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ニホンザルによる種子散布距離の推定:土地利用パターンの経時変化と種子の特徴が散布に与える影響の検証
辻大和、森本真弓
概要

飲み込み型の種子散布 (endozoochory) において、種子の散布距離は、果実食者の土地利用パターンの時間的変化に応じて変化すると予想される。また種子の形状や重さは飲み込み後の体内通過時間に影響するため、こちらも種子の散布距離に影響すると予想される。以上の点を検証するため、宮城県金華山島に生息する野生ニホンザル (Macaca fuscata) を対象に、秋に利用する果実に含まれる種子の散布距離が 1) 時間帯(朝・昼・夕方)や年(2004年 vs. 2005年)で変化するか、2) 樹種間で変化するか調べた。2) については、この時期によく利用されたガマズミ (Vibrnum dilatatum、スイカズラ科) とノイバラ (Rosa multiflora、バラ科) で比較した。種子の散布距離は、金華山で得たサルの土地利用パターンの情報と、京都大学霊長類研究所で実施した、給餌実験の結果を組み合わせて推定した。

採食から排泄までに移動した距離の中央値は、ガマズミ431m、ノイバラ478mとほぼ同じで、年や時間帯の影響は検出されなかった。給餌実験の結果、ガマズミ種子の体内通過時間はノイバラ種子より長いことがわかったが、この違いは移動距離に影響しなかった。

種子散布距離の頻度分布は、ガマズミ、ノイバラ両種ともに100 – 500mにピークを持つ、ひとやま型の形状を示した。3%の種子は1km以上散布されていた。ノイバラの種子の散布距離は2004年の方が2005年に比べて長かったが、ガマズミでは散布距離の経年変化は見られなかった。散布距離は、それぞれの樹種の生育場所、生育密度、秋の主要食物である堅果類の生産量など、多くの生態学的要因から影響を受けて決まると考えられる。


Feces of Japanese macaques

Vibrnum dilatatum


Rosa multiflora
書誌情報

American Journal of Primatology 78: 185–191
2016/01/20 Primate Research Institute