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Propofol infusions using a human target controlled infusion (TCI) pump in chimpanzees (Pan troglodytes)
T. Miyabe-Nishiwaki, A. Kaneko, A. Yamanaka, N. Maeda, J. Suzuki, M. Tomonaga, T. Matsuzawa, K. Muta, R. Nishimura, I. Yajima, D. J. Eleveld, A. R. Absalom & K. Masui
概要

飼育下のチンパンジーは、健康診断や、怪我や病気の検査治療の際に、しばしば麻酔が必要となります。しかし、チンパンジーの麻酔に関する研究はあまり多くありません。長時間の麻酔には、吸入麻酔(揮発した麻酔薬を吸入する麻酔)が使用されるのが一般的です。一方、ヒトの麻酔に関する研究は非常に進んでおり、吸入麻酔の他に、プロポフォールという麻酔薬を用いた静脈麻酔(シリンジポンプという機器を用いて点滴のようにゆっくり血管内に麻酔薬を入れる)という選択肢があります。プロポフォール静脈麻酔は、①吸入麻酔のように麻酔医や作業者が麻酔薬に暴露されるリスクがない、②大気汚染のリスクがない、③ヒトでは吸入麻酔よりも麻酔後の嘔吐や悪心が少なく、すっきり目覚める等の利点があります。しかし、吸入麻酔のようにリアルタイムで濃度を測ることができないため、薬物動態の情報を用いて予測血中濃度を算出し、それをもとに麻酔を調節します。ヒト医療では、適切な濃度を保つように、薬物動態の情報に基づきコンピューターが自動で投与量を調節するターゲット・コントロール・インフュージョン(TCI, 目標制御投与)という方法が確立し、専用のシリンジポンプが存在します。チンパンジーはヒトのモデルとして医学研究に利用されてきた歴史がありますが、本研究ではヒトの麻酔をチンパンジーのモデルとして、ヒト用に作られたプロポフォールTCIポンプをチンパンジーで実用できるかどうか検討しました。その結果、獣医師、ヒトの麻酔専門医、チンパンジー飼育担当者および研究者らの協力のもと、ヒト用のプロポフォールTCIポンプをチンパンジーの麻酔に安全に利用できることが示されました。これにより、チンパンジーの麻酔法の選択肢が一つ増え、時と場合により適切な麻酔を選択できるようになったと考えます。絶滅危惧種のチンパンジーの治療や診断等で麻酔しなければならない事態になった時に、少しでも安全にかつ身体の負担を少なく実施できる一助になれば幸いです。
書誌情報

Scientific Reports, volume 11, Article number: 1214 (2021)
https://doi.org/10.1038/s41598-020-79914-7

 

2021/02/01 Primate Research Institute