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京都大学霊長類研究所 > 年報のページ > Vol.45 > Ⅲ. 研究教育活動 Ⅲ. 研究教育活動 1. 研究部門及び附属施設 進化系統研究部門 系統発生分野 <研究概要> A) 東部ユーラシア地域における新第三紀の霊長類進化に関する研究 A-1) ミャンマー産オナガザル科化石の研究 高井正成, 西村剛, 江木直子, 西岡佑一郎 ミャンマーの鮮新世-更新世の地層を対象に霊長類を中心とした哺乳類化石の発掘調査をおこない,チャインザウック地域から見つかった中新世末-鮮新世初頭のコロブス亜科化石(新属・新種)とグウェビン地域から見つかった後期鮮新世のSemnopithecus属の新種化石の記載論文を発表した。 A-2) 台湾西方の澎湖海峡から出土した古代人骨の研究 高井正成 台湾国立科学博物館の張鈞翔博士や国立科学博物館の海部陽介博士・河野礼子博士などと協力して,澎湖海峡の海底から出土した後期更新世の古代人の化石下顎の報告を行った。下顎骨の形態や推定年代などから,アジア地域における「第4の原人」である可能性が高い事が判明した。 A-3) 中国産大型ヒヒ族化石の研究 西村剛, 伊藤毅, 高井正成 更新世東・南ユーラシア産プロサイノセファルスと西ユーラシア産パラドリコピテクスの分類の再検討を行った。現生ヒヒ亜族とマカクの頭蓋骨のCT画像データをもとに,内部構造の形態変異を明らかにし,それをもとに中国産プロサイノセファルスの内部構造について分析した。既知のパラドリコピテクスの知見も再検討し,いずれもマカク的な形態学的特徴を有していることを明らかにした。 A-4) 中国南部の更新世霊長類相の変遷に関する研究 高井正成 中国科学院古脊椎動物・古人類研究所の金昌柱教授の調査隊に協力して,中国南部の広西壮族自治区の更新世の洞窟堆積物から産出する霊長類の遊離歯化石を解析し,更新世の霊長類相の変遷に関する論文を発表した。特に絶滅した類人猿であるギガントピテクスGigantopithecusとオナガザル亜科のマカク類Macacaの進化史について詳しい検討を行い,,論文として発表した。 A-5) 韓国産マカク化石の頭骨内部形態に関する研究 伊藤毅, 西村剛, 高井正成 韓国産マカク化石をCT撮像し,その頭骨の内部構造と外表形状を現生種と比較することで,その系統的位置について検討した。 B) 東部ユーラシア地域における古第三紀の霊長類進化に関する研究 高井正成, 西村剛, 江木直子, 西岡佑一郎 ミャンマーのポンダウン地域に広がる中期始新世末の地層から産出する霊長類化石は,原始的な曲鼻猿類と真猿類の中間的な形態を示し,真猿類の起源地と起源時期に関する論争を起こしている。それらの化石の形態学的および系統的な解析をおこない,ポンダウン層の年代に関する論文を発表した。 C) 現生霊長類の機能形態学的研究 C-1) ニホンザルの音声生理に関する実験行動学的研究 西村剛,伊藤毅,國枝匠,香田啓貴(認知学習分野) 音声生成運動のサルモデルを確立するため,音声発声のオペラント条件付けを施したニホンザルを対象として,各種の音声行動実験を実施した。また,コモンマーモセットのヘリウム音声実験を実施し,フィーコールの音声生理はヒトと同様に音源-フィルター理論によっていることを明らかにした。また,サル類の声帯振動モードの機能形態学的分析の実施に向けて,オーストリア・ウィーン大学での共同研究実施の準備を整えた。 C-2) ヒトおよびチンパンジーの鼻腔の生理学的機能に関する流体工学的分析 西村剛,鈴木樹理(人類進化モデル研究センター),宮部貴子(人類進化モデル研究センター),松沢哲郎(思考言語分野),友永雅己(思考言語分野),林美里(思考言語分野) ヒトの鼻腔の生理学的機能の特長を明らかにするために,ヒトおよびチンパンジーの医用画像データより鼻腔形状モデルを作成し,鼻腔内の吸気の流れ,温度・湿度変化に関する流体工学的シミュレーションを実施した。ヒトの鼻腔形状を仮想的に変形させたモデルでのシミュレーションを実施し,ヒト特有の形態学的特徴の機能適応を検討した。また,マカクザルをモデルに,副鼻腔の鼻腔内の吸気の流れ,温度・湿度変化への寄与を検討し,顕著な寄与は認められないことを明らかにした。 C-3)ニホンザルの頭骨形状の比較研究 伊藤毅,西村剛,高井正成 ニホンザルの現生種を対象に,CTを用いた頭骨内部構造の解析と幾何学的形態測定を用いた頭骨の解析を行い,頭蓋顔面のモジュール性について検討した。 C-4) 霊長類の大臼歯形態の進化パターンにおける抑制カスケードモデルの検討 浅原正和,高井正成 実験発生学から提唱された臼歯形態を決定する発生モデルである抑制カスケードモデルが霊長類臼歯形態の多様性を説明できるか,形態学的に検討を行った。 C-5) マカク類の下顎骨における形態異常に関する研究 高井正成 日本大学松戸歯学部の近藤信太郎教授と協力して,オナガザル科のサルの下顎瘤と下顎窩の出現頻度を検討し,その成因について論文として報告した。 D) 霊長類以外のほ乳類を主な対象とした古生物学的研究 D-1) 古第三紀哺乳類相の解析 江木直子,高井正成 古第三紀(6500万年前~2400万年前)の陸棲脊椎動物相を解析することによって,哺乳類の進化の実態を明らかにすることを目指している。本年度は,①モンゴルのエルギリンゾー層から産出した食肉類化石の系統分類学的同定と記載,古生物地理学的考察,②アジア東部の古第三紀肉食哺乳類相の変化と哺乳動物相の古生物地理学的イベントとの相関の検討,③肉歯目の系統的位置の検討のために,現生・化石哺乳類の四肢骨形態のデータを収集した。 D-2) ミャンマー中部における新第三紀哺乳類相の解析 西岡佑一郎, 高井正成, 江木直子, 西村剛 ミャンマーの新第三紀哺乳類相とその進化史の解明を目指し,中新世から更新世に生息していた哺乳類化石群集の古生物学的研究を行っている。本年度は,ミャンマー中部のイラワジ層(チャインザウク地域,グウェビン地域)を中心に発掘調査を実施し,コロブス類を含む多くの哺乳類化石を発見した。産出標本のうち,偶蹄類(ウシ科),齧歯類,兎類標本の記載を進め,ミャンマー中部の新第三紀哺乳類相と年代,古環境などを調べた。 D-3) タイの中期中新世の齧歯類化石の研究 西岡佑一郎 タイ北部のチェンムアン炭鉱から見つかっている齧歯類化石の分類学的研究を行った。化石標本の中には,ビーバーの仲間のAnchitheriomys類のほか,ユーラシア最大の齧歯類が含まれていた。これらの齧歯類化石をより詳しく解析するため,電子顕微鏡を用いたエナメル微細構造の観察を試みた結果,ユーラシア最大と思われる齧歯類は未だ報告されていない種であり,少なくともビーバー類やヤマアラシ類のような既知の大型齧歯類とは異なっていることがわかった。 D-4) 台湾海峡産タヌキ化石の系統推定 浅原正和,高井正成 台湾海峡の海底からは後期更新世の化石が産出することが知られている。このうちのタヌキ化石が現在タヌキの分布する東アジアのどの亜種に近縁であるか,形態学的に検討を行った。 D-5)ミャンマー中部の古第三紀の貝形虫化石の解析 高井正成 高知大学海洋コア総合研究センターの山口龍彦博士と共同で,ミャンマー中部の後期始新世の貝形虫化石の記載論文を発表した。 <研究業績> 原著論文 1) Chang C.-H, Kaifu Y, Takai M, Kono R.T, Grün R, Matsu'ura S, Kinsley L, Ling L.-K. (2015) The first archaic Homo from Taiwan. Nature Communications,6: 6037. 2) Ito T, Nishimura TD, Ebbestad JOR, Takai M (2014) Computed tomography examination of the face of Macaca anderssoni (Early Pleistocene, Henan, northern China): implications for the biogeographic history of Asian macaques. Journal of Human Evolution,72,64-80. 3) Ito T, Nishimura TD, Hamada Y, Takai M (2015) Contribution of the maxillary sinus to the modularity and variability of nasal cavity shape in Japanese macaques. Primates,56,1,11-19. 4) Khin Zaw, Meffre S, Takai M, Suzuki H, Burrett C, Thaung Htike, Zin Maung Maung Thein, Tsubamoto T, Egi N, Maung Maung (2014) The oldest anthropoid primates in SE Asia: Evidence from LA-ICP-MS U-Pb zircon age in the Late Middle Eocene Pondaung Formation, Myanmar. Gondwana Research,26,1,122-131. 5) Takai M, Zhang Y, Kono R.T, Jin C (2014) Changes in the composition of the Pleistocene primate fauna in southern China. Quaternary International,354,75-83. 6) Morimoto N, Suwa G, Nishimura T, Ponce de León MS, Zollikofer CP, Lovejoy CO, Nakatsukasa M (2015) Let bone and muscle talk together: a study of real and virtual dissection and its implications for femoral musculoskeletal structure of chimpanzees. Journal of Anatomy,226,3,258-267. 7) Nishimura T, Ito T, Yano W, Ebbestad JOR, Takai M (2014) Nasal architecture in Procynocephalus wimani (Early Pleistocene, China) and implications for its phyletic relationship with Paradolichopithecus. Anthropological science,122,2,101-113. 8) Nishimura TD, Ito T (2014) Aplasia of the maxillary sinus in a Tibetan macaque (Macaca thibetana) with implications for its evolutionary loss and reacquisition. Primates,55,4,501-508. 9) Kono RT, Zhang Y, Jin C, Takai M, Suwa G (2014) A 3-dimensional assessment of molar enamel thickness and distribution pattern in Gigantopithecus blacki. Quaternary International,354,46-51. 10) Ito T, Nishimura T, Takai M (2014) Ecogeographical and phylogenetic effects on craniofacial variation in macaques. American Journal of Physical Anthropology,154,1,27-41. 11) Asahara M (2014) Shape variation in the skull within and between wild populations of the raccoon dog (Nyctereutes procyonoides) in Japan. Mammal Study 39: 105–113. 12) Asahara M (2014) Evolution of relative lower molar sizes among local populations of the raccoon dog (Nyctereutes procyonoides ) in Japan. Mammal Study 39: 181–184. その他の執筆 1) 浅原正和 (2015) 江戸時代の本草書に垣間見える、たぬき・むじな事件の源流.たぬき道 70–71:12–19. 2) 髙井正成 (2014) 週刊地球46億年の旅 33号. 朝日新聞出版. 3) 髙井正成 (2014) 週刊地球46億年の旅 37号. 朝日新聞出版. 学会発表 1) Egi N, Tsubamoto T, Takai M, Tsogtbaatar Kh, Saneyoshi M (2014) Taxonomic diversity and geographical distribution pattern in hyaenodontids (Mammalia) from the Paleogene of Asia. 74th Annual Meeting, Society of Vertebrate Paleontology Program and Abstracts,124-124. 2) Koda H, Tokuda I, Oyakawa C, Nihonmatus T, Wakita M, Masataka N, Nishimura T (2014) Formant tuning techinique in vocalizations of non-human primates. The 10th International Conference on the Evolution of Language. (2014/4, Vienna, Austria).. 3) Kono R, Zhang Y, Jin C, Takai M, Wang W, Harrison T (2014) Chronological change of the Gigantopithecus post-canine dental size. Anthropological Science,122,3,172-172. 4) Nishimura T, Koda H, Tokuda IT, Wakita M, Ito T (2015) Helium experiment and vocal physiology of the phee calls in common marmosets. The 84th Annual Meeting of the American Association of Physical Anthropologists. (2015/3, St. Louis, USA). American Journal of Physical Anthropology, 156: 236-237.. 5) Nishimura TD, Mori F, Hanida S, Kumahata K, Miyabe-Nishiwaki T, Suzuki J, Matsuzawa T (2014) Few contributions of the maxillary sinus to air-conditioning in macaques. The 25th Congress of the International Primatological Society. (2014/8, Melia Hotel, Hanoi).. 6) Takai M, Zhang Y, Jin C, Kono R.T, Wang W (2014) Changes in the Pleistocene cercopithecid fauna in southern China. Anthropological Science,122,3,171-171. 7) Nishimura T, Mori F, Hanida S, Kumahata K, Ishikawa S, Miyabe-Nishiwaki T, Hayashi M, Tomonaga M, Suzuki J,Matsuzawa Tet, Matsuzawa Ter (2014) Computed fluid dynamics of the air-conditioning through the nasal passage in humans, chimpanzees, and macaques. The 83rd Annual Meeting of the American Association of Physical Anthropologists (2014/4, Calgary, Canada) American Journal of Physical Anthropology 153 (Suppl. 58): 196.. 8) Tsubamoto T, Egi N, Takai M, Thaung-Htike, Zin-Maung-Maung-Thein (2014) Rich artiodactyl assemblage from the Middle Eocene Pondaung Formation, Myanmar. 74th Annual Meeting, Society of Vertebrate Paleontology Program and Abstracts,243-243. 9) 山口龍彦, 鈴木寿志, アウンナインスー・タウンタイ, 野村律夫, 高井正成 (2014) ミャンマーの上部始新統Yaw層のBicornucythere属(貝形虫)の新種と進化史的意義. 日本古生物学会2014年年会講演予稿集,40-40. 10) 西村剛, 香田啓貴, 徳田功, 脇田真清, 伊藤毅 (2014) マーモセットにおけるホイッスル様音声の生成メカニズム. 第68回日本人類学会大会 (2014年11月, アクトシティ浜松, 浜松). Anthropological Science 122: 176.. 11) 浅原正和・張鈞翔・高井正成 (2014) 形態から食性や系統を推定する:タヌキにおける研究例. 日本哺乳類学会2014年度大会プログラム・講演要旨集,121-121. 12) 鍔本武久、江木直子、高井正成、タウン-タイ、ジン-マウン-マウン-テイン (2015) 霊長類における距骨からの体重推定とポンダウン化石霊長類への応用. 日本古生物学会2015年例会予稿集,41-41. 13) Kondo S, Naitoh M, Matsuno M, Takai M (2014) Morphological variation of the fossa on the lateral surface of the mandible in Papio. Anthropological Journal,122,3,175-175. 14) Kono RT, Zhang Y, Jin C, Takai M, Wang W, Harrison T (2014) Size trend of the large hominoid tooth fossils from the Pleistocene cave deposits in southern China. The 25th Congress of the International Primatological Society. 15) 浅原正和 (2014) ニホンザルにおける下顎大臼歯相対サイズの地理的変異.日本人類学会第68回大会.Anthropological Science 122(3): 189(2014/10-11,浜松市). 16) 西岡佑一郎(2014)東南アジアのタイワンリス亜科の頬歯パターン比較とミャンマー(後期鮮新世)の化石種の分類学的再検討.日本哺乳類学会2014年度大会.講演要旨集78頁(2014/09/4-7,京都).
講演 1) 西村剛 (2014) サルのことば. ウィーン日本人学校講義, オーストリア・ウィーン日本人学校.
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