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2013/09/13

香田啓貴が
第29回日本霊長類学会・日本哺乳類学会2013年度 合同大会にて
高島賞を受賞しました。

受賞者:認知学習分野 助教 香田啓貴
受賞名:日本霊長類学会高島賞
(霊長類のコミュニケーションの進化に関する研究)

受賞理由

選考対象となったのは学術誌に発表された4編の論文と、学術書に分担執筆された2編の解説論文であった。香田氏は、霊長類の音声コミュニケーションについて屋久島やインドネシア、スマトラ島などで研究をしてきた。ニホンザルの音声コミュニケーションの1つとして、ヤクジカとの異種間コミュニケーションを調べた研究がある。ヤクジカがニホンザルの落とした樹木の葉を求めて集まってくるという現象は、ニホンザルの声を認識してからであることをプレイバック実験によって証明した。

また、テナガザルの研究も精力的に取り組んでいる。身体が大きくないテナガザルのラウドコールがなぜ1 km以上も遠方まで届くのかを調べた研究では、テナガザルの発声器官が特殊な進化をとげたためではなく、人間のプロのソプラノ歌手が行うのと同じ「歌唱法」によるものだということをつきとめた。この研究はNature News, BBC News, Scientific Americaなど多数の国際的な媒体で紹介された。

香田氏の研究のユニークな点は、手法の多様性にある。たとえば、今、紹介したテナガザルのラウドコール発声の仕組みを調べた研究では、ヘリウムガスによる 行動実験、音響変化の物理的シミュレーション、さらに解剖学的な分析など、従来の音声コミュニケーションを調べた野外調査とは一線を画す、手法の多様性が見てとれる。また研究そのものも多様性を増して来ており、近年は実験室での視覚認知の研究にも着手されてすでに成果をあげている。対象となった論文にも含まれており、サルは同種の個体であれば顔で年齢の違いを認識できることを明らかにしている。

香田氏の研究は音声コミュニケーションを中心に据えながらも、社会生態から行動、音響、解剖学など非常に幅広い分野をカバーしており、従来の研究の手法に捕われない自由な発想でこれまであまり注目されてこなかった現象を見事に分析している点に特徴がある。昨年はイギリスに在外留学を果たし、今後さらに国際的に評価される研究を行う霊長類学者として活躍することが期待される。

研究概要

霊長類の社会構造が種によって独自性があるように、霊長類のコミュニケーションも種に応じて変化する多様性があり、種に特有な形で存在している。高次な認知機能を持つ霊長類では、社会の中でやり取りされるシグナルの媒介、つまりコミュニケーションが社会生活の果たす役割が大きいことは言うまでもないだろう。ヒト以外の霊長類は、ヒトとの近縁性や系統的な連続性から、ヒトとのコミュニケーションとの比較研究が豊富で、言語を代表するようなヒトの高次なコミュニケーション能力との類似性や連続性を議論する研究が多い。同時に、サルや類人猿の行動研究の進展で、種に特有なコミュニケーションに関する研究も十分に蓄積されていると思われる。人類進化という霊長類学の原点である視点、同時に種そのものと向き合う動物学としての視点、どちらにとってもコミュニケーションの進化というテーマは大変おもしろいものである。本受賞では、近年の、種の独自性という視点・ヒトとの連続性という視点、どちらも持ちながら取り組んできたコミュニケーションの一連の研究が対象となった。

種の独自性という視点で見ると、例えば東南アジアに生息するテナガザルの「歌」は、まさにテナガザル特有な音声コミュニケーションの方法である。我々は、体重5キロ程度とヒトの赤ん坊と変わらない体格のテナガザルが、なぜ森林内1-2キロ四方に届く大きな歌を歌うことができるのかという問いについて、音響工学的に検証をした。その結果、ホエザルのような発声器官の特殊化が起きているわけではなく、歌唱方法に独自の進化を遂げており、ヒトのプロのオペラ歌手が行う、ソプラノ歌唱法と似ていることが明らかなった。生息環境や社会構造の制約を受けて、音声に特化したコ ミュニケーションが進化を遂げ、音量を効果的にあげる歌唱方法に特殊化が起きたと推察した。ヒトとの連続性という視点では、近年実施した、母子間コミュニ ケーションと認知に関する研究を実施した。ヒトはアカンボウやコドモを見ると、思わず「かわいい」と感ずる。動物のアカンボウや、キュートなぬいぐるみをみてもそうである。これは、おもわず、アカンボウに関係する諸特徴をみてかわいいと感ずる仕組みが生得的に備わっていると考えられており、ローレンツはその鍵刺激となる特徴を幼児図式とよんだ。そのかわいいと感ずる生得性が、養育行動を促進させて、結果として未熟に生まれてくるヒトの子の生存につながると考えられた。ヒト以外の霊長類も、未熟で母親の養育が必要な状態で生まれくる。しかし、こうしたアカンボウに対する特殊な情動喚起や認知が、ヒト以外の霊長類でも相同な現象が存在するかどうか、検証されてはいなかった。そこで、我々は、ニホンザルとグエノンの1種のキャンベルズモンキーを対象に簡単な実験を行った。サルの赤ん坊の写真とオトナの写真を同時に対呈示してどちらの写真を眺めるかどうかを検討し、どちらに対して「興味」があるかどうかを調べた。その結果、種を超えて、アカンボウの写真を眺めることが多く、より注意をひきやすいといえた。サルにも、「かわいい」と感じるこころがあるのかは、まったく分からないが、少なくとも、アカンボウの写真に目が奪われやすいようだし、そして、それに「興味」を感じやすいと言え、ヒトで言われているような相同な現象が起きているのではないかと考えた。