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京都大学霊長類研究所 > 年報のページ > Vol.46  > Ⅲ. 研究教育活動


Ⅲ. 研究教育活動

1. 研究部門及び附属施設

附属施設

人類進化モデル研究センター

13種約1200頭の研究用サル類の飼育・繁殖・管理を実施した。技術職員8名が中心となり、非常勤職員の協力のもと、日常業務がこなせる体制を構築できた。また、各々の専門性及び継続性を考慮し、飼育管理業務だけではなく、1)施設管理・データ管理・検査・健康管理等の専門性を高める活動を推奨し、積極的に行うこととした。前年度に引き続き、職員の知識を深め意識を高めるために、野生霊長類の観察、国内の研究機関等の見学などに加え、種々の研修や学会にも積極的に参加した。
近年の研究の変化や国内外の研究者との共同研究の内容の変化を考慮し、外からサル類の導入に関する手続や検疫を見直した。
また、国立大学法人動物実験施設協議会の幹事校として活動した。
NBRPに関しては別途記載しているのでその項目を参照されたい。当センターとしては、NBRPのニホンザルの検疫業務が円滑に実施できるよう協力体制を整えた。
人事に関しては、以下の通りである。2015年4月より技能補佐員の西岡享子、6月より教務補佐員の村田めぐみ、10月より技術補佐員の新美幸・事務補佐員の丹羽紗葉子、11月より技術補佐員の辻薫を雇用した。また、4月に技術補佐員の田村夏海、8月に特定研究員の東濃篤徳、9月に事務補佐員の米田順子、10月に技術補佐員の吉田由美子、研究支援推進員の大堀美佳、3月に特定研究員の渡部祐司、研究支援推進員の猪飼良子・安江美雪、技術補佐員の藤森唯、技能補佐員の江口聖子が退職した。
NBRPとしては、技能補佐員として12月より常盤准子、2月より大川夏菜を雇用した。また、12月に技能補佐員の伊藤芳明、3月に常川千穂が退職した。

<研究概要>


A-1) ニホンザル血小板減少症の発症・非発症機序の解明とマカク類のリスク評価法の開発
岡本宗裕
近年、京大下霊長研および生理学研究所のニホンザル繁殖施設(以下生理研繁殖施設)において、原因不明の血小板減少症が流行し、多数のニホンザルが死亡した。我々は、疫学調査とニホンザルへの感染実験を行い、霊長研で発生したニホンザル血小板減少症の病因が、サルレトロウイルス4型であることを明らかにした。一方、生理研繁殖施設で発生した同症は、疫学調査の結果からサルレトロウイスル5型(以下SRV-5)との関連が強く示唆されていたが、病因の確定には至っていなかった。そこで、SRV-5のニホンザルへの感染実験を行い、SRV-5と同症の関連を調べた。発症個体から分離したSRV-5をin vitro培養し、2頭のニホンザルの静脈内および腹腔内に投与した。その結果、SRV-5ウイルスRNAは投与後8日目から確認され、その後実験終了までウイルス血症が持続した。血小板数は15日目まではほぼ正常値を維持していたが、それ以降培養ウイルスおよび感染性クローンを投与した各1頭で急激に減少し、24日目には1万以下となったため安楽殺した。また1頭は、22日目から血小板数が漸減し47日目には2万5千まで低下したが、その後回復し50日目以降はほぼ正常値で推移した。残りの1頭は、実験期間を通して血小板数の減少は認められなかった。そこで71日目より、生存中の2頭に対し免疫抑制剤としてデキサート2mg/kgを毎日筋肉内投与した。しかし、感染後100日まで血小板数の減少やその他の臨床症状は認められなかった。

A-2) 無鉤条虫・アジア条虫感染家畜の迅速検査法の開発と宿主特異性規定因子の探索
岡本宗裕
本研究の第一の目的は、ウシとブタにおける無鉤条虫・アジア条虫感染を高感度で検出可能な迅速検査法の開発である。開発途上国を中心に地球規模で蔓延する人獣共通感染症であるテニア症・嚢虫症を根絶するためには、患畜を簡便に検出できる信頼性の高い検査法が必須である。本研究の第二の目的は、近年その存在が明らかになった無鉤条虫とアジア条虫の交雑体について、感染様式を解明することである。2 種の交雑体がアジア各地に分布することが判明した現在、「無鉤条虫はウシ、アジア条虫はブタが中間宿主」という既成観念を取り払い、改めて家畜における両種ならびに交雑体の寄生状況を調査する必要がある。また、交雑体も含めた比較ゲノム解析により、両種の宿主特異性を規定する遺伝因子を探索する。
 平成27年度は、タイの流行地において疫学調査を実施し、ブタおよびヒトからテニア属条虫を採取した。また、それらサンプルの遺伝子解析を実施した。

A-3) 有鉤条虫の撲滅を目指した流行調査と土壌伝播蠕虫の網羅的検出法の開発
岡本宗裕
本研究の目的は、発展途上国を中心に蔓延する風土病であり、致死率の高い有鉤嚢虫症の撲滅を目指した対策方法を確立することである。我々の十数年にわたる流行調査により、世界に先駆けて『中間宿主である有鉤嚢虫症患者・患畜と終宿主である有鉤条虫症患者が共住している希有な地域』が発見され、撲滅に向けた対策研究を実施できる段階となっている。本研究では、①有鉤嚢虫症の感染源である有鉤条虫症患者の迅速高感度な新規検出法の開発、②住環境の衛生度の指標である土壌伝播蠕虫の網羅的検出法の開発、③それらを用いた流行調査を実施し、有鉤嚢虫と有鉤条虫の伝播経路の解明を行い、『有鉤嚢虫症が風土病として定着している』要因を明確にすることにより、有鉤嚢虫症の撲滅を目指した対策方法を確立する。
 平成27年度は、インドネシア・バリ島において疫学調査を実施し、ブタ血清を分離し、我々が開発した免疫診断法の有効性を確認した。フィールドでnaked-eye ELISAを実施することにより、効率よく有鉤条虫感染ブタを見つけることができた。一方で、胞状条虫との交差反応があることが明らかとなり、フィールドで使用するためにはさらなる精製が必要であることが明らかとなった。12月にタイ・バンコクで開催されたJITMM2014において、これまでの成果について、報告した。

B-1) HIV感染症の根治に向けた基盤的研究
関洋平、村田めぐみ、渡部祐司、明里宏文
 近年、多彩な抗HIV薬の併用による治療法が画期的な進展を遂げた結果、HIV感染症は慢性疾患の一つとなったと言える。しかしながら、HIV感染者は生涯に渡る薬の服用が必須であり、それに伴う薬剤の副作用や薬剤耐性ウイルスの出現、さらに加齢に伴うHIVの再活性化など検討課題は尚山積している。現在、完全治癒や機能的治癒の実現に向けた様々な基礎研究が行われているが、それらの有効性や安全性を評価するための介入試験をHIV感染者において実施することは難しいのが実情である。そこで我々は、それらの評価研究に適した新規霊長類モデルを樹立した。すなわち、HIV-1の感染伝播に重要なCCR5指向性を有する新規サル馴化HIV-1(HIV-1mt)をカニクイザルに実験感染させたところ、感染初期に高い血中ウイルスRNAレベル(~106 copies/ml)を示すにも関わらず、セットポイントを示さず、感染3カ月以降、1?2年が経過した時点においても血中ウイルスRNAは検出限界以下であった。ところが、末梢血リンパ球やリンパ節等ではプロウイルスDNAが持続的に検出され、また抗HIV抗体価の経時的な上昇が認められた。これらのことから、HIV-1mt感染カニクイザルは、抗HIV薬なしで血中ウイルスRNA量を検出限界以下の状態に長期間維持された、いわゆる潜伏感染状態にあると考えられる。特筆すべきことに、HIV潜伏感染ザルにCD8特異的な抗体を投与し、一過性に細胞障害性T細胞(CTL)を除去した結果、HIVの再活性化が認められたことから、HIV制御におけるCTLの重要性が実証された。HIV潜伏感染霊長類モデルは、HIV複製制御機構やリザーバー細胞の解析、さらにHIV感染症の根治に向けた新規治療法の開発推進に大きく寄与するものと期待される。

B-2) GBV-B持続感染マーモセットにおけるウイルスゲノムの経時的変異に関する解析
東濃篤徳、鈴木紗織、関洋平、明里宏文
 GBV-Bは小型霊長類に感染しC型肝炎様症状を呈するヘパチウイルスであり,C型肝炎ウイルス(HCV)に近縁なウイルスとして知られている.これまでに小型霊長類にGBV-Bを接種すると複数年の長期に渡り持続感染することが報告されている.GBV-B持続感染における病態進行の機序を探るため、次世代シークエンサーによりGBV-Bウイルスゲノムの経時的変異について詳細解析を行った。その結果,免疫回避に関与すると思われる復帰・連続変異,および宿主適応に関与すると思われる持続変異が見出されたことから、持続感染GBV-Bは宿主免疫による攻撃を回避するためにエスケープ変異を連続的に獲得していることが示された。本成果はHCV長期慢性化の機序を考える上で貴重な情報と考えられた。

B-3) GBV-B/HCVキメラ解析
鈴木紗織、東濃篤徳、明里宏文
 GBV-BはHCV と同じフラビウイルス科ヘパシウイルス属に属し、タマリンやマーモセットなどの新世界ザルに感染するため、HCVのサロゲートモデルとして注目されている。本研究では、HCV/GBV-Bキメラウイルスと新世界ザルを用いたC型肝炎霊長類モデルを作製し、将来的に新規ワクチン候補の評価モデルを確立することを目的とした。GBV/HC-1, 2クローンをマーモセットに接種したところ、血液中において間欠的にウイルスが検出されたが、急性感染後クリアランスされた。一方でHCV/G感染では3年以上血漿および末梢血単核球からウイルスが検出され持続感染が成立した。ウイルス接種後約1年半後の血漿を超遠心し、ウイルスペレットからシークエンスを行ったところ、接種したキメラウイルスのシークエンスを確認できた。このことから生体内でHCV/GBが持続的に複製していることが明らかとなった。この結果からエンベロープのみGBV-B由来でHCVベースのキメラウイルスが新世界ザルに感染しうることが初めて明らかになった。今後はこのキメラウイルスをさらに改良し新規ワクチン候補の評価が可能な霊長類モデルを確立したい。

C) サル類のストレス定量および動物福祉のための基礎研究
鈴木樹理、兼子明久、石上暁代、山中淳史
飼育環境でのストレス反応を定量することとその軽減策の検討のために、マカクの血中コーチゾルの測定を行った。更に非侵襲性の慢性ストレスモニタリングの試料として体毛に着目し、体毛中コーチゾルの測定法確立及び基礎データの収集を行っている。

D-1) ニホンザルの集団遺伝学的研究
川本芳, 川本咲江, 六波羅聡(NPO法人サルどこネット), 鈴木義久(NPO法人サルどこネット), 赤座久明(富山県自然博物園ねいの里), 森光由樹(兵庫県立大学自然・環境科学研究所), 羽山伸一(日本獣医生命科学大学), 井口基, 小林和弘, 小林綾(東京の野生ニホンザル観察会), 伊藤毅(琉球大学)
 ニホンザル地域個体群の研究では共同利用研究による三重, 兵庫, 東京, 青森の野生個体群の調査を継続し、研究成果を第158回日本獣医学会と霊長類研究所共同利用研究会で発表した. 房総半島で進行する外来種交雑は拡大し天然記念物指定地域に影響することを明らかにし, 第31回日本霊長類学会と第5回国際野生動物管理学術会議で発表した. 前年度に開催した共同利用研究会「法改正に伴う今後のニホンザルの保全と管理の在り方」の内容をまとめて印刷公表した. 和歌山のタイワンザル交雑個体の上顎洞形態に及ぼす遺伝的影響につき論文を公表した.

D-2) 海外のマカカ属サルの集団遺伝学的研究
川本芳, 濱田穣(進化形態分野), MA Haffman(社会進化分野), 大井徹(独立行政法人森林総合研究所), 千々岩哲((株)ラーゴ),P Wangda(ブータン森林省),T Norbu(ブータン森林省), K Rabgay(ブータン森林省),R Dorji(ブータン森林省), Sherabla(ブータン森林省),CAD Nahallage(Sri Jayawardenepura大学), M Chalise(Tribhuvan大学), 蘇秀慧(台湾國立屏東科技大學), D Sajuthi(ボゴール農科大学), D Perwitasari-Farajallah(ボゴール農科大学), B Suryobroto(ボゴール農科大学), J Jadejaroen(Chulalongkorn大学), S Malaivijitnond(Chulalongkorn大学)
 共同利用研究によりブータン, ネパール, スリランカ, インドネシア, 台湾でマカクの生態学および集団遺伝学の調査を進めた. ブータンでは獣害対策に関係するアッサムモンキーの共同研究成果を報告書にまとめ公表する準備を行っている. スリランカの研究成果を第4回PWS国際シンポジウムで共同研究者が発表した. ネパールではDNA実験室を設立し, 現地で実習を行い分析環境整備を進めた. インドネシアではボゴール農科大学霊長類センター創立25周年記念セミナーで講演し, ニューギニア島パプア州の外来カニクイザルにつき共同研究を継続した. タイではアカゲザルとカニクイザルの交雑を判定するSNP標識 (STAT6)を開発し, 交雑度と形態や繁殖の関係をまとめて論文公表した.

D-3) ボノボの保全遺伝学的研究
川本芳, 牧野瀬恵美子, 古市剛史(社会進化分野), 竹元博幸(社会進化分野), 坂巻哲也(社会進化分野), 橋本千絵(生態保全分野)
 ボノボの地域個体群間のmtDNA分化の研究結果とコンゴ河成立の地史的知見を比較し, コンゴ盆地にボノボの祖先が侵入した時期とその後の展開につき論文を公表した. また, コンゴ民主共和国ワンバのグループを対象とした性格関連遺伝子座に認められるDNA反復配列多型調査の結果を論文公表した.

D-4) 家畜化現象と家畜系統史の研究
川本芳, 稲村哲也(放送大学), T Dorji(ICIMOD), S Tenjin(ブータン農林省), J Dorji(ブータン農林省), 山本紀夫(国立民族学博物館)
 ブータン農林省生物多様性センターの動物遺伝子実験室が計画する在来馬の資源調査に協力し, 代表的な個体群のmtDNA変異を解析した. 現在その結果を論文にまとめている.

E-1) ニホンザルにおける静脈麻酔薬プロポフォールの薬物動態・薬力学に関する研究
宮部貴子、兼子明久、山中淳史、石上暁代、宮本陽子、鈴木樹理、岡本宗裕、D. Eleveld, A. Absalom (University Medical Center Groningen), 増井健一(防衛医科大学校麻酔科)
動物福祉の観点から、サル類において、より負担が少なく安全な麻酔を可能にするために、麻酔薬の薬物動態・薬力学に関する研究をおこなっている。ニホンザルにおいて、プロポフォール投与後の血中濃度および脳波のデータを収集している。

E-2) サル類における、麻酔薬アルファキサロンの麻酔効果および薬物動態に関する研究
宮部貴子, 三輪美樹(高次脳機能), 鴻池菜保(高次脳機能), 兼子明久, 石上暁代, 橋本直子, 印藤頼子, 愛洲星太郎, 福井知子(Meiji Seikaファルマ株式会社), 夏目尊好, 岡本宗裕, 中村克樹, 明里宏文, 増井健一(防衛医科大学校麻酔科)
マーモセットおよびニホンザルにおいて、麻酔薬アルファキサロンの麻酔効果に関する実験をおこなった。マーモセットについては、アルファキサロンとケタミン、アルファキサロンとメデトミジン、ブトルファノールの混合投与の麻酔効果についても検討した。また、ニホンザルについてはアルファキサロンの血中濃度測定をおこない、薬物動態モデルを作成した。

E-3) サル類およびチンパンジーの麻酔に関する臨床研究
宮部貴子, 兼子明久, 山中淳史, 石上暁代, 宮本陽子, 鈴木樹理, 岡本宗裕
サル類やチンパンジー等の麻酔の質を向上させるために、麻酔に関する臨床研究をおこなっている。他の研究や検診、治療等の目的で麻酔をする際に麻酔時間や呼吸循環動態に関するデータを収集している。チンパンジーの検診の際にプロポフォールを使用した場合には、投与後の血中濃度を測定して、薬物動態解析をおこなった。

E-4) サル類のヘリコバクターに関する研究
宮部貴子, 吉田由美子, 新美幸, 兼子明久, 岡本宗裕, 平井啓久
これまで、霊長類研究所で飼育されているマカク類からHelicobacter pyloriを検出していたが、それらのH. pyloriがヒトの胃潰瘍・胃癌の直接の原因となると考えられているCagAタンパク質をコードする遺伝子 (cagA遺伝子)をもつことが明らかになった。このcagA遺伝子は、ヒトに感染しているH. pyloriがもつcagA遺伝子とは系統的に離れており、cagA遺伝子の起源・進化を探る上で極めて重要な発見である。

F-1) マカクザルコロニーの集団遺伝学的研究
田中洋之, 川本 芳, 川本咲江, 森本真弓
 本研究は、霊長類研究所で維持されるマカクザル繁殖コロニーの嵐山群、高浜群、若桜群、インド群、中国群を対象に、遺伝的多様性のモニタリングを行っている。H27年度は、新規個体の試料採集が行われなかったが、過去にこれらの群れに存在していた個体のマイクロサテライトDNA型の判定を継続した。

F-2) キタブタオザルの系統地理学的研究と東南アジア産霊長類の保全遺伝学的研究
田中洋之, 川本 芳, 濱田 穣(進化形態分野)
 キタブタオザルの系統地理学的研究を継続した。Aye Mi San氏(ミャンマー)との共同研究で、ミャンマー産キタブタオザルのmtDNA配列を決定し、系統分析を行った。また、ミャンマー産カニクイザルの系統的位置づけをmtDNAとY染色体配列で検討した結果、その特異的な遺伝的特徴が同種の保全に有効な情報になることがわかった。
 ベトナムの Han Luong Van氏との共同利用研究では、保護されたスローロリスを野生に返す「再導入計画」に必要な遺伝情報の蓄積を行うため、出自の明確な個体を用いて、mtDNAマーカーの開発を行った。核ゲノムのmtDNA様配列の増幅を防ぐためロングPCR法で9kb領域を増幅し、これを鋳型として種内遺伝的変異をみいだせるチトクロームb遺伝子からD-loop領域までの1.8kbの配列を決定し、マーカーとした。

F-3) マダガスカル産希少原猿類の遺伝管理に関する研究
田中洋之
 本研究は、(一財)進化生物学研究所の宗近功氏との共同研究であり、マダガスカル産原猿類の中で特に絶滅が危惧されるクロキツネザル (Eulemur macaco macaco) とエリマキキツネザル2亜種 (Varecia variegata variegataおよび V. v. rubra) を対象として、マイクロサテライトDNA型に基づき、日本国内の動物園等の飼育個体の正確な血統管理法の確立を目的としている。H27年度は、伊豆サボテン公園と甲府市動物園の飼育個体、クロキツネザル7個体(伊豆サボテン公園♂3♀3, 甲府市動物園♀1)ならびにクロシロエリマキキツネザル3個体(甲府市動物園♂1♀1とその間の子供1)を分析した。個体のマイクロサテライト型は、動物園に還元した。本研究は、日本国内の全飼育個体のマイクロサテライト型判定を目指している。

G) 人類進化モデル研究センター勉強会 (Discussion Forum of CHEMR)
 2015年度より関係者の情報および意見交換のため勉強会を行うことにした。今年度の話題提供者とタイトルは以下であった。

第1回 2015年5月11日 川本芳
 外来生物法改正とその新たな課題:房総半島におけるニホンザルとアカゲザルの交雑問題について

第2回 2015年6月22日 岡本宗裕
 SRV感染症 ―わかったこと・わからないこと―

第3回 2015年9月7日 兼子明久
 最近5~10年のマカク人口動態について

第4回 2015年10月19日 愛洲星太郎
 タンザニア出張報告 ~ゴンベNP・セルース狩猟保護区~

第5回 2015年11月30日 森本真弓
 タイ出張報告 ー National Primate Research Center of Thailand ー初回サル導入時の支援協力について

第6回 2016年1月18日 鈴木樹理
 マカクの様々な飼育環境下での日常観察

第7回 2016年2月29日 兼子明久・橋本直子 (コメンテータ)岡本宗裕
 National Primate Research Center of Thailand  研究施設の開所と新規サル導入にともなう技術協力

第8回 2016年3月14日 大石高生(統合脳システム分野)
 霊長研のニホンザルで見つかった稀な自然発症疾患-「早老症」を中心にして

<研究業績>

原著論文

1) Ito T, Kawamoto Y, Hamada Y, Nishimura TD (2015) Maxillary sinus variation in hybrid macaques: implications for the genetic basis of craniofacial pneumatization. Biological Journal of the Linnean Society,115,2,333-347.

2) Jadejaroen J, Kawamoto Y, Hamada Y, Malaivijitnond S (2016) An SNP marker at the STAT6 locus can identify the hybrids between rhesus (Macaca mulatta) and long-tailed macaques (M. fascicularis) in Thailand: a rapid and simple screening method and its application. Primates,57,1,93-102.

3) Mori F, Hanida S, Kumahata K, Miyabe-Nishiwaki T, Suzuki J, Matsuzawa T and Nishimura T (2015) Minor contributions of the maxillary sinus to the air-conditioning performance in macaque monkeys. Journal of Experimental Biology,218 (Pt 15),2394-2401.

4) Morita D, Yamamoto Y, Mizutani T, Ishikawa T, Suzuki J, Igarashi T, Mori N, Shiina T, Inoko H, Fujita H, Iwai K, Tanaka Y, Mikai B and Sugita M (2016) Crystal structure of the N-myristorylated lipopeptide-bound MHC class I complex. Nature Communications,7,10356.

5) Nishimura T, Mori F, Hanida S, Kumahata K, Ishikawa S, Samarat K, Miyabe-Nishiwaki T, Hayashi M, Tomonaga M, Suzuki J, Matsuzawa T and Matsuzawa T (2016) Impaired air conditioning within the nasal cavity in flat-faced Homo.. PLOS Computation Biology,12,3,e1004807.

6) Nomura T, Yamamoto H, Ishii H,Akari H, Naruse TK, Kimura A, Matano T (2015) Broadening of Virus-Specific CD8+ T-Cell Responses Is Indicative of Residual Viral Replication in Aviremic SIV Controllers. PLoS Pathogens,11,e1005247.

7) Suzuki S, Mori KI, Higashino A, Iwasaki Y, Yasutomi Y, Maki N and Akari H (2016) Persistent replication of hepatitis C virus genotype 1b-based chimeric clone carrying E1, E2 and p6 regions from GB virus B in a New World monkey. Microbiology and Immunology, 30, 26-34.

8) Ohkouchi N, Ogawa-O N, Chikaraishi Y, Tanaka H, Wada E (2015) Biochemical and physiological bases for the use of carbon and nitrogen isotopes in environmental and ecological studies. Progress in Earth and Planetary Science,2,1-17.

9) Ono E, Suzuki J and Ishida T (2015) Spectrocolourimetry Visualized Differences in Sexual Skin Colouration in Macaques. Folia Primatologica,86,178-186.

10) Sri Kantha S and Suzuki J (2015) Primatological studies by medicine Nobel laureates. Current Science,109,4,810-813.

11) Sri Kantha S, Kuraishi T, Hattori S, Ishida T, Kiso Y, Kai C and Suzuki J (2015) Behavioral sleep of captive owl monkey (Aotus lemurinus) in Amami Oshima. International Medical Journal,22,6,521-524.

12) Suzuki J, Sri Kantha S and Nagta K (2015) Behavioral sleep in normal males and females of Japanese macaque (Macaca fuscata) plus vasectomized or castrated males. International Medical Journal,22,2,76-79.

13) Takemoto H, Kawamoto Y, Furuichi T (2015) How did bonobos come to range south of the Congo river? Reconsideration of the divergence of Pan paniscus from other Pan populations. Evolutionary Anthropology,24,5,170-184.

14) Yamanashi Y, Teramoto M, Morimura N, Hirata S, Suzuki J, Hayashi M, Kinoshita K, Murayama M and Idani G (2016) Analysis of hair cortisol levels in captive chimpanzees: Effect of various methods on cortisol stability and variability. MethodsX,3,110-117.

15) 森光由樹, 川本芳 (2015) 法改正に伴う今後のニホンザルの保全と管理の在り方. 霊長類研究,31,49-74.

著書

1) 鈴木樹理 (2015) 動物福祉の現在. 農林統計出版.

学会発表

1) Huffman MA, Kawamoto Y, Nahallage CAD, Kumara R, Shotake T (2015) The 'grey zone' of langur phylogeography in Sri Lanka. The 31st annual meeting of Primate Society of Japan, Kyoto. (2015/07/20).

2) Saori Suzuki, Atsunori Higashino, Ken-ichi Mori, Hirotaka Ode, Kazuhiro Matsuoka, Yasumasa Iwatani, Wataru Sugiura, Yuko Katakai, Noboru Maki, Hirofumi Akari (2015) Genetic and immunological escape in persistent GBV-B infection. 22nd International Symposium on Hepatitis C Virus and Related Viruses.

3) Shigeyoshi Harada, Akatsuki Saito, Takeshi Yoshida, Yohei Seki, Yuji Watanabe, Yasumasa Iwatani, Yasuhiro Yasutomi, Tomoyuki Miura, Tetsuro Matano, Hirofumi Akari, Kazuhisa Yoshimura (2015) Detection of potency and breadth of HIV-1 Neutralizing Antibodies in macaque-tropic HIV-1 infected cynomolgus monkeys using novel test panel viruses. 33rd Annual Symposium on NHP Models for AIDS.

4) Yohei Seki, Akatsuki Saito, Takeshi Yoshida, Yorifumi Satou, Shigeyoshi Harada, Kazuhisa Yoshimura, Yuji Watanabe, Yasumasa Iwatani, Yasuhiro Yasutomi, Tetsuro Matano, Tomoyuki Miura, Hirofumi Akari (2015) Novel elite controller model by HIV-1mt-infected cynomolgus macaques. 33rd Annual Symposium on NHP Models for AIDS.

5) 関洋平、芳田剛、齊藤暁、佐藤賢文、原田恵嘉、吉村和久、渡部祐司、岩谷靖雅、保富康宏、俣野哲朗、三浦智行、明里宏文 (2015) R5指向性HIV-1mt感染カニクイザルによる新規エリートコントローラーモデルの開発. 第29回日本エイズ学会学術集会.

6) 関洋平、芳田剛、齊藤暁、松岡和弘、大出裕高、岩谷靖雅、保富康宏、俣野哲朗、三浦智行、杉浦亙、明里宏文 (2015) サル指向性HIV-1のin vivoにおける増殖効率を上昇させる要因. 第62回日本実験動物学会.

7) 関洋平、齊藤暁、芳田剛、佐藤賢文、原田恵嘉、吉村和久、渡部祐司、岩谷靖雅、保富康宏、俣野哲朗、三浦智行、明里宏文 (2015) HIV-1mt感染カニクイザルによる新規エリートコントローラーモデル. 第63回日本ウイルス学会学術集会.

8) 宮部貴子 (2015) Hypnotic effects and pharmacokinetics of a single bolus dose of alfaxalone in Japanese macaques (Macaca fuscata). World Congress of Veterinary Anaesthesiology (2015/9/1-4 Kyoto).

9) 宮部貴子、三輪美樹、鴻池菜保、兼子明久、石上暁代、 夏目尊好、中村克樹 (2016) マーモセットにおけるアルファキサロン―ケタミン、アルファキサロン―メデトミジンーブトルファノールの麻酔効果. 第5回日本マーモセット研究会大会 (2016/1/27-28 東京).

10) 川本芳 (2015) Genetic structure of island populations of crab-eating macaques in Indonesia and Japanese macaques. The IPB Primate Research Center's 25th Anniversary International Seminar, Bogor. (2015/08/31).

11) 川本芳 (2015) Hybridization with exotic macaques in Japan: Overview from genetic monitoring. The Vth International Wildlife Management Congress, Sapporo. (2015/07/30).

12) 川本芳 (2015) ニホンザル地域個体群の成立時期の推定. 霊長類研究所共同利用研究会「ニホンザル研究のこれまでと、今後の展開を考える」, 犬山市. (2015/10/24).

13) 川本芳 (2015) 遺伝学研究からみた北限のサルの成立と保全の課題. 第158回日本獣医学会大会, 十和田市. (2015/9/7).

14) 川本芳, 伊左治美奈, 田村啓介, 三戸幸久, 毛利俊雄 (2016) 岡山県高梁市に残る厩猿信仰について. 第60回プリマーテス研究会, 犬山市. (2016/01/30).

15) 川本芳, 白井啓, 直井洋司, 萩原光, 白鳥大祐, 川本咲江, 濱田穣, 川村輝, 杉浦義文, 丸橋珠樹, 羽山伸一 (2015) 房総半島におけるニホンザルと外来アカゲザルの交雑状況評価. 第31回日本霊長類学会大会, 京都市. (2015/07/19).

16) 田中洋之 (2016) 半自然草地の分断化と草原性マルハナバチの遺伝的多様性. 第63回日本生態学会大会自由集会 (2016/ 3/ 21, 仙台市).

17) 渡部祐司、岩見真吾、森ひろみ、松浦嘉奈子、日紫喜隆行、三浦智行、明里宏文、五十嵐樹彦 (2015) 高病原性HIV感染サルにおいてウイルス感染CD163陽性マクロファージは様々な半減期を持つ集団から構成され、最も半減期の長い集団は多剤併用療法下のリザーバーと成り得る. 第63回日本ウイルス学会学術集会.

18) 渡部祐司、岩見真吾、森ひろみ、松浦嘉奈子、日紫喜隆行、三浦智行、明里宏文、五十嵐樹彦 (2015) 高病原性SHIV感染サルにおいて、ART治療下で観察されたウイルスの減衰に関する検証. 第29回日本エイズ学会学術集会.

19) 東濃篤徳、鈴木紗織、森健一、大出裕高、松岡和弘、片貝祐子、岡林佐知、槇昇、岩谷靖雅、杉浦亙、明里宏文 (2015) 小型霊長類において持続感染したヘパチウイルスゲノムの経時的変異. 第62回日本実験動物学会学術集会.

20) 東濃篤徳、鈴木紗織、大出裕高、松岡和弘、森健一、片貝祐子、岡林佐知、槇昇、岩谷靖雅、杉浦亙、明里宏文 (2015) 霊長類ヘパチウイルス慢性感染後寛解におけるウイルスゲノム変異の意義. 第63回日本ウイルス学会学術集会.

21) 鈴木紗織、東濃篤徳、森健一、大出裕高、松岡和弘、岩谷靖雅、杉浦亙、片貝祐子、槇昇、明里宏文 (2015) 新世界ザルにおける液性免疫応答の機能低下は霊長類肝炎ウイルスの持続感染に寄与する. 第31回日本霊長類学会大会.

22) 鈴木紗織、東濃篤徳、森健一、大出裕高、松岡和弘、岩谷靖雅、杉浦亙、片貝祐子、槇昇、明里宏文 (2015) 慢性GBV-B感染におけるenvelope変異および液性免疫からの逃避. 第63回日本ウイルス学会学術集会.

23) 鈴木紗織、東濃篤徳、森健一、片貝祐子、槇昇、明里宏文 (2015) HCVベースのHCV/GBV-Bキメラウイルスはタマリンへ長期感染する. 第62回日本実験動物学会学術集会.

24) 廣川百恵, 中尾汐莉, 田中ちぐさ, 杉浦直樹, 川本芳, 市野進一郎 (2015) 遺伝子分析を利用したワオキツネザルの父系判定の研究. 第31回日本霊長類学会大会, 京都市. (2015/07/19).

25) 濱田穣, 川本芳 (2015) アッサムモンキー (Macaca assamensis) とその近縁分類群の系統発生学と分類. 第31回日本霊長類学会大会, 京都市. (2015/07/20).

26) Naoko Suda-Hashimoto, Lucie Rigaill, Yoriko Indo, Takayoshi Natsume (2015) Positive reinforcement training alleviates stress-related behaviors in captive Japanese macaques (Macaca fuscata fuscata), Poster presentatiion, 12th International Conference on Environmental Enrichment, Beijing, China(2015/5/24-28)


27) 兼子明久(2015) 歯科治療をおこなったチンパンジーの5症例、野生動物医学会(2015/9).

28) 橋本直子・Lucie Rigaill・印藤頼子・夏目尊好(2015)霊長類における正の強化トレーニングと行動学的評価の試み,第49回日本実験動物技術者協会総会2015,2015/10/9-10,静岡市.

29) 愛洲星太郎・橋本直子・兼子明久・釜中慶朗・森本真弓・石上暁代・山中淳史・夏目尊好・前田典彦(2015)霊長類における急性胃拡張および鼓腸症の予防を目的としたモニタリングの実施,第49回日本実験動物技術者協会総会2015,2015/10/9-10,静岡市

30) 橋本直子・山中淳史・西岡享子(2016)飼育下マカク類における『かじり木』の有用性,動物園大学「ずーだなも」,2016/3/20,犬山市(日本モンキーセンター)

31) 橋本直子(2016)飼育ニホンザルにおけるコントラフリーローディングにもとづく採食エンリッチメントの検討,応用動物行動学会,2016/3/30,武蔵野市(日本獣医生命科学大学)

講演

1) 鈴木樹理 (2015) マカクを中心とした様々な飼育環境下での日常観察. 第19回予防衛生協会セミナー.2015/12/5.

2) 橋本直子(2015)動物福祉に配慮した飼育環境づくり 実践例の紹介,2015/6/18,大牟田市(大牟田市動物園)

3) 森本真弓(2015)平成26年度技術奨励賞受賞者講演「ウイルス(SRV-4)感染によるニホンザル血症板減少症の感染源と感染経路の確定調査」、予防衛生協会セミナー、2015/12/5、つくば市

4) 橋本直子・藤森唯(2015)ワークショップ:エンリッチメントやってみよう!実践編Part4~効率的な行動評価って?~,第11回JMC-PRI合同勉強会「動物園学セミナー」,2015/12/22,犬山市(セミナーハウス白帝)

5) 橋本直子(2016)日本国内・世界の環境エンリッチメント事情~海外における食肉目を対象とした環境エンリッチメントの事例紹介~,第1回環境エンリッチメント実践型ワークショップ『飼育動物の栄養,行動,福祉を考える』,京都市(京都市動物園)

技術支援(所外)

1) 森本真弓:初回サル導入時の支援協力(捕獲、搬入、入荷検査など),タイ霊長類センターほか、タイ,2015/11/1-8.

2)  兼子明久、橋本直子:初回サル導入時の支援協力(入荷検査,飼育管理技術支援など),タイ霊長類センターほか、タイ,2015/12/13-20.

出張・研修

1) 愛洲星太郎:第41回 国立大学法人動物実験施設協議会総会,千葉,2015年5月14日-15日.

2) 前田典彦:第49回日本実験動物技術者協会総会2015、静岡,2015年10月9日-10日.

3) 山中淳史・兼子明久・橋本直子:熊本サンクチュアリ チンパンジー定期健診 研修,熊本,2015年10月21日

4) 愛洲星太郎:ゴンベ国立公園、セルー動物保護区 、タンザニア,2015年9月16日-25日.

5) 兼子明久:日本クレア施設見学、岐阜,2015年11月1日.

6) 夏目尊好:第40回京都大学技術職員研修、京都,2015年11月18日-19日.

7) 兼子明久:特別管理産業廃棄物管理責任者の資格取得,2015年12月.

8) 夏目尊好:予防衛生協会セミナー、茨木,2015年12月5日.

9) 兼子明久、石上暁代:『獣医師のための歯科治療の基礎トレーニング』研修、神奈川,2016年2月25日-26日.

10) 前田典彦、橋本直子、愛洲星太郎:日本実験動物技術者協会関西支部平成27年度春季大会、大阪,2016年3月2日.

11) 橋本直子:応用動物行動学会・日本家畜管理学会共催「動物の『管理』とは何か?」を考えるワークショップ、東京,2016年3月27日.