2010年9月19日
辻大和が2010年度日本哺乳類学会において、
日本哺乳類学会奨励賞を受賞しました。
受賞者:社会進化分野 助教 辻大和
学会:日本哺乳類学会 (2010.9.17-9.20、岐阜)
受賞日:2010年9月19日
受賞名:日本哺乳類学会奨励賞
課題名:「金華山島におけるニホンザルの生態研究-長期調査からみえてきたこと-」
長期継続研究は、短期間での成果を求める近年の研究体制からはやや敬遠されがちですが、そこから得られる知見の多くは生態学的、保全生物学的に重要なものです。植物の開花・結実の年次変動(豊凶現象)についての研究もそのひとつです。今回受賞の対象となったのは、宮城県金華山島における堅果類(ナッツ類)の結実の豊凶が、そこに暮らすニホンザルの諸生態に与える影響について調べた研究です。
まず、ニホンザルの土地利用と主要食物の分布との関係を調べ、彼らの土地利用が主要食物の分布から強い影響を受けることを明らかにしました(Tsuji
andTakatsuki, 2004)。続いて、共同研究者のデータを含む13年分の食性データを解析し、ニホンザルの食性が春は年次的に安定なのに対して夏から冬にかけての食性が年変化すること、ナッツ類の結実の年変動が夏から冬にかけての食性の年変化の主要因だということを定量的に示したほか(Tsuji
et al. 2006)、それが結果として秋の土地利用の年変化を引き起こすことを明らかにしました(Tsuji
and Takastuki, 2009)。
食性や土地利用の調査と並行して、ニホンザルの栄養状態を評価する方法を改良しました。彼らの採食行動を一年間毎月観察するとともに、おもな食物品目を採集して栄養分析を行い、1日に獲得したエネルギーの月変化を定量的に調べました(Tsuji
et al. 2008)。
この知見をベースに、採食成功の順位差とナッツ類の結実の年変化の関係について調べました。ニホンザルの群れ内には直線的な順位関係があり、個体の順位は食物の獲得量に影響します。ナッツ類の結実の程度は年次変化しますから、食物獲得量の順位差はその影響を受けて年変化すると予想されます。調査の結果はこの予想を支持するものでした。そしてこの影響は、最終的には個体群パラメータの順位差の年変化にまで及びました(Tsuji
and Takatsuki, under
review)。得られた研究成果は、個体のステータスと環境との関わりをさほど重視しない現在の個体群生態学の考え方に、見直しを迫るものといえます。
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