ENGLISH 京都大学
125周年
所長挨拶 概要 教員一覧 研究分野・施設 共同利用・共同研究 大型プロジェクト 教育,入試 広報,公開行事,年報 新着論文,出版 霊長類研究基金 リンク アクセス HANDBOOK FOR INTERNATIONAL RESEARCHERS Map of Inuyama
トピックス
お薦めの図書 質疑応答コーナー ボノボ チンパンジー「アイ」 行動解析用データセット 頭蓋骨画像データベース 霊長類学文献データベース サル類の飼育管理及び使用に関する指針 Study material catalogue/database 野生霊長類研究ガイドライン 霊長類ゲノムデータベース 写真アーカイヴ ビデオアーカイヴ

京都大学霊長類研究所
郵便番号484-8506
愛知県犬山市官林
TEL. 0568-63-0567(大代表)
FAX. 0568-63-0085

本ホーム・ページの内容の
無断転写を禁止します。
Copyright (c)
Primate Research Institute,
Kyoto University All rights reserved.


お問い合わせ

English

チンパンジーが協力して課題解決:2人で数字を順番に答える
 
概要

京都大学高等研究院の松沢哲郎(まつざわ・てつろう)副院長・特別教授、米国・インディアナポリス動物園クリス・マーチン(Christopher Flynn Martin)研究員、オックスフォード大学のドラ・ビロ(Dora Biro)准教授らの研究グループは、2人で連続的に協力しなければ解決できない課題を考案し、チンパンジー2人が解決できるか観察することで、チンパンジーが役割交代をしながら連続的な協力行動をとることを、世界で初めて実証しました。

人間以外の霊長類を対象としたこれまでの研究では、2 個体が協力して課題を解決できることが、さまざまな場面で実証されてきましたが、ほとんどの例は 1 回きりの動作でした(たとえば、2 個体が同時にひもをひっぱって遠くの台を引き寄せて食物を手に入れるなど)。それに対して、1 回だけでなく何回も連続して、互いに役割交代しながら、息をあわせて解決する能力についてはこれまでほとんど研究がありませんでした。

今回の研究では、すでに数字を小さい方から順に選ぶことを習得しているチンパンジーが参加します。2人のチンパンジーに1つのコンピューターを与え、その画面全体に、一連の数字(例えば 1~8)をランダムに散りばめて表示します。課題は、この数字を小さい数字から順番に最大の数字までタッチしていくものです。ただし、画面前に座る2人のチンパンジーの間には透明な障壁があり、右のチンパンジーは画面右半分に表示される数字のみ、左のチンパンジーは画面左半分に表示される数字のみに触れることができます。

たとえば画面左半分に「1, 5, 7 ,8」、右半分に「2, 3, 4, 6」の数字を表示します。まず左のチンパンジーが「1」をタッチすると、続けて右のチンパンジーが「2, 3, 4」をタッチ、するとすぐ左のチンパンジーが「5」をタッチする、といったふうに、交互に役割交代をしながら、協力して一連の数字を順番に選択していくことができました。

今回はチンパンジーの 2 個体を 1 組として、3 組でこれを検証。いずれも母とその子どもというペアです。興味深いことに、母を真似するように子どもが対応する流れが顕著で、社会性の「母から子へ」という学習体系が見られたことです。

本論文はヒト以外の動物の協力行動・協応行動を研究する新しいパラダイムを作ったといえ、役割交代の進化を考えるうえで貴重な知見をもたらしました。コミュニケーションや言語といった、広くいえば社会的なインタラクションの背後には、必ず役割交代や話者交代があります。そうした役割交代の進化を考えるうえで、母と子を題材にした貴重な知見だといえます。

本研究成果は、英国時間 11 月 1 日午前 10 時(日本時間 11 月 1 日午後 7 時)に、英科学誌「Scientific Reports」オンライン版に掲載されました。


背景

集団生活ではさまざまなジレンマが生じますが、「社会的な協調・協働」(各自の持ち場から協力して一連の課題を達成すること)が有効な解決方法になります。人間以外の霊長類を対象としたこれまでの研究で、2 個体が協力して課題を解決できることが、さまざまな場面で実証されてきました。ただし、ほとんどの例は 1 回きりの動作でした(たとえば、2 個体が同時にひもをひっぱって遠くの台を引き寄せて食物を手に入れるなど)。

それに対して、1 回だけでなく何回も連続して、互いに役割交代しながら、息をあわせて解決する能力についてはこれまでほとんど研究がありません。しかし、自然界に広く目を向けると、人間を含めた多くの動物で、信号の伝達や社会的なやりとりにおいて、一連の長い課題を協働して役割交代して実行することが必須となります。


研究内容と成果

本研究では、チンパンジーの 2 個体を 1 組として、3 組でこれを検証しました。いずれも、母とその子どもというペアです。

実験に参加したチンパンジーは、それまでに1から9までの数字を順番に選ぶことを習得していたチンパンジーで、コンピューターの画面にランダムに散らばる一連の数字を、小さい方から順番に触ることができます。今回は実験的に、役割交代を必要とする場面を作るため、その課題を「共有する」場面を用意しました。すると、ほんの最小限のことを教えただけで、この数字の順番を協力して答える、という新しい課題をチンパンジーはマスターしました。

興味深いことに、社会的な情報の流れは「母親から子どもへ」という方向性が顕著でした。つまり、母親がしていることを子どもはとてもよく見ているということです。母親が行動すると子どもはすぐそれに対応します。逆ではありません。母親から学びます。野生チンパンジーの社会的な学習、たとえば石器を使うことを学ぶなど、それを彷彿とさせる結果でした。



チンパンジーにおける役割交代する協力課題:数字を順番に並べる

テスト方法:
対象は、3 組のチンパンジー。アイ 35 歳とアユム 12 歳、クロエ 32 歳とクレオ 12 歳、パン29 歳とパル 12 歳、いずれのペアも母子で、全員が 1 群13 人の集団で暮らしています。
22 インチのタッチパネルつきモニターの左半分と右半分が、それぞれのチンパンジーに割り当てられており、あいだに透明な隔壁があります。つまり相手の半分のモニターを見ることはできても、そこに現れた数字には触ることができません。隔壁がじゃましているので手を伸ばせませんが、相手のようすは見えます。

手続き:
2 数字、つまり双方に数字が1つずつという条件から始めました。1 と 2 だけ、ついで 3 と 4 だけで課題を行います。ついで 3 数字、4 数字と順に増やして、最終的には 1 から 8 までの 8 数字にしました。
画面の片方に 4 数字、もう一方に 4 数字が出くるので、それを 1・2・3・4・5・6・7・8 と順に協力して選ぶ課題です。
相手が押したあと自分が押す「スイッチ(交代)」の場面とと、自分が押したあともう一度自分が押す「ステイ(交代なし)」の場面とがあります。

結果:
(1)まず、課題をクリアすることができることがわかりました。(2)さらに、子どものほうが親より正確でした。(3)スイッチのときのほうがステイよりもちろん時間がかかりますが、子どものほうが親より素早く反応します。子どもはステイもスイッチも反応時間が変わりませんでした。つまり親をよく見ているということです。

今後の展開

本論文はヒト以外の動物の協力行動・協応行動を研究する新しいパラダイムを作ったといえ、役割交代の進化を考えるうえで貴重な知見をもたらしました。コミュニケーションや言語といった、広くいえば社会的なインタラクションの背後には、必ず役割交代や話者交代があります。そうした役割交代の進化を考えるうえで、母と子を題材にした貴重な知見だといえます。

謝辞

この研究は科学研究費補助金・特別推進研究(16H06283)、研究拠点形成事業(A.先端拠点形成型、CCSN)、ならびにリーディング大学院(U04)の支援を受けました。記して感謝します。

論文タイトル・著者

“Chimpanzees spontaneously take turns in a shared serial ordering task”
(参考訳:チンパンジーにおける役割交代する協力課題:数字を順番に並べる)

著者:松沢哲郎(京都大学高等研究院、霊長類研究所)
クリス・マーチン(米国・インディアナポリス動物園)
ドラ・ビロ(オックスフォード大学)

Scientific Reports
DOI: 10.1038/s41598-017-14393-x

関連 京都大学 研究成果

トレーニングフェーズ中に自発的にタスクを高レベルで実行した。
Training_Phases_Overview
.mp4 19MB 02:17

8つの数字課題
8Numbers_15seconds .mp4 2.5MB 00:17

8Numbers_30seconds .mp4 4.9MB 00:35

他のチンパンジーがいないとき、母親はより速かった
Ghost_Condition_Ayumu
.mp4 5.3MB 00:37

Chimps_SciReports_Video .mp4 28.8MB 00:37

書誌情報

Scientific Reports
DOI: 10.1038/s41598-017-14393-x
2017/10/31 Primate Research Institute