野生動物研究センターを設置
2008年3月18日
京都大学は、京都市動物園、名古屋市東山動植物園等と連携し、「野生動物研究センター」を4月1日付けで設置することになりました。
野生動物研究センターの概要
野生動物研究センターに直属する3施設
1.
宮崎県、幸島観察所、イモ洗いで有名な野生ニホンザルのいる天然記念物の島に施設と職員
2.
鹿児島県、屋久島観察所、ヤクザルやヤクシカで有名な世界自然遺産の島に施設
3.
熊本県、チンパンジー・サンクチュアリ・宇土(株式会社三和化学研究所のチンパンジー)
野生動物研究センターと当初連携する機関:
京都市動物園、名古屋市東山動植物園等の日本動物園水族館協会加盟館
京都大学野生動物研究センター憲章
京都大学野生動物研究センター発足について
野生動物研究センターの教員リスト
朝日新聞(3月19日30面)、京都新聞(3月19日 28面)、産経新聞(3月19日
26面)、中日新聞(3月19日 3面)、日刊工業新聞(3月19日
22面)、日本経済新聞(3月19日 42面)、毎日新聞(3月19日
3面)及び読売新聞(3月19日 37面)に掲載されました。
京都大学野生動物研究センター憲章
京都大学野生動物研究センターは、野生動物に関する教育研究をおこない、地球社会の調和ある共存に貢献することを目的とする。その具体的な課題は次の3点に要約される。第1に、絶滅の危惧される野生動物を対象とした基礎研究を通じて、その自然の生息地でのくらしを守り、飼育下での健康と長寿をはかるとともに、人間の本性についての理解を深める研究をおこなう。第2に、フィールドワークとライフサイエンス等の多様な研究を統合して新たな学問領域を創生し、人間とそれ以外の生命の共生のための国際的研究を推進する。第3に、地域動物園や水族館等との協力により、実感を基盤とした環境教育を通じて、人間を含めた自然のあり方についての深い理解を次世代に伝える。
京都大学野生動物研究センター設置準備委員会
(平成20年2月5日制定)
The Declaration of Wildlife Research Center of Kyoto University
The Wildlife Research Center of Kyoto University aims to promote the
scientific research and education on wild animals, and to contribute to
the peaceful coexistence of living organisms on planet earth. The
mission can be summarized in the following three points. First, the
center should carry out basic research on endangered and threatened
species of wild animals to promote their conservation in their natural
habitat, to improve their health and welfare in captivity, and to
encourage the fusion of scientific approaches to advance our
understanding of human nature. Second, the center should integrate
different areas of science to create new disciplines applicable to field
settings and to encourage international collaboration for the symbiosis
of humans and other living organisms. Third, in collaboration with zoos,
sanctuaries, aquariums, museums, etc, the center should promote
environmental education of youths by offering them unique experiences
with nonhuman animals, and provide young people with a deep insight into
nature including ourselves.
The organizing committee for the Wildlife Research Center
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京都大学野生動物研究センター発足について
京都大学は、その憲章において、学問を通じて「地球社会の調和ある共存」に貢献することを明記している。このたび、京都大学は、2008年4月に、京都大学野生動物研究センターを発足させることを決定した。
2001年にヒトゲノムが解読され、2005年にはチンパンジーゲノムが解読された。同年2005年に、じつはイネの全ゲノムも解読されている。DNAの塩基配列によって構成されているという意味で、人間もチンパンジーもイネも変わりがない。21世紀の初頭に、人間がチンパンジーと近縁なだけではなく、さらには他の動物や、イネや桜の木までも、いのちがつながっていることがわかった。「人間と動物」という二分法はもはや成り立たない。人間は動物であり、人間とそれ以外の動物がこの地球で共存している。同様に、人間と自然を対置するのも変だ。人間はまぎれもなく自然の一部である。人間を含めた自然のまるごと全体を深く理解し、人間とそれ以外の生命の連続性を実感し理解することが、現代社会の直面するさまざまな問題に対する科学的に妥当な指針を与えるだろう。
京都大学は「探検大学」と呼ばれてきた。人間を含めた自然全体を学問の対象としたフィールドワークの伝統がある。現場に立脚した科学である。自分の足で歩き回り、自分の目で見て、耳で聞いて、肌で感じたもの、そうした野外の経験を基盤に学問してきた。本年2008年は、京都大学のフィールドワークにとって記念すべき年である。50年前の1958年に、今西錦司と伊谷純一郎が最初のアフリカ探検をおこなった。アフリカの熱帯林にすむ野生チンパンジーとゴリラを対象にした人間の社会の進化的起源をさぐる研究である。その後の50年にわたって、京都大学の研究者はチンパンジーやゴリラのみならず狩猟採集民や遊牧民や農耕民の生態人類学的な調査を展開してきた。
また同じ1958年に、西堀栄三郎を隊長とする南極越冬隊が、初めて極寒の地での越冬観測に成功した。さらに同年、フランス文学者の桑原武夫を隊長とする京都大学学士山岳会の遠征隊が、カラコルムのチョゴリザ峰(7665m)に初登頂した。ネパールヒマラヤのマナスル峰登頂についで、単独大学の登山隊がカラコルムヒマラヤの処女峰の頂に達した。アフリカの今西、南極の西堀、ヒマラヤの桑原は、京都大学の同期生(一中、三高)である。
「京都学派」という言葉は西田幾多郎・田辺元らの哲学の系譜をさすが、京都学派はじつはさまざまな学問分野にある。桑原をはじめ梅棹から梅原猛といった人文科学の伝統もあれば、昨年生誕百年を祝った湯川秀樹・朝永振一郎の両ノーベル賞学者に発する理論物理学の系譜もある。同様に、フィールドワークの伝統は、今西・西堀・桑原の時代から50年にわたって連綿と受け継がれ、遺伝学の木原均、霊長類学の今西錦司、仏文学の桑原武夫、文化人類学の梅棹忠夫らの文化勲章受賞者を輩出した。こうした人類学・霊長類学・動物学のみならず、「フィールドワークを基礎とする実証的な科学のスタイル」は、他の大学の追随を許さない京都大学のひとつの個性だといえる。
人間とそれ以外の動物の関係を考えるうえで、かれらの自然の生息地での生態を研究することは、きわめて重要である。チンパンジーやボノボやゴリラの野生の研究において、日本の研究は世界の最前線をいっている。しかし、ゾウや、トラや、サイや、クジラなど、その他のアンブレラ種(生態系のシンボルとなるような大型の野生動物)についての研究は、必ずしも進んでいない。国際的な連携のなかで、日本がその動物学的研究の歴史と立場を活かしたユニークな貢献が求められている。京都大学野生動物研究センターは、「絶滅の危機に瀕した野生動物」を研究対象にすることによって、日本固有の課題であるサル・シカ・クマといった身の回りの野生動物ではなく、さらに国際的な規模で保全を必要とするような種(すなわち動物園で見かけるが、自然の生息地での存続が著しく脅かされている種)を研究の主対象としている。
野生動物研究センターは、京都大学が培ってきた歴史と伝統と人材を活かし、大学としての個性を輝かせる新たな学問、「野生動物保全学」「動物園科学」「自然学」などの創生をめざしている。
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野生動物研究センターの教員リスト
野生動物研究センターの専任教員(10名)(現職・学位・専門分野・主要な対象動物)
教授
伊谷 原一
林原類人猿研究センター所長・京都大学理学博士・動物園科学・ボノボ
幸島
司郎
東京工業大学准教授・京都大学理学博士・動物行動学・イルカ・サイ
村山美穂
岐阜大学准教授・京都大学理学博士・ゲノム科学・家禽
准教授
杉浦秀樹
京都大学霊長類研究所准教授・東京大学理学博士・保全生物学・ニホンザル
田中正之
京都大学霊長類研究所助教・京都大学理学博士・比較認知科学・チンパンジー
中村美知夫
京都大学理学研究科助教・京都大学理学博士・保全生物学・チンパンジー
タチアナ・ハムル
京都大学霊長類研究所准教授・スターリング大PhD・保全生物学・マーモセット
中村美穂
映像プロデューサー・東京大学学士・映像動物学・霊長類、コウノトリ
助教
森村成樹
京都大学霊長類研究所福祉長寿研究部門助教・京都大学理学博士・動物福祉学・チンパンジー
藤澤道子
京都大学霊長類研究所福祉長寿研究部門助教・高知医科大学医学博士・健康長寿科学・人間
野生動物研究センターの兼任教員(10名)(現職・学位・専門分野・主要な対象動物)
教授
渡邊邦夫
京都大学霊長類研究所教授・京都大学理学博士・保全生物学、インドネシアの動物相
長谷川博
東邦大学理学部教授・京都大学理学修士・保全生物学・アホウドリ
松林公蔵
京都大学東南アジア研究所教授・京都大学医学博士・健康長寿科学・人間
松沢哲郎
京都大学霊長類研究所教授・京都大学理学博士・比較認知科学・チンパンジー
山極壽一
京都大学理学研究科動物学教授・京都大学理学博士・人類進化科学・ゴリラ
長谷川壽一
東京大学総合文化研究科教授・東京大学文学博士・進化生物学・ゾウ、クジャク
遠藤秀紀
東京大学総合研究博物館教授・東京大学獣医学博士・動物園科学・哺乳類全般
准教授
友永雅己
京都大学霊長類研究所准教授・京都大学理学博士・動物福祉学・チンパンジー
半谷吾郎
京都大学霊長類研究所准教授・京都大学理学博士・保全生物学・ボルネオの霊長類
平田聡
林原類人猿研究センター研究員・京都大学理学博士・比較認知科学・チンパンジー
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