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ケニヤで発見された新種類人猿化石の属名ナカリピテクスは、化石が発見されたケニヤ中央部、大地溝帯の東のへりにある調査地ナカリに由来します。種名のナカヤマイはケニヤにおける地質調査で大きな貢献をし,2001年8月フィールド調査の帰途,不慮の自動車事故で亡くなった故・中山勝博・島根大学助教授にちなむものです。中山さんは42歳という若さで亡くなりました。彼が地質学に,また東アフリカ大地溝帯にはせた夢と,それが志半ばでついえた無念を想い,彼の名を貴重な類人猿化石の種名として残すことにしました。
ナカリピテクスのもっと重要な意義は,人類と現生アフリカ類人猿の共通の祖先に近い可能性が高いことです。これまで、1300万年以降、アフリカで類人猿の化石がほとんど出てこなかったことから、一部の研究者達は,アフリカから西ユーラシアに渡った大型類人猿からウーラノピテクスのようなものに進化し,アフリカ固有の類人猿が絶滅した後に,再びアフリカへ戻って人類とアフリカ大型類人猿の祖先となったという説(アフリカ回帰説)をとなえています。今回報告されたナカリピテクスはウーラノピテクスに類似している一方で,やや原始的な特徴もとどめています。また,時代もウーラノピテクスよりわずかに古いことから,逆にナカリピテクスの一部がヨーロッパに渡ってギリシャのウーラノピテクスに進化した可能性を示すものです。もちろん、食性などが似ていた事でアフリカとヨーロッパで類似の形態が平行進化した可能性も考えられます。しかし、その場合でも、ナカリピテクスの発見は、今年8月にネイチャー誌で諏訪元・東京大学教授らによって発表されたエチオピアのチョローラピテクス(1070~1010万年前)ともども、アフリカにおける類人猿化石の空白期にも大型類人猿がアフリカで脈々と生きており、あえて他の大陸に現生のアフリカ類人猿とヒトの共通祖先を求める必要はない事を示しています。どちらにせよ、アフリカ回帰説にとって都合が悪いのです。 なぜヒトは立ち上がったのか? いろいろな要因が考えられますが,その一つとして重要なのは棲息環境の変化でしょう。人類誕生の舞台となった東アフリカ大地溝帯では,1000万年前から700万年前にかけて大きな変動がありました。ケニヤでは1000万年前頃,大規模な隆起運動が終わり,隆起部の中軸部に溝状の盆地ができていきました。また,一年の間に湿潤と乾燥の季節変化が生じるようになりました。それ以前の比較的均質な環境から,地域的にも,時期的にも変化に富む環境へと変わっていったのです。問題はその後です。950万年から750万年前にかけて地層が露出していないのです。このことは950万年前以降再び隆起運動が起こり,それまでにできた地層や火山岩が削剥されてなくなってしまったためです。証拠が隠滅されているためにこの間の環境はわかりませんが,広域的な隆起運動は環境に大きな影響を及ぼしたことでしょう。このような人類誕生に大きな影響を及ぼした1000万年から600万年前の棲息環境の変化について明らかにしていくことが今後の課題です。 朝日新聞(11月13日夕刊 10面)、京都新聞(11月13日夕刊 1面及び2面)、産経新聞(11月13日 1面)、しんぶん赤旗(11月14日 1面)、日本経済新聞(11月13日 18面)、毎日新聞(11月13日夕方 8面)及び読売新聞(11月13日夕刊 14面)に掲載されました。 BBC NEWS(11月13日)、Le Monde(11月12日)及びThe New York Times(11月13日)のWeb版に掲載されました。
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