Shi, J.C.M. Sha, M. Clauss, and C.A. Chapman. in press Primate resting postures: constraints by foregut fermentation? Physiological and Biochemical Zoology. Irwin, M.T., J.-L. Raharison, C.A. Chapman, R., Junge, J.M. and Rothman. 2017. Minerals in the foods and diet of diademed sifakas: Are they nutritional challenges? American Journal of Primatology. 10.1002/ajp.22623
Federman, S., M. Sinnott-Armstrong, A.L. Baden, C.A. Chapman, D.C. Daly, A.R. Richard, K. Valenta, M.J. Donoghue. 2017. The paucity of frugivores in Madagascar may not be due to unpredictable temperatures or fruit resources. PLoS ONE 12(1): e0168943. doi:10.1371/journal.pone.0168943.
Jacob, A.L., M.J. Lechowicz, and C.A. Chapman. 2017. Non-native fruit trees facilitate colonization of native forest trees on abandoned farmland. Restoration Ecology. DOI: 10.1111/rec.12414
Johnson, C.A., D. Raubenheimer, C.A. Chapman, K.J. Tombak, A.J. Reid, and J.M. Rothman. 2017. Macronutrient balancing affects patch departure by guerezas (Colobus guereza). American Journal of Primatology. DOI: 10.1002/ajp.22495



H29-C22
代:Kevin William McCairn
協:Kendall Lee
協:Paul Min
協:Taihei Ninomiya
Multi-Dimensional Analysis of the Limbic Vocal Tic Network and its Modulation via Voltammetry Controlled High-Frequency Deep Brain Stimulation of the Nucleus Accumbens
Multi-Dimensional Analysis of the Limbic Vocal Tic Network and its Modulation via Voltammetry Controlled High-Frequency Deep Brain Stimulation of the Nucleus Accumbens

Kevin William McCairn , Kendall Lee, Paul Min, Taihei Ninomiya

 MPTP投与によって作製したパーキンソン病サルモデルから、安静時およびボタン押し課題遂行中における大脳皮質、大脳基底核、小脳から神経活動の多領域多点同時記録を実施した結果、パーキンソン病モデルの小脳からベータ波の過活動を検出し、更にcross-frequency coupling解析により、運動遂行時における大脳皮質(特に一次運動野)との間のphase amplitude couplingが大脳基底核よりもむしろ小脳で顕著であることが明らかになった。この研究成果は、パーキンソン病の病態発現への小脳の関与を示唆しており、従来のパーキンソン病研究の範疇を超えた極めて独創的なものであるとともに、近年注目が集まっている大脳皮質、大脳基底核、および小脳の機能連関についても新たな知見を得ることができた。現在、原著論文として発表することを検討中である。


H29-C23
代:狩野 文浩
チンパンジーを対象としたアイ・トラッキングによる記憶・心の理論・視線認知についての比較認知研究
チンパンジーを対象としたアイ・トラッキングによる記憶・心の理論・視線認知についての比較認知研究

狩野 文浩

 赤外線式のリモート式テーブル設置型のアイ・トラッカーで、チンパンジーを対象に、ビデオを見せたときの眼球運動を測定した。
 ヒト幼児ではアイ・コンタクトや名前を呼ぶなどの顕示的手がかりのあとに、視線手がかりを与えると、特にその視線によく反応する(視線の先を追う)ことが知られている。同じテストに、家畜のイヌもヒト幼児と同様の反応を示すことが知られている。類人猿では研究がない。前年度の実験に引き続き、投稿した論文のエディターからのコメントに基づき、このテストの追加実験を行った。前年度は、ヒト役者が目の前の2つの物体のうちどちらかに目を向ける視線手がかりを与える前に、アイ・コンタクトと名前を呼ぶ顕示的な手がかりを与える条件と、同様に注意を惹くが顕示的ではない手がかり(頭を振る、視覚刺激が頭に提示されるなど)を与える条件の2条件でテストした。結果、チンパンジーはヒト幼児やイヌのように顕示的な手がかりの後に特に視線の先を追うという結果は認められなかったが、顕示的手がかりの後に、その手がかりを与えた役者の前のものを積極的に探す視線のパターンが認められた。エディターからは、提示する物体の数が2つと少ないことが結果に影響しているのではないかとコメントがあったため、今年度は、物体の数を4つに増やして同条件で再度テストした。結果は前年度の実験と同じものであった。
これらの結果から、チンパンジーはヒトの役者が与える顕示的手がかりの意味役割―つまり、なにか環境について示唆しているということ―をある程度理解していると考えられるが、その顕示的手がかりを視線手がかりに結び付けて、特定の物体について示唆を与えられているというようには理解しなかったことになる。この結果は論文としてまとめ、再び投稿する予定である。



H29-C24
代:加賀谷 美幸
霊長類の胸郭と前肢帯の形態・配置と可動域
霊長類の胸郭と前肢帯の形態・配置と可動域

加賀谷 美幸

 胸郭と前肢帯の位置関係を比較するため、これまでに撮影を行ったニホンザル、ヒヒ、クモザル、オマキザル(生体)の背臥位のCT像を観察したところ、旧世界ザル類に比べて新世界ザル類は脊柱に対し肋骨が尾側に傾き、胸鎖関節が相対的に尾側に位置する傾向がみられた。新世界ザル類のこのような骨格プロポーションでは、胸部と頭部の間のスペースが大きく確保され、肩関節の運動がより制約なく行えると予想された。一方で、樹上性の高い中型の旧世界ザルは、短時間の前肢ぶら下がり移動を行うが、胸郭-前肢帯配置は前述の旧世界ザルに近いのか、新世界ザルに近いのかは明らかでない。このため、日本モンキーセンター所蔵のテングザル、ハヌマンラングール、コロブスなどの冷凍標本を利用し、霊長類研究所にてCT撮影を行った。保存の目的上、解凍して姿勢を直して撮影することはできなかったため、肋骨の関節角度を生体の背臥位のものと比較することは難しいが、おおまかにはニホンザルやヒヒに近いようすがみられた。また、胸郭上で前肢帯のとりうる位置の種間差を明らかにするため、ニホンザルとヒヒの生体計測を追加実施し、新世界ザルのデータとあわせて分析中である。