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アジアにおける主要な種子散布者・マカク類
辻大和・ 蘇秀慧
概要

 マカク類(Macaca spp.)は、アジア地域における主要な種子散布者の一つである。本総説では、マカク類の種子散布に関するこの20年間の知見を整理する。マカク類は果実に含まれる種子の大きさによって処理の方法を変える。小型の種子(中央値:3.0 mm、レンジ:0.5-17.1 mm)は飲み込まれ、やがて糞とともに排泄される。中型の種子(中央値:7.6 mm、 レンジ:1-37 mm)は採食場所からやや離れた場所で吐き出される。そして大型の種子(中央値:20.5 mm、 レンジ:8.2-57.7 mm)は採食場所でそのまま落とされ、散布されることはない。飲み込み型の種子の散布距離は数百メートル(中央値:259 m, レンジ:0-1300 m)であり、これは大型の哺乳類の散布距離よりも短かいが小型・中型哺乳類や鳥類のそれより長い。いっぽう、吐きだし型の種子の散布距離はずっと短く、数十メートルのオーダーである(中央値:20 m, レンジ:0-405 m)。アジア産の霊長類の中で比較すると、マカク類の散布距離はテナガザルよりも短くラングール類より長い。マカク類による種子の飲み込みが発芽率や実生の成長に与える影響は、植物種・マカク種ごとに多様であった。果実への依存度、果実/種子のハンドリング方法、散布距離、散布場所、そして発芽や成長への影響は季節的・年次的に変化するため、その変動を考慮した、長期的な調査が必要である。近年、マカク類の種子散布効率の評価、糞虫などによる二次散布、そして餌付けが種子散布に与える影響の評価など、新たな試みが始まっている。これに加え、彼らの社会的な側面(年齢・順位)が散布特性に与える影響を評価することも重要だろう。



Psychotria viridifloraの果実を採食するカニクイザル (Macaca fascicularis)
書誌情報

International Journal of Primatology, DOI10.1007/s10764-018-0045-7
2018/06/18 Primate Research Institute