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2010年9月

松本正幸(統合脳システム分野)が第33回日本神経科学大会で
日本神経科学学会奨励賞を受賞しました。

統合脳システム分野 助教 松本正幸

学会:Neuro 2010(第33回日本神経科学大会 2010.9.2-9.4、神戸)

受賞日:2010年9月3日

受賞名:日本神経科学学会奨励賞

課題名:「中脳ドーパミン細胞の報酬情報表現における外側手綱核の役割」

 中脳に分布するドーパミンニューロンは、報酬が得られたときに興奮性の応答を示し、予測していた報酬が得られなかったときに抑制性の応答を示します。そして、これら興奮性・抑制性のドーパミン信号が、報酬を得るための学習や意欲に深く関わっていることが報告されています。しかし、その興奮性・抑制性応答がどのような神経メカニズムによって生じるかという根源的な問題は解明されていませんでした。今回受賞対象となった研究では、ドーパミン応答の起源を探る研究をおこない、外側手綱核がその有力な候補であることを報告しました(Matsumoto & Hikosaka, Nature, 2007)。

まず、眼球運動課題をサルに訓練し、その課題中のドーパミンニューロンと外側手綱核ニューロンの報酬応答を比較しました。すると、外側手綱核ニューロンはドーパミンニューロンと正反対の応答を示しました。つまり、報酬に対して抑制性の応答が見られ、予測していた報酬が得られなかったときに興奮性の応答が見られました。また、外側手綱核を電気刺激により興奮させると、ドーパミンニューロンの活動が抑制されました。以上の結果は、報酬が得られないときに外側手綱核ニューロンが興奮し、その興奮によってドーパミンニューロンが抑制されることを示唆します。

 また、これまで一様に報酬の「価値」に関連した情報を表現すると考えられていたドーパミンニューロンが、実際には「価値」と「salience(顕著性)」を表現する少なくとも2つ以上の集団に分かれていることを報告しました(Matsumoto & Hikosaka, Nature, 2009)。一方、上述の外側手綱核ニューロンは価値を表現しており、価値を表現するドーパミンニューロンほど外側手綱核から強い入力を受けていました(Matsumoto & Hikosaka, Nature Neuroscience, 2009)。

以上の結果は、ドーパミンニューロンが持つ価値情報(特に抑制性応答)の起源が外側手綱核であること、そしてsalience情報は他の異なる部位から送られてくることを示唆します。これら一連の研究は、外側手綱核がドーパミンニューロンへの抑制作用を介し、学習や意欲に深く関わっていることを示唆します。