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京都大学霊長類研究所 > 年報のページ > 2008年度 > III 研究活動 多様性保全研究分野

京都大学霊長類研究所 年報

Vol.39 2008年度の活動

III 研究活動

流動部門

多様性保全研究分野

香田啓貴(助教,6月30日付で配置換え)

推進代表者:平井啓久,正高信男

推進者:景山節,川本芳,松林清明,髙井正成,田中洋之,渡邊邦夫

協力研究者:西村剛,宮部貴子,親川千紗子

流動部門多様性保全研究分野は,時代の趨勢に即した研究を推進するために,5年の時限プロジェクトとして2004年度から所内措置されたものである.発足当初は10名の教員推進者と1名の非常勤研究員によって開始され,2005年度から3年任期の助教を採用し,最終年度の2008年度まで5年間,アジア霊長類の多様性ならびに保全に関わる課題を中心に研究プロジェクトを実施した.

具体的には,概ね下記の5項目の研究をおこなった.

(1)テナガザルの音声研究:インドネシアならびにマレーシアの野外調査を通してテナガザル類(特にアジルテナガザル,シロテテナガザル)の音声の変異性を音響学的に分析し,多様性を産み出すプロセスやメカニズムについて生物地理学的な視点から検討をおこなった.さらに,定点長期調査を通して,音声を手がかりとした群れの変遷や社会的なコミュニケーションの観測,ならびに行動の発達調査もおこなってきた.現在もマレーシアの側所的種分化をはたしている地域を新たなターゲットとして,音声の種分化に関する研究を実施している.

(2)テナガザルの遺伝的多様性研究:インドネシアならびにマレーシアのテナガザル類(アジルテナガザル,ミューラーテナガザル,ボルネオシロヒゲテナガザル,シロテテナガザル,シャーマンなどが対象)の遺伝的分化を,分子細胞遺伝学的変異解析,分子系統解析ならびに毛色パタン解析を通して検討した.ボルネオのテナガザル類は2度のスマトラからの移住を経験し,各々の遺伝的分化を維持している.また,スマトラのアジルテナガザルは過去ボトルネックを経験し,特異的な染色体相互転座(WAT8/9)がスマトラに固定されつつあることを見いだした.現在は,マレーシア半島とスマトラ島の間の遺伝的分化ならびに移住方向について解析している.

(3)マカク類の生態学的・行動学的調査:インドネシア・スラウェシにおいて,トンケアンマカクとヘックモンキーの種間雑種の繁殖行動ならびに社会構造について長期観察を継続した.タイ国ロブリ市の遺跡に棲む神聖化されたカニクイザルの一群が,ヒトの毛髪を使って歯磨き様行動をすることを観察し,特殊な環境で獲得された道具使用に関わる文化的意義を検討した.また,人為的に導入されたカニクイザルの繁殖コロニーの遺伝的特性を分子集団遺伝学的に解析した.

(4)霊長類の保全研究:インドネシア・スマトラ島の霊長類の保全計画に資する基礎資料を収集する目的で,各種霊長類や大型哺乳類の分布変遷の動態を明らかにすることを計画し,現地住民への聞き取り調査を継続的におこなってきた.

(5)オナガザル上科の古生物学的研究:ユーラシア大陸のオナガザル上科霊長類の進化プロセスを明らかにするために,中央ユーラシアで見つかっているParapresbytis(コロブス亜科),ユーラシア大陸の広域で見つかっている大型オナガザル亜科(ProcynocephalusとParadolochopithecus),ならびに東ユーラシアで見つかっているマカク類などについて古生物学的調査を継続してきた.これらの調査を基に新たな進化プロセスの仮説的論考をおこなった.

以上のようにアジア霊長類を多様な方法を用いて解析することで,各研究分野で重要な成果を得ることができたし,新たな洞察ならびに視点をうむことができた.さらに,各種の研究手法や考察を学際的に統合する研究を進めたことによって,今後の学際的研究指針を明確にすることもできた.そういった意味で,所内措置として設置された本流動部門・多様性保全研究分野の推進は,当初の目標をかなり達成できたものとして評価してよいと思われる.ただし,発足時に企画した研究内容がすべて実施できたわけでもないので,推進方法の見直しが必要であることも否めない.

 

これらの研究遂行にあたっては科学研究費,ならびに21世紀およびグローバルCOEの資金的援助を受けた.(文責:平井啓久)

 

 

<研究概要>

A) レトロトランスポゾン様反復配列複合構造(RCRO)のゲノム内機能の解析

平井啓久,松林清明(センター)

RCROが存在するチンパンジー第7染色体をモデルとして,RCROがおよぼすキアズマ抑制に関する解析をおこなった.チンパンジー雄の減数分裂細胞を,FISH法およびPAINT法を用いて観察したところ,RCROが存在する7q31ならびにセントロメア近傍領域にはキアズマが起こっていないことが明らかになった.

B) テナガザル類の生物地理学的ならびに医生物学的研究

宮部貴子(センター),Joko Pamunkas(ボゴール農科大学),Dyah Perwitasari-Farajallah(ボゴール農科大学),香田啓貴,親川千紗子,松井淳(グローバルCOE),平井啓久

インドネシア・中央ジャワの動物園においてシャーマンおよびボルネオシロヒゲテナガザルの血液採取,糞採取をおこないDNA抽出ならびに血液生化学的分析を実施した.簡易キットを用いて糞便中のヘリコバクター・ピロリ抗原の検出を試みた.

 

C) スマトラ島におけるアジルテナガザルの野外調査

香田啓貴,親川千紗子,Rizaldi(アンダラス大学),田中俊明(梅光学院大学),村井勅裕

インドネシア,西スマトラ州パダン市近郊のLimau Manisにおいてアジルテナガザルを対象とした野外調査を2004年より行っている.

 

D) テナガザル音声を指標とした生物地理学的解析

香田啓貴,親川千紗子

野生アジルテナガザルを対象として,音声の変異性を音響学的に分析することにより,音声の変異が生み出されるプロセスやメカニズムについて生物地理学的な視点からフィールドワークを行った.

 

E) テナガザルの音声発達調査

香田啓貴,親川千紗子,加藤朱美(認知学習),早川祥子(グローバルCOE),Alan Mootonick(テナガザル保全センター),正高信男

 

日本モンキーセンターにおいて音声の発達調査を継続して行った.またカリフォルニア州テナガザル保全センターにおいても同様の発達調査をおこなった.

 

F) テナガザルの歌発声メカニズムに関する研究

香田啓貴,西村剛(系統発生),正高信男

テナガザルの種特異的な音声が発声される形態学的,音響物理学的基盤の解明に向けて分析を行った.

 

G) 東部ユーラシア地域における新第三紀の霊長類進化に関する研究

髙井正成,西村剛,江木直子,Zin Maung Maung Thein,伊藤毅,西岡佑一郎(系統発生)

中央ユーラシアで見つかっているParapresbytis(コロブス亜科),ユーラシア大陸の広域で見つかっている大型オナガザル亜科(ProcynocephalusとParadolichopithecus),ベトナム北部トゥンランの更新世の洞窟堆積物から見つかっていたマカク頭骨,台湾南部の中期更新世の地層から見つかったオナガザル科遊離歯化石,ミャンマー中部の鮮新世の地層から見つかったコロブス類とマカク類の遊離歯化石,中国南部の広西壮族自治区崇左の更新世の堆積物から見つかっている複数の旧世界ザル化石,日本列島の第四紀以降のニホンザル化石などに関して,主に古生物学的手法を用いて研究した.

 

H) インドネシアにおける霊長類保全のための研究


渡邊邦夫,香田啓貴,親川千紗子,Rizaldi(アンダラス大学),村井勅裕(生態保全),田中俊明(梅光学院大学)


インドネシア,スマトラ島やジャワ島において,各種霊長類の生息状況の現状を明らかにすることを目的として,密度調査をおこなった.

 

I) アジア産マカク類における文化的行動


渡邊邦夫,香田啓貴,田中俊明(梅光学院大学),

木場礼子(国立精神神経センター・神経研究所)

タイ中部ロッブリー市内に生息するカニクイザルの特異行動の伝播様式について,調査をおこなっている.また,インドネシア,ロンボク島に生息するカニクイザルの特異な行動についても,ニホンザルとの比較を通じその行動伝播が引き起こされるプロセスについて,研究を行った.

 

<研究業績>
原著論文

1) Roger E, Grunau C, Pierce RJ, Hirai H, Gourbal B, Galinier R, Emans R, Cesari TM, Cosseau C, Mitta G (2008) Controlled chaos of polymorphic mucins in a metazoan parasite (Schstosoma mansoni) interacting with its invertebrate host (Biomphalaria glbrata). PLoS Neglected Tropical Diseases 2:e330.

2) Zin-Maung-Maung-Thein, Takai M, Tsubamoto T, Thaung-Htike, Egi N, Maung-Maung (2008) A new species of Dicerorhinus (Rhinocerotidae) from the Plio-Pleistocene of Myanmar. Palaeontology 51(6):1419-1433.

3) Rizaldi, Watanabe K (2008) Successive aggression: another pattern of polyadic aggressive interactions in a captive group of Japanese macaques. American Journal of Primatology 70:349-355

4) Koda H, Shimooka Y, Sugiura H (2008) Effects of caller activity and habitat visibility on contact call rate of wild Japanese macaques (Macaca fuscata). American Journal of Primatology 70(11):1055-1063.

5) Honjo H, Akari H, Fujiwara Y, Tamura Y, Hirai H, Wada K (2009) Molecular cloning and charcterization of the common marmoset huntingtin gene. Gene 432:60-66.

6) Masataka N, Koda H, Urasopon N, Watanabe K (2009) Free-Ranging Macaque Mothers Exaggerate Tool-Using Behavior when Observed by Offspring. PLoS ONE 4(3):e4768.

総説

1) Masataka N (2009) The origins of language and the evolution of music: a comparative perspective. Physics of Life Reviews 6:11-22.

報告

1) Rizaldi, Kamilah NS, Watanabe K (2008) Habitat destruction and threat on the large- and medium-sized mammals in Sumatra, Indonesia. プロナトゥラ・ファンド第17期助成成果報告書 Pro Natura NACSJ p.223-233.

2) Fukuchi A, Nakaya H, Takai M, Ogino S, Mashenko EN (2009) A preliminary report on the Pliocene rhinoceros from Udunga, Transbaikalia, Russia. Asian Paleoprimatology 5:61-98.

3) Kawamura Y, Takai M (2009) Pliocene lagomorphs and rodents from Udunga, Transbaikalia, eastern Russia. Asian Paleoprimatology 5:15-44.

4) Takai M, Maschenko EN (2009) Parapresbytis eohanuman: the northernmost monkey from the Pliocene of Transbaikalia. Asian Paleoprimatology 5:1-14.

著書(単著)

1) Masataka N (2008) The Origins of Language. pp.157 Heidelberg: Springer.

著書(分担執筆)

1) Koda H (2008) Short-term Acoustic Modifications during Dynamic Vocal Interactions in Nonhuman Primates-Implications for Origins of Motherese. (The orisings of language) (ed. Masataka N) p.59-73 Heidelberg: Springer.

2) Masataka N (2008) Implication of the human musical faculty for evolution of language. (The orisings of language) (ed. Masataka N) p.59-73 Heidelberg: Springer.

3) Masataka N (2008) The gestural theory of and the vocal theory of language origins are not incompatible with one another. (The orisings of language) (ed. Masataka N) p.59-73 Heidelberg: Springer

4) 平井啓久 (2008) でくのぼうのゴミ箱. 「生き物たちのつづれ織り 第1巻」 (高瀬桃子, 村角智恵編) p.122-128 京都大学グローバルCOEプログラム.

5) 香田啓貴 (2008) 「歌」を歌うサル-テナガザルの多様な音声. 「生き物たちのつづれ織り 第1巻」 (高瀬桃子, 村角智恵編) p.106-110 京都大学グローバルCOEプログラム.

6) 親川千紗子 (2008) テナガザルの住む森を探して. 「生き物たちのつづれ織り 第1巻」 (高瀬桃子, 村角智恵編) p.111-112 京都大学グローバルCOEプログラム.

学会発表

1) Hayakawa S, Koda H, Mootnick A, Masataka N (2008) Comparative research on singing behavior of four species of immature gibbons. The 2nd International Symposium of the Global COE Project (2008/11, Kyoto).

2) Hayakawa S, Koda H, Mootnick A, Masataka N (2008) Comparative research on singing behavior of four species of immature gibbons. 第11回SAGAシンポジウム (2008/11, 東京).

3) Masataka N (2008) Origins of "Motionese". Invited lecture at international congress of Intermodel Action Structuring (2008/07, Bielefeldt, Germany)

4) Oyakawa C, Koda H, Tanaka T, Murai T, Nulukamilah S, Rizaldi, Bakar A, Masataka N (2008) Geographic variation of species-specific call in wild agile gibbons. The 2nd International Symposium of the Biodiversity and Evolution Global COE project "from Genome to Ecosystem" (2008/11, Kyoto).

5) Takai M, Jin C (2008) Paleobiogeographical analysis of cercopithecine monkeys in China. International Conference in Commemoration of the 10th Aniversary of the Discovery of the Renzidong Cave and the Annual Meeting of the Paleoanthropology-Paleolithic Archeology Society and Stratigraphy-Paleontology Society under Chinese Association for Quaternary Research (2008/05, Fanchang, Anhui, China).

6) Takai M, Nishimura T, Shigehara N, Setoguchi T (2008) Meaning of the canine sexual dimorphism in fossil owl monkey, Aotus dindensis from the Middle Miocene of La Venta, Colombia. 14th International Symposium on Dental Morphology (2008/08, Greifswald, Germany).

7) Oyakawa C, Koda H (2009) Introduction of the KUPRI project to study the diversity of gibbons. Field Research of Primates in South-eastern Asian Tropical Forest (2009/02, Inuyama).

8) Watanabe K, Mitani M, Suryobroto B, Hadi I, Widayati KA, Megantara EN, Gurmaya KJ, Wedana M, Dirgayusa IW, Pernama AR,Brotoisworo E (2009) Population trends of Trachipithecus auratus and Macaca fascicularis in the Pangandaran Nature Reserve, Indonesia. The Asssociation of Tropical Biology and Conservation Asia Pasific Chapter 2009 (2009/02, Chiang Mai).

9) 親川千紗子, 香田啓貴, 田中俊明, Nurulkamilah S, Bakar A, 村井勅裕, 正高信男 (2008) 野生アジルテナガザルの歌における地域差の検討. 第24回日本霊長類学会 (2008/07, 東京).

10) 早野あづさ, Dyah PF, Hery W, 宮部貴子, Alan M, Diah I, Joko P, 平井啓久 (2008) マイクロサテライト解析からみたスマトラ産フクロテナガザル Symphalangus syndactylus の遺伝的組成. 2008年度日本哺乳類学会大会 (2008/09, 山口)

11) 髙井正成, 西村剛, 小薮大輔, カルミコフ N, マシェンコ E (2008) アジア東部の鮮新世の化石コロブス類とその進化史について. 第62回人類学会大会 (2008/10-11, 愛知).

12) 三谷雅純, グルマヤ KJ, メガンタラ EN, 渡邊邦夫 (2008) 1997-98年エルニーニョで減ったシルバールトンの個体群密度はどのような刺激で補償されたか?ジャワ島パンガンダランの例から. 日本霊長類学会 (2008/07, 東京).

13) 渡邊邦夫, 三谷雅純, リザルディ, サンティN カミラ (2008) スマトラ島中部におけるほ乳類26種生息状況モニタリングの試み. 野生生物保護学会 (2008/11, 佐世保).

講演

1) Hirai H (2008) Evolution of ZW of Schistosoma mansoni. 2008 Schistosome genome meeting Hixton, (2008/06, UK).

2) Hirai H (2008) Chromosomology and genetic differentiation of small apes. Science seminar of Pusan National University Pusan, Korea(2008/07,Pusan).

3) 平井啓久 (2008) 遺伝学・ゲノム科学の視点から-第24回日本霊長類学会大会公開シンポジウム 「霊長類学はヒトの見方をどう変えたか」. 日本の霊長類学60周年シンポジウム (2008/07東京).

4) 髙井正成, 西村剛, 江木直子 (2008/6/1) グローバルCOE生物多様性・霊長類学ジュニア教室「この手でサワッテみよう霊長類の化石たち」. 京都大学総合博物館 京都.

5) 渡邊邦夫 (2008/5/3) 「スマトラ島の動物について」. 東山動物園.

6) 渡邊邦夫 (2009/2/7) 「最近の野生ニホンザルと個体群管理の方向性」. 愛知県生物多様性キャラバンセミナー 新城市.

 

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