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提言 大学等における研究と教育は「未来への投資」であり、大学法人の壁を越えた大学間の連携と研究拠点の育成が、わが国固有の学問の発展に寄与する

 

国立大学附置全国共同利用研究所・研究センター協議会

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提言の概要

大学等における研究と教育は「未来への投資」である。学問の最先端に立つには、長い年月をかけた絶え間ない刻苦勉励が必要だ。したがって、遠くを見据えて、文理の壁を越えた幅広い教養を身につける機会を保障し、学問を広く下支えすることが、科学技術立国を標榜する我が国の発展に寄与するだろう。こうした長期的視野に立つと、国立大学の教育・研究に関わる基盤的経費について削減することは、わが国の学問の発展を著しく阻害することになる。とりわけ「大学運営費交付金」「特別(教育研究)経費」「科学研究費補助金」「日本学術振興会特別研究員経費」の4点について、その見直しや削減が検討されることに対し、国立大学附置全国共同利用研究所・研究センター協議会として深い危惧の念を表明するとともに、「大学法人の壁を越えた大学間の連携と研究拠点」の育成を提言する。

「全国共同利用」という制度の重要性

湯川秀樹博士が1949年の暮れにノーベル物理学賞を受賞した。今年でちょうど60年が経過したことになる。受賞が契機となって、文部科学省(当時の文部省)の主導によって、京都大学に基礎物理学研究所が1953年に附置された。理論物理学の研究拠点であり、「全国共同利用」というわが国の誇るべき独特の研究推進制度の出発点でもあった。つまり、この研究所が受け皿となり、所属する大学の枠を超えて、全国の研究者が結集して日本の理論物理学を前進させた。ちなみに、同賞を昨年受賞した益川敏英博士も、その研究所の所長をつとめた。
全国共同利用の研究所としては、国立19大学に41研究所がある。半世紀にわたって続いた全国共同利用制度だが、今年度途中から「共同利用・共同研究拠点」という新制度に移行することになった。文部科学省の科学技術・学術審議会でそのあり方を慎重に審議した結果を踏まえて、国立大学だけでなく私立大学にも拠点を発足させ、複数の研究施設をつなぐネットワーク型の拠点も作った。本年6月の時点で、国立70拠点、私立9拠点の合計79の共同利用・共同研究拠点が認可されている。これによって国公私立の壁を越えて研究を推進する大学間の連携が展望されている。
全国共同利用研究所(新たな制度における「拠点」)は、北は北海道大学の低温科学研究所やスラブ研究センター、帯広畜産大学の原虫病センターから、南は九州大学の応用力学研究所や、琉球大学の熱帯生物圏研究センターまで、全国各地にあって多様な学問分野をカバーしている。これらの研究施設は、それぞれの学問分野の固有の歴史と背景を踏まえて当該の大学に設置されているが、全国の研究者のための共同利用・共同研究を推進するという共通の使命を担っている。
実際に、日本の学問が世界的に認知されるうえで、「全国共同利用」制度の果たした役割は大きい。「拠点」制度の発足とともに、この全国共同利用の役割を担うことになった研究施設として、京都大学再生医科学研究所がある。iPS細胞の研究などを生み出した研究所であり、「再生医学・再生医療の先端融合的共同研究拠点」である。新たな「拠点」制度が今後さらに果たすべき役割への期待も大きいといえるだろう。研究所・研究センターは、いわばそれぞれの大学がもつ個性だといえる。それと同時に、全国共同利用という制度を通じて、国公私立を超えた全国の研究者に開かれた存在でもある。学問の発展の歴史を国際的な視点で顧みれば、「全国共同利用」という大学間連携と研究拠点育成の精神とシステムは、日本が半世紀以上にわたって作り上げてきた優れた制度だといえる。これをさらに強化することが、我が国の研究を世界の一線の水準に押し上げるうえで重要だ。

国立大学の教育・研究に関わる基盤的経費の削減への憂慮

国立大学の教育・研究に関わる基盤的経費についての見直しや削減が、新政府の「事業仕分け」で指摘された。こうした判断は、学問の長期的展望に立脚していないのではないだろうか。また、科学技術基本計画や、総理の所信表明演説で述べられた「科学技術の力で世界をリードする」という方針とも齟齬がある。とりわけ「大学運営費交付金」「特別(教育研究)経費」「科学研究費補助金」「日本学術振興会特別研究員経費」の4点について、その見直しや削減が不当だということを指摘したい。
そもそも大学運営費交付金は、大学の教育・研究の基礎となる経常的経費である。国立大学法人の主旨からいって、授業料等のみで経常収益をまかなうことはそもそもできないし不適切である。
特別経費は、「特別」と冠せられているように、各大学の特色を活かしつつその各部局が主体となって、長期的発展の視点から系統的に教育・研究プロジェクトを立案実行する経費である。学部・研究科、研究所・研究センターの区別無く、この特別経費こそが教育・研究の組織的な推進を担う重要な基盤だといえる。
一方、科学研究費補助金は、純粋に研究者個人の自由な発想を基盤にしている。学問の発展の根幹は研究者個人の真に自由な発想にもとづく研究である。日本の優れた研究がすべてこの科学研究費補助金から始まるといっても過言ではない。我が国の学問の発展のため、人文科学・社会科学から自然科学まであらゆる分野を対象に、ピア・レビューの制度によって公平公正な審査がおこなわれてきた。
また、そうした自由な発想をもつ研究者への第一歩を支援するものが日本学術振興会特別研究員の制度である。大学院博士後期課程ならびにポスドクを支援する経費だ。20歳半ばから30歳代の若い頭脳こそが、学問の最前線をさらに前に進め、長い目でみて日本の発展の原動力になる。
こうした、それぞれ目的も性格も明瞭に異なる基盤的経費の削減については憂慮せざるをえない。大学等における教育・研究の基盤的経費の重要性を、以下の3点にまとめて指摘したい。

第1に、大学間の連携と研究拠点の育成

全国共同利用研究所は、法人化以前は国立学校設置法によって法的に位置づけされ、全国の研究者に供する研究拠点としての役割を担ってきた。法人化後の検討を経て新たに「拠点」制度が発足し、これに認定された研究所等は、文部科学大臣が策定する国立大学の中期目標の付表に記載される教育研究組織と位置づけられた。したがって、各国立大学法人に所属しているが、全国の研究者のための中核拠点となることが期待されている。もし大学の教育・研究に関わる基盤的経費がこれ以上削減されれば、個々の大学を超えた大学間の研究者の連携の力を削ぎ、全国的な研究拠点の育成を阻害し、ひいては日本の学問の発展をそこなう。全国共同利用の精神を引き継いで新たに始まった共同利用・共同研究拠点制度のもとで、多様な学問をさらに発展させる方策の充実こそが重要である。

第2に、人文科学・社会科学や基礎科学の発展

人文科学・社会科学の諸分野や、自然科学のなかでも純粋な基礎科学のばあい、その学問の成果を短期的な展望で計ることはできない。したがって、「対費用効果」や「数年で出口の見える研究成果」という尺度にそもそも乗らないので、政策で誘導されるタイプの競争的資金がない。したがって、大学等の教育・研究の基盤的経費が削られると、その影響をもろにかぶることになる。基盤的経費を充実させ、基礎的で多様な学問の下支えがあってこそ、先端的な科学技術の発展が期待できる。

第3に、若手研究者の育成

若手研究者が学術の最先端を担っている。文部科学省の「平成21年度学校基本調査速報」によると、博士課程修了者は約1万6千人で、その就職率は64%である。つまり、学問の世界のみならずさまざまな分野で活躍すべき高等教育の最先端で、修了者の約3人に1人が安定した職を得ていない。欧米では、大学院で学ぶ若手研究者に授業料全額免除と返還義務の無い手厚い奨学金や雇用費を用意している。「科学技術立国」を標榜する我が国は、欧米以上に若手研究者の養成を推進しなければならない。研究者として一人前になるには、文理を超えた幅広い教養を身につけ、長い歳月をかけた勉学が重要だ。若人が、学問と国の将来に希望をもって研究に取り組めるような支援が必要である。