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京都大学霊長類研究所 > 年報のページ > 2011年度・目次

京都大学霊長類研究所 年報

Vol.41 2010年度の活動

年報 Vol.41

Ⅱ. 概要

1. はじめに

霊長類研究所の平成22年度の概要を述べる. まず沿革をかんたんに紹介する. 人間を含めた霊長類の基礎的な研究を総合的に推進するものとして, 日本学術会議の設立勧告を受けて, 昭和42年(1967年)に, 京都大学に附置された. 平成22年度から, 従来の全国共同利用研究所という制度から, 共同利用・共同研究拠点という新制度に移行したが, 主旨はかわらない. 霊長類研究についての国内拠点であり, 世界に開かれた国際拠点である.

4つの研究部門が研究所の中核である. 進化系統, 社会生態, 行動神経, 分子生理の4部門で, 「こころ・からだ・暮らし・ゲノム」 という4つの観点から人間の本性とその霊長類的基盤の研究をしている. 4部門のもとに合計10の分野がある. 10の分野はそれぞれ, 教授1・准教授1・助教1の3名から構成され, 従来の講座に近い. 分野によっては, 外部資金を基礎に, 特定教員を数名雇用している. いわばこの10の学問分野から, 霊長類の多様な研究を総合的に推進している.

研究部門には, 4大研究部門のほかに, 時限の研究部門がある. 寄附金をもとに運営される「寄附研究部門」と, 特定のミッションをもった「研究プロジェクト」である. 平成22年度の寄附研究部門としては2つある. 「比較認知発達(ベネッセコーポレーション)研究部門」は, 人間とチンパンジーの認知発達の比較研究をおこなっている. 「ボノボ(林原)研究部門」は, チンパンジーの別種であるボノボに焦点をあてた研究をおこなっている. さらに, 「白眉プロジェクト」と呼ぶ研究プロジェクトでは, 京大が平成21年度から始めた白眉プロジェクトに採用された研究者を受け入れている. なお時限の研究部門の教員は, 時限という性格上, すべて特定教員である.

2つの附属研究施設が,多様な研究の下支えをしている. 「人類進化モデル研究センター」は, 兼任のセンター長1名(平井啓久教授), 専任教員5名, 特定教員1名, 技術職員8名と, サル類飼育の現場を担う多数の研究支援推進員・技能補佐員から構成される. 人類センターは, 「飼育一元化」という旗印のもとで, 霊長類研究所の保有するすべてのサル類14種1200個体を健康に維持している.

もうひとつの附属施設である「国際共同先端研究センター」は, 兼任センター長1名(所長兼任)と, 特定教員3名, 再雇用技術職員2名, 特定事務職員1名から構成される. なお, 平成23年度から専任教員と特定職員と外国人特定研究員の各1名を措置する予定である. 国際センターは, 平成21年度に発足した比較的新しい組織で, 霊長類学の国際共同研究を推進し, 分野を超えた先端萌芽研究の醸成を目的としている. その一環として, 平成22年度入学から始まった外国人留学生のための大学院教育「国際霊長類学・野生動物コース」の宣伝と入試業務を担当している. なお短期・長期に来日する外国人研究者や, 国際集会等の世話もその業務である.

事務部には, 事務長以下の事務職員9名と多数の非常勤職員が在職し, 研究所の基盤となる事務作業をおこなっている. なお, 霊長類研究所が基盤となって平成20年に京都に創設された「野生動物研究センター」の事務も, 歴史的な経緯から, 霊長類研究所が担当している.

霊長類研究所は, 大学院教育をおこなっている. 大学院生はすべて, 理学研究科生物科学専攻の学生である. 常勤の教員も全員が生物科学専攻の教員として大学院教育に関わっている. 霊長類研究所と野生動物研究センターの2部局が協力して, 「霊長類学・野生動物系」を構成し, 他の動物学系・植物学系・生物物理学系と連携した4系で生物科学専攻を構成し, 共通の大学院入試をおこなってきた. 修士課程・博士課程を合わせて約30名の大学院生が霊長類研究所で学んでいる. 野生動物研究センターの大学院生は, 霊長類学・野生動物系の中の1分科「野生動物分科」を構成しており, 上記の数には組み入れていない. なお, 外国人だけを対象として1学年5名の採用枠を確保して, 英語で入試をする「国際霊長類学・野生動物コース」を設立した. 平成22年度に3回の入試をおこない, 平成23年度当初から3名の修士学生が入学した. 韓国2名とバングラデシュ1名である. 上部組織である理学研究科の方針で, 平成21年度は各大学院生に正副2名の指導教員を配した. なお, 外国人学生には, 来日当初の1年間, 大学院生のチューター(謝金支給あり)が付く. 教育や研究のみならず日常生活の支援を業務とする.

大学院生ならびにポスドク等の若手研究者が霊長類学の未来を担っている. 研究所は, 正規の大学院生のほかに, 特別研究学生として他大学の大学院生を受け入れている. 博士学位取得後のいわゆるポスドクとしては, 日本学術振興会の特別研究員ならびに外国人特別研究員を受け入れている. 研究所の受託事業としてのナショナルバイオリソースやグローバルCOE等の外部資金による研究員もいる. さらに, 研究所に割り当てられる研究員ポストが3つある. さらには, 各分野や施設の教員の科学研究費等の外部資金でポスドクが雇用されている. そのほかに, 博士学位取得以前の若手研究者については教務補佐員というような職種で雇用している.

霊長類研究所の運営は, 創立以来44年間, 月例で開催される「協議員会」で審議し決定してきた. 設立時の1960年代後半という時代の雰囲気を色濃く残したきわめて民主的な制度であり, 特定職員を除く常勤の教員すべてが構成メンバーである. 他の研究機関や部局の「教授会」に相当する組織であるが, 創立以来不変の方針として, 教授・准教授・助教という職階に関わらず全員が協議員として平等に扱われる. したがって協議員会の議事録等に反映される協議員の序列は, 職階ではなくて着任順になっている. 協議員会には事務長と3掛長が陪席する. なお, 入試や授業など大学院教育については, 従来, 協議員会に先立つ「(霊長類学・野生動物)系教員会議(霊長類研究所開催分)」で審議してきた. 構成メンバーは協議員会と同じだが, 平成22年度からは国際センターの3特定教員も系会議のみに参加することとした.

所長の諮問機関として研究所の運営を審議する「運営委員会」がある. 運営委員は協議員会の投票で決定し, 主として所外・学外の有識者に依頼している. 任期は7月1日からの2年間で, 年2回開催している. 平成22年度は改選の時期にあたっていなかった.

また, 共同利用・共同研究拠点としての運営については「拠点運営協議会」を平成22年度から正式に発足させた. そのもとに具体的な作業をする「専門委員会」を設けた. いずれも学外の研究者が半数以上を占める構成にして, より全国の研究者に開かれた制度とした. 共同利用・共同研究の公募・審議・採択等については, 従来は研究所の共同利用実行委員会がおこなっていたが, 平成22年度からは拠点運営協議会に一任することになった. 共同利用研究の主旨に鑑み, 所外・学外の研究者コミュニティーに主導していただくためである.

本年報の発行にあたって, 平成22年度の教員の交代について述べる. 新任8名, 配置換え2名, 離任1名である. 平成22年度に着任した定員教員は, 岡本宗裕, 平崎鋭矢, 郷康広である. 特定教員の着任は, 山本真也, 倉岡康治, 泉明宏, 吉田友教, フレッド・ベルコビッチ, デイビッド・ヒル, 足立幾磨(特別推進研究から国際センターへの配置換え)である. 年度途中に, 松井智子准教授が東京学芸大の教授として転出した. また, 國松豊助教が理学研究科准教授に配置換えとなった. 定年退職の教員はなかった. 近年の研究所の教員構成は著しく流動的で若返った. 平均して教授50歳台, 准教授40歳台, 助教30歳台, そして20歳台のポスドク・大学院生という構成になっている.

平成22年度の事務職員については, 年度当初に, 事務長が小倉一夫から八木定行に替わった. 総務掛長が細川明宏から小野一代, 会計掛長が河田友彦から川俣昭に替わった. 研究助成掛長は新野正人で留任したが, 平成22年度末をもって転任して, 平成23年度は上垣泰浩が着任した. また他の事務職員としては, 22年度途中で上川憲史と田中雄三の2名が離任して, 新たに原田陽介と岩村智の2名が着任し, 菅野隆道が22年度末で離任し, 大池勇司が23年度から着任した.

平成22年度の特記事項として,「ニホンザル血小板減少症」について述べる. 平成13年(2001年)7月26日に, 当時11歳のメスのニホンザルが原因不明の疾病を発症し, 2日後の28日に亡くなった. 血小板等の減少による極度の貧血を呈する. まる1年後の7月31日までのあいだに, 6頭が同様の症状で亡くなった. その後, 約6年間の平穏期があって, 平成20年(2008年)3月12日に, 当時12歳のオスのニホンザルが同様の症状を呈して約3か月後に死亡した. その後も死亡があいつぎ, 感染症と判断して, 所内外の総力を結集してその解決に取り組んだ. 『霊長類研究』平成22年6月号を参照されたい. 京大ウイルス研究所, 阪大微生物病研究所, 国立感染症研究所, 予防衛生協会の協力を得て, 多面的な検討をおこなった結果, カニクイザルが自然感染しているレトロウイルスSRV4が原因だと特定できた. それをもとに徹底的な封じ込めによって, この1年間発症はない. 一応の終息をみた. 関係各位の努力に深甚の謝意を表したい.

平成22年度も, 前年度から引き続いて, 研究所として取り組む大型事業を外部資金によって推進してきた. 一連のHOPE事業や, グローバルCOE事業, その他の受託研究である. これらの詳細については, 本報告書の当該箇所を参照されたい.

平成22年度の特記事項としては, 文部科学省の最先端研究基盤支援事業として, 心の先端研究の国際連携をめざす「WISH事業」が採択された. 平成22年3月に日本学術会議が認定した我が国が推進すべき大型研究マスタープラン43件のひとつである. 全43課題が文部科学省の審議委員会でヒアリングを受け, そのうちの9件に最先端研究基盤支援事業が助成された. これにより平成22-24年度の3年間で14億円をかけて, 比較認知科学実験設備3台とfMRI設備1台を京都大学に設置することになった. WISH事業は8研究機関の連携事業だが, その中核機関が京都大学であり, そのさらに中核として事務作業を総括する部局が霊長類研究所である. 平成22年12月12日に, WISH事業の受け皿として京都大学に「心の先端研究ユニット」が新たに設置され, 霊長類研究所が初代の事務担当をすることになった.

平成22年度をもって, 特別教育研究経費「リサーチリソースステーション」(RRS事業)が終了した. 最終年度の主要な事業として, 官林地区の大型グループケージを平成21年度に続いてさらに1棟新設した. これで2棟の新設ができたので残るは1棟である. RRS事業は, 平成14年度に検討を開始し, 平成15年度に予備的準備経費の措置があり, 平成16-17年度の施設整備を経て, 平成18-22年度の5年間の特別教育研究経費によって設立し運営してきたものである. 研究所の東に第2キャンパスを設け, 合わせて官林地区の検疫舎や大型ケージの整備も進め, ニホンザルの繁殖供給体制が確立した.

これまでRRS事業の展開に尽力され, すでに研究所を去られた, 歴代の小嶋祥三所長と茂原信生所長, 人類進化モデル研究センターの松林清明教授と景山節教授, 井山有三事務長と小倉一夫事務長, そしてここでは紙幅の関係でお名前を挙げられない多数の方々のご尽力に深く感謝したい. とくに, そうした方々を代表して, 1名だけお名前を記す. 平成21年度末で退職された熊﨑清則技術職員である. RRSの構想当初から関わり, 設計・施工・運営について, そして初代のRRS担当技術職員として活躍していただいた. またそれを可能にしたのは, 主として飼育現場の作業を担当する人類進化モデル研究センターの技術職員と研究支援推進員, そして膨大な事務作業を支えてきた会計掛をはじめとする歴代の事務職員である. 表にはあらわれないが, そうした彼らの努力なしにRRS事業は完遂できなかった. その努力に深甚の敬意を払いたい.

平成23年度当初からは, 特別経費(従来の特別教育研究経費から名称変更)として,「人間の進化の霊長類的基盤に関する国際共同先端研究の戦略的展開」が始まる. RRS事業の後継としてそれを補完するとともに, 心の先端研究の中核事業という性格をもっている.平成29年度までの7年間の事業である. 日本の霊長類学を発展させ, 国際的連携の拠点となって, 人間の進化の霊長類的起源の解明に努めたい.

以上, 平成22年度の研究所の活動概要をここに説明することで, 研究者コミュニティーならびに一般の皆様のご理解とご支援をお願いするしだいである.

(文責:松沢哲郎)

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2. 組織

(1) 組織の概要(2011年3月31日現在)

 

 

 

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