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野生ボノボにおけるリンフォクリプトウイルス感染の疫学調査
Tomoyuki Yoshida, Hiroyuki Takemoto, Tetsuya Sakamaki, Nahoko Tokuyama, John Hart, Terese Hart, Jef Dupain, Amy Cobden, Mbangi Mulavwa, Yoshi Kawamoto, Akihisa Kaneko, Yuki Enomoto, Eiji Sato, Takanori Kooriyama, Takako Miyabe-Nishiwaki, Juri Suzuki, Akatsuki Saito, Munehiro Okamoto, Masaki Tomonaga, Tetsuro Matsuzawa, Takeshi Furuichi and Hirofumi Akari
概要

野生霊長類は絶滅の危機に瀕しています:大型の野生類人猿であるチンパンジー、ボノボ、ゴリラはいずれも絶滅危惧種に指定されています。近年、森林伐採等による生息地の減少や密猟に加えて、感染症による個体数の減少が報告されており、その影響が懸念されています。特にボノボはコンゴ民主共和国内にのみ生息していますが、長年の内戦によりその個体数が激減していることから、その絶滅を防ぐための具体的な取り組みが求められています。

ボノボにおける感染症疫学調査は何故困難なのでしょう?:ヒトに似た遺伝子構成を持つ類人猿では、他の動物種と異なりヒトに由来する感染症のアウトブレークが地域個体群の存続に大きな脅威となっています。しかし野生類人猿、特にボノボに関する感染症の疫学情報は極めて乏しいのが実情です。そのため、過去及び現在どのような感染症がどの生息地に流行しているか否かを把握し、それを将来の流行予防に役立てるといった対策が実施出来ない状況にあります。それでは何故、ボノボの疫学調査が困難なのでしょうか?現在、ボノボを含む絶滅危惧種の捕獲は禁止されています。そのため、感染症疫学調査に必要な血液サンプルを野生ボノボから採取することが事実上不可能なのです。血液が採取できなければ疫学調査も出来ない、という訳です。

ボノボ疫学調査を可能とする新たな手法の確立とその応用:この問題を克服すべく、本研究において私達は野生ボノボから比較的容易に(非侵襲的に)入手可能な糞便を用いた疫学調査手法の確立を目指しました。まず当研究所で飼育されているチンパンジーの血漿サンプルを対象に、様々な病原体に特異的な抗体保有状況(IgG抗体)を調べました。次に、IgG抗体陽性率が高かったリンフォクリプトウイルス(LCV:ヒトを含む霊長類に悪性リンパ腫や白血病等を引き起こす病原ヘルペスウイルスの一種です)について焦点を絞り、糞便抽出液を用いた抗体検査を行いました。その結果、血漿中IgG抗体陽性であった個体では、糞便中からLCV特異的IgA抗体を検出することができました。IgA抗体は病原体からの腸管防御を担う免疫物質です。IgA抗体は腸管粘膜で大量に産生され、またIgG抗体に比べて分解酵素など外的環境に対する抵抗性が強いことから、乾燥した糞便から安定して検出できたと考えられます。ともあれ、糞便中のIgA抗体を調べることで野生ボノボにおける感染症疫学調査が初めて可能となりました。

そこで私達は、野生ボノボから採取した糞便を用いて、LCV感染に関する疫学調査を行ないました。その結果、野生ボノボ98頭のうち30頭(31%)がLCVに感染していることが明らかになりました。LCVは持続感染するウイルスなので、抗LCV抗体陽性はすなわちLCV感染を意味します。興味深いことに、調査地ごとのLCV感染率を比較したところ、ある地域ではほとんど感染個体がいないのに対して、別の地域では半数近くの個体が感染しているといった違いが見られました。なぜこうした地域差があるのか今のところ明らかではなく、さらなる検討が必要です。

今回の成果より、野生ボノボから採取した糞便から各種病原体への感染状況に関する疫学調査が可能になりました。そこで今後は、本法を用いて野生類人猿の個体数減少に大きく影響している呼吸器系感染症について引き続き疫学調査を行いたいと考えています。こうした新たな研究成果は、科学的エビデンスに基づいたより最適な野生類人猿の保護政策立案に繋がるものと期待されます。すなわち、調査地によって病原体ごとの感染率を知ることができれば病原体の動態把握に繋がりますし、ある地域・群れの感染率が低いとすれば、それに応じたオーダーメードの感染予防対策が立案可能となります。

http://journal.frontiersin.org/article/10.3389/fmicb.2016.01262/abstract

 



書誌情報

Frontiers in Microbiology 10, 3389, 2016
doi: 10.3389/fmicb.2016.01262

2016/08/02 Primate Research Institute