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野生チンパンジーの保全と行動生態の研究について: 絶滅危惧種を保護する一般的方法として2つの方法が考えられる。第1にその動物の生息地保護が不可欠である。第2に飼育個体の野生復帰があげられる。チンパンジーはIUCNのレッドデータリストでは絶滅危惧種に指定されている。動物園で育てられたチンパンジーは、人間の援助なしに本来の野生環境に復帰できるのだろうか?本講義ではチンパンジーの野生復帰が成功した唯一の実例をとりあげ、タンザニア共和国ルボンド島におけるチンパンジーの行動生態学的研究プロジェクトを紹介する。
1. ルボンド島チンパンジーの歴史
2. 集団の土地利用、サイズ 3. パーティ構成の地域間比較 (%)
4. ベッドセンサスと分布(n= 82)
5. チンパンジーの健康評価、初記録の寄生虫感染 6. これまでの面白い記録 里のサルとつきあうには
現在地球上には200種以上の霊長類がいるといわれており、多くの霊長類種が絶滅の危機に脅かされている。2002年のIUCNレッドデータブックによれば、約半数にのぼる19種が絶滅危惧IA類(Critically Endangered)に、46種が絶滅危惧IB類(Endangered)に、53種が絶滅危惧II類(Vulnerable)に分類されている。 なぜこのような事態になったのか、ということにはいまさら言及する必要はないかもしれない。地球温暖化や酸性雨をはじめとして、人間が地球という惑星の自然を劇的に変化させてきたことには、疑いの余地はないだろう。人口の増大、農業や工業などの産業活動、森林伐採、開発など、人間はその生息範囲をどんどん広げてきた。その結果、ほかの生物たちの生息地は荒廃し、さまざまな生態系が汚染され、数え切れないほどの動植物が過剰収獲によって絶滅した。また、新しい土地へと進出する過程で持ち込んださまざまな外来種は、それまでその地域で進化してきた在来種の絶滅を広範囲に引き起こした。生物の世界では、まさに破滅的な状況が起こっているといっても過言ではない。冒頭に述べたように、霊長類も例外ではなく、多くの種が絶滅の危機にさらされている。 この講義では、霊長類の現状とその存続を脅かしているさまざまな要因について概説するとともに、わたしたちに馴染みの深いニホンザル(Macaca fuscata)の現在の状況について説明したい。 霊長類脳の解剖学的特徴と発達加齢の分子基盤 解剖学的特徴 脳は肝臓とほぼ同じ重さ(1.3~1.4 kg)あり、視覚、聴覚、味覚、触覚などの外部情報を受容し、それに適応することにより、生物の生存を維持する最も重要な器官である。なかでも大脳皮質は進化とともに拡大し(大脳化)、学習、記憶などの高次の脳機能に関与する。霊長類の大脳皮質は細胞構築学的に多数の機能領野に分けられ、ヒトで52、マカクサルでは36の領域がある。特に前頭連合野、頭頂連合野、側頭連合野と視覚野の拡大が霊長類の特徴である。従来、霊長類に特異的な神経細胞が存在するかどうかについて興味をもたれて来たが、最近ヒトを含めた大型類人猿の前部帯状回にのみ存在するスピンドル細胞が発見された。我々も胎児期のチンパンジー(死産)にスピンドル細胞の存在を確認しており、本細胞の存在は胎生期にすでに遺伝的に決定されていると考えられる。 脳の発達 ニホンザル、アカゲザル、カニクイザルといったマカクサルの胎生期は160~170日、性成熟に4~5年、寿命は25~30年である。大脳皮質細胞は胎生40日~100日に産生され、神経線維数は新生児期に最大となり、その後生後3ヶ月までに1/4に減少する。シナプス数は生後2~4ヶ月に一過性に増加し、その後性成熟期までに半減する。我々は線維の発達に成長関連タンパク質のGAP43が、またシナプス形成には、神経栄養因子の一種脳由来神経栄養因子(BDNF)が関与することを見い出し、GAP43やBDNFといった脳内機能分子の、時間軸に伴う発現によって、マカクサル脳内の神経回路網が形成されることが考えられる。 脳の加齢 霊長類は、脳を拡大させることにより生存能力を増加させ、一般に長寿であるが、加齢とともに記憶、学習能力は顕著に低下する。しかし神経細胞数は脳老化過程で変化しないことが明らかされているので、どのような分子メカニズムで記憶、学習能力が低下するのか興味深い問題である。我々は脳内機能分子の発現の変化によるものと考えている。例えばヒトを含めた老齢霊長類の脳内には老人斑が認められ、またBDNFの遺伝子発現が脳老化とともに減少する。最近マカクサルやげっ歯類を学習させたり、運動させて神経細胞を活性化するとBNDF遺伝子発現が増加することが報告された。従って脳老化の抑制には脳を活性化させ、神経栄養因子類を増加させることが有効であると思われる。 <参考論文> 前頭連合野とワーキングメモリー 記憶をその持続時間の側面から見ると数日から数十年に及ぶ長期の記憶と、数秒から数分の範囲の短期の記憶がある。短期記憶(short-term memory)は、持続時間が短いだけでなく容量に限界がある。また、不要になったら消去される特徴がある。新しい相手に電話をかけるときは番号を憶えておいてキー操作を行い、それが終わったら忘れてしまう。しかし、あまり桁数が多くなると憶えているのが難しくなる。これは短期記憶の説明によく使われる例である。しかし、このように単純な例ばかりとは限らない。短期記憶は脳内の情報処理の中でもって重要な役割を果たしている。Braddeleyはこの点に注目し、ワーキングメモリー(working memory; 作業記憶)という概念を提案した。Braddeley(1986)によればワーキングメモリーとは「理解、学習、推論など認知的課題の遂行中に情報を一時的に保持し操作するためのシステム」である。蓄積、保持、再生といった記憶の静的な側面ではなく、情報処理の中で複数の内容を短期記憶として保持し、それらの関係を操作するときのような動的な側面を重視した見方である。ワーキングメモリーの概念はコンピュータの中央処理装置(CPU)にあるレジスターの働きに似ている。初期のコンピュータにはレジスターは一個であったが、最近にコンピュータには複数存在し、計算処理の途中で値を一時的に保持するために用いる。 ヒトの脳血管障害などで前頭連合野が破壊されても、エピソード記憶(出来事の記憶)や手続き記憶(行動に再生される記憶)などの長期の記憶障害は殆ど起こらない。しかし、前頭連合野の破壊は作業記憶の障害を引き起こす。また、ヒトを被験者としたPETや機能MRIなど脳機能イメージングの方法でも作業記憶課題遂行中に前頭連合野の活動が確認されている。 一方、サルを用いた研究では、空間位置の記憶課題(遅延反応課題)が作業記憶のモデルとして長年研究されてきた。しかし、この課題で扱われる短期記憶は比較的単純なものであり、作業記憶のパラダイムとしては必ずしも適切とは言えなかった。そこで、情報処理の過程において同時進行で保持し操作される短期記憶を必要とするワーキングメモリー課題をサルに訓練し、前頭連合野における細胞レベルの働きを解析した。講義では、前頭連合野研究歴史と最近の研究成果について紹介する。 <参考> 分子系統分析によるアジルテナガザル(Hylobates agilis)の アジルテナガザル(Hylobates agilis)には、スマトラ島の山岳地帯に分布するH. a. agilis、スマトラ島低地とマレー半島の一部に分布するH. a. unko及びボルネオ島南東部(カリマンタン)に生息するH. a. albibarbisの3亜種が知られている。しかし、これらの亜種間関係やカリマンタンのミューラーテナガザル(H. muelleri)との関係を含めた生物地理学的進化に関しては不明な点が多い。現在、霊長類研究所においてアジルテナガザルの亜種分化の過程を形態分類?染色体変異?分子系統の観点から同時に解析を行うプロジェクトが進行中である。本研究は、分子系統解析を担当してすすめている。 この研究では、まず、インドネシア・ボゴール農科大学霊長類センターと共同で、スマトラやカリマンタンにて出自の明確な個体から血液の試料採集を行い、DNA抽出を行った。DNA試料を日本に持ち帰って、遺伝様式のことなる2種類の遺伝子領域(Y染色体上のTSPY遺伝子とミトコンドリアのND4-ND5遺伝子領域)の塩基配列を解読し、最節約法や最尤法による系統分析を行った。この分析には同じlar-グループに属するシロテテナガザル(H.
lar)も含めた。その結果、オス31個体から9個の遺伝子タイプが見つかり、系統分析の結果、スマトラのH.
agilis(2亜種を区別せず、以下、agilis
と記載)、カリマンタンのH. a. albibarbis(以下、albibarbis)、およびH.
muelleri(以下、muelleri)は、それぞれの分類群を特徴づける遺伝子をもっていることがわかった。ミトコンドリア遺伝子ついては、
52個体中42種類の異なる遺伝子タイプが見いだされ、系統分析の結果、
albibarbisおよびmuelleriは、各分類群ごとにまとまったものの、スマトラのagilisが2つの系統に分かれた。 今回、当集団遺伝分野であつかう研究を、上記のようにすすめられているテナガザル類の分子系統解析を例にして紹介する。 機能遺伝子から見たサルとヒトの類似・相違性
これまで霊長類のゲノム・遺伝子は、主に系統・進化研究の分子マーカーとしての位置づけで注目され、核・ミトコンドリアDNAの配列や染色体DNAマッピングなどの比較検討を通じて、霊長類の分子系統や種内・種間関係などに関する研究が展開されてきた。 今日は、そうした研究の一環として現在進めている、ヒトとマカクサル(ニホンザル)の20,000個弱の機能遺伝子の発現プロファイリングから浮かび上がった、サルとヒトの生理学・病理学的な類似・相違性について紹介する。
霊長類の社会構造 マントヒヒとゲラダヒヒは、サルの中では珍しい重層社会を作っている。ニホンザ ルの群れを見慣れた人には、重層社会というのは、なじみがないかもしれない。ニホ ンザルの群れに当たる集団は、マントヒヒでは、band と呼ばれる。もう一つマントヒ ヒ集団を見ていて、すぐ分かる集団は、one-male unit である。群れ(band)の集まり の中を移動する小さな集団があり、それは、オトナのオス1頭と数頭のメスからなる 集団である。繁殖行動は、それぞれの one-male unit 内で行われる。群れである Band は、one-male unit が集まって構成されている。エチオピアでのスイス・チーム の研究では、band と one-male unit の中間に clan というもう一つの単位を見つけ た。clan は、2-3個のユニットから構成されており、長年による個体の追跡調査か らやっと見つけられた単位である。オスの子供がある clan に生まれたると、一生この clan から離れることはないというデータが示されている。つまり、clan は父系で あるという。マントヒヒでは、clan や band 間を移籍するのはメスである。霊長類社 会で父系を示すものは、類人猿以外では、非常に珍しく、しかも、マントヒヒの近縁 のサバンナヒヒの数種は、すべて母系である。 ヒヒ類の中で突然出現したマントヒヒの特異な社会構造がなぜ生まれたのかは興味
深い問題である。これまで調査されたアフリカ大陸のポピュレーションから地理的に
隔離されたアラビア半島側で、私たちはマントヒヒの社会構造を研究している。エチ
オピアで見られたマントヒヒの社会構造が普遍的なものであるのかという検討をして
いる。 マントヒヒ、ゲラダヒヒの社会行動をスライド写真で紹介しながら、その社会の特徴と成立について議論する。 チンパンジーの認知 チンパンジー(Pan troglodytes)は今から約500-600万年前に私たちヒトとの共通祖先から枝分かれしてきた。私たちヒトの知性がいかにして進化してきたかを探る上で非常に重要な生物であるといえる。 1)顔の認識: 視線を認識するということは「眼」を認識するということである。眼を認識するためには、それが含まれる「顔」という領域を正しく認識できなくてはならない。これまでの研究から、ヒトでは倒立した顔の認識が正立した顔の認識よりも困難であることがわかっている。このような現象はチンパンジーでも(そしてマカクザルでも)認められる。さらに、これらの実験から、チンパンジーもヒト同様の認知メカニズムで顔を認識している可能性が示唆された。 2)「目があう」ということ:サルにも他者と目があっているかあっていないかがわかるということは、「サルと目をあわせると威嚇される」という日常的な経験からも示唆される。チンパンジーでは、生後2ヶ月ころから他者と目があっているかいないかが区別でき、さらに目があっているほうを好むという実験結果が得られている。さらに、視線があっていない顔よりもあっている顔のほうが見つけやすいという「誰かが私を見つめてる(Stare in the Crowd)」効果も見出されている。 3)他者の視線に追従する:他者の視線がそれている場合、私たちは他者が見ているほうに視線を移すことができる。この一見なんでもないことがヒト以外の霊長類では意外と難しい。チンパンジーの乳幼児でも特別な環境を用意してあげないとこのような視線追従は難しい。一連の研究から、ヒトでは、このような視線手がかりによって注意が反射的に移動することがわかっているが、チンパンジーでは、どうやら「反射的」には起きないようである。彼らは、視線手がかりを見てそれを「解釈」した上でないと注意を移動させることができない(随意的定位)。この違いは、チンパンジーにとっては、その先に待っている「他者の心の理解」の成立に対する大きな制約となっているのかもしれない。 「人間らしさとは何だろう?」
もっとも、一部の識者のように同様の事件が増加していないと言うつもりはない。なるほど彼らの指摘するように、数だけ見れば十代の犯行は第二次世界大戦後まもないころの方がはるかに多いだろう。また今日でも、中高年の犯罪件数が若年層を上回っているのは事実である。だが問題は動機である。 金銭に困って罪を犯すのと、そうでないものを区別しない議論は、まったく意味がない。詳細が明らかになったのちも「どうして、こんなことを……」と行動の理解に苦しむ事件は、間違いなく増えていると思う。その上で、あえて私は、「心の闇」というレッテルを貼ることが見当はずれだと考えている。 私たちが自分自身の行いを説明できるのは程度の差こそあれ、心のなかでことばによる判断を下しているからにほかならない。人間は外界へ向けて表明することなくとも、言語情報を操作することができる。心理学者はこれを内的言語と呼ぶ。およそ思考というものの基礎とされてきた。 しかしながら、このような意思決定の方法はヒトがなし得るそれのすべてではない。それどころか、長い間の養育と教育を経てようやくたどりつく一つの到着点にすぎない。心のなかで視覚的イメージが次々とフラッシュするだけで行為にいたるような過程が存在しても、全然おかしくない。そこにはおよそ闇など存在しない。 今からおよそ60年前、アルベール・カミュはすでにこれに気づいていた。今ではほとんど省みられなくなった作品『異邦人』の主人公ムルソーは、母の死の翌日、海水浴に行き、女と関係を持ち、映画を見ては笑いころげ、あげくのはてに友人の女出入りに関係して人を殺し、動機を「太陽のせい」と答える。判事に自分の行動を要約して、「レエモン、浜、海水浴、争い、また浜辺、小さな泉、太陽、そして、ピストルを5発撃ちこんだこと」(窪田啓作訳、新潮文庫、72ページ)と答えるだけである。正岡子規の表現を借りるならば、私たちは「一匹の人間」として生を授かるのだ。 そして21世紀に突入した日本において、成人してなお「一匹」として暮らすものの数は、急増しつつある。ヒトの行動の生物学的基盤を研究するものにとって、ありのままの「一匹」の姿を身近に観察できるのは、ある意味で幸甚の限りであるが、どうしてこんな事態にいたったかを話す予定である。 霊長類形態学:実験室からフィールドまで
「形態学」というと、比較解剖学か?と想像されるかもしれません。「形態学」は、ひじょうに幅広く、私はそのなかでもロコモーションン(身体移動運動)に関係する機能形態学と系統地理学を研究しています。いずれも、フィールド調査が主体です。ここではその一端をご紹介したいと思います。 1.
ロコモーション研究:アフリカは、ガボン東部ムカラバ・モンドゥドゥ鳥獣保護区で、6種のサル類(グエノン・マンガベイ)・ゴリラ・チンパンジーの調査を行いました。この森林は、うっそうとした熱帯雨林、というよりは、少し乾燥した広めのパッチ状の森林で、多種の霊長類が共存しています。遠くでチンパンジーの群れが大声でなきわめき、大樹の板根を叩く音がします。それにはお構いなしに、ホオジロマンガベイが高さ50メートルもあるカボックの樹冠部分で、細い枝にシリダコを載せて坐り、果実を食べあさっています。と、近くの木にいたオオハナジログエノンが、ヒラリと大跳躍して、茂みに逃げ込みます。 2.
系統地理学研究:もうひとつの現在進行中フィールド研究は、東南アジア、特にインドシナ半島のマカク属の系統地理学研究です。ニホンザルを含むマカク属は、調査地のインドシナ半島には5種が生息しています。マカク属の進化史は、ひじょうにラフにしか解明されていません。化石がとても少ないのです。インドシナ半島は、マカク進化の中心地のひとつで、ニホンザルに近縁なアカゲザルやカニクイザルが分布しています。これらは、過去何万年、何十万年という長い年月の中で、氷河期・間氷期交替による気候変動の影響を受けて、集団が拡大分散と地方での隔離などを経るうちに、種特徴を形成していったのでしょう。この2種は近縁で、生活パターンが似ているため、北緯15-20°の境界帯の北をアカゲザルが、南をカニクイザルが占めています。しかし、実際にこの2種の分布がどうなっているのか、詳しい調査は行われていません。もちろん地方個体群の生物学的特徴についても良くわかっていません。 化石と動物骨の発掘調査:系統発生分野による野外調査 系統発生分野では、ヒトを含む霊長類がどのように形を変え、どのような系列で進化してきたのかを探ることをテーマとして系統学的な研究をおこなっている。また、ヒトの文化史において重要な革新のひとつであった「他の動物を飼う」(家畜化)ことの起源について研究をおこなっている。研究対象は、霊長類の進化プロセスが始まった新生代初頭(約6500万年前)の化石から現生哺乳類骨格まで、時代的に幅広い。研究資料となる化石や動物骨を得るために、系統発生分野では東南アジア、西アジア、南米など世界各地で野外調査をおこなっている。南米における調査は現在治安悪化のため休止しているが、以下の野外調査が行われている。 ミャンマーにおける化石霊長類調査および考古学調査 家畜化と家畜の伝播に関する調査 スンダランド地域(マレー半島、スマトラ、ボルネオ、ジャワ)の霊長類の分布調査 サル類の疾病と実験動物学 我国では、実験用動物として、サル類とくにカニクイザルが古くから主としてポリオや麻疹(はしか)などのワクチンの開発や検定に用いられてきた。近年では、毎年4~5000頭のサルが他のアジア諸国から輸入され、新薬の開発や安全性試験、循環器系や脳神経生理の研究などさまざまな分野の実験・研究に使われている。 動物のもつ生物学的特性を利用し、またヒトの病気に似た動物の病気を見つけあるいは作り出し(疾患・病態モデル)、実験に用いることが実験動物の開発・改良(実験動物化)の目的であり、よく知られる実験動物、マウスやラットでは高血圧や糖尿病といった特定の疾患特性をもった系統が作出されている。一方サル類ではそのような、遺伝的に純化された"系統"が確立されているわけではなく、いわば野生動物である個体がそのまま医学実験に使用されることも多く、実験者や動物の病原体感染が問題になることも少なくない。 ヒトとサル類の疾病を比較研究することは、ヒトの病気の疾患モデル開発のみならず、サル類の健康管理や病原体のコントロールにとって不可欠な分野である。また、疾病の側面から霊長類の多様性を探り、病原体との共進化についての研究も少しずつ試み始められている。ここでは、実験動物としてのサル類の現状、疾患・病態モデルの例や、飼育下や野生集団における疾病や感染症の研究について紹介する
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