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チンパンジーがじゃんけんを学習 循環関係を理解する能力を備える
高潔(GAO Jie)、友永雅己、蘇彦捷(SU Yanjie)、松沢哲郎
概要
研究内容と成果について 世界のあちこちで人間はじゃんけんをします。じゃんけんというのは循環する関係です。「紙」は「石」に勝ち、「石」は「はさみ」に勝ち、「はさみ」は「紙」に勝ちます。もし「はさみ」が「紙」に勝つのではなく4つ目の例えば「布」に勝つとすればこの関係は直線的な関係ですが、循環関係は非直線的な関係です。 私たちは非直線的な関係を複雑な状況判断や意思決定など、生きていくうえでのさまざまな局面で用います。こういった非直線的な関係の理解にもとづく推論は、高度な問題解決に重要です。もっと端的にいうと、人間のコミュニティーのなかでは非直線的な優劣関係があります。たいていは一般的な優劣の規則が存在します。しかし、他者とのかかわりのなかで、また状況によっては、非直線的であったり循環したりしさえする優劣関係が存在し、私たちの行動を決定しています。 私たちヒトに最も近縁なチンパンジーの社会は、比較的厳格な直線的優劣関係をもちます。ヒトとは違い、非直線的な優劣関係、とくに循環関係はほとんどみられません。それでは、チンパンジーはヒトの大人のように循環関係を理解できるのでしょうか。もし理解できるとすれば、チンパンジーは、その社会にはほとんどみられない循環関係を理解する初期の能力を、実は進化の過程で発達させてきたということなのでしょうか。 ヒトの循環関係を理解する能力の進化的起源を調べるために、私たちはチンパンジーにじゃんけんのルールを訓練しました。私たちはヒトとチンパンジーという近縁の種を比較するため、どのようにヒトの子どもがじゃんけんを学ぶのかも調べました。 チンパンジーにおける循環関係の理解 次に疑問に思ったのは、この結果が特定の画像に限られるのかどうかということです。そこで私たちは自分の手の写真を使って新たにグー、チョキ、パーを作りました。驚くべきことに、新たな画像の最初のセッションでは彼らの成績はでたらめでした。しかし、訓練を通して成績は向上し、最終的にはヒトの手のグー、チョキ、パーでも完璧な成績となりました。 その後、さらにたくさんの画像を用いました。左右の手を用いたり、手のひらと手の甲の写真を用いたりして新たな画像を作りました。チンパンジーの反応は同様でした。新たな画像がでてくると、最初はできなくてもだんだんと成績は向上しました。チンパンジーは循環関係を学習し、新たな画像に対しても完璧に正答するようになりました。
子どもは学習が早く、4歳以上では、一つずつ別々に3つのペアを学習するセッションで全員が基準に到達しました。循環関係が完成する3ペア目の学習に時間がかかるということもありませんでした。しかし、4歳未満の子どもは3つのペアがランダムに混ざったテスト条件では成績はよくありませんでした。これは幼い子どもは循環関係の理解と獲得ができなかったということです。あるペアで正解だった手が別のペアでは正解でない(つまり、「チョキ」とのペアだった時に正解(勝ち)だった「グー」が、「パー」とのペアになると不正解(負け)になる)ということに混乱したのでしょうか。彼らは直線的な推論をしようとしたのかもしれません。 チンパンジーも、4歳以上の子どもも、じゃんけんを学習できます。これは循環関係の理解にかかわる興味深い発見です。ヒトでよく見られる非直線的問題を解決する能力が、実はチンパンジーに「備わっている」のです。少なくともこの認知的能力という点でチンパンジーは4歳の子どもと同じくらい柔軟だということが分かりました。 グーとパーのうち、パーを選ぶチンパンジー
2017/08/10 Primate Research Institute
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