ENGLISH 京都大学
125周年
所長挨拶 概要 教員一覧 研究分野・施設 共同利用・共同研究 大型プロジェクト 教育,入試 広報,公開行事,年報 新着論文,出版 霊長類研究基金 リンク アクセス HANDBOOK FOR INTERNATIONAL RESEARCHERS Map of Inuyama
トピックス
お薦めの図書 質疑応答コーナー ボノボ チンパンジー「アイ」 行動解析用データセット 頭蓋骨画像データベース 霊長類学文献データベース サル類の飼育管理及び使用に関する指針 Study material catalogue/database 野生霊長類研究ガイドライン 霊長類ゲノムデータベース 写真アーカイヴ ビデオアーカイヴ

京都大学霊長類研究所
郵便番号484-8506
愛知県犬山市官林
TEL. 0568-63-0567(大代表)
FAX. 0568-63-0085

本ホーム・ページの内容の
無断転写を禁止します。
Copyright (c)
Primate Research Institute,
Kyoto University All rights reserved.


お問い合わせ

京都大学霊長類研究所 > 年報のページ > Vol.45  > Ⅶ. 共同利用研究


Ⅶ. 共同利用研究

1. 概要

平成26年度の共同利用研究の研究課題は以下の4つのカテゴリーで実施されている。

A 計画研究

B 一般個人研究

C 一般グループ研究

D 随時募集研究

共同利用研究は、昭和57年度に「計画研究」と「自由研究」の2つの研究課題で実施され、昭和62年度からは「資料提供」(平成14年度から「施設利用」と名称を変更、さらに平成20年度から「随時募集研究」と名称を変更)を、平成6年度からは「所外供給」(平成14年度から「所外貸与」と名称を変更し、平成15年度で終了)が実施された。さらに平成23年度からは「自由研究」を「一般個人研究」と「一般グループ研究」に区分して実施されている。それぞれの研究課題の概略は以下のとおりである。

「計画研究」は、本研究所推進者の企画に基づいて共同利用研究者を公募するもので、個々の「計画研究」は2~3年の期間内に終了し、成果をまとめ、公表を行う。

「一般個人研究」および「一般グループ研究」は、「計画研究」に該当しないプロジェクトで、応募者(研究所外の複数の研究室からの共同提案によるものは一般グループ研究)の自由な着想と計画に基づき、所内対応者の協力を得て、継続期間3年を目処に共同研究を実施する。

「随時募集研究」は、資料(体液、臓器、筋肉、毛皮、歯牙・骨格、排泄物等)を提供して行われる共同研究である。

なお、平成22年度から、霊長類研究所は従来の全国共同利用の附置研究所から「共同利用・共同研究拠点」となり、これに伴い、共同利用・共同研究も拠点事業として進められることとなった。

加えて、東北地方太平洋沖地震および関連事象により研究等の継続が困難になった方を対象に、震災関連募集枠も臨時に設定した。

平成26年度の計画課題、応募並びに採択状況は以下のとおりである。

(1) 計画課題

1. 各種霊長類における認知・生理・形態の発達と加齢に関する総合的研究

実施予定年度平成24年度~26年度

課題推進者:友永雅己,濱田譲,鈴木樹里,林美里,足立幾磨,平﨑鋭矢,松沢哲郎

新生児期、乳幼児期、思春期、壮年期、老年期、など各発達段階における認知機能や生理機能および形態についてチンパンジーなどの類人猿、マカク類などの旧世界ザル、およびフサオマキザルなどの新世界ザルなどを対象に、総合的な比較研究を推進する。

2.霊長類脳科学の新しい展開とゲノム科学との融合

実施予定年度平成25年度~27年度

課題推進者:高田昌彦、中村克樹、大石高生、宮地重弘、平井啓久、今井啓雄

ヒトに近縁の霊長類を用いた脳科学研究は高次脳機能や精神・神経疾患病態の解明に極めて有用である。本計画研究では、特に脳科学とゲノム科学との融合を目指して、革新的サルモデルや先端的研究手法による次世代の研究を展開する。

3.アジア産霊長類の進化と保全に関する国際共同研究

実施予定年度平成26年度~28年度

課題推進者:川本芳、マイケル・ハフマン、半谷吾郎、辻大和、アンドリュー・マッキントッシュ、田中洋之

生態学・行動学・集団遺伝学・寄生虫学の視点から、アジア産霊長類の進化ならびに保全に関わる研究を推進する。原則的に海外研究者を含む研究課題を採択し、国際共同研究を活性化させることも目的とする。

(2) 応募並びに採択状況

平成26年度はこれらの研究課題について、141件(351名)の応募があり、共同利用実行委員会(正高信男、大石高生、林美里、平崎鋭矢、古市剛史)において採択原案を作成し、共同利用専門委員会(平成26年2月20日)の審議・決定を経て、拠点運営協議会(平成26年2月24日)で了承された。

その結果、136件(342名)が採択された。

各課題についての応募・採択状況は以下のとおりである。                                        

課題

応募

採択

計画研究1

8件

(29名)

8件

(29名)

計画研究2

12件

( 42名)

12件

(42名)

計画研究3

5件

(7名)

4件

( 5名)

一般個人研究

87件

(178名)

83件

(171名)

一般グループ研究

8件

(41名)

8件

(41名)

随時募集研究

21件

(54名)

21件

(54名)

合 計

141件

(351名)

136件

(342名)

2. 研究成果

(1) 計画研究

A-1複数骨格筋への単シナプス性発散投射構造の解剖学的同定

関和彦、大屋知徹、Sandra Puentes Martinez Milena、梅田達也(国立精神・神経セ・モデル動物)所内対応者:高田昌彦

脊髄運動ニューロンに投射するPremotor neuronは大脳皮質、脳幹、脊髄にそれぞれ偏在し、最近の申請者らの電気生理学的実験によってPremotor neuronの複数筋への機能的結合様式が筋活動の機能的モデュール(筋シナジー)を構成することが明らかになってきた。この神経解剖学的実体については全く明らかにされておらず、ヒトの運動制御の理解の発展と、運動失調に関わる筋、神経疾患の病態理解や新しい治療法の開発のためには喫緊の研究課題である。そこで本研究では上肢筋の脊髄運動ニューロンへ投射する細胞(Premotor neuron)の起始核である脊髄、赤核、大脳皮質からの発散性支配様式を解剖学的に明らかにすることによって、霊長類における巧緻性に関わる皮質脊髄路の脊髄運動ニューロンへの直接投射の機能的意義を解剖学的観点から検討する。本年度は第一に、霊長類の筋肉への注入によって、手指筋運動ニューロンへ逆行性に最も高い選択性を持って遺伝子を発現させるウィルスベクターの同定を目指した。そのために様々なマーカー遺伝子をつけたAAV 及びレンチウィルスベクターを、サルの手固有筋及び手首筋に注入し、ラベルされる脊髄ニューロンの組織学的解析を行なった。現在解析中である。また、神経終末を注入中に同定するため、電気刺激による新たな方法を開発した。一方、本研究の目的が達成した際には、当該ニューロン活動を光遺伝学的に修飾することが可能になる。そのため、末梢神経の特定の求心神経に選択的に遺伝子発現を誘導するウィルスベクターの同定とその検証のための電気生理学的実験を行なった。

A-2運動異常症の霊長類モデルにおける脳活動異常の電気生理学的解析

磯田昌岐(関西医科大・医)、松本正幸(筑波大・医)、Kevin McCairn(韓国Brain Research Institute)

所内対応者:高田昌彦

トゥレット症候群は,運動チックと発声チックを主徴とする運動異常疾患である。本研究では各チック症状の病態生理学的機構を明らかにするため,同疾患の霊長類モデルを薬理学的手法により作出し,大脳皮質と大脳基底核の神経活動を電気生理学的に解析した。まず,GABA-A受容体の拮抗薬であるbicucullineをマカクザルの被殻と側坐核に微量注入し,それぞれ運動チックと発声チックを誘発することに成功した。次いで,大脳皮質運動野,前部帯状皮質,被殻,側坐核より局所電場電位local field potentialsを記録し,各チック症状出現後の神経活動を比較した。その結果,運動チックの発現時には大脳皮質運動野と被殻において顕著な異常活動が記録され,発声チックの発現時には前部帯状皮質と側坐核において顕著な異常活動が記録された。本研究の実施により,トゥレット症候群の運動チックと発声チックの発現には,大脳皮質・基底核系の異なるネットワークが関与することが示唆された。

A-3行動制御に関わる高次脳機能の解明に向けた神経ネットワークの解析

星英司(東京都医学総合研究所) 所内対応者:高田昌彦

認知的な行動制御において重要な役割を果たす霊長類の前頭葉には複数の運動関連領野がある。特異的な機能を営む複数の領野の機能連携のもと、滑らかで目的にかなった動作が達成されるが、それらの神経基盤は依然として不明である。そこで、本共同研究では、その構造的基盤を解明することを目指して実施された。シナプスを越えて逆行性に伝播する性質がある狂犬病ウイルスをトレーサーとして用いることにより、越シナプス性のネットワーク構築を解剖学的に解析した。本年度は、運動の企画と実行の過程において重要な役割を果たす高次運動野の二領域に、異なる蛍光色素を発現する狂犬病ウイルスベクターを打ち分けることを行った。数日の生存期間の後に脳標本を作製したところ、注入部位に入力を送っていると思われる脳部位に強い蛍光が観察された。これは、今回用いた狂犬病ウイルスベクターが霊長類の脳においてシナプス特異的に伝播する性質を有しており、強力なトレーシングツールとなることを示す。今後、顕微鏡下で細胞レベルの分布の解析を進めることにより、複数の運動関連領野から構成されるネットワーク構築の理解が深まることが期待される。

A-4Phylogenetic and population genetic studies for conservation of nonhuman primates in Myanmar

Aye Mi San (Mawlamyine University, Myanmar) 所内対応者:田中洋之

 Myanmar is located in the center of Continental Southeast Asia, and holds a variety of habitat environment for nonhuman primates. Hence, high diversity of nonhuman primates are described: 3 species of gibbons, 7 species of leaf monkeys, 5 species of macaques and one species of the slow loris. This research aims to see phylogenetic relationship among the local populations of Myanmar non-human primates by analyzing DNA sequences of highly variable region of mtDNA, as well as to confirm phylogenetic status of Myanmar monkeys by constructing phylogenetic trees together with DNA sequence data of monkeys from other countries. In 2014, the 1st year of the planned research “International Cooperative Research on Evolution and Conservation of Asian Primates”, I conducted those examinations on the Myanmar subspecies of the long-tailed monkey (Macaca fascicularis aurea). To see mtDNA phylogeography, I sequenced the D-loop region for the samples collected in 11 localities and infer phylogenetic tree using approximate 560 bp of hyper variable region 1 of D-loop. The result suggested a relatively large genetic differentiation among local populations of M. f. aurea in Myanmar. However, in one case transportation of monkey by humans was suspected. Next, I sequenced approximate 1470 bp of the 12S-16S region for 5 samples of M. f aurea and 12 individuals representing 9 species (M. arctoides, M. assamensis, M. fascicularis, M. fuscata, M. leonina, M. mulatta, M. nemestrina, M. silenus and M. thibetana). All the 5 samples of aurea, including 3 pets and 2 fecal DNA samples from Indian Single Rock Mountain (Southern Myanmar) showed an identical sequence for this region. In the species-level phylogenetic tree, M. f. aurea was placed at the basal position, not forming a cluster with other subspecies of M. fascicularis from Laos and Sumatra. These results will be helpful to find evolutionary significant units for conservation of Myanmar’s endemic subspecies of the long-tailed monkey.

A-5認知機能と行動制御における外側手綱核の役割

松本正幸(筑波大・医)、川合隆嗣(関西学院大・院・文)、佐藤暢哉(関西学院大・文) 所内対応者:高田昌彦

 外側手綱核と前部帯状皮質は罰に関連した神経シグナルを伝達する脳領域である。昨年度から引き続き、それぞれのシグナルが脳内の学習プロセスに果たす役割を検討するため、マカクザル(ニホンザルとアカゲザル)を用いた電気生理学的研究を実施した。まず、二頭のサルに逆転学習課題を訓練した。この課題では、サルに二つの選択肢を呈示し、一方を選ぶと50%の確率で報酬が得られるが、もう一方を選択しても報酬は得られない。報酬が得られる選択肢は数十試行の間固定され、その後、明示的なインストラクション無しに入れ換わる。サルは、一方を選んで報酬が得られない試行が続いたとき、もう一方に選択を切り替える必要がある。課題遂行中のサルの外側手綱核と前部帯状皮質から神経活動を記録したところ、両方の脳領域で報酬が得られなかったときに活動を上昇させる神経細胞が多数見つかった。特に、前部帯状皮質の神経活動は、現在だけではなく、過去に報酬が得られなかった情報も保持しており、サルの将来の選択行動の調節に深く関わっていた。一方、外側手綱核では選択行動に関連した神経活動は見られなかったが、前部帯状皮質よりも早いタイミングで神経活動が上昇していた。以上の結果から、まず外側手綱核で無報酬が検出され、その後、前部帯状皮質でサルの選択行動が決定されると示唆される。2頭のサルから十分なデータを得ることができたので、現在、論文投稿の準備を進めている。

A-6霊長類における概日時計と脳高次機能との連関

清水貴美子、深田吉孝、中辻英里香(東大・院・理) 所内対応者:今井啓雄

 我々はこれまで、齧歯類を用いて海馬依存性の長期記憶形成効率の概日変動を見出し、SCOPという分子が概日時計と記憶を結びつける鍵因子である可能性を示す結果を得てきた。本研究では、ヒトにより近い脳構造・回路を持つサルを用いて、SCOPを中心とした概日時計と記憶との関係を明らかにする。

 ニホンザル6頭を用いて、苦い水と普通の水をそれぞれ飲み口の色が異なるボトルにいれ、水の味と飲み口の色との連合学習を行う。さらに、記憶効率の時刻依存性を検討する。記憶測定の前段階として、水の味と飲み口の色が連合する事をサルに覚えさせるための前学習(学習/テストに用いるものとは別の目印)を1日1回3日間、同じ時刻におこなった。前学習の次に、学習とその24時間後に記憶テストをおこなう。記憶テストでは普通の水を入れた2つのボトルに学習時と同じ飲み口の色を用いる。どちらのボトルを選ぶかをビデオ観察し、記憶できているかの判断をおこなう。この方法において、時刻による記憶の変化が見られたが、1時刻につき2頭のデータしか取れていないため、更に例数を増やす予定である。各時刻6頭の記憶テストデータが揃い次第、SCOPshRNA発現レンチウイルスをもちいた海馬特異的なSCOPの発現抑制により、記憶の時刻依存性に対するSCOP の影響を検討する。

A-7 二卵性ふたごチンパンジーの行動発達に関する比較発達研究

岸本健(聖心女子大・文)、安藤寿康(慶應義塾大・文)、多々良成紀、山田信宏、小西克也(のいち動物公園)

所内対応者:友永雅己

 高知県立のいち動物公園のチンパンジー集団では,2009年に1組の二卵性の雌雄の双子が誕生し,母親による養育が現在まで継続している。チンパンジーでは母親の自然哺育によって双子が育った例はほとんどなく,母親独りで双子を養育することは困難であると考えられてきた。このため,のいち動物公園では,母親以外のメンバーも双子を世話している可能性があった。この可能性を検討するために,この双子とその母親,父親,非血縁者(すべて成体のメス)の9人を現在まで,それぞれ個体追跡法で観察しつづけている。得られたデータを解析した結果,母親以外の非血縁者が,双子を背中に乗せて移動するなどの世話行動を行っていたことが確認された。この成果はScientific Report誌に掲載され,また滋賀県立大学において開催された「子育ちと子育ての比較発達文化研究会第1回フォーラム」で披露された。

2014年度に入り,双子は5歳齢となった。非血縁者による双子に対する世話行動の量は大きく減少した一方,双子たちが非血縁者を叩いた際に反撃を受けることが多くなっていることが観察より見てとれた。双子の成長とともに,非血縁者の双子に対する行動に変化が生じていることがうかがえた。

A-8ゲノムによる霊長類における脳機能の多様性の解明

橋本亮太(大阪大・院・連合小児発達学)、安田由華、山森英長(大阪大・院・医学系) 所内対応者:今井啓雄

統合失調症、うつ病、自閉スペクトラム症などの精神神経疾患は、その原因や病態が不明である症候群であり、未だ十分な治療法が確立しておらず、病態を解明し創薬のためのモデル系を確立することが求められている。そこで、ヒトにおける脳病態ゲノム多型の発現をサルにおいて検索し、サルを用いたヒトの精神神経疾患のモデル系を作成する。

サルにおけるモデル系を創出するために必須な精神疾患のゲノム研究について、認知機能や脳神経画像などの中間表現型解析や新規の原因変異を同定するトリオ解析を行った。ゲノム研究により遺伝子が同定されるとその遺伝子改変をサルにおいて行うことができ、今まで困難であった精神疾患の動物モデルを作成することが出来ると考えられる。

中間表現型解析としては、52の認知機能表現型の全ゲノム関連解析(GWAS)を行い、グルタミン酸ネットワークや免疫系のネットワークが関与していることを示し、上前頭回皮質体積の全ゲノム関連解析(GWAS)を行い、転写因子であるEIF4G3が関連していることを見出した。さらに、前頭葉機能に関わるCOMT遺伝子のサルにおける新規機能多型を発見し、種間による頻度の違いを見出した。

今後は、ヒトの精神疾患遺伝子異常をサル脳に導入し、トランスレーショナルに研究を進めていく予定である。

A-10チンパンジーの口腔内状態の調査:う蝕・歯の摩耗・歯周炎・噛み合わせの評価を中心に

桃井保子、花田信弘、小川匠、野村義明、今井奨、岡本公彰、井川知子、齋藤渉、宮之原真由、菅原豊太郎(鶴見大・歯) 所内対応者:友永雅己

う蝕は人類が農耕を始め、糖および炭水化物の摂取により人類が新たに起こした疾患とも考えられ、その起源を推定することは重要と思われる (Gibbons,A., Science 2013)。我々は、チンパンジー口腔より新菌種を見つけ、Streptococcus troglodytaeと命名した (2013, IJSEM)。この菌は系統学的にミュータンスレンサ球菌群の中で、ヒトう蝕病原菌のS. mutansに最も近縁であり、コンゴで捕獲された野生のチンパンジー口腔にも存在することが報告されている (PLoS One. 2013)。平成26年度には、病原遺伝子グルコシルトランスフェラーゼ (GTF) を含む、この細菌の全遺伝子解析が終了し、第56回歯科基礎医学会学術大会で報告した。更に、チンパンジー口腔細菌叢解析の結果、オオコウモリから分離された菌 (Streptococcus dentirousetii) も存在することを論文に発表した (Microbiol. Immunol. 2013)。次世代シーケンサーを用いるピロシーケンシング法により口腔細菌叢解析を解析した結果、う蝕、歯周疾患と関連する細菌が検出されたにも拘わらず、口腔内診査で比較的健全であることが判明し、今後の検討課題と考えられる。                 

また、診査により所内1個体 (33y, ♀)の上顎右側中切歯に外傷による歯の破折に起因した歯髄炎を認めたため、ヒト歯科治療と同様の手技で根管治療 (歯の根の治療)を行った。

A-11小脳失調症の病態解析と霊長類モデルの開発

田中真樹、國松淳、植松明子、松山圭、鈴木智貴(北大・医) 所内対応者:高田昌彦

小脳外側部と前頭・頭頂連合野との強い解剖学的結合が明らかにされており、運動を伴わない高次脳機能への小脳の関与が示唆されている。実際、脳機能画像や神経心理学研究によって、これを支持する結果が報告されている。本共同研究では、ウイルスベクターを用いて小脳半月小葉に遺伝子導入を行うことで小脳による高次脳機能の制御機構を具体的に探るとともに、小脳変性症のモデル動物を作製してその病態生理を明らかにすることを目指している。H26年度は霊長研でウイルスベクターの開発を進めるとともに、北大で行動課題の開発と訓練をおこなった。軌道予測課題では、一定速度で動く光点が遮蔽物の後ろから再出現する場所とタイミングを眼球運動で答えさせた。アンチサッカード課題では、事前に与えられたルールに従って視標と同側または反対側に眼球運動を行わせた。いずれの課題でも小脳外側核に課題に関連したニューロン活動が認められ、これらの課題を用いて小脳機能の評価ができることを確認した。今後は随時申請による霊長研共同利用・共同研究や、H25年度から続けている民間助成による共同研究を通じて、霊長研の共同研究者が開発したウイルスベクターによる遺伝子導入を行う。

A-12大脳-小脳-基底核連関の構築に関する神経解剖学的研究

南部篤、畑中伸彦、知見聡美、纐纈大輔、金子将也(生理研・生体システム) 所内対応者:高田昌彦

小脳および大脳基底核からの出力が、どの領域の視床に対して、どのような影響を与えるのかを明らかにすることを目的とし、覚醒下のサルにおいて、小脳の出力部である小脳核(CN)と大脳基底核の出力部である淡蒼球内節(GPi)に電気刺激を加えた際の、視床-大脳皮質投射ニューロンの応答様式を解析した。

視床の外側腹側核(VL)、後外側腹側核(VPL)から単一ニューロン活動を記録した。大脳皮質運動野の電気刺激に対する逆行性応答によって視床-大脳皮質投射ニューロンを同定し、CNおよびGPiの電気刺激に対する応答を調べた。大脳皮質に投射する視床ニューロンの多くは、数Hzから10 Hz 程度の低頻度の自発発火を示した。CNの単発刺激は、興奮とそれに続く抑制という2相性の応答を惹起した。また、50-100 Hzの連続刺激を加えると、各刺激パルスに対応する興奮と抑制が繰り返し観察された。一方、GPiの単発刺激は、単相性の抑制、あるいは抑制とそれに続く弱い興奮という2相性の応答を惹起した。また、50 z-100 Hzの連続刺激を加えると、刺激期間中に強い興奮が生じる例が多く観察された。GPi-視床投射は、GABA作動性投射であることから、抑制はGABAによるもの、それに続く興奮はリバウンドによるものと考えられる。また、CN刺激に応じるニューロンは視床VL/VPLの中でより後方に、GPi刺激に応じるニューロンはより前方に位置し、両者の重なりは殆どなかった。

A-13霊長類に特異的なイムノトキシン神経路標的法の開発

小林和人、加藤成樹、伊原寛一郎(福島医大・医) 所内対応者:高田昌彦

霊長類の高次脳機能の基盤となる脳内メカニズムの解明とゲノム科学との融合のために、複雑な神経回路における情報処理とその調節の機構の理解が必要である。我々は、これまでに、高田教授の研究グループと共同し、高頻度な逆行性遺伝子導入を示すウイルスベクター(HiRet/NeuRetベクター)を用いて特定の神経路を切除する遺伝子操作技術を開発した。この神経路標的法では、ヒトインターロイキン-2受容体αサブユニット(hIL-2Rα)遺伝子を発現するNeuRetベクターを脳に注入することにより、そこへ入力する神経路にhIL-2Rα遺伝子を発現させ、その後特定脳領域にhIL-2Rαに対して選択的に作用する組換え体イムノトキシンを投与することによって、目的の神経路の選択的除去を誘導する(Inoue et al., 2012)。しかし、このイムノトキシンはサルIL-2Rαに交差反応する可能性があり、標的細胞への選択性を高めるために、サルIL-2Rαに反応せず、マウスIL-2Rα(mIL-2Rα)に選択的に作用する新たなイムノトキシン(anti-mCD25-PE38)の開発を試みた。mIL-2Rαを用いて免疫化したラットより調製された3種類の抗体(3C7, 2E4, PC61)について、ハイブリドーマから得た遺伝子配列に基づきVHとVL領域を単一ペプチドとして連結し、緑膿菌体外毒素の膜貫通・触媒ドメインに融合したイムノトキシンを発大腸菌で発現させ、精製し、イムノトキシンの性能をin vitroの結合実験により評価した。しかし、これらのタンパク質のmIL-2Rαに対する結合親和性が従来のイムノトキシンに比較して高くないことが判明した。したがって、今後は、VHとVL領域をさらに改変し、新たなイムノトキシン分子を開発する必要がある。他のモノクローナル抗体を入手し、この領域について別の配列を利用する計画である。また、マカクザル脳内おける各種融合糖タンパク質(FuG-B2, FuG-C, FuG-E型)のウイルスベクター導入効率を比較するために、それぞれのベクターをマカクザルの線条体に注入した。今後、各経路への導入の頻度を組織学的に解析する予定である。また、マーモセット脳内での導入効率を調べるための同様の実験を計画した。これについても、今後、注入実験を進める計画である。

A-14チンパンジーにおける質感認知に関する比較認知科学研究

伊村知子(新潟国際情報大・情報文化) 所内対応者: 友永雅己

色覚は、熟した果実や若葉を見分けるために有利だと考えられてきたが、ヒトは野菜や果物の画像から鮮度を判断する際に、輝度分布の偏り(標準偏差、歪度)などの統計情報も利用する。しかしながら、輝度分布がヒト以外の霊長類の食物の鮮度知覚に及ぼす効果については検討されていない。そこで、本研究では、キャベツの葉の表面が劣化していく様子を撮影した1時間後から32時間後までの画像を対提示し、チンパンジー3個体を対象に鮮度弁別課題をおこなった。その結果、チンパンジーは、1,2,3,5,8,時間後の画像の全ての組み合わせで、カラー条件、モノクロ条件ともに鮮度の高いキャベツを選択することができた。さらに、新奇なキャベツ、ホウレンソウ、イチゴの1時間後と32時間後の画像を6種類ずつ用いた鮮度弁別課題をおこない、輝度の統計情報(平均、標準偏差、歪度、尖度)と成績の相関を解析したところ、3個体中2個体で、輝度分布の平均、歪度と課題成績の間にそれぞれ有意な相関が見られた。以上の結果は、ヒトの鮮度判断の結果とも一致するものであり、ヒト以外の霊長類においても輝度分布の統計情報に基づく食物の鮮度知覚が可能であることが示された。

A-15 The genetic profile of Taiwabese Macaque groups

Su Hsiu-hui、Fok Hoi Ting(Institute of Wildlife Conservation, Science and Technology, National Pingtung University)

所内対応者:川本芳

 This study was aimed to investigate the genetic structure of an isolated population of Taiwanese macaques located at the mountain range in central Taiwan, in order to examine how human activities impact the gene flow. The HVR I of mtDNA was sequenced and analyzed from fecal samples of social group members as well as out-side group males collected at this site. The haplotypes (650 bp) of 3 neighboring groups (F1, F2 and F3 groups) at a highly provisioned trail were different from each other by 11, 42 and 38 bp of substitutions, respectively. However, F1 group may be the group that was original at the trail when the provisioning had not occurred. We found that the F1 haplotype was 0-3 bp different from haplotypes of other social groups inhabited in the same region. F2 and F3 groups could move to this area due to human provisioning activity, or be translocated to this area. Six adult male samples collected at the highly provisioned trail were successfully sequenced on the HVRI. Four males carried the same haplotypes carried by 2 of the 3 neighboring groups at this trail, among which 2 males transferred to neighboring groups and the other two may make a short distance dispersal in the same region. The other two males that carried different haplotypes may disperse from other regions that need to be verified in the future. The preliminary results suggested that the genetic structure of this isolated population of Taiwanese macaques may be highly impacted by human activities.

Keywords: mtDNA, provisioning, male dispersal, Macaca cyclopis

A-16霊長類における音声コミュニケーションの進化および発達過程の研究

平松千尋、山下友子、上田和夫、中島祥好(九州大・芸術工学研究院・デザイン人間科学部門)、嶋田容子(同志社大・心理学研究科) 所内対応者:友永雅己

音声コミュニケーションの進化および発達の理解に貢献することを目的として音響分析の種間比較に着手した。ヒトは複雑な音声を連続的に発することができる。これには、喉頭下降現象による声道形状の変化および、喉頭での発声(音源)と声道での調音(フィルタ)を独立に制御できるようになったことが関連すると考えられている。そこで、まずは声道での調音に着目して分析することにした。霊長類研究所のチンパンジー、日本モンキーセンターとの連携研究によりテナガザル類3種から音声を録音した。その後、微細に変化する音源信号をケプストラム分析により取り除き、帯域フィルタを用いて各フィルタにおけるパワー変化を変量とし因子分析を行った。ヒト成人および幼児の発声から得られた因子構造と比較した結果、ヒト以外の霊長類から得た因子構造は様々となり、成人の因子構造とは異なることが明らかとなった。さらに、パワー変化の相関から得られた類似度より多次元尺度構成法を用いて各音声間の距離を可視化したところ、系統や発達段階を反映していると見られる配置となった。今後、さらに多くの種の様々な発達段階から音声を記録し、詳しく比較していく予定である。

A-17成体脳神経新生のin vivo動態解析技術の創出

植木孝俊(名市大・院・医)、尾内康臣、間賀田泰寛、小川美香子(浜松医大・メディカルフォトニクス研究セ)、岡戸晴生(都医学総合研・脳発達神経再生) 所内対応者:高田昌彦

本研究では、最近、大鬱病等の精神疾患の早期診断・治療のための治療標的と目されている神経幹細胞の脳内動態を、マカクザルでポジトロン断層法(PET)を用いリアルタイムに描出し、成体脳神経新生を定量解析することができるin vivo評価系を創出することをねらいとした。

 ここでは初めに、神経幹細胞中間径線維nestinのエンハンサー・プロモーターにて中性アミノ酸トランスポーターと、その共役因子の遺伝子を、神経幹細胞特異的に発現するレンチウィルスを調製した。それを成獣ラット海馬歯状回に感染させることにより、PETトレーサー O-18F-fluorometyltyrosine ([18F]FMT)を神経幹細胞に集積させ、成体脳神経新生動態を、PETを用いin vivoで画像化した。哺乳動物脳で内因する神経幹細胞をin vivoで画像化する技術は、これまでに類例がなく、旧来は、死後脳組織にて免疫組織学的染色による形態学的解析を行うのみであった。次に、本研究では、マウスにて強制水泳による大鬱病病態モデルを作製した後、当該マウスの海馬歯状回にレンチウィルスを感染させ、PETで神経幹細胞障害を定量的に評価した。その結果、抑鬱症状を呈するマウスにて神経幹細胞の著明な減少が観察された。一方で、抗鬱薬Prozacは、大鬱病病態モデルマウスにて成体脳神経新生障害を回復させ、これまでに報告された通り、神経幹細胞障害が大鬱病の病態生理に与ることが改めて示唆された。

A-18チンパンジー母乳における生物活性因子と子供の成長との関係性

岡本早苗(マーストリヒト大)、Robin M. Bernstein、Rob Knight(コロラド大)、Carlito Lebrilla(カリフォルニア大)

所内対応者:友永雅己

本研究は現在も継続中であり、27年度も引き続き、共同利用研究として継続希望が採択されている。本研究では2000年から数年に渡り思考言語分野において採取、冷凍保存されていたチンパンジーの母乳サンプルを調べることにより、ヒトとチンパンジーにおける代謝および免疫に関係する因子の比較をおこなう。またチンパンジーの授乳期間が長いことから、母乳中の因子と乳児の発達との関係性を調べる。さらに同様に採取された母子の糞尿サンプルもあわせて調べることにより、乳児の発達に伴った母子の生理学的変化を総合的に検討する。26年度は、母乳サンプル輸出について、ワシントン条約に基づいたCITES(Convention on International Trade in Endangered Species)手続きのためチンパンジー3個体各々の書類準備をおこなったが、個体履歴等の証明書類の完備が困難で手続きが長期化することが予想された。そのため、コロラド大学の研究協力者が来日して所内の実験室において、分析をおこなう方針に変更した。しかし、当初予定していた分析試薬の国内入手が困難であることが判明した。そこで、27年度にはハーバード大学の研究協力者を新たに追加して、異なる分析キットを用いて母乳の分析を開始することを予定している。

A-19遺伝子発現の生体内可視化と脳機能制御技術の確立

南本敬史(放射線医学総合研究所) 所内対応者:高田昌彦

DREADD(Designer Receptor Exclusively Activated by Designer Drug)は化学遺伝学的手法のひとつであり,変異型ムスカリン受容体が選択的リガンドclozapine-n-oxide(CNO)により活性化されることで,発現している神経細胞を抑制(あるいは興奮)させる.我々はこれまでにDREADD受容体の発現を生体で可視化する方法として,選択的放射性PETリガンド[11C]CLZを見出し,DREADDの生体PETイメージング法を開発した.この基礎技術と所内対応者である高田らが有する経路選択的な遺伝子導入法などウイルスベクター開発技術を組み合わせることで,より汎用な脳内遺伝子発現の経時的かつ非侵襲的なモニタリング技術を開発し,霊長類における特定神経回路の薬物による操作技術を確立することを目的とした.

平成26年度は,サル線条体に局所注入したレンチウィルスベクターによるhM4Di-DREADDの発現の位置と発現レベルを生きたまま追跡可能となるPETイメージング法を確立した.また同イメージング法により,発現したDREADDを占有するのに十分なCNO投与量を推定した.実際に推定したCNO投与により,抑制性DREADD(hM4Di)を両側の内側尾状核に発現させた2頭のマカクサルの報酬獲得行動に障害を引き起すことが繰り返し確認できた.これらの結果は,開発したイメージング法とDREADDを用いた脳機能制御法がサル脳機能研究において非常に有効であることを示す.

A-20霊長類における時空間的な対象関係の理解に関する比較研究

村井千寿子(玉川大)  所内対応者:友永雅己

ヒトの推論における認知バイアスのひとつである対称性バイアスについて検討した。対称性バイアスとは「AならばB」を経験すると、おのずと逆方向の、論理的には正しくない「BならばA」の関係を予測してしまう傾向のことで、ヒト以外の動物では報告がまれである。昨年度までの研究では、動物先行研究の手続き的問題を考慮した選好注視課題によりチンパンジーとヒト乳児を直接比較した。その結果、当該バイアスはチンパンジーには見られずヒト乳児だけに特異的に見られた。今年度の研究では、この種特異性の可能性についての更なる検討のため、選好注視課題よりも主体の能動的反応を評価できる選択的な予測注視を指標とした課題の開発を行った。具体的には、「対象Aが提示された場合、複数の刺激の中から対象Bが連動して動く」ことを経験させ、結果が提示されるよりも早い対象Bへの予測注視を学習成立の証拠として視線計測装置によりオンラインで評価した。学習成立した後の対称性テストでは、「対象Bが出現したならば、どの対象が連動して動くのか」という選択問題を与え、ここでも正答刺激(この場合、対象A)への注視を計測し、対称性バイアスに基づく反応が起きるかをみた。現在、ヒト乳児でのパイロット実験から課題を作成し終え、今後はヒト乳児とチンパンジー双方での実験実施を予定している。

A-21脳機能におよぼす腸内細菌叢の影響

福田真嗣、福田紀子(慶大・先端生命研)、村上慎之介、石井千晴(慶大・院・メディア研究)、伊藤優太郎(慶大・総合政策)、谷垣龍哉(慶大・境情報)  所内対応者:中村克樹

ヒトを含む動物の腸内には、数百種類以上で100兆個もの腸内細菌が生息しており、宿主腸管と緊密に相互作用することで、宿主の生体応答に様々な影響を及ぼしていることが知られている。近年マウスを用いた研究で、腸内細菌叢が脳の海馬や扁桃体における脳由来神経栄養因子(BDNF)の産生量に大きな変動を与え、その結果マウスの行動にも変化が現れることが報告された(Heijtz, et al., PNAS, 108:3047, 2011)。これは迷走神経を介した脳腸相関に起因するものであることが示唆されているため、腸内細菌叢の組成が宿主の脳機能、特に情動反応や記憶力に影響することが示唆される。しかしながら、これら情動反応や記憶力と腸内細菌叢との関係を調べるには、マウスなどのげっ歯類では限界があると考えられたことから、本研究では小型霊長類であるコモンマーモセットに着目し、高次脳機能、特に情動反応や記憶力と腸内細菌叢との関係について解析を行うことを目的とした。平成26年度は、腸内細菌叢を除去したコモンマーモセットモデルを構築するための条件検討として、4種類の抗生物質を混合した抗生物質溶液を作成し、コモンマーモセットにカテーテルを用いて3日間連続胃内投与を実施することで、腸内細菌叢が除去できることを確認した。今後は、本モデルマーモセットを用いて高次脳機能評価を行う予定である。

A-22チンパンジーの視覚・注意の発達変化に関する比較認知研究

牛谷智一(千葉大・文学部)、後藤和宏(相模女子大・人間社会学部)  所内対応者:友永雅己

本研究は,複数要素の「まとまり」を認識する視覚情報処理過程をチンパンジーとヒトとで比較し,その共通点と相違点から視覚の進化的要因を解明するべく実施した。今年度は,2つの異なるパターンを弁別するときに,それらのパターンとは無関係の文脈を付加することで弁別が促進される効果(パターン優位性効果)の検討に重点を置き,チンパンジー3個体とヒト成人20名を被験者として,「まとまり」を認識する際に生じる創発的特徴について実験的検討を行った。文脈なし条件では顔の一部(目や口)だけを見本刺激として呈示し,文脈あり条件ではそれらの部分を部分とは別の個体の顔に配置したものを見本刺激として呈示し,比較刺激の中から見本刺激と同じものを選択することを訓練した。顔刺激には,チンパンジーとヒトの顔,それぞれ3種類を用い,それらの刺激は正立,倒立の2方向で呈示された。3個体中2個体のチンパンジーは,文脈なし条件よりも文脈あり条件で正答率が低く,この傾向は,顔の呈示方向(正立,倒立)やチンパンジーの顔,ヒトの顔に関わらず一貫していた。さらに,ヒト成人の結果もチンパンジー2個体の結果と一致していた。これらの結果から,ヒトとチンパンジーでは共通して,目や口といった特徴の弁別に対して顔文脈がパターン優位性効果を持たないことが明らかになった。

A-23Study on phylogeography of macaques and langurs in Nepal

MUKESH CHALISE(CENTRAL DEPARTMENT OF ZOOLOGY, TRIBHUVAN UNIVERSITY)  所内対応者:川本芳

We planned to conduct a population genetic assessment on Nepalese wildlife. We continue ecological observations and have collected fecal samples of non-human primates in Nepal for the phylogeographical study. The aim of this program is to increase geographical information to evaluate ecological and evolutionary status of rhesus and Assamese macaques and Himalayan langurs from DNA analysis. In this year’s program, we increased samples of primates from Inner Tarai, Mid-hills and upper mountain regions of Nepal. We have gone through some analysis. However, still we want to cover the wider areas of Nepal where primates are observed by local collaborator.

  We had used the facilities and deposited samples in a laboratory of KUPRI to do PCR, DNA sequencing and computer analysis, then could establish a protocol of the DNA analysis which is applicable to the primate populations living in Himalayan region. Using the sampling method, samples were collected from different localities in Nepal. We also set up a small facility in Kathmandu to extract DNA from collected fecal specimens in 2014. We have compared mtDNA variations of macaques and langurs in Nepal. Parts of mtDNA (16S rRNA, cyt b, non-coding region) were subjected to the sequencing by a standard procedure and phylogeographical relationship was assessed by molecular phylogenetic and population genetic analyses. Our preliminary data suggested evolutionary proximity of local populations of Himalayan langurs in the sequence comparisons. This kind of close relationship was also observed in the populations of Assamese macaques in Nepal and Bhutan.

  Taxonomic status of South Asian primates is controversial for both macaques and langurs. Many of previous studies used zoo samples but available information are increasing in recent for wild populations. We hope that we can continue cooperative research to provide reliable information to test evolutionary hypotheses and to measure biological diversity of macaques and langurs in Asia. This program on Himalayan primates can be linked to corresponding programs of the planned research program which covers macaques and langurs in India and Sri Lanka.

Keywords: macaques (M. assamensis; M. mulatta), langurs (Semnopithecus entellus), Nepal.

A-24 Study of ecology and phylogeography of primates in Sri Lanka

Charmalie Anuradhie Dona Nahallage (University of Sri Jayewardenepura)  所内対応者:Michael A. Huffman

The evolution and phylogeny of endemic primates in Sri Lanka are not well understood due to a paucity of comparative studies of their ecology and genetics. The long-term goals of my study are to elucidate aspects of the ecology and phylogeny of the toque macaque and two species of langurs, the gray langur and the purple-face langur in Sri Lanka.

Towards this goal we collected 50 fecal samples from toque macaques (N= 11), purple face langurs (N= 3) and grey langurs (N= 36) from 14 populations across Sri Lanka. The samples were preserved in lyses buffer in the field.  Samples were transported back to the laboratory at the University of Sri Jayawardenepura and the fecal DNA was extracted at the University of Sri Jayawardenepura. The successfully amplified PCR product was sequenced back in Japan at PRI.

  Further analyses are currently underway. We hope evaluate their relation with haplotypes in the bonnet macaque to test evolutionary relationship between sinica-group macaques in Sri Lanka and India. We will observe the condition of boundary between the two haplogroups to assess evolutionary change of habitat distribution. For langurs, four subspecies are described in the purple-faced langur but the gray langur is monotypic. MtDNA diversity within and between those taxa will be at first compared using fecal DNA samples. Molecular phylogenetic and phylogeographic relationships among observed haplotypes will be analyzed to test the convergence hypothesis.

  Field observations are currently being conducted, and based on the obtained results from our molecular DNA analysis we will intensify our search for the possibility of introgression or recent hybridization in candidate habitats targeted from the forthcoming results.

A-25 Integrated studies on development and aging of cognition, physiology and morphology in Primates

Ceridwen Boel (New South Wales University)   所内対応者:濱田穣

155個体の交雑マカク個体に関して、頭蓋・下顎骨と歯牙に見られる非計測的特徴(発生学的微細異常に注目して)の肉眼とCTによる観察、および接触型3次元座標計測装置を用いて頭蓋骨で66の下顎骨で21のランドマーク座標値を取得し、計量的特徴の解析を行った。CT観察によって、骨内にある歯根や形成中の歯の観察から、歯の形成異常を観察した。この中でもっとも意義ある発見は、交雑個体メスで上顎犬歯の2分歯根の頻度が高いことである。この特徴は、これまで低頻度でニホンザルのメスに見出されている。これに加えて骨と歯の非計測的特徴では、前上顎骨(premaxilla)に過剰縫合が出現すること、インターコニュール(interconulusとinterconulid)の出現、および下顎第3大臼歯の咬頭数の変異が認められた。一方で、他の発生学的異常の頻度が低下することも見出され、ヘテローシス(雑種強勢)の影響も推測された。頭蓋・下顎の計量的な解析の結果から、形状特徴指標で交雑個体は明瞭なクラスターをなし、二つの親種の間にあるが、一方の種にいくらか偏る傾向が見られた。このような形態異常の出現や形状特徴が、これまでに得られている遺伝子解析による交雑度とどう関連するかについて、検討を行う。

 

(2)一般個人研究

B-1サル脊髄損傷モデルを用いた軸索再生阻害因子とその抗体による神経回路修復に関する研究

山下俊英、中川浩(大阪大・院・医)、Naig Chenais(ローザンヌ連邦工科大・院・神経科学)

所内対応者:高田昌彦

これまで、霊長類モデルを用いて、軸索再生阻害因子と脊髄損傷後の神経回路網再形成による運動機能再建に焦点をあて研究を行ってきた。その結果、阻害因子のひとつであるRGMaが脊髄損傷後損傷周囲部に増加することを突き止め、その責任細胞のひとつにミクログリアを同定することができた。さらに、RGMaの作用を阻害する薬物を用いて脊髄損傷後の機能回復過程および神経回路網形成の有無を検討した。その結果、RGMa作用を阻害した群(RGMa群)は、コントロール群(薬物投与なし)に比べ、運動機能の回復が顕著にみられた。神経回路網形成については、大脳皮質運動野と脊髄を直接連絡する神経路である皮質脊髄路を順行性トレーサーでラベルして解析を行った。順行性トレーサーでラベルされた皮質脊髄路の軸索枝の一部は、自然回復に伴って脊髄損傷部を越え、直接手や指の筋肉を制御する運動ニューロンへ結合していることが分かった。このような神経軸索枝は、RGMa群においてより多く観察された。次に、脊髄損傷部を越えた神経軸索枝が直接運動機能の回復に寄与しているか否かを、電気生理学手法と神経活動阻害実験を併用して確認した。その結果、直接運動機能の回復に寄与している可能性を示す結果を得ることができた。これらの結果は、今後の脊髄損傷治療に役立つ知見であると考える。

B-2現生ニホンタヌキの歯および骨格における種内変異

鍔本武久(愛媛大・理・地球) 所内対応者:江木直子

化石の研究に応用するために,霊長類研究所に所蔵されている現生ニホンタヌキの歯および骨格標本の形態変異を調べたところ,一部の標本の歯に特異な形態が見られた.同様の特異な形態が化石偶蹄類でも見られており,化石哺乳類の形態変異と種の同定に関して,今回のタヌキの歯の形態のデータは重要な情報を与えることがわかった.タヌキのP3は通常二根であるが,KUPRIZ 239の上顎P3は三根である.また,タヌキのP4は通常,近遠心方向に伸びた裂肉歯状をしているが,KUPRIZ 141の上顎P4は近遠心方向にあまり伸びておらず,また頬舌方向にふくれており,三角形の咬合面観をしている.始新世偶蹄類のEntelodon属の上顎P3は通常タヌキと同様に二根であるが,Entelodon viensisの唯一の上顎P3の標本は,KUPRIZ 239と同様の三根の形態をしている.また,Entelodon属の下顎p4は通常,近遠心方向に伸びて頬舌方向に薄い形態をしているが,Entelodon trofimoviの唯一の下顎p4の標本は,KUPRIZ 141の上顎P4に類似した,近遠心方向に短く,頬舌方向にふくれた,三角形の咬合面観をしている.上記のEntelodon 属の特異な形態は,属内でその種を他の種と区別する特徴(diagnosis)の一つとなっている.したがって,今回検討した霊長類研究所の現生ニホンタヌキ標本は,上記のEntelodon属内の種のdiagnosisの一部が単なる異常形態である可能性を示している. 

B-3腱および骨組織の効率的再生に向けた基礎研究

佐藤毅、榎木祐一郎、林直樹(埼玉医科大・医) 所内対応者:高田昌彦

咀嚼筋腱腱膜過形成症は、側頭筋の腱や咬筋の腱膜などが異常に肥厚し開口制限を呈する疾患であり、2005年に口腔外科学会で認められた新しい疾患である。本疾患の病態は、顎関節や顎骨には異常がなく両側咀嚼筋の腱または腱膜の過形成であると考えられているが、発症要因は不明である。治療法は過形成した腱・腱膜の切除である。我々は、本疾患に発現する特異的なタンパク質を同定すること、腱組織の特性を解析することを目的として本研究を立案した。サルのアキレス腱、咬筋腱膜および側頭筋腱より腱組織を採取し、一部を組織学的解析およびプロテオーム解析に供し、残りについて腱細胞の単離を行い咀嚼筋腱の特性を調べる。

今回は2009年5月5日生のニホンザル(♂)のアキレス腱、咬筋腱膜および側頭筋腱を採取し、1㎤の組織をマイナス80℃で保存、1㎤の組織をホルマリンにて固定した。また、残りの組織から腱細胞を単離してT25フラスコにて培養した。

B-4野生ニホンザル絶滅危惧孤立個体群のMHC遺伝子の解析

森光由樹(兵庫県立大・自然・環境研/森林動物研究センター)  所内対応者:川本芳

兵庫県に生息しているニホンザルの地域個体群は、それぞれに分布が孤立しており遺伝的多様性の消失及び絶滅が危惧されている。地域個体群の保全にむけて、早急な遺伝的評価・診断が必要である。MHC(主要組織適合抗原複合体)の遺伝子領域内には免疫機構を司る遺伝子や進化を反映した情報が保存されている。個体の病気に関わる、免疫や抗病性を支配する機能遺伝子が集まる領域と考えられている。しかし、野外に生息しているニホンザル集団、特に絶滅が危惧されている孤立個体群のMHCの研究は進んでいない。そこで兵庫県北部に生息している絶滅孤立個体群(美方群、7個体)兵庫県中部に生息している個体群(大河内群、7個体、船越山群5個体)と島嶼隔離個体群(淡路島個体群7個体)の血液サンプルを用いてMHCクラスⅠ領域にあるマイクロサテライトDNA 4座位(MHC座位)を分析した。フラグメント分析で、個体の遺伝子型を判定した。ヘテロ接合率(H)を求め多様性の違いを比較した。へテロ接合率は、平均値では,淡路島個体群は,0.334であったが、絶滅危惧個体群の美方群では、0.818、大河内群では、0.719、船越群では、0.738であった。本州に生息している群れよりも島嶼隔離された淡路島個体群の方が低い多様性を示した。今後は、他のゲノム領域にある座位(non-MHC座位)を対象に、分析を進め、野生ニホンザル個体群の遺伝的多様性変化と絶滅リスクの関係について分析を行う予定である。

B-5霊長類の各種組織の加齢変化

東超(奈良県医大・医・解剖学) 所内対応者:大石高生

加齢に伴う泌尿器系の内臓のカルシウム、燐、マグネシウム、硫黄、鉄、亜鉛の蓄積の特徴を明らかにするため、サルの腎臓の元素含量の加齢変化を調べた。用いたサルは28頭、年齢は新生児から30歳である。サルより腎臓を乾燥重量100mg程度採取し、水洗後乾燥して、硝酸と過塩素酸を加えて、加熱して灰化し、高周波プラズマ発光分析装置(ICPS-7510、島津製)で元素含量を測定し、次のような結果が得られた。

①サルの腎臓においてはカルシウム、燐、マグネシウム、硫黄、鉄、亜鉛含量は加齢とともに減少傾向にあった。特に燐含量が加齢とともに有意な減少が認められた(P=0.0173)。

②サルの腎臓のカルシウム含量はすべて2mg/g以下で、石灰化しにくい内臓であることが分かった。

③サルの腎臓においては燐とマグネシウム含量の間に有意な相関が認められ、燐、マグネシウムが一定の比率でサルの腎臓に蓄積されることを示している。

B-6新世界ザルに保存された鋤鼻器の機能を探る

守屋敬子、徳野博信(東京都医学研・脳構造) 所内対応者:今井啓雄

 鋤鼻器は、鼻腔の嗅粘膜とは独立して存在する化学感覚器官である。多くの哺乳類の鋤鼻器は感覚器として機能しているが、霊長類においては、色覚の発達した旧世界ザルや類人猿では痕跡化している。一方、新世界ザルには鋤鼻器が存在することが知られている。しかし、鋤鼻器の感覚受容体である鋤鼻受容体の数は少なく、鋤鼻器の機能もよくわかっていない。本研究では、比較的固定標本の入手可能なコモンマーモセットを用いて、鋤鼻器の形態学的解析を行った。コモンマーモセットの鋤鼻器は、鼻腔と口腔を結ぶ切歯管に開口していた。ヒトの切歯管の口腔側は生後発達に伴って閉塞するのに対し、コモンマーモセットは成体でも開口していた。また、鋤鼻器には成熟鋤鼻ニューロンが確認され、切歯管経由でなんらかの化学物質を受容していると推察された。更にin situ ハイブリダイゼーションにて鋤鼻受容体の発現を解析したところ、機能的に保存されている鋤鼻受容体7つのうち、5つは顕著な発現が見られたものの、残り2つはわずかに発現細胞が存在するだけであった。今後はこれら鋤鼻受容体の進化的解析を行う予定である。

B-7狭鼻猿類の大臼歯形状の比較分析

河野礼子(科博・人類) 所内対応者:高井正成

本研究は狭鼻猿類のさまざまな種類について、大臼歯の大きさや形状を分析することにより、化石資料の系統的位置づけや、機能的特徴を検討することを目指して実施してきた。本年は中国産の化石霊長類資料を中心にさまざまな分析を進めた。中国産のマカク類とコロブス類の遊離歯化石の区別を行うために、中国産化石サル類の大臼歯資料、および現生のマカク類・コロブス類の大臼歯資料について、CTスキャンを実施し、データの分析を進めた。またギガントピテクスについては、大臼歯の大きさの時代変化についての研究をとりまとめた。従来から知られていた資料に加えて、最近になって発見された12のギガントピテクス化石の産出遺跡とそこから出土した化石資料について、地質年代を通じたサイズ変化を検討したところ、後の時代になるほどギガントピテクス大臼歯はサイズが大きくなるとの先行研究の結果が追認された。さらに広西チワン族自治区の岩亮洞から出土した4例目のギガントピテクス下顎骨標本、および遊離歯資料についても、記載論文を投稿した。

Zhang Y, Kono RT, Wang W, Harrison T, Takai M, Ciochon RL, Jin C (in press) Evolutionary trend in dental size in Gigantopithecus blacki revisited. JHE.

B-8 1次視覚野をバイパスする頭頂連合野への視覚入力の解明

中村浩幸(岐阜大・院・医) 所内対応者:脇田真清

霊長類の外側膝状体は、2層の大細胞層と4層の小細胞層、これらの層の間のkoniocellular layerから成る。大および小細胞層から1次視覚野(V1)を経由して視覚連合野に至る神経回路は詳しく調べられているが、koniocellular layerの神経回路は不明な点が多い。本研究では、koniocellular layerからV1を経由せず頭頂葉へ至る神経回路の存在を明らかにする目的で、1頭のアカゲザルのV3A野にペントバルビタール麻酔下で数種類の神経トレーサーを微量注入した。9日後に、ペントバルビタール深麻酔下でリン酸バッファーと4%パラフォルムアルデヒドを経心的に灌流し脳を固定した。V3A野にビオチン化デキストランアミンを限局注入すると、同側のkoniocellular layerに逆行性に標識された神経細胞が見出された。これらの神経細胞は、外側膝状体の内側約4分の1の部位で、1層と2層、3層と4層、4層と5層の間に位置しており、吻尾1mm以内に分布していた。この結果は、外側膝状体koniocellular layerからV3A野へ直接投射が存在することを示している。

B-9数学モデルを用いた霊長類大腿骨近位部形態の解析

稲用博史(医療法人社団いなもち医院)、関幸夫(いなもち数値機械生物学研究所) 所内対応者:平崎鋭矢

研究の目的は、ヒトとヒト以外の霊長類の骨形状の違いと行動様式の違いを比較し、骨形状の力学的条件を求める事にある。

Wolffの法則に従えば、骨は力学的ストレス(荷重)を受け、力学的に最適な形状になっている。この法則を最適化理論と考え数式で表現し有限要素法を用いて数値的に解を求めると骨に対する力学的条件を推定することが出来る。

ヒトとチンパンジーの大腿骨の形状を比較すると、ヒトは直立二足歩行しヒトには、Bicondylar Angle と呼ばれる大腿骨の傾きがある。Tardieuによれば、ヒトのBicondylar Angle は10度、チンパンジーのBicondylar Angle は1~2度である。

平成25年度の共同利用・共同研究では、以下の結果を得ていた。

ヒトの骨盤の形状は内臓を支えるために短く幅広くなった。同時に、ヒトは直立することにより大臀筋を発達させた。発達した大臀筋は腸脛靭帯の緊張を高め、チンパンジーと比べて、より外方から大転子を強く圧迫するようになった。

ヒトとチンパンジーの骨形状を求めるために、初期形状と力学的条件を設定し有限要素法を用いて計算し形状を求めた。これにより、Bicondylar Angle は大臀筋力が大きいことにより形成されることが推定された。

平成26年度の共同利用・共同研究では、大腿骨遠位部の形状に注目した。大殿筋によって緊張を高められた腸脛靭帯は大転子を強く圧迫する。大転子に加えられた圧迫力は、大腿骨骨幹部を通じて内顆に伝わる。このようにして、内顆において、大腿四頭筋内側広筋による圧迫力が生じることにより大腿骨遠位部における傾きを作ることが証明された。

他方、チンパンジーにおいては大臀筋による腸頚靭帯の緊張は無く、従って腸頚靭帯による大転子への圧迫もない。同時に内顆における大腿四頭筋内側広筋による圧迫も生じない。この事により、チンパンジーの大腿骨ではBicondylar Angle は小さくなる事が分かる。

B-10哺乳類の寛骨と脊柱(椎骨)の形態と移動運動

和田直己(山口大・共同獣医・生体システム科学)、松尾大貴(山口大・農・獣医) 所内対応者:西村剛

後肢は特に前方(頭の方向)への運動における主な推進力の発生部位である。後肢と体中心のある体幹を貫く脊柱との力のやり取りが寛骨の役割である。寛骨の研究は外形形状に限定されており、断面形状に関する研究が極めて少なく、その機能についてはよく理解されていない。本研究課題では、さまざまな動物種の寛骨の外形および断面形状と動物種、動物のサイズ、ロコモーションとの関係を明らかにすることである。検体は京都大学霊長類研究所、国立科学博物館、大阪市自然史博物館、北九州命の旅博物館、関東以西の動物園、水族館から提供された。骨盤の形状解析にはCT、またμCT撮影によるデータを用いる。これまでは250種を超える標本のCT撮影を行った。このデータを用いて現在3次元構築の作業を行っている。現時点で35種の動物の寛骨の3次元構築を行った。外形, 断面の解析は継続中である。これまでの解析結果により、坐骨長、腸骨長は体重と強い相関を示し、腸骨長と坐骨長の比は動物種によって異なることが明らかとなった。さらに解析を継続し、寛骨の形態と動物の生態の関係を明らかにする。

B-11行動の時間配分バランスと分派行動の起こりやすさの関係

風張喜子(北海道大学・北方生物圏フィールド科学センター) 所内対応者:辻大和

ニホンザルは、基本的にはメンバーがひとまとまりで暮らす凝集性の高い群れを作る。ただし、季節や群れによっては頻繁に分派行動が見られることもある。これまで、ニホンザルの群れのメンバーは、採食活動中に採食時間を削減しながら互いの動きを確認し、群れ生活を維持していることが示唆されている。群れがひとまとまりで行動するのを難しくする一因として、採食行動と互いの動きを把握する行動との時間配分上のトレードオフの関係に着目した。食物条件によって採食に偏った時間配分が行われれば、群れのまとまりを保つのが難しく、分派が起こりやすくなるだろう。このことを検証するために、宮城県金華山島に生息する野生ニホンザルを対象として、行動観察を行った。調査は、食物条件の異なるさまざまな時期(春・初夏・夏・秋・冬)に計5回、2週間ずつ行った。食物を探し歩くのに多くの時間を取られる夏には、確認行動の頻度が低い傾向がうかがわれ、他の時期よりも頻繁な分派行動が観察された。引き続き、行動観察を継続し、採食行動と互いの動きの確認行動のトレードオフの関係や確認行動と分派の起こりやすさの関係ついて詳細な分析を行う予定である。

B-12野生ニホンザルの絶滅危惧個体群における遺伝的交流の解明

浅田有美(兵庫県立大・院・環境人間学研究科) 所内対応者:川本芳

 本研究は,絶滅が危惧されている兵庫県の野生ニホンザル地域個体群間(美方群,城崎群,大河内群)で,遺伝的交流の有無を明らかにすることを目的に行った。まず,オスに特有なY染色体遺伝子のマイクロサテライト3座位について変異を特定し,その組み合わせにより個体のYハプロタイプを決定した。そして,地域個体群ごとのYハプロタイプの出現頻度により交流の有無を検討し,ハプロタイプリッチネスにより,個体群間の遺伝的交流の程度を調べた。また,個体群の特徴を反映した結果を得るために,ミトコンドリアDNA分析により分析個体を出生群により分類し解析を行った。その結果,3地域個体群間でYハプロタイプの出現頻度に差は見られず,遺伝的交流が行われていることが示唆された。また,遺伝的交流の程度は,孤立の程度が大きい下北や,連続分布している三重県の個体群と比較した結果,美方群と城崎群では程度が小さく,大河内群は程度が大きいことが示唆された。以上の結果から,現在のところ遺伝的劣化による個体群の消滅の可能性は低く,危機的な状況ではないと考えられる。しかし,交流の程度が小さい美方群や城崎群では,今後遺伝的多様性の低下が進む可能性もあるため,遺伝情報についての継続したモニタリングが必要だと思われる。

B-13霊長類における甘味受容体の膜移行機序の解析

日下部裕子(農研機構 食品総合研究所) 所内対応者:今井啓雄

味覚は、他の末梢感覚と同様に、刺激に対する感受性が進化により変化することが知られている。例えば齧歯類は一部の人工甘味料を甘味と認識できないことが知られている。我々は、齧歯類とヒトでは、甘味の感受性が異なるばかりでなく、甘味受容体を構成する分子の1つであるT1r3の細胞膜上に移動する仕組み(膜移行性)が齧歯類とヒトでは異なることを最近見出した。そこで、進化過程と甘味受容体の膜移行性の関係を明らかにすることを目的に、人工甘味料に対する感受性が進化過程に伴い異なることが知られている霊長類とヒトのT1r3の膜移行性を比較した。具体的には、チンパンジー、アカゲザル、マーモセットのT1r3のN端に目印となるタグを付加した変異体を作製して培養細胞に導入し、タグ対する抗体染色を行うことで細胞膜上に移行したT1r3を検出した。その結果、チンパンジー、アカゲザル、マーモセットのT1r3は、いずれもヒトT1r3と同様、単独では細胞膜に移動できないことが明らかになった。また、これらのT1r3はヒトT1r2と共存させた場合は膜移行できることが示された。よって、霊長類のT1r3の膜移行機序は、甘味感受性の進化とは関係性が低いことが示唆された。

B-14 Feeding ecology and fecalDNA analysis of wild rhesus macaques in a disturbed habitat of Southern China

Zhang Peng, Wu Chengfeng, Xia Xunxiang(Sun Yat-sen University) 所内対応者:今井啓雄

From September 1st to 20th, I visited Japan and had cooperative researches with Dr. Imai Hiroo, my counterpart at Primate Research Institute of Kyoto University. During my stay at Dr. Imai's lab, I learned the basic techniques to extract DNA from feces and amplify bar-cording regions (mtDNA) by PCR, and to estimate ratio of plant species taken by rhesus macaques in Hainan Province of China. As the results, I improved my method on DNA analysis and successfully extracted genomic DNA from feces samples of wild rhesus macaques. We also tested possible method to determine kin relationship of the study group using microsatellite markers from DNA from feces and fur samplings. I published one book in Chinese and two papers based on the funding supports. From August 11-17 of 2014, I attended the 25th congress of the International Primatological Society at Vietnam and the Bogor Symposium for Asian Primate Research in Indonesia. From 28 June-3 July, 2014, we Invited Prof. Michael A Huffman to visit my primate lab of Sun Yat-sen university, China.

B-15一卵性多子ニホンザルの作製試験

外丸祐介、信清麻子、吉岡みゆき(広島大・N-BARD)、畠山照彦(広島大・技術センター)  所内対応者:岡本宗裕

 遺伝的に均一な霊長類個体を得る為に一卵性多子ニホンザルの作製を目指し、関連する生殖工学技術の検討と受精卵の移植試験を行った。①卵子採取の効率化の為、卵巣刺激処置におけるホルモン投与量を検討し、既報の半量に減じることでよりクオリティの高い卵子が得られる傾向が確認できた。②精子の凍結保存について検討し、保存液としてテストヨークバッファーを用い、融解後に1mM Caffeine および1mM dbcAMPを含むBO液で処理することで、顕微授精等の受精補助を伴わずに体外受精卵を作製できる手法を確立した。また、受精補助処置として体外受精に先立って卵子の透明帯の一部を切開することで、受精率の向上をはかることができた。③ニホンザルの繁殖期に合わせ、体外受精卵について1頭、分割受精卵について2頭の受胚雌に移植試験を実施したが、いずれも妊娠を確認するには至らなかった。今後は、関連技術の高度化に取り組みながら、移植試験を継続する予定である。

B-16志賀高原横湯川流域のニホンザル生態の変化の評価

和田一雄(NPO プライメイト・アゴラ バイオメディカル研究所)  所内対応者:辻大和

 第一の目的である横湯川流域の群れ数についてであるが、今回の調査では、最下流域に餌付けされたA2群と最上流域のC群が発見された。1960-70年代には下流から上流に向けてA・B・Cの3群がいた。B群は1967年にB1・B2群に分裂し、B1群は1971年に焼額山を越えて雑魚川に移動してB2群が残った。1963年に餌付けされたA群は1979年にA1・A2群に分裂して、A2群はA1とB2の間に遊動域を形成した。和田は1990年代初期まで調査をしたがそれ以降、研究は行われなかった。

 今回、横湯川下流域のリンゴ園を猿害に関して聞き込みを行ったが、リンゴ園は1980年代後半に猿害を受け、1995年に山ノ内町でサル28頭駆除した。おそらく1990年代にB2, 続いてA2群が里近くに下りてきて、駆除されたと推測される。C群は横湯川最上流域で、志賀高原スキー場のリフトの1つ付近に居付いていたことから見て、おそらくスキー客がサルに餌を与えた結果だろうと思われた。

 春の若葉、秋の果実類、冬の樹皮・冬芽を採集のためにそれぞれ5月、11月、3月に現地調査を行ったが、春と冬には目標の食物をほぼ採集できたが、果実類はほとんど見つけられず、凶作だった。現在、採集した食物類の栄養分析を行っている。

 1960―90年代の3群の遊動と土地利用様式の関係について、コドラート法による横湯川流域の植生資料と、10年に及ぶシードトラップ法による果実生産量の変化の関係から現在分析中である。

B-17新世界ザル苦味受容体TAS2Rに対するリガンド感受性多様性の検証

河村正二、松下裕香(東大・新領域)  所内対応者:今井啓雄

苦味受容体(TAS2R)は舌の味蕾に発現し苦味感覚を担っている。含まれる苦味物質の種類や量は食物によって異なるため、TAS2Rの応答特性(どのような苦味物質をどれくらいの感度で受容するか)は動物種間の食性の違いに応じて異なっている可能性が考えられる。しかし、実際にそのような違いが存在するのかはほとんど分かっていない。そこで、近縁な種間でTAS2Rの応答特性が異なっている可能性を検討するため、種間で食性が異なることが知られている新世界ザル(マーモセット、オマキザル、ヨザル、クモザル、ホエザル)のTAS2R1およびTAS2R4を培養細胞に発現させ、様々な苦味物質に対する応答をカルシウムイメージングにより比較した。その結果、TAS2R1に関してはショウノウに対する応答の感受性が、TAS2R4に関してはコルヒチンに対する応答の大きさが種間で異なることが明らかとなった。これらの結果から、新世界ザル種間の食性の違いがTAS2Rの応答特性の違いと関連していることが示唆された。

B-18Molecular characterization of HERV-Y family in primates

Kim Heui-Soo、Eo Jungwoo、Hee-Eun Lee(Pusan National Univerisity) 

所内対応者:今井啓雄

Endogenous retroviruses (ERVs) inserted into the genome early in primate evolution. Human ERVs (HERVs) occupy about 8% of the human genome. In this study, we identified novel HERV-Y elements among 31 families. The full-length HERV-Y is located on chr8 and chr13 (HERV-Y101, -Y102, and -Y103; Table 1), and clustered with HERV-I,-T,-E, and –R in the pol-based phylogenetic relationship. HERV-Y pol were ubiquitously transcribed in human tissues, and also highly expressed in rhesus monkey. In addition, we observed high expression patterns in tissues from African green moneky and cotton-top tamarin, suggesting biologically important roles of HERV-Y gene products in primates.

B-19霊長類の光感覚システムに関わるタンパク質の解析

小島大輔、鳥居雅樹(東京大・院理・生物科学) 所内対応者:今井啓雄

脊椎動物において、視物質とは似て非なる光受容蛋白質(非視覚型オプシン)が数多く同定されている。これまでに私共は、マウスやヒトの非視覚型オプシンOPN5がUV感受性の光受容蛋白質であることを見出し(Kojima et al., 2011)、従来UV光受容能がないとされていた霊長類にも、UV感受性の光シグナル経路が存在することが示唆された。そこで本研究では、OPN5を介した光受容が霊長類においてどのような生理的役割を担うのかを推定するため、霊長類におけるOPN5の発現パターンや分子機能を解析している。本年度は、ニホンザル組織よりクローニングしたOPN5 cDNAの分子機能を調べるため、哺乳類培養細胞系を用いたCaイメージング解析を行った。ニホンザルOPN5 cDNAを強制発現させた培養細胞に11シス型レチナールを添加した後、近紫外光パルス(387 nm)を照射したところ、細胞内Ca++濃度の一過的な上昇が観察された。このニホンザルOPN5 cDNAは、近紫外光受容体をコードすると考えられる。

B-20Genetic diversity of long-tailed macaque Macaca fascicularis and rhesus macaque M. mulatta: mainly focus on their hybridization range

Srichan Bunlungsup, Suchinda Malaivijitnond (Chulalongkorn University) 所内対応雄者:今井啓雄

To determine the hybridization between M. f. fascicularis and M. f. aurea, blood and fecal samples of these two subspecies and the hybrid throughout Thailand and Myanmar in total 16 populations were collected. The species and subspecies of monkeys were first identified in regard to their morphological characteristics. HVSI on D-loop region was amplified to trace the genetic structure in macaque populations. SRY and TSPY genes were analyzed to trace the migration pattern. Then, mtDNA and Y-chromosome trees were constructed with 1000 bootstraps using Neighbor joining method. From our result, we proposed two hypothesized about their migration routes. Firstly, aurea population migrated southward along the Mergui Archipelago towards the southwestern Thailand, probably during the glacial period. After that, some of them may migrate north eastward across the low altitude of Tanasserim Hills towards mainland Thailand and islands on Thai Gulf respectively.

B-21霊長類後肢骨格の可動性  

佐々木基樹(帯広畜産大・院・医) 所内対応者:平崎鋭矢 

ニシローランドゴリラの後肢を、CTスキャナーを用いて非破壊的に解析し、その足根関節と趾の可動域をチンパンジー、ニホンザル、スマトラオランウータンの可動域と比較検討した。まず、第一趾を最大限伸展および屈曲させた状態でCT画像撮影をおこなった。さらに脛骨長軸と足底面が垂直な状態およびその位置から足を可能な限り回外させた状態の2通りの条件において足根関節部の撮影をおこなった。得られたCT断層画像データを三次元立体構築して、足根関節と第一趾の可動状況を観察した。観察した全ての霊長類において足根関節部の顕著な回旋運動が観察された。さらに第一趾の屈曲と伸展に伴う第一中足骨の内転と外転が確認され、オランウータンでその可動域が最も大きく、次いでゴリラ、ニホンザル、チンパンジーの順であった。ゴリラやチンパンジーでは第一中足骨は足の背腹平面で可動しており、上下斜め方向に可動面を持つ他の2種の可動様式とは異なっていた。ゴリラやチンパンジーは半地上性を示しており、この中足骨の可動様式と可動範囲の違いは地上への行動圏の拡大に伴う霊長類進化の過程における形態適応の一つであるかもしれない。

B-22 霊長類ES,iPS細胞分化に与える環境化学物質の影響

高田達之、白井恵美、小野友梨子(立命館大・薬)、檜垣彰吾(立命館大・グローバルイノベーション研究機構)

所内対応者:今村公紀

TEKT1発現細胞を詳細に解析するため、TEKT1プロモーター制御下でVenusを発現するカニクイザルES細胞を用いてEB形成を行い、Venus発現を継時的に観察した。その結果、約6週目からEB表面においてVenus発現細胞が出現し、その後時間経過に伴い、Venus発現細胞は集結し、特徴的な管状構造を形成することが確認された。またこの管状構造の表面では活発に運動する多くの繊毛が観察された。さらに電子顕微鏡を用いてこの繊毛断面を観察したところ、運動性繊毛に特徴的な9+2構造を有する微小管が認められた。また細胞形態は円柱状で、細胞内部に多くの分泌顆粒が観察されたことから、上皮性の細胞であると考えられた。すなわちTEKT1発現細胞はその表面に多くの繊毛を有することから、TEKT1は運動性の繊毛を有する細胞のマーカーとして利用可能であることが示された。またこれらの繊毛を繊毛特異的なマーカー(アセチル化チューブリン等)で染色すると精子の鞭毛とは異なる染色パターンを示した。TEKT1はこれまで生殖細胞分化において精子マーカーとして利用されてきたが、必ずしも精子の存在を示差ないことが明らかとなった。

B-23東京都、埼玉県、山梨県のニホンザル地域個体群の遺伝的な解析

井口基(東京の野生ニホンザル観察会) 所内対応者:川本芳

東京都及び隣接域の埼玉県、山梨県、神奈川県に生息する個体群は、mtDNA解析(Kawamoto et al,2007)により、関東でありながら遺伝子タイプは西日本タイプに近く、最終氷河期の遺存個体群である可能性が予想されている。

これらの個体群は1980年から生息状況調査を実施しており、生息群の内58群を特定している。また、オスの群間移動のデータも蓄積されつつある。だが、いずれも観察に基づくものであり、遺伝学調査についての蓄積はない。

2014年は共同利用研究により、mtDNAとY染色体に見られる変異からこれらの地域に生息するニホンザルの成立過程及び地域内の遺伝子構成を解明する基盤として東京都、埼玉県、山梨県の生息群から糞試料149検体(2013年も含む)、群れオスと群れ外のオスグループから糞試料14検体を採取した。

試料は特定群ごとにまとめ、mtDNAの塩基配列分析とamelogenin標識遺伝子による性判別の実験をおこない、群れに固有のタイプを特定して、その分布図を作成した。

この結果、調査地域内のサルは他地域から大きく分化したmtDNAタイプを有すること、地域内においてもmtDNAの多様性が大きいこと、タイプの分布に地理的構造が予想されることが観察されはじめている。また、オスを介した地域間交流についても遺伝子データが蓄積されつつある。

2015年については、東京都、神奈川県を含めて検体の採取数を増加させて地域内の遺伝子構成を密に解明するとともに、オスの検体を採取してオスを介した地域間交流の実態解明をおこなう。

B-24霊長類における眼窩骨壁の構造と眼球開眼領域の形態との関連性に関する研究

澤野啓一(神奈川歯科大) 所内対応者:濱田穣

Fissura orbitalis superior(FOS)は、Homo ではCanalis opticus(CO)の何倍もの大きさが有り、「くの字型」に屈曲している。しかしPongo, Pan, Gorilla では、FOS の横断面形状はFissura と言うよりも、むしろ歪んだ円形もしくは四角形に近い状態であり、Homo とは大いに異なる。  Fissura orbitalis inferior (FOI)は、HomoではOrbita の外側下方に最大口径を持つ大型水滴状の断面形状によって側頭窩・側頭下窩に開口し、その断面積は個人差が大きいものの、少なくともFOS と同等か、更にそれを上回る。このように相対的に大型のFOI を持つのは、現生Catarrhini ではHomo だけであり、それに準ずるのがHylobatesである。 それに反して、Papio, Mandrillus等では、FOIは非常に狭く小さくて、1-2 mm程度の細い電線を挿入できる程度である。Macacaの場合にもその状態に近い。  Great apesの場合には、その大きさはCercopithecoideaよりも大きいが、Homoよりもはるかに狭い。  霊長類は、原始的な状態から高度に発達した状態に成るに従って、Orbitの壁が閉鎖的に成るという傾向を指摘されることが多い。上記の観察結果は、これに反する事例として非常に興味深い。視線の制御は、体軸と眼球運動の制御によって行われる魚類段階から、爬虫類・哺乳類段階では頚部運動中心方式に転換された。それが、霊長類進化の過程で、頚部運動・眼球運動併用方式に再度修正されて来た。bony orbital socketの壁面開口部構造と眼球開眼領域の形態は、そうした視線制御方式の改変、及び脳頭蓋内外の連絡路の改変とを反映しているものと考えられる。

B-25中部山岳地域のニホンザル遺伝子モニタリング

赤座久明(富山県自然博物園ねいの里) 所内対応者:川本芳

遺伝子解析により、中部地方に生息するニホンザルの群れや地域集団の類縁関係を明らかにし、地域個体群の成立過程を検討することを目的にして、DNA試料の野外採集と分析を行った。

2015年9月から11月にかけて、岐阜県根尾川、揖斐川流域と福井県九頭竜川源流の雲川流域でDNA試料の糞を採集した。この地域はサルの生息情報が少なく、過去に遺伝子調査が行われていない地域である。分析の結果、ミトコンドリアDNA調節領域(mtDNA-CR)(1015塩基対)から、Aタイプ(揖斐川上流)、Bタイプ(根尾川上流)、Cタイプ(揖斐川上流、根尾川上流、雲川)、Dタイプ(揖斐川中流、揖斐川支流坂内川)の四つのハプロタイプを検出した。4タイプの第二可変域(412塩基対)に注目して、ハプロタイプを分類(Kawamoto et al 2007)すると、AはJN21タイプ、BはJN22タイプ、CとDはJN30タイプであった。更に、DNAによる性判別で、A,C,Dはメスの個体を含む集団であることを確認した。揖斐川上流に生息するAタイプ(JN21)は、先行研究により石川県手取川、岐阜県長良川流域の生息分布が確認されており、この集団が更に揖斐川上流域に至っていることが分かった。C、Dタイプ(JN30)は三重県東部、岐阜県西部、福井県南部の生息分布が知られていたが、揖斐川、根尾川、雲川流域の分布が確認されたことにより、三重県、岐阜県、福井県にかけて広域的に生息する血縁集団であることが明らかになった。

B-26加齢変化特性を考慮できるニホンザルの四足歩行計算機シミュレーション

長谷和徳、林祐一郎(首都大・理工) 所内対応者:平崎鋭矢

本研究では,ニホンザルモデルを用いて,霊長類のオトナ期における筋・骨格の加齢変化を調べ,運動能に対するそれらの影響を明らかにするため,これらの力学的な特性を考慮・反映し得る四足歩行の計算機シミュレーションモデルの構築を試みた。霊長類研で撮影したニホンザルのロコモーションデータや,歩容の特徴の知見を参照し,四足歩行の運動制御モデルの構築を行った。具体的には,昨年度に構築したモデルを基本とし,足先軌道関数の修正や地面反力計算の精度向上を行った。また,霊長類研より情報提供いただいた四足歩行ロボットの制御モデルを参照し,新たな脚位相制御機構の追加も行った。シミュレーションでは足部反力など含め,ニホンザルの特徴をよく表す歩行様式を実現できるようになった。また,四肢の運動位相を前方交叉型と後方交叉型の両方で実現し,この脚位相と身体重心位置との関係について検討した。その結果,ロコモーションパターンの形成には重心位置などの身体力学系の特性が大きく影響されることが明らかになった。ただし,加齢変化に伴う身体力学特性と歩行運動との力学的関係の解明については,更なる検討が必要である。

B-27屋久島のニホンザルの腸内細菌の消化能力についての研究

牛田一成、土田さやか(京都府大・院・応用生命) 所内対応者:半谷吾郎

屋久島のニホンザルは、上部に棲息する個体群と下部の西部林道周辺に生息する個体群がある。上部個体群は、下部個体群と比べると特に積雪の見られる冬期にはより厳しい生活環境に耐える必要がある.樹皮など消化が困難な食物の場合、腸内細菌が宿主の栄養にもたらす貢献がより高いと推測できる。また、これまで対応者らが実施してきた屋久島ニホンザルの腸内細菌網羅解析では、多くの配列が同定不能となっているが、それは野生動物腸内細菌の分離株の情報が決定的に欠落しているためでもある。

そこで、本課題では屋久島ニホンザルの腸内細菌のうち、宿主の栄養に貢献すると考えられる細菌や未知の細菌種を分離することを目的とした。

2014年12月14日より屋久島大川林道で上部個体群の新鮮糞を採取し、ケンキポーター試験管に採取し、屋久島観察ステーションに帰着後ただちにEG血液寒天平板、BL血液寒天平板、およびMRS寒天平板に塗抹し、嫌気培養を行った。同様の操作を西部林道周辺に棲息する下部個体群に対しても行った。

その結果、上部個体群糞便からBL培地上で優占する非常に特徴的な形状の細菌が分離された。単離後、同定を試みたところSarcina ventriculiと推定された。本菌の健常人からの分離例では、概ね厳密な菜食主義者からという報告があり(Crowther, 1971 J Med Microbiol 4, 343-350)食事との関連が強い細菌と考えられる。このグループは、現状では、分類学的な混乱も見られることから、腸管における生理についての研究は十分なされていない。この他、繊維分解性Bacteroides thetaiotaomicronも分離されたが、多くの単離株が少なくとも2種の共生系と思われる混在を示し単離が困難で現状でも十分単離できていない。また下部の個体群からはタンニン分解性Streptococcus gallolyticusが検出された。現在、分離が困難な細菌について、さらに検討を重ねている。

B-28ニホンザル群における食物摂取と栄養状態および繁殖成績の関係について:幸島群と高崎山群の比較

栗田博之(大分市教委・文化財) 所内対応者:濱田穣

幸島及び高崎山での写真計測法による体長計測は、それぞれ8月と9月に実施し、前者ではメス16個体、後者では5個体のデータ収集を行った。まだ幸島群における高齢個体のデータが少なく、今後の調査における課題である。

体重については、幸島個体では体重の年変動が大きく、年変動パターンは個体間で同調していることがわかっているが、今年度は、幸島個体における年によるばらつきが高崎山個体のそれよりも大きいかどうかを分析した。充分な比較データがある2005年から2008年までの(妊娠個体がほぼいないと思われる)10月時体重の個体内のばらつきの程度を比較したところ、幸島個体の方が有意に大きいことがわかった。

 また、餌(コムギ)獲得量調査については、幸島ではこれまでのデータに今年度11月に収集した2個体分のデータを追加して、上位下位3個体ずつのデータとなり、高崎山で2005~2008年の間に収集した上位下位8個体ずつのデータと比較した。その結果、幸島の上位個体は下位個体の1.8倍(エネルギーベース)の餌を、高崎山の上位個体は下位個体の1.5倍(同)の餌を獲得していた。

今後、幸島個体からのデータ不足を解消した上で、食物摂取、栄養状態、および繁殖成績との関係とその2群間の違いの解明を目指したい。

B-29COCH遺伝子発現の種特異性に関する検討

池園哲郎、松田帆(埼玉医科大)、松村智裕、斉藤志ほ(日本医科大)  所内対応雄者:高田昌彦

■研究目的

COCH遺伝子は遺伝性難聴のひとつDFNA9の原因遺伝子である。COCH遺伝子の蛋白産物であるCochlinは、(1)内耳で蛋白の70%を占め(2)4つの分子量の異なるアイソフォームを持ち(3)内耳にほぼ特異的に発現し(4)CTPが外リンパ特異的に存在している事を解明した。昨年度の研究では、ヒト外リンパではCTPと思われるバンドが1本(糖鎖結合型)見られるのに対して、サル外リンパではバンドが2本(糖鎖結合型と糖鎖非結合型)認められ、Cochlinの機能解明に更なる研究が重要性を持つ。

■研究計画・方法 

 ニホンザルの外リンパを採取し、ウェスタンブロット法による蛋白解析を行う。

■これまでの研究の経緯と成果

 Cochlinは内耳で最もドミナントな蛋白であるが、その機能はまだ解明されていない。

昨年度及び本年度、ニホンザルから外リンパを採取しCTP抗体を使って比較解析した。昨年度採取の外リンパでは、バンドが2本観察され糖鎖結合の違いによるアイソフォームがあることが示唆された。本年度採取の外リンパでは、糖鎖結合型CTPの分子種のみが検出された。

 げっ歯類の外リンパではCTPは糖鎖非結合型に相当する分子種も検出されるが、ヒトではCTPがほぼ100%糖鎖型として存在する。今年度の結果から、ニホンザルにおけるCTPの生合成過程がヒトと同様である可能性もあり、今後更なる研究が必要と考えられる。

B-30ニホンザル二足歩行運動の生体力学的解析

荻原直道(慶應義塾大・理工・機械工)、大石元治(日本獣医生命科学大) 所内対応者:平崎鋭矢

生得的に四足歩行するニホンザルの二足歩行運動のメカニクスを、ヒトのそれと対比的に明らかにすることは、ヒトの二足歩行の起源と進化を明らかにする上で重要な示唆を提供する。このため申請者らはニホンザル歩行運動の力学的解析を行ってきた。しかし近年驚くべきことに、その二足歩行は力学的には走行に近いことが、トリの二足歩行との比較運動学的分析から示唆されつつある。そこで本研究では、ニホンザルの二足歩行運動の床反力と脚のスティフネスに着目し、その移動様式の力学原理を再検証することを目的とした。

ニホンザル二頭を実験室内の歩行路の上を歩行させ、歩行路に設置した床反力計を用いてニホンザル二足歩行中の床反力を計測した。このとき歩行中の身体運動をビデオカメラで撮影し、関節点をフレーム毎にデジタイズし、その結果より歩行中の重心点の時間変化を求め、位置・運動エネルギーを算出した。また、その点と着力点を結ぶ脚軸の長さ変化と床反力データから、脚のスティフネス(脚の弾性特性)を推定した。その結果、ニホンザルの鉛直床反力波形はトリのそれと類似することを確認した。また位置・運動エネルギーの時間変化が相対的に同相で推移することから、ニホンザル二足歩行は空中期のない走行、すなわちgrounded runningとなっていることが示唆された。また、ニホンザル屍体標本から、歩行に関係する主要な筋の速筋線維と遅筋線維の割合を組織学的手法によって計測する準備を行った。

B-31霊長類色覚視物質及び味覚受容体の赤外分光研究

神取秀樹、大橋知明、野中祐貴(名工大・院工)  所内対応者:今井啓雄

ヒトを含む霊長類の網膜には、3種類 (赤・緑・青) の色覚視物質が存在する。これら視物質は試料調製が困難なため、構造生物学的解析は過去に例がなく、我々の色認識メカニズムは謎のままであった。そのような現状下、我々は培養細胞を用いて発現させた霊長類の赤・緑感受性視物質に対する高精度の赤外分光測定による構造解析を成功させている (平成22、24年に論文を発表) 。次なるターゲットとして、平成25年より残された青感受性視物質の構造解析に取り組んでいる。青視物質の試料調製は赤・緑視物質よりもさらに困難と考えられていたが、種々の実験条件の最適化の結果、わずか1年足らずで青視物質の試料調製および赤外分光測定を実現することができた。また平成26年にはこの青視物質に対する変異体実験にも取り組み、青視物質に特異的な構造情報の抽出にも成功している。このように我々は今後も赤・緑・青視物質の構造データからその波長制御メカニズムを構造に立脚して議論することを目指していく。

また我々は苦味受容体の赤外分光解析に向けた取り組みも行っている。その一つとして、数種類の苦味受容体を培養細胞を用いて発現させ、それらの発現量を比較することで実際の試料調製および赤外分光測定に適した苦味受容体の選択を試みた。その際最適とされた苦味受容体を用い、精度のよいスペクトルを得るため、苦味受容体を純度よく抽出する方法を模索している。

今後も色覚視物質の構造解析の成果を世界に発信できる点を踏まえ、支援いただいている霊長研に改めて謝意を表したい。

B-32口腔における感覚受容機構の解明

城戸瑞穂(九州大・歯学研究)、合島怜央奈(佐賀大・医)、木附智子(九州大・歯) 所内対応者:今井啓雄

口腔は鋭敏な器官である。適切な口腔感覚は、哺乳類において哺乳・摂食・情報交換など多様な行動の基盤となっている。しかしながら、その機構についての理解はまだなお限られている。

口腔の感覚は、教科書的には口腔粘膜に分布している密な神経支配によると理解されている。私たちは、(狭義の)味覚とされる甘味・塩味・酸味・苦味・うまみ以外の口腔内の感覚、とくに、温度感覚や唐辛子や胡椒などのスパイスなどのへ感覚、触圧感覚などの機構の解明を目指し、こうした広義の味覚とされる感覚の分子基盤として、TRP チャネル(transient receptor potential channel)を想定し研究を進めてきた。今年度は、マーモセットの口腔試料を用い、TRPチャネル発現を解析する試料採取条件および免疫染色の条件を検討した。そして、マーモセット口腔粘膜上皮に温度および機械受容への関与が報告されている一部のTRPチャネルの発現が確認することができた。今後例数を増やし、温度感受性のTRPチャネルの発現について調べていく予定である。

B-33霊長類におけるエピゲノム進化の解明

一柳健司、佐々木裕之、福田渓(九州大・生医研) 所内対応者:今井啓雄

我々は霊長類におけるゲノム進化とエピゲノム進化の関係を解明するため、ヒト、チンパンジー(霊長類研究所の飼育個体)、ゴリラおよびオランウータンの末梢白血球のDNAメチル化比較研究を行い、CTCFタンパク質の結合配列の出現・消失やマイクロサテライト配列の小さな変化によって、DNAメチル化状態が変化し、転写状態に影響を与えていることを世界で初めて示した(Fukuda et al. 2013, J. Human Genet.58:446-454)。

前年度にGAINよりニホンザル精子サンプルを供与頂き、全ゲノムレベルでDNAメチル化状態を解析した。本年度はさらに解析を進め、ヒト、チンパンジー、ニホンザルの精子メチル化状態の3種比較を行い、ヒト特異的に大きな低メチル化領域(数十kb以上)が多数出現していることを明らかにした。一方、小さな領域(1kb以下)のメチル化変化については、SVAやAluといったレトロトランスポゾンの種特異的な挿入により、周辺のエピジェネティック状態が変化することを明らかにした。SVAはヒト集団内にも多数の挿入多型があることが知られている。そこで、数人のヒト精子サンプルについてメチル化状態を解析し、ヒト集団内でもSVA挿入によって、周辺のDNAメチル化が低下することを明らかにした(論文投稿中)。

B-34霊長類の性的二型とその多様性の分子機序解明に向けた技術開発 

太田博樹、勝村啓史、松前ひろみ(北里大・医・解剖) 所内対応者:今井啓雄

【目的】性ホルモンの周期的変動に同調して発現量が変化する遺伝子のリストを作成する

【方法】自然排卵のニホンザル2頭のestradiolとprogesteroneの血中濃度の経時的変動から、排卵直前と直後のそれぞれのホルモン血中濃度のピークを示す日の血液試料からRNAを抽出・精製し次世代シークエンサーによりRNAseqを行い、それぞれのピーク時で発現量が変化している遺伝子のリストを作成する。

[NGSプロトコル]

1.サンプル品質チェック

2.ライブラリー製作

  ①total RNAからmRNA分離

  ②mRNAのフラグメンテーション

  ③一本鎖cDNAの合成

  ④二本鎖cDNAの合成

  ⑤フラグメントエンドの修復

  ⑥3’末端のアデニル化

  ⑦両末端にアダプターをライゲーション

  ⑧精製

  ⑨PCR増幅

  ⑩ライブラリーの検証

  ⑪ライブラリーのプーリング

3.シーケンシング

  ①クラスタのジェネレーション(Illumina cBot)

  ②ラン(Illumina HiSeq2000、101×2(ペアエンド))

4.データフィルタリング

  ①ローデータ生産

  ②Fastq ファイル製作(CASAVA利用demultiplexing、QV値の要約)

【進捗】ニホンザル2頭の排卵直前と直後のestradiol/progesteroneピーク時の血液試料から抽出したRNAのNGS解析をおこなった。4検体でほとんど差が無い Read 数が得られた。このRaw Dataを現在解析中である。

B-35霊長類における旨味受容体T1R1/T1R3のアミノ酸応答性の評価

三坂巧、石丸喜朗、戸田安香(東大・院・農生科) 所内対応者:今井啓雄

旨味受容体T1R1/T1R3はヒトとマウスで応答するアミノ酸の種類が異なる。本研究では、味覚受容体発現細胞を用いた味の評価技術を利用し、霊長類間における旨味受容体のアミノ酸配列の違いとアミノ酸応答性の違いを比較検討することを目的としている。

ゴリラ、オランウータン、ニホンザル、アカゲザル、カニクイザル、ブタオザル、コモンマーモセット、アイアイ、キツネザルのゲノムDNAから旨味受容体遺伝子Tas1r1およびTas1r3のコード領域をゲノムPCR法により取得した。続いて、オーバーラッピングPCR法を用いてTas1r1およびTas1r3の各々6個のエキソン領域を連結させ、T1R1およびT1R3コード領域全長を哺乳類細胞発現用ベクター(pEAK10)に挿入した。今後、得られた発現プラスミドを用いて培養細胞系により、これら非ヒト霊長類T1R1/T1R3のアミノ酸応答性を評価する予定である。この解析は、霊長類における味覚受容体遺伝子配列と食物選択との相関性を示す上で、非常に興味深い結果を提示しうることが期待される。

B-36霊長類腓腹神経の比較解剖学的研究

関谷伸一(新潟県立看護大) 所内対応者:平崎鋭矢

チンパンジー胎児の腓腹神経(NS)の成り立ちと分布を調べることを目的に、平成26年度は下肢全体の皮神経の剖出を試みた。材料は京大霊長類研究所所蔵のチンパンジー胎児2頭、2側の下肢を手術用実体顕微鏡の下で解剖した。

第1例(PRI7993、左):外側大腿皮神経(Cfl)は大腿外側から前面の皮下に分布した。後大腿皮神経(Cfp)は大腿二頭筋長頭の外側縁から皮下に出て大腿後面、膝窩、下腿後面上部に分布した。伏在神経(Sa)は下腿内側から第1,2趾背に達した。外側腓腹皮神経(Csl)は大腿二頭筋短頭(BFb)を貫通して皮下に現れ、膝関節の下方と下腿外側後面に分布した。内側腓腹皮神経(Csm)との交通はなかった。Csmは腓腹筋の内・外側頭間を下行し、外果の後ろで皮下に出てNSとなり第5趾の外側趾縁に分布した。NSの枝のうち、アキレス腱の深層に向かう内側枝は確認できなかった。

第2例(PRI8507、右):Cfl、Cfp、Saの分布は第1例とほぼ同じであった。CslにはBFbの下縁を通るものと貫通するものがあった。NSの内側枝は存在したが脛骨神経との交通(S-T交通)は未確認である。

チンパンジー胎児下肢の皮神経の走向および分布は、成獣あるいはゴリラとほぼ同じパターンを示した。今後はNSの内側枝の分布、特にS-T交通の有無を明らかにしたい。

B-37末梢心臓自律神経系形態変化に関与する進化機能解剖学的因子の探索

川島友和、佐藤二美(東邦大・医・解剖)) 所内対応者:濱田穣

これまで主に、霊長類における心臓支配神経である交感神経系心臓神経と副交感神経系心臓枝の詳細な比較解剖学的解析を行ってきた。その中で、各グループ内(曲鼻猿、新世界ザル、旧世界ザル、小型類人猿、大型類人猿、ヒト)ではほぼ一定の形態を有していることがわかり、それらはほほ進化史を反映した移行的関係を認めた。これは、霊長類内での発生学的制約が大きいのかもしれない。そこで、(1)霊長類内でも特殊な身体的特徴を有する種で微量な形態変化を抽出するために再検討を行うこと、(2)多様な哺乳類を対象として大きな変化を求めること、などを次の課題とした。そこで、近年様々な生活環境に特化した種や特殊なロコモーションを有する種を解析して、心臓自律神経系の違いを検出することを検討している。

今年度は、本共同利用として半水棲哺乳類としてアシカ科(Otariidae indet.)1体と樹上生活に特化したクモザル(Ateles sp.)1体、その他の博物館資料として樹上性滑空哺乳類としてヒヨケザル(Galeopterus sp.)1体ならびにその比較としてクリハラリス (Callosciurus erythraeus)1体の計4体を解剖した。

その結果、各々の環境に特化した変化として、骨格、筋、体性末梢神経には有意に大きな変化を観察したが、頚胸部自律神経系の細かな神経分布には明瞭な形態変化は乏しく、その微細な変化を論じるにはサンプルサイズが必要と思われた。今後さらに様々な動物園・博物館に協力を求め、材料収集を継続し、様々な哺乳類の解析を行っていく予定である。

B-38 霊長類の前肢帯骨格の可動域の種間比較

加賀谷美幸(広島大・医歯薬保・解剖学及び発生生物学) 所内対応者:濱田穣

樹上性の強い霊長類は前肢の運動範囲が広く、前肢帯の可動性も高いとされる。前肢帯の立体配置やその位置変化の種間の違いを明らかにするため、ニホンザル、ヒヒ、オマキザル、クモザルの成体を対象として計測を行った。獣医師の協力のもと、麻酔下、接触型三次元デジタイザを用い、前肢や前肢帯骨格の位置を示す座標を、肢位を変えて取得した。また、X線CT撮影を行い、各個体の骨格要素の形状を抽出し、先に計測した三次元データに重ねあわせることにより、前肢や前肢帯の骨格の位置関係をソフトウェア上で復元した。ヒヒやニホンザルでは、上腕骨は矢状面上の投影角にして180度程度(体幹軸の延長ライン)までしか前方挙上されないが、オマキザルでは180度以上、クモザルは約270度に達し、樹上性の強い新世界ザルでは頭背側への上腕の可動性が大きかった。これら最大前方挙上位では肩甲骨が背側へ移動し、オマキザルやクモザルでは肩甲骨関節窩が頭外側を向くが、ニホンザルやヒヒでは関節窩が頭外側かつ腹側に向く傾向があり、後二者では胸郭上部に対し棘上窩が長いためとみられた。このように、前肢帯の骨格形態が肩関節の位置や向き、ひいては前肢の可動域に影響していた。

B-39霊長類におけるマラリア感染関連遺伝子の分子進化学的解析

大橋順(東京大・理)、中伊津美(東京大・理) 所内対応者:今井啓雄

マラリア感染における最も重篤な症状の一つが脳性マラリアである。脳性マラリア患者の脳血管内においてマラリア感染赤血球の凝集が観察され、凝集形成に血小板が介在していることが知られている。タイ人熱帯熱マラリア患者481名を対象に、血小板数との関連が報告されている細胞内アダプター蛋白質(SH2B3)をコードするSH2B3遺伝子中の一塩基多型(SNP)の解析を行った。SH2B3タンパクは、各種造血系細胞におけるサイトカインおよびインテグリンを介するシグナル制御分子の一つである。軽症マラリア群と脳性マラリア群とで調べたSNPのアリル頻度を比較したところ、Gアリルが軽症マラリアと比べて脳性マラリアに感受性であることを見出した(OR=1.5, P-value=0.043)。Gアリルは血小板数増加との関連が報告されており、本結果はマラリア感染赤血球と血小板との凝集塊による微小血管閉塞が脳性マラリアを引き起こす要因の一つであることを示唆している。現在、ヒト系統においてSH2B3遺伝子に正の自然選択が作用した可能性を検討すべく、マラリア患者16名と西チンパンジー3匹について、SH2B3遺伝子の全コード領域の配列決定を行っている。配列が得られれば、多型サイトと固定サイトの同義置換数と非同義置換数とを比較する(McDonald–Kreitman検定)予定である。

B-40網膜神経細胞のサブタイプ形成を担う分子群の霊長類における発現パターンの解析

大西暁士(理化学研究所多細胞システム形成研究センター 網膜再生医療研究開発プロジェクト)

所内対応者:今井啓雄

ヒトを含む多くの霊長類の多くは赤・緑・青色感受性の錐体視細胞に起因する3色性色覚を持つが、これら錐体視細胞のサブタイプを決定するための分子機構は不明な点が多い。マウス網膜において青・緑錐体視細胞サブタイプ決定を担う転写制御因子Pias3の発現調節に関与する因子として1型レチノアルデヒド脱水素酵素を同定し、成体マーモセット網膜において中心窩部分に発現が認められた。発現する網膜神経細胞について免疫組織化学的に検討した結果、一部のアマクリン細胞とミュラー細胞で局在することが分かり、マウスとマーモセット間では発現する神経細胞は概ね保存されている事が示唆された。

霊長類網膜の組織解析と平行してマウス網膜の緑錐体の局在する領域で高い発現を示す分子の探索を進め、幾つかの候補遺伝子を同定した。今後、霊長類網膜における発現パターンの解析およびマウス網膜におけるGOF/LOF解析により表現型を評価する予定である。

B-41霊長類精原幹細胞の解析

久保田浩司、垣内一恵、田坂翔平(北里大・獣医)  所内対応者:今井啓雄

 これまでの研究で明らかにしてきた齧歯類精原幹細胞の知見をもとに、霊長類(マーモセット、マカク類)精原幹細胞の性状解析を行い、培養系を確立することを目的として準備を進めてきたが、残念ながら平成26年度は霊長類研究所から新鮮組織試料を入手する機会に恵まれなかった。現時点では他施設から得られた精巣サンプルを利用して免疫組織学的解析ならびにフローサイトメトリーを用いた予備実験を行うに留まってはいるが、少しずつ予備実験結果は蓄積してきている。実験機会には恵まれなかった一年ではあったが、霊長類研究所の共同利用研究会「霊長類への展開に向けた幹細胞・生殖細胞・エピゲノム研究」にて講演し、貴重な情報交換の機会を得ることができた。研究会のオーガナイザーである霊長類研究所の今村公紀先生には改めて謝意を示したい。今後は保存サンプルの利用を含めて、よりproductiveな共同研究体制の構築を進めていく予定である。

B-42奥多摩湖周辺の野生ニホンザル「山ふる群」の人付けと環境教育

内藤将、島田将喜、盛恵理子(帝京科学大・生命環境) 所内対応者:辻大和

東京都奥多摩湖周辺には、明治以前には群れが生息していたが人間活動により群れが長期間消失していた「空地帯」が存在していた。しかし近年この地帯を利用する群れ、「山ふる群」が観察されるようになった。山ふる群の遊動域は多摩川により南北に分断され、集落が集中している場所と山ふる群が生息するまで「空白地帯」であった森林の二つに分かれる。本研究は山ふる群の夏季と秋季の遊動から「空白地帯」に出現する群れの土地利用を明らかにした。

夏季と秋季共に集落付近を多く利用していた。特に秋季には庭や畑に植えてあるカキノキを採食するために集落の利用頻度が多かった。また、集落周辺では移動速度が遅く、森林内では移動速度が速かった。これらの結果は、山ふる群が季節によっては集落周辺の食物に依存していることが示唆される。しかし、他の地域の猿害群と比べ移動速度は速く、集落周辺の利用割合は少なかった。これは「空白地帯」で群れサイズを維持するために必要な広葉樹林帯が十分に確保できるためであると考えられる。したがって「空白地帯」を利用する群れは集落に依存するが、森林内で十分な資源が確保できる場合には依存度は低くなることが予想される。

B-43ひも引き協力課題を用いたマーモセットの協力行動 

草山太一(帝京大・文・心理) 所内対応者:脇田真清

他者と協力作業を行うためには、相手の行動を正確にモニターし、それに合わせて自己の行動を調整する必要がある。ヒト以外の動物を対象とした協力行動は自然観察場面において報告されている一方で、実験的分析に基づいた研究は少ない。比較認知的視点より霊長類での検討が欠かせないことも理由に、コモンマーモセットを対象に協力行動の成立要件について実験的に検討した。今年度は実験計画の初年度であることや実験期間の制約を考慮し、2つの課題を用いて協力行動の生起について調べた。2個体が同時にひもを引くことで報酬の入った容器を手元まで引き寄せられる仕掛けになっている装置を利用した「ひも引き協力課題」では個体同士がタイミングよく装置前に座ることは全く観察されなかった。また複数の個体が群飼されているケージ内に、報酬の入った容器を設置し、この容器に単独では持ち上げられないぐらいの重い蓋をして、彼らの様子を観察した(ふた開け協力課題)。その結果、上位個体が容器を占有し、複数個体が協力するような行動は認められなかった。

B-44下北半島脇野沢の野生ニホンザル群の分裂が個体群動態に与える影響

松岡史朗、中山裕理(下北半島サル調査会) 所内対応者:古市剛史

 個体数増加傾向にあった下北半島南西部のA87群は2012年に83頭に増加し、2013年4月に43頭(87A群)と22頭(87B群)の2群に分裂した。分裂2年目の2014年度の出産率、赤ん坊の死亡率は各々、87A群58%、9%87B群64%、14%と分裂前の高い出産率、低い死亡率の状態に戻った。分裂時に、0~3歳が多数消失したが、今年度は、3頭(32頭中)であった。遊動は、詳細に追跡した87A群に関しては、前年度とほぼ同じ地域を利用していた。群れ個体数は減少したものの遊動面積は分裂前とほぼ同じで縮小は見られなかった。87B群は、観察日数が少なく、遊動面積は定かではないが、すべての観察が87A群の遊動域内で会ったことから、分裂した2群がかつての遊動域を分割利用しているとは考えにくい。北西部の分裂時も当初、数年は同様の傾向であったが、のちに遊動域がわかれたこともあり、今後継続した観察が必要と思われる。環境利用に関しては、相変わらず秋を除く季節において、法面をよく利用していた。

B-45ヒト膣炎のモデル動物作出のための霊長類の膣内細菌叢に関する研究

野口和浩(熊本大・院・生命科学) 所内対応者:平井啓久

ニホンザルの膣内常在細菌叢の構成を明らかにするために、今年度は7-20歳の12頭の雌について検討を加えた。その結果、分離菌数および分離頻度の最も高かった菌種は、通性嫌気性菌のstreptococci、嫌気性菌のBacteroidaceaeおよびgram-positive anaerobic coci(GPAC)であった。特にGPACはこれらの菌種の中で最も高い分離菌数を示した。ヒトの膣内での最優勢菌種であるlactobacilliは、分離菌数および分離頻度はそれぞれ104.1 (CFU/vagina) および40%と中等度の値であった。今回のこれらの成績はこれまでに検討した結果と大きな違いはなくほぼ同様の傾向を示していた。以上の成績より、ニホンザルの膣内細菌叢の構成は、streptococci、Bacteroidaceaeおよびlactobacilliを優勢菌種として保有しているヒトやチンパンジーとは若干異なることが明らかとなった。また、ニホンザルの膣内のpHを調べた結果、平均6.0とヒトで報告されている成績(強酸性;pH3-4)とは異なることも明らかになった。今後はニホンザルの非繁殖期における膣内細菌叢の構成、あるいはエストラジオール等の性ホルモンと膣内細菌叢との関係について検討を加えることにより、ニホンザルの膣内常在細菌叢の構成の全容とそれに影響を及ぼす要因について明らかにできればと考えている。

B-46マカク属霊長類における感染症抵抗性にかかわる細胞表現型解析

安波道郎(長崎大・熱研) 所内対応者:平井啓久

マカク属霊長類は、気候や感染因子など棲息環境の影響下にそれぞれのゲノムを進化させ、その結果現存集団のゲノムには種間・種内の地理的相違が見られると考えられる。実際、カニクイザルを自然宿主とするサルマラリア原虫は自然に曝露されることのないニホンザルに実験感染させると致死的な重症マラリアを惹き起こすことが分かっている。Toll様受容体TLR9は細菌由来の非メチル化CpGモチーフなど病原体パターンを広く認識するが、ヒトではマラリアの疾患感受性を規定すると考えられている。これまでに国内の繁殖業者に由来するアカゲザル1個体、ニホンザル5個体と医薬基盤研究所、霊長類医科学研究センターのカニクイザル6個体についてTLR9のコード領域3096bpの塩基配列を解読し、アカゲザルとニホンザルが極めて近縁であること明らかにしていた。このたび霊長研のアカゲザルとニホンザルの繁殖集団それぞれ1集団(周群18個体、高浜群17個体)について同様に解析した。いずれの群もGenBankにNM_001130431として登録されている配列に一致するアレルが最頻であった(周群50.0%、高浜群58.8%個体)。ニホンザルには3か所の同義置換のみ認めたが、アカゲザルでは4か所の非同義置換と8か所の同義置換があり、中でもAla58Thr置換を有するアレルが30.6%と比較的高頻に認められた。また、カニクイザルに高頻度(12/12=100%)であったHis389Arg、His659Argもアカゲザルの2個体に認められ、この変異がfasciculata亜属とmulatta亜属の分岐前の集団に存在した多型であることが判明した。末梢血単核細胞をTLR9リガンドで刺激することによりこれらのアミノ酸置換の受容体機能に及ぼす影響について検索を進めている。

B-47ニホンザルの中手骨と中足骨に関する機能形態学的研究

日暮泰男(大阪大・院・人間科学) 所内対応者:平崎鋭矢

骨形態は、一般に、個体が生存中にうける機械的荷重におうじて適応的に変化する。本研究では、この類の骨の適応への理解を深めるために、ニホンザルの中手骨および中足骨の頑丈性と地上歩行時にこれらの骨にかかる圧力の大きさとの関係を検討した。骨の頑丈性の指標として、骨幹中央部の断面2次極モーメント(J)を採用した。霊長類研究所に所蔵されているニホンザルの骨格標本をもちいて、今年度は、6個体の片側の第1~5中手骨および第1~5中足骨を医療用CTで撮像した。昨年度に得たデータとあわせると、20個体分の骨についてレーザースキャナーで骨表面の3次元情報を取得し、その中の10個体についてはCT撮像もおこなったこととなった。断面2次極モーメントは、骨幹中央部の断面をうつしたCT画像から幾何学的に計算するか、または、骨幹中央部の表面形状から推定した。中手骨および中足骨の頑丈性と地上歩行時の圧力の大きさとの間に正確な対応関係はみられなかった。どのような機械的荷重にたいして骨がどのように反応するかはかならずしも簡単にわかるわけではなく、ニホンザルの中手骨および中足骨の形態を正確に解釈するためには、野外で観察されるような高速度の地上移動時や樹上移動時に骨にかかる圧力の大きさとの関係も今後調べる必要がある。

B-48サル類における聴覚事象関連電位の記録

伊藤浩介(新潟大・脳研) 所内対応者:中村克樹

明らかな適応的意義の見当たらない音楽は、何故どのように進化したのだろうか。本研究は、従来の行動指標の代わりに事象関連電位(ERP)や誘発電位(EP)を用いて、音楽の系統発生を探る試みである。すなわち、和音やメロディーなどの様々な音楽刺激に対するERP/EPを種間比較することにより、これらの音楽刺激の脳処理の進化を明らかにすることを目的とする。複数年実験計画の2年目にあたる本年度は、マカクザルを対象に、無麻酔かつ無侵襲で頭皮上からERP/EPを記録するための方法論を確立した(Itoh et al., submitted)。動物はチェアを用いて必要最低限の保定をしたことと頭部を剃毛した以外はヒトと同様の方法で、最大19チャンネルの脳波記録を行った。純音刺激に対する聴覚EPの後期成分を記録し、mP1, mN1, mP2, mN2, mSPの各成分を世界で初めて同定・命名した。これらは、ヒトの聴覚EPの後期成分であるP1, N1, P2, N2, SPにそれぞれ対応する可能性があるが、潜時が全体的に短いことや、mP1とmN2が大きいことなど、ヒトとの相違点も認められた。今後様々な聴覚刺激に対する脳応答を調べるにあたり、その基礎となる基盤的な知見である。

B-49霊長類における神経栄養因子の精神機能発達に与える影響

那波宏之、難波寿明(新潟大・脳研究所 分子神経生物学分野) 所内対応者:中村克樹

神経発達障害を病因とする統合失調症などのヒト精神疾患をモデル化するには、よりヒトに遺伝子や行動パターンが類似する霊長類が最適と考えられる。共同研究者らは、新生仔ネズミの皮下に神経栄養性サイトカインである上皮成長因子(EGF)やニューレグリン1などを投与することで、統合失調症をモデル化することに成功している。本共同利用研究課題では、同様に霊長類でもサイトカインの新生児投与で発達依存性の認知行動変化が起こせるかどうか、マーモセットおよびアカゲザルを用いて検討した。

2014年度までに、マーモセット新生児4頭へのEGF投与を実施した。また、2011年には妊娠9~11週と妊娠12~14週のマーモセット母体にEGF投与を行った。現在、その産子の行動発達を継続観察している。2014年現在、EGF投与妊娠母体より生まれたマーモセットには特記すべき行動変化は観察されていない。2010年にEGF投与を皮下投与されたマーモセット新生児は、活動量の上昇に加え、アイ・コンタクトの頻度低下を示し、タッチパネルによる逆転学習課題においてその能力が著しく低下していることが判明した。その意味では、EGFは新生児投与のほうがその効果は大きいと推定される。また、マカク新生児4頭へEGF投与を実施した。うち1頭で異常行動が認められたが、情報伝達の問題から、安楽殺処置を施され、データを取得することができなかった。

これまでの結果から、マカクザルにおいてもマーモセットにおいても、新生児期にEGFを投与することにより認知機能の変化を伴う行動異常が誘発されることが示された。今後、他の個体での変化を観察し、脳内での変化を検討する。

B-50 マーモセットにおける養育個体のオキシトシン濃度

齋藤慈子(東京大・院・総合文化) 所内対応者:中村克樹

神経ペプチドであるオキシトシンは、げっ歯類の研究から、社会的認知・行動に関わっていることが知られているが、いまだ霊長類の社会行動とオキシトシンの関係についての研究は数が少ない。本研究は、家族で群を形成し協同繁殖をおこなう、コモンマーモセットを対象に、母親だけでなく父親の、母親出産前後のオキシトシン濃度と養育行動との関連を調べることを目的とした。前年度までに、マーモセット型のオキシトシンを合成し、市販のオキシトシ測定用EIAキットを用いて、マーモセット型のオキシトシンが測定可能であることを確認した。本年度は初産の2ペアを対象に、出産前後の採尿に加え、産後1週間に、以下3つの方法により行動のデータを取得した。1つ目は養育のモチベーションを測定する乳児回収テスト(3回実施)、2つ目は1日5時点のスキャンサンプリングによる背負い行動の観察、3つ目は1日1回20分間の背負い行動の観察であった。これまでのところ、それぞれの行動指標間の関係として、回収テスト潜時が長い個体、つまり養育のモチベーションが低い個体は、観察される背負い行動も少ないという傾向がみられているが、サンプル数が十分ではないため、引き続きサンプル数を増やしていく予定である。また、尿中オキシトシンの測定も実施する予定である。

B-51次世代シーケンサーを用いた歯石内細菌群解析

矢野航(朝日大・歯) 所内対応者:今井啓雄

歯石化石に残存する微生物断片から古代人類集団の生物学的情報を復元する新しい手法を探索した。次世代シーケンサーによる現代人(n=1)、縄文(n=1)、縄文人骨に付着する土壌サンプル(n=1)の口腔細菌群集分析を予察的に行った。本方法では、歯石および土壌サンプルからDNA抽出作業を行い、ここから細菌群全てのゲノム情報の復元を試みた。メタゲノム解析と呼ばれるある場所に含まれる細菌叢を生態系として復元する方法を用いた。各種に固有のプライマーを用いるのではなく、細菌群に共通するユニバーサルプライマーを用いることで、含まれる全種の復元およびその存在比を算出することができる。我々は歯石および土壌サンプルそれぞれからのDNA抽出に成功し、それぞれの口腔細菌叢データを取得した。その結果、縄文人骨に含まれていた口腔細菌群は土壌サンプルのものとは構成比が大きくことなり、現代人骨のものと類似していた。また縄文歯石および現代人歯石からはPrevotella属を始めとする口腔に固有の細菌が検出されたことから、古代人骨の歯石に保存されてた口腔細菌断片から口腔内細菌群が復元できることが分かった。

B-52ニホンザルのアメーバ感染に関する疫学研究

橘裕司(東海大・医)、小林正規(慶応大・医)、柳哲雄(長崎大・熱研) 所内対応者:岡本宗裕

近年、赤痢アメーバ(Entamoeba histolytica)と形態的には鑑別できない新種のアメーバ(E. nuttalli)がサル類から見つかっている。本研究の目的は、ニホンザルにおける腸管寄生アメーバの感染実態を明らかにすることである。今年度は、神奈川県厚木市に生息する野生ニホンザルの糞便8検体について解析した。糞便からDNAを抽出し、赤痢アメーバ、E. disparE. nuttalliE. chattoni、大腸アメーバ(E. coli)、E. moshkovskiiについて、PCR法による検出を試みた。その結果、E. chattoniが8検体全て(100%)から、大腸アメーバが4検体(50%)において陽性であった。また、E. nuttalliが1検体(12.5%)のみ陽性であった。赤痢アメーバ、E. disparE. moshkovskiiは検出されなかった。これまでの他地域における調査でも、E. chattoni感染は高率に認められ、赤痢アメーバは検出されていない。一方で、E. disparE. nuttalli、大腸アメーバの感染の有無については地域差があり、特にE. nuttalliは東日本のみに分布していることが、今回の調査においても確認された。

B-53 農作物被害を出すニホンザル群の土地利用に影響を与える要因の検討

浅井隆之、棚田晃成(鹿児島大・農) 所内対応者:半谷吾郎

ニホンザルによる農作物被害の対策を行う上で、群れの生態学的特徴を知り、集落住民の対策意識や加害動物に対する感情が対策効果にどのように関係しているかを理解することは重要である。本研究は、鹿児島県薩摩郡さつま町の農作物加害群1群を対象に、2013年3月から2014年5月までラジオテレメトリー調査により群れの土地利用特性を調べ、また、集落住民に対して農作物被害についての聞き取り調査を行った。対象群の遊動域内における各植生の利用割合および選択指数を調べた結果、畑は夏と冬に、竹林および水田は春に特に選択され、一方秋は、これら農地の利用割合は小さく、シイ・カシ二次林などの自然植生の利用割合および選択指数が高いことが分かった。また、聞き取り調査の結果、地区単位および農家単位のいずれにおいても、被害の程度によって対策意識やニホンザルに対する感情に差があることが分かった。以上のことから、ニホンザルの被害対策では、森林の食物資源量が少なく被害の出やすい季節や、タケノコなどサルにとって嗜好性の高い作物の収穫時期に集中的に行うことが効果的であり、また、住民の意識格差をなくして集落ぐるみで取り組むことが課題であると考えられた。

B-54サル免疫細胞を体内に持つマウス作製の試み

伊吹謙太郎、橋本隼、藤田悠平(京大・院・医) 所内対応者:明里宏文

サル胎盤由来造血幹細胞のサル化マウス作製への有用性を検討するため、アカゲザルおよびニホンザルの胎盤組織に含まれる細胞群についてフローサイトメトリーにより解析し、さらに造血幹細胞を含む細胞群をNOGマウスに移植することにより、サル化マウスの作製を試みた。本年度はアカゲザル2頭、ニホンザル1頭の計3頭の胎盤を分与いただいた。これらの胎盤から胎盤細胞をコラゲナーゼタイプⅠの処理により分離したところ、CD34が発現し、かつ細胞密度の小さな細胞群が3.6±0.6%存在していることがわかった。さらにこの細胞群はHLA-DRが発現し、一方でCD45、CD3、CD14の発現は認められなかった。造血幹細胞は細胞表面上にCD34を発現しており、分化が進み多能性幹細胞になるとHLA-DRも細胞表面上に発現することがわかっている。また、造血幹細胞等の未分化な細胞群は細胞密度が小さい(国際細胞療法学会による)とされることから、この細胞群に多能性幹細胞と考えられる比較的未分化な細胞が豊富に含まれていることがわかった。しかし、NOGマウスに移植したが、マウスにおける生着サル細胞は確認できなかった。サル胎盤に含まれる多能性幹細胞のマウスでの生着能、分化能についてはさらに今後の検討が必要と考えられた。

B-55ニホンザルにおけるサルT細胞白血病ウイルスの動態の解析・免疫治療

松岡雅雄、安永純一朗、菅田謙治、馬広勇、田邉順子(京都大・ウイルス研) 所内対応者:明里宏文

ヒトT細胞白血病ウイルス1型(HTLV-1)とサルT細胞白血病ウイルス1型(STLV-1)は共にデルタレトロウイルス属に含まれ、構造がよく似ている。STLV-1およびHTLV-1感染細胞の形質が類似しており、共にTリンパ球の悪性化を惹起することから、STLV-1感染ニホンザルはHTLV-1研究に極めて有用な動物モデルであると考えられる。H23年度から本モデルを用いて生体内での感染動態および新規治療法の開発を進めている。

今年度はSTLV-1およびHTLV-1が末梢の成熟T細胞を標的とする機序を報告した。未熟なTリンパ球ではその分化に必須である転写因子TCF-1とLEF-1を高発現しているが、これらはウイルスの複製に必要なウイルス蛋白Taxの機能を阻害する。そのためHTLV-1/STLV-1はTCF-1とLEF-1の発現が少ない成熟した末梢Tリンパ球に指向性を有すると考えられた。今まで未熟なT細胞組織である胸腺におけるウイルス感染の程度は不明であったが、感染ニホンザルを解析し、胸腺レベルではウイルス感染が著明に抑制されていることを確認した。これらの所見はHTLV-1が末梢血Tリンパ球を標的とし、最終的に発がんに導く分子基盤を示すものである。 

B-56Developing a model of cold-stressed primate thermoregulation from Japanese macaques (Macaca fuscata)

Cynthia Thompson (Grand Valley State University)、Chris Vinyard(Northeast Ohio Medical University)、Susan Williams(Ohio University) 所内対応者:半谷吾郎

This project had a successful first year.  In December 2014, animals were captured and implanted with temperature loggers.  During our data collection trip from December 10-23, 2014 we successfully obtained 331.25 hours of focal animal behavioral observation, 274 infrared images, 79 fecal samples (to measure hormones), and continuous weather station data.  Our preliminary data indicate that Japanese macaques utilize behavioral thermoregulation during the winter.  There is a significant trend for animals to use heat conserving postures (e.g. curled with limbs on body and ventrum covered) when ambient temperatures are lower (JT=4.26, P<0.001).  Similarly, animals use heat conserving postures when solar radiation in lower (JT=2.06, P<0.039).  However, wind speed and rain did not significantly impact posture.  During this winter sample, animals also positioned themselves in sunny over shady locations during times with higher solar radiation (F=53.6, P<0.001).  Likewise, sunbathing sessions with the ventrum exposed occurred during times of higher solar radiation (x ̅=345.3 W/m2) than sun exposure to the dorsum or lateral areas (x ̅=287.7 W/m2), although this difference did not reach statistical significance.  Analyses of thyroid hormone levels and infrared images have not yet been conducted. A comparative summer sample will be collected in July 2015, followed by retrieval of loggers to obtain body temperature measurements.

B-57霊長類のゲノム・トランスクリプトーム・エピゲノム研究

郷康広(自然科学研究機構新分野創成センター) 所内対応者:大石高生

 平成26年度は215個体のマカクザル(うち188個体は霊長研由来)、82個体のマーモセット(うち9個体は霊長研由来)の血液から調整したDNAを用いて、ヒトの精神・神経疾患関連遺伝子(約3,400遺伝子)と相同遺伝子の全エキソン領域の配列決定を行い、マカクザル集団およびマーモセット集団において、稀な機能喪失型変異(Loss-of-Functional mutation)をホモやヘテロで保有する個体や家系の同定を行った。その結果、マカクザルにおいては頻度が3%以下の稀な変異でかつ機能喪失型変異が62の遺伝子で同定された。その中には、注意欠陥・多動性障害(ADHD)への関与が言われているDRD4、統合失調症への関与が示唆されているDISC1などの遺伝子に機能喪失型変異を持つ個体を複数個体同定した。また、マーモセットにおいても気分障害関連遺伝子のAVPR1B(Vasopressin receptor)やハンチントン病関連遺伝子CASP1(Cysteine peptidase)など10遺伝子において10%以下の稀な変異でかつ機能喪失型変異を同定することに成功した。

B-58SIV/SHIV/HIV-1mtの非ヒト霊長類細胞における増殖能

三浦智行(京都大学・ウイルス研究所) 所内対応者:明里宏文

霊長類研究所のアカゲザルの血液を提供して頂き、当研究室のP3実験室内で比重遠心法により単核細胞を分離した。そこから適切な培養方法を用いることにより、リンパ球やマクロファージの培養系にもってゆき、新規に作製したSIV/SHIV/HIV-1mt等の組換えウイルスを感染させた。感染後、培養上清中のウイルスRNA量、逆転写酵素活性、感染力価や感染細胞中のウイルス抗原、アポトーシスマーカーあるいは細胞の生存率等を調べることにより、アカゲザルにおける新規作製ウイルスの感染性、増殖能、細胞障害活性などの性状を明らかにした。これらの基礎情報をもとに、さらにゲノム改変を加えたり、種々の新規作製ウイルスの中からウイルス研究所のサル感染実験施設でウイルス接種実験を行うウイルスを決定した。また、感染実験を行ったサルからのウイルスの再分離や、そのin vitroでの性状解析も提供して頂いた血液で行った。

B-59ニホンザルのハドル形成による体温保持効果に関する研究

上野将敬(大阪大学大学院) 所内対応者:半谷吾郎

本研究課題では、ニホンザルがハドルを形成した際の接触部位やハドル相手の体の大きさによって、ハドル形成による体温保持効果に違いが生じるのか。また、他者と身体を接触させる際に生じる緊張を緩和するために、毛づくろい等の親和的行動がどのように用いられているのかを検討した。2014年12月2日、霊長類研究所で飼育される若桜群の成体メス3頭に、体温を測定するためのロガー埋没手術を行った。その3頭を対象として、2015年1月5日から2月19日までの期間、24日間にわたり、計180時間程度の個体追跡観察を行った。2015年10月ごろに埋め込まれたロガーを取り出した後、収集した行動データとロガーに記録された温度データを対応させて、データの分析を行う。得られた研究成果は、日本霊長類学会大会などで発表し、国際学術雑誌に投稿する予定である。

B-60アカゲザルiPS細胞樹立およびT細胞への分化

金子新(京都大・iPS研)、塩田達雄、中山英美、田谷かほる(大阪大・微研)  所内対応者:明里宏文

本研究は、免疫学的にヒトに近縁な霊長類からiPS細胞を樹立し、T系譜細胞への再分化誘導方法を確立し、そしてそれらを移植する手法によって、免疫不全症候群などのために破綻した免疫機構を再構築することが可能であるかを検証することを目的としている。

 本年度は、アカゲザル末梢血から単核球を分離し、ヒトiPS細胞誘導因子であるOct3/4、Sox2、Klf4、c-Mycのいわゆる山中4因子を用いてiPS細胞樹立を試みた。山中4因子導入後に添加するサイトカインの種類や低分子化合物の有無等、種々の条件を検討したところ、アカゲザルではiPS細胞樹立、および樹立後の維持培養においてヒトと比べてより厳密な最適化を必要とすることが明らかになった。また、樹立したiPS細胞は、未分化マーカーにより未分化性を、奇形腫形成により多分化能を確認した。次に、種々のサイトカインカクテルを用いて造血前駆細胞への分化誘導を行い、フローサイトメトリーで表面マーカーの確認を行った。また、得られた造血前駆細胞を用いてコロニーアッセイを行い、血球分化能を確認した。今後はiPS細胞の複数株樹立や造血前駆細胞、T細胞系譜再分化の最適化に取り組む。

B-61直立姿勢に伴う筋配置の再編成―乳様突起部と股関節を中心として―

長岡朋人(聖マリアンナ医科大・医)、矢野航(朝日大・歯)、滝澤恵美(茨城県立医療大・理学療法)

所内対応者:西村剛

(1)チンパンジーの乳様突起部の解剖

チンパンジーの副神経は、僧帽筋の深層に潜り込み僧帽筋へ分布する枝、胸鎖乳突筋に分布する枝を認めた。また、m. cleidomastoidの下からm. omocervicalisの表層を通って後に向かい、後縁に沿って下行する枝を認めた。その枝はm. omocervicalisの背側に入ってm. omocervicalisに潜り込み、m. omocervicalisに分布した。次に、頚神経は、m. omocervicalisとm. cleidomastoidの間に頚神経点として始まった。そして、頚神経点からは、前上方には大耳介神経、前方には頚横神経、後下方には、m. omocervicalisの貫通枝、後下方へは他に鎖骨上神経の後部が分岐した。

(2)チンパンジーの股関節部の解剖

ヒトの下肢筋、特に股関節筋の筋配置の特徴を検討するために比較対象としてチンパンジーの大腿後面と内側に位置する筋を膨出し観察の準備を進めた。膨出の過程で以下を確認した。チンパンジーの股関節筋は、ヒトとのサイズ差を考慮しても腱成分が明らかに短かった。また、隣接する筋に筋線維が付着し連絡しあう程度が、ヒトに比べて少なく筋の分離が良い。ヒト同様に膝内側で鵞足3筋は同じであるが停止部の交叉性は認め難かった。

(3)サバンナモンキー耳介筋の解剖

直立姿勢への進化に伴う筋配置再編成として、耳介へ付着する筋(耳介筋)の比較解剖を開始した。既にラットとヒトの同筋走行の解剖は開始しており、本年度からサバンナモンキー1体の側頭部~背部(耳介から項靱帯)までの剥皮を行った。

B-62Genomic Evolution of Sulawesi Macaques

Bambang Suryobroto (Bogor Agricultural University) 所内対応者:今井啓雄

Sulawesi macaques are exceptional as the seven species evolved allopatrically in an island that is less than 5% of the whole coverage area of the genus Macaca. The island itself is part of the zoogeographical realm called Wallacea which is highly endemic. There are three issues regarding the evolution of Sulawesi macaques. The first is taxonomic status, the second phylogenetic relationship, and the third hybrid population problem. Recent development in DNA technology (next generation sequencing, NGS) leads to the ability to read the whole genome of an individual. This immense genomic data provide an opportunity to find the most taxonomically informative loci to base the phylogenetic hypotheses and also to observe the gene dynamics of hybrid population. Dr. Yohei Terai (Soken-dai) and I took fecal samples of M. maurus, M. nigra, M. hecki, and M. tonkeana from the island and in Japan we made library for the whole genomic sequencing. We used exome approach so the NGS libraries were hybridized to exon capture sequence. Quality of the exomic library is quite good, for instance, for one sample of M. nigra we got molecules from 278bp to 1300bp with average 561bp and their concentration was 31.5ng/ul. We performed NGS using Illumina Myseq machine to determine 300bp reads from both ends and we could get 75,339,456 sequences. We mapped the sequences to reference genome which is the genome of M. mulatta. The analysis is now on going.

 

B-63Variation of Gene Encoding Receptor of PTC bitter taste compound in Leaf-eating Monkeys

Laurentia Henrieta Permita Sari (Bogor Agricultural University) 所内対応者:今井啓雄

 T2R38  is one of T2R multigene families that encode receptor to recognize bitter from PTC compound. In primates, T2R38 had been identified in human, chimpanzee, Japanese macaques and exhibit intra-species polymorphism. Polymorphism in this gene lead to different behavioural response of individual. Taster individual show aversion to bitterness from PTC, in contrast to tolerant in non-taster individuals.

 Leaf-eating monkeys (Subfamily Colobines) are unique among primates because their diet mostly consisted of leaves that perceptually tasted bitter to human. Based on  behavioral experiment, Chiarelli (1963) found that five individuals of three species of Colobines have non-taster phenotype. Thus, we conducted preliminary behavioral experiments of PTC-tasting on leaf-eating monkeys kept in Ragunan Zoo. The result indicated that nine individuals of genus Trachypithecus, Presbytis and Nasalis were all non-tasters.

Genomic DNA of leaf-eating monkey was obtained from fecal samples. After DNA extraction, T2R38 gene region was specifically amplified using standard PCR reaction. The result showed that there are some polymorphisms in the T2R38 genes of  T.  auratus and T. cristatus. To know whether the T2R38 receptor of leaf-eating monkeys is functional or not, we are trying to conduct functional assay based on cell expression.

B-64霊長類の嗅覚・フェロモン受容体の多様性と進化

東原和成、松井淳(東大・院・農学生命科学)  所内対応者:今井啓雄

 感覚受容体には生物が環境へ適応しながら進化してきた歴史が刻まれている。なかでも嗅覚・フェロモン感覚の受容体は、摂食・危険忌避・繁殖行動と密接に関連し、生物群としての社会性にも深くかかわっている。

ヒトを含む霊長類と、それ以外の哺乳類8種のゲノムデータから、進化学的に特殊な嗅覚受容体遺伝子を同定した。これらは哺乳類にとって特別な役割があると考えられる。この遺伝子グループに属するマカクの嗅覚受容体について、様々な化学物質に対する応答をアフリカツメガエルの卵母細胞を用いたアッセイ系で測定した。これまでにRT-PCRによる発現解析で、これらの嗅覚受容体遺伝子が、マカクの様々な臓器に発現していることを確認しており、生体内機能の研究へ発展させていく。

B-65ヤクシマザルの糞中種子の二次散布者調査

松原幹(中京大・国際教養) 所内対応者:辻大和

 屋久島のニホンザルが糞散布した種子の生存率に、げっ歯類とヤクシカなどの哺乳類による種子捕食が与える影響を定量的に調べるのが本研究の目的である。屋久島西部地域でサル糞を採集、糞の湿重量を計測後、糞中の直径5mm以上の種子を除去し、種同定と糞中種子密度を計測後、耐水性絵具で着色した。種子を除去した糞に1種あたり10~20個の着色種子を埋め込み、糞を原形に近い形に成形した(以下、調整糞と呼ぶ)。半山地区に1m x1mの実験区を5ヶ所設定する。木に自動撮影カメラを固定して、調整糞にメッシュの大きさの異なる覆いを被せた場所を撮影した。

平成26年11~12月の調査では、げっ歯類とヤクシカ、シロハラが自動撮影カメラで確認された。覆いのない糞は、すべてシカに被食された。シカ除け覆い下の糞中種子(モクタチバナ、ハゼ、モッコク)は、メッシュサイズが大きいほど種子の消失率が高かった。一方、着色種子や、着色なしの種子は90%以上が設置場所に残されていたことから、植物にとってヤクザルによる被食は、種子散布の効率を落とす結果につながると推測された。

B-66類人猿における懸垂運動モデル作成のための基盤研究

大石元治(日獣大・獣医)、荻原直道(慶應大・理工)、菊池泰弘(佐賀大・医)、小藪大輔(東京大・博物館) 

所内対応者:江木直子

 腕を頭の上に挙げる運動は、前肢を外転させ、さらに肩甲骨が回転することにより前肢が挙上する動きからなる。ヒトにとっては日常的なものであるが、これらの動作はその他の動物にとっては一般的ではなく、霊長類においても類人猿などのごく一部の動物種に限られている。そのため、これらの動作に関係する形態学的特徴はヒトと類人猿をつなぐ特徴であり、これらの動作、あるいは関係した形態学的特徴が生じる背景となった懸垂運動は、二足歩行と同様にヒトの進化においで重要なロコモーションと考えられる。現在、我々のグループでは大型類人猿の懸垂運動における筋骨格モデルの作成を進めているが、必要となる筋や骨などの定量的データは十分ではない。そこで、本研究は懸垂運動を行う霊長類の筋骨格モデルの構築を念頭に, 筋や骨のパラメータを得ることを目指して実施している。本年はチンパンジー(1個体)から筋パラメータを入手する目的で同個体の四肢を解剖し, 付着部や走行を観察した。また、大型類人猿の前肢骨格について運動解析時の参照点となる解剖学的特徴について観察を行った。今後はこれらのデータをもとに数理モデルの作成を進めていきたい。

B-67豪雪地域のニホンザルによる洞窟利用のモニタリング

柏木健司(富山大・院・地球科学) 所内対応者:高井正成

申請者らは、富山県黒部峡谷において、厳冬期にニホンザルが防寒のために洞窟を利用する生態に焦点を当て、自動センサーカメラを用いたニホンザルの洞窟利用の実態解明を進めている。1. 積雪期(2013年12月-2014年4月)にサル穴(ニホンザルが2010年度冬季以来、継続利用している洞窟)の洞口と洞内にセンサーカメラを設置した(2013年度研究成果の未報告分)。

・1月7日と3月7日にニホンザルが洞内でサル団子を作り、暖をとっている様子を約1時間にわたり確認した。ただし、撮影された写真は不鮮明で、個体識別は極めて困難である(図1)。

・最寒冷期の1月中旬-3月初旬は、夜間は氷点下を記録し、カメラは全く作動しなかった。この時期、ニホンザルは確実に洞窟を利用していると推測され、今後、カメラについて何らかの対策が必要である。

2. 非積雪期(2014年5月-11月)、ニホンザルは洞内に入ることはなかった。一方、ツキノワグマが洞内に入る様子が2度にわたり記録された(図2)。洞窟は、これまで考えられている以上に、様々な哺乳類により利用されている可能性を示唆している。

3. 積雪期(2014年12-2015年4月)に現在、カメラを設置中である。センサーカメラの回収・確認は、当初予定より約1カ月遅れの5月中旬頃になる予定である。

B-68下肢骨格筋の形態と支配神経パターンの解析

荒川高光、堤真大(神戸大・院・保健)、渡邊優子、月生達矢、幅大二郎(神戸大・医・保健) 所内対応者:平崎鋭矢

 アカゲザルとチンパンジーの下肢、とくに下腿の骨格筋とその支配神経の解析を行った。大腿部後面から皮膚剥離し、脛骨神経と総腓骨神経、そしてその支配筋群を肉眼で剖出、記録した。その後に、今回は足底筋の支配神経のパターンに着目することとして、支配神経パターンの神経束解析を行った。神経外膜を除去した神経束レベルでは、アカゲザルの足底筋は腓側趾屈筋と共同幹を形成しており、そのすぐ近位から膝窩筋と後脛骨筋へ入る神経束が共同幹で分岐した。チンパンジーでも同様に腓側趾屈筋、膝窩筋、後脛骨筋と共同幹を形成していたが、2例中1例でヒラメ筋に前方から入る筋枝が見いだされ、足底筋枝はヒラメ筋に前方から入る枝と最も近い関係にあった。アカゲザル、チンパンジーともに足底筋枝は下腿の屈筋群と近縁のものしか発見できなかったため、両種ともに足底筋は退縮傾向にあるのかもしれない。また、ヒラメ筋枝との近縁性は、ヒトの直立二足歩行の採用にともなう系統発生において重要な示唆を与える所見と考えられた。

B-69人工多能性幹細胞を用いた霊長類の中枢神経系の進化の解明

馬場庸平、日下部央里絵(慶應義塾大・医) 所内対応者:今村公紀

 チンパンジーとヒトの神経発生を時間的空間的に比較するには大脳の特定の領域を個体発生に近い形で誘導することが必要と考え、すでに樹立されていたチンパンジーiPS細胞を用い、Wnt阻害剤により前脳領域を効率良く誘導する分化誘導法を検討した。しかしながらヒトのiPS細胞の場合と異なり、皮質ニューロンや三次元的な神経上皮構造の出現は確認できなかった。使用したチンパンジーiPS細胞がnaïve stateにあると考えられ、primed stateにあるヒトiPS細胞に最適化された誘導法がそのまま適用できないことが考えられた。そこで新たにprimed stateのiPS細胞を誘導するため霊長類研より分与していただいた末梢血から単核球を増殖、大量にストックすることに成功した。今後は、ストックした細胞を使用することにより、毎回採血する必要がなくiPS細胞の誘導を検討することが可能となった。またチンパンジーiPS細胞由来神経前駆細胞に容易に遺伝子を導入することができるPiggyBacトランスポゾンベクターを用い、ASPM、HAR1、SRGAP2C遺伝子を発現するベクターを構築した。このように今年度の進捗によりiPS細胞をモデルとして、霊長類中枢神経における分子進化研究を行う上での問題点が明らかとなる一方で、研究を次の段階へと進めるための技術開発ができたと考えている。

B-70ニホンザルフォーミウイルスとニホンザルとの共進化の可能性

宮沢孝幸、吉川禄助、下出紗弓、宮穂里江、坂口翔一(京都大・ウイルス研)  所内対応者:岡本宗裕

 ヒト以外の霊長類は独自のフォーミーウイルス(FV)を保有しており、種間レベルで宿主とFVは共進化してきたことがわかってきた。ニホンザルは我が国で独自に進化してきたマカク属のサルであり、北は下北半島から南は屋久島まで広範な地域に生息しており、地域ごとに特色のある集団を形成している。本研究では種間レベルではなく、集団レベルでFVと共進化しうるか調査した。屋久島に棲息する8頭の血液から末梢血単核球を分離し、FVの分離を試みたところ、5頭からFVが分離できた。このウイルスをSFVjm Yaku-1, 2, 4, 5, 6株と命名した。SFVjm Yaku-4株を抗原に用いてWestern blottingを行ったところ、血液採取した8頭のヤクザルのうち、7頭がSFVjm抗体陽性であった。部分的gag遺伝子配列を決定し、これまで明らかにしたSFVjm分離株との配列を比較、系統樹解析したところ、ヤクザル由来SFVjmは国内分離株と異なるクラスターを形成した。さらに、他種のSFVと比較したところ、ヤクザル由来SFVjmは国内ニホンザル分離株よりも台湾ザル由来SFVに近縁であった。一方ミトコンドリアの遺伝子配列を比較すると、ヤクザルは西南日本に棲息する日本ザルのクラスターに含まれた。今回の結果から、何らかの経路でヤクザルにSFVが台湾から侵入した可能性が示唆された。

B-71血液酸素動態分析による歩行中の姿勢制御戦略の検討

森大志(県立広島大学) 所内対応者:平崎鋭矢

本研究では、歩行を含む運動課題を実施する際の筋の血液酸素動態をCW(持続波)型NIRS(近赤外線分光法)で記録し、本法から筋活動記録(筋電図)では困難である筋局所代謝に関する新しい知見が得られるかを検証した。本年度は立位姿勢変換および歩行時のNIRS信号と筋活動を足関節の底屈および膝関節の屈曲に関与する腓腹筋から同時記録した。NIRSプローブは筋電図電極の近位隣と遠位隣に装着した。その結果、姿勢変換課題(前傾)では姿勢状態に対応した酸化ヘモグロビンレベル(oxy-Hb)と脱酸化ヘモグロビンレベル(deoxy-Hb)の変化が観察され、それらの多くは筋活動と対応していた(図1)。このことはNIRS信号が筋局所代謝を知る手掛かりになりえることを示唆する。しかし、歩行時での計測では局所血流量の大きな変化が原因と考えられるoxy-Hbとdeoxy-Hb両者同時の上昇・下降が観察された。このように歩行時には、重力加速度、筋収縮による血管の圧迫、下肢の振子運動から生じる加速度等の筋代謝以外の要因が血流量やNIRS信号に影響を及ぼすことも考えられ,本法による計測にはさらに解決すべき課題があるように考えられた。

B-72ニホンザルにおける歯の組織構造と成長

加藤彰子(愛知学院大・歯・口腔解剖)、Tanya Smith (Harvard Univ. Human Evolutionary Biology・Dental Hard Tissue Lab) 所内対応者:平崎鋭矢

 本研究課題は、生息環境の異なるマカク種の歯の成長について明らかにする目的で、ニホンザルを含むマカク6種類の大臼歯歯冠エナメル質の厚みについてX線CT画像解析により調査をおこなって来た。2013年までにデータ収集と解析を終え、本年度はこれらの成果を、American Journal of Physical Anthropology(AJPA)にて発表した。

 また、大臼歯の咬頭頂付近における薄切研磨標本を作製し、歯冠エナメル質(あるいは成長途中の歯根象牙質)に認められる成長線の解析を進めている。今後は、組織学的な解析により、歯の形成速度を明らかにし、食性や生息環境との関係を調査していく予定である。

B-74ニホンザルにおける個体関係による接近方法のちがい

島悠希(京都大・院・理) 所内対応者:半谷吾郎

 第三者として他個体間の親和的関係を認識し行動することについて、ニホンザルではよく知られていない。このような認知能力は、社会的知性の進化の解明において重要である。本研究の目的は、ニホンザルの群れの個体が同時に集まる休息時、個体は第三者として他個体間の親和的関係を認識し毛づくろい相手を選択していることを明らかにすることである。休息場所にやって来た個体の、毛づくろい中の個体に対する「接近」を調べた。接近とは、接近相手との距離5m以内で3秒間停止することとし、接近した個体はオトナメスを対象とし、接近相手は最近接個体とした。接近を、接触する位置まで接近する「接触接近」と接触しない「非接触接近」に分けた。接触接近ではすぐに接近相手と毛づくろいが始まった。親和的関係は毛づくろい頻度で示した。接近した個体と接近相手の親和的関係が、接近相手とその毛づくろい相手の親和的関係より強いときに、弱いときより接触接近する傾向にあった。これは接近した個体と接近相手の親和的関係によってのみ説明されなかった。よって、対象としたニホンザルが、第三者として他個体間の親和的関係を認識し行動を変化させている可能性が示唆された。

B-75遺伝子解析による三重県内のニホンザルの個体群調査

六波羅聡、鈴木義久(NPO法人サルどこネット) 所内対応者:川本芳

三重県内のニホンザルについて、保護管理を検討するため、現存する群れの遺伝的構造を把握すること、和歌山県からのタイワンザル遺伝子の拡散状況のモニタリングを目的とし、本年度は、メスと若いオス(群れ出自個体)39個体についてミトコンドリアDNA (mtDNA)のD-loop第1可変域の塩基配列の分析、オス31個体についてY-STR検査を行った。

メスのD-loop第1可変域については、今年度新たに4つのハプロタイプが検出され、亀山市周辺を境にした大きく南北2系統の分類に加え、滋賀県で確認されている1系統が検出された。

オスのY染色体は、同じタイプが各地で認められ、多様なタイプが広域に分布していたことから、メスで確認されたmtDNAタイプ2系統の分布地域間でオス移住による遺伝子交流があることが示唆された。タイワンザル由来とみられるタイプは確認されなかった。

血液と比較して採取の簡易な体毛を用いてオスのY-STR検査を行った結果、8個体中3個体で成功した。体毛も有効なサンプルであることが確認された。

来年度は、遺伝子の広域的・継続的な検査を可能にするための方法を検討しながらサンプル数を増やしていくこと、遺伝子変異の分布と個体群構造の関係などの詳細な分析をマイクロサテライトDNA変異についても行うことで、三重県内の群れの状況をさらに細かく明らかにしていく予定である。また、国の法律改正に伴う特定鳥獣保護管理計画の改訂に際し、遺伝的な観点を保護管理計画に反映できるよう、管理単位となる個体群についても検討する予定である。

B-76ニホンザル足筋および手筋の筋線維タイプ構成の研究

小島龍平(埼玉医科大・保健医療学・理学療法) 所内対応者:平崎鋭矢

ニホンザルの足指の運動に関与する下腿筋および足筋の筋重量および筋線維タイプ構成を検索し,足指の運動に関与する筋の機能形態学的解析を試みた。10%ホルマリンにより固定・保存された標本より足指の運動に関与する下腿筋および全ての足筋を採取し湿重量を測定した後,筋腹全横断面をカバーする切片を作成した。免疫組織化学染色を施し筋線維タイプを判別し,遅筋線維の数比(%ST)を算出した。次のような結果を得た。1)長指伸筋の筋腹は各指ごとに独立していたが,内側および外側指屈筋は各指にいく筋腹は独立しておらず一塊であった。各指の独立性は背屈では高いが底屈ではあまり高くないと考えられる。2)下腿筋と足筋を含めた足指に作用する筋の重量は:伸筋群<屈筋群→足指の屈曲により多くの筋力,筋パワーが動員される。3)屈筋群の重量では:下腿筋群>足筋群→足指を屈曲する筋力,筋パワーの多くは下腿筋群によりまかなわれる。4)屈筋群について各指節へ停止する筋の重量をみると:末節骨>基節骨>中節骨→MP-j,PIP-j,DIP-jを含めた足指全体の屈曲に多くの筋力,筋パワーが動員される。PIP-jの選択的屈曲に動員される筋力,筋パワーは比較的少ない。基節骨へ停止するMm. contrahentesおよび骨間筋はMP-jの屈曲とともに内外転に作用する。5)母指からV指までの各指に停止する屈筋群の重量をみると:母指>III指=IV指>V指>II指.6)足筋群の多くの筋の%STは30%以下であり,速筋線維優位の筋線維タイプ構成を示した。7)特に足底方形筋(3.8%),IV指に停止する短指伸筋 (6.2%)、小指外転筋(6.9%)は著しく速筋線維優位の筋線維タイプ構成を示した。8)下腿から起こる足指の運動に関与する筋群の%STは,伸筋群では11.7%から30.0%,屈筋群では15.6%から24.1%で,いずれも比較的速筋線維優位の筋線維タイプ構成を示した。9)筋重量および筋線維タイプ構成の結果をあわせて考えると,足指の運動の筋力,筋パワーの多くは下腿筋群が分担し,足指全体の運動に関与する。足筋は,より選択的な関節肢位の調節に関与する。足指の運動に関与する筋群は下腿筋群も足筋群も比較的速筋線維優位の筋線維タイプ構成を示した。10)これらの中で虫様筋は比較的遅筋線維の割合が高く,特に第1虫様筋の%STは46.2%と足筋の中では最も高い値を示した.筋重量は0.03gと著しく小さく,また定量的な解析をしていないが筋紡錘が多く観察され,特異な形態を示した。手筋についても同様の解析をすすめ,手と足の比較を行っていきたい。

B-77マカク歯髄幹細胞の細胞特性の解析とin vivoへの応用・開発

筒井健夫(日本歯科大・生命歯・薬理学) 所内対応者:鈴木樹理

平成26年度は、麻酔下の混合歯列期ニホンザル3例の、上顎左側乳中切歯より歯髄を採取し歯髄細胞の細胞特性解析と三次元培養を行った。三次元培養を行った三次元構築体は、ニホンザル2例の下顎左側乳犬歯と下顎左側第一乳臼歯それぞれの歯髄腔へ移植した。歯髄の採取を行った3例中2例において、初代培養後に継代培養を行った。2の歯髄細胞における位相差顕微鏡による形態学的観察では、紡錘形の線維芽細胞様形態と丸みを帯びた細胞形態が観察された。細胞増殖における細胞倍加時間は、それぞれ23.64時間と27.98時間であった。2例の歯髄細胞を石灰化誘導培地にて培養した結果では、アリザリンレッド染色において陽性像が観察され、幹細胞特性の一つである分化能において石灰化が確認された。三次元培養は温度応答性培養皿を用いて三次元構築を行った。三次元構築体は、歯髄を採取した個体の歯髄腔へ移植を行った。移植の際は、乳犬歯では歯髄を1/2、また乳臼歯では歯髄腔部位の歯髄を除去し、移植後は光重合レジンにて仮封を行った。現在は経過観察を行っている。また、以前より培養を行っている下顎右側第二乳臼歯の歯髄幹細胞は、継続培養日数が1145日をこえ継代数は285である。不死化したと考えられるこの細胞株の細胞特性についても解析を行っている。

B-78遺伝子分析を利用した飼育下のワオキツネザルの父系判定に関する研究

佐藤百恵、中尾汐莉、高木幸恵、加藤真理子、大橋岳、新宅勇太((公財)日本モンキーセンター) 所内対応者:川本芳

昨年度は、(公財)日本モンキーセンター(以下JMC)でDNAの調製までを実施していたが、本年度は、JMCでPCR処理まで行なう環境を整え、60個体について分析を行った。分析には、前年度に父系判定で利用した6つのマイクロサテライトDNAマーカーを使い、樫の枝を使ったサンプリング方法で得た試料を用いた。

 この結果、Lc5・Lc6・Lc8の3つのマーカーでは比較的安定したデータが得られた。一方、69HDZ091・69HDZ208・69HDZ035の3マーカーでは、シグナルが弱く解析が困難な個体が認められた。そこで、これら3マーカーについては、ラベルしないプライマーを3つ混ぜこんで1度目のPCRを行い、その産物から個々のマーカーをラベルしたプライマーを用いタイピングする2段階PCRの方法を採用した。この改良により、安定した結果が得られるようになった。

 これまでの結果では、母子関係が確認できた20個体について父系が特定できている。また、発情時の観察で記録されていた交尾個体とは異なる個体が父親になっている事例が判明した。今後は、母子関係を確認したのち、さらに残っている個体について父系を特定する予定である。また、変異性の高いマーカーを追加し判定精度を向上させ、プロトコールの改良を検討したい。

B-79ヒト動脈硬化症のアカゲザルモデル作出のための基礎研究

日比野久美子、竹中晃子(名古屋文理大) 所内対応者:鈴木樹里

昨年に引き続き、LDLR(低密度リポタンパク質レセプター)遺伝子のLDL結合領域にCys61Tyr変異を有する家族性高コレステロール血症インド由来アカゲザルに、0.1%コレステロール(CH)食を投与し、ヒト動脈硬化症モデルとなる可能性を検討した。14年前に変異個体を見出し、昨年F2世代で初めてホモ接合型個体が生まれた。この家系についてホモ接合型1歳仔♀1頭およびヘテロ接合型成体♀2頭、1歳仔♀1頭を対象とした。いずれも投与前においてヒト高LDL血漿基準値の140mg/dlを超えた平均158であったが、投与59日目には平均236となった。ホモ個体は250と最も高かった。ホモ個体では動脈硬化指数LDL/HDLは49日目に3.25にまでなったが、3.5を超えなかった。49日目以降餌の形状が変化したので食べる量が減少したと思われ残念な結果となった。昨年のヘテロ型♂3頭を加えて平均すると49日目にLDL値は正常個体よりもヘテロ型では80mg/dl、ホモ型では120mg/dlも高くなった。動脈硬化指数LDL/HDLはヘテロ型♂1頭が5.7にまで達したが、HDL値が低かったためである。サルに影響が少ないよう0.1%CH食を投与したが、ウサギ、マウスなどの文献では0.3%、1%投与をしており、投与CH量を上げるとレセプターにより細胞内に取りこまれないLDLが血中に残り、HDLが高い個体でも動脈硬化指数LDL/HDLが高くなる可能性が示唆された。

B-80 MC1R遺伝子に着目したボノボの集団遺伝学的研究

本川智紀(ポーラ化成工業) 所内対応者:川本芳

MC1R(melanocortin-1 receptor)は色素細胞表面に存在する色素産生に関与するレセプターである。ヒトにおいてMC1R遺伝子は、多様性が高く人種特異的多型が存在するため、MC1R多型情報は、ヒトの分岐過程を考察する際に有益な情報のひとつとなっている。私はヒト以外の霊長類においても、当遺伝子のデータは分岐過程を考察する上で有益な情報となると考えている。本研究ではボノボの遺伝子を解析し、すでに保有するヒト、チンパンジーなどの遺伝子データと併せ、当遺伝子の進化過程を比較解析することを最終目的としている。

本年度は、ワンバとイヨンジ合計20例の糞抽出DNAから解読したMC1R遺伝子配列(1521bp)からコンセンサス配列、および17所のSNPを同定した。さらにこれらのSNPについて、リアルタイムPCRを用いたSNP検出システムの構築をめざし検討を進めた。検討対象はコーディング領域で頻度の高い3つのSNPとプロモーター領域で最も頻度の高い1つのSNPである。プライマーはCustom TaqMan® Assay Design Tool(Applied Biosystems)で設計し、SNPタイピングはStepOne®Real-Time PCR Systems (Applied Biosystems)で検討した。現時点では再現性のあるタイピングデータが取れていないが、今後はプライマーや反応条件の検討を続け最適化を行っていく予定である。

B-81霊長類における絶滅危惧種の保全技術の確立

佐々木えりか、井上貴史、平川玲子、島田亜樹子、高橋司、岡原純子、岡原則夫、田中真佐恵((公財)実験動物中央研究所・マーモセット研究部) 所内対応者:中村克樹

米国では絶滅危惧種のゴールデンライオンタマリン(Leontopithecus rosalia)の保全を目的に、米国内の動物園の動物を交換し、近交化を防ぎつつ個体数を増加させて野生に戻す取り組みが一定の成果を挙げている。しかしながら動物個体の移送、飼育環境の変化は、動物に大きなストレスを与える原因となる。公益財団法人実験動物中央研究所では、実験動物としてコロニーが維持されているコモンマーモセット(Callithrix jacchus)を用いて、非侵襲的受精卵採取、非侵襲的胚移植法、受精卵の超低温保存法を確立した。本研究では、京都大学霊長類研究所において飼育されているワタボウシタマリンに本技術を応用することで、他の絶滅危惧種の霊長類の遺伝資源保全が可能かを検討する。

ステロイドホルモンの一種であるプロゲステロンは、血中濃度を測定することで、性周期の把握が可能である。そこでワタボウシタマリンでも血中プロゲステロン濃度測定による性周期の把握が可能かを検討した。合計5頭のメスのワタボウシタマリンの静脈血より分離した血漿を用いて、EIA法によって血中プロゲステロン濃度測定した。その結果、5頭中4頭はコモンマーモセット、ヒト等と同様の性周期カーブを示し、正常に性周期を持つ事が強く示唆された。今後は、オス、メスを自然交配した後、採卵による性周期の正常性を確認し、遺伝資源保存への応用を進める予定である。

B-83比較解剖学に基づく体幹-上肢移行領域の形態学的特徴

緑川沙織(埼玉医大・院医) 所内対応者:平崎鋭矢

腕神経叢における内側上腕皮神経(Cbm)はヒトを含む一部の類人猿にのみ存在するとされている(相山, 1968). 代表研究者は, この特徴に着目し調査を行ってきた。マカク属など四足歩行を移動様式とする霊長類ではCbmが存在しないため, このようなCbmの特徴には霊長類間の運動様式の変化に伴う胸郭と肩甲骨の位置関係の変化が関与すると考えている(緑川, 2012)。

そこで, ヒトと同じく狭鼻下目に属し腕渡りを行うチンパンジー, 広鼻下目に属し腕渡りと類似した移動様式をとるクモザルを借用し肉眼解剖学的に調査を行った。

その結果, チンパンジー, クモザルとも, Th1前枝の背側またはC8,Th1で構成される内側神経束の背側より分岐し上腕後面に分布する皮枝が観察された。この皮枝は, ヒトCbmと同様の特徴を持つことから, チンパンジー, クモザルにおいてもCbmが存在するといえる。クモザルは広鼻下目に属するため, 系統差がCbmの出現に関与する要因ではないことがわかる。

そこで, Cbmが存在するものに共通の特徴を考えると, Cbmが存在するものは腕渡り移動を行い, Cbmが存在しないものは四足移動を行うという特徴があげられる。このことから, Cbmは腕渡りを行う霊長類に存在することが示唆される。

以上の成果は, 第31回日本霊長類学会大会にて報告予定である。

B-84ニホンザルにおける上殿動脈と分岐神経の位置関係

姉帯飛高 ((医)和会・日高の里) 所内対応者:平崎鋭矢

代表研究者はヒトとニホンザルを用い, 上殿動脈(SGA)が仙骨神経叢を貫く位置の多様性を調査してきた。ヒトではSGA貫通位置と分岐神経(FN; 大腿神経, 閉鎖神経, 腰仙骨神経幹への枝に分岐)の位置関係を基に整理を行い, SGAはFNを基準に3つの経路を通ること, また基準となるFN起始分節が変異に富むことにより, SGA貫通位置が多様化することが明らかとなった(姉帯他, 2013)。そこで今回ニホンザル7体14側を対象に, SGAとFNの位置関係を詳細に観察した。

ニホンザルSGAは, TypeA) FN起始分節から2分節尾側の神経根を貫く例; 8側, TypeB) 2分節尾側の神経根下縁を通る例; 2側, TypeC) 3分節尾側の神経根を貫く例; 4側の3通りが観察された。またFN起始分節は変異に富み, FNの頭尾側へのズレに伴うSGA貫通位置の頭尾側へのズレも観察された。

ニホンザルSGAはFNを基準に3つの経路を通り, FN起始分節の変異に伴い多様化していた。よってSGA貫通位置の多様性について, FNとの位置関係を基にヒトと同様に理解・整理できる可能性がある。

B-87マダガスカル産稀少原猿類の遺伝子判定による血統管理法の確立

宗近功 (一般財団法人進化生物学研究所) 所内対応者:田中洋之

国内で飼育されているキツネザル2種(Eulemur macaco macaco, Varecia variegata ) を対象に、マイクロサテライト遺伝子座位の分析結果に基づく正確な血統管理法の確立を目的として本研究を進めている。

本年は、市川市立市川動植物園の賛同を得て、クロキツネザル3頭(♂1/♀2)及びエリマキキツネザル7頭 (♂5/♀2)の遺伝子型判定を進めた。また、2011-2014年の間に産まれたクロキツネザル(進化生物学研究所の♂3、長崎バイオパークの♂3頭及び♀5頭)についてもマイクロサテライトの分析を行った。

今年度の成果としては、エリマキキツネザルにおいて、新たに購入した5遺伝子座のプライマーとともに、一度に4遺伝子座を増幅するマルチプレックスPCR法の条件設定を行い、その結果、3回のPCRで12遺伝子座を分析する系を確立出来たことである。一方、クロキツネザルについては、既に確立したマルチプレックス法で10遺伝子座の分析を進めた。今後、この手法で2種のキツネザルの遺伝子型判定を継続し、新たに生まれた個体の親子判定を進めながら、国内の動物園飼育機関の全個体の遺伝子型を決定したい。

 

(3) 一般グループ研究

C-1ニホンザルの月経周期における卵巣動態の解明と人工授精技術の開発

栁川洋二郎、永野昌志(北大・院・獣医)、杉本幸介、杉山ちさと、大谷彬(北大・獣医)、髙江洲昇(札幌円山動物園)

所内対応者:岡本宗裕

ニホンザルにおいて凍結精子を用いた人工授精(AI)による妊娠例は無く、産子獲得には精子採取・凍結法の改善とともに、メスの卵胞動態把握と精液注入技術の開発が必要である。

のべ18頭のオスにのうち12頭において、電気射精後にカテーテルを尿道内に挿入することにより液状精液を採取できた。Tes-Tris Egg-yolk液を基礎とした凍結保存液を使用する場合、凍結融解後の精子運動性指数(SMI)はグリセリンを含む2次希釈液を冷却後に添加した場合1.9±2.1(0-4.4)であったのに対し、冷却前に添加した場合は3.2±4.7(0-13.8)であったため、2次希釈は冷却前に実施する方が良いと推察される。しかし、いずれの方法においてもSMIの減少は2次希釈液添加時に顕著であったため、グリセリンに代わる凍害防止剤の検討が必要であると考えられた。

一方、メス3頭(経産1頭、未経産2頭)を用いて、AI時の造影剤の子宮内注入試験を行った。経口ゾンデの先端を子宮頚管内に挿入し、外子宮口をプランジャーで塞ぐ方法により、経産個体でのみ造影剤が子宮内に注入できた。さらに同経産個体において月経から10日目に子宮内注入によるAIを行ったが妊娠には至らなかった。

C-2北限のサルにおける保全医学的研究

近江俊徳, 土田修一, 石井奈穂美, 羽山伸一, 名切幸枝(日獣大・獣医),中西せつ子(NPO法人どうぶつたちの病院)

所内対応者:川本芳

青森県下北半島のニホンザル(北限のサル)は、国の天然記念物に指定され、1991年の環境省版レッドリストでは「保護に留意すべき地域個体群」として記載された貴重な生物である。その一方で、個体数の回復とともに農作物被害や人家侵入被害などが多発しており、現在個体数調整(青森県第3次特定鳥獣保護管理計画)のため捕殺が行われている。本研究では北限のサルの個体群管理に役立つ保全医学的研究遂行のため、標本収集を通年で実施した。その結果、平成26年度は243個体を収集し、当該研究遂行の貴重な試料基盤を構築した。また、遺伝的多様性を把握するため、4座位全てを決定した下北ニホンザル(n=42)Y-STR型から構成されるハプロタイプを解析し、福島ニホンザル(n=164)と比較した。その結果、遺伝的多様度(ハプロタイプ数)は下北集団が0.739(8)、福島集団が0.798(9)と大きな差は認められず、福島集団と同程度の多様性が維持されていた。その一方でハプロタイプの種類は大きく異なり、遺伝子構成に違いが認められた(図)。また、下北集団内では北部と南部の地域でハプロタイプ頻度に違いが認められた。今後解析数を増やすとともに解析地域区分を検討し詳細に分析する必要がある。

C-3福島市に生息する野生ニホンザルの放射能被曝影響調査

羽山伸一、石井奈穂美、名切幸枝、加藤卓也(日獣大・野生動物)、中西せつ子(NPO法人どうぶつたちの病院)、近江俊徳(日獣大・獣医保健看護)  所内対応者:川本芳

 [目的]2011年3月に発生した東日本大震災による福島第1原子力発電所の爆発により、福島県に生息するニホンザル(以下,サル)が放射性物質に被ばくした。そこで, 福島市のサルを対象として、被ばくによる健康影響を明らかにすることを目的として、福島県ニホンザル特定鳥獣保護管理計画による個体数調整で捕殺された個体を解剖検査し、妊娠率、筋肉中セシウム測定、臓器及び遺伝子等の標本保存を行った。また、2012年度から本共同利用研究の一環として実施してきた血液検査の結果(Ochiai et al, 2014)で血球数の減少が観測されたため、今年度も血液検査を継続した。

[材料・方法]2014年度は124頭を回収し、解剖した。妊娠率は、Hayama et al(2012)の方法にしたがって推定した。筋肉中放射性セシウム濃度の測定は、解剖時に筋肉を1kg程度採取し、公定法に従って蓄積量を測定した。

[結果と考察] 保存している臓器や血液等は現在、分析中である。筋肉中放射性セシウム濃度は、

2013年の春以降から500Bq/kg 前後を推移し、漸減傾向にあるが、越冬期に濃度が上昇する現象以外に個体により高い値を示すものが観測された。これらの個体の捕獲時期と京都大学等が大気降下物中に高濃度の放射性セシウムを観測した時期がほぼ一致したことから(図)、現在でも原発からの放射性物質の放出が続いていると推察された。また、妊娠率は2013-14年妊娠期と2014-15年妊娠期を合算し、37.5%(6/16)と推定された。妊娠率の観測は2008-09年妊娠期から継続しており、これまでは50%前後で推移してきたが、これに比べてやや低い結果となった。

C-4霊長類生殖細胞における小分子RNAの解析

塩見春彦(慶応義塾大・医)、塩見美喜子、關菜央美(東京大・院・理)、平野孝昌、齋藤都暁、岩崎由香(慶応義塾大・医) 所内対応者:今井啓雄

我々の研究室では、マーモセットPIWIタンパク質の一つであるPIWIL1 (MARWI) が精巣において精母細胞及び精細胞で発現することを見出した。さらに、MARWI結合piRNAの解析を進め、遺伝子間領域及びトランスポゾン、さらにはtRNAより多くのpiRNAが生じることを見出した。また、これらのpiRNAの大半が(80%以上)がゲノムの特定の領域(piRNAクラスターと呼ばれる)に由来することを見出した。さらに、piRNAクラスターには偽遺伝子の挿入が見られ、それら偽遺伝子に由来するpiRNAが発現していることを確認した。これらの偽遺伝子由来piRNAは機能的な親遺伝子配列と相補的であり(つまり、アンチセンスpiRNA)、したがって、この発見はMARWI結合piRNAが精巣において幾つかのタンパク質をコードする遺伝子の発現制御に関与していることを示唆する(Hirano et al, RNA,2014)。一方、マウスには存在しないPIWIであるPIWIL3に対する抗体を用い、ヒト及びマーモセットを用いて発現解析を行った。その結果、PIWIL3は精巣では発現がみられない一方で、卵巣における卵胞形成後の卵細胞において発現することを明らかにした。

C-5マカクにおける繁殖季節性と運動のおよぼす骨格加齢への影響

松尾光一(慶應大・医)、山海直(医薬基盤研究所・霊長類医科学研究センター)、Suchinda Malaivijitnond (チュラコーン大)、森川誠 (慶應大・医)、Sarocha Suthon(チュラコーン大)  所内対応者:濱田穣

季節繁殖性をもつ霊長類(ニホンザル)において、骨密度が季節に応じて変化するかどうかの解析を行った。まず、哺乳動物個体において最小の骨であり、鼓膜から蝸牛へ音を伝える役割を担う耳小骨(ツチ骨、キヌタ骨、アブミ骨)と、対照的に最大の骨であり、体重を支え運動を担う長管骨である大腿骨の2種のさらし骨を解析対象とした。これらの骨をメス69個体、オス52個体のさらし骨標本から選別した。この時、アブミ骨は採取可能な個体が非常に少数であったため、後の解析では除外した。選別した骨を、マイクロCTを用いて、ツチ骨とキヌタ骨はそれぞれの全体を10 µm/pixelの解像度で、大腿骨は遠位端を120 µm/pixelの解像度で撮影し、骨量や骨密度を定量した。性別や死亡時の年齢、日付を基に解析を行ったところ、オスでは季節によって骨密度に変化が見られた。次に、オスの生体ニホンザル14頭を用いて、橈骨遠位端の骨密度を年2回、繁殖期と非繁殖期にpQCTを用いて定量し、このうち、8頭の血中テストステロン濃度を測定した。その結果、骨密度の変化量が季節によって増減する時期が見出され、血中テストステロン濃度も骨密度変化と類似したパターンを示した。これらの成果は第33回日本骨代謝学会学術集会(2015年7月)で発表予定である。

C-6サルエイズモデルにおける中和抗体の誘導過程の解明

桑田岳夫(熊本大・エイズ学研究センター)、俣野哲朗(国立感染研・エイズ研究センター)、三浦智行(京都大・ウィルス研究センター)  所内対応者:明里宏文

近年、サブタイプを超えた多くのHIV-1株に有効な中和抗体として、BNAb(broadly-reactive neutralizing antibody)がHIV-1感染患者から分離されてきた。BNAbを誘導するワクチンを開発できればHIV-1感染の阻止に非常に有効であるが、その誘導メカニズムはよく分かっていない。申請者らは、HIV-1感染のモデルであるSIV感染サルからBNAbであるB404を分離し、SIVsmH635FC感染サルではB404類似抗体が高率に誘導されていることを示した。本研究ではこのB404類似抗体に注目し、BNAbの誘導メカニズムを解明するために、新たにアカゲザル6頭にSIVsmH635FC株を接種して、血液とリンパ節の採材を行った。まず、SIVsmH635FC株のアカゲザルにおける増殖動態に大きく影響するTRIM5α遺伝子ハプロタイプを決定し、感染実験に使用する3種類のハプロタイプを持つ個体、各2頭、計6頭を選別した。ウイルス感染後、血液を経時的に採取し、リンパ節生検を3, 6週に行った。今後、抗体の分離と解析を行い、BNAbの誘導メカニズムを解明していく予定である。

C-7拡散スペクトラムMRIを用いた霊長類の神経回路構造の比較研究

岡野栄之(慶應大・医)、岡野ジェイムズ洋尚(慈恵医科大・医)、疋島啓吾、酒井朋子(慶應大・医)  

所内対応者:濱田穣

ヒトの脳の進化的基盤を本質的に理解するためには、ヒト固有の脳構造が、どのような系統発生過程を経て現れるのかを明らかにすることが必要不可欠である。近年、マーモセットを対象とした高磁場MRI研究で確立した拡散スペクトラムMRI(DSI)法が確立されたが、他の霊長類では現在に至るまで撮像・解析に関する技術開発は行われていなかった。

そこで、本研究では、さまざまな霊長類の脳標本を対象に神経線維構造投射マップを取得することを目指し、新規のMRI撮像パルスシーケンスの設計・開発を行った。9.4テスラの小動物用高磁場MRI装置(慈恵医科大学保有)を実装し、ヨザルおよびシロテテナガザルの脳標本(日本モンキーセンター所蔵)を対象に、動作テストを行った。この結果、高精度のMRI画像(解像度150マイクロミリメートル)を取得できることを確認したことから、設計・開発を達成したと言える。これに伴い、撮像専用の脳標本容器の開発も行った。

今後、本研究で確立した技術的基盤をチンパンジー、ヒヒ、ニホンザル等の霊長類の脳標本に展開し、画像化・データベース化を行うことで、霊長類脳の内部構造の系統発生過程を明らかにすることが可能となる。現在、収集した脳画像を基に、最新の計算解剖学的手法を用いて、各霊長類脳の神経線維構造の3次元再構築を試みている。画像解析が完了次第、すみやかに学会発表・論文投稿を行う予定である。

C-8野生ニホンザルの個体数抑制技術の開発

前多敬一郎 (東大・院・農学生命)・束村博子、大蔵聡、上野山賀久、松田二子 (名大・院生命農学)  

所内対応者:鈴木樹理

本研究は、平成25年農林水産業・食品産業科学技術研究推進事業シーズ創出ステージ「新規な繁殖中枢制御剤開発による家畜繁殖技術と野生害獣個体抑制技術の革新」の一環として、Neurokinin B受容体(NK3R)拮抗剤を用いた新たな野生ニホンザルの個体数抑制技術の開発の基盤となる知見を得ることを目的とした。ニホンザル雄3頭を用いて、繁殖 (交尾)期にNK3R拮抗剤(SB223412)をバナナに充填し、10 mg/kgになるように単回経口投与した。薬剤投与直前に1回、薬剤投与の3、6、12、24、36、48および60時間後に上腕静脈から採血を行い、LC-MSにより血中SB223412濃度を、酵素免疫測定法により血中テストステロン濃度を測定した。その結果、血中SB223412濃度は投与後3あるいは6時間で高く、投与後6あるいは12時間には減少し始め、60時間後には投与前と同レベルにまで低下した。また、血中テストステロン濃度は、3個体中2個体で薬剤投与後3時間において投与前に比べ減少する傾向がみられた。このことからNK3受容体拮抗剤の経口投与は、雄ニホンザルにおいて性腺機能抑制効果を持つことが示唆された。

 

(4) 随時募集研究

D-1サルの脅威刺激検出に関する研究

川合伸幸(名古屋大・院・情報科学)  所内対応者:香田啓貴

 ヒトがヘビやクモに対して恐怖を感じるのは生得的なものか経験によるのか長年議論が続けられてきた。しかし今では現在は、ヘビ恐怖の生得性は認識されているが、クモ恐怖の生得的は議論がわかれる。ヒト乳児ではクモ様の図形に敏感に反応するようだが、成人では再現できない。そこで毒グモがいない地域に生息するニホンザルを対象に、視覚探索課題においてクモをほかの動物よりもすばやく検出するかを検討した。まず3頭のサルに基本的な視覚探索課題を訓練した。3×3と2×2の色片のマトリクスから1つだけ色が異なる孤立項目を選択させた。この訓練ののちに、ヘビの写真と危険でない動物(コアラ)で視覚探索課題を実施した。この課題で安定して反応できるようになれば(90%以上の正答率が3日以上連続する)、反応時間を測定したところ、3頭ともヘビを見つけるまでの時間のほうが早く、以前の結果を追試した。それに続いて、クモとコアラで視覚探索課題を実施した。1頭がこの課題で安定した成績を示し、反応時間のデータを得た。その結果、クモを見つける時間とコアラを見つける時間で有意な差はみられなかった。このことはサルはクモに対する優先的な視覚情報処理を行わないことを示唆する。ただし、残る2頭は現在、データを取得中で結論を下すにはもうしばらく実験を続ける必要がある。

D-2ニホンザルを対象とした高解像度CNVスクリーニング解析

尾崎紀夫、Aleksic Branko、久島周(名古屋大・院・医・精神医学)  所内対応者:今井啓雄

自閉スペクトラム症、統合失調症の発症に強く関与する稀なゲノムコピー数変異(copy number variant; CNV)が多数同定されている。本研究では、妥当性の高い精神疾患の霊長類モデルを見つけ出すことを企図して、ニホンザルを対象とした全ゲノムCNV解析を実施した。具体的には、ニホンザル379頭を対象にarray CGH (comparative genomic hybridization)で高解像度のCNV解析を実施し、数10kbp程度の小規模CNVから数Mbの大規模CNVを含む多数の変異を同定した。その中には神経発達に関連する遺伝子に機能的影響を与えるものとして、NGF欠失、BDNF重複、14番染色体の4.3Mbの重複を同定した。この他、10番染色体のADORA2A遺伝子を含む598kbの重複を同定した。ADORA2Aを含む重複は、発達障害や統合失調症との関連が示唆されていることから、本個体の行動観察を実施したが、現在までのところ、行動上の異常は見出していない。

D-3マカク類の比較ゲノミクス

藤山秋佐夫、豊田敦、野口英樹、辰本将司、福多賢太郎(国立遺伝学研究所)  所内対応者:今井啓雄

国立遺伝学研究所では、ゲノム科学の視点からマカク属サル類をモデル生物として捉え、ゲノム配列が決定されたアカゲザルを中心に、近縁種のゲノム全域を網羅した高品質なゲノム構造多型情報の整備を進めている。今年度の共同研究では、霊長類研究所から中国産アカゲザル、タイワンザル組織の提供を受け、遺伝学研究所にてDNA抽出、さらに新型シーケンサーを用いて高精度かつ高深度な配列情報を得た。これらに加え、ニホンザル、カニクイザルのゲノム配列情報を用意した上で、大規模な比較ゲノム解析を実施した。

 今年度の共同研究の成果として、カニクイザル種群における全ゲノムレベルの構造多型地図を構築し、各種に特異的な構造変異を同定することができた。全ゲノムシークエンスを含むこれらの情報は、広くサル類についての進化学的考察、遺伝子型決定、遺伝的マーカーの作成、発現解析を通じ、様々な分野における有用な研究基盤になると思われる。また、本共同研究の成果を使っての論文を準備中であることも付記しておく。

D-4インターフェロンラムダ遺伝子ファミリーの進化学的解析

溝上雅史、杉山真也(国立国際医療研究センター)、中川草、今西規(東海大・医)、石田貴文(東京大・院・理)、五條堀孝(国立遺伝学研究所)  所内対応者:今井啓雄

共同利用によって提供されたチンパンジーゲノム(P.t.tとP.t.vのハイブリッド)について、本研究の標的領域であるInterferon lambda(IFN-λ)遺伝子ファミリーがコードされている領域の高速シークエンス解析を実施した。昨年度よりチャレンジしていたが、サンプルのゲノムが断片化されていることや標的領域には相同性の高い領域が多数存在することなどから、目的の遺伝子を増幅させられず、シークエンスまで進めることができなかった。相同性の高い領域を解析する際には、染色体ほどの大きさな単位でゲノムが残っていることが望まれる。我々のデータと既知のデータを組み合わせてIFN-λ遺伝子のアライメントを組み合わせたところ、チンパンジーの中でみると、IFN-λ2遺伝子領域にハイブリッド種でのみ特徴が認められた。ヒトに類したインサーションがあり、今後、ハイブリッド種もしくはそれぞれの純系種において、解析を進める必要がある。

D-5手指のtriple-ratioを用いた霊長類の把握機能の解析

宇田川潤、玉川俊広、日野広大(滋賀医大・医・解剖)  所内対応者:江木直子

本研究では、ぶら下がりなどのパワーグリップやつまみ動作などの精密把握と手指の骨格構造との関連を検討するため、霊長類の手指骨格、MP・PIP・DIP関節および屈曲筋腱の構造解析を行っている。申請者らは、これまでに各指の中手骨および指節骨長から求められたtriple-ratioにより、霊長類が樹上性、半樹上性および地上性に分類できることを示してきた。そこで、triple-ratioと把握機能との関連を調べるため、樹上性霊長類のテナガザルおよびクモザルと地上性のマントヒヒの前肢のMRI撮影を行い(図1)、把握時のMP, PIP, DIP関節の角度とモーメントアーム長との関係を検討した。上記の全ての霊長類において、PIP関節の屈曲角度が大きくなるにつれ、PIP関節における浅・深指屈筋腱のモーメントアーム長は長くなった。特にマントヒヒでは本傾向は顕著であった。また、指骨の長さに対するモーメントアーム長の比もマントヒヒにおいて大きい傾向が認められた。これらの結果より、地上性霊長類では把握時にPIP関節においてトルクを発揮するのに有利な構造をしていることが示唆された。

D-6マカクおよび類人猿の糞尿を用いた新たな生理指標の評価法の開発

毛利恵子(京都大・教育学)、清水慶子(岡山理科大・理・動物)  所内対応者:橋本千絵

近年、霊長類の糞や尿を用いたホルモン測定が行われている。しかし、その多くが冷蔵・冷凍されたサンプルを用いた性ホルモン測定による排卵、妊娠の評価やストレス関連ホルモンによるストレス評価であり、それ以外は見当たらない。そこで、我々は糞や尿など非侵襲的サンプルを用いた霊長類の新たな生理指標評価法の開発をおこなった。本年度は、これまでよく行われている性ステロイドホルモンの測定のため、野生の霊長類から採取した糞や尿を、冷蔵、冷凍などの設備のない環境下で保存する方法の開発をおこなった。今回開発した乾燥法を用いて野生類人猿の糞や尿を採取、保存し、これらの試料を用いて性ステロイドホルモン・性腺刺激ホルモン等を測定した。さらに詳細な結果を得るために、示適保存条件、抽出条件を調べた。その結果、示適保存・抽出条件で処理した試料から、性成熟の有無、排卵、妊娠等の繁殖状態の推定、閉経等老化の程度を示すホルモンを測定することができた。また、本法で保存した試料を用いて得られた測定値は、これまでのように冷蔵・冷凍保存した試料による結果と大きな差はなかった。

D-7Metabolome and lipidome signatures of the human brain

Philipp Khaitovich (CAS-MPG Partner Institute for Computational Biology, Shanghai, CHINA), Masahiro Sugimoto (Institute for Advanced Biosciences, Keio University), Yasuhiro Go (Center for Novel Science Initiatives, National Institute of Natural Sciences)  所内対応者:大石高生

There is no progress due to any available samples in this fiscal year.

D-8脂質を標的としたサル免疫システムの解明

杉田昌彦、森田大輔(京都大・ウイルス研)  所内対応者:鈴木樹理

本研究グループは、アカゲザルにおいて、サル免疫不全ウイルス由来のリポペプチドを特異的に認識するT細胞の存在を明らかにしてきた。しかしこの免疫応答の分子機序は不明である。そこでリポペプチド特異的T細胞株(2N5.1)の抗原認識を阻害する2種のモノクローナル抗体を作出しその生化学的解析を進めた結果、ベータ2ミクログロブリンと結合したタンパク質(LP1)がリポペプチド抗原提示を担う可能性が高まった。そこでアカゲザル末梢血単核球よりベータ2ミクログロブリン結合タンパク質をコードする遺伝子群をランダムに単離し、それぞれをトランスフェクトした細胞を用いてT細胞株の応答を検証したところ、特定の遺伝子を発現した細胞がリポペプチド抗原提示能を有することが分かった。その遺伝子を大腸菌に発現させ、得られたリコンビナントタンパク質にリポペプチドを結合させた複合体のX線結晶構造解析を行い、リポペプチド結合様式を明らかにした。一方、第2のリポペプチド特異的T細胞株(SN45)へのリポペプチド抗原提示を担う分子の探索研究を進め、T細胞活性化能を有するアカゲザル個体とT細胞活性化能を欠如したアカゲザル個体の遺伝子解析から、候補遺伝子を絞り込んだ。

D-9野生チンパンジーのアルファ雄の肉分配に関する研究

保坂和彦(鎌倉女子大・児童)  所内対応者:Michael A. Huffman

本年度はマハレのチンパンジー研究50周年を記念して出版される予定の学術図書の編著に必要な文献調査に研究活動のほとんどの時間を費やした。研究課題に関連してまとめた担当章は、第20章「狩猟と食物分配」、第23章「老年学」、第27章「雄間関係」である。第20章には、2010年の第23回国際霊長類学会京都大会で口頭発表した狩猟の更新資料(1996~2010年)の一部を盛り込んだ。第23・27章には、老齢個体ないし大人雄の繁殖・性行動、社会行動、肉食など多角的な視点のレビューワークと新情報を盛り込んだ。本課題に関する内容としては、アルファ雄が獲物の肉を所有的に保持するとき、肉を分け合う個体は同盟個体だけではなく老齢個体が目立つ、という事実に注目して論じた。Nishida et al.(1992)はアルファ雄の連合戦略の観点から前者の重要性を強調したが、後者は事実に言及したのみで発展的な考察はない。他地域から出された論文は、そもそも肉分配を他個体との関係構築・維持に作用する行動戦略として捉える視点が希薄である。今後は、角度を変えた行動分析を試みるとともに、濫立する仮説の検証を進め、「アルファ雄はなぜ肉を他個体と分け合うのか?」という積年の問題に答えていきたい。

D-10Near-infrared spectroscopy measurement of brain activity associated with visual information integration in Japanese macaques

Young-A Lee (Catholic University of Daegu)  所内対応者:後藤幸織

精神疾患や発達障害の生物学的機序解明の研究ならびに治療薬・治療方法開発において動物モデルは必要不可欠である。しかし、動物モデルでの知見をヒトへと応用する試みの多くは失敗している。この原因の1つに動物モデルとヒトとで共通するバイオマーカーがあまり多くないことが考えられる。そのため、信頼性の高いバイオマーカーを見出すことは重要である。本研究では、ヒトに近縁のニホンザルを動物モデルとして、ヒトで用いられている近赤外分光法(NIRS)による脳活動計測を行い、この手法による脳活動計測が、動物モデルとヒトとで共通して用いることが出来るバイオマーカーとなりうるのかを検討した。

本研究は、ニホンザルを用いて、ゲシュタルト知覚の際の脳活動計測を行い、ヒトでのゲシュタルト知覚の際の脳活動と直接比較をすることを最終的な目的としているが、本年度は、そのための予備実験として、サルに4つの異なるカテゴリー(ヘビ、サル、花、食物)の視覚刺激を提示した際の脳活動の計測を行った。その結果、前頭葉での脳血流酸化状態(オキシヘモグロビン濃度とデオキシヘモグロビン濃度)の変化は、4つのカテゴリーごとの視覚刺激に対して異なることを見出した。この結果は、前頭葉での脳活動は、視覚刺激のカテゴリー化に関連していること、また、そのような脳活動をNIRSによる脳活動計測で動物モデルで検出でき、ヒトへと応用可能であることを示唆する。

D-11The evolution of tissue transcriptomes in mammals

Henrik Kaessmann(University of Lausanne)、Yasuhiro GO(Center for Novel Science Initiatives, National Institutes of Natural Sciences)  所内対応者:今井啓雄

In 2014, we generated extensive RNA-seq data for the orang-utan testis sample from the Primate Research Institute, Kyoto University. We are using this important data (which fills a phylogenetic gap in our studies) in various ongoing transcriptome evolution projects, including projects on the evolution of mammalian Y chromosomes, evolution of primate untranslated regions, the evolution of primate alternative splicing, and the origin and evolution of mammalian retrogenes. The latter project is completed and a manuscript will soon be submitted, with several colleagues (Takashi Hayakawa, Yasuhiro Go, Hiroo Imai) from the Primate Research Institute as co-authors. The study described in this paper illuminates how intronless gene copies, which originated from mRNAs of parental source genes through a process called retroduplication (or retroposition), evolved and/or recruited regulatory elements (e.g., promoters) complex gene structures (exons/introns) and thus surprisingly complex new gene functions. This work thus provides general insights into how new genes may arise. It therefore also highlights the power of retroposed genes as a model for the elucidation of new gene functions and will inform future studies of other mechanisms underlying new gene origination, such as segmental duplication and de novo gene origination.

D-12マカクの繁殖に関連する性皮変化の分子基盤研究

小野英理(東大・院・生物科学)  所内対応者:鈴木樹理

霊長類にはその発情期に明確な性的シグナルを発する種がある。例えばマカク属のいくつかの種ではメスの性皮変化(ここでは体積増加と紅潮を含む)が起こることが知られている。我々はこの性皮変化に着目し、アカゲザルとニホンザルを対象として、性皮色、組織、遺伝子の変化を追っている。本年度は、性皮と他の皮膚組織(顔・背・腹)を比較し、性皮の特徴的な色彩を生じる要因について調べた。まず分光測色計を用いて皮膚色を計測し、HE染色組織を用いて血管を画像解析したところ、性皮紅潮は血管数と血管拡張の影響であることがわかった。一方で、皮膚に存在する代表的な色素のひとつであるメラニンの影響は見られなかった。さらに免疫組織化学染色によって、エストロゲン受容体ERαが性皮に特有の血管動態に寄与していることが示唆された。今後はERαが性皮の血管動態に及ぼす影響について培養細胞等を用いて遺伝子発現解析を行う。

D-13類人猿における骨盤の耳状面前溝の性差および種差

久世濃子(科博・人類)、五十嵐由里子(日大松戸・歯)  所内対応者:江木直子

ヒトでは、骨盤の仙腸関節耳状面前下部に溝状圧痕が見られることがあり、特に妊娠・出産した女性では、深く不規則な圧痕(妊娠出産痕)ができる。直立二足歩行に適応して骨盤の形態が変化し、産道が狭くなった為にヒトは難産になった、と言われている。妊娠出産痕もこうしたヒトの難産を反映した、ヒト経産女性特有の形態的特徴であると考えられてきた。しかし、ヒト以外での種で、耳状面前下部に圧痕があるかどうかを確かめた報告はない。そこで本研究では、京都大学霊長類研究所や国内の博物館、動物園等に収蔵されていた大型類人猿3属計39個体(ゴリラ:13、チンパンジー:16、オランウータン:10)の耳状面前下部を観察し、圧痕の有無や、その形状を調べた。その結果、耳状面前下部の圧痕の有無には種差が見られ(圧痕があった個体;ゴリラ:6、チンパンジー:6、オランウータン:0)、特にゴリラ雌雄で顕著な圧痕が観察された。また、圧痕の形成要因を調べる為に、動物園で死亡した類人猿の遺体(チンパンジー:2、オランウータン:2)を解剖し、耳状面に付着する筋肉や靭帯の状況を調べた。類人猿の圧痕の形成要因としては、体重および姿勢や運動様式との関連が考えられるが、引き続きサンプル数を増やす必要がある。

D-14霊長類神経系の解析とヒト疾患解析への応用

井上治久、今村恵子、近藤孝之、江浪貴子、舟山美里(京大・CiRA・幹細胞医学)、沖田圭介(京大・CiRA・初期化研究部門)  所内対応者:今村公紀

平成26年度は本随時募集研究の申請・採択からの期間が短いこともあり、申請プロジェクトの本格的な着手には至っておらず、研究試料の準備に終始した。具体的には、チンパンジー線維芽細胞の増幅培養と凍結ストックの作製を実施した。今後は、同線維芽細胞を用いてiPS細胞の樹立を行い、神経細胞の分化誘導に用いる予定である。

D-15マカク交雑群の集団構造解析に向けた遺伝標識の開発

伊藤毅、木村亮介(琉球大・医)、福多賢太郎(遺伝学研・生命情報研究センター)  所内対応者:川本芳

本研究は,タイワンザルとニホンザルの種間交雑個群のモニタリングおよび遺伝子浸透の影響評価のために,ゲノムワイドな遺伝マーカーを開発することを目的とした.本研究では,制限酵素認識サイトの近傍領域の一塩基多型を探索するRAD-Seqという手法を検討した.スクリプト言語のPythonを用いてアカゲザル参照ゲノムを特定の制限酵素でin silicoに断片化し,またRAD Counter(https://www.wiki.ed.ac.uk/display/RADSequencing/Protocols)を用いて至適な制限酵素の組み合わせとイルミナMiSeq(またはHiSeq)1レーンあたりの許容サンプル数について検討した.また,本手法はDNA濃度のばらつきに虚弱なため,提供を受けたタイワンザルとニホンザルの抽出DNA試料については,DNA特異的に結合する蛍光色素を用いて二本鎖DNAの定量を行った.本年度は試料の提供を受けたのが3月中旬と遅かったため成果を発表するまでには至っていないが,平成27年度も同様の課題で採択されているので,順次,交雑群を対象に集団ゲノミクス研究を進めていく予定である.

D-16霊長類とげっ歯類における内胚葉組織の比較検討

岩槻健、高橋信之、木村綾子、千田絵里(東京農大・応用生物科学部)  所内対応者:今井啓雄

当該年度では、京大霊長類研究所から霊長類サンプルを取得する機会がなかったが、げっ歯類を用いた消化管オルガノイド培養系を東京農大にて立ち上げ、DNAマイクロアレイを用いて小腸オルガノイドのトランスクリプトーム解析を行った。来年度以降、霊長類サンプルが入手できた時点で、霊長類の消化管オルガノイドの作製とDNAマイクロアレイ解析を行い、昨年度に得られたトランスクリプトームデータと比較解析を行う予定である。

また所内対応者である今井啓雄博士に東京農大に来ていただき、学生を交えて今後の打ち合わせを行った。

D-17霊長類におけるヒトの皮膚の表現型の特性について

荒川那海、颯田葉子(総研大・先導研)   所内対応者:今井啓雄

ヒトとその他の霊長類を比較したとき、皮膚の形態的・生理的な違いは多く見られる。その中でも特に顕著なのは、皮膚を保湿する役割も担う体毛の有無である。本研究では、皮膚の表皮細胞に存在し水分子を透過させるチャネルタンパク質、アクアポリン3(AQP3)に焦点を当て、体毛が少ないにも関わらずヒトが皮膚の保湿を維持しているメカニズムを探ることを目的とした、ヒトとその他の霊長類の比較研究を行ってきた。

 NCBIデータベースから取得した脊椎動物のAQP3塩基配列を用いた系統解析から、ヒトのコーディング領域のアミノ酸配列において特異的な置換は見られなかった。また、皮膚組織におけるAQP3遺伝子発現量比較については、これまでにヒト3個体、チンパンジー、ゴリラ、オランウータン各種2個体ずつの測定を行った。これらの結果をもとにすると、AQP3発現量は種内での個体差は存在するが、種間での有意差はないと考えられる。今後新たなサンプルが入り次第、さらに定量を行っていく。

 現在、AQP3に限らず、網羅的に皮膚で発現している遺伝子に関してヒトと他の霊長類の間で発現量比較を行っている。発現量の違いが、ヒトにおける皮膚の保湿機構も含め、個体の表現型にどのような影響を与えているのかを考察していく予定である。

D-18類人猿下顎犬歯歯髄腔における経年変化の観察

佐々木智彦、諏訪元(東京大・総合研究博物館)  所内対応者:平崎鋭矢

歯髄腔の経年変化を用いたヒトの年齢推定が化石種を含めた類人猿にも応用可能であるかを検討するために以下の予備観察を行った。チンパンジー(雄7雌10)の下顎をCTに撮り、犬歯歯根の半分の高さにおける水平断面を観察した。象牙質の厚さを象牙質面積÷(歯根外周+歯髄腔外周)として計算し年齢との関係を散布図にしたところ、正の相関関係が得られた。歯根サイズの個体差の影響を(雌雄合わせた)線形重回帰分析により除外したが、なおも正の相関関係は残った。チンパンジーにおいてもヒトと同じく、二次象牙質が成長し歯髄腔が狭窄していくことが示唆される。(ただし、サンプルサイズが小さいため統計的に有意ではない。)ヒトの下顎犬歯においても同様の分析を行い、チンパンジーの分布をヒトのそれと比較した(サイズ補正はチンパンジーのものをヒトにも適用した)。チンパンジーの分布は初期値・傾き・分散すべてが人のそれよりも大きかった。サイズ補正が十分でないのか、それともサイズ以外(形・歯根の形成年齢・象牙質の成長速度など)の違いを反映しているのだろうか。歯根サイズやその他の違いを何らかの方法で補正し、チンパンジーとヒトとの分布を近づけることができれば化石人類への応用も期待されるが、それは今後の課題としたい。

D-19 マーモセット脳機能研究に最適化した経路選択的操作とその基盤となる回路構造解析技術の開発

渡辺雅彦、今野幸太郎(北海道大・院・解剖)  所内対応者:中村克樹

マーモセットの脳の灌流方法などを打ち合わせ、対応者の研究室における灌流用の器具や装置を見学し、必要な試薬等の準備を始めた。サンプルの保存方法や輸送方法に関して、MTAの書類等のやり取りをふくめ打ち合わせした。灌流固定脳を使用して、マーモセットのパラフィン連続切片を作成し、今後、マーモセット脳組織に対する抗体の反応性を検討する予定である。報告できる画像はないが、H27年度の共同利用を通して得られる予定である。

D-20全ゲノムシークエンスデータ解析に基づく解析困難領域の同定と遺伝的多様性の解析

藤本明洋(理化学研究所・統合生命医科学研究センター)  所内対応者:古賀章彦

本研究課題は、2014月11月に申請をし、審査を経た後2015月1月に採択となった。その直後にMTAの手続を開始し、2月末にMTAの締結が完了した。完了が年度末近くであったため、年度内に解析の結果は出ていない。2015年度の共同利用・共同研究に、継続として申請している。

D-21大型類人猿における手首・大腿部の可動性の検証

中務真人、森本直記(京都大・理・自然人類学)  所内対応者:西村剛

化石人類がどのような歩行様式を有していたのかを推定するには、歩行に関連する関節の可動域の推定が重要である。化石標本における関節の可動域を推定するために、現生大型類人猿を用いて基礎データを収集した。手首・股関節を複数の異なる角度で固定し、X線CT撮像を行った。当初の計画に従い、チンパンジー(冷凍標本:2個体、液浸標本:14個体)、ゴリラ(液浸標本:1個体)、オランウータン(冷凍標本:1個体、液浸標本:1個体)の3次元データを得た。これらのデータをもとに、関節を構成する骨の相対的な位置関係を異なる関節角度において観察した。さらに、手首・股関節をコンピュータ内で仮想的に動かし、化石標本に応用できる形態データの収集を開始した。特にゴリラ、オランウータンのデータが未だ不十分で、体サイズや歩行様式による違いに関する検討には至っていない。今後形態データの充実をはかり、定量的な解析につなげる計画である。


3. 平成26年度で終了した計画研究

各種霊長類における認知・生理・形態の発達と加齢に関する総合的研究

実施期間:平成24~26年度

課題推進者:友永雅己、浜田穣、鈴木樹理、林美里、足立幾磨、平崎鋭矢)

ヒトを総合的に理解するうえで、種間の比較の必要性は言うまでもないが、その際に、「発達」という視点を導入することもきわめて重要だろう。「ヒトで言えばチンパンジーの知能はX歳である」といった素朴な比較ではなく、進化と発達という2つの時間軸に沿ったよりダイナミックな比較が肝要である。本計画では、平成21年度まで実施されてきた計画研究課題「チンパンジーの発達に関する総合的研究」の成果を受けて、新生児期、乳幼児期、思春期、壮年期、老年期など各発達段階における認知機能や生理機能および形態についてチンパンジーなどの類人猿、マカク類などの旧世界ザル、およびフサオマキザルなどの新世界ザルなどを対象に、総合的な比較研究を推進することを目的して研究を進めた。

 計画は、比較認知研究から比較歯科学研究まで多岐にわたり、多くの研究が継続的に実施された。具体的には、チンパンジーを対象とした質感知覚・力触覚・注意に関する比較認知科学研究、チンパンジーの口腔内状態の継続的観察、二卵性双生児チンパンジー、の行動発達、そして形態学的研究などである。いくつかの研究は、現在も継続中であり、今期の成果をもとに、新たに計画研究「霊長類のこころ・からだ・くらしにおける発達と加齢に関する総合的研究」を平成27年度から開始し、成果の継承と展開を図っていきたい。

研究実施者

<平成24年度>

H24-A6 チンパンジーの視覚・注意の発達変化に関する比較認知研究(牛谷智一・後藤和宏)

H24-A7 チンパンジーの口腔内状態の調査:う蝕・歯の摩耗・歯周炎・噛み合わせの評価を中心に(桃井保子他)

H24-A8 霊長類における時空間的な対象関係の理解に関する比較研究(村井千寿)

H24-A9 二卵性ふたごチンパンジーの行動発達に関する比較認知発達研究(安藤寿康・岸本健他)

H24-A10 足形態と成長パターンと位置的行動の関係:ヒトとチンパンジーの比較(権田絵里)

H24-A12 チンパンジーにおけるトラックボール式力触覚ディスプレイを用いた比較認知研究(酒井基行・田中由浩・佐野明人)

H24-A13 Study of the Metacarpal Growth and Aging in Macaca fuscata using Microdensitometry (Tetri Widiyani, Bambang Suryobroto)

<平成25年度>

H25-A5 チンパンジーの口腔内状態の調査:う蝕・歯の摩耗・歯周炎・噛み合わせの評価を中心に(桃井保子他)

H25-A8 チンパンジーの視覚・注意の発達変化に関する比較認知研究(牛谷智一・後藤和宏)

H25-A9 チンパンジーにおけるトラックボール式力触覚ディスプレイを用いた比較認知研究(田中由浩・佐野明人)

H25-A10 チンパンジーにおける質感認知に関する比較認知科学研究(伊村知子)

H25-A11 チンパンジー母乳における生物活性因子と子供の成長との関係性(岡本-Barth 早苗・Robin M. Bernstein)

H25-A13 霊長類における時空間的な対象関係の理解に関する比較研究(村井千寿子)

H25-A14 二卵性ふたごチンパンジーの行動発達に関する比較認知発達研究(安藤寿康・岸本健他)

<平成26年度>

H26-A7 二卵性ふたごチンパンジーの行動発達に関する比較認知発達研究(安藤寿康・岸本健他)

H26-A10 チンパンジーの口腔内状態の調査:う蝕・歯の摩耗・歯周炎・噛み合わせの評価を中心に(桃井保子他)

H26-A14 チンパンジーにおける質感認知に関する比較認知科学研究(伊村知子)

H26-A16 霊長類における音声コミュニケーションの進化および発達過程の研究(平松千尋・山下友子)

H26-A18 チンパンジー母乳における生物活性因子と子供の成長との関係性(岡本-Barth 早苗・Robin M. Bernstein他)

H26-A22 チンパンジーの視覚・注意の発達変化に関する比較認知研究(牛谷智一・後藤和宏)

(文責:友永雅己)


4. 共同利用研究会

「法改定に伴う今後のニホンザルの保全と管理の在り方」

日時:2014年5月17日(土)-18日(日)

場所:京都大学霊長類研究所大会議室(参加人数:80人)

研究会世話人:森光由樹(兵庫県立大)・川本芳(京大・霊長研)

共催:日本哺乳類学会保護管理専門委員会ニホンザル部会・日本霊長類学会

1999年に鳥獣保護法が改正され,科学的・計画的な保護管理の枠組みとして特定鳥獣保護管理計画制度が創設されてから15 年が経過した。特定鳥獣保護管理計画制度は日本の鳥獣行政の中に定着し,計画的・科学的な保護管理を目指す様々な試みが各地で進められている。ニホンザルは,データの蓄積や管理体制の整備が進み,管理目標をある程度達成する状況が一部の地域で生まれている。しかし,その反面,管理目標を達成できない自治体,計画の策定を行わない自治体もある。ここ数年,ニホンザルを取り巻く環境は著しく変化しており,その対策として,2015年度より鳥獣保護法が改正施行される。また,動物愛護法,外来生物法の一部が,すでに改正施行されている。市町村では,特措法(鳥獣による農林水産業等に係る被害の防止のための特別措置に関する法律)による予算が獲得され被害防除が進められている。鳥獣行政は変革の時期に来ている。この研究会の目的は,ニホンザル保護管理における各地の都府県や市町村の成果や課題を抽出し,ニホンザル管理の方法論を整理することである。また,法律の改正内容を精査しながら,課題解消のための研究を促進することである。各地域の成果や課題を報告し合い情報の共有を図った。都府県・市町村が計画を策定する際に参照可能な資料の作成についても,議論を進めた。

この研究会では,研究者,国・県・市町村の担当者,保護管理事業関係者をはじめ80名の参加者が2日間にわたり議論を行った。演者は,ニホンザル保護管理に関わっている方々を中心にお願いした。初日はニホンザル個体群管理,特に方法論の整理について話題提供があり,4演題と2つのコメントにつき質疑を行った。2日目は,ニホンザルの保全と管理について,現場課題の整理のため話題提供があり, 6演題と1つのコメントにつき質疑を行い,最後に2日間の議論の総括と今後の課題整理を含む総合討論を行った。

なおこの研究会は日本哺乳類学会保護管理専門委員会ニホンザル部会ならびに日本霊長類学会が共催した。会議への提供話題と総括の内容は,日本霊長類学会の学会誌「霊長類研究」に2015年4月30日付電子版で早期公開している。

(URL) https://www.jstage.jst.go.jp/article/psj/advpub/0/advpub_31.002/_pdf

(プログラム)

2014年5月17日(土)

ニホンザル個体群管理~方法論の整理~ 

13時00分~13時10分 森光由樹(兵庫県立大)

 趣旨説明 

13時10分~13時50分 鈴木克哉(兵庫県立大)

 ニホンザル個体群管理の方法論
~これまでの議論の整理と検討課題について~


13時50分~14時30分 宇野壮春(合同会社東北野生動物保護管理センター)

 分布拡大地域における現状と個体群管理について


14時30分~15時10分 清野紘典(株式会社野生動物保護管理事務所)

 個体群管理におけるモニタリングの現状と課題
~効率的なモニタリングに向けて~


15時25分~15時45分  森光由樹(兵庫県立大) 

 地域個体群保全のための研究展望
~個体群管理を進めるための遺伝情報~


15時45分~16時15分 コメント

 川本芳(京大・霊長研), 大井徹(独立行政法人・森林総合研)

16時15分~17時15分 討論

5月18日(日)9時00分~15時30分

ニホンザルの保全と管理~現場課題の整理~

9時00分~9時10分 森光由樹(兵庫県立大)

 趣旨説明 

9時10分~9時50分 羽山伸一(日本獣医生命科学大・獣医) 

 ニホンザルの管理に関する法律の改正と今後の課題


9時50分~10時15分 堀内洋(環境省野生生物課鳥獣保護業務室)

 鳥獣保護法の改正及びニホンザルの保護管理に関する最近の動きについて

10時15分~10時45分 滝口正明(一般財団法人自然環境研究センター) 

 特定計画(都府県)における課題と今後



10時45分~11時15分 江成広斗(山形大・農) 

 市町村におけるサル管理の課題と今後

11時15分~12時00分 討論


13時00分~13時40分 山端直人(三重県農業研究所)

 都府県のサル管理を推進するために何が必要か
~三重県を事例に~


13時40分~14時20分 渡邉義久(豊川市産業部農務課) 

 市町村のサル管理を推進するために何が必要か
~愛知県豊川市を事例に~

14時20分~14時30分コメント

 常田邦彦(一般財団法人自然環境研究センター)

14時30分~15時30分 総合討論

(文責:森光由樹・川本芳)

「第14回ニホンザル研究セミナー」

開催日:2014年6月14日 (土)・15日(日)
場所:京都大学霊長類研究所 大会議室(参加人数:55人)

世話人:半谷吾郎

ニホンザル研究セミナーは、これまで過去13年に渡って、共同利用研究会や自主的な集会として実施してきた。この研究会では、ニホンザルを対象としたフィールドの研究者が、交流し討論できる場を作ることを目的としている。第14回目となる今回も若手研究者の方に修士課程や博士課程での研究成果を中心に発表をお願いし、中堅・ベテラン研究者が、それに対してコメントするというスタイルで行われた。また、相互に関連する研究を、異なる調査地・調査対象について行っている発表者同士が、相互の研究についてコメントしあい、今後の共同研究の可能性について議論する試みも行った。また、ポスター発表を公募し、修士・博士論文の途中経過などについて発表してもらう機会を設けた。2日目には、フリーのGIS(地理情報システム)ソフトウェアであるQGISのワークショップを行った。GISはニホンザルの生態・保全研究での重要なツールであり、その利用促進のため有用な企画であったと、参加者の方からも高評価をいただいた。

<プログラム>

6月14日(土)  研究発表

10:43-10:45 半谷吾郎(京都大学霊長類研究所)

挨拶

10:45-11:45 川添達朗(京都大学大学院理学研究科)

群れの内外における野生オスニホンザルの社会関係

11:45-12:45 大谷洋介(京都大学霊長類研究所)

ヤクシマザル雄個体の一時離脱:集団内外での行動の差異

12:45-13:45 休憩

13:45-14:45 西川真理(京都大学大学院理学研究科)

屋久島に生息するニホンザルの群れの個体の凝集性と同調性

14:45-15:45 上野将敬(大阪大学大学院人間科学研究科)

勝山ニホンザル集団における毛づくろいの互恵性の至近要因に関する研究 

15:45-16:00 休憩

16:00-17:00 栗原洋介(京都大学霊長類研究所)

屋久島海岸域に生息するニホンザルにおける採食行動の群間比較

コメンテータ:風張喜子(北海道大学) 

17:00-18:00 ポスター発表

18:00~20:15 懇親会(所内にて、参加費:2000円)

6月15日(日)  QGISワークショップ

9:30-10:00 望月翔太(新潟大学自然科学系)

勉強会(趣旨説明とGISの基礎)

10:00-12:00 実習

12:00~13:30 休憩

13:30-15:20 実習

15:20~15:30 休憩

15:30~16:00 QGISの方向性について+質疑応答 

ポスター発表

P-1 浅井隆之(鹿児島大学・農)、塩谷克典、稲留陽尉(鹿児島県環境技術協会)、藤田志歩(鹿児島大学・共同獣医)

ニホンザル農作物加害群の土地利用特性 

P-2 中村勇輝(新潟大学大学院自然科学研究科環境科学専攻流域環境学コース)

集落柵の設置がニホンザル農作物加害群の生息地利用に与える影響 

P-3 河野穂夏、山田一憲、中道正之(大阪大学大学院人間科学研究科)

社会行動に基づいた飼育アビシニアコロブスの妊娠推定 

P-4 谷口晴香(京都大学理学研究科)

野生ニホンザルにおける2-3ヶ月齢のアカンボウの食物選択:食物のかたさに着目して 

P-5 勝野吏子(大阪大学大学院人間科学研究科)

敵対的交渉後場面におけるニホンザルのあいさつ音声の発声に及ぼす要因 

P-6 横山慧(京都大学大学院理学研究科)

嵐山E群におけるニホンザルオトナオスの援助行動 

P-7 豊田有(京都大・霊長類研究所)、清水慶子(岡山理科大・理学部)、古市剛史(京都大・霊長類研究所)

京都市嵐山群の高齢メスニホンザルにおける閉経後の性行動に関する内分泌学的研究 

P-8 Lucie Rigaill(Primate Research Institute, Kyoto University)、Cecile Garcia(Laboratoire de Dynamique de l’Evolution Humain)、Takeshi Furuichi(Primate Research Institute, Kyoto University)

Signals contain in wild female Japanese macaques’ face colour : Preliminary and promising results.

 (文責:半谷吾郎)

 

「霊長類への展開に向けた幹細胞・生殖細胞・エピゲノム研究」

日時:2014年8月26日(火)・27日(水)

場所:京都大学霊長類研究所 大会議室(参加人数:約60人)

世話人:今村公紀

幹細胞、生殖細胞、およびエピゲノム研究は、現代生命科学の潮流において最前線に位置付けられ、世界中で多くの研究者が鎬を削っている。我が国はそのリーディングパートの一翼を担っており、研究の成果は基礎研究に留まらず、繁殖や生殖工学・発生工学に活用されている。一方、これらの研究は基本的にマウスを対象に展開されており、霊長類に対する研究はその重要性が年々高まりつつも普及には至っていないのが現状である。霊長類への研究の展開を促進するためには、第一にトップリーダーの研究者の方々に霊長類の研究プラットフォームと新規開拓領域としての意義・魅力を発信することが重要となる。そこで、本研究会では「霊長類を対象とした研究に既に取り組んでいる研究者」と「今後の利用とコミュニティへの周知を期待する研究者」を招いたセミナーを行い、霊長類への研究の展開の可能性について議論した。本研究会を通して、霊長類(および霊長研)の認知度を高めつつ、研究者を相互に連結した有機的ネットワークの形成に向けた第一歩を踏み出せたものと期待している。

<プログラム>

8/26(火)

13:00~13:10 趣旨説明 今村公紀(京都大)

セッション1

13:10~13:40 平井啓久(京都大) ヘテロクロマチンと染色体分化

13:40~14:10 多田政子(鳥取大) マウスES細胞における細胞周期依存的DNAメチル化変換

セッション2

14:20~14:50 古賀章彦(京都大) レトロトランスポゾンがセントロメアを乗っ取った

14:50~15:20 塩見春彦(慶應大) 霊長類生殖細胞における転移因子抑制機構

15:20~15:50 中馬新一郎(京都大) マウス精子形成過程のトランスポゾン抑制とRNP制御

セッション3

16:00~16:30 木村透(北里大) 始原生殖細胞の分化と脱分化

16:30~17:00 村上和弘(北海道大) 転写因子によるマウス始原生殖細胞の試験管内再構築

17:00~17:30 高田達之(立命館大) 非ヒト霊長類ES,iPS細胞分化におけるTEKTIN1発現細胞の解析

セッション4

17:40~18:10 久保田浩史(北里大) 哺乳動物精原幹細胞の共通性と多様性

18:10~18:40 今村公紀(京都大) 霊長類精子形成の発生・分化と培養

19:30~21:30 懇親会

8/27(水)

セッション5

9:30~10:00 一柳健司(九州大) 進化的時間スケールでの霊長類生殖細胞エピゲノムのダイナミクス

10:00~10:30 中林一彦(成育医療研究センター) ヒトインプリントーム解析から見えてきたヒト(霊長類)特異的エピゲノム進化

セッション6

10:40~11:10 外丸祐介(広島大) 霊長類の体外培養系卵子について

11:10~11:40 新倉雄一(武蔵野大) 生殖の視点から女性医療を考える

12:00~13:00 ランチョンセミナー:iPS細胞から疾患モデル細胞を作る ライフテクノロジーズジャパン

セッション7

13:10~13:30 馬場庸平(慶應大) 霊長類多能性幹細胞由来神経細胞を用いた進化研究の試み

13:30~14:00 Thomas Muller(Hannover Medical School MHH) Stemness and epigenetic features of amnion-derived mesenchymal stroma cells of the common marmoset

14:00~14:30 佐々木えりか(慶應大) 次世代発生工学研究のモデル動物、コモンマーモセット

14:30~14:40 閉会挨拶 今村公紀(京都大)

(文責:今村公紀)

 

「第2回 ヒトを含めた霊長類比較解剖学-背部の基本構成と特殊化を探る-」

日時:2014年10月11日 (土)

場所:京都大学霊長類研究所 大会議室(参加人数:約20人)

世話人:時田幸之輔(埼玉医科大学)、平﨑鋭矢

ヒトを含めた霊長類比較解剖学として, 今年度は, 背部の形態学的特徴を考えた。背部は本質的に最初に形成された体幹の最も古い部分であるとされており, 部位による分化の違いが少なく, 一様な分節的構成を持つとされている(山田)。よって, 基本的な形態が保持されている部位とも言える。背部を理解することは霊長類の体の基本構成を理解する上で重要であると考えられる。

一方, 頭部という特殊に分化した部分との移行部である後頭部, および四肢との移行領域である肩甲帯, 臀部は分節的構成が修飾され, 理解の難しい領域である。これらの移行領域は霊長類各種の運動様式との関連も示唆され, 霊長類固有の構造も予想される。

また,ヒトは直立二足姿勢という固有の姿勢をとる。よって, ヒト固有の形態も予想される。

本研究会は, 背部を構成する, 骨, 筋, 脊髄神経についての肉眼解剖学的な調査を紹介してもらうとともに, ヒトを含めた霊長類背部の基本構成と特殊化について, 理解を深めることを目的とした。研究会は, 下記のプログラムに示されるように多様な研究成果が報告され, 活発な議論が交わされた。

<プログラム>

10/11(土)

13:00~13:25 場・受付

13:25~13: 30 趣旨説明 時田幸之輔(埼玉医科大学)

Ⅰ  骨 座長 小島龍平

13:30~14:00 大村文乃(東京大学)  両棲類有尾目の体幹部における筋骨格構造と環境との関係

14:00~14:30 加賀谷美幸(広島大学) サルの肩はどこにあるか:胸郭・前肢帯の骨格形態と生体の分析から

Ⅱ  胸腰部の筋・神経 座長 荒川高光

14:40~15:10 岡健司(大阪河﨑リハビリテーション大学) 療法士からみた類人猿の腰背部筋

15:10~15:40 布施裕子(リハビリテーション天草病院) 胸腰神経後枝内側枝の特徴

~胸腰部移行領域に着目して~

15:40~16:10 時田幸之輔(埼玉医科大学) 胸・腰神経後枝内側枝と横突棘筋群の分布から考える霊長類の特徴

Ⅲ 後頸部の筋・神経 座長 時田幸之輔

16:20~16:50 小島龍平(埼玉医科大学) ブタ胎仔の頚部固有背筋の構成

16:50~17:20 矢野航(朝日大学) 耳介に分布する脳神経および頸神経皮枝の比較解剖学  

17:25~17:55 竹澤康二郎(日本歯科大学新潟) 外側後頭神経の神経線維解析

17:55~18:25 相澤幸夫(日本歯科大学新潟) 頚神経後枝内側枝は本当に内側枝か

18:25~18:55 荒川高光(神戸大学)  頭板状筋の支配神経から観たヒト後頭部の特徴

閉会

(文責:時田幸之輔・平﨑鋭矢)

 

「第10回犬山国際比較社会認知シンポジウム (The 10th Inuyama International Comparative Social Cognition Symposium)」

共催

日本学術振興会基盤研究(S)「海のこころ、森のこころ. ─鯨類と霊長類の知性に関する比較認知科学─」

日時:2015 年2 月28 日~3 月1 日

場所:京都大学霊長類研究所大会議室

後援:京都大学こころの先端研究ユニット

<プログラム>

2015/2/28

SESSION I

13:00-13:30 板倉昭二(京都大)Infants rely on helping and hindering actions to generate expectations about agents’ fairness

13:30-14:00 岩崎純衣(京都大)ハトにおける展望的記憶の検討

14:00-14:30 植田彩容子(京都大)オオカミの目はなぜ目立つ?イヌ科動物の顔の色彩パターンの比較から

14:30-15:00 島田将喜(帝京科学大)社会的遊びとホモルーデンスの進化

15:00-16:00 施設見学

SESSION II

16:00-16:30 関義正(愛知大)動物は視聴覚機器を介した対面コミュニケーションを好むだろうか-セキセイインコを用いた研究

16:30-17:00 澤幸祐(専修大)“Sense of self-agency” in rats

17:00-17:30 今野晃嗣(帝京科学大)イヌの尻尾振りと情動伝染

17:30-18:00 幡地祐哉(京都大)鳥類における視野安定機能―歩行時頭部運動の分析―

18:00-18:30 吉田弥生(京都大)イロワケイルカにおける音声研究の可能性

19:00- 懇親会

2015/3/1

SESSION III

9:00-9:30 池田彩夏(京都大)日本語学習児におけるInfant-Directed Speech とAdult-Directed Speech の使い分けの理解9:30-10:00 磯村朋子(京都大)自閉症児における怒り顔への視覚的注意

10:00-10:30新屋裕太(京都大)早産児における自発的啼泣と自律神経活動との関連

SESSION IV

10:45-11:15田中友香理(京都大)触覚を介した母子間相互作用経験が母親の脳内情報処理に与える影響

11:15-11:45 古見文一(京都大)ロールプレイがマインドリーディングに及ぼす効果の転移

11:45-12:15 大久保街亜(専修大)裏切り者よ,汝,左の頬を出せ:ポーズの左右差と信頼感

SESSION V

13:15-13:45 山田祐樹(九州大)情動の配置

13:45-14:15 白井述(新潟大)乳児期におけるImplied motion 知覚の発達

14:15-14:45 平松千尋(九州大)視知覚の種間比較研究: 素材質感知覚や顔色知覚、種間比較の難しさについて

14:45-15:15 平山高嗣(名古屋大)人の内部状態を顕在化する視覚的インタラクションのデザインとマイニング

15:15-15:45 石井敬子(神戸大)感情情報に対する注意の文化差

15:45-16:00 総合討論

 2015年2月28日~3月1日の2日間、京都大学霊長類研究所において「第10回犬山比較社会認知シンポジウム(iCS2-10)」を開催した。このシンポジウムはその名の通り、主として社会的認知に関連する比較研究を進めている研究者を糾合し、この領域の現状と展望を広く共有しようという目的で2005年から京都大学霊長類研究所共同利用研究会として続けてきた。実際には、社会的認知、比較認知にこだわることなく、動物行動学、発達科学から、ロボット学、工学、哲学にいたる非常に幅広い領域から研究者を招いてクロスオーバーな議論ができる場となるよう心がけて運営してきた。

 今回は、国内の若手研究者を中心に20名の講演者を招待し、それぞれの研究の紹介とその展望についてお話しいただいた。トピックは視知覚から情動の伝染まで、研究対象はオオカミからハトまで、とこれまで同様非常にバラエティに富んだものであった。バラエティに富むということは逆に統一感がないという危惧ももたらすが、それぞれの研究がいずれかの研究と何らかの接点を持つものばかりであり、その点では、「比較・社会・認知」というスコープの中での充実した議論を行うことができた。参加者は二日間で計50名であった。また、京都大学こころの先端研究ユニットの後援を受けた。

今回が10回の節目ということもあり、次年度以降は共同利用研究会という枠にとらわれることなく、数多くの研究者を糾合し議論する場として、新たな開催形態のもとで本研究会を継続していきたい。                          

(文責:友永雅己)

 

 

第43回ホミニゼーション研究会「霊長類学・ワイルドライフ・サイエンス」

日時:2015 年3 月5 日~3 月6 日

場所:京都大学理学部セミナーハウス(参加人数:108名)

世話人:松沢哲郎、平井啓久、古市剛史、湯本貴和、マイク・ハフマン、岡本宗裕

リーディング大学院PWSと連携して、霊長類学とワイルドライフサイエンスの展望について、最新の研究動向に関する話題提供と議論を行った。2日目朝には、山極寿一総長のトークも行われた。その他にも国内外の研究者およびPWS履修生による発表が多数行われ、活発な議論が行われた。

<プログラム>

2015年3月5日(木)

Opening Remarks (13:15-13:30)

Session1 (Chair: Masaki TOMONAGA, 13:30-15:00)

Tetsuro MATSUZAWA “Perspectives of Wildlife Science”

Ikki MATSUDA “Following the Trail of the Elusive Proboscis Monkey in Borneo”

James ANDERSON “A Video Deficit Effect in Capuchin Monkeys”

Session2 (Chair: Takushi KISHIDA, 15:15-16:45)

Takashi HAYAKAWA “Eco-Genomics in Primates”

Kodzue KINOSHITA “Studies on Reproductive Physiology of Bornean Orangutan (Pongo pygmaeus)”

Hideki ABE “Abundance, Arrangement, and Function of Sequence Motifs in Avian Promoters”

Poster Session (17:00-)

2015年3月6日(金)

President's talk (9:00-9:30)

Juichi YAMAGIWA “WINDOW: The new idea for the education in Kyoto University”

Session3 (Chair: Yuko HATTORI, 9:30-10:30)

Ryo KUTSUMA “The First Year as PWS Student”

Kei MATSUSHIMA “Activity Report and Research Plan for Armadillo's Burrows”

Natsumi ARUGA “Research on Nursing Environment in chimpanzees in Kalinzu Forest and Education on Primates in Children in Uganda”

Aya YOKOTSUKA “What Influences on the Taboo Against Consuming Bonobo Meat in Bongando Oopulation at Amba, DR Congo”

Session4 (Chair: Andrew MACINTOSH, 10:45-12:15)

Kaede MIZUKOSHI “Report of This Year”

Kazuya TODA “How Did a Sub-adult Female Bonobo After Transfer Behave in Group-encounter with Her Natal Group?”

Sayuri TAKESHITA “Field Report: Physiological Variations on Steroid Hormones in Non-human Primates”

Nobuko NAKAZAWA “Activity Report”

Sofi Bernstein “Investigating the Vocalizations of Tibetan Macaques in the Valley of the Wild Monkeys at Mt. Huangshan, China and Collaborative Work with Anhui and Central Washington University”

Hiroko SAKURAGI “Getting Started in Tanzania”

Session5 (Chair: Ikuma ADACHI, 13:45-15:00)

Misato HAYASHI “Cognitive Development and Mother-infant Relationship in Captive and Wild Chimpanzees”

Yumi YAMANASHI “Welfare Studies of Captive Chimpanzees: Development of Practical Methodologies to Monitor and Alleviate Stress at a Sanctuary and Zoos in Japan”

Fumihiro KANO “A Comparative Study of Emotion and Cognition Using Both Physiological and Behavioral Measures in Bonobos and Chimpanzees”

Session6 (Chair: Fred BERCOVITCH, 15:15-16:45)

Chia TAN “Primate Conservation through Research, Capacity-building, Education and Integrated Partnerships”

Fred BERCOVITCH “Foraging Strategies of Giraffes and Baboons”

Jae CHOE “Longterm prospects for Korean ecology with a special emphasis on primate research”

Poster Session (17:00-)

Conservation Event (19:00-)

Organizers: Sofi BERNSTEIN & Cecile SARABIAN

(文責:松沢哲郎)

 

「豪雪地域におけるニホンザルの洞窟利用」

日時:2015年3月7日(土)・8日(日)

場所:京都大学霊長類研究所 大会議室 (参加人数:約15人)

世話人:柏木健司、高井正成

主催:京都大学霊長類研究所

研究集会の主たる目的は、富山県東部の黒部峡谷で明らかになりつつあるニホンザルの洞窟利用について、これまでの研究成果を総括するとともに、今後の研究計画を構築することである。話題提供をお願いした演者の専門領域は、生態、冬季食性、糞分解生物、自動センサーカメラによる調査法に加え、古生物や洞窟古気候学、気象学等と多岐にわたる。研究集会では、複合領域からの視点で活発な議論が個々に時間を超過して交わされ、異分野間の相互の研究交流が図られるとともに、豪雪地域のニホンザルの生態の一側面としての「厳冬期洞窟利用」について、今後の研究計画等について議論が活発に行われた。豪雪地域で洞窟、かつ冬季は入山できない等、調査地域の研究環境は極めて厳しい状況にあるものの、今後、調査手法等の基礎的な部分を含む課題解決を含め、情報交換を密に行い研究を遂行していくことを確認した。

<プログラム>

3月7日 13時00分~

13:00~13:05 柏木健司(富山大)

    「研究集会趣旨」 

13:05~13:30 柏木健司(富山大)・高井正成(京大霊長研)

    「ニホンザルの洞窟利用研究の現状」

13:30~14:00 矢野 航(朝日大)・辻 大和(京大霊長研)

    「糞からみたニホンザルの冬季食性について」

14:00~14:30 石井 清(獨協医科大)

    「サル穴で発見されたヤスデと糞分解過程について」

14:30~15:00 狩野彰宏(九州大) 

    「石筍記録から見る日本海側での気候変動」

15:00~15:30 松田一希(京大霊長研)

    「自動撮影カメラによる動物観察:ボルネオ島の塩場に集まる動物たち」

15:30~15:45 休  憩

15:45~16:00 柏木健司(富山大)

    「哺乳類の洞窟利用と化石化過程」

16:00~16:30 高井正成(京大霊長研)

    「東アジアにおけるマカク化石の出土状況とニホンザルの起源」

16:30~17:00川田邦夫(富大名誉教授) 

    「黒部峡谷の積雪と雪崩」

3月8日 9時00分~

9:00~9:30 吉田勝次(社団法人日本ケイビング協会)

    「ケイビングと学術調査について」

9:30~10:00 西岡佑一郎(大阪大学総合学術博物館)

    「サル穴から見つかった小型哺乳類化石群集:ネズミも洞内生活していたのか?」

10:00~10:30 小川秀司(中京大)

    「霊長類における崖の岩棚等の泊まり場選択について」

10:30~11:30 柏木健司(富山大)・高井正成(京大霊長研)

    「総合討論及び今後の調査研究に関して」

(文責:柏木健司・高井正成)

 

 

「霊長類脳科学の新しい展開とゲノム科学との融合」

日時:2015年3月13日(金)13:30 - 3月14日(土)16:40

場所:京都大学霊長類研究所大会議室

研究会世話人:高田昌彦

平成25年度から開始された共同利用・共同研究プロジェクトの計画研究「霊長類脳科学の新しい展開とゲノム科学との融合」では、脳科学とゲノム科学との融合を目指して、革新的サルモデルや先端的研究手法による次世代の研究を展開することを目的としている。本研究会は、ヒトを含む霊長類を用いて、認知行動を支配する神経ネットワーク活動と神経ネットワーク活動を支配する認知ゲノム発現の生物学的フレームワークを明らかにするため、高次脳機能や精神・神経疾患に関する多様な研究を意欲的に展開している研究所内外の研究者(特に若手研究者)を対象にして、最新の研究成果紹介と情報交換、意見交換をおこなった。

<プログラム>

3月13日(金)

 13:30-13:40開会挨拶 高田昌彦(京都大学霊長類研究所)

 13:40-14:20精神神経疾患の霊長類(マカクザル)モデルの作出に向けて

磯田昌岐(関西医科大学) 

 14:20-15:00成体脳神経新生のin vivo動態解析技術の創出

植木孝俊(名古屋市立大学)

 15:00-15:30ブレイク、チンパンジー施設見学

 15:30-16:00脊髄損傷からの運動機能回復を支える側坐核の役割

西村幸男(生理学研究所)

 16:00-16:40体性感覚を光遺伝学によって操作する試み

関 和彦(国立精神・神経医療研究センター)

 16:40-17:20大脳小脳連関と高次機能

田中真樹(北海道大学)

 17:20-18:00帯状皮質運動野の動作制御への関与

星 英司(東京都医学総合研究所)

3月14日(土)

9:00- 9:40 運動課題遂行中のサルにおける淡蒼球ニューロン活動のグルタミン酸およびGABA作動性調節

畑中伸彦(生理学研究所)

  9:40-10:20 光遺伝学によるサル神経回路機能の探索に向けて

松本正幸(筑波大学)

 10:20-11:00DREADD-PETが可視化する霊長類脳科学の新展開

南本敬史(放射線医学総合研究所)

 11:00-11:40ウィルスベクターを用いた神経回路改変技術による霊長類脳機能の研究

小林和人(福島県立医科大学)

 11:40-12:10AAVベクターによる霊長類新生児への全脳的遺伝子導入

井上謙一(京都大学霊長類研究所)

 12:10-13:00ブレイク

 13:00-13:30RGMa抗体治療を用いたサル脊髄損傷後の運動機能回復

中川 浩(京都大学霊長類研究所)

 13:30-14:00柔軟な判断の基盤となる積分器神経回路の動作原理の解明

宇賀貴紀(順天堂大学)

 14:00-14:30霊長類における精神・神経疾患関連遺伝子解析と認知ゲノミクスの展望

郷 康広(生理学研究所)

14:30-15:00  脳情報を眼の小さな揺らぎと脳幹のニューロン活動から読み取り脳を操作する

小林 康(大阪大学) 

 15:00-15:30前頭連合野研究の新展開

筒井健一郎(東北大学)

 15:30-16:00ゲノム科学による霊長類脳の多様性の解明

橋本亮太(大阪大学)

 16:00-16:30サル視床前腹側核大細胞部 (VAmc) における、安定した物体価値の表現

安田正治(関西医科大学)

 16:30-16:40閉会挨拶 高田昌彦(京都大学霊長類研究所)

(文責:高田昌彦)