1. 概要
平成27年度の共同利用研究の研究課題は以下の4つのカテゴリーで実施されている。
A 計画研究
B 一般個人研究
C 一般グループ研究
D 随時募集研究
共同利用研究は、昭和57年度に「計画研究」と「自由研究」の2つの研究課題で実施され、昭和62年度からは「資料提供」(平成14年度から「施設利用」と名称を変更、さらに平成20年度から「随時募集研究」と名称を変更)を、平成6年度からは「所外供給」(平成14年度から「所外貸与」と名称を変更し、平成15年度で終了)が実施された。さらに平成23年度からは「自由研究」を「一般個人研究」と「一般グループ研究」に区分して実施されている。それぞれの研究課題の概略は以下のとおりである。
「計画研究」は、本研究所推進者の企画に基づいて共同利用研究者を公募するもので、個々の「計画研究」は2~3年の期間内に終了し、成果をまとめ、公表を行う。
「一般個人研究」および「一般グループ研究」は、「計画研究」に該当しないプロジェクトで、応募者(研究所外の複数の研究室からの共同提案によるものは一般グループ研究)の自由な着想と計画に基づき、所内対応者の協力を得て共同研究を実施する。
「随時募集研究」は、資料(体液、臓器、筋肉、毛皮、歯牙・骨格、排泄物等)を提供して行われる共同研究である。
なお、平成22年度から、霊長類研究所は従来の全国共同利用の附置研究所から「共同利用・共同研究拠点」となり、これに伴い、共同利用・共同研究も拠点事業として進められることとなった。
平成27年度の計画課題、応募並びに採択状況は以下のとおりである。
(1) 計画課題
1.霊長類脳科学の新しい展開とゲノム科学との融合
実施予定年度 平成25年度~27年度
課題推進者:高田昌彦、中村克樹、大石高生、宮地重弘、平井啓久、今井啓雄
ヒトに近縁の霊長類を用いた脳科学研究は高次脳機能や精神・神経疾患病態の解明に極めて有用である。本計画研究では、特に脳科学とゲノム科学との融合を目指して、革新的サルモデルや先端的研究手法による次世代の研究を展開する。
2.アジア産霊長類の進化と保全に関する国際共同研究
実施予定年度 平成26年度~28年度
課題推進者:川本芳、マイケル・ハフマン、半谷吾郎、辻大和、アンドリュー・マッキントッシュ、田中洋之
生態学・行動学・集団遺伝学・寄生虫学の視点から、アジア産霊長類の進化ならびに保全に関わる研究を推進する。
原則的に海外研究者を含む研究課題を採択し、国際共同研究を活性化させることも目的とする。
3. 頭骨及び歯の形態に関する多面的研究
実施予定年度 平成27年~29年度
課題推進者:高井正成、西村剛、江木直子、平崎鋭矢、毛利俊雄
霊長類を中心をした動物の頭骨・顎・歯牙の形態やその機能に関して、外表携帯の幾何形態学的解析やCTを用いた内部構造解析、運動学的解析、数値シミュレーション分析などどいった様々な手法を用いた研究を推進する。
4.
霊長類のこころ・からだ・くらしにおける発達と加齢に関する総合的研究
実施予定年度平成27年度~29年度
課題推進者:友永雅己、濱田穣、宮部貴子、林美里、足立幾磨
チンパンジー、テナガザルなどの類人猿やニホンザルなどの真猿類を主たる対象として、胎生期から老年期までの各年齢段階におけるこころ・からだ・くらしの変化とその相互作用について総合的に研究を進める。比較認知科学、行動学、形態学、生理学・獣医学など多様な研究手法のもと、実験室や放飼場などでの認知実験や社会行動の観察、身体機能の発達的変化、加齢にともなう健康管理など、多様なトピックを総合的に推進する。
(2) 応募並びに採択状況
平成27年度はこれらの研究課題について、165件(417名)の応募があり、共同利用実行委員会(古市剛史、平崎鋭矢、中村克樹、今村公紀)において採択原案を作成し、共同利用専門委員会(平成27年2月23日)の審議・決定を経て、拠点運営協議会(平成27年3月16日)で了承された。
その結果、145件(371名)が採択された。
各課題についての応募・採択状況は以下のとおりである。
課題 |
応募 |
採択 |
計画研究 |
39件 |
(113名) |
32件 |
(89名) |
一般個人研究 |
94件 |
( 208名) |
82件 |
(187名) |
一般グループ研究 |
5件 |
( 26名) |
5件 |
( 26名) |
随時募集研究 |
27件 |
(70名) |
26件 |
(69名) |
合 計 |
165件 |
(417名) |
145件 |
(371名) |
2. 研究成果
(1) 計画研究
A-1第四紀ニホンザル化石の標本記載と形態分析
西岡佑一郎(大阪大・総合学術博物館) 所内対応者:高井正成
ニホンザルが第四紀の後期更新世から現在にかけて歯や骨の形態が変化したか明らかにするためには、化石標本個々の形態記載および現生種との比較が必要となる。霊長類研究所には、栃木県葛生産標本(顎歯5点)、岐阜県熊石洞産標本(頭骨2点、顎歯7点、体肢骨3点)、静岡県岩水寺産標本(顎歯2点)、静岡県白岩鉱山産標本(顎歯1点)、静岡県谷下採石場産標本(顎歯4点)、山口県秋吉台産標本(頭骨18点、顎歯37点、体肢骨214点)、高知県野田の竪穴産標本(頭骨1点)、高知県権現の穴産標本(顎歯1点)の合計295点の化石が所蔵されていることが判明した。また、その他の未報告資料として、滋賀県権現谷の蝶穴産標本(顎歯8点、体肢骨18点)、高知県猿田洞産標本(顎歯1点、体肢骨8点)、高知県穴岩の穴産標本(顎歯1点)を加え、標本の同定結果と産地・年代情報を整理してデータベース化した。標本の中には、現生ニホンザルよりもやや大型の個体や小型の個体が含まれている。今後、過去と現在のニホンザル間で形態差を定量的に比較し、個体変異、地域的な変異、年代的な変化を解析していく。
A-2ウイルスベクターを利用した霊長類脳への遺伝子導入と神経回路操作技術の開発
小林和人, 管原正晃, 伊原寛一郎(福島医大・医), 渡辺雅彦,
内ケ島基政, 今野幸太郎(北大・院・医学)
所内対応者:高田昌彦
霊長類の高次脳機能の基盤となる脳内メカニズムの解明とゲノム科学との融合のために、複雑な神経回路における情報処理とその調節の機構の理解が必要である。我々は、これまでに、高田教授の研究グループと共同し、マカクザル脳内のニューロンに高頻度な逆行性遺伝子導入を示すウイルスベクター
(HiRet/NeuRetベクター)を開発するとともに、これらのベクターを用いて特定の神経路を切除する遺伝子操作技術を開発した。今回、コモンマーモセットを用いた脳構造と機能のマップ作製の研究を推進するために、HiRet/
NeuRetベクター技術を応用して経路選択的な神経機能の操作を行うとともに、その基盤となる神経回路構造の解析に取り組む。第一に、マーモセット脳内で効率的な神経機能の操作を目指して、導入遺伝子を効率的に逆行性導入するためのウィルスベクターを選択することを目指した。京都大学霊長類研究所の高田先生および中村先生のグループと共同し、FuG-B2を利用したHiRetベクターとFuG-Eを利用したNeuRetベクター(導入遺伝子としてGFPあるいはRFPを搭載)をマーモセットの脳内(線条体あるいは大脳皮質)に注入し、いくつかの入力経路(皮質線条体路、視床線条体路、黒質線条体路、皮質皮質路、視床皮質路)への逆行性遺伝子導入の効率を比較した。ベクター注入の4週間後に、GFPあるいはRFPに対する抗体を用いた免疫組織化学的手法により発現パターンの解析を行った。線条体へ注入した場合、FuG-Eを利用したNeuRetベクターの場合、FuG-B2を利用したHiRetベクターよりも、皮質線条体路、視床線条体路、黒質線条体路のいずれの投射路においても高い逆行性の遺伝子導入効率を示した。皮質に注入した場合には、FuG-
Eベクターは皮質皮質路においてFuG-B2ベクターと同程度の導入効率を示したが、視床皮質路へはより高い導入効率を示すことが示された。これらの観察から、FuG-Eを利用したNeuRetベクターはより高い遺伝子導入効率を持つことが示された。また、FuG-Eベクターは、FuG-B2ベクターよりも数倍高い力価が得られるとともに、注入部位のグリア細胞への遺伝子導入が抑制されているため、組織損傷を軽減できるメリットがあることも確認できた。
A-3野生と飼育下のサル類における顎骨形態に関する研究
深瀬均(北大・医) 所内対応者:西村剛
本研究では、試料として、島根県・鳥取県・京都府・滋賀県・福井県の集団由来の成体のニホンザル(オス30体、メス26体)の下顎骨格標本を用いた。これらの試料を野生グループ・飼育導入世代グループ・飼育下3-4世代後グループの3グループに分け(各グループ、雄雌約10体ずつ)、「野生グループは飼育下のグループよりも下顎骨形態は頑丈である」という単純化した作業仮説を検証した。下顎骨計測器およびデジタルノギスを用いた各種外部形態計測の比較結果として、雌雄ともにグループ間に一貫した頑丈性に関わる形態差のパターンは見られなかった。さらに、マイクロCTスキャナとCT画像解析ソフトを用いて、下顎骨正中断面形状における骨質面積や断面二次モーメントなどの断面特性値を算出した。比較結果として、雄雌ともにグループ間での有意差は多くの項目において検出されなかった。サンプル数が限られており結論的ではないものの、本研究の予備的な結果は、霊長類研究所の所蔵標本に限った場合、野生と飼育下の顎骨形態には大きな差はみられないことを示唆するものである。また、種間比較を行う際に、野生・飼育下の標本をプールして使用することで結果に大きな影響は与えないことも示唆する。
A-4 MtDNA phylogeography of slow lorises in Vietnam: Conservation and
reintroduction program
Hao Luong Van (Center for Rescue and Conservative Organisms, Vietnam) 所内対応者:田中洋之
The slow loris, including two species (Nycticebs bengalensis and N. pygmaeus)
of Vietnam, is the vulnerable species in the IUCN Red List. In Vietnam, they are
being overhunted for illegal pet trade, use for meat and materials of illegal
traditional medicine. Center for Rescue and Conservative Organisms (CRCO)
protects diverse organisms from the illegal trade, including the slow loris, and
carry out the reintroduction of them to the wild. Although it is to be desired
that such animals would be reintroduced into their original habitat, we don't
have the method to get information about it. In order to establish a system that
can make clear the original habitat of the protected animals using DNA
information, in this study we analyze the mtDNA sequence of the slow loris from
known origin of habitat.
I examined 9 N. bengalensis and 5 N. pygmaeus, which included individuals
without information of origin. DNA was extracted from hair samples. Firstly, I
sequenced the cytochrome oxidase subunit 1 (COX1) gene of mtDNA and carried out
the phylogenetic analysis together with dataset of Somura et al. (2012) to
genetically check the species for my morphologically identified specimens. Next,
I determined the 1.8 kb region including the whole length of cytochrome b gene
and a partial sequence of D-loop, as a marker for analysis of original habitat
of the slow loris. To avoid mis-amplifying mitochondria-like sequences
integrated in the nuclear genome, I performed the 2 step PCR, consisting of the
long accurate (LA-) PCR that amplify the region spanning 9 kb of mtDNA and the
second PCR using the LA-PCR product as template to amplify the target region,
and then, carried out DNA sequencing.
I could sequence the 1.8 kb region for all the samples examined. In N.
bengalensis, 6-8 base substitutions were detected among 7 individuals from the
northwestern region of Vietnam and 4 substitutions were found between 2
individuals from Soc Son Rescue Center, Hanoi (their origins were not known).
There were 24-28 substitutions between the sample groups of the northwestern
region and Soc Son Rescue Center. These results show that the 1.8 kb region is
possible to be a good marker to analyze the origin of locality of N.
bengalensis. Further study is necessary to accumulate the sequence data from the
samples collected widely from their range in Indochina. As to N. pygmaeus, more
samples should be examined. On the other hand, the utility of COX1 as a marker
of species identification would be suspected because the COX1 phylogenetic tree
did not clearly separate N. caucong from our N. bengalensis samples.
A-5 Phylogenetic and population genetic studies for conservation of nonhuman
primates in Myanmar
Aye Mi San (Mawlamyine University, Myanmar) 所内対応者:田中洋之
The purpose of the study is to extract phylogeographical information
necessary for conservation of Myanmar's nonhuman primates (NHP) by clarifying
the phylogenetic relationship among the local populations and the phylogenetic
status of Myanmar's NHP within the range of each species. In 2015, the 2nd year
of the planned research "International Cooperative Research on Evolution
and Conservation of Asian Primates", I examined new 4 populations of
Myanmar's endemic subspecies of the long-tailed macaque (Macaca fascicularis
aurea; Mfa), and extended the phylogeographical research to other macaques. The
present study is the first report of DNA analysis for inland populations of Mfa
although the island populations of Mfa from southern Myanmar have already been
examined (Bunlungsup et al. 2015). Firstly, I sequenced approx. 1200 bp of the
whole length of mitochondrial D-loop region for all the individuals from 4
populations of Indian Single Rock Mountain (n=6), Bayin Nyi Cave (n=6), Mt.
Zwekabin (n=1), and Kha Yon Cave (n=5). There was no mtDNA variation within each
population while mtDNA sequences differed among 4 populations. As Bunlungsup et
al. (2015) analyzed the partial sequence of cytochrome b (Cyt b) gene, I
sequenced approx. 1.8 kb region that includes the whole length of Cyt b gene and
hyper variable segment 1 of D-loop for further comparison. Similarly, I
sequenced the 1.8 kb region for 3 individuals of M. leonina and one M. arctoides
from Ye, Mon State and carried out phylogenetic analysis. The 3 sequence data of
leonina obtained here was analyzed with another 7 data of leonina from different
area in Myanmar. The result indicated that Myanmar's M. leonina separated into
at least 3 haplogroups; the first one formed a cluster with the Bangladesh
sample, the second was related to the Thai South haplogroup, and the third was
included in the cluster of Thai North and M. silenus. As to M. arctoides, more
samples should be collected and examined in order to elucidate the
phylogeography of the species in Myanmar.
A-7行動制御に関わる高次脳機能の解明に向けた神経ネットワークの解析
星英司,
石田裕昭(東京都医学総合研究所・前頭葉機能プロジェクト) 所内対応者:高田昌彦
高次運動野が大脳基底核や小脳と形成するネットワークは動作の企画や実行において重要な役割を果たすが、そのメカニズムは依然として不明である。そこで、本研究ではこのネットワークの構造的基盤を明らかとすることを目指して実施された。シナプスを越えて逆行性に伝播する性質がある狂犬病ウイルスをトレーサーとして用いることにより、複数のシナプスをまたいだネットワーク構築を解剖学的に解析することを行った。本年度は、採餌行動において重要な把持動作と摂食動作の企画と実行の過程で中心的な役割を果たす運動前野腹側部(PMv)のネットワークに注目した。PMvに狂犬病ウイルスを微量注入し、ウイルスの伝播を大脳基底核内で解析することにより、PMvへ越シナプス性に投射する大脳基底核細胞の分布を解析した。その結果、大脳基底核の高次運動野領域に加えて、一次運動野領域と辺縁系領域の細胞がPMvへ投射することが明らかとなった。以上の結果は、PMvが把持動作と摂食動作を企画する過程において、辺縁系から対象物の価値に関する情報や行動の動機付けに関する情報を受け取る可能性を示唆した。さらに、運動実行時には動作に関する情報を一次運動野領域から受け取ることを示唆した。
A-8遺伝子発現の生体内可視化と脳機能制御技術の確立
南本敬史, 堀由紀子, 菊池瑛理佳, 平林敏行,
藤本淳(放射線医学総合研究所) 所内対応者:高田昌彦
本研究課題において,独自の技術であるDREADD受容体の生体PETイメージング法と所内対応者である高田らが有する霊長類のウイルスベクター開発技術を組み合わせることで,マカクサルの特定神経回路をターゲットとした化学遺伝学的操作の実現可能性を飛躍的に高めること目指した.H27年度は組織化学的に検証を可能とする目的で,蛍光タグを共発現する複数のDREADD発現ウイルスベクターを開発し,マカクサル脳に注入し発現レベルをPETで確認するとともに,機能性を行動やイメージングを用いて評価することで,最適なDREADD発現ウイルスベクターをスクリーニングできる実験系を確立した.今後,霊長類脳機能を解明するうえで,より汎用性の高いウイルスベクターの開発につなげる.
A-9意欲が運動制御を支える因果律の解明
西村幸男,
鈴木迪諒(生理研・認知行動) 所内対応者:高田昌彦
我々の研究グループは、意欲が身体の運動制御を可能にする神経基盤を明らかとするために、意欲の生成に関与するとされる腹側被蓋野・黒質を電気刺激し、誘発される脳活動、筋活動を記録することを行なってきた。その結果、腹側被蓋野・黒質への電気刺激によって一次運動野の活動、さらには筋活動が誘発されること見出した。この電気生理学的手法により得られた結果は、腹側被蓋野が運動性下行路の興奮性を制御している可能性を示唆している。そこで、腹側被蓋野・黒質が脊髄運動ニューロンを制御する解剖学的神経回路の存在を検証することを本研究の目的とした。腹側被蓋野から脊髄へ直接投射する経路が存在しないことは先行研究などから想定されたため、経シナプス的な投射を検討することにした。2頭のマカクザルの脊髄頸膨大レベルで脊髄前角に逆行性経シナプストレーサーである狂犬病ウイルスを注入した。一定のウイルス生存期間(84-90時間)後に潅流固定し、中脳ドーパミンニューロンが豊富に存在する中脳腹側領域の染色ニューロンの分布を検証した。染色されたニューロンは腹側被蓋野だけでなく、黒質や赤核後部といったドーパミンニューロンが豊富に存在する領域にも同様に確認された。これにより、腹側被蓋野を含む中脳腹側領域が脊髄に対し経シナプスの投射をもっており、筋活動の制御に関与する神経経路の存在を解剖学的に証明することができた。
A-10チンパンジーとヒトにおける大域的な視覚情報処理に関する比較認知研究
伊村知子(新潟国際情報大・情報文化) 所内対応者:友永雅己
チンパンジーとヒトの比較認知研究から、運動や形態の情報を統合して大域的に処理する能力は、ヒトの方が優れている可能性が示唆されてきた。一方、近年の研究から、ヒトの視覚システムは、網膜像の統計的な規則性を利用することで、場面全体の複数の物体の色や形、大きさなどの特徴の「平均」を抽出することが明らかにされてきた。しかしながら、このような大域的な情報を圧縮するメカニズムについての種間比較はおこなわれていない。そこで、
チンパンジー7個体とヒト20名を対象に、複数の物体の大きさの「平均」に関する情報処理の進化的基盤について検討した。実験では,
灰色背景上に1個または12個の白い円から構成されたパタンが左右に2つ、1000ms呈示された。2つのうち、円の平均の大きさが大きい方のパタンを選択すれば正解とした。12個の同じ大きさの円(Homo条件)、12個の異なる大きさの円(Hetero条件)、1個の円(Single条件)から成るパタンの3条件で、正答率を比較した。その結果、ヒト、チンパンジーともに、Single条件よりもHomo条件、Hetero条件の正答率の方が有意に高かった。この結果は、チンパンジーも、複数の物体の平均の大きさを知覚することを示唆するものである。
A-11ゲノムによる霊長類における脳機能の多様性の解明
橋本亮太(大阪大・院・連合小児発達学研究科),安田由華(大阪大・医),
山森英長(大阪大・院・医)
所内対応者: 今井啓雄
精神神経疾患は、その原因や病態が不明であり、病態を解明し創薬のためのモデル系を確立することが求められている。サルにおけるモデル系を創出するために必須な精神疾患研究について以下の成果を得た。
COCOROで収集した統合失調症884例と健常者1680例のMRIT1強調画像データを用いて、大脳皮質下領域構造の体積をFreeSurferを用いて解析してその違いを検討した。統合失調症で、両側の海馬、扁桃体、視床、側坐核、頭蓋内容積の体積減少、および両側の尾状核、被殻、淡蒼球、側脳室の体積増加を認めた。また統合失調症における淡蒼球の体積増加は、左側が右側に比して有意に大きかった。淡蒼球は、強調運動や報酬系に関連する部位と言われており、前頭葉との回路が報告されている。淡蒼球の左側優位の体積増加は、統合失調症における神経回路やコネクティビティの側性の異常を示唆する。
トリオ解析においては、自閉スペクトラム症30症例のエクソーム解析を行い、37遺伝子における新規変異を同定し、そのうち14遺伝子について神経突起伸長に対する影響をNeuro2a細胞にて検討すると、8遺伝子にて異常が見出されたため、自閉スペクトラム症遺伝子は神経突起発達に関与すると考えられた。このようにして見出された遺伝子について、サルに対して遺伝子改変を行うことにより、精神疾患のモデルを構築できるだけでなく、霊長類脳の多様性の解明にも役立つと考えられる。
A-12 Ecological and phylogeographical study on Assamese macaques in Bhutan
Tshewang Norbu (Renewable Natural Resources Research and Development Centre,
Yusipang, Department of Forest and Park Services, Ministry of Agriculture and
Forests, Royal Government of Bhutan) 所内対応者: 川本芳
I have collaborated with Japanese primatologists, including the counterpart of
this cooperative research program, in a government program for mitigation of
agricultural damages and initiated a basic biological study on human-monkey
conflicts in Bhutan. The aim of this cooperative research program was to learn
the field and laboratory techniques that are commonly used in ecological and
phylogeographical studies of the Japanese macaque in order to apply them for the
basic research on the Assamese macaques (Macaca assamensis) in Bhutan. I visited
a few spots of monkey habitats in Japan to learn the electric fencing system for
the damage control. Methods of phylogeny assessment and genetic monitoring of
populations were introduced by the counterpart then we discussed the plan for
future population study of the Assamese macaque in Bhutan. I examined fecal
samples to confirm the protocols of DNA extraction and PCR amplifications for
sexing and mtDNA sequencing. The techniques and methods in fecal DNA analysis
were transferred to Bhutan where animal genetics laboratory was recently
established in a government institution. The taxonomy and evolutionary status of
the Assamese macaque in Bhutan is controversial due to recent revision by
discoveries of related new species in the neighboring countries of India
(Arunachal Pradesh) and China (Tibet). I will continue field observation and
sampling to apply the obtained knowledge to conduct ecological and
phylogeographical study in Bhutan.
A-13脳機能におよぼす腸内細菌叢の影響
福田真嗣, 福田紀子(慶大・先端生命研), 村上慎之介,
石井千晴(慶大・院・政策メディア), 伊藤優太郎(慶大・総合政策),
谷垣龍哉(慶大・環境情報) 所内対応者: 中村克樹
ヒトを含む動物の腸内には、数百種類以上でおよそ100兆個もの腸内細菌が生息しており、宿主腸管と緊密に相互作用することで、宿主の生体応答に様々な影響を及ぼしていることが知られている。近年マウスを用いた研究で、腸内細菌叢が脳の海馬や扁桃体における脳由来神経栄養因子(BDNF)の産生量に大きな変動を与え、その結果マウスの行動にも変化が現れることが報告された(Heijtz,
et al., PNAS, 108:3047, 2011)。これは迷走神経を介した脳腸相関に起因するものであることが示唆されているため、腸内細菌叢の組成が宿主の脳機能、特に情動反応や記憶力に影響することが示唆される。しかしながら、これら情動反応や記憶力と腸内細菌叢との関係を調べるには、マウスなどのげっ歯類では限界があると考えられたことから、本研究では小型霊長類であるコモンマーモセットに着目し、高次脳機能、特に情動反応や記憶力と腸内細菌叢との関係について解析を行うことを目的とした。腸内細菌叢を除去したコモンマーモセットモデルを構築するため、平成27年度は高次脳機能評価を行うための課題訓練を実施した。2頭のコモンマーモセットに図形弁別課題およびその逆転学習課題を訓練した。さらに、記憶機能を検討するため空間位置記憶課題も訓練した。次年度には腸内細菌叢と認知課題の成績との関係を検討する予定である。
A-14大脳―小脳―基底核連関の構築に関する神経解剖学的研究
南部篤, 畑中伸彦, 知見聡美, 金子将也, 佐野裕美,
長谷川拓(生理研o生体システム) 所内対応者:高田昌彦
新世界サルであるマーモセットは、遺伝子改変動物の作製に適しているなど今後の実験動物として期待されている。しかに、その神経解剖学的、神経生理学的知見は十分に蓄積されているとは言い難い。そこで本研究では、マーモセットの大脳皮質運動野を中心とした線維連絡を調べることにした。
マーモセット大脳皮質には脳溝などのランドマークが乏しく、領野の同定には機能マッピングが必須である。マーモセットの頭部を覚醒下で無痛的に固定し、皮質内微小電気刺激(ICMS)、神経活動記録を用いて、大脳皮質運動野を中心として機能マッピングを行った。その結果、以下のように各領野が同定できた。
一次運動野(M1):10μA前後の微弱なICMSで運動を誘発することができる領域が同定され、M1と考えられる。また、内側から外側にかけて下肢、上肢、口腔o顔面領域と明瞭な体部位局在が認められた。
一次体性感覚野:M1の後方にICMSの閾値が高く、また深部感覚に応ずる領域が同定された。これは3a
野に相当するものと思われる。より後方は、皮膚などの体表から入力を受け、ICMSではほとんど運動を誘発できない領域が広がっており、3b野に相当すると考えられる。
運動前野(PM)、補足運動野(SMA):M1の前方は、ICMSの閾値が高い領域が広がっており、体性感覚入力の同定も難しかった。この領域はPMに相当すると考えられる。また、PMの内側にも、後方から下肢、上肢の領域が同定できSMAと考えられる。
大脳皮質間、大脳皮質-脳深部間の線維連絡を調べるために、これらの領域に神経レーサーを注入したので、今後、解析を行う予定である。
A-15認知機能と行動制御における外側手綱核の役割
松本正幸, 川合隆嗣(筑波大・医),
佐藤暢哉(関西学院大・文) 所内対応者:髙田昌彦
外側手綱核と前部帯状皮質は罰に関連した神経シグナルを伝達する脳領域である。本研究ではこれまで、それぞれのシグナルが脳内の学習プロセスに果たす役割を検討するため、マカクザル(ニホンザルとアカゲザル)を用いた電気生理学的研究を実施し、外側手綱核と前部帯状皮質の神経活動を記録・比較する実験をおこなってきた。そして、外側手綱核のニューロンが現在生じている嫌悪刺激を素早く検出しているのに対して、前部帯状皮質のニューロンは過去に生じた嫌悪刺激を記憶し、サルの行動を切り替えるためのシグナルを伝達していることが明らかになった。特に平成27年度は、前部帯状皮質局所回路の中で、興奮性の錐体ニューロンと抑制性の介在ニューロンの情報表現について研究を進め、錐体ニューロンよりも、介在ニューロンの方が嫌悪刺激の記憶情報や行動切り替えのためのシグナルをより伝達していることが明らかになった。これは、前部帯状皮質内部での情報処理プロセスを考える上で重要な知見となる。
A-16複数骨格筋への単シナプス性発散投射構造の解剖学的同定
関和彦, 大屋知徹,
梅田達也(国立精神・神経セ モデル動物)
所内対応者:高田昌彦
脊髄運動ニューロンに投射するPremotor neuronは大脳皮質、脳幹、脊髄にそれぞれ偏在し、最近の申請者らの電気生理学的実験によってPremotor
neuronの複数筋への機能的結合様式が筋活動の機能的モデュール(筋シナジー)を構成することが明らかになってきた。この神経解剖学的実体については全く明らかにされておらず、ヒトの運動制御の理解の発展と、運動失調に関わる筋、神経疾患の病態理解や新しい治療法の開発のためには喫緊の研究課題である。そこで本研究では上肢筋の脊髄運動ニューロンへ投射する細胞(Premotor
neuron)の起始核である脊髄、赤核、大脳皮質からの発散性支配様式を解剖学的に明らかにすることによって、霊長類における巧緻性に関わる皮質脊髄路の脊髄運動ニューロンへの直接投射の機能的意義を解剖学的観点から検討する。
本年度は前年度行なった注入結果をもとに、新たなウィルスベクターの開発を継続して行なった。また、国立精神・神経医療研究センターにおいて、霊長類研究所から供給を受けたAAVベクターの機能評価をマーモセットを対象に行なった。
A-17二卵性ふたごチンパンジーの行動発達に関する比較発達研究
岸本健(聖心女子大・文),安藤寿康(慶應義塾大・文),
多々良成紀(のいち動物公園),山田信宏(のいち動物公園)所内対応者:友永雅己
高知県立のいち動物公園のチンパンジー集団では,2009年に1組の二卵性の雌雄の双子が誕生し,母親による養育が現在まで継続している。この集団では,母親以外のおとなが,2歳齢時の双子の女児に対し,背中に乗せて移動するなどの世話行動をとっていたことが確認されている
(Kishimoto et al., 2014)。一方で,母親以外のおとなによる双子への世話行動が,双子の発達に伴ってどのように変化するのかについては明らかになっていない。そこで,双子が2歳齢であった2011年から,6歳齢にいたった2015年(写真)までの4年間における,母親を含むおとなと,双子との近接関係を分析し,双子とおとなたちとの関係性が,双子の発達に伴いどのように変化したか検討した。
分析の結果,母親以外のおとなで,双子の女児を世話していた個体と双子の女児との近接率は,2歳齢時には母親と同程度だったが,双子の発達とともに大きく減少した。一方,双子の女児と母親との近接率もまた,双子の女児の発達とともに減少したが,母親以外のおとなとの近接率と比較して減少が緩やかだった。この結果は,母親以外のおとなによる双子への世話行動が,双子の月齢が低く,母親による子育ての大変な時期に限定的に生じる可能性を示唆する。
A-18成体脳神経新生のin vivo動態解析技術の創出
植木孝俊(名古屋市大・院・医・統合解剖学),
尾内康臣、間賀田泰寛(浜松医科大・光尖端医学教育研究センター),
小川美香子(北大・院・薬学),
岡戸晴生(東京都医学総合研・脳発達神経再生・神経細胞),
井上浩一(名古屋市立大・院・医・統合解剖学)
所内対応者:高田昌彦
近年、ヒトを含む哺乳動物の脳で、成長後にもニューロンの新生が継続していることが確認されている。これまで成体脳神経新生の解析は、専らマウス、ラットなどのげっ歯類で行われ、ヒト、マカクザルなどの高等霊長類成体脳における神経幹細胞の動態解析、並びに、その生理学的機能の探究はほとんどなされていない。
ここでは、レンチウィルスにて中性アミノ酸トランスポータータンパク質を神経幹細胞で選択的に発現させ、O-18F-fluorometyltyrosine([18F]FMT)で標識した後、PETにより神経幹細胞をin
vivoで描出する。初めに、ラットで成体脳神経新生動態のPETイメージングと神経幹細胞障害モデルの作出を行い、28年度以降のマカクザルにおける脳内神経幹細胞の動態描出と生理学的機能探究への応用を図ることとした。
成体脳神経新生動態のPETイメージングに当たっては、ラットにてレンチウィルスにより神経幹細胞特異的に中性アミノ酸トランスポーター/共役因子遺伝子を発現させ、[18F]FMTの集積をPETで画像化した。ここでは併せてマウスに強制水泳試験を課し作製した大うつ病病態モデルで、成体脳神経新生動態をPETにより描出し、神経新生障害が大うつ病病態生理に与ることを確認した。また、成体脳神経新生障害モデルの作出に当たっては、レンチウィルスをラットの脳室下帯もしくは海馬歯状回に感染させ、HSV1-sr39tk遺伝子の発現を誘導した後、ガンシクロビルを腹腔投与することにより、各neurogenic
nicheにおける成体脳神経新生を障害した。そして、その認知、記憶などへの影響を種々の行動学的解析により評価した。さらにHSV1-sr39tk発現神経幹細胞を8-[18F]fluoropenciclovir(FPCV)を用いてPETで画像化し、その神経新生動態解析への応用の可能性を検討した。
A-19チンパンジー母乳における生物活性因子と子供の成長との関係性
岡本早苗(マーストリヒト大), Robin M. Berstein(コロラド大・ボウルダー校・人類学),
Katie Hinde (アリゾナ州立大・人間進化・進化医学センター) 所内対応者:林美里
本研究は現在も継続中であり、28年度も引き続き、共同利用研究として継続希望が採択されている。本研究では2000年から数年に渡り思考言語分野において採取、冷凍保存されていたチンパンジーの母乳サンプルを調べることにより、ヒトとチンパンジーにおける代謝および免疫に関係する因子の比較をおこなう。またチンパンジーの授乳期間が長いことから、母乳中の因子と乳児の発達との関係性を調べる。さらに同様に採取された母子の糞尿サンプルもあわせて調べることにより、乳児の発達に伴った母子の生理学的変化を総合的に検討する。26年度に母乳サンプル輸出について、ワシントン条約に基づいたCITES手続きのためチンパンジー3個体各々の書類準備をおこなったが、個体履歴等の証明書類の完備が困難で手続きが長期化することが予想された。そのため、コロラド大学の研究協力者が来日して所内の実験室において、分析をおこなう方針に変更した。しかし、当初予定していた分析試薬の国内入手が困難であることが判明した。そこで27年度から新たに参加した研究協力者が異なる分析キットを用いて母乳の分析を開始する予定であったが、当人の所属異動(ハーバード大学からアリゾナ州立大学)に伴い来日しての分析を行うことが困難になったために、28年度に分析施行を予定している。27年度は、母乳サンプルの冷凍保管方法を更新するとともに、貴重な母乳サンプルを実際に利用するときに、他の成分分析にも多重利用が可能かどうかについて、所内の研究者らと検討をおこなった。
A-20飼育下チンパンジーにおける炭素・窒素安定同位体分析
蔦谷匠(京都大・院・理) 所内対応者:宮部貴子
食物と体組織・排泄物のあいだの同位体比の差分を検討するため、霊長類研究所内に飼育されている13個体のチンパンジーを対象に、試料採取と同位体分析を実施した。炭素・窒素安定同位体分析は食生態の復元に用いられる手法であるが、野生動物の摂取食物を推定するためには、あらかじめ実験条件下で、食物と体組織・排泄物のあいだの同位体比の差分を算出しておかなければならない。
本研究では、2015年6月および2016年2月に実施されたチンパンジーの食事調査にあわせて、すべての採食品目、全個体の毛、アド・リブで得られた糞尿について、分析試料を採取し、6月の試料については炭素・窒素安定同位体分析を終わらせた。現在、データ解析を進めており、ここまでの結果について、2016年度中の論文化を目指している。
今までのところ、食物と毛の差分はヒトの場合と同様の値が得られている。尿については、同位体比や元素濃度が試料ごとにばらつく傾向があり、数日から数週程度の、短期間の栄養状態の変動を反映している可能性がある。
A-21 Decoding Global Networks in Tourettism using PET and Electrophysiological
methodologies
Kevin W. McCairn Ph.D. (Korea Brain Research Institute), Masaki Isoda (Kansai
Medical University) 所内対応者:髙田昌彦
Objectives
Tourette syndrome (TS) is a childhood onset neurological disorder which
manifests motor and vocal tics. Using a nonhuman primate model (NHP) of TS, the
aim of this study was two-fold: (1) to quantify the behavioral effects of limbic
(vocal tic) relative to sensorimotor (myoclonic tic) network striatal
disinhibition; (2) to determine how differences in cortico-basal
ganglia-thalamic (CBTC) and cerebella (Cb) activity, as assessed through PET
imaging, single unit and LFP recording differentiate abnormal behavioral
profiles.
Primary scientific findings
In order to disrupt physiological activity in the limbic and sensorimotor
networks, we injected a small amount of the GABA antagonist bicuculline into the
nucleus accumbens (NAc) (limbic) or the putamen (sensorimotor) in two monkeys,
adding to a database of three other animals. Our injection protocol for the NAc
successfully evoked repetitive vocalizations in all animals. The sound of their
frequency spectrum is best described as a 'grunt'. The site that caused vocal
tics was consistently localized in the NAc across all the monkeys, i.e.,
approximately 4 mm rostral to the anterior commissure. To elicit motor tics, the
bicuculline injections had to be placed in the dorsolateral sensorimotor
putamen, caudal to the anterior commissure. In such cases where repetitive tics
occurred in the orofacial region and/or the arm region, no vocal tics were ever
observed. The localization of vocal tics to the NAc supports the premise that
vocal tics emerge as a consequence of limbic network dysrhythmia.
Our next step was to identify more globally which brain regions were activated
following disinhibition of the NAc. We found that regional cerebral blood flow
(rCBF) significantly increased in the ACC, amygdala, and hippocampus,
bilaterally (T value > 3.37, uncorrected p < 0.001; Figure 1). This
activation pattern was unique to the vocal tic model; in the motor tic model,
significant increases in rCBF were observed in the M1 on the side ipsilateral to
the injection site and in the cerebellum on the contralateral side (Figure 1).
The contrasting activation profile was best captured by a direct comparison of
rCBF between the two tic models. The ACC, amygdala, and hippocampus were each
activated significantly more strongly in the vocal tic model than in the motor
tic model (T value > 5.47, corrected p < 0.05) (Figure. 1). By contrast,
M1 and the cerebellum were activated significantly more strongly in the motor
tic model (T value > 5.47, corrected p < 0.05).
Major scientific achievements
We are pleased to report that on the strength of the already acquired data
(supported by the PRI collaborative grant), that we have submitted and published
the PET imaging and LFP data regarding vocal tics to the scientific journal
Neuron. The manuscript "A primary role for nucleus accumbens and related
limbic network in vocal tics" was accepted for publication and released
into the public domain in January 2016.
A-22マカクザルにおける出産様式に関する形態学的研究
森本直記(京都大・理・自然人類学研究室) 所内対応者:西村剛
ヒトにおける出産様式の進化に関する研究は、脳機能・歩行様式・生活史が関わる多面的な課題である。しかし、出産進化のメカニズムにおいて鍵となる新生児と骨盤の化石記録が乏しく、直接的な検証が極めて困難である。そのため、現生の霊長類をモデルとした研究が不可欠である。本共同研究では、マカクをモデルとし、出産メカニズムに関する生体データを取得・解析することを目的とした。アカゲザルとニホンザルをそれぞれ3組ずつに対しX線CT撮像を行い、母親と胎児の3次元データを取得した。予備的な結果にとどまるものの、計算機内で出産のシミュレーションを行い、マカクでは吻部が先に出てくる、つまりヒトとは異なる回転を行いながら胎児は産道を通ることが確認された。また、母親の骨盤形態と胎児の頭蓋骨形態の相関を統計的に検証する手法を検討中である。.
A-26 Molecular classification of the grey langur and purple-faced langur in Sri
Lanka
Charmalie AD Nahallage(University of Sri Jayawardenepura) 所内対応者:Michael
A. Huffman
The evolution of langurs and macaques in southern Asia is a topic of growing
interest, and Sri Lanka is an important but understudied piece of this puzzle.
Sri Lanka, situated southeast of India with a geological history of being
connected to the sub-continent several times, is classified as one of the world
biodiversity hot spots in terms of species, genetic, ecosystem, and geographical
diversity. The three sub-species of the endemic toque macaque (TM), the four
sub-species of the endemic purple-faced langur (PFL), and the Hanuman or grey
langur (GL), a species found across the Indian subcontinent, are distributed
across the diverse mosaic of climatic and ecological zones of Sri Lanka. We
previously reported a disparity between the phenotypic and mtDNA diversity of
toque macaques,whereby all three purported subspecies came under two major
mtDNA haplogroups, segregated roughly into two different major elevation zones;
mountainous and coastal regions. In this study we present preliminary results on
the phylogeography of GL samples. Eighty-two Sri Lankan GL samples (64 feces, 20
blood) originating from 22 different populations across the species'
distribution were analyzed. DNA was extracted and the successfully amplified PCR
product was sequenced for cytb and D-loop. GL clustered mainly into one large
cluster, with 4 minor clusters. Further analysis and sample collection will be
necessary before coming to firm conclusions, but PFL clustered with GL into the
same haplotype in one small cluster where they live sympatrically, suggesting
local hybridization.
A-27ニホンザル大臼歯形態における地理的変異とその適応的要因の解明
浅原正和(三重大学教養教育機構) 所内対応者:高井正成
ニホンザル大臼歯の形態における地理的変異を調査するため、霊長類研究所に収蔵されている各地のニホンザルの大臼歯を計測した。また、得られたデータと各地の気候データとを比較し、大臼歯の形態に影響する適応的要因を明らかにすることを試みた。得られたデータのうち、下顎大臼歯の近遠心径・頬舌径から歯の咬合面のサイズを計算し、第一大臼歯、第二大臼歯、第三大臼歯それぞれの相対的な咬合面のサイズ(以下、大臼歯相対サイズと称する)を地域間で比較した。その結果、年平均気温の低い地域では3つの臼歯のうち第一大臼歯が相対的に大きいのに対し、年平均気温が高い地域では3つの大臼歯のうち第三大臼歯が相対的に大きいという傾向がみられた。このような大臼歯相対サイズの地理的変異は食肉目タヌキなどで知られているが、ニホンザルの場合は食肉目であるタヌキと異なり、大臼歯列中に明瞭な機能分化が見られない。このことから、ニホンザルの大臼歯相対サイズの地理的変異は、まだ歯列が完成していない若齢期において咀嚼能力を強化することで生存確率を上昇させるといった、より寒冷で厳しい環境に対応するための成長パターンの適応ではないかと予測された。
A-28霊長類の皮質ー基底核ー視床ループの形態学的解析
藤山文乃, 苅部冬紀, 高橋晋, 中野泰岳, 水谷和子, 呉胤美
(同志社大学) 所内対応者:高田昌彦
中枢神経系の作動原理を理解するためには、その構造的基盤である局所神経回路の知識が不可欠である。従来、霊長類、特に皮質ー基底核ー視床回路においては齧歯類と霊長類の体部位特異性の違いなど機能面の比較が困難であった。本研究課題では、霊長類を用いて古典的なトレーサーやウイルスベクタを注入することで、囓歯類および霊長類の神経経路を詳細に比較することを目的としている。
昨年度は齧歯類を用いて、膜移行性シグナルをつけたウイルスベクタによる視床線条体投射の単一ニューロントレースを行った。その結果、束傍核はマトリックスに優位に、正中核群からはストリオソーム優位に、束傍核以外の髄板内核群からはストリオソームとマトリックスに同程度の投射があることが明らかになった。さらに、ストリオソームやマトリックスに特異的に投射する視床亜核の大脳皮質への投射先は、その視床亜核が投射している線条体のコンパートメントに優位に投射している皮質領域であることがわかった。つまり、線条体のストリオソーム・マトリックス構造は、視床と大脳皮質から、時間差で同質の情報を受け取っている可能性があることが示唆された。
今後は霊長類のサンプルを用いて、動物種による比較形態学解析を行い、種を超えて運動に基本的に必要な回路の抽出を目指したい。
A-29ニホンザル手指および足指先天的形態異常の肉眼解剖学的研究
小島龍平(埼玉医大・保健医療・理学療法) 所内対応者:濱田穣
肉眼解剖学においては,変異を詳細に観察することにより形態形成の過程やその背景にある法則や原則についての手がかりを得ようとする.先天的形態異常は発生において標準とは異なったイベントや要因が生じ,そのタイミングで起こるべき正常の発生過程やその後の発生過程が障害,修飾されて生じると考えられる.このような形態異常も広い意味で変異の一部と考え,詳細に観察し所見を整理することにより形態形成について考察する手がかりを与えてくれると考える.ここでは,左右の手および足に先天的形態異常を有するニホンザル1頭の前肢1側の所見を報告する.標本は淡路島より霊長類研究所に導入された雄の個体で年齢不詳,死亡時体重7.5kgである.1)対象手の指は2本であり,裂手症に相当する形態異常であると考えられた.2)対象肢においては肩帯?上腕,肘関節周囲においては骨格,筋,末梢神経の構成や形態に異常は認められなかった.しかし,前腕遠位部の骨格構成や形態に異常が認められた.3)前腕においては屈側で12
個の,伸側で13
個の筋が区別できた.これらの筋について浅深の層構成,同一層での内側外側方向での配列,起始,停止,神経支配の特徴から標準的な構成における筋との対応関係について同定を試みた.4)屈筋においても伸筋においても,上腕骨から起こり前腕近位部に停止する筋は容易に同定できた.また,前腕遠位部および手根に停止する筋についても相当する筋を推定することは可能であった.5)しかし,手指に停止する筋には乱れがあり,標準的な筋構成との対比が困難な筋が多く認められた.6)前腕における末梢神経の構成や走行分岐パターンは標準的な形態に近いと思われた.7)手においては短掌筋と思われる筋の他には筋は認められなかった.9)手指の形態異常を起こさせる要因が生じた時期には,前肢の近位部(肘周辺まで)はすでに形成をされており,前腕の筋の原基も数としては形成をされていたが,停止となる手根や指の形成に異常が生じ,それらに停止すべき筋の形成に大きな乱れが生じたものと推測する.
A-30オランウータン歯牙形状と採食生態をつなげる
河野礼子、久世濃子(科博・人類) 所内対応者:高井正成
代表の河野は、国立科学博物館動物研究部が所蔵する現生オランウータン資料について、状態のよい大臼歯をマイクロCT撮影した。また、中国産オランウータン化石大臼歯約300点についてもマイクロCT撮影とレプリカ作製を実施した。さらに、マレーシアのマラヤ大学動物学博物館を訪問し、現生オランウータン資料を観察して、レプリカを作製した。レプリカ資料については三次元レーザースキャナーによるデータを一部採取し、これらのデータをもとに、形状特徴の計測項目について吟味し、食性との対応関係を検討する方向性を探った。協力者の久世は、現生オランウータンの採食生態についてより詳細な情報を得るために、ボルネオ島マレーシア領サバ州のダナム・バレイ森林保護区内の調査地で2005年~2014年に収集した、果実生産量とオランウータンの食性・繁殖に関するデータを月毎に分析した。その結果、2010年7~9月の大規模一斉結実期に、採食時間に占める果実の割合が90%に達し、6頭中4頭の雌がこの時期に妊娠していたことが明らかになった。また、果実生産量が低く、採食時間に占める果実の割合が小さい時期には、妊娠した雌はいなかった。この結果を、2015年3月に犬山市で開催された第6回動物園大学にてポスター発表した。
A-31チンパンジーの比較解剖学―乳様突起部と股関節を中心に―
滝澤恵美(茨医療大・保腱)、矢野航(朝日大学・歯)、長岡朋人(聖マリアンナ医大・医) 所内対応者:西村剛
1) 頭頸部の比較解剖成果(成果画像あり)
Chimpanzee #8745の側頸部~顔面を解剖した。耳下腺神経叢からの枝の間にヒトより多い吻合を認めた。また咬筋の前での吻合が認められた。顔面静脈と顎静脈(翼突筋静脈叢は認められなかった)が咬筋の前部で吻合していた。顎二腹筋は喉頭摘出により舌骨付近で切断されているが、切断面に中間腱の痕跡が認められなかった。次に、頭頚部周囲の解剖所見として、C3から分岐するもっとも大きな枝は大耳介神経と頚横神経であった。また、C3から出るほかの枝は鎖骨上神経(中間枝)を構成する2枝、そして鎖骨上神経(後枝)であり、C4から分岐する枝は、C3由来の鎖骨上神経(後枝)と吻合する枝、鎖骨上神経(前枝)、そして横隔神経であった。
2) 股関節の比較解剖成果
ヒトとチンパンジー間で股関節筋の機能比較をするにあたり,まず三次元的な関節運動範囲を確認するためにデータ収集を行った。チンパンジー1個体の股関節を膨出して他動的に大腿部を動かし,デジタルビデオカメラで骨盤および大腿部を撮影した。撮影動画データの身体分析点を用いて関節の可動範囲を分析するために,本年度はデータ収集と画像データの歪み補正作業のための技術開発を進めた。
A-32霊長類における音声コミュニケーションの進化および発達過程の研究
山下友子,平松千尋,上田和夫,中島祥好,杉野強(九州大) 所内対応者:友永雅己
霊長類における音声コミュニケーションは、種の特異性やヒト言語との連続性という観点からよく研究されている。これまでの研究により、発声方法や発声器官には、ヒトと他の種との共通性や、種の特殊性があることが指摘されている。2014年度以来の共同利用研究において、モンキーセンターにてテナガザル類3種、ワオキツネザル、ヤクニホンザル、リスザルの音声、また霊長類研究所にてチンパンジーの音声を録音した。明瞭に録音された音声に対し、まずケプストラム分析によって、音声から調波構造の影響を極力減らし、1/2
オクターブ程度の狭帯域フィルター群を用い、各フィルターにおけるパワー変化を変量として相関係数行列にもとづいた因子分析を行った。また、霊長類の音声における帯域ごとの相関係数行列について、各霊長類間でユークリッド距離を算出した。ヒト(成人および乳幼児)の音声から得られた因子構造と比較した結果、ヒト以外の霊長類から得た因子構造は、ヒトの因子構造とは異なることが明らかとなり、進化と発達とを共通の尺度で捉える可能性が示された。種の違いによりサイズの違う個体のあいだに共通点を明らかにする必要のあることから上記の多変量解析の方法について今後、数理的手法の改良を進めていく予定である。
A-34霊長類における概日時計と脳高次機能との連関
清水貴美子,深田吉孝(東大・院・理) 所内対応者:今井啓雄
我々はこれまで、齧歯類を用いて海馬依存性の長期記憶形成効率に概日変動があることを見出し、SCOPという分子が概日時計と記憶を結びつける鍵因子であることを示してきた。本研究では、ヒトにより近い脳構造・回路を持つサルを用いて、SCOPを介した概日時計と記憶との関係を明らかにする。
ニホンザル6頭を用いて、苦い水と普通の水をそれぞれ飲み口の色が異なる2つのボトルにいれ、水の味と飲み口の色との連合学習による記憶効率の時刻依存性を検討した。一回の試験につき各個体あたり、朝/昼/夕の何れかに試験をおこなう。学習から24時間後のテストでは苦みを入れずに、学習時と同じ色の両ボトルに普通の水を入れる。それぞれのボトルの水を飲んだ回数をビデオ観察し、正解と不正解の回数の比により、記憶できているかの判断をおこなった。各時刻一回ずつ6頭の記憶テストデータを解析した結果、夕方よりも、朝や昼に記憶効率がよいという傾向が見られた。しかし、個体差や実験間での差が大きいため、統計的有意差は見られていない。1頭あたりの実験回数を増やすなど、更なるデータ収集が必要である。記憶効率の時刻依存性の確実なデータを得た後に、SCOP
shRNA発現レンチウイルスをもちいた海馬特異的なSCOPの発現抑制により、記憶の時刻依存性に対するSCOP
の影響を検討する。
A-35人類出現期に関わる歯と頭蓋骨の形態進化的研究
諏訪元,佐々木智彦,小籔大輔(東大・総合博),清水大輔(京大・理) 所内対応者:高井正成
H27年度は1)チョローラ層の年代層序と動物相の評価、2)歯髄腔を用いた年齢推定法の類人猿への応用、および3)オナガザル類の摩耗小面から顎運動を推定する研究を進めた。チョローラの2015年の調査にて、オナガザル類の化石を若干数新たに発見した。それらの同定を行い、チョローラの哺乳動物相リストを更新し、大型類人猿チョローラピテクスを含む動物相が800万年前のものであることとその動物相の意義についてNature誌に発表した。特に、チョローラではこれまで確認されていなかったMicrocolobusと類似した種の存在を確認した。また、チョローラのオナガザル類としては、ややサイズが大きく臼歯ノッチが浅いコロブス亜科の種がdominantな種であるが、2015年調査でノッチがより深い臼歯が発見され、新たな系統が存在する可能性が浮かび上がった。この疑問を解決するため、現生コロブスの特にノッチ深さの種内変異を改めて調査することとし、CTデータを取得し、目下析中である。上記研究2)については、類人猿での応用がマクロ的なvolume評価だけではむつかしいことを確認し、今後の方針を検討した。上記研究3)については、現生のオナガザル類の方法を改善し、その結果を学会発表した。
A-36 The genetic profile of Taiwanese macaque groups
Hsiu-hui Su(Institute of Wildlife Conservation, National Pingtung University
of Science and Technology, Taiwan)
所内対応者:川本芳
This study was aimed to verify markers that can be applied to the genotyping of
microsatellite DNA in the fecal samples collected from a Taiwanese macaque
population located in southern Taiwan. A total of 16 microsatellite markers that
have been tested on the Taiwanese macaque population in Oshima were chosen for
the study. Among the 16 markers, 10 markers resulted in detectable polymorphism
on the loci. The fecal samples used in the microsatellite genotyping were first
screened by the c-myc test for the DNA quality. The HVR I of mtDNA was also
sequenced and the result showed that the haplotype (740 bp) of two neighboring
groups were different from each other by 31 bp of substitutions in this
provisioned region. The 10 microsatellite markers will be applied to the
paternity analysis in the Taiwanese macaque to investigate their reproductive
strategies. This non-invasive method to study genetic structures also
contributes to the conservation of the Taiwanese macaques in Taiwan by revealing
the human impact on translocating macaque groups in the past.
Keywords: microsatellite marker, maternal inheritance, provisioning,
translocation, Macaca cyclopis.
A-37 Study on phylogeography of macaques and langurs in Nepal
Mukesh Chalise (Central Department of Zoology, Tribhuvan University, Nepal)
所内対応者:川本芳
The trade of DNA samples becomes difficult due to recent ratification and
enforcement of international regulation Nagoya Protocol. This trend changed our
collaboration in cooperative study on evolution and conservation of non-human
primates in Nepal. In this fiscal year program, we start to establish a
laboratory in Kathmandu where we can prepare DNA samples from fecal specimens
and can perform DNA amplification by standard PCR procedure in order to continue
phylogeographical study on macaques and laugurs in Nepal. We opened the
laboratory in December 2015 and conducted a feasibility study of mtDNA typing
for non-human primates for the first time in the country. Firstly, we extracted
DNA samples from fecal specimens preserved in lysis buffer based on the protocol
developed in the last year program. Both Assamese macaques and grey langurs were
examined for partial sequencing of control region, 16S ribosomal RNA and
cytochrome b in the mitochondrial DNA genome. Of 26 specimens, consisting of 20
macaques and 6 langurs from 8 localities, 19 were successfully amplified by PCR.
We also got good results in sexing with amelogenin primers for 19 samples.
Obtained PCR products were sequenced in Japan to confirm the applicability of
newly obtained PCR products for sequencing analysis. Our preliminary examination
of cytochrome b fragments yielded fine results for four out of six samples of
grey langurs. Obtained Nepalese sequences were compared with deposited DNA
sequences in database. Nepalese samples formed a single cluster with high
bootstrap value and a reported haplotype (N2) from Ramnagar (Karanth et al.
2010) was placed aside of the Nepalese cluster.
(2) 一般個人研究
B-1 Developing a model of cold- and heat-stressed primate thermoregulation from
Japanese macaques (Macaca fuscata)
Cynthia Thompson (Grand Valley State University), Chris Vinyard (Northeast Ohio
Medical University), Susan Williams (Ohio University), Sylvain Perez (Ecole
Nationale Veterinaire de Toulouse) 所内対応者:半谷五郎
This project aims to assess how Japanese macaques (Macaca fuscata) utilize
behavioral and physiological mechanisms during seasonal thermoregulation. During
2015, we conducted our second research season (summer; winter data collection
occurred in 2014) at the Kyoto University Primate Research Institute from July
11-31. During this time we successfully collected data on thermoregulatory
variables for five adult animals (n=2 males, n=3 females). We gathered a total
of 1,048 observation hours. These behavioral data are currently being used to
calculate the effects of temperature, solar radiation, humidity, and wind speed
on the time spent moving, body position, and choice of sunny vs. shaded
location. During this past data collection season we also collected 94 fecal
samples. These were lyophilized, extracted, and assayed via ELISA to determine
levels of the thermoregulatory thyroid hormone fT3. We found significantly lower
levels of fT3 in the summer compared to the winter (ANCOVA: F= 41.5,
p<0.001), with summer samples having fT3 levels, on average, 2.87pg/ml lower
than winter samples. Additionally, season explained 45.9% of the variance in fT3
levels; for comparison sex explained only 2.2% of the variation in fT3. These
results suggest that Japanese macaques significantly boost thyroid hormone
levels during the winter, likely to increase basal metabolic rate and generate
heat. Since fT3 levels are linked to energy expenditure, lower fT3 levels in the
summer likely reflect a strategy to lower not only heat generation, but also to
conserve energy. Our results indicate that these animals utilize thyroid
hormones, a relatively expensive and longer-term physiological pathway, as a
mechanism of seasonal thermoregulation.
B-2
1次視覚野をバイパスする頭頂連合野への視覚入力の解明
中村浩幸(岐阜大・院・高次神経形態学)
所内対応者:脇田真清
霊長類の高次視覚野へ,1次視覚野を経由しない,短潜時の視覚入力を,形態学的に解明する。本年度は,頭頂連合野へ直接の視覚入力を送るV3A野への外側膝状体からの投射を研究した。
アカゲザル1頭のV3A野へトレーサーを注入し,外側膝状体層間細胞の逆行性標識を観察した。トレーサー注入に先立って、1mm間隔のスライスで厚1mmの頭部MRI画像を撮像した。画像をCaret
5(Van Essen, http://brainmap.wustl.edu, 1995)に取り込み,前額断画像の脳表の形状をとレースして,脳表の3次元画像を作成し,トレーサー注入用の微小ピペットを垂直にV3A野に刺入する際の刺入部位を確認した。ファーストブルー(2%)。ディアミディノイエロー(4%)、ビオチン化デキストランアミン(20%)をそれぞれ異なる微小ピペットに充填し、左右のV3A野を目標に3カ所ずつ微量注入した。左のV3A野には,ファーストブルーとディアミディのイエローが注入されており,白質やLOP野へは広がっていなかった。右では、ファーストブルーとディアミディノイエローが、V3A野とLOP野に注入されていた。逆行性に標識された外側膝状体層間細胞の分布は現在検討中である。
B-3サル類における聴覚事象関連電位の記録
伊藤浩介(新潟大・脳研) 所内対応者:中村克樹
明らかな適応的意義の見当たらない音楽は、何故どのように進化したのだろうか。本研究は、従来の行動指標の代わりに事象関連電位(ERP)や誘発電位(EP)を用いて、音楽の系統発生を探る試みである。昨年度までの研究で、マカクザルを対象に、無麻酔かつ無侵襲で頭皮上からERP/EPを記録するための方法論を確立した(Itoh
et al., Hearing Research, 2015)。これにより、頭皮上の最大19チャンネルから、純音刺激に対する聴覚EPの後期成分を記録し、mP1,
mN1, mP2, mN2, mSPの各成分を世界で初めて同定・命名することに成功した。本年度は、これらのEP成分が、純音刺激提示の時間特性(刺激持続時間、刺激間無音間隔)にどのように影響を受けるか検討したところ、とくにmN1以降の成分について、ヒトとアカゲザルで顕著な種差があることが分かった。ヒトで聴覚処理の時間窓が延長していると解釈が出来る結果であり、成果をまとめている(Itoh
et al., in preparation)。また並行して、マーモセットを対象とした、無麻酔かつ無侵襲の頭皮上脳波記録につき、方法論の検討を行った。
B-4新世界ザル苦味受容体TAS2Rに対するリガンド感受性多様性の検証
河村正二, 松下裕香(東京大・新領域・先端生命)
所内対応者:今井啓雄
新世界ザル類は高度な色覚変異を示すことが報告されているが、ケミカルセンス遺伝子の進化多様性については知見が乏しく感覚進化の全体像は不明な部分が多い。そこで他の霊長類で比較的研究の進展している苦味受容体TAS2R遺伝子に焦点を当て、ゲノムプロジェクトの進展しているマーモセット(Callithrix
jacchus)、リスザル(Saimiri boliviensis)、ヨザル(Aotus nancymaae)のTAS2R遺伝子配列からPCRプライマーを設計し、所属研究室現有のノドジロオマキザル(Cebus
capucinus)とチュウベイクモザル(Ateles geoffroyi)の血液等由来高純度ゲノムDNAと野生群の糞由来DNAに対して遺伝子塩基配列の決定を試みた。その結果TAS2R3,5,10,38の4遺伝子について高純度サンプルから配列を決定し、糞由来の集団サンプルについて7~42個体について配列決定を行った。しかし、配列決定に時間を要したため当初予定した分子進化・集団遺伝学解析及びクローン化遺伝子のリガンドアッセイに至ることはできなかった。今後解析遺伝子数・サンプル数を増やすとともに、進化・機能解析を進展させる。
B-5霊長類の各種の組織の加齢変化
東超(奈良県医大・医・解剖学) 所内対応者:大石高生
加齢に伴う呼吸筋である肋間筋(骨格筋)のカルシウム、燐、マグネシウム、硫黄、鉄、亜鉛の蓄積の特徴を明らかにするため、サルの肋間筋の元素含量の加齢変化を調べた。用いたサルは16頭、年齢は流産児から26歳である。サルより肋間筋を乾燥重量100mg程度採取し、水洗後乾燥して、硝酸と過塩素酸を加えて、加熱して灰化し、高周波プラズマ発光分析装置(ICPS-7510、島津製)で元素含量を測定し、次のような結果が得られた。
①
サルの肋間筋の主な元素はカルシウム、燐、マグネシウム、および硫黄である。
② サルの肋間筋のカルシウム含量はすべて10mg/g以下で、さらに、加齢とともに減少傾向にあった。この結果から肋間筋は加齢とともに石灰化しにくい呼吸筋であることが分かった。
③
サルの肋間筋においてはカルシウム、燐とマグネシウム含量の間に非常に高い有意な正の相関が認められ、カルシウム、燐、マグネシウムが一定の比率でサルの肋間筋に蓄積されることを示している。
B-6行動の時間配分バランスと分派行動の起こりやすさの関係
風張喜子(北海道大・北方生物圏フィールド科学センター) 所内対応者:辻大和
ニホンザルは、基本的には群れのメンバーがひとまとまりで暮らすが、季節によっては頻繁に分派する。個体間の近接・群れのまとまりは、時に採食時間を削減してまで他個体の動きを視覚的に確認することで保たれる。一方で、食物条件によっては、他個体の動きの確認に時間を割くことが難しく、分派が起こりやすくなることも考えられ、これが季節的な分派の要因となっているかもしれない。そこで、宮城県金華山島に生息する野生ニホンザルを対象として、食物条件の異なる時期に個体追跡による行動観察を行い、分派の起こる状況を検討した。その結果、移動および探索に時間がかかる食物の利用中に分派が起こりやすかったが、それらの食物の利用中の見まわしは少なくなかった。そのため、行動の時間配分上の制約が分派の要因である可能性は低い。その一方で、見まわし間隔が長い場合が稀にあり、分派はその前後に始まっていた。また、移動・探索型食物のまばらな分布の影響で視覚内の個体が少なく、群れとしての移動の方向を把握しにくい状況だと考えられた。その状況で、見まわしを行わない時間があることで、互いの動きに引きずられたメンバーがたまたま群れの移動の方向を見誤り、分派した可能性がある。
B-7ニホンザルにおける歯の組織構造と成長
加藤彰子(愛知学院大・歯・口腔解剖), Tanya Smith (Harvard
Univ. Human Evolutionary Biology・Dental Hard Tissue Lab) 所内対応者:平崎鋭矢
本研究課題は、生息環境の異なるマカク種の歯の成長について明らかにする目的で、ニホンザルを含むマカク6種類の大臼歯歯冠エナメル質の厚みについてX線CT画像解析により調査を行ってきた。
本年度は、歯の微細構造の解析を行うために、大臼歯の薄切研磨標本を用いて、歯冠エナメル質に認められる成長線の解析を進めている。具体的には、偏光顕微鏡を用いて大臼歯の咬頭頂付近および歯頸部付近に認められる成長線を解析する。これまでに認められた所見では、ニホンザルの歯冠エナメル質に観察される成長線は、他のマカク種とは異なり特異的なパターンを示した。今後は、さらに解析を進め、各種マカクの歯の形成に関する特徴を明らかにし、食性や生息環境との関係を調査していく予定である。
B-8マーモセットにおける養育個体のオキシトシン濃度
齋藤慈子(武蔵野大・教育) 所内対応者:中村克樹
神経ペプチドであるオキシトシンは、げっ歯類の研究から、社会的認知・行動に関わっていることが知られているが、いまだ霊長類の社会行動とオキシトシンの関係についての研究は数が少ない。本研究は、家族で群を形成し協同繁殖をおこなう、コモンマーモセットを対象に、母親だけでなく父親の、母親出産前後のオキシトシン濃度と養育行動との関連を調べることを目的とした。前年度までに、マーモセット型のオキシトシンを合成し、市販のオキシトシ測定用EIAキットを用いて、マーモセット型のオキシトシンが測定可能であることを確認した。本年度も前年度に続き、初産個体を対象とした出産前後の採尿および、乳児回収テスト、背負い行動の観察を行うことを試みたが、出産数が少なった上、飼育室におけるケージ・個体の移動等にともない、十分なデータの採取を行うことができなかった。引き続きサンプル数を増やしていく予定である。
B-9アフリカ中新世霊長類化石の形態学的研究
國松豊(龍谷大・経営) 所内対応者:平崎鋭矢
現生ヒト上科とオナガザル上科の初期進化は中新世のアフリカで起きたと考えられており、これらのグループの進化過程を解明するには、アフリカ中新世の霊長類化石の研究が欠かせない。1980年以来、京大を中心とした日本調査隊がケニヤ共和国において野外発掘調査を継続して実施してきており、ケニヤ北部のナチョラ、サンブルヒルズ、ナカリから中新世の大型ヒト上科を始めとして、小型「類人猿」や旧世界ザル、原猿など多様な霊長類化石が発見されてきた。本研究ではこれらの霊長類化石の分析を目的としている。2015年度は、2016年2?3月にケニヤ国立博物館で主としてナカリ出土のオリジナル化石標本を調査した。霊長類研究所では、比較のために現生霊長類の骨格標本や霊長類化石レプリカコレクションの観察、計測をおこなった。ナカリの小型「類人猿」の研究を中心に作業を進めた。現在までに採集されたナカリの霊長類化石の中には4種類の小型「類人猿」が含まれており、これまであまり実態が知られていなかったアフリカ中新世後期初頭において、予想外に大きな多様性が保たれていた事を示唆するものである。
B-10屋久島のニホンザルの腸内細菌の消化能力についての研究
牛田一成,
土田さやか(京都府立大・生命環境) 所内対応者:半谷吾郎
屋久島の上部に棲息する個体群は、冬季に樹皮など消化が困難な食物に依存する割合が高いと想定される。その場合、腸内細菌が宿主の栄養にもたらす貢献は、より高いと推測できる。本研究は、2014年度の共同研究(2014-B-27)において、大川林道周辺の上部個体群から分離後、純粋化できたSarcina
ventriculi(現在分類群変更のためClostridium ventriculi)2株について、全ゲノム解析を実施した。また、これまで西部林道および大川上流域の個体群の調査を行ってきたため、東部のヤクスギ林地帯に生息する個体群からも採材を試みた。
世界で初めてS. ventriculiのゲノム構造を明らかにした。本種のゲノムサイズは、約2.5
Mbあり、GC含量は約27%であった。系統的にはC. perfringensに近縁であったが、両種の平均ゲノム一致度(ANI)は、78%であった。
特徴的な遺伝子群として、パラクマル酸脱炭酸酵素や青酸化合物代謝系が含まれており、野生の食物に含まれる反栄養物質に対抗するための機能を,ヤクシマザル腸内細菌が提供していることが示唆された。
東部個体群からは、西部林道個体群と同様の菌種が分離されている。毒物分解などに有効と予想される菌種につきいては、今後詳細解析を行う予定である。
B-12自律的に歩容遷移を行うマカク四足歩行モデルの開発
長谷和徳, 林祐一郎, 伯田哲矢(首都大・理工)
所内対応者:平崎鋭矢
一般的な四足動物は後方交叉型と呼ばれる四肢の運動パターンによってロコモーションを行うが,ニホンザルなどのマカクは前方交叉型と呼ばれるロコモーション・パターンを持つ.本研究では,関節動態や神経系の運動制御機構などを考慮し自律的に歩容遷移可能なマカク類の四足歩行のシミュレーションモデルを作成し,さらに斜面などの力学的環境変化についても計算モデルとして表し,身体力学系を含む力学的環境変化と歩行遷移との関係を計算論的に明らかにすることを試みた.霊長類研で撮影したニホンザルのロコモーションデータや,歩容の特徴の知見を参照し,四足歩行の運動制御モデルの構築を行った.制御系モデルとして,従来の脚位相制御機構に体重心に応じた位相調整が可能な仕組みを導入した.また,地面の傾斜角度に応じて足先軌道の座標系の角度を変更できるようにした.これらの仕組みを導入することで,比較的緩やかな傾斜ではあるが,地面の傾斜角度に応じた歩行運動を実現できるようになった.ただし,現在の運動遷移には体重心の位置を明示的に入力するようになっており,制御の自律性は必ずしも高くない.今後はモデルの妥当性の検証と運動制御の自律性の更なる向上を目指す.
B-13下肢骨格筋の形態と支配神経パターンの解析
荒川高光(神戸大・保健学),渡邊優子(神戸大・医学)、幅大二郎(神戸大・保健学) 所内対応者:平崎鋭矢
前年度に続きアカゲザルとチンパンジーの下肢、とくに下腿の骨格筋とその支配神経の解析を行った。大腿部後面から皮膚剥離し、脛骨神経と総腓骨神経、そしてその支配筋群を肉眼で剖出、記録し、今回は足底筋とともにヒラメ筋の支配神経のパターンに着目した。支配神経パターンの神経束解析を行った。神経外膜を除去した神経束レベルでは、アカゲザルの足底筋は下腿の深層屈筋群と近く、ヒラメ筋は腓腹筋に近いとわかった。チンパンジーでは、足底筋はアカゲザルと同様であった。3例中1例でヒラメ筋に前から入る筋枝が見いだされた。すなわちチンパンジーでは、全例でアカゲザルと同様のヒラメ筋枝を有すると同時に、ときに、ヒラメ筋に前から入る枝を持っており、それは下腿深層屈筋群と近い位置から分岐するものであった。踵骨腱付近に分布する枝も見つかったが、本枝は腱への知覚枝であろうと考えられた。ヒトではヒラメ筋に前から入る枝が恒常的に発見されるため、ヒトの直立二足歩行の採用にともなう系統発生において、ヒラメ筋の発達と足底筋の退縮に関係し、本神経支配パターンの種間差は重要な示唆を与えると考えられた。
B-14ニホンザルにおけるサルT細胞白血病ウイルスの動態の解析・免疫治療
松岡雅雄、安永純一朗、菅田謙治、馬広勇(京都大・ウイルス研) 所内対応者:明里宏文
ヒトT細胞白血病ウイルス1型(HTLV-1)は成人T細胞白血病(ATL)、炎症性疾患の原因ウイルスである。サルT細胞白血病ウイルス1型(STLV-1)はHTLV-1に近縁のレトロウイルスであり、同様の病原性、複製機構を持っているため、HTLV-1の新規治療法開発に有用な動物モデルである。CCR4はHTLV-1感染細胞、STLV-1感染細胞に高発現するケモカインレセプターであり、抗CCR4抗体モガムリズマブはSTLV-1感染ニホンザルのプロウイルス量を減少させる。CCR4は制御性Tリンパ球にも発現し、モガムリズマブの免疫賦活効果も注目されている。本研究は、モガムリズマブとSTLV-1
bZIP factor (SBZ)及び Taxワクチンの併用による、より効果的な抗STLV-1
(HTLV-1)免疫療法の開発を目的とした。モガムリズマブ投与後にSBZ及び
Taxを発現するワクシニアウイルスを5回接種し、プロウイルス量、Tax発現細胞数を解析したところ、モガムリズマブ投与直後と比較してTax発現細胞はさらに減少傾向となり、Taxに対する免疫応答の増強による効果と考えられた。本研究結果は国際雑誌Scientific
Reportsに掲載された(Sugata K,et al. Enhancement of anti-STLV-1/HTLV-1
immune responses through multimodal effects of anti-CCR4 antibody. Scientific
Reports, in press.)。
B-15ひも引き協力課題を用いたマーモセットの協力行動
草山太一(帝京大・文・心理) 所内対応者:脇田真清
他者と協力作業を行うためには、相手の行動を正確にモニターし、それに合わせて自己の行動を調整する必要がある。比較認知的視点より霊長類での検討が欠かせないことから、コモンマーモセットを対象に協力行動の成立要件について実験的に検討した。今年度は実験計画の2年目として、昨年度に生じた実験遂行上の問題解決も含め、3つの実験装置を用いて協力行動の生起について調べた。すでにチンパンジーなどで成功が報じられている、2個体が同時にひもを引くことで報酬の入った容器を手元まで引き寄せられる仕掛けになっている装置を利用した「ひも引き協力課題」では個体同士がタイミングよく装置前に座ることは全く観察されなかった。また、「ひも引き」という行動指標は変えずに、2個体の反応にズレが生じても課題解決できる別の装置を用いても、協力するような場面は認められなかった。2個体が同時にレバーを押すことで報酬の入った容器の蓋が開く仕掛けの装置をセットし、協力行動が生起するかビデオ観察をおこなったところ、この課題では2個体による同時レバー押し反応が認められた。「他者との協力が必要である」という課題解決のための条件をマーモセットが理解できていたかについては慎重に答えを見つける必要がある。しかし、昨年度に引き続き、課題遂行時に2個体の距離が近いと、優位個体が装置を独占する行動が認められたことから、他者との目的(報酬)を共有することは難しいことが考えられる。
B-16サル脊髄損傷モデルを用いた軸索再生阻害因子とその抗体による神経回路修復に関する研究
山下俊英(大阪大・院・医学系) 所内対応者:高田昌彦
霊長類モデルを用いて、軸索再生阻害因子と脊髄損傷後の神経回路網再形成による運動機能再建に焦点をあて研究を行ってきた。これまで、脊髄損傷後に軸索再生阻害因子のひとつであるRGMaを阻害することによって、運動機能の回復および神経回路網再形成が促進されるという予備的な結果を得ている。今年度は、個体数を増やして再現性の検証を行った。その結果、RGMa作用を阻害した群は、コントロール群(薬物投与なし)に比べ、運動機能の回復および神経回路網形成が促進されるという再現を得ることができた。さらに、新たに形成した神経回路網が機能的な神経回路であるか否かを確かめるため、電気生理学手法と神経活動阻害実験を併用して確認した。その結果、直接運動機能の回復に寄与する神経回路網が形成されていることが分かった。これらの結果は、サル脊髄損傷において、RGMaが治療法として有用である可能性を示唆するものであると考える。
B-17 Identification and Promoter/enhancer analysis of HERV-K LTR elements in
primates
Heui-Soo Kim, Jungwoo Eo, Hee-Eun Lee (Pusan National Univerisity)
所内対応者:今井 哲雄
Human endogenous retroviruses (HERVs) and related sequences account for ~8% of
the human genome. It is thought that HERVs are derived from exogenous retrovirus
infections early in the evolution of primates. Among the three HERV classes,
class II HERVs exist in the lowest frequency in the human genome, but they
include the HERV-K family, which is the youngest family and is known to have
actively mobilized since the divergence of humans and chimpanzees. For better
understanding the regulatory mechanism, HERV-K expression in four primates was
performed. First we tried RT-PCR with human reference gene; GAPDH, chimpanzee
reference gene; EEF2, and HERV-K env. As the figure 1 shows, all four species'
tissue has expression of HERV-K. In addition, the western blot was performed to
check the protein expression of HERV-K and R env protein in various tissues of
four kinds of primates. Each sample is labeled in the figure 1. The expression
of HERV-K env protein shows expression in most of tissues except for pancreas,
tongue, and testis (fig.2). Also, the orangutan ileum shows no expression. For
HERV-R env protein, the expression pattern shows similar as HERV-K env protein.
The HERV Env proteins were observed moderate to high levels in each tissue,
showing tissue-specific or species-specific expression patterns. In addition,
transcription factor binding sites for HERV-K102 was detected by the program
called TRANSFAC v8.0 (fig.3). The primers were designed into 4 sets, with fixed
reverse primer as shown in the figure 3. As a result of the luciferase assay,
LTR primer (F4) shows the highest promoter activity from all four primers in
both A549 and HCT116 cell lines. These data suggest a biologically important
role for the retroviral proteins in a variety of the healthy tissues of
primates.
B-18ニホンザル野生群におけるinfant handlingの意義
関澤麻伊沙(総研大・先導研) 所内対応者:辻大和
群れで生活する霊長類では、他個体の産んだ新生児へ接触する行動(Infant
Handling、以下、略してIH)が日常的にみられる。しかし、新生児へ接触を試みる個体(以下、ハンドラー)・母子双方にとってどのような意義があるのかは未だ明らかになっていない。本研究では、未だ研究例のないニホンザル野生群におけるIHの意義を明らかにすることを目的とする。昨年度に引き続き、宮城県金華山に生息する野生ニホンザルA群において、今年生まれたアカンボウ2頭とその母親を対象として、出産日から生後3ヵ月齢を超えるまで個体追跡による行動観察を行った。ハンドラー、IHの内容、母子の反応、母親とハンドラーの交渉について、計217.5時間分のデータを収集した。現在はデータ入力を行っている。アカンボウの数は昨年度17頭、今年度2頭と大きく異なっているため、入力が終わり次第、昨年度のデータと併せ、アカンボウの数の増減がハンドラーと母親間での交渉に影響を及ぼしているのかどうかを検証する。特に毛づくろい交渉に注目をし、アカンボウの数に依存してハンドラーによる母親への毛づくろい量が変化するかどうかを検証する予定である。
B-19 Population genetics of Macaca fascicularis (long-tailed macaque) throughout
Thailand: mainly focus on their hybridization range with M. mulatta (rhesus
macaque)
Srichan Bunlungsup, Suchinda Malaivijitnond (Chulalongkorn University) 所内対応者:今井啓雄
The aim of this study is to investigate the impact of zoogeographical barriers
in Thailand on the genetic structure of long-tailed macaques (Macaca
fascicularis) and their hybridization with rhesus macaques (M. mulatta). mtDNA
and Y-chromosome (SRY and TSPY) genes of long-tailed and rhesus macaque living
in Thailand and vicinity were analyzed. Based on mtDNA analysis, all monkeys
were divided into five clades; Sundaic insular, Sundaic Thai Gulf, Vietnam,
Sundaic Andaman Sea coast and Indochina, respectively. Interestingly, monkeys
lived at the Sundaic peninsular were separated into Thai Gulf and Andaman sea
side, and the latter was grouped with Indochinese population. We supposed that
during the glacial period, some monkeys from South-easternmost Indochina
(Southern Cambodia/Vietnam) migrated across the land bridge westward to
peninsular Malaysia, moved northward along Andaman Sea coast and inhabited the
areas. From Y-chromosome analysis, the limited gene flow from male rhesus
macaques southward to long-tailed population was detected around the Isthmus of
Kra. Though, our findings support the previous reports, the more complex results
are found.
B-20種特異的ノンコーディングRNAによるほ乳類脳神経機能分化
今村拓也(九州大・医学研究院) 所内対応雄者:今村公紀
本課題は、ほ乳類脳のエピゲノム形成に関わるnon-coding RNA
(ncRNA)制御メカニズムとその種間多様性を明らかにすることを目的としている。チンパンジーを含むほ乳類5種の5組織を用いた比較トランスクリプトーム解析の結果、プロモーターncRNAであるpancRNAは発現プロファイルと塩基配列の点で生物多様性が高いということ、pancRNAを持つ遺伝子は組織特異的な発現を示す傾向にあること、数百の生物種特異的pancRNAが存在しているということが明らかになった。最も大事な発見は、生物種特異的pancRNAを獲得した遺伝子の発現が、pancRNAがないオーソログに比べて、その組織特異性が強まっている傾向が顕著であったことであり、この現象はエピゲノム変化と良い相関を示した。さらに、マウス大脳皮質特異的発現を示すpancRNAの機能解析から、実際に種特異的pancRNAが遺伝子発現活性化に寄与し、表現型発現に結びついていることを示した。したがって、種特異的pancRNAが獲得され、配列特異的エピゲノム修飾パターン形成を介して、種特異的遺伝子発現スイッチの獲得に至ることが考えられた。現在、エンハンサーRNAの解析を進行中であり、pancRNAとの機能相関を調べているところである。
B-21数学モデルを用いた霊長類大腿骨形態の解析
稲用博史、関幸夫(医療法人社団いなもち医院) 所内対応者:平崎鋭矢
Wolffの法則によれば、骨は力学的ストレス(荷重)を受け、力学的に最適な形状となる。この最適化理論を数式で表現し有限要素法を用いて数値的に解を求めると骨に対する力学的条件を推定することが出来る。
ヒトとチンパンジーを比較すると、ヒトは直立二足歩行し、ヒトには、Bicondylar
Angle と呼ばれる大腿骨の傾きがある。Tardieuによれば、ヒトのBicondylar
Angle は10度、チンパンジーのBicondylar Angle は1~2度である。
ヒトにおいては、大殿筋力が大きく、大殿筋によって緊張を高められた腸脛靭帯は外側から大転子を強く圧迫することにより、圧迫力は大腿骨骨幹部を通じて内顆に伝わる。この力に対応して、内顆においては大腿四頭筋内側広筋による内側からの圧迫力が生じる。
他方、チンパンジーにおいては大殿筋による腸脛靭帯の大転子への圧迫力はない。また、同時に内顆における大腿四頭筋内側広筋による圧迫力も生じない。
骨形状の力学的最適性理論を用い、上記の力学的条件による形状の解を数値計算により求めると、ヒトでは10度のBicondylar
Angle を持つのに対し、チンパンジーの大腿骨ではBicondylar
Angle は2度となる。これは、Tardieuによる報告に近い。
これ等の比較により、大腿骨近位部における外力が、大腿骨遠位部における外力と釣り合うことによって顆間角が形成されることが証明できる。
B-22霊長類におけるヒトの皮膚の表現型の特性について
荒川那海, 颯田葉子, 寺井洋平(総研大・先導研) 所内対応者:今井啓雄
ヒト特異的な形質は多く知られており、皮膚での体毛の減少や汗腺の増大はその例として挙げられる。本研究では、ヒト特異的な皮膚の形態的および生理的な表現型がどのような遺伝的基盤によって生み出されているのか、ヒトと類人猿間の皮膚での遺伝子発現量比較から明らかにすることを目的としている。
ヒト特異的な皮膚の形質に関係している遺伝子を網羅的に把握するために、ヒト、チンパンジー、ゴリラ、オランウータン各種3個体ずつの皮膚サンプルを用いたRNA発現量解析(RNA-Seq)を行った。ヒトのゲノム配列を参照配列として、全ての遺伝子の発現量をそれぞれの個体ごとに算出し、ヒトと類人猿の間で統計的に有意に発現量差のある遺伝子を抽出したところ、ヒト特異的な皮膚形質に関わる複数の遺伝子が検出された。
また、ヒトと類人猿の遺伝子発現量差を生み出している発現調節領域を特定するために、ルシフェラーゼをリポーター遺伝子としたプロモーターアッセイの系を立ち上げた。今後、ヒトと類人猿の皮膚の形質の違いに関する文献情報と合わせることで、ヒト系統で起きた変異によってヒト特異的な形質が獲得されていった進化の過程を示唆できると考えている。
B-23マーモセットiPS細胞由来神経細胞を用いたプロモーター評価系の確立
今野歩, 高橋伸卓,
新田啓介(群馬大・医) 所内対応者:今村公紀
我々は、小型の霊長類であるマーモセット脳内で、ニューロン種特異的に発現誘導するプロモーターの開発を行っている。しかし、これまで齧歯類で実施していたようにプロモーター活性や特異性の検討を動物脳内で実施することは、マーモセットの購入費用(1頭あたり約50万)や動物倫理的観点などから、現実的ではない。そこで、動物個体内でのアッセイに代替し、マーモセットiPS細胞由来の培養神経細胞を用いたプロモーター活性の検討を行う系の確立を目指した。
平成27年度は、マーモセット由来のプロモーターとしてVGAT、VAChTプロモーター等のクローニングを実施し、レンチウイルスベクターによってGFPを発現するベクターへの搭載を完了した。一方、マーモセット由来iPS細胞の作成に関しては、マーモセット線維芽細胞へのリポフェクションによって初期化6因子を導入する「霊長研メソッド」を実施した。リポフェクション後、3~4週間程度で、iPS細胞様のコロニーが得られ、多能性の指標であるアルカリホスファターゼ染色(AP染色)陽性のコロニーが確認された(図参照)。しかしながら、その後の培養がうまくいかず、自然と分化し始めてしまう細胞が多く確認された。今後、培養条件のさらなる検討を行う予定である。
B-24マカク属内腸骨動脈分枝の形態学的特徴と周辺構造物との相互関係
姉帯飛高(埼玉医大・保健) 所内対応者:平崎鋭矢
内腸骨動脈分枝のうち下肢帯へ分布する壁側枝は上殿動脈(Gs)や下殿動脈(Gi)等があり,
起始や走行が多様である.
壁側枝を含む内腸骨動脈の多様性はQuain(1844)はじめ古くから調査されているが,
比較解剖学的資料は乏しい.
研究代表者はニホンザルとカニクイザルの内腸骨動脈壁側枝とその周辺構造物を調査した.
ニホンザルはGiがGsまたは内陰部動脈と共同幹を形成し仙骨神経叢のS1/S1間を貫き,
カニクイザルはGsとGiが共同幹を形成し腰仙骨神経叢L7/L7またはL7/S1間を貫く傾向があった.
またニホンザル・カニクイザル両種において, Gsが神経叢を貫く位置が神経叢の分節変動に影響される傾向は共通していた.
しかし, 同じマカク属でありながら内腸骨動脈の分岐型,
特にGiの分岐位置に明らかな差が見られた.
Giは主に浅殿筋を栄養する動脈であり,
浅殿筋は運動様式に応じた形態適応が明らかな筋の1つである.
ニホンザルとカニクイザルの運動様式は一部異なり,
浅殿筋の形態に差がみられる可能性がある.
運動様式の差と筋骨格系の適応変化に,
血管系も何らかの適応をみせる可能性が示唆された. 今後Giの形態について浅殿筋の形態を含めて調査を進める必要がある.
B-25奥多摩湖周辺の野生ニホンザル「山ふる群」の調査と環境教育
島田将喜,
古瀬浩史(帝京科学大・アニマルサイエンス)、坂田大輔(山のふるさと村・ビジターセンター)
所内対応者:辻大和
2015年度の調査で得られた山ふる群の推定最大頭数は88頭であった。2013年度以降2015年10月までの調査で、1度でも採食が認められた食物は、同定できた植物が77種(122部位)であった。これに種不明のマメ科(3部位)、種不明のつる性植物(3部位)、種不明の草本類(1部位)、昆虫類、キノコ類である。通年で見た場合、観察された採食の回数の多かったのは、オニグルミの種子、サクラ属の果実、草本類、カキノキの果実、クズの葉、サクラ属の葉、ヤマグワの葉である。2015年度の調査中、山ふる群のサルが民家付近の農作物や果樹などを採食する行動は、一度も観察されなかった。年間の推定遊動域の全体は、奥多摩湖の南岸一帯をコアエリアとする、湖を大きく取り囲む領域であることがわかった。解放水域を除く遊動面積は33.0km2であった。山ふる群は遊動域内に存在するきわめて多様な植物性資源を利用しているが、もっとも強く依存する食物資源は、かつて山のふるさと村周辺地域に暮らしていた人々が放棄した植物である。しかし遊動域内の植生の生産量が十分な年には、山ふる群のサルたちは民家のカキノキなどを食べるようなリスクを負わないことが示唆された。
B-26中部山岳地域に生息するニホンザル個体群の遺伝子モニタリング
赤座久明(富山県自然博物園ねいの里) 所内対応者:川本芳
遺伝子解析により、中部地方に生息するニホンザルの群れや地域集団の類縁関係を明らかにし、地域個体群の成立過程を検討することを目的にして、DNA試料の野外採集と分析を行った。
2015年6月から11月にかけて、滋賀県杉野川、岐阜県揖斐川流域でDNA試料の糞を採集した。分析の結果、ミトコンドリアDNA調節領域(mtDNA-CR)(1015塩基対)から、Aタイプ(杉野川、揖斐川)、Bタイプ(揖斐川)、2つのハプロタイプを検出した。2タイプの第二可変域に注目して、ハプロタイプを分類(Kawamoto
et al 2007)すると、AはJN21タイプ、BはJN30タイプであった。JN21タイプは、第一可変域に10種類のハプロタイプを持っており、揖斐川のJN21集団は先行研究により石川県白山の集団や岐阜県長良川の集団と共通のタイプであることが分かっていたが、今回の調査で、同じタイプが滋賀県杉野川流域にも分布する可能性が考えられた。JN21集団は近畿地方から中部地方にかけて広域に分布している集団であるが、このうち日本海沿い分布している4タイプの集団(西からA:京都、B滋賀・福井、C石川・岐阜、D富山)について、mtDNAハプロタイプのネットワーク解析(TCS解析)を行った結果、遺伝的な近縁関係は、A→B→D→Cの順に並び、必ずしも地理的位置関係と一致しないことが分かった。研究成果を2015年10月25日に霊長類研究所で開催された共同利用研究会「ニホンザル研究のこれまでと、今後の展開を考える」で公表した。
B-27霊長類後肢骨格の可動性
佐々木基樹,
近藤大輔(帯広畜産大・基礎獣医学) 所内対応者:平崎鋭矢
昨年度解析したニシローランドゴリラの個体に加えて、新たに雄のニシローランドゴリラ1個体の後肢を、CTスキャナーを用いて非破壊的に解析し趾の可動域を前年度の個体の結果と比較した。さらに、これらのデータをチンパンジー、ニホンザル、そしてスマトラオランウータンの可動域と比較検討した。これまでの解析方法と同様に、第一趾を最大限伸展および屈曲させた状態でCT画像撮影をおこなった。得られたCT断層画像データを三次元立体構築して、第一趾の可動状況を観察した。今回解析したニシローランドゴリラの第一趾の第一中足骨は上下斜め方向に可動面を持つニホンザルやチンパンジーとは違って足の背腹平面で可動しており、その可動域は同じ背腹平面で第一趾を可動させているチンパンジー3個体のものと比較すると顕著に大きかった。このことから、ニシローランドゴリラの背腹平面における大きな第一趾の可動域は、個体差ではなく種特異的な形態学的特徴である可能性が高いと考えられる。
B-29新世界ザルに保存された鋤鼻器の機能を探る
守屋敬子(東京都医学研) 所内対応雄者:今井啓雄
鋤鼻器はフェロモンなどの化学物質を受容する器官として機能しているが、ヒトを含む狭鼻猿類では痕跡化している。しかし、鋤鼻器の感覚センサーである鋤鼻受容体は僅かに保存されており、ヒトで3遺伝子、他の狭鼻猿類で0?4遺伝子存在する。一方、原猿類は齧歯類並みの発達した鋤鼻器を持ち、鋤鼻受容体も多様である。その中間に位置するのが広鼻猿類で、鋤鼻器を持つが、ゲノム上の機能的な鋤鼻受容体数は大幅に減少しており、コモンマーモセットでは7遺伝子のみである。霊長類における鋤鼻器退化および鋤鼻受容体数の減少の歴史をひもとくには,広鼻猿類が保有している鋤鼻器の機能を理解する事で推測出来ると考え、コモンマーモセットを対象に研究を行った。
コモンマーモセット鋤鼻受容体のin situハイブリダイゼーションを行ったところ,鋤鼻で発現しているものは5遺伝子であった。そのうち2遺伝子は嗅上皮でも発現が確認された。残りの3遺伝子は鋤鼻特異的に発現していた。分子進化的解析よりこの3遺伝子は広鼻猿類の中で遺伝子重複を起こしたと分かった。それ以外の遺伝子は他の哺乳類鋤鼻受容体との相同性が高かった。それらは、鋤鼻以外の臓器にも発現している事から機能については更なる研究が必要である。
B-31金華山におけるワカモノメスのアロマザリングの個体差と自身のアカンボウへの育児行動との関連
島田朋美(帝京科学大・院・環境マテリアル) 所内対応者:辻大和
ニホンザルにおけるアロマザリング(母親以外の個体による育児行動)の研究は飼育下や餌付け群で多く行われており、1~2歳のコドモ、未経産のワカモノメスによくみられる。そこで本研究では野生ニホンザルのアカンボウの視点から母親以外がどのように関わるのか、アロマザリングに注目し検討を行った。金華山島のニホンザルB1群(群れの頭数は2014年35頭、2015年33頭)を対象とし、そこで生まれたアカンボウ(2014年11頭、2015年2頭)を対象個体として、2014年、2015年の4~7月に計138時間の個体追跡を行い、対象個体の行動、対象個体への社会交渉の相手と内容について記録した。その結果、アカンボウへのアロマザリング頻度が最も高いのは2014年ではオトナメスの2.5回/h、2015年ではコドモからの2.8回/h
であった。しかしオトナメスは2015年では0.8回/h、コドモは2014年では0.3回/hと年によって頻度に差があった。これは年によってコドモの数が違うことに大きく影響を受けていると考えられる。また抱擁・運搬・グルーミングについて個体ごとに分析を行った結果、ほとんどの個体が10回未満なのに対し、オトナメス(経産メス・高順位)が122回、次点ではワカモノメス(未経産・中順位)の48回であった。そこからアカンボウとの血縁関係に注目して分析するとオトナメスは血縁に対し13回、非血縁に対しては109回、次点のワカモノメスは血縁43回、非血縁に5回であった。先行研究でコドモやワカモノメスに多くみられたのは、血縁者のアカンボウが多かったのではないかと考えられる。また育児行動の回数が多かったオトナメスは2歳以下のコドモをもっておらず、高順位なのも要因の1つであると考えられる。
B-32霊長類における神経栄養因子の精神機能発達に与える影響
那波宏之,
難波寿明(新潟大・脳研・分子神経) 所内対応者:中村克樹
神経発達障害を病因とする統合失調症などのヒト精神疾患をモデル化するには、よりヒトに遺伝子や行動パターンが類似する霊長類が最適と考えられる。共同研究者らは、新生仔ネズミの皮下に神経栄養性サイトカインである上皮成長因子(EGF)やニューレグリン1などを投与することで、思秋期以降に種々の認知行動異常を呈する統合失調症モデルを樹立しているが、実際、ヒト霊長類でも再現されるかは不明であった。本共同利用研究課題では、サル霊長類でもサイトカインの新生児投与で発達依存性の認知行動変化が起こせるかどうか、マーモセットおよびアカゲザルを用いて検討している。
これまでにマーモセット新生児4頭へのEGF投与を実施してきているが、2010年にEGF投与を皮下投与されたマーモセットは、3歳を越えた段階で、活動量の上昇やアイコンタクトの頻度低下を示し、逆転学習課題等の認知行動課題においてその能力が著しく低下していることが判明した。満3歳を迎えるマーモセットは、ビデオによる行動観察に加え、MRIを用いた構造およびDTIのデータ取得を行った。また、2012年と2014年に合計マカク新生児3頭へEGF投与も実施している。2頭は飼育担当者から行動がおかしいと報告があり、個別飼育のケージに移したところ、ヒトに対して恐怖反応を示さないなど情動行動の異常が観察されている。
B-34 The Comparative Biomechanics of the Primate Hand.
William Irvin Sellers (University of Manchester) 所内対応者:平崎鋭矢
This project was focused primarily on the acquisition of a range of comparative
biomechanical data in order to better understand the evolution of manual
dexterity among the primates. Our primary dataset was obtained by filming
individual animals held at PRI. This entailed extensive preparation work at PRI
ensuring access to the enclosures and adequate space for setting up the cameras
and lights needed for the experiments as well as designing suitable arrangements
for allowing the subject animal to interact manually with various food items.
The filming itself was carried out over a 2 week period in August 2015 and was
in general very successful. For the first time we used 8 synchronised cameras
and this allowed us to cover a larger angular range for better 3D
reconstruction. However this innovation was not without its difficulties since
it meant that we generated a great deal of raw data and the time taken for data
transfer and archive is appreciable. The extra cameras also produced a number of
hardware challenges with reliable synchronisation that had to be overcome. We
also trialed new software for 3D photogrammetric reconstruction and this,
coupled with the extra cameras, means that we have achieved our basic objective
of capturing the 3D finger movements in Japanese macaques, capuchin monkeys, and
a spider monkey in manual feeding tasks involving different sized food items.
This is a major achievement and is the first time such data have been obtained.
However we are still at the stage of data analysis. Our current system captures
the 3D outlines automatically but the underlying skeletal movements that are an
essential part of understanding the musculoskeletal processes need to be
calculated based on surface anatomical feature. This calculation process
requires considerable operator intervention in its current form and it extremely
time consuming. We are therefore currently working on automatically fitting hand
outlines to the point cloud data so that the skeletal movements can be extracted
both more accurately and much more rapidly. We are similarly working on how to
best present this complex, multidimensional dataset in a form suitable for
publication since this is the first time such data has been examined in this
way. At the same time it has become clear from our initial analysis that we need
to improve some aspects of our experimental design. It is likely that the camera
placement used with 8 cameras could be improved and we wish to trial different
camera arrangements to improved the directional coverage, and reduce the issues
associated with fine finger movements being obscured. In addition we need to
extend the range of hand use tasks to cover a wider range of grip styles. The
monkeys have strong grip preferences and the current tasks only allow subtle
differences associated with different sized food items. We therefore need to
experiment with a larger range of manual tasks including locomotor hand use so
that we can measure the major classes of hand use that have been described in
the literature.
B-35霊長類精原幹細胞の解析
久保田浩司, 垣内一恵,
高橋将大(北里大・獣医) 所内対応者:今村公紀
雄の生涯に渡る精子形成は精原幹細胞の自己複製によって維持されている。しかし霊長類の精原幹細胞の実体はほとんど明らかにされていない。本研究はこれまで申請者が明らかにしてきたマウス、ラット、ラビット精原幹細胞の性状および開発したそれら精原幹細胞の自己複製を促す無血清培養系をもとに霊長類精原幹細胞の性状解析と長期培養系の確立を目指している。霊長類研究所からの新鮮精巣試料は得られなかったため、実験動物中央研究所より供試されたマーモセット精巣試料を用いて、フローサイトメトリー、免疫組織化学解析、及び培養細胞の免疫細胞化学解析を行った。未だマーモセット精原幹細胞の同定には至っていないが、齧歯類・ラビットの精原幹細胞培養系においてマーモセット精原細胞の維持が可能であることが示唆された(図)。現在、継続して解析を進めているが、並行して新鮮精巣及び培養細胞におけるマーモセット精原幹細胞活性の評価系の開発を進めている。
B-37 Determining the correlation between primates abundance and habitat quality
index based on the application of protein-to-fiber ratio analysis of mature
leaves of dominant tree species in logged forests in Sabah, Malaysia
Henry Bernard (Institute for Tropical Biology and Conservation, Universiti
Malaysia Sabah) 所内対応者:松田一希
Discussons have been made with my local research collaborator (DR. Ikki Matsuda)
during the short term visit to PRI on the potential of using habitat quality
index, measured as mature leaves protein-to-fiber ratio, to predict primate
population abundance at local spatial scales in Sabah. The analysis was further
extended to include not only research sites in Sabah, but also sites elsewhere
in Kalimantan, Sumatera and Peninsula Malaysia. All raw data on crude protein
and fiber (ADF) from 6 diferent sites on Borneo (i.e., 5 sites in Sabah and 1
site in Kalimantan) and 1 site in Sumatera have been integrated. In addition,
secondary data form 1 site in peninsular Malaysia were obtained and included in
the overall data pool. Altogether, the data set combined represented the crude
protein and ADF of mature leaves of dominant tree species from Abai, Sukau,
Danum Valley, Kalabakan, Klias, Sebangau, Pangandaran and Kuala Lompat. However,
the main issue with regard to estimating folivores primate biomass at the
different sites remains unresolve, due to differences in the methods used to
estimate the primate biomass at the different sites. Moreover, there were sites
where primate biomass estimates are non-available. Therefore the analysis
between habitat quality index and primate biomass for the different sites is
still pending. It was envisaged, however, that this issue will be settled in the
near future. A discussion was also held on how to write the paper in connection
with the obtained data and intensive literature research was made based on
available resources at PRI. All chemical analysis of leave samples have been
completed and a simple laboratory procedure to assess particle size of primate
feces have been observed. The primate particle size analysis may become useful
in the future in connection with dietary studies of primates which is a topic
related to the current data analysis on leaf quality index. During the visit, a
draft paper co-authored by Dr. Ikki Matsuda and other collegues, was produced
which has been submitted for potential publication. Lastly, we have discussed
concerning future research collaboration between ITBC,UMS and PRI.
B-38霊長類ES,iPS細胞分化に与える環境化学物質の影響
高田達之(立命館大・薬学部), 檜垣彰吾,
三ツ石弥千代(立命館大・グローバルイノベーション)
所内対応者:今村公紀
ヒトiPS細胞を使用し、レチノイン酸存在下において分化培養を行った。この際、様々な環境化学物質を培地に添加し、未分化マーカー遺伝子、細胞分化マーカー遺伝子・レチノイン酸応答遺伝子の発現変化をreal-time
PCRを用いて解析した。その結果、ビスフェノールAおよびノニルフェノールが未分化マーカー遺伝子およびレチノイン酸応答遺伝子発現に与える影響することがわかった。現在そのシグナル伝達経路を解明すべく、マイクロアレイを用い、gene
set enrichment解析を行っている。
また化学物質がエピジェネシスに与える影響を明らかにするため、LC/MS/MSによる、メチルシトシン(mC)、5ヒドロキシメチルシトシン(hmC)の微量定量法を開発し、まずカニクイザル組織中のmC,hmCの定量を行った。霊長類においても脳組織に高いhmC(0.8%/G)が検出され、中枢神経系におけるhmCの機能が示唆された。次にマウス卵において受精後のDNAの脱メチル化の微量定量解析を行った。これにより、リプログラミング過程におけるDNAメチル化動態を初めて定量的に解析することができた。その結果、父方ゲノムにおいては、DNA複製前から急激な脱メチル化が生じ、受精10時間後には約40%低下すること、受精後10-48時間(2-cell
から8-cell)はメチル化レベルがほとんど変化せず、その後再び低下し、胚盤胞期胚ではmC量は約1%となることが明らかとなった。また5hmCレベルは常に低く、特に受精後3-6時間においては5mCの低下と5hmCの生産は相関していないこと、雄性発生胚でのみ5hmCが高いレベルで検出され、母方ゲノムとの関連性が示唆された。
B-39口腔における感覚受容機構の解明
城戸瑞穂, 合島怜央奈(佐賀大・医), 木附智子(九州大・院・歯学) 所内対応者:今井啓雄
適切な口腔感覚は、哺乳類において哺乳・摂食・情報交換など多様な行動の基盤となっている。しかしながら、その機構についての理解はまだ限られたものである。私たちは、(狭義の)味覚とされる甘味・塩味・酸味・苦味・うまみ以外の口腔内の感覚、とくに、温度感覚や唐辛子や胡椒などのスパイスなどのへ感覚、触圧感覚などの機構の解明を目指し、こうした広義の味覚とされる感覚の分子基盤として、TRP
チャネル(transient receptor potential channel)を想定し研究を進めている。そして、ヒトにより近いサルにおける発現および機能的側面を調べ、これまでにげっ歯類にて得た結果と比較することを目的とした。
今年度は、新たに作製したTRPチャネル抗体がサル組織を認識するかを調べ、特異的な標識を得るための条件検討を行った。今までの結果では、非特異反応も混在しているようであるため、今後、試料採取や保存等の条件も含め検討を行う予定である。
B-40下北半島脇野沢の野生ニホンザル群の分裂が個体群動態に与える影響
松岡史朗,
中山裕理(下北半島サル調査会) 所内対応者:古市剛史
個体数増加傾向にあった下北半島南西部のA87群は2012年に83頭に増加し、2013年4月に43頭(87A群)と22頭(87B群)の2群に分裂した。分裂3年目の2015年度の出産率、赤ん坊の死亡率は各々、87A群37%、0%と分裂前の高い出産率、低い死亡率の状態に戻った。分裂前(1984~2011年)分裂後(2013年以降)の群の増加率、出産率、0~3歳の死亡率、遊動距離を比較してみたが、どれも変化は見られなかった。分裂年度2012年に見られた0~3歳の高い死亡率はこのときのみの現象であった。分裂前、年々増加傾向にあった群れの遊動面積は、分裂後も縮小は見られず、今年度は、さらに新たな地域への遊動が観察された。これは、隣接する84群の捕獲による個体数の減少、遊動域の変化の影響も考えられるが、明確なデータはいまのところない。
B-41大型類人猿における手首・大腿部の可動性の検証
中務真人, 森本直記, 野村嘉孝, 近藤芽衣, 江﨑俊介,
小林諭史(京都大学・理・自然人類学研究室)
所内対応者:西村剛
化石から過去の人類がどのような歩行様式を有していたかを推定するには、歩行に関連する関節の可動域推定が重要である。化石標本における関節の可動域を推定するために、霊長類研究所所蔵大型類人猿標本(冷凍、液浸)について、X線CT撮像を行った。今年度はチンパンジー5個体、ゴリラ1個体を新たに追加した。現在、アルディピテクスの手根の運動機能を正確に復元する試みに集中し、チンパンジーのデータを元に軟部組織がついた状態での最大背屈姿勢をPC内で骨のみから正確に再現するための方法を検討中である。また、手根関節での関節軟骨の厚さがチンパンジーでは予想以上に厚いため、関節軟骨の有無が化石標本におけるこうした推定に及ぼす影響も検討している。また、このデータ収集に関した派生的プロジェクトとして、手の中手基節関節における種子骨の出現頻度を検討した。この特徴(喪失)は大型類人猿の派生的形質として考えられているが、報告例が不十分であった。これまでの結果とあわせ評価を行ったところ、大型類人猿で母指列の種子骨が高頻度で失われている結果を得た。この成果は日本霊長類学会において発表した。
B-42豪雪地域のニホンザルによる洞窟利用のモニタリング
柏木健司(富山大・理) 所内対応者:高井正成
「豪雪地域に棲息するニホンザルは、防寒のために洞窟を利用する」、この生態は富山県東部の黒部峡谷で2010年に初めて確認され、継続的な現地調査と自動センサーカメラによる観察により、より詳しい生態の解明が進められている。一方、この生態が黒部峡谷に棲息するニホンザルが獲得した特異な生態なのか、それとも日本列島各地の豪雪地域に棲息するニホンザルに共通するものなのかは、それを判断するに足りる情報に絶対的に不足している状況であった。
栃木県日光市野門の山腹斜面には、野門鉱山の坑道跡が知られている。また、野門周辺は冬期間、定常的な積雪が観測される地域であり、ニホンザルの洞窟利用の検証に適した地域の一つである。今回、野門鉱山の坑道跡において、冬季排泄のニホンザルの糞を確認した。糞は、洞口付近で数百個と多量であり、さらに洞口から5
m強の地点に於いても、100個強の糞が密集している。胡桃大の糞は、しばしば繊維質の物質で数個が連結し、糞表面には植物起源の破片が多量に見られる。辻 大和博士による糞内容物の検討によると、ほぼ100
%に近い割合で樹皮から構成される。野門地域のニホンザルは、厳冬期、防寒のために坑道に入り、サル団子を形作り寒さをしのいだ。「ニホンザルの洞窟利用は、豪雪地域におけるニホンザルに共通する生態である」という仮説を立証するための、新たなデータが加わった。
B-43一卵性多子ニホンザルの作製試験
外丸祐介, 信清麻子, 吉岡みゆき(広島大・N-BARD),
畠山照彦(広島大・技術センター) 所内対応者:岡本宗裕
本課題は、動物実験に有用な一卵性多子ニホンザルの作製を目指すものであり、これまでに体外培養系卵子・受精卵の操作・作製に関する手法の確認を進めながら、分割受精卵の作製試験に取り組んできた。平成27年度は、6頭の雌から採卵試験を行い、体外受精卵の作製と凍結保存の検討を行った。凍結保存の手段としてガラス化法を用いて保存する受精卵のステージを検討した結果、胚盤胞に比べて8細胞期?桑実胚の場合に高い生存率が得られることがわかった。また、平成26年度末以降に、2頭のレシピエント雌に凍結保存した分割受精卵の移植試験を実施した結果、1/2例で妊娠が確認された。最終的には死産ではあったが妊娠満期の産仔を得ることに成功し、体外受精→受精卵分割→凍結保存を経た受精卵が個体発生能を持つことが確認できた。今後は更に移植試験を継続することで、一卵性多子ニホンザルの作製を達成したいと考えている。
B-44全ゲノムシークエンスデータ解析に基づく解析困難領域の同定と遺伝的多様性の解析
藤本明洋(理化学研・総合生命医科学研究センター) 所内対応者:古賀章彦
申請者らは、日本人108人の全ゲノムシークエンスデータより、解析困難な領域を抽出した(解析困難な領域は、ヒト標準ゲノム配列に存在しない配列と多様性が極めて高い領域より選出した)。また、それらの配列を濃縮するためのアレイ(解析困難領域アレイ)を作成した。
共同利用で提供を受けたチンパンジーのゲノムDNAをアレイで濃縮し、平均サイズ2080bpの解析困難領域由来のDNAを得た。両側にアダプターを付加し、第3世代シークエンサー用のライブラリを作成した。このライブラリをPacBio
RSを用いてシークエンスし、59,994本のリード(総塩基数 1Gbp)を得た。PacBio
RSはシークエンス長が長いものの、エラー率が極めて高い。エラーの補正のため、同じライブラリを第2世代のシークエンサーMiSeqでシークエンスした。MiSeqによるシークエンスの結果、11,587,746本のリード(総塩基数
1.7Gbp)を得た。
現在は、MiSeqによりシークエンスされた配列をPacBio RSでシークエンスされた配列にマッピングし、エラーの補正を行う解析パイプラインを構築している。マッピングプログラムとして、多型性が高い領域に対するマッピングを得意とするSHRiMP2ソフトウエアを選出した。様々なパラメーターで、第3世代シークエンサーのデータに対して、第2世代シークエンサーのリード配列をマッピングし、マッピング率の比較を行っている。
B-45 マカク歯髄幹細胞による歯髄再生法の開発
筒井健夫, 小林朋子,
松井美紀子(日本歯科大・生命歯学) 所内対応者:鈴木樹理
平成27年度は、前年度にニホンザル2例の下顎左側乳犬歯と下顎左側第一乳臼歯それぞれの歯髄腔へ歯髄細胞の三次元構築体を9ヶ月間移植し、抜歯後にX線解析と組織学的解析を行った。新たに、ニホンザル2例について三次元構築体を下顎右側乳犬歯と下顎右側第一乳臼歯それぞれの歯髄腔へ3ヶ月間移植し、抜歯後脱灰を行っている。また、移植した乳歯歯髄細胞についての細胞特性解析は、ヒト乳歯歯髄細胞との比較検討を行った。ニホンザル乳歯歯髄細はヒト乳歯歯髄細胞と比較し位相差顕微鏡による形態学的観察では、ニホンザルでは線維芽細胞様形態が観察され、ヒトではより紡錘形の線維芽細胞様形態であった。細胞増殖曲線において、ニホンザル1例ではヒトと比較し同程度の増殖能がみられ、また細胞周期解析においては、ニホンザルではヒトと比較しG0/G1期の減少およびG2/M期の増加が解析された。石灰化誘導によりニホンザルでは、誘導後3週目にアリザリンレッド染色において陽性像が観察され、ヒトでは誘導後2週目に陽性像が観察された。さらに脂肪分化誘導によりニホンザルでは17日目に、またヒトにおいては2週目に陽性像が観察された。9ヶ月間移植を行った乳歯のX線像には、乳歯歯冠歯頸部と歯髄腔内にX線不透過像が観察された。組織学的解析では、歯髄腔内に修復象牙質様組織像および象牙質粒様組織像の形成が認められた。
B-46福島県に生息するニホンザル(Macaca fuscata)の寄生虫症および感染症に関する疫学調査
浅川満彦,
萩原克郎(酪農学園大・獣医学群) 所内対応者:岡本宗裕
福島県に生息するニホンザル(Macaca fuscata)の個体群は、管理の不十分さから、現在、そのサイズを急増させ、周辺地域で悩ましい問題が包含される。すなわち、地元住民の生活を農産物の害獣として圧迫すること、あるいはサル・人との極めて接近した状態は感染症というバイオリスクも併存するなどである。このような異なった性質を具有する個体群であるが、双方に関わるのが感染性病原体agentsである。前者では個体群の急増は感染論的に非常に危機的である。後者の場合、ヒトへの感染リスクも当然であるが、結核菌・ヒト蟯虫のようにヒトからサルへの感染があり、それがagentsの新たなソースになる可能性もあろう。このような複合した問題に、申請者と共同研究者がこれまで実施した技術を用い、共同して網羅的なagents侵淫状況の疫学調査を実施し、ヒト・動物双方の感染症予防施策の基盤とすることを目的としてきて。昨年7月は福島で有害捕獲されたニホンザル個体の蠕虫検査を継続するとともに、捕獲されている地点の一つ、摺上川など共同研究者である日本獣医生命科学大学の羽山伸一教授が拠点とするフィールドを実見した(下記写真集参照;申請者、摺上川ダム、ダム周辺は人気キャンプサイト-ヒトへの感染症の脅威、近くの畑に設置されたワナ、ニホンザルの往来、新鮮便、餌やり禁止の立て看板)。蠕虫感染の生態学を目的とした調査であるので、こういった踏査は不可欠で、実際、助成頂いた研究費もこの踏査源泉とさせて頂いた。しかし、当日は台風11号の最中で、天候が悪く、危険を伴うもので、必ずしも十分ではなかった。帰任にあたり、この地域の森林も管理する林業試験場でも情報入手を試みた。蠕虫のうち、腸結節虫類について、対応者の岡本教授が分子解析を継続中である。しかし、DNA抽出が困難なようで、新たな材料入手が必要となっている。また、ウイルス病については、分担者の萩原教授が分析を進めており、2016年に学会報告予定であるとの連絡を受けた。なお、2015年は獣医学会で「浅川満彦.
2015. 北限のサルの感染症と保全. 第158回日本獣医学会公衆衛生学/野生動物学分科会合同シンポジウム「ニホンザルの保全」,北里大学,
9月7日(第158回日本獣医学会プログラム・講演要旨集,
北里大学, p. 251)」を行い、その報告は2016年度、その基盤となる内容は原著論文として刊行の予定である。
B-47霊長類神経系の解析とヒト疾患解析への応用
井上治久, 沖田圭介, 今村恵子, 近藤孝之, 江浪貴子,
舟山美里, 大貫茉里(京都大・iPS細胞研究所)
所内対応者:今村公紀
本年度は、霊長類神経系の解析とヒト疾患解析への応用の研究目的にむけて、iPS細胞の技術開発に取り組んだ。具体的には、STOフィーダーを使用しない培養液が開発されてきたことをうけて、フィーダーを用いて樹立したiPS細胞がフィーダーフリーに移行できるかどうか、フィーダーフリーでのiPS細胞樹立、その後の維持培養がiPS細胞の特性は維持されるのかを、まずヒトiPS細胞を用いて検討した。
STOフィーダーを使用して樹立した樹立したiPS細胞株を、STOフィーダー上の培養からフィーダーを使用しない培養への移行は以下の手順で行った。CTK液処理でフィーダーを取り除いた後、ピペッティングでiPS細胞コロニーをクランプ化、リコンビナントラミニン(iMatrix-511、ニッピ社)でコートを施したプレートに、Onフィーダー用途培地(霊長類ES/iPS細胞用培地、リプロセル社)と、フィーダーレス培地(StemFit
AK01もしくはAK03、味の素社)を1:1で混合したものを使用し継代した。48時間後に全量をフィーダーレス培地で置換して移行させた。最終的に全てが、フィーダーレス培養系に移行できた。結果、全ての株が、フィーダーフリー培養系に移行できることを確認した。さらに、ヒトからフィーダーフリーで樹立したiPS細胞を、複数回継代後、常法により神経系へと分化させた。神経系細胞への分化効率はフィーダーを使用して樹立したiPS細胞と同等であった。STOフィーダーを使用しない条件でのiPS細胞樹立、その後の維持培養がiPS細胞の特性は維持されていた。
今後、上記、条件を元に、フィーダーを使用して樹立されたチンパンジーiPS細胞をフィーダーフリーに移行する。もし、移行ができなかった場合には、フィーダーフリーでの樹立を行う。
B-48 Genomic Evolution of Sulawesi Macaques
Bambang Suryobroto(Bogor Agriculture University) 所内対応者:今井啓雄
Sulawesi macaques are exceptional as the seven species evolved allopatrically in
an island that is less than 5% of the whole coverage area of the genus Macaca.
The island itself is part of the zoogeographical realm called Wallacea that is
highly endemic. There are three issues regarding the evolution of Sulawesi
macaques. The first is taxonomic status, the second phylogenetic relationship,
and the third hybrid population problem. Recent development in DNA technology
(next generation sequencing, NGS) leads to the ability to read the whole genome
of an individual. This immense genomic data provide an opportunity to find the
most taxonomically informative loci to base the phylogenetic hypotheses and also
to observe the gene dynamics of hybrid population. Dr. Yohei Terai (Soken-dai)
and I went to Palu in Sulawesi, near the boundary of the distribution of two
macaque species, Macaca tonkeana and M. hecki. We sampled DNA from nine
individuals of M. tonkeana and ten of M. hecki. We constructed genomic DNA
libraries from all 19 samples, and subsequently captured the exon sequences
using exon capturing kit. The average size of libraries were 550 bp. We will
determine the exon sequences from the libraries.
B-49 Greater sensitivity in yellow-blue (YB) color of dichromat monkeys
Kanthi Arum Widayati (Bogor Agricultural University) 所内対応者:今井啓雄
Macaque monkeys have trichromatic color vision homologous to that in humans.
However, through molecular genetic analysis, previous study demonstrated the
existence of a dichromatic genotype among the crab-eating macaques. Previous
research showed that dichromat monkey could not discriminate colors along the
protanopic (colorblind) confusion line, though trichromats could.
Present study aims to study sensitivity in yellow-blue (YB) color and luminance
of colorblind monkey and compare it with colorblind-gene carrier and trichromat
monkeys. We used several blue and yellow colors with three levels of contrast
and six levels of luminance to paint dots arranged to be discernible as a global
pattern. Visual stimuli are presented on screens of two iPods, and each was
placed on top of a reward hole. Monkeys were trained to choose target from
distractors to get the reward by sliding the appropriate device. So far we found
that there are no differences between dichromat, trichromat and carrier monkeys
in detecting the target. We need to introduce lower contrast stimuli to find the
threshold. Now we are doing experiment with additional fund other than kyodoryo.
B-50 Variation of Gene Encoding Receptor of PTC bitter taste compound in
Leaf-eating Monkeys
Laurentia Henrieta Permita Sari (Bogor Agricultural University) 所内対応者:今井啓雄
TAS2R38 is one of TAS2R multigene families that encode receptor to recognize
bitter from PTC compound. TAS2R38 had been identified in many primates. TAS2R38
in human, chimpanzee, Japanese macaques exhibit intra-species polymorphism that
lead to different behavioural response of individual. Taster individual show
aversion to PTC, in contrast to tolerant in non-taster individuals.
Leaf-eating monkeys (Subfamily Colobines) are unique among primates because
their diet mostly consisted of leaves that perceptually tasted bitter to human.
Based on behavioral experiment, Chiarelli (1963) found that five individuals of
three species of Colobines have non-taster phenotype. Thus, we conducted
preliminary behavioral experiments of PTC-tasting on leaf-eating monkeys kept in
Ragunan Zoo. The result indicated that nine individuals of genus Trachypithecus,
Presbytis and Nasalis were all less sensitive to PTC compared with macaque.
Genomic DNA of leaf-eating monkey was obtained from fecal samples. After DNA
extraction, TAS2R38 gene region was specifically amplified using standard PCR
reaction. The result showed that there are some polymorphisms in the TAS2R38
genes of the monkeys. By calcium imaging methods, we found the cell expressing
TAS2R38 receptor of leaf-eating monkeys have lower respond to PTC compared to
macaque similar with the behavioral respond of the monkeys against PTC.
B-51ニホンザル劣位オスの性行動にみられる戦術的欺き
八木創(京都大・院・人類進化論) 所内対応者:半谷吾郎
本研究では嵐山モンキーパークいわたやまのニホンザル餌付け群を対象に、1)野外においても非αオスによる交尾隠蔽が戦術的に行われていること、2)聴覚的隠蔽が行われていること、3)交尾隠蔽が他者の心的状態を理解して行われていること、を明らかにすることを目的とした。その結果、非αオスは交尾中、αオスだけでなく自分より優位なオスから離れることが分かった。しかも、ただ単純に群れから距離を取るのではなく、広さ約1500平方メートル程のパーク内において自分より優位なオスとの近接を避けながら交尾していた。また、コンソート中のメスが発情音を発している場合、オスは自分より優位なオスとの近接を避けるために行動を調整していることが示唆された。他者の心的状態を操作したように考えられる事例は2事例観察できたが、それらが本当に意図的なものなのかは今後の調査が必要である。調査群として選んだ嵐山E群は、放飼場と違い、自由に餌場を離れて遊動ができる環境にある。野生群との違いが、餌という良質で豊富な資源が集中的に存在していることが主だと考えれば、本研究の結果は、野生下と同様の現象を、2次志向性を有する可能性を示唆する戦術的欺きとして、より鮮やかに示せたものである。
B-53霊長類生殖細胞における小分子RNAの解析
塩見春彦, 齋藤都暁, 岩崎由香, 山中総一郎, 蓮輪英殻,
櫻井みなみ(慶応義塾大・医学) 所内対応者:今村公紀
我々の研究室では、マーモセットPIWIタンパク質の一つであるPIWIL3
(MARW3)
が卵巣で発現することを見出した。マウスには存在しないPIWIであるPIWIL3に対する抗体を用い、マーモセットを用いて発現解析を行った。その結果、PIWIL3は精巣では発現がみられない一方で、卵巣における卵胞形成後の卵細胞(原始卵胞、一次・二次卵胞及び胞状卵胞)において発現することを明らかにした。
また、コモン・マーモセットの卵巣においてPIWIL3に結合するpiRNAの単離を試みた。しかし、抗PIWIL3抗体による免疫沈降法ではPIWIL3結合piRNAを得ることができなかった。これは卵巣全体におけるPIWIL3発現細胞の量が極めて限られているためであると考えられる。さらに、コモン・マーモセット卵巣由来のpiRNAの同定を全小分子RNA(15-40塩基長分画)を用いて進めてが、現在のところ検出できない。これは出発材料、つまり、コモン・マーモセットの卵巣の量が少なすぎるためであると考えている。
B-54霊長類におけるマラリア感染関連遺伝子の分子進化学的解析
大橋順, 中伊津美,
安河内彦輝(東京大・理) 所内対応者:今井啓雄
熱帯熱マラリア原虫(P. falciparum)は、自身のEBA175分子をリガンド、ヒトのGYPA分子をレセプターとして利用し赤血球へ侵入する。ヒトとチンパンジーのGYPA分子のアミノ酸配列を比較すると、12個の連続するアミノ酸の挿入欠失置換(チンパンジーで挿入、ヒトでは欠失)がみられる。この部位がヒトに感染する熱帯熱マラリアとチンパンジーに感染するマラリア(P.
reichenowi)の宿主特異性に影響しているとすると、GYPA遺伝子には強い正の自然選択が作用してきた可能性が考えられる。現在、マラリア患者16名と西チンパンジー3匹について、GYPA遺伝子の全コード領域の塩基配列決定を試みている。配列がデータが得られれば、多型サイトと固定サイトの同義置換数と非同義置換数とを比較する(McDonald-Kreitman検定)予定である。
B-55野生オランウータンの繁殖生理と栄養状態に関する生理学的研究
久世濃子(科博・人類) 所内対応者:木下こづえ
大型類人猿の一種、オランウータン(Pongo sp.)がどのような栄養状態で発情・妊娠しているのかを明らかにすることを目的に、尿中のホルモン代謝産物濃度を測定した。2009~2014年に、マレーシア国サバ州ダナムバレイ森林保護区(ボルネオ島)で採取し、冷凍保存したオランウータンの尿サンプル(雌7頭・雄2頭から採取した計41サンプル)中のインスリン分泌能指標物質(C-Peptide)について、エンザイムイムノアッセイ法(Mercodia社製
Ultrasensitive C-Peptide ELISAキット)を用いて測定した。測定の結果、非授乳中の雌でC-Peptideが最も高く(平均2.94
pmol/Crmg、N=8)授乳中(平均0.56pmol/Crmg、N=20)や妊娠中(平均0.35pmol/Crmg、N=11)の雌では低い、という結果が得られた。また雄の測定値は21.30
pmol/Crmgと0.32pmol/Crmgであった。C-Peptideは個体の栄養状態を反映し、栄養状態が良いと高値となる。従って(非妊娠・非授乳で)発情している可能性のある雌は、妊娠や授乳によって栄養的に負荷がかかっている雌よりも、栄養状態が良いことが確かめられた。
B-56遺伝情報によるニホンザル地域個体群の抽出と保全単位の検討
森光由樹(兵庫県立大・自然・環境研/森林動物研究センター) 所内対応者:川本芳
ニホンザルの分布は、連続分布している地域、モザイク状分布している地域、連続分布から著しく孤立している地域と様々である。特に孤立している地域個体群は、遺伝的多様性の消失及び絶滅が危惧される地域個体群である。地域個体群の保全にむけて、早急な遺伝情報の収集が必要である。そこで報告者は、兵庫県内で孤立している地域個体群、篠山地域個体群(18個体)および大河内・生野地域個体群(13個体)の血液サンプル及び皮膚DNAサンプルを用いて常染色体マイクロサテライト計16座位(D19S582,D3S1768,D1S548,D6S493,D4S2365,D13S765,D18S537,D20S484,D7S821,D10S611,D14S306,D8S1106,D12S375,D15S644,D5S1457,D17S1290)について分析を進めた。フラグメント分析で、個体のマイクロサテライト領域の遺伝子型を判定した。地域個体群のヘテロ接合率を求め多様性の違いを比較した。平均へテロ接合率の期待値Heと観察値Hoでは,篠山地域個体群は,
He=0.698, Ho=0.732 であった。大河内群はHe=0.713, Ho= 0.762であった。今後は、サンプル数を増やし、兵庫県北部の絶滅危惧個体群、および佐用船越山個体群の分析を進める。また、糞DNAの分析方法についても開発を行う予定でいる。
B-57ニホンザル二足歩行運動の生体力学的解析
荻原直道(慶應義塾大・理工・機械工),大石元治(日本獣医生命科学大・獣医解剖学) 所内対応者:平崎鋭矢
生得的に四足歩行するニホンザルの二足歩行運動のメカニクスを、ヒトのそれと対比的に明らかにすることは、ヒトの二足歩行の起源と進化を明らかにする上で重要な示唆を提供する。本研究では、ニホンザルの二足歩行運動の床反力と脚のスティフネスに着目し、その移動様式の力学原理を再検証することを目的とした。
ニホンザル二頭を実験室内の歩行路の上を歩行させ、歩行路に設置した床反力計を用いてニホンザル2頭の二足歩行中の床反力を計測した。このとき歩行中の身体運動を計4台のビデオカメラで撮影し、関節点をフレーム毎にデジタイズした。その結果より歩行中の重心点の時間変化を求め、位置・運動エネルギーを算出した。また、その点と着力点を結ぶ脚軸の長さ変化と床反力データから、脚のスティフネス(脚の弾性特性)を算出した。脚スティフネスを体質量と脚長を用いて無次元化を行い、ヒトの二足歩行・走行時の脚スティフネスを比較した。その結果、ヒトの走行時よりもニホンザルの二足歩行の脚スティフネスは小さいことが明らかとなり、ニホンザルの二足歩行は両脚支持期があるにもかかわらず力学的には走行、すなわちgrounded
runningとなっていることが明らかとなった。また、ニホンザル屍体標本から、歩行に関係する主要な筋の速筋線維と遅筋線維の割合を組織学的手法によって計測する準備を行った。
B-58霊長類における絶滅危惧種の保全技術の確立
佐々木えりか,
田中真佐恵((公財)実験動物中央研究所・応用発生学研究センター),
井上貴史, 平川玲子, 高橋司,
岡原則夫((公財)実験動物中央研究所・マーモセット研究部) 所内対応者:中村克樹
米国では絶滅危惧種のゴールデンライオンタマリン(Leontopithecus
rosalia)の保全を目的に、米国内の動物園の動物を交換し、近交化を防ぎつつ個体数を増加させて野生に戻す取り組みが一定の成果を挙げていが、動物個体の移送、飼育環境の変化は、動物に大きなストレスを与える原因となる。本研究では、京都大学霊長類研究所において飼育されているワタボウシタマリンにコモンマーモセット(Callithrix
jacchus)で開発された非侵襲的受精卵採取をはじめとする発生工学技術を応用することで、他の絶滅危惧種の霊長類の遺伝資源保全が可能かを検討する。
前年度は、プロゲステロンの血中濃度を測定することで、性周期の把握が可能となった。そこで平成27年度は、ワタボウシタマリンを雄雌ペアで飼育を行い、血中プロゲステロン濃度から排卵日を予測し、排卵日予測日から約10日後に非侵襲的受精卵採取を3回行った。その結果、コモンマーモセットの受精卵を採取する際に用いる器具類は、ワタボウシタマリンの受精卵採卵に適応可能であること、前麻酔にメデトミジン、ミダゾラム、ブトルファノールの三種混合麻酔、麻酔維持にセボフルラン吸入麻酔を用いたが、麻酔覚醒に時間がかかるため更なる検討を要することが明かとなった。本方法により、ワタボウシタマリン脱出胚盤胞期の受精卵採卵1個を得る事に成功した。
B-59マカク属の月経周期における卵巣動態の解明と人工授精技術の開発
栁川洋二郎、永野昌志、菅野智裕、杉本幸介(北大・獣医)、髙江洲昇(札幌円山動物園) 所内対応者:岡本宗裕
マカク属において凍結精液を用いた人工授精(AI)による妊娠率は低く、特にニホンザルでは産子獲得例がない。そのため、精液の凍結保存法改善とともに、メスの卵胞動態を把握したうえでAIプログラムの開発が必要である。
ニホンザル、オス4頭から精液を採取しTes-Tris Egg-yolk液を基礎としてストロー法とペレット法で凍結した。凍結融解後の精子運動性指数はストロー法では1.1±0.7であったのに対し、ペレット法では10.9±4.6と有意に高かった。また、ペレット法で凍結した精液においては融解3時間後においても高活力精子を確認することができた。蛍光染色により精子性状を評価したところ、融解直後に先体に損傷がある精子の割合がストロー法ではペレット法よりも高かった(52.5±15.0%
対19.4±6.8%)。
一方、経産メス1頭においてのべ2回、月経後7日目および8日目に新鮮精液を用いたAIを実施した。AI時の卵胞直径はそれぞれ6.2mm、7.7mmであり、100μgの性腺刺激ホルモン放出ホルモンを投与することで排卵したが妊娠には至らなかった。AI実施が内因性エストロジェン濃度上昇前であったため、卵子の成熟が不完全であったと考えられた。
さらに色盲の遺伝子を有するカニクイザル、オス4頭より精液を採取、凍結保存しその遺伝資源の保存を行った。
B-60 霊長類のゲノム‐トランスクリプトーム・エピゲノム研究
郷康広(自然科学研究機構・新分野創成センター)
所内対応者:大石高生
平成28年度は693個体のマカクザル、369個体のマーモセットの血液から調整したDNAを用いて、ヒトの精神・神経疾患関連遺伝子(約500遺伝子)と相同遺伝子の全エキソン領域の配列決定を行い、マカクザル・マーモセット集団において、稀な機能喪失型変異(Loss-of-Functional
mutation)を保有する個体の同定を行った。その結果、精神・神経疾患との関連が強く示唆される57遺伝子(マカクザル)、10遺伝子(マーモセット)に稀な(5%以下)機能喪失型変異を同定した。また、マカクザル類の発達における脳内発現動態解析を行うために、1日齢から1歳までのマカクザル脳12領野を対象とした発達脳発現解析を行った結果、皮質、線条体、視床、黒質、海馬、小脳が明瞭なクラスターを形成することが分かった。さらに、GAINにより類人猿の脳試料の提供を受け、ヒトと主にチンパンジーにおける脳内発現動態を解析した結果、マカクザルの解析で得られた結果と同様に、大脳と小脳でクラスターを形成することが分かったと同時に、ヒトとチンパンジーの種間でも明瞭なクラスターが形成されることを明らかにした。
B-61ニホンザルのアメーバ感染に関する疫学研究
橘裕司(東海大・医)、小林正規(慶応大・医) 所内対応者:岡本宗裕
近年、赤痢アメーバ(Entamoeba histolytica)と形態的には鑑別できない新種のアメーバ(E.
nuttalli)がサル類から見つかっている。本研究の目的は、ニホンザルにおける腸管寄生アメーバの感染実態を明らかにすることである。今年度は、岡山県真庭市に生息する野生ニホンザルの糞便27検体について解析した。糞便からDNAを抽出し、赤痢アメーバ、E.
dispar、E. nuttalli、E. chattoni、大腸アメーバ(E. coli)、E.
moshkovskiiについて、PCR法による検出を試みた。その結果、E.
chattoniが25検体(93%)、大腸アメーバが21検体(78%)において陽性であった。また、E.
nuttalliも20検体(74%)が陽性であった。赤痢アメーバ、E.
dispar、E. moshkovskiiは検出されなかった。これまでの他地域における調査でも、E.
chattoni感染は高率に認められ、赤痢アメーバは検出されていない。一方で、E.
dispar、E. nuttalli、大腸アメーバの感染の有無については地域差がある。今回初めて、中国地方以西の野生ニホンザルにおいてE.
nuttalli感染が確認された。
B-62ニホンザル脊髄神経後枝の形態的特徴
時田幸之輔(埼玉医大・保健) 所内対応者:平崎鋭矢
神経後枝の分布領域である背部は本質的に最初に形成された体幹の最も古い部分であるとされており,種や部位による分化の違いが少なく,一様な分節的構成を持つとされている(山田).
今回,ニホンザル液浸標本を対象として,頚・胸・腰神経後枝内側枝の起始,経路,分布を固有背筋との位置関係に注意して詳細に観察を行った.
ニホンザル頚神経後枝内側枝(C2~C4)は頭半棘筋と頚半棘筋の間を走行し,頭板状筋正中起始部の筋束への筋枝も持っていた.
ニホンザル頭板状筋は,ヒト頭板状筋に比べ正中起始が高く,停止部の幅も広い.
脊髄神経後枝内側枝からの枝が, 筋の裏側から,頭板状筋正中起始部の筋束へ分布していた.
ニホンザル胸・腰神経後枝内側枝の形態は大きく2つに分類できた.①内側皮枝を持つもの(Th1-Th7),②内側皮枝を持たないもの.さらに②については,a:筋構成が胸部の様式であるもの(Th8-Th9),b:胸腰部移行領域(Th10-Th11),c:筋構成が腰部の様式であるもの(Th12以下)の3つに細分化できた.それぞれの走行経路は①:皮枝・筋枝共に横突棘筋群の第1層(半棘筋)と第2層(多裂筋)の間を走行する.
②-a:①と同じく半棘筋と多裂筋の間を走行. ②-b:横突棘筋群の第2層(多裂筋)とさらに深層の回旋筋の間を走行.
②-c:回旋筋の深層を走行.
佐藤(1973)はヒトの胸部と腰部では後枝内側枝の走行様式が異なるとしている.
布施(2014)は,ヒトにおいて,下位分節の胸神経に,胸神経と腰神経との移行型と言える走行経路をとる神経が存在することを指摘している.
ニホンザル及びヒトにおける腰神経後枝内側枝の特異化は,
狭鼻猿類または霊長類に特有な形態ではないかと推察している.
これらの成果は, 第31回日本霊長類学会大会,
コ・メディカル形態機能学会 第14回学術集会, 第121回日本解剖学会総会・全国学術集会にて発表した.
B-63霊長類におけるオトガイ部の骨格と支配神経の分布様式に関する研究
岩永譲, 山木宏一, 嵯峨堅, 渡部功一,
田平陽子(久留米大学医学部
解剖学講座肉眼・臨床解剖部門)
所内対応者:平崎鋭矢
われわれはヒト下顎骨において、副オトガイ孔の大きさや位置と副オトガイ神経が分布する領域の関連を明らかにした(Iwanaga
et al. (2015) Clinical Anatomy.)。2015年度の共同利用研究では、下顎骨の形態がヒトと異なるカニクイザルを3D-CTで観察したところ、5体中3体に両側性に副オトガイ孔が存在した。実体顕微鏡下で剖出を行ったところ、5体中4体に副オトガイ孔を見つけ、そこから分布する神経の走行を追った。ヒトと違いカニクイザルのオトガイ孔や副オトガイ孔から出る神経束のうち、一部は後方に向かう太い枝があることが判明した。ヒトよりもオトガイ部の骨格が突出しているため、後方への神経支配が必要だった結果と考えられた。また、最近の研究で、ヒト下顎骨において通常は存在し得ない下顎骨正中の貫通孔が1つの個体において見つかった(論文投稿中)が、カニクイザルの3D-CT所見では5体全例において存在した。通過する構造物は動脈と考えられるが、今後調査を進めることで、カニクイザルとヒトでの下顎骨の発生過程における血管系の関わり合いを解明する糸口になると考えられる。本研究結果は、英文雑誌に投稿予定である。
B-64霊長類腓腹神経の比較解剖学的研究
関谷伸一(新潟県立看護大) 所内対応者:平崎鋭矢
京大霊長類研究所所蔵のチンパンジー胎児2頭、2側の下肢を用いて、腓腹神経(NS)の起始と足背分布を手術用実体顕微鏡の下で解剖して調べた。
第1例(PRI 7993、左):NSは脛骨神経の外側面からヒラメ筋の筋枝(SolN)、腓腹筋外側頭の筋枝(LGN)とともに共同幹をなして分岐した。NSは腓腹筋内側頭と外側頭の間を通り、外果上方1㎝程の部位で皮下に現れ、外果後方を回って第5中足骨外側縁まで達した。その先の第10趾縁には浅腓骨神経(NPS)の枝が分布した。
第2例(PRI 8507、右):NSの起始は第1例と同じであった。また足背分布もヒトをはじめ他の動物と同じく第10趾縁に達していた。
チンパンジー胎児のNSの起始が、いずれもSolNとLGNと共同幹をなしていたことは、見方を変えればNSが主幹でSolNとLGNがその枝であるとも言える。このことは著者が主張してきたNSが上肢の尺骨神経に相同であるという説を裏付ける所見である。また第1例の第10趾縁分布皮神経がNSではなくNPSの枝であったことは、チンパンジーにおいてはNSの足背分布が縮小傾向にあることを示し、NSが必ずしも第10趾縁に分布する絶対的な皮神経ではないことを示している。
B-65比較解剖学に基づく体幹?上肢移行領域の形態学的特徴
緑川沙織(埼玉医大・保健・理学) 所内対応者:平崎鋭矢
内側上腕皮神経(Cbm)は,内側神経束の背側より分岐し上腕後面に分布する.Cbmは第2肋間神経外側皮枝(Rcl-2)と吻合する為,これらを体幹と上肢の境界領域と考えている.本研究の目的は,Cbmの形態的意義を比較解剖学的に明らかにすることである.
昨年度までに狭鼻下目チンパンジー,ニホンザル,カニクイザル,広鼻下目クモザルの調査を終えており,本年度は広鼻下目リスザル,タマリンを追加借用し調査を行った.
上記の霊長類中,ヒト,チンパンジー,クモザル,リスザルではCbmが観察されたが,その他では観察されず,相当する分布域にはRcl-2,3が分布していた.狭鼻下目と広鼻下目それぞれにCbmの有無が見られたことから,系統差ではないといえる.ヒトCbmがRcl-1と相同(佐藤)とすると,Cbm消失はRcl-2,3への移行と考えられる.腕神経叢はRcl系列の神経が上肢形成に対応し発達を遂げたものと考えられており,RclからCbmへの移行とする方が妥当である.ヒト,チンパンジー,クモザルは腕渡りという移動様式をとり肩関節可動域が広い.また,リスザルなど樹上性の強いものも肩関節可動域が広いとされ,これらの種にCbmが存在していた.よってCbmは,胸壁から上腕へ分布していたRclが,肩関節可動域拡大に伴い腕神経叢として特殊化を遂げたものと考えられた.
B-67霊長類の種間交雑に関する集団ゲノミクスおよび数理形態解析
伊藤毅, 木村亮介(琉球大・医) 所内対応者:川本芳
霊長類のような大型野生動物を対象に大規模な交配実験を行うことは不可能なため,交雑によるゲノムと表現型の進化に関する理解は十分に得られていない.本研究は,マカク種間交雑群にゲノムワイドSNP解析を適用することで,交雑進行のプロセスを詳細に推定することを目的とした.外来種タイワンザルと在来種ニホンザルの種間交雑群(和歌山群)に由来する約300個体を対象に当初の予定通りRAD-Seq解析を適用し,マーカーの探索とジェノタイプ判定を行った.平行して,対応する個体の骨格標本を対象に,頭蓋形態のノギス計測とCTを用いたデジタルデータの取得を行った.RAD-Seq解析の結果,9割以上の個体でジェノタイプデータが得られたSNPは3000以上となった.このうち両親種間で分化する約350座位(δ>0.9)を用いて,各個体の交雑指数と種間へテロ接合率を算出した.これら2変数の分布は,和歌山群に雑種第1代,複数代,戻し交雑個体が混在することを示唆した.今後,シーケンスデータを追加してジェノタイプを拡充させると共に,座位特異的な遺伝子型の偏りやゲノムの混合パターンと形態変異との関連について調べていく予定である.
B-68遺伝子分析を利用したワオキツネザルの父系判定の研究
廣川百恵, 中尾汐莉, 新宅勇太, 田中ちぐさ(JMC) 所内対応者:川本芳
本年度は、精度の向上と分析法の簡略化を目的として、Lc5,Lc8,69HDZ035,69HDZ091,69HDZ208に加え、Lc7,Lc9,Lc10,69HDZ225,69HDZ232の5マーカーについて新たにテストを行った。
Lc7,Lc9,Lc10については、この3マーカーを混合する2段階のMultiPlexPCRで分析した。しかし、Lc7,Lc10についてこの手法を用いると、結果の安定性に不安が示唆されたため、マーカーごとに解析する方法を採用した。
69HDZ225,69HDZ232の2つのマーカーについては、今まで使用してきたHDZのマーカーについてシグナルが弱く解析ができなかったマーカーもあり、1度PCR増幅させた産物を解析したデータと、その産物にもう一度KOD-FXの酵素を加えPCR増幅させ解析したデータと比較した。その結果、この2マーカーについては、1回の増幅で十分解析が可能なシグナル強度を得られた。
5種類のマーカーの結果からソフトウェアGenAlex6.5で計算したところ、一般父権否定確率は0.967だが、以前より安定した解析結果を得られるLc5,Lc6,Lc8を加え再計算したところ0.999となった。この8種類のマーカーを利用すれば、より高い精度でワオキツネザルの父親判定が進められると考えられる。現在はこれらのマーカーを利用し、データの解析を進めている。
B-70霊長類の顔面軟部組織の支持組織の研究
渡部功一,
山木宏一、嵯峨堅、田平陽子、岩永譲(久留米大学解剖学) 所内対応者:平崎鋭矢
カニクイザル屍体5体の頭部に対して肉眼解剖学的剖出および組織学的な研究を行い、ヒトとの比較を行った。頬部から側頭部において、浅層の筋膜
(ヒトでいうSMAS層)と深層の筋膜(側頭筋膜、咬筋筋膜)の間に数か所強く癒着する部位が観察された。側頭部では頬骨弓の直上、頬部では咬筋筋膜上に3か所程度観察された。これらの部位には全て顔面神経の末梢の枝が存在していた。また、咬筋前方では浅層の結合組織が下顎枝に強く癒着するように深層に向かって走行しており、ヒトではこの部位で通常観察される頬脂肪体はほとんど観察されなかった。これらの事より、ヒトに存在する顔面軟部組織を支持すると考えられているretaining
ligamentはサルにおいても存在していると考えられるが、その役割は顔面神経を物理的外力から保護する役割が強いと考えられた。ヒトにおいても顔面神経の枝が中を走行しているretaining
ligamentが存在しており、これらのligamentは元来顔面神経を保護するものであったと考察された。また、咬筋前面の癒着部位はヒトではサル程はっきりはしないが類似の構造が存在しており、下顎枝の幅や脂肪組織の量の違いなどによる影響でヒトでは退縮したのではないかと考えられた。
B-72網膜神経細胞のサブタイプ形成を担う分子群の霊長類における発現パターンの解析
大西暁士(理化学研究所・多細胞システム形成研究センター・網膜再生医療研究開発プロジェクト)
所内対応者:今井啓雄
ヒトを含む多くの霊長類の多くは赤・緑・青色感受性の錐体視細胞に起因する3色性色覚を持つが、これら錐体視細胞のサブタイプを決定するための分子機構は不明な点が多い。マウス網膜において青・緑錐体視細胞サブタイプ決定を担う転写制御因子Pias3の発現調節に関与する因子として1型レチノアルデヒド脱水素酵素を同定した。同酵素は、Pias3発現に関与するレチノイン酸受容体であるRXRgammaのリガンドであるレチノイン酸を合成する。
マウス網膜における上記遺伝子のLOF解析において錐体視細胞サブタイプに有意な表現型が認められなかった。そこで、機能を相補する分子の探索を行ったところ、マウス網膜においてチトクロームP450のサブタイプが1型レチノアルデヒド脱水素酵素と発現パターンが重なる事が分かった。培養細胞系においてRXRgammaの活性化能を測定したところ、マウス型に比べ霊長類型の酵素が高い活性化能を示した。即ち、霊長類型のチトクロームP450分子はマウス型に比べて錐体視細胞サブタイプの分化に寄与する事が示唆された。
B-73マダガスカル産希少原塩類の遺伝子判定による血統管理法の確立
宗近功 (一般財団法人進化生物学研究所・資源動物) 所内対応者:田中洋之
本年は日本動物園水族館協会種保存拡大会議が熊本で開催され、血統登録に遺伝子データの導入の必要性を説き、了解された。クロキツネザルの残りの個体のサンプルリングは種保存会議の登録担当者に協力してもらえることとなった。しかし。収集期間が短く、間に合ったのが伊豆サボテン公園と甲府市動物園の2施設にとどまり、クロキツネザル7個体(伊豆サボテン公園♂3♀3, 甲府市動物園♀1)、クロシロエリマキキツネザルは3個体(甲府市動物園♂1♀1とその間の子供1)であった。
マイクロサテライト遺伝子座位の増幅はマルチプレックス法でおこなった。この際、高性能酵素(KODO
FX:TOYOBO)を使うとアニーリング温度の異なる4遺伝子座位を同時に同一温度で増幅することが可能であった。これは非常に効率的で、今後はこの手法を用いれば時間と経費の削減ができる。
国内に飼育されている個体群の遺伝的評価は全個体のマイクロサテライト解析が終了後実施する予定であるが、今回の7個体のクロキツネザルはマイクロサテライト
10
座位を正常に増幅でき、血統登録検討資料として加えた。また、クロシロエリマキキツネザルの3個体の血縁関係は台帳記録と同じ結果を示した。
B-74嵐山E群ニホンザルにおける血縁認識について
横山慧(京都大・院理・人類進化論) 所内対応者:半谷吾郎
霊長類では、母系血縁者間で親和的行動を行うことが多く、コドモの頃の親密さに基づいて血縁者を識別していると考えられているが、父系血縁者を識別するメカニズムについてはよく分かっていない。
本研究は、嵐山ニホンザル餌付け集団のほぼ全個体に当たる110頭ついてDNA解析を試みるとともに0-2歳のメスの行動観察を通じて、親和的行動の多寡と関係している要因を調査し、父系血縁者の識別メカニズムを探ることを目的に行われた。
3歳未満の個体との関係において、非血縁者に比べ母系血縁者、父系姉妹と、また年齢の近い個体との近接率、および遊びの生起確率が有意に高かった。3歳以上の個体との関係において、非血縁者に比べ母親と母系血縁者、父親との近接率、およびグルーミングの生起確率は有意に高かったが、父系姉妹との間には有意な差は認められなかいった。
以上のことから、父系血縁者の識別メカニズムについても母系血縁者と同様、コドモの頃の親和的な関係が効いていると示唆された。しかし嵐山集団においては雌雄間の特異的近接関係が知られているため、コドモの頃に母親を介して父子が、父親を介して父系キョウダイ同士が親密になることによって、一部の父系血縁者を識別しているかもしれない。
B-75サルエイズモデルにおける中和抗体の誘導過程の解明
桑田岳夫(熊本大・エイズ学研究センター), 俣野哲朗(感染症研・エイズ研究センター),
三浦智行(京都大・ウィルス研) 所内対応者:明里宏文
近年、サブタイプを超えた多くのHIV-1株に有効な中和抗体として、BNAb(broadly-reactive
neutralizing antibody)がHIV-1感染患者から分離されてきたが、その誘導メカニズムはよく分かっていない。本研究では新たにSIVsmH635FC株を接種したアカゲザル6頭から定期的に血液、リンパ節を採取し、中和抗体上昇を確認した感染約1年後に殺処分して、中和抗体の誘導過程を解析するための試料を採取した。
得られた試料から抗体ライブラリを作成し、ファージ・ディスプレイ法によりSIV
Env特異的抗体を選別し、SIV感染12週のサルMM617より1種類、MM618から4種類の中和抗体を得た。遺伝子解析の結果、これらの中和抗体は、以前に分離した中和抗体B404とは異なる系統であることが示された。一方、SIV感染サルで誘導されている抗体全体を解析するため、抗体の重鎖遺伝子の次世代シーケンサーによる予備的な解析を行った。今後、経時的な試料を用いて中和抗体の分離と遺伝子解析を進め、HIV-1感染では解析できていない、感染初期の中和抗体の成熟過程をあきらかにしていきたい。
B-76ニホンザル群における食物摂取と栄養状態および繁殖成績の関係について:幸島群と高崎山群の比較
栗田博之(大分市教委・文化財) 所内対応者:濱田穣
これまで報告者は、ニホンザル餌付け個体群である宮崎県串間市の幸島個体群と大分県大分市の高崎山個体群との間で、食物摂取・栄養状態・繁殖成績の関係の比較を行ってきた。これまでにわかったことは、高崎山群では幸島群に比べ、給餌量が多いために体重が重く、出産可能齢が長く、ほぼすべての年齢で出産率が高いこと等である。2015年度については、体重・体長データの追加収集を行うとともに、幸島群における食物摂取に着目した調査を行った。
幸島主群では、原則として週に3日、京都大学野生動物研究センター幸島観察所職員によって砂浜でコムギが投与されているが、それを食べる際、舌で舐め取る行動と指で摘み上げて口に運ぶ行動とを同一個体が織り交ぜることがわかっている(高崎山個体群では、塊状にコムギが落ちている場合を除くほとんどの場合において、指で摘み上げて口に運ぶ方法でコムギを食べる)。そして、コムギ投与開始直後は、相対的に舌で舐め取る行動の生起頻度が高いが、時間経過とともに指で摘み上げて口に運ぶ行動の生起頻度が高くなっていくことがわかった。また、コムギの分布条件を人為的に操作した実験により、コムギが落ちている砂浜の表面の形状やコムギの分布密度によって、2つの行動の生起頻度が異なることがわかった。今後は、採餌行動の種類と採餌速度について2個体群間で比較し、栄養状態の群内順位格差との関係等を明らかにしたい。
B-79ニホンザルフォーミーウイルスとニホンザルとの共進化の可能性
宮沢孝幸, 吉川禄助, 下出紗弓, 宮穂里江,
坂口翔一(京都大学ウイルス研究所) 所内対応者:岡本宗裕
ヒト以外の霊長類は独自のフォーミーウイルス(Foamy Virus:FV)を保有しており、宿主とFVは共進化してきた(Science
(2009) 325: 1512)。ニホンザルは我が国で独自に進化してきたマカク属のサルであり、広範な地域に生息し、地域ごとに特色のある集団を形成している。我々はミトコンドリアよりも変位速度が速いFVに着目し、ニホンザルの集団形成過程の解明を試みている。これまでに、京都府嵐山由来のニホンザルならびに鳥取県若桜由来のニホンザルよりFVを分離し、若桜由来のFVの全長配列を決定し系統樹解析した。さらに鹿児島県屋久島に棲息するニホンザル(ヤクシマザル)4頭からFVを分離し、部分遺伝子配列を決定している。本年度は、ヤクザル由来のFVと霊長類研究所が保有しているタイワンザルからFVを分離し、塩基配列を決定し、解析を行った。その結果、ヤクシマザルのFVは本土のニホンザルのFVとは大きく遺伝子配列が異なり、すべてのFV遺伝子領域で、ニホンザルよりもむしろタイワンザルに近かった。この結果は「ヤクシマザルを含めたすべてのニホンザルの起源は朝鮮半島経由で日本に侵入した」というこれまでの通説と異なるものであった。今後は、タイワンザルならびにホンドザル由来のFVの解析数を増やすとともに、常染色体遺伝子のイントロン配列を用いた解析を行う予定である。
B-80遺伝子解析による三重県内のニホンザルの個体群調査
六波羅聡, 鈴木義久(NPO法人サルどこネット) 所内対応者:川本芳
三重県内のニホンザルは地理的に連続分布しているが、昨年度までにメスと若いオス(群れ出自個体)103個体のミトコンドリアDNA
(mtDNA)のD-loop第1可変域の塩基配列の分析により、亀山市周辺を境にした大きく南北2系統の分類と滋賀県で確認されている1系統が確認されていた。また、オス106個体のY-STR検査については、15タイプに分類され同じタイプが県内各地に広域に分布していることが確認されていた。
現存する群れの遺伝的構造をより詳細に把握するため、ミトコンドリアDNA
(mtDNA)で大きく分かれた2系統(南北)から各32個体を選び、常染色体のマイクロサテライトDNA変異について16マーカーを用いて分析した。
結果、1世代あたりの移住個体数(Nm)やAMOVAによる分析、Hardy-Weinber
testにより、ミトコンドリアDNA (mtDNA)では大きく2系統に分かれた南北間においても、核DNAの交流は頻繁に行われていることが確認された。
今後、ミトコンドリアDNA (mtDNA)のD-loop第1可変域の塩基配列の分析結果・Y-STR検査・常染色体マイクロサテライトDNA変異分析の結果を詳細に検討することにより、三重県内の群れの状況をさらに細かく明らかにしていき、国の法律改正に伴う特定鳥獣保護管理計画の改訂に際し、遺伝的な観点を保護管理計画に反映できるよう、管理単位となる個体群についても検討する予定である。
B-82霊長類の生体と固定標本を用いた前肢帯骨格の可動域の種間比較
加賀谷美幸(広島大・医歯薬保・解剖学及び発生生物学) 所内対応者:濱田穣
ポジショナルビヘイビアの異なる霊長類の種間で、前肢帯の立体配置がどのように異なり、この位置変化と前肢の運動がいかに連動しているか明らかにするため、昨年度にひきつづき、接触型三次元デジタイザとCT撮影を併用した計測を行った。獣医師の協力のもと、ニホンザル、ヒヒ、オマキザルの生体を対象として、麻酔下に前肢の肢位を変えて前肢や前肢帯骨格の位置を示す座標を取得し、CTデータから抽出した骨格形状を重ね合わせ、骨格の位置関係を復元した。また、大型類人猿情報ネットワーク(GAIN)により導入されたテナガザル冷凍標本1個体(左側の開胸部を縫合し、右側で計測)と、マカク個体のThiel法固定標本の計測を行った。胸郭背腹軸に対する肩甲骨位置の指標として、肩甲棘内側端-関節窩中心ラインのなす角を比べると、腕の挙上に従い角度が増し肩甲骨が背側に移動する傾向はどの種も共通していたが、ヒヒでは33度までの値、クモザルやテナガザルはこれより大きくおよそ90度までの値、ニホンザルやオマキザルは両者の中間で推移することが分かり、樹上性が強い種ほど肩甲骨の背側化傾向が強いことが明らかとなった。
B-83複合ワクチネーションによるSIVの感染防御効果の解析
三浦智行(京都大・ウイルス研) 所内対応者:明里宏文
京都大学霊長類研究所のアカゲザル11頭の血液を提供して頂き、当研究室のP3実験室内で比重遠心法により単核細胞を分離した。そこから適切な培養方法を用いることにより、リンパ球やマクロファージの培養系にもってゆき、ワクチン評価のための攻撃接種用ウイルスSIV及びSHIVを感染させた。感染後、培養上清中のウイルスRNA量、逆転写酵素活性、感染力価や感染細胞中のウイルス抗原、アポトーシスマーカーあるいは細胞の生存率等を調べることにより、それぞれのアカゲザルにおけるウイルスの感染性、増殖能、細胞障害活性などの性状を明らかにした。また、それぞれの血液からメッセンジャーRNAを抽出し、逆転写酵素反応によりcDNAを調整した。このcDNA試料を用いてMHC遺伝子のバックグラウンドを調べることによって、これまでに報告されているウイルス抵抗性のMHC遺伝子を保有しているかどうかを個々のアカゲザルについて明らかにした。このようにして得られた基礎情報をもとに、ウイルス研究所のサル感染実験施設でエイズワクチン評価のためのウイルス感染実験を行うために6頭のアカゲザルを11頭の中から選定した。また、当研究施設で既に先行して行っている感染実験サルからのウイルスの再分離や、そのin
vitroでの性状解析も提供して頂いた血液を用いて行った。
B-84哺乳類の寛骨と脊柱(椎骨)の形態と移動運動
和田直己(山口大・共同獣医), 松尾大貴(山口大・農) 所内対応者:西村剛
1、肩甲骨の外形と動物種、体重、生息域を反映するロコモーションとの関係を明らかにした(slide1~12)。
実測値は計測項目の多くが体重に相関していた。
形状を示す計測値の比率は動物種に強い相関を示した。
しかし、生息域(ロコモーション)により異なる動物種(目)間の類似が観察された。
2、肩甲骨に付着す棘上、棘下筋と動物種、体重、との関係を示した(slide
13)。
筋重量と体重との相関を確認した。棘上、棘下筋比は動物種を反映する。
3、チンパンジー、オランウータン、マントヒヒの特に腹鋸筋の作用による応力分布の違いを示した(slide
14~15)。
有限要素法を用いた。この研究は断面形状に関するものである。
今後
応力分布については現在、霊長目を中心に7種のデータが得られた。現在、さらに3種研究中である。すべてが出そろって論文化を行う。
B-85霊長類の光感覚システムに関わるタンパク質の解析
小島大輔,
鳥居雅樹(東京大・院理・生物科学) 所内対応者:今井啓雄
脊椎動物において、視物質とは似て非なる光受容蛋白質(非視覚型オプシン)が数多く同定されている。私共は、マウスやヒトの非視覚型オプシンOPN5がUV感受性の光受容蛋白質であることを見出し(Kojima
et al., 2011)、従来UV光受容能がないとされていた霊長類にも、UV感受性の光シグナル経路が存在するという仮説を提唱した。そこで本研究では、OPN5を介した光受容が霊長類においてどのような生理的役割を担うのかを推定するため、霊長類におけるOPN5の発現パターンや分子機能を解析している。これまでのニホンザル組織試料を用いた解析から、ニホンザルOPN5遺伝子には哺乳類以外のOPN5遺伝子には見られないエクソンが存在することが明らかになっている。そこで本年度はニホンザル・アカゲザル・マーモセット由来の各組織において、このエクソンを含む新奇転写産物を定量し、これまで同定されていた通常型OPN5転写産物と比較した。その結果、これらの転写産物の量比が組織によって異なることを見出した。この新たなOPN5転写産物の機能や存在意義に着目して今後も研究を進めたい。
B-86オランウータンにおける胸郭の形態学的研究
大石元治(日本獣医生命科学大・獣医解剖学),
荻原直道(慶應大・理工), 小藪大輔(東京大・博物館)
所内対応者:江木直子
類人猿の胸郭は横に広がった形状をもち、肩甲骨が胸郭の背側面において側方から上方に回転することができる。この運動は類人猿に認められる懸垂運動と密接に関係しているが、類人猿間で特徴的な懸垂運動の種類や出現頻度に大きな違いが認められ、胸郭の形状にも影響を与えると考えられる。懸垂運動はヒトと大型類人猿の共通祖先のロコモーションを考察する上でも重要であり、懸垂運動への適応的形質を明らかにすることは人類進化を理解するために有用な情報となる。しかし、大型類人猿における胸郭の形状に関する種間差についてはほとんど報告されていない。そこで、本研究では大型類人猿のなかでも懸垂運動を多用することで知られているオランウータン(1個体)の胸郭のCT撮影を行い、三次元再構築を行うことで、胸郭の形状を観察した。Schultz(1950)の報告にあるチンパンジーとテナガザルの胸郭と比較すると、オランウータンはテナガザルと類似しているように思われた。すなわち、オランウータンの胸郭の頭側部がチンパンジーに比べて幅が広い傾向が認められた。今後は標本数を増やすとともに、他の大型類人猿との定量的な比較が必要である。
B-87 DNA analysis of wild rhesus macaques in Southern China
Zhang Peng, Chengfeng Wu, Yuanmengran Chu(Sun Yat-sen University) 所内対応者:今井啓雄
I and my student Miss Xiaochan Yan cooperated with Dr. Imai Hiroo, Primate
Research Institute of Kyoto University. Based on amplifying, sequencing and
other molecular techniques, we successfully selected a set of microsatellite
loci for the study group, and we found it was high homology among Rhesus macaque
in Neilingding Island. As a result, we successfully selected 4 high polymorphism
microsatellite locus of 10 candidate locus to establishing kinship network and
compared to affiliative behavior network. We found it was significant
correlation between kinship network and affiliative behavior network, which
supported to kin selection theory. The result also suggests that with
amplification several times, fecal sample is a suitable DNA source for wildlife
genetic research. In 22 Nov, 2015, we invited Prof. Matsuzawa Tetsuro to visit
my lab in Sun Yat-sen university, China, he gave an impressive lecture to
students. From March 3-6, I attended the 5th International Symposium at
Primatology and Wildlife Science in Inuyama. I thanks Dr. Imai and his
colleagues at PRI for their great advice and helps, and hope to have more
chances for such cooperation.
B-88屋久島における動物の果実食と種子の二次散布の関係
松原幹(中京大・国際教養) 所内対応者:辻大和
ヤクシカやげっ歯類などが、ニホンザルが糞散布した種子の生存率におよぼす影響を調べるため、2015年10~12月に、屋久島西部地域のニホンザルの糞中種子に集まる生物を、自動撮影カメラで調べた。新鮮なサル糞を採集し、糞から直径3mm以上の種子を取り除いた後、着色した種子(カラスザンショウ、ハゼノキ、モッコク、シラタマカズラ)を各糞につき1種ずつ、100個を混ぜた。鉄製の覆い(シカ除けカゴ、小動物除けカゴ、センチコガネ類除けカゴ)を被せたサル糞や、カゴなしのサル糞、果皮を除き着色した種子、無着色種子を、林内の実験区に設置し、3日後、1週間後、1ヶ月後に実験区内に残った種子数を比較した。自動撮影カメラは1ヶ月間設置した。糞設置から24時間以内に、ヤクシカが訪れてサル糞を食べる行動が、カメラトラップ場所の90%以上で確認された。植物種による違いは確認されなかった。サル糞に混ぜ込まなかった種子の半数以上は、1ヶ月後、実験区域内で再発見された。このことから、この地域のサルによって糞散布される種子は、サル糞というシカ誘引物質の付着により、シカ被食率が増加すると推測された。
B-89東京都、埼玉県、山梨県のニホンザル地域個体群の遺伝的解析
井口基, 小林和弘,
小林綾(東京の野生ニホンザル観察会) 所内対応者:川本芳
平成27年度の研究では、新たに共同利用研究に参加した小林らが糞試料の分析方法を習得し、井口が調査地で採取した糞試料とともに東京都、埼玉県、山梨県に生息するニホンザルがもつミトコンドリアDNA(mtDNA)のタイピングを進めた。小林らが採取した秩父市の糞試料では、非コード領域のほぼ全域の配列が解読でき、既知のmtDNAハプロタイプと照合できた。この結果、以前に同所で井口が発見していたタイプと同じであることが判定でき、方法の再現性が確認できた。この技術習得により今後さらに調査が広げられる目処がたった。一方、井口が採取した糞試料82検体についてもmtDNAのタイピングを行い、74検体のタイプが決定できた。従来のデータと比較した結果、これらの中には調査地域外から移入したと考えられる個体が含まれていた。また、井口が確認していたオスグループの構成個体の出自について、mtDNAハプロタイプの母系特異性を地図にプロットし、オスグループのメンバーのもつタイプと比較する作業を開始した。東京都、埼玉県、山梨県のサルに関し、母系で推定する出自来歴の検討が可能になりつつある。
B-90野生ニホンザルの個体数抑制技術の開発
前多敬一郎 (東大・院・農学生命)、束村博子, 大蔵聡,
上野山賀久, 渡辺雄貴, 末富祐太 (名大・院・生命農)
所内対応者:鈴木樹理
本研究は、平成25年に採択された農林水産業・食品産業科学技術研究推進事業シーズ創出ステージ「新規な繁殖中枢制御剤開発による家畜繁殖技術と野生害獣個体抑制技術の革新」の一環として、Neurokinin
B受容体 (NK3R)
拮抗剤を用いた新たな野生ニホンザルの個体数抑制技術の開発の基盤となる知見を得ることを目的とした。ニホンザル雄3頭を用いて、繁殖
(交尾) 期にNK3R拮抗剤 (SB223412) をバナナに充填し、20
あるいは40 mg/kgになるように単回あるいは複数回経口投与した。薬剤投与直前に1回、薬剤投与の3、6、12、24、36、48および60時間後に上腕静脈から採血を行い、LC-MSにより血中SB223412濃度を、酵素免疫測定法により血中テストステロン濃度を測定した。その結果、複数回投与により、血中SB223412濃度を実験期間中、高い値で維持することに成功し、これらの個体の血中テストステロン濃度は、プラセボ投与対照群に比較して、有意に低い値となった。このことからNK3受容体拮抗剤の経口投与は、雄ニホンザルにおいて性腺機能抑制効果を持つことが示唆された。
B-91サル免疫細胞を体内に持つマウス作製の試み
伊吹謙太郎、藤田悠平(京大・院・医) 所内対応者:明里宏文
昨年度に引き続き、サル胎盤由来造血幹細胞(幹細胞)のサル化マウス作製への有用性検討のため、アカゲザル、ニホンザルの胎盤組織に含まれる細胞群についてフローサイトメトリーにより解析し、幹細胞を含む胎盤細胞のNOGマウスへの移植によりサル化マウス作製を試みた。我々は胎盤内にCD34、HLA-DR発現陽性でCD45、CD3、CD14発現陰性、かつ細胞密度の小さな多能性幹細胞を示唆する細胞群が3.6±0.6%存在していること見出しており、本年度も分与された胎盤からこの細胞群を分取した。また、昨年度は幹細胞を移植したNOGマウスが移植後1週を経ずに死亡し、この原因が採取、輸送および分離時の細菌等増殖による胎盤汚染と考え、輸送方法の変更および抗生物質含有培地での洗浄回数増加等分離方法の改良を行った。本年度はアカゲザル4頭、ニホンザル2頭の計6頭の胎盤を分与いただき、そのうちのアカゲザル2頭、ニホンザル1頭分の胎盤においてサル多能性幹細胞の分離を行った。NOGマウス3頭に胎盤より分離した幹細胞と考えられる細胞群を移植したが、観察期間を通してマウス末梢血中にサル免疫細胞は認められず、胎盤の多能性幹細胞がマウスに生着しサル免疫細胞として分化できるのかは明らかにできなかった。
B-92霊長類の嗅覚・フェロモン受容体の多様性と進化
東原和成,
松井淳(東大・院・農学生命科学) 所内対応者:今井啓雄
日常生活において、香りは生活の質を高める重要な要素のひとつとなっている。そして、多々ある香りの成分の中でも、ムスク系香料は、香粧品に広く用いられる魅惑的な香気をもち、動物種を越えてフェロモン様の生理作用をもつという興味深い性質がある。さらに、これまでに数多く合成されてきたムスク系香料は、構造が全く異なるにも関わらず同じ質の匂いを呈することが知られており、これは香料業界における長年の謎とされてきた。
しかし、ムスク系香料がどのような嗅覚受容体レパートリーで認識されるのかは全く解明されていなかった。今回我々は、マウスとヒトを含む5種の霊長類のムスコン(天然ムスク香料の代表的なもの)に対する受容体同定に成功し、これらの受容体の匂い応答特異性を解析することで、ムスク系香料の受容体レベルでの感知メカニズムを明らかにした。さらに、ムスクの香りを感知する際には、キーとなるただ一つの嗅覚受容体の働きが重要であることを明らかにした。本研究の成果は、ムスクの香りの感知メカニズムを解明すると共に、ムスコン受容体の匂い応答特性を評価系とする新たなムスク香料開発に繋がると期待される。
B-93霊長類におけるエピゲノム進化の解明
一柳健司, 佐々木裕之,
福田渓(九州大・生医研) 所内対応者:今井啓雄
我々は霊長類におけるゲノム進化とエピゲノム進化の関係を解明するため、霊長類各種の組織におけるDNAメチル化の比較解析を行ってきた(Fukuda
et al. 2013, J. Human Genet.58:446-454)。GAINより提供いただいたニホンザル精子サンプルについて、全ゲノムレベルでDNAメチル化状態を決定し、既に公表されているヒトとチンパンジーのデータを含め、精子メチル化状態の3種比較を行った。興味深いことに、大きな低メチル化領域(数十kb以上)がヒト特異的に多数出現していることが分かった。さらに、これらの低メチル化領域はヒト特異的なコピー数多型や染色体再編成の領域に頻出していた。すなわち、精子でのDNAメチル化レベルの変化がゲノム安定性の変化医に寄与していると考えられる(論文投稿中)。
また、GAINよりテナガザル精巣サンプルを頂き、RNAを抽出した。過年度に霊長研から提供いただいたチンパンジー精巣や別に入手したヒト精巣サンプルと合わせて、精巣内小分子RNA(主にpiRNA)の種間比較解析を進めている(未発表)。
(3) 一般グループ研究
C-1霊長類由来ex vivo培養系を用いた消化管細胞機能の解析
岩槻健,高橋信之,大木淳子,熊木峻佑(東農大),佐藤幸治(自然科学),粟飯原永太郎(シンシナシティ大)
所内対応者:今井啓雄
本研究の目的は、これまでに報告例がないサルの腸管からオルガノイドを作製し、消化管上皮細胞の機能解析のツールとして使用する事である。
当該年度では、霊長類研究所にてアカゲザルより腸管(十二指腸、回腸、盲腸、大腸)を採取し、オルガノイドの作製を試みた。安楽死後、腸管を取り出し内容物を数回PBSにて洗浄後、抗生物質入りのPBSにて洗浄。腸管上皮細胞取得の際は、筋層が厚いため上皮の部分のみ眼下ハサミで切り出し、EDTAによりクリプトと絨毛部分を分離した後、メッシュに通しクリプトのみを分画した。大腸だけは、上皮が剥がれずオルガノイド作製を断念した。次に分画されたクリプトをマトリゲルに分散させた後、Wntアゴニストを含む培地にて培養したところ、球体状に成長する細胞群を得た。これら球体状の細胞群を免疫染色した結果、セロトニン陽性細胞を確認する事ができ、オルガノイド培養が成功したと確認した。今後は、得られたサルオルガノイドを用いて、腸管機能を解析する予定である。
C-2ヒトを含む霊長類における創傷治癒機序の進化
松本晶子(琉球大・観光), 高橋健造,
内海大介(琉球大・医学研究科) 所内対応者:鈴木樹理
本研究の目的は、皮膚の厚さが霊長類の創傷治癒速度を決定する要因であるかどうかを調べるものである。共同利用及びGAINの協力により、2015年11月に、大型類人猿3種(チンパンジー、ゴリラ、オランウータン)の皮膚組織試料の提供を受けた。試料はホルマリン液とRNAlater保存溶液を用い保存した。試料は、琉球大学医学部皮膚科学教室で切り出し、皮膚の厚さ(表皮と真皮を合わせた厚さ)を測定した。
結果、ゴリラ、チンパンジー、オランウータンの順に皮膚が厚いことが明らかとなった(図1)。本年度は試料数が各1個であったため、皮膚の厚さの種差を検討するには至らなかった。今後も継続して試料の収集し、創傷治癒に及ぼす皮膚の厚さの影響を検討していく。
C-3マカクにおける繁殖季節性と運動のおよぼす骨格加齢への影響
松尾光一 (慶應大・医), 山海直(医薬基盤・健康・栄養研究所・霊長類医科学研究センター)、Suchinda
Malaivijitnond (Chulalongkorn大), 森川誠 (慶應大・医) 所内対応者:濱田穣
季節繁殖性をもつ霊長類(ニホンザル)において、骨密度が季節に応じて変化するという仮説を検証した。鼓膜から蝸牛へ音を伝える「耳小骨」と、体重を支え運動を担う長管骨である「大腿骨」の2種類のさらし骨を解析対象とし、平成26年度からのサンプルに加えて新たな骨を解析し、これまでの解析個体総数をオス75個体、メス71個体とした。これらの個体から得た骨の骨量や骨密度を、マイクロCTを用いて定量した。ツチ骨とキヌタ骨はそれぞれ全体を10
μm/pixelの解像度で、大腿骨は遠位端を120 μm/pixelの解像度で撮影した。性別や死亡時の年齢、日付を基に解析を行ったところ、オスでは季節によって骨密度に変化が見られた。そこで、オスの生体ニホンザル14頭を用いて、橈骨遠位端の骨密度を年2回、繁殖期と非繁殖期にpQCTを用いて定量し、このうち、13頭の血中テストステロン濃度を測定した。その結果、骨密度の変化量が季節によって増減する時期が見出され、血中テストステロン濃度も骨密度変化と類似したパターンを示した。さらに、血中25-(OH)ビタミンD3濃度変化との関係も解析した。これらのデータは骨が、いわば加齢と若返りを毎年繰り返していることを示唆する。
C-4金華山島のサル・個体数の変動と6群間の生態社会学的比較
伊沢紘生(宮城のサル調査会),杉浦秀樹(京大・野生動物研究センター),藤田志歩(鹿児島大・共同獣医・行動生理・生態学研究室),川添達朗(京都大・理学・人類進化論),宇野壮春,関健太郎,三木清雅(東北野生動物保護管理センター)
所内対応者:古市剛史
申請時の本研究の目的は6つである。①個体数の一斉調査は申請通り2回、秋と冬に実施した。結果は秋が277頭、冬が281頭だった。冬の方がわずかに多いのは、秋の調査時には華やかな交尾期を反映して、群間をうろつき回る群れ外オスのカウントが完璧でなかったことにもよる。②群れごとのアカンボウの出産数と死亡(消失)数は、春の調査を上記2回の一斉調査に加えて実施し、出生数は6群で計8頭、死亡(消失)数は1頭のみだった。③家系図と④食物リスト作成は、群れごとの担当者が随時実施し、現在まで確実に継続されている。⑤6群間の比較生態・社会学的調査は、修士の学生によるオニグルミ割り採食行動の性・年齢別比較研究をサポートした。⑥サル学を志す若手への可能な研究テーマの整理は、宮城のサル調査会の機関紙『宮城県のニホンザル』第29号を刊行し、昨年度の第28号と併せ、群れごとに整理した。
以上述べた、申請時の研究目的を着実にクリアしていく過程で、金華山ニホンザル個体群で大きな変化が起こった。南部に生息する群れ(D群)が分裂したのである。D群は、戦後1群であったものが1964年前後に分裂して誕生して以来、半世紀を超えて群れのまとまりを維持し続け、遊動域もほとんど変えることがなかった。しかも、分裂した小さい方の群れ(D2群)は、これまでの分裂によく見られていた群れの遊動域を二分するという形でなく、北東部に新たな遊動域を構えた。それでなくともこの地域は、3群(B2群、C1群、C2群)の主要遊動域であり、残りの2群(A群、B1群)も、主稜を西から東へ越えて進出してくる地域であり、島で最も群れが込み合っている地域である。おそらく、そこに新たな遊動域を構えたということは、上記5群に大きな影響を与えるものと考えられ、どのような生態学的・社会学的な影響を与えるのかは、本研究課題からしてもきわめて重要である。
C-5アカゲザルiPS細胞樹立および免疫細胞への分化
金子新(京都大・iPS研), 塩田達雄, 中山英美, 田谷かほる(大阪大・微研),
入口翔一(京都大・iPS研)
所内対応者:明里宏文
本研究て?は、iPS細胞から各種免疫細胞への分化誘導方法を確立し、そしてそれらの免疫細胞の自家移植によりヒト免疫不全症候群なと?による破綻した免疫機構を再構築することを、免疫学的にヒトに近縁な霊長類を用いて検討することを目的とした研究である。
本年度は、免疫細胞誘導のためのソースとして3頭のアカゲザル末梢血から単核球を分離・活性化しiPS細胞樹立を試みた。前年までの条件検討により、いずれのアカゲザルからも複数のiPS細胞が得られた。樹立したiPS細胞は、未分化マーカーにより未分化性を、奇形腫形成により多分化能を確認した。次に、種々のサイトカインを用いてCD34陽性細胞への分化誘導を行い、フローサイトメトリーで表面マーカーの確認を行った。また、分化誘導で得られたCD34陽性細胞を用いてコロニーアッセイを行い、血球分化能も確認した。さらにはCD34陽性細胞とOP9DL1細胞との共培養によりT細胞分化能を有することが確認できたiPS細胞株について、自家移植を目的に、再生T細胞の拡大培養実験と遺伝子マーキング実験を行うなど、移植実験の準備を進めた。
(4) 随時募集研究
D-1サルの脅威刺激検出に関する研究
川合伸幸(名古屋大・院・情報科学) 所内対応者:香田啓貴
ヒトがヘビやクモに対して恐怖を感じるのは生得的なものか経験によるのか長年議論が続けられてきた。しかし今では現在は、ヘビ恐怖の生得性は認識されているが、クモ恐怖の生得的は議論がわかれる。ヒト乳児ではクモ様の図形に敏感に反応するようだが、成人では再現できない。そこで前年度に引き続いて、課題のデータを収集することができなかった2頭を対象に、毒グモがいない地域に生息するニホンザルが視覚探索課題においてクモをほかの動物よりもすばやく検出するかを検討した。すでに基本的な視覚探索の訓練と、ヘビとコアラを用いた実験はH26年度に実施していたので、クモとコアラの刺激を用いた視覚探索課題を実施した。この課題で安定して反応できるようになったため(90%以上の正答率が3日以上連続)、反応時間を測定したところ、前年度の1頭と同様に、2頭ともヘビを見つけるまでの時間のほうが早くかったが、クモとコアラでは、クモを見つける時間とコアラを見つける時間で有意な差はみられなかった。この結果は、前年度の1個体と一致していた。これらの結果はサルはクモに対する優先的な視覚情報処理を行わないことを示唆する。ただし、視覚探索課題には手続き上の問題が指摘しているため、サルがヘビに対する注意バイアスがあることを示すには、ノイズのなかからほかの動物よりも効率的にヘビを検出できることを示すなどの必要がある。
D-2ニホンザルを対象とした高解像度CNVスクリーニング解析
尾崎紀夫、Aleksic Branko、久島周(名古屋大・院・医学系・研究科精神医学) 所内対応者:今井啓雄
自閉スペクトラム症、統合失調症の発症に強く関与する稀なゲノムコピー数変異(copy
number variant; CNV)が多数同定されている。本研究では、妥当性の高い精神疾患の霊長類モデルを見つけ出すことを企図して、ニホンザルを対象とした全ゲノムCNV解析を実施した。具体的には、ニホンザル379頭を対象にarray
CGH (comparative genomic hybridization)を用いて高解像度の解析を実施し、多数のCNVを同定した。その1つに、10番染色体のADORA2A遺伝子(adenosine
A2a receptor)を含む598kbの重複を見出した。ADORA2Aを含む重複は、発達障害や統合失調症との関連が示唆されていることから、本個体の行動観察を実施したが、現在までのところ、行動上の異常は見出していない。
D-3脂質を標的としたサル免疫システムの解明
杉田昌彦,森田大輔(京都大・ウイルス研) 所内対応者:鈴木樹理
本研究グループは、アカゲザルにおいて、サル免疫不全ウイルス由来のリポペプチドを特異的に認識するT細胞の存在を明らかにし、その分子機構の解明を目指した研究を展開してきた。まずリポペプチド特異的T細胞株(2N5.1)の抗原認識を阻害する2種のモノクローナル抗体を作出しその生化学的解析を進めた結果、その認識抗原がアカゲザルMHCクラス1分子であることを見出した。そこでアカゲザル末梢血単核球よりMHCクラス1遺伝子群を単離し、それぞれをトランスフェクトした細胞を用いてT細胞株の応答を検証したところ、アカゲザルMamu-B*098アリルを発現した細胞がリポペプチド抗原提示能を有することが判明した。その遺伝子を大腸菌に発現させ、得られたリコンビナントタンパク質にリポペプチドを結合させた複合体のX線結晶構造解析を行い、リポペプチド結合様式を解明した(Nature
Communications. 7:10356, 2016)。Mamu-B*098分子の全体的な分子構築はペプチドを提示する旧来のMHCクラス1アリルと同様であったが、抗原結合溝はペプチドではなくリポペプチドの収納に最適の構造を有していた。これらの成果は、免疫学の基本パラダイムの一つであるMHCクラス1分子によるペプチド抗原提示の固定的概念に修正を加える必要があることを示している。
D-4野生チンパンジーの老齢個体の行動及び社会的地位の研究
保坂和彦(鎌倉女子大・児童) 所内対応者:Michael A.
Huffman
本年度はマハレのチンパンジー研究50周年を記念して、第31回日本霊長類学会大会の自由集会(7月、京都大学)やマハレ50周年記念展・公開シンポジウム(9月、東京大学)を企画し、自ら本共同研究のテーマに関連する発表をおこなった。とくに近年、複数調査地で明らかになりつつある野生チンパンジーの50歳を超える寿命及び高い繁殖年齢について、マハレのデモグラフィー資料や老齢個体の事例を紹介しながら話題提供した。長期調査によりチンパンジーの生活史を明らかにすることが、繁殖停止後の老年期の長さに特徴があるヒトの生活史戦略の進化の理解に役立つことを主張した。また、9月には、調査地を同じくする共同研究者とともに、学術論文集"Mahale
Chimpanzees: 50 Years of Research"をケンブリッジ大学出版局から出版した。23章"Gerontology(老年学)"は所内対応者との共著であり、上述したチンパンジーの生活史戦略に関する内容に加え、老齢個体に特徴的な身体・行動及び社会的地位の変化があるのかという問題(具体的には、一方的に受ける毛づくろい関係、アルファ雄の同盟者としての地位、他個体が示す寛容性と敬意の顕著化といった側面)について、未出版の観察記録や先行研究を例示しながら論じた。
D-5チンパンジー Naive iPS細胞の作製
山村研一,荒木喜美,松本健(熊本大・生命資源研究・支援センター) 所内対応者:今村公紀
Naive 型iPS細胞(Naive iPSC)はPrimed型iPS細胞(Primed iPSC)と比較して,より始原的な分化段階に位置し、全能性の性質を保持するため、再生医学の観点から着目されている。しかし未だにその作製法が安定していない為、本研究では、チンパンジー
Primed iPSCからNaive iPSCへの転換法の確立を目的とし、以下の2つの研究を進めた。
(1)シグナル阻害剤処理による転換法
市販のシグナル阻害剤を含むRepro NaiveTM培地の交換のみで、Primed
iPSCからNaive iPSC様の細胞を作製した。 これらの細胞が、Naive
iPSCに特有のドーム型状コロニーを形成し、さらに、OCT3/4,NANOG等の幹細胞マーカーを発現することを見出した。
(2)遺伝子強制発現とシグナル阻害剤処理を組み合わせた転換法
ドキシサイクリン(Dox)に依存してhNANOG及びhKLF4を発現するPrimed
iPSC株とシグナル阻害剤を含む培地(t2iL+Dox)による培養を組み合わせて、Naive
iPSC様細胞を作製した。現在、これらの細胞の性状を解析中である。
D-6手指のtriple-ratioを用いた霊長類の把握機能の解析
宇田川潤,玉川俊広,日野広大(滋賀医大・解剖) 所内対応者:江木直子
申請者らは、これまでに各指の中手骨および指節骨長から求められたtriple-ratioにより、霊長類が樹上性、半樹上性および地上性に分類できることを示してきた。そこで、triple-ratioと把握機能との関連を調べるため、樹上性霊長類のテナガザルと地上性のマントヒヒ前肢の標本のMRI撮影を行い、把握時のMP,
PIP, DIP関節の角度とモーメントアーム長との関係から、各関節に発生するトルクとそれを保持するための浅・深指屈筋、手内在筋の牽引力について検討した。モーメントアーム長は両種間で差は認められなかったが、各指長で関節中心間距離およびモーメントアーム長を正規化すると、パワーグリップ時に関節に発生するトルクの保持に要する筋力はヒヒよりテナガザルで大きく、トルク発生効率が悪いことが明らかとなった。テナガザルは体を細くし体重を軽減しつつ、指を長くしてモーメントアーム長を大きくすることで関節に発生するトルクを大きくし、腕渡りなど樹上生活に適応している可能性が考えられた。一方、ヒヒの手はテナガザルに比較して強力な握力を発生可能な構造をしていることが明らかとなった。
D-7 セントロメアの構造と機能の進化
舛本寛,
久郷和人(かずさDNA研) 所内対応者:古賀章彦
セントロメアの形成に関与するタンパクであるcentromere
protein B(CENP-B)は、DNA結合ドメインをもち、17塩基対からなるモチーフを認識してDNAに結合する。このモチーフはCENP-B
boxとよばれ、20年以上前に舛本が中心となってヒトとマウスで発見したものである。すぐ後に、ゴリラ等の大型類人猿にもあることが報告された。しかし、近年のゲノム情報の膨大な蓄積にも関わらず、これ以外の生物種での同定の報告はない。我々は「適切な検出法がないために同定に至らないのであって、CENP-B
boxは広い範囲の生物種に存在する」との仮説を立てた。
この仮説を検証するために、霊長類の中でヒトからさらに遠い関係にある新世界ザルを対象とし、また検出法を工夫して、探索を行った。まず6種の培養細胞に対して免疫染色を行い、4種でセントロメアにCENP-Bの結合があるとの結果を得た。続いてセントロメアDNAの塩基配列を解読し、この4種のうちの3種(マーモセット、リスザル、タマリン)で、候補となるモチーフを見出した。続いてクロマチン免疫沈降を行い、同定したモチーフがCENP-B
boxとして機能することを確認した。
少なくとも新世界ザルでは、仮説は証明されたことになる。この仮説がより広範囲の生物種で正しいとすると、「CENP-B
boxはホストの長期的な生存に有利に作用する」との新たな仮説が成り立つ。この共同研究で、CENP-B
boxの進化的な意義の追求が進展した。
D-8マーモセット脳機能研究に最適化した経路選択的操作とその基盤となる回路構造解析技術の開発
渡辺雅彦,今野幸太郎(北海道大・院・医学研究科・解剖学講座) 所内対応者:中村克樹
本研究課題は、文部科学省「革新的技術による脳機能ネットワークの全容解明プロジェクト」の技術開発個別課題「経路選択的な神経回路解析基盤技術の開発とマーモセット脳解析への最適化」(平成26~28年度;代表機関福島県立医科大学、代表研究者小林和人教授)を、参画機関である霊長類研究所と協力して遂行する共同利用・共同研究として行った。具体的には、霊長研で繁殖・飼育されたマーモセットの固定脳とマーモセットcDNAに対するリボプローブを用いて、9種類の神経化学特性決定のためのマーカー遺伝子(グルタミン酸にはVGluT1,
VGluT2, VGluT3;GABAにはGAD67;グリシンにはGlyT2;アセチルコリンにはCHTもしくはVAChT;ドパミンにはDAT;ノルアドレナリン・アドレナリンにはDBH;セロトニンにはHTT)のin
situハイブリダイゼーション解析技術を確立した。さらに、マーモセット脳に適用可能なVGluT1~3,
GAD67, CHT, HTT, GlyT2, DBH抗体を作製し、マーモセットの固定脳組織切片を用いてその特異性を検証することができた。
D-9霊長類のみに存在する新規遺伝子PIPSLの進化や機能の解明
松村研哉(長浜バイオ大・院・バイオサイエンス),大島一彦(長浜バイオ大) 所内対応者:今井啓雄
研究対象であるPIPSLは、プロセシング済み偽遺伝子と共通の過程を経て誕生したレトロ遺伝子である。PIPSLはリン脂質キナーゼPIP5K1Aと26SプロテアソームサブユニットS5a/PSMD4を起源遺伝子とする。両遺伝子のフレームを維持したまま連結したキメラmRNAが逆転写され、ゲノムに再挿入されて誕生したと考えられている。先行研究において、ヒト・チンパンジーでRNA発現が確認されているが、その転写制御機構は明らかになっていない。
類人猿5系統で保存されているレトロ遺伝子PIPSLがどのように転写制御機構を獲得したのかを明らかにするため、培養細胞HepG2やHeLa、及び精巣癌由来細胞株を用いたプロモーターアッセイを行い、ヒトPIPSL上流配列の転写活性を測定した。ヒトPIPSLの転写開始点近傍に存在するTATA様配列を欠失すると、転写量が約70%低下することも明らかになった。これらの結果より、PIPSLの基本プロモーターを特定したと考えている。また、PIPSL誕生後に最初に分岐した系統であるテナガザルの精巣から、内在性PIPSL
RNAを今回初めて検出した。ヒト・チンパンジーに至る系統とテナガザルでは、PIPSLの転写制御が異なる可能性が考えられる。
D-10霊長類の頭骨と骨盤の形態における性差の関係
五十嵐由里子,近藤信太郎(日本大・松戸歯学),久世濃子(国立科学博物館) 所内対応者:西村剛
【1】頭骨の性差
(1)個体数を調査した結果、対象とする種はニホンザルとした
(2)Ecogeographical and Phylogenetic Effects on Craniofacial Variation in
Macaques(Ito et al.2014)に基づく
【2】骨盤の性差
(1)個体数を調査した結果、対象とする種はニホンザルとした
(2)Allometric Scaling and Locomotor Function in the Primate Pelvis (Lewton
2015)に基づく
(3)大型霊長類の骨盤における耳状面前溝
霊長類における妊娠・分娩の淘汰圧を推定する参考のために、ゴリラ、チンパンジー、オランウータンの骨盤の仙腸関節部骨表面を肉眼観察した。その結果、ゴリラにおいて、メスでは妊娠・分娩の回数を反映した耳状面前溝が見られたが、オスでは、妊娠・分娩とは無関係ながら顕著な耳状面前溝が現れた。一方、オランウータンでは、妊娠・分娩の有無にかかわらず耳状面前溝が全く現れなかった。チンパンジーでは、妊娠・分娩の回数を反映した耳状面前溝が見られた。これらの結果より、霊長類の妊娠・分娩が骨盤に与える負荷を解明するためには、骨盤と胎児のサイズの関係以外の要因(ロコモーション様式など、仙腸関節部にかかる負荷)も考慮する必要があることがわかった。
D-12 ニホンザルの中手骨と中足骨に関する機能形態学的研究
日暮泰男(近畿大・医・生理) 所内対応者:平崎鋭矢
骨格形態は動物が生存中にうける機械的荷重におうじて変化すると一般的に考えられている。しかしながら、この考えは、おもに、上腕骨や大腿骨など大型の長骨についての知見にもとづいたものであり、小型の長骨である中手骨と中足骨に関する知見はほとんど報告されていない。本研究では、機械的荷重に対する霊長類の骨格形態の適応についての理解を深めるために、ニホンザルの中手骨と中足骨の外部形態および内部構造を定量化した。本研究は2013年度から継続している研究課題であり、今年度は、ニホンザル1個体(霊長類研究所に所蔵)について、骨の骨幹中央部の横断面をpQCT装置(霊長類研究所進化形態分野に設置)により撮像し、pQCT画像から、断面二次極モーメント等の断面性能を算出した。第1~5中手骨を、標準化した断面二次極モーメントの大きい順に並べると、3-4-2-1-5となり、中足骨は1-3-2-4-5となった。こうした中手骨および中足骨の頑丈性のパターンを、それぞれの骨が地上歩行時にうける機械的荷重の大きさのパターンと比較すると、両者は正確に対応するわけではないことがわかった。このことから、骨格形態がどのような行動に対する適応なのかを予測することはかならずしも簡単ではないことがわかる。今後は、樹上移動といった他の行動時の機械的荷重との対応関係も検討する必要がある。
D-14タイワンザルとニホンザルの全ゲノム解析による進化史の解明
長田直樹(北海道大・院・情報科学研究科),范振?(四川大学・生命科学) 所内対応者:濱田穣
東アジアに生息するマカク属のサルについての進化史を解明するために,ニホンザル二個体,タイワンザル二個体について,血液サンプルを共同利用計画に基づき使用させていただいた.得られた血液からDNAを抽出し,DNAシークエンス用ライブラリを作成,Illumina社HiSeq2000を用いてそれぞれおよそ30倍の被覆度を持つリード配列を得ることができた.リード配列のクオリティは良好であり,アカゲザル参照配列にマッピングすることができた.今後,全ゲノムレベルでの変異解析を行い,それを他のマカクにおけるデータと比較することにより,両種が過去どのような歴史をたどって進化してきたかを明らかにし,その成果を発表したいと考えている.
D-15トクモンキーのゲノム進化
斎藤成也(国立遺伝学研究所), Nilmini Hettiarachchi(総合研究大学院大),長田直樹(北大・院・情報科学)
所内対応者:早川卓志
日本モンキーセンターより、トクモンキー組織標本(エタノール浸潤)から抽出されたDNAサンプルを分与され、それをつかって、国立遺伝学研究所人類遺伝研究部門(井ノ上逸郎教授)で使われているヒトのエクソーム解析プラットフォームを利用して、トクモンキーのエクソーム配列データを生成した。現在配列を解析中だが、ヒトとトクモンキーは2500万年前後の分岐年代があるので、およそ80%ほどのトクモンキーエクソンが得られたもようである。今後、カニクイザルのエクソームデータ(未発表)やゲノムデータ(既発表)と比較して、トクモンキーの系統的位置を推定する予定である。
D-16志賀高原のニホンザルの生息地に関する定量的データの整備
和田一雄(NPOプライメイト・アゴラ バイオメディカル研究所) 所内対応者:辻大和
これまで未発表であった、1978年に実施した志賀高原横湯川流域の植生調査のまとめを行った。調査地内に44地点の調査区を設け、各調査区に付き10x10mのクオドラートを6-8ヵ所設定して、中にある胸高直径1cm以上の木全てを計測した。各調査区分は、優先種に基づいてミズナラ、ブナ、ミズキなど12種の森林タイプに分類した。また、1970-80年代に同流域を利用していたB2・C群のニホンザルの遊動域を1haに区切り、植生調査で得た森林タイプから遊動域の植生を9タイプの森林に分類した。
ついで、1978-87年の10年間、同流域に5ヵ所設定したシードトラップの資料を分析した。1ヶ所につき1x1mのシードトラップを地上1mに6-17個設置し、9-12月にトラップ中の果実を毎月回収し、ブナ、ミズナラ、ミズキ、サワグルミ、カエデ類、サルナシ、ヤマブドウ、その他の生産量の経年変化を計測した。これらの資料に基づき、森林タイプごとの面積当たりの果実生産量を推定した。
B2・C群は1970-80年代、9-11月には同流域の中流部分を同時に利用したが、カンバ林とアカマツ・コメツガ林は避けて、他の6森林タイプを主に使用した。両群の秋の果実の利用量はそれぞれ年間2.7t、2.4tであった。両群が同時利用した中流部内では、B2群は下流側、C群は上流側を優先的に利用した。両群が消費した果実の推定値は、B2群が下流側の生産量(10.6t)の18%、C群が上流側の生産量(7.5t)の20%だった。以上のことから、両群は同流域を同時に利用するが、部分的に使い分けて、食物をめぐる競合を避けていると推定した。
D-17嵐山のニホンザルの個体間の認識について
鈴木久代(兵庫県立大・院・環境人間) 所内対応者:Michael
A. Huffman
嵐山B群のニホンザルは1986年、なぜ、どのような過程を経て分裂したのか?分裂の前から高い精度で収集されていた、群れを構成する各個体の血縁関係の情報に、直接観察によって得られた、交尾行動やそれ以外の日常行動における個体間の結びつき、分裂の進行に伴ったこれらの行動の変化に関する情報を加え分析した。特に群れ内での順位や家系の優劣、親子(特に母・娘の)関係、交尾関係の履歴、加齢に伴う個体の体力の変化といった要素が、分裂に際しての個体の挙動にどう影響したかを明らかにしたい。1985年の交尾期、嵐山B群の上位オス4頭は、ともに23~22歳と高齢であった。1頭が死亡し、1位オスはメス頭の後を、2位オスは特定の上位メスの後を、ほぼ常時ついてまわった。3位オスは赤ん坊を抱いていた。この分裂で、結果的には、オスの世代が交代した。分裂は、オスとメスの交尾関係やメスの血縁関係など、普段の個体間の関係に即した形で行われたと考えられる。このことは、群れが安定している普段ではよくわからない個体間の関係性が、分裂により顕著になった点で重要である。分裂後、群れ落ちしたメス8頭は、群れの中に血縁個体が少なかった。今後は、メスの血縁度や血縁個体数の大小、分裂によるメスとオスの繁殖成功度への影響などについても検討する。今後も、受け入れ教員と密な連絡を取り、ニホンザルの他の分裂の場合と比較し、個体間の認識について論議を深める。
D-18 Functional Morphology of the Head and Neck of Hylobates lar.
Neysa Grider-Potter , Ryosuke Goto, Kenji Oka (Osaka University) 所内対応者:平崎鋭矢
One of the neck's primary function is to provide head mobility. This mobility is
essential in mammalian locomotion, balance, feeding, and predator vigilance but
should be especially critical for primates, who engage in diverse ranges of
postural and locomotor repertoires. Very little is known about variation in
mobility among primates, and even less is known about how cervical vertebrae
morphology affects neck range of motion (ROM). The goal of this study is to
explore how cervical skeletal features correlate with range of motion of the
neck.
We predict: 1) tall vertebral bodies facilitate greater ranges of flexion, 2)
long, inferiorly oriented spinous processes inhibit extension, and 3) tall
uncinate processes and long transverse processes inhibit lateral flexion.
Gibbon ranges of maximum flexion, extension, and lateral flexion were collected
through radiographs (n=1). Radiographs were digitized and joint ROM were
measured using ImageJ. Human ROM was obtained from the literature. Human (n=4)
and gibbon (n=7) cervical vertebrae were digitized using a Microscribe 3DS.
Angular and linear measurements were taken from these data using Rhinoceros 3DM.
Vertebral morphology and intervertebral ROM within the vertebral column were
investigated using OLS regression
The negative relationship between lateral flexion and transverse process length
approaches significance (p<0.1) and regressions have moderate fit
(r^2hu=0.48, r^2gi=0.52). In both species, the positive relationship between
lateral flexion and uncinate process height approaches significance (p<0.1)
with moderate fit (r^2hu=0.66, r^2gi=0.63). Contrary to the predictions,
uncinate height increases with interverteral range of lateral flexion. No other
significant relationships were found between intervertebral range of motion and
morphology.
There are weak relationships between intervertebral range of motion and
morphology within the ape cervical spine. It is possible that selection on
mobility is secondary to other aspects of neck function, such as postural
maintenance. Soft tissues may more strongly influence mobility. It is likely
that intraspinal differences are too minute to show a statistically significant
pattern. An interspecific comparison may elucidate a relationship between
cervical form and mobility.
D-19 Sequencing of Huntingtin orthologs in Macaca fuscata
Elena Cattaneo, Giulio Formenti (University of Milan) 所内対応者:今井啓雄
Our Italian laboratory of is focussed on the study of a severe neurological
disorder, Huntington Disease (HD). More specifically, my group is investigating
the evolutionary background under which the genetic mutation causative of the
disease, a CAG trinucleotide repeat longer than 35 repeats within Huntingtin
(Htt), has emerged. Our principal aims are: 1) the sequencing in several
Non-Human Primate (NHP) species of HTT Exon 1 in order to gather a vast
collection of sequencing data including Single Nucleotide Polymorphisms (SNPs)
and CAG length polymorphisms; 2) the reconstruction of HTT Exon 1 ancestral
states along the human evolutionary lineage; 3) the identification of NHPs
carrying long CAG repeats for disease modelling purposes.
Using the DNA samples, we have used a self-established High-Throughput protocol
(Figure 1), which allowed me to correctly PCR-amplify, clone into plasmids and
Sanger-sequence the Htt exon 1 in 82 different samples from Macaca fuscata. In
particular, after PCR amplification using High-Fidelity Taq (Figure 2), products
were cloned into sequencing vector PCR 4.0 and transformed into TOP10 competent
bacterial cells, which were subsequently grown in 6 well Multiwell plates
(Figure 3). The single colonies were plated in 96 well plates for HT plasmid DNA
extraction (Figure 4).
Our hosts at PRI provided full support throughout the entire process (Figure 5).
These data have shed light on the CAG length variability within this species and
will be used to plan further experiments.
D-20霊長類における旨味受容体T1R1/T1R3のアミノ酸応答性の評価
三坂巧, 石丸喜朗,
戸田安香(東大院・農生科) 所内対応者:今井啓雄
旨味受容体T1R1/T1R3はアミノ酸の味の受容体であるが、ヒトとマウスでは受け取るアミノ酸の種類が異なる。本研究では、味覚受容体発現細胞を用いた味の評価技術を用いて、霊長類間における旨味受容体のアミノ酸選択性の違いを評価し、食性の違いと比較検討することを目的としている。
昨年度までに、ゴリラ、オランウータン、ニホンザル、アカゲザル、カニクイザル、ブタオザル、コモンマーモセット、アイアイ、キツネザルの旨味受容体遺伝子Tas1r1およびTas1r3の配列解析を完了し、機能解析に用いる哺乳類細胞用発現ベクターの作製も行った。今年度は、細胞評価系を用いて、これらの旨味受容体のアミノ酸応答性の評価を行った。結果、これらの霊長類の間でもアミノ酸選択性に種差があることが明らかになった。特にグルタミン酸受容能に大きな違いが認められたことから、今後は変異体解析を用いて、グルタミン酸受容能に影響を与える残基の検証を行う予定である。
本研究成果は、霊長類における味覚受容体遺伝子と食物選択との相関性を示す上で非常に興味深い知見を与え得るものである。
D-21 Skeletal adaptation in Japanese macaques (Macaca fuscata) in response to
environmental variation across the Japanese Archipelago.
Buck, Laura T. (University of Cambridge, Cambridge, UK), De Groote, Isabelle
(Liverpool John Moores University, Liverpool, UK) , Stock, Jay T. (University of
Cambridge, Cambridge, UK). 所内対応者:濱田穣
This project addresses the question of skeletal plasticity to climate. We will
compare skeletal shape between groups of Japanese macaques from different
environments and contrast this with climate-correlated skeletal shape
differences between Jomon groups from matched regions. We seek to determine
whether monkeys, and by inference other non-human primates, adapt to climatic
stimuli in the same way as humans do.
We are using a combination of CT scanning and traditional osteometry to collect
3D landmark, cross-sectional geometric and traditional morphometric data. We
will analyse characteristics such as the globularity of the neurocranium, facial
prognathism and cheek projection, nasal and orbital shape in the cranium, limb
and autopod proportions, limb bone curvature and robusticity (via
cross-sectional geometry), body breadth, body size and body mass in the
postcrania. Laura Buck arrived at the PRI on 4th April to begin data collection.
This comprises traditional osteometrics and CT scans collected by Dr Buck using
the medical CT scanner at the PRI following training by Dr Ito (PRI). Eighty
macaque skeletons have been chosen from the PRI collections, ten adult males and
ten adult females from each of four sites with different environments (north to
south: Shimokita, Nagano, Shimane and Yakushima). To date 35 skeletons have been
measured and CT scanned. Analyses of scan and morphometric data will be
conducted at the University of Cambridge on Dr Buck's return, to examine
relationships between macaque morphology and climatic data.
From 16th March t0 3rd April, Drs Buck and De Groote visited the National Museum
of Science and Nature (Tsukuba), University of Kyoto and Sapporo Medical School
to evaluate the Jomon sample with which to compare the macaque data being
collected at PRI. We have ascertained that there is a good potential sample from
sites in Hokkaido and Honshu and a number of specimens from Kyushu (see table
below). We are currently contacting institutions in Kyushu with the hope of
extending the sample from that region. We hope to collect data from 20
individuals from each of the four regional matches for the macaques and also 20
from Hokkaido, which Japanese macaques have never inhabited.
D-22ニホンザルの造血系および造血幹細胞にエイズウイルスが与える影響の解析
塚本徹雄, 岡田誠治(熊本大・エイズ学研究センター・岡田プロジェクト研究室) 所内対応者:中村克樹
本研究では、ニホンザルのエイズモデルとしての可能性検証を目的とし、サル末梢血単核球(PBMC)の解析を行った。まず、NIH
Nonhuman Primate Reagent Resource (www.nhpreagents.org)と代表研究者の過去データを基に、サルでの交差反応性が見られるものを中心に抗ヒト抗体をニホンザルPBMCで試験したところ、多数の抗体クローンの交差反応性が確認された(CD3,
CD4, CD8, CD27, CD28, CD45RA, CD95, CCR5, CD25, PD-1, HLA-DR, CD20, CD56, CD16,
CD11b, CD14, CD1c, CD11c, CD123, CD163)。さらに、PBMCをPHA-Pで48時間刺激したのちサル免疫不全ウイルスSIV
(分子クローン SIVmac239)を感染させ(力価はMOI=0.001) 10日間培養したところ、細胞内SIV
p27染色にてウイルス増殖を確認した。このことから、ニホンザルはSIVに感受性であり、エイズモデルに相応しいこと、SIV感染がニホンザル造血系細胞に与える影響を解析するための抗体が幅広く利用可能であることが明らかになった。
D-23高磁場MRIシステムによる霊長類の脳神経回路構造の比較研究
酒井朋子, 岡野栄之(慶應), 畑純一(理研BSI)、太田裕貴,
小川優樹,
岡野ジェイムス洋尚(慈恵・再生医)、新宅勇太(JMC),
大石健一, 森進(Johns Hopkins Uni.) 所内対応者:濱田穣
本研究では、3次元の脳解剖画像および拡散MRI画像を非破壊的に撮像することで、従来のMRI撮像技術では不可能であった、より高精細な脳構造全体の再構築(解像度20?50μm)を行うことができた。本年度対象とした脳標本は、日本モンキーセンターが所有するマーモセット、ヨザル、ヤクシマザル、テナガザルの脳標本、GAIN経由で貴研究所が所有するシロテテナガザルの頭部標本であった。さらに、これらのデータをもとに、ヒトの高度な心的機能である「共感性」に着目し、この機能に重要な役割を担っていると考えられている鈎状束に関する描写的特徴を表現に成功した。これらの研究成果は、国内の研究会および国際シンポジウム等で発表を行った。第60回プリマーテス研究会では優秀口頭発表賞を受賞した。現在、学術雑誌への投稿に向けての準備を進めている。
D-24マーモセット疾患モデルを用いた神経回路障害ならびに分子病態の解析および治療法の開発
岡澤均, 陳西貴, 田村拓也, 藤田慶大,
田川一彦(東京医科歯科大・難治研), 泰羅雅登,
勝山成美(東京医科歯科大・医歯学総合研究科) 所内対応者:中村克樹
正常マーモセット脳へアミロイドβ、タウなど神経変性疾患タンパク質あるいは関連物質を注入し、認知症モデルの作出を試みる。平成27年度は、脳内局所への物質注入の方法について検討した。マーモセット2頭を用いて、適切なカニューレの選択、脳内のターゲット位置に埋め込み法、注入法を確立した。
また、マーモセットの認知症における神経変性関連物質の投与の前後で認知機能を比較するための準備をおこなった。上記において想定する神経変性疾患はADとFTLDをはじめとする認知症であり、記憶、認知等に広汎な障害が現れるとされている。平成27年度は、4頭のマーモセットに視覚弁別課題・逆転学習課題、および空間位置記憶課題を訓練した。
D-25オランウータンの大腿骨頭靱帯に関する研究
森健人(国立科学博物館) 所内対応者:西村剛
哺乳類のなかでもいくつかの種は大腿骨頭靱帯をもたないとされており,霊長類の中ではオランウータンがその一種である
(Endo et al., 2004).しかしながら,過去の文献では大腿骨頭靱帯の存在を肯定したものもあり(Crelin,
1988),真偽のほどは未だ不明確である.本研究では過去の文献では辿っていなかった大腿骨頭靱帯から大腿骨頭を栄養する血管を剖出し,改めて大腿骨頭靱帯の有無を調べる.大腿骨頭動脈は大腿骨を栄養する血管として大腿骨頭靱帯内を走行していると言われている.オランウータンの股関節の靱帯について,血管の走行を知ることで,当該の靱帯が大腿骨頭動脈かどうかを知ることができると考える.
オランウータンの死体について肉眼解剖を行い,閉鎖動脈から寛骨臼切痕を通る寛骨臼枝を剖出した.大腿骨頭靱帯の遺残のような線維は観察されたが,血管の走行は観察できず,観察された遺残が大腿骨頭靱帯であるかどうかは判然としない.ヒトにおいては大腿骨頭靱帯が加齢とともに消失する例が知られている.今回のサンプルは老齢であり,後天的に大腿骨頭靱帯が消失している可能性は依然として残る.今後も継続して調査を続けたい.
D-26異種生体環境を用いたチンパンジーiPS細胞からの臓器作製
中内啓光(東京大・医科学・幹細胞治療),
正木英樹(東京大・医科学・幹細胞治療),
長嶋比呂志(明治大・農・生命科学科発生工学),
平林真澄(生理研・遺伝子改変動物作製室), 海野あゆみ,
佐藤秀征(東京大・医科学・幹細胞治療) 所内対応者:今井啓雄
本課題は平成27年度に臨時募集研究として採択され、霊長類研究所よりチンパンジーの線維芽細胞およびiPS細胞の提供を受けた。医科学研究所にてチンパンジー線維芽細胞にリプログラミング因子を発現するセンダイウイルスベクターを導入し、iPS細胞を樹立した。センダイウイルスはRNAウィルスであるためにチンパンジーゲノムに挿入されないことから、外来性遺伝子を有さない(transgene
free)チンパンジーiPS細胞を得ることができた。本課題は引き続き2016年の一般研究に採択されたため、今後も同様に複数のチンパンジー個体からtransgene
free-iPS細胞を作製し、異種動物とのキメラ形成能評価に用いる予定である。
D-27霊長類の網膜の形成と維持を制御する分子機能の解析
古川貴久,
大森義裕(大阪大学・蛋白質研究所) 所内対応者:大石高生
ヒトを含む霊長類の網膜には視野の中心部に黄斑と呼ばれる黄色味を帯びた部分があり、この部分には、色覚を司る錐体細胞が高密度で存在している。黄斑では、双極細胞・神経節細胞も高密度で存在し、視細胞1細胞当たりの双極細胞や神経節細胞の接続比率が高いため高解像度の視覚情報を得ることができる。また、黄斑の中心部には中心窩と呼ばれる窪んだ構造が存在し、この部分には血管や視細胞以外の細胞の核が存在せず光を遮る構造をできるだけ除外する仕組みとなっている。ヒトにおいて黄斑は加齢黄斑変性を含む失明に至る疾患の病変部位であり、その形成メカニズムの解明が期待されている。黄斑はマウスを含む霊長類以外の哺乳類では発達しないため、黄斑部形成の分子メカニズムはほとんど明らかになっていない。そこで、私たちはサルの網膜を用いてこの黄斑部の研究を進めている。本年度は6か月齢のアカゲザル網膜をRNA
laterに保存した組織からトリゾールを用いたAGPC (Acid Guanidine
thiocyanate Phenol Chloroform)法によりRNAを精製した。今後、このRNAを用いて遺伝子発現を解析する予定である。
3. 平成27年度で終了した計画研究
霊長類脳科学の新しい展開とゲノム科学との融合
実施期間:平成25~27年度
課題推進者:高田昌彦、中村克樹、大石高生、宮地重弘、平井啓久、今井啓雄
ヒトに近縁の霊長類を用いた脳科学研究は高次脳機能や精神・神経疾患病態の解明に極めて有用である。平成25年度から開始された計画研究「霊長類脳科学の新しい展開とゲノム科学との融合」では、脳科学とゲノム科学との融合を目指して、革新的サルモデルや先端的研究手法による次世代の研究を推進することを目的としている。具体的には、認知行動を支配する神経ネットワーク活動と神経ネットワーク活動を支配する認知ゲノム発現の生物学的フレームワークを明らかにするため、サル類を用いて高次脳機能や精神・神経疾患に関する多様な研究を意欲的に展開している所外の研究者と共同利用研究を展開してきた。平成26年度と27年度には、共同利用研究会を開催し、最新の研究成果の紹介と霊長類脳科学研究に関わるさまざまな情報交換、意見交換をおこなってきた。本計画研究の成果を発展的に継承する形で、新たな計画研究「集団的フロネシスの発現と創発に関する研究」を平成28年度から開始し、霊長類脳科学の更なる展開を図っていきたい。
研究実施者
<平成25年度>
A-1
霊長類に特異的なイムノトキシン神経路標的法の開発(小林和人)
A-2
霊長類モデルを用いたトゥーレット症候群に有効な脳深部刺激療法の基礎的研究(磯田昌岐)
A-3
認知機能と行動制御における外側手綱核の役割(松本正幸)
A-4
行動制御に関わる高次脳機能の解明に向けた神経ネットワークの解析(星 英司)
A-12 霊長類脳科学の新しい展開とゲノム科学との融合に向けた神経解剖学的検索(南部 篤)
A-15 成体脳神経新生のin vivo動態解析技術の創出(植木孝俊)
<平成26年度>
A-1 複数骨格筋への単シナプス性発散投射構造の解剖学的同定(関 和彦)
A-2 運動異常症の霊長類モデルにおける脳活動異常の電気生理学的解析(磯田昌岐)
A-3 行動制御に関わる高次脳機能の解明に向けた神経ネットワークの解析(星 英司)
A-5 認知機能と行動制御における外側手綱核の役割(松本正幸)
A-11 小脳失調症の病態解析と霊長類モデルの開発(田中真樹)
A-12 大脳―小脳―基底核連関の構築に関する神経解剖学的研究(南部 篤)
A-13 霊長類に特異的なイムノトキシン神経路標的法の開発(小林和人)
A-17 成体脳神経新生のin vivo動態解析技術の創出(植木孝俊)
A-19 遺伝子発現の生体内可視化と脳機能制御技術の確立(南本敬史)
<平成27年度>
A-2 ウイルスベクターを利用した霊長類モデル脳内への遺伝子導入と神経回路操作技術の開発(小林和人)
A-7 行動制御に関わる高次脳機能の解明に向けた神経ネットワークの解析(星 英司)
A-8
遺伝子発現の生体内可視化と脳機能制御技術の確立(南本敬史)
A-9 意欲が運動制御を支える因果律の解明(西村幸男)
A-14 大脳―小脳―基底核連関の構築に関する神経解剖学的研究(南部 篤)
A-15 認知機能と行動制御における外側手綱核の役割(松本正幸)
A-16 複数骨格筋への単シナプス性発散投射構造の解剖学的同定(関 和彦)
A-18 成体脳神経新生のin vivo動態解析技術の創出(植木孝俊)
(文責:高田昌彦)
4. 共同利用研究会
「福島原発事故に起因するニホンザルと他の野生生物の保全問題の解決に向けた国際情報発信(Vth
International Wildlife Management Congress (IWMC2015) Symposium 53: Radiation
Monitoring and Conservation of Wildlife after Fukushima)」
日時:2015年7月29日午後1時~6時10分
場所:札幌市 札幌コンベンションセンター Medium-B(参加人数:約40人)
世話人:河村正二(東京大;日本霊長類学会・保全・福祉担当理事)、川本芳(京都大・霊長研;日本霊長類学会・保全・福祉担当理事)
共催:日本霊長類学会・保全・福祉委員会、日本哺乳類学会・哺乳類保護管理専門委員会
2011年の福島第一原子力発電所事故による放射性物質の飛散に起因して、北関東から東北の広範囲で野生ニホンザルの保護管理問題が生じている。被ばくの現状把握と保全問題の解決に向けて日本霊長類学会保全・福祉委員会では国内外の研究者と情報・意見交換を行い、連携強化を進めてきた。それによりこの地域のサルが外部被ばくだけでなく、被ばくした餌植物を介した内部被ばくに晒されており、白血球減少などの健康影響が生じている可能性が指摘されてきた。人への影響を考える上でも、長寿で近縁動物のサルをモニタリングする意義は大きい。しかし、被ばく実態と影響には未解明の点が多く残されており、モニタリング方法に関しても改良を要している。そこで国内外の関連する多くの研究者・保全活動家の参集する2015年7月開催の5th
International Wildlife Management Congress (IWMC2015)
の機会を活用し、ニホンザル研究の中心的役割を果たしてきた京都大学霊長類研究所の共同利用研究会として、同会議において国際シンポジウムを開催し、国際的な情報発信促進を企図した。重要な参照情報として他の野生動物(昆虫、鳥類、非霊長類哺乳類)についても、被ばくの状況や影響評価の実際について情報交換を行った。チェルノブイリとの比較、海洋の放射線量、糞を利用した腸内細菌叢からの健康影響評価などの多角的な視点から情報共有を行った。以下にプログラムと各発表の概要を報告する。また、シンポジウムの内容を国際学術雑誌であるJournal
of Heredityに特集するための準備を進めている。
<プログラム>
1:00 PM - 1:05 PM
Shoji Kawamura (The University of Tokyo)
Opening Remarks
1:05 PM - 1:35 PM
Satoshi Yoshida (National Institute of Radiological Sciences)
International Research Needs for the Effects of Radiation on Non-Human Biota and
Ecosystems ?
放射線の生物影響研究や環境防護のこれまでの考え方を整理し、その枠組みの中で東電福島第一原発事故をとらえた場合に、何がどこまで言えるのかを議論した。事故直後の環境モニタリングのデータを用いて評価すると、環境生物の被ばく線量は、その生物に対する何らかの影響を考慮すべきレベルに達する場合があり、福島の環境における調査研究が重要であることを示した。また、UNSCEARのレポートを引用しつつ、これまでに明らかになっていることをまとめるとともに、今後は、線量-効果関係の明確化、長期的視点での調査研究、生態系への影響調査研究などが重要であると提案した。
1:35 PM - 2:05 PM
Manabu Fukumoto, Yusuke Urushihara, Masatoshi Suzuki, Yoshikazu Kuwahara, Gohei
Hayashi (Tohoku University, Institute of Development Aging and Cancer)?
Establishment of Animal Archives in and around the Ex-Evacuation Zone of the
Fukushima Nuclear Power Plant Accident.
福島第一原発事故によって大量の放射性物質が環境中に飛散し、それによる健康影響が世界中の関心事となっている。我々は、原発から半径20km以内である旧警戒区域内で安楽殺された家畜と野生動物の臓器アーカイブを構築している。今までに得られた知見と現在進行中の解析について紹介した。チェルノブイリ事故に比較して1/10の放射性物質が飛散したこと、チェルノブイリの影響として甲状腺癌が明確になってきたのが事故後5年以降であることを考えると福島第一原発事故では最低向後5年は注意深い観察が必要である。
2:05 PM - 2:35 PM
Takuya Kato (Nippon Veterinary and Life Science University)
Hematological Characteristics and Muscle Radiocesium Concentrations in Wild
Japanese Monkeys after Fukushima Disaster
本研究プロジェクトでは、福島市に生息する野生ニホンザルにおいて放射性セシウムCs-134およびCs-137による健康影響のモニタリングを目的とした研究を実施している。本発表では、福島第一原子力発電所(NPP)から70kmに位置する福島市の個体群と、同じく400km離れている下北半島の個体群で、筋肉中のセシウム濃度ならびに血液性状値についての比較した結果について報告した。筋肉中のセシウム濃度は、下北半島の個体群では検出限界未満であったが、福島市の個体群では78-1788
Bq/kgの値を示した。また、白血球数、赤血球数、ヘモグロビン濃度、ヘマトクリット値では、下北半島の個体群より福島市の個体群が有意に低かった。さらに、福島市の個体群では、とくに未成熟の集団で白血球数と筋肉中セシウム濃度に負の相関が認められた。これらの結果から、福島の野生ニホンザル個体群において放射性物質が血液性状に変化をもたらす可能性が示唆される。質疑としては、対照個体群のさらなる追加検討の必要性や血液性状変化のメカニズム解明に関する重要な助言をいただいた。この度の共同発表者間での協力関係の充実を図り、今後の研究発展に役立てたいと考える。
2:35 PM - 3:05 PM
Joji Otaki, Atsuki Hiyama, Wataru Taira, Chiyo Nohara, Mayo Iwasaki, Seira
Kinjo, Masaki Iwata (University of the Ryukyus)
The Pale Grass Blue Butterfly in Fukushima
ヤマトシジミの形態異常率について、2011年から2013年までの推移状況を報告した。野外採集個体と実験室で得られた次世代の形態異常率の推移は類似しており、2011年秋と2012年春をピークとしてその後は正常レベルにまで減衰した。ただし、次世代の異常率のほうが野外採集個体の異常率よりもかなり高くなった。このような形態異常率の推移がDNAレベルでの変化を伴っているかどうかについては現在のところ証拠はない。
3:05 PM - 3:35 PM
Shin-ichi Akimoto, Izumi Yao (Hokkaido University, Graduate School of
Agriculture)
Effects of Radioactive Contamination around Fukushima Daiichi on the Morphology
and Genetics on Aphids ?
福島県の高線量地域でゴール(虫こぶ)を形成するアブラムシを採集し、形態に異常を示した個体の割合を調べた。川俣町山木屋地区で2012年に採集されたゴールからは高い割合で形態異常を示す個体が見出されたが、翌年以降、異常率は低下し、近隣の線量の低い米沢市のサンプルの異常率と有意な差は見出されなかった。したがって、放射性降下物の影響は2012年にだけにとどまると結論された。
Break
3:45 PM - 4:15 PM
Isao Nishiumi (National Museum of Nature and Science)
Research on Breeding of Ural Owl Using Nest-Boxes in Fukushima
森林生態系への放射能の影響調査の一例としてフクロウの巣箱を利用した調査についての現状を報告した。フクロウの巣箱計83個を、飯舘村、福島市小鳥の森、土湯温泉町とその周辺、および会津若松市という空間線量の大きく異なる4地域に設置したが、2015年の繁殖期における巣箱の利用は全体でも10%未満の7巣にとどまり、設置場所周辺の空間線量と巣箱の利用率には関係が認められなかった。ただ、2μSv/h程度の巣では雛の成長率が悪く、餓死しやすいことが示唆された。またヒナの血中カロテロイド量について空間線量と負の相関が認められた。フクロウのセシウム濃度は、直接は計測できなかったが、放棄された卵のセシウム濃度から推定すると、主な餌となっているアカネズミなどと比べると低いことが推定され、セシウムの生物濃縮が進んでいるとはいえなかった。吸収量が抑えられている可能性や代謝による排出能力の高さなどが要因として考えられ、今後の課題とされた。ただ、同地域に生息するシジュウカラと比較すれば、フクロウのセシウム濃度は10倍も高いこともわかった。影響について継続した調査が必要といえる。
4:15 PM - 4:45 PM
Tatsuo Aono (National Institute of Radiological Sciences)
The Effects of Radiation for Non-Human Biota in Marine Environment since the
Fukushima NPS Accident
福島第一原子力発電所事故前の海洋環境中の放射性核種濃度について、1970年以降から行われているモニタリング調査のデータベースと海水、堆積物、海藻や魚介類中の放射性セシウム(Cs)について紹介した。そして、福島第一原子力発電所事故に伴う海水や堆積物中の放射性CsやPuの濃度分布や挙動について解説した。また福島第一原子力発電所事故に伴う海産生物中の放射性Cs濃度やその他の核種について、分布や特徴について述べた。これらのデータを用いて福島第一原子力発電所事故に伴う海洋生物に対する放射線影響について、幾つかのモデル計算の結果を示し、海洋生物への推定線量率はバックグラウンド線量率に近く、慢性影響に関する基準値を大きく下回るものであることを解説した。
4:45 PM - 5:15 PM (Skype)
Tomoko Steen (Georgetown University, School of Medicine, Washington, DC)
Studying Immunological Effects of Ionizing Radiation through Microbiome
Since the nuclear power plant accidents of Chernobyl and of Fukushima, the main
concern has been the biological effects of ionizing radiation on organisms
including humans and wild animals resident in affected areas. It has been very
difficult, however, to assess the actual short- and long-term effects of
radiation on organisms accurately. Radioactive isotopes released by the nuclear
accidents have long half-lives, thus they continue to expose organisms and
accumulate in their bodies. In searching of a reliable tool to assess the health
effects of radiation on organisms, I have been investigating the use of the
microbiome. Recent studies clearly show that the composition of the gut
microbiome changes to reflect an organisms' health, age, and immune system
status. In my talk, I discussed possibilities of using the gut microbiome to
investigate minute effects of ionizing radiation on wild animals and potential
use of the system to aid ecosystem recovery.
5:15 PM - 5:35 PM (Skype)
Timothy Mousseau (University of South Carolina, Columbia, SC)
Commentary
In the years since the Fukushima disaster there have been a growing number of
scientific studies of wildlife living in the radioactive regions. Curiously,
reports from the UNSCEAR committee have failed to acknowledge the likely
significance of these studies and related studies conducted in the Chernobyl
region. The overwhelming conclusion that can be drawn is that many organisms
living in these radioactive environments display some consequences of their
exposure with significant evidence of injury to individuals, populations,
communities and the ecosystem as a whole. Further progress concerning the
impacts of the disaster to wildlife in Fukushima will require significant
investment of resources and the development of infrastructure to support
independent academic scientists and their research. Given recent advances in the
understanding of radiation effects, it is important that a diversity of
organisms and scientific approaches be employed to better understand the
mechanisms responsible for individuals, population and ecosystem responses to
mutagenic environmental stressors.
5:35 PM - 6:10 PM
Discussion
(文責:河村正二)
「第2回 霊長類への展開に向けた
幹細胞・発生・エピゲノム研究」
日時:2015年9月1日(火)・2日(水)
場所:京都大学霊長類研究所 大会議室(参加人数:約30人)
世話人:今村公紀
現代生命科学の最先端に位置する幹細胞、発生、およびエピゲノムの研究分野では、新たなコンセプトに基づく革新的な技術が日進月歩で開発されている。こうした研究成果の利用は基礎研究に留まらず、発生/生殖工学や医療へと順次応用されており、霊長類研究の展開を刷新する可能性も秘めている。そこで、これら最先端領域と霊長類研究を融和する試みとして、第一回目となる2014年の研究会では「霊長類を対象とした上記の研究に取り組んでいる研究者」と「今後の利用とコミュニティへの周知を期待する最先端の研究者」を招き、霊長類(および霊長研)の認知度の向上と研究者を結ぶ有機的ネットワークの構築を図った。そこで、第二回目となる2015年の研究会では、次のステップとして「今後の研究テーマの一つとして、霊長類を対象とした研究を本格的に検討して頂く」ことを目的に据え、主に若手の研究者を会した研究会を開催した。
<プログラム>
9/1(火)
13:30~13:40 開会挨拶 今村公紀(京都大)
セッション1
13:40~14:10 今村拓也(九州大) 遺伝子発現を活性化するノンコーディングRNAの機能と進化
14:10~14:40 津山淳(慶應大) 神経幹/前駆細胞の分化能を制御しているmicroRNAの同定と機能解析
セッション2
14:50~15:20 首浦武作志(鳥取大) マウスES細胞由来生殖細胞分化過程でのDNAメチル化制御
15:20~15:50 林義剛(滋賀医大) 霊長類の脳細胞エピゲノム変化と気分障害の関係性の解明
セッション3
16:00~16:30 藤井渉(東京大) ゲノム編集技術による遺伝子組換え動物作出の現状と展望
16:30~17:00 佐藤卓也(横浜市立大) 精子幹細胞のex vivo
culture:体外精子形成誘導法と精子幹細胞のゲノム編集
テクニカルセミナー
17:10~17:30 オンチップ・バイオテクノロジーズ
セッション4
17:40~18:10 岩槻健(東京農大) 味幹細胞の同定とその培養
18:10~18:40 須賀英隆(名古屋大) ヒトES細胞から脳下垂体への誘導
懇親会
19:00~21:00
9/2(水)
セッション5
9:30~10:00 坂口秀哉(理研CDB) ヒトES細胞からの海馬前駆体および海馬顆粒・錐体細胞の誘導
10:00~10:30 小野寺一成(愛知医大) 疾患特異的iPS細胞を用いた神経疾患の病態解析
10:30~11:00 飯尾明生(愛知県心身障害者コロニー発達障害研究所) ニューロリギン4Xのエピジェネティクスによる発現制御機構の解析
セッション6
11:10~11:40 柴田典人(京都大) 全能性幹細胞システムにおけるPIWI-piRNAによるレトロウイルス抑制機構
11:40~12:10 今村公紀(京都大) 霊長類生殖細胞の発育生物学
12:10~12:20 閉会挨拶 今村公紀(京都大)
(文責:今村公紀)
「ニホンザル研究のこれまでと、今後の展開を考える」
開催日:2015年10月24日(土)・25日(日)
場所:京都大学霊長類研究所 大会議室(参加人数:38人)
世話人:辻大和
この研究会では、ニホンザル研究者が連携して地域間比較を容易に行うことができる体制を作ることを目指し、日本各地のニホンザル研究者に各自のデータを紹介してもらい「参加者が情報を交換・共有できる場」「自由に討論できる場」を提供した。具体的なトピックとして、①
ここ数年で新たに調査が開始された場所(白神山地・奥多摩・四国)での研究の紹介、②
長期にわたりニホンザルの研究が行われている調査地(高崎山・幸島・屋久島)からの、個体群動態や資源量の変動といった長期データの紹介、③
各調査地の情報を集約することでみえてくる地域差とその要因についての研究紹介の三つを取り上げた。
<プログラム>
10月24日(土)(於:京都大学霊長類研究所1F大会議室)
12:50-13:00 あいさつ、研究会の趣旨説明(辻大和)
PART1: ニホンザルの新たな調査地 (座長:中川尚史)
13:00 - 13:40 多雪地生態系におけるニホンザルの役割を考える:白神山地を事例に
江成広斗(山形大学農学部)
13:40 - 14:20 奥多摩の野生ニホンザルの長期研究の試み
島田将喜(帝京科学大学アニマルサイエンス学科)
14:20 - 15:00 高知県におけるニホンザルの研究と課題
葦田恵美子(四国自然史科学研究センター)
15:00 - 15:15 休憩
PART2: 長期調査地の事例紹介 (座長:川本芳)
15:15 - 15:55 長期調査から見えてくるもの~常駐職員の視点から~
鈴村崇文(京都大学野生動物研究センター)
15:55 - 16:35 中部山岳地域のニホンザルの分布と遺伝子モニタリング
赤座久明(富山県自然博物園ねいの里)
16:35 - 16:50 休憩
16:50 - 17:30 高崎山ニホンザルの生物経済
杉山幸丸(元京都大学霊長類研究所)
17:30 - 18:10 屋久島西部海岸域におけるヤクシマザルの個体数変動
杉浦秀樹(京都大学野生動物研究センター)
18:30 - 20:30 懇親会(於:霊長類研究所レストラン)
10月25日(日)(於:京都大学霊長類研究所レストラン)
PART 3: 地域間比較 (座長:杉浦秀樹)
09:30 - 10:10 ニホンザルの食性の地域変異の決定要因
辻大和(京都大学霊長類研究所)
10:10 - 10:50 ニホンザル地域個体群の成立時期の推定
川本芳(京都大学霊長類研究所)
10:50 - 11:30 ニホンザルの行動の地域変異研究―新展開に向けて―
中川尚史(京都大学大学院理学研究科)
11:30 - 11:50 コメント
高畑由紀夫(関西学院大学)
(文責:辻大和)
「第3回 ヒトを含めた霊長類比較解剖学-四肢の基本構成と特殊化を探る-」
日時:2015年11月21日 (土)
場所:京都大学霊長類研究所 大会議室(参加人数:約30人)
世話人:時田幸之輔(埼玉医科大学)、平﨑鋭矢
ヒトを含めた霊長類比較解剖学として、今年度は、体肢の形態学的特徴を考えた。脊椎動物は頭部という特殊に分化した部分、舌下神経からはじまる脊髄神経領域すなわち頚から尾の先までの体幹、そこに新しく突出した四肢から構成されている。四肢は、脊椎動物が陸上生活に移ってから目ざましく発達した体部である。霊長類は多様な運動レパートリーを有しており、それぞれの種に特異的なロコモーション様式に応じた形態適応を示していると考えられる。しかし、肩甲帯(骨盤)、上腕(大腿)、前腕(下腿)、手根(足根)、指といった肢節の基本構成は共通している。一方、体幹は分節的な構造の繰り返しによって作られるが、体幹と四肢との移行領域である四肢帯(肩甲帯、骨盤帯)は分節的構成が修飾され、理解の難しい領域である。これらの移行領域についても霊長類各種の運動様式との関連も予想される。
本研究会は、四肢を構成する、骨、筋、脊髄神経についての肉眼解剖学的な知見を紹介し、ヒトを含めた霊長類四肢の基本構成と特殊化について、理解を深めることを目的とした。以下のプログラムに示す多様な研究成果が報告され、活発な議論が交わされた。
<プログラム>
11/21(土)
12:00~12:25 開場・受付
12:25~12:30趣旨説明 時田幸之輔(埼玉医大)
Ⅰ.上肢
<座長 小島龍平(埼玉医大)、荒川高光(神戸大)>
12:30~12:55 矢野 航(朝日大)
ヒト科乳様突起部骨格形態進化と筋付着について
12:55~13:20 鈴木 了(新潟医療福祉大) 頚胸部および腕神経叢内に出現する変異筋
13:20~13:45 江村健児 (姫路獨協大) コモンマーモセットにおける腕神経叢と前肢筋の形態について
13:55~14:20
緑川沙織(埼玉医大) 体幹・上肢境界領域の末梢神経についての比較解剖学的考察
14:20~14:45 那須久代 (東京医歯大) 肩甲挙筋、菱形筋、前鋸筋の神経支配に関する肉眼解剖学的研究
14:45~15:10 加賀谷美幸(広島大) 前肢帯の立体配置と可動域:生体計測とCT骨格モデルによる霊長類
4種の比較
15:20~15:45 菊池泰弘(佐賀大) 生理的筋断面積からみた肩関節筋-ヒトを含む類人猿の特徴-
15:45~16:10 小泉政啓(東京有明医療大) 体幹と上肢の境界領域としての肩帯筋の形態学的意義を考える
Ⅱ.下肢
<座長 菊地泰弘(佐賀大)、小泉政啓(東京有明医療大)>
16:20~16:45 岡 健司(大阪河崎リハビリテーション大) 霊長類大腿四頭筋の活動
16:45~17:10 萩原康雄(新潟医療福祉大) 日本列島諸集団における腓骨の形態と頑丈性の変化
17:10~17:35 田平陽子(久留米大) ヒト下腿三頭筋の特徴-筋線維の配列と構成について
17:45~18:10 後藤遼佑 (大阪大) 支持基体の傾斜角度に対する浅殿筋活動の変化:ニホンザルの場合
18:10~18:35 関谷伸一(新潟県看護大) 霊長類腓腹神経の比較解剖学
18:35~19:00 荒川高光(神戸大) 足底筋とヒラメ筋の系統発生を支配神経から考察する試み
(文責:時田幸之輔・平﨑鋭矢)
第44回ホミニゼーション研究会「霊長類学・ワイルドライフ・サイエンス」
日時:2016年3月5日(土)・6日(日)
場所:犬山国際観光会館フロイデ(参加人数:約150人)
世話人:松沢哲郎、平井啓久、古市剛史、湯本貴和、マイク・ハフマン、岡本宗裕
ホミニゼーション研究会は、研究所設立以来連綿と続いてきた。設立当初の志を引き継いで、継続することに意義がある。会の世話役が3年をめどに順次入れ替われってバトンをつなぐ制度のもと、平成25-26-27年度の3年間、「ワイルドライフサイエンス」を旗印にしたリーディング大学院の研究に焦点をあてた。ただし、ホミニゼーション研究会として独立したプログラムになるよう、後半の2日間をそれにあてた。今回は「比較認知科学の展望」と題したものである。
詳細については以下のサイトを参照されたい。http://www.wildlife-science.org/en/symposium/2016-03.html
両日における話題提供者を以下に列挙する。また、3月4日(金)に37題のポスター発表があった。
3月5日(土)
中垣俊之(北大)Physical ethology of single-celled organism
岡ノ谷一夫(東大)Domestication and song evolution in Bengalese finches
狩野文浩(京大・野生動物)Great apes make anticipatory looks based
on false beliefs
川合伸幸(名大)Evolutionarily predisposed snake fear: Comparative,
developmental, and electrophysiological studies
渡辺茂(慶応大)Comparative analysis of reinforcing property ‐Study on
pleasure‐
足立幾磨(京大・霊長研)Cross‐modal correspondences in non-human
primates
服部裕子(京大)Rhythmic entrainment : Evolutionary origins of human
bonding mechanism
クリス・マーチン(米国・インディアナポリス動物園)Orangutan
strategies for solving a visuospatial memory task
平田聡(京大・野生動物)Launch of a new project to study wild horses
in Portugal
友永雅己(京大・霊長研)Exploring the perceptual world from the
comparative‐cognitive perspective
松沢哲郎(京大・霊長研)Dialectical perspective of Comparative
Cognitive Science
3月6日(日)
藤田和生(京大・文)Talk on cats and dogs: Comparative cognition in
two of our best friends
山本真也(神戸大)Comparative studies with chimpanzees and bonobos on
cooperation in the wild and captivities
森村成樹(京大・野生動物)Conservation of wild chimpanzees at
Bossou, Guinea
林美里(京大・霊長研)Cognitive development and mother‐infant
interaction in great apes
クリケット・ザンツ(米国・ワシントン大学)Modern
environmental challenges to the ecological flexibility of Great apes
明和政子(京大・教育)Emergence of Self :Development of social
cognition from Perinatal
ラルフ・アドルファス(米国・カリフォルニア工科大学)Can
we study emotions in animals?
(文責:松沢哲郎)
「霊長類脳科学の新しい展開とゲノム科学との融合」
日時:2016年3月11日(金)13:30 - 3月12日(土)16:10
場所:京都大学 霊長類研究所 大会議室
研究会世話人:高田昌彦
平成25年度から開始された共同利用・共同研究プロジェクトの計画研究「霊長類脳科学の新しい展開とゲノム科学との融合」では、脳科学とゲノム科学との融合を目指して、革新的サルモデルや先端的研究手法による次世代の研究を展開することを目的としている。本研究会は、ヒトを含む霊長類を用いて、認知行動を支配する神経ネットワーク活動と神経ネットワーク活動を支配する認知ゲノム発現の生物学的フレームワークを明らかにするため、高次脳機能や精神・神経疾患に関する多様な研究を意欲的に展開している研究所内外の研究者(特に中堅・若手研究者)を対象にして、最新の研究成果の紹介と霊長類脳科学研究に関わるさまざまな情報交換、意見交換をおこなってきた。今回は平成26年度に続いて第2回目であり、以下のプログラムに従って、最終年度としての総括をおこなった。
<プログラム>
3月11日(金)
13:30 - 13:40 開会挨拶 高田 昌彦(京都大学 霊長類研究所)
13:40 - 14:10 郷 康広(自然科学研究機構
新分野創成センター)
「霊長類における精神・神経疾患関連遺伝子解析と認知ゲノミクスの展望」
14:10 - 14:40 星 英司(東京都医学総合研究所)
「補足運動野と帯状皮質運動野の動作制御への関与:細胞活動と局所場電位の解析」
14:40 - 15:10 小山内 実(東北大学大学院)
「定量的活動依存性マンガン造影 MRI
によるパーキンソン病責任領野の同定」
15:10 - 15:30 ブレイク
15:30 - 16:00 南本 敬史(放射線医学総合研究所)
「PETイメージングと化学遺伝学的手法の融合によるサル脳科学研究の展開」
16:00 - 16:30 平林 敏行(放射線医学総合研究所)
「視覚長期記憶の表象・想起を司る側頭葉の局所回路機構」
16:30 - 17:00 宇賀 貴紀(順天堂大学大学院)
「神経活動と知覚の相関はどのように生じるのか?」
17:00 - 17:30 田中 真樹(北海道大学大学院)
「眼球運動を指標にした時間情報処理の解析」
3月12日(土)
9:30 - 10:00 関 和彦(国立精神・神経医療研究センター)
「多領域連関による感覚運動変換メカニズムとその病態」
10:00 - 10:30 筒井 健一郎(東北大学大学院)
「げっ歯類に前頭連合野はあるのか? -
機能に基づいた検証」
10:30 - 11:00 南部 篤(生理学研究所)
「パーキンソン病の病態生理について」
11:00 - 11:30 西村 幸男(生理学研究所)
「中脳辺縁系による運動制御の神経基盤」
11:30 - 12:00 松本 正幸(筑波大学)
「2つのドーパミン神経系の機能解析に向けて」
12:00 - 13:00 ブレイク
13:00 - 13:30 植木 孝俊(名古屋市立大学大学院)
「成体脳神経新生のin vivo動態解析技術の創出」
13:30 - 14:00 二宮 太平(京都大学 霊長類研究所)
「多系統萎縮症関連遺伝子変異ザルの網羅的病態解析」
14:00 - 14:30 井上 謙一(京都大学 霊長類研究所)
「霊長類脳研究に資する多様なウイルスベクターシステムの開発」
14:30 - 15:00 磯田 昌岐(関西医科大学)
「On the role for medial prefrontal neurons in understanding others」
15:00 - 15:30 橋本 亮太(大阪大学大学院)
「ゲノム科学による霊長類脳の多様性の解明」
15:30 - 16:00 小林 康(大阪大学大学院)
「サルを用いた随意運動を制御する脳幹・中脳ニューロン活動ダイナミクスの解明」
16:00 - 16:10 閉会挨拶 高田昌彦(京都大学霊長類研究所)
(文責:高田昌彦)