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利他行動の進化的起源 - チンパンジーは要求に応じて相手を助ける

2009年10月14日

 霊長類研究所と野生動物研究センターの共同チームの研究によって、自分への直接の利益や見返りがなくても、同種他個体からの要求に応えてチンパンジーが他者を手助けすることが明らかとなりました。本研究は、チンパンジー同士の手助け行動を実験を通して実証的に検証した先駆的な研究です。

 なお、この研究成果は、米国科学誌「PLoS ONE(プロスワン)」のオンライン版で公開されました。

 


左:山本真也 元霊長類研究所博士
(現学振特別研究員PD(東京大学受入))
右:田中正之 野生動物研究センター准教授

 霊長類研究所と野生動物研究センターの共同チームの研究によって、自分への直接の利益や見返りがなくても、同種他個体からの要求に応えてチンパンジーが他者を手助けすることが明らかとなった。利他行動の進化については、ダーウィンの時代より多くの研究者が取り組んできたが、まだまだ未解明な点が多い。本研究は、ヒトに最も近縁なチンパンジーで利他行動の生起メカニズムを実証的に調べた点で先駆的である。ヒトがどのように協力的な社会を築き上げてきたかについて新たな可能性を提示した。

 霊長類研究所でおこなった実験では、隣接する2つのブースに、2つの異なる道具使用場面を設定した(図1)。ストローを使ってジュースを飲むストロー場面と、ステッキを使ってジュース容器を引き寄せるステッキ場面である。ストロー場面のチンパンジーにはステッキを、ステッキ場面のチンパンジーにはストローを渡し、ブース間のパネルに開いた穴を通して2個体間で道具が受け渡されるかどうかを調べた。その結果、全試行の59.0%において個体間で道具の受け渡しがみられ、そのうちの74.7%が相手の要求に応じて渡す行動であった(図2)。相手からの見返りがなくても要求されれば道具を渡す行動は継続した。

 


図1: 実験場面。壁に取り付けられた容器からジュースを飲むにはストローが必要で、床に置かれたジュース容器を手に入れるにはステッキが必要。それぞれ必要な道具は隣のチンパンジーに渡された。

図2: 要求に応じた道具の受渡し。ペンデーサ(奥)が穴から手を伸ばして要求し、それに応じてマリ(手前)がステッキを拾って手渡そうとしている。

 チンパンジーの利他行動の生起には、相手からの要求が重要なようである。ヒトは他人が困っているのを見ると頼まれなくても自ら進んで助けることがあるが、チンパンジーは相手の要求があってはじめて助けることが多かった。自発的な手助けはチンパンジーでは稀だと言える。実際、手の届かない場所に置かれたジュース容器に向かって隣のブースのチンパンジーが必死に手を伸ばしている様子を見ても、持っていたステッキを自発的に相手に差し出すことは稀であった。

 利他行動の進化を考えたとき、この「要求に応じた手助け」は効率的な戦略と言える。相手の手助けをしても、それが「おせっかい」になってしまっては意味がない。その点、「要求に応じた手助け」は必ず相手の役に立つので無駄になることがない。ヒトでみられる助け合い社会も、このような利他行動を出発点として発展してきたのではないだろうか。本研究は、利他行動の進化について新たな道筋を提示している。