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京都大学霊長類研究所 年報
Vol.39 2008年度の活動
I 巻頭言
所長 松沢哲郎
2008年度(平成20年度)の研究所の年報をお届けします.年報は,当該年度の教育と研究ならびに社会貢献の活動を網羅したもので,自己点検報告書としての位置づけをしています.なお既刊の年報については,研究所のホームページで公開しています.
本年度は,2004年度(平成16年度)に国立大学法人化されて5年目にあたります.活動が中間評価される年です.中期目標期間(平成16年度~平成21年度)における最初の4年間の業務実績のうち,教育研究の状況について評価され,2008年度末(2009年3月30日)に結果が公表されました.それによると,霊長類研究所の研究活動と成果は,「期待される水準を上回る」とのことです.
思い返せば,前年の2007年度は,霊長類研究所の創立40周年にあたる節目の年でした.研究所が掲げた中期目標・中期計画の最重要課題であった「リサーチ・リソース・ステーション(RRS)」が開所されました.「自然の里山を生かした環境共存型飼育施設」です.全部で約76ヘクタールの敷地を確保し,サル類の飼育繁殖と多様な霊長類研究を推進しています.また,年度後半には,築40年になる本棟の耐震改修工事をおこない,念願だった人間とサル類の同居を解消する「ゾーニング」を果たしました.いわば,1967年に誕生した研究所がちょうど不惑の年を迎え,新しい器に生まれ変わったといえます.
本年2008年度は,そうした器に盛る研究活動の大きな転機となりました.附属研究施設である「ニホンザル野外観察施設」を廃止し,霊長類研究所が母体となって,「野生動物研究センター」という新たな部局が京都大学に発足しました.新センターの拠点は京都です.これを機に,霊長類研究所のニホンザル野外観察施設を廃止してその業務を新センターに移管し,幸島と屋久島の観察所と技術職員も移しました.三和化学研究所のご芳志による寄附研究部門も移しました.霊長類研究所のさらなる発展の姿とご理解いただければ幸いです.なお,大学院教育については,従来の「霊長類学系」から「霊長類学・野生動物系」と名称を改め,2部局が協力して次世代の研究者の育成に努めています.
こうした改革の延長として,2009年4月1日から,霊長類研究所は「国際共同先端研究センター」という新たな附属研究施設を発足させました.国際拠点として,先進諸国や生息地国との国際連携をすすめ,学際的・萌芽的な研究を推進していく所存です.
ちょうど60年前,1948年に日本の霊長類学は誕生しました.今西錦司が,伊谷純一郎と川村俊蔵という2人の学生(のちに共に京大教授)を伴って,初めて宮崎県の幸島で野生ニホンザルの調査を始めたのです.その同じ年に,西堀栄三郎の率いる隊が南極の初越冬に成功しました.桑原武夫の率いる隊がカラコルム・ヒマラヤのチョゴリザ峰に初登頂しました.じつは,今西・西堀・桑原は三高から京都帝大の同級生で山岳部の仲間です.
60年後の現在,そうした先人の抱いたパイオニア精神に思いを馳せ,新たな決意と展望をもって,人間を含めた霊長類の研究の発展を期したいと思います.今後とも,霊長類研究所の活動を温かく見守っていただきますよう,よろしくお願いいたします.
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