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ジェーン・グドール講演会、第2部冒頭挨拶 - 2007年11月11日 -尾池和夫 ジェーン・グドール講演会、第2部の初めにご挨拶申し上げます。ジェーン・グドールさんご本人にお越しいただきました。さらにご友人である高円宮久子妃殿下のご臨席を賜りました。また、多くの皆さんにお集まりいただきました。京都大学を代表して、お礼を申し上げ、一言ご挨拶申し上げます。 この記念講演会は、3つの目的があるとうかがっています。ジェーン・グドールさんの京都大学名誉博士号授与のお祝いと、本年発足した熊本県にあるチンパンジー・サンクチュアリ宇土の無事の門出と、そして来年4月に発足予定の「野生動物研究センター」の展望を語るものです。 第一に、名誉博士号について解説します。京都大学は、1897年創立なので今年で110周年です。その長い歴史のなかで、グドールさんは11人目の授与になります。平成16年度に国立大学が法人化してからでいえば、最初の授与になります。前回は、利根川進さんでした。3年8か月前になります。 グドールさんは、本学と深いご縁があります。グドールさんが、最初にタンガニーカ湖畔のゴンベストリームという場所で野生チンパンジー研究を開始したのが、1960年7月14日でした。今から47年前です。そして、その年の9月に最初の訪問者がありました。それが伊谷純一郎さんでした。伊谷さんは、本学の名誉教授で、今西錦司博士とともに、日本の霊長類学を作った人物です。今西・伊谷の京都大グループとグドールさんとは、互いに切磋琢磨して野生チンパンジー研究をすすめてきたといえるでしょう。 わたしの専門は地震学です。ご存知のように日本は地震の多い国です。そのおかげで学問が進みました。日本の霊長類学も同じです。ヨーロッパや北米にはサルがいません。日本にはニホンザルがいます。今西先生・伊谷先生らはそこに目をつけて、野生ニホンザルの野外観察研究を始め、霊長類学を世界に向けて発信してきました。その後、学問の必然として、人間からみて最も系統的に近いチンパンジーの研究に人々の目が向けられたのが20世紀の後半でした。グドールさんと京都大学の研究者の研究の蓄積が、チンパンジーという「進化の隣人」の深い理解につながったと評価できるでしょう。 チンパンジーは遺伝的に人間のきわめて近くにいます。そのために、一方で、医学実験に使われました。肝炎の感染実験です。本日の集いの第2の目的であるチンパンジー・サンクチュアリ宇土はそうした医学感染実験の対象となったチンパンジーの施設です。この夏、伊谷先生のご令息である伊谷原一さんのご案内で、現地をみてまいりました。伊谷さんはサンクチュアリの寄附講座の長としてその運営をしています。島原湾を隔てて、雲仙普賢岳を望む景勝地でした。ここのチンパンジーたちも雲仙普賢岳の火砕流を見ていたのか、と思うと感無量でした。78人いるそうですが、ひとりひとり顔つきも違い、個性があるということを実感しました。人間の医学・医療の向上のために使われたチンパンジーたちが安寧な余生を送るとともに、日本のチンパンジーたちの暮らしの模範になるような動物福祉研究が推進されることを願っています。 第3に、野生動物研究センターです。わたしは、年来、「どうして京都大学には植物園はあるのに、動物園はないのか」、と思っていました。会う人ごとに「なぜ動物園はないのか」と問うたのですが、だれもまともに相手になってくれません。そうしたときに、霊長類研究所の松沢哲郎さんから、大学と動物園がもっと連携すれば、おのずから動物園としての役割を果たせるという答えをいただきました。早速、副学長の丸山正樹先生にお願いして、京都市との連携を検討していただきました。また、霊長類研究所は愛知県にあるので、名古屋市との連携も検討していただきました。先般、9月には、京都大学霊長類研究所の准教授だった上野吉一さんが、東山動物園の企画官として赴任しました。大学の教員が動物園に転職するという最初のケースです。京都大学は、ニホンザルやチンパンジーをはじめ野生動物の研究で世界をリードしてきています。京都大学は探検大学を標榜し、フィールドワークにもとづく研究を推進しています。野生動物研究センターが窓口となって、人間以外の動物、とくに絶滅の危機に瀕している野生動物の研究がすすみ、それによって本学の理念である「地球社会の調和ある共存」がはかられるよう願っています。 グドールさんと前回お会いしたときに、「京都大学にできることは何でしょうか」とおたずねしたら、「学問をしてください」と短く答えられました。あたりまえのようですが、なるほどと深く思いをいたしました。大学の使命は、研究と教育と社会貢献の3つです。まず研究と教育という両面から学問を深めてこそ、大学らしい、大学にしかできない社会貢献があるでしょう。京都大学は、学問を深めるところでありたいと思っています。
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