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野生ボノボの肉食、新しい地理的変異の発見
坂巻哲也,ウーリッシ・マルエキ,バトゥアフェ・バカア,リンゴモ・ボンゴリ,フィラ・カサレボ,寺田佐恵子,古市剛史
概要
霊長類で行動パターンの地理的変異の発見が積み重なるにつれて、霊長類以外の動物においても「伝統」、あるいは「文化」に関する研究が盛んに行なわれるようになった。動物の「文化」研究の成果は、ヒトの文化が多様であることの生物学的な理解を深めることに貢献している。 ヒトともっとも近縁な現生種チンパンジー(Pan troglodytes)と比べると、その姉妹種であるボノボ(P. paniscus)は、その行動の地理的変異はまだよく分かっていない。これは、チンパンジーに比べてボノボの調査地が少なく、調査期間も全体に短いことが大きな理由である。ところがボノボの肉食については、おもに4か所の調査地の観察から、その捕食対象に違いのあることが分かっている。 本研究では、2010年に調査を開始した新しい調査地、イヨンジのボノボの肉食について報告する。私たちはこれまでに、イヨンジのボノボがダイカーの仲間の2種、ベイダイカー(Cephalophus dorsalis)とブルーダイカー(C. monticola)を、それから昼行性の霊長類、アカオザル(Cercopithecus ascanius)などを捕食した証拠を見つけている。この発見は驚くべきことである。というのは、イヨンジと隣接する地域にある別の調査地ワンバでは、日本人研究者により1973年からボノボの調査が継続しているが、これまでにボノボが捕食した哺乳類は、ムササビのように飛翔するウロコオリス(Anomalurus spp.)が知られるのみだからである。これまで報告された捕食対象の哺乳類は、ワンバにも生息している。イヨンジとワンバの間には川が流れていて、ボノボはこの川を渡ることができない。またワンバは、ボノボの遊動域内に村人が定住する村と畑があり、イヨンジと比べて人間活動による攪乱が大きいのは明らかである。そこで本研究では、ダイカー類と昼行性霊長類のセンサスを行なった。その結果、少なくとも数種の霊長類について、イヨンジの方がワンバより高密度で生息していることが分かった。以上のような環境の違いは明らかになったが、ボノボの捕食対象の選択、あるいは肉食の習慣の地域差といったことにどのように関係してくるのか、まだ明らかではない。今後これまである調査地と異なる環境に棲息するボノボの調査が積み重ねられれば、ボノボの行動に見られるバリエーションの特質を明らかにしていくことができるだろう。 本研究の一部は、コンゴ民主共和国のキンシャサ大学理学部とコンゴ科学研究省の生態森林センターの研究員との共同研究であり、おもにJSPS若手研究者戦略的海外派遣事業費補助金(S2508)の資金援助を受けた。ここに謝意を表します。 書誌情報
Primates, DOI 10.1007/s10329-016-0529-z 2016/03/25 Primate Research Institute
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