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京都大学霊長類研究所 > 年報のページ > Vol.47 目次

 

. 大型プロジェクト


1. 研究拠点形成事業:アジア・アフリカ学術基盤形成型

「類人猿地域個体群の遺伝学・感染症学的絶滅リスクの評価に関する研究」

古市剛史(社会進化分野)、橋本千絵(生態保全分野)、林美里(思考言語分野)

2016年11月28日から12月10日に、アフリカの自然保護をリードする国際NGOであるAfrican Wildlife Foundationと協力して、2015年に設立したAfrican Primatological Consortiumに参加する若手研究者16名と講師4名を京都大学霊長類研究所に招聘し、霊長類の研究と保護に必要な観察法、分析法、サイバートラッカーを用いた記録法、GISを用いたデータ分析法等についてのトレーニングを行った。またこのワークショップの最後には、各参加者に自分の取り組んでいる研究・保護プロジェクトの紹介し、ワークショップで学んだテクニックを生かしたプロジェクトの発展方法についての計画を発表してもらった。このワークショップを通じて、アフリカおよび日本の若手研究者間の連携が前進し、また、彼らの研究者としての自立意識も大いに高まった。

このワークショップの間に、京都大学アフリカ地域研究資料センターと協力して、アフリカからの参加者の研究発表を主体としたシンポジウムを開催した。これには多くの日本人研究者や日本学術振興会の理事にも参与していただき、我々が取り組んできた活動について知ってもらうことができた。また、この事業の活動と京都大学のさまざまな組織で進められてきたアフリカに関する研究活動を連携させて京都大学アフリカ研究ユニットを立ち上げ、2017年3月11日に京都大学でキックオフシンポジウムを開催した。

学術面では、類人猿の糞から病原ウイルスの免疫抗体を抽出する方法に関する論文を、国際学術誌に発表した。また、このテクニックを用いて類人猿の各地域集団で、どのような呼吸器疾患系の病気がどの程度広がっているかの比較を行い、現在その成果の投稿準備を進めている。また、同じく糞から抽出されたDNAを全ゲノム解析にかけ、各地域個体群の存続にかかわる遺伝的多様性を評価する研究も進めている。

(文責:古市剛史)


2. 特別経費事業「人間の進化」

本事業は、人間の進化を明らかにする目的で、世界初となるヒト科3種(人間・チンパンジー・ボノボ)の心の比較を焦点とした霊長類研究を総合的に推進し、人間の「心の健康」を支えている進化的基盤を解明するものである。ヒト科3種の比較認知実験としては、全米動物園連盟の協力のもと、北米から平成25年度にボノボ4個体を輸入したのに引き続き、平成28年度にも2個体を新たに導入して合計6個体になり、これらを使ってチンパンジーとの比較硏究を続けている。この事業に伴って、霊長類研究所のチンパンジー研究施設と熊本サンクチュアリのチンパンジー・ボノボ研究施設を整備して、認知科学研究を実施した。これと平行して野外の個体群を対象にして、チンパンジー(ギニア共和国、ウガンダ共和国)とボノボ(コンゴ民主共和国)の長期研究を継続している。ヒト科3種を補完するものとして、アジアの霊長類研究を継続実施して、オランウータンやテナガザルなどの霊長類希少種の研究と保全の国際連携体制を構築した。こうした事業に、教員(2名)、外国人研究員(2名)、外国に常駐する研究員(2名)、外国語に堪能な職員(2名)を配置して、英語による研究教育を充実させた。こうした研究の基盤を支える硏究資源として、霊長類研究所が保有する12種約1200個体の飼育下サル類の健康管理に万全を期する飼育・管理体制を確立している。熊本サンクチュアリでは、世界で2例目のダウン症の染色体異常、飼育チンパンジーの石器利用と初期人類の石器使用痕との対比などの論文を公表した。とくにScience誌に発表した、類人猿が他者の思考を推し量る「心の理解」についての論文は、2016年のScience誌に掲載された論文のベスト10に選ばれた。野生ボノボの調査に関しては、観察している群れの全個体からDNAを採取して、群れ内で生まれた個体の父子判定をおこった結果、大部分が群れの最上位のオスの子どもであることが判明した。

(文責:湯本貴和)

3. 特別経費事業「新興ウイルス」

特別経費(プロジェクト分)事業名「新興ウイルス感染症の起源と機序を探る国際共同先端研究拠点」、は京都大学ウイルス・再生医科学研究所との連携事業として組織したものである。霊長類研究所の事業代表者:平井啓久、分担者:高田昌彦、岡本宗裕、明里宏文、中村克樹。事業実施期間:平成25年4月1日から平成30年3月31日まで(5年間)。本事業は両研究所の教員が参加する「協働型ウイルス感染症ユニット」で新興ウイルス感染症に関する複数の研究プロジェクトを行っている。平成28年度の研究概要は以下の通りである。

1.HTLV-1感染の霊長類モデルに関する研究(明里):これまでの本事業での研究において、ヒトの成人T細胞白血病の原因ウイルスであるHTLV-1に近縁のSTLV-1が感染したニホンザルが、HTLV-1慢性感染機構やその病態解明に有用な動物モデルであることを報告した。また、HTLVのがん化に関わるHBZ蛋白に対するワクチンを開発し、サルモデルによりその有効性実証に成功した。今年度は以下のような研究成果が得られた。1)HTLV-1治療薬であるモガリスマブをSTLV-1感染サルに投与したところ、CCR4を発現するSTLV-1感染細胞が長期にわたり抑制されることを見出した。この現象は、モガリスマブによるTregの減少のみならず、抗体依存性細胞傷害による感染細胞の破壊が生じることが原因であった。本成果は、モガリスマブが成人T細胞白血病に対して二面的作用機序による治療効果を示す重要な知見と考えられた (Sci Rep 6:27150, 2016)。2)霊長研で飼育繁殖しているニホンザル(N=301)を調査したところ、60%以上のサル個体がSTLV-1に感染していることが確認された。このような高い陽性率を示す原因として、ニホンザル個体内でのウイルス量が顕著に高いため個体間伝播しやすいといった可能性が挙げられるが、詳細は不明である。そこで、STLV-1感染個体におけるその抗体価やプロウイルスDNA陽性細胞率に関する詳細な定量解析を行った結果、抗体価およびプロウイルスDNA陽性細胞率ともにHTLV-1キャリアにおける場合とほぼ同程度の頻度分布を示した。また、各集団の地理的背景はこの高い陽性率に影響しなかった。以上の結果よりSTLV-1高感染率の原因は、ウイルスもしくは特定の個体群の特殊性ではなく、ニホンザルの社会生態に基づく個体間感染機会の多さによるものと推察された。これらの知見を踏まえ、現在HTLV-1感染阻止で注目される母子感染の霊長類モデルとして、STLV-1母子感染の解析を進めている。

2.血小板減少症に関する研究(岡本):平成27年度にウイルス研で実施したニホンザルへのSRV5投与実験により、血小板減少症が再現できた(平成28年、獣医学会大会)。平成28年度は、それらのサンプルについて、免疫染色によるウイルスの局在を含めた病理学的検査を実施している。また、SRVの抗体検査に関しては、市販のキットによるELISAとウェスタンブロットを行ってきたが、ELISAキットのロット間でのバラツキが大きく、非特異的反応により判定が困難な場合もしばしば認められた。そこで、合成ペプチドを用いて抗原エピトープを特定し、より高感度で特異性の高い抗体検査法の開発を進めている。

3.アカゲザルを用いたエイズモデルによるワクチン開発研究(ウイルス・再生医科学研究所:三浦)

これまでに、エイズの原因ウイルスであるヒト免疫不全ウイルス1型(HIV-1)の感染モデルとしてサル免疫不全ウイルス(SIV)や、それらの組換えウイルスであるサル/ヒト免疫不全ウイルス(SHIV)のアカゲザルへの感染動態と免疫応答について長年研究を行ってきた。一方、SIV遺伝子を発現するBCGベクターとワクシニアウイルスベクターを組み合わせて免疫することにより、SIVの感染防御効果が得られることを示唆する予備的結果を得ている。今年度は、本事業にて霊長研より供与を受けたアカゲザルについて、免疫遺伝学的バックグラウンドの解析結果に基づきワクチン候補の感染防御効果を評価する実験群を選定し(ワクチン群3頭、対照群3頭)、ワクチン接種実験を開始した。これまでにワクチン群で、順調にSIVに対する免疫応答が誘導されていることを確認した。この誘導された免疫応答のSIV攻撃接種に対する防御効果を次年度に評価する予定である。また、新規に開発した攻撃接種用SHIVとして、臨床分離株と同等レベルの中和抵抗性を有するCCR5親和性SHIVの感染実験のために6頭のアカゲザルを同様に選定し、攻撃接種前の基礎データを取得した。中和抗体誘導型ワクチンを評価するための攻撃接種用ウイルスとしての適性を確認するため、次年度にアカゲザル感染実験を行う予定である。

以上のように、サル類を用いたモデル動物研究は、難治性ウイルス感染症の病態や治療法開発に資する幾多の優れた知見を提供している。来年度は更に上述の成果を発展させるべく、両研究所の連携研究を推進していきたい

(文責:明里宏文)


4. 霊長類学・ワイルドライフサイエンス・リーディング大学院 (PWS)

プログラム・コーディネーター:松沢哲郎(高等研究院・特別教授)

平成25年10月1日に採択され発足した当プログラムは、日本の他の大学に類例のない、フィールドワークを基礎とするプログラムである。学内の研究者に加えて、環境省職員、外交官、地域行政、法曹、国際NGO、博物館関係者などからなるプログラム分担者をそろえ、3つのキャリアパスを明確に意識した体制を構築した。

採択当初からL3編入制度を導入していることにより、平成28年度は履修生受入3年目にして5学年29名の履修生がそろい、4名の修了生を輩出した。欧米などからの履修生は12名(41%)にのぼり、申請当初の目標を達成した。平成28年度のプログラムの進捗状況を以下の項目ごとに詳述する。


  1. プログラムの実施・運営:

必修の8実習「インターラボ」「幸島実習」「屋久島実習」「ゲノム実習」「比較認知科学実習/動物福祉実習」「笹ヶ峰実習」「動物園・博物館実習」「自主フィールドワーク実習」のカリキュラムを実施した。また座学として、英語が公用語の「アシュラ・セミナー」を12回、公用語を定めない「ブッダ・セミナー」を5回実施した。これらの実習・セミナーは、基本的な公用語は英語である。特に実習は年に2回ずつ実施することで、履修生の所属研究科講義の受講や自主的なフィールドワークの妨げとならないよう配慮した。また、実習実施拠点の整備とその維持にも力を注いだ。具体的には、チンパンジーとボノボを擁する熊本サンクチュアリ、幸島の野生ニホンザル施設、屋久島の野生のサルとシカの調査施設、公益財団法人日本モンキーセンターなどである。国外では、アフリカ、中南米、インド・東南アジアという3つの熱帯林を中心とした野生動物のホットスポットが挙げられる。履修生は、L1からすぐに、これらの海外拠点で2~6ヵ月の中長期にわたって自主企画のフィールドワークをおこなった。

●インターラボ:京都市動物園・生態学研究センター・原子炉実験所・瀬戸臨海実験所・霊長類研究所・日本モンキーセンターを回り、生物科学専攻における広範囲な研究領域の概略を学ぶ。

●幸島実習:日本の霊長類学の発祥の地である宮崎県幸島において、天然記念物である幸島の野生ニホンザルを観察して、糞の採集から食物となった植物を同定するなど、各自が工夫したテーマで研究をおこない、野外研究の基礎を学ぶ。

●屋久島実習:世界遺産の島・屋久島で、海外の学生との研究交流も兼ねて、タンザニア、インド、マレーシア、ブラジルの大学院生とともに英語を公用語としたフィールドワークをおこなう。採取した試料は、続いて行われるゲノム実習で使用する。

●ゲノム実習:屋久島で採取した試料を使って、様々な実験と解析をおこなう(初心者コース/次世代シーケンサーを駆使した高度なコース)。屋久島実習に引き続き参加する海外の大学院生を交えて、実習は英語を公用語として進められる。フィールドでのサンプリングと、それに続くゲノム分析を通して経験することで、フィールドワークもラボワークもおこなえる研究者を養成する。得られた成果をもとに、最終日に国際シンポジウムでポスター発表(英語)を実施する。

●比較認知科学実習:霊長類研究所で、チンパンジーの認知機能の実験研究の現場に参加して、チンパンジーという「進化の隣人」を深く知るとともに、そうした日々の体験を通して「研究」という営為を理解する。研究する側の日常と、研究される側の日常の姿を見せたい。またこれに加えて、霊長類とは異なる環境に適応してきた有蹄類であるウマについても、その行動観察などの実習をおこなう。

●動物福祉実習:野生動物研究センター・熊本サンクチュアリにて、飼育下の動物の動物福祉について、講義と実習によって学ぶ。 動物福祉の向上を図る実践的取組としての環境エンリッチメント、採食エンリッチメント、認知的エンリッチメント、およびこれらの実践と評価するために必要な行動観察や比較認知科学研究の手法について、実習によって習得する。

●動物園・博物館実習:日本モンキーセンターにおいて、PWS教員・キュレーター・飼育技術員・獣医師を講師としたレクチャーを受け、現場で飼育実習を行い、教育普及活動にも参加する。PWSの3つの出口のうちのひとつである「博士学芸員」の仕事について学ぶとともに、霊長類及びワイルドライフサイエンスの環境教育の実践に触れる。

●笹ヶ峰実習(無雪期・積雪期):京都大学笹ヶ峰ヒュッテ(新潟県妙高市:標高1300mの高原)において、生物観察や火打山(標高2462m)登山や夜間のビバーク体験(戸外での緊急露営)を通して、フィールドワークの基礎となるサバイバル技術を学ぶ。

●自主フィールドワーク実習:自主企画の海外研修を行うことで、履修生の自発的なプランニング能力の向上を図り、出口となる保全の専門家やキュレーター、アウトリーチ活動の実践者の育成につなげる。


  1. 連携体制の維持・強化:

履修生を広く深く支援する教育研究体制を構築した。プログラムの意思決定は、学内分担者の全員からなる月例の協議員会で、その中枢としてヘッドクオーター(HQ)制度をとった。コーディネーターを含む8名のHQがいて、諸事の運営を審議する。特定教員7名をはじめ、語学に堪能な事務職員を各拠点に配置し、協力して履修生をサポートした。プログラムの方針・運営状況・カリキュラム・成果・履修生の動向などについて、対内外の情報・広報は、すべて一元的にHP(http://www.wildlife-science.org/)に集約して共有した。年2回開催(平成28年度は9月12-15日と3月2-4日)のThe International Symposium on Primatology and Wildlife Scienceで、履修生や外国人協力者(IC)も含めた100名超のプログラム関係者が一堂に会することで、プログラムの方向性や進捗状況を確認し、連携強化を図った。なお、9月実施シンポジウムは平成28年度秋入学履修生の、3月実施シンポジウムは平成29年度春入学の履修生の入試をそれぞれ兼ねており、平成26・27年度を上回る数の応募者があった。加えて、日本学術会議・基礎生物学委員会・統合生物学委員会合同ワイルドライフサイエンス分科会にてプログラムコーディネーターが委員長を務めることで、長期的かつ学際的な評価・支援基盤を固めた。さらにプログラムの「実践の場」として、16の動物園・水族館・博物館と連携協定を結んでいるが、特に公益財団法人日本モンキーセンター(以下JMC)や京都市動物園では、履修生によるアウトリーチ活動も活発化している。特に、JMC発行の季刊誌「モンキー」の刊行については、本プログラムが全面的に協力し、プログラムの活動PRの媒体となっている。国内ワイルドライフサイエンスとの連携も継続しており、特に屋久島は毎年2回実習で訪れるなかで「屋久島学ソサエティ(http://yakushimagakusociety.hateblo.jp/)」を中核とした地域住民との協働が緊密である。また履修生が継続的に調査をおこなっている御蔵島では、島内新聞でイルカの生態に関する情報をリアルタイムで発信するなど、地元の観光協会や東京都環境局との人的交流を履修生が主体となって築き上げている。


  1. キャリアパスを見据えた履修生の自主性の涵養と支援:

必修の「自主フィールドワーク実習」では、履修生が自主企画の海外研修をおこなうことで、自発的なプランニング能力の向上を図り、出口となる保全の専門家やキュレーターや、アウトリーチ活動の実践者の育成につなげている。個人的なフィールドワークに限らず、大学院生のイニシアチブによる自主企画の取組も奨励し、運営能力・実践能力の涵養を図った。具体的には、「Conserv’Session 環境保全映画の上映会と講演会(月次開催)」や「羅臼実習(6月29日-7月4日)」「丸の内キッズジャンボリー出展(8月16-18日)」等である。さらに、プログラム担当者の堀江正彦(前駐マレーシア大使・地球環境問題担当大使)らの協力を得て、IUCN(International Union for Conservation of Nature:国際自然保護連合)インターン、UNESCO-MAB(ユネスコ人間と生物圏計画)インターン、環境省インターンを実施した。環境省や日本科学未来館との交流人事を実施し、JICA出身者も雇用して、ロールモデルとなる若手教職員が履修生の指導にあたった。


  1. 優秀な履修生の継続的な獲得と支援:

L3編入制度、春秋の国際入試をおこない、秋入学者へのカリキュラム対応を整備して、優秀な留学生を獲得した。国際学会にブースを出して、国際的な広報活動を実施した。HPの内容を充実させて、HPを見ればプログラムのすべてがわかるようにした。学部生や高校生を対象としたプログラム担当者による実習を継続し、優秀な自大学出身者の獲得に努めた。熟慮のうえで奨励金の給付はおこなっていないが、その代わりに、「いつでも・どこでも・なんでも」を合言葉として、履修生のフィールドワーク旅費(航空券代や日当宿泊費)を全面的に支援した。

なお、平成28年度は「博士課程教育リーディングプログラム」中間評価が実施された。当プログラムは、S・A・B・C・Dの5段階評価で最高のS評価だった。中間評価結果の詳細は下記URLに記載の通りである。

(https://www.jsps.go.jp/j-hakasekatei/data/followup/h25/F/U04.pdf)

(文責:湯本貴和)


5. 日本学術振興会研究拠点形成事業A.先端拠点形成型「心の起源を探る比較認知科学研究の国際連携拠点形成(略称CCSN)」

事業名「心の起源を探る比較認知科学研究の国際連携拠点形成」。略称「CCSN」。日本側の拠点機関は京都大学霊長類研究所、日本側コーディネーターは高等研究院(霊長類研究所兼任)の松沢哲郎で、ドイツ(マックスプランク進化人類学研究所)・イギリス(セントアンドリュース大学)・アメリカ(カリフォルニア工科大学)の3国が相手国となっている。本研究交流計画は、①人間にとって最も近縁なパン属2種(チンパンジーとボノボ)を主な研究対象に、②野外研究と実験研究を組み合わせ、③日独米英の先進4か国の国際連携拠点を構築することで、人間の認知機能の特徴を明らかにすることを目的としている。事業期間は平成26年度から平成30年度の5年間である。国際的な共同研究、セミナー開催、研究者交流をおこなうことで、各国のもつ研究資源を活かして比較認知科学研究の国際連携拠点を形成する。3年度目となる平成28年度には、国際連携研究の体制強化とともに、実際に国内外での国際共同研究を推進した。具体的な特記事項として、4月に別途経費で招へいした米国側コーディネーターでカリフォルニア工科大学のラルフ・アドルファス教授の講演会を、京都大学高等研究院で開催した。7月に横浜で開催された国際心理学会に、著名な比較認知科学の研究者らを招へいしてセミナーの開催と相互交流をおこなった。8月には米国・シカゴで国際霊長類学会が開催され、比較認知科学研究の成果を発表するセミナーをおこなった。3月には、日本側コーディネーターの松沢特別教授が英国に渡航し、スコットランド霊長類学会30周年記念大会で講演し、セントアンドリュース大学、エディンバラ大学、スターリング大学で講演および研究打ち合わせをおこなった。また、英国のセントアンドリュース大学とオックスフォード大学と連携して、ギニア・ボッソウの野外実験場における野生チンパンジーの長期行動記録映像をデジタルアーカイブ化する作業を開始した。平成28年度には本経費で、国内交流も含めてのべ40名が536日間の交流をおこなった。

(文責:林美里、松沢哲郎)


6. 科学技術試験研究委託事業:革新的技術による脳機能ネットワークの全容解明プロジェクト(Brain/MINDS)

霊長類研究所は情報学研究科と協力して、「マーモセットの高次脳機能マップの作成とその基盤となる神経回路の解明及び参画研究者に対する支援」という課題名で、中核拠点の参画機関として研究を推進する(参画機関業務主任:中村克樹、分担研究者:高田昌彦、石井信、大羽成征)。本事業は、平成26年度より文部科学省が始めたもので、霊長類(マーモセット)の高次脳機能を担う神経回路の全容をニューロンレベルで解明することにより、ヒトの精神・神経疾患の克服や情報処理技術の高度化に貢献することを目的としたものである。平成26年度に採択され、12月より研究活動をスタートした。平成27年度より日本医療研究開発機構(AMED)の管轄となった。平成28年度も引き続き、多シナプス性神経回路の解析・疾患モデルマーモセットの作出・認知課題等の開発などを推進した。また、福島県立医科大学・北海道大学・東京医科歯科大学・東京大学・理化学研究所などとの共同研究も推進した。

(文責:中村克樹)