京都大学霊長類研究所 年報
Vol.39 2008年度の活動
V HOPEプロジェクト
日本学術振興会先端研究拠点事業HOPE
HOPEプロジェクト(「人間の進化の霊長類的起源」の研究)は,日本学術振興会先端研究拠点事業として2004年2月1日から開始され,2009年3月31日に終了した.先端研究拠点事業とは,我が国と複数の学術先進諸国における先端研究拠点間の交流を促進することにより,国際的な先端研究ネットワークを構築し,戦略的共同研究体制を運営するものである.HOPEプロジェクトは,平成18年度より事業計画を「国際戦略型」に移行し,平成20年度まで,継続的して活発な国際共同研究システムとして機能してきた.
1 先端研究拠点事業HOPEの事業計画
独立行政法人・日本学術振興会(JSPS)は,学術の国際交流に関する諸事業の一環として,我が国において重点的に研究すべき先端分野における,我が国と複数の学術先進諸国の中核的研究拠点をつなぐ持続的な協力関係を確立することにより,21世紀の国際的な先端研究ネットワークを形成し,それを戦略的に運営することを目的とした事業を平成15年秋に開始した.これが先端研究拠点事業と呼ばれるものである.対象分野は,我が国の各学術領域において先端的と認められる分野であり,かつ,交流相手国においても先端的と認められている分野である.なお,共同事業の対象国は,米国,カナダ,オーストリア,ベルギー,フィンランド,フランス,ドイツ,イタリア,オランダ,スペイン,スウェーデン,スイス,英国,オーストラリア,ニュージーランドの15ヶ国に限定されている.京都大学霊長類研究所とマックスプランク進化人類学研究所の共同事業であるHOPEプロジェクトが,その第1号に選ばれた.
HOPE事業は,霊長類研究所の観点から言えば,文部科学省(当時文部省)のCOE拠点形成事業(竹中修代表,平成10-14年度)の基礎の上にたって,後継の21世紀COEプログラム(平成14-18年度)と連動して,先人の努力を後継発展するものと位置づけられる.こうした国際的研究拠点の創出は,中期計画・中期目標(平成16-21年度)にそって全所的に取り組む課題と認識されている.そのため,事業の採択通知を受けて,所内に「HOPE事業推進委員会」を発足し,「事業計画の指針」を検討立案して,協議委員会に了承された.
その指針に基づき,「拠点形成促進型」(平成16年度から17年度)を終了した.そして,平成18年度より事業計画を「国際戦略型」へ移行し,プロジェクトが終了となる平成20年度まで国際集会の開催に力を入れつつ,以下の事業をおこなった.
1)共同研究事業の実施
共同研究事業(野外研究を含む)は,「心」「体」「社会」「ゲノム」という4つの視点・領域から,人間の本性の霊長類的起源を探り,先端的研究領域を開拓することを第一の目的としている.具体的には,国際的共同研究の実施打ち合わせならびにその予備調査を行い,共同研究のために若手研究者を長期に派遣および招聘を行った.また,研究基盤としての海外研究拠点の形成・育成を図り,人材の有効な交流のため,日本人若手研究者の国際学会での発表や情報交換,ポスドクならびに大学院生等の若手研究者の海外での研究成果発表を支援してきた.
全視点・全領域にわたり,国外拠点と共同研究を進める途上国を含めた世界各国の研究陣との有効な情報交換を進め,研究成果に結びつけることを目標にして事業を推進してきた.
2)セミナー・国際集会事業の実施
共同研究の成果発表や情報交換のためのセミナー,レクチャー,ワークショップ,シンポジウム等を企画実行した.開催地は国内外を問わず,他の事業・企画と連携して,我が国における研究拠点としての役割を果たすことを目的とした.また,こうした国際集会のための海外渡航費用を支援してきた.平成20年度も海外から各研究分野における著名な研究者を招き,研究交流を行った.ひとつは,チンパンジーの行動とホルモンの関係を永年研究しているニューメキシコ大学のメリッサ・エメリー・トンプソン氏を招聘してセミナーを開催した.メリッサ・エメリー・トンプソン氏は,「チンパンジーの繁殖年齢」と題して講演し,メスのチンパンジーの行動に影響を及ぼすホルモンなどについての研究成果を発表した.また,ドイツのマックスプランク進化人類研究所からクリケット・ザンツ氏を招聘し,「コンゴ共和国北部に住むチンパンジーの生態と行動」と題して,コンゴ共和国での永年にわたる調査研究成果について発表するセミナーを開催し,参加者と活発な議論を交わした.
3)若手向けプログラムの実施
HOPEは本体事業とは別に,若手向けプログラム開催事業を運営してきた.これは,国内外から卓越した研究者を講演者として招き,おもに若手研究者を対象に議論を進めるという目的で開催する事業である.HOPEプロジェクトの最終年度となる平成20年度は,国内外より14名の著名な研究者を講師として招き,東京大学駒場キャンパスにおいて11月15-18
日の日程で,HOPE国際シンポジウム2008「人間の進化の霊長類的起源」を開催した.会期中は約300名の参加者があった.国内外から参加した若手研究者にとっては,最新の霊長類研究を学ぶ絶好の機会であり,第一線で活躍する研究者と意見交換するなど有意義な交流の場となった.
4)出版・ネットワーク関連事業
すでに霊長類研究所に常置されているHOPEホームページは国内外の霊長類研究の情報発信的機軸として機能し,多くの利用者に親しまれてきた.当ホームページでは,HOPEの派遣事業参加者全員の渡航報告と研究成果を写真入で掲載してきた.また,HOPE事業参加者の原著論文,書籍,総説などの研究成果も,年度別に一覧表にして,HOPEのホームページに掲載している.
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