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京都大学霊長類研究所 > 年報のページ > 2013年度・目次 > 共同利用研究 京都大学霊長類研究所 年報Vol.43 2012年度の活動Ⅶ. 共同利用研究 3. 平成24年度で終了した計画利用研究 行動特性を支配するゲノム基盤と脳機能の解明 実施予定期間:平成 23~24 年度 課題推進者:高田昌彦,中村克樹,平井啓久,今井啓雄,郷康広 「ヒトとは何か?」これは人類全体の命題である。ヒトの進化を探るにあたり、疾病を手がかりとして解析することは有効な手段のひとつであろう。特に、精神・神経疾患はヒトの社会的行動とゲノムという観点から注目すべき表現型である。行動特性の面からヒトとヒト以外の霊長類を比較すると、興味深い事象がある。それは「ヒトで疾患型である行動がヒト以外の霊長類では極めて一般的な行動と捉えられ、逆に、ヒトで一般的である行動がヒト以外の霊長類においてはむしろ異常な行動と捉えられる」ことである。驚くべきことに、ゲノムレベルでもこれに類似した事象がある。すなわち、ヒトとサルで共通した祖先(共通祖先)に存在する遺伝子がわれわれ現代人では疾患型の遺伝子になっていたり、ヒトでは疾患型を呈する変異遺伝子がニホンザルやアカゲザルなどのマカク類では一般的な遺伝子になっていたりする。言い換えれば、左に示したように、精神・神経疾患でみられるヒトの行動は、元来、共通祖先では一般的な行動であったのかもしれない。行動とゲノムをキーワードにしてこのようなヒトとサルの相互関係を解析することは、ヒトの行動特性、精神・神経疾患のメカニズム、ひいては、人類の進化の中で「ヒトとは何か」を解明するための重要な糸口となる可能性を秘めている。ヒトを含む各種霊長類においてゲノム配列が解読されたことは、霊長類の行動特性とそれを規定する脳機能をゲノム情報から紐解く手がかりをもたらした。ゲノム科学と脳科学の2つの研究領域を融合させることにより、ゲノム情報に基づいてこれまでに類のない独創的なサルモデルを作出し、その行動特性と脳機能を連関させる新たな研究領域を創成するとともに、斬新でユニークなパラダイムやコンセプトを構築することが可能になる。 平成 23 年度から開始された本共同利用・共同研究プロジェクトの計画研究「行動特性を支配するゲノム基盤と脳 機能の解明」では、マカク類を用いてゲノムの網羅的解析を実施し、さまざまな行動特性を示す自然発生的遺伝子変異モデルをゲノムレベルと脳機能レベルで解析してきた。また、精神科領域と連携して、脳病態ゲノム多型と中間表現型(多因子疾患において遺伝が関与する神経生物学的障害)に関するデータベースを活用し、統合失調症、うつ病、自閉症などの精神疾患に関連するリスク遺伝子(例えば、COMT、BDNF、DISC1 などの機能多型)をマカク類において網羅的に検索するとともに、これらのゲノム情報に基づいて人為的遺伝子改変モデルを作出し、その行動特性と脳活動を解析することを進めてきた。このように、行動特性を決定するゲノム、ゲノムが制御する脳機能、脳機能が規定する行動特性という生物学的トライアングルの実体を明らかにすることを目的として研究活動を展開し、平成 24 年 3 月には特に「行動特性を決定するゲノム」と「ゲノムが制御する脳機能」に、また、平成25 年 3 月には特に「脳機能が規定する行動特性」に焦点を絞り、多様な研究を意欲的に展開している研究所内外の研究者の参加者を得て、最新の研究成果の紹介と活発な議論をおこなった。 研究実施者 <平成 23 年度> 小林和人 (福島医大・医)「行動特性を支配するゲノム基盤と脳機能の解明」 清水貴美子(東大・院・理)「霊長類における概日時計と脳高次機能との関連」 橋本亮太 (大阪大・院・連合小児発達学研究科)「ゲノムによる霊長類における脳機能の多様性の解明」 星英司 (東京都医学総合研究所・前頭葉機能プロジェクト)「行動特性を支配するゲノム基盤と脳機能の解明」 南部篤 (自然科学研究機構・生理研・生体システム)「行動特性を支配するゲノム基盤と脳機能の解明」 <平成 24 年度> 小林和人 (福島医大・医)「霊長類脳内遺伝子導入に有益な新規ウイルスベクターの開発」 橋本亮太 (大阪大・院・連合小児発達学研究科)「ゲノムによる霊長類における脳機能の多様性の解明」 南部篤 (自然科学研究機構・生理研・生体システム)「行動特性を支配するゲノム基盤と脳機能の解明に向けた神経解剖学的検索」 星英司 (東京都医学総合研究所・前頭葉機能プロジェクト)「行動特性を支配するゲノム基盤と脳機能の解明に向けた神経ネットワークの解析」 清水貴美子(東大・院・理)「霊長類における概日時計と脳高次機能との関連」 松下裕香 (東大・新領域・先端生命)「霊長類野生集団における感覚関連遺伝子の塩基多型評価」 (文責:高田昌彦)
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4. 共同利用研究会 第 41 回ホミニゼーション研究会「成長と加齢」 日時:2013 年 3 月 8 日(金)・9 日(土) 成長と加齢は、すべての生物にとってもっとも重要な問題である。どのような速度で成長し、どの程度の期間を繁殖に充てるのかということは、それぞれの種の繁殖戦略の映し鏡といえるし、脳や身体のそれぞれの部位に、どの時期どの程度のリソースを割り当てて成長するかという問題は、ヒトを含む霊長類ではとくに大きな問題になる。霊長類の中でも成長の遅滞と閉経の存在という大きな特徴を示すヒトについては、それらの特徴が発現した時期を特定することは、化石には残らない生活と社会構造の進化の解明の鍵となる。さらに、私たちヒトの心の成長の研究は、心の進化の意味を考えるとともに、現代を生きる上での諸問題の解決の糸口にもなる。この研究会では、ホミニゼーション研究の中心課題ともいえる成長と加齢の問題を、化石霊長類の身体的発達、現世霊長類の身体的発達、ヒトの心や言語の発達という 3 つの側面から、最新の研究成果とレビューを織り交ぜて考えた。 <プログラム> 「The slowest life history: オランウータンの成長と繁殖」 3 月 9 日(土) 「生態系における霊長類の役割」 開催日:2013 年 2 月 16 日(土)・17 日(日) 生態系を構成する動植物は、程度の違いはあるにせよ、互いに関わりを持って生活している。被食・捕食の関係はその代表的なものだが、他にも種子散布など動物と植物の間でみられる関係や、一方の動物が他方に食物を供給するという関係、そして寄生虫と宿主の関係などが知られている。これらの関係をたんねんに調べることで、研究対象の生態系における役割が明確になるが、従来の霊長類の野外調査は、霊長類のみを対象になされることが多く、ゆえに霊長類がそれ以外の動植物に与える影響、あるいは逆に他の動植物から受ける影響について調べた研究は乏しかった。本研究会は、日本各地の研究者を招き、おのおのの研究内容について紹介してもらうともに、種間関係の研究の今後の課題について話し合うことを目的とした。研究会は、8 名の研究者による種間関係の事例紹介と 2名の研究者によるコメントをふまえて活発な議論が交わされた。 <プログラム> 「コメント」 「どうなる野生動物!東日本大震災の影響を考える」 日時:2013 年 5 月 13 日(日) 震災、放射線影響を含めた東北被災地域のニホンザルを含む野生動物の生息状況、保全上の問題点を整理し、情報を共有すること、これら問題点への学会からの支援の在り方を検討することを目的として開催した。九州、北海道を含む全国から 240 名の参加があった。学会として、1)被災地で発生している野生動物問題に継続的に注目していく必要があること、2)調査研究および保護管理に係る活動ならびに人材育成を支援する必要があること、3)特に、放射線影響については不明な点が多く、長期的なモニタリング体制を作ることが重要であること、4)関連学会、関係機関および被災地住民との連携ならびに情報の共有に努める必要があること、5)被災地住民に、野生動物問題に起因する風評被害が及ばないようする必要があることが確認された。 なお、この研究会は京都大学野生動物研究センター共同利用研究会としても開催された。 <プログラム> 「第 8 回犬山比較社会認知シンポジウム」 日時:2013 年 1 月 12 日(土)・13 日(日) <プログラム> 14:45 休憩 「犬山比較社会認知シンポジウム」も今回で第 8 回を迎えた。第 3 回までは特定のテーマを設定して開催してきたが、第 4 回以降は、トピックを限定することなく、認知科学に関する多様な研究領域での最先端の研究の現状について、多くの研究者が分け隔てなく議論し合う場を構成することを目指してきた。互いに関連するとはいえ、実験から観察に到る多種多様な方法論から生み出される成果をそれぞれの立場から論じ合う場として、学界においてもある一程度の認知を獲得してきたと自負している。今回も1月の開催となったが、予想以上の参加者にご参集いただけた。今回も神経生物学から工学まで多様な研究の成果が報告された。今回は、準備の都合で例年行ってきたポスター発表を行わなかった。今後はまた再開したい。 (文責:友永雅己)
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